説明

等時性湾曲イオンインタフェースを備えた多重反射型飛行時間質量分析計

本発明は、一般に、多重反射型飛行時間質量分析計(MR TOF MS)に関する。平面MR TOF MS(11)の質量分解能を改善するために、MR TOF分析計(11)との間のイオン移送のために空間等時性で湾曲したインタフェース(21)を使用する。一実施形態は、無電界空間内に周期的レンズ(14)を有する平面MR TOF MS(11)、イオン流をパルスに変換するための線形イオントラップ(17)、及び静電気セクタで作成されたC字形等時性インタフェースを含む。インタフェース(21)は、大きな時間広がりを導入することなくイオンミラー(12)のエッジとフリンジング電界(13)を迂回してのイオンの移動を可能にする。インタフェース(21)は、また、イオンパケットのエネルギーフィルタリングを提供する。イオントラップコンバータ(17)の関連付けられていない往復時間は、イオントラップからのイオン抽出を遅延させることによって短くすることができ、過度のイオンエネルギーは、湾曲インタフェース(21)でフィルタリングされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、Anatoli N. Verentchikovらのために2005年3月22日に出願された米国仮特許出願第60/664,062号(名称:MULTI-REFLECTING TIME-OF-FLIGHT MASS SPECTROMETER WITH AN ENERGY FILTER)に基づき、米国特許法119条(e)の下での優先権を主張する。この仮特許出願の開示全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本発明は、一般に質量分光分析の分野に関し、より詳細には多重反射型飛行時間質量分析計(MR TOF MS)を備えた質量分析装置とその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
飛行時間質量分析計(TOF MS)は、独立した装置として、或いは別のTOF(TOF−TOF)、四重極フィルタ(Q−TOF)、又はイオントラップ(ITMS−TOF)との質量分析タンデム装置の一部としてますます一般的になってきている。このような飛行時間質量分析計は、高い速度、感度、質量分解能力(以下、分解能と呼ぶ)、及び質量精度の独特な組み合わせを提供する。複合混合物の分析、一般にバイオテクノロジーと製薬の用途には、更に高い分解能と質量精度が必要とされる。
【0004】
最近、多重反射方式とマルチターン方式の導入によって、飛行時間質量分析計の分解能が大幅に改善された。
【0005】
説明を続ける前に、本明細書全体にわたって使用する幾つかの用語を定義することは有用であろう。本明細書で使用されるとき、「平面多重反射型飛行時間質量分析計」は、好ましくはグリッドがない2本の細長いイオンミラーを備えた装置である。イオンは、イオンミラーの長手方向(「ドリフト方向」)にゆっくりドリフトしながらイオンミラー間で反射される。
【0006】
「収差」は、初期イオンパラメータの広がりによって引き起こされる空間又は飛行時間のずれの膨張係数を意味する。
【0007】
「一次収束(first order focusing)」は、入力パラメータの単位直線変化当たりの(装置の出力での)出力パラメータの一次導関数の補償に対応する。一次膨張係数(first order expansion coefficient)は、しばしば「線形係数(linear coefficient)」又は「一次導関数」と呼ばれる。一次収束には、「イオンエネルギーに関する一次飛行時間収束」、「空間座標に対する一次飛行時間収束」、「一次空間収束」、及び「一次単位エネルギー空間収束(first order spatial per energy focusing)」があり、これらについては後述する。
【0008】
「イオンエネルギーに関する一次飛行時間収束」は、イオンエネルギーk当たりの飛行時間T導関数の補償に対応する(即ち、dT/dk=T|k=0)。そのような補償を行なう装置は、「エネルギー等時性(energy isochronous)」と呼ばれる。
【0009】
「空間座標に対する一次飛行時間収束」は、「空間等時性(spatially isochronous)」装置内で行われ、dT/dx=T|x=0、dT/dy=T|y=0、dT/dα=T|α=0、及びdT/dβ=T|β=0に対応する。装置が、ひとつの垂直方向だけ(例えば、T|x=0とT|α=0だけ)空間等時性の場合もある。
【0010】
「空間座標」は、通常、イオン経路に対する角度α及びβと直角座標x及びyを指し、これらは、イオン経路と垂直な方向、場合によっては等時性面(isochronous plane)内で測定される。
【0011】
「一次空間収束」は、単に「収束」とも呼ばれ、通常x|x=0、x|α=0、α|α=0、α|x=0等と表される初期空間座標及び角度に対する出力空間座標及び角度の一次導関数の補償に対応する。
【0012】
「一次単位エネルギー空間収束」は、「クロマチック(chromatic)」収束とも表され、いわゆる「アクロマチック(achromatic)」装置に対応し、イオンエネルギーのばらつきに対する出力空間座標(及び角度)の一次導関数の補償を意味する(x|k=0、y|k=0、α|k=0、及びβ|k=0)。
【0013】
「二次収差」は、同じように定義された二次導関数であるが、クロスターム収差(cross-term aberration)も意味する。「二次収差」の幾つかの例には、「イオンエネルギーに関する二次及び三次飛行時間収差」、「空間座標に対する二次飛行時間収差」、「二次空間収差」及び「二次クロマチック収差」があり、これらについては後述する。
【0014】
「イオンエネルギーに関する二次及び三次飛行時間収差」は、それぞれd2T/dk2=T|kk及びd3T/dk3=T|kkkである。「二次エネルギー等時性」は、T|k=0でT|kk=0であることを意味する。
【0015】
「空間座標に対する二次飛行時間収差」、即ち「二次空間等時性」は、T|x=T|α=T|xx=T|αα=T|xα=0であることを意味する。
【0016】
「二次空間収差」は、x|xx;x|xα;x|αα等に対応する。
【0017】
「二次クロマチック収差」は、x|αk、α|αk、x|xk、α|xk等に対応する。
【0018】
「空間等時性装置」は、装置の出口にいわゆる「等時性面」が存在することを意味し、即ち、装置の前にある「基準面」から測定されたイオン飛行時間が、イオン軌道の座標と角度両方に対して一次独立(linearly independent)である面が存在することを意味する。本明細書内では、用語「等時性」は、空間等時性を意味する。
【0019】
「アクロマチック装置(achromatic device)」は、イオン光学で使用される標準的な用語である。この語は、装置がイオンエネルギーに対して線形の座標及び角度分散を持たないことを意味する。換言すると、装置の出口におけるイオンの座標と角度は、線形近似でイオンエネルギーに依存しない。一般的なイオン光学(H.Wollnik, Optics of Charged Particles, Acad. Press, Orlando, 1987)から、アクロマチック装置は、基準面と等時性面が両方ともが中心イオン経路に垂直な空間等時性装置に自動的になることが知られている。
【0020】
「空間収束」は、最初は幅が広い(平行、集束、又は発散)イオンビーム又はイオンの束が、小さいサイズの「クロスオーバ」に幾何学的に収束することである。
【0021】
「パルス化コンバータ」は、連続又は準連続イオン流をイオンパケットに変換する装置のことである。その例には、イオン放射が軸方向又は半径方向にパルス化される直交アクセラレータ又はイオントラップがある。
【0022】
「エネルギーフィルタリング特性」は、限定されたエネルギー範囲内のイオンを移送し、同時にそれ以外の全てのイオンを阻止する能力である。本発明の詳細な説明で後で更に詳しく説明するように、湾曲装置は、内部のどこかにエネルギー分散を作り出すので、通常幾何学的収束面(即ち、「クロスオーバ」面)と一致する適切な面に絞り(スリット又はアパーチャ)を設置することによって、エネルギー範囲をフィルタリングすることができる。
【0023】
「マツダプレート(Matsuda plate)」は、静電気セクタ電界を終端させ、且つ湾曲イオン経路の平面と平行に位置合わせされた電極である。この電極は、イオン経路面と垂直な方向の静電気等電位線の曲率(即ち、「環状率(toroidal factor)」と呼ばれる)を調整するために使用される。
【0024】
マルチターン機器即ちMULTUM(Toyodaらによる「J.Mass Spectrom」V.38, #11 (2003), pp.1125-1142)の例は、イオン軌道を8の字形に構成する4個の静電気セクタで構成されている。この方式は、イオンエネルギーk、イオン空間座標x,y、及び対応する角度αとβに関する一次飛行時間収束を提供する(T|k=T|x=T|α=T|y=T|β=0)。サイズが1ミリメートル以下でエネルギー広がりが1%未満のイオンパケットについて、300,000を超える高い分解能が実証されている。高い分解能を実現するために、イオンは、500回を超えるクローズドサイクルに通され、これに比例して質量範囲が小さくなる。
【0025】
多重反射装置は、2つの共軸のグリッド無しイオンミラーの間に配置されていた(H. Wollnik, Nucl. Instr. Meth., A258 (1987) 289)。一次飛行時間収束は、イオンエネルギーと空間座標に関して達成される(T|k=T|x=T|α=T|y=T|β=0)。しかしながら、この方式の最終パラメータは、パルス化したイオン注入によって制限される。分析計にイオンを出し入れするために少なくとも1つのミラー電圧が切り換えられる。標準的な分解能は、約50,000である(A. Casaresらによる「Int. J. of Mass Spectrom」206 (2001) 267)。前のケースと同様、多重反射は、受け入れ可能な質量範囲を自動的に制限する。
【0026】
イオン軌道がループ状に閉じられるので、先行技術のほとんどの多重反射装置とマルチターン装置は、質量範囲全体に対応していない。質量範囲の問題を解決するために、1989年にNazarenkoら(ソ連特許第1725289号)は、ジグソーイオン経路を有する平面多重反射型飛行時間(MR TOF)分析計を提案した。イオンは、イオンミラーの長手方向x(ドリフト方向)にゆっくりドリフトしながら2つの平行なグリッド無し静電気ミラー間で反射される。この方式は、イオン軌道の反復を回避し、TOF MSの全質量範囲を保証する。しかしながら、イオンパケットが徐々に拡張するため、隣り合った反射でイオン軌道の空間的重なりが生じる。
【0027】
イオンパケットの空間的発散を防ぐために、発明者らは、更に、2004年6月18日にAnatoli Verentchikovらによって出願され本出願と同一の者に譲渡されたPCT国際公開番号WO2005/001878 A3に開示されているように、平面MR TOF MSのイオンミラー間に周期的レンズを導入することによってMR TOF機構を改良した。レンズは、これらの連続したレンズを通った後の周期的再収束によって中央ジグソーイオン軌道に沿ったイオン閉じ込めを保証する(x|α=α|x=0)。
【0028】
分析計の収差を改善するために、発明者らは、最適形状の平面イオンミラーの使用を提案した。以下の収束を同時に実現するのに十分なミラー電極の最少数は4個であることが分かった。
・2回反射後のイオンパケットの周期的空間収束(y|β=β|y=0)。
・イオンの空間座標とエネルギーに関する二次飛行時間収束(T|k=T|y=T|β=0;T|kk=T|yy=T|ββ=T|ky=T|kβ=T|yβ=0)。
・イオンエネルギーに関する三次飛行時間収束(T|kkk=0)。
【0029】
シミュレーションから、エネルギー広がりが7%でイオンパケット寸法が数ミリメートルのときに、分析計の収差が、100,000を超える分解能になることが分かった。シミュレーションによれば、分解能は、残りの2つの大きな要素、即ち、MR TOF MSへのイオン注入の段階で現われる収差と、連続イオン源の下流に位置決めされたパルス化イオン源又はパルス化コンバータに現われる収差によって限定される。本明細書で使用されるとき、「パルス化コンバータ」とは、直交加速器又はパルス射出イオントラップのことである。
【0030】
MR TOF MSの分解能を制限する第1の要素、即ちMR TOF MSへのイオン注入で現れる収差について検討する。以前にPCT国際公開番号WO2005/001878 A3において、発明者らは、外部イオン源を使用してミラーエッジの領域にイオンを注入することを提案した。この注入により、必然的に、以下のようにイオンパケットの空間分散と幾つかの時間収差とが生じる。
・第1に、イオンは、斜めに導入され、中央イオン軌道をたどるためにMR TOF MS内でステアリングされなければならない。このステアリングによりタイムフロントが傾く。
・第2に、注入されたイオンパケットは、ミラーエッジの近くに現れ、その場所で、静電界が歪んで時間収差が生じることがある。しかしながら、図1A〜図1Cに関して後述するように、これは、既存のイオン源と検出器では実際的でない。
・第3に、イオン源が離れた位置にあるので、中間時間焦点面がMR TOF軸の最適位置からずれ、それによりイオンパケットの初期パラメータが損なわれ、MR TOF MSの全体的な分解能が低下する。
【0031】
内部イオン源又はパルスコンバータを使用するときには、あまり著しくはないが類似の問題が生じる。加速器と検出器の実際のサイズによってイオンが斜めに導入され、その後でイオンがステアリングされる。イオンパケットのステアリングは、相変わらず時間収差の主な原因となる。
【0032】
MR TOF MSの分解能を制限する第2の要素、即ち、パルス化イオン源に生じる時間とエネルギーの広がりについて検討する。イオン源条件だけを仮定すると、分解能Rの限界は、TOF MSのエネルギー許容範囲(tolerance)(Δk/k)、TOF MSの位相空間(L*V)、及びパルス化イオン源内のイオンビームの位相空間(Δx*ΔV)の関数として次のように表すことができる。
【0033】
R≦(Δk/k)*(L*V)/(Δx*ΔV) (1)
【0034】
ここで、LはTOF MS内の有効イオン経路、Vは平均イオン速度、kは平均イオンエネルギーである。また、ΔxとΔVは、イオン加速前のイオン源内のイオンの空間広がりと速度広がりであり、Δkは、加速後のイオンのエネルギー広がりである。
【0035】
多重反射型質量分析計は、延長された飛行経路Lを提供し、これにより、分解能が改善され、イオンビーム初期パラメータへの影響が緩和される。更に、イオン源内のイオンパケットの初期パラメータは、イオンパケットの時間広がりとエネルギー広がりを定義し、この広がりは、MR TOF分解能の第2の大きな限定要因である。
【0036】
初期イオンパラメータの影響は、特にイオントラップコンバータを使用するときに著しくなる。このトラップは、連続ビームをシャープなイオンパケットに完全(100%)に変換することが分かっているので魅力的である(B.Kozlovら、ASMS 2005,www.asms.org)。トラップコンバータは、特に、注入パルスがまばらで代替イオン源(直交加速(OA)等)のデューティサイクルが極めて低いMR TOF MSを使用する場合に魅力的である。しかしながら、トラップ内のイオンは、OAよりかなり高温であり、時間広がりが非常に大きいことに特徴があるイオンパケットよりかなり高温である。
【0037】
TOF MSの過去の歴史において、分解能は、上式(1)の個々の要素を改善しながら徐々に改善されてきた。イオンミラーの導入(米国特許第4,072,862号、ソ連特許第198034号、及びSov. J. Tech. Phys. 41 (1971) 1498, Mamyrinら)により、Mamyrinとその同僚達は、TOF質量分析計のエネルギー許容範囲Δk/kを改善し、イオンエネルギーに関する二次飛行時間収束を達成した(T|k=0でT|kk=0)。同様に、一次イオンエネルギー広がりを補償するため(T|k=0)、Poschenriederは、静電気セクタで構成されたTOF MSを提案した(W.P.Poschenrieder, Int. J. Mass Spectrom and Ion Physics, v.9 (1972) p357-373)。ガスが充填されたイオンガイド内にイオンの衝突減衰を導入することによって、イオンビームの初期パラメータを改善し、即ち初期の空間広がりΔxと速度広がりΔVを改善することができた(米国特許第4,963,736号)。イオンガイドは、直交加速器の前のイオンビーム特性を改善するために使用された(A.V.Tolmachev, I.V.Chernushevich, A.F.Dodonov, K.G.Standing, Nucl. Instrum. Meth., B124 (1997)112)。
【0038】
また、ビームの位相空間は、直交加速器(OA)の場合と同じように、ビームをスキミングしながら縮小された。連続イオンビームが拡張され、次にほぼ平行なビームに収束される。ビームの一部分が、スリットにより選択される。その結果、スリットを通る連続イオンビームの標準パラメータは1mmx1度になり、この値は、減衰四重極イオンガイドを直接通るイオンビームのパラメータより約3倍優れた値である。TOF軸に沿ったイオンエネルギー広がりは、室温でのイオンエネルギー広がりの3分の1になる。
【0039】
イオンパケットの位相空間を縮小する別の戦略は、前に引用したPoschenriederの論文に記載されている。イオンパケットのいわゆる往復時間(turn-around time)は、抽出静電界の強さを高めることにより短くなる。これにより必然的に、イオンパケットのエネルギー広がりが大きくなる。過度のエネルギー広がりは、湾曲軸を有する静電エネルギーフィルタ内でフィルタリングされる。エネルギーフィルタ自体は、飛行時間分析計として提案された。セクタ電界をドリフト領域と組み合わせることにより、イオンエネルギー並びにイオン空間広がり及び発散に対する一次飛行時間収束が可能になる。しかしながら、前に詳述したように、高い分解能を達成するには、セクタTOF分析計のアクセプタンスが、大幅に減少されたエネルギーでなければならず、空間広がりは、平面MR TOF分析計よりもかなり小さくなければならない。
【0040】
以上をまとめると、多重反射型平面飛行時間分析計は、高分解能の全質量範囲の測定に適している。イオントラップ源は、MR TOF内のパルス化がまばらな場合でもイオンビームの有効なパルス化変換を提供するので、MR TOFに特に魅力的である。分解能は、主に、イオンミラーのエッジを迂回するイオン注入によって制限される。第2の限定要因は、特にイオントラップコンバータを使用するときのイオン源内のイオンパケットの位相空間である。多重反射型TOF質量分析計の分解能と感度を同時に改善する解決策が必要である。
【0041】
【特許文献1】ソ連特許第1725289号
【特許文献2】PCT国際公開番号WO2005/001878 A3
【特許文献3】米国特許第4,072,862号
【特許文献4】ソ連特許第198034号
【特許文献5】米国特許第4,963,736号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0042】
本発明の1つの実施形態によれば、イオンパケットを生成するパルス化イオン源と、イオンパケットのイオンを質量電荷比で分離する平面多重反射型飛行時間分析計と、分離されたイオンを受け取るイオンレシーバと、イオン源とイオンレシーバの間に配置された少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースとを有し、空間等時性イオン移送インタフェースが湾曲軸を有する多重反射型飛行時間質量分析装置が提供される。
【0043】
本発明の別の実施形態によれば、飛行時間質量分析装置は、イオンパケットを生成するガス充填イオントラップであって、高周波信号を印加する少なくとも1個の電極を有し、前記高周波信号の切り換え後の所定の遅延後に前記イオントラップからイオンパケットが抽出されるイオントラップと、制限されたエネルギー範囲内のイオンを移送するエネルギーフィルタと、イオンをそれらの質量電荷比に従って分離する飛行時間質量分析計と、分離されたイオンを受け取るイオンレシーバと、前記イオントラップと前記イオンレシーバの間に位置決めされ、制限されたエネルギー範囲内のイオンを移送する空間等時性エネルギーフィルタとを有する。
【0044】
本発明の別の実施形態によれば、複合(ハイブリッド)飛行時間質量分析装置は、少なくとも1組の空間等時性の静電気セクタと、少なくとも1個のイオンミラーと、イオンレシーバとを有し、イオンミラーは、1組の静電気セクタの少なくとも1つの二次飛行時間収差を補償する。
【0045】
本発明の別の実施形態によれば、装置は、イオンを生成するイオン源と、イオン蓄積とイオンパケットの形成を行うためにイオン抽出が遅延される線形イオントラップと、周期的レンズを備えたドリフト空間を有する平面多重反射型飛行時間分析計と、イオンレシーバと、線形イオントラップとイオンレシーバの間に配置された少なくとも1個の空間等時性C字形円筒インタフェースとを有する。
【0046】
本発明の別の実施形態によれば、多重反射型飛行時間質量分析装置は、イオンパケットを生成するパルス化イオン源と、少なくとも1個のイオンミラーを有し、イオンパケットのイオンを質量電荷比で分離する多重反射型飛行時間分析計と、分離されたイオンを受け取るイオンレシーバと、前記イオン源と前記イオンレシーバの間に配置された少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースとを有し、前記少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースは、湾曲した軸を有する少なくとも1個の静電気セクタを有する。
【0047】
本発明の以上その他の特徴、利点及び目的は、以下の明細書、特許請求の範囲及び添付図面を参照することにより当業者によって更に理解され評価されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
前に詳述したように、多重反射型平面飛行時間分析計は、高分解能で全質量範囲の測定を行うように設計される。この多重型反射平面飛行時間分析計は、イオントラップパルス化コンバータとの組み合わせにおいて特に魅力的である。しかしながら、平面MR TOF MSの分解能は、主に、イオンミラーのエッジを迂回したイオン注入によって制限される。第2の限定要因は、特にイオントラップコンバータを使用する場合におけるイオン源内のイオンパケットの位相空間である。
【0049】
図1Aに、先行技術の平面MR TOF MSを示す。平面MR TOF分析計11は、2本の細長い平面グリッド無しイオンミラー12と1群の周期的レンズ14を備える。イオンは、ミラー12により周期的に反射され、ジグソー経路に沿ってミラー間で移動する。ミラーへのイオンの入射角(「ドリフト角」)は、一般に、約1度である。レンズ14は、イオンを再収束し、それによりイオンを1度傾いた中央経路に沿って閉じ込める。小さいドリフト角により、分析計の物理長に対する飛行経路の長さを大幅に長くすることができ、ドリフト角が1度のときその比は50に達する。イオンミラーとレンズの設計の詳細は、PCT国際公開番号WO2005/001878 A3に記載されている。イオンは、分析計を一方向に通過した後、デフレクタ15によって再び分析計内に戻される。小さな角度(例えば、2度)の偏向により、イオンドリフトの方向が逆になり、従って全質量範囲を維持しながらイオン飛行経路が2倍になる。必要に応じて、レンズ16を偏向モードに切り換えてイオンを分析計にもう一度戻すことができる。これにより、受入れ質量範囲の縮小を犠牲にして分析計の飛行経路と分解能を大幅に高めることができる(「ズームモード」)。
【0050】
図1Aを参照すると、代表的な先行技術の平面MR TOF MSは、外部に配置されたパルス化イオン源17と外部イオン検出器18を備える。外部イオン源からMR TOF分析計へのイオン注入と、外部検出器上へのイオン射出は両方とも、重大な欠点をもたらす。その欠点は、イオンが、イオンミラー12のエッジ即ち「フリンジング(fringing)」静電界の領域13を通ることである。これらのフリンジング電界は、イオンミラーのエッジの近くに現われ、ミラー内部の二次元平面電界と異なる三次元構造を有する。三次元電界の収束と飛行時間特性は、二次元電界のものと異なる。フリンジング電界は、イオンの動きを乱し、必然的にイオン束を広げ、従って分析計の質量分解能を大幅に低下させる。
【0051】
また、イオン源の位置が外部にあることには別の欠点があり、それは、イオンが、イオン源から分析計まで長いドリフト空間を通らなければならないことである。この場合、イオン源17の後の第1時間焦点(primary time focus)の位置19は、(イオンミラー12とイオンミラー12の中間の)最適位置20からはるか遠くに生じる。長いドリフト空間を補償するために、MR TOF分析計変更のチューニングは変化し、このため、分析計の性能が低下し質量ズームモードのチューニングが複雑になる。
【0052】
図1Bを参照すると、イオン入射角を約10度に大きくすることによってフリンジング電界の問題をある程度解決することができる。イオンは、ミラーのエッジの遠くから注入される。しかしながら、この場合、例えばデフレクタ16によって、分析計内でイオンをステアリングしてドリフト角に戻さなければならない。イオンの偏向により、イオン束を横切るタイムフロントが傾斜し、従って分析計の分解能がかなり低下することになる。ビーム幅が1mmでステアリングが10度の場合、タイムフロントの傾きは0.15mmになる。MR TOF MS内の飛行経路が30mの場合、ステアリングだけで分解能が10,000に制限されることになる。また、そのような大きい角度の注入は、第1時間焦点19の位置が望ましい位置20から遠くにある問題を解決しない。
【0053】
図1Cを参照すると、代替の注入方式では、パルス化イオン源17と検出器18をイオンミラー12間の無電界空間に挿入することができる。これにより、エッジ電界の問題が解決され、第1時間焦点の位置をその望ましい位置に近づけることができる。しかしながら、この場合も、たとえイオン検出器と特にイオン源の物理寸法が妥当であっても、イオンを斜めに注入し、その後イオンの向きを変えることが必要になる。分析計とイオン源のサイズにより、標準的なステアリング角を約2〜3度に小さくすることができる。そのようなイオンステアリングによっても、分解能が50,000程度に制限される。
【0054】
ステアリングは、かなり大きいドリフト角を使用すれば回避することができる。しかしながら、そうすると、分析計の物理長に対する飛行経路の節約がかなり小さくなる。また、エッジ偏向(デフレクタ15)を利用する場合は、偏向の段階で同じ収差が検出されることになる。通常、飛行経路でのゲインは、注入収差の影響より重要であり、従って、大きな角度で注入することは最適な解決策とは考えられない。
【0055】
要するに、先行技術の平面MR TOF MSへのイオン注入は、複数の飛行時間収差を引き起こす。それらの収差は、二次元イオンミラーのフリンジング(エッジ)電界内を通ること、又はイオンを中央軌道に沿って導くのに必要なイオン偏向と関連する。
【0056】
本発明者らは、湾曲したイオン軸を有する等時性イオンインタフェース(「湾曲インタフェース」とも呼ぶ)を使用すると平面MR TOF MSの分解能を改善できることに気がついた。本発明は、等時性で且つMR TOF MS内へのイオン移送とMR TOF MSからのイオン移送に適合した幾つかの偏向システムを提案する。そのようなシステムは、2つの大きな限定要因(注入収差とイオン源条件)の影響を少なくすることによって、MR TOF MSの分解能を改善することができる。イオンがエッジとイオンミラーのフリンジング電界を迂回して通されるので、注入収差は減少する。インタフェース内でエネルギーをフィルタリングすることによって、イオン源条件を緩和することができる。本発明の装置は、フリンジング電界の影響を回避するのに十分な距離だけミラーエッジから離れた位置でイオンパケットがイオンミラー間に注入されるように構成されることが好ましい。最小距離は、注入角、ビーム幅、及び必要分解能によって決まる。ミラー窓のサイズに対する距離の比は、少なくとも約0.5〜1、好ましくは1〜1.5、更に好ましくは1.5〜2である。注入角は、5度より小さく、好ましくは3度より小さく、より好ましくは1度より小さいことが好ましい。後述するように、望ましい位置と角度でイオンパケットを注入するためにインタフェースを設ける。
【0057】
湾曲インタフェースと平面MR TOF MSを組み合わせたシステムは、どちらか一方の個別システムだけよりも相乗的に有利と考えられる。TOF MS分析計として湾曲インタフェースだけを使用する場合は、それにより分析計の分解能又はアクセプタンス(acceptance)が制限されることになる。組み合わせたシステムは、より高次の飛行時間収束を提供する。湾曲インタフェースの大きい空間アクセプタンスを使用する場合でも、その影響は少ないことが分かっており、平面MR TOF分析計への従来のイオン導入の収差より小さい。
【0058】
本発明の第1の様相によれば、イオンをイオンミラーのエッジを迂回して分析計に入れ分析計から取り出すために、湾曲したイオン軸を有する等時性インタフェースが平面MR TOF分析計と組み合わせて使用される。
【0059】
好ましい実施形態では、インタフェースは、イオンミラーのエッジとフリンジング電界を迂回してイオンを通すためにMR TOF分析計構造に組み込まれる。インタフェースは、イオンをイオンミラーの長辺又は短辺を迂回して通すように、様々な平面に向けることができることに注意されたい。
【0060】
必要に応じて、インタフェースはパルス動作される。例えば、イオンが、インタフェースのある一定電圧設定で注入され、次にインタフェースの少なくとも1つの電圧が、MR−TOF分析計内のイオン分離のために遮断される。
【0061】
発明者らは、時間及び空間収束装置であるという理由でMR−TOF MS分析計に適合する幾つかの湾曲インタフェースを発見した。平面MR TOF分析計の分解能を低下させないために、湾曲インタフェースは、少なくとも空間等時性でなければならない。換言すると、イオンパケットの空間及び角度広がりにより、少なくとも線形近似において時間広がりが生じてはならない。
【0062】
線形及び二次単位エネルギー時間収差は、MR TOF分析計自体で補償することができるので、別のエネルギー等時性機能(イオンエネルギーに関する飛行時間収束)は、望ましいが、湾曲インタフェースに必ずしも必要でない。更に、本明細書で使用されるとき、用語「等時性インタフェース」は、主に「空間等時性インタフェース」を意味する。
【0063】
湾曲イオンインタフェースは、デフレクタと静電気セクタで構成することができる。セクタ電界は、様々な対称形(円筒状、球状、環状)のものでよく、マツダプレート(Matsuda plate)(環状率(toroidal factor)の調整)並びに自由空間、スリット及びレンズによって補足することができる。図12Bに円筒状セクタの斜視図を示す。
【0064】
空間等時性静電気セクタシステムの先行技術には、254度円筒状セクタ(フリンジング電界効果を考慮して270度)や前述のMULTUM装置内のセクタ電界の組み合わせ等の複数の例がある。しかしながら、発明者らが知る限り、これらのシステムは、飛行時間質量分析用、特に平面MR TOF分析計用のイオンミラーと組み合わせて使用されていなかった。更に、従来のセクタシステムの大部分は、イオンミラーのエッジを迂回したイオンの注入に不都合と考えられ、またセクタシステムのほとんどは、エネルギーフィルタリングスリットを取り付けるためのアクセスが不便である。本出願は、湾曲した軸を有する特定の新しく設計された等時性インタフェースの複数の例を含む。湾曲インタフェースの好ましい実施形態として、3個の円筒状セクタで構成されたC字形システムが設計され選択される。本出願は、また、デフレクタが2個と4個の注入システムの例と、アルファ形とオメガ形のセクタシステムの例を示す。様々な偏向角の等時性偏向を実現するために様々なセクタシステムが提案される。例えば、アルファ形とオメガ形システムは初期イオン方向を保持し、中間レンズを備えた2セクタシステムはビームを初期方位と実質的に垂直に偏向し、C字形インタフェースは初期イオン方向を逆にする。
【0065】
湾曲インタフェースは、主に、イオン源からMR TOF分析計へのイオン注入のために提案される。一般に、任意のフラグメンテーションセル又は別の質量分析計の出力を、MR TOF MSのパルス化イオン源と考えることができる。同様に、MR TOF分析計から、フラグメンテーションセルや別の質量分析段等の外部イオン検出器や他の外部装置にイオンを射出するために、湾曲インタフェースを使用することができる。入力インタフェースと出力インタフェースの組み合わせを使用することができる。
【0066】
本発明は、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)、遅延抽出を含むMALDI、パルス電子衝撃イオン化、SIMS等の複数の本質的にパルス化されたイオン源と適合する。本発明は、また、半径方向と軸方向のイオン射出を有する直交加速器(OA)や様々なイオントラップ等の複数のパルスコンバータに適する。円筒状セクタは、OAや線形イオントラップ(LIT)等の長いコンバータの場合に細長いイオンパケットを通すのに適している。
【0067】
本発明は、特に、イオントラップコンバータを備えたMR TOF MSに適している。イオントラップは、まばらなTOFパルスの間にイオンを蓄積し続け、それにより感度が改善される。しかしながら、イオントラップ内の空間及び速度広がり等の初期イオンパラメータが悪いと、MR TOF MSの分解能が制限される。
【0068】
本発明の第2の様相によれば、平面多重反射型TOF質量分析計の前又は後のエネルギーフィルタリングのための湾曲イオン軸を有する等時性インタフェースが提案される。インタフェース内に意図的に導入されたエネルギーフィルタリングによって、特に時間広がりとエネルギー広がりについて妥協したイオン源についてイオンパケット特性が改善される。個別の湾曲インタフェースの詳細を示しながらエネルギーフィルタリング性能について検討する。
【0069】
インタフェースは、主にエネルギーフィルタリングスリットのために好都合な場所を決定するか、小型パッケージ内で好都合な偏向角を達成するために、複数の偏向要素に分割されることが好ましい。スリットの望ましい場所は、イオン空間クロスオーバと十分なエネルギー広がりによって特性付けられる平面内である。スリットは、固定されていても調整可能でもよい。エネルギーフィルタリングを改善するために、外部又は内蔵の空間収束レンズを使用して空間クロスオーバの平面を調整することができる。
【0070】
一実施形態では、湾曲インタフェースを外部に配置して、エネルギーフィルタリング機能だけを追加することができる。インタフェースは、ミラーエッジを迂回するようにMR TOF分析計構造に組み込まれることが好ましい。
【0071】
ある組のイオン源では、自然に生じるエネルギー広がりが、好ましくない条件で大きくなり過ぎることがあり、高分解能の測定を可能にするにはそのエネルギー広がりをフィルタリングしなければならない。エネルギーフィルタリングは、パルス電子衝撃、MALDIと遅延抽出MALDI、SIMS、LIMS等のパルス化イオン源を改善するはずである。
【0072】
別の組のイオン源では、固有エネルギー広がりが適度である。しかしながら、いわゆる往復時間を短くするためにより強力な加速電界を印加することが好ましい。インタフェース内でエネルギーがフィルタリングされるので、強力な加速電界の印加と関連したエネルギー広がりの増大は問題でなくなる。この改善は、軸方向と半径方向のパルス化イオン抽出を有するイオントラップや直交加速器(OA)等のイオンパルス化コンバータに望ましい。
【0073】
エネルギーフィルタリングの利点は、特にイオントラップ源を使用するときに明らかになる。イオントラップ源は、主にイオンパケットの位相空間が大きいので、TOF MSのパルス化コンバータとして現在受入れられていない。イオントラップからのイオンは、直交加速器からのイオンよりかなり高温である。本発明の等時性インタフェース内のエネルギーフィルタリングは、イオントラップから射出されたイオンパケットのパラメータを改善することができ、それによりトラップコンバータがMR TOFにとって更に魅力的になる。簡単な方法は、往復時間を短くするために抽出電界の強さを高めることである。
【0074】
本発明の第3の様相によれば、イオントラップ後のイオンパケットパラメータを改善するために、イオントラップからの遅延抽出が、湾曲イオン経路を有する空間等時性インタフェース内のエネルギーフィルタリング及び任意のTOF分析計内の引き続く質量分析と組み合わされる。TOF分析計は、エネルギーフィルタにおける飛行時間収差を補償するように最適化されることが好ましい。
【0075】
好ましい実施形態は、直線イオントラップ、円筒状静電気セクタ、及びドリフト空間内に1組の周期的レンズを有する平面MR TOF分析計を有する。好ましくは、トラップの向きは、MR TOF内のジグソーイオン軌道の平面を横切るように向けられる。トラップ上のRF信号を遮断した後の所定の遅延(マイクロ秒タイムスケール)後に抽出パルスが印加される。遅延中のイオン拡張は、初期イオンパラメータ(TOF方向のイオン位置と速度)と関連付けられる。無相関な速度広がりは減少するが、抽出したイオンパケットのエネルギー広がりは大きくなる。エネルギーフィルタリングの後で過剰なエネルギー広がりが除去され、MR TOF MS内において高分解質量測定が可能となる。1つの特定の実施形態では、RF信号及びパルスが、トラップの別々の電極に印加される。
【0076】
また、エネルギーフィルタリングによって、蓄積時間が短くなり(イオン減衰が完了しないとき)、(パルス化抽出時のイオン散乱と低エネルギーイオンの「ハロー(halo)」を引き起こす)イオントラップコンバータ内で高いガス圧を使用できるようになる。これらの両方の手段により、装置の繰返し率とダイナミックレンジを改善することができる。エネルギーフィルタリングは、また、装置がイオン源のばらつきの影響を受けないようにし、即ちイオン源と分析計の特性が分離する。
【0077】
本発明の第4の様相によれば、飛行時間質量分析計は、少なくとも1個の空間等時性静電気セクタと少なくとも1個のイオンミラーを備える。その結果、イオンミラーは、イオンエネルギーに関して少なくとも二次までの飛行時間収差を補償することになる。少なくとも1個のミラーはグリッドがなく、またイオンパケットの空間広がりと関係した少なくとも1個の二次セクタの収差を補償するように調整可能であることが好ましい。この組み合わせは、高い性能と設計の柔軟性を特徴とする新しいクラスの飛行時間分析計を構成する。
【0078】
静電気セクタ装置自体は、原則として、線形近似でのみエネルギー及び空間等時性装置であることが重要である。二次収差は、高分解能が必要なときにセクタ装置のアクセプタンスに制限を加える。しかしながら、セクタが、グリッド無しイオンミラーと組み合わされると、空間広がりとイオンエネルギーに関して二次飛行時間収差のない複合(ハイブリッド)システムを設計することができる。ミラーは、セクタ内で二次飛行時間収差を補償することができ、更に三次飛行時間収差を少なくとも部分的に補償することができる。換言すると、複合(ハイブリッド)TOFの飛行時間分解能、エネルギーアクセプタンス、及び空間アクセプタンスを含む全体的性能は、平面MR TOF MSの性能に匹敵することができる。同時に、湾曲セクタは、システム設計のフレキシビリティ並びに容易なイオン導入とエネルギーフィルタリング機能という前記に強調した利点を提供する。
【0079】
また、静電気セクタとグリッド無しイオンミラーの組み合わせは、高次空間収束を実現しまた無収差画像形成を達成できることが重要である。そのような特徴は、飛行時間質量分析を画像化するために重要であり、また、イオンが小さいアパーチャを通して送られるタンデム質量分析計の設計に役立つ。
【0080】
好ましい実施形態では、少なくとも1個のC字形及び円筒状インタフェースが、平面状のグリッド無しイオンミラーの間でイオンを移送するために使用される。しかしながら、新しいタイプの複合(ハイブリッド)分析計は、特定のタイプの静電気セクタや平面タイプのイオンミラーによって限定されない。
【0081】
この好ましい実施形態は、幾つかの特定の実施形態の例で実証される。1つの特定の実施形態では、多層組立体に組み込まれた少なくとも2台の平行なMR TOF分析計の間でイオンを移送するために、空間等時性セクタインタフェースが使用される。等時性セクタが、層の間でイオンを通すために使用される。別の特定の実施形態では、積み重ねられた2個の平行イオンミラーの間でイオンを通すために、合計180度の偏向を有する等時性円筒状セクタが提案される。その構成は、イオンの平面イオンミラーへの導入及び平面イオンミラーからの導出を可能にする。
【0082】
特定の実施形態は両方とも、真空チャンバサイズ当たりのイオン経路を最大にする。同じ電極に複数の窓を機械加工で形成することによって、複数の平行なミラーを都合よく且つ安価に作成することができる。セクタは、円筒状に作成されることが好ましく、ドリフト方向のイオン閉込めは、周期的レンズ内に実現される。
【0083】
等時性セクタとイオンミラーを使用して複数のシステムを合成することができる。平面MR TOF MS内のイオンドリフト運動方向を逆にするためにセクタを使用することができる。セクタを使用して、(パルス化及び静的に動作される)異なる分析計の間でイオンを移送することができる。タンデム質量分光分析に、空間収束及び等時性複合(ハイブリッド)システムを使用することができる。強いイオン収束は、イオン源の小型アパーチャ、フラグメンテーションセル及び第2段階の質量分析計との間のイオン移送に役立つと考えられる。円筒対象性と平面対称性の両方のイオンミラーが使用可能である。
【0084】
更に本発明は、少なくとも1台の平面MR TOF分析計を利用するタンデム装置内で湾曲された等時性インタフェースを使用する複数の方法を開示する。
【0085】
1つの特定の実施形態では、湾曲インタフェースは、平面MR TOF分析計とその後のCIDセルの間に配置される。湾曲インタフェースは、MR TOF分析計からのイオンサンプリングを便利にし、またセルの入口でイオンエネルギーを調整して細分度(degree of fragmentation)を調節するために使用される。本発明は、Anatoli Verentchikovによって2005年1月11日に出願され本出願と同一の者に譲渡された米国特許出願公開第2005/0242279 A1に記載されたタンデムTOF−TOF等のいわゆる全親イオンの並列分析によるタンデムTOF−TOFに適用可能であり、この特許出願の開示全体を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0086】
別の特定の実施形態では、イオントラップ源は、フラグメンテーションセルとしても働く。2004年6月18日にAnatoli Verentchikovらによって出願され本出願と同一の者に譲渡されたPCT国際公開番号WO2005/001878 A3に記載されているように、同じMR TOF分析計が、親イオン選択とフラグメントイオンの質量分析の両方に使用されている。この開示全体を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。トラップとMR TOF分析計の間の湾曲インタフェースは、複数の機能を持つ。これにより、イオンパケットの特性が改善され、イオンを都合よくMR TOF分析計に入れMR TOF分析計から出すことが可能になり、またフラグメンテーション段階でイオンエネルギーが調整される。
【0087】
本発明の全ての様相は、TOF−TOF、IT MS−TOF、Q−TOF等の他のタンデム質量分析計に適用可能である。また、本発明は、クロマトグラフィーや電気泳動等の前段の様々な分離方法と組み合わせて使用可能である((LC−TOF、CE−TOF及び多段分離(オンライン及びオフライン))。
【0088】
図2を参照すると、MR TOF MSの性能を改善するために、発明者らは、イオンミラー12のエッジを迂回してイオンを通すために、湾曲イオン経路を有する等時性イオン移送インタフェースを使用するものである。本発明の第1の様相によれば、好ましい実施形態は、パルス化イオン源17、湾曲イオン経路を有する等時性イオン移送インタフェース21、及び周期的レンズ14を有する平面MR TOF分析計11等の相互接続された要素を有する。インタフェース21は、イオン源17から出るイオンを経路22に沿って移送し、そのイオンを経路23に沿ってドリフト角でMR TOF分析計11のイオンミラー12の間の空間に注入する。インタフェースは、イオンがイオンミラー12のエッジ静電界のエッジ領域13を迂回して通るのを助ける。分析計の分解能を低下させないために、インタフェースは、少なくとも空間等時性になるように設計される。
【0089】
次に、図2を参照して、用語「空間等時性」について説明する。パルス化イオン源17から同じエネルギーで出て「基準面」24を横切るイオンを検討する。イオンは、或る程度の横断方向の空間広がりと角度広がりを有する。イオントラップコンバータの場合、そのような基準面は、中央イオン経路と垂直である。OAコンバータの場合、その基準面は、連続イオンビームの方向と平行であり、従って中央イオン経路に対して傾けられている。インタフェースは、基準面24から「等時性面」25までの(特定のイオンエネルギーについての)飛行時間が、基準面での初期の横断方向座標と角度に少なくとも線形近似で依存しない場合に、空間等時性と呼ばれる。
【0090】
MR TOFの要件を満たすために、等時性面25は、イオンミラー12の間に配置され、好ましくはミラーと平行でなければならない。従って、そのような等時性面は、MR TOF分析計のドリフト角により、中央イオン経路23の方向に対して傾けられなけばならない。換言すると、インタフェースは必ずしも「アクロマチック」とは限らない
【0091】
インタフェースはエネルギー等時性であるがことが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。即ち、インタフェース21の前にある第1時間焦点26は、インタフェースの後ろの点27に再び収束される。出口時間焦点(exit time focus)は、イオンミラー12の中間の最適位置の近くにあることが好ましい。MR TOF分析計のイオンミラーをチューニングすることによって焦点を調整することができるので、焦点の正確な位置合わせは不要である。同様に、イオンミラーの調整により、インタフェースの二次単位エネルギー時間収差(second order time per energy aberration)と、図面に垂直な平面内の二次空間収差を補償することができる。
【0092】
イオンミラーの長辺又は短辺を迂回するように、インタフェースを様々な平面内に向けることができることに注意されたい。イオンミラーの短辺を迂回する場合、軌道変位は最小であるが、インタフェース自体の物理幅が問題になるであろう。必要に応じてインタフェースはパルス式に操作される。例えば、イオンは、インタフェースのある一定電圧設定で注入され、次にインタフェースの少なくとも1つの電圧が、MR−TOF分析計内のイオン分離のために遮断される。
【0093】
図3Aを参照すると、本発明の第1の様相によれば、等時性インタフェースを備えたMR TOF MSの好ましい実施形態は、周期的イオンレンズ14を備えたMR TOF分析計11、外部に配置されたパルス化イオン源17、イオン検出器18、及び2個の同一の湾曲等時性イオンインタフェース31及び32を有する。各インタフェースは、ドリフト空間によって分離された3台の円筒状の静電気セクタ分析装置を有し、その2台は45度の分析計(33)であり、1台は90度の分析計(34)である。インタフェースのイオン光学要素とその設計の詳細については後述する。インタフェースは、イオンの空間広がり、発散及びエネルギー広がりに関する一次飛行時間収束を可能にする。インタフェースの幾何学的イオン収束は、二次元静電レンズ35によってチューニングされる。インタフェース31は、インタフェースの空間等時性面がイオンミラーと平行になるように、小さなドリフト角(約1度)でイオンを中央(平均)経路37に沿って分析計に注入することを可能にする。エネルギー等時性インタフェース31は、インタフェースの外側でその近傍に時間焦点36を形成する。
【0094】
動作において、パルス化イオン源17は、点19に時間焦点があるイオンパケットを生成する。パケットは、平面MR TOF 11内のイオンミラーの対称面に対して垂直に導かれる。インタフェース31は、イオンを空間等時的に移送する。等時性面は、後述する手段によってMR TOFの対称面と平行になるように調整される。イオンエネルギーに関する出口時間焦点36は、MR TOFを最適にチューニングするために対称面の近くにあることが好ましい。イオンは、イオンミラー12のエッジ及びフリンジング電界13を迂回して移送され、分析計11に注入される。偏向面を使用するので、円筒状インタフェースは小さい横断方向寸法を有する。例えば、インタフェース31と第1のレンズ軸との距離は1cmが妥当であり、これにより、入口レンズでイオンが偏向することなくイオンの通過が可能になる。先行技術と同じように、イオンは、周期的レンズ14の中心を通るように位置合わせされたジグソーイオン軌道に沿って通る。ドリフト方向は、最後(上側)のレンズ15内の小角度ステアリングによって逆にされ(ここでは上から下に)、イオンは、分析計を通され、出口等時性インタフェース32の方に向けられ、次に検出器18上に導かれる。その結果、湾曲インタフェース31及び32は、大きな時間収差を生じさせることなくイオンがミラーエッジのそばを通ることを可能にする。前に述べたように、セクタ電界で生じる二次収差のほとんどを、イオンミラー調整によって補償することができる。
【0095】
図3Bは、オメガ形に配列された4個の同一の静電気セクタ電界38を有する等時性インタフェースの別の実施形態を示す。静電気セクタ38(デフレクタとも呼ばれる)は、円筒状でも環状でもよい。対称的に配列された対のセクタ間のドリフト距離39は、MR TOF分析計へのイオン注入の都合に合わせて広い範囲で変化することができる。オメガ形構成の更に詳しい説明は後で行う。図3Bは、パルス化イオン源が分析計空間の外に配置され、イオン検出器がイオンミラーの間に配置された事例を示す。前の実施形態と同じように、図3Bの設計は、イオンミラー12のフリンジング電界13内をイオンが通るのを防ぎ、MR TOF MSの全体的な時間広がりを小さくする。
【0096】
湾曲イオン経路を有する上記のインタフェースは、エネルギーフィルタリングが可能である。等時性湾曲インタフェースのエネルギーフィルタリング機能は、本発明の別の第2の様相であると考えられる。インタフェース内の意図的に導入されたエネルギーフィルタリングは、特に時間広がりとエネルギー広がりについて妥協したイオン源の場合について、イオンパケットの特性を改善する。そのようなイオン光学特性について調べながら、個々の湾曲インタフェースのエネルギーフィルタリング機能について考察する。
【0097】
図4Aを参照して、180度偏向インタフェース(C字形インタフェースと呼ぶ)のイオン光学特性をより詳しく考察する。このインタフェースは、90度円筒状セクタ34の両側に対称的に配置された2個の45度円筒状セクタ33を有する。第1の45度セクタは、空間的な(即ち、座標と角度)エネルギー分散を作り出す。このエネルギー広がりは、図4Aでは、異なるエネルギーを有する3つのイオンビームの軌道で示されている。セクタ間のドリフト空間の長さは、異なるエネルギーのイオンビームが90度デフレクタの真中で平行になり、即ち角度的なエネルギー分散がそこで消えるように最適化される。例えば、全セクタ内のイオン偏向の半径が50mmのとき、検討されるドリフト距離は約36mmである。装置が対称的なので、インタフェースの真中でビームが平行になる場合(角度分散0)、イオン軌道は対称的になり、即ち、出射イオン軌道は、イオンエネルギーに依存しなくなる。これはまた、システムが空間的にアクロマチックであり、即ち座標又は角度方向の線形エネルギー広がりが生じないことを意味する。一般的なイオン光学(H.Wollnik, Optics of Charged Particles, Acad. Press, Orlando, 1987)から、空間的アクロマチックシステムでは、イオン中央経路と垂直な1対の平面の間、即ち装置の前にあるひとつの「基準」面とシステムからの出口にある別の「等時性」面の間の飛行時間は、線形近似では、初期のイオン座標及び角度に依存しないことが分かっている。これは、等時性面が中央(平均)イオン経路に垂直な空間等時性装置の定義である。
【0098】
セクタ電界が幾何学的収束を実現するので、特定のエネルギーのイオンについてイオンビームクロスオーバ42が、セクタ間のドリフト空間内に作成される。MR TOF分析計の標準的アクセプタンス(即ち、分析計によって受入れられる位相空間の広がり)の場合(偏向面で約2mmの幅と約0.4度の角度広がり)、ビームクロスオーバ位置は、実際に、初期の平行イオンビーム41の収束点と一致する。狭いスリットアパーチャ43を配置することによって、どのクロスオーバ位置42でもイオンのエネルギーフィルタリングを実行することができる。イオンビームの前述の位相空間では、50mmの偏向半径を有するC字形インタフェースは、約2%のエネルギー分解能を提供する。
【0099】
クロスオーバの位置を調整するためにインタフェースの前に二次元静電レンズ35が配置される。このレンズは、また、出力イオンビーム37を実質的に平行にするのに役立つ。このレンズの変動する励振は、一次においてはインタフェースの等時性特性を損なわない。
【0100】
前述のC字形状インタフェースは、円筒状であり、即ち二次元幾何学形状を有する。装置の奥行き(図面に対して垂直)は、イオン光学要件や平面MR TOF分析計の幾何学形状によって限定されない。インタフェースは、直角方向に細長いイオン束を受け入れることができる。長手方向がビーム偏向面に対して垂直なので、インタフェースのイオン光学特性が歪むことはない。これにより、インタフェースは、後述する直交加速器や線形イオントラップパルス化コンバータ等の様々な細長いイオン源と適合可能になる。
【0101】
図4Bは、C字形インタフェースの幾何学構成をより詳細に示す。各セクタのイオンの入口と出口は、「フリンジング電界遮蔽アパーチャ」44で終端する。必要に応じて、セクタの上側と下側は、いわゆる「マツダプレート」(図示せず)によって遮蔽される。遮蔽アパーチャ、マツダプレート、及びドリフト空間を取り囲むシールドにドリフト電位が印加される。
【0102】
図4Bは、また、初期平行イオンビームのタイムフロント(イオン軌道を横切る白線)の変化を示す。これらのフロントは、装置への入口ではイオン経路41に垂直であり、インタフェースの後ろではイオン経路37とほぼ直角である。より重要なことは、フロントが、検出器の平面とも一致する平面MR TOF分析計の対称軸と平行であり、そのためシステム全体が空間等時性になることである。
【0103】
幾何学形状が理想から少しずれているため、イオンフロントが傾斜することが予想される。イオン軌道とタイムフロントの傾きのわずかな調整を、次の方法で行うことができる。最後の45度デフレクタの電極の1つに追加の弱い電圧を加えるか、デフレクタの曲げ角を変化させることによって、図3Aに示したように、全偏向角を、例えば179度にわずかに変化させることができる。この事例で生じるタイムフロントの傾きは、マツダプレートの電位を少し変化させるか、円筒状セクタデフレクタの代わりに環状セクタデフレクタを利用することによって補償することができる。
【0104】
例えば、図4Cを参照すると、複数のインタフェースを使用することができ、例えば、その1つのインタフェースは、平面MR TOF分析計にイオンを注入し、別のインタフェースは、分析計からイオンを射出する。1つの特定の実施形態では、2個のC字形インタフェースは、図3Aに示したように「背中合わせ」に配置されるか、図4Cに示したようにイオン軌道が交差するように配置される。
【0105】
図5A〜図5Cは、静電気セクタで構成された他の幾つかのタイプの湾曲等時性インタフェースを示す。
【0106】
図5Aは、2つの円筒状セクタ電界を利用した180度偏向インタフェースの特定の実施形態を示す。(自動的に空間等時性になる)空間無色性(spatial achromaticity)を達成するために、1個の円筒状セクタ(51)は、偏向角24度を有し、他の円筒状セクタ(52)は偏向角156度を有する。図4A〜図4Cに示したインタフェースと同様に、セクタ間に単色イオンビームの空間クロスオーバ42がある。レンズ35を使用して、オプションのエネルギーフィルタリングスリット43の場所にクロスオーバ位置を調整することができる。セクタ51の偏向角が小さいので、図5Aのインタフェースのエネルギー分解能は、図4A〜図4Cのインタフェースの分解能の約2分の1である。
【0107】
図5Bは、オメガ(Ω)形に配置された4個のセクタで構成された等時性インタフェースの特定の実施形態を示す。1つの特定の事例において、インタフェースは、円筒状の4個の同一の135度セクタ38からなるが、マツダプレートを使用することによってわずかなトロイダル磁界が配置される。他の事例では、この角度は、ほぼ円筒状のセクタの環状率としてわずかに変化することができる。最も重要なことに、システムが、対称性を維持しなければならず、中間において角度分散が0でなければならないことである。出力イオンビーム軸は、入力軸と一致する。第1のセクタの前にあるレンズ53は、初期平行イオンビームのクロスオーバ面42を調整するために使用される。イオン伝送を最大にしエネルギーフィルタリングを最大にするために、クロスオーバ面は、インタフェースの中間のエネルギースリット43の位置と一致しなければならない。出力イオンビームは、レンズ54の助けにより実質的に平行にされる。
【0108】
図5Cは、90度偏向を有する更に別の等時性インタフェースの設計を示す。インタフェースは、また、対称的な幾何学形状を有し、2個の45度円筒状又は環状セクタ55と、これらのセクタ間に配置された2個のレンズ56を有する。レンズは、2個のセクタの中間で角度エネルギー分散がなくなるようにチューニングされる。セクタ間の距離は、単色イオンビームクロスオーバ位置42が、セクタ間の中間にあり、エネルギーフィルタリングスリット43の位置と一致するように選択される。
【0109】
前述のインタフェースは、全体的な偏向角を調整する機能を示す。図5Bのオメガ形インタフェースは、最初のイオン方向を維持する。図4A〜図4CのC字形インタフェースと図5Aのインタフェースは、ビーム軸をずらし、ビームを180度偏向させる。図5Cのインタフェースは、全体で90度曲げる。等時性特性を維持しながらインタフェースの他の偏向角が可能である。正確な偏向角は、C字形インタフェースの例で述べたように微調整することができる。全体として、様々な解決策によって、MR TOF MS全体や他の複合(ハイブリッド)システムのフレキシブルな幾何学的設計が可能になる。
【0110】
検討したインタフェースの例は、MR TOF MSに適用される等時性湾曲インタフェースの次のような幾つかの一般的な利点を示す。
・インタフェースは、イオンパケットを最小空間歪みで移送することができる。これらのインタフェースは、平行ビームをほぼ同じサイズを有する実質的に平行なビームに変換する。ビームをインタフェース内で何度も収束させることができ、これは、イオンビーム閉込めに役立つ。
・インタフェースのアクセプタンスは、MR TOF分析計のアクセプタンス以上であり、即ち、インタフェースは装置全体のアクセプタンスを制限しない。
・後述するように、インタフェースは、イオンビーム収束のわずかな調整、イオンビームステアリング、及びタイムフロントの傾斜に使用することができる。
・インタフェースは、差動ポンピングの理想的なレストリクタとして働く。長いチャネルは、口径(caliber)の数に比例してガスフローを制限する。例えば、幅1cmのギャップと20cmのイオン経路を有するセクタは、ガスフローを50μmスリットと同じように制限する。
・インタフェースは、通常、エネルギーフィルタリングが可能である。
【0111】
図6Aを参照すると、MR TOF分析計にイオンビームを注入するための湾曲軸を有する等時性インタフェースは、セクタデフレクタの代わりに平面デフレクタ、好ましくは対称配置された4つの平面デフレクタ61を使用して設計することができる。各デフレクタは、偏向電界を作成する1対の平行平面電極と、偏向電極の両側の2対の遮蔽電極とからなる。図6Aは、また、偏向電界の等電位線を示す。偏向方式は、図5Bのオメガ形インタフェースの偏向方式と多少類似している。プレートシステムの方が機械的に単純に見えるが、そのイオン光学特性は低い。平面デフレクタの幾何学的寸法は、約20度より大きい角度への偏向を防ぐ。このため、デフレクタ構成内に作成された空間分散は低すぎて、効率的なエネルギーフィルタリングを提供することができない。また、ビーム変位が限定され、二次収差が高く、この方式はセクタ分析装置より好ましくない。
【0112】
図6Bと図6Cを参照すると、プレートインタフェースによるイオンビーム注入を2つの方法で行なうことができる。1つの方法において、インタフェースの偏向面は、MR TOF分析計内のジグソーイオン運動のXZ平面と一致する(図6B)。別の方法では、インタフェースの偏向面XYは、XZ面と垂直である(図6C)。後者の方法の方が、必要なイオンビームの変位が小さいが、デフレクタ自体の幅と関連した別の問題が発生する。これは、インタフェースのパルス化動作が役立つよい例である。イオンは、ある一定電圧で注入され、次に分析計内の最後のデフレクタが、MR−TOF分析計内のイオン分離のために遮断される。
【0113】
図7Aと図7Bを参照すると、湾曲イオンビーム軸を有する等時性インタフェースは、イオンミラーのエッジを迂回して通るイオンに必ずしも使用されない。このインタフェースは、パルス化イオン源によって作り出されたイオンエネルギー広がりをフィルタリングするために単独で使用されることがある。後で検討するように、そのようなフィルタリングは、MR TOF分解能の低下なしにイオン源内の往復時間を短縮することができる。エネルギーフィルタリングには、図4Aから図4Cと図5Aから図5Cに示したような複数のインタフェース形状が適している。図7Aと図7Bは、2種類の等時性インタフェースとフィルタリングインタフェースを示し、これらのインタフェースは、また、イオンビームの初期方向を維持するように設計されている。図7Aにオメガ形フィルタが示され、図7Bにはアルファ形フィルタが示されている。
【0114】
図7Aと図7Bを再び参照すると、インタフェースの意図的に導入されたエネルギーフィルタリング特性は、特に時間広がりとエネルギー広がりについて妥協したイオン源のイオンパケットの特性を改善するために使用される。
【0115】
あるグループのイオン源(図示せず)では、自然に生じるエネルギー広がりは、好ましくない条件で大きくなり過ぎる場合がある。例えば、電子イオン化(EI)源からのパルス化イオン抽出が、より幅広い電子ビームを使用するときにエネルギー広がりを大きくする場合がある。マトリックス支援レーザ脱離(MALDI)イオン源では、イオンエネルギーの不足は、イオンとマトリックスの衝突に依存し、これは、レーザエネルギーのわずかなばらつきとマトリックス結晶化に大きく依存する。レーザイオン化源の特徴は、プラズマ形成と過度のエネルギー広がりである。過度のエネルギー広がりは、MR TOF MS内の高分解能測定を可能にするために、フィルタリングされなければならない。
【0116】
別のグループのイオン源では、固有エネルギー広がりが適度である。しかしながら、いわゆる往復時間を改善するためにより強力な加速電界が印加されることがあり、関連するエネルギー広がりの増大は、インタフェース内でフィルタリングされる。そのような改善は、直交加速器(OA)ようなイオンパルス化コンバータと、特に軸方向と半径方向のパルス化イオン抽出を有するイオントラップに望ましい。コンバータは、エレクトロスプレー(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧フォトイオン化(APPI)、電子衝撃(EI)、化学イオン化(CI)、誘導結合プラズマ(ICP)、及び衝突減衰を有するマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)を含む広範囲な連続又は準連続イオン源に使用することができる。コンバータは、また、タンデム質量分析計の任意のフラグメンテーションセル、特にガス充填フラグメンテーションセルの後でイオンパルスの形成を可能にする。
【0117】
図8Aと図8Bを参照すると、直交加速器81の2つの概略側面図が示されている。連続的又は準連続的イオンビームは、イオン源82から来る。直交加速器はコールドイオンビームで動作することが好ましい。そのようなイオンビームは、イオン源82のイオンガイド内での衝突冷却後に作成される。次に、ビーム83は、イオン光学システム84内で拡張されてイオンビーム発散が小さくなる。スリット85でビームのかなりの部分(通常2/3)を削除した後、イオンビームの位相空間を、イオンエネルギー10〜30eVで約1度x1mmに縮小する。ほぼ平行なイオンビーム86が、プッシュプレート88とイオン抽出用の窓を備えた電極89との間に形成された無電界ギャップ87に適度なエネルギーで導入される。周期的に、ゆっくり通過するイオン86が、プッシュプレートに印加される少なくとも1つのパルス88aによって直角方向に射出される。イオンパケット90は、初期イオンビーム86の方向と平行を維持しながら直流加速段階から射出される。
【0118】
図8Bを参照すると、イオンビーム冷却(イオンビーム拡張とスリット上のビームのスキミングによって行われる)にもかかわらず、TOF分解能は、イオンビームの初期パラメータ(加速器ギャップ87を横切る速度広がりΔVと空間広がりΔX)によって制限される。加速後のイオンパケット90の往復時間ΔTとエネルギー広がりΔkは、ΔT=ΔVm/EeとΔk=ΔxEとして定義され、ここで、Eは加速電界の強さである。通常、イオンエネルギー広がりは、加速電界の強さに制限を課すTOF MSのエネルギー許容範囲より低く調整される。本発明のエネルギーフィルタを使用するとき、過度のエネルギー広がりは重要な問題でなくなり、より強い加速電界Eを印加することにより往復時間を改善することができる。
【0119】
図9は、別のパルス化コンバータ、即ち軸方向イオン射出91を有する線形イオントラップの例を示し、この線形イオントラップは、Kozlovら、ASMS 2005 (www.asms.org)に記載されている。トラップは、ガス充填イオンガイド93内に配置される。半径方向のイオン閉込めは、ガイド93の主要部分と小さな出口部分95内に高周波(RF)電界を形成することによって行われる。イオンガイドの出口近くでイオンをトラップするために軸方向の直流ウェルが配置される。グラフ97に示した直流プロファイルは、出口アパーチャ96に減速電位を印加し更にイオンガイドの小さい部分95に吸引直流電位を印加することにより形成される。
【0120】
イオンは、イオンガイド軸に沿って注入される。ガイドは、1〜3ミリ秒時間以内での直流ウェル内のイオンのイオン減衰とトラッピングを保証する1〜3mTorrのガス圧力で動作する。注入とトラッピングがほぼ100%の効率で行われる。完全にイオンが減衰した後、ビームサイズは1mm以下になる。イオンを抽出するためにパルス化電界が印加される。均一な抽出電界を形成するために、プッシュパルスがプッシュリング94に印加され、それより小さいプルパルスが出口アパーチャ96に印加される。代替として、トラッピング電界と抽出電界は両方とも、ロッド間を貫通する電界を有する補助電極を使用して形成される。
【0121】
どのタイプのイオントラップでも同じように、イオン雲は、少なくとも室温か又は室温より高温である。その結果、速度広がりは、OAより約3倍大きくなる。主にイオンパケットの位相空間が大きいため、イオントラップ源は、TOF MSのパルス化コンバータとして幅広く使用されていない。この場合も、本発明の等時性エネルギーフィルタリングを使用することによって状況を改善することができる。電界が強いほど往復時間を短くすることができ、過度のエネルギーが湾曲インタフェースによってフィルタリングされる。
【0122】
また、エネルギーフィルタリングは、蓄積時間を短くし(イオン減衰が完了しないとき)、(パルス化抽出の際のイオン散乱と低いエネルギーイオンの「ハロー」を引き起こす)イオントラップコンバータ内で使用するガス圧力を高くすることができる。両方の手段は、装置の繰返し率とダイナミックレンジの改善を可能にする。エネルギーフィルタリングは、また、装置のイオン源のばらつきへの依存を小さくし、即ちイオン源と分析計の特性を分離する。
【0123】
図10A〜図10Dは、イオンパルス化コンバータの更に別の例、即ち半径方向のイオン注入を有する直線イオントラップ101を示す。軸の近くに四重極電界を形成する平行プレート103、104及び105の間にRF信号を印加することによって、閉じ込め高周波電界が形成される。1つの特定の実施形態では、例えば側面プレート104だけに非対称RF電界を印加することができる。イオントラップの終端部分102に、減速直流電位(RF信号の他に)を印加することによって、長い直流ウェルが形成される(RF信号は同じで、直流オフセットが異なる)。トラップは、約1〜3mTorrガス圧力で満たされる。イオンは、軸に沿って注入され、最終的に(1〜3ミリ秒で)長い直流ウェル内に閉じ込められる。同様に、パルス電圧が上側プレート105と下側プレート103に印加されて、上側プレートのスリットからイオンが射出される。
【0124】
本発明の第3の様相によれば、トラップからの遅延抽出が、空間等時性インタフェース内のエネルギーフィルタリングとTOF分析計内のその後の質量分析と組み合わされる。半径方向と軸方向のイオン射出を有する線形イオントラップの前述の例を含む任意のタイプのイオントラップコンバータが使用可能である。イオンパケットは射出前に拡大する。無相関の往復時間は短くなり、同時に過度のエネルギー広がりはエネルギーフィルタで阻止される。
【0125】
再び図10A〜図10Dを参照すると、直線トラップは、特に本発明の第3の様相を実施するのに適しており、即ちトラップからの遅延イオン抽出とその後のエネルギーフィルタリングに適している。図10B〜図10Dに、電圧ダイナミクスの図を示す。RF信号は、イオンの注入と減衰時に側プレート104に印加される(図10B)。次に、例えばRF回路を共振状態でなくすことによって、RF信号は遮断するか素早く減少させる(図10C)。所定の遅延パルスの後で、パルス電圧が、上側プレート105と下側プレート103に印加されて、ほぼ均質な抽出電界が形成される(図10D)。イオンは、好ましくは二次元レンズ106によって終端するグリッド無し直流加速段内に射出される。次に、余分なエネルギーが、任意のエネルギー等時性フィルタ107でフィルタリングされ、移送されたイオンパケットは、TOF分析計108内で質量分離される。ひとつの特定の実施形態では、セクタ分析装置自体を飛行時間分析計として使用することができる。しかしながら、そのようなTOF分析計は、グリッド無しイオンミラー109を使用してエネルギーフィルタの二次空間収差とエネルギー収差を補償しなければならない。
【0126】
図11を参照すると、本発明の第3の様相の好ましい実施形態111は、遅延抽出を有する直線のイオントラップ112、C字形円形インタフェース113、及び平面MR TOF分析計116を有する。また、実施形態111は、オプションの第2の等時性インタフェース114と外部イオン検出器(レシーバ)115を有することができる。線形トラップ112の長辺は、MR TOF MS内のジグソーイオン軌道面を横切る方向に向けられている(図面に対して垂直)。トラップ上のRF信号が遮断された後の所定の遅延(マイクロ秒タイムスケール)後に抽出パルスが印加される。無相関の速度広がりが減少する。余分なエネルギーは、エネルギー分析計内でフィルタリングされる。イオンパケットは、周期的レンズを備えた平面MR TOF分析計のドリフト角と合わせるために僅かに傾けられた軌道117に沿って射出される。特定の実施形態では、イオンは、最後のレンズで反射される。これは、ドリフト運動を逆にし、分析計の飛行経路を2倍にする。MR TOF分析計内のタイムセパレーションの後で、イオンは、軌道118に沿って飛行し、インタフェース114を介して等時的に移送され、TOF検出器115にぶつかる。
【0127】
本発明の第4の様相によれば、湾曲イオン経路を有する少なくとも1個の空間等時性インタフェースが、平面多重反射型飛行時間分析計の異なる部分の間でイオンを移送するために使用される。高次飛行時間収束を損なうことなく静電気セクタとグリッド無しイオンミラーから幾つかのそのような複合(ハイブリッド)分析計を構成することができる。
【0128】
イオンミラーが平面でなくてもよく、また必ずしもイオンレンズを含まなくてもよいことに注意されたい。
【0129】
図12Aを参照すると、1つの特定の実施形態121では、2個の平行なイオンミラー(ひとつのミラー123が別のミラー124の上にある)の間でイオンを移送するために、180度偏向を有する等時性円筒状インタフェース122が提案される。この構成は、平面イオンミラー内のフリンジング電界から離れた位置でそのミラー内とミラー外へのイオンのアクセスを可能にする。下側ミラー124の反対側に例示的なイオン源126が示されている。
【0130】
図12Bは、同じ実施形態121の立体図を示し、この場合もMR TOF分析計の後ろ側にイオン検出器127が示されている。
【0131】
図13を参照すると、別の特定の実施形態131において、多層組立体に組み込まれた少なくとも2つの平行なMR TOF分析計133と134の間でイオンを移送するために、湾曲空間等時性インタフェース132が使用される。等時性湾曲インタフェースは、層間でイオンを通すために使用される。
【0132】
前述の実施形態は両方とも、単位真空チャンバサイズ当たりのイオン経路を最大にする。同じ電極内に複数の窓を機械加工することによって、複数の平行ミラーを好都合且つ低コストで作成することができる。
【0133】
等時性インタフェースを使用して、イオンドリフト運動(図示せず)の方向を逆にすることができる。これを使用して、パルス化及び静的に動作されている異なる分析計(図示せず)の間、或いはタンデム質量分析の複数の段(後述)の間でイオンを移送することができる。湾曲セクタは、製造及び位置合わせを簡単にするために円筒状に作成されることが好ましい。
【0134】
静電気セクタを利用するシステムが通常、第一次近似でのみエネルギー等時性であることは重要である。また、これらのシステムのほとんどは、線形近似でのみ空間等時性である。本発明は、任意の空間等時性セクタに関して、平面状のグリッド無しイオンミラー内で二次時間収差を補償することができるという事実に重点を置く。複合(ハイブリッド)システムの設計は、エネルギーに関する一次時間偏差を補償するというイオンミラーの能力を考慮するときに更にフレキシブルにすることができ、これによりセクタ電界設計の制限が緩和される。換言すると、セクタ電界が複合(ハイブリッド)システムのパラメータを損なうことはないと予想される。複合(ハイブリッド)TOFの飛行時間分解能、エネルギーアクセプタンス及び空間アクセプタンスを含む総合的性能は、平面MR TOF MSに匹敵することができる。同時に、湾曲セクタは、システム設計のフレキシビリティと、より容易なイオン導入とエネルギーフィルタリング機能という前記に強調した利点を提供する。円筒状セクタを使用するとき、複合(ハイブリッド)システムは、MR TOF分析計と同等の機械的複雑さを有すると考えられる。
【0135】
同様に、グリッド無しイオンミラーは、セクタ装置の二次クロマチック空間収差を補償することができる。
【0136】
更に、平面MR TOF分析計を利用したタンデム装置内で、湾曲した等時性インタフェースを複数の方法で使用することができる。
【0137】
図14を参照すると、1つの特定の実施形態において、タンデムMS−MS141は、連続的に相互接続された線形イオントラップパルス化コンバータ146、等時性湾曲インタフェース147、MR TOF MS分析計143、出口等時性イオンインタフェース142、CIDフラグメンテーションセル144、及び第2の質量分析計145を有する。両方の湾曲インタフェースは等時性であり、飛行時間分離を妨げない。MR TOFとインタフェースの組み合わせは、空間収束を提供し、CIDセルの入口アパーチャを通してのイオン伝送を支援する。両方のインタフェースは、また、分析計143と、イオン源146及びCIDセル144の中間真空段との間のガスフローを制限する制限チャネルとしても働く。出口インタフェース142は、また、CIDセルに入るイオンのエネルギーを調整し、その方法で細分度を調整するために使用される。第2の分析計145は、飛行時間分析計であることが好ましい。
【0138】
CIDセル144は、短く(数cm)作成され、比較的高いガス圧力(約50mTorr)に充填され、またイオンの軸方向の移送を加速する手段を有することが好ましい。そのようなセルは、数十マイクロ秒以下の迅速なイオン移送を可能にすることが分かっている。第1の平面MR TOF 143は、ミリ秒タイムスケールでの親イオンの延長されたタイムセパレーションを提供し、第2の高速TOF2分析計145は、マイクロ秒タイムスケールでのタイムセパレーションを提供する。そのような構成は、2005年1月11日にAnatoli Verentchikovによって出願され本出願と同一の者に譲渡された米国特許出願公開第2005/0242279 A1に開示されており、この特許は、いわゆる入れ子タイムスケールの形態を使用していわゆる平行TOF−TOF分析を構成している。この公開出願の開示全体を、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0139】
図15を参照すると、本発明のタンデムMS−MS 151の別の特定の実施形態において、イオントラップ源154は、フラグメンテーションセルとしても働く。親イオン選択とフラグメントイオンの質量分析の両方に同じMR TOF分析計153が使用される。トラップとMR TOF分析計の間の湾曲インタフェース152は、複数の機能を実行する。これにより、イオンパケットの特性が改善され、イオン移送が改善され、飛行時間分離が改善され、ガスフローが制限され、またフラグメンテーション段階でイオンエネルギーが調整される。
【0140】
動作において、イオン源からのイオンビームは、イオントラップコンバータ154内に蓄積され減衰される。トラップコンバータは、図9に説明したような軸方向のイオン射出を有するガス充填線形イオントラップであることが好ましい。補助電極に印加されたパルスが、トラップからイオンを射出する。イオンは、湾曲インタフェース152内を移送され、次に平面多重反射型TOF MS 153内で質量分離される。第1のサイクルで、イオンの動きは、イオン軌道156によって示されたような最後にレンズ155内で完全に逆にされる。イオンパケットは、分析計内を戻り、インタフェース152に入り、次に逆に矢印157で示されたようにセル154に入る。質量電荷比が所定の値であるイオン種を選択するためにイオン経路内のどこかにイオンセレクタ(図示せず)が使用される。そのイオン種だけがセルに戻される。望みのエネルギー範囲が、湾曲インタフェース内で選択される。選択されたイオンは、減速されイオントラップ154内に入れられる。イオントラップ154は、ここで、衝突誘起解離(CID)を有するガス充填フラグメンテーションセルとして働く。注入エネルギーが十分な場合、注入されたイオンは、フラグメントを含む1組の情報を構成する。フラグメントイオンは、次のガス衝突で減衰され、同じ分析計への二次注入のために準備される。この時、最後のデフレクタ155内の最大角度偏向を使用することによって、質量分離されたイオンはイオン検出器上に導かれる。フラグメントイオンのパケットは、出口インタフェース158から出て、検出器159にぶつかる。
【0141】
装置は、同じ分析計と同じトラップ/CIDセル内でタンデムMS分析を提供する。湾曲インタフェースは、MR TOF分析計に等時性イオンを効率よく導入し取り出すための便利な手段として働く。また、湾曲インタフェースは、ステージ間のガス流を制限するためにイオントラップ源の特性を改善する働きをし、更にイオン注入エネルギーを修正し、それによりイオン細分度を制御する働きをする。
【0142】
本発明の全ての様相は、クロマトグラフィーや電気泳動等の前段の様々な分離方法を有する複数のタンデム装置(LC−TOFやCE−TOF等)に適用可能である。他のタイプのタンデム装置は、Q−TOFやTOF−TOF等の二重質量分光測定システムである。
【0143】
以上の説明は、単に好ましい実施形態と考えられる。当業者及び本発明を作り又は使用するものであれば、本発明の変更を思いつくであろう。従って、図面に示し以上説明した実施形態は、単に例示のためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではなく、本発明の範囲は、均等論を含む特許法の原理に従って解釈される添付の特許請求の範囲によって定義される。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1A】先行技術の平面MR TOF MS内へのイオン注入の概略図である。
【図1B】先行技術の平面MR TOF MS内へのイオン注入の概略図である。
【図1C】先行技術の平面MR TOF MS内へのイオン注入の概略図である。
【図2】湾曲イオンインタフェースの支援による平面MR TOF分析計内へのイオン注入の概略図であり、図は、本発明の第1の様相の概略図を示す。
【図3A】イオンを平面MR TOF分析計に注入し平面MR TOF分析計から射出するために提案された本発明の等時性C字形インタフェースの1つの特定の実施形態を示す図である。
【図3B】イオンを平面MR TOF分析計に注入するために提案された本発明の等時性オメガ形インタフェースの別の特定の実施形態を示す図である。
【図4A】C字形セクタインタフェースのイオン光学機構とイオン軌道を示し、また本発明の第2の様相の湾曲インタフェースのエネルギーフィルタリング特性を説明するために使用される図である。
【図4B】C字形セクタインタフェースの幾何学的詳細を示す図である。
【図4C】交差構成で配置された2個のC字形インタフェースを有する特定の実施形態を示す図である。
【図5A】2個の異なる円筒形セクタで構成され180度の全イオン偏向を提供する等時性湾曲イオンインタフェースの特定の実施形態を示す図である。
【図5B】2つの対称部分が空間的に分離されたオメガ形等時性インタフェースの特定の実施形態を示す図である。
【図5C】2個の同一の円筒形セクタと2個のレンズで構成され、90度の全イオン偏向を提供する等時性湾曲イオンインタフェースの特定の実施形態を示す図である。
【図6A】対称的に配置された4個の電極デフレクタで構成された等時性インタフェースの概略図である。
【図6B】平面イオンミラーの短辺を迂回するイオンの概略図である。
【図6C】オプションのパルス化デフレクタ動作を有する平面イオンミラーの長辺を迂回するイオンの概略図である。
【図7A】平面MR TOF分析計の外部に配置されたオメガ形等時性エネルギーフィルタの実施形態を示す図である。
【図7B】平面MR TOF分析計の外部に配置されたアルファ形等時性エネルギーフィルタの実施形態を示す図である。
【図8A】直交加速器を備えたパルスコンバータの概略側面図である。
【図8B】別の側から示したOAコンバータの概略図である。 電極間ギャップの拡張とイオンビームパラメータの詳細を示す図である。
【図9】軸方向のイオン射出を有する線形イオントラップで構成されたイオンパルス化コンバータの概略図である。
【図10A】半径方向のイオン射出を有する直線イオントラップの概略側面図である。
【図10B】イオン蓄積及び冷却段階の図10Aの直線トラップを示す図である。
【図10C】RF電圧の切り換え又は低下段階の図10Aの直線トラップを示す図である。
【図10D】イオン射出段階の図10Aの直線トラップを示し、また本発明の第3の様相を示すブロック図である。
【図11】遅延抽出を有するイオントラップと、等時性C字形エネルギーフィルタと、周期的レンズを備えたMR TOF分析計を有する本発明の好ましい実施形態の概略図であり、この図は、本発明の第3の様相も示す。
【図12A】本発明の第4の様相を示す。この図はまた、湾曲した円筒形セクタインタフェースによって相互接続された2個の平面イオンミラーの特定の実施形態を示す図である。
【図12B】本発明の第4の様相を示す。この図はまた、湾曲した円筒形セクタインタフェースによって相互接続された2個の平面イオンミラーの特定の実施形態を示す図である。
【図13】湾曲した等時性インタフェースによって相互接続された2台の平面MR TOF分析計の概略図である。
【図14】親イオンを平面MR TOFセパレータにイオン注入し又平面MR TOFセパレータからイオン射出するために使用される湾曲インタフェースを備えたタンデムTOF−TOF装置の概略図である。
【図15】タンデムTOF−TOFの概略図であり、パルストラップコンバータが、フラグメンテーションセルとしても使用され、湾曲インタフェースが、イオントラップ/フラグメンテーションセルと平面MR TOF分析計の間のイオン等時性移送に使用される。
【符号の説明】
【0145】
11 TOF分析計
12 イオンミラー
13 エッジ領域
14 周期的レンズ
15 デフレクタ
16 デフレクタ
17 イオン源
18 検出器
21 インタフェース
22、23 経路
24 基準面
25 等時性面
26 第1時間焦点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重反射型飛行時間質量分析装置であって、
イオンパケットを生成するパルス化イオン源と、
イオンパケットのイオンを質量電荷比によって分離する平面多重反射型飛行時間分析計と、
分離されたイオンを受け取るイオンレシーバと、
前記イオン源と前記イオンレシーバの間に配置された少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースとを有し、
前記少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースは、湾曲した軸を有する多重反射型飛行時間質量分析装置。
【請求項2】
前記多重反射型飛行時間分析計は、グリッド無しイオンミラーを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記多重反射型飛行時間分析計は、無電界領域と、無電界領域内にありイオンビームをドリフト方向に周期的に再収束させるための少なくとも2個の収束レンズとを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記少なくとも1個のインタフェースは、アクロマチック(achromatic)である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記少なくとも1個のインタフェースは、前記多重反射型飛行時間分析計の対称面と前記イオンレシーバの平面の少なくとも一方の面と位置合わせされた等時性面を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
等時性面は、前記少なくとも1個のインタフェース内で調整可能な向きを有する、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1個のインタフェースは、エネルギー等時性である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記多重反射型飛行時間分析計は、前記インタフェース内で生じる少なくとも1つのタイプの二次飛行時間収差を補償する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記多重反射型飛行時間分析計は、前記インタフェース内で生じる少なくとも1つのタイプの空間収差を補償する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記少なくとも1個のインタフェースは、前記分析計の少なくとも1個のイオンミラーのエッジとフリンジング電界のそばにイオンを通すように前記多重反射型飛行時間分析計に埋め込まれた、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記少なくとも1個のインタフェースは、静電気円筒状セクタ、静電気トロイダルセクタ、及び静電気球状セクタのうちの少なくとも1つを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記少なくとも1個のインタフェースは、静電レンズを有する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも1個のインタフェースは、マツダプレートを有する、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記少なくとも1個のインタフェースは、少なくとも1個の静電気平面デフレクタを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1個のインタフェースは、イオン軌道の初期方向を実質的に維持するように配置された、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記少なくとも1個のインタフェースは、イオン軌道を実質的に直角に曲げるように配置された、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも1個のインタフェースは、イオン軌道の方向を実質的に逆にするように配置された、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも1個のインタフェースの少なくとも1つの電圧がパルス化された、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記少なくとも1個のインタフェースは、イオンの制御可能なエネルギーフィルタリングを行う手段を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
イオンの制御可能なエネルギーフィルタリングを行う前記手段は、スリットを有する、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記スリットは、調整可能である、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
イオンの制御可能なエネルギーフィルタリングを行う前記手段は、更に、前記スリットにおいてイオン軌道のクロスオーバ面を調整する空間収束レンズを有する、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記パルス化イオン源は、前記少なくとも1個のインタフェースの許可されたエネルギー広がりより大きいエネルギー広がりを有するイオンパケットを形成するように調整された強さを有する抽出電界を使用する、請求項19に記載の装置。
【請求項24】
前記平面多重反射型飛行時間分析計は、無電界領域と、無電界領域内にありイオンドリフト運動を逆にする少なくとも1個のデフレクタとを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項25】
前記イオンレシーバは、飛行時間イオン検出器、イオンを付着させる面、タンデム質量分析計のフラグメンテーションセル、イオンをフラグメント化しそのイオンを前記多重反射型飛行時間分析計内に戻すイオントラップ、及び時間入れ子式にデータを取得する形態で並列MS−MS分析を行うための高速移送フラグメンテーションセルの内の一つを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
前記少なくとも1個のインタフェースは、前記多重反射型飛行時間分析計の異なる部分の間でイオンパケットを移送するように配置された、請求項1に記載の装置。
【請求項27】
前記少なくとも1個のインタフェースは、少なくとも2台の多重反射型飛行時間分析計の間でイオンパケットを移送するように配置された、請求項1に記載の装置。
【請求項28】
前記パルス化イオン源は、MALDIイオン源、遅延イオン抽出を有するMALDI、パルス電子衝撃イオン源、SIMSパルス化イオン源、及びレーザ脱離イオン源とから成るグループから選択された実質的にパルス化されたイオン源を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項29】
前記パルス化イオン源は、パルスコンバータ、及びESI、APCI、APPI、CI、EI、ICP、及びタンデム質量分析計のフラグメントセルからなるグループから選択された1つの連続又は準連続イオン源を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
前記パルスコンバータは、Paul三次元イオントラップ、軸方向の射出を有するガス充填線形イオントラップ、半径方向の射出を有するガス充填線形イオントラップ、直交加速器、及び直交加速器の前にあるイオントラップからなるグループから選択された、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
飛行時間質量分析装置であって、
イオンパケットを生成するためのガス充填イオントラップであって、高周波信号を印加する少なくとも1個の電極を有し、前記高周波信号の切り換え後の所定の遅延後にイオンパケットを取り出すガス充填イオントラップと、
質量電荷比に従ってイオンを分離する飛行時間質量分析計と、
分離されたイオンを受け取るイオンレシーバと、
前記イオントラップと前記イオンレシーバの間に位置決めされ、制限されたエネルギー範囲内のイオンを移送する空間等時性エネルギーフィルタとを有する飛行時間質量分析装置。
【請求項32】
イオンを生成し前記イオントラップ内に供給するイオン化装置を更に有する、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記飛行時間質量分析計は、少なくともイオンエネルギーに関しての二次飛行時間収差を補償するイオンミラーを有する、請求項31に記載の装置。
【請求項34】
前記飛行時間質量分析計は、グリッドがなく且つ前記エネルギーフィルタ内に生じイオン座標と関連した少なくとも1つのタイプの収差を補償するように調整可能なイオンミラーを有し、前記収差は、空間座標に関する飛行時間収差、空間収差、及びクロマチック収差から成るグループ内の少なくとも1つを含む、請求項31に記載の装置。
【請求項35】
複合飛行時間質量分析装置であって、
少なくとも1組の空間等時性の静電気セクタと、
少なくとも1個のイオンミラーと、
イオンレシーバとを有し、
前記イオンミラーは、1組の静電気セクタの少なくとも1つの二次飛行時間収差を補償する複合飛行時間質量分析装置。
【請求項36】
前記少なくとも1個のイオンミラーは、グリッド無しイオンミラーである、請求項35に記載の装置。
【請求項37】
前記少なくとも1個のイオンミラーは、イオンの空間座標に関連する、前記1組の静電気セクタの少なくとも1つの二次収差を補償し、前記1組の収差は、空間座標に関する飛行時間収差、空間収差、及びクロマチック収差からなる、請求項36に記載の装置。
【請求項38】
前記イオンレシーバは、飛行時間質量分析を画像化するために位置を検出することができる、請求項35に記載の装置。
【請求項39】
イオンを生成するためのイオン源と、
イオン蓄積とイオンパケットの形成を行うためにイオン抽出が遅延される線形イオントラップと、
周期的レンズを含むドリフト空間を有する平面多重反射型飛行時間分析計と、
イオンレシーバと、
前記線形イオントラップと前記イオンレシーバの間に配置された少なくとも1つの空間等時性C字形円筒状インタフェースとを有する装置。
【請求項40】
多重反射型飛行時間質量分析装置であって、
イオンパケットを生成するパルス化イオン源と、
イオンパケットのイオンを質量電荷比によって分離する多重反射型飛行時間分析計と、
分離されたイオンを受け取るイオンレシーバと、
前記イオン源と前記イオンレシーバの間に配置された少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースとを有し、
前記少なくとも1個の空間等時性イオン移送インタフェースは、湾曲した軸を有する少なくとも1個の静電気セクタを有する装置。
【請求項41】
前記少なくとも1個の静電気セクタは、静電気円筒状セクタ、静電気トロイダルセクタ、及び静電気球状セクタのうちの少なくとも1つを有する、請求項40に記載の装置。
【請求項42】
前記多重反射型飛行時間分析計は、平面多重反射型飛行時間分析計である、請求項40に記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2008−535164(P2008−535164A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503137(P2008−503137)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/010437
【国際公開番号】WO2006/102430
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(592071853)レコ コーポレイション (19)
【氏名又は名称原語表記】LECO CORPORATION
【Fターム(参考)】