説明

等容性ミオグラフを用いた血管の等尺性および等張性収縮のための装置、システム、および方法

本発明は、血管(3)内の血管作用を等容性測定のための、装置、システム、および方法を開示する。血管(3)が化学物質または圧力に露出される間、血管(3)の長さおよび体積は一定に維持される。化学的または物理的刺激に対する血管(3)の反応は、内腔の圧力変化によって測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年4月29日出願の米国特許出願第60/675,908号の優先権を主張する。その内容は、その全体を参照することにより本開示に組み込まれる。
本発明は、血管の等尺性および等張性収縮の測定に関する。より詳細には、本発明は、等容性ミオグラフを用いた血管の等尺性および等張性収縮のための、装置、システム、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管平滑筋細胞(VSMC)は、神経的、免疫的、または局所的血行力学的な刺激に反応して、血管の緊張を調整する。VSMCは、自己調節にとって重要であり、器官内の血流の空間的および時間的な分布を大きく左右する。すなわち、VSMCの正常な機能に影響を及ぼす状態は、様々な医学的問題を引き起こす。
【0003】
高血圧症、糖尿病、心不全、および粥腫発生を含めた多くの疾病は、動脈血管作用障害の徴候を示す。たとえば高血圧症は、抵抗動脈の筋原性緊張の変化に関して特定される。血管作用は、生理的(正常な成長、運動、妊娠など)または病的なリモデリング(高血圧症、肥大、心不全など)により、弱められることがある。圧力により誘導される筋原性反応(または緊張)は、血管平滑筋壁張力の圧力依存性調整、およびそれに続く機械感覚性イオンチャネルの活性化の結果として開始される。定常状態の筋原性緊張は、末梢抵抗のかなりの部分を占めており、動脈血圧の重要な決定子である。血管収縮および血管拡張は、VSMCの固有特性であるが、それらは、内皮由来血管作動因子によって調整されることが多い。
【0004】
VSMCにおける適切な血管作用を維持することが重要であるため、様々な薬剤の、そのような血管作用への効果が試験される。血管内の血管作用を特定するためのそのような試験において使用されるツールのうちの2つとして、ワイヤミオグラフ(wire myograph)およびプレッシャミオグラフ(pressure myograph)が挙げられる。オンライン医学文献分析検索システムによる「ワイヤミオグラフ」または「プレッシャミオグラフ」というキーワード検索は、1990年から現在の間でそれぞれ140件および207件の刊行物を示し、血管作用性を試験するためのこうした従来のツールへの、少なくともいくらかの関連を有する。薬理学では、これらの方法は、様々な作用薬および拮抗薬の、血管作用性および用量反応関係を理解するために使用される。
【0005】
ワイヤミオグラフ方法は、薬理学的実験のために使用されることが多いが、多数の欠点を有する。そのうちの1つは、それが生理学から程遠いことである。リングの機械的な変形は、非生理学的であり、血管の切削によって、試験に対する血管の反応への直接的な影響を有する、いくらかの損傷が血管に生み出される。
【0006】
プレッシャミオグラフは、ワイヤミオグラフのいくつかの限界に対処するために開発された。プレッシャミオグラフでは、血管のジオメトリおよび血管への負荷が、通常より生理学的である。プレッシャミオグラフ方法は、圧力の変化を伴いながら、受動および能動状態における直径の変化を記録する。この方法は、収縮時に圧力が一定に維持されるので、実質的に等圧性である。試験中に半径が変化し、これは(ラプラスの方程式に基づいて)壁部の応力を変化させる可能性があるので、この機械的試験方法は、等尺性でも等張性でもなく、これは結果の解釈に影響を及ぼす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、上記の従来方法はいずれも広く使用されているが、血管内の血管作用を試験するための従来技術に代わる技術が、当業界で必要とされており、従来技術の欠点および限界に対処すると同時に、使用および解釈が容易であり血管作用のより正確な測定を提供することが、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、血管収縮または血管拡張に反応する圧力変化を記録する間、血管をほぼ一定の寸法に維持する、新規の等容性ミオグラフをもたらす。基本的に、本発明は、不利点を伴わずに等尺性および等容性の両方となることにより、別の2つの従来のミオグラフに優る利点を有する。新規の技術の有用性および感度を表すために、弾性(頸動脈)動脈および筋肉(大腿)動脈の反応が考察される。本発明は、両タイプの血管の反応に対して高感度であることが、証拠によって示される。2つの血管タイプの受動および能動応答の、特性曲線が表される。この新規技術の有用性、ならびに将来的な生理学的および薬理学的応用例は、無制限である。
【0009】
本発明の1つの特定の実施形態において、血管の血管作用を定量するための装置が開示される。装置は、血管の内腔と共に流体封止をそれぞれ形成する、血管の両側に位置決めされた1対の導管と、血管を所定の長さに保持する1対の保持壁部と、一方の導管と連通する圧力変換器とを備え、血管が保持壁部によって所定の長さに維持される間に、血管の何らかの血管作用が、圧力変換器によって測定されるような血管の内腔内の圧力変動により影響を受ける。
【0010】
別の例示的な実施形態では、本発明は、化学物質に反応する血管の血管作用を定量するためのシステムである。システムは、化学物質の血管作用を定量するために使用される血管を備え、血管が一定の体積に維持されるように、血管の内腔が流れ状態に対して閉じられ、システムはさらに、血管を所定の長さに保持する保持装置と、血管の血管作用を試験するために使用される化学物質とを備え、化学物質に反応する血管の何らかの血管作用が、等容性および等尺性状態において測定される。
【0011】
さらに別の例示的実施形態では、本発明は、化学物質に反応する血管の血管作用を測定するための方法である。方法は、血管を一定の長さに維持するステップと、血管の内部体積を一定に維持するステップと、血管が化学物質に露出された後に血管の内腔内の圧力変化を測定するステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の利点を理解し完全に認識するために、現在使用されている従来技術、すなわちそれらの用途および欠点をまず考慮し、本発明につながる工学的解析を考慮することが有用である。
【0013】
従来から、ワイヤミオグラフおよびプレッシャミオグラフは、血管の血管作用特性を研究するために広く使用されている。ワイヤミオグラフでは、血管は、リングへと切断され、各リングが、2つのフックによって等尺性ミオグラフ内に取り付けられる。通常、一方のフックが固定され、他方のフックが力変換器に接続される。血管収縮または血管拡張時に、測定された力が記録される間、リングの長さは比較的一定(等尺)に維持される。この型の有用な特性は、それが高感度で等尺特性を試験することであるが、いくつかの欠点として、血管ジオメトリおよび機械的負荷の性質が非生理学的であることが挙げられる。これらの欠点を修正するために、プレッシャミオグラフが開発された。
【0014】
プレッシャミオグラフでは、血管が、灌流内へとカニューレ挿管され、圧力を調節することができる加圧された容器へと連結される。血管の直径を監視するために、CCDカメラを有する顕微鏡が使用される。直径の増大または減少は、それぞれ血管拡張または血管収縮を表す。等尺性ワイヤミオグラフに比べて、プレッシャミオグラフにおける測定は、より生理学的である。
【0015】
しかし、プレッシャミオグラフにおける血管作用検出感度は、ワイヤミオグラフにおける感度よりも低い。すなわち、特に弾性を有する血管で、血管作用中の血管における直径変化よりも大きく、力が変化する。たとえば、等尺性ミオグラフ内の力は、ノルエピネフリンにより誘導される血管収縮中に、何倍にも増大することがある。同様の状態で、プレッシャミオグラフでは、直径は約10〜20%変化する。等尺性ミオグラフ内の力は、アセチルコリンにより誘導される血管拡張中に、ゼロまで減少することがあるが、プレッシャミオグラフにおいて、寸法は10%未満だけ変化する。そのような不一致および変動は、これらの従来システムの欠点の一部に過ぎず、血管作用測定の技術改善を確認するために、体内の血管の反応の以下の工学的な解析を考察するときに、念頭に置かなければならばならない。
【0016】
恒常的なインビボ状態下では、血管はほぼ間違いなく、等張状態というよりも等尺状態下にある。これは、血管直径の変動が、心周期中に10%未満である一方、圧力(P)と内半径(r)の積を壁厚(h)で除算した値であると推定される平均周応力(τθ)が、血管直径よりも大きく変動するという観察によって裏付けられる。これは、
【0017】
【数1】

【0018】
として表されるラプラスの方程式から得られる。ただし、内半径と壁厚は、
【0019】
【数2】

【0020】
として与えられる、非圧縮性の原理によって関連づけられ、ここで、AおよびLは、無負荷状態での壁の面積および血管の長さ(経壁圧)に対応し、rおよびLは、負荷状態での外半径および血管の長さに対応する。血管の壁が薄いもの、すなわちr〜rであると見積もると、等式[2a]は、
【0021】
【数3】

【0022】
となり、ここでλは、L/Lによって与えられる軸方向伸長率であり、h=r−rである。
等式[1]および[2b]が結合されると、以下の等式
【0023】
【数4】

【0024】
が得られる。
圧力および半径の変化はいずれも、心周期全体にわたるため、応力の変化は、等式[3]によって示されるように、半径の変化よりも大幅に大きくなる。すなわち、血管はインビボで、等張状態というより等尺状態となる。
【0025】
さらに、ラプラスの方程式を用いた円筒ジオメトリの張力または応力の算出には、血管が平衡状態下にあることが必要である。これは、等張状態ではなく等尺状態下で生じる。これらの理由から、本発明は、生理学的ジオメトリおよび圧力負荷を維持しながら、等尺性状態下にある血管の能動的な機械的特性の決定が可能になるように考案された。
【0026】
本発明による等容性ミオグラフは、ワイヤミオグラフおよびプレッシャミオグラフの両方の利点を有すると同時に、それらの限界を回避する。等容性ミオグラフでは、血管は、プレッシャミオグラフと同様に、カニューレ挿管および拡張され、血管収縮または血管拡張反応が、圧力信号によって確認される。本発明の例示的な実施形態を用いると、血管の生理学的ジオメトリおよび負荷を、プレッシャミオグラフと同様に維持しながら、非常に小さな圧力変化を、ワイヤミオグラフと同様のやり方で測定することができる。
【0027】
さらに、本発明による方法は、最初の圧力に応じて、血管収縮時の圧力から3倍以上に上昇することがあることを示すために使用される。同様に、血管拡張は、血管がフェニレフリンによってあらかじめ収縮させられた場合、80mmHgから0mmHgもの大幅な圧力低下を誘発する。
【0028】
本発明の特定の一実施形態では、図1に示すような等容性ミオグラフシステムが開示される。考察中の血管3の、寸法およびジオメトリの変化を検出および測定するために、立体顕微鏡2が使用される。顕微操作装置1は、その長さの血管3を、ユニット内に適切に位置決めし軸方向力変換器4に接続することを可能にする。血管の両端部付近に位置決めされフラスコ8および9にそれぞれ隣接する止め栓6および7によって制御可能な、閉じたユニットを介して、一定かつ/または連続的な体積が維持される。閉じた流体通路内のガス圧を設定および制御するために、圧力調節器10および11が使用され、それによって、ソリッドステート圧力変換器5が血管3の内腔内の流体圧力を検出する間に、血管3の内腔内の圧力が制御される。
【0029】
動作に際しては、図1の例示的な等容性ミオグラフは、考察中の、特定の薬物または作動薬などに対して露出される血管3のための、等容性環境を維持するように働く。図1に示す様々な構成要素は、血管の内腔内へと流体を導入することを可能にし、あるいは、血管を一定流量の流体が通ることを可能にするように働く。いずれかの方法を用いることにより、血管3上の寸法および応力が、圧力変換器5および顕微鏡2を用いて測定され、カメラおよび記録システムによって後の解析のために記録される。あるいは、図5Aに示すように、血管3の測定値および応力をリアルタイムで表示装置上に表すことができるように、コンピュータシステムを、顕微鏡2およびカメラシステムとリアルタイムで通信させることができる。
【0030】
図1に示すような本発明の例示的な実施形態の、測定および解析を考察するために、ラットの動脈区間を使用して、実験が行われた。この研究では、体重300〜350gの6匹のウィスターラットが使用された。動物は、ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg、腹腔内)を用いて麻酔をかけられた。麻酔中の動物の体温を維持するために、加温パッドが使用された。ラットの左頸動脈および総大腿動脈が、血圧測定のために露出されカニューレ挿管された。これは、頸動脈と大腿動脈との間のインビボの血圧差を測定するために行われた。右頸動脈および大腿動脈の1cmの区間がいくつか切除され、即座に4℃の生理食塩水(PSS)中に保管された。
【0031】
次いで試料は、図1に示すような本発明による例示的な等容性ミオグラフ内で試験するために準備された。試料を準備するために、PSSは、制御された加温システムを有する浴槽内に収容され、37℃まで加温された。浴槽内のPPSは、実験全体を通して、95%のOおよび5%のCOの混合物によって曝気された。
【0032】
図1に示すように、顕微操作装置1が、浴槽の縁部上に取り付けられた。顕微操作装置1上に固定された「アーム」が、コネクタを血管3の一端部上のカニューレに対して保持するために使用され、第2のアームが、コネクタを血管3の他端部上のカニューレに対して保持した。両コネクタは、浴槽内でPSS内に浸され、血管3は、2つの端部上にカニューレ挿管された。2つのコネクタの後方端部は、壁部が厚いタイゴンチューブを用いて個別の二方止め栓6および7へと連結される。血管3内の圧力を監視するために、ソリッドステート圧力変換器5が、コネクタと二方止め栓6との間でチューブ内に挿入された。各二方止め栓6および7は、血管内腔を満たすための約20mlのPSSまたはいくらかの作動薬を有する、個別のフラスコ(約50ml)8および9へとそれぞれ連結された。各フラスコ8および9は、95%のOおよび5%のCOの混合ガスタンクによって加圧され、各フラスコ内の圧力が、個別の圧力調節器10または11によって調節された。調節器10または11は、所望の圧力まで、それぞれフラスコ8または9内の流体を加圧する(精度は約1mmHg以内)。
【0033】
血管3および圧力変換器5は、血管3が加圧され、2つの止め栓6および7が血管3に対して閉じられるとき、圧力システムから隔離される。血管3の2つの端部が閉じられるので、血管収縮によって、血管内の圧力上昇が生じる。血管拡張中は、血管3が拡張し、したがって血管内の圧力低下がもたらされる。圧力の変化は記録される。しかし、直径の変化を記録するために立体顕微鏡2上に取り付けられたCCDカメラによって確認されるように、等容性システムにおける直径の変化は、非常に小さい。薬理的作動薬は、内皮依存性とすることができ、したがって内腔を通じて導入することができ、あるいは、内皮非依存性とすることができ、したがって槽内で外側から血管3に適用することができる。
【0034】
立体顕微鏡2下で、血管3に隣接する弛緩組織が注意深く切開され、血管3のすべての枝部が、4℃のPSS内で適当な縫合糸によって結紮される。次いで血管3は、室温のPSSを収容する浴槽内で、コネクタ上にカニューレ挿管され、37℃の95%のOまたは5%のCOによって、気体供給される。血管3は、そのインビボ長さまで伸張させられ、2つの止め栓6および7が、血管3へと開かれた。血管内圧は、血管3を40分間平衡化することを可能にするために、10mmHgに設定された。次いで血管内圧は、60mmHgへと上昇させられ、2つの止め栓6および7が、血管3に対して同時に閉じられた。血管3は、1μモル/リットルのフェニレフリンによって、2回刺激された。PSSは、取り替えられ、血管3は、40分間の平衡化が可能にされた。次いで、血管3の区間が、頸動脈内で100mmHgまで加圧され、大腿動脈は、85mmHgまで加圧された。
【0035】
フェニレフリンに反応する、用量依存性血管収縮が記録された。アセチルコリンに反応する、用量および内皮依存性血管拡張もまた、フェニレフリン前収縮において記録された。ニトロプルシドナトリウム(SNP)に反応する、用量依存および内皮非依存性血管拡張が、フェニレフリン前収縮において記録された。次いで、最高濃度の作動薬が、圧力依存性筋原性収縮において使用され、これにより、以下で概要を説明するような最大血管収縮および血管拡張が誘発された。
【0036】
血管は、10mmHgにて5分間加圧され、2つの止め栓6および7が、同時に閉じられた。最高濃度のフェニレフリンを含むPSSは、器官内のPSSに比べて、血管収縮を生じた。血管3内の圧力および血管3の直径は、記録された。フェニレフリンを含むPSSが排出され、浴槽内にPSSが再充填された。血管3は、40分間にわたり回復することが可能にされ、次いで、20mmHgの増分で20mmHgから140mmHgへと加圧された。各圧力にて、フェニレフリンによって誘導される血管収縮が、上記で概説したように反復された。次いで血管3は、各フェニレフリン投与の間に、40分間にわたり回復することが可能にされた。
【0037】
血管作用の実験後に、浴槽およびフラスコ8および9内のPSSを交換するために、カルシウムを含有せず2.5ミリモル/リットルのEGTAを含有するPSSが使用された。20分後に、血管3の直径が、各設定圧力、すなわち10、20、40、60、80、100、120、140、および160mmHgにて記録された。容器3は、浴槽から切り離され、3つのリング(長さ0.5mm)が血管3から切り出された。断面は、ビデオ撮影され、壁部面積、ならびに内周および外周が測定された。リングはさらに、径方向に切断され、内部および外部の長さが、応力ゼロ状態で測定された。
【0038】
これらの実験において使用されたPSSは、(ミリモル/リットルで)119NaCl、4.7KCL、25NaHCO、1.17KHPO、1.17MgSO、1.6CaCl、5.5Glucoseから調製された。フェニレフリンおよびアセチルコリンは、0.1ミリモル/リットルのHCl原液内で1ミリモル/リットルに調製され、−20℃で保管された。溶液は、希釈され、直ちに使用された。ニトロプルシドナトリウムは、PSS中で1ミリモル/リットルに即座に調製された。
【0039】
データは、特に断りがない限り、相加平均±標準偏差(SD)として表された。様々なパラメータ間の有意差が、スチューデントのt検定によって得られるパラメータ分散分析によって決定された。p<0.05の確率が、十分な有意差を示しているとみなされた。
【0040】
フェニレフリンに対する血管3の濃度依存収縮が、図2に示される。フェニレフリンが濃度を上昇させながら投与された場合、血管3内の圧力は、矢印の点によって示されるように連続的に上昇した。図2に示すように、圧力は、濃度が3μモル/リットルのときに最高となった。アセチルコリンの投与によって、用量依存の血管拡張が観察された。
【0041】
図3は、頸動脈ならびに大腿動脈および静脈の、受動および能動特性に関する張力−直径関係を示す。フェニレフリンに対する能動的な反応と比べて、同じ直径における受動張力は、大幅に小さかった。血管収縮によって、血管壁内に大きな収縮力が生じた。
【0042】
図4は、SNPを用いた血管拡張時の圧力低下の時間経過を示す。血管拡張プロセス中に、振幅の小さい突発的な収縮が存在する。こうした小さな圧力変化では、プレッシャミオグラフを用いた直径変化の測定が可能となる見込みがないので、この現象は、以前に報告されていなかった。
【0043】
図1に示す等容性ミオグラフは、本発明の1つの例示的な実施形態に過ぎない。多くの別の変形形態が可能であり、本発明の範囲内にある。たとえば、図5Aに示すシステムは、本発明のさらに別の例示的な実施形態である。この例示的な実施形態は、等尺性(図6)および等張性(図7)血管運動を測定するために使用することができ、実質的に、図1に示す例示的な実施形態とほぼ同様であるが、コンピュータ制御される電子圧力または体積調節器、ならびにコンピュータ制御される血管直径測定も含む。
【0044】
本実施形態はまた、等尺性(長さ一定)および等張性(張力一定)の機械的試験がいずれも、筋機構を理解するために骨格筋標本において広範に利用されてきたが、電子および/またはコンピュータ制御は言うまでもなく、円筒状血管における等尺性および等張性実験の両方を可能にする同様の装置が現在まで生み出されていないという、従来の方法の限界に対処する。図5Bに関連して説明され、それぞれ図6および図7に示されるように、等容性方法(体積一定)は、等尺性および等張性モードにも拡張することができる。
【0045】
図5Bは、図5Aの例示的な実施形態において使用される等尺性および等張性測定のための、概略的なフィードバックループを示す。本実施形態のフィードバックループ制御をよりよく理解するために、まず、等尺性血管作用が考察される。血管3の直径は、弛緩時に増大し、収縮時に減少する。等尺性血管運動は、血管作用時の血管3の直径が、圧力または体積を調節することによって一定に維持されることを必要とする。したがって、圧力または体積は、フィードバックループにおいて、設定された直径に合わせて調節される。血管収縮時は、基準直径が低減される。システムは、直径の減少を測定し、圧力または体積を設定値まで増大させることによって反応する。フィードバックループは、直径が設定値の1%以内に維持されるまで繰り返される。逆に、圧力または体積は、図6に示すように、血管拡張時に直径を設定値へと減少させるために、負のフィードバックループによって低減される。
【0046】
次に、等張的な血管作用が考察される。等張性血管運動は、血管3の周方向張力が一定となること(たとえば圧力と内径の積が一定となるなど)を必要とする。等張性収縮時は、周方向張力が一定に維持されるが、圧力および直径は、図7に示すように変化する。簡潔に言えば、設定値が圧力と直径の積として算出され、システムは、等尺性試験と同様の一定の積を維持するように、圧力または体積を変化させる。
【0047】
等尺性および等張性試験を行う際に、血管の直径が測定される。通常、血管の直径が小さいほど、直径がより分かりやすい。したがって、より小さい血管では、内径および外径を直接測定することができる。本システムでは、直径600μm未満の血管で、内径を非常に良好に、連続的に測定することができる。直径が600より大きい血管では、外径のみを直接測定することができる。内径は、無負荷の断面積、軸方向伸長率、および非圧縮性仮定の測定に基づいて、当業界で確立された方法から算出することができる。したがって、内径は、上記のように、外径および追加の測定から算出することができる。
【0048】
上記で議論したように、たとえば、(1)筋原性反応時の圧力上昇など物理的なモード、(2)様々な作動薬および拮抗薬を用いるなど薬理物質による化学的なモード、ならびに(3)電流刺激による電気的なモードを含めて、血管平滑筋作用のいくつかのモードがある。初めの2つは、本開示の別の箇所で説明される。次に、電場刺激(EFS)によって血管収縮を刺激するために電流源12を使用することができる構成を示す、図8を参照しながら、第3のタイプを議論する。そのような刺激を提供するために、様々な電極を使用することができる。比限定的な例として、20Hzの、持続時間0.3ミリ秒および60mVの方形波パルスで、電子刺激装置を用いて血管区間を刺激するために、2つの白金ワイヤ電極が使用される。本実施形態は、電気的刺激に反応する、様々な血管作用を示すために使用することができる。
【0049】
図9は、複数の血管を同一システム内で試験することができる、本発明によるさらに別の例示的な実施形態を示す。この特定の実施例では、第2の血管13を、第1の血管3と同一の浴槽内で同時に測定することができる。チューブ、力変換器14、および圧力変換器15、止め栓16および17、フラスコ18および19、ならびに精密な圧力調節器20および21は、第1の血管区間3のために使用されたものと同様であり、上記の例示的実施形態において説明されたようなものである。第1の血管区間3から独立して第2の血管13の長さを調整するために、追加の操作装置12を使用することができる。第2の血管13は、第1の血管3と同一の、血管刺激装置または圧力負荷に対して露出することができる。そのようなシステムを用いて、身体の様々な部分からの様々な血管を、同一または同様の刺激に対する反応について試験することができる。別の用途が可能である。
【0050】
さらに別の実施形態では、図10Aに示すように、血管の内圧および外圧を制御することができる、血管の試験を可能にするシステムが提示される。さらに、特定のパルス圧力15を、パルス圧力発生装置14によって電子的に生み出し、血管3を収容する封止された外部槽12へと続く圧力変換器13へと、伝達することができる。封止された外部槽12は、血管3の外圧が圧力パルスシステムによって制御されるように、固定される。このシステムによって、拍動性の圧力変化を受けるときの血管を試験するために使用することができる、実際の血管環境にさらに近いモデルが可能になる。別の試験および構成が、本発明の範囲内で可能である。
【0051】
インビボで、血管は、拍動性の血管内圧力状態下におかれる。さらに、冠状血管など、いくつかの脈管構造は、拍動性の血管内負荷に加えて、拍動性の外部負荷を受ける。したがって、図10Bに示すように、本発明の例示的な一実施形態において、血管内および外部の拍動性負荷状態の両方を模倣することが非常に有用である。本実施形態は、内部および外部拍動性圧力状態を可能にする、等容性システムの概略を示す。これは、拍動性圧力装置を用いて容器の外部媒体(溶液槽)を加圧することによる、本発明を用いて容易に行うことができる。内部拍動性圧力を発生させるために、可撓性のバルーンが血管と直列に連結される。バルーンは次いで、拍動性圧力を用いて外部から負荷をかけられる。圧力パルスは、可撓性バルーンを通じて血管の内腔へと伝達される。
【0052】
上記実施例は、本発明のいくつかの利点を示すが、さらなる利点および能力もまた、本発明において固有かつ明らかである。たとえば、筋原性反応は、突発的な圧力変化後の圧力反応を通じて、測定することができる。また、軸方向力測定を行い、同時的な軸方向力の測定を可能にすることができる。
【0053】
本発明のさらに別の用途は、小さい血管内の濾過率を決定することである。濾過率は、等容性実験中に算出することができる。その体積が
【0054】
【数5】

【0055】
によって与えられる、円筒ジオメトリの血管を考察されたい。等容性収縮中の体積変化は、濾過に起因し、以下の
【0056】
【数6】

【0057】
のような直径変化に関連づけることができる。濾過率Jは、
【0058】
【数7】

【0059】
として与えることができる。単位面積S当たりの濾過率は、
【0060】
【数8】

【0061】
として表すことができる。
したがって、濾過率は、実験中に定量化することができる直径変化率の、半分に等しい。本開示を考察した後に、本発明のこれらおよび別の利点が、当業者には明らかとなる。そのような利点および用途はすべて、本発明の趣旨および範囲内に含まれる。
【0062】
本発明の好ましい実施形態の上記開示を、例示および説明のために提示してきた。本発明を、網羅的な、または開示された正確な形に限定することは、意図されない。本明細書で説明された実施形態の変形または修正は、本開示を照らせば当業者に明らかとなるであろう。本発明の範囲は、本明細書に添付される特許請求の範囲およびそれらの同等物によってのみ規定されるべきである。
【0063】
さらに、本発明の代表的な実施形態を説明する際に、本明細書は、本発明の方法および/またはプロセスを、ステップの特定の順序として表してきた場合がある。ただし、方法またはプロセスが、本明細書で説明したステップの特定の順番に依拠しない程度に、方法またはプロセスは、説明されたステップの特定の順序に限定されるべきではない。当業者には理解されるように、別の順序のステップが可能となることがある。したがって、本明細書において説明した特定の順番のステップは、特許請求の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。さらに、本発明の方法および/またはプロセスを対称とする特許請求の範囲は、それらのステップの実行を書かれた順番に限定する必要はなく、順序は、変えることができるとともに、依然本発明の精神および範囲内に留まることができることを、当業者は容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】血管を試験するプロセスにおける、等容性ミオグラフとしての本発明の例示的な実施形態を示す図である。
【図2】例示的なフェニレフリンへの用量依存の筋原性反応を示す図である。
【図3】頸動脈ならびに大腿動脈および静脈の、受動および能動特性の張力−直径関係を示す図である。
【図4】ニトロプルシドナトリウム(SNP)を用いた血管拡張中の圧力減少の時間経過を示す図である。
【図5A】図5Aは、血管を試験するプロセスにおける、自動等尺性または等張性ミオグラフとしての本発明の例示的な一実施形態を示す図である。
【図5B】図5Bは、本発明の例示的な実施形態において使用されるような、圧力または体積の制御フィードバックループを示す図である。
【図6】血管運動時に一定の直径を維持するように調節された圧力をもたらす、ブタの右冠状動脈(RCA)上の例示的な等尺性実験を示す図である。
【図7】血管運動時に一定の張力(圧力と直径の積)を維持するように調節された圧力をもたらす、ブタの右冠状動脈(RCA)上の例示的な等張性実験を示す図である。
【図8】血管を試験するプロセスにおける、電気刺激装置を有する等容性ミオグラフとしての、本発明の例示的な一実施形態を示す図である。
【図9】等容性多血管ミオグラフとしての、本発明の例示的な一実施形態を示す図である。
【図10A】等容性多圧ミオグラフとしての、本発明の例示的な一実施形態を示す図である。
【図10B】多数の拍動性圧力制御装置を有する、本発明の例示的な一実施形態を示す概略斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の血管作用を定量するための装置であって、前記装置が、
血管の両側に位置決めされ前記血管の内腔とともに流体封止をそれぞれ形成する、1対の導管と、
前記血管を所定の長さに保持する1対の保持壁部と、
一方の導管と連通する圧力変換器とを備え、
前記血管が前記保持壁部によって所定の長さに維持される間に、前記血管の何らかの血管作用が、前記圧力変換器によって測定されるような前記血管の前記内腔内の圧力変動による影響を受ける、装置。
【請求項2】
前記血管が流体浴内にある、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記流体浴が、前記血管上で試験される作動薬を含有する、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記血管の前記内腔と連通する流体源をさらに備え、前記流体源が、前記血管上で試験される作動薬を含有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記血管の伸長または収縮を促進するために前記保持壁部の離隔長さを変化させるための、操作装置をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
刺激への反応における壁厚および直径の変化を測定するために、前記血管へと向けられる顕微鏡をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
第1の血管も収容する流体浴内に収容される、第2の血管と流体連通する第2の圧力変換器をさらに備え、前記第2の血管がまた、血管作用も試験される、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記血管を浸し収容するための封止されたハウジングをさらに備え、前記封止されたハウジング内の前記圧力が、第2の圧力変換器によって制御可能である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記封止されたハウジング内の前記圧力を制御するための前記圧力変換器は、パルス圧力可変である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記血管の前記血管作用が、電気的刺激に反応して測定される、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記血管が、ほぼ等尺性状態下に維持される、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記血管が、ほぼ等張性状態下に維持される、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
化学物質に反応する血管の血管作用を定量するためのシステムにおいて、前記システムが、
化学物質の前記血管作用を定量するために使用される血管であって、前記血管が一定の体積に維持されるように、前記血管の内腔が流れ状態に対して閉じられる、血管と、
前記血管を所定の長さに保持する保持装置と、
前記血管の前記血管作用を試験するために使用される化学物質とを備え、
前記化学物質に反応する前記血管の何らかの血管作用が、等容性および等尺性状態において測定される、システム。
【請求項14】
前記血管が、流体浴内に維持される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記流体浴が、前記血管上で試験される前記化学物質を収容する、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記血管の前記内腔と流体連通する流体源をさらに備え、前記流体源が、前記血管上で試験される前記化学物質を含有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記血管の伸長または収縮を促進するために前記保持壁部の離隔長さを変化させるための、操作装置をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
刺激への反応における壁厚および直径の変化を測定するために、前記血管へと向けられる顕微鏡をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
前記内腔の圧力を一定に維持するための、前記血管の前記内腔と連通する圧力源をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項20】
第1の血管も収容する流体浴内に収容される、第2の血管と流体連通する第2の圧力変換器をさらに備え、前記第2の血管はまた、血管作用も試験される、請求項13に記載のシステム。
【請求項21】
前記血管を浸し収容するための封止されたハウジングをさらに備え、前記封止されたハウジング内の前記圧力が、第2の圧力変換器によって制御可能である、請求項13に記載のシステム。
【請求項22】
前記封止されたハウジング内の前記圧力を制御するための前記圧力変換器が、パルス圧力可変である、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
化学物質に反応する血管の前記血管作用を測定するための方法であって、前記方法が、
前記血管を一定の長さに維持するステップと、
前記血管の内部体積を一定に維持するステップと、
前記血管が前記化学物質に露出された後に、前記血管の前記内腔内の圧力変化を測定するステップとを含む方法。
【請求項24】
前記化学物質が、前記内腔を通して前記血管に露出される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記血管に外部圧力をさらに加える、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記加えられる外部圧力が可変パルス圧力である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記濾過率が、前記血管の前記測定値を使用して、上記で表された数式に従って定量される、請求項23に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate


【公表番号】特表2008−541016(P2008−541016A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509223(P2008−509223)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/016523
【国際公開番号】WO2006/119143
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507283632)ディーセラピューティクス・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】