説明

等速自在継手の異常検出方法

【課題】等速自在継手に生じる破損や亀裂等の異常を早期にかつ正確に検出し得る方法を提供する。
【解決手段】等速自在継手1は、内球面にトラック溝3を有する外側継手部材としての外輪4と、外球面にトラック溝5を有する内側継手部材としての内輪6と、外輪4と内輪6の両トラック溝3,5が協働して形成するトラックに配されたトルク伝達部材としての複数のボール7とを備える。等速自在継手1の作動状態で、トラックに作用する荷重が最大となる位相位置に超音波センサ11を設置してトラックで発生する超音波領域の音を検出し、検出した音の信号波形を解析し、解析結果が異常判定部14で予め定められた判定基準を超えた場合に、等速自在継手1が異常状態と判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、例えば自動車や各種産業機械の動力伝達機構に組み込んで用いられるもので、互いの交差角度が変化可能に設けられた入力軸と出力軸とを有し、入力軸からの回転トルクを、トルク伝達部材を介して出力軸へ等速で伝達できるように連結するものである。この等速自在継手は、内部に封入されたグリース等の潤滑剤の潤滑下で作動するものであるが、経時変化に伴う潤滑剤の劣化等に伴って構成部材に摩耗、損傷等の異常が生じる場合がある。
【0003】
ところで、等速自在継手に限らず、転動機構を有するもの、例えば機械装置等に用いられる転がり軸受においても上記同様の異常が生じる場合がある。この種の異常を放置すると機械装置の運転停止等を招くおそれがあるため、この種の異常を早期に検出することが求められている。かかる異常を早期に検出するための方法として、例えば以下に示す方法が知られている。
(1)軸受に固定して設置した圧電型加速度センサを用いて振動加速度を検出し、その強度に基づいて軸受の損傷を判定する方法(例えば、特許文献1参照)。
(2)音響センサを用いて軸受から発生する超音波信号を検出し、信号波形の形状や大きさに基づいて軸受の損傷を判定する方法(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭57−54835号公報
【特許文献2】特開昭61−189315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
もちろん、等速自在継手においても、上述した摩耗や損傷等を早期に検出することが求められている。転がり軸受は弾性流体潤滑下で潤滑されるため、転動体が転動する転動面は表面粗さの小さい緻密面に形成される。しかしながら、等速自在継手は、転動体(トルク伝達部材)の転動面がいわゆる鍛造肌の状態、すなわち粗面状態で使用される場合が多く、転がり軸受に比べて摩耗粉が発生し易い。そのため等速自在継手の作動時には、振動が恒常的に発生する傾向にあり、また不具合に繋がるほどに摩耗が進行していなくても比較的振動や音が大きい。従って、上記(1)(2)の異常検出方法をそのまま等速自在継手の異常検出に用いても異常状態を正確に判定するのが難しく、等速自在継手における損傷等の異常検出は、一定時間の運転後に等速自在継手を分解して構成部材を目視確認することにより行われているのが現状である。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、等速自在継手の異常状態を早期にかつ正確に検出可能とする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明では、内径面にトラック溝を有する外側継手部材と、外径面に外側継手部材のトラック溝と対をなすトラック溝を有する内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材の両トラック溝が協働して形成するトラックに配された複数のトルク伝達部材とを有し、トルク伝達部材を介して外側継手部材と内側継手部材とが角度変位する等速自在継手の異常検出方法であって、等速自在継手の作動状態で、トラックに作用する荷重が最大となる位相位置に超音波センサを配置してトラックで発生する超音波領域の音を検出し、検出した音の信号波形を解析し、その解析結果が予め定めた判定基準を超えた場合に異常と判定することを特徴とする等速自在継手の異常検出方法を提供する。なお、ここでいう等速自在継手は、角度変位のみを許容するいわゆる固定式等速自在継手と、角度変位に加え、軸方向変位をも許容するいわゆる摺動式等速自在継手の双方が含まれる。
【0007】
部材の摩耗や損傷は、部材に作用する荷重が大きくなるにつれて発生あるいは進行し易くなる。前述のとおり等速自在継手の構成部材、特にトルク伝達部材の転動面となる外側および内側継手部材のトラック溝には摩耗が生じ易いが、上記本発明の構成のように、超音波センサをトラックに作用する荷重(トラック荷重)が最大となる位相位置に配置することにより、摩耗が最も進行し易い箇所の信号を的確に検出することができる。そのため、部材の損傷や亀裂等の異常を早期に、また正確に検知することが可能となる。
【0008】
上述のとおり、等速自在継手の作動時には、恒常的に振動が発生する傾向にある。そのため、上記異常検出方法において、超音波センサは等速自在継手から離隔して設けるのが望ましい。振動による検出精度の悪化を回避し、部材損傷等の異常状態をより正確に判定するためである。
【0009】
ところで等速自在継手は、運転に伴う温度上昇が比較的大きく、高温状態のまま運転を継続すると摩耗が進行し易くなるため、運転時に冷却する必要がある。しかしながら、冷却は風冷により行われるのが一般的で、そのノイズ音が正確な異常判定を妨げるおそれがある。そのため、上記異常検出方法において、等速自在継手の作動状態で等速自在継手を冷却し、音の検出時に一時的に冷却を停止するのが望ましい。
【0010】
上記異常検出方法において、解析すべき音信号の周波数帯域は、35KHz〜80KHzとするのが望ましい。解析すべき音信号の周波数帯域を上記範囲とすれば、種々のノイズ成分の影響を効果的に排除して異常につながる損傷による音のみを抽出することができ、異常状態を正確に判定することが可能となる。
【0011】
上記異常検出方法において、予め定めた判定基準と比較するために音信号から解析すべきパラメータは、信号波形の面積、信号波形の最大振幅、しきい値を超える信号波形のイベント数、およびしきい値を超える信号波形のリングダウン数から選択した何れか一もしくはその組み合わせとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明にかかる異常検出方法であれば、等速自在継手の異常状態が早期にかつ正確に検出可能となり、安全性に富み、信頼性の高い等速自在継手を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1(a)は、等速自在継手1の異常を検出するために用いられる異常検出装置の概要を示すもので、主に、等速自在継手1と、超音波センサ11と、冷却装置16と、これらの運転−停止を制御する制御装置10とを備えている。また、図1(b)は異常検出の過程を示すもので、超音波センサ11から入力された信号は、アンプ12、フィルタ13、異常判定部14、およびアラーム15を介して出力される。
【0015】
図示例の等速自在継手1は、いわゆるバーフィールド型の固定式等速自在継手(BJ)であり、内球面に複数のトラック溝3を有する外側継手部材としての外輪4と、外球面に複数のトラック溝5を有する内側継手部材としての内輪6と、外輪4のトラック溝3と内輪6のトラック溝5とで協働して形成されるトラックに配されるトルク伝達部材としての複数のボール7と、ボール7を収容するためのポケットを有するケージ8と、内輪6の内周にセレーションやスプライン等のトルク伝達手段を介して連結されたシャフト9と、一端を外輪4の外周に、他端をシャフト9の外周に固定されたブーツ2とを主要な構成部材として備える。なお、外輪4および内輪6は何れも冷間鍛造等の鍛造で形成されたものである。
【0016】
超音波センサ11は、例えばコンデンサマイクロホンに代表される超音波マイクロホンである。外輪4と超音波センサ11の離間距離が2mm未満の場合、等速自在継手1の運転に伴って外輪4と超音波センサ11とが干渉してセンサが破損する恐れがあり、2.5mmよりも大きいと信号を適切に検出できない恐れがある。そのため、本実施形態で超音波センサ11は、外輪4から2〜2.5mmだけ離隔して設置されている。超音波センサ11は、同様の機能を有するものであればその他のものを使用することもでき、例えば圧電素子を振動子に用いた空中超音波センサとしてもよい。
【0017】
この超音波センサ11は、図2に示すように、等速自在継手1の運転に伴って外輪4のトラック溝3に作用する荷重(トラック荷重)が最大となる位相位置に設置されている。具体的に述べると、上記等速自在継手1は所定の作動角をもたせた状態で運転される。一般に、作動角によってトラック荷重が最大となる位相位置は決まっており、トラック荷重の最大ポイントは180度の位相差を持った2箇所に存在する。図示する形態では、軸心Oから隣り合うボール7間を通って外径側に延びる延長線上にトラック荷重が最大となるポイントがあり、超音波センサ11は、かかる延長線上に設置されている。図示例では、円周方向の一箇所にのみ超音波センサ11を設置した形態を示しているが、超音波センサ11は上記の理由から、180度位相を異ならせた位置に設置することもできる。
【0018】
アンプ12は、超音波センサ11で検出された超音波信号(音信号)を所定レベルに増幅させるものであり、アンプ12にはフィルタ13が接続されている。フィルタ13は例えばバンドパスフィルタであり、所定の周波数帯域、ここでは35KHz〜80KHzの周波数帯域の超音波信号を抽出可能なものが用いられている。
【0019】
異常判定部14は、例えば異常判別回路を備えるものであり、等速自在継手1を異常状態と判別するための判定基準が設定されている。
【0020】
アラーム15は、異常判別部14で等速自在継手1が異常状態と判別された場合にアラーム信号を出力するものである。なお、図示は省略しているが、当該アラーム15からアラーム信号が出力された場合に、等速自在継手1の運転を停止させ得る回路を設けることもできる。
【0021】
冷却装置16は、運転時における等速自在継手1の温度上昇を抑制するために用いられるものであり、例えば冷却ファンが用いられる。冷却装置16は、外輪4の外径側の円周方向一又は複数箇所に配設される(図示例では一箇所)。この冷却装置16は超音波センサ11で超音波領域の音信号を検出する際に運転を停止できるよう、間欠運転可能に制御されている。
【0022】
以上の構成からなる異常検出装置のうち、等速自在継手1、超音波センサ11、および冷却装置16は制御装置10に接続されている。制御装置10は、前記各部の運転−停止を制御するために用いられるものである。
【0023】
以上の構成からなる異常検出装置における異常検出動作を以下説明する。まず、制御装置10から運転信号を送り、所定の作動角をもたせた状態で等速自在継手1を作動させ、併せて冷却装置16を作動させる。等速自在継手1の運転に伴って音が生じると、超音波センサ11が起動し、音が検出される。このとき冷却装置16は一時的に停止する。そして超音波センサ11により検出された音信号は、アンプ12によって所定レベルに増幅される(音の信号波形は図3参照)。
【0024】
次いで、アンプ12によって増幅された音信号は、フィルタ13を通過することによって音信号に含まれるノイズが除去され、35KHz〜80KHzの周波数帯域の信号が抽出される。抽出された前記周波数帯域の信号は、異常判定部14において波形解析されると共に予め定められた判定基準と比較され、解析結果が判定基準を超える場合には等速自在継手1は異常状態、すなわち部材に損傷や亀裂が生じていると判定される。異常状態と判定されると、アラーム15からアラーム信号が出力され等速自在継手1が停止する。一方、異常判定部14において解析結果が判定基準を超えない場合には、等速自在継手1の運転を継続する。
【0025】
なお、判定基準との比較には、信号波形の面積、信号波形の最大振幅(エネルギー)、しきい値を超える信号波形を一つの集団(イベント)としてこれを計数したイベント数、およびしきい値を超える信号波形を全て計数したリングダウン数等の中から選択される何れか一のパラメータ、もしくはその組み合わせを用いることができる。
【0026】
以上のように、本発明に係る異常検出方法では、超音波センサ11をトラックに作用する荷重(トラック荷重)が最大となる位相位置に配置し、摩耗が最も進行し易い箇所の信号を的確に検出することができるようにしたため、転がり軸受装置等に比べて摩耗量が多いがために異常状態を正確に検知することができず、異常検出を一定時間運転後の分解・目視確認に頼っていた等速自在継手1においても、その異常状態を早期に、また正確に検知することが可能となる。
【0027】
また、超音波センサ11を等速自在継手1の外輪4から離隔して設けたので、等速自在継手1のように恒常的な振動が発生するものでも、かかる振動の影響を排除して検出すべき音信号のみを検出することが可能となり、より正確に異常を検知することができる。
【0028】
また、超音波センサ11による音信号の検出時に、冷却装置16を一時的に停止するようにしたので、等速自在継手1の温度上昇を抑制して摩耗粉の発生量を抑制すると共に、冷却装置16(冷却ファン)から発生されるノイズ音の影響を排除して、検出すべき音信号をより正確に検出することができる。
【0029】
また、図3に示すように、抽出・解析すべき音信号を、信号波形の振幅が比較的大きい35KHz〜80Khzの周波数帯域に設定したので、異常を早期に、また正確に検知することができる。
【0030】
なお、以上で説明を行った実施形態では、超音波センサ11によって検出した音信号のうち、35KHz〜80KHzの周波数帯域の信号はフィルタ13を通過させることによって抽出したが、例えば35KHz〜80KHzの固有振動数を有する超音波センサ11を用いることにより、フィルタ13を省略することもできる。
【0031】
また、以上では、抽出すべき音信号の周波数帯域を35KHz〜80KHzとしたが、図3からも明らかなように、異常状態をより早期に、また正確に検知するため、抽出すべき音信号の周波数帯域を35KHz〜55KHzとしてもよい。このとき、かかる周波数帯域を通過させることができるフィルタ13を用いてもよいし、フィルタ13を排除してかかる固有振動数を有する超音波センサ11を用いてもよい。
【0032】
また、以上では、ボール7が円周方向の6箇所に等配された等速自在継手の異常検出方法について説明を行ったが、本発明にかかる異常検出方法は、ボール7が円周方向の8箇所に等配されたタイプの等速自在継手の異常検出にも好適に用いることができる。
【0033】
また、以上では、バーフィールド型の固定式等速自在継手に本発明にかかる異常検出方法を適用した形態について説明を行ったが、本発明にかかる異常検出方法はこのタイプの等速自在継手に限定適用されるものでなく、アンダーカットフリー型の固定式等速自在継手の他、ダブルオフセット型、クロスグルーブ型、およびトリポード型の摺動式等速自在継手に適用することもできる。
【0034】
以上、本発明について説明を行ったが、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)図は、図2のB−O−B断面を示すもので、等速自在継手の異常検出装置の概要図、(b)図は異常を検出する過程を示すブロック図である。
【図2】図1に示す異常検出装置のA−A断面図である。
【図3】超音波センサで検出された摩擦音の信号波形図である。
【符号の説明】
【0036】
1 等速自在継手
2 ブーツ
3 外輪のトラック溝
4 外輪
5 内輪のトラック溝
6 内輪
7 ボール
8 ケージ
11 超音波センサ
12 アンプ
13 フィルタ
14 異常判定部
15 アラーム
16 冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面にトラック溝を有する外側継手部材と、外径面に前記外側継手部材のトラック溝と対をなすトラック溝を有する内側継手部材と、前記外側継手部材と前記内側継手部材の両トラック溝が協働して形成するトラックに配された複数のトルク伝達部材とを有し、前記トルク伝達部材を介して前記外側継手部材と前記内側継手部材とが角度変位する等速自在継手の異常検出方法であって、
前記等速自在継手の作動状態で、前記トラックに作用する荷重が最大となる位相位置に超音波センサを設置して前記トラックで発生する超音波領域の音を検出し、
検出した音の信号波形を解析し、その解析結果が予め定めた判定基準を超えた場合に異常と判定することを特徴とする等速自在継手の異常検出方法。
【請求項2】
前記超音波センサを、前記等速自在継手から離隔して設置したことを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手の異常検出方法。
【請求項3】
前記等速自在継手の作動状態で前記等速自在継手を冷却し、音の検出時に一時的に冷却を停止することを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の等速自在継手の異常検出方法。
【請求項4】
解析すべき音信号の周波数帯域を、35KHz〜80KHzとした請求項1〜3の何れかに記載の等速自在継手の異常検出方法。
【請求項5】
解析すべきパラメータを、信号波形の面積、信号波形の最大振幅、しきい値を超える信号波形のイベント数、およびしきい値を超える信号波形のリングダウン数から選択した何れか一、もしくはその組み合わせとした請求項1〜4の何れかに記載の等速自在継手の異常検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−39677(P2008−39677A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217019(P2006−217019)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】