説明

筋弛緩促進剤及び筋弛緩不全等の筋組織に係る疾病の治療薬

【課題】心筋拡張障害、左室拡張障害による心不全、拡張期の冠循環障害による狭心症、及びカテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬及び予防薬の提供。
【解決手段】一般式〔1〕


〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、


(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−又は−CH−を表し、nは1又は2を表す。〕で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体を有効成分として含有治療薬及び予防薬である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物に関し、特に、筋弛緩が不十分な、即ち心筋弛緩不全の患者に与えて、心筋組織の弛緩を促進させて、心筋組織の弛緩不全を解消する作用を有する化合物に関する。
また、本発明は、心筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む、心筋拡張障害関連疾患、即ち心筋弛緩障害関連疾患の治療薬又は予防薬に関する。さらに、本発明は、心筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む、微小循環系の血流改善薬に関し、さらにまた、心肥大、大動脈弁狭窄症、特に重症の大動脈弁狭窄症、大動脈閉鎖不全症、狭心症の治療薬又は予防薬に関し、さらに加えて、例えば心室性頻拍やトルサドポアン(Torsades de pointes)といわれる多形性心室性頻拍等の頻拍性不整脈の治療薬又は予防薬に関する。そしてまた、本発明は、心筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む、両心拡張不全、左室拡張不全、急性及び慢性肺うっ血、急性肺水腫、左室心筋障害、等の心筋障害関連の疾患の治療薬又は予防薬に関する。そしてさらに、本発明は、心筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む、心不全の治療薬又は予防薬に関する。またさらに加えて、本発明は、筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む急性肺水腫の治療薬又は予防薬に関する。そしてこれらの他に、本発明は、筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む、狭心症、特に、心筋内小血管性狭心症の治療薬又は予防薬に関する。そしてさらに本発明は、筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む高血圧の治療薬に関し、また、カテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬に関する。そしてまた、本発明は、筋組織の弛緩を促進させる機能を有する化合物を含む、心筋細胞内のカルシウム過負荷時において発生する不整脈の治療薬又は予防薬に関し、また同じくカルシウム過負荷時においてカテコールアミン誘発性の不整脈の治療薬又は予防薬に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、心不全は、これまで、心筋の収縮機能不全に基づいて発症するものと考えられており、そのために、心不全の治療薬としては、心筋の収縮を強める薬剤が使用されている。即ち、このような心不全の治療薬としては、(1) ジギタリス(ジゴキシン、ジギトキシン、ジギラノーゲンCなど)、(2) カテコールアミン(ドパミン、ドブタミン、デノパンなど)、(3) フォスフォジエステラーゼ阻害薬(PDEIII阻害薬、アムリノン、ミルリノン、ベスナリノンなど)、(4) カルシウムセンシタイザー(ピモベンダン)などがあるが、これらの中で、前記(1)〜(3)に示す薬剤は、いずれもが細胞内カルシウムイオンを増やすことにより、心筋収縮を促進させるものであり、また、前記(4)の薬剤のカルシウムセンシタイザーは心筋収縮調節蛋白質トロポニンCのカルシウムイオン感受性を高めて、心筋収縮を促進させるものである。
また、これらの他に、リアノジン受容体機能の改善及び又は安定化により、筋小胞体からのCaイオンのリークを抑制する作用を発揮する化合物を有効成分とする、筋肉収縮・弛緩機能障害が発症の原因となる疾患の治療又は予防剤が提案されている。
【0003】
しかしながら、最近、心不全の症例において、左室の収縮機能が保持されているにもかかわらず、心不全をきたす患者が多く、その数は心不全の患者の40パーセントにも及ぶことが発見されて、しかも、この場合、必ずしも予後が良好といえないことが分かってきた。このような心不全の患者では左室の拡大が認められないために、このような患者では、左室拡張機能が心不全の原因となっており、これは拡張不全とよばれている。
ところで、筋肉には、心筋、骨格筋及び平滑筋があり、これら筋肉の収縮及び弛緩は、筋肉を備える臓器又は組織若しくは器官の機能を発揮する上で不可欠である。これら筋肉の収縮及び弛緩に係る治療は、血液の拍出の際の筋肉の収縮に大きなエネルギーを要するところから、従来より筋肉の収縮を高める物質が研究されており、筋肉の収縮を高める薬剤は、例えば、心臓の疾病を例にとれば、前記のように心不全の治療薬となり、また、血管の場合では、血管の収縮を強めて血圧の上昇をもたらす薬剤となる。これらとは逆に、例えば、β−遮断薬のように、心収縮力を弱めることにより、筋組織の酸素消費量を少なくする薬剤があるが、この薬剤は、労作狭心症の治療薬に使用されている。
また、トルサドポアンは、多形性心室性頻拍の特殊型で、QT延長症候群の患者で発生することが多く、QRS軸が連続して変化し、QRS波形が基線を軸にねじれ回転するごとく周期的に変化する不整脈であり、多くは自然に停止するが、反復性を示し、ときには、失神発作を起したり、又は心室細動に移行して、生命の危険を齎し問題とされている。トルサドポアンは、抗不整脈薬のある種のもの、抗ヒスタミン剤、クロールプロマジンなどの抗精神病薬で発現する。また、低マグネシウム血症や低カリウム血症といった電解質異常でも起こる。不整脈の治療の際に投与される抗不整脈薬では、ボーガン ウイリアムスの抗不整脈薬の分類のクラスIA群のキニジン、ジソピラミド、プロカインアミド、プロパフェノン、シベンゾリン、及び前記分類のクラスIII群のアミオダロン、シンビットなどによって、トルサドポアンが惹起されることが知られている。また、これらの抗不整脈薬は、心電図でQTを延長させる作用があり、実験的にも、前記分類のクラスIII群のクロフィリウムでトルサドポアンを発現させることができる。
【特許文献1】特許第2703408号公報(特開平4−230681号公報)
【特許文献2】特開平2003−95977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、心不全は、これまで、心筋の収縮機能不全に基づいて発症するものと考えられており、そのために、心不全の治療薬としては、心筋の収縮を強める薬剤が使用されている。即ち、このような心不全の治療薬としては、(1) ジギタリス(ジゴキシン、ジギトキシン、ジギラノーゲンCなど)、(2) カテコールアミン(ドパミン、ドブタミン、デノパンなど)、(3) フォスフォジエステラーゼ阻害薬(PDE III阻害薬、アムリノン、ミルリノン、ベスナリノンなど)、(4)カルシウムセンシタイザー(ピモペンダン)などがあるが、これらの中で、前記(1)〜(3)に示す薬剤は、いずれもが細胞内カルシウムイオンを増やすことにより、心筋収縮を促進させるものであり、また、前記(4)の薬剤のカルシウムセンシタイザーは心筋収縮調節蛋白質トロポニンCのカルシウムイオン感受性を高めて、心筋収縮を促進させるものである。
また、これらの他に、リアノジン受容体機能を改善及び/又は安定化により、筋小胞体からのCaイオンのリークを抑制する作用を発揮する化合物を有効成分とする、筋肉収縮・弛緩機能障害が発症の原因となる疾患の治療又は予防剤が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、最近、心不全の症例において、左室の収縮機能が保持されているにもかかわらず、心不全をきたす患者が多く、その数は心不全の患者の40パーセントにも及ぶことが発見されて、しかも、この場合、必ずしも予後が良好といえないことが分かりってきた。このような心不全の患者では、左室の拡大が認められないために、このような患者では左室拡張機能が心不全の原因となっており、これは拡張不全と呼ばれている。
ところで、筋肉には、心筋、骨格筋及び平滑筋があり、これら筋肉の収縮及び弛緩は、筋肉を備える臓器又は組織若しくは器官の機能を発揮する上で不可欠である。これら筋肉及び弛緩に係る治療は、血液の拍出の際の筋肉の収縮に大きなエネルギーを要するところから、従来より筋肉の収縮を高める物質が研究されており、筋肉の収縮を高める薬剤は、例えば、心臓の疾病を例にとれば、前記のように心不全の治療薬となり、また、血管の場合では、血管の修復収縮を強めて血圧の上昇をもたらす薬剤となる。これらとは逆に、β遮断薬のように、心収縮力を弱めることにより、筋組織の酸素消費量を少なくする薬剤があるが、この薬剤は、労作狭心症の治療薬に使用されている。
例えば、拡張不全による心不全は、これまでの収縮不全による心不全とは心不全の発生のメカニズムが異なっており、収縮不全による心不全と拡張不全による心不全は峻別されている。したがって、収縮不全による心不全と拡張不全による心不全の治療法は、自ずと異なり、左室拡張不全の治療には、急性憎悪期における治療薬や慢性期における治療薬の使用が提案されてはいるが、何れも完全ではなく、例えば、最近心不全薬として使用されているβ―遮断薬は、筋収縮に影響を与える点に問題が残り、完全とはいえず、特効薬的に心筋弛緩を改善する薬剤、即ち、拡張不全による心不全の治療薬剤の出現が望まれている。
本発明は、従来の心不全の40%とも言われている心筋弛緩不全、即ち拡張不全による心不全の特効薬的に治療薬を提供することを目的としている。
【0005】
ところで、筋弛緩が促進されないことに由来する病気は多く、これらの病気は、筋弛緩を促進させることで改善できるが、筋収縮に影響を与えることなく如何に筋弛緩させるかが問題である。例えば、心臓は収縮及び弛緩を繰返してポンプとして働いており、冠灌流は、主として弛緩期に行われ、筋弛緩が容易になると、冠循環を容易にさせることになる。そのために、心肥大、特に重症の大動脈弁狭窄症や、大動脈閉鎖不全症の患者の場合には、拡張期の冠循環が障害されると狭心症を起こしてくるが、筋収縮に影響を与えることなく如何に筋弛緩を促進させて拡張期の冠循環の障害を取り除くかが問題である。また、高血圧心疾患、特発性肥大型心筋症、心臓弁膜症及び老人などでの心臓肥大や加齢により心筋の弛緩障害を伴って心電図でST低下を示す心筋障害を起すが、これらの疾患の場合も、筋収縮に影響を与えることなく如何に心筋弛緩を促進させてそれらの疾患を治療し及び予防するかが問題である。末梢血管は平滑筋を弛緩させることにより血管を広げて、血圧の急な上昇を緩和し、また、その調整力により圧力の急な下降を防ぐので、筋組織の弛緩を促進する薬剤は、カテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬になりうるが、筋収縮に影響を与えることなく如何に血管の平滑筋を弛緩促進させるかが問題である。さらに、心室性頻拍では、心室の拡張期が短く冠灌流が障害されるが、筋収縮に影響を与えることなく如何に心筋弛緩を促進させて、拡張期が短い頻拍性不整脈、特に、心室性頻拍の治療を行うかが問題である。また、抗不整脈剤の投与によりトルサドポアンが発現したときは、抗不整脈剤の血中濃度が低下するまで待つしか術がなく、その間に起こる突然死などを予防できないのが現状であり問題とされている。
また、J.Biochem.131,739−743(2002)には、心筋組織においては、アクチン及びミオシンが収縮蛋白質であり、この収縮蛋白質のアクチン及びミオシンは、蛋白質のトロポニン及びトロポミオシンが存在しない場合は、常に活性化された状態にあって、筋組織は収縮した状態となる。この状態において、トロポミオシンを加えても、この筋組織の収縮した状態は変わらない。しかし、Ca受容蛋白質のトロポニンを加えた場合は、筋組織の収縮反応は、筋組織内のCa濃度で制御されるようになる。ところで、蛋白質のトロポニンはトロポニンI、トロポニンC及びトロポニンTの3成分を有する蛋白質複合体であって、この中、トロポニンIは筋組織の収縮抑制蛋白質であり、トロポニンCはカルシウムイオン結合蛋白質であり、トロポニンTはトロポミオシンと結合する蛋白質である。トロポニンCにカルシウムイオンが結合すると、筋組織に対するトロポニンIの抑制作用が外れて、即ち、脱抑制されてミオシン及びアクチンが互いに滑り合って筋組織の収縮が起こる。そこで、筋組織の弛緩を促進させるためには、筋収縮抑制蛋白質のトロポニンIのアクチンーミオシン複合体に対する結合機能を如何に増強させるかが問題である。
ミオシンは筋肉の主な構造蛋白質で、骨格筋では筋原繊維の全蛋白質の60%を占め、2本のミオシン重鎖と4本のミオシン軽鎖から成る。ミオシンの機能はミオシン軽鎖によって制御されており、ミオシン軽鎖は、筋収縮蛋白質のアクチンと結合する作用を有し、筋収縮の重要な働きを担っている。そこで、ミオシン軽鎖のアクチンとの結合作用を如何に変化させるかが問題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筋弛緩を促進させて、筋弛緩障害等を改善して、冠循環を容易にさせることにより、心肥大、特に重症の大動脈弁狭窄症、大動脈閉鎖不全症における拡張期の冠循環が障害されて起こる狭心症、高血圧心疾患、特発性肥大型心筋症、心臓弁膜症及び老人などでの心臓肥大や加齢により心筋の弛緩障害を伴って心電図でST低下を示す心筋障害又は心室性頻拍を治療又は予防する筋弛緩促進薬を提供することを目的としている。また、本発明は、トルサドポアンを治療又は予防することができるトルサドポアンの治療薬又は予防薬を提供することを目的としている。
【0007】
本発明者らは、実験的に、一般式〔1〕
【化1】

〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化2】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−又は−CH−を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩(以下、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩という)が、筋組織のアクチン−トロポミオシン複合体に対する筋収縮抑制蛋白質のトロポニンIの結合機能を増強させるものであり、このアクチン−トロポミオシン蛋白質複合体における筋収縮抑制蛋白質トロポニンIの結合機能の増強により、トロポニンIの筋収縮を抑制する機能を増強させて、筋の弛緩を促進することを発見した。さらに、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩がミオシン軽鎖とアクチン−トロポミオシン複合体との共沈殿をより増強することを発見した。
【0008】
本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、筋収縮に影響が殆どない、筋肉即ち筋組織の弛緩を促進する機能を有することの知見に基づくものであり、従来の筋収縮に係る、例えば心不全の治療薬とは全く異なる心筋弛緩の促進に係る治療薬であって、カルシウム過負荷の状態においても、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、有効な筋弛緩を促進させることができる治療薬を提供するものである。また、本発明は、例えば、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、左室拡張障害を短時間の内に解消して左室拡張障害の治療をすることができ、特に、心筋内のカルシウム過負荷の状態においても有効である左室拡張障害の改善薬を提供するものである。そして、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋の弛緩を促進して、微小循環系の血流の流れを改善することから、微小循環系の血流改善薬の発明に至った。また、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含む薬剤が、心筋の収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋弛緩を促進して心筋の弛緩の障害を解消することを見出して、狭心症の治療薬、特に、心筋内小血管性狭心症の治療薬の発明に至った。さらにまた、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋弛緩を促進して心筋障害を解消することから、心筋弛緩が障害されている心不全、高血圧心、弁膜症及び肥大型心筋症といった疾病に対する治療薬の発明に至った。
さらに加えて、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋弛緩を促進して心筋弛緩の障害を急速に解消可能であることから急性心不全治療薬の発明に至った。本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、筋弛緩を促進して、末梢血管の弛緩を容易にすることから高血圧の治療薬の発明に至った。また、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、Q波からT波までの長さを延長させる作用を有するにも拘わらず、トルサドポアンを予防し、且つ治療し得る作用を有することを発見した。
【0009】
本発明は、短時間に又は所望する時間に、筋収縮に影響を殆ど与えることなく、筋弛緩を促進して、筋弛緩の障害を解消して、心筋、骨格筋及び平滑筋の筋組織の弛緩障害に由来する疾病に対する治療薬及び予防薬を提供すると共に、心室性不整脈のトルサドポアンに対する治療薬及び予防薬を提供することを目的としている。
即ち、本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩、即ち、一般式〔1〕
【化3】

〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化4】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−(カルボニル基)又は−CH−(メチレン基)を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする心筋拡張障害の治療薬にあり、また、本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする左室拡張障害による心不全の治療薬にあり、さらにまた、本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする拡張期の冠循環障害による狭心症の治療薬にあり、そしてまた、本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有有することを特徴とするカテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬にある。
本発明において、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩は、4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容しうる塩とすることができる。また、本発明において、治療又は予防の対象とする筋は、心筋、特に左室心筋、骨格筋又は平滑筋である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩、即ち、一般式〔1〕
【化5】

〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化6】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−(カルボニル基)又は−CH−(メチレン基)を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、筋収縮に影響が殆どない、心筋、骨格筋及び平滑筋等の筋の弛緩促進作用を有しているので、投与後、短時間又は所望する時間内に、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋を弛緩させて、例えば、心臓の左室を容易に拡張でき、また、心筋の冠循環、特に、心筋微小循環系における血液の流れを改善することができ、したがって、左室拡張不全等の左室拡張障害の治療薬及び心筋の冠循環改善薬、特に、心筋微小循環の改善薬を提供することができる。しかも、冠灌流は主として心臓の弛緩期に行われるので、心筋収縮に影響を殆ど与えずに、心筋の弛緩を容易にさせると、冠循環における血液の流れを改善することになるので、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、狭心症の治療薬及び予防薬とすることができる。
【0011】
また、本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、筋収縮に影響が殆どない、心筋、骨格筋及び平滑筋等の筋の弛緩促進作用を有しているので、投与後、短時間又は所望する時間内に、筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋、骨格筋及び平滑筋を弛緩させて、例えば、高血圧による心臓肥大を伴う心筋内小血管の血液の流れを改善し、また、特発性肥大型心筋症及び大動脈弁下狭窄症における心筋障害並びに老人などの心筋弛緩障害における心筋内の小血管の血液の流れを改善することができるので、これらの心筋弛緩障害に基づく疾患の治療薬及び予防薬とすることができ、さらに、心筋弛緩障害を主とする心不全、例えば、急性又は慢性肺うっ血性心不全の治療薬及び予防薬とすることができる。さらにまた、本発明によると、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、筋収縮に殆ど影響が殆どない筋弛緩促進作用を有しており、投与後、短時間又は所望する時間内に、筋の収縮に影響を殆ど与えることなく、平滑筋を速やかに弛緩させて、末梢血管の弛緩を容易にすることができ、高血圧の治療薬とすることができる。そしてまた、本発明は、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、筋収縮に影響が殆どない筋弛緩促進作用を有しており、投与後、短時間又は所望する時間内に、筋収縮に影響を殆ど与えることなく、例えば、心筋の弛緩を促進して心室を容易に拡張でき、拡張期が短い頻発性の不整脈、特に心室性頻拍症の治療薬として役立てることができる。また、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、筋収縮に影響が殆どない、筋弛緩促進作用を有するものであり、例えば、心筋の虚血の際に、心筋細胞内のカルシウム過負荷により発生する不整脈を、投与後、短時間又は所望する時間内に治療又は予防でき、また、心筋細胞内のカルシウム過負荷時における、カテコールアミン誘発性の不整脈の治療薬又は予防薬として役立てることができる。また、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、不整脈などの疾患の治療時に誘発的に発現されるトルサドポアンを抑制するものであって、従来、困難とされていた、薬剤により誘発されるトルサドポアンの予防及び治療を可能にするものである。
以上のように、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、筋収縮に影響を殆ど与えることなく、筋弛緩障害を伴う多くの疾患などの治療や予防に役立てることできるものであり、治療上極めて有用であり、社会にもたらす効果が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩は、特許文献1に物性及び製法が記載されており、既に公知の物質である。特許文献1には、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体として、(1) 4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン、(2) 4−[3−〔1−(4−ベンジル)ピペリジニル〕プロピオニル]−2−(4−メトキシフェニル)−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン、(3) 4−[1−(4−ベンジル)ピペリジニル)アセチル−7−メトキシ−2−(4−メトキシフェニル)−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン、(4) 4−[3−〔1−(4−ベンジル)ピペリジニル)プロピル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン、(5) 4−[3−〔1−(4−ベンジル)ピペリジニル)プロピル]―2−(4−メトキシフェニル)−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン及び(6) 4−[3−〔1−(4−ベンジル)ピペリジニル)プロピオニル]―2−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンが記載されている。これらの化合物は、少なくとも、筋弛緩促進作用を有するものであり、本明細書においては、これら化合物の中の4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(以下、本件化合物という)を例に説明する。
本発明において、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩はこれら1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を包含するものであって、筋収縮に影響が殆どない、筋弛緩促進作用を有するものである。本発明において、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を含有する薬剤は、投与後、短時間又は所望する時間内において、筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋、骨格筋及び平滑筋の弛緩を容易にさせる筋弛緩促進剤である。また、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を含有する薬剤は、投与後、短時間又は所望する時間内において、筋収縮に影響を殆ど与えることなく、筋弛緩を促進させる、左室拡張障害による心不全、狭心症又は高血圧の治療薬及び/又は予防薬であり、さらに、微小循環系の血流改善薬及び/又は心筋障害の改善薬である。また、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を含有する薬剤は、投与後、短時間又は所望する時間内において、心筋収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋弛緩を促進させる、心筋虚血の際に心筋細胞内のカルシウム過負荷により発生する不整脈の治療薬であり、また、心筋虚血の際に心筋細胞内のカルシウム過負荷の状態で、カテコールアミン、例えばエピネフリンにより誘発される不整脈の治療薬である。
【0013】
筋組織において、ミオシンとアクチンは、夫々が筋収縮蛋白質であり、トロポニン及びトロポミオシンが存在しない場合は、ミオシンとアクチンは、常に活性化された状態にあって、筋組織は収縮した状態となる。この状態の筋組織にトロポミオシンを加えてもこの筋組織の収縮した状態は変わらないが、Ca受容蛋白質のトロポニンを加えると、筋組織の収縮は、筋組織内のCa++イオン濃度で制御されることになる。ここでトロポニンは、トロポニンI、トロポニンC及びトロポニンTの3つのサブユニットの複合体である。このサブユニットの中でトロポニンIは、筋組織の収縮抑制成分であり、トロポニンCはCa++イオン結合成分であり、トロポニンTは、筋組織の収縮抑制成分のトロポミオシンに結合する成分であり、トロポニン複合体をアクチンとトロポミオシンに繋げる。トロポニンCがCa++イオンと結合すると、トロポニンIの筋収縮抑制作用が外れて、アクチンとミオシンによる筋組織の収縮が起こる。
【0014】
従来から、アクチン−トロポミオシン複合体と、トロポニンC−I複合体を含む混合物を、25℃で、120分間、100,000×gの超遠心力で処理して生成する沈殿物を分析して、前記沈殿物からアクチン−トロポミオシン複合体及びトロポニンC−I複合体を検出することにより、筋組織内でのアクチン−トロポミオシン複合体に対しトロポニンC−I複合体が結合していることを確認することができる。例えば、アクチン−トロポミオシン複合体と、トロポニンC−I複合体を含む混合物をカルシウムキレート剤のEGTAの存在下で、即ち、カルシウムイオンが存在しない状態で、超遠心力で処理すると、アクチン−トロポミオシン複合体とトロポニンC−I複合体とが結合して一緒に沈殿するが、この沈殿物が、アクチン−トロポミオシン複合体とトロポニンC−I複合体とにより形成された複合体であることは、前記沈殿物からトロポニンIをSDS−ゲル電気泳動法により検出することにより確認することができる。このように、アクチン−トロポミオシン複合体とトロポニンC−I複合体が複合体を形成して沈殿する場合は、アクチン−トロポミオシン複合体にトロポニンC−Iが結合して、アクチン−トロポミオシン複合体にトロポニンIの筋抑制作用が働いていることを示している。
【0015】
しかし、カルシウムキレート剤のEGTAが存在しない場合は、即ち、カルシウムイオンが存在する状態では、超遠心力による共沈殿法で処理しても、トロポニンI又はトロポニンC−I複合体は、アクチン−トロポミオシン複合体と沈殿物を形成しない。このようにトロポニンI又はトロポニンC−I複合体が、アクチン−トロポミオシン複合体と沈殿物を形成しない場合は、アクチン−トロポミオシン複合体に、トロポニンI又はトロポニンC−Iの結合が存在しない場合に相当し、アクチン−トロポミオシン複合体にトロポニンIの筋抑制作用が働かないことを示している。
【0016】
ところで、本発明者らは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩が添加されたアクチン−トロポミオシン複合体とトロポニンを含む混合物を、25℃で、120分間、100,000×gの超遠心力により処理したときに、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩の添加濃度に依存して、アクチン−トロポミオシン複合体にトロポニンIが結合した沈殿物が得られることを発見した。このように、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩の存在は、アクチン−トロポミオシン複合体へのトロポニンIの結合力を増強させて、トロポニンIをアクチン−トロポミオシン複合体に結合させて沈殿を形成することが分かった。このことは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩は、筋収縮を抑制するトロポニンIに作用して、この作用を高めて、筋組織の弛緩を促進する作用を有するものであることを示している。
【0017】
今日、一般に心不全の治療薬として使用されているβ―遮断薬のプロプラノロール、アクチン−トロポミオシン複合体及びトロポニンを含む混合物を、25℃で、120分間、100,000×gの超遠心力により処理しても、アクチン−トロポミオシン複合体とトロポニンIが結合した沈殿物を形成しない。このことは、前記β―遮断薬のプロプラノロールと前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩は、アクチン−トロポミオシン複合体及びトロポニンを含む混合物に対して、異なる作用を有することを示しており、前記β―遮断薬のプロプラノロールは、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩のように、アクチン−トロポミオシン複合体に対しトロポニンの結合力を増強させるものではないことを示している。
【0018】
特許文献1には、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、動力学的細胞死(KD)抑制作用を有しており、抗心筋梗塞療薬、特に急性心筋梗塞の治療及び予防治療薬剤、又は心筋壊死抑制剤として使用できることが示されている。また、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩の製造方法及び各種測定データが示されている。前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体は、塩基性の窒素原子を有しているので、この位置において、酸付加塩が形成されるが、酸付加塩を形成する酸は、薬学的に許容されるべきものであり、このような薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩又はその他の無機酸塩、及びクエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、酒石酸塩又はその他の有機酸塩をあげることができる。
【0019】
本発明において使用される前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容される塩は、例えば、心筋弛緩促進剤として使用する場合の投与量は、化合物の種類、疾患の程度、患者の体重又は投与経路などにより異なっており、特に制限はないが、通常は、成人(平均体重60kg)で、1日に0.1mg乃至1000mg、好ましくは、50mg〜200mgを、1日1〜3回程度で経口的又は非経口的(例えば、静脈注射)に投与することができる。投与する場合の剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤及び注射剤などがある。このような剤形に形成する場合には、通常使用される製剤担体、賦形剤又は希釈剤を使用して、常法により形成することができる。
【0020】
本発明において使用される前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体として、例えば、4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン(以下、本件化合物という)について説明する。
本件化合物を含有する薬剤が注射用のアンプル剤である場合は、有効成分として本件化合物の1塩酸塩を使用し、等張化剤及びpH調節剤を使用して調製される。この場合、等張化剤としてD−ソルビトールを使用することができ、pH調節剤としてクエン酸及び水酸化ナトリウムを使用することができる。この場合の一例を挙げれば、1000ミリグラムのD−ソルビトール及び10ミリグラムのクエン酸及び40ミリグラムの本件化合物の1塩酸塩を、注射用の水に溶解し、溶解して得られた本件化合物の1塩酸塩の溶液に、水酸化ナトリウム溶液及びクエン酸を加えて、液のpHを3.2〜3.3に調節して、攪拌しながら残りの注射用の水を加えて全量を溶解し、この溶解して得られた溶液を濾過し、20ミリリットルのアンプルに詰めて封入して、オートクレーブに入れて滅菌して調製される。その処方量の一例を示せば、本件化合物1塩酸塩0.2%、D−ソルビトール5パーセント、クエン酸0.5%及び水酸化ナトリウム0.5%である。
また、本件化合物は、例えば、抗不整脈薬等の薬剤投与により誘発されるトルサドポアンの発現を抑制することができ、トルサドポアンの予防薬及び治療薬として有効である。本件化合物を投与することにより、QT延長を起す薬剤の投与や電解質異常により発生したトルサドポアンを停止させることができる。トルサドポアンは、一般に、その発生原因を除くことにより、消失するので、本件化合物の投与によりトルサドポアンを停止させるときは、本件化合物を投与すると共に、発生原因を除くことが好ましい。本件化合物は、例えば、QT延長を起す抗不整脈薬を使用して不整脈の治療を行う際に、抗不整脈薬と併用して、トルサドポアンを引起すことなく不整脈の治療を行うことができる。このように本件化合物を抗不整脈薬と併用する場合には、本件化合物は、例えば、抗不整脈薬の投与前に投与してもよく、又は抗不整脈薬と同時に投与してもよく、又は抗不整脈薬の投与後に投与してもよい。何れの場合にも、トルサドポアンを引起すことなく不整脈の治療を行うことができる。抗不整脈薬の投与後に本件化合物を投与する場合には、抗不整脈薬の投与後に、所定時間後に、又はトルサドポアンが確認されたところで、本件化合物を投与してトルサドポアンを抑制させることもできる。このように本件化合物は、不整脈を予防又は治療する作用を有するので、本件化合物を投与して、トルサドポアンの発生を抑制しながら、他方で、トルサドポアンの発生原因を除いて、トルサドポアンを停止させながら不整脈の治療を行うことができる。本発明において、トルサドポアンの予防及び治療にあたっては、本件化合物の総投与量は1mg〜4mg/kgが望ましいが、症状により適宜増減することができる。また投与方法は経口、筋肉内、静注法などがあるが、より早い効果がみられるので静注法が望ましい。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の例示及び説明により何ら限定されるものではない。
実験例1
【0022】
本例においては、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体の薬学的に許容される塩として、本件化合物の1塩酸塩4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピンの1塩酸塩(以下、本件化合物1塩酸塩という)を使用した。8週令の体重300〜330gのウイスター(wistar)雄性ラットを用いた。麻酔はウレタン1000mg/kgとα−クロラロース80mg/kgを腹膜下に注射して行い、呼吸は自然呼吸とした。本例において、本件化合物1塩酸塩の100mgを、ジメチルスルホキシド(DMSO)の1mlに溶かして本件化合物1塩酸塩のDMSO溶液を調製し、この溶液を4℃の温度にて保存した。一方で、ノルエピネフリンは1mgを蒸留水41mlに溶かして、ノルエピネフリン溶液を調製した。
まず、前記ラットの右外頚静脈に、塩化カルシウム水溶液又は塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液の持続注入用カテーテルを挿入し、また、同じく右総頚動脈より左心室にマイクロチップカテーテル(ミラー(Millar)社SPC−320)を挿入した。さらに、同じく右大腿静脈より被験薬溶液注入用カテーテルを挿入した。
心電図を第1誘導でとり、また、A/Dコンバーターを介して心電図、左室圧を同時にパーソナルコンピュータに記録した。1分毎に、心電図のR波に一致する圧を左室拡張末期圧として20拍を測定し、その平均値を求め、その測定時の左室末期圧とした。前記ラットの血圧,脈拍、心電図を15分間モニターし、これらが安定したところで、前準備として右外頚静脈より、ラットの体重に応じて塩化カルシウム濃度を調整した塩化カルシウムの5%ブドウ糖溶液を、毎分16.6μl(塩化カルシウムとして9.0mg/kg/分)で20分間注入した。
次いで直ちに、右外頚静脈より、塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液を、塩化カルシウムは、前記塩化カルシウム水溶液の用法及び容量を変更せずに、またノルエピネフリンは、ノルエピネフリンとして40μg/kg/分で注入を開始し、この開始後も、この塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続した。この塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウム及びノルエピネフリンの右外頚静脈よりの注入(静注)を開始してから5分後に、右外頚静脈よりの塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、対照となる体重が300gの第一のラットには、右大腿静脈より、対照となる被験薬の生理食塩水0.2mlのみを30秒掛けて注入して、対照1とした。また、同じく対照となる体重が310gの第二のラットには、前記対照1と同様に、塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウム及びノルエピネフリンの右外頚静脈よりの注入(静注)を開始してから5分後に、右外頚静脈よりの塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、右大腿静脈より対照となる被験薬の溶剤の1%DMSO水溶液の0.2mlのみを同様に30秒掛けて注入して、対照2とした。さらに、実施例1に係る体重が310gの第三のラットには、前記対照1及び2と同様に、塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウム及びノルエピネフリンの右外頚静脈よりの注入(静注)を開始してから5分後に、右外頚静脈よりの塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、右大腿静脈より被験薬の本件化合物1塩酸塩0.3mg/kgを含む1%DMSO水溶液0.2mlを同様に30秒掛けて注入した。さらに、実施例2に係る体重が330gの第四のラットには、前記対照1乃至3と同様に、塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウム及びノルエピネフリンの右外頚静脈よりの注入(静注)を開始してから5分後に、右外頚静脈よりの塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、右大腿静脈より被験薬の本件化合物1塩酸塩0.3mg/kgを含む本件化合物1塩酸塩の1%DMSO水溶液0.2mlを同様に30秒掛けて注入した。本例においては、前記被験薬の注入を30秒掛けて行った後においても右外頚静脈よりの塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入は継続した。また、本例においては、対照1及び対照2については、前記被験薬を30秒掛けて注入した後に、注入した被験薬に対し1/10の濃度の希釈被験薬を10μl/分で被験薬注入開始後15分までの間に追加注入した。本例において、実施例1については、前記被験薬を0.3mg/kgを含む本件化合物1塩酸塩の1%DMSO水溶液0.2mlを30秒掛けて注入した後に、さらに前記本件化合物1塩酸塩の1%DMSO水溶液を本件化合物1塩酸塩0.02mg/kg/分で被験薬注入開始後15分までの間に追加注入した。しかし、実施例2については、前記被験薬を30秒掛けて注入したのみで、被験薬の追加注入は行わなかった。夫々のラットについて、左室拡張末期圧は、夫々、1分毎に、心電図のR波に一致する圧を左室拡張末期圧として20拍を測定し、その平均値から求めた。被験薬の注入開始から15分後に、実験を終了した。この実験における5分毎の結果を次の表1に示す。
【0023】
【表1】

(注1) 「前30分」・・「前5分」の「前」は、被験薬の投与(注入)開始前を意味する。
(注2) 「0分」〜「15分」は、被験薬静注開始後の時間0分乃至15分を示す。
(注3) 対照1、対照2、実施例1及び実施例2の欄の丸カッコ内に被験薬を示す。被験薬を示す丸カッコ内において、本件化合物1塩酸塩は、本件化合物と表示されている。
本例は20乃至25℃の室温において行った。本例において、塩化カルシウムの注入後からノルエピネフリンの静注開始直前において、左室拡張末期圧は、対照1において7.7〜8.6mmHgであり、対照2において7.6〜8.6mmHgであり、実施例1においても7.5〜8.6mmHgであり、また実施例2においても、8.4〜9.3mmHgであり、塩化カルシウムの注入後からノルエピネフリン静注開始直前までは、左室拡張末期圧は、実施例1及び2においても対照1及び2と殆ど変わらなかった。しかし、ノルエピネフリン静注開始15分後(被験薬静注開始10分後)から20分後(被験薬静注開始15分後)の左室拡張末期圧は、対照1においては、30.4〜47.3mmHgと上昇し、また、対照2においても、37.5〜49.4mmHgと上昇して、左室拡張不全の発症がみられた。これに対して、実施例1においては、ノルエピネフリン静注開始15分後(被験薬静注開始10分後)において、左室拡張末期圧は、12.5mmHgに上昇したが、被験薬の本件化合物1塩酸塩の静注開始(投与開始)15分後(ノルエピネフリン静注開始20分後)において、左室拡張末期圧が11.8mmHgに下がった。この実施例1の左室拡張末期圧は、同時点における対照1及び2の左室拡張末期圧に対し、1/2以下の低い値であり、被験薬の本件化合物1塩酸塩の静注により左室拡張不全を起こすに至らないことを示すものである。また、実施例2においても、ノルエピネフリン静注開始15分後(被験薬静注開始10分後)において、左室拡張末期圧は、16.4mmHgに上昇したが、被験薬の本件化合物1塩酸塩の静注開始(投与開始)15分後(ノルエピネフリン静注開始20分後)において、左室拡張末期圧が15.3mmHgに下がった。この実施例2の左室拡張末期圧は、同時点における対照1及び2の左室拡張末期圧に対し、1/2以下の低い値であり、本件化合物1塩酸塩の静注により左室拡張不全を起こすに至らないことを示すものである。
以上の実施例1及び2の結果からみて、被験薬の追加静注を行うことにより、被験薬の検査が容易となり、左室拡張末期圧の低下をはかることができる。また、本実験例の結果からみて、被験薬の本件化合物1塩酸塩は左室拡張不全による心不全の治療薬及び予防薬として有効であるといえる。
【0024】
実験例2
本件化合物による血圧への影響
本件においては、8週令の体重310及び330gのウイスター(wistar)雄性ラットを用いた。麻酔はウレタン1000mg/kgとαクロラロース80mg/kgを腹膜下に注射して行い、呼吸は自然呼吸とした。本例において、本件化合物1塩酸塩の100mgをジメチルスルホキシド(DMSO)の1mlに溶かして本件化合物1塩酸塩のDMSO溶液を調製し、この溶液を4℃の温度にて保存した。また、ノルエピネフリン1mgを蒸留水41mlに溶かしてノルエピネフリン溶液を調製した。
本例は前記実験例1と同様に、20乃至25℃の室温において行われた。また、本例は、前記実験例1と同様に、前記ラットの右外頚静脈に塩化カルシウム水溶液又は塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液の持続注入用カテーテルを挿入し、また、同じく右総頚動脈より大動脈にマイクロチップカテーテル(ミラー(millar)社SPC−320)を挿入した
心電図を第1誘導でとり、また、A/Dコンバーターを介して収縮期血圧、拡張期血圧をパーソナルコンピュータに記録した。前記ラットの血圧、脈拍及び心電図を15分間モニターし、これらが安定したところで、前準備として右外頚静脈より、ラットの体重に応じて塩化カルシウム濃度を調整した塩化カルシウムの5%ブドウ糖溶液を、毎分16.6μl(塩化カルシウムとして9.0mg/kg/分)で25分間注入した。
次いで直ちに、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液を、塩化カルシウムは、前記塩化カルシウム水溶液の用法及び容量を変更せずに、また、ノルエピネフリンは、ノルエピネフリンとして40μg/kg/分で注入を開始した。また、ノルエピネフリン静注5分後、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリの注入を持続しながら、対照となる体重が310gの第一のラットに、右大腿静脈より、被験薬の溶剤DMSOの濃度1%水溶液の0.2mlのみを30秒掛けて注入して対照3とした。この対照3には、前記被験薬の注入後、被験薬の溶剤DMSOの濃度1%水溶液を10μl/分で被験薬静注開始後15分まで追加注入した。また、対照3と同様に、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液によるノルエピネフリン静注5分後、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による前記塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、実施例3に係る体重が330gの第二のラットに、右大腿静脈より本件化合物1塩酸塩0.3mg/kgを含む1%DMSO溶液0.2mlを、30秒掛けて注入し、さらにその後、本件化合物1塩酸塩0.02mg/kgを含む本件化合物1塩酸塩の1%DMSO溶液を0.02mg/kg/分で14分間追加注入した。夫々のラットについて、2分毎に、収縮期血圧(mmHg)及び拡張期血圧(mmHg)を20拍測定し、この2分毎の収縮期血圧及び拡張期血圧の測定は、被験薬の静注開始後14分間に亘って行った。測定した収縮期血圧(mmHg)及び拡張期血圧(mmHg)から、次の式により平均血圧を求めた。
平均血圧=〔(収縮期血圧+拡張期血圧)×1/2〕・・・・(式)
その結果を次の表2に示す。
【0025】
【表2】

(注1) 「前30分」・・「前5分」の「前」は、被験薬静注開始前を意味する。
(注2) 「0分」〜「14分」は、被験薬静注開始後の時間0分乃至14分を示す。
(注3) 対照3及び実施例3の欄の丸カッコ内に被験薬を示す。被験薬を示す丸カッコ内において、本件化合物1塩酸塩は、本件化合物と表示されている。
本例において、ノルエピネフリンの静注(注入)開始後4分以降で、対照3については、平均血圧は略160mmHgに上昇して推移するが、本件化合物1塩酸塩を投与(注入)した本実施例3の場合には、ノルエピネフリンの静注開始後4分で、平均血圧は162mmHgに達するが、それ以降は低下し、ノルエピネフリンの静注開始後10乃至14分では136〜134mmHgの間の値となり、平均血圧の低下は明らかであった。この結果は、本件化合物1塩酸塩が高血圧の治療薬として有用であることを示している。
【0026】
実験例3 本件化合物による左室心室壁拡張能への影響についての組織ドプラー(Doppler)法による検討
本件においては、9週令の体重310及び320gのウイスター(wistar)雄性ラットを用いた。麻酔はウレタン1000mg/kgとα−クロラロース80mg/kgを腹膜下に注射して行い、呼吸は自然呼吸とした。本例において、本件化合物1塩酸塩の100mgをジメチルスルホキシド(DMSO)の1mlに溶かして本件化合物1塩酸塩のDMSO溶液を調製し、この溶液を4℃の温度にて保存した。ノルエピネフリンを1mgを蒸留水41mlに溶かしてノルエピネフリン溶液を調製した。
本例は前記実験例1と同様に、20乃至25℃の室温において行われた。本例においても、前記実験例1と同様に、前記ラットの右外頚静脈に塩化カルシウム水溶液又は塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液の持続注入用カテーテルを挿入し、また、同じく右総頚動脈より大動脈にマイクロチップカテーテル(ミラー(millar)社SPC−320)を挿入した
心電図を第1誘導でとり、前記ラットの血圧、脈拍及び心電図を15分間モニターし、これらが安定したところで、前準備として右外頚静脈より、5%ブドウ糖溶液中に溶解して調製した塩化カルシウム水溶液を、毎分16.6μl(カルシウム:9.0mg/kg/分)で25分間注入した。
次いで直ちに、右外頚静脈より、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液を、塩化カルシウムについて、その用法及び容量を変更せずに、またノルエピネフリンは、ノルエピネフリンとして40μg/kg/分で注入(静注)を開始した。この開始後も、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続した。また、この塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液によるノルエピネフリン静注5分後、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、対照となる体重が310gの第一のラットには、右大腿静脈より溶剤のDMSOの1%水溶液0.2mlのみを30秒掛けて注入して対照4とした。さらに、対照4と同様に、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液によるノルエピネフリン静注5分後、前記塩化カルシウムを含むノルエピネフリン水溶液による塩化カルシウムの注入及びノルエピネフリンの注入を持続しながら、本実施例3に係る体重が320gの第二のラットに、右大腿静脈より本件化合物1塩酸塩0.3mg/kgを含む1%DMSO水溶液0.2mlを、対照4と同様に30秒掛けて注入し、さらにその後、0.02mg/kg/分で20分間追加注入した。夫々のラットについて、超音波組織ドプラー法を用いて、左室心室壁拡張能を調べた。超音波診断装置としては、東芝株式会社製の超音波診断装置(Toshiba
Powervision SSA−380APSK−70LT)を使用し、10MHzの超音波で検査した。夫々のラットについて、先ず、前胸部を剃毛して、心尖部からエコープローブを当てて、心尖部左室長軸層を描出し、僧帽弁後尖の基部にパルスドップラーのサンプルボリュームを置き、左室心室壁拡張能を左室心室壁の拡張期の壁速度〔Ea波(m/秒)〕を測定した。本例においては、左室心室壁拡張能は、組織ドプラー法により求めたノルエピネフリン静注前(投与前)の左室心室壁(即ち正常な左室心室壁)の拡張期の壁速度に対する、同じく組織ドプラー法により求めたノルエピネフリン静注後(投与後)の左室心室壁の拡張期の壁速度の比で示されている。その結果を次の表3に示す。
【0027】
【表3】

(注1) 「前5分」の「前」は、被験薬注入開始前を意味する。
(注2) 「0分」〜「30分」は、被験薬静注開始後の時間0分乃至30分を示す。
(注3) 対照4及び実施例4の欄の丸カッコ内に被験薬を示す。被験薬を示す丸カッコ内において、本件化合物1塩酸塩は本件化合物と表示されている。
本例において、ノルエピネフリンの静注開始後5分で、対照4における左室心室壁の壁速度の正常の左室心室壁の壁速度(Ea波)に対する速度比が0.85に低下し、ノルエピネフリンの静注開始後30分で、対照4における左室心室壁の壁速度(Ea波)の正常の左室心室壁の壁速度(Ea波)に対する速度比は0.51に低下した。これに対して、本実施例3の場合には、ノルエピネフリンの静注開始後30分で、左室心室壁の壁速度(Ea波)の正常の左室心室壁の壁速度(Ea波)に対する速度比が0.95であり、殆ど変化がみられなかった。左室心室壁の壁速度は、単位時間当たりの心室壁の動く速度を示すから、この比が小さいことは心室壁の動きが鈍いことを示す。この結果は、本件化合物1塩酸塩は、左室拡張障害による心不全の治療薬として、また予防薬として有用であることを示している。
【0028】
実験例4
トロポニンIとアクチン−トロポミオシン複合体の結合性の測定
試薬
アクチン(ブタ筋肉由来)、トロポミオシン(鶏砂嚢由来)及びトロポニン(ブタ心筋由来)は、シグマアルドリッチ社から購入したものを使用し、その他の特に記していない試薬は、和光純薬株式会社より購入したものを使用した。
500μl中で、60mMのKCl、同じく20mMのモプス(MOPS:3モルホリノプロパンスルホン酸(3morpholinopropanesulfonic
acid))、同じく2mMlのMgCl、0.05μgのペプスタチンA(pepstatin
A)、同じく15mMの2−メルカプトエタノール(2−mercaptoethanol)を含む反応液に、アクチン4.2μg、トロポミオシン2.1μg及びトロポニン14μgを加えて、検体500μlを調製した。この検体を25℃の温度下で、2,000×gの遠心力で10分間遠心分離して沈殿物を除き、その上清を10mMのEGTAを含む新たな複数の試験管に夫々分注して、夫々を被験検体とした。
本例においては、第一の試験管の被験検体は、本件化合物1塩酸塩を含まない、即ち、本件化合物1塩酸塩の濃度が0モルの反応液であり、第二の試験管の被験検体は、本件化合物1塩酸塩の濃度が10−4モルの反応液であり、第三の試験管の被験検体は、本件化合物1塩酸塩の濃度が10−5モルの反応液であり、第四の試験管の被験検体は、本件化合物の濃度が10−6モルの反応液であり、第五の試験管の被験検体は、本件化合物1塩酸塩の濃度が10−7モルの反応液である。各被験検体について、25℃の温度で120分間反応させ、夫々について、25℃の温度で100,000×gの遠心力を掛けて120分間遠心分離し、上清を除去した。分離された沈殿物について、沈殿物を浮遊させないように、反応液を静かに加え、再度吸引除去して、沈殿物を洗浄し、被験沈殿物とした。
夫々の洗浄した被験沈殿物にポリアクリルアミド電気泳動(SDS―PAGE)用のサンプルバッファーを加え、よく混合して被験沈殿物を懸濁させ、この懸濁液をゲル(PAGミニ「第一」10/20)上で、40mAで約1時間泳動した。泳動後、銀染色試薬〔2D−銀染色試薬「第一」(第一化学薬品株式会社製) 〕で銀染色し、蒸留水で洗浄後乾燥した。このゲル電気泳動により得られ銀染色された夫々の蛋白質バンドについての沈殿量をデンシトメーターにより数値化した。蛋白質バンドにおける数値化された沈殿物の蛋白質は、ペプチドのアミノ酸配列からトロポニンIであることが分かった。ゲル電気泳動の蛋白質バンドのペプチドについてのアミノ酸配列は、質量分析用試薬(和光純薬株式会社製質量分析用銀染色試薬)を用い、染色後、ゲル電気泳動の蛋白質バンドを切り取り、断片ペプチドを高速液体クロマトグラフィ装置〔(MAGIC2002)ミクロム バイオリソース インク、(Michrom BioResources)社(米国)製〕を用いて分析した。この分析の結果、蛋白質バンドのペプチドのアミノ酸配列は、IDAAEEEKYDMEIKであり、トロポニンIと同定した。
第二乃至第五の被験沈殿物のトロポニンIの沈殿量は、第一の本件化合物1塩酸塩を含まない被験沈殿物(濃度0モル)のトロポニンIの沈殿量に対する比により求めた。
【0029】
比較例
また、本件化合物1塩酸塩に対する比較検討化合物として、心不全薬として使用されているβ―遮断薬のプロプラノロールを使用して、トロポニンI、アクチン−トロポミオシンの結合性を実験例4と同じ手法により測定した。
即ち、500μl中で、60mMのKCl、同じく20mMのモプス(MOPS:3モルホリノプロパンスルホン酸、同じく2mMlのMgCl、0.05μgのペプスタチンA、同じく15mMの2−メルカプトエタノールを含む反応液に、アクチン4.2μg、トロポミオシン2.1μg及びトロポニンI14μgを加えて、検体500μlを調製した。この検体を25℃の温度下で、2,000×gの遠心力で10分間遠心分離して沈殿物を除き、その上清を10mMのEGTAを含む新たな複数の試験管に夫々分注して、夫々を比較検体とした。
比較例において、第一の比較試験管の比較検体はプロプラノロールの濃度が0モルの反応液であり、第二の比較試験管の比較検体はプロプラノロールの濃度が10−4モルの反応液であり、第三の比較試験管の比較検体はプロプラノロールの濃度が10−5モルの反応液であり、第四の比較試験管の比較検体はプロプラノロールの濃度が10−6モルの反応液であり、第五の比較試験管の比較検体はプロプラノロールの濃度が10−7モルの反応液である。各比較検体について、25℃の温度で120分間反応させ、夫々について、25℃の温度で100,000×gの遠心力を掛けて120分間遠心分離し、上清を除去した。分離された沈殿物について、沈殿物を浮遊させないように、反応液を静かに加え、再度吸引除去して、沈殿物を洗浄し、比較沈殿物とした。
夫々の洗浄した比較沈殿物にポリアクリルアミド電気泳動(SDS―PAGE)用のサンプルバッファーを加え、よく混合して比較沈殿物を懸濁させ、この懸濁液をゲル(PAGミニ「第一」10/20)上で、40mAで約1時間泳動した。泳動後、銀染色試薬〔2D−銀染色試薬「第一」(第一化学薬品株式会社製) 〕で銀染色し、蒸留水で洗浄後乾燥した。このゲル電気泳動により得られ銀染色された夫々の蛋白質バンドについての沈殿量をデンシトメーターにより数値化した。
第二乃至第五の比較沈殿物のトロポニンIの沈殿量は、プロプラノロールを含まない比較沈殿物(プロプラノロール濃度0モル)におけるトロポニンIの沈殿量に対する比により求めた。
実験例4の本件化合物1塩酸塩を使用した場合の被験沈殿物のトロポニンIの沈殿量と、比較例のプロプラノロールを使用した場合の比較沈殿物のトロポニンIの沈殿量との比較検討結果を次の表4に示す。
【0030】
【表4】

(注) 表4においては、本件化合物1塩酸塩は、本件化合物と表示されている。
表4には、実施例5における本件化合1塩酸塩物の各濃度でのトロポニンIの沈殿量及び比較例におけるプロプラノロールの各濃度でのトロポニンIの沈殿量が示されている。表4の実施例5においては、本件化合物1塩酸塩使用した場合においては、トロポニンIの沈殿量は、本件化合物1塩酸塩の濃度(モル)が、10−7から10−4に増加するのに伴って1.2から2.8と増加している。しかし、比較例のプロプラノロールを使用した場合においては、プロプラノロールの濃度が10−7から10−4に増加してもトロポニンIの沈殿量は、0.9から1.1の間であり殆ど変化していない。表4の実施例5にみられる本件化合物1塩酸塩によるトロポニンIの沈殿量の増加は、トロポニンIとアクチン−トロポミオシン複合体との結合の増加に由来するものである。このことは、本件化合物1塩酸塩が、トロポニンIとアクチン−トロポミオシン複合体との結合量を多くして、トロポニンIを介して筋弛緩を行うことを意味しており、したがって、本件化合物1塩酸塩が、トロポニンIを介して筋弛緩を促進することを示すものである。
【0031】
実験例5
本例においては、例4において使用した実験試料トロポニンに含まれるミオシン軽鎖の沈殿量に対する本件化合物1塩酸塩の作用を調べた。
本例においては、実験例4の手法により被験沈殿物を形成した。但し、本例においては、(1) 例4における被験検体を、カルシウムイオン(Ca++)及び本件化合物1塩酸塩を共に含まないものとし、例4に倣って被験沈殿物を調製した(実験番号1)。(2) 実験例4における被験検体を、カルシウムイオン(Ca++)濃度(モル)を10−5で、本件化合物1塩酸塩濃度(モル)を0のものとし、例4に倣って被験沈殿物を調製した(実験番号2)。(3) 例4における被験検体を、カルシウムイオン(Ca++)濃度(モル)が0で、本件化合物1塩酸塩濃度(モル)を10−3のものとし、例4に倣って被験沈殿物を調製した(実験番号3)。及び(4) 例4における被験検体を、カルシウムイオン(Ca++)濃度(モル)が10−5で、本件化合物1塩酸塩濃度(モル)を0のものとし、例4に倣って被験沈殿物を調製した(実験番号4)。このようにして得られた各被験沈殿物に、ポリアクリルアミド電気泳動(SDS―PAGE)用のサンプルバッファーを加え、よく混合して被験沈殿物を懸濁させ、この懸濁液をゲル(PAGミニ「第一」10/20)上で、40mAで約1時間泳動した。泳動後、銀染色試薬〔2D−銀染色試薬「第一」(第一化学薬品株式会社製) 〕で銀染色し、蒸留水で洗浄後乾燥した。このゲル電気泳動により得られ銀染色された夫々の蛋白質バンドについての沈殿量をデンシトメーターにより数値化した。蛋白質バンドにおける数値化された沈殿物の蛋白質は、ペプチドのアミノ酸配列からミオシン軽鎖であることが分かった。ゲル電気泳動の蛋白質バンドのペプチドについてのアミノ酸配列は、質量分析用試薬(和光純薬株式会社製質量分析用銀染色試薬)を用い、染色後、ゲル電気泳動の蛋白質バンドを切り取り、断片ペプチドを高速液体クロマトグラフィ装置〔(MAGIC2002)ミクロム バイオリソース インク、(Michrom BioResources)社(米国)製〕を用いて分析した。この分析の結果、蛋白質バンドのペプチドのアミノ酸配列は、HVLATLGEK及びITLSQVGDVLRであり、ミオシン軽鎖と同定した。
実験番号1乃至4について得られた沈殿量を次の表5に示す。
【0032】
【表5】

(注) ミオシン軽鎖の沈殿量は、実験番号1における沈殿量を1.0とし、それに対する比で示されている。
(注) 表5においては、本件化合物1塩酸塩は、本件化合物と表示されている。
本例において、ミオシン軽鎖の沈殿量は、カルシウムイオン(Ca++)濃度が10−5モル(M)である場合の被験沈殿物(実験番号2及び4)に比して、カルシウムイオンが存在しない場合の被験沈殿物(実験番号1及び3)(弛緩状態)の方が増加しており、また、ミオシン軽鎖の沈殿量は、本件化合物1塩酸塩が存在しない場合の被験沈殿物(実験番号1及び2)に比して、本件化合物1塩酸塩を10−3モルの濃度で存在させた場合の被験沈殿物(実験番号3及び4)の方が増加している。さらに、本件化合物1塩酸塩を10−3モルの濃度を存在させた場合の被験沈殿物(実験番号3及び4)におけるミオシン軽鎖の沈殿量は、カルシウムイオンを存在させた場合に比べてカルシウムイオンを存在させない場合の方が、僅かに多いが、殆ど同じ量とみられる。このように、本件化合物1塩酸塩の存在は、ミオシン軽鎖の沈殿量を増加させることを示しており、これは、カルシウムイオン濃度が0モルの場合であっても、カルシウムイオン濃度が10−5モルの場合と同様であることを示している。したがって、これらのことは、本件化合物1塩酸塩が、カルシウムイオンの有無に係わらず筋肉の弛緩を増強させることを示すものである。
【0033】
実施例6
本件化合物によるクロフィリウムにより誘発されるトルサドポアンの抑制
(1) 本例においては、体重が2.8kgから3.2kgの4匹の白色ウサギを用いた。夫々のウサギについて、麻酔はメトヘキタールソジウム(Methohexital sodium)5mg/kgの静脈麻酔で行なった。また、夫々のウサギについて、気管内挿管による人工呼吸下で、右外頸静脈に本件化合物ならびに実験用薬剤の注入用カテーテルを挿入し、右総頚動脈より血圧測定用のマイクロチップカテーテル(ミラー(Millar)社SPC―320)を挿入した。
本件化合物の100mgを、ジメチルスルホキシド(DMSO)の1mlに溶解して、本件化合物溶液を調製し、この溶液を4℃の温度で保存した。
夫々のウサギについて、心電図を第2誘導でとり、また、A/Dコンバーターを介して心電図及び血圧を同時にパーソナルコンピュータに記録した。本例においては、心電図において、多形成心室性頻拍の波形が6以上連続して続くことでトルサドポアンとした。本例において、トルサドポアンについては、クロフィリウムの投与から30分間に亙って、心電図により、トルサドポアンの発現回数を測定した。本例において、α刺激薬のメトキサミンは、トルサドポアンを惹起させ易くするために使用された。また、本例において、本件化合物、メトキサミン及びクロフィリウムは生理食塩水に混ぜて投与した。
(2) 本例においては、実施例Aとして、体重が3.0kgの第1のウサギを使用し、また、実施例Bとして、体重が3.1kgの第2のウサギを使用した。一方、比較例Aとして、体重が2.8kgの第3のウサギを使用し、比較例Bとして、体重が3.1kgの第4のウサギを使用した。
(3) 本例において、実施例A及びBのウサギには、まず、メトキサミン(Methoxamine)を15μg/kg/分で投与し、その10分後に、クロフィリウム(Clofilium)を50μg/kg/分で投与を開始した。クロフィリウムの投与は投与開始後20分間に亙って投与した。実施例A及びBのウサギに対しては、このクロフィリウム投与開始と同時に、本件化合物を0.2mg/kg/分で静脈内に投与を開始した。実施例A及びBのウサギに対して、本件化合物の投与は、クロフィリウムの投与終了後、さらに10分間に亙って続けられた。実施例A及びBのウサギについての、トルサドポアンの発現に係る心電図による観察は、クロフィリウムの投与終了後さらに10分を経過するまで、即ち、クロフィリウム投与後30分まで続けられた。この間本件化合物の投与は継続されているので、前記心電図による観察は、本件化合物の投与されている間継続して行われている。
(4) 本例において、比較例A及びBのウサギには、本件化合物を投与しないで、それ以外は、実施例A及びBのウサギと同様に行った。即ち、比較例A及び比較例Bのウサギには、メトキサミンを15μg/kg/分で投与し、その10分後に、クロフィリウムを50μg/kg/分で投与を開始した。クロフィリウムの投与は開始後20分間に亙って投与した。本例において、比較例A及びBのウサギについての、トルサドポアンの発現についての心電図による観察は、クロフィリウムの投与終了後さらに10分を経過するまで、即ち、クロフィリウム投与後30分まで続けられた。
【0034】
(5) 実験結果
図1乃至5を参照して、実験結果について説明する。
実験例A及びBのウサギについて、メトキサミン投与下で、クロフィリウム(50μg/kg/分)及び本件化合物を0.2mg/kg/分で持続静注開始後30分に亙って心電図により観察した。しかし、この実験例A及びBのウサギについての心電図による観察では、図1に示すように、心電図は、心室性不整脈を認めない波形1であり、持続静注開始後23分後においてトルサドポアンの発現は確認できなかった。また、持続静注開始後30分経っても、トルもサドポアンの発現は確認できなかった。これは、本件化合物によりトルサドポアンの発生が完全に抑制されたことを示している。
比較例Aのウサギについて、メトキサミン投与下でクロフィリウム(50μg/kg/分)で持続静注開始後30分に亙って心電図により観察した。比較例Aのウサギについての心電図による観察では、図2に示すように、クロフィリウム投与後25分19秒(矢印2で示す時点)でトルサドポアンの波形3が発現したことが確認された。この発現したトルサドポアンの波形3は、図3に示すように、発現後25秒経って(矢印4で示す時点)止まったが、その後反復して発生した(図3の範囲外であり、図示されていない)。
比較例Bのウサギについて、メトキサミン投与下でクロフィリウム(50μg/kg/分)を持続静注開始後30分に亙って心電図により観察した。比較例Bのウサギについての心電図による観察では、図4に示すように、クロフィリウム投与後22分30秒(矢印5で示す時点)でトルサドポアンの波形3が発現したことが確認された。この発現したトルサドポアンの波形3は、図5に示すように、発現後49秒(矢印6で示す時点)経って止まったが、その後反復して発生した(図5の範囲外であり、図示されていない)。これらの心電図による観察結果を表6に示す。
【0035】
【表6】

比較例A及びBにおいて、クロフィリウムの投与により、何れもトルサドポアンが引起されたが、クロフィリウムの投与と共に本件化合物を投与した実施例A及びBにおいては、何れもトルサドポアンは引起されなかつた。これは、本件化合物がクロフィリウムの投与後も継続するトルサドポアンの発生を完全に抑制したことを示している。また、本例は、トルサドポアンが、薬剤誘発性又は電解質異常の場合は、トルサドポアンの発生原因を除くことにより、トルサドポアンは消失するので、この場合は、本件化合物を投与すると共に、トルサドポアンの発生原因を除くことになる。本件化合物の投与は、トルサドポアンを引起すことなく不整脈を停止させる作用をも有するので、トルサドポアンの発生を抑制しながら、トルサドポアンの発生原因を除いて、トルサドポアンを伴う不整脈の治療を行うことができる。
【0036】
本例においては、過去、実験的にトルサドポアンを確認するために一般的にクロフィリウムが使用しされているところから、本例においても、トルサドポアンを誘発させる薬剤として、クロフィリウムを使用したが、クロフィリウムに換えて、ボーガン ウイリアムズ(Vaughan Williams)によって提唱された不整脈治療薬の分類でクラス第IA群のナトリウムチャンネルの中程度の抑制作用を有する薬剤のジソピラミド、キニジン、ブロカインアミド又はプロパフェノン、また、同分類の第III群のシンビット又はアミオダロンなどの、再分極遅延を招く不整脈の治療薬を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、心筋、骨格筋及び平滑筋等の筋の弛緩作用を有しており、例えば、この薬剤の投与後、短時間又は所望する時間内に、心筋の収縮に影響を殆ど与えることなく、心筋を弛緩させることができ、これにより、例えば、心筋の冠循環、特に、心筋微小循環系における血液の流れを改善することができ、そのために、心肥大、特に重症の大動脈弁狭窄症や、大動脈閉鎖不全症において起こる狭心症の治療ができる。また、例えば、この薬剤の投与により心筋弛緩を促進して、高血圧心疾患、特発性肥大型心筋症及び心電図のST低下で示される心筋障害等を治療し且つ予防することができる。また、例えば、この薬剤の投与により心筋弛緩を促進して、左室拡張不全等の心筋弛緩不全を治療し且つ予防することができる。また、この薬剤は、例えば、治癒が難しかった左室拡張障害に由来する心不全の治療を可能とし、また、末梢血管を弛緩させて、高血圧、特にカテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬として役立てることができるものであり、これらの患者にとって朗報である。
以上のように、前記1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有する薬剤は、新しく多くの疾患の治療や予防に役立てることできるものであって、治療上極めて有用であり、社会にもたらす効果が大きいものであり、産業上の利用性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例Aのウサギに、メトキサミン投与下で、クロフィリウムを50μg/kg/分で、また本件化合物を0.2mg/kg/分で持続静注した場合の、該持続静注開始後23分後の心電図であり、横方向に時間の経過を示している。
【図2】比較例Aのウサギに、メトキサミン投与下でクロフィリウム(50μg/kg/分)で持続静注した場合の、持続静注開始後概略25分18〜24秒の間の心電図であり、横方向に時間の経過を示している。
【図3】比較例Aのウサギに、メトキサミン投与下でクロフィリウム(50μg/kg/分)で持続静注した場合の、持続静注開始後概略25分41秒〜48秒の間の心電図であり、横方向に時間の経過を示している。
【図4】比較例Aのウサギに、メトキサミン投与下でクロフィリウム(50μg/kg/分)で持続静注した場合の、持続静注開始後概略22分26秒〜22分33秒の間の心電図であり、横方向に時間の経過を示している。
【図5】比較例Aのウサギに、メトキサミン投与下でクロフィリウム(50μg/kg/分)で持続静注した場合の、持続静注開始後概略23分16秒〜23分23秒の間の心電図であり、横方向に時間の経過を示している。
【符号の説明】
【0039】
1 心電図において心室性不整脈を認めない波形
2 心電図においてクロフィリウム投与後25分19秒の時点を示す矢印
3 心電図において現れたトルサドポアンの波形
4 心電図においてトルサドポアンの波形の発現後25秒経過した時点を示す矢印
5 心電図においてクロフィリウム投与後22分30秒の時点を示す矢印
6 心電図においてトルサドポアンの波形の発現後49秒経過した時点を示す矢印


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式〔1〕
[化1]


〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化2】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−又は−CH−を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする心筋拡張障害の治療薬。
【請求項2】
一般式〔1〕で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項1に記載の心筋拡張障害の治療薬。
【請求項3】
一般式〔1〕
【化3】

〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化4】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−又は−CH−を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする左室拡張障害による心不全の治療薬。
【請求項4】
一般式〔1〕で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項3に記載の左室拡張障害による心不全の治療薬。
【請求項5】
一般式〔1〕
【化5】

〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化6】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−又は−CH−を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とする拡張期の冠循環障害による狭心症の治療薬。
【請求項6】
一般式〔1〕で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項5に記載の拡張期の冠循環障害による狭心症の治療薬。
【請求項7】
一般式〔1〕
【化7】

〔式中、Rは水素又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基を表し、Rは水素、炭素数1乃至3の低級アルコキシ基、フェニル基(ここでフェニル基は水酸基又は炭素数1乃至3の低級アルコキシ基からなる群より選ばれる1乃至3個の置換基で置換されてもよい。)、
【化8】

(ここでRは、炭素数1乃至3のアシル基である。)を表し、Xは、−CO−又は−CH−を表し、nは1又は2を表す。〕
で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩を有効成分として含有することを特徴とするカテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬。
【請求項8】
一般式〔1〕で示される1,4ベンゾチアゼピン誘導体又はその薬学的に許容しうる塩が、4−[3−(4−ベンジルピペリジンー1−イル)プロピオニル]−7−メトキシ−2,3,4,5−テトラヒドロ−1,4−ベンゾチアゼピン又はその薬学的に許容しうる塩であることを特徴とする請求項7に記載のカテコールアミン誘発性の高血圧の治療薬。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−248215(P2010−248215A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135565(P2010−135565)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【分割の表示】特願2006−512876(P2006−512876)の分割
【原出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(504464667)株式会社アエタスファルマ (3)
【Fターム(参考)】