等速ジョイント用グリースおよび等速ジョイント
【課題】転がり滑り運動におけるフレーキングの防止性能および耐熱性能に優れた等速ジョイント用の新規グリース組成物および等速ジョイントを提供することである。
【解決手段】基油と、増ちょう剤と、無機ビスマスとを含む等速ジョイント用グリースであって、上記無機ビスマスが、上記グリース全体に対して 0.01〜15 重量%配合され、上無機ビスマスは、ビスマス粉末、硫酸ビスマス、および三酸化ビスマスから選ばれた少なくとも1つの無機ビスマスであり、上記基油は、PAO油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、かつ 40℃における基油の動粘度が 30〜500 mm2/s であり、上記増ちょう剤は、ウレア系化合物およびリチウム石けんから選ばれた少なくとも1つの化合物であり、等速ジョイントには、上記等速ジョイント用グリースが封入されている。
【解決手段】基油と、増ちょう剤と、無機ビスマスとを含む等速ジョイント用グリースであって、上記無機ビスマスが、上記グリース全体に対して 0.01〜15 重量%配合され、上無機ビスマスは、ビスマス粉末、硫酸ビスマス、および三酸化ビスマスから選ばれた少なくとも1つの無機ビスマスであり、上記基油は、PAO油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、かつ 40℃における基油の動粘度が 30〜500 mm2/s であり、上記増ちょう剤は、ウレア系化合物およびリチウム石けんから選ばれた少なくとも1つの化合物であり、等速ジョイントには、上記等速ジョイント用グリースが封入されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に用いられる等速ジョイント用グリースおよびこのグリースを封入した等速ジョイントに関し、特にプランジング型等速ジョイントまたは固定型等速ボールジョイント用グリースおよびこれらグリースを封入した等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントは、近年の高性能自動車において発生する厳しい作用条件の下では、必ずしも満足なものとはいえない。プランジング型等速ジョイントとして用いられているダブルオフセット型等速ジョイントやクロスグルーブ型等速ジョイント等、また固定型等速ボールジョイントとして用いられるバーフィールドジョイント等は、いずれも数個のボールでトルクを伝達する構造を持つ。これらの等速ジョイントでは、回転時高面圧下で複雑な転がり滑りの往復運動により、ボールおよびボールと接触する金属表面に繰り返し応力が加わり、金属疲労によるフレーキング現象が発生しやすい。近年のエンジンの高出力化、また燃費向上のための自動車の軽量化により、ジョイントのサイズも小さくなるため、相対的に高面圧となり、従来のグリースではフレーキング現象を充分に防止することはできない。また、グリースの耐熱性向上も必要になってきている。
【0003】
従来、このような等速ジョイント用グリースには、潤滑グリースの潤滑膜が破断を防止するため、極圧剤(EP剤)含有グリースを使用して、その潤滑油膜の破断を軽減している。
例えば、ウレア系グリースに有機モリブデン化合物を配合したグリース(特許文献1)、ウレア系グリースに二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメイトおよび硫黄含有有機スズ化合物を配合したグリース(特許文献2)が知られている。
しかしながら、等速ジョイントが、高荷重下などで潤滑面に過酷な使用条件が付加されるにつれて、従来のグリースでは、フレーキング現象を充分に防止することはできず等速ジョイントの使用が困難になるなどの問題がある。
【特許文献1】特開昭63−46299号公報
【特許文献2】特開平10−183161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明における課題は、転がり滑り運動におけるフレーキングの防止性能および耐熱性能に優れた等速ジョイント用の新規グリース組成物および等速ジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の等速ジョイント用グリースは、基油と、増ちょう剤と、無機ビスマスとを含む等速ジョイント用グリースであって、上記無機ビスマスが、上記グリース全体に対して 0.01〜15 重量%配合されていることを特徴とする。
上無機ビスマスは、ビスマス粉末、硫酸ビスマス、および三酸化ビスマスから選ばれた少なくとも1つの無機ビスマスであることを特徴とする。
上記基油は、ポリ-α-オレフィン(以下、PAOと略称する)油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、かつ 40℃における基油の動粘度が 30〜500 mm2/s であることを特徴とする。
上記増ちょう剤は、ウレア系化合物およびリチウム石けんから選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする。
トラック溝と転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれ、上記転動体が上記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされる等速ジョイントであって、
該等速ジョイントに封入されるグリースが上記等速ジョイント用グリースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の等速ジョイント用グリースは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用したグリースを封入しているので、無機ビスマスが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。そのため、フレーキングを防止可能とする耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される等速ジョイントに好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
極圧剤含有グリースを封入した等速ジョイントの耐摩耗性および耐久性について検討した結果、グリース全体に対し、添加剤として無機ビスマスを 0.01〜15 重量%配合したグリースを封入した等速ジョイントは、無機ビスマス以外の添加剤を配合したグリースを封入した等速ジョイントに比べて、高荷重およびすべり運動下で摩耗が少なく、長期耐久性能が向上することがわかった。これは無機ビスマスが無機ビスマス以外の物質よりも耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0008】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用することができる無機ビスマスとしては、ビスマス粉末、炭酸ビスマス、塩化ビスマス、硝酸ビスマスおよびその水和物、硫酸ビスマス、フッ化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス、オキシフッ化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、オキシ臭化ビスマス、オキシヨウ化ビスマス、酸化ビスマスおよびその水和物、水酸化ビスマス、セレン化ビスマス、テルル化ビスマス、リン酸ビスマス、オキシ過塩素酸ビスマス、オキシ硫酸ビスマス、ビスマス酸ナトリウム、チタン酸ビスマス、ジルコン酸ビスマス、モリブデン酸ビスマス等が挙げられるが、本発明において、特に好ましいのは、耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果の高いビスマス粉末、硫酸ビスマスおよび三酸化ビスマスである。
【0009】
ビスマスは、水銀を除く全ての金属中最低の熱伝導度を有し、比重 9.8 、融点 271.3 ℃の銀白色の金属である。ビスマス粉末は、比較的軟質の金属であり、極圧を受けると膜状になりやすい。そのため粉末の粒径は、グリース中に分散できる粒径であればよい。本発明の等速ジョイント用グリースに使用するビスマス粉末としては、5〜500 μm であることが好ましい。
【0010】
本発明の等速ジョイント用グリースには、無機ビスマスを極圧剤として添加することを必須とする。この無機ビスマスは、1種類または、2種類を混合してグリースに添加してもよい。
また、無機ビスマスの添加量は、グリース全体に対し 0.01〜15 重量%である。好ましくは 1〜10 重量%である。添加量が 0.01 重量%未満では、耐摩耗性の向上効果が発揮されず、また、15 重量%をこえると、回転時のトルクが大きくなって、発熱が増大し、回転障害を生じるためである。
【0011】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用できる基油としては、例えば、鉱油、PAO油、エステル油、フェニルエーテル油、フッ素油、さらに、フィッシャートロプシュ反応で合成される合成炭化水素油(GTL基油)などが挙げられる。この中でも、PAO油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも一種を使用することが好ましい。上記のPAO油としては、通常、α−オレフィンまたは異性化されたα−オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α−オレフィンの具体例としては、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。また、鉱油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等の通常潤滑油やグリースの分野で使用されているものをいずれも使用することができる。
【0012】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用できる基油は、好ましくは、40℃における動粘度が 30〜500 mm2/s である。30 mm2/s 未満の場合は、蒸発量が増加し、耐熱性が低下するので好ましくなく、また、500 mm2/s をこえると回転トルクの増加により、等速ジョイントの回転トルク伝達面であるボールとトラック溝との転動面および球面ローラとトラック溝との転動面の温度上昇が大きくなるので好ましくない。
【0013】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用できる増ちょう剤として、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、複合リチウム、複合カルシウム、複合アルミニウムなどの金属石けん系増ちょう剤、および下記式(1)のジウレア化合物が挙げられる。好ましくは、ジウレア化合物またはリチウム石けんである。これらの増ちょう剤は、1種類単独で用いても2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【化1】
(式(1)中のR2 は、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基を、R1 およびR3 は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基または炭素数6〜20の脂環族炭化水素基または炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基をそれぞれ示し、R1 およびR3 は、同一であっても異なっていてもよい。)
式(1)で表されるウレア系化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、3,3−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
ウレア化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物を反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
基油にウレア化合物を配合して各種配合剤を配合するためのベースグリースが得られる。ベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。また、ウレア化合物以外にポリウレア化合物等も使用できる。
【0014】
本発明に使用できる等速ジョイント用グリースの混和ちょう度は 200〜400 の範囲が好ましい。200 未満では低温時の潤滑性能が悪くなり、400 をこえるとグリース組成物が漏れやすくなって好ましくない。
【0015】
本発明の等速ジョイント用グリースは、必要に応じて公知の添加剤をグリースに含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系、イオウ系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加することができる。
【0016】
本発明の等速ジョイント用グリースにおいて、添加剤の配合割合は、基油および増ちょう剤の合計量 100 重量部に対して、 0.01〜15 重量部であることが好ましい。添加剤の配合割合が、0.01 重量部未満では、効果が小さい。また 15 重量部をこえると発熱が大となるので、温度が上昇する。
基油の配合割合は、基油および増ちょう剤の合計量 100 重量部に対して、 50〜95 重量部であることが好ましい。基油の配合割合が、50 重量部未満では、潤滑油が少なく潤滑不良となりやすい。また 95 重量部をこえるとグリースが軟化しやすくなるので、漏れやすくなる。
【0017】
本発明の等速ジョイント用グリースは、等速ジョイント以外の高負荷がかかる軸受にも使用することができる。
【0018】
本発明の等速ジョイントは、上記等速ジョイント用グリースを封入したものであり、例えば、プランジング型等速ジョイントには、代表的なものとして、ダブルオフセット型等速ジョイントとトリポート型等速ジョイントがある。ダブルオフセット型等速ジョイントは、図1に示すように、外輪1の内面および球形内輪2の外面に軸方向の六本のトラック溝3、4を等角度に形成し、そのトラック溝3、4間に組み込んだボール5をケージ6で支持し、このケージ6の外周を球面7とし、かつ内周を内輸2の外周に適合する球面8とし、各球面7、8の中心(イ)、(ロ)を外輪1の軸心上において軸方向に位置をずらしてある。
また、外輪1の外周とシャフト9の外周とをブーツ10で覆い、その内部に本発明の等速ジョイント用グリース11が密封充填されている。プランジング型等速ジョイントは、上記のように転がりに比べて滑りの要素がきわめて多い。本発明の等速ジョイントは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用したグリースを封入しているので、無機ビスマスが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。
【0019】
一方、トリポート型等速ジョイントは、図2に示すように、外輪12の内面に軸方向の三本の円筒形トラック溝13を等角度に形成し、外輪12の内側に組み込んだトリポート部材14には三本の脚軸15を設け、各脚軸15の外側に球面ローラ16を嵌合し、その球面ローラ16と脚軸15との間にニ一ドル17を組み込んで球面ローラ16を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持し、その球面ローラ16を上記トラック溝13に嵌合してある。
また、外輪12の外周とシャフト9の外周とをブーツ10で覆い、その内部に本発明の等速ジョイント用グリース11が密封充填されている。
【0020】
上記の構成からなるプランジング型等速ジョイントにおいては、トラック溝3、4とボール5の係り合い、およびトラック溝13と球面ローラ16の係り合いによつて回転トルクの伝達が行なわれ、プランジングに対しては、ボール5がトラック溝3に沿って、球面ローラ16がトラック溝13に沿ってそれぞれ転動してこれを吸収する。
【0021】
ところで、ジョイントが作動角をとる状態で回転トルクを伝達する場合、ダブルオフセット型等速ジョイントにおいては、トラック溝3、4とボール5との嵌合において転がりと滑りが発生し、また、ケージ6と外輪1およびケージ6と内輪2との間において滑りが発生する。一方、トリポート型等速ジョイントにおいては、トラック溝13と球面ローラ16との間において転がりと滑りが発生する。本発明の等速ジョイントは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用したグリースを封入しているので、無機ビスマスが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1〜実施例11
反応容器中で、基油中に増ちょう剤を加え、3 本ロールミルを用いて均一化処理して、表1に示すLi石けん/鉱油系グリース( 40 ℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 220 )、ウレア/PAO油系グリース( 40 ℃基油粘度 46 mm2/s 、混和ちょう度 280 )、Li石けん/エステル油系グリース( 40 ℃基油粘度 33 mm2/s 、混和ちょう度 250 )、ウレア/エーテル油系グリース( 40 ℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 300 )を得た。
さらに、極圧剤として無機ビスマスを、表1に示す割合で上記グリースに添加して、各実施例のグリースを作製した。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0023】
比較例1〜比較例8
反応容器中で、基油中に増ちょう剤を加え、3本ロールミルを用いて均一化処理して、表2に示すLi石けん/鉱油系グリース( 40℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 220 )、ウレア/PAO油系グリース( 40℃基油粘度 46 mm2/s 、混和ちょう度 280 )、Li石けん/エステル油系グリース( 40℃基油粘度 30 mm2/s 、混和ちょう度 250 )、ウレア/エーテル油系グリース( 40℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 300 )を得た。
さらに、極圧剤として、有機ビスマス、MoDTCまたは亜鉛粉末を、表2に示す割合で上記グリースに添加して、各比較例のグリースを作製した。
【0024】
得られたグリースにつき、実施例と同様にして極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表2に併記した。
極圧性評価試験:
極圧性評価試験装置を図3に示す。評価試験装置は、回転軸18に固定されたφ40×10 のリング状試験片19と、この試験片19と端面21にて端面同士が擦り合わされるリング状試験片20とで構成される。ころ軸受用グリースを端面21部分に塗布し、回転軸18を回転数 2000 rpm、図3中右方向Aのアキシアル荷重 490 N 、ラジアル荷重 392 N を負荷して、極圧性を評価した。極圧性は両試験片のすべり部の摩擦摩耗増大により生じる回転軸18の振動を振動センサにて測定し、その振動値が初期値の 2 倍になるまで試験を行ない、その時間を測定した。
回転軸18の振動値が初期値の 2 倍になるまでの時間が長いほど極圧性効果が大となり、優れた耐熱耐久性を示す。したがってグリースの耐熱耐久性の評価は、測定された上記時間の長さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。
ころ軸受試験:
30206円すいころ軸受にグリースを 3.6 g 封入し、アキシアル荷重 980 N 、回転数 2600 rpm 、室温にて運転し、回転中のつば部表面温度を測定した。運転開始後、4〜8 時間までのつば部表面温度の平均値を算出した。
つば部と「ころ」との間に発生するすべり摩擦が大きくなると回転中のつば部表面温度は上昇する。そのためグリースの耐熱耐久性の評価は、測定された上記温度の高さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。上記温度の高さが 70℃以下であることが、グリースの耐熱耐久性に優れていると評価する基準とした。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表1および表2においてLi石けん/鉱油系グリースのデータを、各実施例と各比較例とを対比すると、極圧剤の種類では、有機ビスマスよりも無機ビスマスが、極圧性評価試験およびころ軸受試験において優れた耐熱耐久性を示した。
実施例11および比較例5に示すように、特にビスマス粉末は、有機ビスマスに比して約 6 倍の耐熱耐久性を示すことがわかる。また、実施例2および比較例5において、三酸化ビスマスは、有機ビスマスに比して約 3 倍の耐熱耐久性を示すことがわかる。これらのことから無機ビスマスが有機ビスマスよりも耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。
また、硫酸ビスマス、三酸化ビスマスおよびビスマス粉末の中では、ビスマス粉末が最も良好な耐熱耐久性を示した。
【0028】
三酸化ビスマスの添加量が 実施例5の 1 重量%、実施例2の 5 重量%、実施例6の 15 重量%と増加するにつれて極圧性効果が増加する傾向を示すが、三酸化ビスマスの添加量を 15 重量%と添加量 5 重量%の 3 倍に増加させても、極圧性効果の増加は約 1.4 倍に留まる。これは三酸化ビスマスの添加量が 15 重量%に近づくと、回転時のトルクが大きくなって、発熱が増大し、回転障害を生じる傾向にあるためと考えられる。
【0029】
また、比較例8に示すように、亜鉛粉末を添加した場合には、耐熱耐久性が著しく悪化し、無機化合物ではあっても亜鉛粉末には極圧性効果が認められなかった。これは亜鉛の融点が低く、グリースの耐熱性を向上させることができなかったためと考えられる。
【0030】
表1および表2においてウレア/PAO油系グリース、Li石けん/エステル油系グリース、ウレア/エーテル油系グリースのデータを、各実施例と各比較例とを対比すると、ウレア/PAO油系グリースの場合、極圧剤の種類では、有機ビスマスよりも硫酸ビスマスおよび三酸化ビスマスといった無機ビスマスが優れた耐熱耐久性を示す。実施例3、実施例4および比較例7に示すように、硫酸ビスマスは有機ビスマスに比して約 3 倍の耐熱耐久性を示し、三酸化ビスマスは有機ビスマスに比して約 4 倍の耐熱耐久性を示すことがわかる。これは無機ビスマスが有機ビスマスよりも耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。
【0031】
また、実施例7および比較例3に示すように、Li石けん/エステル油系グリースの場合、硫酸ビスマスを極圧剤として用いると極圧剤を使用しない場合に比して約 13 倍の耐熱耐久性を示した。
また、実施例8および比較例4に示すように、ウレア/エーテル油系グリースの場合、三酸化ビスマスを極圧剤として用いると極圧剤を使用しない場合に比して約 6 倍の耐熱耐久性を示した。以上のことから、硫酸ビスマスおよび三酸化ビスマスといった無機ビスマスが極圧性効果を長時間持続することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の等速ジョイント用グリースおよび等速ジョイントは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用しているので、極圧性効果を長期間持続することができる。そのため、耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される鉄道車両、建設機械、自動車電装補機などに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ダブルオフセット型等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図2】トリポート型等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図3】極圧性評価試験装置を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1、12 外輪
2 内輪
3、4 トラック溝
5 ボール
6 ケージ
7、8 球面
9 シャフト
10 ブーツ
11 等速ジョイント用グリース
13 トラック溝
14 トリポート部材
15 脚軸
16 球面ローラ
17 ニ一ドル
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に用いられる等速ジョイント用グリースおよびこのグリースを封入した等速ジョイントに関し、特にプランジング型等速ジョイントまたは固定型等速ボールジョイント用グリースおよびこれらグリースを封入した等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントは、近年の高性能自動車において発生する厳しい作用条件の下では、必ずしも満足なものとはいえない。プランジング型等速ジョイントとして用いられているダブルオフセット型等速ジョイントやクロスグルーブ型等速ジョイント等、また固定型等速ボールジョイントとして用いられるバーフィールドジョイント等は、いずれも数個のボールでトルクを伝達する構造を持つ。これらの等速ジョイントでは、回転時高面圧下で複雑な転がり滑りの往復運動により、ボールおよびボールと接触する金属表面に繰り返し応力が加わり、金属疲労によるフレーキング現象が発生しやすい。近年のエンジンの高出力化、また燃費向上のための自動車の軽量化により、ジョイントのサイズも小さくなるため、相対的に高面圧となり、従来のグリースではフレーキング現象を充分に防止することはできない。また、グリースの耐熱性向上も必要になってきている。
【0003】
従来、このような等速ジョイント用グリースには、潤滑グリースの潤滑膜が破断を防止するため、極圧剤(EP剤)含有グリースを使用して、その潤滑油膜の破断を軽減している。
例えば、ウレア系グリースに有機モリブデン化合物を配合したグリース(特許文献1)、ウレア系グリースに二硫化モリブデン、モリブデンジチオカーバメイトおよび硫黄含有有機スズ化合物を配合したグリース(特許文献2)が知られている。
しかしながら、等速ジョイントが、高荷重下などで潤滑面に過酷な使用条件が付加されるにつれて、従来のグリースでは、フレーキング現象を充分に防止することはできず等速ジョイントの使用が困難になるなどの問題がある。
【特許文献1】特開昭63−46299号公報
【特許文献2】特開平10−183161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明における課題は、転がり滑り運動におけるフレーキングの防止性能および耐熱性能に優れた等速ジョイント用の新規グリース組成物および等速ジョイントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の等速ジョイント用グリースは、基油と、増ちょう剤と、無機ビスマスとを含む等速ジョイント用グリースであって、上記無機ビスマスが、上記グリース全体に対して 0.01〜15 重量%配合されていることを特徴とする。
上無機ビスマスは、ビスマス粉末、硫酸ビスマス、および三酸化ビスマスから選ばれた少なくとも1つの無機ビスマスであることを特徴とする。
上記基油は、ポリ-α-オレフィン(以下、PAOと略称する)油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、かつ 40℃における基油の動粘度が 30〜500 mm2/s であることを特徴とする。
上記増ちょう剤は、ウレア系化合物およびリチウム石けんから選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする。
トラック溝と転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれ、上記転動体が上記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされる等速ジョイントであって、
該等速ジョイントに封入されるグリースが上記等速ジョイント用グリースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の等速ジョイント用グリースは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用したグリースを封入しているので、無機ビスマスが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。そのため、フレーキングを防止可能とする耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される等速ジョイントに好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
極圧剤含有グリースを封入した等速ジョイントの耐摩耗性および耐久性について検討した結果、グリース全体に対し、添加剤として無機ビスマスを 0.01〜15 重量%配合したグリースを封入した等速ジョイントは、無機ビスマス以外の添加剤を配合したグリースを封入した等速ジョイントに比べて、高荷重およびすべり運動下で摩耗が少なく、長期耐久性能が向上することがわかった。これは無機ビスマスが無機ビスマス以外の物質よりも耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0008】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用することができる無機ビスマスとしては、ビスマス粉末、炭酸ビスマス、塩化ビスマス、硝酸ビスマスおよびその水和物、硫酸ビスマス、フッ化ビスマス、臭化ビスマス、ヨウ化ビスマス、オキシフッ化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、オキシ臭化ビスマス、オキシヨウ化ビスマス、酸化ビスマスおよびその水和物、水酸化ビスマス、セレン化ビスマス、テルル化ビスマス、リン酸ビスマス、オキシ過塩素酸ビスマス、オキシ硫酸ビスマス、ビスマス酸ナトリウム、チタン酸ビスマス、ジルコン酸ビスマス、モリブデン酸ビスマス等が挙げられるが、本発明において、特に好ましいのは、耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果の高いビスマス粉末、硫酸ビスマスおよび三酸化ビスマスである。
【0009】
ビスマスは、水銀を除く全ての金属中最低の熱伝導度を有し、比重 9.8 、融点 271.3 ℃の銀白色の金属である。ビスマス粉末は、比較的軟質の金属であり、極圧を受けると膜状になりやすい。そのため粉末の粒径は、グリース中に分散できる粒径であればよい。本発明の等速ジョイント用グリースに使用するビスマス粉末としては、5〜500 μm であることが好ましい。
【0010】
本発明の等速ジョイント用グリースには、無機ビスマスを極圧剤として添加することを必須とする。この無機ビスマスは、1種類または、2種類を混合してグリースに添加してもよい。
また、無機ビスマスの添加量は、グリース全体に対し 0.01〜15 重量%である。好ましくは 1〜10 重量%である。添加量が 0.01 重量%未満では、耐摩耗性の向上効果が発揮されず、また、15 重量%をこえると、回転時のトルクが大きくなって、発熱が増大し、回転障害を生じるためである。
【0011】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用できる基油としては、例えば、鉱油、PAO油、エステル油、フェニルエーテル油、フッ素油、さらに、フィッシャートロプシュ反応で合成される合成炭化水素油(GTL基油)などが挙げられる。この中でも、PAO油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも一種を使用することが好ましい。上記のPAO油としては、通常、α−オレフィンまたは異性化されたα−オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α−オレフィンの具体例としては、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。また、鉱油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等の通常潤滑油やグリースの分野で使用されているものをいずれも使用することができる。
【0012】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用できる基油は、好ましくは、40℃における動粘度が 30〜500 mm2/s である。30 mm2/s 未満の場合は、蒸発量が増加し、耐熱性が低下するので好ましくなく、また、500 mm2/s をこえると回転トルクの増加により、等速ジョイントの回転トルク伝達面であるボールとトラック溝との転動面および球面ローラとトラック溝との転動面の温度上昇が大きくなるので好ましくない。
【0013】
本発明の等速ジョイント用グリースに使用できる増ちょう剤として、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、複合リチウム、複合カルシウム、複合アルミニウムなどの金属石けん系増ちょう剤、および下記式(1)のジウレア化合物が挙げられる。好ましくは、ジウレア化合物またはリチウム石けんである。これらの増ちょう剤は、1種類単独で用いても2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【化1】
(式(1)中のR2 は、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基を、R1 およびR3 は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基または炭素数6〜20の脂環族炭化水素基または炭素数6〜20の脂肪族炭化水素基をそれぞれ示し、R1 およびR3 は、同一であっても異なっていてもよい。)
式(1)で表されるウレア系化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、3,3−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
ウレア化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物を反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
基油にウレア化合物を配合して各種配合剤を配合するためのベースグリースが得られる。ベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。また、ウレア化合物以外にポリウレア化合物等も使用できる。
【0014】
本発明に使用できる等速ジョイント用グリースの混和ちょう度は 200〜400 の範囲が好ましい。200 未満では低温時の潤滑性能が悪くなり、400 をこえるとグリース組成物が漏れやすくなって好ましくない。
【0015】
本発明の等速ジョイント用グリースは、必要に応じて公知の添加剤をグリースに含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系、イオウ系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加することができる。
【0016】
本発明の等速ジョイント用グリースにおいて、添加剤の配合割合は、基油および増ちょう剤の合計量 100 重量部に対して、 0.01〜15 重量部であることが好ましい。添加剤の配合割合が、0.01 重量部未満では、効果が小さい。また 15 重量部をこえると発熱が大となるので、温度が上昇する。
基油の配合割合は、基油および増ちょう剤の合計量 100 重量部に対して、 50〜95 重量部であることが好ましい。基油の配合割合が、50 重量部未満では、潤滑油が少なく潤滑不良となりやすい。また 95 重量部をこえるとグリースが軟化しやすくなるので、漏れやすくなる。
【0017】
本発明の等速ジョイント用グリースは、等速ジョイント以外の高負荷がかかる軸受にも使用することができる。
【0018】
本発明の等速ジョイントは、上記等速ジョイント用グリースを封入したものであり、例えば、プランジング型等速ジョイントには、代表的なものとして、ダブルオフセット型等速ジョイントとトリポート型等速ジョイントがある。ダブルオフセット型等速ジョイントは、図1に示すように、外輪1の内面および球形内輪2の外面に軸方向の六本のトラック溝3、4を等角度に形成し、そのトラック溝3、4間に組み込んだボール5をケージ6で支持し、このケージ6の外周を球面7とし、かつ内周を内輸2の外周に適合する球面8とし、各球面7、8の中心(イ)、(ロ)を外輪1の軸心上において軸方向に位置をずらしてある。
また、外輪1の外周とシャフト9の外周とをブーツ10で覆い、その内部に本発明の等速ジョイント用グリース11が密封充填されている。プランジング型等速ジョイントは、上記のように転がりに比べて滑りの要素がきわめて多い。本発明の等速ジョイントは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用したグリースを封入しているので、無機ビスマスが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。
【0019】
一方、トリポート型等速ジョイントは、図2に示すように、外輪12の内面に軸方向の三本の円筒形トラック溝13を等角度に形成し、外輪12の内側に組み込んだトリポート部材14には三本の脚軸15を設け、各脚軸15の外側に球面ローラ16を嵌合し、その球面ローラ16と脚軸15との間にニ一ドル17を組み込んで球面ローラ16を回転可能に、かつ軸方向にスライド可能に支持し、その球面ローラ16を上記トラック溝13に嵌合してある。
また、外輪12の外周とシャフト9の外周とをブーツ10で覆い、その内部に本発明の等速ジョイント用グリース11が密封充填されている。
【0020】
上記の構成からなるプランジング型等速ジョイントにおいては、トラック溝3、4とボール5の係り合い、およびトラック溝13と球面ローラ16の係り合いによつて回転トルクの伝達が行なわれ、プランジングに対しては、ボール5がトラック溝3に沿って、球面ローラ16がトラック溝13に沿ってそれぞれ転動してこれを吸収する。
【0021】
ところで、ジョイントが作動角をとる状態で回転トルクを伝達する場合、ダブルオフセット型等速ジョイントにおいては、トラック溝3、4とボール5との嵌合において転がりと滑りが発生し、また、ケージ6と外輪1およびケージ6と内輪2との間において滑りが発生する。一方、トリポート型等速ジョイントにおいては、トラック溝13と球面ローラ16との間において転がりと滑りが発生する。本発明の等速ジョイントは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用したグリースを封入しているので、無機ビスマスが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。
【実施例】
【0022】
実施例1〜実施例11
反応容器中で、基油中に増ちょう剤を加え、3 本ロールミルを用いて均一化処理して、表1に示すLi石けん/鉱油系グリース( 40 ℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 220 )、ウレア/PAO油系グリース( 40 ℃基油粘度 46 mm2/s 、混和ちょう度 280 )、Li石けん/エステル油系グリース( 40 ℃基油粘度 33 mm2/s 、混和ちょう度 250 )、ウレア/エーテル油系グリース( 40 ℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 300 )を得た。
さらに、極圧剤として無機ビスマスを、表1に示す割合で上記グリースに添加して、各実施例のグリースを作製した。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0023】
比較例1〜比較例8
反応容器中で、基油中に増ちょう剤を加え、3本ロールミルを用いて均一化処理して、表2に示すLi石けん/鉱油系グリース( 40℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 220 )、ウレア/PAO油系グリース( 40℃基油粘度 46 mm2/s 、混和ちょう度 280 )、Li石けん/エステル油系グリース( 40℃基油粘度 30 mm2/s 、混和ちょう度 250 )、ウレア/エーテル油系グリース( 40℃基油粘度 100 mm2/s 、混和ちょう度 300 )を得た。
さらに、極圧剤として、有機ビスマス、MoDTCまたは亜鉛粉末を、表2に示す割合で上記グリースに添加して、各比較例のグリースを作製した。
【0024】
得られたグリースにつき、実施例と同様にして極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表2に併記した。
極圧性評価試験:
極圧性評価試験装置を図3に示す。評価試験装置は、回転軸18に固定されたφ40×10 のリング状試験片19と、この試験片19と端面21にて端面同士が擦り合わされるリング状試験片20とで構成される。ころ軸受用グリースを端面21部分に塗布し、回転軸18を回転数 2000 rpm、図3中右方向Aのアキシアル荷重 490 N 、ラジアル荷重 392 N を負荷して、極圧性を評価した。極圧性は両試験片のすべり部の摩擦摩耗増大により生じる回転軸18の振動を振動センサにて測定し、その振動値が初期値の 2 倍になるまで試験を行ない、その時間を測定した。
回転軸18の振動値が初期値の 2 倍になるまでの時間が長いほど極圧性効果が大となり、優れた耐熱耐久性を示す。したがってグリースの耐熱耐久性の評価は、測定された上記時間の長さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。
ころ軸受試験:
30206円すいころ軸受にグリースを 3.6 g 封入し、アキシアル荷重 980 N 、回転数 2600 rpm 、室温にて運転し、回転中のつば部表面温度を測定した。運転開始後、4〜8 時間までのつば部表面温度の平均値を算出した。
つば部と「ころ」との間に発生するすべり摩擦が大きくなると回転中のつば部表面温度は上昇する。そのためグリースの耐熱耐久性の評価は、測定された上記温度の高さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。上記温度の高さが 70℃以下であることが、グリースの耐熱耐久性に優れていると評価する基準とした。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
表1および表2においてLi石けん/鉱油系グリースのデータを、各実施例と各比較例とを対比すると、極圧剤の種類では、有機ビスマスよりも無機ビスマスが、極圧性評価試験およびころ軸受試験において優れた耐熱耐久性を示した。
実施例11および比較例5に示すように、特にビスマス粉末は、有機ビスマスに比して約 6 倍の耐熱耐久性を示すことがわかる。また、実施例2および比較例5において、三酸化ビスマスは、有機ビスマスに比して約 3 倍の耐熱耐久性を示すことがわかる。これらのことから無機ビスマスが有機ビスマスよりも耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。
また、硫酸ビスマス、三酸化ビスマスおよびビスマス粉末の中では、ビスマス粉末が最も良好な耐熱耐久性を示した。
【0028】
三酸化ビスマスの添加量が 実施例5の 1 重量%、実施例2の 5 重量%、実施例6の 15 重量%と増加するにつれて極圧性効果が増加する傾向を示すが、三酸化ビスマスの添加量を 15 重量%と添加量 5 重量%の 3 倍に増加させても、極圧性効果の増加は約 1.4 倍に留まる。これは三酸化ビスマスの添加量が 15 重量%に近づくと、回転時のトルクが大きくなって、発熱が増大し、回転障害を生じる傾向にあるためと考えられる。
【0029】
また、比較例8に示すように、亜鉛粉末を添加した場合には、耐熱耐久性が著しく悪化し、無機化合物ではあっても亜鉛粉末には極圧性効果が認められなかった。これは亜鉛の融点が低く、グリースの耐熱性を向上させることができなかったためと考えられる。
【0030】
表1および表2においてウレア/PAO油系グリース、Li石けん/エステル油系グリース、ウレア/エーテル油系グリースのデータを、各実施例と各比較例とを対比すると、ウレア/PAO油系グリースの場合、極圧剤の種類では、有機ビスマスよりも硫酸ビスマスおよび三酸化ビスマスといった無機ビスマスが優れた耐熱耐久性を示す。実施例3、実施例4および比較例7に示すように、硫酸ビスマスは有機ビスマスに比して約 3 倍の耐熱耐久性を示し、三酸化ビスマスは有機ビスマスに比して約 4 倍の耐熱耐久性を示すことがわかる。これは無機ビスマスが有機ビスマスよりも耐熱耐久性に優れ、熱分解しにくいため、極圧性効果を長時間持続することができることによるものと考えられる。
【0031】
また、実施例7および比較例3に示すように、Li石けん/エステル油系グリースの場合、硫酸ビスマスを極圧剤として用いると極圧剤を使用しない場合に比して約 13 倍の耐熱耐久性を示した。
また、実施例8および比較例4に示すように、ウレア/エーテル油系グリースの場合、三酸化ビスマスを極圧剤として用いると極圧剤を使用しない場合に比して約 6 倍の耐熱耐久性を示した。以上のことから、硫酸ビスマスおよび三酸化ビスマスといった無機ビスマスが極圧性効果を長時間持続することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の等速ジョイント用グリースおよび等速ジョイントは、耐熱耐久性に優れた無機ビスマスを使用しているので、極圧性効果を長期間持続することができる。そのため、耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される鉄道車両、建設機械、自動車電装補機などに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ダブルオフセット型等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図2】トリポート型等速ジョイントの一部切欠断面図である。
【図3】極圧性評価試験装置を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1、12 外輪
2 内輪
3、4 トラック溝
5 ボール
6 ケージ
7、8 球面
9 シャフト
10 ブーツ
11 等速ジョイント用グリース
13 トラック溝
14 トリポート部材
15 脚軸
16 球面ローラ
17 ニ一ドル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、無機ビスマスとを含む等速ジョイント用グリースであって、
前記無機ビスマスが、前記グリース全体に対して 0.01〜15 重量%配合されていることを特徴とする等速ジョイント用グリース。
【請求項2】
前記無機ビスマスは、ビスマス粉末、硫酸ビスマス、および三酸化ビスマスから選ばれた少なくとも1つの無機ビスマスであることを特徴とする請求項1記載の等速ジョイント用グリース。
【請求項3】
前記基油は、ポリ-α-オレフィン油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、かつ 40℃における基油の動粘度が 30〜500 mm2/s であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の等速ジョイント用グリース。
【請求項4】
前記増ちょう剤は、ウレア系化合物およびリチウム石けんから選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の等速ジョイント用グリース。
【請求項5】
トラック溝と転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれ、前記転動体が前記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされる等速ジョイントであって、
該等速ジョイントに封入されるグリースが請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の等速ジョイント用グリースであることを特徴とする等速ジョイント。
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、無機ビスマスとを含む等速ジョイント用グリースであって、
前記無機ビスマスが、前記グリース全体に対して 0.01〜15 重量%配合されていることを特徴とする等速ジョイント用グリース。
【請求項2】
前記無機ビスマスは、ビスマス粉末、硫酸ビスマス、および三酸化ビスマスから選ばれた少なくとも1つの無機ビスマスであることを特徴とする請求項1記載の等速ジョイント用グリース。
【請求項3】
前記基油は、ポリ-α-オレフィン油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも1つの油からなり、かつ 40℃における基油の動粘度が 30〜500 mm2/s であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の等速ジョイント用グリース。
【請求項4】
前記増ちょう剤は、ウレア系化合物およびリチウム石けんから選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の等速ジョイント用グリース。
【請求項5】
トラック溝と転動体との係り合いによって回転トルクの伝達が行なわれ、前記転動体が前記トラック溝に沿って転動することによって軸方向移動がなされる等速ジョイントであって、
該等速ジョイントに封入されるグリースが請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の等速ジョイント用グリースであることを特徴とする等速ジョイント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2006−199761(P2006−199761A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10906(P2005−10906)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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