説明

第一級アミンによる核酸からのウイルス及び/又はタンパク質の分離

【課題】陰イオン交換体を使用して、DNAからウイルスやタンパク質などの生体分子を効果的かつ選択的に分離する方法の提供。
【解決手段】1種以上の生体分子及びDNAを含む試料の精製方法であって、次の工程:該試料を、1種以上のイオン調節剤が随意に1種以上の1価の塩と共に存在した状態で、表面に1種以上の重合第一級アミン又はその共重合体が形成された多孔質基材を備える陰イオン交換体に導入することによって、該試料を精製し;そして、該生体分子を含有しDNAを含まない該精製試料を集めることを含む、前記精製方法を提供する。上記イオン調節剤は、ウイルスやタンパク質のpIよりも高いpHにおいて、DNAなどの高荷電種に対するかなりの結合能力を保持するが、ウイルスやタンパク質などの低荷電種に対する結合能力を部分的に又はほとんど全て失うように、第一級アミンの結合能力を改変する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2010年4月20日出願の米国仮出願第61/325,954号について優先権を主張する。その開示を引用により本明細書に含める。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は、第一級アミンにより核酸からウイルス及び/又はタンパク質を分離することに関する。
【0003】
強力な陰イオン交換体、例えば、第四級アンモニウムイオンを基材とするものは、例えば、生体液、特に生物治療製品の溶液などの流体中に存在するエンドトキシン、ウイルス、核酸及び宿主細胞タンパク質(HCP)といった負に荷電した大きな不純物を捕捉するための仕上げ用媒体として、下流の処理で使用されている。従来、陰イオン交換体は、ビーズ形態(例えばGEヘルスケア・バイオサイエンスABから入手できるQ Sepharose(商標))で提供され、使用されてきた。しかしながら、ビーズを主体とする系の処理量の限界により、不純物を効果的に捕捉するのには大きな容量のカラムが必要となる場合が多い。
【0004】
膜を主体とするクロマトグラフシステム(メンブランソーバーとも呼ばれる)は、対流膜の細孔に直接結合したリガンドを有し、それによって物質移動に及ぼす内部細孔の拡散の影響を最小限に抑えている。さらに、膜細孔径分布がタイトな微多孔膜を効果的な流れ分配器と共に使用すると、軸方向分散が最小化され、しかも全ての作用部位を均一に使用できるようになる。その結果として、メンブランソーバー媒体の物質移動速度は、標準的なビーズ系クロマトグラフィー媒体の物質移動速度よりも一桁大きく、高い効率と高い流量の分離との両方を可能になる。単一膜又はさらには積層膜は、ビーズ系媒体が詰め込まれたカラムと比較して非常に薄いため、クロマトグラフ床に沿って圧力降下の減少が見出され、それにより流量と生産性の増加が可能となる。必要な結合能力は、十分な内部表面積の膜を使用し、非常に大きな直径対高さ比(d/h)の装置構成とすることによって達成される。
【0005】
適切に設計されたメンブランソーバーは、標準的な分離用ビーズ系樹脂よりも10〜100倍良好なクロマトグラフィー効率を有する。その結果、メンブランソーバーで同じ分離レベルを達成するために、10倍低い床高さを使用することができる。メンブランソーバーについては、1〜5mmの床高さが標準的であるのに対し、ビーズ系のシステムについては10〜30cmの床高さが標準的である。大容量メンブランソーバーに必要な最大カラムアスペクト比のためには、装置デザインが極めて重要である。メンブランソーバーに関連する固有の性能の利点を維持するためには、利用可能な膜容量を効率的かつ効果的に利用するのに適切な入口及び出口分配器が必要となる。この用途にとっては、メンブランソーバー技術が理想的である。
【0006】
メンブランソーバーは、溶液がその細孔中を流れるときに、該溶液の成分のいくつかを除去する(吸着する及び/又は吸収する)ことのできる、非常に多孔質の連続媒体である。メンブランソーバーの特性及び必要な用途でよく機能するその能力は、媒体(骨格)の多孔質構造のみならず溶液にさらされる表面の性質にも依存する。典型的には、多孔質媒体は、まず、水に溶解せず又は水で膨張せず、かつ、許容できる機械的性質を有する重合体から形成される。多孔質媒体は、好ましくは、当該技術分野において周知の相分離方法によって作製された多孔質膜シートである。例えば、Zeman LJ,Zydney AL,Microfiltration and Ultrafiltration: Principles and Applications,New York:Marcel Dekker,1996を参照されたい。また、中空繊維及び管膜も許容できる骨格である。形成された多孔質構造の外面又は表面及び内部細孔表面を、必要な吸着性を付与するように改質するには、通常、分離処理工程が必要となる。膜構造は、疎水性重合体から形成される場合が多いので、この表面改質工程の別の目的は、表面を親水性にする又は加湿性にすることでもある。
【0007】
膜の外面又は表面及び内部細孔表面を改質する多数の方法が存在する。当業者であれば、吸着、プラズマ酸化、その場フリーラジカル重合、グラフト及び被覆を含む典型的な方法が容易に分かるであろう。これらの方法の大部分は、膜表面に単分子層様構造を形成するところ、これらは、大体の場合、親水性にするという目的を達成するものの、依然として許容できる吸着性、例えば吸着物に対する高い能力を付与することができていない。この能力は、所定の媒体容量によって保持され得る吸着物の量(重量)であると定義される。吸着が全て膜表面上で起こる限り、その能力は、膜の表面積によって制限される。それらの性質によって、微多孔膜は、クロマトグラフィービーズと比較して低い表面積を有する。表面積を増大させる方法の一つは、細孔径を減少させることであるが、これは明らかに流量のかなりの損失を招く。例えば、0.65μmポリエチレン膜(米国マサチューセッツ州ビルリカのインテグリス社)上でのタンパク質の最大(単分子層)吸着は、表面相互作用の種類にかかわらず、約20mg/mLである。これは、例えば、約80mg/mLの典型的な容量を有するアガロースクロマトグラフィービーズよりも有意に少ない。
【0008】
吸着を促進させる表面相互作用の種類は、所定のメンブランソーバー物質を使用する特定の出願によって定義される。例えば、米国同時係属出願第12/221496号には、モノクローナル抗体(MAB)の溶液からウイルス、核酸、エンドトキシン及び宿主細胞タンパク質(HCP)を除去する高容量高親和性ソーバーが開示されている。これらの不純物は、MABよりも低い等電点を有する傾向があるが、これは、所定のpHでは、不純物は負に荷電するのに対し、MABは正に荷電することを意味する。陰イオン交換体、すなわち、正電荷を有しかつ陰イオンを引き付ける媒体は、これらの不純物を除去するために必要である。第一級、第二級及び第三級アミン並びに第四級アンモニウムイオン塩を含め、多数の化学部分が水溶液中で電荷を有する。アミンは11よりも低いpHでは正に荷電しているのに対し、アンモニウムイオン塩は全てのpHで正電荷を保持するため、これらの基は、一般に、それぞれ弱陰イオン交換体及び強陰イオン交換体と呼ばれている。
【0009】
陰イオン交換膜は、様々な不純物及び汚染物を引き付けて保持する、正に荷電した多数の結合部位を有する。除去できる可能性のある不純物の量は、膜上にあるこれら結合部位の濃度に応じ、また、リガンドの化学的性質(並びにこれらのリガンドの濃度)は、様々な不純物に対する結合の強さ(結合力)に関与する。高い結合力は、不純物、例えば宿主細胞タンパク質の除去を増大させるための重要な特質である。また、結合力(SB)は、結合した不純物を溶離させるのに必要な溶液のイオン強度にも関連がある。メンブランソーバーのSB(伝導度ユニットで測定、mS/cm)は、次の通りに決定される。まず、少量の吸着質溶液をメンブランソーバーに通し、それによりこの吸着質がメンブランソーバーに結合する。次に、このメンブランソーバーを塩化ナトリウムなどの無機塩の増加勾配で溶離させる。吸着質を溶離させるのに必要な溶離液の最小伝導度を記録し、そしてこれをそのメンブランソーバーのSBと定義する。ソーバーの結合力を増大させることで、負に荷電した不純物をメンブランソーバーに不可逆的に結合させ、それによって除去効率を有意に向上させることができる。この高い結合力は、ウイルスやDNAといった負に荷電した不純物に非常に高い塩濃度で結合することのできる能力につながる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Zeman LJ,Zydney AL,Microfiltration and Ultrafiltration: Principles and Applications,New York:Marcel Dekker,1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ワクチン産業では、ワクチンに使用されるウイルスやタンパク質は可能な限り純粋であることが必須であるため、核酸(特にDNA)などの不純物からウイルスを精製することが望ましい。クロマトグラフィーをフロースルーモードで使用してこのような精製を実施するためには、DNAが膜に結合すると共に、ウイルス/タンパク質が膜を通過することが必要である。陰イオン交換クロマトグラフィーを使用してこれを達成するためには、通常、供給物のpHがウイルスやタンパク質のpI(約5.5以下の場合が多い)よりも低くなければならないが、これは、これらの生体分子の不安定化と不活性化をもたらす可能性がある。
【0012】
これらのことから、媒体を備えるフロースルー陰イオン交換体を使用して、例えばDNAからウイルスやタンパク質を効果的かつ選択的に当該媒体により分離する方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
従来技術の問題は、ポリアリルアミンのような第一級又は第二級アミンリガンドなどの重合体が上部に形成された表面を有する膜を備える陰イオン交換体を使用して、核酸、特に宿主細胞DNAからウイルス及び他のタンパク質などの生体分子を除去することを提供する本発明によって解決された。微多孔膜の結合能力を、ウイルス又はタンパク質のpIよりも高いpHで、DNAなどの高電荷種に対する著しくかつ効果的な結合能力を選択的に保持すると共にウイルスやタンパク質などの荷電種に対してはそれらの結合能力を実質的に全て失うように調節する方法を説明する。その結果として、ウイルス/タンパク質などの生体分子のpIよりも高いpHでは該生体分子がこの装置を通過すると共にかなりのDNAの結合を維持するように条件を設定することで、DNAから該生体分子が効果的に除去される。
【0014】
所定の実施形態では、外部細孔表面及び内部細孔表面の全体は、緩く架橋したヒドロゲルにより形成される。このヒドロゲルの湿った(膨潤した)厚さは、約50〜100nmである。重合第一級アミン及び第二級アミン、好ましくは重合体骨格に共有結合した第一級アミンを有する脂肪族重合体、より好ましくは少なくとも1個の脂肪族基、好ましくはメチレン基により重合体骨格に共有結合した第一級アミンを有する脂肪族重合体、の結合能力は、1種以上のイオン調節剤を単独で又は1価の塩と共に含む又はそれ若しくはそれらからなる緩衝液で調節される。
【0015】
イオン調節剤は、1個よりも多いイオン性基を有し、かつ、膜上の第一級アミン基と強く相互作用し及び/又は生体分子と強く相互作用し、該生体分子が膜表面に結合しないようにすることのできる、及び/又は同様に荷電した2個以上のイオン基又はイオン分子間に弱い若しくは強い架橋を形成することのできる分子であると定義される。これらの分子としては、ホスフェート、スルフェート又はボレートなどの多価イオン又は塩及びシトレート、エチレンジアミン四酢酸、ポリアクリル酸などのポリイオン分子が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分子は、それらの酸、塩基又は塩の形態で使用できる。1価の塩とは、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、沃化ナトリウムなどの単一のイオン化を有する塩のことである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図面の簡単な説明
【図1】図1は、所定の実施形態に従う吸着体のフロースルー流れでのFlu−A滴定濃度とDNA濃度とのグラフである。
【図2】図2は、所定の実施形態に従う吸着体のフロースルー流れでのFlu−A滴定濃度のグラフである。
【図3】図3は、所定の実施形態に従う吸着体のフロースルー流れでのDNA濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特定の実施形態の詳細な説明
ここで開示する実施形態は、多孔質の自立型基材上に多孔質重合体が形成された多孔質クロマトグラフィー又は吸着媒体を伴う精製方法に関する。この媒体は、1種以上のイオン調節剤、例えば、様々な濃度のホスフェート、シトレート、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、スクシネート、硫酸アンモニウムイオン、硫酸ナトリウム、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)、グルタメート、トリポリホスフェート、ポリアクリル酸などの高分子電解質、スチレンスルホン酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤(単独で又は他の緩衝液中の添加剤として使用される)の存在下で、ウイルスからDNAなどの種を確実に除去するのに適している。
【0018】
多孔質基材は、この基材の幾何学的又は物理的構造に関連する2つの表面を有する。シートは頂部表面及び底部表面を有し、或いは第1表面及び第2表面を有する。これらは、一般に「面」と呼ばれている。使用中に、流体は、一方の面(表面)から基材を通して他方の面(表面)に流れる。中空繊維及び管膜については、内部表面及び外部表面が存在する。デザイン及び用途に応じて、流れは内部から外部に(又はその逆)に進む。
【0019】
2つの表面間の厚みの特徴は多孔質である。この多孔質領域は、それらの細孔と関連した表面積を有する。用語「表面」若しくは「表面積」又は同様の用法に関連する混乱を避けるために、本発明者は幾何学的表面を外面若しくは外部表面又は面と呼ぶものとする。細孔に関連する表面積を内部又は多孔質表面積と呼ぶものとする。
【0020】
多孔質材料は、空隙である細孔と、該材料の物理的具象を構成する固体マトリックスとを備える。例えば、不織布では、ランダムに配向した繊維がマトリックスを構成し、該不織布を形作る。重合体微多孔膜では、相分離重合体がマトリックスを与える。ここで、本発明者は、媒体の表面を被覆する又は覆うことについて議論する。これは、内部表面及び外部表面が、細孔を完全に塞ぐように、すなわち、対流のためにその構造のかなりの割合を保持するように被覆することを意味する。特に、内部表面積について、被覆とは、細孔のかなりの割合を開いた状態に保持しつつ、そのマトリックスを被覆し又は覆うことを意味する。
【0021】
吸収とは、吸収性材料本体への浸透によって物質を取り込むことをいう。吸着とは、分子がバルク相から吸着性媒体の表面に移動することをいう。収着とは、吸着と吸収の両方を包含する一般的な用語である。同様に、ソーバーとしてここに示される吸着性材料又は吸着装置とは、吸着しかつ吸収する材料又は装置をいう。
【0022】
多孔質基材は、吸着性ヒドロゲルのための支持骨格としての役割を果たす。この基材は、堅牢でかつ一体型の装置の取り扱い及び製造に適しているはずである。細孔構造は、均一な流量分布、高いフラックス及び高い表面積を提供する。この基材は、繊維、織物、不織布、マット、フェルト若しくは膜などのシート又は1個以上のビーズであることができる。好ましくは、基材は、織物若しくは不織布から形成されたシート又は膜である。
【0023】
繊維は、任意の長さ、直径のものであってよく、また、中空又は中実であってもよい。これらは、基材として互いに結合してはいないが(とはいえ、被覆の適用後に単一構造に形成され得る)、それぞれ別々の実体である。これらは、中間の長さの糸やモノフィラメントなどの連続長の状態であることができ、或いは、これらは、結晶成長法などにより形成された不織布や織物などの繊維材料を切断し、連続長繊維を個々の断片に切断することによって作られた短い個々の繊維の状態であることができる。
【0024】
不織布は、繊維又はフィラメントを熱により又は化学的に絡ませることによって互いに結合した別個の繊維から直接作られた平坦な多孔質シートである。典型的には、不織布の製造者は、1〜500ミクロンの平均流孔径(MFP)評価を有する媒体を提供する。不織布について、その多孔質構造は絡み合った繊維であり、そして、多孔性とは、繊維間の曲がりくねった空間をいう。多孔性は、フェルト状繊維についても同様の意味を持つ。好ましい不織布は、米国マサチューセッツ州ローウェルのFreudenberg Nonwovens NAによるものであり、型式はFO2463である。
【0025】
織物は、たて織及びよこ織を互いに対して所定の角度の規則的なパターン又は織り方で織編することによって製造される。典型的には、横糸は縦糸に対して約90度の角度である。一般に使用されている別の角度としては、30、45、60及び75度が挙げられるが、これらに限定されない。繊維の完全性は、製織プロセスによって生じる繊維の機械的連動によって維持される。ドレープ(繊維が複雑な表面に適合する能力)、表面平滑性及び繊維の安定性は、主として、平織り、綾織り、サテン、バスケット織り、絡み織りなどのような織り方により制御される。この場合、基材多孔性は、繊維間の空間であり、そしてさほど曲がりくねっていない性質である。
【0026】
また、基材は、ガラス、プラスチック、セラミック及び金属を含めた様々な材料からも形成できる。
【0027】
ホウケイ酸ガラスが好適なガラスの一例である。このものは、繊維又はガラスマットとして成形できる。
【0028】
さらに一般的なシリケート化学物質やイットリウム、ジルコニア、チタンなどの特殊な化学物質及びそれらのブレンドを主成分とするセラミックを使用することができる。これらは、繊維、マット、フェルト、モノリス又は膜に成形できる。
【0029】
ステンレススチール、ニッケル、銅、鉄その他の磁性金属及び合金、パラジウム、タングステン、白金などの金属を、焼結ステンレススチール又はニッケルフィルター、編みスクリーン及び不織布マット、織物及びフェルト、例えばステンレススチールウールなどの繊維、焼結シート及び構造物を含めた様々な形態にすることができると考えられる。
【0030】
好ましい基材は、合成又は天然重合体材料から作られる。この用途にとっては、熱可塑性物質が有用な重合体の部類である。熱可塑性物質としては、ポリオレフィン、例えば、ポリエチレン(超高分子量ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、層状ポリエチレン/ポリプロピレン繊維、PVDF、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリレート、スチレン系重合体及び上記のものの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。他の合成材料としては、セルロース、エポキシ、ウレタンなどが挙げられる。
【0031】
好適な基材としては、微細孔ろ過膜、すなわち約0.1〜約10μmの細孔径を有するものが挙げられる。基材材料は、親水性又は疎水性であることができる。親水性基材材料の例としては、多糖類及びポリアミド、並びに表面処理親水性多孔質膜、例えばDurapore(商標)(米国マサチューセッツ州ビルリカのミリポアコーポレイション)が挙げられるが、これらに限定されない。疎水性材料の例としては、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート及びポリメタクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。多孔質構造は、この基材材料から、当業者に知られている任意の方法、例えば、液相逆転法、温度誘発相分離法、乾式相転換法、トラックエッチ法、延伸法、焼結法、レーザー穴開け法などによって創り出される。本発明の普遍的特質のため、多孔質構造を創り出すために利用可能なあらゆる方法が、メンブランソーバーのための支持骨格を作製するのに好適である。超高分子量ポリエチレンから作られた基材材料が、その機械的性質と、化学安定性と、腐食安定性と、ガンマ安定性との組み合わせのために有用であることが分かった。
【0032】
重合体は、吸着性ヒドロゲルを形成し、かつ、捕捉されることが望まれる物体を引き付けて保持するのに関与する化学基(結合基)を持つ。或いは、重合体は、結合基を取り込むように容易に変性可能な化学基を保有する。被膜は、不純物を該被膜の深部に捕獲し、吸着能力を向上させることができるように透過性である。好ましい重合体は、重合第一級アミンである。好適な重合第一級アミンの例としては、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリブチルアミン、ポリリシン、それら自体の共重合体及びそれらと他の重合体との共重合体、並びにそれらの各プロトン化された形態が挙げられる。好適な共重合体としては、ビニルアルコール−コ−ビニルアミン、アクリルアミド−コ−アリルアミン、エチレングリコール−コ−アリルアミン及びアリルアミン−コ−N−イソプロピルアクリルアミドが挙げられる。ポリアリルアミン(及び/又はそのプロトン化された形態、例えばポリアリルアミン塩酸塩(PAH))から作られた被膜が特に有用であることが分かった。PAAは、多数の分子量、通常は1000〜150000の範囲の分子量で市販されており(日東紡績株式会社)、これらの全てをメンブランソーバーを作製するために使用することができる。PAA及びPAHは水に容易に溶解する。PAA水溶液のpHは、約10〜12であるのに対し、PAH水溶液のpHは3〜5である。PAA及びPAHは区別なく使用できるが、ただし、最終溶液のpHを監視し、そして必要なら、非プロトン化アミノ基が架橋剤との反応のために利用できるように10よりも高い値に調整しなければならない。
【0033】
被膜は、典型的には、被覆された又は覆われた基材の全容積の少なくとも約3%、好ましくは基材の全容積の約5%〜約10%を占める。所定の実施形態では、被膜は、実質的に均一な厚さで基材を覆う。乾燥被膜の好適な厚み範囲は、約10nm〜約50nmである。
【0034】
当業者であれば、重合体を任意の好適な手段、例えば被覆、グラフト、架橋などにより基材に固定することができること、及び、ここで使用するときに、用語「被覆基材」が、広義には、表面に重合体が形成された任意の基材を包含することを意味することが分かるであろう。
【0035】
架橋剤は、重合体と反応して該重合体を水に不溶にすることができるため、支持骨格の表面上に保持できる。好適な架橋剤は、被覆用重合体と反応し、かつ、選択された溶媒(好ましくは水)に可溶の2官能性又は多官能性分子である。様々な化学部分、とりわけエポキシド、クロルアルカン、ブロムアルカン及びヨードアルカン、カルボン酸の無水物及びハロゲン化物、アルデヒド、α,β−不飽和エステル、ニトリル、アミド及びケトンが、第一級アミンと反応する。好ましい架橋剤は、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEG−DGE)である。このものは水に容易に溶解し、迅速で十分な架橋をもたらし、しかも親水性、中性、非毒性で、容易に利用可能である。被覆溶液における架橋剤の使用量は、重合体上及び架橋剤上の反応性基のモル比に基づく。好ましい比率は、約10〜約1000、より好ましくは約20〜約200、最も好ましくは約30〜約100の範囲内にある。架橋剤が多いと、ヒドロゲルを膨張させる能力が妨げられるため収着容量が減少するのに対し、架橋剤が少ないと、架橋が不完全になる、すなわちいくらかの重合体分子が完全に溶解したままになる場合がある。
【0036】
界面活性剤を使用して、重合体が支持構造の表面全体に均一に広がるのを促進させることができる。好ましい界面活性剤は、非イオン性で、水溶性で、しかもアルカリに安定なものである。フルオロ界面活性剤は、水の表面張力を低下させる顕著な能力を有する。これらの界面活性剤は、イー・アイ・デュポン・ド・ヌムール・アンド・カンパニーがZonylという商品名で販売しており、Zonyl FSN及びZonyl FSHなどが特に好適である。条件を満たす別の種類の界面活性剤は、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーがTriton Xという商品名で販売するオクチルフェノールエトキシレートである。当業者であれば、他の界面活性剤も使用できることが分かるであろう。被覆溶液中で使用される界面活性剤の濃度は、通常、ディウェッティング(dewetting)を回避するように溶液の表面張力を低下させるのに必要な最少量である。ディウェッティングとは、最初の延展後に表面上の液体が自発的に数珠状になることと定義される。ディウェッティングは、メンブランソーバーの形成中における非常に望ましくない事象である。というのは、これは、基材の不均一な被覆及び露出をもたらし、それによって湿らすことのできない製品及び収着容量の減少をもたらす場合があるからである。界面活性剤の必要量は、溶液の液滴が作る、多孔質骨格と同一の材料から作られた平面との接触角を測定することによって都合よく決定できる。接触角の劇的な前進及び後退が特に有益である。これらは、液体を溶液の液滴に添加したとき又は該液滴から取り出したときに、それぞれ測定される。ディウェッティングは、0°という後退接触角を得るように溶液を処方する場合に回避できる。
【0037】
随意に、疎水性表面に容易に吸着する小量の親水性重合体を展着助剤として溶液に添加することができる。ポリビニルアルコールが好ましい重合体であり、これを全溶液容量の約0.05重量%〜約5重量%の範囲の濃度で使用することができる。
【0038】
支持用の多孔質構造が重合体の溶液で容易には湿ることができない場合、例えば、疎水性微多孔膜の場合には、溶液に湿潤助剤を添加することができる。この湿潤助剤は、架橋反応に悪影響を及ぼさない、被覆用重合体溶液と相溶性のある任意の有機溶媒であることができる。典型的には、この溶媒は、低級脂肪族アルコールのうちの1種であるが、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル及び他の水混和性溶媒を同様に使用することもできる。添加される有機溶媒の量は、多孔質基材を被覆溶液で即座に湿潤させるのに必要な最小量である。代表的な湿潤助剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール及びイソプロピルアルコールが挙げられる。
【0039】
被覆方法は、被覆溶液によって織物の湿潤を改善させることができる。織物を均一に飽和させ、かつ、疎水性の箇所や領域を残さないように、被覆溶液を制御された態様で織物に押し込むことができる。これは、加えられる押出圧力によって溶液を織物に押し入れるために、例えば、織物に対して押圧されるスロットを介して又は織物にごく接近して溶液を押出すことによって行うことができる。当業者であれば、均質な被膜を生じさせるのに必要な圧力、速度及びスロット形状の条件を決定できるであろう。
【0040】
被覆基材を形成させるための好ましい方法は、(1)溶液を製造し;(2)この溶液を膜上に塗布し;基材の外部表面から余剰の液体を除去し;(3)膜を乾燥させ;(4)膜を硬化させ;(5)膜をすすぎ、そして乾燥させ;(6)完成した膜を随意にアニールし;そして(7)この膜を随意に酸処理することを含む。より具体的には、好適な重合体及び架橋剤を含有する溶液を製造する。これら2種成分の濃度は、付着した被膜の厚さと膨張の程度を決め、これは同様に膜を通した流量とその収着容量とを決める。重合体及び架橋剤を好適な溶媒、好ましくは水に溶解させる。この溶液は、湿潤助剤、展着助剤及びpH調整剤など他の成分を含有していてもよい。疎水性基材を使用する場合には、溶液の表面張力は、該基材を湿らせる程度に十分に低くなければならない。重合体の水溶液は、通常は疎水性微多孔膜を湿らせないので、この溶液に有機溶媒(湿潤助剤)を添加しなければならないであろう。疎水性膜の表面に被覆剤を均一に広げるのを促進させるために、溶液に界面活性剤を添加することができる。最後に、架橋剤の化学的性質によっては、架橋反応を生じさせるためにpHを上昇させることが必要になる場合がある。溶液の成分と典型的な濃度範囲とを以下の表1にまとめる。
【0041】
【表1】

【0042】
被覆溶液は、基材を該溶液に浸漬し、この基材を溶液から取り出し、そして、過剰の溶液を基材の両面から機械的に、例えば一対のニップロールを使用して除去する(ニップオフ)ことにより、基材上に塗布される。その後、細孔にこの溶液が充填された多孔質基材を乾燥させる。乾燥は、室温での蒸発により実施でき、或いは熱を加えることによって促進できる(約40〜110℃の温度範囲)。この被覆基材を乾燥させた後に、これを架橋剤が重合体と完全に反応できるように数時間から数日間にわたって保持する。随意に、熱を加えることにより架橋を促進させてもよい。その後、基材を多量の溶媒ですすぎ、そして再度乾燥させる。追加の随意工程として、この乾燥したメンブランソーバーを高温(60〜120℃)でアニールしてその流動特性を調節し、そしてこれを0.1M〜1Mの濃度の非酸化性強一塩基酸で処理して被膜中に存在するアミノ基をプロトン化させることを含む。
【0043】
重合体がPAAの場合、膜の熱処理後にこの重合体における基本的に全てのアミノ基を対応するアンモニウムイオン塩に転化させることが、製品の統一性を確保するのに役立つであろう。水湿潤性が良好であることが重要である。基材は非常に疎水性であり、しかも親水性被膜は非常に緩やかに架橋し、このマトリックスには共有結合していないため、PAAゲルの側面が多少収縮することが、膜が水で湿潤しなくなる原因となる。一方、PAAの基本的に全てのアミノ基が対応するアンモニウムイオン塩に転化する場合、乾燥被膜の体積の増加、対イオンによる水の保持力の増大及び荷電重合体の水に対する親和性の強化が、膜をさらに水湿潤性にするのに役立つ。この目的でPAAをプロトン化するために、非毒性で非酸化性の強酸、好ましくはPAAのイオン架橋を阻害するための一塩基酸を使用すべきである。好適な酸としては、塩酸、臭化水素酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸、トリクロル酢酸及びトリフルオル酢酸が挙げられる。塩化物は、試料タンパク質溶液中に既に存在しているため、最適な対イオンであると考えられるが、スチールの腐食及び労働安全上の問題が関わるため、塩酸及び/又はその塩を使用する連続方法にとっては実用的でない場合がある。そのため、より好適な酸は、スルファミン酸(H2N−SO2OH)であり、これは、PAAのためのプロトン化剤として好ましい。
【0044】
PAAをプロトン化させるための好適な方法は、プロトン化酸、好ましくはスルファミン酸の0.1〜0.5M水溶液(又は湿潤性に乏しい膜に完全に完全に浸透させるために水/アルコール混合液)中に膜を浸漬し、その後すすぎと乾燥を行うことである。得られた膜は、スルファミン酸対イオンを有し、これは、0.5M水酸化ナトリウム、続いて0.5M塩化ナトリウムなどの簡単な調整プロトコールを使用することによって容易に変換できる。
【0045】
このような酸処理により、膜の保存期間安定性が向上し、また、結合力が有意に高くなる。本発明者は、特定の理論に限定しようとするものではないが、PAAを完全にプロトン化した(酸処理した)状態で乾燥させると、それがBSAを良好に封入することのできる、より広がった「開いた」形態になり、それによりさらに高いイオン強度に到達するまでBSAが放出されないものと考える。酸処理膜のさらなる利点は、ろ過製品に認められた滅菌手順であるγ線照射などのイオン化照射に対する安定性が一層増すことである。
【0046】
思い通りのメンブランソーバー製品になるかどうかは、3つの重要なパラメーターで決まる。それは、収着容量、フラックス及び結合力である。結合力は、大体の場合、メンブランソーバーの表面上に存在する基の化学的性質によって決まるのに対し、容量とフラックスは、収着層を形成するために使用される手順と重合体及び架橋剤の量とにかなりの影響を受けやすい場合が多い。支持骨格と、精製効率(床高さにより決定される)と、メンブランソーバーの化学的性質との所定の組合せについては、フラックスが大きいと収着容量が小さくなり、フラックスが小さいと収着容量が大きくなる場合がある。
【0047】
架橋PAA膜吸着体の透過性は、高温「硬化」方法によって改善された。軽く架橋したPAA−ゲルは、かなりの量の水を吸収し、その容量を数桁増加させる能力を有する。この効果は、透過性を低下させる原因となる場合がある。このゲルの特性は、その膨潤が許容できるレベルにまで低下するまで該ゲルを脱水することによって、結合力及びゲル容量を損なうことなく緩和されるように思われる。事実、この硬化方法は、製品の必要に応じて、膜の透過性を調整することができる。好適な硬化温度は約25〜120℃、より好ましくは約85〜100℃であり、約6〜72時間に及ぶ。
【0048】
γ線照射は、ろ過製品のために広く認められている滅菌手順である。ガンマ滅菌適性は、メンブランソーバーの望ましい特徴である。本発明者は、酸処理メンブランソーバーがイオン化照射に対してさらに大きな安定性を有するという、酸処理メンブランソーバーの驚くべき利点に気付いた。
【0049】
所定の実施形態に従う実施において、目的のウイルスのみならずDNAなどの不純物をも含有する供給物をイオン調節剤及び1価の塩の存在下で膜吸着体に導入する。好適なイオン調節剤としては、燐酸塩緩衝剤(例えば、燐酸ナトリウム又は燐酸カリウム)、クエン酸塩緩衝剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、スクシネート、硫酸アンモニウムイオン、硫酸ナトリウム、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)、グルタメート、トリポリホスフェート、ポリアクリル酸などの高分子電解質、スチレンスルホン酸ナトリウム及びラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤が挙げられる。好適な1価の塩としては、塩化ナトリウム又は塩化カリウム、臭化ナトリウム、沃化ナトリウム、イミダゾール塩酸塩などが挙げられる。好適なイオン調節剤濃度としては、約2mM〜約0.5Mが挙げられる。好適な1価の塩の濃度としては、約0〜約2Mが挙げられる。
【0050】
次の実施例は、例示の目的でここに含めるものであり、本発明を限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0051】
例1(疎水性UPE上のPAA)
ポリアミン被覆膜の製造
まず、9%ポリアリルアミン(PAA、Mw:15000gm/mol)、0.4%PEGDGE(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、Mw:526gm/mol)、4%水酸化リチウム、2%TritonX−100、8%のポリビニルアルコール溶液(2.5%溶液)を含有するイソプロピルアルコールの20%水溶液を調製した。これを、パイロット規模の塗布機を使用して0.65μm細孔径を有する疎水性UPE(超高密度ポリエチレン)膜のロール上に被覆した。被覆後、この膜を水及びメタノールで抽出して過剰の反応体を除去し、そして温風衝突乾燥器により120℃で乾燥させた。その後、この膜を95℃で15時間にわたり硬化させ、5%イソプロピルアルコール中5%スルファミン酸で処理し、次いで乾燥させて被膜を安定化させた。このようにして製造された膜を1/2インチ又は1インチのディスクにカットし、8層に積み重ね、入口及び流出口を有するポリエチレン装置に外側被覆し、さらに、フロースルー分離を検討するために使用した。
【0052】
例2
ChromaSorb及びトリス緩衝液を使用したDNAからのBSA(ウイルスモデル)のフロースルー精製
この例示実験では、 移動相として様々な塩化ナトリウム濃度を有するトリス緩衝液と例1で説明したように第一級アミン陰イオン交換体で作製された装置とを使用した、ウシ血清アルブミン(BSA)及びニシン精子DNAのフロースルー回収を説明する。膜吸着体を、例1からの8層の膜(直径1インチ、全膜容量=〜0.34mL)を、入口及び流出口を有するポリエチレン装置に外側被覆することによって作製した。BSAを、試料中のDNAその他のヌクレオチドから分離することが必要なタンパク質並びにウイルスのモデルとして使用した。BSAは、良好なウイルスとしての役割も果たす。というのは、BSAは、これらの生体分子のpIに近い〜5のpIを有するからである。ニシン精子DNAは、典型的な供給物中に見出される宿主細胞DNA及び他の同様のヌクレオチドのモデルとして使用した。
試験前に、ChromaSorb装置を、シリンジを使用して10mLの水で湿らせることにより調製した。続いて、この装置を、水の入ったビーカー中に、流出側を下に向け、シリンジをそれに取り付けた状態で浸漬させた。このシリンジを使用してこの装置を僅かな減圧にして、閉じ込められた気泡を除去した。続いて、この装置をポンプに連結し、そして15mLの0.5N NaOHでフラッシュし、15mLのDI水で洗浄し、続いて、各塩濃度の25mMトリス緩衝液20mLで予め平衡させた。
シグマ・オールドリッチ社から得られたBSAを、それぞれ0.5M、0.7M及び0.9MのNaClを含有するトリス緩衝液(25mM、pH8)の3種の異なる溶液に溶解させて、1.8mg/mLのBSA濃度を有する最終溶液を完成させた。同様に、プロメガ社から得られたニシン精子DNAを上記塩濃度のトリス緩衝液に溶解させて50μg/mLの濃度の最終溶液を完成させた。BSA含有溶液の各およそ10mLと、DNA含有溶液の各30mLとを、シリンジポンプ(ニュー・エラ・ポンプシステムズ・インク、NE−1600)を使用して1mL/分の流量で6個の異なるChromaSorb装置(0.33mL)に通した。このフロースルー及び供給物中におけるBSA及びDNAの濃度を、紫外線可視分光光度計(フィッシャー・サイエンティフィック)を使用してそれぞれ280nm及び260nmで測定した。
トリス緩衝液を使用してChromaSorb装置を通過させたBSA及びDNAの回収率を測定する例示実験の結果を以下の表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2から、上記全ての緩衝液条件下で、ここに開示された実施形態に従う媒体を使用して完全なDNAの除去が達成できることが分かる。しかし、これらの条件のいずれも、タンパク質/ウイルスのモデルであるBSAの100%回収率は得られなかった。これは、1価の塩の濃度が増加したトリス緩衝液は、このような媒体を使用してウイルスからDNAを分離するための方法として使用できるものの、塩濃度の変更を用いるのみでは、タンパク質/ウイルスの完全な回収を達成することは可能ではない場合があることを示唆する。
【0055】
例3
ChromaSorb膜及び燐酸塩緩衝液を用いたDNAからBSAのフロースルー精製
この例示実験では、第一級アミン陰イオン交換体としてChromaSorb装置(ミリポア・コーポレーションから商業的に入手できる0.08mLの使い捨ての膜を主体とする陰イオン交換体)、そして移動相として多価燐酸イオン及び塩化ナトリウム塩を含有する緩衝液を使用した、ウシ血清アルブミン(BSA)及びニシン精子DNAのフロースルー回収を説明する。例2と同様に、BSAをタンパク質/ウイルスモデルとして使用し、ニシン精子DNAを宿主細胞DNAモデルとして使用した。
試験前に、これらのChromaSorb装置を例2で説明した方法の通りに湿潤させ、そして脱気した。次いで、これらの装置を自動BioCad FPLCシステム(アプライド・バイオシステムズ)に連結し、そして0.5NのNaOHでフラッシュし、水で洗浄し、塩化ナトリウム塩を有する又は有しないナトリウム燐酸塩緩衝液(pH7.1)で予め平衡させた。さらに、このFPLCシステムを、これらの生体分子に対する膜の容量を決定するために、フロースルーモードの装置からのBSA及びDNAの通過(ブレークスルー)を測定するために使用した。フロースルー工程後に、平衡緩衝液、すなわち1MのNaCl溶液及び0.5NのNaOH溶液で洗浄して、膜に結合した微量のBSA及びDNAを決定した。
それぞれ0.5mg/mL濃度及び28μg/mL濃度のBSA(シグマ・オールドリッチ社)及びDNA(プロメガ社)の別々の溶液を、様々な量の燐酸ナトリウム又は塩化ナトリウム塩を含有する燐酸ナトリウム緩衝液(pH7.1)で調製した。これらの溶液を、10%を超えるBSA又はDNAの通過がFPLCシステムのインライン紫外線可視分光光度計によりそれぞれ280nm及び260nmで記録されるまで2個の異なるChromaSorb装置(0.08mL)に通した。これらの装置のBSA及びDNAに関する10%通過での動的容量を、次の方程式を用いて算出する:
動的容量=Cf×VBT/Vd
ここで:
f=供給物の濃度;
BT=10%通過で装置を通過した溶液の容積;及び
d=装置の容積
である。
【0056】
10%通過(フロースルー)曲線では測定可能な容量が示されなかった場合には、1MのNaCl溶液を使用して装置から溶出された微量の不純物(もしあれば)を使用して装置の容量を推定した。溶出したBSAの濃度は、溶出ピーク下面積を測定し、そして当該面積に相当する全タンパク質量を基準検量線に対して決定し、〜65%の不可逆結合と仮定することによって算出した。
【0057】
0.08mLのChromaSorb装置及び移動相において燐酸ナトリウムを使用したBSA及びニシン精子DNAの容量、回収率及び除去率を測定する例示実験の結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表3から分かるように、第一級アミン膜のBSA容量は、燐酸塩濃度が増加するに従い劇的に減少するが、DNA容量の変化は小さい。2mM〜5mMの間に、タンパク質回収率の劇的な増加をもたらす燐酸イオンの閾値濃度があるように思われる。このデータから、タンパク質/ウイルスの完全な回収又はそれらの微量の損失を伴うが極めて高い回収は、第一級アミン膜を通る移動相中に10mM以上の濃度の燐酸塩を使用するフロースルーモードで達成できることが示唆される。燐酸塩と共に塩化ナトリウム塩を使用すると、BSAについての膜容量が減少し、かつ、そのDNAに対する結合能力が改善する。さらに、最大DNA除去率が達成できる最適NaCl濃度があるように思われる。NaClを使用すると、生成物をほとんど損失することなく5mM程度に低い燐酸塩濃度で又はDNA除去率を向上させる50mM程度に高い燐酸塩濃度で第一級アミン膜を使用することが可能になると考えられる。つまり、用途に応じて、燐酸塩濃度及びNaCl濃度を最適化して大量の供給物を高いタンパク質/ウイルス回収率及びDNA除去率で処理することが可能になる。この研究から、燐酸ナトリウムなどの多価塩を使用することによって、ChromaSorbなどの第一級アミン膜を使用したフロースルーモードで達成できることが示唆される。さらに、塩化ナトリウムなどの1価の塩を使用することで、この分離の性能を改善させることができる。
【0060】
例4
ChromaSorb膜及び燐酸塩緩衝液を使用した宿主DNAからのインフルエンザウイルスのフロースルー精製
別の例示実験において、宿主細胞タンパク質(HCP)及び宿主細胞DNAの複合供給混合物からのインフルエンザウイルスA型(Flu−A)の回収を説明する。インフルエンザA型は、〜5.0のpI及びおよそ80〜120nmのサイズを有する脂質エンベロープウイルスである。この研究は、ChromaSorb(第一級アミン)膜を収容した装置に、精製されかつ緩衝液交換されたflu供給物を通すことによってフロースルーモードで行った。
MDCK細胞内で増殖させたインフルエンザA型ウイルスを含有する供給物を、標準的な手順を用いて調製した。最初に、50個のT150フラスコに、10%FBS(ウシ胎仔血清)DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)中10%培養密度のMDCK細胞(メイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞)を供給した。2〜3日後、これらの細胞が80〜90%培養密度になったら フラスコ中の培地を血清なしのDMEMに変更し、そして細胞にインフルエンザA型/WS(H1N1株)を感染させた(これはMDCK細胞内で増殖するのに適した組織培養であった)。次いで、これらのフラスコを完全なCPE(細胞変性効果)が観察されるまで5%CO2中で3日にわたり33℃でインキュベートした。その後、上澄液を2500rpmで遠心分離し、0.45μm膜フィルターを通してろ過して細胞残屑を除去し、そしてさらに使用する前に−80℃で保存した。
この実験の直前に、約40mLの供給物を4℃で一晩解凍し、次いで10キロダルトンのCentricon遠心ろ過装置(ミリポア・コーポレーション)を使用して燐酸ナトリウム緩衝液(pH 7.1)に緩衝液交換した。移動相中における燐酸塩濃度及び塩化ナトリウム濃度は、例3で行った検討に基づいて選択した。次いで、供給物を、容積型ポンプ(Mighty−Mini,サイエンティフィック・システムズ・インク)を使用して0.08mLのChromaSorb装置に1mL/分の流量で通した。カラムを通した流れを1mL画分で集め、そして、flu含量及び宿主細胞DNA含量について、それぞれ血球凝集素(HA)アッセイ及びピコグリーンアッセイを使用して2回アッセイした。供給物のインフルエンザウイルス及び宿主細胞DNAの力価は、それぞれ10240HAU/mL及び1〜1.3μg/mLであった。
移動相として燐酸ナトリウム緩衝液を使用して0.08mLのChromaSorb装置を通過したインフルエンザウイルスA型及び宿主細胞DNAの通過(フロースルー)量を測定する例示実験の結果を図1に示している。
【0061】
【表4】

【0062】
図1及び表4は、移動相に多価燐酸塩を使用することで、インフルエンザウイルスの完全な回収が可能になると共に、宿主細胞DNAについてかなりの膜容量を維持することが可能になることを示している。宿主細胞DNAについての容量は例3で示した単一成分系よりも低いものの、インフルエンザウイルス及び宿主細胞DNAの通過は、例3のBSA及びニシン精子DNAのそれと類似する。これは、BSAがタンパク質のみならずウイルスの良好なモデルであり、しかもニシン精子DNAが宿主細胞DNAの良好なモデルであることを示唆する。1価の塩の濃度は、さらに高いDNA除去率及び生成物処理量を達成するようにさらに最適化できる。この研究は、ChromaSorbなどの第一級アミン媒体及び燐酸塩などの多価イオンを使用してフロースルーモードで宿主細胞DNAからウイルスを分離できることを確認するものである。さらに、塩化ナトリウムなどの1価の塩の存在は、この分離の助けとなる。
【0063】
例5
ChromaSorb膜を使用してDNAからBSAをフロースルー精製することを可能にするためトリス緩衝液への添加剤として燐酸塩を使用する
この例示実験では、ChromaSorb膜装置(0.08mL)及び移動相としてトリス緩衝液を使用したBSA及びニシン精子DNAのフロースルー回収を説明する。様々なモル濃度の燐酸ナトリウム及び塩化ナトリウム塩をトリス緩衝液の添加剤として使用し、そして、最終溶液を、10NのNaOH又は2NのHCl(フィッシャー・サイエンティフィック)を使用してpH8に調整した。この溶液を平衡、ロード及び洗浄緩衝液として使用した。塩条件は、例3で行った検討に基づいて選択した。これらの実験は、例3に記載したのと同様の方法で行った。
0.08mLのChromaSorb膜装置及び添加剤としての多価燐酸イオンを有するトリス緩衝液を使用してBSA及びニシン精子DNAの容量、回収率及び除去率を測定する例示実験の結果を表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
表5に示すように、ChromaSorbは、トリス緩衝液中のBSA及びDNA容量が非常に高く、結果としてタンパク質の回収率が有意に低い。燐酸ナトリウム塩を添加すると、第一級アミン膜のBSA容量がほとんどなくなり、99%を超えるタンパク質回収率が可能になるのに対し、ニシン精子DNAについての膜容量は維持される。先に検討したように、塩化ナトリウム塩を添加することには、DNA除去に影響を及ぼすことなくタンパク質の回収率をさらに改善させるという利点がある。この研究から、緩衝剤として多価塩を使用することに加えて、当該多価塩を、単に、ChromaSorbなどの第一級アミン膜を使用してフロースルーモードでDNAからタンパク質やウイルスを精製するための他の緩衝液への添加剤として使用することができることが示唆される。
【0066】
例6
ChromaSorb膜を使用して宿主細胞DNAからインフルエンザウイルスをフロースルー精製することを可能にするためトリス緩衝液への添加剤として燐酸塩を使用する
この例示実験では、ChromaSorb膜装置(0.08mL)及び移動相としてトリス緩衝液を使用した宿主細胞DNAからインフルエンザウイルスA型のフロースルー分離を説明する。燐酸ナトリウム及び塩化ナトリウム塩をトリス緩衝液の添加剤として使用し、最終溶液のpHを、10NのNaOH又は2NのHClを使用してpH8に調整した。緩衝液の条件は、例5で行った検討に基づいて選択した。この溶液を平衡緩衝液のみならずロード緩衝液としても使用した。例4に記載したのと同様の方法でウイルスを増殖させ、緩衝液を変更した。また、さらなるフロースルー分離及びアッセイを例4に記載したとおりに行った。供給インフルエンザウイルス及び宿主細胞DNAの力価は、それぞれ10240HAU/mL及び1〜1.5μg/mLであった。
【0067】
【表6】

【0068】
表6に示されるように、トリス緩衝液では、ChromaSorb膜は、インフルエンザウイルス容量が非常に高かったが、これは、フロースルーモードで極めて不十分なウイルス回収率をもたらした。しかし、燐酸ナトリウムをトリス緩衝液に添加すると、ウイルスに対する膜容量が完全になくなってウイルスの完全な回収が可能になったと共に、宿主細胞DNAに対してはかなりの膜容量が依然として保持された。燐酸塩濃度及び/塩化ナトリウム濃度を調節することによる緩衝液条件のさらなる最適化を、この精製のための膜性能を改善させる方法として使用することができる。この研究は、多価塩を既存の緩衝液への添加剤として使用して宿主細胞DNAからウイルスをフロースルー精製することを可能にすることができるという、例5で行った検討の結果を裏付けるものである。
【0069】
例7
ChromaSorb膜を使用してDNAからBSAをフロースルー精製することを可能にするためトリス緩衝液への添加剤としてクエン酸塩を使用する
この例示実験では、ChromaSorb膜装置(0.08mL)及び移動相としてトリス緩衝液を使用したBSA及びニシン精子DNAのフロースルー回収を説明する。様々なモル濃度のクエン酸塩及び塩化ナトリウム塩をトリス緩衝液の添加剤として使用し、最終溶液をpH8に調整した。この溶液を平衡、ロード及び洗浄緩衝液として使用した。これらの実験は、例3に記載したのと同様の方法で行った。
0.08mLChromaSorb膜装置及び添加剤としてクエン酸を有するトリス緩衝液を使用したBSA及びニシン精子DNAの容量、回収率及び除去率を測定する例示実験の結果を表7に示す。
【0070】
【表7】

【0071】
表7から、トリス緩衝液のクエン酸イオン濃度が低くても、BSAに対する膜容量はさほど減少しなかったことが分かる。しかし、クエン酸塩濃度を25mMから50mMに増加させると、その膜容量に大きな影響があり、しかもBSA回収率が62%から99%を超えるまで改善した。これは、フロースルーモードでタンパク質を完全に回収するのに必要なトリス緩衝液のクエン酸イオンの閾値濃度が存在することを示唆する。この閾値濃度は、イオン調節剤が異なれば変化すると考えられる。さらに、膜のニシンDNA容量は、クエン酸イオンが存在した方が、燐酸イオンが存在する場合よりもかなり高いことが分かる。したがって、好適なイオン調節剤を選択することは、このタイプの分離のために緩衝液条件を最適化することと共に、検討するために重要な変数だと考えられる。
【0072】
例8
ChromaSorb膜を使用して宿主細胞DNAからインフルエンザウイルスをフロースルー精製することを可能にするためトリス緩衝液への添加剤としてクエン酸塩を使用する
この例示実験では、ChromaSorb膜装置(0.08mL)及び移動相としてトリス緩衝液を使用した宿主細胞DNAからインフルエンザウイルスA型のフロースルー分離を説明する。クエン酸塩及び塩化ナトリウム塩をトリス緩衝液の添加剤として使用し、最終溶液のpHを、10NのNaOH又は2NのHClを使用してpH8に調整した。この溶液を平衡緩衝液のみならずロード緩衝液としても使用した。条件は、例7で行った検討結果に基づいて選択した。例4に記載したのと同様の方法でウイルスを増殖させ、緩衝液を変更した。また、さらなるフロースルー分離及びアッセイを例4に記載したとおりに行った。供給インフルエンザウイルス及び宿主細胞DNAの力価は、それぞれ10240HAU/mL及び1〜1.5μg/mLであった。
【0073】
【表8】

【0074】
表8は、トリス緩衝液の添加剤としてクエン酸イオンを使用すると、インフルエンザウイルス回収率の点で燐酸イオンと同様の効果があることを示している。しかし、ChromaSorb膜の宿主細胞DNA容量は、トリス緩衝液にクエン酸イオンが存在した方が、燐酸イオンが存在する場合よりもかなり高い。実際に、ChromaSorbは、クエン酸イオンが存在した方がトリス緩衝液そのものよりも高い容量を有するように思われた。トリス緩衝液についてのDNA容量の改善は予想外のため、あまりよく分からないが、これは、クエン酸と同等のイオン調節剤が同様の影響を及ぼす可能性があることを示唆するものである。つまり、クエン酸又は同様のイオン調節剤を単独で又は塩化ナトリウムなどの1価の塩と共に既存の緩衝液への添加剤として使用して、ChromaSorb膜を使用した宿主細胞DNAからのウイルスの極めて効率的な精製を成し遂げることができる。
【0075】
例9
ChromaSorb膜を使用してDNAからBSAをフロースルー精製することを可能にするためトリス緩衝液の添加剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用する
この例示実験では、ChromaSorb膜装置(0.08mL)及び移動相としてトリス緩衝液を使用したBSA及びニシン精子DNAのフロースルー回収を説明する。様々なモル濃度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び塩化ナトリウム塩をトリス緩衝液の添加剤として使用し、最終溶液をpH8に調整した。この溶液を平衡、ロード及び洗浄緩衝液として使用した。これらの実験は、例3で説明したのと同様の方法で行った。
0.08mLChromaSorb膜装置及び添加剤としてEDTAを有するトリス緩衝液を使用して及びニシン精子DNAの容量、回収率及び除去率を測定する例示実験の結果を表9に示す。
【0076】
【表9】

【0077】
表9は、ChromaSorbのBSA容量及びDNA容量に及ぼすトリス緩衝液のEDTA濃度の増加の影響を示している。1mM程度に低いEDTA濃度ではChromaSorbのBSA容量が有意に増加し、タンパク質の高い回収率が可能になる。一方、EDTA濃度が増加すると、まず膜のDNA容量が減少し、その後該容量が増加する。トリス緩衝液に塩化ナトリウム塩のみを添加すると、DNAに対する容量が減少する。しかし、EDTAが存在すると、膜のDNA容量は増加する。EDTAの存在下でのトリス緩衝液中のEDTA又は塩化ナトリウムの上記影響は予想外であり、しかもあまりよく分からない。この研究から、EDTAのようなイオン調節剤を使用すると、タンパク質及びウイルスの完全な回収が可能になるだけでなく、DNAに対する膜容量が改善し、これは同様にさらに大量の供給物を処理することが可能になることが示唆される。この研究から、イオン調節剤を単独で又は1価の塩と共に使用することが、ChromaSorbなどの第一級アミン膜を使用したDNAからのタンパク質/ウイルス分離に好都合であることが示唆される。
【0078】
例10
ChromaSorb膜を使用して宿主細胞DNAからインフルエンザウイルスをフロースルー精製することを可能にするためトリス緩衝液の添加剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用する
この例示実験では、ChromaSorb膜装置(0.08mL)及び移動相としてトリス緩衝液を使用した宿主細胞DNAからインフルエンザウイルスA型のフロースルー分離を説明する。EDTA及び塩化ナトリウム塩をトリス緩衝液の添加剤として使用し、最終溶液のpHをpH8に調整した。この溶液を平衡緩衝液のみならずロード緩衝液としても使用した。条件は、例9で行った検討結果に基づいて選択した。例4に記載したのと同様の方法でウイルスを増殖させ、緩衝液を変更した。また、さらなるフロースルー分離及びアッセイを例4に記載したとおりに行った。供給インフルエンザウイルス及び宿主細胞DNAの力価は、それぞれ10240HAU/mL及び1〜1.5μg/mLであった。
移動相としてトリス緩衝液(T)、10mMのEDTAと0.3MのNaClとを含有するトリス緩衝液(TE10)及び50mMのEDTAと0.3MのNaClとを含有するトリス緩衝液(TE50)を使用して0.08mLのChromaSorb装置を通過した宿主細胞タンパク質及び宿主細胞DNAの混合物中におけるインフルエンザウイルスA型の通過量を測定する例示実験の結果を図2に示す.
移動相としてトリス緩衝液(T)、10mMのEDTAと0.3MのNaClとを含有するトリス緩衝液(TE10)及び50mMのEDTAと0.3MのNaClとを含有するトリス緩衝液(TE50)を使用して0.08mLChromaSorb装置を通過させたインフルエンザウイルスA型及び宿主細胞タンパク質の混合物中における宿主DNAの通過量を測定する例示実験の結果を図3に示す。
【0079】
【表10】

【0080】
供給物の利用可能度には限界があるため、トリス緩衝液中に10mMのEDTAを含有する供給物を7mL及び50mMのEDTAを含有する供給物を15mLしか、これらのChromaSorb装置に通して処理しなかった。図2及び3から分かるように、EDTA濃度がゼロから50mMに増加すると、インフルエンザウイルスの通過が非常に早い時期に起こる。しかし、DNAの通過は、EDTAが存在してもしなくても同様であるように思われる。つまり、表10に示すように、EDTA濃度が増加すると、膜のウイルス容量が減少し、回収率が高くなる。膜のDNA容量は、2つのEDTA濃度ではさほど相違しない。ウイルス回収率は、先の例で観察されるようにEDTAの存在下でのタンパク質の挙動を正確には模倣しないが、依然として、イオン調節剤濃度が増加するとウイルス回収率が改善するという同じ傾向を持つ。添加剤としてEDTAを使用することによるタンパク質容量とウイルス容量との相違は、EDTAによる静電遮蔽機構の相違又はタンパク質、ウイルス及びEDTAの荷電強度の相違又はEDTAと第一級アミン膜との相互作用機構の相違によるものであると考えられる。これらの相違の原因にかかわらず、この研究から、EDTAは、先に議論した他のイオン調節剤に類似する膜−ウイルス結合に対する抑制効果を有するものであると解釈できることは明らかである。タンパク質回収率に匹敵するウイルス回収率を達成するためには、高いEDTA濃度という相違しか要求されない。さらに、塩濃度などの様々な緩衝液条件を使用し、様々な塩、pH又は添加剤を使用することで、この分離の性能を改善させることができるであろう。用途に応じて、これらの最適化を考慮することが必要である。
【0081】
例11
ポリアミングラフトセファロースビーズの製造及びこれらの第一級アミン変性ビーズを使用したDNAからのBSA及びインフルエンザウイルスの精製
この例では、ポリアリルアミン(PAA)が共有結合したセファロースビーズの合成を例示する。さらに、これらのビーズを使用してBSA又はインフルエンザウイルス含有溶液からDNAを除去する方法を説明する。2gのエポキシセファロース6B(GEヘルスケア)ビーズを8mLのMilli−Q水に懸濁し、これに、10mLの10%PAA(Mwt=3000)溶液を添加する。この溶液のpHを、水酸化ナトリウムを使用して11に調整し、ビーズを24時間にわたり穏やかに振盪させてPAAとビーズとを共有結合させることができる。反応後、ビーズを水ですすぎ、そしてさらに使用する前に冷蔵庫内において湿った状態で保存する。1mLのクロマトグラフィーカラムに、それぞれ上記変性ビーズを詰め、そして移動相にイオン調節剤を使用してBSA含量、インフルエンザ含量及びDNA容量を試験する。
0.5mg/mLのBSA及び28μg/mLのニシン精子DNAの溶液を、100mMのNaClを含有する50mM燐酸塩緩衝液で別々に調製する。これらの溶液をPAA−セファロースのカラムに別々に通す。BSA及びDNAに対するPAA−セファロースビーズの容量を、例3で説明したように、通過(ブレークスルー)曲線を使用して算出する。PAA−セファロースビーズは、BSA容量を全く有しない又は無視できる程度にしか有しないが、かなりの量のDNAを結合する。これは、PAA−セファロースなどのポリアミン固定化媒体を使用して宿主細胞DNAからタンパク質を精製することができることを示唆する。
【0082】
インフルエンザ含有供給物の精製は、例4で説明したのと同様の方法で達成される。インフルエンザ含有供給物を、100mMのNaClを含有する50mM燐酸塩緩衝液に緩衝液交換する。この供給物をPAA−セファロースカラムに通し、そしてフロースルー液を1mL画分で集める。これらの画分について、血球凝集アッセイ及びPico−greenアッセイを使用してインフルエンザ含量及びDNA含量をアッセイする。例4で観察されたように、インフルエンザウイルスは、PAA−セファロースビーズに結合することなく又は無視できる程度にしか結合することなくカラムを通過する。一方、かなりの量の宿主細胞DNAがビーズに結合してフロースルー中のDNA含量が低下し、それによってフロースルーモードで宿主細胞DNAからウイルスを精製することが可能になる。同様に、EDTAやクエン酸塩などの他のイオン調節剤を使用してDNAからタンパク質及びウイルスを精製することができるであろう。さらに、PAA変性ビーズを使用してこの分離を達成するために、イオン調節剤を使用して緩衝液を作ることや、イオン調節剤を他の緩衝液の添加剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の生体分子及びDNAを含む試料の精製方法であって、次の工程:
該試料を、1種以上のイオン調節剤が随意に1種以上の1価の塩と共に存在した状態で、表面に1種以上の重合第一級アミン又はその共重合体が形成された多孔質基材を備える陰イオン交換体に導入することによって、該試料を精製し;そして、DNAを含まない生体分子を含有するさらに精製された試料を集めること
を含む、前記精製方法。
【請求項2】
前記1種以上のイオン調節剤が緩衝剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上のイオン調節剤が燐酸イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上のイオン調節剤がクエン酸イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上のイオン調節剤がエチレンジアミン四酢酸イオンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上の1価の塩が塩化ナトリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基材が微多孔膜を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記膜がポリオレフィンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基材が超高分子量ポリエチレン膜である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記重合体がポリアリルアミン又はプロトン化ポリアリルアミンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記重合体が、ポリアリルアミン又はプロトン化ポリアリルアミンを含有する共重合体又はブロック共重合体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記重合体を架橋させる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−225568(P2011−225568A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−94222(P2011−94222)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】