説明

第VII因子組成物

本発明は、第VII因子を含み、マンニトールおよびスクロース、ならびにいかなる抗酸化剤も含まない液体形または固体形の医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第VII因子(FVII)を含む安定な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
凝固現象は、そのいくつかが活性部位にセリンを含むプロテアーゼである凝固因子を含む酵素反応のカスケードを含む。最終段階は、可溶性フィブリノーゲンのフィブリンフィラメントへの変換であり、その網目に循環細胞を取り囲む。凝固因子は、I〜XIIIの範囲の番号で示される。凝固の最終段階に関与する第XIII因子を除き、その他の因子はその番号の逆の順で関与する。すなわち、第XII因子は凝固を開始し、第I因子は凝固を終わらせる。各因子は、不活性前駆体形および文字aで示す活性型で存在する。
【0003】
凝固には2経路(すなわち内因性および外因性)が含まれ、共通の最終経路をもたらす。2つの機序の組み合わせは、固体の柔軟な凝血塊(血餅)を確実に形成させ、血圧に耐えると同時に充分な移動性を保証する。トロンビンの作用のもとで、フィブリノーゲンは化学修飾を受けてフィブリンの形成が生じる。フィブリンは血餅形成に必要である。
【0004】
内因性経路は循環中に存在する因子を含み、凝固工程が血管内で適切に始まる。外因性経路は、その部分に、循環中には通常存在せず、血管損傷時に放出される組織因子を含む。この経路が--活性化すると、活性化した凝固因子が次の凝固因子の活性化を誘導する連鎖反応が生じる。この経路は、血漿中に存在する第VII因子(FVII)の介入を伴う。活性化第VII因子(プロコンベルチンとも呼ばれる)は、分子量約50kDaの血液凝固機序に関与する因子の一つである。該因子は、セリンプロテアーゼファミリーの糖タンパク質であり、その活性化形の合成はビタミンK依存性である。凝固カスケードを開始するには、FVIIが活性化してFVIIaにならなければならない。FVIIa自体(複合体化していない)は、弱いタンパク質分解活性を有する。活性化するとFVIIaは血管損傷時に放出されるリン脂質関連タンパク質である組織因子(TF)と複合体を形成する。次に、FVIIa-TF複合体は、カルシウムイオンの存在下で第X因子を活性化して第Xa因子とする。この複合体は、FIXのFIXaへの活性化にも作用し、内因性経路を触媒する。次いで、第IXa因子と第Xa因子は活性化第VII因子を活性化する。活性化第FV因子およびプロトロンビナーゼと複合体形成した第Xa因子は、プロトロンビンをトロンビンに変換する。次に、トロンビンはフィブリノーゲンに作用し、それをフィブリンに変換し、FVIIIおよびFVを活性化してそれぞれFVIIIaおよびFVaとする。トロンビンは、一方でカルシウムの存在下でフィブリン塊の硬化に関与する第XIIIa因子の活性化を可能にする。それにも関わらず、凝固因子が無いと、反応のカスケードは遮断されるかまたは不完全となり、異常凝固という用語が適用される。
【0005】
活性化第VII因子は、第VIII因子または第IX因子の非存在下においても、出血をもたらす組織損傷後に放出される組織因子の存在下で局所的に作用する。このため、好ましくは活性化形の第VII因子は、長い間、出血によって生じるある種の血液凝固疾患の治療に用いられてきた。該因子は、多くの病状、例えば血友病A型またはB型(患者は第VIII因子または第IX因子阻害因子を示す)、後天性血友病または先天性第VII因子不全に、また製剤として外科手術中に生じうる出血の予防に関与する。今日では、血友病や先天性第VII因子不全に罹患したこれらの患者を治療するための市場で利用可能な医薬が知られており、デンマークのNovoNordisk社が製造したNovoSeven(登録商標)は、欧州の市場で1996年から、米国市場で1999年から認可されている。NovoSeven(登録商標)は、エプタコグアルファ(BHKベビーハムスター腎細胞から遺伝子操作により製造した組換えヒト活性化第VII凝固因子)を活性成分とする医薬である。この製剤は、塩化ナトリウム(2.92g/l)、塩化カルシウム二水和物(1.47g/l)、グリシルグリシン(1.32g/l)、ポリソルベート80(0.07g/l)、およびマンニトール(30g/l)も含む。
【0006】
NovoSeven(登録商標)RTという室温(25℃)で保存可能なNovoSevenの改良型もある。この第2の製剤は、塩化ナトリウム(2.92g/l)、塩化カルシウム二水和物(1.47g/l)、グリシルグリシン(1.32g/l)、ポリソルベート80(0.07g/l)、マンニトール(25g/l)、およびpH調節用の塩酸および水酸化ナトリウムからなり、スクロース(10g/l)およびメチオニン(0.5g/l)(抗酸化剤として用いる)も含む。この製剤の再構成には、注射用水とヒスチジンが必要である。NovoSeven(登録商標)RTは欧州および米国で2008年に認可された。
【0007】
組換えFVIIa(rFVIIa)の主な治療的適応症は、抗第VIII因子抗体が発現する血友病A型および抗第IX因子抗体が発現する血友病B型における自然または外科的出血の治療である。欧州では、先天性FVII不全の患者やGlanzmann血小板無力症の患者への使用にも適応する。さらに、多くの刊行物が先天性凝固因子不全や血小板無力症ではない患者における外科手術時の出血の調節におけるrFVIIaの有効性について報告している。
【0008】
Nedergaardら(2008)の文献 [Nedergaard H. et al.、In vitro stability of lyophilized and reconstituted recombinant activated factor VII formulated for storage at room temperature、Clinical Therapeutics、Vol 30、No. 7、p1309-1315、2008]は、NovoSeven(登録商標)RTは、凍結乾燥型では25℃で24月間、30℃で12月間、40℃で6月間、および50℃および60℃で12時間安定であると記載している。さらに、この製剤は、液体で再構成した後は6時間しか安定でないため、再構成後3時間以内に注射することが推奨される。したがって、この製剤は、この安定性のため、取り扱いの難しさがあり、投与回数に関して制約がある。
【0009】
特許EP1210361は、活性化第VII因子の凍結乾燥組成物の安定化にグリシルグリシンを用いる利点を開示している。
【0010】
特許出願WO2004/000347は、種々の他の安定化剤を提案している。
【0011】
Soenderkaer S.ら(2004)の文献 [Soenderkaer S. et al.、Effects of sucrose on rFVIIa aggregation and methionine oxidation、European Journal of Pharmaceutical Sciences、Vol 21、p597-606、2004]は、活性化第VII因子の凝集および加熱変性に対する安定化をもたらすのに必須の賦形剤としてスクロースを記載している。この開示によれば、スクロースは、該タンパク質の表面から糖を排除し、該分子の化学ポテンシャルを増大させることにより、該タンパク質が水性溶液中で天然形を保持するのを可能にする。その結果、その表面積が減少することにより、該タンパク質は凝縮構造のままである。スクロールが賦形剤として存在すると、凍結乾燥形の活性化第VII因子の安定化を可能にする。
【0012】
しかしながら、スクロールの存在は、製剤中への抗酸化化合物の導入をもたらし、この種の化合物の添加に伴う技術的および規制的な制約をもたらす。
【0013】
したがって、抗酸化剤を含まない、室温で物理化学的に安定な、患者、特に血友病や先天性第VII因子不全に罹患した患者が使用しやすい第VII因子を含有する医薬の開発が、今、真に求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
(発明の要約)
本発明は、好ましくは第VIIa因子形の第VII因子を含み、マンニトールおよびスクロースを含まない液体形または固体形の医薬組成物を提供する。
【0015】
ある好ましい態様において、該組成物はいかなる抗酸化剤も含まない。
【0016】
好ましくは、該組成物は、少なくとも1の親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸、例えばアルギニンを含む。
【0017】
ある好ましい態様において、本発明組成物は、第VII因子、少なくとも1の親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸、少なくとも1の疎水性アミノ酸、およびアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、または遷移金属の塩を含み、マンニトールおよびスクロースを含まない。
【0018】
好都合には、固体形の該組成物は、粉末またはケーキ(またはプラグ)の形でありうる。該組成物は、好ましくは、水分含量が3%またはそれ以下である。ある特定の態様では、該組成物は凍結乾燥形である。
【0019】
本発明の別の目的は、FVIIと緩衝溶液を混合し、必要であればpHを調整し、次いでろ過して液体形を得ることを含む、該組成物の製造方法である。次に、この液体形を乾燥させて固体形を得ることができる。
【0020】
用語「緩衝溶液」は、少なくとも1の親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸、およびアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、または遷移金属塩を含む。好都合には、該緩衝溶液は少なくとも1の疎水性アミノ酸も含む。
【0021】
本発明の別の目的は、本明細書に記載の固体組成物を注射用水に溶解することを含む、治療使用のための注射用製剤の製造方法からなる。
【0022】
本発明は、この方法により得ることができる注射用製剤も指向する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本出願人は、室温で物理的および化学的に安定で、特に血友病または先天性第VII因子不全に罹患した患者が使用しやすい第VII因子組成物を提供する。
【0024】
本発明の新規医薬組成物は、固体形で、25℃またはそれ以下の温度で24月間以上の安定性を有する。
【0025】
したがって、該組成物は、第VII因子を実質的に分解させずに室温で保存することができる。用語「室温」は、通常10℃〜30℃、好ましくは15℃〜25℃を含む室内温度を意味するものとする。
【0026】
用語「第VII因子」または「FVII」には、野生型ヒト第VII因子(特許U.S. 4784950に記載されている)または別の種(例えば、ウシ、ブタ、イヌ、ネズミ)由来のFVIIの配列1〜406を含むポリペプチドが含まれる。該用語は、存在可能な第VII因子の天然のアレル変異体、ならびにあらゆる形もしくは程度のグリコシル化もしくは他の翻訳後修飾も含む。
【0027】
用語「第VII因子」は、野生型の活性と同じかまたはそれより大きい生物活性を有する、特に、1またはそれ以上のアミノ酸の挿入、欠失、または置換により野生型FVIIaと異なるポリペプチドを含むVFII変異体を含む。
【0028】
「第VII因子」または「FVII」は、非開裂FVII(酵素前駆体)および活性化第VII因子を含む。該組成物には、好ましくは活性形の第VII因子を用いる。
【0029】
用語「第VIIa因子の生物活性」には、例えば活性化血小板の表面にトロンビンを生じさせる能力が含まれる。該組成物の第VII因子の活性は種々の方法で評価することができる。例えば、該生物活性は、凝固試験を用いて測定した第VIIa因子の量と、抗FVII抗体との免疫応答性により測定した第VII因子の量の比により測定することができる。
【0030】
用語「安定な組成物」は、本明細書において、本発明組成物の製造または保存中の、凝集物(不溶性または可溶性)の形成が最小限であり、および/または化学分解が減少し、pHが維持され、タンパク質の構造が実質的に修飾されず、該タンパク質の生物活性と安定性が維持されることを表す。該組成物を凍結乾燥するときの該組成物の安定化には、タンパク質の凍結保護(lyoprotectionおよびcryoprotection)が含まれる。
【0031】
第VII因子の該用語「物理安定性」は、第VII因子のダイマー、オリゴマー、またはポリマー形の不溶性または可溶性凝集物の形成がないかまたは減少し、該分子のあらゆる構造変性もないかまたは減少することを意味する。
【0032】
用語「化学安定性」は、加速条件下で固体状態または溶解形で保存中の第VII因子のあらゆる化学修飾が無いかまたは減少していることを意味する。例えば、加水分解、脱アミノ化、および/または酸化現象が抑制されるかまたは遅延する。硫黄を含むアミノ酸の酸化は制限される。
【0033】
例えば、本発明の固体組成物は、製造方法の終わりおよび保存前における酸化形と凝集物の含有量が低く、例えば、5%(重量)未満、好ましくは4%未満、3%未満、または2%(重量)未満のFVIIが酸化形に変換され、5%(重量)未満、好ましくは4%未満、3%未満、または2%(重量)未満のFVIIがダイマーまたはポリマー形に変換されている。暗所で、30℃で24月間保存した後に、好ましくは10%(重量)未満のFVIIが酸化形に変換され、10%未満のFVIIがダイマーまたはポリマー形に変換される。
【0034】
本発明の凍結乾燥組成物も構造的安定性を有しており、自発的に崩壊せず、使用前に水に容易に溶けるケーキ(またはプラグ)を形成することができる。
【0035】
本発明の医薬組成物は、第VII因子を含み、マンニトールおよびスクロースを含まない、液体形または固体形の組成物である。
【0036】
本発明組成物中の好ましくは第VIIa因子形の第VII因子の含有量は以下の通りである:0.1〜15 mg/ml、好ましくは0.1〜10 mg/ml、より好ましくは0.2〜5 mg/ml、または0.2〜2 mg/ml(好ましくは乾燥前に、または所望により注射用調製物の形に再構成した後に液体形で測定する)。
【0037】
好ましくは、該組成物は、あらゆる糖、ポリオール、またはメチオニンを含まない。避けるべき糖には、特に、スクロースに加えて、二糖、三糖、多糖、例えばデキストロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、シクロデキストリン、マルトデキストリン、およびデキストランが含まれる。
【0038】
避けるべきポリオールには、特にマンニトールに加えて、ソルビトールおよびキシリトールが含まれる。
【0039】
より好ましくは、該組成物はグリシルグリシンを含まない。
【0040】
ある好ましい態様によれば、本発明組成物はいかなる抗酸化剤も含まない。抗酸化剤には、例えば下記化合物の1またはそれ以上が含まれる:ホモシステイン、システイン、シスタチオニン、メチオニン、グアタチオン。
【0041】
本発明組成物は、少なくとも1の親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸を含み、所望により少なくとも1の疎水性アミノ酸も含む。親水性(または極性)アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸には、ロイシン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが含まれる。親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸のうち、アルギニン、またはその塩の一つ、例えば、アルギニン塩酸塩、またはアルギニンリン酸塩を選択的に用いることができる。アミノ酸、例えばグリシンおよび/またはロイシン、またはその塩、例えばロイシン塩酸塩を好都合に加えることができる。
【0042】
親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸、例えばアルギニン、適切な場合は、疎水性アミノ酸またはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、または遷移金属塩)の添加は、第VII因子の安定化と凍結乾燥形の可溶化を促す。
【0043】
疎水性アミノ酸(非極性側鎖を含む)には特に以下のアミノ酸が含まれる:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびプロリン。
【0044】
好ましくは、本発明の文脈において疎水性アミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、またはその両方の混合物である。
【0045】
本発明組成物は、選択的にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、または遷移金属塩を含む。特に、クエン酸三ナトリウム、塩化カルシウム、または塩化亜鉛を挙げることができる。好ましくは、用いる塩は、選択的にクエン酸ナトリウムまたは塩化カルシウムである。
【0046】
最後に、本発明組成物は、1またはそれ以上の非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート、ポロキサマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレン/ポリプロピレンのブロックコポリマー、およびポリエチレングリコールを含みうる。好都合には、好ましい界面活性剤は、ポリソルベート80およびポリソルベート20である。
【0047】
ある実施例において、該組成物は、以下のものを含む:
好ましくは第VIIa因子形の第VII因子;
所望により塩酸形のアルギニン;
イソロイシン;
ロイシン;
グリシン;
クエン酸三ナトリウムまたは塩化カルシウム;および
適切であれば、ポリソルベート80またはポリソルベート20。
【0048】
より詳細には、該組成物は以下のものを含む:
好ましくは第VIIa因子形の第VII因子;
10〜40g/lの所望により塩酸形のアルギニン;
4.2〜6.6g/lのイソロイシン;
0.6〜1.8g/lのロイシン;
0.6〜1.8g/lのグリシン;
1〜2g/lのクエン酸三ナトリウム二水和物または0〜0.2g/lの塩化カルシウム二水和物;および
適切であれば、0〜0.5g/lのポリソルベート80。
【0049】
ある例では、該組成物は、以下のものを含む:
第VII因子(好ましくは第VIIa因子の形の)を0.2〜2g/l、
アルギニン塩酸塩を24g/l、
イソロイシンを6g/l、
クエン酸三ナトリウム二水和物を1.5g/l、
グリシンを1.2g/l、
ロイシン塩酸塩を1.2g/l、および/または
ポリソルベート80を0.07g/l。
【0050】
別の例では、該組成物は以下のものを含む:
第VII因子(好ましくは第VIIa因子の形の)を0.2〜2g/l、
アルギニン塩酸塩を34g/l、
塩化カルシウム二水和物を0.15g/l、
イソロイシンを6g/l。
【0051】
濃度は、乾燥前または注射用調製物の形に再構築した後に液体形の組成物について測定する。
【0052】
本出願人は、第VII因子を含む医薬製剤の希釈剤または安定化剤として通常用いられているスクロースおよびマンニトールを医薬用途の組成物から除去した。
【0053】
スクロースおよびマンニトールを含まないことは種々の利点をもたらす。第1に、スクロースを介して導入されうる酸化成分またはエンドトキシンの存在を回避する。
【0054】
驚くべきことに、マンニトールを含まなければ、凍結乾燥中の該組成物内のマンニトールの結晶多形の形成を避けることができ、特に組成物中にマンノースが存在するなどの、不純物のリスクが限られる。
【0055】
さらに、すべての予想に反して、本発明組成物にマンニトールおよびスクロースが存在しないことは、該組成物の安定性に有害ではない。反対に、NovoSeven(登録商標)RTなどの利用可能な製剤に比べて該組成物のガラス転移温度の増加がみられる。
【0056】
ガラス転移は、二次転移、すなわち、熱容量の変化を伴い、潜熱を伴わない温度転移である。ガラス転移は、結晶せずに十分急速に充分な低温まで冷却する過冷却液、および固体状態から粘弾性状態になる非晶質ポリマーまたは結晶ポリマーの非晶質部分の特徴を示す。ガラス転移温度またはTgは、この状態変化が生じる温度である。液体生成物をこの温度未満に冷却すると、固体でガラスのように脆くなり、これをガラス状態という。該分子の流動性は該生成物がガラス状態になるとブロックされるので(フリーラジカル官能基のみがまだ低い相対流動性を有する)、該生成物をガラス転移温度より低い温度で保存するのが好都合である。したがって、高いガラス転移温度は、凍結乾燥組成物の高温(>25℃)でのより良好な安定性をもたらし、活性成分の反応性を低下させる[Pikal et al.、The Effects of Formulation Variables on the Stability of Freeze-Dried Human Growth Hormone、Journal of Pharmaceutical Research、Vol 8、p 427-436、1991]。
【0057】
さらに、その製剤により、本発明の医薬に用いる組成物はタンパク質の凝集を防ぐ。実際に、NovoSeven(登録商標)RT製剤のようにマンニトールおよびスクロースが存在すると、ガラス転移温度は45℃である。マンニトールおよびスクロースを含まない本発明組成物のガラス転移温度は60℃以上、一般的には74〜93℃であり、冷蔵庫外での(25℃より高い温度でも)保存を可能にする(図2)。
【0058】
第VII因子は一般にヒト第VII因子である。該因子は種々の方法で、例えばヒト血漿の非低温沈降分画から、または細胞から遺伝子操作により、またはトランスジェニック動物から得ることができる。
【0059】
好ましくは、第VII因子(好ましくは第VIIa因子の形の)は、特にトランスジェニック動物の乳中で産生され、本発明組成物は、第VII因子が凍結乾燥後に充分な生物活性を保持するのを可能にする。
【0060】
ある好ましい態様において、ヒト第VII因子は、このタンパク質を産生するように遺伝的に修飾された非ヒトトランスジェニック動物の乳中で産生される。好ましくは、乳は、トランスジェニック雌ウサギまたはトランスジェニックヤギの乳である。トランスジェニック動物の乳中への分泌を可能にする乳腺による第VII因子の分泌は、組織依存性に第VII因子の発現を調節することを伴う。そのような調節方法は当業者によく知られている。発現は、該動物の特定組織に向けた該タンパク質の発現を可能にする配列により調節される。それは、具体的には、WAP、βカゼイン、およびβラクトグロブリンプロモーター配列およびシグナルペプチド配列である。トランスジェニック動物の乳からの目的とするタンパク質の抽出方法は特許EP 0264166に記載されている。
【0061】
本発明組成物はあらゆる通常の技術を用いて得ることができる。
【0062】
具体的には、本発明組成物は、第VII因子を緩衝溶液と混合し、必要であればpHを調整し、ろ過して液体形を得、次いで必要であれば乾燥して固体形を得る方法を実施することにより得ることができる。
【0063】
好ましくは、乾燥前の溶液のpHは、4.0〜9.0、より具体的には、4.0〜8.0;4.0〜7.5;4.5〜7.5;5.0〜7.5;5.5〜7.0;6.0〜7.5;6.5〜7.5の範囲である。
【0064】
乾燥は、広範に水を排除する方法である。乾燥は、できるだけ多くの水を除くことを目的とした脱水法である。この現象は、天然でも強制的でもよい。この乾燥は、凍結乾燥、スプレー乾燥、または凍結スプレー乾燥技術により行うことができる。本発明の医薬に用いるための該組成物の固体形を得るための好ましい方法は凍結乾燥である。凍結乾燥法は当業者によく知られている。例えば、[Wang et al.、Lyophilization and development of solid protein pharmaceuticals、International Journal of Pharmaceutics、Vol 203、p 1-60、2000]を参照のこと。
【0065】
該組成物の含水率または水分含有量を減少させるのに適した他の方法を想定することができる。好ましくは、含水率は3%(重量)またはそれ以下、好ましくは2.5%またはそれ以下、好ましくは2%またはそれ以下、好ましくは1.5%またはそれ以下である。
【0066】
本発明組成物は、好都合には、例えば凍結乾燥物を加熱乾燥して感染性物質を除去または不活化する方法を受けることができる。
【0067】
好ましくは凍結乾燥形の本発明の固体組成物は、注射用水(WFI)に溶解し、治療に用いるための製剤を得ることができる。
【0068】
好ましくは、第VII因子は純水に溶解することができ、これは、より複雑な再構成溶媒、例えばNovoSeven(登録商標)RT製剤に用いるヒスチジンを含む溶媒に比べて好都合である。
【0069】
本発明の液体組成物(乾燥前の)は2〜8℃で少なくとも3日間化学的または物理的に安定である。
【0070】
本発明の固体組成物は、固体状態で、25℃またはそれ以下の温度で24月間以上、一般的には少なくとも36月間化学的または物理的に安定である。再構成した注射用製剤も非常に安定であり、液体形の物理的および化学的安定性は、25℃で6時間以上、好ましくは12時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは1週間以上である。
【0071】
液体形または固体形の医薬組成物または注射用製剤は、種々の病状を治療するために用いられる。
【0072】
本発明の目的は、血友病または先天性第VII因子不全の治療に用いるための上記医薬組成物または注射用製剤である。
【0073】
血友病または先天性第VII因子不全の治療方法であって、記載した注射用製剤の有効量をそのような治療が必要な患者に投与する方法も開示する。
【0074】
血友病はA型またはB型であり得る。血友病A型は第VIII因子不全を特徴とするが、血友病B型はその一部が第IX因子不全の結果である。先天性第VII因子不全は、第VII凝固因子の低下または欠乏によって生じる常染色体の劣性伝達により遺伝する希な遺伝的出血性疾患である。
【0075】
注射用製剤は、臨床医が評価した量を非経口的(静脈内、皮下、筋肉内)に投与することができる。あらゆる適切な経路およびあらゆる適切な方法による液体形(乾燥前の)または固体形の投与を排除しない。
【0076】
以下の実施例および図面により本発明を例示するが、これは本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、製剤F3から生じたFVIIaの活性が、液体形に再構成し、次いで25℃で6日間保存した後に維持されることを示すグラフである。
【図2】図2は、固体形の製剤F3、F4、およびF7が40℃で1月間保存中に該タンパク質(FVIIa)の活性(FVIIa/FVII:Ag比で表す)を維持することができることを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0078】
実施例に用いたFVIIは、特許出願WO 2008099077に記載のごとくトランスジェニック雌ウサギの乳から得る。ヒト第VII因子は精製時に活性化される。
【実施例1】
【0079】
製剤の製造
1.1:液体製剤F1〜F7の製造
精製し、活性化した第VII因子(10〜20ml)(それぞれ濃度約0.6mg/ml(製剤F1〜F5)および0.4mg/ml(製剤F6およびF7))を、表1の対応する列に記載したように2Lの緩衝溶液に12時間透析した。pH(6.0±0.2)に1M NaOHまたは1M HClを用いて調整した。製剤化したFVIIa溶液をろ過し、ボトルに0.5mL/ボトルの割合で分配した。次に、ボトルをブロモブチル栓で予備的に栓をした。
1.2:上記1.1項で製造した液体製剤F1〜F7からの凍結乾燥製剤の製造
【0080】
ボトルを予め決定したサイクルに従って凍結乾燥した。乾燥の終了を検出できるようにするため、凍結乾燥機に静電容量式水分センサーを取り付けた。凍結乾燥サイクルの終了時に、ボトルに真空下で栓をし、アルミニウムカプセルで密封した。
1.3:液体製剤F8の製造
【0081】
精製し、活性化した第VII因子(0.4mg/ml)を、Superdex 200ゲルろ過カラムで緩衝液交換により製剤化した。最初に、カラムを、クエン酸三ナトリウム(1.0g/l)、アルギニン塩酸塩(30g/l)、およびイソロイシン(6.0g/l)を含む緩衝溶液で平衡化した(表:F8)。pH(7.0±0.2)を調整した。溶出液の濃度は約0.4mg/mlと測定された。製剤化したFVIIa溶液をろ過し、ボトルに0.5mL/ボトルの割合で分配した。次に、ボトルをブロモブチル栓で予備的に栓をした。
1.4:上記1.3項で製造した液体製剤F8からの凍結乾燥製剤の製造
【0082】
ボトルを予め決定したサイクルに従って凍結乾燥した。乾燥の終了を検出できるようにするため、凍結乾燥機に静電容量式水分センサーを取り付けた。凍結乾燥サイクルの終了時に、ボトルに真空下で栓をし、アルミニウムカプセルで密封した。
1.5:液体製剤F9の製造および凍結乾燥
【0083】
精製し、活性化した第VII因子(約0.4mg/ml)を、Superdex 200ゲルろ過カラムで緩衝液交換により製剤化した。最初に、カラムを、クエン酸三ナトリウム(1.0g/l)、アルギニン塩酸塩(30g/l)、およびイソロイシン(6.0g/l)を含む緩衝溶液で平衡化した(表:F9参照)。pH(7.0±0.2)を調整した。グリシン(1.2 mg/ml)およびロイシン塩酸塩(1.2mg/ml)を加えた。製剤化したFVIIa溶液をろ過し、ボトルに1.0mL/ボトルの割合で分配した。次に、ボトルをブロモブチル栓で予備的に栓をした。次に、ボトルを先に記載のごとく凍結乾燥し、次いで40℃で6月間保存した。
1.6:液体製剤F10およびF11の製造および凍結乾燥
【0084】
精製し、活性化した第VII因子(それぞれ濃度約1.0mg/ml(F10)および0.8mg/ml(F11))を、表3および4に記載の緩衝液でチューブを用いて透析することにより製剤化した(表:F10およびF11参照)。pH(7.0±0.2)を調整した。製剤化したFVIIa溶液をろ過し、ボトルに1.0mL/ボトルの割合で分配した。次に、ボトルをブロモブチル栓で予備的に栓をした。次に、ボトルを先に記載のごとく凍結乾燥した。
【0085】
製剤F10を以下の条件下で保存した:
液体で5℃で144時間、次いで25℃で6時間、
凍結および溶解サイクル(4連続サイクル)、
凍結乾燥し、25℃および40℃で6月間保存、
<-70℃で6月間凍結。
【0086】
製剤F11を以下の条件下で保存した:
液体で5℃で72時間、さらに25℃で6時間、
凍結乾燥し、25℃および40℃で保存、
緩衝液中で<-70℃で凍結し、次いで透析工程:Trometamol(2.42 mg/ml)、NaCl(8.77 mg/ml)、およびマンニトール(30 mg/ml)。
【実施例2】
【0087】
製剤試験
材料および方法
2.1. 動的光散乱(以後「DLS」という)の測定
500マイクロリットルの凍結乾燥から得た各試料をマイクロキュベット(Plastibrand(登録商標)、Wertheim、Germany)に入れ、Zetasizer Nano装置(Malvern Instruments、Worcestershire、UK)に移した。この装置を、633nmの4mW He-Neレーザーおよび非侵襲性後方散乱もしくはNIBS技術を用いて操作する。該タンパク質のモノマーポピュレーションのサイズ分布(強度および容量による)をDispersion Technology Software(Malvern、バージョン4.00)を用いて計算した。該物質および分散物の屈折率は、それぞれ1.33および1.45と定義した。測定時の温度を調節し、20℃に固定した。試験した製剤の品質パラメーターには、モノマー形のタンパク質ポピュレーションの直径およびタンパク質ポピュレーションの散乱強度が含まれる。
2.2. 再構成製剤の視覚的検査
【0088】
被験製剤は、0.5gの注射用水を用いて凍結乾燥製剤から再構成した。溶媒をシリンジを用いて凍結乾燥物のボトル内に栓を通して注射した。
【0089】
該ケーキを完全に溶解し、次いで再構成した生成物を欧州薬局方(European Pharmacopoeia)(Methods of Analysis - Pharmaceutical Technical Procedures - Particulate contamination-visible particles - paragraph 2.9.20)に記載の目視検査法に従って試験した。被験製剤を、視認可能粒子の夾雑度に従って以下の通り半定量的に分類した:
- = 視認可能粒子なし
ε= 視認可能粒子がごくわずか
+ = 視認可能粒子が少量
++ = 視認可能粒子が大量
+++ = 視認可能粒子が非常に大量
全ての試験は独立して3人の異なるオペレーターにより行った。
2.3. 凝集物を検出するためのフィルター試験
【0090】
用いる方法は文献に従う[Li et al.、A simple method for the detection of insoluble aggregates in protein formulations、Journal of Pharmaceutical Sciences Vol 96(7)、p1840-1843、2007]。
【0091】
Millex(登録商標)GV 0.2μm無菌膜フィルターを、3mlの水、次いで同量の緩衝溶液でリンスした。次に、0.5mlの分析するタンパク質(FVIIa)溶液をこのフィルターでろ過した。次に、フィルターを再度等量の注射用水(3mL)、次いで緩衝溶液(3mL)でリンスした。フィルターに保持されたタンパク質分画を2mLの染色溶液(Reversible Protein Detection KIT(SIGMA社))を加えて染色した。染色溶液を流す前に5分間濾過膜と接触させた。次に、膜を再度上記のごとくリンスした。試験した製剤を、フィルター上にみられるタンパク質由来の染色粒子の程度に従って以下のように半定量的に分類した:
- = 検出されるタンパク質由来の視認可能粒子なし
ε= 検出されるタンパク質由来の視認可能粒子がごくわずか
+ = 検出されるタンパク質由来の視認可能粒子が少量
++ = 検出されるタンパク質由来の視認可能粒子が大量
+++ = 検出されるタンパク質由来の視認可能粒子が非常に大量。
2.4. ガラス転移温度(Tg)の測定
【0092】
ガラス転移温度は、インジウム(融解温度(Tm) 156.6℃)およびn-オクタデカン(Tm 38.2℃)を用いて較正したDSC 7示差走査熱分析装置(Perkin Elmer)により測定した。試料を20℃/minの速度で-50〜138℃の温度においた。ヘリウムを用いて室温より低い温度で実験を行った。ガラス転移温度を、見かけの比熱の吸熱変化の中点で得た。
2.5. FVIIa/FVII:Ag比の測定
【0093】
該組成物中の第VII因子の活性は、凝固試験を用いて測定した第VIIa因子の量と抗FVII抗体との免疫反応性により測定した第VII因子の量の比により評価する。
第VII因子(以後「第VII因子抗原」および「FVIIAg」という)のアッセイ:
【0094】
FVIIを、市販試薬(Diagnostica Stago)を用いる酵素免疫法(ELISA)によりアッセイする。簡単には、アッセイする第VII因子を固相上に固定された抗ヒト第VII因子抗体により捕捉する。次に、結合した第VII因子をパーオキシダーゼ結合免疫結合体により認識する。結合したパーオキシダーゼの量を、水性過酸化水素の存在下、基質のオルソフェニレンジアミンに対する活性により測定した。反応を強酸を用いて止めた後の着色強度は、試料中に最初に存在する第VII因子の量に依存する。
活性形の第VII因子のアッセイ:
【0095】
活性化第VII因子(FVIIa)を、市販試薬(Diagnostica Stago)を用いる比色法を用いて測定する。組換え可溶性組織因子(rsTF)は、第VIIa因子補助因子機能を有し、リン脂質およびカルシウム存在下で血漿の凝固をもたらす。この系において、得られた凝固時間は、被験試料中に含まれる第VII因子の量に依存するだろう。rsTFは、第VII因子を第VIIa因子に活性化しないので、血漿中に含まれる第VII因子はアッセイに干渉しない。
2.6: 分子サイズ分布(MSD)
【0096】
分子サイズ分布は、ポンプ、温度調節注射器、UV検出器、およびコンピュータ収集システム、およびSuperdex Tricorn 200 10/300 GLカラム(GE Healthcare、ref. 17-5175-01)を用いるクロマトグラフィー系により測定する。移動相は、0.01Mリン酸緩衝液、0.138M塩化ナトリウム、および0.0027M塩化カリウム(pH7.4)からなる。流速は0.4ml/minである。分析のために100μlの試料を注射する。UV検出は280nmで行う。
2.7:SDS-PAGE(還元/非還元)
【0097】
共有結合凝集物および断片の量に関する試料の品質を、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸またはMES緩衝液(Invitrogen)中のゲルを用いるNovex系を用い、還元条件下および非還元条件下でSDS-PAGE電気泳動することによりタンパク質重量の差を分析して評価した。2μgのタンパク質に相当する量を流した。タンパク質をクマシーブルーおよび/または硝酸銀染色により可視化した。
2.8:IEF
【0098】
等電点による種々のFVIIアイソフォームの分離を等電点フォーカシング(IEF)により行った。天然(非還元および非変性)条件下でMultiphor系にてFocugel 3-10 ETC(Gelcompany)を用いて泳動した。生成物をろ過ユニット(サイズ排除10kDa)を用いて脱塩した。OD280nmで生成物の濃度を測定し、次いで30μgをゲルに流した。CBB-G250(Coomassie Brilliant Blue G250)で染色後の2つの異なるpI標準(GEの標準pI5.5-10.5およびSigmaの標準pI5.4-5.9-6.6、個々の標準を流す)を用いる生成物に含まれるポピュレーションの比較によりFVIIアイソフォームのpIを同定することができる(Quantity oneソフトウエア、BioRadを用いて低量)。
結果:
1. 製剤F1〜F8
【0099】
下記表1において、製剤F1およびF2を比較用に得る。本発明組成物(F3〜F8)のうち、製剤F3、F4、およびF7が好ましい。この表は、製剤F4、F5、およびF7は該タンパク質のモノマーポピュレーションの強度パーセンテージ(各58%、61%、および55%)を示し、これは、NovoSeven(登録商標)(F1)(9%)およびNovoSeven RT(登録商標)(F2)(27%)製剤で得られるものより大きい。この結果は、固体形の生成物の安定性の増加を示し、モノマーの存在は、免疫反応のリスクを減少させることができる。
【0100】
FVIIa/FVII:Ag比については、製剤F3、F4、およびF8は、凍結乾燥前および再構成後の液体形において、NovoSeven(登録商標)(F1)およびNovoSeven RT(登録商標)(F2)のような製剤を用いて得られるものより高いFVIIa/FVII:Ag比を示し、これは本発明組成物に含まれるタンパク質(FVIIa)の活性がより高いことを示す。凍結乾燥前のFVIIa/FVII:Ag比は、NovoSeven(登録商標)(F1)およびNovoSeven RT(登録商標)製剤で得られる比が14であるのに対して、F3で17、F8で23であり、液体形に再構成後のFVIIa/FVII:Ag比は、NovoSeven(登録商標)(F1)およびNovoSeven RT(登録商標)製剤で得られる比が15であるのに対して、F3で19、F8で20である。
【0101】
ガラス転移温度(Tg)で行った実験については、本発明の製剤F3〜F8は、ガラス転移温度の増加を示す。具体的には、製剤F3で75℃、製剤F7で93℃に等しいガラス転移温度が得られる。この結果は、タンパク質(FVIIa)がこれらの製剤において好都合に安定であることを示す。これは、高Tgが活性成分の移動度と反応性を減少させることにより該タンパク質の安定性を改善することができるためである。さらに、この結果は、本発明の製剤がNovoNordisk社のNovoSeven(登録商標)製剤と異なり、冷蔵庫外で保存することができることを明確に示す。
【0102】
凝集物検出用のフィルター試験については、この結果は、本発明の製剤F3〜F8では凝集物がわずかであり、または製剤F4、F7、およびF8では完全に凝集物がないことを示す。
【0103】
図1に示すように、製剤F3(再構成後の液体形)から得られるFVIIの活性は、6日間後に少なくとも80%とまだ十分な活性がある。図2に示すように、製剤F3(固体形)から得られるFVIIの活性は、1月間後に製剤F3で少なくとも80%、製剤F4で少なくとも90%とまだ十分な活性がある。
【0104】
【表1−1】

【0105】
【表1−2】

【0106】
2. 製剤F9〜F11−安定性試験
これら製剤について行った試験結果を下記表2〜4に示す。
【0107】
2.1 安定性試験:製剤F9
製剤F9は凍結乾燥形で40℃で6月間後も安定のままである。さらに、この結果は、FVIIは40℃で6日間後もいかなる明らかな分解の兆候も示さないことを示す。
【0108】
2.2 安定性試験:製剤F10
製剤F10を用いて行った試験(表3)は、FVIIaが液体形で5℃で48時間安定であることを示す。
表2から解るように、製剤F10が4回の凍結/溶解サイクル後も安定であり、得られた結果は、FVIIの分解がないことを証明する。
製剤F10は、凍結乾燥形では25℃または40℃で6月間後も安定である。本試験の結果は、FVIIがいかなる分解も受けなかったことを示す。製剤F10(非凍結乾燥)は、-70℃以下の温度で6月間凍結後も安定である。上記結果はFVIIがいかなる分解も受けなかったことを示す。
【0109】
2.3 安定性試験:製剤F11
製剤F11(表4)は、凍結乾燥形では25℃または40℃で6月間後に安定である。本試験の結果は、FVIIがいかなる分解も受けなかったことを示す。製剤F11は、凍結乾燥形では-70℃以下の温度で6月間凍結後も安定である。上記結果はFVIIはいかなる分解も受けなかったことを示す。液体形の製剤F11の安定性試験は、FVIIが5℃で72時間+25℃で6時間後に安定であることを示す。
【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第VII因子を含み、マンニトールおよびスクロースを含まない液体形または固体形の医薬組成物。
【請求項2】
第VII因子を含み、マンニトールおよびスクロースを含まない、液体形の請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
第VII因子を含み、マンニトールおよびスクロースを含まない、固体形の請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
あらゆる糖、ポリオール、またはメチオニンを含まない請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらにグリシルグリシンを含まない請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
第VII因子が活性化形(FVIIa)である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
さらに少なくとも1の親水性アミノ酸または正に荷電した側鎖を有するアミノ酸、および所望により少なくとも1の疎水性アミノ酸を含む請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、または遷移金属塩をも含む請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
以下のものを含む請求項1〜8のいずれかに記載の組成物:
好ましくは第VIIa因子形の第VII因子;
所望により塩酸形のアルギニン;
イソロイシン;
所望により塩酸形のロイシン;
グリシン;
クエン酸三ナトリウムまたは塩化カルシウム;および
適切であれば、ポリソルベート80またはポリソルベート20。
【請求項10】
以下のものを含む請求項9記載の組成物:
好ましくは第VIIa因子形の第VII因子;
10〜40g/lの所望により塩酸形のアルギニン;
4.2〜6.6g/lのイソロイシン;
0.6〜1.8g/lの所望により塩酸形のロイシン;
0.6〜1.8g/lのグリシン;
1〜2g/lのクエン酸三ナトリウム二水和物または0〜0.2g/lの塩化カルシウム二水和物;および
適切であれば、0〜0.5g/lのポリソルベート80。
【請求項11】
以下のものを含む請求項10記載の組成物:
好ましくは第VIIa因子形の第VII因子を0.2〜2g/l、
アルギニン塩酸塩を24g/l、
イソロイシンを6g/l、
クエン酸三ナトリウム二水和物を1.5g/l、
グリシンを1.2g/l、
ロイシン塩酸塩を1.2g/l、および/または
ポリソルベート80を0.07g/l。
【請求項12】
以下のものを含む請求9項記載の組成物:
好ましくは第VIIa因子形の第VII因子を0.2〜2g/l、
アルギニン塩酸塩を34g/l、
塩化カルシウム二水和物を0.15g/l、
イソロイシンを6g/l。
【請求項13】
請求1〜12項のいずれかに記載の組成物から得ることができる凍結乾燥固体組成物。
【請求項14】
FVIIと緩衝溶液を混合し、必要であればpHを調整し、ろ過し、次いで必要であれば乾燥させて固体形を得ることを含む、
請求項1〜13のいずれかに記載の医薬組成物、の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の固体組成物を注射用水中に溶解させることを含む、治療に用いるための注射用製剤の製造方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法により得ることができる注射用製剤。
【請求項17】
血友病または先天性第VII因子不全の治療に用いるための、請求項1〜13のいずれかに記載の医薬組成物または請求項16に記載の注射用製剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−530770(P2012−530770A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516820(P2012−516820)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051229
【国際公開番号】WO2010/149907
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510257525)エルエフベ−バイオテクノロジース (6)
【氏名又は名称原語表記】LFB−BIOTECHNOLOGIES
【Fターム(参考)】