説明

等速ジョイントの応力測定方法および応力測定装置

【課題】等速ジョイントの最適設計を図るために、等速ジョイントの応力分布を正確に測定することができる等速ジョイントの応力測定方法および応力測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】外輪10と、シャフト50に連結される内側部材20と、回転駆動力を伝達可能な伝達部材30と、を備える等速ジョイント1の応力測定方法において、外輪10と伝達部材30との間、および、内側部材20と伝達部材30との間で、相互に所定周期で荷重を加え合う荷重付加工程と、温度変動を測定する温度変動測定工程と、等速ジョイント1の温度変動の分布に基づき等速ジョイント1の応力分布を算出する応力分布算出工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントを測定対象とした応力測定方法および応力測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントは、ジョイント角が付加されたシャフト間において等速に回転駆動力を伝達できるジョイントとして、車両や産業機械などの駆動系に用いられている。この等速ジョイントを最適設計するためには、回転駆動力を伝達している実用状態において、等速ジョイントを構成するどの部材にどの程度の応力が発生しているかを把握することが求められる。そこで、有限要素法(FEM)や境界要素法(BEM)などの数値解析により応力分布を求める方法が知られている。また、特開2006−200953号公報(特許文献1)には、歪みゲージを使用することで、シャフトに加わる応力を測定するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−200953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、等速ジョイントは複雑な形状からなる複数の部材から構成され、実用状態では各部材の相互作用により回転駆動力を伝達している。そのため、FEM解析などの数値解析において、適切な負荷条件や境界条件を設定することが非常に困難である。よって、数値解析によって求められた応力分布を正しく評価できない場合が多い。また、等速ジョイントは、強い回転駆動力を伝達することがあるために高剛性の部材から構成されていることが多い。そのため、歪みゲージを使用する場合に、測定対象とする部材が高剛性であると歪み量が小さく、十分な結果を得られないことがある。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、等速ジョイントの最適設計を図るために、等速ジョイントの応力分布を正確に測定することができる等速ジョイントの応力測定方法および応力測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、
筒状部を有する外輪と、
シャフトに連結され前記外輪の内側に配置される内側部材と、
前記外輪と前記内側部材との間で回転駆動力を伝達可能な伝達部材と、
を備える等速ジョイントの応力測定方法において、
前記外輪と前記伝達部材との間、および、前記内側部材と前記伝達部材との間で、相互に所定周期で荷重を加え合う荷重付加工程と、
前記荷重付加工程において前記等速ジョイントの温度変動を測定する温度変動測定工程と、
前記温度変動測定工程により得られた前記等速ジョイントの温度変動の分布に基づき、前記等速ジョイントの応力分布を算出する応力分布算出工程と、
を備えることである。
【0007】
請求項2に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項1において、
前記荷重付加工程は、前記等速ジョイントにジョイント角を付加し、前記外輪および前記内側部材の何れか一方を固定し、前記外輪および前記内側部材の他方に歳差運動を加える歳差運動工程であることである。
【0008】
請求項3に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項2において、
前記温度変動測定工程は、前記等速ジョイントの温度変動の信号のうち歳差運動周期に伴う荷重変動周期の周波数帯を抽出して、抽出された信号を前記等速ジョイントの温度変動とすることである。
【0009】
請求項4に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項1において、
前記荷重付加工程は、前記外輪の軸心および前記内側部材の軸心を位置決めし、前記外輪および前記内側部材の何れか一方を固定し、前記外輪および前記内側部材の他方から回転駆動力を繰り返し付加するトルク付加工程であることである。
【0010】
請求項5に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項4において、
前記トルク付加工程は、前記等速ジョイントにジョイント角を付加することである。
【0011】
請求項6に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項5において、
前記トルク付加工程は、前記外輪の位相を移動させた場合における複数の前記位相のそれぞれに対して、前記外輪および前記内側部材の何れか一方を固定し、前記外輪および前記内側部材の何れか他方から回転駆動力を繰り返し付加することである。
【0012】
請求項7に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項4〜6のいずれか一項において、
前記温度変動測定工程は、前記等速ジョイントの温度変動の信号のうちトルク付加周期に伴う荷重変動周期の周波数帯を抽出して、抽出された信号を前記等速ジョイントの温度変動とすることである。
【0013】
請求項8に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項1において、
前記荷重付加工程は、前記外輪の軸心および前記内側部材の軸心を位置決めし、前記外輪および前記内側部材の何れか一方から前記外輪および前記内側部材の他方に向かって回転駆動力を伝達させ、
前記温度変動測定工程は、前記等速ジョイントの周方向に移動する測定点を追従して温度変動を測定することである。
【0014】
請求項9に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項1〜7のいずれか一項において、
前記荷重付加工程は、前記外輪を固定し、
前記温度変動測定工程は、前記外輪の温度変動を測定することである。
【0015】
請求項10に係る等速ジョイントの応力測定方法の特徴は、請求項1〜8のいずれか一項において、
前記等速ジョイントは、
内周面に外輪回転軸方向に延びる複数の外輪ボール溝が形成された前記外輪と、
環状部材であり、外周面に内輪軸方向に延びる複数の内輪ボール溝が形成された内輪である前記内側部材と、
それぞれの前記外輪ボール溝およびそれぞれの前記内輪ボール溝に対して周方向に係合する複数のボールからなる前記伝達部材と、
環状に形成され、前記外輪と前記内輪との間に配置され、周方向に前記ボールをそれぞれ収容する複数の開口窓部が形成された保持器と、
を備えるボール形等速ジョイントであって、
前記温度変動測定工程は、前記保持器の温度変動を測定することである。
【0016】
上記の課題を解決するために、請求項11に係る等速ジョイントの応力測定装置の特徴は、
筒状部を有する外輪と、シャフトに連結され前記外輪の内側に配置される内側部材と、前記外輪と前記内側部材との間で回転駆動力を伝達可能な伝達部材と、を備える等速ジョイントの応力測定装置において、
前記等速ジョイントを保持する保持手段と、
前記外輪と前記伝達部材との間、および、前記内側部材と前記伝達部材との間で、相互に所定周期で荷重を加え合わせる荷重付加手段と、
前記等速ジョイントの温度変動を測定する温度変動測定装置と、
前記温度変動測定装置により得られた前記等速ジョイントの温度変動の分布に基づき、前記等速ジョイントの応力分布を算出する応力分布算出部と、
を備えることである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、応力測定方法は、等速ジョイントを応力測定の対象とし、荷重付加工程と温度変動測定工程と応力分布算出工程とを備える構成となっている。等速ジョイントは、外輪と内側部材との間において、伝達部材を介して回転駆動力を伝達可能な構成となっている。荷重付加工程では、等速ジョイントに所定周期で荷重を加えている。これにより、等速ジョイントに熱弾性効果による温度変動が生じることになる。この熱弾性効果は、物体に断熱的に変形を加えた際に、物体の体積変化によって微小な温度変動が発生する現象である。温度変動測定工程では、例えば、赤外線カメラにより等速ジョイントの温度変動を測定する。そして、応力分布算出工程では、この温度変動の分布に基づき等速ジョイントの応力分布を算出している。
【0018】
ここで、従来、板材などの単一形状からなる試験片の応力分布を、赤外線応力測定によって測定することは公知であった(例えば、特開2006−267089号公報)。この測定方法は、試験片に対して直接繰り返し荷重を付加することで、試験片そのものの温度変動を測定するものである。
【0019】
これに対して、本発明の等速ジョイントの応力測定方法では、荷重付加工程において、応力分布を測定したい対象物である外輪、伝達部材および内側部材に対して、直接繰り返し荷重をかけるのではなく、等速ジョイントの構成部材が相互に荷重をかけ合うことを利用している。具体的には、荷重付加工程において、外輪と伝達部材との間、および、内側部材と伝達部材との間で、相互の所定周期で荷重を加え合うようにしている。
【0020】
等速ジョイントの部材間で相互に荷重をかけ合うことを利用することにより、等速ジョイントに熱弾性効果を利用した応力測定を適用することができる。つまり、本発明は、これまで板材などの単一形状からなる試験片の応力分布を測定していた応力測定を初めて等速ジョイントに適用できることを見出したものである。これにより、複数の部材から構成される等速ジョイントが回転駆動力を伝達している実用状態において、等速ジョイントの応力分布を測定することができる。従って、応力分布に基づいて、等速ジョイントの各部材に必要な強度を適切に求めることができるので、最適な形状や肉厚を設計することができる。また、等速ジョイントの応力分布からFEM解析などの数値解析を検証することにより、数値解析における負荷条件や境界条件を適切に設定することができる。
【0021】
請求項2に係る発明によると、応力測定方法の荷重付加工程は、ジョイント角を付加した等速ジョイントに歳差運動を加える歳差運動工程である。ジョイント角を付加した等速ジョイントが回転駆動力を伝達している実用状態において、外輪および内側部材の何れか一方を基準とした静止系とする。この時、他方の運動系にある軸は円を描くように、コマの首振り運動や味噌すり運動などとも呼ばれる歳差運動をする。そこで、本発明では、外輪および内側部材の何れか一方を固定し、他方に歳差運動を加える構成としている。これにより、応力測定において、等速ジョイントの実用状態に近い荷重を加えることができる。
【0022】
そして、ボール型等速ジョイントにおいては、歳差運動の際に、ボールが外輪ボール溝または内輪ボール溝に対して溝延伸方向に往復運動する。この往復運動によって、ボールと外輪ボール溝、および、ボールと内輪ボール溝との間で、相互に所定周期で荷重を加え合うこととみなすことができる。また、トリポード型等速ジョイントにおいては、歳差運動の際に、ローラが外輪溝に対して溝延伸方向に往復運動する。さらに、ローラがトリポード軸部に対してトリポード軸部の径方向に往復運動する。これらの往復運動によって、ローラと外輪溝、および、ローラとトリポード軸部との間で、相互に所定周期で荷重を加え合うこととみなすことができる。
【0023】
つまり、実際に車両のドライブシャフトなどに等速ジョイントが適用されている状態の荷重を想定した応力測定を行うことができる。よって、この測定結果に基づくことで、等速ジョイントを最適設計することができる。
【0024】
請求項3に係る発明によると、応力測定工程の温度変動測定工程は、温度変動の信号のうち歳差運動周期に伴う荷重変動周期の周波数帯を抽出して、等速ジョイントの温度変動とする構成となっている。例えば、赤外線カメラにより等速ジョイントの温度変動を測定して得られる温度変動の信号には、室温変化による温度変化やノイズなどが含まれることがある。そこで、本発明は、歳差運動工程において等速ジョイントに加えた歳差運動周期に伴う荷重変動周期を求める。荷重変動周期は、等速ジョイントが歳差運動することにより、測定対象とする部材に繰り返し加えられる荷重変動の周期に相当する。例えば、ボール型等速ジョイントの外輪を測定対象とした場合に、歳差運動の一周期の間にボールが外輪ボール溝を溝延伸方向に一往復して外輪に荷重が加えられることになる。よって、等速ジョイントの構成から歳差運動周期に伴う荷重変動周期を求めることができる。そして、温度変動の信号のうち荷重変動周期の周波数帯を抽出することにより、より高精度な応力測定を行うことができる。また、荷重変動周期の周波数帯は、荷重変動周期の周波数を含む適宜帯域の周波数帯である。
【0025】
請求項4に係る発明によると、応力測定方法の荷重付加工程は、軸心を位置決めした等速ジョイントに回転駆動力を繰り返し付加するトルク付加工程である。このトルク付加工程では、まず、外輪の軸心および内側部材の軸心を位置決めして、両部材の位置関係を設定する。そして、外輪および内側部材の何れか一方を回転しないように固定し、他方からトルクを所定周期で繰り返し付加する構成としている。これにより、応力測定は、等速ジョイントを静止させた測定となるため、歳差運動工程と比較して省スペースでの応力測定を行うことができる。また、軸心が位置決めされているため、外輪および内側部材の変位量が僅かである。よって、等速ジョイントにトルクをより高い周波数で付加することができる。上述したように、熱弾性効果による温度変動は微小であるため、一般に繰り返し付加される荷重の周波数は高い方が各部位の温度変動の差を測定し易いとされる。従って、より簡易で高精度な等速ジョイントの応力分布を測定することができる。
【0026】
請求項5に係る発明によると、応力測定方法のトルク付加工程において等速ジョイントにジョイント角を付加する構成となっている。例えば、等速ジョイントが車両のドライブシャフトに適用された場合に、等速ジョイントは、常にジョイント角を付加された状態にあることが多い。そこで、トルク付加工程において等速ジョイントにジョイント角を付加することで、等速ジョイントの実用状態に近い荷重を加えることができる。さらに、比較的大きくジョイント角を付加することで、外輪の内側に配置される内側部材の一部を視認できるようになる。これにより、温度変動測定工程において、内側部材の温度変動を測定することができる。
【0027】
請求項6に係る発明によると、応力測定方法のトルク付加工程において、外輪の位相を移動させ、複数の位相のそれぞれに対して回転駆動力を繰り返し付加する構成となっている。等速ジョイントは、上述したように、伝達部材を介して外輪と内側部材が相互に回転駆動力を伝達するものである。よって、外輪および内側部材は、周方向に亘って伝達部材の一部を保持するための溝や突部などが所定間隔で形成されている。つまり、ジョイント角を付加したトルク付加工程では、例えば、外輪のどの位相に対してジョイント角を付加したかによって、応力測定により得られる結果が異なる。そこで、外輪のある位相に対してジョイント角を付加して応力測定を行った後、トルク付加工程において外輪の位相を移動させ、その位相に対して、外輪および内側部材の何れか一方を固定し、他方から回転駆動力を繰り返し付加して再び応力測定を行う。これを繰り返すことにより、等速ジョイントを構成し位相により形状の異なる部材であってもより確実に応力測定を行うことができる。
【0028】
請求項7に係る発明によると、応力測定工程の温度変動測定工程は、温度変動の信号のうちトルク付加周期に伴う荷重変動周期の周波数帯を抽出して、等速ジョイントの温度変動とする構成となっている。本発明は、トルク付加工程において等速ジョイントに加えたトルク付加周期に伴う荷重変動周期を求める。荷重変動周期は、等速ジョイントが回転駆動力を繰り返し付加されることにより、測定対象とする部材に周期的に加えられる荷重変動の周期のことである。例えば、ボール型等速ジョイントの外輪を測定対象とした場合に、トルク付加の一周期の間にボールが外輪ボール溝を溝延伸直交方向に一往復して外輪に荷重が加えられることになる。よって、等速ジョイントの構成からトルク付加周期に伴う荷重変動周期を求めることができる。そして、温度変動の信号のうち荷重変動周期の周波数帯を抽出することにより、より高精度な応力測定を行うことができる。また、荷重変動周期の周波数帯は、荷重変動周期の周波数を含む適宜帯域の周波数帯である。
【0029】
請求項8に係る発明によると、応力測定方法の荷重付加工程は、軸心を位置決めした等速ジョイントに回転駆動させる構成となっている。そして、温度変動測定工程は、例えば外輪を応力分布の測定対象とし、外輪における測定点を追従して温度変動を測定する。この荷重付加工程は、回転駆動力を伝達している等速ジョイントの実用状態に非常に近い荷重を加えることができる。これにより、応力測定において、より高精度に等速ジョイントの応力分布を測定することができる。また、等速ジョイントに加える負荷を所定の周波数や所定の回転駆動力に設定するために、外輪および内側部材の何れか一方から回転駆動力を付加し、他方には制動力を付加して適宜調整しても良い。このような構成とすることで、実用状態により近い状態にできるので、高精度な応力分布を測定することができる。
【0030】
請求項9に係る発明によると、等速ジョイントの外輪を固定し、外輪の温度変動を測定する構成となっている。これにより、外輪の応力分布をより正確に測定することができる。外輪は、等速ジョイントにおいて最外に位置する部材の一つで、高剛性に形成されることが多い。そのため、実用状態における応力分布を正確に把握し、十分な強度を確保しつつ薄肉化を図ることは有用である。そこで、固定された外輪を応力分布の測定対象とし、この測定結果に基づき外輪を最適設計することができる。
【0031】
請求項10に係る発明によると、応力測定方法の温度変動測定工程は、ボール型等速ジョイントの保持器の温度変動を測定する構成となっている。ボール型等速ジョイントは、外輪と、内側部材である内輪と、伝達部材である複数のボールと、保持器とを備える。ボール型等速ジョイントの保持器は、回転駆動力の伝達には直接的には寄与していないが、複数のボールに対して所定の位置にあるように保持している。これにより、ボール型等速ジョイントが回転駆動力を伝達する際には、保持器に応力が発生することになる。そこで、本発明では、保持器の応力分布を測定対象とし、この測定結果に基づき保持器を最適設計することができる。
【0032】
請求項11に係る発明によると、応力測定装置は、等速ジョイントを応力測定の対象とし、赤外線映像装置と応力分布算出部とを備える構成となっている。赤外線映像装置は、物体表面から放射される赤外線エネルギ分布を赤外線センサにより計測し、これを温度分布に換算・画像化して表示する装置である。応力分布算出部は、等速ジョイントの温度変動の分布に基づき等速ジョイントの応力分布を算出している。このような構成により、等速ジョイントに熱弾性効果を利用した赤外線応力測定を適用することができる。よって、請求項1と同様の効果を奏する。また、本発明の応力測定方法としての他の特徴部分について、本発明の応力測定装置に同様に適用可能である。そして、この場合における効果についても、上記応力測定方法としての効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第一実施形態:等速ジョイント1の軸方向断面図である。
【図2】等速ジョイント1の赤外線応力測定を示す模式図である。
【図3】赤外線応力測定における等速ジョイント1の一部を透視した平面図である。
【図4】荷重変動と温度変動の関係を示すグラフである。
【図5】赤外線応力測定による応力分布図である。
【図6】第二実施形態:ジョイント角を付加した場合の赤外線応力測定による応力分布図である。
【図7】ジョイント角を付加しない場合の赤外線応力測定による応力分布図である。
【図8】ジョイント角を付加した場合のFEM解析による応力分布図である。
【図9】ジョイント角を付加しない場合のFEM解析による応力分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の等速ジョイントの応力測定方法および応力測定装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<第一実施形態>
第一実施形態の応力測定方法および応力測定装置について、図1、図2を参照して説明する。図1は、第一実施形態の等速ジョイント1の軸方向断面図である。図2は、等速ジョイント1の赤外線応力測定を示す模式図である。
【0035】
本実施形態の等速ジョイント1は、図1に示すように、固定式ボール型等速ジョイント(一般に「ツェッパ型等速ジョイント」とも称する)であり、外輪10と、内輪20(本発明の「内側部材」に相当する)と、ボール30(本発明の「伝達部材」に相当する)と、保持器40と、シャフト50とから構成される。
【0036】
外輪10は、カップ状(例えば、有底筒状)に形成されており、一端側が他の動力伝達軸(図示せず)に連結される。さらに、外輪10の筒状部分の内周面には、外輪軸方向(図1の左右方向)に延びる外輪ボール溝11が、外輪軸の周方向に等間隔に6本形成されている。各外輪ボール溝11における外輪軸に直交する断面形状が、ほぼ円弧凹状をなしている。
【0037】
内輪20は、環状からなり、外輪10の内側に配置されている。この内輪20の外周面には、内輪軸方向(図1の左右方向)に延びる内輪ボール溝21が、内輪軸の周方向に等間隔に6本形成されている。各内輪ボール溝21における内輪軸に直交する断面形状が、ほぼ円弧凹状をなしている。そして、内輪ボール溝21は、外輪10に形成される外輪ボール溝11と同数形成されている。つまり、それぞれの内輪ボール溝21が、外輪10のそれぞれの外輪ボール溝11に対向するように位置する。また、内輪20の内周面には、内歯スプライン22が形成されている。この内歯スプライン22は、後述するシャフト50の端部に形成された外歯スプライン51に圧入嵌合される。
【0038】
6個のボール30は、それぞれ、外輪10の外輪ボール溝11および内輪20の内輪ボール溝21に配置されている。そして、それぞれのボール30は、それぞれの外輪ボール溝11およびそれぞれの内輪ボール溝21に沿って転動自在であって、それぞれの外輪ボール溝11およびそれぞれの内輪ボール溝21に対して周方向(外輪軸回りまたは内輪軸回り)に係合している。従って、ボール30は、外輪10と内輪20との間で回転駆動力を伝達する。
【0039】
保持器40は、環状からなり、外輪10の内周面と内輪20の外周面との間に配置されている。保持器40の内周面は、内輪20の最外周面にほぼ対応する部分球面凹状に形成されている。また、保持器40の外周面は、部分球面凸状に形成されている。そして、保持器40の内周面の球面中心と外周面の球面中心は、ジョイント回転中心に対して、軸方向に等距離だけそれぞれ反対側にオフセットさせている。そして、保持器40には、周方向に等間隔に6個の開口窓部41が形成されている。この開口窓部41は、外輪ボール溝11および内輪ボール溝21と同数形成されている。そして、それぞれの開口窓部41には、ボール30がそれぞれ挿通されている。つまり、保持器40は、6個のボール30を保持している。
【0040】
シャフト50は、軸状からなり、一端部の外周面において軸方向に延びる外歯スプライン51が形成されている。本実施形態において、内輪20およびシャフト50は、シャフト50の軸方向に近接するように相対移動し、圧力を加えられて結合される。この時、外歯スプライン51は、内輪20に形成された内歯スプライン22と圧入嵌合される。また、シャフト50には、他端部において測定対象ではない補助等速ジョイント2が組み付けられている。この補助等速ジョイント2は、シャフト50と後述する荷重付加部62を連結し、荷重付加部62による回転駆動力をシャフト50へ伝達可能としている。
【0041】
等速ジョイント1は、上述したような構成となっているが、応力測定を行う試験体の表面には黒色塗料が塗布されている。本実施形態では、外輪10と、内輪20と、ボール30と、保持器40と、シャフト50の一部と、に合成樹脂などからなる艶消し黒色の塗料が20〜25μm程度の厚さに塗布されている。これにより、試験体の表面の熱放射率は、約0.94(黒体を1.00とした場合)となっている。このように熱放射率を高くすることで、熱放射によって放出する熱量を多くすることができるので、試験体の温度変動をより確実に検出することが可能となる。
【0042】
次に、等速ジョイント1を測定対象とした応力測定装置60について説明する。応力測定装置60は、図2に示すように、軸支台61(本発明の「保持手段」に相当する)と、荷重付加部62(本発明の「荷重付加手段」に相当する)と、赤外線カメラ63と、ロックインプロセッサ64と、応力分布算出部65と、表示部66を備える。
【0043】
軸支台61は、等速ジョイント1の一端である外輪10をチャックにより把持している。本実施形態では、軸支台61は、外輪10を回転しないように固定している。荷重付加部62は、軸支台61の軸方向に対向して配置され、補助等速ジョイント2を介して等速ジョイント1の他端であるシャフト50を保持している。また、荷重付加部62は、等速ジョイント1の他端を保持した状態で、軸支台61の軸を中心に旋回可能な駆動装置(不図示)に設置されている。これにより、荷重付加部62は、軸支台61に固定された外輪10に対して、内側部材である内輪20に歳差運動を加えるように荷重を付加可能となっている。
【0044】
赤外線カメラ63は、物体の表面から放出される赤外線を検出し、赤外線センサにより電気信号に変換し、画像信号として出力する。本実施形態では、赤外線カメラ63は、応力分布の測定対象である外輪10に向けて設置されている。ロックインプロセッサ64は、赤外線カメラ63により出力された画像信号から、対象とする熱弾性効果による温度変動の波形をロックイン処理する。すなわち、赤外線カメラ63により出力された画像信号から所定の周波数成分のみを抽出する。具体的には、荷重(応力)変動に同期する画像信号、または、荷重(応力)変動に同期する周波数を含む所定範囲の周波数帯の画像信号のみを抽出する。これにより、S/N比を向上させている。これらの赤外線カメラ63、ロックインプロセッサ64は、本発明の「温度変動測定装置」に相当するものである。
【0045】
また、本実施形態において、この荷重変動の周期については、荷重付加部62による等速ジョイント1への歳差運動周期に伴う荷重変動周期を使用している。歳差運動周期とは、荷重付加部62が等速ジョイント1に加える歳差運動の周期に相当する。また、荷重変動周期とは、等速ジョイント1の歳差運動に伴い、ボール30が外輪ボール溝11を溝延伸方向に往復運動することを周期的な荷重変動とし、この荷重変動の周期に相当するものである。この他に、等速ジョイント1へのトルク付加周期を使用しても良い。さらに、軸支台61がチャックに連結されたロードセルを有する構成としても良い。ロードセルは、外輪10を介して等速ジョイント1に加えられた荷重を検出し、検出結果を電気信号として出力する。そして、荷重変動の周期として、ロードセルにより出力される検出荷重の波形周期を使用しても良い。
【0046】
応力分布算出部65は、ロックインプロセッサ64により出力される画像信号から受信する。そして、この画像信号から得られる等速ジョイント1の温度変動の分布に基づき、等速ジョイント1の応力分布を算出する。表示部66は、この応力分布算出部65による算出結果をモニタ上に表示する。
【0047】
次に、本発明の応力測定方法について図3〜図5を参照して説明する。図3は、赤外線応力測定における等速ジョイント1の一部を透視した平面図である。図4は、荷重変動と温度変動の関係を示すグラフである。図5は、赤外線応力測定による応力分布図である。
【0048】
まず、荷重付加工程では、応力測定装置60の荷重付加部62が、等速ジョイント1の他端を保持した状態で、軸支台61の軸を中心に所定周期で旋回する。また、荷重付加部62は、等速ジョイント1のジョイント角を一定に維持して旋回する。よって、内輪20は、軸支台61に固定された外輪10に対して歳差運動を加える状態となる。ここで、ジョイント角を付加した等速ジョイント1が回転駆動力を伝達している実用状態において、外輪10を静止系とした場合に、運動系にある内輪20は歳差運動する。よって、等速ジョイント1は、実用状態と同様に作動することになる。この時、伝達部材であるボール30は、歳差運動の一周期の間に、外輪10の外輪ボール溝11および内輪20の内輪ボール溝21を一往復する。つまり、ボール30は、図3の左右方向に往復運動する。この往復運動の幅は、ジョイント角によって変化するものであり、ジョイント角が大きく付加されるほど大きくなる。
【0049】
このように、荷重付加部62によって等速ジョイント1に加えられた歳差運動により、外輪10とボール30との間、および、内輪20とボール30との間で、相互に所定周期で荷重を加え合うことになる。この時、内輪20の歳差運動および外輪10の荷重変動は、図4のa1で示すように、一定周期の波形となる。つまり、外輪10に所定周期で繰り返し加えられる荷重となり、赤外線応力測定における熱弾性効果による温度変動を生じるようになる。上述したように、本実施形態の荷重付加工程は、歳差運動工程に相当する。
【0050】
次に、温度変動測定工程では、赤外線カメラ63が等速ジョイント1の温度変動により表面から放出される赤外線を検出する。検出された外輪10の温度変動は、赤外線センサにより電気信号に変換され、画像信号として出力される。この画像信号は、室温変化による試験体の温度変化やノイズが含まれるが、図4のa2で示すように、外輪10の荷重変動a1とおよそ同期した波形を呈する。そこで、ロックインプロセッサ64により画像信号から熱弾性効果による温度変動の波形をロックイン処理する。ロックインプロセッサ64は、画像信号のうち荷重変動の周期に同期する周波数帯(荷重変動周期の周波数帯)のみを抽出し、応力分布算出部65に画像信号を出力する。
【0051】
最後に、応力分布算出工程では、応力分布算出部65が、ロックインプロセッサ64により出力される画像信号から受信する。応力分布算出部65は、この画像信号から得られる等速ジョイント1の温度変動の分布に基づき、等速ジョイント1の応力分布を算出する。そして、この応力分布の算出結果は、図5に示すように、表示部66のモニタ上に表示される。図5は、図3と同視点の等速ジョイント1が示され、温度変動が大きい部位ほど淡色で表示されている。つまり、外輪10は、荷重付加工程による歳差運動により、ボール30が往復運動する外輪ボール溝11の外部にあたる部位の温度変動が最大となっていることが分かる。
【0052】
外輪10は、等速ジョイント1において最外に位置する部材の一つで、高剛性に形成されることが多い。そのため、外輪10に歪みゲージを使用しても歪み量が小さく、十分な結果を得られなかった。これに対し、本発明の応力測定装置60により、等速ジョイント1に熱弾性効果を利用した赤外線応力測定を初めて適用し、外輪10を含む等速ジョイント1の応力分布を測定することが可能となった。また、荷重付加工程では、等速ジョイント1に歳差運動を加える工程とすることで、等速ジョイント1の実用状態に近い荷重を加えることができるので、より正確な応力分布を測定することができる。よって、実用状態における応力分布を正確に把握し、十分な強度を確保しつつ薄肉化を図るなど等速ジョイント1を最適に設計することができる。
【0053】
<第二実施形態>
第二実施形態の応力測定方法および応力測定装置について説明する。ここで、第二実施形態の構成は、主に、第一実施形態の荷重付加工程が歳差運動工程であったのに対し、トルク付加工程である点が相違する。また、応力分布の測定対象を保持器40としている。なお、その他の構成については、第一実施形態と同一であるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。
【0054】
応力測定装置60の軸支台61は、等速ジョイント1の一端である外輪10を回転しないように固定している。そして、荷重付加部62は、等速ジョイント1に所定のジョイント角が付加された状態が維持されるように、外輪10および内輪20の軸心を位置決めする。これにより、外輪10と内輪20の位置関係が設定されるとともに、外輪10の内側に位置する保持器40を視認できるように設定される。つまり、保持器40から放射される赤外線を赤外線カメラ63により検出可能としている。そして、荷重付加部62は、補助等速ジョイント2を介して等速ジョイント1を保持し、この保持部に連結されるサーボモータを有する。これにより、荷重付加部62は、軸支台61に固定された外輪10に対して、内側部材である内輪20から回転駆動力を付加可能となっている。
【0055】
本実施形態の荷重付加工程では、荷重付加部62のサーボモータにより、外輪10に対して内輪20から回転駆動力(トルク)が繰り返し付加される。この時、位置決めされた外輪10の軸心および内輪20の軸心は維持されている。また、荷重付加部62のサーボモータによるトルクは、断続的に付加されるものであり、所定周期で変動している。つまり、等速ジョイント1の初期動作を模擬すべく軸心が回転しないように繰り返しトルクを付加していることになる。この時、伝達部材であるボール30は、トルク付加の一周期の間に、外輪ボール溝11との接点および内輪ボール溝21との接点が変位している。つまり、ボール30は、図3の上下方向に僅かに往復運動する。
【0056】
このように、荷重付加部62によって等速ジョイント1に繰り返し加えられたトルクにより、外輪10とボール30との間、および、内輪20とボール30との間で、相互に所定周期で荷重を加え合うことになる。また、等速ジョイント1の保持器40は、回転駆動力の伝達には直接的には寄与していないが、複数のボール30に対して所定の位置にあるように保持している。これにより、ボール30の往復運動の際には、保持器40に応力が発生している。また、トルクが繰り返し加えられた時、トルク変動および保持器40の荷重変動は、図4のa1で示すように、一定周期の波形となる。つまり、保持器40に所定周期で繰り返し加えられる荷重となり、赤外線応力測定における熱弾性効果による温度変動を生じるようになる。上述したように、本実施形態の荷重付加工程は、トルク付加工程に相当する。
【0057】
そして、第一実施形態と同様に、温度変動測定工程および応力分布算出工程を経ることで、図6に示すように、保持器40を含む等速ジョイント1の応力分布を測定できる。また、本実施形態において、温度変動測定工程における荷重変動の周期については、荷重付加部62による等速ジョイント1へのトルク付加周期に伴う荷重変動周期を使用している。トルク付加周期とは、荷重付加部62が等速ジョイント1に繰り返し加える回転駆動力の周期に相当する。また、荷重変動周期とは、等速ジョイント1のトルク付加に伴い、ボール30が外輪ボール溝11を溝延伸直交方向に僅かに往復運動することを周期的な荷重変動とし、この荷重変動の周期に相当するものである。
【0058】
また、本実施形態において、保持器40を応力分布の測定対象として説明した。その他に、ジョイント角を付加せずに外輪10を測定対象とした場合には、図7に示すような測定結果を得られる。図6は、ジョイント角を付加した場合の赤外線応力測定による応力分布図である。図7は、ジョイント角を付加しない場合の赤外線応力測定による応力分布図である。図6、図7は、外輪10を中央に、シャフト50が各図の左方向に延びている状態の等速ジョイント1が示され、温度変動が大きい部位ほど淡色で表示されている。つまり、外輪10は、トルク付加工程によってボール30が往復運動する外輪ボール溝11の外部にあたる部位の温度変動が最大となっていることが分かる。さらに、保持器40は、図6において、トルクを伝達するボール30を保持することにより応力が加わる部位の温度変動が最大となっていることが分かる。
【0059】
また本実施形態の応力測定は、等速ジョイント1を静止させた測定となるため、第一実施形態の歳差運動工程と比較して省スペースでの応力測定を行うことができる。ここで、赤外線応力測定は、熱弾性効果による温度変動は微小であるため、一般に繰り返し付加される荷重の周波数はある程度高い方が各部位の温度変動の差を測定し易いとされる。しかし、繰り返し荷重を加えることで試験体に振動などが発生し、測定点が変位すると誤差の原因となってしまう。よって、試験体の測定点が変位しないように、荷重の大きさや周期をある程度抑制する必要がある。しかし、本実施形態のトルク付加工程では、外輪10の軸心および内輪20の軸心が位置決めされているため、等速ジョイント1を構成する部材の変位量が僅かである。よって、等速ジョイント1にトルクをより高い周波数で付加することができる。従って、より簡易で高精度な等速ジョイント1の応力分布を測定することができる。
【0060】
また、図6、図7に示すような等速ジョイント1の応力分布からFEM解析などの数値解析を検証することにより、数値解析における負荷条件や境界条件を適切に設定することができる。これにより、図8、図9に示すように、それぞれ図6、図7に対応したFEM解析の結果を得られる。図8は、ジョイント角を付加した場合のFEM解析による応力分布図である。図9は、ジョイント角を付加しない場合のFEM解析による応力分布図である。このように、等速ジョイント1の応力分布について、赤外線応力測定と数値解析の結果を相互に検証することにより、多角的な解析が可能となり、より最適な設計が可能となる。
【0061】
<第一、第二実施形態の変形態様>
第一、第二実施形態の荷重付加工程において、何れも外輪10を固定するものとした。これに対して、内輪20を軸支台61に固定する構成としても良い。よって、歳差運動工程の場合には、外輪10は、内輪20に対して歳差運動を加える状態となる。また、トルク付加工程の場合には、外輪10は、内輪20に対して繰り返し回転駆動力を付加する状態となる。このような構成であっても同様の効果を奏する。
【0062】
また、荷重付加工程において、外輪10および内輪20の何れも回転可能に支持し、荷重付加部62のサーボモータにより、外輪10および内輪20の何れか一方から他方に回転駆動力を伝達させる。つまり、等速ジョイント1を一定回転数で回転駆動させる。そして、温度変動測定工程では、例えば外輪10を応力分布の測定対象とし、外輪10における測定点を追従して温度変動を測定する構成としても良い。これにより、荷重付加工程は、回転駆動力を伝達している等速ジョイント1の実用状態に非常に近い荷重を加えることができる。これにより、応力測定において、より高精度に等速ジョイント1の応力分布を測定することができる。また、等速ジョイント1に加える負荷を所定の周波数や所定の回転駆動力に設定するために、外輪10および内輪20の何れか一方から回転駆動力を付加し、他方には制動力を付加して適宜調整しても良い。このような構成とすることで、実用状態により近い状態にできるので、高精度な応力分布を測定することができる。
【0063】
第二実施形態のトルク付加工程において、さらに、外輪10の位相を移動させ、複数の位相のそれぞれに対して、等速ジョイント1の応力分布を測定しても良い。等速ジョイント1は、ボール30を介して外輪10と内輪20が相互に回転駆動力を伝達するものである。よって、外輪10および内輪20は、周方向に亘って所定間隔で外輪ボール溝11および内輪ボール溝21がそれぞれ形成されている。つまり、ジョイント角を付加したトルク付加工程では、例えば、外輪10のどの位相に対してジョイント角を付加したかによって、応力測定により得られる結果が異なる。そこで、外輪10のある位相に対してジョイント角を付加して応力測定を行った後、トルク付加工程において外輪10の位相を所定角度だけ移動させて再び応力測定を行う。これを繰り返すことにより、位相により形状の異なる等速ジョイント1の部材であってもより確実に応力測定を行うことができる。
【0064】
第一、第二実施形態において、等速ジョイント1は、ボール型等速ジョイントとした。これに対して、等速ジョイント1はトリポード型等速ジョイントとしても良い。トリポード型等速ジョイントは、特許文献1の図1のインボード側の等速自在継手3で示されるように、外輪と、トリポードと、ローラと、シャフトとから構成される。各部材の詳細な説明は省略するが、トリポードがボール型等速ジョイントの内側部材である内輪20に相当し、ローラがボール型等速ジョイントの伝達部材であるボール30に相当する。このような構成からなるトリポード型等速ジョイントであっても本発明により赤外線応力測定を適用することができ、また同様の効果を得られる。
【符号の説明】
【0065】
1:等速ジョイント、 2:補助等速ジョイント
10:外輪、 11:外輪ボール溝
20:内輪(内側部材)、 21:内輪ボール溝、 22:内歯スプライン
30:ボール(伝達部材)
40:保持器、 41:開口窓部
50:シャフト、 51:外歯スプライン
60:応力測定装置、 61:軸支台、 62:荷重付加部、 63:赤外線カメラ
64:ロックインプロセッサ、 65:応力分布算出部、 66:表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部を有する外輪と、
シャフトに連結され前記外輪の内側に配置される内側部材と、
前記外輪と前記内側部材との間で回転駆動力を伝達可能な伝達部材と、
を備える等速ジョイントの応力測定方法において、
前記外輪と前記伝達部材との間、および、前記内側部材と前記伝達部材との間で、相互に所定周期で荷重を加え合う荷重付加工程と、
前記荷重付加工程において前記等速ジョイントの温度変動を測定する温度変動測定工程と、
前記温度変動測定工程により得られた前記等速ジョイントの温度変動の分布に基づき、前記等速ジョイントの応力分布を算出する応力分布算出工程と、
を備えることを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記荷重付加工程は、前記等速ジョイントにジョイント角を付加し、前記外輪および前記内側部材の何れか一方を固定し、前記外輪および前記内側部材の他方に歳差運動を加える歳差運動工程であることを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記温度変動測定工程は、前記等速ジョイントの温度変動の信号のうち歳差運動周期に伴う荷重変動周期の周波数帯を抽出して、抽出された信号を前記等速ジョイントの温度変動とすることを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記荷重付加工程は、前記外輪の軸心および前記内側部材の軸心を位置決めし、前記外輪および前記内側部材の何れか一方を固定し、前記外輪および前記内側部材の他方から回転駆動力を繰り返し付加するトルク付加工程であることを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記トルク付加工程は、前記等速ジョイントにジョイント角を付加することを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記トルク付加工程は、前記外輪の位相を移動させた場合における複数の前記位相のそれぞれに対して、前記外輪および前記内側部材の何れか一方を固定し、前記外輪および前記内側部材の他方から回転駆動力を繰り返し付加することを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項において、
前記温度変動測定工程は、前記等速ジョイントの温度変動の信号のうちトルク付加周期に伴う荷重変動周期の周波数帯を抽出して、抽出された信号を前記等速ジョイントの温度変動とすることを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項8】
請求項1において、
前記荷重付加工程は、前記外輪の軸心および前記内側部材の軸心を位置決めし、前記外輪および前記内側部材の何れか一方から前記外輪および前記内側部材の他方に向かって回転駆動力を伝達させ、
前記温度変動測定工程は、前記等速ジョイントの周方向に移動する測定点を追従して温度変動を測定することを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項において、
前記荷重付加工程は、前記外輪を固定し、
前記温度変動測定工程は、前記外輪の温度変動を測定することを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項において、
前記等速ジョイントは、
内周面に外輪回転軸方向に延びる複数の外輪ボール溝が形成された前記外輪と、
環状部材に形成され、外周面に内輪軸方向に延びる複数の内輪ボール溝が形成された内輪である前記内側部材と、
それぞれの前記外輪ボール溝およびそれぞれの前記内輪ボール溝に対して周方向に係合する複数のボールからなる前記伝達部材と、
環状からなり、前記外輪と前記内輪との間に配置され、周方向に前記ボールをそれぞれ収容する複数の開口窓部が形成された保持器と、
を備えるボール形等速ジョイントであって、
前記温度変動測定工程は、前記保持器の温度変動を測定することを特徴とする等速ジョイントの応力測定方法。
【請求項11】
筒状部を有する外輪と、シャフトに連結され前記外輪の内側に配置される内側部材と、前記外輪と前記内側部材との間で回転駆動力を伝達可能な伝達部材と、を備える等速ジョイントの応力測定装置において、
前記等速ジョイントを保持する保持手段と、
前記外輪と前記伝達部材との間、および、前記内側部材と前記伝達部材との間で、相互に所定周期で荷重を加え合わせる荷重付加手段と、
前記等速ジョイントの温度変動を測定する温度変動測定装置と、
前記温度変動測定装置により得られた前記等速ジョイントの温度変動の分布に基づき、前記等速ジョイントの応力分布を算出する応力分布算出部と、
を備えることを特徴とする等速ジョイントの応力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−185827(P2010−185827A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31227(P2009−31227)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)