説明

筆記具

【課題】軸筒本体に貼り付けた本革シートの前後端縁の木端が目立つことなく、また前後端縁の木端からシートが捲れて剥がれてしまうこと防止する。また本革シートを筆記具の把持部に設ける場合においても、指が滑り難く、本革シートの円周方向における継目が目立ち難い構造とする。
【解決手段】本革シート8の前後端縁83,84を除く円周方向における重なり部の厚みと本革シートの肉厚とを等しくし、本革シートの前後端縁における円周方向における重なり部の厚みを本革シートの肉厚より小さくし、本革シートの前後に前方筒状部材5と後方筒状部材3とを配設して、本革シートの前後端縁を前方筒状部材と後方筒状部材とで被覆させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具に関し、さらに詳細には、軸筒の表面に本革シートを貼り付けた構造の筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筆記具に高級感を与えるように、あるいは本革製の手帳との組合せを考慮して、軸筒にシート状の本革を貼り付けた構造の筆記具が存在している。また、軸筒に本革シートを貼り付ける場合には、軸筒の外周面に貼り付けた本革シートの重ね合わせ部の段差が問題視されており、例えば特開2004−291380号公報では、シートの重ね合わせ部の木端部分を斜めに形成することで、重ね合わせ部が盛り上がらないようにして、継目を目立ち難くさせる構造が記載されている。
【0003】
しかしながら従来構造では、前述の通り、軸筒の円周方向における本革シートの重ね合わせ部については考えられているものの、本革シートの前後端縁の処理に関しては特に問題とせず革の木端が露出された状態となっており、筆記具の高級感を損なったり、前後の木端側から本革シートが捲れて剥がれ易いという問題が生じていた。尚、本革シートを軸筒の把持部へ設けた構造では、筆記時に把持部に指が触れることから、特にシートが剥がれ易くなっており、またエラストマー等の滑り難い材料で把持部を被覆した筆記具と比べると、把持した指が滑り易く筆記がし難いという問題が存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−291380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸筒本体に貼り付けた本革シートの前後端縁の木端が目立つことなく、また前後端縁の木端からシートが捲れて剥がれてしまうこと防止する。また本革シートを筆記具の把持部に設ける場合においても、指が滑り難く、本革シートの円周方向における継目が目立ち難い構造とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「1.軸筒の表面に本革シートを円周方向に捲いて貼り付けた筆記具であって、本革シートの円周方向の両側縁部に木端剥部を肉厚T1で形成し、前記本革シートの前後端縁に木端剥部を肉厚T2で形成し、前記本革シートの肉厚Tと前記肉厚T1と肉厚T2との関係を、T1=T/2、T2<T1<Tとすることにより、前記本革シートを軸筒本体に貼り付けた状態で、前記本革シートの前後端縁を除く円周方向における重なり部の厚みT3と該本革シートの肉厚Tとを等しくし、且つ前記本革シートの前後端縁における円周方向における重なり部の厚みT4を該本革シートの肉厚Tより小さくし、前記本革シートの前後に前方筒状部材と後方筒状部材とを配設して、前記本革シートの前後端縁を前記前方筒状部材と後方筒状部材とで被覆させた筆記具。
2.前記軸筒本体を軸筒の把持部とし前記前方筒状部材を口金とし、前記把持部に被覆した本革シートの表面と前記口金の表面とを一致させた構造の前記1項に記載の筆記具。
3.前記本革シートの全表面に、型押しで深さ0.2mm以上の溝部を形成した構造の前記1項または2項に記載の筆記具。」である。
【0007】
本発明における本革シートは、牛や羊など高級な皮革材料からなるものが高級筆記具の軸筒として好適である。革の肉厚は厚い方が質感を得られてよいが、肉厚が厚すぎると軸筒本体に捲き難くなり、また薄すぎると質感が得られ難くなると共に、本革シートに連設する口金など他の部材の表面とに段差が生じてしまうことから、本革シートの肉厚は0.5mm〜1.0mmの範囲で設定することが好ましい。尚、本革シートの前後端縁における円周方向における重なり部の厚みT4を、本革シートの肉厚Tより小さくすることで、本革シートの前後端縁を被覆する前方筒状部材や後方筒状部材の内径を小さくでき、結果、前方筒状部材や後方筒状部材の外径を小さくすることができ、細身の筆記具に好適な構造となる。また2項に係る発明では、本革シートの表面と口金の表面との間に段差がないことから、口金と把持部との間に見た目の一体感が生じ、金輪の後端縁に把持部を把持した指が接触し難いものなる。また3項に係る発明では、本革シートの表面の全体に溝を形成することで、指が滑り難くなると共に、本革シートの円周方向における継目が目立ち難い構造となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の筆記具は、本革シートで筆記具に高級感を与えることができると共に、本革シートの円周方向における重ね合わせ部および前後端縁が前方筒状部材および後方筒状部材に被覆されて目立つことなく、本革シートの前後の木端からシートが捲れてしまうことを防止でき、さらに、本革シートの全表面に、型押しで溝部を形成することにより、指が滑り難く、円周方向における本革シートの継目が目立ち難い構造となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施例の筆記具における斜視図である。
【図2】図2は、本革シートの図で、図2Aは背面図、図2Bは図2AのX−X線断面図、図2Cは図2AのY−Y線断面図である。
【図3】図3は、軸筒前部本体に本革シートを捲く状態を示す斜視図である。
【図4】図4は、軸筒前部本体に本革シートを捲く状態を示す横断面図である。
【図5】図5は、軸筒前部本体に本革シートを捲いた状態を示す横断面図である。
【図6】図6は、筆記具を組立てる状態を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明における筆記具について説明を行う。尚、説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ番号を付してある。本実施例の説明においては口金側を前方と表現し、反対側を後方と表現する。
【0011】
図1は本実施例の筆記具における斜視図を示しており、図1に示すように筆記具1は、前軸2と後軸3とで軸筒4を構成し、前軸2の前方に口金5を、後軸3の後方に頭冠6を、後軸3の側面にクリップ7を装着してある。また筆記具1は、前軸2に対し後軸3を回転操作することで、軸筒4に収容した複数の筆記体(図示せず)を口金5の先端開口部5aから出没させる構造の回転繰出式筆記具である。尚、本実施例の前軸2の表面にはシート状の本革シート8を円周方向に捲いて貼り付けてある。前軸2の縦方向に現われた線は本革シート8を円周方向で重ねた継目8aであり、表面全体の模様は型押しにより形成した溝部8bである。
【0012】
次に、図2を用いて本実施例の本革シートについて説明を行う。図に示すように本革シート8は長方形形状で、前軸2(図1参照)に貼り付けた状態で円周方向で重なる本革シート8の両側縁部81,82に木端剥部81k,82kを設けてあり、本革シート8の前端縁83と後端縁84に木端剥部83kと木端剥部84kをそれぞれ設けてある。本実施例では本革シート8の中央部80の肉厚Tを0.5mmとし、木端剥部81k,82kの肉厚T1を0.25mmとし、木端剥部83k,84kの肉厚T2を0.2mmで形成してある。したがって、本革シート8の肉厚Tと、木端剥部81k,82kの肉厚T1と、木端剥部83k,84kの肉厚T2との関係は、T1=T/2、T2<T1<Tである。
【0013】
図3および図4は、軸筒前部本体9に本革シート8を捲く状態を示しており、本革シート8の木端剥部81k,83k、84kで囲まれた領域には両面テープ10(破線のハッチングで示す)を貼ってあり、木端剥部82kには接着剤11(実線のハッチングで示す)を塗布してある。本実施例では、側縁部81側から軸筒前部本体9に捲き始めて両面テープ10で本革シート8を軸筒前部本体9へ固着し、接着剤11にて側縁部81と側縁部82とを接着させた上で口金5の後端開口部5bから挿嵌して固定させる。図5は軸筒前部本体9に本革シート8を捲いた状態を示しており、木端剥部81kの上に木端剥部82kが接着され、重なり部分の肉厚T3が0.5mmとなり中央部80の肉厚Tと同じになって段差が生じないようにしてある。尚、本実施例の接着剤11は革に浸透するため、接着後の乾いた状態では目立つような厚さが生じることはない。
【0014】
図6は、筆記具1を組立てる状態であり、後軸3の前方へ装着した内筒12の内部には、後軸3に対して前後動可能なボールペン体13とシャープペンシル体14を配設してあり、前軸2の軸筒前部本体9に内筒12を挿着させて組立てる。図7は、組立てた状態の筆記具1の要部縦断面図であり、口金5の後端部の内面に形成した凹部5cに本革シート8の前端縁83が被覆され、また後軸3の内側に本革シート8の後端縁84が被覆され、木端剥部83k,84kが外部に露出しない状態で組立てることができた。尚、本実施例の本革シート8の表面全体には溝部8bを0.2mmの深さで形成していることから、筆記時における指の滑り止めとなった。また木端剥部83k,84kの肉厚を0.2mmで形成してあり、重ねた厚みT4が0.4mmとなり中央部80の厚み0.5mmより薄いことから口金5で被覆しながら、口金5の表面と本革シート8の表面とを一致させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の筆記具は、万年筆などで重厚感が求められる筆記具に適している。
【符号の説明】
【0016】
1…筆記具、2…前軸、3…後軸、4…軸筒、
5…口金、
5a…先端開口部、5b…後端開口部、5c…凹部、
6…尾冠、7…クリップ、
8…本革シート、
8a…継目、8b…溝部、
80…中央部、
81,82…両側縁部、81k,82k…木端剥部、
83…前端縁、83k…木端剥部、
84…後端縁、84k…木端剥部、
9…軸筒前部本体、
10…両面テープ、11…接着剤、12…内筒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の表面に本革シートを円周方向に捲いて貼り付けた筆記具であって、本革シートの円周方向の両側縁部に木端剥部を肉厚T1で形成し、前記本革シートの前後端縁に木端剥部を肉厚T2で形成し、前記本革シートの肉厚Tと前記肉厚T1と肉厚T2との関係を、T1=T/2、T2<T1<Tとすることにより、前記本革シートを軸筒本体に貼り付けた状態で、前記本革シートの前後端縁を除く円周方向における重なり部の厚みT3と該本革シートの肉厚Tとを等しくし、且つ前記本革シートの前後端縁における円周方向における重なり部の厚みT4を該本革シートの肉厚Tより小さくし、前記本革シートの前後に前方筒状部材と後方筒状部材とを配設して、前記本革シートの前後端縁を前記前方筒状部材と後方筒状部材とで被覆させた筆記具。
【請求項2】
前記軸筒本体を軸筒の把持部とし前記前方筒状部材を口金とし、前記把持部に被覆した本革シートの表面と前記口金の表面とを一致させた構造の請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記本革シートの全表面に、型押しで深さ0.2mm以上の溝部を形成した構造の請求項1または2に記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111798(P2013−111798A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258168(P2011−258168)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)