説明

等速自在継手のボール挙動計測装置

【課題】等速自在継手のボールの挙動を検出できて、ボールの剥離等による寿命を把握できる等速自在継手のボール挙動計測装置を提供する。
【解決手段】ボールポケットを有するボール支持体6をケージ16に周方向のスライドを可能として付設する。ボールのうちの一つを着磁ボール5aとする。着磁ボール5aをボールポケットに回転可能に支持させる。ボール支持体6に、着磁ボール5aの中心が原点となる3次元座標系のX,Y,Z軸のうちのX、Y軸方向のボール磁軸の変化を検出するX成分検出器50及びY成分検出器51を配置する。3次元座標系のZ軸方向の磁路を有する磁気回路75を構成して、ボール支持体6から離れた位置に、Z軸方向のボール磁軸の変化を測定するZ成分検出器52を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は等速自在継手のボール挙動計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手には、内径面にトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面にトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するケージとを備えた固定式等速自在継手がある。
【0003】
このため、トルク伝達用のボールの動きは等速自在継手の寿命に大きく影響を与える。しかしながら、この種の等速自在継手においては、ボールとトラック間の滑り量やスピン量などの基本的物理量の把握ができていないのが現状である。
【0004】
ところで、トルク伝達用のボールを使用するものには玉軸受がある。この玉軸受に対しては、ボールの挙動を測定する方法が種々提案されている。この測定方法には、光学的計測方法と、磁気的測定方法(非特許文献1)とがある。
【0005】
光学的計測方法としては、光ファイバ式変位計を使用してそのボールの挙動を測定するものがある。また、磁気的測定方法には、ボールを着磁し、その着磁ボールと、サーチコイルを用いた2次元挙動計測方法、さらには、非特許文献1のように、着磁ボールと磁気センサ(ホール素子)とを用いた3次元挙動測定方法がある。
【非特許文献1】第25回通常総会予稿集A・19「日本潤滑学会 1981年」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、前記磁気的測定方法のホール素子を用いる計測は、固定側に3次元座標軸上にそれぞれホール素子を配置し、着磁ボール(磁化玉)が1周する間の特定点で固定側に配置したホール素子により着磁ボールの磁軸の変位を測定する。これによって、着磁ボールの挙動を検出するようにしている。
【0007】
ここで、ホール素子とはホール効果を利用した磁気センサである。このホール効果は、固体(半導体薄膜)に電流を流し、この固体に磁界を加えたとき、電流方向及び磁界方向それぞれに垂直な方向に電圧が発生するという原理に基づくものである。すなわち、図25に示すように、入力端子に制御電流Icを流して、ホール素子1に磁界Bを加えると、入力端子の対角をなす出力端子からは、次の数1に示される式で表される電圧Vhが誘起される。
【0008】
【数1】

【0009】
ここで、Rhはホール係数であり、1/e・nで表される。eは電荷量であり、nはキャリア濃度である。
【0010】
制御電流を一定とすると、磁束の方向がホール電圧によって決まる。このため、図26に示すように、着磁ボール2の中心Oを原点とした3次元座標のX、Y、Zの3軸上にそれぞれホール素子1を配置して、各ホール素子1に前記制御電流Icを流せば、磁束の座標軸方向成分に比例したホール電圧Vhが得られる。このため、発生電圧から磁束の方向すなわち、ボール2の磁軸3の方向が3次元的に決定できる。このように、ボール2の磁軸3の方向が3次元的に決定できれば、ボール2の挙動を検出できる。
【0011】
ところが、等速自在継手は、玉軸受と相違して、ボールがケージポケット内でスライドする。このため、ボールがケージポケット内でスライドしない玉軸受に対する測定方法(前記光学的測定方法及び磁気的測定方法)をそのまま等速自在継手に適用できない。しかも、玉軸受に比べて等速自在継手は大型であり、このようなものに対応できるようにするには困難が予想される。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、等速自在継手のボールの挙動を検出できて、ボールの剥離等による寿命を把握できる等速自在継手のボール挙動計測装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の等速自在継手のボール挙動計測装置は、内径面にトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面にトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するケージとを備えた等速自在継手のボール挙動計測装置であって、ボールポケットを有するボール支持体を前記ケージに周方向のスライドを可能として付設するとともに、前記ボールのうちの一つを着磁ボールとして、この着磁ボールをボールポケットに回転可能に支持させて、ボール支持体において、着磁ボールの中心が原点となる3次元座標系のX、Y、Z軸のうちのX、Y軸上にX成分検出器及びY成分検出器を配置し、さらに、前記3次元座標系のZ軸と平行な磁路を有する磁気回路を構成して、この磁気回路におけるボール支持体から離れた位置の前記磁路上に、Z成分検出器を配置し、このX成分検出器とY成分検出器とZ成分検出器にて、前記着磁ボールの磁軸の方向を3次元的に検出するものである。
【0014】
本発明の等速自在継手のボール挙動計測装置によれば、着磁ボールは、ケージに周方向のスライドを可能として付設されるボール支持体に配置されるので、ケージの周方向に移動できる。そして、X成分検出器にて、着磁ボールの中心が原点となる3次元座標系のX軸におけるボール磁軸の方向変化を検出することができ、Y成分検出器にて、着磁ボールの中心が原点となる3次元座標系のY軸におけるボール磁軸の方向変化を検出することができる。また、3次元座標系のZ軸おけるボール磁軸の方向変化をZ成分検出器にて検出できる。
【0015】
すなわち、ボール支持体に配置されるX成分検出器及びY成分検出器にて検出されるX、Y成分はケージポケット内成分(径方向のポケット中心線が直交する面内の成分)である。このため、このX、Y軸に直交するZ軸方向のボール磁軸を測定するための検出器を、このボール支持体に配置することができない。そこで、3次元座標系のZ軸方向の磁路を有する磁気回路を構成することによって、Z軸におけるボール磁軸の方向変化を検出するようにしている。このため、発生電圧から磁束の方向すなわち着磁ボールの磁軸の方向を三次元的に決定でき、ボールの自転を検出できてボールの挙動を把握することができる。
【0016】
前記着磁ボールとボール支持体のポケットとが点接触するようにできる。これにより、着磁ボールとボール支持体のポケットとの接触を、この種の等速自在継手のボールとケージポケットの接触に合わせることができる。
【0017】
また、前記検出器を、ホール素子から構成することができる。ここで、ホール素子とは、ホール効果を利用した磁気センサである。
【0018】
前記X成分検出器及びY成分検出器の配置位置を有限要素法にて設定することができる。有限要素法とは、数値解析法のひとつで、複雑な形状や性質を持つ物体を単純化するまで小さく分割し、それぞれの部分の計算結果を足し合わせることで全体の挙動を近似値として求めようとする手法である。このため、支持体での検出器の配置位置を、磁気の検出に最適な位置とするようにできる。
【0019】
前記X成分検出器及びY成分検出器との温度特性を同じとすることができる。これによって、X成分検出器とY成分検出器との温度上昇による検出誤差の発生を防止できる。
【0020】
前記磁気回路のZ軸方向の磁路を複数本有するとともに、前記Z成分検出器がこの磁路に対応して複数個有し、各Z成分検出器の温度特性を前記X成分検出器及びY成分検出器の温度特性よりも小さくしてもよい。この場合、Z軸方向の出力は各Z成分検出器の合力であり、このため、各Z成分検出器の温度特性が小さいことは、全体として温度の影響が小さくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の等速自在継手のボール挙動計測装置によれば、各検出器の発生電圧から磁束の方向すなわち着磁ボールの磁軸の方向を三次元的に決定でき、ボールの自転を検出できてボールの挙動を把握することができる。このため、ボールの挙動に基づいて、等速自在継手の長寿命化等の開発効率の向上を図ることができる。特に、ボールの円周方向の移動とともにX成分検出器とY成分検出器とは一体に移動でき、計測精度(検出精度)の向上を図ることができる。
【0022】
着磁ボールとボール支持体のポケットとの接触を、この種の等速自在継手のボールとケージポケットの接触に合わせることができる。このため、計測できるボールの挙動の信頼性が一層向上する。
【0023】
前記検出器を、ホール素子から構成することができるので、ボールの磁軸の変位検出が安定する。また、支持体での検出器の配置位置を、磁気の検出に最適な位置とするようにできるので、高精度にボールの磁軸の位置を検出することができる。
【0024】
検出器にて検出されるボールの磁軸データが、温度変動による影響をあまり受けなくすることができ、計測精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る等速自在継手のボール挙動計測装置の実施形態を図1〜図23に基づいて説明する。
【0026】
図1と図2に示すボール挙動計測装置は、着磁ボール(磁化玉)5aを支持したボール支持体6を備え、このボール支持体6は等速自在継手のケージ16に付設されている。等速自在継手は図3に示すように、内径面10にトラック溝11が形成された外側継手部材12と、外径面13にトラック溝14が形成された内側継手部材15と、前記外側継手部材12のトラック溝11と内側継手部材15のトラック溝14との間に介在してトルクを伝達する複数のボール5と、外側継手部材12の内径面10と内側継手部材15の外径面13との間に介在してボール5を保持するケージ16とを備える。
【0027】
外側継手部材12は、一方の開口部がエンドキャップ7にて塞がれ、他方の開口部が密着装置8にて塞がれている。この密封装置8はブーツ8aと金属製のブーツアダプタ8bとからなる。そして、内側継手部材15にはシャフト9の端部9aが嵌入され、ブーツ12の小端部がシャフト9にブーツバンドを介して取付けられ、ブーツ8aの大端部が、外側継手部材12に装着されるブーツアダプタ8bに加締めて保持されている。
【0028】
ケージ16は、図4と図5に示すように、その周壁17には、1個の矩形孔18及び複数個のポケット19(この場合、5個)が形成されている。矩形孔18には前記ボール支持体6が嵌着され、ポケット19にはボール5(非磁化玉)が支持される。
【0029】
矩形孔18の軸方向端面20、21にはそれぞれL字状の溝22a、22b、22c、22dが設けられている。各溝22a、22b、22c、22dは、図7に示すように、ケージ外径面23に開口する径方向部24と、径方向部24から延びる周方向部25とからなる。周方向部25は、その断面形状が図8と図9に示すように、半円形状とされる。また、溝22a、22b間の周壁17には、図4と図6に示すような一対の切欠溝26a、26bが形成されている。
【0030】
また、ボール支持体6は、図10に示すように円形貫孔27を有する矩形状の本体枠28と、この本体枠28の貫孔27に嵌合される第1リング体29と、第1リング体29に内嵌される第2リング体30とを備える。
【0031】
本体枠28は、図1と図2に示すように、ケージ16の矩形孔18に嵌合し、この嵌合した状態で、その外面31がケージ外径面23と連続する凸曲面に形成され、その内面32がケージ内径面33と連続する凹曲面とされる。
【0032】
ケージ16の矩形孔18の軸方向端面20、21に対応する端面34、35には、溝22a、22b、22c、22dに対応する溝36a、36b、36、36dが形成されている。各溝36a、36b、36、36dは、図17と図18と図20とに示すように、外面31に開口する径方向部37と、この径方向部37に連設される周方向部38とからなる。
【0033】
第1リング体29は、図11に示すように、その外面40がケージ外径面23及び本体枠28の外面31と連続する凸曲面に形成され、その内面41がケージ内径面33及び本体枠28の内面32と連続する凹曲面とされる。
【0034】
また、第2リング体30は、図21と図22に示すように、その内周面に相対面する平坦面43、44が設けられている。この平坦面43、44は、軸方向端面20、21に対応し、180度反対位置に配置されている。第2リング体30は、その外面45がケージ外径面23、本体枠28の外面31、及び第1リング体29の外面40と連続する凸曲面に形成され、その内面46がケージ内径面33、本体枠28の内面32、及び第2リング体29の内面41と連続する凹曲面とされる。
【0035】
本体枠28と第1リング体29と第2リング体30とを組み合わせた状態でボール支持体6が構成され、図1と図2に示すように、このボール支持体6に検出器(X成分検出器)50、50及び検出器(Y成分検出器)51、51が配置される。検出器50、51は、ホール素子にて構成される磁気センサが用いられる。すなわち、前記したように、ホール素子1は、その入力端子に制御電流Icを流して、ホール素子1に磁界Bを加えると、入力端子の対角をなす出力端子から電圧Vhが誘起される。
【0036】
X成分検出器50、50は、本体枠28の端面(第1端面)34とこれに隣合う第3端面55とが成す角57と、本体枠28の端面(第2端面)35とこれに隣合う第4端面56とが成す角58とを結ぶ対角線L1上に配置される。Y成分検出器51、51は、本体枠28の端面(第2端面)35とこれに隣合う第3端面55とが成す角59と、本体枠28の端面(第1端面)34とこれに隣合う第4端面56とが成す角60とを結ぶ対角線L2上に配置される。
【0037】
この場合、図10に示すように、ボール支持体6には、検出器50、51及び各検出器50、51に接続される配線61、62が収納される収納用溝63、64が設けられている。第1収納用溝63は、第1リング体29と第2リング体30に対応して形成され、その直線状先端部63aが対角線L1に対応し、その基端部63bがケージ16の第1切欠溝26aに対応する。また、先端部63aは、図12に示すように、ほぼ第2リング体30に形成され、図14に示すように、その底面65がほぼ第2リング体30の内面46に達する程度の深さとされ、この先端部63aにX成分検出器50(50a)が収容される。先端部63aと基端部63bとの間の中間部63cは、第1リング体29に沿った円弧状とされる。
【0038】
また、基端部63bの底面66は、図13と図15に示すように、外方(ケージ16の矩形孔18の軸方向端面20側)に向かって順次深くなるテーパ面とされている。さらに、中間部63cにおける基端部63b側には図13に示すように、幅広部68が形成されている。幅広部68は、中間部63cから連続する第1部68aと、第1部68aの内径側に配設される第2部68bとからなる。なお、基端部63b以外、つまり先端部63aの底面65と、先端部63aと基端部63bとの間の中間部63cの底面67とが同一深さとされている。
【0039】
このため、図1に示すように、X成分検出器50aが第1収納溝63の先端部63aに収納されて、この配線61が、先端部63a,中間部63c,基端部63b、及び切欠溝26aを介して、外部へ引き出される。また、Y成分検出器51aが第1収納溝63の幅広部68の第2部68bに収容されて、この配線62が、基端部63b及び切欠溝26aを介して、外部へ引き出される。
【0040】
また、第2収納溝64も、直線状先端部64aと、ケージ16の第2切欠溝26bに対向する基端部64bと、第1リング体29に沿って配設される円弧状の中間部64cとからなる。この場合も、基端部64bは、外方(ケージ16の矩形孔18の軸方向内端面20側)に向かって順次深くなるテーパ面とされている。さらに、中間部64cにおける基端部64b側には、第1部68aと第2部68bとからなる幅広部68が形成されている。
【0041】
Y成分検出器51bが第2収納溝64の先端部64aに収納されて、この配線62が、先端部64a,中間部64c,基端部64b、及び切欠溝26bを介して、外部へ引き出される。また、X成分検出器50bが第2収納溝64の幅広部68の第2部68bに収容されて、この配線61が、基端部64b及び切欠溝26bを介して、外部へ引き出される。
【0042】
ところで、図1に示すように、ボール支持体6が矩形孔18に嵌合された際には、ケージ16の溝22aに支持体6の溝36aが対応し、ケージ16の溝22bに支持体6の溝36bが対応し、ケージ16の溝22cに支持体6の溝36cが対応し、ケージ16の溝22cに支持体6の溝36cが対応し、ケージ16の溝22dに支持体6の溝36dが対応する。
【0043】
このため、溝22a、36aにてボール嵌合用孔部70aが構成され、溝22b、36bにてボール嵌合用孔部70bが構成され、溝22c、36cにてボール嵌合用孔部70cが構成され、溝22d、36dにてボール嵌合用孔部70dが構成される。そして、各ボール嵌合用孔部70a、70b、70c、70dにスライド用ボール71が嵌合されている。
【0044】
また、ケージ16の矩形孔18の第1・第2端面間寸法M1をボール支持体6の第1・第2端面間寸法m1と略同一とし、ケージ16の矩形孔18の第3・第4端面間寸法M2をボール支持体6の第3・第4端面間寸法m2よりも大きく設定した。
【0045】
このため、ボール嵌合用孔部70a、70b、70c、70dに嵌合しているスライド用ボール71を介して、ボール支持体6は矩形孔18内での図2に示すように、矢印N1、N2の周方向のスライドが可能となる。
【0046】
このボール支持体6には、第2リング体30の孔部42にて構成されるボールポケット72が構成され、このボールポケット72に着磁したボール(磁化玉)5aが嵌合される。この際、前記第2リング体30の内周面42の平坦面43、44に対して点接触して接触する。なお、平坦面43、44の長さの範囲R分、点接触することになる。
【0047】
従って、この装置では、着磁ボール5aをボールポケット72に回転可能に支持させて、着磁ボール5aの中心Oが原点となる3次元座標系のX,Y,Z軸のうちのX軸上に一対のX成分検出器50a、50bを配置し、Y軸上にY成分検出器51a、51bを配置することになる。なお、このボール支持体6には、肉抜き孔98が設けられている。
【0048】
すなわち、各検出器50a、50b、51a、51bに前記制御電流を流せば、磁束の座標軸方向成分に比例したホール電圧が得られるので、ボール磁軸のX軸方向の変化及びY軸方向の変化を検出することができる。このため、X−Y平面(ポケット中心線が直交する面)上のボール磁軸の位置変化を検出できる。
【0049】
ところで、検出器50、51を構成するホール素子においては、磁気検出に最適な配置を行う必要がある。そこで、本発明では、図23の(A)(B)(C)(D)のボール支持体6A、6B、6C、6Dを製作して、有限要素法による磁場解析を実施し、磁場によるボール5aの回転運動への影響を調査した。
【0050】
6Aのタイプは、磁性材からなるケージ100に、磁性材からなる第1枠体101を嵌合させ、この第1枠体101内に非磁性材からなる矩形枠の第2枠体102を嵌合させて、この第2枠体102に磁化玉103を収容したものである。そして、第2枠体102の各辺の外面側にホール素子105を配置している。
【0051】
6Bのタイプは、磁性材からなるケージ100に、非磁性材からなる第1枠体106を嵌合させ、この第1枠体106内に磁性材からなる円形リング状の第2枠体107を嵌合させて、さらにこの第2枠体107に非磁性材からなる円形リング状の第2枠体108を嵌合させて、この第3枠体108に磁化玉103を収容したものである。そして、第3枠体108の外周面にホール素子105を配置している。
【0052】
6Cのタイプは、磁性材からなるケージ100に、非磁性材からなる第1枠体106を嵌合させ、第1枠体106内に磁性材からなる円形リング状の第2枠体107を嵌合させて、さらに第2枠体107内に非磁性材からなる円形リング状の第3枠体108を嵌合させ、この第3枠体108に磁化玉103を配置している。そして、第2枠体107の内周面にホール素子105を配置している。
【0053】
6Dのタイプは、6Cのタイプにおいて、ホール素子105と第2枠体107の内周面との間に隙間を設けている。
【0054】
解析の結果、磁化玉105に誘起される力が6Dのタイプが一番小さいことがわかった。そこで、本発明では、この6Dのタイプのような構成とした。このため、本体枠28と第2リング体30とを非磁性材にて構成し、第1リング体29を磁性材にて構成した。すなわち、本体枠28が第1枠体106に対応し、第1リング体29が第2枠体107に対応し、第2リング体30が第3枠体108に対応する。
【0055】
また、検出器50、51に用いられるホール素子は、等速自在継手による温度の影響を受けることから、各検出器50、51の温度特性が同じものを使用するのが好ましい。
【0056】
ところで、前記ボール支持体6では、X,Y,Z方向のうちX、Y方向の2軸成分しか計測できない。このため、本発明では、図3に示すような磁気回路75を構成できるようにして、これによって、Z方向のボール磁軸の方向変化を計測できるようにした。
【0057】
この場合、支持構造体76にて等速自在継手を支持することになる。支持構造体76は、等速自在継手の外側継手部材12を支持する第1部材77と、この等速自在継手の内側継手部材15に嵌入されたシャフト9を支持する第2部材78と、第1部材77と第2部材78とを連結する連結部材79とを備える。
【0058】
第1部材77は、外側継手部材12のフランジ80を介して連結される回転体81と、この回転体81に軸受82を介して外嵌される固定体83とを備える。回転体81は、磁性材からなるリング状体81aと、このリング状体81aの開口部を塞ぐ非磁性材からなる円盤状体81bとを有し、リング状体81aが外側継手部材12のフランジ80に取付けられる。
【0059】
固定体83は、連結部材79に固定される本体部84と、本体部84に嵌合される嵌合部85とを有する。本体部84は、大径部86と中径部87と小径部88とを有する孔部84aを備え、大径部86に嵌合部85が嵌合されている。
【0060】
また、連結部材79は、第1部材77側および第2部材78側の端面79a、79bがそれぞれテーパ面とされ、また、端面79aには、第1部材77が嵌合する凹部89aが設けられ、端面79bには、第2部材78が嵌合する凹部89bが設けられている。
【0061】
第1部材78は、シャフト9が挿通される円筒体90と、連結部材79の凹部89bに嵌合する本体部91と、この本体部91に嵌合する第1嵌合部92と、第1嵌合部92に嵌合する第2嵌合部93とを有する。すなわち、本体部91は嵌合凹所91aを有し、この嵌合凹所91aに第1嵌合部92が嵌合し、第1嵌合部92は嵌合凹所92aを有し、この嵌合凹所92aに第2嵌合部93が嵌合している。また、第2嵌合部93は嵌合凹所93aを有し、この嵌合凹所93aに軸受94が嵌合している。さらに、本体部91と第1嵌合部92には、カバー部材95が装着されている。
【0062】
そして、リング状体81a、嵌合部85、本体部84、連結部材79、本体部91、カバー部材95、円筒体90、及び軸受82、94(内輪、外輪、及びボール)が磁性材にて構成されている。これに対して、円盤状体81b及び第1嵌合部92が非磁性材からなる。また、シャフト9は、円筒体90に挿通される部位より等速自在継手側は、磁性材にて構成され、この円筒体90対応部よりも反等速自在継手側の所定範囲Wは非磁性材から構成されている。なお、所定範囲Wの介装軸部96は、その軸方向端面が摩擦接合等にて接合されている。
【0063】
また、第2嵌合部93の外径側に、図24に示すように、3個の第4嵌合部97を配置し、この第4嵌合部97のすきまに検出器(Z成分検出器)52を配置している。この検出器52も、前記X成分検出器50及びY成分検出器51と同様ホール素子にて構成される。
【0064】
このように、支持構造体76にて支持されている等速自在継手によれば、図3の矢印のように、磁化玉5aから第1部材77、連結部材79、第2部材78、シャフト9、及び内側継手部材15を通り、磁化玉5aに戻る磁気回路75が形成される。すなわち、第4嵌合部97のすきまの通路を設けることによって、円周方向に3箇所等配の磁気回路路75が設けられ、前記通路にZ成分検出器52a、52b、52cが配置されることになる。
【0065】
Z成分検出器52a、52b、52cにて、前記X、Y方向と直交するZ方向のボール5aの方向変化を検出することができる。これによって、前記X成分検出器50とY成分検出器51と合わせて、相互に直交する3軸方向のボール磁軸の方向変化を検出することができる。すなわち、各検出器50、51、52の発生電圧から磁束の方向すなわち着磁ボール5aの磁軸の方向を三次元的に決定できる。
【0066】
なお、支持構造体76の各部材はボルト部材(図示省略)を介して連結される。この場合、連結するどちらか一方が非磁性材であれば、使用するボルト部材には非磁性材を使用する。また、どちらも非磁性材であれば、ボルト部材には非磁性材を使用し、どちらも磁性材であれば、ボルト部材には磁性材を使用する。
【0067】
ところで、Z軸方向のボール5aの変化は、3個のZ成分検出器52a、52b、52cの出力を合わせることになるので、各Z成分検出器52の温度特性は小さいもの(X成分検出器50及びY成分検出器51)を選択するのが好ましい。
【0068】
本発明では、各検出器50、51、52の発生電圧から磁束の方向すなわち着磁ボール5aの磁軸の方向を三次元的に決定でき、ボールaの自転を検出できてボール5aの挙動を把握することができる。このため、ボール5aの挙動に基づいて、等速自在継手の長寿命化等の開発効率の向上を図ることができる。特に、ボール5あの円周方向の移動とともにX成分検出器50とY成分検出器51とは一体に移動でき、計測精度(検出精度)の向上を図ることができる。
【0069】
着磁ボール5とボール支持体6のポケット72との接触を、この種の等速自在継手のボール5とケージポケット19の接触に合わせることができる。このため、計測できるボール5aの挙動の信頼性が向上する。
【0070】
前記検出器50、51、52を、ホール素子から構成することができるので、ボール5aの磁軸の変位検出が安定する。また、支持体6での検出器50、51の配置位置を、磁気の検出に最適な位置とするようにできるので、高精度にボール5aの磁軸の位置を検出することができる。
【0071】
前記X成分検出器50及びY成分検出器51との温度特性を同じとすることができる。これによって、X成分検出器50とY成分検出器51との温度上昇による検出誤差の発生を防止でき、高精度の検出が可能である。また、各Z成分検出器52の温度特性が小さいものとすれば、全体として温度の影響が小さくなる。このように、本発明では、各検出器50、51、52の温度特性を考慮することによって、温度の影響を受けない精度のよい検出を行うことができる。
【0072】
前記実施形態では、対角線L1、L2上に検出器50、51を配置することによって、配置ボール5aからポケット72に作用する荷重で検出器50、51が破損しないようにしている。また、X軸方向成分及びY軸方向成分検出に検出器50、51を2個一組としたことによって、ボール移動による発生電圧の増減を相殺して精度の向上を図ることができる。
【0073】
ところで、ボール5aの自転軸(磁軸)の方向と自転量は次の計算方法で算出することができる。図27に示すように、任意の二つの座標系をとり、その基底ベクトルをそれぞれ(a1,a2,a3)(b1,b2,b3)とする。ここで、(b1,b2,b3)は(a1,a2,a3)のある単位ベクトルc廻りに回転させたものとみなす。
【0074】
従って、a1−b1とa2−b2はベクトルcに垂直である。すなわち、ベクトルcはa1−b1とa2−b2の外積により作られるベクトルと同じ向きになる。これを単位ベクトル化すれば、cは次式(数2)で表される。
【0075】
【数2】

【0076】
継手回転位相角0°と360°のときの、ボール5aに固定した座標系をそれそれ(a1,a2,a3)(b1,b2,b3)とすれば、ベクトルcはボールの自転軸の方向を表しており、回転量Ψは次式(数3)で表される。
【0077】
【数3】

【0078】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、前記実施形態では、等速自在継手としてツェッパ型等速自在継手(BJ)を採用したが、他のアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)等を採用したりできる。すなわち、等速自在継手として、トルク伝達用の転動体にボールが使用されるものであればよい。また、検出器50、51が対角線L1、L2上に配置しないものであっても、各成分検出に1個の検出器を使用してもよい。Z軸方向成分の検出の検出器52としても、数の増減は任意である。
【0079】
検出器50、51、52としては、ホール素子に限らず、電気抵抗素子、接合型素子等の他の磁気センサにても構成することができる。また、図3においては、第1部材77と第2部材78とは転結部材79を介して所定角度を成すように設定し、これによって、等速自在継手が作動角をとった状態としているが、第1部材77と第2部材78とを連結部材79を介して平行に配置し、等速自在継手が作動角をとらない状態でボール5aの磁軸の変化を検出するようにしてもよい。
【0080】
ボール挙動計測装置において、非磁性材に使用する材質としては、種々のものを使用することができる。例えば、ボール支持体6の本体枠等に、例えば非磁性高硬度形用鋼(日立金属株式会社製のHPM75)を使用し、700℃で5時間の時効処理をするようにできる。これによって、浸炭焼入れを行った通常のケージ16の硬度には及ばないが、これに近い所期の硬度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態を示す等速自在継手のボール挙動計測装置の要部拡大図である。
【図2】前記等速自在継手のケージとボール挙動計測装置の関係を示す断面図である。
【図3】前記等速自在継手が支持構造にて支持されている状態の断面図である。
【図4】前記等速自在継手のケージの縦断面図である。
【図5】前記等速自在継手のケージの横断面図である。
【図6】前記図5のA1矢視図である。
【図7】前記図5のA2矢視図である。
【図8】前記図5のC−C線拡大断面図である。
【図9】前記図5のD−D線拡大断面図である。
【図10】前記ボール挙動計測装置のボール支持体の平面図である。
【図11】前記図10のE−O−F−G線断面図である。
【図12】前記図10のH部の拡大図である。
【図13】前記図10のI部の拡大図である。
【図14】前記図12のJ−J線拡大断面図である
【図15】前記図13のI1部の断面図である。
【図16】前記ボール支持体の本体枠の平面図である。
【図17】前記ボール支持体の本体枠の側面図である。
【図18】前記ボール支持体の本体枠の正面図である。
【図19】前記ボール支持体の本体枠の断面図である。
【図20】前記図16のK−K線拡大断面図である。
【図21】前記ボール支持体の第2リング体の平面図である。
【図22】前記ボール支持体の第2リング体の断面図である。
【図23】検出器のレイアウトを設定する際に使用するボール保持体の簡略図である。
【図24】前記支持構造体の背面図である。
【図25】ホール素子の原理説明図である。
【図26】ホール素子を使用した磁化玉の磁軸の計測方法の説明図である。
【図27】ボール自転軸方向と自転量の計算方法を説明する座標系の図である。
【符号の説明】
【0082】
5 ボール
5a 着磁ボール
6 支持体
10 内径面
11 トラック溝
12 外側継手部材
13 外径面
14 トラック溝
15 内側継手部材
16 ケージ
50 X成分検出器
51 Y成分検出器
52 Z成分検出器
72 ボールポケット
75 磁気回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面にトラック溝が形成された外側継手部材と、外径面にトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間に介在してトルクを伝達する複数のボールと、前記外側継手部材の内径面と内側継手部材の外径面との間に介在してボールを保持するケージとを備えた等速自在継手のボール挙動計測装置であって、
ボールポケットを有するボール支持体を前記ケージに周方向のスライドを可能として付設するとともに、前記ボールのうちの一つを着磁ボールとして、この着磁ボールをボールポケットに回転可能に支持させて、ボール支持体において、着磁ボールの中心が原点となる3次元座標系のX、Y、Z軸のうちのX、Y軸上にX成分検出器及びY成分検出器を配置し、さらに、前記3次元座標系のZ軸と平行な磁路を有する磁気回路を構成して、この磁気回路におけるボール支持体から離れた位置の前記磁路上に、Z成分検出器を配置し、このX成分検出器とY成分検出器とZ成分検出器にて、前記着磁ボールの磁軸の方向を3次元的に検出することを特徴とする等速自在継手のボール挙動計測装置。
【請求項2】
前記着磁ボールとボール支持体のポケットとが点接触することを特徴とする請求項1の等速自在継手のボール挙動計測装置。
【請求項3】
前記検出器を、ホール素子からなる磁気センサにて構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2の等速自在継手のボール挙動計測装置。
【請求項4】
前記X成分検出器及びY成分検出器の配置位置を有限要素法にて設定したことを特徴とする請求項3の等速自在継手のボール挙動計測装置。
【請求項5】
前記X成分検出器及びY成分検出器との温度特性を同じとしたことを特徴とする請求項3又は請求項4の等速自在継手のボール挙動計測装置。
【請求項6】
前記磁気回路のZ軸方向の磁路を複数本有するとともに、前記Z成分検出器がこの磁路に対応して複数個有し、各Z成分検出器の温度特性を前記X成分検出器及びY成分検出器の温度特性よりも小さくしたことを特徴とする請求項4の等速自在継手のボール挙動計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2008−25995(P2008−25995A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195134(P2006−195134)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年4月 日本機械学会発行の「日本機械学会論文集 第72巻第710号」に発表
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】