説明

竹材含有糸、および布帛

【課題】吸湿性が高い上、着用した際にひんやりとした涼しい感じが得られる衣類を製造することが可能な糸、布帛を提供する。
【解決手段】竹材を解繊してなる繊維を含有する竹材含有糸である。竹材を伐採し、水分を含ませた後に加圧ローラによって粗解繊してから、分解酵素によって竹材に含まれるペクチンを程良く分解することによって細かく解繊し、不純物を除去するとともに、一定の繊維長に揃えることによって、綿状の竹繊維が得られる。得られた竹繊維50重量%と綿50重量%とを混合して、紡績した後に撚りをかけることによって、竹材を含有した好ましい混紡糸が製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹材を利用した繊維および布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吸湿性の良好な衣類や寝具としては、綿(コットン)からなる糸を用いたものが知られている。また、綿糸のみからなる衣類は強度に劣り、洗濯後に皺が入り易いという欠点を有しているため、綿繊維とポリエステル繊維とを混紡した糸からなる衣類も利用される。さらに、引用文献1の如く、綿とウールを所定の比率に混合して紡績した糸からなる衣類も知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−302838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、綿をポリエステル等の化学繊維と混紡すると、洗濯後に皺が入りにくくなるものの、吸湿性が悪くなってしまう。また、綿糸のみからなる衣類も綿糸と化学繊維との混紡糸からなる衣類も、高温度下に曝された後に着用すると暑苦しい感じがする、という不具合がある。一方、綿とウールとを混紡する方法では、安価な衣類を製造することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、上記従来の衣類の問題点を解消し、吸湿性が高い上、着用した際にひんやりとした涼しい感じが得られる衣類を製造することが可能な糸、布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明の構成は、竹材を解繊してなる繊維を含有していることを特徴とする竹材含有糸にある。
【0007】
請求項2に記載された発明の構成は、請求項1に記載された発明において、竹材からなる繊維を構成する各組織の断面が略楕円形状になっており、長径の平均値が20μm以上70μm未満に調整されていることにある。
【0008】
請求項3に記載された発明の構成は、請求項1、または請求項2に記載された発明において、竹材からなる繊維が、少なくとも一種以上の分解酵素を利用して解繊されたものであることにある。
【0009】
請求項4に記載された発明の構成は、請求項1〜3のいずれかに記載された発明において、竹材からなる繊維が30重量%以上混合されていることにある。
【0010】
請求項5に記載された発明の構成は、請求項1〜4のいずれかに記載された発明において、綿繊維が50重量%以上混合されていることにある。
【0011】
請求項6に記載された発明の構成は、請求項1〜5のいずれかに記載された竹材含有糸によって製織された布帛にある。
【0012】
本発明で使用する竹材は、日本で生育したものに限定されず、中国や東南アジアの諸国等で育成した竹材をも好適に用いることができる。また、真竹、孟宗竹、黒竹、篠竹、蓬莱竹、支那竹等の各種の竹を好適に用いることができるが、真竹、孟宗竹を用いると、繊維が強靱なものとなり、吸湿性が良好なものとなるので好ましい。
【0013】
竹材からなる繊維を解繊する際に、繊維を構成する各組織が十分に細くなるまで解繊すると、各組織の断面が略楕円形状になるが、その楕円の長径の平均値が20μm以上70μm未満となるように調整することによって、高い吸湿性と、良好な肌触りを発現させることが可能となる。なお、楕円の長径の平均値が20μm未満であると竹材含有糸の強度が低下するので好ましくなく、反対に楕円の長径の平均値が70μm以上になると高い吸湿性と、良好な肌触りが得られなくなるので好ましくない。
【0014】
竹材を解繊する際には、後述する分解酵素で解繊する前に、予備的な解繊(粗解繊)をするのが好ましい。かかる粗解繊の方法としては、所定期間(たとえば、約72時間)に亘って、水、あるいは苛性ソーダ、ホウ酸等を添加した水に浸漬させたり、軟化剤の中に浸漬させたり、加圧した水蒸気中に曝したりして、竹材に十分に水分を含有させた後に、加圧した一対のローラ間を通過させる方法等を挙げることができる。かかる方法によれば、竹材を短時間の内に非常に効率良く軟化させることが可能となる。
【0015】
そして、上記の如く粗解繊された竹材を、分解酵素を用いて軟化させる(竹材に含まれるペクチン等をある程度分解することによって解繊する)ことによって、竹材が本来有する堅牢さを取り除き、柔らかい綿状の繊維を得ることが可能となる。かかる分解酵素としては、酸化酵素、還元酵素、酸化還元酵素等を用いることができ、特に、セルロース、リグニンやペクチン等の竹材の有する成分を分解する機能を有するセルラーゼ、ターオキシダーゼやペクチターゼを好適に用いることができる。なお、分解酵素の添加量は、竹材の種類や性質に応じて適宜調整することができ、また、使用する分解酵素の種類に応じて、加熱温度等の条件を調整するのが好ましい。さらに、分解酵素によって解繊された竹材は、水等によって洗浄するのが好ましく、場合によっては、漂白することも可能である。
【0016】
また、本発明に係る竹材含有糸は、竹材を解繊してなる繊維のみからなるものでも良いし、綿や麻、羊毛等の天然繊維や、ポリエステル、アクリル、レーヨン等の合成繊維と混紡することも可能である。なお、綿等の吸湿性の高い繊維と混紡すると、竹材を解繊してなる繊維の高い吸湿性が損なわれないので好ましい。なお、混紡する際には、竹材からなる繊維の含有率が30重量%以上であると、竹材からなる繊維の高い吸湿性が阻害されないので好ましい。加えて、綿(コットン)と混紡する際には、綿の含有率が50重量%以上であると、綿繊維の高い吸湿性との相乗効果により混紡糸、布帛の吸湿性が一段と向上するので好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の竹材含有糸、布帛によれば、吸湿性が高い上、ひんやりとした涼しい着心地を有する衣類や寝具を、安価かつ容易に製造することができる。それゆえ、本発明の竹材含有糸、布帛は、浴衣等の夏用の衣類や夏用の寝具に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る竹材含有糸および布帛の一実施形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
[竹繊維の製造]
所定の長さまで成長した孟宗竹を伐採し、先端の部分を切り取るとともに、剥皮機によって表皮の部分を取り除いた。そして、それらの竹片を、縦方向に所定個数に分割した後、約72時間に亘って、苛性ソーダを添加した水中に浸漬させることによって、竹片を軟化させた。次に、軟化した竹材を、加圧した一対のローラ間に通すことによって、竹材を粗解繊した。しかる後、それらの粗解繊された竹片を、分解酵素であるペクチターゼを添加した水中に約8時間に亘って浸漬させることにより、竹材に含まれるペクチンを程良く分解することによって、十分に解繊した。なお、かかる軟化処理においては、ペクチターゼの活性を高めるために水温を約50℃に調整した。
【0020】
そして、十分に解繊させた竹材を洗浄し、不要なペクチンの残査等の不純物を除去するとともに、一定の繊維長に揃えることによって、綿状の竹繊維を得た。得られた竹繊維の断面の顕微鏡写真(約300倍)を図1に示す。かかる顕微鏡写真から、竹繊維を構成する各組織の断面は、略楕円形(中空の楕円形)になっていることが分かる。また、図1の顕微鏡写真から画像解析によって竹繊維を構成する各組織の平均長径を測定したところ、約45μmであった。
【0021】
[竹材含有糸の製造]
上記の如く得られた竹繊維50重量%と綿(コットン)50重量%とを混合して、紡績した後に撚りをかけることによって、12番手で撚り数が500T/mの混紡糸(竹材含有糸)を得た。
【0022】
[布帛の製造]
しかる後、上記の如く得られた竹材含有糸を、経糸と緯糸とに用いて、経糸密度60本/inch、緯糸60本/inchとなるように製織することによって、布帛(織布)を製造した。しかる後、その布帛を通常の方法で染色した後、その染色された布帛を縫製することによって実施例1の浴衣を得た。
【0023】
[着用試験]
上記の如く得られた浴衣を1日間に亘って着用し、吸湿性、肌触りについて以下の3段階で官能評価した。評価結果を表1に示す。
◎:きわめて良好
○:良好
△:不良
【0024】
また、上記の如く得られた浴衣を温度25℃湿度65%RHの雰囲気下に約5時間放置した後に着用した際のひんやり感について、以下の3段階で官能評価した。評価結果を表1に示す。
◎:非常にひんやりとした感じがする
○:ややひんやりとした感じがする
△:ひんやりとした感じがしない
【実施例2】
【0025】
実施例1と同様にして得られた竹繊維50重量%と綿30重量%とポリエステル繊維(約1.3デニールのステープル)20重量%とを混合し、実施例1と同様な紡績工程によって、12番手で撚り数が500T/mの混紡糸を得た。しかる後、その混紡糸を実施例1と同様に製織し、その布帛を実施例1と同様に染色して縫製することによって実施例2の浴衣を得た。そして、実施例1と同様の方法によって、得られた実施例2の浴衣の吸湿性、肌触り、ひんやり感を官能評価した。評価結果を表1に示す。
【0026】
[比較例]
実施例1と同様な綿50重量%とポリエステル50重量%とを混合し、実施例1と同様な紡績工程によって、12番手で撚り数が500T/mの混紡糸を得た。しかる後、その紡績糸を実施例1と同様に製織した後、その布帛を実施例1と同様に染色して縫製することによって、比較例の浴衣を得た。そして、実施例1と同様の方法によって、得られた比較例の浴衣の吸湿性、肌触り、ひんやり感を官能評価した。評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から、実施例1,2の浴衣は、吸湿性に優れており、肌触りが良好であるとともに、着用した際にひんやり感があることが分かる。これに対して、比較例の浴衣は、肌触りが良好であるものの、吸湿性がやや不良であり、着用した際にひんやり感がないことが分かる。
【0029】
なお、本発明の竹材含有糸、布帛の製造方法は、上記各実施例の形態に何ら限定されるものではなく、粗解繊の方法、分解酵素を用いた解繊の方法等を、必要に応じて適宜変更することができる。本発明の竹材含有糸、布帛を用いた衣類の製造方法も、上記各実施例の形態に何ら限定されるものではなく、混紡の方法、製織、製編の方法等を、必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の竹材含有糸および布帛は、上記の如く優れた機能を有するものであるので、衣類や寝具、特に夏用の衣類や寝具の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】竹繊維の断面の顕微鏡写真(約300倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹材を解繊してなる繊維を含有していることを特徴とする竹材含有糸。
【請求項2】
竹材からなる繊維を構成する各組織の断面が略楕円形状になっており、長径の平均値が20μm以上70μm未満に調整されていることを特徴とする請求項1に記載の竹材含有糸。
【請求項3】
竹材からなる繊維が、少なくとも一種以上の分解酵素を利用して解繊されたものであることを特徴とする請求項1、または請求項2に記載の竹材含有糸。
【請求項4】
竹材からなる繊維が30重量%以上混合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の竹材含有糸。
【請求項5】
綿繊維が50重量%以上混合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の竹材含有糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された竹材含有糸によって製織、製編されていることを特徴とする布帛。

【図1】
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【公開番号】特開2006−152503(P2006−152503A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−347004(P2004−347004)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(399124303)丸糸株式会社 (3)
【Fターム(参考)】