説明

筋タンパク質合成を強化する方法

本発明は、身体運動後の筋タンパク質合成を強化する方法であって、ランニング反復スプリントの実施前30分以内、実施中、又は実施後30分以内に、タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物をヒトに投与することを含む方法に関する。本発明はまた、反復スプリントトレーニングから引き起こされる筋肉適応を強化するためのプログラムに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、筋タンパク質合成を改良する方法及びプログラムに関する。本発明は特に、身体運動を行う個人における筋タンパク質合成の改良に関する。
【発明の背景】
【0002】
身体運動は、タンパク質合成を「始動させる」のに関わるタンパク質(すなわちシグナル伝達分子)の活性を変化させる。これは、いかなる筋タンパク質がいつ作られるかのガイドに役立つ。分子反応と同様に、レジスタンス運動による力に関わる(すなわち筋原線維の)タンパク質の合成増加、及び有酸素運動によるエネルギー供給に関わる(すなわちミトコンドリアの)タンパク質の増加など、一回の運動の後のタンパク質合成における変化は運動課題に大いに特異的である(Coffey VG及びHawley JA、The molecular bases of training adaption、J Sports Sci 2007)。しかし、純粋な耐久/有酸素運動及び純粋なレジスタンス運動以外に、現在の技術水準では、アスリートがトレーニング及び競技においてどのチームスポーツを行うかがわからないのと同様に、どのタンパク質が反復スプリント運動の後に合成されるかはわからない。
【0003】
身体運動の超過時間の間、シグナル伝達分子活性及び筋タンパク質合成におけるこれらの変化は、アスリートに特定の運動課題/イベントをより上手に行わせる生理的適応へ数週から数ヶ月の期間にわたって(すなわちトレーニングによって)累積的効力を形成する。
【0004】
どの栄養がどのようにしてこれらのトレーニング適応を支持し最適化できるかに関する情報はほとんどない。事実、上述の2007extensive review on training adaptation、「The molecular bases of training adaptation」は、栄養がトレーニングへの適応を支持するか又は強化するのに果たす役割を考察していない。さらに、いくつかの運動課題は、レジスタント性と有酸素性の両方の構成要素(例えば、チームスポーツにおいて一般的に見られるスプリント型ストップアンドゴー)を有し、したがって、分子シグナル伝達ばかりでなく様々な筋タンパク質の合成においていかなる変化が起こるかは完全に未知である。
【0005】
1)レジスタンス運動、2)無酸素性の又は反復スプリント型運動、及び3)耐久運動を含む、3つの主要な異なる型の運動トレーニングレジメンがある。これらの運動トレーニングレジメンの各々は多岐にわたるトレーニング反応を取り入れている。
【0006】
1)レジスタンス運動は、被験者が、長期間の安静を伴う体重の爆発的な移動を行う場合であり、主としてホスホクレアチン及び解糖系エネルギーシステムにより動かされる。このシステムは急速にエネルギーを生成するが、急速に疲労を生成し得る。主な適応は、反復の重量挙げトレーニングにより増加した筋肉断面積による筋肉の塊の増加(肥大)を含む。例えば、Hakkinen K.、Neuromuscular and hormonal adaptations during strength and power training(A review.J Sports Med Phys Fitness29:9〜26ページ、1989)、又はHakkinen K.ら、on Relationships between training volume,physical performance capacity,and serum hormone concentrations during prolonged training in elite weight lifters、Int J Sports Med8 Suppl1:61〜65ページ、1987参照。
【0007】
2)反復スプリント型トレーニングは本来無酸素性であり、限定的な回復期を伴う高強度の運動を含み、筋グリコーゲンにおける大分解によるほぼ純粋な炭水化物代謝(解糖系エネルギー生成)を含む。高強度のスピードトレーニング又は反復スプリントを含むスポーツなどの無酸素性エネルギー生成のこれらの状態の間、筋肉への増加した負荷はIIa型線維の増加した燃焼によって達成される。最後に、非常に高い作業負荷でIIb型解糖系筋線維は活性化するようになり、無酸素性エネルギー供給によりエネルギー供給の高需要を維持する。しかし、これらの状態の間、無酸素性エネルギー生成の高速度は、ミトコンドリア内で有酸素的に酸化できる速度を超え、これらの型のトレーニング状況において見られる極端なレベルの乳酸生成を引き起こす(Spriet LL、Howlett RA、及びHeigenhauser GJ、An enzymatic approach to lactate production in human skeletal muscle during exercise、Med Sci Sports Exerc32:756〜763ページ、2000)。最近の研究では、反復スプリントトレーニングへの適応を見て、ミトコンドリアとまた肥大との両方における増加、及び乳酸輸送体2における増加と共にIIa型線維が増加することが見出されている(Gibala MJら、Short−term sprint interval versus traditional endurance training:similar initial adaptations in human skeletal muscle and exercise performance、J Physiol575:901〜911ページ、2006)。
【0008】
3)耐久トレーニングは、個人が長期間(例えば>15分)に渡って低強度のトレーニングを行うのが特徴である。耐久トレーニングを代表するエネルギーシステムは有酸素システムを含む。これは、十分な酸素が存在する場合、主として脂肪及び炭水化物の有酸素性の代謝を用いて、ミトコンドリア内で必要とされるエネルギーを生成する。主な適応は、増加した脂肪酸化による最大に近い作業負荷での増加した筋グリコーゲン貯蔵及びグリコーゲン節約、筋肉面積当たりより大きいI型線維を含む強化された乳酸動態及び形態変化、並びに増加した毛細管及びミトコンドリアの密度を含む(Holloszy JO及びCoyle EF、Adaptations of skeletal muscle to endurance exercise and their metabolic consequences、J Appl Physiol56:831〜838ページ、1984、並びにHolloszy JO、Rennie MJ、Hickson RC、Conlee RK、及びHagberg JM、Physiological consequences of the biochemical adaptations to endurance exercise、Ann N Y Acad Sci301:440〜450ページ、1977)。
【0009】
さらに、どのようにして栄養がスプリント型運動後のこれらの適応を強化することができるかは未知である。反復スプリントをベースとする運動(例えば、フットボール/サッカーのようなチームスポーツの大半)の後の分子シグナル伝達及びタンパク質合成に対する栄養補給の急性効果を試験することを理解する必要がある。
【0010】
スプリント型のスポーツのための現在の運動中及び運動後の栄養推奨は、筋グリコーゲンを補充するための適切な炭水化物の摂取を含む。
【0011】
スプリント型/ストップアンドゴーの運動への筋肉適応を強化するためのその他の栄養素及び摂取のタイミングの重要性を判定する必要がある。
【0012】
本発明は上記課題を解決しようとするものである。本明細書の以下の記載から明らかなように、本発明はまた、それ以外の目的も有し特にその他の問題の解決も目的とする。
【発明の目的及び概要】
【0013】
第一の態様において、本発明は、身体運動後の筋タンパク質合成を強化する方法であって、大半のチームスポーツに通常見られるようなランニング反復スプリントの実施前30分以内、実施中、又は実施後30分以内に、タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物をヒトに投与するステップを含む方法を提供する。
【0014】
驚くべきことに、反復スプリント運動の際にタンパク質又は必須アミノ酸を加えることによって筋原線維タンパク質合成を強化できることがわかった。筋原線維タンパク質は、筋肉肥大(成長)を担う特異的タンパク質である。
【0015】
身体運動は、運動刺激に特異的なタンパク質の遺伝子発現及び合成における変化をもたらす分子シグナルの一連の反応を引き起こす身体への刺激をもたらす。習慣的なトレーニングから引き起こされる身体的な適応は、複数回の急性運動の後のこれらのタンパク質の蓄積の直接的な結果であると考えられる。
【0016】
明らかで有益な効果が、栄養素の供給を有する反復スプリントをベースとする運動の後のタンパク質同化シグナル伝達及び筋タンパク質合成に対して示される。推奨は、激しいトレーニングセッションに近接する一時的なタイミングでタンパク質及び炭水化物を摂取することである。レジスタンス及び耐久トレーニングの後の栄養素の補給の十分に証明された利点はあるが、反復スプリントについてはない。
【0017】
また、回復の間の筋タンパク質合成は、栄養素の供給があるほうが栄養素の供給のないプラセボ条件と比較してほぼ50%大きかったことから、高強度のスプリント練習に近接する栄養素の供給の不存在はその後のトレーニング適応を損なう可能性があることがわかった(報告の実施例参照)。
【0018】
栄養が数週間又は数ヶ月間にわたりほんの少しのパーセンテージで単一のトレーニングセッションへの適応を改良できる場合、これは、トレーニング適応、そしてそれ故パフォーマンスに大きな効果を与え得ることもわかった。
【0019】
第二の態様において、本発明は、反復スプリントトレーニングから引き起こされる筋肉適応を強化するためのプログラムを提供する。該プログラムは、筋タンパク質合成を改良するために栄養及びトレーニングガイダンスをアスリートに提供するステップを含み、
タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物を提供するステップと、
アスリートのトレーニングレジメンに基づく運動の前30分以内又は運動からの回復後30分を超えて消費する組成物の量の推奨を含む、消費のためのガイドラインを提供するステップと、
トレーニングレジメンについてのガイダンスを提供するステップと、
を含む。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む複数の組成物と、アスリートが運動前の一定期間内及びスプリントの反復ランニング後の回復中の一定期間内に前記組成物を消費することを推奨するガイドラインと、を含む栄養キットに関する。本発明はまた、筋タンパク質合成を改良するための、タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物の使用であって、反復スプリント運動に関連する使用に関する。
【0021】
さらに、上述の通り、反復スプリント型トレーニングは、本来、無酸素性であり、筋グリコーゲンにおける大分解によって、ほぼ純粋な炭水化物代謝を引き起こす。したがって、この種類の運動トレーニング後の最初の数時間内に消費される、体重1kgにつき少なくとも1〜1.5gの炭水化物(合計約50〜75gの炭水化物)の栄養が推奨される。
【0022】
本発明のさらなる特徴、利点及び目的は、本発明の実施形態の以下の詳細な説明を添付の図面と併せて読めば当業者には明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】反復スプリント運動から引き起こされる筋原線維タンパク質合成速度を示す図である。
【図2】安静時、及び運動前30分でのプラセボ又は栄養飲料の事前摂取後の反復スプリントサイクリングの反復後の血漿必須アミノ酸(EAA、パネルA)、分枝鎖アミノ酸(BCAA、パネルB)及び総アミノ酸(パネルC)の濃度を示す図である。
【図3】安静時、及び運動前30分でのプラセボ又は栄養飲料の事前摂取後の全力での反復スプリントサイクリングの反復後のp70S6Kthr389(パネルA)のリン酸化を示す図である。
【実施形態の詳細な説明】
【0024】
本発明によれば、栄養素の供給は、反復スプリント運動の後、タンパク質同化シグナル伝達及び筋原線維タンパク質合成を増加させる。
【0025】
スプリント型運動に従事するアスリートが適切な炭水化物を消費し、グリコーゲン再合成及びエネルギー回復を強化することは、一般的に推奨されることである。本データは、炭水化物の摂取だけでは起こらない筋原線維タンパク質合成を最大化させるために、一回のスプリント型運動に近接するタンパク質摂取が重要であることを初めて示すものである。事実、発明者らは、タンパク質+ロイシンの摂取後、等カロリーの炭水化物だけの試験と比較して筋原線維タンパク質合成が48%増加したことを見出した。さらに、タンパク質合成を「始動させる」のに関与するタンパク質はまた、運動後のタンパク質摂取によっても強化される。これは、タンパク質合成を活性化させるシグナルとその後の筋タンパク質合成反応との間の明白な関連を示す(例えば、p70S6キナーゼの約300%の増加及び4E−BP1の約100%の増加)。p70S6キナーゼの活性化は、トレーニングによる筋タンパク質合成の急な増加及び筋肉成長の持続的な増加にとって重要であることが示された。したがって、スプリント型運動の際のこの継続的なタンパク質摂取はトレーニングよるより大きな筋肉成長及び筋力をもたらし、これは、この種の運動/スポーツに従事するアスリートにとって非常に好ましい適応である。
【0026】
筋タンパク質合成を最大化し、スプリント型運動(例えば、チームスポーツのストップアンドゴー)への適応を強化するために、アスリートは、近接して(すなわち、30〜60分前及び/又は0〜120、添加されたロイシン(5gまで)と一緒に、20〜35、好ましくは20〜30gのタンパク質を含む製品を消費することが推奨される。有利には運動の0〜30分以内。これらの栄養のガイドラインは、低強度の回復の期間によって分散させられた高強度のスプリントの期間が特徴である、すべてのストップアンドゴーの個人及びチームのスポーツ(例えば、フットボール、テニス、アイスホッケー、バスケットボール)に適用することになる。
【0027】
組成物は、1:1から3:1の炭水化物対タンパク質の割合で、好ましくは2:1の比で炭水化物とタンパク質又は必須アミノ酸とを含むことが好ましい。
【0028】
炭水化物摂取の場合、運動後のグリコーゲン再合成を最大化するのが有利であることから、推奨されるのは1〜1.5gCHO/kgである。
【0029】
好ましい組成物は、タンパク質10〜50g、好ましくは20〜30グラムの総タンパク質用量を含む。これは、本発明の使用において好ましい量である。
【0030】
一実施形態において、タンパク質又はアミノ酸は、最終製品における固体の約20重量%〜約40重量%を構成する。他の実施形態において、タンパク質又はアミノ酸は製品の約30重量%を構成する。
【0031】
さらに、一用量につき一貫した数えられる量のタンパク質、例えば、一用量につき約2グラム〜約4グラムのタンパク質が含まれるように組成物を作ることができる。
【0032】
好ましくは、組成物は約2グラムから約2.5グラムのタンパク質又は必須アミノ酸を含む。
【0033】
組成物は、固体製品、ゲル、液体又はレディトゥミックス粉末の形態であってもよい。
【0034】
タンパク質ベースの製品はまた、アスリートに任意の適切な量のエネルギーを供給できるように少なくとも1つの製品中に別々の量の脂肪を含ませることもできる。例えば、製品は各々9g/300calまでの量の脂肪を供給できる。他の実施形態において、製品は11g/360calを供給できる。製品はまた、各々4g/300calまで又はそれ以上の量の飽和脂肪を供給できる。一実施形態において、脂肪由来のエネルギーの(例えばカロリーの形態での)パーセンテージは約25%までであり得る。
【0035】
一実施形態において、タンパク質ベースの製品は、タンパク質ベースの製品の約10重量%〜約40重量%の量の脂肪を含む。好ましくは、タンパク質ベースの製品は、タンパク質ベースの製品の約30重量%の量の脂肪を含む。
【0036】
いずれかの適切な個々のタンパク質、アミノ酸、又はタンパク質ブレンドを使用することができる。例えば、タンパク質ベースの製品は、大豆タンパク質分離物、ホエータンパク質分離物、及びカゼインカルシウムを含むタンパク質ブレンドを有し得る。タンパク質ブレンドの例は、トリソース(Tri−source)(登録商標)タンパク質ブレンドである。
【0037】
本開示の栄養製品中のタンパク質及び/又は脂肪の存在は、パフォーマンスの間、アスリートに、より完全な栄養を供給することが可能であるという利点を有する。タンパク質供給源について、いずれかの適切な食物由来のタンパク質は、例えば、動物性タンパク質(例えば、乳タンパク質、食肉タンパク質、卵タンパク質)、植物性タンパク質(例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質)、遊離アミノ酸の混合物、又はそれらの組み合わせなどであってもよい。カゼイン及びホエー乳タンパク質などの乳タンパク質並びに大豆タンパク質は特に好ましい。
【0038】
タンパク質は、未処理若しくは加水分解されているか、又は未処理及び加水分解されたタンパク質の混合物であってもよい。例えば、牛乳アレルギーに罹る危険性があると思われるアスリートのために、部分的に加水分解されたタンパク質(2〜20%の間の加水分解度)を供給することが望ましいことがある。一般的に、少なくとも部分的に加水分解されたタンパク質は、身体によって代謝するのがより容易で、より速い。これは、特にアミノ酸に当てはまる。一実施形態において、タンパク質ベースの製品は単一/必須アミノ酸(例えば、ロイシン、バリン及び/又はイソロイシン)を含む。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、添加されたロイシンを含む必須アミノ酸。本文脈において、ロイシンは、分枝鎖アミノ酸(BCAA)のファミリーの一部として見出される必須アミノ酸(EAA)である。必須EAAの摂取は、この反応において決定的な役割を果たすと示唆される、分枝鎖アミノ酸のロイシン、イソロイシン及びバリンによって骨格筋タンパク質の合成を刺激する。筋肉を含む多くの様々な組織において、タンパク質同化特性についてBCAAのロイシンを調査した。ロイシンが、タンパク質合成を「始動させる」のに関与する特異的タンパク質の形成、したがって活性化を増すことは、細胞培養及びラットモデルにおいて十分確立される。
【0040】
有利なことに、高品質タンパク質のEAAを模倣するEAAブレンド5〜25g、好ましくはEAA10gの総必須アミノ酸用量が本発明の製品中に使用される。総用量25gまでのロイシンの使用は有利であり得る。
【0041】
脂肪供給源は、改良された食感を実現するのに有利な点を有する。いずれの脂肪供給源も適切である。例えば、動物性又は植物性脂肪が使用されてもよい。栄養価を高めるために、n3系不飽和及びn6系不飽和脂肪酸が脂肪供給源を構成してもよい。脂肪供給源はまた、長鎖脂肪酸及び/又は中鎖脂肪酸を含んでもよい。例えば、乳脂肪、キャノーラ油、アーモンドバター、ピーナッツバター、コーン油、及び/又は高オレイン酸ヒマワリ油が使用されてもよい。
【0042】
本発明による反復スプリント運動は、スポーツのための継続的なトレーニング又は競技そのもののいずれかにおける、スポーツの一部である。
【実施例】
【0043】
実施例1:
反復スプリント型運動の後のシグナル伝達分子活性及び筋タンパク質合成における変化に対する適時の栄養(タンパク質+ロイシンの摂取)の効果を調査するために、下記の臨床試験を実施した。
【0044】
研究は、食事及び運動の操作を含む無作為交差二重盲検デザインを使用した。被験者らは、2週間の回復期によって隔てられたそれぞれの試験セッションで、変化させた栄養介入(タンパク質対プラセボ)を有する2つの別々の場合に同じ反復スプリント運動プロトコールを実施した。
【0045】
被験者らは、運動プロトコールの開始前の30分に、ホエータンパク質24g、ロイシン4.8g、マルトデキストリン(栄養素)50gを含む飲料又はノンカロリーのプラセボ飲料のいずれかを500mL消費した。様々な主要なチームスポーツのパフォーマンスの時間動作分析は、最大スプリント活動が、6秒を超えないスプリント持続期間を伴って約50〜100sごとに起こることを示す。したがって、実験室の運動シミュレーションをできるだけ「スポーツに特異的」にするために、被験者らは、電子工学ブレーキの自転車エルゴメーターで、0.075kp/kg体重(BM)に等しい負荷で60sごとに始める10×6sの超最大スプリントを行った。
【0046】
被験者らは、運動終了後の3時間、仰臥位で快適に休息した。筋生検は外側広筋(大腿部)から採られ、標準的ウエスタンブロット法によって、タンパク質合成を「始動させる」(すなわち、mRNA転写を制御する)のに関与するタンパク質の活性を測定した(リン酸化の変化によって分析される)。筋肉(筋原線維)タンパク質合成はまた、安定同位体アミノ酸([環−13C6]フェニルアラニン)のプライムド持続注入によっても測定された。
【0047】
結果:
図1は、運動前30分でのプラセボ又は栄養飲料500mLの事前摂取後の全力での反復スプリントサイクリングの反復(10×6s)からの回復中(15〜240分)の筋原線維(パネルA)タンパク質分画合成速度(FSR)を示す。値は平均値±標準偏差。
【0048】
図2は、安静時、及び運動前30分でのプラセボ又は栄養飲料500mLの事前摂取後の全力での反復スプリントサイクリングの反復(10×6s)後の血漿必須アミノ酸(EAA、パネルA)、分枝鎖アミノ酸(BCAA、パネルB)及び総アミノ酸(パネルC)の濃度を示す。値は平均値±標準偏差。有意差(P<0.05):(a)対安静;(b)対0分;(c)対30分;(d)対60分;(e)対90分;(*)当該時点での処置間。
【0049】
図3は、安静時、及び運動前30分でのプラセボ又は栄養飲料500mLの事前摂取後の全力での反復スプリントサイクリングの反復(10×6s)後のp70S6Kthr389(パネルA)のリン酸化を示す。値は平均値±標準偏差(n=7)。有意差(P<0.05):(a)対安静;(c)対240分;(*)当該時点での処置間。
【0050】
血中アミノ酸(図2参照):
血漿必須アミノ酸(EAA)、分枝鎖アミノ酸(BCAA)及び総アミノ酸の濃度について時間×処置の相互作用が見られた(図2)。血漿EAA濃度は、栄養素の供給により運動直後に安静時よりも有意に上昇(約85%)したが、この効果は60〜90分の回復後にも明らかであった(約50〜60%)(P<0.05;図2A)。さらに、栄養素の摂取によるEAA濃度の上昇は、運動直後及び30〜90分の回復の間ずっとプラセボより高かった(P<0.05)。同様に、血漿BCAA濃度は運動直後に安静時より上昇し、栄養素による90分の回復の間上昇したままであったが、プラセボ処置では違った(約60〜120%、P<0.05;図2B)。また、栄養素の摂取で増加した運動後のBCAA濃度は当該時点でのプラセボよりも高かった(P<0.05)。
【0051】
図3:
p70S6Kthr389のリン酸化について有意な時間×処置の相互作用が見られた(P<0.05;図4A)。p70S6Kのリン酸化は、栄養素の摂取により運動の停止後15分に安静時より有意に上昇し(約300%、P<0.01)(プラセボ(約95%)では有意差なし)、有意な処置効果(P<0.05)がもたらされた。240分の回復後のp70S6Kthr389のリン酸化では中程度の上昇が見られたが、これらの変化は安静時と有意差はなかった(40〜70%;図4A)。
【0052】
図1:
反復スプリント運動は、運動前の栄養素の摂取により、15〜240分の回復期にプラセボより大きな筋原線維タンパク質合成速度をもたらした(約48%、0.083±0.023対0.056±0.031%・h−1、P<0.05;図1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体運動後の筋タンパク質合成を強化する方法であって、ランニング反復スプリントの実施前30分以内、実施中、又は実施後30分以内に、タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物をヒトに投与するステップを含む方法。
【請求項2】
組成物は、1:1〜3:1の炭水化物対タンパク質の割合で、好ましくは2:1の比で炭水化物とタンパク質又は必須アミノ酸とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
必須アミノ酸は添加されたロイシンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
組成物は、タンパク質10〜50g、好ましくは20グラムの総タンパク質用量を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
強化されたタンパク質合成は筋原線維タンパク質合成である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
組成物は、EAA5〜25g、好ましくはEAA10〜20gの総必須アミノ酸用量を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反復スプリントは、スポーツのための継続的なトレーニング又は競技そのもののいずれかにおける、スポーツの一部である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反復スプリントトレーニングから引き起こされる筋肉適応を強化するためのプログラムであって、
筋タンパク質合成を改良するために栄養及びトレーニングガイダンスをアスリートに提供するステップを含み、
タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物を提供するステップと、
アスリートのトレーニングレジメンに基づく運動の前30分以内又は運動からの回復後30分を超えて消費する組成物の量の推奨を含む、消費のためのガイドラインを提供するステップと、
トレーニングレジメンについてのガイダンスを提供するステップと、
を含むプログラム。
【請求項9】
1〜6週間、週1〜3回、スプリントの反復運動を行う推奨を含む、請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む複数の組成物と、アスリートが運動前の一定期間内及びスプリントの反復ランニング後の回復中の一定期間内に前記組成物を消費することを推奨するガイドラインと、を含む栄養キット。
【請求項11】
タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む複数の組成物と、消費についてのガイドラインと、トレーニングレジメンについてのガイダンスと、がパッケージに一緒に入っている、請求項10に記載の栄養キット。
【請求項12】
筋タンパク質合成を改良するための、タンパク質又は必須アミノ酸と炭水化物とを含む組成物の使用であって、反復スプリント運動に関連する使用。
【請求項13】
摂取されたタンパク質は合計10〜50グラムのタンパク質の摂取に相当する、請求項12に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−511970(P2013−511970A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540457(P2012−540457)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068439
【国際公開番号】WO2011/064373
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】