説明

第四オニウム塩を精製するための方法

【課題】イオン不純物(例えばハロゲン化物)、さらには酸性不純物を含む第四オニウム塩を精製するための方法を提供。
【解決手段】(a)第一のイオン不純物濃度を有する第四オニウム塩の溶液を用意する工程;(b)電気化学的に安定なアニオンで荷電されたイオン交換材料を用意する工程;および(c)塩溶液をイオン交換材料と接触させ、これにより第一のイオン不純物濃度よりも低い第二のハロゲン化物濃度を有する第四オニウム塩溶液を生成させる工程を含む、式(I)の第四オニウム塩を精製する方法。


(式中、Aは窒素またはリン)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は第四オニウム塩を精製するための方法に関する。より具体的には、本発明は、イオン不純物(例えばハロゲン化物)、さらには酸性不純物を含む第四オニウム塩を精製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第四オニウム塩は高度に溶解性であり、水性溶媒だけでなく多くの非水性溶媒中で容易に解離する。この特性が、一般に導電性を支持する能力を有するとは考えられていない多くの溶媒を有効な電解質の媒体として用いることを可能にしている。
【0003】
第四オニウムカチオン(陽イオン)、そして特にテトラアルキルアンモニウムカチオンは、比較的電気化学的に安定である。すなわち、これらのカチオンは電気化学還元プロセスに対して比較的安定である。これらのカチオンが適当な溶媒中で同様に安定な(すなわち、電気化学酸化プロセスに対して安定な)アニオン(陰イオン)と結合すると、生じた電解質は、炭素を主成分とする電極の超コンデンサー(supercapacitor)などの広範囲の電気化学的用途において用いることができる。例えば米国特許5,086,374号を参照されたい。(この特許は本明細書中に参考文献として援用される。)
物質の電気化学的な安定性は、それのいわゆる「電気化学ウインドー(window)」によって表され、これは単位としてボルト(V)を有し、そしてサイクリックボルタンメトリー(CV)によって測定される。ボルトの値が大きくなるほど(すなわち電気化学ウインドーが「広くなるほど」)、対応する材料は酸化または還元プロセスに対していっそう安定になる。カチオンの安定性の一般的な傾向は次のようである:
ピリジニウム<ピラゾリウム≦イミダゾリウム≦スルホニウム≦アンモニウム
またアニオンの安定性の傾向は次のようである:
ハロゲン化物(I-, Br-, Cl-, F-)<クロロアルミネート≦過フッ素化イオン(例えばBF4-, PF6-, AsF6-)≦[CF3SO3]-, [(CF3SO2)2N]-, [(C2F5SO2)2N]-, [(CF3SO2)3C]-
電気化学ウインドーの広さは一般に、不純物、特に残留しているハロゲン化物に対して非常に感受性が高い。ハロゲン化物は一般に、例えば過フッ素化アニオンよりもずっと容易に酸化されるので、電解質中のハロゲン化物の汚染物質はしばしば著しく低い電気化学的安定性をもたらすことがある。
【0004】
さらに、「遊離酸」が重要な要因であることが確認されていて、例えば、オニウムテトラフルオロボレート電解質中の低いppmレベルのテトラフルオロホウ酸がそうである。酸を含有する電解質に特定の電圧を印加することによって遊離酸は気体の化合物と平衡し、このことにより、そのような生成物を用いる装置において、例えば寿命が短くなるなどの問題が生じる。
【0005】
多くの第四オニウム塩は、アルキルアミンをアルキルフルオリド、アルキルクロリド、アルキルブロミドまたはアルキルヨージドと反応させてハロゲン化アルキルアンモニウムを形成させることによって商業的に調製される。次いで、これらのハロゲン化アルキルアンモニウムは、例えばWO 2004/039761(これは本明細書中に参考文献として援用される)に記載されているものなど当分野で知られた方法によって、フルオリド、クロリド、ブロミドまたはヨージドを本質的に含まない第四オニウム塩に転化される。しかし、前述したように、残留している酸のみならずクロリド、フルオリド、ブロミドおよびヨージドのアニオンは電気化学的に安定しておらず、第四オニウム塩の中のこれらの物質の残留量でさえ、関連する電解質の全体的な電気化学的安定性を低下させる。この安定性の低下は、ひいては、そのような電解質を利用する多くの生成物の寿命の短縮をもたらす。加えて、第四オニウム塩の中に残っている残留量のフルオリドアニオンは腐食も生じさせ、このことが生成物の寿命をさらに短くする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第四オニウム塩のハロゲン化物と酸の濃度を(ごく少量のレベルまでも)低減させるための方法は当分野で知られている。例えば、不純物の濃度を100万部当り5部(ppm)未満まで低減させるために、複数の結晶化工程を用いることができる。しかし、これらのプロセスおよびその他の公知のプロセスは、時間のかかるものであるか、あるいは収率が低く、従って高い費用がかかる。出願人は、第四オニウム塩からハロゲン化物や酸の不純物などの不純物を除去するための低コストの方法であって、好ましくはこれまでに知られている方法の有効性と同等であるかあるいはそれ以上の精製の有効性を伴う方法の必要性を認識した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
出願人は、非水性第四オニウム塩溶液を、a)アニオンで荷電されていて、好ましくはハロゲン化物不純物よりも電気化学的に安定なアニオンで荷電されているイオン交換材料、および/またはb)掃去剤(スカベンジャー:scavenger)として作用するイオン交換材料と接触させることによって、この塩溶液からハロゲン化物や遊離酸などのイオン不純物を除去することができることを見いだした。この方法の好ましい態様は一般に、第四オニウム塩およびそれらの無水溶液からハロゲン化物を分離するための多くの従来の結晶化法と比較して低コストで、より多能的である。
【0008】
従って、本発明の特定の好ましい態様は、(i)少なくとも1つのイオン不純物、例えばハロゲン化物および/または遊離酸を第一の濃度で含む1以上の第四オニウム塩の非水溶液(non-aqueous solution)を用意すること;(ii)アニオン、好ましくは電気化学的に安定なアニオンで荷電されたイオン交換材料を用意すること、そして/あるいは、そのアニオンは遊離した形になっていること;および(iii)塩溶液をイオン交換材料と接触させ、これにより第二のイオン不純物濃度を有する非水性第四オニウム塩溶液を生成させることを含み、このとき第二のイオン不純物濃度は第一のイオン不純物濃度よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、不純物としてクロリドを含有する非水性第四オニウム塩溶液に関連するものについてのサイクリック電圧電流曲線(cyclic voltammogram)を示す。
【図2】図2は、本発明に従ってアニオン交換材料で1回処理した後の塩溶液に関連するものについてのサイクリック電圧電流曲線を示す。
【図3】図3は、本発明に従ってアニオン交換材料で2回処理した後の塩溶液に関連するものについてのサイクリック電圧電流曲線を示す。
【図4】図4は、本発明に従ってアニオン交換材料で3回処理した後の塩溶液に関連するものについてのサイクリック電圧電流曲線を示す。
【図5】図5は、無機アニオンの分離および溶離の順序を説明するイオンクロマトグラムを示す(Joachim Weiss, Ionenchromatographie,2.reprint 1991, ISBN 3-527-28236-x)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで説明しているように、液体のオニウム塩またはオニウム塩の溶液、好ましくは非水性第四オニウム塩溶液からハロゲン化物および遊離酸の不純物などのイオン不純物を除去するための方法が提供される。出願人は作用についての何らかの特定の理論に拘束されることを必ずしも意図していないが、これらの液体の塩または塩の溶液がハロゲン化物不純物よりも電気化学的に安定なアニオンで荷電されているイオン交換材料と接触すると、その材料はそのようなハロゲン化物イオンを吸着する性質があり、それによって材料は精製される、と考えられる。さらに出願人は、電気化学的により安定なアニオンがハロゲン化物アニオンよりも実質的に高い濃度で、あるいはさらに数オーダーまでの高い濃度で存在する場合であっても、この有利な結果を得ることができることを見いだした。従って、イオン交換反応が幾つかの平衡条件を有する概して可逆性の反応であるとしても、本方法の好ましい面においてはこれらの条件は極少化され、そのために塩溶液からのハロゲン化物のかなりの低減が達成され、そして特定の態様においては事実上の除去が達成される。さらに、掃去剤を用いるプロセスが非水溶液条件の下で行われるとしても、アニオンによる荷電を行わずに用いられる種類のイオン交換樹脂は酸性不純物を吸着する性質があると考えられる。
【0011】
従って、本発明の1つの好ましい工程は、第一の濃度のイオン不純物、例えばハロゲン化物および/または遊離酸を含む非水性第四オニウム塩溶液を用意することである。
「第四オニウム塩」という用語は(RaRbRcRd)A+ と表すことのできるカチオンを有する塩を意味し、ここでAはPまたはNであり、そしてRa、Rb、RcおよびRdは、互いに独立して、C1−C12アルキル、C2−C20不飽和複素環式構造の一員(member)、または単結合、二重結合あるいは非局在化パイ結合であり、ただしこれらの結合の組み合わせにより四価のNまたはPが生じる。
【0012】
ここで用いられる「塩」という用語は、化合物の結晶構造と、それが溶媒中に溶解しているときの化合物の両者を含む。
ここで用いられる「塩の溶液」という用語は、溶媒中に少なくとも部分的に溶解している少なくとも1つの塩を含む溶液を意味する。
【0013】
ここで用いられる「液体のオニウム塩」という用語は、溶媒を用いることなく少なくとも一部分が解離しうる塩を意味する。例えば、ここで記述される幾つかの第四オニウム塩は、室温において液体であって一部分は解離もするような低い融点を有し、従って他の何らの物質(溶媒など)が存在しなくても導電性である。このような液体の塩は当分野において「イオン液体」とも呼ばれる。
【0014】
ここで用いられる「オニウム塩」という用語は、単一のオニウム塩の組成物に限定されず、複数の異なるオニウム塩を含んでいてもよい。
「ハロゲン化物」という用語については、これはフルオリド、クロリド、ブロミド、ヨージド、またはこれらの組み合わせのイオンを意味する。「遊離酸」という用語については、これはプロトンであって、対イオンを伴う解離したプロトンとして通常存在するか、あるいは非解離酸の分子の形のものを意味する。
【0015】
好ましくは、本発明に従う第四オニウム塩は、それらの導電性、溶解性および電気化学的な安定性に基づいて選択される。本発明とともに実施することのできる第四オニウム塩は、好ましくは [A+R4][Z-] の式を有し、ここでAは窒素やリンなどの三価の原子であり、Rは独立して、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、または5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の環式構造または複素環式構造の一員、または多環式構造の一員である。特に好ましいものは、次の式I、II、IIIまたはIVに従う第四オニウム塩である:
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
および
【0020】
【化4】

【0021】
ここで、
Aは窒素またはリンであり;
nおよびmは独立して0または1であり;
Any は単結合、二重結合または芳香結合であり;
R1−R4 、R10 、R15 、R24およびR25は独立して、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の環式構造または複素環式構造の一員、または多環式構造(例えばスピロ構造、縮合構造または橋かけ構造、またはこれらの組み合わせ)の一員であり;
R5−R9 、R11−R14 、R16−R23は独立して、H、F、Cl、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の環式構造または複素環式構造の一員、または多環式構造(例えばスピロ構造、縮合構造または橋かけ構造、またはこれらの組み合わせ)の一員であり;
D1−D9は独立して炭素、窒素、硫黄または酸素であって、ただし:
D1−D5のうちの少なくとも三つは炭素であり;
D6−D9のうちの少なくとも二つは炭素であり;
D環の構成員(member)が炭素であるとき、その対応するR基についてnは1であり;
D環の構成員が窒素、酸素または硫黄であるとき、その対応するR基についてnは0であり;
いずれかの二つの隣接するD構成員の間の結合は単結合、二重結合または芳香結合であり;
Aとその二つの隣接するD構成員のいずれかとの間の結合は単結合、二重結合または芳香結合であって、ただしAは四価で結合されていて;
D10−D13は独立して炭素、窒素、硫黄または酸素であって、ただし:
D10−D13のうちの少なくとも二つは炭素であり;
D環の構成員が炭素であるとき、それらの対応するR基についてnとmは1であり;
D環の構成員が窒素であるとき、それらの対応するR基についてnは1で、mは0であり;
D環の構成員が酸素または硫黄であるとき、それらの対応するR基についてnとmは0であり;
Zは負に荷電した電気化学的に安定なアニオンであり、例えば、BF4-、[BFx(CyF2y+1-zHz)4-x]n-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1<x<3、1≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、PF6-、[PFx(CyF2y+1-zHz)6-x]-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1≦x≦5、3≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、CF3SO3-、SbF6-、N(SO2CF3)2-、C4H3O4-、ClO4-、その他同種類のものである。
【0022】
式Iでの構造の化合物は、溶媒中に溶解したときに、好ましくは、4つの有機基が結合した中心の窒素またはリンの原子を有するカチオンと、負に荷電した電気化学的に安定なアニオンを形成する第四オニウム塩である。特定の態様において、中心の原子に付加した有機基は、独立して、C1−C12アルキルまたはC1−C12フルオロアルキルである。第四アルキルアンモニウムカチオンを構成するアルキル基の例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、その他同種類のもの、および、この非置換アルキル基に含まれる1つまたは2つ以上の水素原子がフッ素などの置換基で置換されたもの(例えばトリフルオロメチル基または2,2,2トリフルオロエチル基)、アリール基(例えばフェニル、その他同種類のもの)、アミノ基(例えばジメチルアミノ、その他同種類のもの)、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アシル基(例えばホルミル、アセチル、その他同種類のもの)、アルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ基、2-メトキシエトキシ、その他同種類のもの)、または例えば、ヒドロキシル基(例えば1-メトキシエチル基)、2-(ジメチルアミノ)エチル基、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、2-メトキシエチル基、2-,2-(2-メトキシエトキシ) エチル基、その他同種類のものである。環状の基(cyclic group)を形成する2つのアルキル基の例は、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレンおよびジ(2-エトキシ)エーテル基である。
【0023】
好ましくは、カチオンは、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラ-n-プロピルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム、テトラ-n-ペンチルアンモニウム、テトラ-n-ヘキシルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、2,2,2トリフルオロエチルトリメチルアンモニウム、2,2,2トリフルオロエチルトリエチルアンモニウム、エチルトリ(トリフルオロメチル)アンモニウム、メチルトリ(トリフルオロメチル)アンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、トリメチル(2-メトキシエチル) アンモニウム、トリメチル[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]アンモニウム、メチルジエチル-(2-メチオキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2-メチオキシエチル)アンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、ジエチルジ(トリフルオロメチル)アンモニウム、ジエチルメチルトリフルオロメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メチルトリプロピルアンモニウム、エチルトリプロピルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、エチルジメチルプロピルアンモニウム、yyyジエチルメチルプロピルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム、ジメチルジプロピルアンモニウム、エチルメチルジプロピルアンモニウム、ジエチルジプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、エチルジメチルブチルアンモニウム、ジエチルメチルブチルアンモニウム、トリエチルブチルアンモニウム、トリプロピルブチルアンモニウム、ジメチルジブチルアンモニウム、エチルメチルジブチルアンモニウム、ジエチルジブチルアンモニウム、スピロ-1,1’-ビピロリジニウム、スピロ-1,1’-ビピペリジニウム、スピロ-1,1’-ピロリジニウムピペリジニウム、スピロ-1,1’-ピロリジニウムモルホリニウム、スピロ-1,1’-ピロリジニウム2-メチルモルホリニウム、スピロ-1,1’-ピロリジニウム3-メチルモルホリニウム、などである。ここで、プロピルにはn-プロピル、i-プロピルが含まれ、ブチルにはn-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチルが含まれる。特に好ましいカチオンとしては、メチルトリエチルアンモニウム、スピロ-1,1’-ビピロリジニウム、スピロ-1,1’-ビピペリジニウム、スピロ-1,1’-ピロリジニウムピペリジニウム、スピロ-1,1’-ピロリジニウムモルホリニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、トリメチル(2-メトキシエチル) アンモニウム、トリメチル[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]アンモニウムなど、プロピリルトリメチルアンモニウム、メチルジエチル-(2-メチオキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2-メチオキシエチル)アンモニウム、2,2,2トリフルオロエチルトリメチルアンモニウム、2,2,2トリフルオロエチルトリエチルアンモニウム、スピロ-1,1’-ビピロリジニウムおよびスピロ-1,1’-ビピペリジニウムがある。他の好ましい態様において、負に荷電したアニオンZはBF4-、PF6-、CF3SO3- およびN(SO2CF3)2- からなる群から選択される。
【0024】
式IIでの構造の化合物は、溶媒中に溶解したときに、負に荷電したアニオンと、場合により置換された6員の不飽和複素環式構造のカチオンを形成する第四オニウム塩であり、好ましくは1つの窒素と5つの炭素の環構成員を有するもの、例えばピリジニウム、2-メチルピリジニウム、3-メチルピリジニウム、4-メチルピリジニウム、2,6-ジメチルピリジニウム、キノリニウム、イソキノリニウム、アクリジニウムまたはフェナントリジニウム;または2つの窒素と4つの炭素の環構成員を有するもの、例えばピリダジニウム、ピリミジウム、ピラジニウムまたはフェナジニウム;1つの窒素と1つの酸素の環構成員を有するもの、例えばモルホリニウム、2-メチルモルホリニウムまたは3-メチルモルホリニウムである。特定の態様において、環の原子に付加される官能基は、独立して、フッ素、水素またはC1−C12アルキル、好ましくは独立してメチル、エチル、プロピルまたはブチルである。特定の好ましい態様において、カチオンはピリジニウムであり、アニオンはテトラフルオロボレートである。
【0025】
式IIIでの構造の化合物は、溶媒中に溶解したときに、好ましくは、負に荷電したアニオンと、場合により置換された5員の不飽和複素環式構造のカチオンを形成する第四オニウム塩であり、好ましくは1つまたは2つのいずれかの窒素の環構成員を有するもの、例えばピロリウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、インドリウム、イソインドリウム、キナゾリニウムまたはインドゾリウム;3つの窒素の環構成員を有するもの、例えばトリアゾリウム;1つの窒素と1つの硫黄の環構成員を有するもの、例えばチアゾリウム;または1つの窒素と1つの酸素の環構成員を有するもの、例えばオキサゾリウムである。特定の態様において、環の原子に付加される官能基は、独立して、フッ素、水素またはC1−C12アルキル、好ましくは独立してメチル、エチル、プロピルまたはブチルである。さらに好ましくは、カチオンはジエチルイミダゾリウム、エチルメチルイミダゾリウムまたはブチルメチルイミダゾリウムであり、そしてアニオンはテトラフルオロボレート、CF3SO3- またはN(SO2CF3)2- である。
【0026】
式IVでの構造の化合物は、溶媒中に溶解したときに、好ましくは、負に荷電したアニオンと、場合により置換された5員の不飽和複素環式構造のカチオンを形成する第四オニウム塩であり、好ましくは1つまたは2つのいずれかの窒素の環構成員を有するもの、例えばピロリジニウム、ピラゾリジニウム、イミダゾリジニウム、インドリニウム、イソインドリニウム;3つの窒素の環構成員を有するもの、例えばトリアゾリウム;1つの窒素と1つの硫黄の環構成員を有するもの、例えばチアゾリウム;または1つの窒素と1つの酸素の環構成員を有するもの、例えばオキサゾリウムである。特定の態様において、環の原子に付加される官能基は、独立して、フッ素、水素またはC1−C12アルキル、好ましくは独立してメチル、エチル、プロピル、ブチルまたは環状アルキルであり、好ましくは独立してピロリジニウム、ピペリジニウムまたはモルホリニウムであり、これによりスピロ化合物を形成するものである。
【0027】
さらに好ましくは、カチオンはジエチルピロリジニウム、エチルメチルピロリジニウム、プロピルメチルピロリジニウム、ブチルメチルピロリジニウム、スピロ-1,1’-ビピロリジニウム、スピロ-1,1’-ビピペリジニウム、スピロ-1-ピロリジニウム1’-ピペリジニウムまたはスピロ-1-ピロリジニウム1’-モルホリニウムであり、そしてアニオンはテトラフルオロボレートである。
【0028】
好ましくは、塩の溶液は導電性の電解質を形成する。特定の好ましい態様において、非水溶液中のオニウム塩の濃度は少なくとも約0.5モル/L、より好ましくは少なくとも約1.0モル/Lである。
【0029】
本発明の特定の好ましい塩溶液は、少なくとも1つの非水溶媒中に溶解した上述の第四オニウム塩のうちの1つを含む。特定の他の好ましい塩溶液は、少なくとも1つの非水溶媒中に溶解した少なくとも2つの第四オニウム塩の組合せを含む。特に好ましい塩の組合せとしては、イミダゾリウムテトラフルオロボレートとピラゾリウムテトラフルオロボレートの組合せ;メチルトリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートとエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートの組合せ;メチルトリエチルアンモニウムテトラフルオロボレートとエチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートの組合せ;エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとエチルメチルピラゾリウムテトラフルオロボレートの組合せ;およびメチルトリエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートおよびエチルメチルピラゾリウムテトラフルオロボレートの組合せがある。
【0030】
非水溶液中の有機溶媒は好ましくは、有機環状カーボネート、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、その他同種類のもの;有機線状カーボネート、例えばジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、その他同種類のもの;ガンマ-ブチルロラクトン;スルホランまたはこれの何らかの誘導体;ニトリル、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、その他同種類のもの;ジニトリル、例えばグルタロニトリル、その他同種類のもの;およびこれらの組合わせからなる群から選択される少なくとも1つの溶媒である。
【0031】
特定の態様において、低純度の第四オニウム塩中のハロゲン化物の濃度は、20重量パーセント超とすることができる。多くの態様において、少なくとも一部においては、100万部当り約5000部(ppm)以下のハロゲン化物の含有量を有する低純度の溶液が好ましく、というのは、そのような溶液はカラムからなる小型の装置において本発明を実施することを可能にするからである。特定の態様において、約20〜約2000ppmのハロゲン化物の含有量を有する低純度の溶液がさらに好ましい。100万部当り約20部以下のハロゲン化物の濃度を有する第四オニウム塩溶液が、本明細書において用いられる用語として一般的に純粋であると考えられ、そしてそれは本発明の好ましい態様に従って長い寿命を与える生成物のために一般的に許容できる。
【0032】
さらに、上述の適用の特定のものについては酸性の不純物が重要であることを出願人は見いだした。幾つかの態様において、低純度の第四オニウム塩の液体における遊離酸の濃度を10重量パーセント超とすることができる。実際には、少なくとも一部においては、100万部当り約5000部以下の遊離酸の含有量を有する対応する低純度の液体が好ましく、というのは、そのような液体はカラムからなる小型の装置において本発明を実施することを可能にするからである。さらに好ましいものは、100万部当り約20〜約2000部の遊離酸の含有量を有する低純度の溶液である。100万部当り約30部以下の遊離酸の濃度を有する第四オニウム塩溶液が、本明細書において用いられる用語として一般的に純粋であると考えられ、そしてそれは本発明に従って長い寿命と非腐食性を達成するために一般的に目標とされる。
【0033】
本発明の別の好ましい工程は、電気化学的に安定なアニオンで荷電したイオン交換材料を用意することである。
好ましくは、イオン交換材料は、この交換材料に付加したイオン(すなわち、電子を失うか、あるいは電子を得て、それによって電荷を帯びた原子または分子)を、溶液から同様に荷電したイオンに対して交換することのできるものである。イオン交換材料は一般に、原子価または電荷が増大するのに伴って、イオンに対する選択性が大きくなる。同じ電荷を有するイオンのうちでは、一般に、原子番号が大きいほど、イオンに対する親和力が大きくなる。これらの親和力の関係は濃縮した溶液においては逆転し、それにより交換材料の再生が可能になる。
【0034】
本発明のために適したイオン交換材料としては、限定はされないが、固定した交換部位を有する材料と、可動の交換部位を有する材料がある。固定したイオン交換部位を有する適当な材料の例としては、限定はされないが、反応媒体中で本質的に不溶性の固体の3次元ポリマー網状構造を形成する樹脂がある。可動のイオン交換部位を有する適当な材料の例としては、限定はされないが、反応媒体中で本質的に不溶性の液体のポリカチオン塩があり、例えばポリアンモニウムイオン液体スルホンアミド(PILS)、その他同種類のものである。樹脂は一般に、この交換材料から所望の生成物を容易に分離することができるので好ましい。
【0035】
樹脂はビーズの形で典型的に合成によって製造される固体の有機物粒子であり、樹脂の単位当り最大の量の交換を示す明確な数の固定したイオン部位を有する。本発明に従う好ましい樹脂は弱塩基性アニオン樹脂およびタイプ-1の強塩基性アニオン樹脂であり、これはスチレン-ジビニルベンゼン(DVB)コポリマーを主成分とし、ゲル構造またはマクロポーラス(macroporous)な物理的構造のいずれかを有する。ゲル樹脂は一般に、ビーズの全体に均一に分布した交換部位を有する均質な架橋ポリマーである。マクロポーラス樹脂はゲル樹脂よりも比較的大きな細孔のスポンジ状の構造を有し、従って内部の交換部位への接近を可能にする。マクロポーラス樹脂はゲルと比較して良好な物理的安定性を有するが、ゲル樹脂は典型的に良好な操作効率を有し、また低コストである。従って、最も適切な樹脂を決定することは、関連する特定の用途に依存し、当業者であれば、本明細書に含まれる教示を考慮して過度の実験を行わずに容易にそのような決定を行うことができる。
【0036】
イオン交換樹脂は好ましくは、形が概ね球形であり、また消耗と再生の間の樹脂ビーズの膨張と収縮に適応させるために実質的に類似しているかあるいは均一な寸法を有しているのが好ましい。平均のビーズ寸法は好ましくは、約2000〜約250μmであり、より好ましくは約900〜約250μmである。
【0037】
本発明に従うスチレン-DVB樹脂は、当分野で知られた方法によって製造することができる。これらの樹脂は商業的に入手することもできて、例えば、Dow ChemicalのDOWEX 21K Cl、DOWEX 21K XLT、DOWEX M43およびMarathon WBA;Rohm & HaasのAmberjet 4200;Amberjet 4600 Cl;Amberlite IRA-67、Amberlite IRA-96、Amberlite IRA-743、Amberlite IRA-900 Cl、Amberlyst A21、Duolite A7;およびLanxessのLewatit Monoplus M500、MP-62およびMP-64がある。
【0038】
ハロゲン化物の低減工程について、樹脂は好ましくは、使用する前にアニオンで荷電される。この荷電プロセスによって負に荷電したイオンが樹脂に付与され、次にこの樹脂は、精製されるべき塩溶液の中の同様に荷電したイオンとの交換のために利用できる。従って、このプロセスで利用される溶液は好ましくは、その塩溶液から除去されることが求められているハロゲン化物イオン不純物よりも電気化学的に安定な樹脂にアニオンを供給する。特定の好ましい態様において、樹脂は酸性溶液で荷電され、このとき酸のアニオンが樹脂に付加する。
【0039】
遊離酸の低減工程については、樹脂は、使用する前に荷電されない弱塩基性樹脂のタイプの場合か、または、クロリドを含有する強塩基性樹脂のタイプであって、例えば苛性ソーダ、水および適当な溶媒で調整されている場合である。従って、このプロセスで利用される樹脂は好ましくは、溶液から遊離酸を吸着によって除去する。
【0040】
イオン交換樹脂は、本発明で用いるために適合可能なあらゆる形態で供給することができる。例えば、特定の好ましい態様において、これらの樹脂は、平行に、またはより好ましくは直列に配置することのできる1以上の、好ましくは複数のイオン交換カラムの中のものとして供給される。本発明の他の態様は、固定されているか、または流動するイオン交換床の中のものとして供給される樹脂を含む。
【0041】
本発明はまた、好ましい態様において、塩溶液をイオン交換材料と接触させ、これによりハロゲン化物の第一の濃度よりも低いハロゲン化物の第二の濃度を有する第四オニウム塩溶液を生成させる工程を含む。
【0042】
好ましくは、イオン交換材料は、除去されるべきハロゲン化物イオンよりも、テトラフルオロボレートなどの電気化学的により安定なイオンに対して、大きな選択性を有する。出願人は作用についての何らかの特定の理論に拘束されるか、あるいはそれに従うことを意図していないが、同じ電荷を有するイオンに対しては、交換材料は原子番号がより大きいか、あるいはより大きなサイズを有するイオンにくみする(favor)傾向がある、と考えられる。図5を参照すると、水溶液中のアニオンのイオンクロマトグラフィーにより、弱く吸着されたアニオンは強く吸着されたアニオンよりも早く溶離されることが示される。グラフは、フルオリドが最初に溶離され、それに続いてクロリド、ニトレート、モノハイドロジェンホスフェート(monohydrogenphosphate)、スルフェート、テトラフルオロボレートおよびヨージドが溶離されることを説明する。従って、過剰なテトラフルオロボレートの存在下ではクロリドは吸着されないだろうし、従って、クロリドは一般に、テトラフルオロボレートを含有する水溶液から除去することはできない。同様に、加水分解するテトラフルオロボレートのアニオンの現場(in-situ)形成のために、過剰なテトラフルオロボレートの存在下ではフルオリドは一般に除去することはできない。
【0043】
しかしながら、予期せざることに、本発明の好ましい面によれば、交換が非水溶液中で行われる場合は、アニオン交換材料はハロゲン化物イオンに対して大きな親和性を有する。この予期せざる性質は交換の方向の逆転を可能にし、それにより、交換材料は塩溶液からハロゲン化物のアニオンを除去し、これはハロゲン化物のアニオンが非常に低い濃度で存在する場合であっても可能である。
【0044】
特定の好ましい態様において、精製された塩溶液のハロゲン化物濃度(すなわち第二の濃度)は未精製の塩溶液の濃度(すなわち第一の濃度)の約10パーセントよりも低い。他の好ましい態様において、塩溶液中のハロゲン化物の第二の濃度は重量で100万部当り約100部未満であり、より好ましくは重量で100万部当り約5部未満であり、さらに好ましくは重量で100万部当り約1部未満である。さらに、特定の好ましい態様において、本発明の工程(a)から(c)は、塩溶液中のハロゲン化物の濃度を反復して低減させるために、1以上の回数繰り返してもよい。好ましくは、これらの工程は1回繰り返され、より好ましくは、これらの工程は2回以上繰り返される。
【0045】
本発明に従う非水溶媒を含む塩溶液についてのハロゲン化物の交換効率は、この塩溶液が重量で100万部当り約1000部以下の残留含水量を有する場合に、一般的に高い。従って、特定の好ましい態様において、交換プロセスにおける塩溶液は約5重量パーセント以下、さらに好ましくは約1000ppm以下の残留含水量を有する。ここで用いられる「残留含水量」という用語は、イオン交換樹脂のポリマー網状構造における含水量を指す。このような態様について、場合により、残留水の少なくとも一部は、ハロゲン化物イオンの濃度を低減させる工程の前かまたはその工程の間に、乾燥プロセスによって除去される。当分野で知られる幾つかの乾燥プロセスを本発明に適用できて、それにはモレキュラーシーブ乾燥や共沸蒸留がある。
【0046】
精製された塩溶液は通常の方法によってさらに希釈するかあるいは濃縮することができ、あるいは例えば電気化学セルに充填するものとして用いることができ、あるいは化学合成反応における反応媒体として作用させるものとして用いることができ、あるいは精製された塩を、溶液から溶媒を除去することによって単離することができる。
【0047】
イオン不純物の低減は回分操作として行うことができ、これは通常、多段階のプロセスまたは連続プロセスとして、当業者によって知られるカラム装置を用いて行われる。さらに、この低減させる工程を、単独に、または連続して、例えばリードラグ(lead-lag)設備またはメリーゴーラウンド設備で行うことができる。この手順は、適切に状態調節される樹脂の少なくとも1つのタイプのものを必要とする。
【0048】
実施例
以下の実施例は本発明の特定の好ましい態様を説明して例示するものであるが、本発明の広い範囲をどのようなやり方でも限定することは意図されていない。
【0049】
実施例1〜3および比較例A
荷電したアニオン交換樹脂の調製
100gの荷電したスチレンのマクロポーラスアニオン交換樹脂(DOWEX M-43の商品名で販売されている)が用意される。この樹脂は300mlのホウフッ化水素酸(濃度:10%)と均質に接触され、これは、樹脂をその溶液に添加し、そして1時間混合することによって行われる。次いで、液体は樹脂から分離された。ホウフッ化水素酸(濃度:10%)の新しい300gのバッチが用意され、最初の分離工程からの樹脂に前の通りに添加され、そして混合される。次いで、この第二の混合工程からの液体が樹脂から分離される。第二の分離の後、樹脂は250mlの水で4回洗浄される。最後の洗浄水のpHは6であった。樹脂は減圧下の40℃以下の温度で数日間乾燥された。
【0050】
イオンの交換
乾燥していて酸素を含まないアルゴン雰囲気のグローブボックスの中で、不純物を含むアセトニトリル中のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEA-BF4)の1モル溶液(WO 2004/039761に記載されているもの)であって、100万部当り292部の含水量を有する溶液300gが、上記のようにして調製された荷電したアニオン交換樹脂5.6gを用いて1時間攪拌される。次いで、固体のアニオン交換樹脂からTEA-BF4の溶液が取り出され、そしてこの溶液の試料が取り出されて、20ppm未満の望ましい含水量になるまで乾燥される。溶液の最終的な水分の含有量がカールフィッシャー滴定法によって測定され、またハロゲン化物の含有量がイオンクロマトグラフィーによって測定される。
【0051】
試料溶液の電気化学的な安定性を評価するために、試料はサイクリックボルタンメトリー(CV)に供され、それによってその「電圧ウインドー(voltage window)」が測定される。電圧ウインドーを測定するために、試料は、作用電極、対極(補助電極)および試験電極を有するセルの中に置かれる。試験電極は作用電極に近接しているが、これに触れてはいない。セルの中の電極は周期電圧を印加する装置に接続されるが、この装置はポテンシオスタットと呼ばれ、作用電極と参照電極の間の「所望の電圧」を維持するために、作用電極と対極の間の電流を調節するように構成される。参照電極と作用電極の間の電圧は、プログラム化された方法で時間の関数として変化しうる。所望の電圧を維持するために作用電極と対極を制御するのに要する電流の急な増大があるまで、(正の方向と負の方向の両方へ)所望の電圧を次第に増大させることによって、電圧ウインドーが測定される。最後の電圧における電流の急な上昇は概して電解液の破壊電圧(breakdown voltage)を示し、これは、塩または溶媒が負の最終電圧において不可逆的で破壊的な還元反応を受けつつあるか、あるいは正の最終電圧において酸化反応を受けつつあることを意味する。
【0052】
このイオン交換の手順は、溶液を用いて2回および3回反復的に繰り返される。それぞれの回において試料が取り出されて、乾燥され、そして同様にして特徴づけが行われる。
同じ原料から同様の方法で対照の材料が調製されたが、ただしそれに対しては、乾燥する前にアニオン交換樹脂による処理が何もなされなかった。
【0053】
【表1】

【0054】
上の表に示すように、樹脂はF、ClおよびBrの濃度を共に低減させる。しかし、本発明の方法はこれらのイオンだけを低減させることにとどまらず、実際にはスルフェートと共に全てのハロゲン化物イオンを低減させることができる、と理解される。
【0055】
実施例4〜6
強塩基性掃去剤樹脂の調製
100gの荷電したスチレンのマクロポーラスアニオン交換樹脂(Amberjet 4600 Clの商品名で販売されている)が用意される。この樹脂は300mlの苛性ソーダ(濃度:5%)と均質に接触され、これは、樹脂をその溶液に添加し、そして1時間混合することによって行われる。次いで、液体は樹脂から分離された。苛性ソーダ(濃度:5%)の新しい300mlのバッチが用意され、最初の分離工程からの樹脂に前の通りに添加され、そして混合される。次いで、この第二の混合工程からの液体が樹脂から分離される。第二の分離の後、樹脂は250mlの水で4回洗浄される。樹脂は300mlの有機溶剤(例えばアセトニトリル)で洗浄され、そして減圧下の40℃以下の温度で数日間乾燥された。
【0056】
弱塩基性酸掃去剤樹脂の調製
100gの荷電したスチレンゲルのアニオン交換樹脂(Duolite A7の商品名で販売されている)が用意される。この樹脂は250mlの水で4回洗浄される。樹脂は300mlの有機溶剤(例えばアセトニトリル)で洗浄され、そして減圧下の40℃以下の温度で数日間乾燥された。
【0057】
遊離酸の低減
乾燥していて酸素を含まないアルゴン雰囲気のグローブボックスの中で、不純物を含むアセトニトリル中のテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート(TEA-BF4)の1モル溶液(WO 2004/039761に記載されているもの、これの内容は本明細書中に参考文献として援用される)であって、100万部当り292部の含水量を有する溶液300gが、上記のようにして調製された弱塩基性アニオン交換樹脂5.6gを用いて1時間攪拌される。次いで、樹脂からTEA-BF4の溶液が取り出され、そしてこの溶液の試料が取り出されて、20ppm未満の望ましい含水量になるまで乾燥される。溶液の最終的な水分の含有量がカールフィッシャー滴定法によって測定され、また遊離酸の含有量が滴定によって測定される。下の表に示すように、樹脂は遊離酸の濃度を共に低減させる。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例7〜9および比較例B
上記のプロセスが繰り返されるが、ただし、アニオン交換樹脂は、十分な容量の無水アセトニトリルで樹脂を洗浄して水を抽出することによって乾燥される。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例10〜13
実施例3についてのプロセスが繰り返されるが(3回の処理)、ただし、アニオン交換プロセスのためのTEA-BF4の溶液は、交換プロセスが行われる間、異なる濃度の水を含有する。
【0062】
【表4】

【0063】
これらの実施例は、交換プロセスの間の異なる水の濃度は、樹脂上でのクロリドに対するBF4の交換の選択性を変化させないことを証明する。
実施例14〜16および比較例C
実施例1〜3についてのプロセスが繰り返されるが、ただし、アニオン交換プロセスのためのTEA-BF4の溶液は乾燥され、従ってそれは、樹脂で攪拌される前に100万部当り20部未満の水を含有する。
【0064】
【表5】

【0065】
これらの実施例は、100万部当り20部の水の含有量におけるイオン交換の反応性は、500ppmの水の含有量におけるイオン交換の反応性よりも低いことを証明する。
実施例17〜30
実施例3についてのプロセスが繰り返されるが、ただし、様々なアニオン交換樹脂が用いられる。
【0066】
【表6】

【0067】
これらの実施例は、イオン交換のプロセスが特定のイオン交換樹脂に限定されないことを証明する。
実施例31〜33
実施例1についてのプロセスが繰り返されるが、ただし、TEA-BF4の溶液を5.6gの荷電したアニオン交換樹脂で1時間攪拌する代わりに、溶液は250mlのイオン交換カラムに様々な流量で通される。
【0068】
【表7】

【0069】
これらの実施例は、イオン交換のプロセスを回分操作または連続操作で実施できることを証明する。
実施例34〜36
実施例3についてのプロセスが繰り返されるが、ただし、様々な濃度のTEA-BF4の溶液が荷電したアニオン交換樹脂と混合される。
【0070】
【表8】

【0071】
これらの実施例は、イオン交換のプロセスを高濃度の一致するBF4アニオンの存在下で実施できることを証明する。
実施例37〜39
実施例3についてのプロセスが繰り返されるが、ただし、TEA-BF4の溶液を調製するためにアセトニトリル以外の溶媒が用いられる。
【0072】
【表9】

【0073】
これらの実施例は、アセトニトリルを含まない溶液中でイオン交換のプロセスを実施できることを証明する。
実施例40〜58
実施例3についてのプロセスが繰り返されるが、ただし、電解液を調製するのにTEA-BF4以外の塩が用いられる。
【0074】
【表10】

【0075】
これらの実施例は、様々な第四オニウム塩溶液を用いてイオン交換のプロセスを実施できることを証明する。
本発明の幾つかの特定の態様を説明したが、当業者であれば様々な変更、修正および改良を容易に思いつくであろう。この開示によって自明になるものとしてのそのような変更、修正および改良は、ここで明白には述べられていないが、この明細書の一部であることが意図されていて、またそれらは本発明の精神と範囲に含まれることが意図されている。従って、以上の説明は例示のためだけのものであって、限定的なものではない。本発明は、添付した特許請求の範囲に明示されているものとその同等物だけに限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四オニウム塩を精製する方法であって、オニウム塩と第一の濃度のイオン不純物とを含む組成物をイオン交換材料と接触させ、これにより第四オニウム塩と第二の濃度のイオン不純物とを含む組成物を生成させる工程を含み、このときイオン不純物の前記第二の濃度はイオン不純物の前記第一の濃度よりも低い、前記方法。
【請求項2】
前記塩は:
(a)[A+R4][Z-] の式を有する1以上のカチオン、ここでAは窒素やリンなどの三価の原子であり、Rは独立して、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、または5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の環式構造または複素環式構造の一員、または多環式構造の一員である;および
(b)BF4-、[BFx(CyF2y+1-zHz)4-x]n-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1<x<3、1≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、PF6-、[PFx(CyF2y+1-zHz)6-x]-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1≦x≦5、3≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、CF3SO3-、SbF6-、N(SO2CF3)2-、C4H3O4-、ClO4-、その他同種類のものからなる群から選択される1以上のアニオン;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第四オニウム塩は次の式:
【化1】

を有し、ここで
Aは窒素またはリンであり;
R1−R4は独立してC1−C12アルキルであり;そして
Zは、BF4-、[BFx(CyF2y+1-zHz)4-x]n-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1<x<3、1≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、PF6-、[PFx(CyF2y+1-zHz)6-x]-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1≦x≦5、3≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、CF3SO3-、SbF6-、N(SO2CF3)2-、C4H3O4-、ClO4-、その他同種類のものからなる群から選択される負に荷電した電気化学的に安定なアニオンである;
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第四オニウム塩は次の式:
【化2】

を有し、ここで
Aは窒素またはリンであり;
nは独立して0または1であり;
R10は置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の複素環式構造の一員、または多環式構造の一員であり;
R5−R9は独立して、H、F、Cl、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の複素環式構造の一員、または多環式構造(例えばスピロ構造、縮合構造または橋かけ構造、またはこれらの組み合わせ)の一員であり;
D1−D5は独立して炭素、窒素、硫黄または酸素であって、ただし:
D1−D5のうちの少なくとも三つは炭素であり;
D環の構成員が炭素であるとき、その対応するR基についてnは1であり;
D環の構成員が窒素、酸素または硫黄であるとき、その対応するR基についてnは0であり;
いずれかの二つの隣接するD構成員の間の結合は単結合、二重結合または芳香結合であり;
Aとその二つの隣接するD構成員のいずれかとの間の結合は単結合、二重結合または芳香結合であって、ただしAは四価で結合されていて;そして
Zは負に荷電した電気化学的に安定なアニオンである;
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第四オニウム塩は次の式:
【化3】

を有し、ここで
Aは窒素またはリンであり;
nは独立して0または1であり;
R15は置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の複素環式構造の一員、または多環式構造の一員であり;
R11−R14は独立して、H、F、Cl、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の複素環式構造の一員、または多環式構造の一員であり;
D6−D9は独立して炭素、窒素、硫黄または酸素であって、ただし:
D6−D9のうちの少なくとも二つは炭素であり;
D環の構成員が炭素であるとき、その対応するR基についてnは1であり;
D環の構成員が窒素、酸素または硫黄であるとき、その対応するR基についてnは0であり;
いずれかの二つの隣接するD構成員の間の結合は単結合、二重結合または芳香結合であり;
Aとその二つの隣接するD構成員のいずれかとの間の結合は単結合、二重結合または芳香結合であって、ただしAは四価で結合されていて;そして
Zは、BF4-、[BFx(CyF2y+1-zHz)4-x]n-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1<x<3、1≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、PF6-、[PFx(CyF2y+1-zHz)6-x]-(ここで配位子 (CyF2y+1-zHz) は同一であっても異なっていてもよく、1≦x≦5、3≦y≦8および0≦z≦2y+1である)、CF3SO3-、SbF6-、N(SO2CF3)2-、C4H3O4-、ClO4-、その他同種類のものからなる群から選択される負に荷電した電気化学的に安定なアニオンである;
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第四オニウム塩は次の式:
【化4】

を有し、ここで
Aは窒素またはリンであり;
nおよびmは独立して0または1であり;
R24およびR25は独立して、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の複素環式構造の一員、または多環式構造(例えばスピロ構造、縮合構造または橋かけ構造、またはこれらの組み合わせ)の一員であり;
R16−R23は独立して、H、F、Cl、置換または非置換C1−C12アルキル、置換または非置換フルオロアルキル、5員あるいは6員の飽和、不飽和または芳香族の複素環式構造の一員、または多環式構造(例えばスピロ構造、縮合構造または橋かけ構造、またはこれらの組み合わせ)の一員であり;
D10−D13は独立して炭素、窒素、硫黄または酸素であって、ただし:
D10−D13のうちの少なくとも二つは炭素であり;
D環の構成員が炭素であるとき、それらの対応するR基についてnとmは1であり;
D環の構成員が窒素であるとき、それらの対応するR基についてnは1で、mは0であり;
D環の構成員が酸素または硫黄であるとき、それらの対応するR基についてnとmは0であり;
Zは負に荷電した電気化学的に安定なアニオンである;
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン不純物はフルオリドイオン、クロリドイオン、ブロミドイオン、ヨージドイオン、遊離酸、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第二のイオン不純物濃度は重量で100万部当り約5部未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第四オニウム塩の溶液は、イオン交換樹脂と接触するとき、100万部当り約10部と約5重量パーセントの間の初期の残留含水量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩は電気化学セルにおいて用いるために適合される、請求項1に従って精製された第四オニウム塩。
【請求項11】
前記塩は化学合成のための反応媒体において用いるために適合される、請求項1に従って精製された第四オニウム塩。
【請求項12】
第四オニウム塩を単離する方法であって:
(a)請求項1の方法に従って第四オニウム塩を精製する工程;および
(b)精製された塩を単離するために前記溶媒を除去する工程;
を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232993(P2012−232993A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−156737(P2012−156737)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【分割の表示】特願2007−558303(P2007−558303)の分割
【原出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】