説明

端子圧着の良否判定方法及び良否判定装置、端子圧着装置

【課題】本来の判定許容範囲を変更することなく、適切なタイミングでの部品の交換や調整を可能とし、良否判定の精度を維持する。
【解決手段】S1で圧力センサからの端子圧着時の圧着応力を検出すると、S2において、圧着応力のピーク値が第1の判定許容範囲内にあるか否かを判別する。ここでピーク値が当該範囲内であれば、次のS4で、ピーク値が、第1の判定許容範囲内に設定される第2の判定許容範囲内にあるか否かを判別する。ここでピーク値が第2の判定許容範囲外であれば、S5で、ばらつき良品であるとして+1をカウントする。当該範囲内であれば、次の端子圧着を行う。そして、S6の判別で、ばらつき良品のカウント数が一定のロット数のうちの指定回数に達すると、S7で警告ランプを点灯させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子圧着装置を用いて電線の端末に端子を圧着する際に、端子圧着の良否を判定する方法及びその装置と、当該方法を用いて端子圧着の良否も判定する端子圧着装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
端子圧着装置を用いて電線の端末(導体)に端子を圧着する際、圧着時に導体がかしめ部からはみ出したり、絶縁被覆をかしめたり等の圧着不良が発生することから、このような圧着不良を検出するため、本件出願人は、特許文献1に開示の圧着不良検出方法を発明している。これは、端子圧着時の圧着応力を荷重センサによって検出し、その圧着応力の時間的変化のパターンを正常時のパターンと比較することで、圧着状態の良否を判定するものである。すなわち、圧着応力の変化のパターンと正常時のパターンとの違いが判定許容範囲内であれば良品と判定し、判定許容範囲を越えたら不良品と判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−281071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、端子圧着の際の圧着応力の変化のパターンは、端子圧着の機械的要素に影響されやすい。例えば、アプリケータの上型等が摩耗すると圧着応力の変化のパターンにばらつきが生じ、圧着状態が正常であっても判定許容範囲を越えてしまう場合があり、誤判定となるおそれがある。このため、機械部品の交換や調整を定期的に行ったり、圧着応力の変化のパターンのばらつきを考慮した広めの判定許容範囲を設定したりする対策が採られているが、機械部品の交換等は、機械部品の摩耗等のタイミングと必ずしも一致しないため、使用できる部品を早期に交換して無駄に繋がったり、誤判定が生じてからの交換等になって製品の品質を低下させたりしてしまう。また、ばらつきを考慮した判定許容範囲では、不良品を良品と判定してしまうおそれがあり、良否判定の精度が低下して品質の低下を招くことになる。
【0005】
そこで、本発明は、本来の判定許容範囲を変更することなく、適切なタイミングでの部品の交換や調整を可能とし、良否判定の精度を維持して品質の向上が期待できる端子圧着の良否判定方法及び良否判定装置、端子圧着装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、端子圧着の良否判定方法であって、上型と下型との間で電線の端部に端子を圧着する際の圧着応力を検出する圧着応力検出ステップと、検出した圧着応力が予め設定された第1の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれる場合を良品とする第1の判定ステップと、圧着応力が第1の判定許容範囲に含まれる場合、さらに圧着応力が、第1の判定許容範囲内で予め設定された第1の判定許容範囲よりも狭い第2の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれない場合をばらつき良品とする第2の判定ステップと、を実行することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、第2の判定ステップで圧着応力が第2の判定許容範囲に含まれないと判定された回数をカウントし、当該カウント数が所定値に達したら報知を行う報知ステップをさらに実行することを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、端子圧着の良否判定装置であって、上型と下型との間で電線の端部に端子を圧着する際の圧着応力を検出する圧着応力検出手段と、検出した圧着応力が予め設定された第1の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれる場合を良品とする第1の判定手段と、圧着応力が第1の判定許容範囲に含まれる場合、さらに圧着応力が、第1の判定許容範囲内で予め設定された第1の判定許容範囲よりも狭い第2の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれない場合をばらつき良品とする第2の判定手段と、を備えることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項3の構成において、第2の判定手段によって圧着応力が第2の判定許容範囲に含まれないと判定された回数をカウントし、当該カウント数が所定値に達したら報知を行う報知手段をさらに備えることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項4の構成において、カウント数をリセットするリセット手段を備えて、報知手段は、リセット手段によってカウント数がリセットされるまで報知を継続することを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、昇降動作する上型と、その上型の下方で端子がセットされる下型とを有し、下型にセットされた端子に電線の端部を位置決めした後、上型を下降させて電線の端部に端子を圧着する端子圧着装置であって、請求項3乃至5の何れかに記載の端子圧着の良否判定装置を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1,3,6に記載の発明によれば、本来の判定許容範囲を変更することなく、適切なタイミングでの部品の交換や調整が可能となる。よって、良否判定の精度が維持できて品質の向上が期待できる。
請求項2,4に記載の発明によれば、上記効果に加えて、最適なタイミングで部品の交換や調整が可能となる。
請求項5に記載の発明によれば、上記効果に加えて、メンテナンスの確実な実行が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】端子圧着装置の正面図である。
【図2】端子圧着装置の側面図である。
【図3】端子圧着の良否判定方法のフローチャートである。
【図4】圧着応力の時間的変化の波形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1,2は、本発明の端子圧着装置の一例を示す説明図で、端子圧着装置1において、2は上型3と下型4とからなるアプリケータで、上型3は、ベッド5上に立設された基枠6に沿って昇降する昇降体7に設けられる一方、下型4は、上型3の下方でベッド5上面に組み込まれている。8,8は、基枠6の左右に固着されて昇降体7の昇降をガイドするガイド部である。また、昇降体7は、サーボモータ10を備えた上方の駆動部9によってラム11を介して昇降動作するもので、ラム11には、圧着応力検出手段としての圧力センサ12が設けられている。この圧力センサ12は、端子圧着時にラム11に発生する歪みを検出して圧着応力を検出するものである。
【0010】
さらに、昇降体7の側方には、昇降体7の昇降に連動して揺動し、下端に送り爪14を有する連動アーム13が設けられている。この連動アーム13は、昇降体7、すなわち上型3の上昇の際に、図示しない端子リールから引き回されてベッド5上のテーブル15にセットされた端子連鎖体16の送り動作を行うものである。
加えて、駆動部9の前面には、電源スイッチ18や不良品の報知ランプ19、報知手段としての警告ランプ20、テンキー等を備えた操作パネル17が設けられている。
【0011】
一方、図示はしないが、端子圧着装置1の前段には、端子を計尺して切断する計尺部と、切断された端子端部の絶縁被覆の皮剥を行うストリップ部とが設けられており、ストリップ部で皮剥された電線23は、チャック21によってアプリケータ2の正面に搬送される。このチャック21は、アプリケータ2の正面位置ではサーボモータ22の回転駆動によって圧着位置に対して進退動する構成で、このサーボモータ10,22の回転制御等は、CPUユニットやI/Oユニット、通信ユニット等を備えた図示しないPLC(プログラマブルコントローラ)によって制御される。すなわち、電線の計尺、切断、皮剥、端子圧着を自動で連続して行う自動機となっている。
【0012】
以上の如く構成された端子圧着装置1において、電線に端子を圧着する手順を説明する。まず前段で計尺、切断、皮剥された電線23をチャック21によってアプリケータ2の正面へ搬送した後、チャック21を前進させ、電線23の端部を、下型4にセットされた端子16a(端子連鎖体16の先頭の端子)上方の圧着位置Pへ移動させる。
次に、上型3を下死点まで下降させ、電線23の端部に端子16aを圧着する。端子16aの圧着後、上型3を上昇させると共に、連動アーム13によって次の端子16bを下型4側へ移動させる。
以上の手順が繰り返されることで、電線への端子圧着が自動的に連続して行われることになる。
【0013】
ここで、PLCのCPUユニットは、圧力センサ12と共に端子圧着の良否判定装置を構成し、端子圧着が行われる度に端子圧着の良否を判定する。以下、CPUユニットによる端子圧着の良否判定方法を図3のフローチャートに従って説明する。
まず、S1で圧力センサ12からの端子圧着時の圧着応力を検出すると(圧着応力検出ステップ)、S2において、圧着応力のピーク値が、予め設定された第1の判定許容範囲内にあるか否かを判別する(第1の判定ステップ)。図4は、圧着応力の時間的変化を示す波形で、この波形のピーク値Pが、第1の上限許容値と第1の下限許容値との間に設定される第1の判定許容範囲S1の外であれば、S3で、不良品と判定して報知ランプ19の点灯を行った後、次の端子圧着を行う。
【0014】
一方、S2の判別でピーク値Pが当該範囲S1内であれば、次のS4では、ピーク値Pが、第2の上限許容値と第2の下限許容値との間に設定される第2の判定許容範囲S2内にあるか否かを判別する(第2の判定ステップ)。この第2の判定許容範囲S2は、第2の上限許容値は第1の上限許容値よりも小さく、第2の下限許容値は第1の下限許容値よりも大きく、すなわち第1の判定許容範囲S1をさらに狭くする範囲となっている。
【0015】
S4の判別で、ピーク値Pが第2の判定許容範囲S2外であれば、S5で、ばらつき良品であるとして+1をカウントする。当該範囲S2内であれば、次の端子圧着を行う。
図4に示す例では、波形A,Bに係る電線は、ピーク値Pが何れも第1の判定許容範囲S1内にあるため良品であるが、波形Bに係る電線は、ピーク値Pが第2の判定許容範囲S2内にないため、ばらつき良品となる。波形Cに係る電線は、第1の判定許容範囲S1内にないため不良品となる。
【0016】
そして、S6の判別で、ばらつき良品のカウント数が一定のロット数のうちの指定回数に達しているか否かを判別し、指定回数に達していなければ、次の端子圧着を行う。一方、カウント数が指定回数に達していれば、S7で警告ランプ20を点灯させる(報知ステップ)。従って、装置の稼働を停止させて、部品の交換や調整等のメンテナンスを行うことができる。警告ランプ20の点灯は、操作パネル17からリセット手段としての所定のコードや暗証番号等を入力してカウント数をリセットすることで解除できる。よって、S8の判別では、カウント数がリセットされたか否かを判別し、リセットされていれば、次の端子圧着を行う。リセットされない限り警告ランプ20は点灯し続ける。
【0017】
このように、上記形態の良否判定装置を備えた端子圧着装置1によれば、検出した圧着応力のピーク値Pが予め設定された第1の判定許容範囲S1に含まれるか否かを判定し、含まれる場合を良品とする一方、ピーク値Pが第1の判定許容範囲S1に含まれる場合、さらに第2の判定許容範囲S2に含まれるか否かを判定し、含まれない場合をばらつき良品とするようにしているので、本来の判定許容範囲S1を変更することなく、適切なタイミングでの部品の交換や調整が可能となる。よって、良否判定の精度が維持できて品質の向上が期待できる。
【0018】
特にここでは、ピーク値Pが第2の判定許容範囲S2に含まれないと判断された回数をカウントし、当該カウント数が所定値に達したら報知を行うようにしているので、最適なタイミングで部品の交換や調整が可能となる。
また、ばらつき良品のカウント数をリセットするリセット手段を備えて、警告ランプ20は、リセット手段によってカウント数がリセットされるまで点灯が継続するので、メンテナンスの確実な実行が期待できる。
【0019】
なお、上記形態では、ピーク値が第1、第2の判定許容範囲内にあるか否かを判別しているが、これに限らず、例えば基準パターンを設定してそのピーク値と比較し、ピーク値の差が判定許容範囲内にあるか否かを判別したり、所定時間内での圧着応力の積算値が判定許容範囲内にあるか否かを判別したり等、良否判定とばらつき判定とが可能であれば適宜変更してもよい。
また、上記形態では、ばらつきカウントが一定のロット数のうちで指定回数に到達したら報知するようにしているが、ロット数をなくして単純にカウント数の累計が指定回数に達したら報知するようにしてもよい。報知手段も、ランプに限らず、ブザーや合成音声等の他の手段に代えたり複数の手段を併用したりして差し支えない。
但し、このようなカウントをなくして、第2の判定許容範囲内に含まれない場合は直ちに報知手段による報知を行うことも可能である。
【0020】
そして、上記形態では、端子圧着装置に端子圧着の良否判定装置を組み込んだ例で説明しているが、これに限らず、端子圧着装置に設けた圧力センサをパーソナルコンピュータ等の別の端末に接続して、独立した良否判定装置とすることができる。この場合、既存の端子圧着装置にも容易に良否判定方法が実行できるし、複数の端子圧着装置の圧力センサを一台の端末に接続すれば良否判定とばらつき判定とを集中監視することができる。
その他、圧着応力の検出は圧力センサに限らず、圧電素子等の他のセンサを用いてもよいし、センサの設置場所も、圧着応力の適正な検出が可能であればアプリケータ等の他の場所に変更して差し支えない。
【0021】
勿論端子圧着装置の構成も上記形態以外に、上型の下降時に連動アームが次の端子を異動させる同時送りタイプや、フットスイッチを備えて任意のタイミングでアプリケータが動作する半自動タイプ等であっても本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0022】
1・・端子圧着装置、2・・アプリケータ、3・・上型、4・・下型、5・・ベッド、7・・昇降体、8・・ガイド部、9・・駆動部、11・・ラム、12・・圧力センサ、17・・操作パネル、19・・報知ランプ、20・・警告ランプ、23・・電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型との間で電線の端部に端子を圧着する際の圧着応力を検出する圧着応力検出ステップと、
検出した圧着応力が予め設定された第1の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれる場合を良品とする第1の判定ステップと、
前記圧着応力が前記第1の判定許容範囲に含まれる場合、さらに前記圧着応力が、前記第1の判定許容範囲内で予め設定された前記第1の判定許容範囲よりも狭い第2の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれない場合をばらつき良品とする第2の判定ステップと、
を実行することを特徴とする端子圧着の良否判定方法。
【請求項2】
前記第2の判定ステップで前記圧着応力が前記第2の判定許容範囲に含まれないと判定された回数をカウントし、当該カウント数が所定値に達したら報知を行う報知ステップをさらに実行することを特徴とする請求項1に記載の端子圧着の良否判定方法。
【請求項3】
上型と下型との間で電線の端部に端子を圧着する際の圧着応力を検出する圧着応力検出手段と、
検出した圧着応力が予め設定された第1の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれる場合を良品とする第1の判定手段と、
前記圧着応力が前記第1の判定許容範囲に含まれる場合、さらに前記圧着応力が、前記第1の判定許容範囲内で予め設定された前記第1の判定許容範囲よりも狭い第2の判定許容範囲に含まれるか否かを判定し、含まれない場合をばらつき良品とする第2の判定手段と、
を備えることを特徴とする端子圧着の良否判定装置。
【請求項4】
前記第2の判定手段によって前記圧着応力が前記第2の判定許容範囲に含まれないと判定された回数をカウントし、当該カウント数が所定値に達したら報知を行う報知手段をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の端子圧着の良否判定装置。
【請求項5】
前記カウント数をリセットするリセット手段を備えて、前記報知手段は、前記リセット手段によって前記カウント数がリセットされるまで前記報知を継続することを特徴とする請求項4に記載の端子圧着の良否判定装置。
【請求項6】
昇降動作する上型と、その上型の下方で端子がセットされる下型とを有し、前記下型にセットされた端子に電線の端部を位置決めした後、前記上型を下降させて前記電線の端部に前記端子を圧着する端子圧着装置であって、
請求項3乃至5の何れかに記載の端子圧着の良否判定装置を備えたことを特徴とする端子圧着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−243677(P2012−243677A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114966(P2011−114966)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】