説明

筆洗

【課題】画筆の軸の太さが限定されてしまう上に、画筆が長手方向に移動することを防ぐためには画筆の軸に断面が歯車のようになった部分を形成する必要がある。つまり、筆筒を使わずに画筆を筆洗に固定するためには特定の画筆を使用する必要があるという問題があった。使用者の気に入った画筆を自由に選び、気に入った画筆を使用することの出来る筆洗いを提供する。
【解決手段】筆洗本体に水槽を区切る仕切り壁を設けると共に、その仕切り壁の上方に画筆を固定する画筆押さえ片を配置した筆洗。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に水彩画を描く際に用いられる画筆を洗うための筆洗、特に、絵の具セット、パレット、画筆などをひとまとめにして持ち運ぶことができるスケッチセットに含まれる筆洗に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の学校教育、特に小学校での図工教育に用いられる水彩スケッチセットは筆洗の水槽にパレット、絵の具、画筆を収納した筆筒、雑巾などを収容し、さらに全体を専用のバッグに収納するという形態を持ったものが多い。
このような水彩セットは図工教育における水彩画に必要な道具がすべて一まとめになっており、全体としてコンパクトで小学生にも携帯しやすいことが大きな特徴である。
【特許文献1】特開2000−225795号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特開2000−225795には、筆筒を使用することなく画筆を固定することができる筆洗が記載されているが、この構造では画筆の軸の太さが限定されてしまう上に、画筆が長手方向に移動することを防ぐためには画筆の軸に断面が歯車のようになった部分を形成する必要がある。
つまり、筆筒を使わずに画筆を筆洗に固定するためには特定の画筆を使用する必要があるという問題があった。
これでは使用者が気に入った画筆を自由に選ぶことができず、その結果、気に入った画筆を使用するために画筆の固定機構を使用できないばかりか、筆筒を別途購入する必要がでてきてしまう。
【0004】
本発明ではこれらの問題を解決し、筆筒を使用することなく画筆を固定することができ、かつ、特定の画筆でなくとも多くの軸形状の画筆に対応することができる筆洗を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、筆洗本体に水槽を区切る仕切り壁を設けると共に、その仕切り壁の上方に画筆押さえ片を配置したことを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明にかかる筆洗は、筆洗本体に水槽を区切る仕切り壁を設けると共に、その仕切り壁の上方に画筆を固定する画筆押さえ片を配置しているので、直接、筆洗に画筆を固定することができると共に、種々の画筆を選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1、2、3は本発明にかかる筆洗の全体図である。筆洗1は絵の具セット17とパレット18を共に収納することができる大型の水槽12と、筆洗1の略中央部に設けられたグリップ11を間に挟んで設けられた小型の水槽13、14、15の合計4つの水槽を持つように構成されている。
【0008】
小型の水槽13、14、15を別けている仕切り壁20、21は、その2つに画筆を渡して置くことができる程度の間隔をもって配置されており、3本以下の画筆19を並べて置ける程度の長さを有しているが、これに限定されることはない。
【0009】
仕切り壁20、21の上に画筆19を置き、その上に画筆押さえ片2を嵌合・固定することにより、画筆押さえ片2に一体に成形された板バネ8を介して同じく一体に形成された筆固定部7が、画筆19を仕切り壁20、21に向かって押さえ付けるので、画筆19を筆洗1に対して固定することができるものである。
【0010】
画筆押さえ片2はU字状の弾性変形部35を介してグリップ側固定部5に設けられたグリップ側固定爪6を筆洗1のグリップ10に設けられた被係合部23に係合固定し、縁側固定部3に設けられた縁側固定リブ4を筆洗の縁22に設けられた被係合部24に係合固定しているので、筆洗1に対する固定位置はほとんど変化しない。
しかし、画筆19を押さえ付けている筆固定部7は板バネ8を介して画筆押さえ片2と接続されているので、板バネ8がしなることによって画筆19を筆洗1の仕切り壁20、21に押さえ付ける弾性力を発生させるものである。また、筆固定部7と板バネ8は3つ並んだ幅が仕切り壁20、21の長さのほぼ全体に渡るようになしている。このことにより、画筆19を仕切り壁20、21上のどこに置いても画筆押さえ片2を嵌合・固定することによって確実に画筆19を固定することができるものである。
さらに、筆固定部7は画筆19を固定していない自然状態において、その端部36が隣接する端部37とわずかに上下位置が異なるように設計されている。これは、端部36と隣接する端部37の間に設けられている隙間に、画筆19の軸の上端の頂点が引っかかり、隣り合う筆固定部7の間に画筆19が固定されてしまうことを防ぐためである。この現象を防ぐことにより、板バネ8が過度に変形してしまうことを防ぎ、長期的には板バネ8の弾性力低下を防ぐことができるものである。
【0011】
また、上記のような構造を採ることによって、画筆19の軸の太さに限定されることなく画筆19を固定することができる。また、本実施形態に於いては画筆を固定するための筆固定部7および板バネ8は3個設けられている。すなわち、最大3本の画筆19を固定することができるが、画筆19の軸の太さがひとつひとつ異なっても、筆固定部7および板バネ8がひとつひとつ独立しているので、画筆19のそれぞれの固定する位置を限定する必要がない。
また、画筆19の軸の太さが一定でない、例えば、テーパー形状であっても固定できるし、軸の断面形状が楕円や三角などの非円形であっても固定することが可能である。
【0012】
また、画筆押さえ片2の本体部にはグリップ側固定爪6側に筆押さえ片2本体の剛性を確保するための補強リブ38から一体に連なる爪9が2つ突出している。これは画筆押さえ片2を筆洗1に係合・固定する際に、この爪9をグリップ10の下の空間の下限に干渉させることによって、グリップ側固定部5全体がグリップ10の下に潜り込んでしまうことを防止している。
【0013】
図7は筆洗の使用状態を示すものである。
取り外した画筆押さえ片2は、上下を反転させて筆洗係合部26を筆洗1に設けられた筆置き係合部25に係合させることで、3個の筆固定部7を筆置きとして利用できる。
また、画筆押さえ片2と筆洗1を上記のごとく係合させるとき、筆置き係合部25に設けたリブ28が、グリップ側固定部5に設けたくぼみ27に係合することによって、画筆押さえ片2の不意な脱落を防ぐことができるようになしている。
このような構成を採ることにより、筆洗使用時において取り外した画筆押さえ片2の置き場所に困ることがなく、画筆押さえ片2を紛失してしまうリスクも軽減できるものである。
【0014】
さらに、筆洗1は以下のような特徴を備えている。
大型の水槽12と小型の水槽13,14,15それぞれの壁面には児童が使用する際に水を入れ過ぎて筆洗から水をこぼしてしまうことがないよう、推奨水位を示す表示がなされている。さらに、筆を洗う際に、始めに大型の水槽12で洗ったあと、小型の水槽13ですすぎ、更に別の小型の水槽14で仕上げのすすぎをするという水槽の推奨される使用順序を推奨水位と同様に数字で表示している。
また、絵の具を溶く・薄めるといった目的で水を使用するためにきれいな水を筆洗に保持しておく必要があるため、小型の水槽15の壁面には「キレイ」という文字を表示している。
【0015】
また、筆洗1の長手両端の上部にはグリップ11が設けられている。グリップ10は筆洗1を持ち運ぶ際に児童が指を掛けて筆洗1を把持できるよう、筆洗1との間に十分な空間をあけて設けられている。
水を入れた筆洗1を児童が持ち運ぶ際に、このグリップ11を利用して筆洗1を保持するように指導することにより、持ち運びの際に児童が水をこぼすリスクを低減できるものである。
【0016】
また、絵の具セット17とパレット18を大型の水槽12に収納し、画筆押さえ片2を筆洗1に嵌合・固定した状態において、パレット18の上端と、画筆押さえ片2の上端と、筆洗中央のグリップ10の上端および筆洗の長手両端に設けられたグリップ11の上端はすべて略同一平面上に存在し、かつ、その平面は筆洗1の底面と平行な面であるようになしている。これによって、バッグに収納した状態のスケッチセット全体を複数積み重ねて保管するような場合でも、バッグの剛性に頼ることなく、崩れにくく、安定した積み上げ状態を実現することが可能である。
【0017】
図示した形状ではグリップ11は筆洗1の端部から斜め上方に張り出しているが、実施形状は決してこの限りではない。筆洗1の長手両端壁面に横穴状の形状で設けることも可能であるし、スライド式で収納できるようになしてもよい。また、ヒンジ構造のような回動構造を介して取り付ければ、使用しないときはグリップを畳んでおくができるようになる。
【0018】
また、大型の水槽12の底面の一部には凹凸29が設けられている。これは画筆19を洗う際に穂先の部分をここに擦り付けるようにすることより、穂先を開いて隙間に入った絵の具を効率よく洗い落とせるようにするものである。
【0019】
また、筆洗1の縁22には半円弧状の窪みである筆置き16が設けられている。筆置き16は水槽をはさんで対面する位置に設けられており、対面する筆置き16に画筆19を渡して置くことによって、筆線1の上に画筆19を置くことができるようになしたものである。
【0020】
さらに、大型の水槽12と小型の水槽13、14、15を仕切る仕切り壁20、21、39、40には壁面と上端面で構成されるエッジを一部切欠くようにして、しごき部41が設けられている。これは筆の穂先が含んだ水をしごく際に、穂先をしごき部41に押し付けてしごくことにより、直線のエッジでしごく場合に比べてよりより多くの当接長を得ることができ、その結果、より効率的に水をしごくことができるものである。
【0021】
大型の水槽12および小型の水槽13、14、15は全て、その壁面にテーパーが設けられており、底に向かって窄まっていく形状を持っている。そのため、射出成形時に金型からの離型性が良好なことは勿論、成形した筆洗1はその上に同形・別体の筆洗1を置いた場合、上に置いた筆洗1の底部が下側の筆洗1の水槽の中に入り込むようになるので、安定して、かつ省スペースでの重合載置が可能である。
【0022】
図9に本発明にかかる実施例1を示す。本実施例は画筆押さえ片2を筆洗1に対して塑性変形によって機能するヒンジ部30を介して一体に成形したものである。本実施例のような構造を採ることにより、画筆押さえ片2は筆洗1から分離させることができなくなるため、画筆押さえ片2を紛失する恐れがなくなる。
本実施例において、第一のヒンジ部30は筆洗1の縁22に接続されており、中間部42を介して更に第二のヒンジ部43を介して筆押さえ片2に接続している。
第一のヒンジ部30と第二のヒンジ部43が変形・回動することにより、筆押さえ片2は180°以上の回動が可能である。
また、第一のヒンジ部30及び/または第二のヒンジ部43は塑性変形によるものに限定されない。図10に示すように複数の部品構成による蝶番31を構成しても同様の効果が得られる。また、このような構成にした場合は塑性変形によるヒンジ部30のようにクセがついてしまうことがないので、蝶番31は設計者の意図した角度まで確実に回動することが可能である。よって、筆洗1を使用する際に、画筆押さえ部が筆洗1の内側に倒れこんだ位置で維持されてしまう恐れもなく、筆洗1を使用する上で邪魔になる恐れがない。
また、蝶番31が180°回動したところで筆洗1と縁22が当接して回動を停止するように構成することで、筆押さえ片2の筆固定部7を前記発明を実施するための最良の形態で示したように筆置きとして利用することもできる。
【0023】
図11に本発明にかかる実施例2の筆押さえ片を示す。本実施例は、前記発明を実施するための最良の形態において板バネ8で発生させていた、画筆19を押さえ付ける弾性力をコイルスプリング32で発生させるものである。このような構成を採ることにより、発生する弾性力の強さを設計者の意図した強さにコントロールしやすく、経年変化などによって弾性力が低下するリスクも低くなる。
また、図12は、前記コイルスプリング32にかわってゴムやウレタンなどの弾性体33を用いた場合の要部拡大断面図である。このような構成であっても同様の効果が得られる。さらに、それらゴムやウレタンなどの弾性体33は連続した1つの弾性体であっても、部分的に変形して弾性力を発生させることができる。よって、筆固定部7を介さずに直接画筆19の軸を押さえ付けるように構成することで、弾性変形部を画筆19の一本一本に対して独立して設ける必要がなく、一個の弾性体33によって固定したい画筆19のそれぞれに独立的に弾性力を付与させることができるものである。
【0024】
図13に本発明にかかる実施例3を示す。本実施例は、画筆19を筆洗1に固定する際に画筆19を載せる仕切り壁20、21に画筆19を載せる半円弧状のくぼみ34を設けたものである。このような構成を採ることで、筆固定部7にはくぼみ44を設けなくとも、仕切り壁20、21のくぼみ34によって画筆19を固定する位置が決まるものであるが、筆固定部7にも前記実施例と同様にくぼみ44を設けても良い。
尚、筆を固定する部分、例えば、くぼみ44やくぼみ34の表面に滑り止め効果を有する微細なローレット加工やウレタン塗装などを施しても良い。固定する筆や使用時に載置されている画筆の安定性がより向上するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明にかかる筆洗の画筆収納状態における全体俯瞰図である。
【図2】本発明にかかる筆洗の全体俯瞰図であり、画筆を置いて、筆押さえ片を取り外した状態である。
【図3】本発明にかかる筆洗に絵の具セット・パレット・画筆を収納した状態である。
【図4】本発明にかかる筆洗の本体のみの図である。
【図5】本発明にかかる筆洗の側面図である。
【図6】筆押さえ片の側面図である。
【図7】筆洗に筆押さえ片を上下反転状態で係合した状態である。
【図8】筆洗に筆押さえ片を上下反転状態で係合したものに、画筆を置いた状態である。
【図9】本発明にかかる実施例1を示す図であり、筆押さえ片を側方に開いた状態の上方俯瞰図である。
【図10】本発明にかかる実施例1のうち、ヒンジ部を2部品による蝶番構造としたものである。
【図11】本発明にかかる実施例2の筆押さえ片である。
【図12】本発明にかかる実施例2において、スプリングに変わって弾性体を配置した図である。
【図13】本発明にかかる実施例3を示す情報俯瞰図である。
【符号の説明】
【0026】
1 筆洗
2 筆押さえ
3 縁側固定部
4 縁側固定リブ
5 グリップ側固定部
6 グリップ側固定爪
7 筆固定部
8 板バネ
9 爪
10 (中央)グリップ
11 (両脇)グリップ
12 大型の水槽
13 小型の水槽
14 小型の水槽
15 小型の水槽
16 筆置き
17 絵の具セット
18 パレット
19 画筆
20 仕切り
21 仕切り
22 縁
23 被係合部
24 被係合部
25 筆置き係合部
26 筆洗係合部
27 くぼみ
28 リブ
29 凹凸
30 ヒンジ部
31 蝶番
32 コイルスプリング
33 弾性体
34 くぼみ
35 弾性変形部
36 端部
37 (隣接する)端部
38 補強リブ
39 仕切り壁
40 仕切り壁
41 しごき部
42 中間部
43 ヒンジ部
44 くぼみ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆洗本体に水槽を区切る仕切り壁を設けると共に、その仕切り壁の上方に画筆を固定する画筆押さえ片を配置したことを特徴とする筆洗。
【請求項2】
前記画筆押さえ片を筆洗本体に対して着脱自在に取り付けたことを特徴とする請求項1記載の筆洗。
【請求項3】
前記画筆押さえ片を筆洗本体にヒンジ部を介して接続して設けたことを特徴とする請求項1記載の筆洗。
【請求項4】
前記画筆押さえ片を弾性体としたことを特徴とする請求項2、或いは、請求項3に記載の筆洗。
【請求項5】
前記筆押さえ片が、固定する画筆それぞれに対して独立して設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の筆洗。
【請求項6】
前記画筆押さえ片に画筆載置手段を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の筆洗。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−51015(P2009−51015A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217155(P2007−217155)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)