説明

筋ジストロフィの処置のためのキノン誘導体2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−(10−ヒドロキシデシル)−1,4−ベンゾキノン

筋ジストロフィを処置するため、特に、筋ジストロフィに関連する骨格筋組織の衰弱及び/若しくは損失並びに/又は心筋症を、処置及び/又は予防するための薬剤の調製のためのイデベノンの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性薬剤として2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン(イデベノン)を用いることにより、特定の形態の筋ジストロフィに関連する骨格筋組織の衰弱及び損失、又は心筋症を、処置又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、劣性遺伝性、進行性の筋萎縮性疾患であり、男児およそ3,000人に1人において発症する。報告されている発生率は、世界の男児出生100,000例あたり25例である(Katirji,B., Kaminski,H.J., Preston,D.C., Ruff,R.L., Shapiro,B.E. (2002) Neuromuscular disorders in clinical practice. Butterworth Heinemann)。この疾患の最初の徴候は、男児が歩行を開始したときに表面化する。筋肉の萎縮が、当初は近位の筋肉群で、その後に遠位の筋肉群で起こり、結果的に十代の患者で歩行能力が失われる。ジストロフィン遺伝子における変異及びジストロフィン蛋白質の欠失は、最終的には、主として呼吸不全又は心不全により、DMD患者を成人初期に死に至らしめる。生活の質を改善するための臨床的手段には、整形外科手術及び夜間換気法がある。ベッカー型筋ジストロフィ(BMD)は同じジストロフィン遺伝子の異なる変異に起因するが、臨床経過はより穏やかであり、その患者はDMD患者と比較して余命が長い。DMDに関連する筋肉萎縮の根底にある細胞プロセスとしては、骨格筋線維の損失並びにそれに伴う結合組織及び脂肪組織による浸潤がある。骨格筋系の進行性の衰弱及び心病変は、DMD/BMD患者を早期の病的状態及び死亡に導く。
【0003】
DMD及びBMDは共に、ジストロフィン遺伝子における変異に起因する。ジストロフィン遺伝子は2700kbpからなり、X染色体上に位置する(Xp21.2、GenBankアクセッション番号:M18533)。14kbp長のmRNA転写物は、骨格筋、心筋、及び平滑筋において、並びに限定的であるが脳において、優性的に発現される。成熟ジストロフィン蛋白質は分子量が約427kDaであり、スペクトリンスーパーファミリーの蛋白質群に属する(Brown S.C., Lucy J.A. (eds), "Dystrophin", Cambridge University Press, 1997)。DMDの根底にある変異はジストロフィン蛋白質を欠失させることになるが、それよりも穏やかなBMD表現型は、機能が残存する異常な形態(多くは短縮型)の蛋白質の発現を導く変異の結果である。
【0004】
X連鎖性拡張型心筋症(XLDCM)は進行性、致死性の心臓病であり、骨格筋衰弱のない患者においてうっ血性心不全と共に10代又は20代の間に顕れる(Towbin et al. (1993) X-linked dilated cardiomyopathy; molecular genetic evidence of linkage to the Duchenne muscular dystrophy (dystrophin) gene at Xp21 locus. Circulation 87: 1854-65)。ジストロフィン遺伝子における異なる変異は、心筋においてジストロフィンを選択的に欠失させ、その結果、ジストロフィン遺伝子の5’末端に関する変異が、スペクトリン様領域における変異よりも重篤な心筋症を引き起こす。ジストロフィン遺伝子の5’末端に関する変異と共に、この排他的な心病変は、RNAスプライシングの調節における心筋と骨格筋の違いに関連すると考えられる。骨格筋は、エクソンスキッピング及び選択的スプライシングによってジストロフィン産生を維持するが、心筋は恐らくこのような機序を使用することができない。
【0005】
ジストロフィンのN末端部は細胞骨格のアクチンフィラメントに結合し、他方、ジストロフィン分子のC末端部のドメインは膜結合β-ジストログリカンに結合する。それゆえ、ジストロフィンは、細胞骨格と筋細胞膜の間の分子リンカーとして、そして間接的であるが、いわゆるジストロフィン結合蛋白質複合体(DAPC)を介して細胞外マトリクスとの分子リンカーとしても作用する。ジストロフィンの既知の結合パートナーとしては、シントロフィン、ジストロブレビン、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)、及びサルコグリカン-サルコスパン(SS)複合体も挙げられる。ジストロフィン蛋白質のカルボキシ末端領域及びアミノ末端領域の両方が関与するこれらの蛋白質相互作用は、収縮弛緩周期の間の筋細胞膜の機械的安定性に寄与すると考えられる。DMD患者のジストロフィン欠損筋細胞においてDAPC複合体の多くの構成要素が筋細胞膜で減少又は欠失することが示されているように、ジストロフィンはDAPC複合体自体の集合及び完全性のためにも重要である。機能性ジストロフィン蛋白質が欠失すると、アクチン細胞骨格と筋肉細胞の筋細胞膜の間の機械的連結が崩壊し、それによって、筋管の変質及び筋衰弱が起こる(Brown S.C., Lucy J.A.(eds), "Dystrophin", Cambridge University Press, 1997)。
【0006】
心病変はほとんど全てのDMD患者に存在するが、心臓の欠陥および胃腸の欠陥の臨床的発現はDMD経過の後期に起こる。328名のDMD患者における心筋症の発生率及び進行に関する研究において、Nigroら(Nigro,G., Comi,L.I., Politano,L. and Bain,R.J. (1990), (Int J Cardiol, 26, 271- 277)は、心病変の発生率は10代にあっては徐々に増加し、およそ三分の一の患者が14歳までに罹患し、半分の患者が18歳までに罹患し、そして全ての患者が18歳以上で罹患することを示した。拡張型心筋症は患者の40%で発症し、疾患の後期段階においては生命の脅威となり得る。これまで、全DMD患者の10%〜15%が拡張型心筋症に起因する心不全により死亡すると推定されてきた(Ishikawa,Y., Bach,J.R. and Minami,R. (1999) Cardioprotection for Duchenne's muscular dystrophy. Am Heart J, 137, 895-902)。より最近では、呼吸器不全を処置するための換気補助具の導入によって、うっ血性心不全が、死亡の主原因の一つとなりつつある(現在のところ全DMD患者の30%に達している;Finsterer,J. and Stollberger,C. (2003) The heart in human dystrophinopathies. Cardiology, 99, 1-19)。
【0007】
DMDにおける心病変は、拡張型心筋症に至る心筋の変性、萎縮、及び線維症により特徴付けられる。このプロセスは、左心室(LV)の後外側壁に始まり、後期段階では中隔の病変が見られる。一般的に、右心室(RV)には影響がない。年少期(12歳未満)において、心機能は通常、心筋障害が発現した後に包括的な異常を検出することができるのみである従来のグレイスケールの心エコー図技術(Mモード及び二次元画像化法)によっては正常とみなされる。短縮率(FS)及び駆出率(EF)は、LVの収縮機能を評価するのに最も一般的に使用されているパラメータであり、他方、拡張機能を評価するためには、僧帽弁血流及び肺静脈流が測定される。DMD患者は、通常、青年期初期に検出される心エコー図上のLV不全の徴候が徐々に進行していくことが示されている(Finsterer,J. and Stollberger,C. (2003) The heart in human dystrophinopathies. Cardiology, 99, 1-19; Sasaki K, et al. (1998) Sequential changes in cardiac structure and function in patients with Duchenne type muscular dystrophy: a two-dimensional echocardiographic study. Am Heart J, 135, 937-944)。最初に示される異常は、下外側の運動低下である。これに続き、LVの拡張並びに短縮率及び駆出率の減少が起こる。拡張機能障害はまた、この疾患の早期段階でも報告されている(Heymsfield SB, McNish T, Perkins JV, Felner JM. (1978) Sequence of cardiac changes in Duchenne muscular dystrophy. Am Heart J, 95, 283-294; Kermadec JM, et al. (1994) Prevalence of left ventricular systolic dysfunction in Duchenne muscular dystrophy: an echocardiographic study. Am Heart J, 127, 618-23)。
【0008】
遺伝的異常は生来存在するので、心筋機能における心室の異常は年少期から存在するが、それは従来の画像化技術を用いては検出されないものと推測され得る。超音波後方散乱信号を用いた超音波組織性状診断は最近、臨床的な心病変の進行前の心筋の超微細構造における初期変化の徴候を示した(Giglio V, et al. (2003) Ultrasound tissue characterization detects preclinical myocardial structural changes in children affected by Duchenne muscular dystrophy. J Am Coll Cardiol, 24, 309-316)。本発明者らは最近、局所的な心筋機能の定量化を可能にする新しい非侵襲的な心臓画像化技術であるドプラ心筋速度画像化法(Doppler Myocardial velocity Imaging; DMI)を用いることで、心臓症状を持たず従来の心エコー検査法による評価では包括的心機能は依然正常である年少のDMD児(3〜10歳)における、局所的な心筋機能障害の存在を示した(Mertens L, et al. (2004) Early detection of regional myocardial dysfunction in Duchenne muscular dystrophy by ultrasonic strain and strain rate imaging. Neuromusc Disorders, 14: 599-600)。DMIを用い、組織の速度を測定し心臓の変形特性である局所的な歪み速度及び歪みを算出することによって、局所的な機能が評価される(Sutherland GR, et al. (2004) Strain and Strain Rate Imaging: A New Clinical Approach to Quantifying Regional Myocardial Function. J Am Soc Echocardiogr. 17: 788-802; Weidemann F, Eyskens B, Sutherland GR. (2002) New ultrasound methods to quantify regional myocardial function in children with heart disease. Pediatr Cardiol, 23: 292-306)。本発明者らは、正常な対照と比較することで、若いDMD患者において、下外側(後方)壁における半径方向のピーク収縮歪み速度及び歪み、並びにLV外側壁セグメントにおける縦軸方向のピーク収縮歪み速度及び歪みにおける、有意な減少を見い出した。最近、歪み速度が、心機能における変質及び基準測定時の心機能の通常の心エコー測定によっては無症候であったデュシェンヌ型筋ジストロフィを患った小児の死を予測することが実証された(Giatrokos N. et al.; Strain rate can accurately predict a more aggressive cardiac involvement in asymptomatic patients with Duchenne muscular dystrophy Circulation, November 2004, Supplement)。
【0009】
DMDに関連する筋肉の衰弱の処置に関する薬理学的な介入は、現在のところ、例えば、プレドニゾン又はデフラザコート等のグルココルチコイドの使用に限定される。グルココルチコイドはDMD患者における筋肉量の損失を鈍化させることで、潜在的な疾患修復化合物(disease-modifying compounds)として作用することが十分に実証されている。例えば、若いDMD患者を、例えば、6α-メチルプレドニゾロン-21コハク酸ナトリウム(PDN)又はデフラザコート等のグルココルチコイドで処置する比較臨床試験において、筋力の増加が見られた(Fenichel GM, et al. (1991) Long-term benefit from prednisone therapy in Duchenne muscular dystrophy. Neurology; 41: 1874-1877; Reitter B. (1995) Deflazacort vs. prednisone in Duchenne muscular dystrophy: trends of an ongoing study. Brain Dev; 17: 39-43; Bonifati MD, et al. (2000) A multicenter, double-blind, randomized trial of deflazacort versus prednisone in Duchenne muscular dystrophy. Muscle Nerve 23: 1344-1347)。プレドニゾン又はデフラザコートを毎日用いた試験では筋力/動作の向上及び衰弱の進行の鈍化が実証されたものの、DMDに対する標準的処置法としてのコルチコステロイドの使用に関しては未だ普遍的なコンセンサスは得られていない。その理由は、これらの小児における長期間の処置の効果及び副作用プロファイルに関する十分な比較データの欠如である。有効な臨床試験において報告されている副作用は、体重の増加及び顔面のクッシング症状の出現であった。しかしながら、他の副作用も、報告されているか又は臨床的実施において高い関心を集めている:線形的成長の低下、白内障、骨粗鬆症及び病的骨折、並びに行動の変化。DMDにおけるコルチコステロイドに関する有効な証拠に対する近年の調査の結論は次の通りであった:プレドニゾン(0.75mg/kg/日)又はデフラザコート(0.9mg/kg/日)が処置のために提供されるべきであり、その効果及び副作用をモニターすべきであり、そしてコルチコステロイド処置の提供は潜在的リスクに関する片寄りのない議論を含むべきである(Moxley RT, et al. (2005) Practice Parameter: Corticosteroid treatment of Duchenne dystrophy. Report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology and the Practice Committee of the Child Neurology Society. Neurology 64: 13-20)。にもかかわらず、例えば、コルチコステロイド処置を開始する時期、及び長期に及ぶ場合の重篤な副作用の恐れ等といった重要な疑問や論点が残されている。現在、米国及び欧州の両方で、多くの異なるコルチコステロイド療法の中のどれが最も効果的かつ最小限の副作用であるかを判定する試みが進行中又は開発中である。デフラザコートの心臓保護効果の可能性を示唆するデータが少数報告されている(Silversides CK, et al. (2003) Effects of deflazacort on left ventricular function in patients with Duchenne muscular dystrophy. Am J Cardiol 91(6): 769-772)が、(骨格筋機能の改善を目的とする)コルチコステロイドの使用がDMD患者の心臓に対して有益であるのかそれとも逆効果なのかについては大部分が未知のままであるので、さらに多くの研究が必要とされる。
【0010】
DMD、BMD、及びXLMDに関連する拡張型心筋症は、現在のところ、症候性の心不全が現れてくる進行段階において又は心エコー検査で重篤な収縮機能障害が観察されこれが徐々に悪化している場合にのみ処置される。これらの状況においては、すなわち、臨床的に明確な状態においては、臨床ではアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、β遮断剤、又は利尿剤が用いられる(Finsterer J., Stollberger C. (2000) Cardiac involvement in primary myopathies. Cardiology 94: 1-11; Bushby K, Muntoni F, Bourke JP. (2003) 107th ENMC international workshop: the management of cardiac involvement in muscular dystrophy and myotonic dystrophy. Neuromusc Disorders 13(2): 166-172)。これらの薬理学的介入は、その原因又はDMD/BMD/XLMDに関連する拡張型心筋症の根底にある心筋細胞の特定の病態生理学的細胞プロセスを標的としていない。その結果、その成果は限定的であると考えられ、これらの障害において罹患した心筋細胞を特異的に標的化する新たな治療的介入を開発することが求められる。
【0011】
従って、当技術分野において、筋ジストロフィに関連するいくつかの症状を処置及び/又は予防するための更なる手段を提供することが強く求められている。その目標は、筋ジストロフィに関連する骨格筋組織の衰弱及び損失並びに/又は心筋症を、処置及び/又は予防するための薬物の調製のためにイデベノンを提供することにより達成される。
【発明の開示】
【0012】
発明の説明
本発明は、種々の形態の筋ジストロフィ、特に、デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィ(BMD)、及び肢帯型筋ジストロフィ(LGMD)に関連する骨格筋組織の衰弱及び損失を処置又は予防する方法に関する。具体的には、本発明は、有効量のイデベノン(2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン)を投与することにより、DMD、BMD、又はLGMDに罹患した患者における筋肉の衰弱を処置するための方法に関する。
【0013】
本発明はさらに、特定の形態の筋ジストロフィに関連する心筋症、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィ(BMD)、X連鎖性拡張型心筋症(XLDCM)に関連する心筋症を処置する方法に関する。具体的には、本発明は、DMD、BMD、及びXLDMC患者を心筋症、特に拡張型心筋症の進行から保護するための、又はDMD、BMD、及びXLDMC患者の心筋症、特に拡張型心筋症を処置するための、イデベノン(2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン)の投与に関する。これまでイデベノンは、フリードライヒ運動失調症(FDRA)に関連する肥大型心筋症の処置に使用できることが報告されていたため、これは驚くべきことである(USP 6'133'322; Rustin et al. (1999) Effect of idebenone on cardiomyopathy in Friedreich's ataxia: a preliminary study. The Lancet, 354: 477-479; Hausse et al. (2002) ldebenone and reduced cardiac hypertrophy in Friedreich's ataxia. Heart 87: 346-349; Buyse et al. (2003) Idebenone treatment in Friedreich's ataxia. Neurological, cardiac, and biochemical monitoring. Neurology 60: 1679-1681)。しかし、FRDAに見られるような肥大型心筋症は、DMD、BMD、及びXLDCM患者において観察される拡張型心筋症とは臨床的に異なるものである。
【0014】
FRDA患者は、ミトコンドリア機能障害に関連する進行性の肥大型心筋症を発症する。これは、多くの場合、拡張機能障害、左心室流出路閉塞の発症、心室性不整脈及び心房性不整脈のリスクを伴う、心筋壁の肥厚と関連する。末期には、拡張型の心筋症がFRDA患者の一部において示されている。対照的に、DMD患者は、ジストロフィン欠損に起因する進行性の拡張型心筋症を発症する。DMDにおいて、進行性の左心室収縮機能障害が、左心室の漸進的拡張により発症する。多くの場合、左心室壁は、心室が拡張するにつれより薄くなる。最終的にこれは、臨床的な顕性心不全及び死を引き起こし得る。両方の形態の心筋症は臨床的に異なるため、イデベノンがDMD、BMD、及びXLMDに関連する拡張型心筋症を処置するのに使用され得ることは、当業者によって予測できることではなかった。
【0015】
発明の詳細な説明
イデベノンは、生細胞膜の抗酸化物質でありかつアデノシン三リン酸(ATP)を産生するミトコンドリア電子伝達鎖(ETC)の必須構成要素であるコエンザイムQ10(CoQ10)の合成アナログである。イデベノンは、低酸素圧状況下で作用する能力を有する。脂質過酸化を阻害するその能力ゆえ、イデベノンは、細胞膜及びミトコンドリアを酸化的損傷から保護する(Zs.-Nagy I (1990) Chemistry, toxicology, pharmacology and pharmacokinetics of idebenone: a review. Arch. Gerontol. Geriatr. 11: 177-186)。その抗酸化特性は、脳虚血及び中枢神経系における神経損傷を防止する。イデベノンはまたETCと相互作用し、虚血状況下でのATP形成を維持する。この化合物は既に向知性薬として使用されており、アルツハイマー病及びその他の神経変性疾患の処置において重要となり得る特徴を有する神経成長因子を刺激することも示されている。イデベノンは、武田薬品工業により出願された日本国特許公告公報第3134/1987号の明細書に記載されている。
【0016】
イデベノンは、次の化学式を有する。

2,3-ジメトキシ-5-メチル-6-(10-ヒドロキシデシル)-1,4-ベンゾキノン、イデベノン
【0017】
イデベノンは、好ましくは5mg/kg/日〜60mg/kg/日の用量範囲、より好ましくは5mg/kg/日〜40mg/kg/日の用量範囲、最も好ましくは10mg/kg/日〜30mg/kg/日の用量範囲で投与される。
【0018】
さらに、イデベノンは、好ましくは、筋力の最初の改善及び心機能の向上並びに正常化した心臓の解剖学的構造を観察するために、好ましくは少なくとも3ヶ月間、より好ましくは少なくとも6ヶ月間、最も好ましくは6ヶ月〜12ヶ月の間、一日に少なくとも1回、好ましくは一日に複数回投与される。治療効果の持続のために、長期間の処置が推奨され、好ましい処置は一生涯である。
【0019】
好ましい投与様式は、経口、i.p.、i.v.、i.m.、i.c.、非経口、鼻腔内、及び経皮であり、経口投与が最も好ましい投与様式である。
【0020】
有効用量のイデベノンを哺乳動物、特にヒトに提供するために、任意の適切な投与経路が採用され得る。さらなる投与様式としては、直腸投与、局所投与、眼内投与、経肺投与、又は経鼻投与がある。剤形としては、例えば、錠剤、トローチ剤、分散剤、懸濁剤、液剤、カプセル剤、クリーム剤、軟膏剤、及びエアロゾル剤があり、錠剤が最も好ましい。
【0021】
用いられる活性成分の有効用量は、用いられる特定の化合物、投与様式、処置される状態、及び処置される状態の重篤度によって変化し得る。このような用量は、当業者によって容易に確認され得、好ましい用量は上述している。本発明の文脈で使用されるイデベノンは、好ましくは投与前に剤形に処方される。従って、イデベノンは、任意の適切な薬学的坦体と組み合わされ得る。本発明に従って使用するための薬学的調製物は、周知かつ容易に入手可能な成分を用い、通常の手順によって調製され得る。製剤の作製において、イデベノンは通常、坦体と混合されるか、若しくは坦体によって希釈されるか、又は坦体に内包されてカプセル剤、カシェ剤、紙、又はその他の内包体の形態をとり得る。坦体が希釈剤の役割をする場合、それは、活性薬剤に対する溶剤、賦形剤、又は媒体として作用する、固形、半固形、若しくは液体の物質であり得る。この組成物は、錠剤、丸剤、粉末剤、菓子錠剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアロゾル剤(固体として又は液体媒体中で)、ソフトゼラチンカプセル剤及びハードゼラチンカプセル剤、坐剤、無菌注射液剤、及び無菌包装粉末剤の形態であり得る。
【0022】
適切な坦体、賦形剤、及び希釈剤のいくつかの例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水性シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル及びヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、及び鉱油がある。製剤はさらに、潤滑剤、湿潤剤、乳化懸濁剤、保存剤、甘味剤、及び/又は芳香剤を含み得る。本発明の組成物は、患者への投与後に、活性成分の急速放出、徐放、又は遅延放出を提供するよう処方され得る。
【0023】
イデベノンは毒性の面で安全であり、このことは、イデベノンが薬物中の薬学的活性薬剤として使用可能であることを意味する。
【0024】
イデベノンは、賦形剤、増量剤、溶媒、希釈剤、染料、及び/又は結合剤と混合され得る。補助物質の選択は、その使用量と同様、その医薬物が経口投与されるのか、静脈内投与されるのか、腹腔内投与されるのか、皮内投与されるのか、筋内投与されるのか、鼻腔内投与されるのか、口腔投与されるのか、又は局所投与されるのかに依存する。経口適用の場合、適切な調製物は、錠剤、糖衣丸剤、カプセル剤、顆粒粉末剤、滴剤、ジュース剤、及びシロップ剤の形態であり、非経口適用、局所適用、及び吸入適用の場合、適切な形態は、液剤、懸濁剤、容易に再構成可能な乾燥調製物、及び噴霧剤である。イデベノンは、徐放物質として、溶解された形態で、又は硬膏剤として、任意に皮膚の浸透を促進する薬剤が追加されて投与され得、経皮適用調製物に適している。経口的又は経皮的に使用され得る調製物の形態は、化合物を遅延放出し得る。イデベノン製剤は、例えば、武田薬品工業のいくつかの特許(例えば、WO9907355及びJP11116470)に記載されている。
【0025】
本発明に従って使用するのに好ましい製剤は、ラクトース、セルロース、クロスカルメロースナトリウム、PVP(Plasdone(登録商標)K25)、ステアリン酸マグネシウム(植物源)、及びコロイド状二酸化ケイ素を含有するフィルムコート錠中に45mg又は150mgのイデベノンを含む。
【0026】
さらに好ましい態様において、イデベノンは、第二の治療薬剤と組み合わせて投与され得、第二の治療薬剤は、好ましくは、炎症及び筋肉の衰弱の処置のためにDMD患者に慣用的に使用されている、6a-メチルプレドニゾロン-21コハク酸ナトリウム(solumedrol(登録商標))又はデフラザコート(calcort(登録商標))等のグルココルチコステロイドから選択される。同様に、イデベノンは、例えば、ACE阻害剤、β遮断剤、及び利尿剤などの、DMD関連心筋症を処置するためにDMD患者に使用される任意の医薬と組み合わせて投与され得る。
【0027】
さらに好ましい態様において、イデベノンは、第二の治療薬剤と組み合わせて投与され得、第二の治療薬剤は、好ましくは、システインプロテアーゼカルパインの阻害剤から選択されるか、又はプロテアソームの阻害剤から選択される。好ましいカルパイン阻害剤は、WO2004/078908 A1、WO2006/021409 A1、及びWO2006/021413 A1に開示されるものである。
【0028】
イデベノン及びさらなる活性薬剤は、疾患症状を処置又は予防するために、同時に、別個に、又は連続して使用され得る。2つの活性薬剤は、単一剤形で又は各々が2つの活性薬剤のうちの少なくとも一方を含む別個の製剤で提供される。
【0029】
以下の実施例は、本発明をさらに解説する。
【0030】
実施例1
イデベノンは筋ジストロフィ(DMD)患者における筋力を改善させる。
DMD患者の骨格筋力に対するイデベノンの効果を、最大随意等尺性収縮に基づく小児定量的筋力検査(QMT)系(CINRG定量測定系、CQMS)を用いて評価する。CINRG QM系は、DMDにおける複数のCINRG(Cooperative International Neuromuscular Research Group)試験によって開発され、かつ同試験において使用されている。11の国際的なCINRGクリニックから12人の臨床評価者を招き、12人の小児筋ジストロフィ患者群におけるMMT(徒手筋力検査)及びQMT検査の評価者間信頼性を比較した研究では、QMT検査が二頭筋及び握力についてICC(評価者間相関係数)>0.9の信頼性であることを示した(Escolar et al. (2001); Clinical evaluator reliability for quantitative and manual muscle testing measures of strength in children. Muscle & Nerve 24: 787-793)。
【0031】
検査は、上記CQMS信頼性調査に参加した、CQMSの訓練を受けた経験豊富な臨床評価者(理学療法士)によって行われる。検査対象の筋肉は、握力(左右)、肘の屈筋(左右)、及び肘の伸筋(左右)を含む。試験する各々の筋肉群について、二回連続最大努力のうちの最も高い値を記録する。筋肉群の検査の順序はこの研究を通して変えない。より年少の、まだ歩行可能な患者における、CQMSにより検査される追加の筋肉群は膝の屈筋及び膝の伸筋であり、他の測定法、例えば、時間機能検査(timed functional test)(床からの起き上がり、10mの歩行/走行、4段登り)も含まれる。
【0032】
肺機能検査は、努力肺活量(FVC)及び陰性吸気力(Negative Inspiratory force: NIF)を含む。測定は、CINRG定量測定系(CQMS)を用いて実施され得る。
【0033】
上記検査により、イデベノン処置の結果としての任意の筋力の改善をモニタリングできる。
【0034】
実施例2
イデベノンは、筋ジストロフィ(DMD)患者における拡張型心筋症を改善する。
拡張型心筋症に対するイデベノンの治療効果は、二次元及びMモードの心エコー検査によって及び局所的な心筋機能を定量化する組織カラードプラ法によって検出され得る(Weidemann F, Eyskens B, Sutherland GR. (2002) New ultrasound methods to quantify regional myocardial function in children with heart disease. Pediatr Cardiol, 23: 292-306)。具体的には、リアルタイム二次元カラードプラ心筋画像化法(CDMI)のデータをGE Vingmed System V(Horten,Norway;3.5MHz)を用いて記録し、標準的な心尖部四腔像を用いて心室中隔、LV外側壁、及びRV自由壁から縦軸方向の機能を評価する。LV下外側壁の半径方向の機能を評価するために、胸骨左縁短軸像からCDMIデータを記録する。可能な限り狭い画像セクタ角(通常30°)及び最適な画像深度を用いて全てのデータを120〜250フレーム/秒の高フレームレートで獲得し、時間分解能を向上させる。適切なパルス繰り返し周波数値(14〜28cm/秒の範囲)を設定することにより、CDMIデータセットからエイリアシングを除去する。長軸像については、可能な限り超音波ビームを縦軸方向の動作とほぼ零度の角度で整列させるために、各々の壁を超音波セクタの中央に維持するよう注意しなければならない。3回の心臓周期をその後の後処理のためにシネループ形式で保存する。
【0035】
全てのデータを超音波機器からデジタル的に移動し、オフラインワークステーションで後処理する。CDMIデータセットは、専用ソフトウェア(Software Package For Echocardiographic Quantification Leuven, Speqle 4(著作権), Catholic University of Leuven, Belgium)を用いて分析する。これにより、局所的な心筋の速度、自然SR、及びε値を算出することができる。
【0036】
各セグメントにおいて、ピーク収縮期並びにピーク拡張早期(E')及びピーク拡張後期(A')の心筋速度を測定する。拡張早期の中隔心筋速度に対する拡張早期僧帽弁血流の比(E/E')を、拡張機能の指標として測定する。
【0037】
適切なソフトウェア(例えば、Speqle 4)を用いて、異なる心筋セグメントにおける歪み速度(SR)及び歪み(ε)を算出する。SRは、心筋セグメントの変形速度の尺度であり、局部的な空間速度勾配に相当する(Sutherland GR, et al. (2004) Strain and Strain Rate Imaging: A New Clinical Approach to Quantifying Regional Myocardial Function. J Am Soc Echocardiogr, 17: 788-802)。これはsec-1で表される。縦軸方向では、セグメントが縮小する場合(収縮期)、負のSR値となる。セグメントが拡大する場合(拡張期)、正の値により特徴付けられる。εは、局部的な変形量を百分率で規定し、平均SR値を時間積分することにより得られる。心筋の縦軸ε値は、収縮期の局所的縮小を意味し、負の値で表される。対照的に、半径方向のε及びSRは共に、正の値で表される。計算領域10mmにおける空間速度勾配を測定することにより、各壁の基底セグメント、中間セグメント、及び心尖セグメントについての縦軸方向のピーク収縮期SR及びεを概算する。半径方向のSRの概算には5mmの計算領域を用いる。心臓周期を通じて対象領域内にサンプルボリュームを維持するために、マニュアルのMモードベースの追跡アルゴリズムを適用する。駆出時間を決定するために、大動脈弁の開閉クリック音を取り込み、それに匹敵するR-R間隔を有する周期から記録した血液プールのパルス波ドプラ追跡値と整列させる。
【0038】
等容性速度加速度(IVA)は、M.Vogel(Vogel M et al. (2002) Validation of myocardial acceleration during isovolumetric contraction as a novel noninvasive index of right ventricular contractility: comparison with ventricular pressure-volume relations in an animal model. Circulation 105(14): 1693-1699)による記載に従って測定する。サンプルボリュームを、基底自由壁の心筋の中央に置く。等容性速度加速度は、基準速度とピーク速度の差を時間間隔で割ったものとして算出する。心筋の加速度及び速度の測定値は、記録した3回の測定値の平均を用いて3回連続の心臓周期から算出する。
【0039】
上記検査により、イデベノン処置の結果としての拡張型心筋症の任意の改善をモニタリングすることができる。
【0040】
実施例3
研究の仮定:
いかなる学説にも拘束されることなく述べると、イデベノン療法は、酸化的ストレスを低減し、ミトコンドリアの呼吸鎖機能を改善することにより、DMD患者におけるジストロフィン欠損に関連する心筋症を改善し、かつ骨格筋の筋力/動作を改善する。
- 処置パラメータ‐試験対象:デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)患者、男性、10〜16歳
- 期間:12ヶ月(基準月、6ヶ月目、12ヶ月目で評価)
- 主要評価項目:心機能
- 副次的評価項目:骨格筋力、呼吸機能、生化学的な心臓マーカー
- 処置計画:イデベノン、経口、固定用量、150mg錠剤使用、3×150mg/日
【0041】
患者の選択:
典型的なDMDに一致する臨床像を有する生検材料に対するジストロフィン遺伝子欠損、ジストロフィン遺伝子点変異、又はジストロフィン蛋白質欠乏の陽性検査によってDMDであると確定診断された10〜16歳の患者を本研究に参加させる。長期のグルココルチステロイド処置(例えば、プレドニゾン、デフラザコート)を受けている患者は、グルココルチステロイド用量がイデベノン投与前の少なくとも6ヶ月間安定していた場合のみ参加させる。同様に、DMD関連心筋症に対する長期的な薬物治療(ACE阻害剤、β遮断剤、及び/又は利尿剤)を受けている患者は、これらの医薬の用量が、イデベノン投与前の少なくとも3ヶ月間安定していた場合のみ参加させる。
【0042】
処置プロトコル:
患者は150mg錠剤としてイデベノンを与えられ、その投与計画は、1日3回(朝、昼、晩)、食事中又は食後直ちに1×150mg錠剤を摂取させるというものである(結果的に、概算体重範囲25〜60kgに対して7.5〜18mg/kg/dとなる)。処置期間は12ヶ月であり、6ヶ月後及び12ヶ月後に評価項目の評価を行う。
【0043】
研究の評価項目:
(A)心臓の評価項目は、次の場合に該当する。
・左心室(LV)後方(下外側)壁のピーク収縮期の半径方向歪みにおいて、プラセボとの間に有意差が見られた場合(主要評価項目)
・LV後方(下外側)壁のピーク収縮期の半径方向歪み速度において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
・LV壁(外側壁、心室中隔)のピーク収縮期の縦軸方向歪み及び歪み速度において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
・例えば、短縮率又は駆出率などの、左心室の包括的機能において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
・例えば、肺静脈流量、僧帽弁流入量、組織ドプラ速度などの、左心室の拡張機能において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
・左心室基底セグメントにおける等容性加速度(IVA)において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
・心拍数において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
【0044】
(B)神経学的な評価項目は、次の場合に該当する。
・握力(左右)、上肢のQMTスコア(左右の肘の屈筋及び伸筋の和)の測定を含み、各測定について2回連続試験を行い良い方を記録する、CINRG定量測定系(CQMS)を用いた筋力値(ポンドで測定)において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
・歩行可能な患者に対する時間機能試験において、プラセボとの間に有意差が見られた場合:10メートル歩行するのに要する時間(秒単位で測定)
・FVC(努力肺活量;予測%)又はNIF(陰性吸気力、cmH2Oで測定)を測定するCQMSを用いた肺機能試験(PFT)において、プラセボとの間に有意差が見られた場合
【0045】
統計学的検出力の計算:
総サンプルサイズ(21人の被験体)を2:1の割合でイデベノンとプラセボに割り振った場合、主要評価項目としてのグループ間のピーク収縮期歪み(%)における15%の差は、80%の検出力及び5%の片側有意水準で検出され得る。この検出力計算は、両グループについて12%の標準偏差と推測される。
【0046】
イデベノン処置の治療効果を検出する方法
1. 心臓
a. 標準的な心エコー検査は、次の項目を含む:
1. グレイスケール及びカラーのドプラ画像化法による標準的な心エコー図ウィンドウ:標準的な心尖部四腔像、長軸像、短軸像(乳頭筋レベル、大動脈弁及びRVOTレベル)、RVOT像、RVOTの肋骨下像。
2. 左心室収縮末期径、左心室拡張末期径、短縮率、駆出率、右心室拡張末期径、右心室収縮末期径を測定する乳頭筋レベルの短軸Mモード。
3. 標準的な修正シンプソン公式を用いたLV駆出率の算出:心尖部四腔像及び心尖部二腔像のシネループを保存しなければならない(3連続心臓周期)。
4. 僧帽弁流入波形:僧帽弁尖の先端レベルでの3連続パルスドプラ追跡値を保存しなければならない。E速度、A速度、E/A比、減速時間、A持続時間、及びIVRTを測定する。
5. 肺静脈流:右上肺静脈約1cmの3連続パルスドプラ追跡値を保存しなければならない。収縮速度、拡張速度、逆行性A波速度、及び逆行性A波持続時間を測定する。
6. 三尖流入:三尖弁尖の先端レベルでの3連続パルスドプラ追跡値を保存しなければならない。E速度、A速度、E/A比、減速時間、A持続時間を測定する。
7. LVOTの直径を長軸像で測定する。
8. LVOTのパルスドプラ:3連続パルスドプラ追跡値を、大動脈弁レベル以下のLVOTにおいて測定する。Vmax及び速度時間積分値(VTI)を測定する。この値は、LVOTの直径の測定値と共に、心臓の出力を算出するのに使用する。
9. 大動脈弁におけるCWドプラ:3連続パルスドプラ追跡値を大動脈弁において測定する。Vmax及びVTIを測定する。
10. 三尖逆流:三尖逆流信号の3連続CWドプラ追跡値を獲得できた場合は、これを保存する。最大速度を評価する。
11. RVOT流:3連続CWドプラ追跡値をRVOTにおいて測定する。Vmaxを測定する。肺弁レベルで6パルス波ドプラ測定を実施する。Vmaxを測定する。大動脈弁及び僧帽弁逆流:これはカラーフローイメージング法を用いて評価する。
【0047】
b. カラードプラ心筋画像化法(CDMI):
局所的な心筋機能を定量化するために組織カラードプラ法が用いられる(Weidemann et al, 2002, Pediatr Cardiol 23: 292-306)。リアルタイム2次元カラードプラ心筋画像(CDMI)データを記録し、標準的な心尖部四腔像を用いて心室中隔、LV外側壁、及びRV自由壁から縦軸方向の機能を評価する。LV下外側壁における半径方向の機能を評価するため、CDMIデータを傍胸骨短軸像から記録する。全てのデータは、時間解像度を増やすために、できる限り狭い画像セクタ角(通常30°)及び最適な画像深度を用い、120〜250フレーム/秒の高フレームレートで獲得する。エイリアシングは、適切なパルス繰返し周波数値(14〜28cm/秒の範囲)を設定することによって、CDMIデータセットから排除する。長軸像については、可能な限り超音波ビームを縦軸方向の動作とほぼ零度の角度で整列させるために、各々の壁を超音波セクタの中央に維持するよう注意しなければならない。3回の心臓周期をその後の後処理のためにシネループ形式で保存する。
【0048】
c. CDMIデータの分析:
全てのデータを超音波機器からデジタル的に移動し、オフラインワークステーションで後処理する。CDMIデータセットは、専用ソフトウェア(Software Package For Echocardiographic Quantification Leuven, Speqle 4(C), Catholic University of Leuven, Belgium)を用いて分析する。これにより、局所的な心筋の速度、自然SR、及びε値を算出することができる。
【0049】
各セグメントにおいて、ピーク収縮期並びにピーク拡張早期(E')及びピーク拡張後期(A')の心筋速度を測定する。拡張早期の中隔心筋速度に対する拡張早期僧帽弁血流の比(E/E')を、拡張機能の指標として測定する。
【0050】
Speqle 4ソフトウェアを用い、異なる心筋セグメントにおける歪み速度(SR)及び歪みを算出する。SRは、心筋セグメントの変形速度の尺度であり、局部的な空間速度勾配に相当する。これはsec-1で表される。縦軸方向では、セグメントが縮小する場合(収縮期)、負のSR値となる。セグメントが拡大する場合(拡張期)、正の値により特徴付けられる。εは、局部的な変形量を百分率で規定し、平均SR値を時間積分することにより得られる。心筋の縦軸ε値は、収縮期の局所的縮小を意味し、負の値で表される。対照的に、半径方向のε及びSRは共に、正の値で表される。計算領域10mmにおける空間速度勾配を測定することにより、各壁の基底セグメント、中間セグメント、及び心尖セグメントについての縦軸方向のピーク収縮期SR及びεを概算する。半径方向のSRの概算には5mmの計算領域を用いる。心臓周期を通じて対象領域内にサンプルボリュームを維持するために、マニュアルのMモードベースの追跡アルゴリズムを適用する。駆出時間を決定するために、大動脈弁の開閉クリック音を取り込み、それに匹敵するR-R間隔を有する周期から記録した血液プールのパルス波ドプラ追跡値と整列させる。
【0051】
等容性速度加速度(IVA)は、M.Vogelによる記載に従って測定する。サンプルボリュームを、基底自由壁の心筋の中央に置く。等容性速度加速度は、基準速度とピーク速度の差を時間間隔で割ったものとして算出する。心筋の加速度及び速度の測定値は、記録した3回の測定値の平均を用いて3回連続の心臓周期から算出する。
【0052】
2. 骨格筋力及び呼吸機能
骨格筋力を、最大随意等尺性収縮に基づく小児定量的筋力検査(QMT)系(CINRG定量測定系、CQMS)を用いて評価する。CINRG QM系は、DMDにおける複数のCINRG試験によって開発され、かつ同試験において使用されている(Escolar et al, 2001, Muscle & Nerve 24: 787-793)。
【0053】
検査は、上記CQMS信頼性調査に参加した、CQMSの訓練を受けた経験豊富な臨床評価者(理学療法士)によって行われる。検査対象の筋肉は、握力(左右)、肘の屈筋(左右)、及び肘の伸筋(左右)を含む。試験する各々の筋肉群について、二回連続最大努力のうちの最も高い値を記録する。筋肉群の検査の順序はこの研究を通して変えない。
【0054】
肺機能検査は、努力肺活量(FVC)及び陰性吸気力(NIF)を含む。測定は、CINRG定量測定系(CQMS)を用いて実施される。
【0055】
実施例4
DMDの動物モデル
20年以上前、X染色体連鎖性筋ジストロフィ(mdx)変異がマウスにおいて同定された(Bulfield G, Siler WG, Wight PAL, Moore KJ (1984); X chromosome-linked muscular dystrophy (mdx) in the mouse; Proc Natl Acad Sci USA, 81 :1189-1192)。その後、このmdxマウスがデュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)の動物モデルとして広く使用されるようになった。DMD患者において見られるジストロフィン欠損のいくつかの重要な病理学的発現がmdxマウスモデルにおいても観察されるため、これは妥当である。例えば、ヒトDMD患者における場合と同様、ジストロフィンの欠損は、mdxマウスの筋組織における筋細胞膜の不安定化を引き起こす。崩壊した細胞膜はその後、カルシウムの無秩序な流入を招き、その結果カルシウムの恒常性が損われる(Bradley WG, Fulthorpe JJ (1978); Studies of sarcolemmal integrity in myopathic muscle. Neurology 28: 670-677)。ミトコンドリアは、ジストロフィン欠損をミトコンドリア機能障害に結び付けるカルシウム媒介細胞毒の中核部位と考えられており(Robert V, Massimino ML, Tosello V, Marsault R, Cantini M, Sorrentino V, Pozzan T (2001). Alteration in calcium handling at the subcellular level in mdx myotubes. J Biol Chem 276: 4647-4651)、酸化的ストレスについても同様である(Kuznetsov et al. (1998) Impaired mitochondrial oxidative phosphorylation in skeletal muscle of the dystrophin-deficient mdx mouse. Mol Cell Biochem. 183: 87-96; Robert V et al. (2001) Alteration in calcium handling at the subcellular level in mdx myotubes. J. Biol. Chem. 276: 4647-51 ; Rodriguez MC, Tarnopolsky MA (2003) Patients with dystrophinopathy show evidence of increased oxidative stress. Free Radic. Biol. Med. 34: 1217-20; Nakae et al. (2004). Early onset of lipofuscin accumulation in dystrophin-deficient skeletal muscle of DMD patients and mdx mice. J. Mol. Histol. 35: 489-99)。
【0056】
mdxマウスは、DMD患者と同様、拡張型心筋症を発症し、心臓の線維症だけでなく心筋細胞の肥大化及び壊死を示す(Quinlan JG, Hahn HS, Wong BL, Lorenz JN, Wenisch AS, Levin LS (2004). Evolution of the mdx mouse cardiomyopathy: physiological and morphological findings. Neuromuscul Disord 14: 491-496)。さらに、mdxマウスの筋肉における顕著な病理学的変化としては、壊死とそれに続く線維症及びマクロファージ浸潤がある(Stedman HH, Sweeney HL, Shrager JB, Maguire HC, Panettieri RA, Petrof B, Narusawa M, Leferovich JM, Sladky JZ, Kelly AM (1991) Nature 352: 536-539)。この細胞病理の結果として、mdxマウスは、筋力の低下を示す。このことは、一般的に健常な野生型マウスと比較してジストロフィmdxマウスにおいて低下する種々の運動パラメータを用いて機能的に実証され得る。例えば、自発的なホイール走行設定下でのmdxマウスの分析は、mdxマウスの走行が野生型対照マウスよりも少ないこと及びmdxマウスに走行持久力の異常が見られることを示した(Hara H, Nolan PM (2002). Running endurance abnormality in mdx mice. Muscle Nerve 25: 207-11)。それゆえ、mdxマウスは、ジストロフィマウスにおける行動/生理機能に対する新薬の効果の分析について十分に認知され広く用いられているモデルである(Granchelli et al. (2000) Pre-clinical screening of drugs using the mdx mouse. Neuromuscul. Disord. 10: 235-239)。
【0057】
走行行動に対するイデベノンの効果を、DMDに関して有効な動物モデルであるジストロフィン欠損mdxマウスにおいて試験した。mdxマウスのイデベノン処置を21日齢から開始した。それらの一日の走行行動を、溶剤のみで処置したmdxマウス及び未処置の野生型マウスと比較した。この目的のために、イデベノンは、0.5%w/vのカルボキシメチルセルロース(CMC)中に溶解させ、最終濃度を20mg/mlとした。イデベノン(0.5%CMC中20mg/ml)を、強制給餌により一日に一度与えた。全ての時点での最終イデベノン用量は200mg/kg体重であった。対照マウスには、溶剤のみを同量与えた。
【0058】
驚くべきことに、イデベノン処置は、mdxマウスにおいて一日走行行動の顕著な増加をもたらすことが見出された。図1に実証されるように、溶剤処置したmdxマウスの走行は、分析した全期間(29〜84日齢)にわたり野生型マウスと比較して大幅に少なかった。イデベノン処置したmdxマウスの行動は、分析開始時から、溶剤処置したmdxマウスと比較して明らかに良好であった。
【0059】
運動させないmdxは、比較的後期にしか心臓表現型を発現しないが(Quinlan JG, Hahn HS, Wong BL, Lorenz JN, Wenisch AS, Levin LS (2004). Evolution of the mdx mouse cardiomyopathy: physiological and morphological findings. Neuromuscul Disord 14: 491-496)、運動はmdxマウスにおける心臓表現型の発現を加速させる(Nakamura A, Yoshida K (2002). Progression of dystrophic features and activation of mitogen-activated protein kinases and calcineurin by physical exercise, in hearts of mdx mice. FEBS Lett 520: 18-24)。さらに、mdxマウス由来の心筋細胞は、筋細胞膜の完全性の損失及び収縮機能障害を引き起こす機械的ストレスにより誘導される損傷に対して異常に脆弱である(Danialou G, Comtois AS (2001). Dystrophin-deficient cardiomyocytes are abnormally vulnerable to mechanical stress-induced contractile failure and injury. Faseb J 15: 1655-1657)。イデベノンの十分に確立された抗酸化特性は、機能が損われたミトコンドリアにおける電子フラックスを促進するその能力と共に、この分子の細胞保護効果に対する最も確からしい説明である。具体的には、イデベノンは、フリードライヒ運動失調症のマウスモデルにおいて示されたものと同様の様式で、mdxマウスの心筋細胞を保護し得る(Seznec H, Simon D (2004). Idebenone delays the onset of cardiac functional alteration without correction of Fe-S enzymes deficit in a mouse model for Friedreich ataxia. Hum Mol Genet 13: 1017-1024)。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】溶剤又はイデベノンで処置した、野生型マウス及びmdxマウスの一日走行距離(メートル)。総一日走行距離は、毎日イデベノン処置したmdxマウスにおいて明らかに増加しており、このことは、心機能の改善はもとより持久力及び/又は筋力の改善を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋ジストロフィを処置するため、特に、筋ジストロフィに関連する骨格筋組織の衰弱及び/若しくは損失並びに/又は心筋症を、処置及び/又は予防するための薬物の調製のためのイデベノンの使用。
【請求項2】
骨格筋組織の衰弱及び/又は損失が、デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィ(BMD)、及び/又は肢帯型筋ジストロフィ(LGMD)に関連する、請求項1記載の使用。
【請求項3】
心筋症が、デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィ(BMD)、X連鎖性拡張型心筋症(XLDCM)、及び/又は肢帯型筋ジストロフィ(LGMD)に関連する、請求項1記載の使用。
【請求項4】
心筋症が拡張型心筋症である、請求項1〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
イデベノンが、5mg/kg/日〜60mg/kg/日、より好ましくは5mg/kg/日〜40mg/kg/日、最も好ましくは10mg/kg/日〜30mg/kg/日の用量で投与される、請求項1〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
イデベノンが、少なくとも3ヶ月の間、好ましくは少なくとも6ヶ月の間、より好ましくは約6ヶ月〜約12ヶ月の間、最も好ましくは一生涯、1日1回又は複数回投与される、請求項1〜5のいずれか一項記載の使用。
【請求項7】
イデベノンの投与様式が、経口、i.p.、i.v.、i.m.、i.c.、非経口、鼻腔内、及び経皮から選択される、請求項1〜6のいずれか一項記載の使用。
【請求項8】
イデベノンが経口投与される、請求項1〜7のいずれか一項記載の使用。
【請求項9】
イデベノンが錠剤形態で投与される、請求項1〜8のいずれか一項記載の使用。
【請求項10】
イデベノンが第二の治療薬剤と組み合わせて投与される、請求項1〜9のいずれか一項記載の使用。
【請求項11】
第二の治療薬剤が、例えば、6α-メチルプレドニゾロン-21コハク酸ナトリウム又はデフラザコート等のグルココルチコステロイドから、並びに、例えば、ACE阻害剤、β遮断剤、及び/又は利尿剤等の、DMDに関連する心筋症を処置するための医薬から選択される、請求項10記載の使用。
【請求項12】
第二の治療薬剤が、システインプロテアーゼカルパインの阻害剤又はプロテアソーム複合体の阻害剤から選択される、請求項10記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−533182(P2008−533182A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502302(P2008−502302)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002536
【国際公開番号】WO2006/100017
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(505336024)サンセラ ファーマシューティカルズ (シュバイツ) アーゲー (21)
【Fターム(参考)】