説明

端末位置判定装置

【課題】車車間通信や歩車間通信によって受信した他の車両や歩行者の他の端末の存在位置の情報(GPS位置情報等)に基づく他の端末の存在位置の判定が低コストに精度よく行なえるようにする。
【解決手段】車車間通信部32により受信した他の車両や歩行者の他の端末2のGPS位置情報に基づく他の端末2の存在位置を基準にして、取得部33が取得した他の端末2の移動速度及び進行方向から、推定部34により、車車間通信部32がつぎにGPS位置情報を受信するときの他の端末2の存在位置を推定する。さらに、誤差範囲設定部35により推定した存在位置とその時刻に車車間通信部32が受信するGPS位置情報に基づく存在位置との一致度が高くなる程、受信したGPS位置情報に基づく存在位置の誤差範囲を小さくし、判定部36により誤差範囲の大きさから、受信したGPS位置情報に基づく存在位置の信頼性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、他の車両や歩行者の端末が衛星を用いて検出した他の端末の存在位置の情報等を車車間通信や歩車間通信で受信し、受信した他の端末の存在位置を判定する端末位置判定装置に関し、詳しくは、判定の精度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交差点等での車両同士や車両と歩行者との出会い頭の衝突等を防止するため、車両や歩行者が備える端末それぞれにより、衛星を用いた測位システム、例えば、代表的なGPS(Global Positioning System)の測位で時々刻々の自己の受信位置情報(以下、GPS位置情報という)を検出して取得し、車両の端末間の車車間通信や、車両の端末と周辺の歩行者の端末との歩車間通信により、各車両や歩行者の端末が取得したそれぞれのGPS位置情報等をやり取りし、少なくとも車両側の端末において、他の車両や歩行者の端末(他の端末)から受信したGPS位置情報等により、周辺の他の車両や歩行者の存在位置を判定し、それらの挙動を監視することが提案されている。
【0003】
この場合、前記の車車間通信や歩車間通信で受信した他の車両や歩行者の端末(他の端末)のGPS位置情報の存在位置(換言すれば、他の車両や歩行者の存在位置)の信頼性が問題となる。
【0004】
そして、受信した他の車両の端末のGPS位置情報の存在位置の信頼度が低く誤っていれば、受信したGPS位置情報の使用を禁止し、他の端末の存在位置の判定を誤らないようにすることが提案されている(例えば、特許文献1(段落[0001]−[0005]、[0077]−[0078]、図1、図2、図6、図7等)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−182007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の存在位置の判定では、自車両の端末のGPS位置情報の存在位置と車車間通信で受信した他の車両のGPS位置情報の存在位置を結んだ直線と、前記他の車両のGPS位置情報の信号が到来する方向(受信方向)とのなす角度が、設定値よりも大きく一定以上ずれるか否によって、車車間通信で受信した他の端末のGPS位置情報に基づく他の端末の存在位置が誤っているか否かを判定する。
【0007】
この場合、受信したGPS位置情報の位置の誤差を考慮していないので、判定の信頼性が低く、とくに、高層ビル群で囲まれてマルチパスが発生する走行環境下では、マルチパスの発生により、受信したGPS位置情報に基づく他の端末の存在位置が急激に大きな誤差(バラツキ)を含む誤った位置になり、判定の信頼性が大きく低下し、場合によっては他の端末(他の車両)の存在位置を誤る可能性がある。
【0008】
そして、歩車間通信で得られる歩行者の端末(他の端末)のGPS位置情報に基づく他の端末(歩行者)の存在位置についても、特許文献1に記載の信頼性の判定を行なえば、同様の問題が生じる。
【0009】
本発明は、車車間通信や歩車間通信によって受信した他の車両や歩行者の他の端末の存在位置の情報(GPS位置情報等)に基づく他の端末の存在位置の判定が低コストに精度よく行なえるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明の端末位置判定装置は、衛星を用いて他の端末が検出した該他の端末の存在位置の情報を受信する受信手段と、前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置を判定する判定手段とを備えた端末位置判定装置であって、少なくとも前記他の端末の移動速度および進行方向の情報を取得する取得手段と、前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置を基準にして、前記取得手段が取得した前記他の端末の移動速度および移動方向から、つぎの時刻における前記他の端末の存在位置を推定する推定手段と、前記推定手段が推定した前記つぎの時刻における前記他の端末の存在位置と、前記つぎの時刻に前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置との一致度合いが高くなる程、前記受信手段が受信する前記他の端末の存在位置の誤差範囲を小さくする誤差範囲設定手段とを備え、前記判定手段により、前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置の前記誤差範囲から前記他の端末の存在位置を判定することを特徴としている(請求項1)。
【0011】
また、本発明の端末位置判定装置は、前記他の端末が車両に搭載され、前記推定手段が、複数時刻の前記他の端末の存在位置の移動変化と前記車両の舵角とに基づいて前記移動方向を決定することを特徴としている(請求項2)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明の端末位置判定装置の場合、衛星を用いて他の車両や歩行者の他の端末が検出し車車間通信や歩車間通信で送信する存在位置の情報をGPS位置情報とすると、このGPS位置情報を受信手段により受信する。また、前記他の端末から受信したり前記GPS位置情報の時間変化から算出したりして、取得手段により少なくとも前記他の端末の移動速度及び進行方向の情報を取得する。
【0013】
そして、受信手段が受信したGPS位置情報に基づく例えば時刻taの他の端末の存在位置を基準にして、前記取得手段が取得した前記他の端末の移動速度及び進行方向から、推定手段は、つぎにGPS位置情報を受信する時刻tbの他の端末の存在位置を推定する。マルチパスの発生等がなければ、時刻tbに他の端末が受信するGPS位置情報に基づく存在位置が推定された存在位置に一致し、逆に、マルチパスが発生したりして時刻tbに他の端末が受信するGPS位置情報に基づく存在位置が誤差を含むと、その分推定された存在位置からずれる。
【0014】
そして、受信したGPS位置情報に基づく存在位置を中心として、他の端末が必ず存在する誤差範囲を設定すると、この誤差範囲は、他の端末が受信するGPS位置情報に基づく存在位置が推定された存在位置に一致するときには最も小さくてよく、他の端末が受信するGPS位置情報に基づく存在位置が推定された存在位置からずれにしたがって大きくする必要がある。その際、誤差範囲が小さくなる程、存在位置の判定の精度は高くなる。
【0015】
そこで、誤差範囲設定手段により、推定手段が推定した他の端末の存在位置と、受信手段が受信するGPS位置情報に基づく他の端末の存在位置との一致度合いが高くなる程、前記誤差範囲を小さくする。
【0016】
そして、判定手段により受信手段が受信した他の端末の存在位置を前記誤差範囲から判定すると、その誤差範囲の大きさから、その信頼性を精度よく判定することができる。
【0017】
したがって、他の端末のつぎの時刻の存在位置の推定及び、誤差範囲からの存在位置の判定の演算処理により、車車間通信や歩車間通信によって受信した他の車両や歩行者の他の端末の存在位置の情報(GPS位置情報等)に基づく他の端末の存在位置の信頼性を、低コストに精度よく判定できる。
【0018】
請求項2に係る本発明の端末位置判定装置の場合、他の端末が出会い頭の衝突回避が最も望まれる車両(他の車両)に搭載されていると、その端末の移動方向(他の車両)を、単純にGPS位置情報に基づく存在位置の過去の平均や、舵角だけから決定するのではなく、複数時刻のGPS位置情報の基づく存在位置の移動変化と舵角とに基づき、例えば他の車両の進む向き(方向)と舵角の状態から決定する。この場合、GPS位置情報に基づく存在位置の移動方向の変化が実際の舵角に対して大きく、GPS位置情報に基づく存在位置がマルチパス等で乱れているようなときにも、移動方向の誤った決定を防止することが可能になり、判定の精度が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態が適用される交差点付近の走行環境例の模式図である。
【図2】図1の他の車両の端末の存在位置推定の説明図である。
【図3】図1の他の車両の端末が受信したGPS位置情報に基づく他の車両の端末の存在位置の図2の誤差範囲の変化例の説明図である。
【図4】マルチパス等が発生したときの存在位置の指定の切替の説明図である。
【図5】図1の自車両が備える本発明の一実施形態の端末位置判定装置のブロック図である。
【図6】図5の動作説明用のフローチャートである。
【図7】歩行者の端末が受信したGPS位置情報に基づく歩行者の端末の存在位置の変化例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、一実施形態について、図1〜図7を参照して詳述する。
【0021】
図1は例えば交差点αに異なる道路βa〜βdから進入する複数台の車両1a〜1dを示し、車両1aは自車両、車両1b〜1dは自車両1aに対する他の車両である。そして、各車両1a〜1dは車車間通信の端末2を搭載する。
【0022】
各端末2は、少なくともGPS受信機能及び車車間通信機能を備え、衛星を用いて自己の存在位置の情報(GPS位置情報)を検出して取得し、車車間通信で互いにGPS位置情報等をやり取りする。また、少なくとも自車両1aの端末2は端末位置判定装置3を備える。なお、他の車両1b〜1dの端末2が本発明の他の端末である。
【0023】
そして、本実施形態の場合、車車通信(歩行者からも情報を得る場合は歩車間通信も含む)により各端末2間で相互に交換する情報は、受信したGPS位置情報による車両1a〜1dそれぞれの現在の位置、車速(本発明の移動速度)、進行方向(移動方向)とする。GPS位置情報による現在の位置は緯度と経度、進行方向はその車両1が過去のGPS位置情報や舵角から自車の進行方向を推定したデータである。なお、車速や進行方向は、簡易には、車車間通信でGPS位置情報をやり取りすれば、その時間微分や積分から求めて取得することも可能であるが、本実施形態の場合、少なくとも自車両1aにおいて、複数時刻の他の車両1b〜1dの端末2の存在位置の移動変化と他の車両1b〜1dの舵角とに基づいて他の車両1b〜1dの移動方向を決定するため、進行方向の情報として、GPS位置情報の他に舵角の情報をやり取りする。
【0024】
つぎに、自車両1aにおける他の車両1b〜1dの端末2のGPS位置情報の存在位置の判定原理をつぎに説明する。
【0025】
図2は説明を簡単にするため、前後する車両(自車両)V1と車両(他の車両)V2が車車間通信をして同方向に走行している状況を示す。この状況下、例えば時刻t1に車両V2の端末(図示せず)から車両V1の端末(図示せず)に送信したGPS位置情報の存在位置にはマルチパス等に応じた誤差が含まれる。そこで、車両(自車両)V1の後述する構成の端末位置判定装置(図示せず)は、時刻t1に車両V2の端末が存在する範囲として、時刻t1に受信したGPS位置情報の位置psを基準(中心)とする所定半径の存在可能円Csを求める。この存在可能円Cs及び後述する時刻t2以降の存在可能円Cjが本発明の誤差範囲の円であり、以降、存在可能円Cs、Cjを誤差範囲円という。例えばイグニッションキーがオンする自車両1aのエンジン等の始動直後の最初の誤差範囲円Csは、規定の範囲あるいはGPS位置情報とともに受信するDOP(精度低下率)情報に基づいて適当に設定される大きさ、例えば半径10m前後の広い円である。
【0026】
また、時刻t1の位置psを基準として、例えば車両V2から送られたその時点の車速と進行方向とから合成された移動ベクトルにより、つぎの時刻t2の車両V2の端末の位置piを推定し、この位置piを中心とする車両V2の端末の予想存在可能円Ciを求める。この予想存在可能円Ciは、マルチパス等が発生していない走行環境下で位置誤差が小さい(略最小)であるものとして設定され、例えば半径1m前後の円である。
【0027】
さらに、時刻t2に実際に車両V2の端末から送られてきたGPS位置情報の位置pjを中心として時刻t2の誤差範囲円Cjを求め、時刻t2の車両V2の端末2の位置(車両V2の位置)について、位置piと位置pjの一致度合いから車両V2の端末(本発明の他の端末)のGPS位置情報の存在位置の信頼度Rを、つぎの数1の式(1)の評価値Tijで定義して判定する。なお、図3の斜線の重なりの範囲が時刻t2における車両V2の端末の存在位置の範囲である。
【0028】
【数1】

【0029】
式(1)において、xijは予想存在可能円Ciと誤差範囲円Cjの位置pi、pjの距離、rは誤差範囲円Cjの半径である。この式(1)は、予想存在可能円Ciの位置piと誤差範囲円Cjの位置pjが合致すれば受信したGPS位置情報の存在位置が正しい(完全に信頼できる)と判定し、両円Ci、Cjの位置pi、pjが離れるにつれて受信したGPS位置情報の存在位置の信頼度が低下し、両円Ci、Cjが接しない程離れてしまうと受信したGPS位置情報の存在位置が誤り(全く信頼できない)と判定することを意味する。
【0030】
そして、GPS位置情報の受信間隔(例えば1秒間隔)で、直前の時刻の誤差範囲円Cjの位置pjを基準にしてつぎの時刻の予想存在可能円Ciを求めるとともに、その時刻に受信したGPS位置情報の存在位置に基づく誤差範囲円Cjを求め、両円Ci、Cjの位置pi、pjの一致度合いから、時々刻々に受信したGPS位置情報の存在位置の信頼度Rを判定する。
【0031】
ところで、上記の存在位置の判定精度を飛躍的に向上するため、本実施形態においては、推定した予想存在位置piと、受信した他の端末2の存在位置pjとが接近して一致度合いが高くなれば、つぎの時刻の誤差範囲円Cjを小さくしてGPS位置情報の存在位置の誤差範囲を小さくする。
【0032】
すなわち、時々刻々に受信して収集される他の車両V2の端末のGPS位置情報の存在位置は母集団からの標本抽出とみなすことができる。他の車両V2が移動すると、GPS位置情報の値(存在位置)は変化するが、同時に、他の車両V2の車速と進行方向の情報も取得することにより、受信した各時刻のGPS位置情報の値は、ある値を基準とした定位置の値に補正することが可能である。
【0033】
そして、他の車両V2のGPS位置情報の存在位置の現在時刻からみて過去の計測回数をnとし、Xを補正後の値(存在位置)とすると、各時刻の値Xとその平均値との差分の総和からつぎの数2の式(2)に示すように、前記母集団の分散値が推定可能であることが分かる。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、受信するGPS位置情報がマルチパスの影響を受け、分散値が突然変化することがあるため、nの値は大きくできないが、GPS位置情報の誤差(バラツキ)の目安にすることができる。
【0036】
そして、推定した予想存在位置piと、受信した他の端末2の存在位置pjとが、例えば設定したしきい値以上接近して一致度合いが高くなると、前記分散値は小さくなり、つぎの時刻の誤差範囲円Cjの半径を小さくすることが可能となる。
【0037】
そこで、この手順をくり返して例えば誤差範囲円Cjの半径を1mずつ小さくすると、マルチパスの影響がなくGPS位置情報の誤差(バラツキ)が少なく安定し、予想存在可能円Ciと誤差範囲円Cjの一致度が高くなる状況下では、誤差範囲円Cjは、時刻t1の初期には十分に大きな半径(例えば10mの半径)に設定しても、その後、次第にある一定の小さな半径(例えば1mの半径)の円に収束して固定されるようになる。
【0038】
図3は時刻t1、t2、…、t21、…の誤差範囲円Cs、Cjの上記の収束の一例を示し、実線は誤差範囲円Cs、Cjの位置ps、pjを時間順に繋いだ軌跡であり、点線は予想存在可能円Ciの位置piを時間順に繋いだ軌跡である。
【0039】
このようにすることで、マルチパスの影響がなくGPS位置情報の誤差(バラツキ)が少なく安定した走行環境下になる程、誤差範囲円Cjが小さくなって、車車間通信で受信した他の車両V2(図1の車両1b〜1d)のGPS位置情報に基づく他の端末2の存在位置の判定の信頼度Rが飛躍的に向上する。
【0040】
ところで、時刻t2の車両V2の端末の位置piを推定して予想存在可能円Ciを求める場合、車両V2の進行方向(移動方向)は重要なパラメータの一つであり、本実施形態の場合、単純に過去のGPS位置情報に基づく存在位置の平均や、舵角だけを用いて進行方向を決めるのではなく、まず、舵角の変化が少ない走行環境下における過去2時刻前と現在の3時刻のGPS位置情報に基づく存在位置の変化から進行方向を決定する。すなわち、前記3時刻の存在位置の変化方向が同じであれば、進行方向に変化がなく同じ方向に進行していると判断して進行方向を決定する。また、前記3時刻の存在位置の変化方向が異なるときは、後述の舵角の変化方向と大きく乖離していないことを条件として、最新の進行方向に決定する。つぎに、前記3時刻での進行方向の変化が舵角に対して設定値以上に大きくなるときは、GPS位置情報に基づく存在位置がマルチパスの発生等で乱れていると解釈し、それまでの安定していた状況下での進行方向を維持し続けるものとして進行方向を決定する。このようにすることで、位置piの軌跡はマルチパス等の影響が極力防止された軌跡になり、GPS位置情報の基づく他の端末2の存在位置がマルチパス等で乱れるときにも、移動方向の誤った決定を防止することが可能になり、判定の精度が飛躍的に向上する。
【0041】
つぎに、マルチパス等の影響を受けて予想存在可能円Ciの中心の位置piと誤差範囲円Cjの中心の位置pjが離れ、例えば図3の実線と点線の軌跡が乖離するようになると、上記の分散値が大きくなって広がると考えられるので、誤差範囲円Cjの半径を位置pi、pjの乖離状態に応じて大きくする。このとき、予想存在可能円Ciは前記したようにマルチパス等が発生してないときの小さな半径に固定され、多くの場合、予想存在可能円Ciの中に他の端末2が存在し、大きくなった誤差範囲円Cjは必ず予想存在可能円Ciを包含する。したがって、GPS位置情報の存在位置の誤差(バラツキ)が大きくなる場合にも、予想存在可能円Ciは誤差範囲円Cjの中に収まり、予想存在可能円Ciが他の端末2の予測される存在位置を保証するものとみなすことができる。
【0042】
そこで、マルチパス等の影響を受けて予想存在可能円Ciの中心の位置piから誤差範囲円Cjの中心の位置pjが設定値以上離れると、以降は、受信する他の車両の車速、進行方向に重きをおき、予想存在可能円Ciの位置piと、受信する他の車両の車速、進行方向に基づく移動のベクトルとに基づいて、つぎの時刻の予想存在可能円Ciを算出することをくり返し、誤差(バラツキ)が大きい受信するGPS位置情報の存在位置に代えて、予想存在可能円Ciの位置piを他の車両の端末2の推定位置とみなし、他の車両の端末2の存在可能な誤差範囲を位置pjを中心とする範囲から位置piを中心とする範囲に変更する。すなわち、他の車両の端末2が図3の点線の軌跡に沿って移動すると推定する。この場合、推定される位置piは予想予想存在可能円Ciの小さな円の中心位置になるので、マルチパス等の影響を受ける場合にも推定される存在位置の判定の信頼度Rは十分に高く維持される。
【0043】
図4はマルチパス等の影響を受けて予想存在可能円Ciの中心の位置piから誤差範囲円Cjの中心の位置pjが設定値以上乖離する図3の時刻t21の直後の時刻t22、t23の予想存在可能円Ci、誤差範囲円Cjの変化を示し、時刻t22、t23には他の車両の端末2の存在可能な誤差範囲を誤差範囲円Cjの位置pjを中心とする範囲から予想存在可能円Ciの位置piを中心とする範囲に変更する。なお、この変更を行なう場合、(2)式における半径rが、予想存在可能円Ciと誤差範囲円Cjとで異なることを考慮する必要がある。
【0044】
図5は例えば図1の少なくとも自車両1aの端末2が備える本実施形態の端末位置判定装置3の概略の構成を示し、31はGPS測位システムのGPS受信部であり、GPS位置情報及び関連するDOP(精度低下率)情報等を受信して出力する。32は例えば図1の他の車両1b〜1dの他の端末2と車車間通信(無線通信)で情報をやり取りする車車間通信部であり、本発明の受信手段を形成する。そして、本実施形態の場合、端末位置判定装置3を備えるか否かにかかわらず、車両1a〜1dの端末2は、車車間通信により、少なくとも、自己のGPS位置情報及び関連するDOP情報等、その端末2(換言すれば車両1a〜1dそれぞれ)の移動速度すなわち車速、進行方向(移動方向)の情報を、他の車両1a〜1dに送信する。なお、車速は例えば車速センサから得られ、進行方向は、前記したように例えば過去2時刻前と現在の3時刻のGPS位置情報に基づく存在位置の変化と舵角センサが検出する舵角から得られる。
【0045】
33は本発明の取得手段を形成する取得部であり、本実施形態の場合、車車間通信部32が受信した他の端末2の移動速度である車速及び進行方向の情報を取り込む。なお、より簡単には車速はGPS位置情報の存在位置の時間微分、進行方向はGPS位置情報の時間積分の走行軌跡の方向から得ることも可能である。
【0046】
34は本発明の推定手段を形成する推定部であり、車車間受信部32が受信した他の端末2のGPS位置情報の存在位置を基準にして、取得部33が取得した他の端末の移動速度及び進行方向から、上記した予想存在可能円Ciの位置piを算出して、つぎの時刻t2における他の端末2の存在位置(位置pi)を推定する。なお、つぎの時刻t2は、GPS位置情報の例えば1秒の受信間隔の時刻t2、t3、…を代表して示したものであり、以下同様である。
【0047】
35は本発明の誤差範囲設定手段を形成する誤差範囲設定部であり、推定部34が推定したつぎの時刻t2における他の端末2の存在位置(位置pi)と、つぎの時刻t2に車車間通信部32が受信した他の端末2のGPS位置情報に基づく存在位置(位置pj)との一致度合いが高くなる程、それ以降に車車間通信部32が受信する他の端末2のGPS位置情報に基づく存在位置(位置pj)の誤差範囲、すなわち、誤差範囲円Cjを小さくし、マルチパス等の影響がない走行環境下にあっては、例えば自車両1aのイグニッションキーがオンするエンジン始動時から、誤差範囲円Cjを次第に小さくする。
【0048】
36は本発明の判定手段を形成する判定部であり、予想存在可能円Ciが含まれる誤差範囲円Cjの大きさから、車車間通信部32が受信した他の端末2のGPS位置情報に基づく他の端末2の存在位置pjの信頼度Rを判定する。
【0049】
37は車速の情報を出力する車速センサ及び走行方向の情報に必要な舵角の情報を出力する舵角センサ等を有する自車両1aのセンサ部であり、少なくともそれらの情報がGPS受信部31のGPS位置情報とともに車車間通信部32から送信される。
【0050】
そして、判定部3の判定結果に基づき、自車両1aの端末2は例えば図3、図4に示したような他の車両1b〜1dの端末2(実際には他の車両1b〜1d)それぞれの存在位置の軌跡を把握して他の車両1b〜1dの挙動を監視する。このとき、マルチパスが発生したりして、誤差範囲円Cjの位置pjが大きな誤差を生じ、判定結果の信頼度Rが大きく低下すると、上記したように、誤差範囲円Cjの位置pjに代えて予想存在可能円Ciの位置piを他の車両1b〜1dの端末2(実際には他の車両1b〜1d)それぞれの存在位置として他の車両1b〜1dの挙動を監視する。
【0051】
ところで、端末位置判定装置3の各部はマイクロコンピュータにより形成され、マイクロコンピュータが設定された車車間通信、推定処理、判定処理等を行なう。
【0052】
図6は端末位置判定装置3の処理手順の一例を示し、例えば自車両1aのイグニッションキーがオンしてエンジンが始動すると、車車間通信部32が他の端末2のGPS位置情報等を受信する毎に(ステップS1のYES)、取得部33によりそのときの他の端末2の移動速度(車両1b〜1eの車速)及び進行方向の情報を取得し(ステップS2)、推定部34により他の端末2のつぎの時刻t2の予想存在可能円Ciの位置pi及び誤差範囲円Cjの位置(存在位置)pjを推定する(ステップS3)。さらに、誤差範囲設定部35により、位置pi、pjの一致度合いに基づいて誤差範囲Cjの半径を小さくし(ステップS4)、判定部36により誤差範囲Cjから他の端末2の存在位置pjの信頼度Rを判定する(ステップS5)。そして、これらの処理を例えばイグニッションキーがオフするまでくり返す。なお、他の端末2は図1の走行環境下では他の車両1b〜dの複数の端末2になる。
【0053】
したがって、本実施形態の場合、他の端末2のつぎの時刻t2の予想存在可能円Ciの位置piと、つぎの時刻t2に受信したGPS位置情報に基づく位置pjとの一致度合いが高くなる程、他の端末2の存在位置の誤差範囲Cjの半径を小さくすることにより、マイクロコンピュータのソフトウェア処理により、低コストに車車間通信で受信する他の車両1b〜cの端末2のGPS位置情報に基づく存在位置の信頼度Rの判定精度を向上することができる。
【0054】
その際、出会い頭の衝突回避が最も望まれる他の車両1b〜1dに搭載されている他の端末2の移動方向(他の車両1b〜1dの進行方向)を、複数時刻のGPS位置情報に基づく存在位置の移動変化と舵角とに基づいて決定するため、GPS位置情報に基づく存在位置の移動方向の変化が実際の舵角に対して大きく、GPS位置情報に基づく存在位置がマルチパス等で乱れているようなときにも、他の端末2の移動方向の誤った決定を防止することが可能になり、判定の精度が一層向上する。
【0055】
さらに、マルチパス等の影響を受けて予想存在可能円Ciの中心の位置piから誤差範囲円Cjの中心の位置pjが設定値以上離れると、以降は、受信する他の車両1b〜1dの車速、進行方向に重きをおき、予想存在可能円Ciの位置piと、受信する他の車両の車速、進行方向に基づく移動のベクトルとに基づいて、つぎの時刻の予想存在可能円Ciを算出することをくり返し、誤差(バラツキ)が大きい受信するGPS位置情報の存在位置に代えて、予想存在可能円Ciの位置piを他の車両の端末2の推定位置とみなし、他の車両の端末2の存在可能な誤差範囲を位置pjを中心とする範囲から位置piを中心とする範囲に変更するため、マルチパス等の影響を受ける場合にも推定される存在位置の判定の信頼度Rを十分に高く維持することができる。
【0056】
ところで、他の車両1b〜1dの端末2にも図5の構成の端末位置判定装置3を設ければ、他の車両1b〜1dにおいても、同様にして他の車両1a〜1dの端末2(実際には他の車両1a〜1d)それぞれの存在位置の軌跡を把握して他の車両1a〜1dの挙動を監視することができる。
【0057】
また、前記実施形態においては、他の端末2が他の車両1b〜1dに搭載され、車車間通信でGPS位置情報等をやり取りする場合に適用したが、例えば図1の交差点周辺を通行する歩行者が他の車両1b〜1dの端末2と同様のGPS受信機能と歩車間通信機能を有する携帯型の端末(他の端末)を備え、歩車間通信で自車両1が歩行者の端末(他の端末)についても、存在位置の軌跡を把握して歩行者の挙動を監視するようにすることも可能である。
【0058】
図7は歩行者が前記の携帯型の端末を携帯して通行する際に、歩行者の他の端末との歩車間通信で自車両1aが受信する歩行者の端末の時々刻々のGPS位置情報に基づく歩行者の存在位置の変化例を示し、図中の4は道路5沿いのビル、6は歩行者が通行するビル4に沿った歩道である。そして、歩行者が歩道6を通行しているにもかかわらず、歩車間通信で受信する時々刻々のGPS位置情報に基づく誤差範囲円の中心の位置を時間順に繋いだ軌跡は、実線γに示すようにマルチパス等の影響を受けてビル側や道路側に歩道からずれる。この場合も、GPS位置情報に基づく誤差範囲円を、その中心の位置と予想存在可能円の中心の位置との一致度が高くなる程小さくすることで前記実施形態と同様の効果が得られ、誤差範囲円の中心の位置がマルチパス等の影響を受けてビル側や道路側に歩道からずれるときには、予想存在可能円の中心の位置に変更して歩行者の端末の位置を推定することで、マルチパス等の影響を受けることなく歩行者の挙動を精度よく監視できる。
【0059】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能であり、例えば、取得部34は、車速(歩車間通信の場合は歩行速度)、車両や歩行者の進行方向(移動方向)以外の走行(歩行)に関する種々の情報を取得するようにしてもよい。
【0060】
つぎに、衛星を利用した存在位置の情報は、GPS位置情報以外の情報である場合にも本発明を適用できるのは勿論である。
【0061】
また、端末位置判定装置3の各部31〜37の構成等はどのようであってもよい。
【0062】
そして、本発明は、車車間通信、歩車間通信を行なう種々の車両の端末の端末位置判定装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1a 自車両
1b〜1d 他の車両
2 端末
3 端末位置判定装置
31 GPS受信部
32 車車間通信部
33 取得部
34 推定部
35 誤差範囲設定部
36 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星を用いて他の端末が検出した該他の端末の存在位置の情報を受信する受信手段と、前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置を判定する判定手段とを備えた端末位置判定装置であって、
少なくとも前記他の端末の移動速度及び進行方向の情報を取得する取得手段と、
前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置を基準にして、前記取得手段が取得した前記他の端末の移動速度及び移動方向から、つぎの時刻における前記他の端末の存在位置を推定する推定手段と、
前記推定手段が推定した前記つぎの時刻における前記他の端末の存在位置と、前記つぎの時刻に前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置との一致度合いが高くなる程、前記受信手段が受信する前記他の端末の存在位置の誤差範囲を小さくする誤差範囲設定手段とを備え、
前記判定手段により、前記受信手段が受信した前記他の端末の存在位置の前記誤差範囲から前記他の端末の存在位置を判定することを特徴とする端末位置判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の端末位置判定装置において、
前記他の端末は車両に搭載され、
前記推定手段は、複数時刻の前記他の端末の存在位置の移動変化と前記車両の舵角とに基づいて前記移動方向を決定することを特徴とする端末位置判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−234244(P2012−234244A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100434(P2011−100434)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】