説明

筆記具用水性インク組成物

【課題】平均粒子径が小さく、また、インク中の含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られ、かつ発色/消色性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供する。
【解決手段】特殊ロイコ色素、ビスフェノール系顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有してなることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロイコ色素の顕色、消色機構を利用した熱変色性の色剤を用いた筆記具用水性インク組成物に関し、更に詳しくは、平均粒子径が小さく、また、インク中の含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られ、かつ発色/消色性に優れた筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロイコ色素の顕色、消色機構を利用した熱変色性の色剤を用いた筆記具用水性インク組成物は、通常、上記化合物をマイクロカプセル化した顔料を使用している。
【0003】
例えば、(イ)ロイコ色素である電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)顕色剤である電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める変色温度調整剤となる反応媒体として、特定のエステル化合物の均質相溶体からなる感温変色性色彩記憶性組成物を内包したマイクロカプセル顔料と、溶剤とからなる感温変色性色彩記憶性筆記具用インキ組成物(例えば、特許文献1参照)が知られており、該文献1の段落〔0007〕には、上記ロイコ色素として、公知のジフェニルメタンフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類等が挙げられている。
しかしながら、上記特許文献1を含む従来の熱変色性の色剤となるマイクロカプセル顔料を用いた筆記具用水性インク組成物は、もともとロイコ色素の色濃度が乏しく、さらにマイクロカプセルの壁膜が描線濃度を低下させている原因となっている。
【0004】
描線濃度を上げるためには、インク中のマイクロカプセル顔料の含有量を多くすることや、マイクロカプセル顔料の平均粒子径を大きくすることが考えられる。
しかしながら、前者の場合は、筆記感の低下が顕著となり、後者の場合は、インク吐出性が劣化する、マイクロカプセル顔料が経時的に沈降するなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−213361号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、平均粒子径が小さく、また、インク中のマイクロカプセル顔料含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られ、かつ発色/消色性に優れた筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、特定のロイコ色素を使用したマイクロカプセル顔料を用いることで、上記目的の筆記具用水性インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)に存する。
(1) 下記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素、下記式(III)示される顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有してなることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

〔上記式(III)のR1は、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、R2は、炭素数4〜10の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。〕
(2) 前記変色温度調整剤が下記式(IV)で示されることを特徴とする上記(1)に記載の筆記具用水性インク組成物。
【化4】

〔上記式(IV)中のR3及びR4は、炭素数7〜21の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R5及びR6は、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、又はCFを示す。〕
(3) 前記マイクロカプセル顔料を構成する壁膜がメラミン樹脂である上記(1)又は(2)に記載の筆記具用水性インク組成物。
(4) 前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.3〜1.0μmであることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイクロカプセル顔料の平均粒子径が小さく、また、インク中の含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られ、かつ発色/消色性に優れた筆記具用水性インク組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の筆記具用水性インク組成物は、下記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素、下記式(III)示される顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有してなることを特徴とするものである。
【化5】

【化6】

【化7】

用いるマイクロカプセル顔料は、上記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素、上記式(III)で示される顕色剤、変色温度調整剤から少なくとも構成される熱変色性組成物を内包させたものである。
【0011】
本発明に用いる上記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素は、黒色のロイコ色素として発色特性に優れ、濃度の高い黒色となる化合物、3-ジ(n−ブチル)アミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン又は3-ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオランである。
一般に、黒色のロイコ色素として、アザフタリド系化合物、フルオラン系化合物などが知れられているが、本発明では、上記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素及び上記式(III)で示される顕色剤を用いたマイクロカプセル顔料を用いることで、平均粒子径が小さく、また、インク中の含有量を少なくしても、満足する描線濃度が得られ、さらに発色/消色性に優れたものとなる。
【0012】
本発明に用いる顕色剤は、上記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものである。好ましくは、ビスフェノール誘導体であり、下記式(III)の化合物で示されるものが挙げられる。
【0013】
前記式(III)の化合物としては、具体的には、4,4’−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(2−エチルペンチリデン)ビスフェノール、4,4’−オクチリデンビスフェノール、4,4’−ヘキシリデンビスフェノール、4,4’−(4−メチルオクチリデン)ビスフェノール、4,4’−デシリデンビスフェノール、4,4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール、4,4’−(3−メチルブチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−メチルヘブチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,2−ジメチルブチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,5−ジメチルヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−エチル−3−メチルペンチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−メチル−4−メチルヘプチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−エチル−ヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−エチル−ペンチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−エチル−オクチリデン)ビスフェノール等の少なくとも1種(各単独又は2種以上の混合物、以下同様)を挙げることができるが、勿論これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明においては、これらの顕色剤を1種又は2種以上組み合わせて用いること、または、従来公知の顕色剤を本発明の顕色剤の諸特性を損なわない範囲内で組み合わせて用いることにより、発色時の色彩濃度を自由に調節することができる。従って、その使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、前記したロイコ色素1質量部に対して、0.1〜100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
【0015】
<変色温度調整剤>
本発明に用いる変色温度調整剤は、前記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。
用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
好ましくは、ビスフェノール誘導体と、炭素数8〜22の飽和脂肪酸とから構成されるエステル化合物であり、下記式(IV)の化合物で示されるものである。
【化8】

〔式(IV)中のR3及びR4は、直鎖又は分岐の炭素数7〜21のアルキル基を示し、R5及びR6は、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、又はCF3を示す。〕
【0016】
前記式(IV)の化合物としては、具体的には、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジカプレート、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジパルミエート、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジウンデカノエート、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジトリデカエート、4,4’−(イソプロピリデン)ビスフェノールジカプレート、4,4’−(イソプロピリデン)ビスフェノールジラウレート、4,4’−(イソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート、4,4’−(イソプロピリデン)ビスフェノールジパルミエート、4,4’−(イソプロピリデン)ビスフェノールジウンデカノエート、4,4’−(イソプロピリデン)ビスフェノールジトリデカエート、4,4’−メチレンビスフェノールジカプレート、4,4’−メチレンビスフェノールジラウレート、4,4’−メチレンビスフェノールジミリステート、4,4’−メチレンビスフェノールジパルミエート、4,4’−メチレンビスフェノールジウンデカノエート、4,4’−メチレンビスフェノールジトリデカエート等の少なくとも1種が挙げられる。
【0017】
この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、ロイコ色素1質量部に対して、1〜1000質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
なお、本発明の組成物の諸特性を損なわない範囲内であれば、従来公知の変色温度調整剤を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
<マイクロカプセル顔料>
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤からなる熱変色性組成物を、好ましくは、平均粒子径が0.3〜1.0μmとなるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。
マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
【0019】
例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、具体的には、メチロールメラミン水溶液、尿素溶液、ベンゾグアナミン溶液などの各液を徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
【0020】
これらロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、ロイコ色素1に対して、質量比で顕色剤0.1〜100、変色温度調整剤1〜100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1〜1である。
本発明のマイクロカプセル顔料では、上記ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、黒色の発色温度、消色温度を好適な温度に設定することができる。
【0021】
本発明のマイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がアミノ樹脂で形成されることが好ましく、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などで形成されること、更に好ましくは、製造性、保存安定性、筆記性の点から、メラミン樹脂で形成されることが望ましい。
マイクロカプセル顔料の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
なお、壁膜がアミノ樹脂で形成するためには、各マイクロカプセル化法を用いる際に、好適なアミノ樹脂原料(メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアンアミン樹脂等)、並びに、分散剤、保護コロイドなどを選択する。
【0022】
本発明に用いるマイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制する点から、好ましくは、0.3〜1.0μmであるものが望ましい。なお、本発明(実施例等含む)で規定する「平均粒子径」は、粒度分布測定装置〔粒子径測定器N4Plus(COULTER社製)〕にて、体積基準による平均粒子径を測定した値である。
この平均粒子径が0.3μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、1.0μmを越えると、筆記性の劣化やマイクロカプセル顔料の分散安定性の低下が発生し、好ましくない。
なお、上記平均粒子径の範囲(0.3〜1.0μm)となるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。
【0023】
本発明において、マイクロカプセル顔料の含有量は、インク組成物全量に対して、好ましくは、5〜30質量%(以下、単に「%」という)、更に好ましくは、10〜25質量%とすることが望ましい。
このマイクロカプセル顔料の含有量が5%未満であると、着色力、発色性が不十分となり、一方、30質量%を超えると、カスレが生じやすくなり、好ましくない。
【0024】
本発明の筆記具用水性インク組成物では、上記マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
【0025】
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
【0026】
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
【0027】
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0028】
本発明の筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記マイクロカプセル顔料の他、上記各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
【0029】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物では、上記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素、上記式(III)で示される顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有するインクを処方し、このインクを搭載したボールペン体、マーキングペン体などの筆記具にて紙面等に筆記しても、平均粒子径が小さく、また、インク中の含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られる筆記具用水性インク組成物が得られるものとなる。
【実施例】
【0030】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。なお、以下において、配合単位である「部」は質量部を意味する。
【0031】
〔実施例1〜7及び比較例1〜2〕
(マイクロカプセル顔料:A−1〜A−9の処方)
(マイクロカプセル顔料:A−1)
ロイコ色素として、上記化1で示される化合物1部、顕色剤として、4,4′−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール2部、及び変色性温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステート24部を100℃に加熱溶融して、均質な組成物27部を得た。
上記で得た組成物27部の均一な熱溶液を、保護コロイド剤として、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合樹脂〔ガンツレッツAN−179:ISP(株)社製〕40部をNaOHにてpH4に溶解させた90℃の水溶液100部中に徐々に添加しながら、加熱攪拌して直径約0.5〜1.0μmの油滴状に分散させ、次いでカプセル膜剤として、メラミン樹脂(スミテックスレジンM−3、(株)住友化学製)20部を徐々に添加し、90℃で30分間加熱してマイクロカプセル化を行い、膜剤がメラミン樹脂からなる可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。この溶液の粒子径を測定したところ、平均粒子径0.69μmであった。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0032】
(マイクロカプセル顔料:A−2)
上記A−1の処方において、変色温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステートに代えて、4,4′−イソプロピリデンビスフェノールジミリステートを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.71μmの可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0033】
(マイクロカプセル顔料:A−3)
上記A−1の処方において、顕色剤として、4,4′−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノールに代えて、4,4′−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノールを用いること、および、変色温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステートに代えて、4,4′−イソプロピリデンビフェノールジラウレートを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.77μmの可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0034】
(マイクロカプセル顔料:A−4)
上記A−2の処方において、顕色剤として、4,4′−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノールに代えて、4,4′−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノールを用いることを除き、他は上記A−2の処方と同様にして、平均粒子径が0.61μmの可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0035】
(マイクロカプセル顔料:A−5)
上記A−1の処方において、変色温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステートに代えて、4,4′−エチリデンビスフェノールジラウレートを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.79μmの可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0036】
(マイクロカプセル顔料:A−6)
上記A−1の処方において、変色温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステートに代えて、4,4′−(1−メチルプロピリデン)ビスフェノールジラウレートを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.59μmの可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0037】
(マイクロカプセル顔料:A−7)
上記A−1の処方において、変色温度調整剤として、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ビスフェノールジミリステートに代えて、4,4′−(1−エチルプロピリデン)ビスフェノールジラウレートを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.68μmの可逆感温変色性ヒステリシス組成物のマイクロカプセル分散液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0038】
(マイクロカプセル顔料:A−8)
上記A−1の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、2−(2−クロロアニリノ)−6−ブチルアミノフルオランを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.56μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては黒色を呈した。
【0039】
(マイクロカプセル顔料:A−9)
上記A−1の処方において、顕色剤として、上記化2の化合物に代えて、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカンを用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.82μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては黒色を呈した。
【0040】
〔実施例8〜14及び比較例1〜2〕
(マイクロカプセル顔料:B−1〜B−7の処方)
(マイクロカプセル顔料:B−1)
上記A−1の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−1の処方と同様にして、平均粒子径が0.65μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0041】
(マイクロカプセル顔料:B−2)
上記A−2の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−2の処方と同様にして、平均粒子径が0.70μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0042】
(マイクロカプセル顔料:B−3)
上記A−3の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−3の処方と同様にして、平均粒子径が0.78μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0043】
(マイクロカプセル顔料:B−4)
上記A−4の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−4の処方と同様にして、平均粒子径が0.59μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0044】
(マイクロカプセル顔料:B−5)
上記A−5の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−5の処方と同様にして、平均粒子径が0.81μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0045】
(マイクロカプセル顔料:B−6)
上記A−6の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−6の処方と同様にして、平均粒子径が0.77μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0046】
(マイクロカプセル顔料:B−7)
上記A−7の処方において、ロイコ色素として、上記化1の化合物に代えて、化2の化合物〔式(II)〕を用いることを除き、他は上記A−7の処方と同様にして、平均粒子径が0.64μmの可逆感温変色性ヒステリン組成物のマイクロカプセル溶液を得た。
色相は、発色状態においては濃厚な黒色を呈し、消色状態においては残色がなく完全に無色となるものであった。
【0047】
(インクの処方)
下記表1に示す配合処方(マイクロカプセル顔料:A−1〜A−9、増粘剤、防錆剤、防腐剤、溶剤、水)、並びに、下記表2に示す配合処方(マイクロカプセル顔料:B−1〜B−7、増粘剤、防錆剤、防腐剤、溶剤、水)にしたがって、常法により各水性ボールペン用水性インク組成物を調製した。なお、各マイクロカプセル顔料A−1〜A−9及びB−1〜B−7は、各マイクロカプセル溶液を濾過し、乾燥することによりマイクロカプセル顔料として取り出し使用した。
【0048】
(水性ボールペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いて水性ボールペンを作製した。具体的には、ボールぺン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM−100〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmポリプロピレン製インク収容管とステンレス製チップ(超硬合金ボール、ボール径0.5mm)及び該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに上記各インクを充填し、インク後端に鉱油を主成分とするインク追従体を装填し、水性ボールペンを作製した。
得られた実施例1〜7、8〜14及び比較例1〜2の水性ボールペンを用いて、下記評価方法で描線濃度及び発色/消色性の評価を行った。
これらの結果を下記表1及び表2に示す。
【0049】
(描線濃度の評価方法)
各ペン体をISO規格に準拠した筆記用紙に、フリーハンドで螺旋筆記後、目視により描線濃度を下記の基準で評価した。
評価基準:
○:発色状態は濃い黒色。
△:発色状態で若干濃度が薄い。
×:発色状態で濃度が薄い。
【0050】
(描線の発色/消色性の評価方法)
各ペン体をISO規格に準拠した筆記用紙にフリーハンドで螺旋筆記を行い、SEBSで作成した消しゴム状の摩擦具で充分に摩擦した状態を観察後、この筆記用紙を−10℃の環境下で1時間保管した描線の状態を下記の基準で評価した。
評価基準:
○:消色状態では完全に消色し、−10℃保管後には消色前の色相まで復帰する。
△:消色状態で若干色残りする。若しくは−10℃保管後の描線濃度が若干薄い。
×:消色状態で色残りする。若しくは−10℃保管後の描線濃度が薄い。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
上記表1及び表2の結果から明らかなように、本発明となる実施例1〜14の筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1〜2の筆記具用水性インク組成物に較べて、満足のいく十分な描線濃度であり、発色/消色性に優れていることが判明した。
これに対して、比較例1のロイコ色素として2−(2−クロロアニリノ)−6−ブチルアミノフルオランを用いたマイクロカプセル顔料を含有するインク組成物、並びに、比較例2の顕色剤として1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカンを用いたマイクロカプセル顔料を含有するインク組成物では、満足のいく十分な描線濃度、若しくは発色/消色性が得られないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
平均粒子径が小さく、また、インク中の含有量を少なくしても満足のいく十分な描線濃度が得られるボールペン、マーキング用などに好適な筆記具用水性インク組成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)又は(II)で示されるロイコ色素、下記式(III)で示される顕色剤及び変色温度調整剤を少なくとも含むマイクロカプセル顔料を含有してなることを特徴とする筆記具用水性インク組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

〔上記式(III)中のR1は、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、R2は、炭素数4〜10の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。〕
【請求項2】
前記変色温度調整剤が下記式(IV)で示されることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物。
【化4】

〔上記式(IV)中のR3及びR4は、炭素数7〜21の直鎖又は分岐のアルキル基を示し、R5及びR6は、水素原子、炭素数1〜2のアルキル基、又はCFを示す。〕
【請求項3】
前記マイクロカプセル顔料を構成する壁膜がメラミン樹脂である請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項4】
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径が0.3〜1.0μmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の筆記具用水性インク組成物。

【公開番号】特開2012−241175(P2012−241175A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115673(P2011−115673)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】