説明

端子係合解除治具及びコネクタハウジング

【課題】接続端子やコネクタハウジングに損傷を与えずに、コネクタハウジング内のランスと接続端子との係合を簡単に解除することができ、しかも係合解除操作を繰り返してもランスに破損が生じ難い端子係合解除治具を提供すること。
【解決手段】端子係合解除治具21を、コネクタハウジングの治具用孔に挿入される軸部23と、軸部23の先端の一部範囲に形成されて接続端子の前端稜線部に端子収容室内のランスとの係合を解除する方向の付勢力を作用させる第1傾斜面54と、軸部23の先端の一部範囲に形成されてランスの前端に接続端子との係合を解除する方向の付勢力を作用させる第2傾斜面55と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続端子やコネクタハウジングに損傷を与えずに、コネクタハウジング内のランスと接続端子との係合を簡単に解除することができるように改良した端子係合解除治具及びコネクタハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
図20は、従来の端子係合解除治具及びコネクタハウジングにおける係合解除操作を示したものである。
【0003】
図20に示した端子係合解除治具1及びコネクタハウジング3は、下記特許文献1に開示されたものである。
【0004】
端子係合解除治具1は、作業者が把持する把持部5と、この把持部5から突出した細径の軸部6とを備えている。そして、軸部6の先端には、隙間に差し込み易いように、先細形状にするテーパ7が形成されている。
【0005】
コネクタハウジング3は、後端(図20では、右端)3aから前端3bに向かって接続端子9が嵌合装着される端子収容室11と、前記端子収容室11に装着された接続端子9に係合して接続端子9の抜け止めをするランス13と、ランス13と接続端子9との係合を解除するための治具用孔15とを備えている。
【0006】
ランス13は、端子収容室11に臨んで、端子収容室11の底部に設けられている。ランス13は、接続端子9の挿入方向に沿って前端3b側に延出した弾性片13aに、端子収容室11内に突出する係止突起13bを設けた構成である。弾性片13aは、接続端子9の挿入方向に直交する方向に弾性変位可能である。
【0007】
治具用孔15は、端子係合解除治具1の軸部6を挿入可能な孔で、端子収容室11の貫通方向に沿って前端3bに穿設されている。
【0008】
接続端子9は、金属板のプレス成形品である。端子収容室11の底部に対向する面に、ランス13の係止突起13bに係合する凹部9aが設けられている。
【0009】
コネクタハウジング3の端子収容室11に嵌合装着されている接続端子9とランス13との係合を解除するには、図示のように、端子係合解除治具1の軸部6を治具用孔15に挿入して、軸部6の先端を接続端子9とランス13との間に割り込ませる。この状態で、図20に矢印Aで示すように端子係合解除治具1を上方にこじると、図20中の部分拡大図に矢印Bで示すように、軸部6の先端部でランス13が押し下げられ、接続端子9とランス13との係合が解除される。係合が解除された状態で、接続端子9をハウジングの後方に引くことで、接続端子9をコネクタハウジング3から抜き出すことができる。
【0010】
しかし、上記の端子係合解除治具1とコネクタハウジング3では、接続端子9とランス13との係合を解除するために端子係合解除治具1をこじる操作の際に、軸部6との干渉によって接続端子9やコネクタハウジング3に損傷を与えることが少なく無かった。
【0011】
そして、端子係合解除治具1をこじる操作の際に与えた損傷で、接続端子9の再装着に不具合が生じるおそれがあった。
【0012】
そこで、下記特許文献2や特許文献3では、こじる操作をせずに接続端子とランスとの係合を解除できるようにした端子係合解除治具及びコネクタハウジングが提案されている。
【0013】
これらの特許文献2や特許文献3では、端子係合解除治具は、コネクタハウジングの治具用孔に挿入する軸部の先端に、ランスに当接する傾斜面を有している。この傾斜面は、ランスに押圧すると、接続端子との係合を解除する方向の付勢力をランスに作用させる。
【0014】
これらの特許文献2,3に開示されている技術では、接続端子とランスとの係合を解除するには、端子係合解除治具の軸部を、コネクタハウジングの治具用孔に真っ直ぐに押し込むだけでよく、こじる操作がなくなるため、端子係合解除治具のこじり操作に起因した接続端子やコネクタハウジングの損傷を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−55433号公報
【特許文献2】特開2002−231362号公報
【特許文献3】特開2004−327370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところが、上記特許文献2,3の技術は、端子係合解除治具の押し込み操作で、ランスのみを係合解除方向に撓ませるもので、係合解除時におけるランスの撓み変位量が大きいため、係合解除操作を繰り返すと、ランスが破損し易いという問題が生じた。
【0017】
そこで、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、接続端子やコネクタハウジングに損傷を与えずに、コネクタハウジング内のランスと接続端子との係合を簡単に解除することができ、しかも係合解除操作を繰り返してもランスに破損が生じ難い端子係合解除治具及びコネクタハウジングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の前述した目的は、下記の構成により達成される。
(1)コネクタハウジングの端子収容室の貫通方向に沿って前記コネクタハウジングの前端に穿設された治具用孔に挿入される軸部と、
該軸部の先端の一部範囲に形成されて、前記軸部の前記治具用孔への挿入により前記端子収容室内の接続端子の前端稜線部に当接し、前記接続端子に前記端子収容室内のランスとの係合を解除する方向の付勢力を作用させる第1傾斜面と、
前記軸部の先端の一部範囲に形成されて、前記軸部の前記治具用孔への挿入により前記端子収容室内のランスの前端に乗り上げて、前記ランスに前記接続端子との係合を解除する方向の付勢力を作用させる第2傾斜面と、
を備えたことを特徴とする端子係合解除治具。
【0019】
(2)前記軸部が、前記第1傾斜面と第2傾斜面とが前記端子収容室の幅方向に位置をずらして先端に設けられた第1板部と、この第1板部の一側縁から略垂直に延出した第2板部とを備えて、前記第1板部と第2板部とでL字形の断面構造に形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の端子係合解除治具。
【0020】
(3)後端から前端に向かって接続端子が嵌合装着される端子収容室と、前記接続端子の挿入方向に直交する方向に弾性変位可能に前記端子収容室に臨んで設けられて、前記端子収容室に装着された前記接続端子に係合して前記接続端子の抜け止めをするランスと、前記ランスと前記接続端子との係合を解除する端子係合解除治具を挿入するために前記端子収容室の貫通方向に沿って前端に貫通形成された治具用孔とを備えたコネクタハウジングであって、
前記治具用孔の横断面構造が、上記(2)に記載の端子係合解除治具の横断面構造に相応するL字形に形成されていることを特徴とするコネクタハウジング。
【0021】
上記(1)の記載の端子係合解除治具の構成によれば、当該治具の軸部を、コネクタハウジングの端子収容室の貫通方向に沿って、コネクタハウジングの治具用孔に押し込むと、前記軸部の先端の第1傾斜面が前記端子収容室内の接続端子の前端稜線部に当接して、前記端子収容室内のランスとの係合を解除する方向に前記接続端子を変位させる。その一方、前記軸部の先端の第2傾斜面が前記端子収容室内のランスの前端に乗り上げて、前記接続端子との係合を解除する方向に前記ランスを撓み変位させる。従って、前記軸部の前記治具用孔への押し込み量が一定長に達すると、接続端子及びランスのそれぞれの変位によって、互いの係合が解除された状態となる。
【0022】
換言すると、上記(1)の構成によれば、接続端子とランスとの係合を解除させる際の操作は、端子係合解除治具の軸部を真っ直ぐにコネクタハウジングの治具用孔に押し込むだけでよく、こじる操作が不要になる。
【0023】
従って、端子係合解除治具のこじり操作に起因した接続端子やコネクタハウジングの損傷を防止することができる。
【0024】
しかも、上記(1)に記載の端子係合解除治具の構成によれば、コネクタハウジングの治具用孔に真っ直ぐ押し込んだときに、第1傾斜面及び第2傾斜面によって、互いに係合している接続端子とランスのそれぞれを、係合解除方向に変位させる。
【0025】
そのため、ランスのみを係合解除方向に撓ませていた従来の場合と比較すると、係合解除時におけるランスの撓み変位量を小さくすることができる。従って、係合解除時にランスに作用する負担が小さくなり、係合解除操作を繰り返しても、ランスに破損が生じ難くなる。
【0026】
上記(2)に記載の端子係合解除治具の構成によれば、軸部の第1板部には、接続端子を変位させる第1傾斜面とランスを変位させる第2傾斜面とが設けられていて、これらの第1傾斜面と第2傾斜面とに作用する反力が互いに逆向きになる。そのため、前記第1板部の先端では、接続端子からの反力とランスからの反力とが打ち消し合うことになる。そのため、ランスのみを変位させるために片側にのみ反力が作用する場合と比較すると、第1板部の先端に作用する反力が小さくなり、第1板部の先端に反りが生じ難い。
【0027】
しかも、軸部は、第1板部の一側縁に第2板部が延設されていて、断面構造がL字形を成していることから、板部の肉厚を低減しても、高い剛性を確保し易い。
【0028】
従って、上記(2)に記載の端子係合解除治具では、軸部を構成している各板部の肉厚を低減して軽量化を図ることができる。
【0029】
上記(3)に記載のコネクタハウジングの構成によれば、治具用孔の横断面構造が、前記治具用孔に挿入される端子係合解除治具の横断面構造に相応するL字形に形成されていて、例えば、それぞれの板部に対して板厚方向の位置決め精度を上げるだけで、軸部に対しては直交する2方向の位置決め精度を向上させることができる。
【0030】
従って、治具用孔における端子係合解除治具の位置決め精度を向上させることが比較的容易にでき、端子係合解除治具の位置決め精度が低いために係合解除動作が不安定になることを防止することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明による端子係合解除治具では、接続端子とランスとの係合を解除させる際の操作は、端子係合解除治具の軸部を真っ直ぐにコネクタハウジングの治具用孔に押し込むだけでよく、こじる操作が不要になる。従って、端子係合解除治具のこじり操作に起因した接続端子やコネクタハウジングの損傷を防止することができる。
【0032】
しかも、本発明による端子係合解除治具では、互いに係合している接続端子とランスのそれぞれを、係合解除方向に変位させる。そのため、ランスのみを係合解除方向に撓ませていた従来の場合と比較すると、係合解除時にランスに作用する負担が小さくなり、係合解除操作を繰り返しても、ランスに破損が生じ難くなる。
【0033】
また、本発明によるコネクタハウジングでは、治具用孔の横断面構造が、前記治具用孔に挿入される端子係合解除治具の横断面構造に相応するL字形で、治具用孔における端子係合解除治具の位置決め精度を向上させることが比較的容易にできる。そのため、端子係合解除治具の位置決め精度が低いために係合解除動作が不安定になることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る端子係合解除治具の一実施の形態の説明図で、(a)は斜視図、(b)は側面図、(c)は(b)のC部の拡大図である。
【図2】(a)は図1に示した端子係合解除治具の軸部先端の拡大斜視図、(b)は(a)のD矢視図である。
【図3】本発明に係るコネクタハウジングの一実施形態の斜視図である。
【図4】図3のE部の拡大図である。
【図5】図3に示したコネクタハウジングの正面図である。
【図6】図5のF部の拡大図である。
【図7】図3に示したコネクタハウジングの縦断面図である。
【図8】(a)は図7のG部の拡大図、(b)は図7のH部の拡大図である。
【図9】図7に示したコネクタハウジングの端子収容室に接続端子が嵌合装着されている状態の縦断面図である。
【図10】図9のI部の拡大図である。
【図11】図10に示したランスの拡大斜視図である。
【図12】図11に示したランスの正面図である。
【図13】図12のJ部の拡大図である。
【図14】図10に示したコネクタハウジングの治具用孔に、図1に示した端子係合解除治具の軸部が挿入される前の位置関係を示す縦断面図である。
【図15】図14に示したコネクタハウジングの治具用孔に端子係合解除治具の軸部が挿入されて、軸部の先端の第1傾斜面により接続端子が係合解除方向に変位する状態の説明図である。
【図16】端子係合解除治具の軸部の先端の第2傾斜面がランスに当接開始した状態の説明図である。
【図17】図16のK部の拡大図である。
【図18】端子係合解除治具の軸部の先端の第2傾斜面によりランスが係合解除方向に変位した状態の説明図である。
【図19】図18のL部の拡大図である。
【図20】従来の端子係合解除治具及びコネクタハウジングにおける端子係合解除方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る端子係合解除治具及びコネクタハウジングの好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0036】
図1及び図2は本発明に係る端子係合解除治具の一実施形態の説明図、図3〜図13は本発明に係るコネクタハウジングの一実施形態の説明図である。
【0037】
図1に示した端子係合解除治具21は、作業者が把持する把持部22と、この把持部22から突出した軸部23とを備えている。軸部23は、図3〜図13に示したコネクタハウジング31の治具用孔32に挿入される。
【0038】
コネクタハウジング31は、図9及び図10に示すように、ハウジング本体33と、このハウジング本体33の前端部に嵌合装着されるフロントホルダ34とから構成されている。
【0039】
コネクタハウジング31は、図3〜図10に示すように、後端(図7では、左端)31aから前端31bに向かって接続端子41が嵌合装着される端子収容室36と、端子収容室36に装着された接続端子41に係合して接続端子41の抜け止めをするランス37と、前述の治具用孔32とを備えている。
【0040】
ランス37は、図9及び図10に示すように、ばね片37aの先端に接続端子41を係止する突起部37bを設けた構造である。ばね片37aは、接続端子41の挿入方向に直交する方向に弾性変位可能に端子収容室36に臨んで設けられている。
【0041】
より具体的には、ランス37は、端子収容室36の底部に臨んで設けられている。また、ばね片37aは、コネクタハウジング31の後端31a側から前端31b側に向かって延設されている。
【0042】
突起部37bは、端子収容室36内に突出するように、ばね片37aの先端部に形成されている。この突起部37bは、端子収容室36に挿入された接続端子41の底部の係止用凹部45に係合することで、接続端子41の抜け止めを果たす。
【0043】
治具用孔32は、端子収容室36の貫通方向に沿ってコネクタハウジング31の前端31bに穿設されている。
【0044】
端子係合解除治具21は、コネクタハウジング31内のランス37と接続端子41との係合を解除するための専用工具である。
【0045】
本実施形態の端子係合解除治具21の軸部23は、図2に示すように、端子収容室36の底面部に平行な第1板部51と、端子収容室36の底面部に垂直な第2板部52とを備えている。第2板部52は、第1板部51の一側縁から略垂直に上方に延出している。
【0046】
軸部23は、図2(b)に示すように、第1板部51と第2板部52とでL字形の断面構造に形成されている。
【0047】
軸部23の第1板部51の先端には、第1傾斜面54と第2傾斜面55とが形成されている。
【0048】
第1傾斜面54は、第1板部51の先端の一部範囲に形成されている。この第1傾斜面54は、図14及び図15に示すように、軸部23の治具用孔32への挿入により端子収容室36内の接続端子41の前端稜線部43に当接する。第1傾斜面54が前端稜線部43に当接した状態で、軸部23を更に前端稜線部43に押し込むと、第1傾斜面54は、接続端子41に端子収容室36内のランス37との係合を解除する方向(図15の矢印X方向)の付勢力を作用させる。
【0049】
第2傾斜面55は、第1傾斜面54とは端子収容室36の幅方向に位置をずらして、第1板部51の先端の一部範囲に設けられている。
【0050】
この第2傾斜面55は、 図16及び図17に示すように、軸部23の治具用孔32への挿入により、端子収容室36内のランス37の前端の治具受け面37cに乗り上げて、ランス37に接続端子41との係合を解除する方向(図17の矢印Y方向)の付勢力を作用させる。
【0051】
また、第1板部51の第1傾斜面54と第2傾斜面55は、第1傾斜面54が接続端子41の前端稜線部43に当接した後、更に第1板部51を治具用孔32に押し込むと、第2傾斜面55が治具受け面37cに乗り上げるように、それぞれの軸方向の位置が設定されている。
【0052】
治具受け面37cは、図11〜図13に示すように、ばね片37aの先端部に、突起部37bに隣接して設けられている。治具受け面37cは、第2傾斜面55が乗り上げやすいように形成された傾斜面で、突起部37bの片側に形成されている。
【0053】
軸部23が挿入されるコネクタハウジング31の治具用孔32は、図6に示すように、図2(b)に示した第1板部51が挿入可能な第1孔61と、第2板部52が挿入可能な第2孔63とを備えている。
【0054】
治具用孔32は、第1孔61と第2孔63とによって、L字形の横断面構造になっている。このL字形の横断面構造は、端子係合解除治具21の軸部23の横断面構造に相応させたものである。
【0055】
また、図6に示すように、第1板部51の板厚方向となる第1孔61の開口幅t1は、第1板部51が板厚方向にガタ付かないように、第1板部51の板厚に近い寸法に設定されている。
【0056】
また、第2板部52の板厚方向となる第2孔63の開口幅t2は、第2板部52が板厚方向にガタ付かないように、第2板部52の板厚に近い寸法に設定されている。
【0057】
以上に説明した一実施形態の端子係合解除治具21は、軸部23を、コネクタハウジング31の端子収容室36の貫通方向に沿って、コネクタハウジング31の治具用孔32に押し込むと、まず、図15に示すように、軸部23の先端の第1傾斜面54が端子収容室36内の接続端子41の前端稜線部43に当接する。その状態で、軸部23を更に治具用孔32に押し込むと、第1傾斜面54が、端子収容室36内のランス37との係合を解除する方向に、接続端子41を変位させる。
【0058】
また、軸部23の治具用孔32への押し込みが進むと、図16及び図17に示すように、軸部23の先端の第2傾斜面55が端子収容室36内のランス37の前端の治具受け面37cに乗り上げる。この状態で、更に軸部23を治具用孔32に押し込むと、図18及び図19に示すように、第2傾斜面55が、接続端子41との係合を解除する方向にランス37を撓み変位させる。
【0059】
従って、軸部23の治具用孔32への押し込み量が一定長に達すると、接続端子41及びランス37のそれぞれの変位によって、図19に示したように、互いの係合が解除された状態となる。
【0060】
換言すると、上記一実施形態の端子係合解除治具21によれば、接続端子41とランス37との係合を解除させる際の操作は、端子係合解除治具21の軸部23を真っ直ぐにコネクタハウジング31の治具用孔32に押し込むだけでよく、こじる操作が不要になる。
【0061】
従って、端子係合解除治具のこじり操作に起因した接続端子41やコネクタハウジング31の損傷を防止することができる。
【0062】
しかも、上記一実施形態の端子係合解除治具21では、コネクタハウジング31の治具用孔32に真っ直ぐ押し込んだときに、第1傾斜面54及び第2傾斜面55によって、互いに係合している接続端子41とランス37のそれぞれを、係合解除方向に変位させる。
【0063】
そのため、ランス37のみを係合解除方向に撓ませていた従来の場合と比較すると、係合解除時におけるランス37の撓み変位量を小さくすることができる。従って、係合解除時にランス37に作用する負担が小さくなり、係合解除操作を繰り返しても、ランス37に破損が生じ難くなる。
【0064】
また、上記一実施形態の端子係合解除治具21では、軸部23の第1板部51には、接続端子41を変位させる第1傾斜面54とランス37を変位させる第2傾斜面55とが設けられていて、これらの第1傾斜面54と第2傾斜面55とに作用する反力が互いに逆向きになる。そのため、第1板部51の先端では、接続端子41からの反力とランス37からの反力とが打ち消し合うことになる。そのため、ランスのみを変位させるために片側にのみ反力が作用する従来の端子係合解除治具の場合と比較すると、第1板部51の先端に作用する反力が小さくなり、第1板部51の先端に反りが生じ難い。
【0065】
しかも、軸部23は、第1板部51の一側縁に第2板部52が延設されていて、断面構造がL字形を成していることから、板部の肉厚を低減しても、高い剛性を確保し易い。
【0066】
従って、上記一実施形態の端子係合解除治具21では、軸部23を構成している各板部の肉厚を低減して軽量化を図ることができる。
【0067】
また、上記一実施形態のコネクタハウジング31では、治具用孔32の横断面構造が、前記治具用孔32に挿入される端子係合解除治具21の軸部23横断面構造に相応するL字形に形成されている。そのため、上記実施形態に記載したように、例えば、治具用孔32を構成している第1孔61及び第2孔63の板厚方向の開口幅t1,t2(図6参照)を、軸部23のそれぞれの板部51,52の板厚に近い寸法に設定して、これらの板部51,52に対して板厚方向の位置決め精度を上げるだけで、軸部23に対しては直交する2方向の位置決め精度を向上させることができる。
【0068】
従って、治具用孔32における端子係合解除治具21の位置決め精度を向上させることが比較的容易にでき、端子係合解除治具21の位置決め精度が低いために、軸部23の先端部が接続端子41やランス37に正確に当接せずに係合解除動作が不安定になることを防止することができる。
【0069】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0070】
例えば、本発明に係る端子係合解除治具の軸部は、第1板部51のみでも十分な剛性が確保できる場合には、第2板部52を省いた構造としても良い。
【0071】
また、その場合には、コネクタハウジングに装備する治具用孔の断面構造も、第1板部に対応した単純な構造にすると良い。
【符号の説明】
【0072】
21 端子係合解除治具
23 軸部
31 コネクタハウジング
32 治具用孔
33 ハウジング本体
34 フロントホルダ
36 端子収容室
37 ランス
37a ばね片
37b 突起部
37c 治具受け面
41 接続端子
43 前端稜線部
45 係止用凹部
51 第1板部
52 第2板部
54 第1傾斜面
55 第2傾斜面
61 第1孔
63 第2孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コネクタハウジングの端子収容室の貫通方向に沿って前記コネクタハウジングの前端に穿設された治具用孔に挿入される軸部と、
該軸部の先端の一部範囲に形成されて、前記軸部の前記治具用孔への挿入により前記端子収容室内の接続端子の前端稜線部に当接し、前記接続端子に前記端子収容室内のランスとの係合を解除する方向の付勢力を作用させる第1傾斜面と、
前記軸部の先端の一部範囲に形成されて、前記軸部の前記治具用孔への挿入により前記端子収容室内のランスの前端に乗り上げて、前記ランスに前記接続端子との係合を解除する方向の付勢力を作用させる第2傾斜面と、
を備えたことを特徴とする端子係合解除治具。
【請求項2】
前記軸部が、前記第1傾斜面と第2傾斜面とが前記端子収容室の幅方向に位置をずらして先端に設けられた第1板部と、この第1板部の一側縁から略垂直に延出した第2板部とを備えて、前記第1板部と第2板部とでL字形の断面構造に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の端子係合解除治具。
【請求項3】
後端から前端に向かって接続端子が嵌合装着される端子収容室と、前記接続端子の挿入方向に直交する方向に弾性変位可能に前記端子収容室に臨んで設けられて、前記端子収容室に装着された前記接続端子に係合して前記接続端子の抜け止めをするランスと、前記ランスと前記接続端子との係合を解除する端子係合解除治具を挿入するために前記端子収容室の貫通方向に沿って前端に貫通形成された治具用孔とを備えたコネクタハウジングであって、
前記治具用孔の横断面構造が、請求項2に記載の端子係合解除治具の横断面構造に相応するL字形に形成されていることを特徴とするコネクタハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−54535(P2011−54535A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205062(P2009−205062)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】