説明

端子・コネクタ用銅合金の製造方法

【課題】導電性、強度、ばね特性に優れた端子・コネクタ用銅合金の製造方法を提供すること。
【解決手段】 0.1〜0.5質量%のFe、0.2〜1.0質量%のNi、0.03〜0.2質量%のP、0.02〜0.1質量%のSi、0.01〜1.0質量%のSn、0.1〜1.0質量%のZn、および残部のCuから成り、前記FeおよびNiの合計重量と前記PおよびSiの合計重量の比が、(Fe+Ni)/(P+Si)=3〜10である合金素材を準備するステップと、その合金素材を700〜900℃に昇温した後、毎分25℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する第1の熱処理を施すステップと、その第1の熱処理後の材料を冷間圧延した後、400〜550℃に加熱して30分〜5時間保持する第2の熱処理を施すステップと、その第2の熱処理後の材料を冷間圧延した後、300〜450℃に加熱して30分〜5時間保持する第3の熱処理を施すステップを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性、強度、ばね特性に優れた端子・コネクタ用銅合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電気回路や部品の接続に用いられるコネクタの接続端子部分には、接続の信頼性を保つ必要から、ばね性の良好な高強度の銅合金が用いられる。近年、車両内の電気系統に使われている端子・コネクタでは、車両の電装化の進展によってリード及び端子・コネクタに流れる電流値が増加しており、ジュール熱の発生が問題になっている。
【0003】
また、民生用の電子・電気機器で使用されるコネクタにおいても、機器の小型化と共にジュール熱の低減が必要になってきている。こうした背景によって、端子・コネクタの材料には、従来以上に高導電率の材料が求められている。従来、こうした端子・コネクタ用の材料としては、黄銅やりん青銅が一般的に使用されてきた。
【0004】
従来、広く使用されてきた黄銅やりん青銅では、前記した端子・コネクタ材に対する要求に十分応えられない。すなわち、黄銅は導電性、強度、ばね性の不足によって端子・コネクタの通電電流の増加および小型化に対応することができない。また、りん青銅は、高強度でばね性にも優れるが、導電率が20%IACS程度と低いことから、通電電流の増加に対応できない。
【0005】
こうした黄銅、りん青銅の持つ問題を改善する材料として、Cu−Ni−Siを主成分とする銅合金が提案され、使用されている(特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特許第2572042号
【特許文献2】特許第2977845号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうしたCu−Ni−Siを主成分とする銅合金は、導電率はせいぜい50%IACS程度であり、[背景技術]で説明したような用途で使用するためには、導電率が低いため、他の特性を維持しながら、導電率の改善が要求されている。
【0007】
従って、本発明の目的は、導電性、強度、ばね特性に優れた端子・コネクタ用銅合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を実現するため、0.1〜0.5質量%のFe、0.2〜1.0質量%のNi、0.03〜0.2質量%のP、0.02〜0.1質量%のSi、0.01〜1.0質量%のSn、0.1〜1.0質量%のZn、および残部のCuから成り、前記FeおよびNiの合計重量と前記PおよびSiの合計重量の比が、(Fe+Ni)/(P+Si)=3〜10である合金素材を準備するステップと、その合金素材を700〜900℃に昇温した後、毎分25℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する第1の熱処理を施すステップと、前記第1の熱処理後の材料を冷間圧延した後、400〜550℃に加熱して30分〜5時間保持する第2の熱処理を施すステップと、前記第2の熱処理後の材料を冷間圧延した後、300〜450℃に加熱して30分〜5時間保持する第3の熱処理を施すステップを有することを特徴とする端子・コネクタ用銅合金の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、上記の目的を実現するため、0.1〜0.5質量%のFe、0.2〜1.0質量%のNi、0.03〜0.2質量%のP、0.02〜0.1質量%のSi、0.01〜1.0質量%のSn、0.1〜1.0質量%のZn、合計0.01〜1.0質量%のMg.Ti,Cr,Zrから選択した1種以上の金属材料、および残部のCuから成り、前記FeおよびNiの合計重量と前記PおよびSiの合計重量の比が(Fe+Ni)/(P+Si)=3〜10である合金素材を準備するステップと、その合金素材を700〜900℃に昇温した後、毎分25℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する第1の熱処理を施すステップと、前記第1の熱処理後の材料を冷間圧延した後、400〜550℃に加熱して30分〜5時間保持する第2の熱処理を施すステップと、前記第2の熱処理後の材料を冷間圧延した後、300〜450℃に加熱して30分〜5時間保持する第3の熱処理を施すステップを有することを特徴とする端子・コネクタ用銅合金の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の端子・コネクタ用銅合金の製造方法では、FeとNiはP,Siと共に添加することによってP化合物やSi化合物を形成して材料中に分散析出する。ここで、Fe,Ni,P,Siの組成比を特定の範囲に規定することにより、導電率を低下させる銅中の固溶元素量を抑えながら、析出物の分散強化による効果で強度とばね性を向上させることができる。Snは強度、ばね性の向上に大きな効果を持つとともに耐熱性を向上させて高温下での耐応力緩和性を改善する働きがある。Znは強度、ばね性の向上効果を持つとともに、耐マイグレーション性を大幅に向上させる働きを持つ。さらに、電子部品材料として必要なはんだ濡れ性やSnめっき密着性の改善にも大きな効果がある。またMg,Ti,Cr,Zrは強度、ばね性、耐マイグレーション性、耐熱性のそれぞれをさらに改善する働きを持ち、かつ導電性に与える悪影響が少ない添加成分として有効である。
【0011】
第1の熱処理は、700〜900℃に昇温した後300℃以下まで25℃/分以上の速度で冷却することにより、溶体化を実現する。
【0012】
第2の熱処理は、引き続き冷間圧延を行い、その後400〜550℃で30分〜5時間保持することにより、時効を実現する。これによってFe,NiがP,Siとの化合物をつくり銅中に微細な形状で析出し、優れた強度、及びばね性と、高い導電率を両立させる。
【0013】
第3の熱処理は、引き続き冷間圧延を行い、その後300〜450℃で30分〜5時間保持することにより時効を実現する。これによって、第2の熱処理の時効で析出しきれなかった成分をさらに析出させ、導電率をさらに高い値に引き上げる。
【0014】
次に、本発明の端子・コネクタ用銅合金の製造方法における金属材料の質量百分率、第1より第3の熱処理の条件等を以下に説明する。
【0015】
(1)Pの添加量を0.03質量%未満にすると、十分な量のP化合物を形成することができず、満足できる強度、ばね性が得られない。0.2質量%を超えて添加すると鋳造時にP化合物の偏析に起因する鋳塊割れが起こりやすくなる。よってPの組成範囲は0.03〜0.2質量%に規定する。また、Siの添加量は、0.02質量%未満では、効果的なSi化合物が形成されず、0.1質量%を超えて添加すると、導電性に対する悪影響が大きくなる。よってSiの組成範囲は0.02〜0.1質量%に規定する。
【0016】
このPおよびSiの組成範囲に対して効果的に化合物を形成させ、高強度と高導電性を両立させるためには、Feの組成範囲を0.1〜0.5質量%、Niの組成範囲を0.2〜1.0質量%にし、かつ、そのFeおよびNiの合計重量とPおよびSiの合計重量の比が(Fe+Ni)/(P+Si)=3〜10になるように規定する必要がある。Fe、とNiの含有量が、組成範囲の下限を下回る場合、化合物の形成量が不十分になり、強度、ばね性が不足する。また、FeとNiの含有量が、組成範囲の上限を超える場合は余剰のFeおよびNiが銅中に固溶して導電率を低下させる。さらに、FeとNiの合計量が、PおよびSiの合計量の3倍未満になる場合は、化合物形成時にPおよびSiが過剰になり、10倍を超える場合は、逆にFeおよびNiが過剰になる。このような過剰成分は銅中に固溶状態で存在するため、導電率を害する結果となる。
【0017】
Sn、ZnおよびMg、Ti,Cr,Zrは、規定範囲より少ない含有量では添加の効果が小さく、規定範囲を超えて含有すると導電率の低下や鋳造性の低下などの悪影響が生じる。
【0018】
(2)溶体化を目的とした第1の熱処理では、合金元素を銅中に十分固溶させる必要がある。本発明では、加熱温度を700〜900℃と高温に規定し、冷却速度を25℃/分以上、好ましくは300℃/分以上に規定することで冷却中に粗大な析出物が形成されることを防いでいる。
【0019】
(3)溶体化処理に続いて冷間圧延を行うことにより、材料中には析出物形成の起点となる格子欠陥が導入される。これによって、次の熱処理での微細析出物の形成を促進することができる。
【0020】
(4)時効を目的とした第2の熱処理では、微細析出物を形成することで導電率、強度を向上させることが重要である。処理条件が規定範囲である400〜550℃で30分〜5時間の保持より高温、長時間になった場合、析出物が粗大化して十分な強度が得られなくなる。また、低温、短時間になった場合、析出が十分に進行せず、導電率、強度とも十分な値が得られない。
【0021】
(5)時効を目的とした第2の熱処理に続いて冷間圧延を行うことにより、材料中には再び析出物形成の起点となる格子欠陥が導入される。これに引き続いて再び時効を目的とした第3の熱処理を行い、これによって第2の熱処理で析出しきれなかった固溶成分を新たな微細析出物として析出させ、導電率をより高い値に向上させる。熱処理条件が規定範囲である300〜450℃で30分〜5時間の保持より高温、長時間になった場合、析出物が粗大化して十分な強度が得られず、低温、短時間になった場合、導電率の向上効果が不十分になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の端子・コネクタ用銅合金製造方法によると、製造された銅合金は、高い強度、ばね性を確保すると同時に従来の端子・コネクタ用材料を大きく上回る優れた導電率を兼備している。このことによって本発明は、端子・コネクタ部品についてその製造技術の向上を安価で高特性の材料を供給するという面からささえ、その発展に大きく寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の端子・コネクタ用銅合金の製造方法を実施例に基づいて説明する。
【0024】
(1)試料No.1の作成(実施例)
Fe:0.3質量%、Ni:0.6質量%、P:0.15質量%、Si:0.06質量%、Sn:0.5質量%、Zn:0.5質量%の組成をもつ銅合金を無酸素銅を母材にして高周波溶解炉で溶解し、直径30mm、長さ250mmのインゴットに鋳造した。これを850℃に加熱して押出加工し、幅20mm、厚さ8mmの板状にした後、厚さ2.0mmまで冷間圧延した。これを850℃で10分間保持した後、水中に投入して約300℃/分の速度で室温(約20℃)まで冷却する第1の熱処理を行った。冷却した材料を厚さ0.7mmまで冷間圧延した後、470℃で2時間保持する第2の熱処理を行った。さらにこれを厚さ0.3mmまで冷間圧延した後、380℃で1時間保持する第3の熱処理を行った。
【0025】
(2)試料No.2の作成(実施例)
次に、Fe:0.3質量%、Ni:0.6%質量、P:0.15質量%、Si:0.06質量%、Sn:0.5質量%、Zn:0.5質量%に加えてMg:0.05質量%を添加した銅合金を上記(1)と同様に鋳造し、同じ工程で厚さ0.3mmの試料に加工した。
【0026】
(3)試料No.1及びNo.2の特性
以上のようにして製造した試料No.1およびNo.2について、導電率、引張強さ、ばね限界値の各特性値を測定した。ここで、ばね限界値はJIS H 3130のモーメント式試験によって測定した。その結果、試料No.1は導電率72%IACS、引張強さ656N/mm、ばね限界値570N/mm、また試料No.2は導電率72%IACS、引張強さ670N/mm、ばね限界値594N/mmという良好な特性を持つ材料が得られた。
【0027】
試料No.1およびNo.2の第1及び第3の熱処理条件を表1に示し、その特性を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
(4)試料No.3乃至No.8の作成(比較例)
試料No。1と同じ組成の銅合金を使用し、第1より第3の熱処理を表1に示す条件に設定して試料No.3乃至No.8を作成した。
試料No.1及びNo.2と同じようにして試料No.3乃至No.8の特性を測定したところ、表2の結果が得られた。
【0031】
(5)試料No.1及びNo.2(実施例)と試料No.1乃至No.8(比較例)の対比 本発明による試料No.1及びNo.2が、650N/mm以上の引張強さと、570N/mm以上の良好なばね限界値を持ちながら、なおかつ70%IACSを超える良好な導電率を兼ね備えているのに対して、比較例となる資料No.3乃至No.8はいずれも特性が劣っている。
【0032】
試料No.3及びNo.4は第1の熱処理の加熱温度が規定範囲から外れた例である。加熱温度が低すぎると、引張強さ、ばね限界値が低くなるとともに、導電率も低めの値になっている。加熱温度が高すぎると結晶組織が粗大になることにより、引張強さ、ばね限界値が不十分な値になる。
【0033】
試料No.5及びNo.6は第2の熱処理の加熱温度が規定範囲から外れた例である。加熱温度が低すぎる場合は導電率、引張強さ、ばね限界値のいずれの特性も低い値しか得られなくなる。加熱温度が高すぎる場合は引張強さ、ばね限界値が低い値にとどまる。
【0034】
試料No.7及びNo.8は第3の熱処理の加熱温度が規定範囲から外れた例である。加熱温度が低すぎる場合は導電率を十分に向上させることができず、加熱温度が高すぎる場合は引張強さ、ばね限界値が低下する。
【0035】
以上説明した通り、本発明の端子・コネクタ用銅合金の製造方法によると、得られた銅合金は、端子・コネクタ用材料として用いられている従来の黄銅、りん青銅、Cu−Ni−Si系合金に比べて十分に高い導電率を持ち、なおかつりん青銅、Cu−Ni−Si系合金並みの良好な強度、ばね性を確保している。高導電率を実現したことで通電時のジュール熱発生を抑制でき、従来は通電量の増加が小型化に対する障害となっていた端子・コネクタにおいて、その設計自由度を大幅に広げることができる。また、製造コストの面でも、本発明による銅合金は従来のものと同等のコストで製造することが可能であり、実用上の問題とはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜0.5質量%のFe、0.2〜1.0質量%のNi、0.03〜0.2質量%のP、0.02〜0.1質量%のSi、0.01〜1.0質量%のSn、0.1〜1.0質量%のZn、および残部のCuから成り、前記FeおよびNiの合計重量と前記PおよびSiの合計重量の比が、(Fe+Ni)/(P+Si)=3〜10である合金素材を準備するステップと、その合金素材を700〜900℃に昇温した後、毎分25℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する第1の熱処理を施すステップと、前記第1の熱処理後の材料を冷間圧延した後、400〜550℃に加熱して30分〜5時間保持する第2の熱処理を施すステップと、前記第2の熱処理後の材料を冷間圧延した後、300〜450℃に加熱して30分〜5時間保持する第3の熱処理を施すステップを有することを特徴とする端子・コネクタ用銅合金の製造方法。
【請求項2】
0.1〜0.5質量%のFe、0.2〜1.0質量%のNi、0.03〜0.2質量%のP、0.02〜0.1質量%のSi、0.01〜1.0質量%のSn、0.1〜1.0質量%のZn、合計0.01〜1.0質量%のMg.Ti,Cr,Zrから選択した1種以上の金属材料、および残部のCuから成り、前記FeおよびNiの合計重量と前記PおよびSiの合計重量の比が(Fe+Ni)/(P+Si)=3〜10である合金素材を準備するステップと、その合金素材を700〜900℃に昇温した後、毎分25℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する第1の熱処理を施すステップと、前記第1の熱処理後の材料を冷間圧延した後、400〜550℃に加熱して30分〜5時間保持する第2の熱処理を施すステップと、前記第2の熱処理後の材料を冷間圧延した後、300〜450℃に加熱して30分〜5時間保持する第3の熱処理を施すステップを有することを特徴とする端子・コネクタ用銅合金の製造方法。
【請求項3】
前記第1の熱処理が、前記合金素材を水中に投入して室温まで冷却するステップからなる、請求項1または2の端子・コネクタ用銅合金の製造方法。

【公開番号】特開2006−16686(P2006−16686A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229719(P2004−229719)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)