説明

第四級アンモニウム神経筋遮断剤

1種類以上の第四級アンモニウム神経筋遮断薬を含む筋弛緩剤は、少なくとも6つの炭素原子を持ち、さらに4.0未満(好ましくは0.5から3.5の範囲)のpKaを持つ1種類以上の有機アニオン類と組み合わせたときに、加水分解劣化を減少させる傾向があり、したがってより長い貯蔵寿命安定性がある。とりわけ、水に非常に低い溶解度を持つ酸、たとえば室温で1%未満しか溶解しないゲンチジン酸の様なものを用いた場合によい結果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広くベクロニウム、ロクロニウム、パンクロニウム、その他の様な第四級アンモニウム神経筋遮断薬に関し、これらは骨格筋弛緩剤として気管内チューブ挿入用および他の用途に用いられ、処方は水連続、低粘度、注射に安全、およびすぐに使える様に、しかし加水分解速度を押さえ安定性および貯蔵寿命を改善するために水および薬剤上の加水分解性の基との接触は制限される様に設計されている。
【背景技術】
【0002】
ベクロニウム、ロクロニウムおよびパンクロニウムの様な第四級アンモニウム化合物の塩は現在骨格筋弛緩薬として用いられ、通常は例えば静脈注射により挿管に先だって与えられる。これらの薬品が成功した主な特長はその速やかな発現性および短時間作用性にある。臭化ベクロニウムの場合、0.08から0.1mg/Kgの投与で通常、バランス麻酔の下では、約1分でけいれん反応の最初の機能低下が起こり、2.5から3分以内に良好なまたは優れた挿管状態となり、45から65分以内に95%の回復が完了する。
【0003】
しかしながら、使用中のこのクラスの医薬品化合物、しかもとりわけ市販されているベクロニウムおよびパンクロニウム剤は、ロクロニウムはいくらか安定であるが、加水分解に不安定である。とりわけ酢酸エステル基は水溶液中で時間と共に加水分解し、これにより効き目が低下することになりかねず、安全性に影響し、さらに貯蔵寿命を限定する。この加水分解を制限するために3つの方法が採られてきたが、それらのいずれにも明確な欠点および/または限界がある。一つの方法は加水分解速度を下げるために製品を室温に対して冷蔵庫温度で貯蔵することである。この方法は費用を著しく増加させ、さらに利便性を低下させ、これらの化合物の全て、少なくともこのクラスの最も不安定な臭化ベクロニウムの様な化合物については、室温の貯蔵寿命をわずか約6ヶ月足らずしか延ばすことができない。別の方法は製品を低いpHの水溶液で処方することにより加水分解速度を低下させることである。例えば、臭化パンクロニウム調合薬はGensia−Sicor製薬からpHが3.8〜4.2のものが市販されている。この酸性のpHからは2つの問題が起きる:注射の際にひどく痛むこと、および筋弛緩剤に続いて投与した他の製剤、とりわけチオペンタールナトリウムの様な鎮痛剤で危険な沈殿を引き起こす傾向がある。さらに、上の2つの方法は貯蔵寿命を幾分か延長するだけでまだ加水分解の問題を解決していない。第3の方法は薬剤を元に戻せる粉末として処方し、これに使用直前に注射用の水を加えるものである。これは外科または麻酔の医師団に別の処置を招来するもので、したがってこれだけでも望ましくない。加えて、この様な元に戻せる処方は一般に必ず高価なガンマ線照射殺菌充填処置により殺菌されねばならない。さらに、注射前の処理の際に薬剤の全てが再溶解または再分散されていない場合、これは肺塞栓の様な危険な塞栓につながることもあり得る。
【0004】
第四級アンモニウム骨格筋弛緩薬は共通して独特な構造的および物理化学的な特徴の組合せを持ち、このことがこれらを安定した処方に組み入れることを難しいが挑戦的なものにしている。先ず、これらは少なくとも1つ(さらに例えばパンクロニウムの場合は、2つ)の恒常的なカチオン電荷(第四級アンモニウム)を持ち、本質的に全ての値のpHで、そして当然ながら薬剤の搬送に適した全ての値のpHで分子に陽電荷を与えている。薬学的に容認できるほとんど全てのイオン性界面活性剤はアニオン性なので、カチオン電荷を持った薬の存在は事実上全てのタイプの粒子または液滴のゼータ電位の大きさを削減してしまう。このことは静電気的な安定を達成しようとする通常の試みの効果を無くしてしまうか、または必要とする界面活性剤の水準を著しく増やし、かくしてその望まぬ効果を増幅してしまう。これらの化合物が共有する第2の特徴は分子内に著しく疎水性の部分があることで、代表的には19炭素ステロイド環の構造(側面のメチル基の数)のものであるが、これはそれにもかかわらず薬に高いオクタノール・水分配係数をもたらさない。このことが多くの普通の処方配合において活性化合物を水との接触から守るうえで主要な障害となる。第四級アンモニウム骨格筋弛緩薬の全てのクラスでオクタノール・水分配係数は一般にかなり低く、1.0未満なので(すなわち、低Kow<0)(Kow:オクタノール・水分配係数)、このことがこれらの化合物の水・薬の接触を減少させる試みに脂質ベースの担体を用いることを遠ざける様に教えている傾向がある。さらに、グリセリンおよび他の注射可能な溶媒に対するこれらの薬剤の溶解度は一般に極めて低い。かくして、第四級アンモニウム神経筋遮断薬のクラスに属する薬剤は絡み合った特徴の組合せを持っていてその様な化合物の処方を保護環境内に作ることを非常に難しいがやりがいのあるものにしている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
当発明の模範的な実施形態において、第四級アンモニウム骨格筋弛緩薬(または他の神経筋遮断薬)は水性系内の安定性および貯蔵寿命を改善し、戻しを必要とせずにすぐに使える、さらに薬学的に静脈注射に容認される様に処方されている。
【0006】
当発明によると、薬剤を保護的な環境内、とりわけ、疎水性または両親媒性の環境内に高度に分配することが薬剤の加水分解による分解を制限するために非常に効果的な手段であることが見いだされていて、多分それは薬剤分子上の加水分解により易変性の基が疎水性領域または局部的な環境内にある場合に、水とその基との接触を制限するためである。ある添加物は薬剤の安定性を改善するために驚くほど効果的であることが判ってきている。これらの添加物は有機アニオンで(十分に疎水性の環境を確立するために)6つ以上の炭素原子を持ち、かつ薬剤分子のカチオン基またはプロトン化した基との静電気的結合または会合(および攻撃的水酸化イオンの排除)のために、pKaは4未満、すなわち約0.5〜3.5の範囲、より好ましくは1.5〜3.0の範囲である。これらの添加物は酸の形でもよく、酸の形(プロトン化)では純水に対して、水溶解度が5%未満である。例えば、本発明で最も好まれる化合物の1つであるゲンチジン酸は、酸としては室温で水に1%未満しか溶解しない;一方で塩の形ではかなり溶解するが、当開示の目的では溶解の基準としては考慮しない。さらにこの発明の目的のために、特性を議論する際には酸と塩(または「アニオン」)は互換性があるものとして言及するが、それは酸(プロトン化)およびアニオン(塩、脱プロトン化)の形の相対的な量はpKaおよび薬剤pHにより当業者なら誰でも知っている式で簡単に計算できるからである。特によい結果がゲンチジン酸、ベンゼンスルホン酸、および/またはサッカリンを、単独でまたは組み合わせて用いて達成されている。この実施例では加水分解に対するベクロニウムの化学安定性が特にこのクラスの添加物類のここで論じた濃度により非常に増進することを証明し、一方でこれらの基準を満たさない他の添加物は安定剤としてずっと効果的でないか、または事実上(酢酸の場合の様に)実際に薬剤の劣化を促進するかの何れかである。
【0007】
当発明において、薬剤安定化有機アニオンは、総合的には、一般に薬剤に対して、より正確には、薬剤の分子上のカチオン基(通常は第四アンモニウム基)のモルに対して、極めてモル過剰である。つまり、薬剤が1つ以上のカチオン基を持っている、例えばパンクロニウムの様な場合、モル比は有機アニオンのモル数の合計を薬剤分子のカチオン基のモル数の合計で割ったものとして計算するべきである;後者は薬剤のモル数に1分子当たりのカチオン基の数を乗じて計算され、通常は1か2の何れかである。好まれるモル過剰率は(このモル比から1を引いて100を乗じて計算する)は約100%以上(すなわち、モル比は2:1)となることが好ましく、約200%以上となることがより好ましく、さらにベクロニウムの場合、約800%以上となることが最も好ましいが、例外は10以上の炭素がある有機アニオンの場合でここでは好まれる比はゼロ(過剰無し)以上の何であってもよい。理論に束縛されるものではないが、100%以上のモル過剰率で、薬剤のわずかな対イオン(臭素、塩素、他)および分子上のカチオン基または他の塩基性の(すなわち、アミノ)基に結合したすべての水酸化イオンの両方を置きかえる最良のチャンスがあると考えられている。
【0008】
今書いたとおりこのクラスの幾つかの薬剤は1つを超えるカチオン(第四級アンモニウム)基を持っているが、ベクロニウムの様なこのクラスのモノ第四級を代表するものは、心血管系副作用が少なく動力学的に優れているため臨床用途には一層より強く好まれる。本発明ではこのクラスのモノ第四級薬剤が好まれ、なかんずくベクロニウムがとりわけ好まれている。
【0009】
ここにより詳細に論じる様に、疎水性および慎重に選定されたpKaの相乗作用を持つ特定の有機アニオンは、塩基または薬剤のカチオンの形(すなわち、対イオンが無い)の何れかと有機塩の形で、または薬剤の溶液または分散液内で結合すると、第四級アンモニウム神経筋遮断薬クラスの薬剤に対する非常に効果的な薬剤安定化賦形剤である。例えば、ゲンチジン酸エタノールアミンの添加は例え2から3%の濃度でも強力な薬剤安定化効果を持つ。意味深いことに、ゲンチジン酸エタノールアミンにはベンゼンスルホン酸およびサッカリンと同様に静脈注射薬剤処方に安全に用いることができるという歴史がある。理論に束縛されるものではないが、薬剤安定化賦形剤として作用するものとして発見された有機イオンに求められるpKaの範囲、つまり0.5〜3.5、またはより好ましくは1.5〜3.0は、酸が薬剤の分子と会合している水酸基を置換できる程度に強いが、しかし酸が強すぎると薬剤上の第四級アンモニウム基との結合がより緩やかになってしまう、ほど十分強い必要があると考えられている。かくして、最も好まれる酸(アニオン)であるゲンチジン酸(ゲンチセート)のpKaは約2.9でこのクラスの代表的な薬品類のpKbより低く、しかし単離した自由アニオンの形のゲンチセートがエネルギー的に有利なほどには低くない(勿論、水化物の形で)。pKaが約0.5より大きいこと、モル過剰、および十分に大きな炭素数が必要であることの例として、臭化水素酸(HBr)のpKaが約−9(負数の9)であること、および非常に不安定な臭化ベクロニウム分子がHBrとベクロニウムの等モルからなる生成物であると見なすことができることを考慮すればよい。アニオン類のモル過剰が必要だというさらなる証拠は後出の実施例の1つで与えられていて、ここではアミノ酸グリシンが臭化ベクロニウムに組み入れられているが、それぞれのグリシンの分子が1つのアニオンと共に1つの陽電気に帯電した基を持ち込むため、両性イオン化合物を加えた正味の結果は単純なアニオンのモル過剰率の加算で得られるものと同一ではない。
【0010】
アニオン上の疎水基は、そのアニオンが少なくとも6つの炭素原子を最も好ましくは隣接した疎水基として持つ様な場合、アニオン性化合物とカチオン性薬剤との結合、または会合性、さらには続く安定性を1つ以上の効果の組合せにより向上させることができ、これには:A)薬剤の疎水部分(これはこのクラスの薬剤ではかなりのMWである)との疎水的相互作用;B)並進エントロピーの減少およびこの結果として、例えば、原子カチオンまたはアミノ酸よりも大きな分子量によるより強い結合;C)薬剤および/または薬剤に結合したアニオンと結合する際に、十分に疎水性の局所的周囲状況(または「環境」)を薬剤の回りに、特に易変性の基の位置に作ること;およびD)水に乏しい領域を含む系において他の添加物の力による水領域への分配の減少、が含まれる。
【0011】
要約すれば、アニオン・薬剤間の電荷相互作用の相乗効果があるかもしれず、これらの相互作用がアニオン上の疎水基によるもので、かつ順繰りにこれが添加物または他の添加物または脂質マトリックスによる疎水化/水分除去効果に対して添加物的または相乗的であり得る。脂質マトリックスは次の1つ以上を含むことができる。第1に、グアニジン、尿素、またはチオシアナートイオンの様なカオトロピック剤(カオトロープ)を、ある意味で、水の分子間の水素結合を分離することにより水を「もっと疎水性」にするために用いることができる。第2に、ポリエチレングリコール類(PEG化合物)またはさほど好ましくはないがグリセリンを組み入れることも可能で、これらは水溶性であるにもかかわらずかなり疎水性で、好まれるPEGの場合では温度が増すと共にさらにそうなる;PEGの好まれる濃度は重量で約15および40%の間である。さらに第3に、後出のいくつかの実施例で示す様に脂質または界面活性剤のミクロ構造を行使することができ、ここでは逆リオトロピック液晶相素材の粒子、すなわち逆立方相および逆六方相素材の好ましいミクロ構造の成分を組み入れ、水寄りでそのため加水分解的に不安定な基に対してより優しい疎水性領域をもたらす。実施例で示す様に、本発明による好まれるアニオン類の一つを組み入れることで実際に薬剤の分子を、疎水性アニオンおよび強いイオンペアリングとの連携のおかげで、疎水性物質に富んだ粒子(これは粒子マトリックスおよび水の間で測った分配係数により定量化されている)にすることができ、かくして薬剤・アニオン電荷相互作用、薬剤・アニオン疎水性相互作用、および薬剤・アニオン・粒子の3方向の相互作用間の有益な相乗効果を明らかにしている。
【0012】
当発明による実用的なアニオン性化合物については、1つまたは2つだけアニオン基を持つ化合物が好まれ、さらには1つだけアニオン基を持つものが特に好まれるが、ここでは上で論じたところにしたがって約7未満のpKaを持つ場合にのみイオン性基はアニオンと見なされる。つまり、本発明の薬剤においては、約7を超えるpKaの酸はこの薬剤内ではイオン化されないpHということである。1つを超えるアニオン基を持つ化合物の場合の炭素の数は、当発明の文脈においては、炭素の数をアニオン基の数で割って計算されるべきである。かくして、例えば、化合物EDTA(エチレンジアミン4酢酸)については、炭素の数10、がアニオン基の数、pKa群を考慮した3で割られる(pKa1=2.0、pKa2=2.7、pKa3=6.2、およびpKa4=10.0の値である)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のために好まれる製薬成分は非−脱分極骨格筋弛緩薬のクラスに属するもので、最も好まれるものはそのクラス内の第四級アンモニウムステロイド性遮断剤化合物であり、これらに制約されないが、これには、ベクロニウム、ロクロニウム、アルクロニウム、デカメトニウム、ラパクロニウム、パンクロニウム、3−デアセチルパンクロニウム、3−デアセチルベクロニウム、ピペクロニウム、ロクロニウム、および3−デアセチルピペクロニウムの塩が含まれる。その他の第四級アンモニウム化合物で非−脱分極骨格筋弛緩薬のクラスに属するものには、アトラキュリウム、ベンゾキノニウム、ドキサキュリウム、ミバキュリウム、C−カレバッシン、デカメトニウム、ファザジニウム、ガラミン、ヘキサカルバコリン、ヘキサフルオレニウム、ラウデキシウム、レプトダクチリン、メトクリン、およびツボクラリンの塩が含まれる。これらのそれぞれの筋弛緩化合物は第四級アンモニウムカチオン基(または原子、厳密には)、およびとりわけステロイド性の骨格鎖を伴った、かなりの疎水性部分を持っている。エステル(一般には酢酸エステル)のような加水分解しやすい基が存在するために加水分解に関して不安定なものはこの開示においては特段の関心事で、とりわけベクロニウムがエステルの加水分解により速やかに分解するために特に重要である。とりわけこのクラスのステロイド性化合物はステロイド性骨格鎖に直結した加水分解性エステルを持ち、このことがステロイド性骨格鎖および当発明による有機アニオン類の間の疎水性相互作用のために、当発明をとりわけ有効なものにしている、というのはステロイド性薬剤の場合にはこの相互作用が有機アニオンおよび加水分解性の基の間の一層の親密な連携を、したがって後者の保護を促進しているからである。
【0014】
当発明を実施する中で、第四級アンモニウム神経筋遮断薬は6つ以上の炭素原子、および0.5〜3.5(1.5〜3.0がさらに好ましい)の範囲のpKaを伴った1種類以上の有機アニオン類と混合される。これらの有機アニオン類のそれぞれが薬剤の加水分解による分解を制限する安定剤として作用することが見いだされていて、多分それは加水分解的に易変性の薬剤上の基と水との接触を制限することによるものであろう。薬剤(または実際には、上で定義した様に薬剤分子のカチオン性分子)に対する有機アニオン類のモル過剰率は約100%以上が好ましく、約200%以上がより好ましく、さらにベクロニウムの場合は約800%以上が最も好ましいが、例外的に10以上の炭素の有機アニオン類ではモル過剰は必要としない。ゲンチジン酸、ベンゼンスルホン酸、およびサッカリンは当発明を実施する上でとりわけ好まれる有機アニオン類である;しかしながら、さらに薬学的に注射に容認される他のいくつかの物質も薬学的活性の加水分解部分のために疎水性環境を作る様に機能する限り、使用することができる。他の適切な有機アニオン類の例にはグリココール酸、N−アセチルトリプトファナート、ジアシルホスファチジルグリセリン、トルエンスルホン酸、およびトコフェロールホスファートが含まれる。
【0015】
このクラスの薬剤は水溶液中では通常アルカリ性であるため、酸の形の添加物(いわば、プロトン化した有機アニオン)を加えることはこの酸の最初の部分が薬剤により脱プロトン化されることになってしまう。この先は、さらに望む薬剤のpHにより、通常は追加的な塩基を必要とし、これにより望ましくない低pHを防ぎさらに有機添加物を溶解度の高い塩の形にするという両方をおこなう。これを達成するために好まれる塩基類がここに記載されているが、最も好まれるのはナトリウムまたはカリウムの水酸化物、ピペリジン、およびエタノールアミンである。実際、この研究の途中で塩基上の水酸基の数が増えるにつれ、薬剤の安定性という面からは有利でなくなること、および単純な塩基の方が塩基アミノ酸より有利であることが見いだされた;好まれる塩基は1分子当たり最大で1つの水酸基を持っている。エタノールアミンは水酸化アルカリと共に、好まれる塩基である。ピペリジンはこのクラスの薬剤を安定させるという意味ではより効果的であるが、注射製品における安全使用の実績がなく、この点からエタノールアミンほどには好まれない。
【0016】
薬剤およびアニオンの組合せは液体キャリヤー内で処方されている方が好ましい。しかしながら、さらにピル、タブレット、またはトローチ剤の様なマトリックス材料で実施することもできる。液体の形なら、薬剤およびアニオンは溶液でも、または分散の形(例えば、エマルジョン)であってもよい。さらに、処方はリオトロピック液晶材料を含む粒子内に組み入れることもできる(例えば、Andersonの米国特許6991809、Andersonの米国特許6989195、Andersonの米国特許6638621、Andersonの米国特許6482517、Andersonの米国特許公開20050077497、およびAndersonの米国特許出願20040156816を参照。これらのすべてを本願に引用して本明細書とする)。有機アニオニオンが存在するため、活性医薬成分(API)は貯蔵中に加水分解性の分解を受ける頻度が減り、したがって貯蔵寿命が長くなる。この発明により意図された多くの筋弛緩剤にあっては、貯蔵は冷蔵庫温度において行われている。しかしながら、当発明が室温安定性を改善することは当然である。さらに、筋弛緩剤のpHは生理的なそれかまたはそれに近いものである。低いpH(例えばpH4)では安定性が向上できる一方で、この様な酸性pH状態では注射の痛みは増大する。さらにキレート剤、緩衝液、その他を含む様々な他の化合物を本発明による組成物中に含むことができる。水が高度に純粋であること、重金属汚染物質が極めて少ないこと、が本発明の安定性のために不可欠である。
【0017】
当発明による好ましい実施形態は「すぐに使える」処方で、注射の前に、水(WFI)の様な成分の追加も、長期(例えば、15秒を超える)にわたる震盪も必要としないものである。その様な措置を必要とすることは、外科的または外来手術の状況の中では、複雑化および不便さだけでなく、汚染の可能性および未溶解の粒子物質を注射するという形の危険をもたらす。薬剤、賦形剤(当発明に関しては1種類以上の有機アニオン類を含む)、および場合によっては粒子を、注射用水を含むことが最も好ましいが、液体キャリヤー内に組み入れることで、これらの実施形態はもどし作業を必要としないすぐに使える処方として供給することができる。
【0018】
これらの医薬品は筋弛緩剤を必要とする人および動物の患者に与えられる。実施例には挿管のために一時的な麻酔を必要とする人間被験者、もしくは外科手術または機械呼吸を必要とする人間被験者が含まれる。これらの医薬品は単独でまたは他の医薬品(例えば、麻酔薬、他)と組み合わせて与えられる。これらの医薬品は注射(例えば、i.p.(腹腔内)、i.v.(静脈内)、i.m.(筋肉内)、subQ、他)、または他の経路(経口、鼻腔、舌下、経皮、直腸、眼球、他)で与えられることが好ましいが、静脈注射が最も好まれている。処方は液体の形にされることが好ましい;しかしながら、処方はさらにタブレット、ピル、トローチ剤、カプセル、経皮貼布、他で与えることもできる。ここに記載した水が欠乏した賦形剤環境(例えば、疎水性領域および拡張した極性・無極性界面の存在)を利用していない市販の処方に比べて、酸性pHが少ない本発明による剤は、当剤を他の剤、例えばチオペンタールナトリウムまたはその類縁の様な鎮静剤と組み合わせて投与した場合に沈殿の危険性を低減することができる。ここに記載した医薬品の液体分散物はカテーテル経由で送り込むことを可能にする(ボーラス投与、メンテナンス投与、持続注入、他)。
【0019】
<実施例>
後出の実施例においてベクロニウムに関するHPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析結果が報告されているが、以下にHPLC測定のパラメータを示す。HPLCシステムは島津のVPシリーズで以下の構成機器から成る:SPD・・MIOAダイオードアレーディテクター、SIL・・IOADオートサンプラー、LC・・IOATポンプ、SCL・・IOAコントローラ、および島津EZスタートバージョン7.2SPI改訂Bソフトウェア。クロマトグラフィーのパラメータ:移動相・・60%アセトニトリル、25%メタノール、15%の0.1モル濃度TMAH(pH6.5)、カラム・・25cm X 4.6mm Phenomenex LunaCl8 5μm、波長・・210nm、注入容量・・5μL、流速・・1.0mL/分、標準調整・・0.001NのHCL/メタノール中に1mg/mL、およびサンプル調整・・1mg/mL・・未希釈。
【0020】
水に1mg/mL溶解し、研究途上で種々のpH値に対して中和した臭化ベクロニウムのサンプルによると、上で定義したこれらのコントロール溶液の貯蔵寿命(すなわち、薬剤の有効性の15%が失われた時点)は、次の様にpHおよび温度の関数である:

pH6および25℃におけるベクロニウムの場合、マレイン酸塩TRIS緩衝液およびHCl酸性化ベクロニウム溶液の両方で1週間に少し欠ける貯蔵寿命を記録した。
【0021】
<実施例1>
当実施例においては、種々のpKaおよび炭素数を持ついくつかのアニオン性化合物についてそれらが溶液中のベクロニウムを安定化させる能力を比較した。とりわけ、以下のアニオン類(または酸、滴定の状態による;ここでは両方の用語がこれらの化合物を意味する)について調査しそのpKaおよび炭素数を記載してある。

【0022】
次の表は時間経過に対する安定性をHPLCで検査するために作成した化合物を示す。それぞれのサンプルはおよそ1mg/mLの臭化ベクロニウムを含んでいた。それぞれのサンプルはpH6.0まで滴定したが、例外は塩酸とオクタノン酸のサンプルでこれらはそれぞれpH6.7および6.9まで滴定した;表の6列目はpHを滴定するために用いた化合物の実体を示し、最後から2番目の列は目標とするアニオン濃度を示し、最も右の列がベクロニウムに対する有機アニオンのモル過剰率を示している。同様に最初の2つの記入はコントロールであり、大半のサンプルに比べ無視できる量の酸を含む。表に記入された全ての数値は実際に記録されたグラム表示の重量である:
【0023】
【表1】

サンプルは表示どおりベクロニウムの有効性について1週間または2週間の時点でHPLCにより分析し、その結果は次の表に示してあり、最後の蘭にHPLCで判定したベクロニウム濃度をmg/mLで示している。
【0024】
【表2】


2つのサンプルでは注入に誤りがありHPLCのデータ入手が不能であった
【0025】
表からいくつかの点が注目に値する。第1に、より差異がある25℃およびとりわけ40℃のデータに焦点を合わせ、1週目の結果および2週目の結果に注目すると、明らかに最も安定している溶液は次の添加物のものである:サッカリン、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、およびゲンチジン酸。第2に、酢酸は安定性に対して非常に有害で、このことは従来技術ではこれらの薬剤の溶液の緩衝液として酢酸を使用する様に教えていることからとりわけ重要なことである。オクタン酸も、似た様なpKa(約4.5)でありしかし炭素数はずっと高いが同様に悪く、pKaの影響が非常に強いこと、とりわけ全ての安定のために、それどころか安定性が実際に減少することを回避するために、pKaは4未満、好ましくは約3.5未満でなくてはならないことを示している。最近市販されている酢酸緩衝液(または酢酸)を組み入れた処方は本発明から離れたことを教えていることは明らかである。理論に束縛されるものではないが、酢酸およびオクタノン酸と同様に、カルボン酸のpKaが4.5近く(またはより大きい)の場合、これらの処方で使われるpHではかなりの割合の酸がプロトン化していて強い水素結合が得られるようになっていて、このことは薬剤周辺の局所環境の極性を事実上増加させ、および/または加水分解に関係する分子衝突を促進する。第3に、添加剤の3%の濃度は1:1のモル比よりも大幅により効果的である。
【0026】
上の結果の中で、最も効果的に安定化させる酸のpKaは約3.5未満で、すなわち、ゲンチジン酸(pKa2.9)、サッカリン(2.0)、およびベンゼンスルホン酸(0.7)で、一方pKaが約3.5を超えるものは明らかに効果が少なく、すなわち、マレイン酸(3.9)、アスコルビン酸(4.1)、コール酸(5.0)、およびデオキシコール酸(pKa約5.7)である;pKaが3.4のNAT(N−アセチルトリプトファン)は高温では非常にまずい働きであったが、これは単に添加物そのものが加水分解してトリプトファンと酢酸になったためかも知れない。さらに、最適なpKaは約0.5〜3.5、またはより好ましくは1.5〜3.0の範囲にあるべきで、これは酸が薬剤上の水酸化イオンを置きかえるだけ強い必要がある一方で、これより強い酸(すなわち、pKa<0.5、または<1.5)では薬剤上の第四級アンモニウム基にしっかりとは結合しないことを根拠にしている。
【0027】
繰り返しになるが、本発明の中で最も効果のある安定化化合物は疎水基を伴った有機アニオンの有機塩で、そのアニオンのpKaは約4未満、さらに約0.5〜3.5の範囲が好ましく、さらに約1.5〜3.0の範囲が最も好ましい。有機アニオンの疎水性の特性を十分に断言するためには、アニオン性化合物は少なくとも6つの炭素原子を含む必要がある。アニオン上の疎水基はアニオン性化合物のカチオン性薬剤に対する結合をいくつかの効果により改善することが可能で、これには水領域内への分配の減少、薬剤の疎水部分(これはかなりのMWとなる)との疎水的相互作用、および、例えば、原子カチオンまたはアミノ酸よりも大きな分子量による並進エントロピーの減少を含む。要するに、アニオン上の疎水基のおかげで、アニオン・薬剤間の電荷相互作用およびこれらの相互作用の間に相乗効果があり得るということである。
<実施例2>
【0028】
水溶ポリエチレングリコール類の安定性促進効果を様々の添加物を含む溶液を作り、それぞれのサンプルに臭化ベクロニウムを1.0mg/mL入れ、次いで1週間の貯蔵の後に化学的に変わっていない(すなわち、劣化していない)臭化ベクロニウムの量を比較して検査した。かくして、混合物を作った日、および1週間時点でそれぞれのサンプルのHPLC分析を実施した。臭化ベクロニウムの劣化は十分に早いのでこれは安定性促進効果を示している。それぞれのサンプルは二重に作られ、一方は室温で保管され他方は冷蔵庫内で保管された。
【0029】
元来1.0mg/mL含んでいた溶液の1週間後の臭化ベクロニウムのHPLCによる検定の結果。
冷蔵サンプル:
コントロール・・0.322mg/mL
0.05%EDTA・・0.937mg/mL
10%P85+3%ビタミンE・・0.669mg/mL
70/30グリセリン/水+EDTA・・値の計算不能;結合不良
60/40PEG3350/水+EDTA・・0.973mg/mL

室温サンプル:
コントロール・・0.341mg/mL
0.05%EDTA・・0.814mg/mL
10%P85+3%ビタミンE・・0.508mg/mL
70/30グリセリン/水+EDTA・・0.486mg/mL
60/40PEG3350/水+EDTA・・0.778mg/mL

2週間時点のHPLC結果
室温:
コントロール・・0.329mg/mL
0.05%EDTA・・0.700mg/mL
10%P85+3%ビタミンE・・0.422mg/mL
70/30グリセリン/水+EDTA・・0.028mg/mL
60/40PEG3350/水+EDTA・・0.835mg/mL

冷蔵サンプル:
コントロール・・0.127mg/mL
0.05%EDTA・・0.456mg/mL
10%P85+3%ビタミンE・・0.283mg/mL
70/30グリセリン/水+EDTA・・検出せず
60/40PEG3350/水+EDTA・・0.542mg/mL
【0030】
これらの結果はベクロニウム安定性がポリエチレングリコール(PEG)の追加により著しく増加することを論証している。PEG3350はその分子量が大きいため、浸透圧モル濃度を大きくは増加しないという付加的な利点がある。この添加物は温度を下げるよりも効果的で、さらにいくつかの測定では分解量を室温で約3倍(すなわち、67%超)を超えて、冷蔵庫温度では約10倍(90%)を超えて減少させた(1週間時点において)。この実験により報告された驚くべき結果、すなわち室温安定性が冷蔵庫温度のそれに匹敵する様だということは、部分的にはPEGおよびPEG関連界面活性剤の温度逆依存性によるものである。とりわけ、温度が上がるに連れ、PEGに富んだ領域が薬剤にとって保護となるものを形成する。
<実施例3>
【0031】
この実施例においては有機アニオンのグリココール酸がベクロニウムの安定性を改善することを示している。第四級アンモニウムステロイド性神経筋遮断薬臭化ベクロニウムを含む逆立方相は、最初に臭化ベクロニウム(Chem Pacific)0.111gmを0.01Nの塩酸(Aldrich)1.283gmに溶解して作った。溶解後、ビタミンE1.270gmおよびPluronic L122(Ethox)2.859gmを加えた。よくかき混ぜた後の原料は光学的には等方性で高粘度であった。次に、グリココール酸ナトリウム溶液をアニオン性界面活性剤のグリココール酸水和物(Sigma)0.217gm、LON水酸化ナトリウム0.474gm、および蒸留水15.317gmを混合して作った。グリココール酸のpKaはおよそ3.5で(ここに用いた濃度において)、26炭素原子である。
【0032】
次いで、グリシン(Spectrum)0.301gmを1.36%グリココール酸ナトリウム溶液14.698gmに溶解した。それから立方相4.990gmの量を界面活性剤溶液に加え、最初にホモジナイザー(Brinkmann Polytron PT3000)を用いて29.5kRPMで1分間、次いでマイクロフルイダイザーを18kpsiでそれぞれ1.5分ずつ4回用いて分散した。臭化ベクロニウム分散物は氷酢酸(Spectrum Chemical社、カリフォルニア州ガルデナ)を用いて7.3から5.2にpH調整した。分散物は次いで0.22μmのPVDFシリンジフィルター(Millipore、アイルランド)を用いてろ過した。微分干渉コントラスト(DIC)モードで作動するReichert−Jung Polyvar顕微鏡による観察で、200〜300ナノメートル台の粒子径が達成されていることが示された。pH5.1の分散液中の臭化ベクロニウムの濃度は初期には4.12mg/mLと検定された。3週間後、pH5.1の分散液中の臭化ベクロニウムの濃度は3.19mg/mLと検定された。単純な水溶液中において臭化ベクロニウムが急速に分解するという観点から、このことは薬剤の分解速度が著しく低下したことを表している。
【0033】
さらにほとんど同一の組成の別のサンプルを作り安定性を検定した。その実験において、pH5.2の分散液中の臭化ベクロニウムの濃度は初期には3.49mg/mLと検定された。4週間後25℃で、散液中の臭化ベクロニウムの濃度は3.41mg/mLと検定され、有効性が97.7%保持されたことを示した;これは有効性が約2週間で初期の85%まで低下する同一pHおよび温度のベクロニウムのコントロール溶液の貯蔵寿命に対して何倍もの改善である。
<実施例4>
【0034】
第四級アンモニウムステロイド性神経筋遮断薬臭化ベクロニウムを含む、おそらくは六方の逆液晶相材料は、先ず精製したホスファチジルコリン、PhospholiponTM90G(American Lecithin社、コネチカット州オックスフォード)0.900gm、およびジミリストイルホスファチジルグリセリンNa/NH塩(NOF社、日本)0.300グラムをクロロホルム(Aldrich Chemical社、ウィスコンシン州ミルウォーキー)19.247gmに溶解する。ジミリストイルホスファチジルグリセリン(DMPG)は約3.0のpKaおよび炭素数34を持つ。溶液を100mL丸底フラスコに移しクロロホルムを5ミリバールの真空(BrandTech Scientific社)で20分間引いて蒸発除去した。次いで、臭化ベクロニウム(Chem Pacific)0.030gmを蒸留水0.253gmに溶解した。溶解した時点で、PC/DMPGの均質な混合物0.807gmをベクロニウム溶液内に完全に混合し粘度のある逆六方相を作った。次に、20%ポリエチレングリコール3350溶液を、PEG3350(Dow Chemical社、ミシガン州ミッドランド)2.672gmおよび蒸留水10.681gmを混合して作った。臭化ベクロニウム六方相0.504gmの量を20%PEG3350溶液中に分散し、ホモジナイザー(Brinkmann Polytron PT3000)を用いて18.8kRPMで1分間分散した。1mg/mLの臭化ベクロニウム分散物を0.1M塩酸(Aldrich Chemical社、ウィスコンシン州ミルウォーキー)を用いて7.3から5.8までpH調節した。次いで分散物を0.45ミクロンPVDFシリンジフィルター(Millipore、アイルランド)を用いてろ過した。 微分干渉コントラスト(DIC)モードで作動するReichert−Jung Polyvar顕微鏡の観察により、ほとんどが200〜500nmの四角形粒子で一部は長さ500nmの棒状になっていることを示した。この棒状の形態は少なくとも部分的には逆六方相になっている分散材料に関連するものと考えられている。
【0035】
臭化ベクロニウムの分散はドップラー電気泳動光散乱解析のためにゼータ電位測定モードにセットしたBeckman Coulter DELSA440SXを用いて分析した。この分散液は適切な感知レベルとするために1:5に水で希釈した。3つの角度を用いた測定のゼータ電位分布の結果は、中心を−55mVに持つ分布を示し、これは安定した分散を作るのに十分に強いゼータ電位である。この強い負のゼータ電位は粒子中の高濃度のDMPGまで遡ることができる。DMPGおよびグリココール酸の両方ともpKaが4未満で炭素数が6より大きい有機アニオンである。
<実施例5>
【0036】
立方相は、トコフェロール:PCの比がおよそ1.09:1の化合物を混合し、次いで臭化ベクロニウムの10%溶液をこの疑似成分が化合物の14.5%および33%の間になるまで加えて作った。アニオン性の脂質DMPG(ジミリストイルホスファチジルグリセリン;pKaおよそ3.0、n=34)を立方相を基準として10%のレベル、したがってカチオン性薬剤に対してモル比で約2:1組み入れると、ゼータ電位が−25mVである分散液ができた。さらにデオキシコール酸ナトリウムを立方相の5%組み入れることにより、ゼータ電位は−35mVまで増加した。この立方相を水の70wt%グリセリン溶液中に分散した。pHは6.1であった。
【0037】
25℃で6週間貯蔵後、このサンプルのベクロニウムの検定値は初期値の86%で、したがってここに定義した貯蔵寿命は6週間余りであった。これはこの温度およびpHのベクロニウムのコントロール溶液に対して6倍の改善を意味する。
<実施例6>
【0038】
この実施例においては、ポロキサマーをベースとした立方相をカチオン性粒子として分散し、陽電荷は薬剤のそれによるものとして、さらにベンゼンスルホン酸ピペリジンを安定剤として加えた。8mLの試験管内に臭化ベクロニウム(Poli)0.194およびHPLC級の水1.814gmを加えた。すべての臭化ベクロニウムが溶解するまでサンプルをかき混ぜた。2本目の8mLの試験管内に、臭化ベクロニウム0.195gmおよびリナロオール(Aldrich)1.793gmを加えた。すべての臭化ベクロニウムが溶解するまでサンプルを激しくかき混ぜた。30mLのビーカー内に10%臭化ベクロニウム溶液1.852gm、リナロオール中の10%臭化ベクロニウム溶液1.384gm、および3.106gmのL122を加えた。均質になるまでサンプルをかき混ぜた。
【0039】
ビーカー内に、ベンゼンスルホン酸(Aldrich)4.837gmおよび蒸留水271.60gmを加えた。ベンゼンスルホン酸が溶解するまでサンプルをかき混ぜた。次いでサンプルを0.45ミクロンのシリンジフィルターを通してろ過しベンゼンスルホン酸から不純物を取り除いた。400mLビーカー内に、立方相5.19gmおよびベンゼンスルホン酸溶液254.81gmを加えた。サンプルを2分間ホモジナイズし、次にミクロ流動して立方相を分散した。150mLビーカー内に、この分散液60.00gmを加えた。サンプルの当初のpHは1.92であった。ピペリジン(Aldrich)を加えてサンプルのpHを5.80に調整した。
本発明によるこのベクロニウム処方の、4℃の貯蔵温度において18週間の検定値は初期値の100%であった。
<実施例7>
【0040】
この実施例は水面上の脂質ベースの立方相内へのベクロニウムの分配がグリココール酸(pKa3.5、26炭素)の存在により著しく増大することを報告し、したがってグリココール酸との結合によりベクロニウムの有効な疎水性が増加したことを論証している。この疎水性環境こそが、水と薬剤の易変性の基との間の接触を制限するための、当発明の中心なのである。
【0041】
HPLC測定による互いに平衡な立方相および水相中のベクロニウム濃度は立方相・水分配係数が非常に高く、とりわけ、KQWはここで論じた好ましい範囲のpKaの二分子層結合アニオン性化合物を組み入れることによりさらに増加することを示した。測定されたデータは以下の通りであった:
帯電した界面活性剤無しの立方相内のベクロニウム
立方相内の濃度=10.0mg/mL
水相内の濃度=0.006mg/mL
So、KQW=1667 logKQW= +3.2
帯電した界面活性剤(グリココール酸ナトリウム)有りの立方相内のベクロニウム
立方相内の濃度=10.6mg/mL
水相内の濃度=0.001mg/mL
So、KQW=10000 logKQW= +4
かくして、グリココール酸の組み入れにより脂質相内への分配が桁違いに増大した。
【0042】
当発明は好まれる実施形態の観点から記載されてきたが、当発明が添付した請求項の精神と範囲内で変更して実施できることは当業者には認識できるであろう。
<実施例8>
【0043】
3%のサッカリンを有機アニオン(pKa=2.0、7炭素)とする上の実施例1の処方#16を、市販のチオペンタールナトリウム製品(25mg/mLナトリウムチオペンタール、Abbott Laboratoriesによる)との比較のためにテストした。チオペンタール処方は添付文書にしたがって作り、同容積の処方#16と混合し、混合直後、および混合の2分、10分、および4時間後に混合物の沈殿の兆候を検査した。コントロールとして、臭化ベクロニウムの市販されているEsmuron処方を説明書にしたがって戻し、次いで同様の方法でチオペンタール溶液と混合した。
【0044】
Esmuron処方では広範にわたる沈殿物が観察された一方で、対照的にこの発明によるサッカリン含有処方では、4時間時点においてすら沈殿物のトレースしか認められなかった。かくして、本発明によるこの実施形態は、利便性および安全性の両観点から、市販されているチオペンタールナトリウム処方と、直接に接触および混合する上で相溶性があるという明確な長所がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上の第四級アンモニウム、神経筋遮断薬;および
1種類以上の少なくとも6つの炭素原子を持ちさらに0.5より大きく4.0より小さいpKa(酸解離定数)を持つ有機アニオン類を含み、前記の1種類以上の第四級アンモニウム、神経筋遮断薬および前記の1種類以上の有機アニオン類が水溶液または水性分散液に溶解している、筋弛緩剤。
【請求項2】
1種類以上の第四級アンモニウム、神経筋遮断薬の少なくとも1つの性状がステロイド性である、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項3】
1種類以上のステロイド性の第四級アンモニウム神経筋遮断薬がモノ第四級である、請求項2に記載の筋弛緩剤。
【請求項4】
前記第四級アンモニウム、神経筋遮断薬が、ベクロニウム、ロクロニウム、アルクロニウム、デカメトニウム、パンクロニウム、ラパクロニウム、3−デアセチルパンクロニウム、3−デアセチルベクロニウム、ピペクロニウム、および3−デアセチルピペクロニウムから成る群から選定される、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項5】
前記第四級アンモニウム、神経筋遮断薬が、アトラクリウム、ベンゾキノニウム、C−カレバッシン、デカメトニウム、ドキサキュリウム、ファザジニウム、ガラミン、ヘキサカルバコリン、ヘキサフルオレニウム、ラウデキシウム、レプトダクチリン、メトクリン、ミバキュリウム、およびツボクラリンの塩の1つを含む、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項6】
1種類以上の第四級アンモニウム神経筋遮断薬の第四級アンモニウム基に対する前記の1種類以上の有機アニオン類のモル過剰率が約100%以上である、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項7】
前記のモル過剰率が約200%以上である、請求項6に記載の筋弛緩剤。
【請求項8】
前記のモル過剰率が約800%以上である、請求項6に記載の筋弛緩剤。
【請求項9】
1種類以上の有機イオン類のpKaが0.5から3.5の範囲にある、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項10】
1種類以上の有機イオン類のpKaが1.0から3.0の範囲にある、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項11】
1種類以上の有機アニオン類が、ゲンチジン酸、サッカリン、グリコホール酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、N−アセチルトリプトファンおよびジミリストイルホスファチジルグリセリンから成る群から選定される、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項12】
1種類以上の有機アニオン類がゲンチジン酸またはサッカリンを含む、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項13】
1種類以上の有機アニオン類がサッカリンである、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項14】
注射に安全な、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項15】
1種類以上の第四級アンモニウム、神経筋遮断薬および前記の1種類以上の有機イオン類のそれぞれがリオトロピック液晶素材を含む粒子内にある、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項16】
リオトロピック液晶素材が逆立方相である、請求項12に記載の筋弛緩剤。
【請求項17】
1種類以上の有機アニオン類が室温で水に5%未満溶解する少なくとも1種類の酸を含む、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項18】
さらにグアニジン塩、チオシアネート、尿素およびポリエチレングリコール化合物の塩から成る群から選定された添加物を含む、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項19】
さらに1分子当たり最大で1つの水酸基を持つ塩基を含む、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項20】
さらにエタノールアミン、ピペリジン、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから成る群から選定された塩基を含む、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項21】
1種類以上の第四級アンモニウム神経筋遮断薬の加水分解劣化を防止または減少させる方法で、第四級アンモニウム神経筋遮断薬と少なくとも6つの炭素原子を持ちさらに0.5から3.5の範囲のpKaを持つ1種類以上の有機アニオン類とを水溶液に溶解または分散されるように組み合わせる工程を含む、1種類以上の第四級アンモニウム神経筋遮断薬の加水分解劣化を防止または減少させる方法。
【請求項22】
1種類以上の有機アニオン類がゲンチジン酸およびサッカリンの少なくとも一方を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
1種類以上の第四級アンモニウム神経筋遮断薬の第四級アンモニウム基に対する1種類以上の有機アニオン類のモル過剰率が約100%以上である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記の第四級アンモニウム、神経筋遮断薬がベクロニウムである、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項25】
第四級アンモニウム、神経筋遮断薬がベクロニウムでさらに前記有機イオンがサッカリンである、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項26】
前記筋弛緩剤に実質的に酢酸が含まれていない、請求項1に記載の筋弛緩剤。
【請求項27】
1種類以上の有機アニオン類の全てが約0.5および3.5の間のpKaを持つ、請求項1に記載の筋弛緩剤。

【公表番号】特表2008−536864(P2008−536864A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506748(P2008−506748)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/014121
【国際公開番号】WO2006/113462
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(503195241)
【Fターム(参考)】