説明

第四級アンモニウム化合物と、その抗ムスカリン性剤としての使用

式(I)の新規な第四級アンモニウム化合物と、その任意の立体異性体。式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びX-は本願に定義されている。この化合物は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)と称される呼吸障害の群、アレルギー性鼻炎、風邪による鼻漏、及び泌尿器系疾患を治療するための医薬として有用である。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新種の第四級アンモニウム化合物と、この化合物を含有する薬剤組成物と、この化合物の医薬としての使用と、特定の医薬の製造におけるこの化合物の使用方法とに関する。本発明は、この化合物の投与に関連する治療方法にも関する。
【0002】
この新規な化合物は、ムスカリン性受容体拮抗薬として有用である。より詳細には、この化合物は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease(COPD))と称される呼吸障害の群、アレルギー性鼻炎、風邪による鼻漏、及び泌尿器系疾患の治療に有用である。
【背景技術】
【0003】
「喘息」は、気道周囲の筋肉の炎症(膨張)及び引き締まりによって発生する気管支収縮(気道の狭まり)を原因とする慢性肺疾患である。炎症はまた、粘液の生成量を増大させて咳を長時間に亘り継続させる場合がある。喘息は一般に、反回性の無呼吸症状の発現、喘鳴、咳、及び憎悪と称される胸部圧迫感に特徴付けられる。憎悪の深刻さの程度は、軽いものから生死に関わるもの迄存在し得る。憎悪は、例えば呼吸器感染、埃、カビ、花粉、冷気、運動、ストレス、煙草の煙、及び大気汚染物質などに晒される結果、発症し得る。
【0004】
「COPD」とは慢性閉塞性肺疾患を意味し、主として過去及び現在の喫煙と関連する。「COPD」は、主として、気腫及び慢性気管支炎と関連した気道の閉塞を意味する。気腫は肺の空気嚢を弱化し破壊して、不可逆的な肺損傷を引き起こす。慢性気管支炎は炎症疾患であり、気道の粘液を増加させて、気管支内を細菌感染させる結果、気道を閉塞させる。
【0005】
「アレルギー性鼻炎」は、花粉症を含む急性鼻炎、即ち鼻炎を意味する。アレルギー性鼻炎は花粉又は埃などのアレルゲンを原因とし、鼻、喉、目、及び耳において、くしゃみ、鼻づまり、鼻水、及び痒みを生じさせる場合がある。
【0006】
「感染性鼻炎」は、病原菌を原因とする急性鼻炎、即ち鼻炎を意味する。感染性鼻炎は、感染性ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、アデノウイルス、コサッキーウイルス、エコウイルス、又はA群β溶連菌を原因とするもので、一般に風邪と称される上気道感染症により発症する。感染性鼻炎はくしゃみ、鼻づまり、鼻水、及び鼻、目、耳に痒みを引き起こし得る。
【0007】
「泌尿器系疾患」とその症状とは、以下の幾つか又は全部を含む:尿意切迫感、頻尿、尿失禁、尿洩れ、遺尿、排尿困難、尿が出にくいこと、及び膀胱の排出困難。特に、泌尿器系疾患は、例えば不安定膀胱又は過活動膀胱を原因とする尿失禁を含む。
【0008】
過活動膀胱は、泌尿器系疾患の異型を包含し、それらは過活動排尿筋(排尿筋の不安定性、排尿筋過反射)及び神経性尿意促迫を含み、また過活動排尿筋の症状、例えば急迫性尿失禁、尿意切迫感、頻尿、及び尿放出の遅延、排尿後の尿滴下、排尿困難及び/又は許容される速度で排尿するための緊張の必要性等の閉塞性泌尿器症状を含むLUTS(下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptoms)、又は頻尿及び/又は尿意切迫感等の刺激症状を含む。
【0009】
より多数の個人の生活の質をさらに改善する新規な薬剤化合物の開発が所望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これら及び他を目的として、本発明の目的は、喘息の治療のための非常に有効な薬剤化合物を提供することにある。
本発明の目的はまた、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療のための非常に有効な薬剤化合物を提供することにある。
本発明の目的はまた、アレルギー性鼻炎の治療のための非常に有効な薬剤化合物を提供することにある。
本発明の目的は、風邪を原因とする鼻漏を治療するための非常に有効な薬剤化合物を提供することにある。
本発明の目的は、泌尿器系疾患の治療のための非常に有効な薬剤化合物を提供することにある。
本発明の目的はまた、肺投与の際に、肺内で延長された滞留時間を有する、薬剤的に有効な3,3−ジフェニルプロピルアミン誘導体を提供することにある。
本発明の別の目的は、延長された全身暴露及び作用の持続時間を有する、薬剤的に有効な3,3−ジフェニルプロピルアミン誘導体を提供することにある。
本発明の目的は、好都合な性質を有する新規な組の3,3−ジフェニルプロピルアミン誘導体を提供することにある。
これら及び他の目的は、以下の開示から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は
【化1】

の式を有する第四級アンモニウム化合物と、その任意の立体異性体とを提供し、式中、
1、R2及びR3は、独立して、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル、C3−C6−アルケニル、C4−C8−シクロアルケニル、及びC3−C6−アルキニルであり、R1、R2及びR3の少なくとも一つは不飽和炭素結合を含み、R1、R2及びR3の任意の二つは第四級アンモニウム窒素と共に環を形成し、R1、R2及びR3の任意の二つから形成された環は、場合により環内又は環外の炭素二重結合を含んでもよく、またR1、R2及びR3の任意の二つから形成された環は、更にC1-4アルキル、C2-4アルケニル、C3-6アルキニル、アリール、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、及びカルボキシルを含む一つ又はそれ以上の置換基を含んでもよく、
【0012】
4
−H、
−CH3、又は
−CO−R4-1であり、ここでR4-1
−(C1−C4アルキル)、
−(C1−C4アルコキシ)、若しくは
−NR4-24-3であり、ここでR4-2及びR4-3は、独立して−H又は(C1−C4アルキル)であり、
5、R6及びR7は、独立して、
−H、
−OCH3
−OH、
−CONH2
−SO2NH2
−F、−Cl、−Br、−I、
−CF3、又は
−(C1−C4アルキル)であり、場合により
−OH、
−(C1−C4アルコキシ)、
−COOH、又は
−CO−O−(C1−C3アルキル)のうちの一つ又はそれ以上で置換され、
-は、製薬的に許容される酸のアニオンである。
【0013】
本発明による化合物の実施態様において、炭素の立体中心は(R)である。本発明による化合物の別の実施態様において、炭素の立体中心は(S)である。また別の実施態様において、本発明による化合物は立体異性体の混合物である。
【0014】
本発明による化合物の好ましい実施態様において、R1及びR2は結合して、第四級アンモニウム窒素と共に環を形成する。より好ましい実施態様において、環は4〜6個の炭素原子を含む。
【0015】
本発明による化合物の好ましい実施態様において、R4は−H、−CH3、又は−CO−R4-1であり、ここでR4-1はC1−C4アルキルである。より好ましい実施態様において、R4は−Hである。
【0016】
本発明による化合物の好ましい実施態様において、R5は−H、−Br、−Cl、−CH3、又は−CH2OHであり、より好ましくは−CH3である。
【0017】
本発明による化合物の好ましい実施態様において、R6及びR7の少なくとも一方、より好ましくは両方は−Hである。
【0018】
本発明による化合物の好ましい実施態様において、X-は、以下の酸のアニオンからなる群のうちから選択される:酒石酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸、メタンスルホン酸、CH3−(CH2n−COOH(nは0〜4)、HOOC−(CH2n−COOH(nは1〜4)、HOOC−CH=CH−COOH及び安息香酸。より好ましい実施態様において、X-はヨウ化物、臭化物及び塩化物のうちから選択される。別の好ましい実施態様において、X-はヨウ化物である。更に別の好ましい実施態様において、X-は塩化物である。更に別の好ましい実施態様において、X-は臭化物である。
【0019】
本発明の別の態様において、式Iの第四級アンモニウム化合物の薬剤的に有効な量を含有する薬剤組成物を提供する。この薬剤組成物は、好適な薬剤担体を含有していてもよい。
【0020】
また本発明の別の態様において、式Iの第四級アンモニウム化合物の医薬としての使用を提供する。本発明は、式Iの第四級アンモニウム化合物を、喘息、泌尿器系疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎、及び感染性鼻炎を治療する医薬の製造に使用する方法にも関する。
【0021】
更に本発明の別の態様において、ほ乳類、好ましくはヒトの喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎、又は感染性鼻炎を治療する方法であって、このような治療を必要とするほ乳類に対して式Iの第四級アンモニウム化合物の治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0022】
最後に、本発明は、ほ乳類、好ましくはヒトの喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎、風邪による鼻漏、又は泌尿器系疾患を治療する方法であって、このような治療を必要とするほ乳類に対して、本発明による第四級アンモニウム化合物の治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
【0023】
定義
別に説明しない限り、以下の定義を用いる。
【0024】
炭化水素を含む種々の部分の炭素原子数は、その部分の炭素原子の最小数及び最大数を表す接頭部により示される。即ち、接頭部Ci-jは、整数「i」〜整数「j」(両端を含む)の炭素原子からなる部分を示す。従って、例えばC1-7アルキルは、1〜7個(両端を含む)の炭素原子からなるアルキルを指す。
【0025】
用語「ハロ」は、Cl、Br、I、及びFから選択されるハロゲン原子を指す。
用語「アルキル」は、直鎖部分及び分岐鎖部分の両方を指す。別に詳細に述べない限り、アルキル部分は1〜6個の炭素原子を含む。
用語「アルケニル」は、少なくとも一つの−C=C−を含む直鎖部分及び分岐鎖部分の両方を指す。別に詳細に述べない限り、アルケニル部分は1〜6個の炭素原子を含む。
用語「アルキニル」は、少なくとも一つの−C≡C−を含む直鎖部分及び分岐鎖部分の両方を指す。別に詳細に述べない限り、アルキニル部分は1〜6個の炭素原子を含む。
用語「アルコキシ」は、−O−アルキル基を指す。
【0026】
用語「シクロアルキル」は、環状アルキル部分を指す。別に詳細に述べない限り、シクロアルキル部分は3〜7個の炭素原子を含むであろう。
用語「シクロアルケニル」は、環状アルケニル部分を指す。別に詳細に述べない限り、シクロアルケニル部分は、環内に3〜7個の炭素原子と、少なくとも一つの−C=C−基とを含むであろう。
用語「アミノ」は、−NH2を指す。
用語「アリール」は、フェニル及びナフチルを指す。
【0027】
用語「ヘテロ」(het)は、O、S、及びNから選択される少なくとも1個のヘテロ原子を含む単環系又は二環系を指す。各単環は、飽和、又は部分的に不飽和である芳香環であってもよい。二環系は、シクロアルキル基又はアリール基と縮合された少なくとも1個のヘテロ原子を含む単環を有してもよい。二環系はまた、別のヘテである単環系と縮合された少なくとも1個のヘテロ原子を含む単環系を含んでもよい。用語ヘテロは、本願に説明される用語ヘテロ1、ヘテロ2、及びヘテロシクロアルキルを包含する。
【0028】
「ヘテロ」の例は、ピリジン、チオフェン、フラン、ピラゾリン、ピリミジン、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル、3−ピリダジニル、4−ピリダジニル、3−ピラジニル、4−オキソ−2−イミダゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル、3−イソオキサゾリル、4−イソオキサゾリル、5−イソオキサゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル、5−ピラゾリル、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、4−オキソ−2−オキサゾリル、5−オキサゾリル、1,2,3−オキサチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル、3−イソチアゾール、4−イソチアゾール、5−イソチアゾール、2−フラニル、3−フラニル、2−チエニル、3−チエニル、2−ピロリル、3−ピロリル、3−イソピロリル、4−イソピロリル、5−イソピロリル、1,2,3−オキサチアゾール−1−酸化物、1,2,4−オキサジアゾール−3−イル、1,2,4−オキサジアゾール−5−イル、5−オキソ−1,2,4−オキサジアゾール−3−イル、1,2,4−チアジアゾール−3−イル、1,2,4−チアジアゾール−5−イル、3−オキソ−1,2,4−チアジアゾール−5−イル、1,3,4−チアジアゾール−5−イル、2−オキソ−1,3,4−チアジアゾール−5−イル、1,2,4−トリアゾール−3−イル、1,2,4−トリアゾール−5−イル、1,2,3,4−テトラゾール−5−イル、5−オキサゾリル、3−イソチアゾリル、4−イソチアゾリル、5−イソチアゾリル、1,3,4−オキサジアゾール、4−オキソ−2−チアゾリニル、5−メチル−1,3,4−チアジアゾール−2−イル、チアゾールジオン、1,2,3,4−チアトリアゾール、1,2,4−ジチアゾロン、フタルイミド、キノリニル、モルホリニル、ベンゾオキサゾイル、ジアジニル、トリアジニル、キノリニル、キノキサリニル、ナフチリニジル、アゼチジニル、ピロリジニル、ヒダントイニル、オキサチオラニル、ジオキソラニル、イミダゾリジニル、及びアザビシクロ[2.2.1]ヘプチルを含むが、これらに限定されるものではない。
【0029】
用語「ヘテロアリール」は芳香族ヘテロを指し、その例はピリジン及びチオフェンを含むが、これらに限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
好ましい実施態様を説明する際、明確化のため一定の専門用語が使用されるであろう。これらの専門用語は、引用される実施態様と、同様の結果を得るため同様の目的で同様の方法を使用して実施される技術的等価物の全てとを包含することを意図する。任意の薬剤的に活性な化合物が開示されるか、又は特許請求される限り、インビボにて生成される全ての活性代謝産物を含み、化合物がその鏡像体、異性体又は互換異性体の形態で存在し得る場合には、それら全ての鏡像体、異性体又は互換異性体を含むことが明白に意図される。
【0031】
本発明の化合物は、製造されるべき化合物の化学構造を単に知ることによって、当業者により製造されることが可能である。本発明は化合物そのものであり、化合物を製造するプロセス化学ではない。そのプロセス化学は当業者に公知である。
【0032】
例えば、本発明の化合物は、図表Iに示す合成スキームを経由して製造され得る。
図表I
【化2】

【0033】
図表Iを参照すると、ラクトン1は当業者に公知の方法、例えばR5−置換フェノールを酸性、又はルイス酸性の条件下でR6−R7−置換ケイ皮酸と反応させてラクトンを形成することによって製造され得る。ラクトン1の更なる製造方法は、とりわけ Simpson, J. D. 及びStephen, Henry., Journal of the Chemical Society, Abstracts(1956); Manimaran, T. 及び Ramakrishnan, V.T., Indian Journal of Chemistry, Section B: Organic Chemistry Including Medicinal Chemistry(1979), 18B(4), 324-30; Talapatra, Bani, Deb, Tulika 及び Talapatra,Suil, Indian Journal of Chemistry, Section B: Organic Chemistry Including Medicinal Chemistry(1986), 25B(11), 1122-5; Bhattacharjee, J. 及び Paknikar, S. K., Indian Journal of Chemistry, Section B: Organic Chemistry Including Medicinal Chemistry(1989), 28B(3), 205-7;及び Kirtany, J. K., Indian Journal of Chemistry, Section B: Organic Chemistry Including Medicinal Chemistry(1993), 32B(9), 993にも見出すことができ、又はこれらから採用されてもよい。当業者は、公知の方法によって、適切に置換された対応するフェノール及びケイ皮酸を製造し得ることを理解するであろう。
【0034】
水素化ジイソブチルアルミニウム(Dibal)を用いてラクトン1を還元すると、ラクトール2が生成する。ラクトールを例えば水素存在下でパラジウムなどの触媒、又はNaHB(OAc)3と、第二級アミンとにより還元的アミノ化すると、第三級アミンを与える。第三級アミンを所望のアリル、アルキル、又はベンジルのハロゲン化物と反応させると、所望の第四級アンモニウム化合物が生成する。
【0035】
ここではフェノールとして示されているが、水酸基は第四級化に先立って誘導されてもよい。例えば、フェノールの水酸基を酸塩化物、又は酸、及びカップリング剤と反応させるとエステルが生成され、このエステルは更にイソシアネートなどによって誘導されてウレタンを生成し得る。
【0036】
従って、本発明の化合物は第四級アンモニウム化合物であり、出発物質として米国特許第5,382,600号に記載されている第三級アミン、及び他の公知の化合物を用いて、第三級アミンから第四級アンモニウム化合物を製造する公知の手段により製造される。一般的な用語「第四級アンモニウム化合物」は、水酸化アンモニウム又はアンモニウム塩から、そのNH4+イオンの全ての4個の水素原子を有機基で置換することにより誘導されると見なされてもよい任意の化合物に関連している。
【0037】
この特定の化合物は、命名法的理由から(例、ケミカルアブストラクト参照)「アミニウム」化合物として命名されるが、名称に用語「アンモニウム」を使用することが可能である。例えば、(3R)−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジイソプロピル−N−メチル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムブロミドは、アンモニウム化合物、即ち(3R)−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ジイソプロピルメチルアンモニウムブロミドと命名されてもよい。
【0038】
より詳細には、本発明は、式
【化3】

の第四級アンモニウム化合物と、それらの任意の立体異性体とに関し、式中、
1、R2及びR3は、独立して、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル、C3−C6−アルケニル、C4−C8−シクロアルケニル、及びC3−C6−アルキニルであり、R1、R2及びR3の少なくとも一つは不飽和炭素結合を含み、R1、R2及びR3の任意の二つは第四級アンモニウム窒素と共に環を形成してもよく、R1、R2及びR3の任意の二つから形成された環は、場合により環内又は環外の炭素二重結合を含んでもよく、R1、R2及びR3の任意の二つから形成された環は、更にC1-4アルキル、C2-4アルケニル、C3-6アルキニル、アリール、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、及びカルボニルを含む一つ又はそれ以上の置換基を含んでもよい。
【0039】
4は、
−H、
−CH3、又は
−CO−R4-1を表し、ここでR4-1
−(C1−C4アルキル)
−(C1−C4アルコキシ)、又は
−NR4-24-3、を表し、ここでR4-2及びR4-3は、独立して、−H又は−(C1−C4アルキル)を表し、
5、R6及びR7は、独立して、
−H、
−OCH3
−OH、
−CONH2
−SO2NH2
−F、−Cl、−Br、−I、
−CF3、又は
−(C1−C4アルキル)を表し、場合により
−OH、
−(C1−C4アルコキシ)、
−COOH、又は
−CO−O−(C1−C3アルキル)のうちの一つ又は二つで置換され、
-は、製薬的に許容される酸のアニオンを表す。
【0040】
例として、米国特許第5,382,600号に従った第三級アミン、又はその第三級アミンの塩を好適な溶媒中に溶解する。第三級アミンは、例えば有機ハロゲン化物などの有機基質と反応される。
【0041】
基質は、C3−C7アルケニル、好ましくはC3−C5アルケニルと脱離基とを含む。脱離基の種類は重要ではないが、例えばヨウ化物、又は臭化物などのハロゲン化物であることが好ましい。従って、典型的な基質は、臭化アリル、ヨウ化アリル、2−メチルプロパ−2−エニルブロミド、2−メチルプロパ−2−エニルヨージド、シス−1−ブロモ−2−ブテン、シス−1−ヨード−2−ブテン、トランス−1−ブロモ−2−ブテン、トランス−1−ヨード−2−ブテン、1−ブロモ−3−メチル−2−ブテン、又は1−ヨード−3−メチル−2−ブテンを含む。
【0042】
得られる反応生成物は第四級アンモニウム化合物であり、これは当業者に公知の好適な溶媒中で容易に結晶化する。かように生成された結晶は、第四級アンモニウム塩である。この化合物は、例えば融点測定、核磁気共鳴法(NMR)分析及び質量分析法などの標準的方法によって確認される。
【0043】
本発明の第四級アンモニウム化合物は、少なくとも一つの立体中心、即ち位置3の炭素(下の式にてC3)を有し、この炭素に2個の(置換)アリール基が結合されている。場合により、(R1、R2及びR3が全て異なる場合)第二の立体中心が存在してもよく、それは正電荷を有する第四級アンモニウム窒素原子である。一般式
【化4】

を参照されたい。式中、Ar1及びAr2は(置換)アリール基を示し、R1、R2、R3及びX-は上述した通りであり、C1、C2及びC3は、プロピルアンモニウムのバックボーン内の個々の炭素原子を示す。従って、立体異性体(エナンチオマー及び/又はジアステレオマー)が生成される。全ての立体異性体は、有用な活性を示す。従って、本発明は各立体異性体の個別の使用、及びこれら立体異性体の混合物の使用に関する。特に、C3炭素の立体中心が(R)型である立体異性体は有用な活性を有する。さらに、C3炭素の立体中心が(S)型である立体異性体は有用な活性を有する。C3炭素の立体中心が(R)型である立体異性体と、C3炭素の立体中心が(S)型である立体異性体とを含む立体異性体混合物もまた、有用な活性を有する。
【0044】
本発明の第四級アンモニウム化合物は、好ましくは製薬的に許容される酸と共に塩として投与される。R4が−Hの場合、化合物は分子内塩として単離されてもよく、これは第四級窒素上の正電荷を均衡化するフェノキシドアニオンを有する。製薬的に許容される好ましい塩は、以下の酸の塩を含む。酒石酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸、メタンスルホン酸、CH3−(CH2n−COOH(nは0〜4)、HOOC−(CH2)−COOH(nは1〜4)、HOOC−CH=CH−COOH、及び安息香酸。許容される他の塩は、Int. J. Pharm, 33, 201-217(1986)を参照されたい。特に好ましい塩は塩化物、ヨウ化物及び臭化物で、特に臭化物塩及びヨウ化物が好ましい。
【0045】
従って、X-は製薬的に許容される酸のアニオンを表す。X-は、以下のアニオンから選択されることが好ましい。酒石酸アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン、ヨウ化物アニオン、硫酸アニオン、硫酸水素アニオン、リン酸アニオン、リン酸水素アニオン、硝酸アニオン、クエン酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、2〜6個の炭素を含むカルボン酸アニオン、2〜6個の炭素を含むジカルボン酸アニオン、マレイン酸アニオン、フマル酸アニオン、及び安息香酸アニオン。詳細には、X-は塩化物アニオン、ヨウ化物アニオン又は臭化物アニオンであり得る。
【0046】
所定の実施態様において、置換基R1、R2、R3は、同一であっても、異なっていてもよい。これらは、直鎖又は分岐鎖のC2−C6アルケニル、好ましくはC2−C5アルケニルの群から選択される。置換基R1、R2、R3のうちの少なくとも一つは、例えばアリル(プロパ−2−エニル)のような直鎖又は分岐鎖のC2−C4アルケニルを表す。
【0047】
本発明の別の態様によれば、R1、R2、及びR3の任意の二つは結合して、正電荷を帯びた窒素と共に環構造を形成し得る。形成された環構造は4〜6個の炭素原子を有することが好ましい。
【0048】
置換基R4は、酸素原子を介してそのアリール環に結合されている。−OR4基は、プロピルアンモニウム基に関して環の2位の炭素原子に結合されている。置換基R4は水素、メチル又はアシル(−CO−R4-1)を表していてもよく、ここでアシルは以下の任意の一つを含む:2〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキルカルボニル、2〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルコキシカルボニル、及び場合により第一級、若しくは独立して1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキルで置換されたアミド。従って、置換基R4-1は以下の任意の一つを表す:直鎖又は分岐鎖のC1−C4アルキル、直鎖又は分岐鎖のC1−C4アルコキシ、並びにR4-2及びR4-3が同一又は異なり−H又は−(C1−C4アルキル)を表す、直鎖又は分岐鎖のNR4-24-3。それ故、置換基R4は、水素、メチル又はアシルのうちの任意の一つを表していてもよく、アシル基はアセチル(エタノイル)、プロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、ペンタノイル、イソペンタノイル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N−エチルカルバモイル、N−プロピルカルバモイル、N−ブチルカルバモイル、又はN,N−ジアルキルカルバモイルであってもよく、ここでアルキル基は直鎖又は分岐鎖で、同一又は異なり、各々1〜4個の炭素原子を有する。この状態のN,N−ジアルキルカルバモイルの例は、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N,N−ジプロピルカルバモイル、及びN,N−ジイソブチルカルバモイル、並びにN−プロピル−Nブチルカルバモイルを含む。R4は、この化合物が第四級窒素上の正電荷を均衡させるフェノシドアニオンを有する分子内塩として単離されることが可能であるため、水素を表すことが好ましい。またR4は、2〜5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖のアルキルカルボニル、例えばアセチル(エタノイル)、プロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、ペンタノイル、又はイソペンタノイルを表すことが好ましい。さらに、R4はメチルを表すことが好ましい。
【0049】
置換基R5は、その芳香環の任意の炭素原子に結合され得るか、さもなければ置換されない。即ち、R5は、−OR4基又は(置換)フェニルプロパンアンモニウム基が接続された任意の炭素原子に接続せず、芳香環の残りの4個のうちの任意の炭素原子に接続し得る。
【0050】
5は、以下の任意の一つを表し得る:水素、メトキシ、ヒドロキシル、カルバモイル
、スルファモイル、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメチル、又は1〜4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基。場合により、このアルキル基は、独立して、ヒドロキシル、1〜4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、カルボキシル、又は1〜4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシカルボニル(−CO−O−(C1−C3アルキル))で一置換、又は二置換されてもよい。R5は、以下の任意の一つを表すことが好ましい:水素、臭素、塩素、メチル又はヒドロキシメチル。R5はメチルを表すことが特に好ましい。R5が水素を表さない場合、R5は−OR4基の反対側、即ち、プロピルアンモニウム基に関して環の位置5の炭素上に位置することが好ましい。
【0051】
置換基R6及びR7は、置換基R4及びR5が結合されている芳香環と異なる同一の芳香環に結合される。R6及びR7は、同一であっても、異なっていてもよい。R6及びR7は、独立して、以下の任意の一つを表す:水素、メトキシ、ヒドロキシル、カルバモイル、スルファモイル、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、トリフルオロメチル、又は1〜4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基。場合により、このアルキル基は、独立してヒドロキシル、1〜4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、カルボキシル、又は1〜4個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシカルボニル(−CO−O−(C1−C3アルキル))で一置換又は二置換されてもよい。
【0052】
6及びR7の少なくとも一方、好ましくは両方が水素を表すことが好ましい。R6及びR7の一方が水素を表し、両方ともが水素を表すのではない場合、他方(各々、R7又はR6)はプロピルアンモニウム基に関して環の2位に結合される。R6及びR7のいずれも水素を表さない場合、一方はプロピルアンモニウム基に関して環の2位の炭素に結合され、他方は3位、4位又は5位のいずれかの炭素に結合されることが好ましい。
【0053】
本発明による新規な組の化合物は、抗ムスカリン性剤である。「抗ムスカリン性剤」とは、ムスカリン受容体拮抗薬を意味する。公知の抗ムスカリン性剤の例は、トルテロジン、ヒドロキシトルテロジン、2−(ジイソプロピルアミノ)エチル−1−フェニルシクロペンタンカルボキシレート、プロピベリン、オキシブチニン、トロスピウム、ダリフェナシン、テミベリン、イプラトロピウム、及びチオトロピウムを含む。
【0054】
プロピベリンは、1−メチル−4−ピペリジル−α,α−ジフェニル−α−(n−プロポキシ)アセテートであり、東ドイツ特許第106,643号及びCAS82−155841s(1975)に開示されている。オキシブチニンは、4−(ジエチルアミノ)−2−ブチニルアルファフェニルシクロヘキサングリコレートであり、英国特許第940,540号に開示されている。トロスピウムは、3−α−ヒドロキシスピロ[1−α−H、5−α−H−ノルトロパン−8,1’−ピロリジニウム]クロリドベンジレートであり、米国特許第3,480,623号に開示されている。ダリフェナシンは、3−ピロリジンアセトアミド、1−[2−(2,3−ジヒドロ−5−ベンゾフラニル)エチル]−α,α−ジフェニル−、であり、米国特許第5,096,890号に開示されている。テミベリンは、ベンゼン酢酸、α−シクロヘキシル−α−ヒドロキシ−、4−(ジエチルアミノ)−1,1−ジメチル−2−ブチニルエステルであり、米国特許第5,036,098号に開示されている。イプラトロピウムは、8−イソプロピルノルアトロピン(isopropylnoratropine)メトブロミドであり、米国特許第3,505,337号に開示されている。チオトロピウムは、(1−α,2−β,4−β,5−α,7−β)−7−[(ヒドロキシジ−(2−チエニル)アセチル)オキシ]−9,9−ジメチル−3−オキサ−9−アゾニアトリシクロ[3.3.1.02,4]ノナンであり、欧州特許第418,716号に開示されている。
【0055】
本発明の化合物は、抗コリン特性を有する。従って、本発明の化合物は、アセチルコリンを媒介とする疾患の治療に有用である。詳細には、本発明の化合物は喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎、風邪による鼻漏、及び泌尿器系疾患の治療に有用である。
【0056】
頻尿、尿意切迫感、及び/又は尿失禁を引き起こす他の状況も含む。過活動膀胱疾患はまた、夜間尿と、混合型尿失禁とを含む。過活動膀胱は排尿筋不安定と関連していること多いが、膀胱機能疾患は例えば多発性硬化症及び卒中等の脊髄及び脳の障害を含む中枢神経系の障害を原因とする場合もある(排尿筋過反射)。過活動膀胱の症状は、例えば男性の膀胱出口部狭窄(通常、前立腺肥大症を原因とする)、間質性膀胱炎、局所膀胱癌を原因とする局所浮腫及び刺激、骨盤の放射線治療を原因とする放射線膀胱炎、並びに膀胱炎からも発生し得る。
【0057】
本願にて特許請求される方法により治療することが可能な特定の問題は、頻尿、尿意切迫感及び夜間尿を含む、尿失禁を伴わない過活動膀胱である。
【0058】
本発明の化合物は、ヒト及び馬を含むほ乳類の治療に使用される。ほ乳類はヒトであることが好ましい。
【0059】
本発明に従った化合物は、遊離塩基、若しくは製薬的に許容される酸に伴う塩、又はそれらの溶液の形態を有し、例えば許容される薬剤的処置に従って経口的に、直腸経由で、非経口的に、鼻経由で、又は経肺的に投与される組成物等、適切な投薬形態に構成することができる。詳細には、組成物は吸入法又は通気法によって投与され得る。本発明による薬剤組成物は、当業者に公知であるように、適合性を有する薬剤的に許容される担体材料又は賦形剤を伴った本発明による化合物を含む。担体は、水、ゼラチン、アラビアゴム、ラクトース、微結晶性セルロース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、滑石、コロイド状二酸化ケイ素等の投与するに適した有機又は無機の任意の不活性材料であり得る。この粗成物はまた、薬剤的に活性な他の薬物、及び安定剤、湿潤剤、乳化剤、矯味矯臭剤、緩衝剤、結合剤、錠剤崩壊物質、滑沢剤、滑剤、固結防止剤、噴射剤等の従来の添加剤を含んでもよい。
【0060】
本発明による新規化合物は、任意の適切な方法で投与することができる。本発明による化合物は、錠剤、カプセル、粉末、シロップ、エリキシル及びその同様物、噴霧剤、滅菌溶液、懸濁液又は乳濁液等、固体又は液体の形態で製造され得る。これらは、吸入又は通気により、有利に投与される。投与形態が吸入又は通気である場合、化合物はエアゾル又は粉末のいずれかの形態を有することが好ましい。
【0061】
用語「有効量」は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性鼻炎、風邪による鼻漏、又は泌尿器系疾患を治療する治療的有効量を指す。用語「治療」及び「治療的」は、予防を含む全ての種類の治療を包含する。詳細には、「治療的有効」は、抗コリン作動薬による治療に有効であることを意味する。
【0062】
本発明による特定の化合物の投薬量は、効力、投与方法、患者の年齢及び体重、並びに治療するべき状況の重要度に応じて変動する。
【0063】
ドライパウダー吸入器(DPI)又は定量噴霧式吸入器(MDI)等の吸入器によって投与される投与量は、一吹き、又は二吹きで提供されることが好ましく、これは一日の総投与量からなることが好ましい。対象が人である場合、1マイクログラム(μg)から1ミリグラム(mg)の範囲内を投与されることが好ましい。
【0064】
一般に、ネブライザー溶液による投与量は吸入器による投与量よりも多い。対象が人である場合、ネブライザー溶液によって投与される総投与量は、1マイクログラム(μg)から10ミリグラム(10mg)の範囲内であることが好ましい。
【0065】
従って、本発明の化合物の臨床的有効量は、約1μgから約10mgである。臨床的有効量は約1μgから約1mgが好ましく、約0.01mgから約1mgが好ましい。
【0066】
本発明の化合物は、一日に1〜4回投与され得る。化合物は一日に1回又は2回投与されることが好ましく、一日に1回投与されることがより好ましい。
【0067】
吸入用の投与形態は、エアゾルであり得る。エアゾル供給の最小量は約0.2mlで、最大量は約5mlである。本発明の化合物の濃度は、供給されるスプレーの総量が約0.2〜約5mlの範囲内であり、しかも有効量を供給する限り変動し得る。濃度がこれよりも高いと、同一有効量を供給するために投与量を減ずることが当業者により公知である。
【0068】
吸入用の投与形態はまた、鼻腔内スプレーであってもよい。エアゾル供給の最小量は、鼻孔毎約0.02mlで、最大量は鼻孔毎約0.2mlである。本発明の化合物の濃度は、供給されるスプレーの総量が鼻孔毎約0.02mlから約0.2mlの範囲内、例えば、鼻孔毎約0.05mlから約0.08mlの間であり、しかも式Iの化合物の治療的有効量を供給する限り、変動し得る。
【0069】
勿論、式Iの化合物の治療的有効量を供給するエアゾル又は鼻腔内スプレーの体積は、エアゾル又は鼻腔内スプレー中の化合物の濃度に依存する。即ち、式Iの化合物の濃度が高くなると、必要な治療的有効量を供給する投与量の体積は減少し、式Iの化合物の濃度が低くなると、必要な治療的有効量を供給する投与量の体積は増大する。
【0070】
種々の薬剤の吸入用のエアゾルは当業者に良く知られており、喘息を治療する多数のエアゾルが含まれる。エアゾルはネブライザーと共に製造されてもよい。通常、ネブライザーには、担体溶液と、抗ムスカリン性化合物の治療的有効量を効果的に供給するに十分な量の式Iの化合物とが充填される。例えば、ネブライザーとその作動条件とに従って、式Iの化合物の約1μgから1000μg、例えば約10μgから約1000μg、又は約50μgから約500μg供給するために抗ムスカリン性化合物が数百mg充填され得る。
【0071】
不活性成分又は担体は、活性薬剤が高い溶解性を有するようなpHに調整された単なる(無菌)水であってもよい。pHは7又は7前後であることが好ましい。代替的に及び好ましくは、不活性担体剤は、適切に調整されたpHを有する生理食塩水であるべきである。種々の薬剤を吸入するためのエアゾルは当業者に良く知られており、それらには喘息を治療する多数のエアゾルが含まれる。
【0072】
代替的に、吸入用の投与形態は粉末であってもよい。種々の薬剤を吸入するための粉末は当業者に良く知られており、それらには喘息を治療する多数の粉末が含まれる。投与形態が粉末である場合、本発明の化合物は純粋な形態であっても、又は不活性担体で希釈されていてもよい。不活性担体が使用される場合、本発明の化合物は供給される粉末の総量が本発明の化合物の「有効量」を供給するように混合される。活性化合物の実際の濃度は変動し得る。濃度が低い場合、本発明の活性化合物の有効量を提供するためには、より多量の粉末を供給する必要があり、濃度が高い場合、より少量の総材料を供給する必要がある。
【0073】
鼻漏、特に風邪による鼻漏の治療には、本発明による化合物をステロイド、クロモグリケート、及び充血除去剤(アルファ作動薬)と一緒に投与することが有利であり得る。このような組合せ治療は、風邪による鼻漏の治療において有用である。
【0074】
本発明を更に、以下の非限定的な実施例及び製剤試験にて説明する。
【0075】
製薬的に許容される、とは、薬理学的/毒物学的観点から患者が許容可能である性質及び/又は物質と、組成、処方、安定性、患者の受け入れ、及び生物学的利用能に関する物理的/化学的観点からの薬剤化合物の製造とを意味する。
【0076】
実施例
当業者は、更に詳しく述べなくとも、前述の説明により本発明をその完全な範囲で実施し得るものと確信する。以下の詳細な実施例において、種々の化合物の製造方法、及び/又は本発明の種々の工程の実施方法を説明するが、これらは単に説明を意図するものであり、いずれの点においても前述の開示の限定を意図するものではない。これらの工程から、当業者は反応物と反応条件及び反応技術との双方に関して、適切な別例を即時に理解するであろう。
【0077】
全ての温度は、摂氏で示される。
エーテルは、ジエチルエーテルを指す。
生理食塩水は、0.9%の塩化ナトリウム水溶液を指す。
溶媒の組が用いられる場合、使用される溶媒比は体積/体積(v/v)である。
溶媒に対する固体の溶解度が用いられる場合、固体と溶媒の比は重量/体積(wt/v)である。
【0078】
還元的アミノ化
一般的工程A
【化5】

【0079】
活性炭素上のパラジウム(1.76g、5重量%、Aldrich20、568−0)を窒素下で水素化容器に投入した後、ラセミ体のラクトールのMeOH(20mL)溶液と、第二級アミン(42mmol、2.5等量)とを投入した。容器を水素(50psi)で充填して、反応混合物を50℃で一夜、激しく攪拌した。セライトを介して水素化反応混合物を濾過した。得られたメタノール溶液を真空下で濃縮した。ヘキサンにより摩砕した後、R1及びR2と窒素とが環を形成する環状アミンが得られた。
【0080】
一般工程B
【化6】

【0081】
固体NaHB(OAc)3(3g、14mmol)を、窒素下でラセミ体ラクトール(2.4g、10mmol)及び第二級アミン(0.97g、1.23mL、10mmol)の1,2−ジクロロエタン(35mL)溶液に加えた。反応混合物を室温で一夜攪拌した。反応混合物を飽和NaHCO3水溶液でクエンチし、層を分離して水性層をエーテル(2×30mL)で抽出した。一緒にした有機層をMgSO4上で乾燥した。濾過した後、真空下で溶媒を除去して粗第三級アミンを油状物として得た。この工程により得られた第三級アミンを精製することなく第四級化ステップにおいて使用した。
【0082】
第三級アミンの第四級化
一般的工程
ハライドのような対アニオン(10当量)を含むアルキル、ベンジル、又はアリルを、アセトン(4mL)の第三級アミン(0.3g、1.02mmol)の遊離塩基溶液に加えた。反応混合物を室温で一夜攪拌した。溶液を濃縮して第四級アンモニウム塩の沈殿を開始させた。白色沈殿物を濾過して、ジエチルエーテルで洗浄し、真空下で乾燥して相当する第四級化塩を得た。
【0083】
実施例1:1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]−1−(2−メチルプロパ−2−エニル)ピロリジニウムブロミド
【化7】

表題の化合物を、6−メチル−4−フェニル−2−クロマノール(チャート1の化合物2)をピロリジンで還元的アミノ化した後、上述した工程を用いてプロパ−2−エニルブロミドで第四級化することにより製造した。1HNMR(MeOH−d4):δ1.90, 2.0-2.25, 2.47-2.71, 3.21-3.31, 3.50-3.64, 3.97, 4.38, 5.36, 5.41, 6.70, 6.88, 6.95,
7.18-7.24, 7.25-7.40.
【0084】
実施例2:1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル−]−1−(3−メチルブタ−2−エニル)ピロリジニウムブロミド
【化8】

表題の化合物を、6−メチル−4−フェニル−2−クロマノールをピロリジンで還元的アミノ化した後、上述した工程を用いて3−メチルブタ−2−エニルブロミドで第四級化することにより製造した。1HNMR(MeOH−d4):δ1.88, 1.90, 2.0-2.25, 2.40-2.65, 3.18-3.24, 3.38-3.60, 3.97, 4.38, 5.20, 5.41, 6.68, 6.88, 6.95, 7.18-7.24, 7.25-7.40.
【0085】
実施例3:1−アリル−1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピロリジニウムヨージド
【化9】

表題の化合物を、6−メチル−4−フェニル−2−クロマノールをピロリジンで還元的アミノ化した後、上述した工程を用いてヨウ化アリルで第四級化することにより製造した。1HNMR(MeOH−d4):δ2.0-2.25, 2.40-2.70, 3.17-3.29, 3.38-3.61, 3.97, 4.38, 5.26-5.70, 5.80-6.01, 6.68, 6.88, 6.97, 7.18-7.24, 7.25-7.40.
【0086】
実施例4:1−アリル−1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピロリジニウムクロリド
【化10】

表題の化合物を、イオン交換反応により製造した。実施例3のヨウ素化合物を、200mLのアセトニトリル/水混合物(30/70)中でイオン交換樹脂AG−2−X8 Bio−Radの塩化物形態(60g)と共に4時間激しく攪拌した。樹脂を焼成ガラス漏斗上で濾過し、アセトニトリル/水混合物(30/70)(40mL)で洗浄した。アセトニトリルを真空下で除去し、残留水を凍結乾燥器で除去して0.35g(72%)の僅かに黄色がかった白色の表題の化合物の固体を得た。1HNMR(MeOH−d4):δ2.0-2.25, 2.40-2.70, 3.17-3.29, 3.38-3.61, 3.97, 4.38, 5.26-5.70, 5.80-6.01, 6.68, 6.88, 6.97, 7.18-7.24, 7.25-7.40.
【0087】
実施例5:3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジアリル−N−メチル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムヨージド
【化11】

【0088】
2−[3−(ジアリルアミノ)−1−フェニルプロピル]−4−メチルフェノールの製造
上述した工程によりラクトールの還元的アミノ化反応によって第三級アミンを製造した。
【0089】
3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジアリル−N−メチル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムヨージド
ヨウ化メチル(2.2g、0.96mL、0.0155mol)を、エーテル(3mL)とアセトン(1mL)混合物の第三級アミン(0.5g、1.55mmol)溶液に加えた。反応混合物を室温で一夜攪拌して白色沈殿を得た。白色沈殿を濾過除去し、エーテルで粉砕し、濾過して真空下で乾燥して表題の化合物を得た。1HNMR(MeOH−d4):δ2.19, 2.48-2.67, 2.98, 3.1-3.28, 3.96, 4.36, 5.61-5.7, 5.86-6.00, 6.68, 6.84, 7.01, 7.18, 7.29, 7.38.
【0090】
実施例6:3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジアリル−N−エチル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムヨージド
【化12】

ヨウ化エチル(2.42g、1.24mL、0.0155mol)を、アセトン(3mL)中の2−[3−(ジアリルアミノ)−1−フェニルプロピル]−4−メチルフェノール(0.5g、1.55mmol)の溶液に加えた。反応混合物を室温で一夜攪拌して白色沈殿を得た。白色沈殿を濾過した後、エーテルで洗浄して、真空下で乾燥して表題の化合物を得た。1HNMR(MeOH−d4):δ1.25, 2.19, 2.44-2.65, 3.09-3.22, 3.29-3.36, 3.91, 4.35, 5.6-5.7, 5.85-5.99, 6.8, 6.85, 7.0, 7.19, 7.30, 7.39.
【0091】
実施例7:1−アリル−1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピペリジニウムクロリド
【化13】

1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピペリジンを、上述した工程により、ラクトールをピペリジンで還元的アミノ化して製造した。
【0092】
ヨウ化アリル(1.64g、0.88mL、0.098mol)を、アセトニトリル(6mL)と塩化メチレン(3mL)の混合物中の1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピペリジン(0.3g、0.97mmol)溶液に加えた。反応混合物を室温で一夜攪拌した。溶媒を真空下で除去し、得られた固体をエーテルで粉砕した。粉砕した固体をイオン交換樹脂AG−2−X8(70g)の塩化物形態と共に、200mLのアセトニトリル/水混合物(30/70)中で4時間、激しく攪拌した。アセトニトリルを真空下で除去し、残留水を凍結乾燥器上で除去して表題の化合物を得た。1HNMR(MeOH−d4):δ1.64-1.83, 2.19, 2.4-2.59, 3.15-3.33, 4.0, 4.36, 5.56-5.66, 5.76-5.87, 6.68, 6.85, 7.19, 7.28-7.39.
【0093】
実施例8:3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N,N−トリアリル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムブロミド
【化14】

臭化アリル(1.88g、1.34mL、0.0155mol)をアセトン(3mL)中の2−[3−(ジアリルアミノ)−1−フェニルプロピル]−4−メチルフェノール(0.5g、1.55mmol)溶液に加えた。反応混合物を室温で一夜攪拌して、白色沈殿を得た。白色沈殿を濾過して取り出し、エーテルで洗浄し、真空下で乾燥して表題の化合物を得た。1HNMR(MeOH−d4):δ2.18, 2.47-2.67, 3.09-3.26, 3.92, 4.34, 5.64-5.70, 5.9-6.04, 6.68, 6.85, 6.92, 7.20, 7.28-7.37.

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

[式中、
1、R2及びR3は、独立して、C1−C6−アルキル、C3−C7−シクロアルキル、C3−C6−アルケニル、C4−C8−シクロアルケニル及びC3−C6−アルキニルを表し、R1、R2及びR3の少なくとも一つは不飽和炭素結合を含み、R1、R2及びR3の任意の二つは第四級アンモニウム窒素と共に環を形成してもよく、R1、R2及びR3の任意の二つから形成された環は、場合により環内又は環外の炭素二重結合を含んでもよく、R1、R2及びR3の任意の二つから形成された環は、更にC1-4アルキル、C2-4アルケニル、C3-6アルキニル、アリール、ハロ、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、及びカルボキシルを含む一つ又はそれ以上の置換基を含んでもよく、
4
−H、
−CH3、又は
−CO−R4-1を表し、ここでR4-1
−(C1−C4アルキル)、
−(C1−C4アルコキシ)、又は
−NR4-24-3(ここでR4-2及びR4-3は、独立して、−H又は−(C1−C4アルキル)を表す)
を表し、
5、R6及びR7は、独立して、
−H、
−OCH3
−OH、
−CONH2
−SO2NH2
−F、−Cl、−Br、−I、
−CF3、又は
−(C1−C4アルキル)(場合により
−OH、
−(C1−C4アルコキシ)、
−COOH、又は
−CO−O−(C1−C3アルキル)、の一つ又は二つで置換される)
を表わし、
-は、製薬的に許容される酸のアニオンを表す]
で表わされる第四級アンモニウム化合物と、その任意の立体異性体。
【請求項2】
炭素立体中心が(R)である請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項3】
炭素立体中心が(S)である請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項4】
立体異性体の混合物である請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項5】
1、R2及びR3の少なくとも一つがC2−C5アルケニルを表す請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項6】
1、R2及びR3の少なくとも一つがアリルを表す請求項5に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項7】
1、R2及びR3の少なくとも二つがアリルを表す請求項6に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項8】
1とR2とが結合して、第四級アンモニウム窒素と共に環を形成する請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項9】
4が−H、−CH3、又は−CO−R4-1を表し、ここでR4-1はC1−C4アルキルを表す請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項10】
5が−H、−Br、−Cl、−CH3、又は−CH2OHを表す請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項11】
-は、酒石酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、クエン酸、メタスルホン酸、CH3−(CH2n−COOH(nは0〜4)、HOOC−(CH2n−COOH(nは1〜4)、HOOC−CH=CH−COOH、及び安息香酸のアニオンからなる群から選択される請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項12】
1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]−1−(2−メチルプロパ−2−エニル)ピロリジニウムブロミド、
1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]−1−(3−メチルブタ−2−エニル)ピロリジニウムブロミド、
1−アリル−1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピロリジニウムヨージド、
1−アリル−1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピロリジニウムクロリド、
3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジアリル−N−メチル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムヨージド、
3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N−ジアリル−N−エチル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムヨージド、
1−アリル−1−[3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3−フェニルプロピル]ピペリジニウムクロリド、
3−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−N,N,N−トリアリル−3−フェニルプロパン−1−アミニウムブロミド
からなる群から選択される請求項1に記載の第四級アンモニウム化合物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の第四級アンモニウム化合物の治療的有効量と、その適切な薬剤担体とを含む医薬組成物。
【請求項14】
喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、風邪による鼻漏、アレルギー性鼻炎、又は泌尿器系疾患を治療する医薬の製造における請求項1〜12のいずれか一項に記載の第四級アンモニウム化合物の使用。

【公表番号】特表2006−523676(P2006−523676A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506538(P2006−506538)
【出願日】平成16年4月13日(2004.4.13)
【国際出願番号】PCT/IB2004/001290
【国際公開番号】WO2004/091607
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【Fターム(参考)】