説明

筋肉増加用組成物

【課題】安全および安価で簡便に日常的に継続して摂取することができ、かつ顕著な筋力の増強即ち筋肉量を増加させる作用を有し、若年者や高齢者を中心とする筋力や体力の低下の防止に有効な天然素材を開発し、提供すること。
【解決手段】小麦蛋白質の加水分解物、好ましくは小麦グルテンの加水分解物、特に好ましくはL-グルタミン含有量が15〜60質量%であり、平均分子量が200〜100,000ダルトンであるペプチドを含有する筋肉増加用組成物、ならびに組成物を含有する、筋肉増加用食品、飼料または医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦蛋白質の加水分解物を含有する筋肉増加用組成物ならびに該組成物を含有する筋肉増加用食品、飼料および医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の発達により高齢化人口が増加してきている。また社会インフラの整備が整い、バリアフリー化、低床化、エスカレーターやエレベーターの普及に伴って、日常生活の中で大きな筋力を使う必要性が低下してきていることから、若年者、高齢者の体力低下が問題となっている。
例えば高齢者では、地面のわずか数cmの段差に足を引っ掛けて転倒するといった事例がしばしば報告されているが、これは脚を持ち上げる筋肉が減少することにより、歩行時の靴底と地面の距離が極小になってきているためと推定されている。このように、いわゆる寝たきりの状態に無い、日常的に歩行等の行動をしている高齢者においても、筋肉が減少してきているのが現状である。
また若年者においても近年体力の低下が指摘されてきており、これはコンピュータやTVゲームの普及、社会環境等の要因によって屋内で過ごす事が多くなり、外で遊ぶことが少なくなったためといわれている。
筋力の増強、即ち筋肉量を増加させるためには、運動によって筋肉に負荷を与えるとともに、筋肉蛋白質の原料を摂取することによって、筋細胞を増加させる必要があるが、日常生活の中で継続していくことには困難があった。
【0003】
特許文献1には、カテキン類を有効成分とする筋機能低下抑制剤が開示されている。しかしながら、カテキンには独特の苦味があって継続して摂取するのは難しく、またカテキンを有効量摂取するには、原料から高度に精製して用いる必要があり、コスト高になるという問題点があった。特許文献2には、特定分子量分布を有するホエー蛋白質分解物を有効成分とする筋肉増強剤が開示されている。しかしながら、このホエー蛋白質分解物による効果を得るためには、摂取する蛋白質の全量をホエー蛋白質分解物に置き換える必要があり、日常的に継続して摂取するのは困難であった。
【0004】
小麦蛋白質の加水分解物には、グルタミン源としての生理機能だけでなく、小麦蛋白質の加水分解物に固有の生理機能が報告されている。例えば、特許文献3には、筋ジストロフィーを治療する効果、特許文献4には、肝臓酵素、血糖値、血清脂質を低下させる効果、特許文献5には、慢性疲労、疲労感、易疲労等の疲労に対する抗疲労効果、特許文献6には、抗ヒスタミン作用によってアレルギー性疾患を緩和する効果、特許文献7および非特許文献1には、NK活性を高める効果があることがそれぞれ報告されている。また、非特許文献2には、炎症性組織障害を抑制する効果があること、具体的には、小麦蛋白質の加水分解物が、アスリートの運動後の炎症性筋障害によるクレアチンキナーゼの上昇を抑制する効果があることが報告されている。
しかしながら、これらの何れの文献にも、小麦蛋白質の加水分解物が、筋肉の増加作用があることは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-13473号公報
【特許文献2】特開2010-150160号公報
【特許文献3】国際公開第04/075908号公報
【特許文献4】国際公開第03/074071号公報
【特許文献5】特開2005-97162号公報
【特許文献6】特開2009-249323号公報
【特許文献7】特開2005-97223号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry”, 69(12), 2445-2449,2005
【非特許文献2】“第61回 日本体力医学会大会予稿集”, p.360, 演題番号1p-7-P-032(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安全および安価で簡便に日常的に継続して摂取することができ、かつ顕著な筋力の増強、即ち筋肉量を増加させる作用を有し、若年者や高齢者を中心とする筋力や体力の低下の防止に有効な天然素材を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、小麦蛋白質の加水分解物、好ましくは小麦グルテンの加水分解物、特に好ましくはL-グルタミン含有量が15〜60質量%であり、平均分子量が200〜100,000ダルトンであるペプチドを含有する筋肉増加用組成物ならびに該組成物を含有する筋肉増加用食品、飼料または医薬品を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率よく、しかも筋肉を特異的に増加させることができる。さらに、本発明は、主食として、広く利用されている小麦を原料として製造するため、風味がよく、日常的に継続して摂取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、試験例1におけるマウスの飼料投与開始時からの体重増加量の平均推移を示すグラフである。
【図2】図2は、試験例1におけるマウスの飼料投与開始時からの回転ケージの回転数増加量の平均推移を示すグラフである。
【図3】図3は、試験例1における各群のマウスにおける平均筋肉量および肝臓重量を示すグラフである。
【図4】図4は、試験例2における各群のラットにおける飼料投与開始時からの体重増加量の平均推移を示すグラフである。
【図5】図5は、試験例3における各群のラットにおけるヒラメ筋のタンパク量を示すグラフである。
【図6】図6は、試験例3における各群のラットにおける平均の血漿中の3−メチルヒスチジン量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について具体的に説明する。
本発明で使用される小麦蛋白質の加水分解物は、高分子の小麦由来の蛋白質を、加水分解することによって比較的分子量の小さいペプチドとすることにより、高い筋肉増加作用を獲得させたものである。したがって、後述するように、特定のアミノ酸含量、および特定の分子量を有するペプチド(ペプチド混合物)を含む組成物とすることで、これを日常生活の中で摂取するだけで、高い筋肉増加効果を期待することができる。
【0012】
小麦としては、入手可能な小麦であればいずれのものも用いることができる。好適な例として、イネ科コムギ属のパンコムギ、デュラムコムギ、クラブコムギ、スペルトコムギ、エンマコムギ等や、イネ科エギロプス属のタルホコムギ、クサビコムギ等が挙げられる。
【0013】
加水分解に用いられる小麦蛋白質は、主として小麦由来のグルテン(小麦グルテン)をさすが、その他にアルブミン、グロブリン、グルテニン、グリアジン等の小麦中に含まれていることが知られている他の蛋白質を含有していてもよく、さらに澱粉質や繊維質等の不純物を不可避的に含有していてもよい。
【0014】
また、本発明では、小麦蛋白質として、小麦由来のグルテンに予め化学的処理や酵素等による生物的処理を施して、分子量を低下させたものや、プロテアーゼとの親和性等を高めたものも使用できる。さらに、未精製の小麦蛋白質、未精製の小麦グルテン等も使用することができる。小麦から澱粉を精製する際に副生物として小麦蛋白質が得られるが、これをそのまま利用してもよく、そうすることで従来使用されなかった副生物の小麦蛋白質を有効利用することができる。
【0015】
小麦蛋白質の加水分解物としては、上記の小麦蛋白質を加水分解したものであればいずれのものでもよく、加水分解は、適宜公知の方法、例えば、酸を用いて加水分解する方法や、蛋白質加水分解酵素(プロテアーゼ)を用いて加水分解する方法等を適用して実施することができる。
【0016】
酸を用いて小麦蛋白質を加水分解する方法としては、慣用の方法が採用できる。例えば、酸としては、鉱酸である硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、亜硫酸;有機酸であるシュウ酸、クエン酸、酢酸、ギ酸等が使用できる。このような酸を用いて小麦蛋白質を加水分解する手順としては、小麦蛋白質を含有する水性媒体に、酸規定度0.01〜2規定の範囲になるように酸を加え、水性媒体の温度を50〜100℃にして10分〜6時間加水分解させる手順が挙げられる。加水分解を停止させたい場合には、塩基を加えて中和することで停止させることができる。
【0017】
酸を用いて加水分解する場合、水性媒体中における小麦蛋白質の濃度は、酸の種類や規定度により適宜調節する必要があるが、通常、1.0〜80質量%の範囲に調節して処理するのがよい。
【0018】
蛋白質加水分解酵素を用いて小麦蛋白質を加水分解する方法としては、例えば、小麦グルテンを、プロテアーゼ、またはプロテアーゼとアミラーゼを用いて加水分解する方法が挙げられる(特許第2019439号公報および特許第2985193号公報参照)。その際のプロテアーゼとしては、例えば、ペプシン、トリプシン、キモトリシプシン、ヒイロタケ起源の酸性プロテアーゼ、アスペルギルス起源の酸性プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、サーモリシン、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼ、サチライシン、エスペラーゼ等のような種々のプロテアーゼを用いることができる。プロテアーゼは、単一のものを用いてもよいし、複数種を組み合わせて、例えば、酸性プロテアーゼと中性プロテアーゼを組み合わせて用いてもよいし、複数回処理を行ってもよい。
【0019】
小麦グルテンをプロテアーゼで加水分解する際に、アミラーゼを併用すると、小麦グルテンに含まれている澱粉質や繊維質等の不純物が分解除去されて、ペプチド成分を高純度で含む加水分解物を高収率で得ることができる(特許第2985193号公報を参照)。小麦グルテンは水に不溶で且つ水に対する分散性に劣るが、小麦グルテンの加水分解物は、低分子化しているために水に対する分散性に優れている。
【0020】
こうして得られる小麦蛋白質の加水分解物をそのまま本発明における有効成分として用いてもよい。したがって、本発明で用いられる小麦蛋白質の加水分解物には、ペプチド成分に加えて、製造工程上不可避的に含まれる小麦蛋白質や小麦グルテン由来のその他の成分や酵素類が含まれていてもよい。
【0021】
しかしながら、取り扱いの容易性、保存性等を考慮すると、この加水分解物から不溶物を除去し、さらに水分を除去して固体状の形態とすることが好ましい。この不溶物の除去や水分除去は、得られた加水分解物が変性や熱分解を起こさない条件下であれば、どのような方法でもよく、例えば、ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ、スプレークール、ドラムドライ、真空乾燥、凍結乾燥等のいずれの方法も使用できる。または、水溶性成分を適当な担体に結合または担持させた後、上記のような方法により溶媒を除去することで、固形物として得ることもできる。
【0022】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、市販されているもの(例えば、日清ファルマ株式会社製の「グルタミンペプチドGP-1」、「グルタミンペプチドGP-2」、「グルタミンペプチドGP-1N」等)をそのまま用いてもよいし、また場合によりこれを原料としてさらに加水分解、分画等の処理を施して用いてもよい。
【0023】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物の好ましい一態様として、L-グルタミン含有量が少なくとも15質量%で、平均分子量が200〜100,000ダルトンのペプチド(ペプチド混合物)が挙げられる。
【0024】
小麦蛋白質の加水分解物におけるL-グルタミン含有量が15質量%以上であると、効果が高く、相対的に摂取量を抑えることができる。L-グルタミン含有量の上限は特に限定されないが、60質量%以下であれば天然蛋白質からの調製が容易であることから、入手や調製の容易性および経済性の面から、60質量%以下であることが好ましい。したがって、小麦蛋白質の加水分解物中のL-グルタミン含有量は、好ましくは15〜60質量%、より好ましくは20〜40質量%である。なお、小麦蛋白質の加水分解物中のL-グルタミン含有量は、アミド態窒素置換法により測定したアミド態窒素含有量から求めたアミド態窒素含有L-アミノ酸含有量に基づいて算出することができる。
【0025】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、L-グルタミン含有量が少なくとも15質量%であれば、L-グルタミン以外のアミノ酸の種類およびその組成比等は特に制限されない。
【0026】
小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量が200ダルトン以上であると、苦味を呈することなく味が良好であり、平均分子量が100,000ダルトン以下であれば、水に対する溶解性を失わず、水を加えた時に粘稠な塊を形成することもなく取り扱いが容易である。小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量は200〜100,000ダルトンであれば特に制限されないが、500〜80,000ダルトンであることが好ましく、1,000〜60,000ダルトンであることがより好ましく、2,000〜50,000ダルトンであることがさらに好ましく、3,000〜40,000ダルトンであることが最も好ましい。なお、小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量は、ゲル濾過法によって測定したときの平均分子量であり、その詳細については以下の実施例の項に記載するとおりである。
【0027】
小麦蛋白質の加水分解物の原料として用いる小麦グルテンは、蛋白質中のアミノ酸組成として、通常25〜50質量%のL-グルタミンを含有している。そのため平均分子量が200〜100,000ダルトンの範囲内になるような条件下で小麦グルテンを加水分解し、必要に応じて分画等を行うことにより、L-グルタミン含有量が15〜60質量%で平均分子量が200〜100,000ダルトンの範囲内のペプチドを比較的容易に得ることができる。
【0028】
本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、食経験のある小麦に由来し、天然の蛋白質を構成するL-アミノ酸からなるために、ヒトや動物に対する安全性の点で優れているうえ、入手および調製の容易性、経済性等の点からも好ましい。また、本発明で用いる小麦蛋白質の加水分解物は、風味もよく保存性も良好であるため、食品、飼料、医薬品等の様々な形態にして摂取することができる。
【0029】
本発明の筋肉増加用組成物は、小麦蛋白質の加水分解物の乾燥質量を基準として、成人1日当たり0.5〜15g、好ましくは1〜10gの範囲で投与される。しかし、本発明において用いる小麦蛋白質の加水分解物は、天然物に由来する安全性の高いものであり、その投与量をさらに増やすこともできる。投与量は効果等を見ながら適宜増減するのが望ましい。1日当たりの投与量を1回に投与または摂取することもできるが、数回に分けて投与するのが望ましい。
【0030】
また本発明の筋肉増加用組成物は、安全な小麦を原料とし、過度の精製操作を行っていないため、安全性が高く、また風味もよいことから、そのままでも充分に経口摂取することが可能であり、長期間の継続的投与が可能である。さらに様々な食品、飼料、医薬品等の組成物の形態として長期間の継続的摂取も容易である。
【0031】
その際、上記の工程によって得られた小麦蛋白質の加水分解物をそのまま単独で用いることもできるが、本発明の効果を阻害しない限り、他の筋肉増加作用を示す成分を併用することができる。他の筋肉増加作用を示す成分としては、例えば、カテキン、大豆、ホエー、クレアチンおよびロイシン等が挙げられる。これら他の筋肉増加作用示す成分を併用する場合は、小麦蛋白質の加水分解物は、成人1日当たり0.5〜10g、好ましくは1〜6gの範囲で投与され、他の筋力増加作用を示す成分は、成人1日当たり0.1〜30g、好ましくは1〜20gの範囲で投与される。
なお、これらの他の筋力増加作用を示す成分の含有量は、組成物の形態、添加剤の種類および所望すべき摂取量に応じて適宜決められるが、本発明の組成物中、1〜50質量%の範囲内であり、好ましくは2〜25質量%の範囲内である。
【0032】
本発明の組成物を食品組成物として調製する場合、その形態は特に制限されず、健康食品、機能性食品、特定保健用食品等の他、小麦蛋白質の加水分解物を配合できる全ての食品が含まれる。また、本発明に係る食品組成物には飲料も包含される。具体的には、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤、経管経腸栄養剤等の流動食等の各種製剤形態とすることができる。製剤形態の食品組成物は、後述する医薬組成物と同様に製造することができる。さらに本発明に係る食品組成物は、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープまたはソース類、菓子(例えば、ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット)等として調製してもよい。
【0033】
本発明に係る食品組成物にはさらに、食品や飼料の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば、呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合して、常法に従って製造することができる。また、通常食されている食品に本発明の小麦蛋白質の加水分解物を配合することにより、本発明に係る食品組成物を製造することもできる。
【0034】
本発明に係る食品組成物において、小麦蛋白質の加水分解物の含有量は、食品の形態により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、1〜90質量%、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは8〜65質量%の範囲である。1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。上述した、成人1日当たりの摂取量が飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。
【0035】
本発明に係る食品組成物には、人用の食品のみならず、家畜、競走馬等の飼料、ペットフード等も包含する。飼料は、対象が動物である以外は食品とほぼ等しいことから、本明細書における食品組成物に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0036】
本発明の組成物を医薬組成物として調製する場合、その剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、坐剤等の経腸製剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等の皮膚外用剤、点滴剤、注射剤等が挙げられる。これらのうちでは、経口剤が好ましい。
【0037】
本発明に係る医薬組成物は、有効成分である小麦蛋白質の加水分解物に、慣用される添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を剤型に応じて配合し、常法に従って製剤化することができる。なお、液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水または他の適当な媒体に溶解または懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。
【0038】
本発明に係る医薬組成物における小麦蛋白質の加水分解物の含有量は、その剤型により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、1〜90質量%、好ましくは5〜85質量%の範囲であり、上述した成人1日当たりの摂取量を摂取できるよう、1日当たりの投与量が管理できる形にすることが望ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0040】
下記の実施例において、小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量およびL-グルタミン含有量は次の方法で測定した。
【0041】
小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量の測定方法:
小麦蛋白質の加水分解物の水溶液を孔径0.45μmのメンブランフィルターで濾過し、ゲル濾過法にてピークトップの分子量を測定した。カラムとして、日本バイオラッドラボラトリーズ社製「バイオシルSEC125-5」を使用した。測定条件は、測定波長280nm、溶出液0.2mMリン酸緩衝液(pH6.0, 0.1%SDS)、流速0.2mL/分であった。また、分子量の標準として、オボアルブミン(分子量44kDa)、ミオグロブリン(分子量17kDa)およびビタミンB12(分子量1.35kDa)を使用した。
【0042】
小麦蛋白質の加水分解物中のL-グルタミン含有量の測定方法:
アミド態窒素を含有するL-アミノ酸は、L-グルタミンとL-アスパラギンの2つであるが、小麦蛋白質では、そこに含まれるアミド態窒素含有L-アミノ酸のうちの95質量%以上がL-グルタミンである。すなわち、小麦蛋白質の加水分解物中のアミド態窒素含有L-アミノ酸量を、そのままL-グルタミン含有量としても、大きな誤差にならない。したがって、小麦蛋白質の加水分解物中のアミド態窒素含有L-アミノ酸量を、そのままL-グルタミン含有量とした。
【0043】
小麦蛋白質の加水分解物に含まれるアミド態窒素の含有量を、Wilcoxによる化学物質中のアミドの定量法[Meth. Enzymol.,11,36-65(1967)]に従って求めた。具体的には、コンウェイのフラスコ中に小麦蛋白質の加水分解物を入れ、そこに1Nの塩酸を加えて、小麦蛋白質の加水分解物中のアミド態窒素をアンモニアとして遊離させ、発生したアンモニアを衛生検査指針[日本薬学会編「衛生試験法・注解」,p274-276,金原出版(1990)]に従って定量し、定量したアンモニア量から小麦蛋白質の加水分解物に含まれるアミド態窒素量を求め、これに基づきL-グルタミン含有量としてアミド態窒素含有L-アミノ酸の含有量を算出した。
【0044】
<製造例1>小麦蛋白質の加水分解物の製造
(1)反応釜に、イオン交換水9,700L、無水クエン酸38kgおよび小麦グルテン(活性グルテン,Weston Foods Limited製)1,500kgを仕込み、45℃に加温した後、プロテアーゼ(天野製薬株式会社製「プロテアーゼMアマノ」)2.2kgおよびアミラーゼ(阪急バイオインダストリー株式会社製「液化酵素T」)1.1kgを加えて、45℃で5時間加水分解反応を行い、次いで25%水酸化ナトリウム水溶液を用いて液のpHを4.4〜4.5に調整して5時間保って酵素処理を行った。
(2)次いで、液を80℃に20分間保ってプロテアーゼを失活させた後、65℃に冷却し、そこにアミラーゼ(阪急バイオインダストリー株式会社製「液化酵素T」)0.5kgを加えて小麦グルテン中に含まれていた澱粉質および繊維質を加水分解させた後、液を90℃に20分間保ってアミラーゼを失活させた。
(3)次に、液を10℃以下に冷却した後、再度55℃に加熱し、そこに活性炭(武田薬品工業株式会社製「タケコール」)100kgを加えて55℃で30分間攪拌した。
(4)液温を45℃にし、濾過助剤(昭和化学工業株式会社製「ラヂオライト」)を加えて、加圧濾過装置を使用して濾過を行い、濾液7,000Lを回収した。
(5)上記(4)で回収した濾液をBrix値が20〜40になるまで減圧下で濃縮した後、プレートヒーターを使用して110℃で20秒間加熱して殺菌し、次いで55℃まで冷却した。
(6)上記(5)で得られた液を、噴霧乾燥装置を使用して送風温度160℃、排風温度80℃の条件下に噴霧乾燥して、小麦蛋白質の加水分解物を、粉末の形態で約1,000kg得た。
(7)上記(6)で得られた小麦蛋白質の加水分解物粉未を、60メッシュ篩(目開き0.246mm)を用いて分級し、60メッシュ篩を通過した微粉を回収した。
(8)上記(7)で回収した小麦蛋白質の加水分解物の平均分子量およびL-グルタミン含有量を測定したところ、平均分子量は約8,000ダルトンであり、L-グルタミン含有量は32質量%であった。
【0045】
<製造例2〜5>小麦蛋白質の加水分解物の製造
加水分解の条件を適宜変更する以外は、製造例1と同様な方法で、下記の表1に示す性状の小麦蛋白質の加水分解物を得た。
【0046】
【表1】

【0047】
<実施例1>錠剤の製造
製造例1で得られた小麦蛋白質の加水分解物83.8gならびに賦形剤として結晶セルロース(旭化成株式会社製)10gおよびポリビニルピロリドン(BASF社製)5gを混合し、これにエタノール30mLを添加して、湿式法により常法に従って類粒を製造した。それにより得られた類粒を乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム1.2gを加えて打錠用顆粒末とし、打錠機を用いて打錠し、1錠が1gの錠剤100個を製造した(錠剤1錠当たりの小麦蛋白質の加水分解物含有量0.838g)。
【0048】
<実施例2>錠剤の製造
実施例1において、製造例1で得られた小麦蛋白質の加水分解物に代えて、グルタミンペプチドGP-1(日清ファルマ製、平均分子量:7,000ダルトン、L-グルタミン含有量:32質量%)を用いた以外は、同様にして、錠剤を製造した。
【0049】
<実施例3>錠剤の製造
実施例1において、製造例1で得られた小麦蛋白質の加水分解物に代えて、グルタミンペプチドGP-2(日清ファルマ製、平均分子量:7,000ダルトン、L-グルタミン含有量:32質量%)を用いた以外は、同様にして、錠剤を製造した。
【0050】
<実施例4>錠剤の製造
グルタミンペプチドGP-1 166.7 mg、大豆ペプチド、ホエイプロテインまたはロイシン39.2 mg、ビタミンB群1.7mgならびに賦形剤として微結晶セルロース33.2 mgおよび寒天 7.2 mgを、混合および撹拌して均一に調製し、打錠して1錠248mgである錠剤をそれぞれ製造した(各錠剤1錠当たりの小麦蛋白質の加水分解物含有量166.7 mg)。
【0051】
<実施例5>シロップ剤の製造
精製水400gを煮沸し、これにかき混ぜながら白糖750gおよび製造例1で得られた小麦蛋白質の加水分解物100gを加えて溶解し、熱時に布ごしし、これに精製水を加えて全量を1000mLとしてシロップ剤を製造した(シロップ剤100mL当たりの小麦蛋白質の加水分解物含有量10g)。
【0052】
<実施例6>顆粒剤の製造
グルタミンペプチドGP-1 600g、ブドウ糖200gおよび酸味料90gを混合し、これに糊料14gおよび甘味料と香料の混合物1gを溶解した水溶液を添加して、湿式法により常法に従って顆粒を製造し、乾燥後、整粒して顆粒剤を得た(1包顆粒剤4.5g当たりの小麦蛋白質の加水分解物含有量3g)。
【0053】
<試験例1>
老齢マウスに小麦蛋白質の加水分解物を投与した場合の体重、筋肉量および自発的運動に及ぼす効果を検証した。
【0054】
<材料および方法>
小麦蛋白質の加水分解物:小麦蛋白質の加水分解物は、小麦グルテン加水分解物であるグルタミンペプチドGP-1(以下GP-1、Lot.2011.07、日清ファルマ製)とした。試験期間中は使用期限内であることを確認し、保存は室温、遮光、気密条件下とした。
【0055】
実験動物:動物は日本チャールズリバー(株)から購入した、雄性BALB/c CrlCrlj 7ヶ月齢を用いた。入荷後1週間の馴化期間をおいた。
【0056】
飼育条件:温度22±3℃、湿度60±15%、換気回数12〜15回/時間、照明12時間(7時〜19時)に設定した飼育室で飼育した。入荷時から、マウス回転式運動量測定装置(以下回転ケージ、夏目製作所製)で1匹ずつ飼育した。マウス回転ケージは回転する床面から回転軸距離(半径)は11cm、円周69cmのものを用いた。
【0057】
飼料および飲料水:飼料はAIN93Mの組成に準拠した表2に示す三種類の飼料を用いた。それぞれ、通常タンパク食(Normal群)、低タンパク対照食(Cont群)、低タンパク+GP-1食(GP群)とした。飲料水には水道水を用いた。
【表2】

【0058】
群分け:入荷後3〜7日目の各動物の回転ケージ回転数に基づき、各群の平均値が近似するように(1)Normal群6匹、(2)Cont群5匹および(3)GP群5匹に群分けした。
【0059】
給餌:上記の各飼料はステンレス製給餌器に入れて自由摂取とした。2回/週の頻度で飼料の交換と摂食量の測定を行った。
【0060】
体重測定:1回/週の頻度で体重測定を行った。
【0061】
解剖:各飼料の給餌開始から28日目にエーテル麻酔下で心臓採血を行い屠殺した。肝臓、左右大腿四頭筋(大腿直筋+中間広筋+外側広筋+内側広筋+縫工筋)、下腿三頭筋(腓腹筋+ヒラメ筋)を採取し、重量測定を行った。
【0062】
統計解析:数値は全て平均値±標準誤差(SE)で示し、Graph Pad Prism4を用いて、ANOVAによる検定後、全群間差をTukey検定にて有意水準を5%として確認した。図表中の異なるアルファベットは有意な差があることを示す。
【0063】
<結果>
試験例1から、下記1〜4の結果が得られた。
1.摂食量
各群の平均摂食量は、Normal群が6.57±0.08g、Cont群が6.24±0.12g、GP群が6.45±0.13gであった。全群間に有意な差はみられなかった。
【0064】
2.体重
各群における飼料の給餌開始時からの体重増加量の平均推移を図1に示した。図1に示すように、全飼育期間を通じて、全群間に有意な差はみられなかった。また各群の最終体重値はNormal群が35.8±0.71g、Cont群が33.8±0.70g、GP群が35.7±0.37gであった。
【0065】
3.回転ケージ回転数
各群における投与開始時からの回転ゲージ回転数増加量の平均推移を図2に示した。図2に示すように、全飼育期間を通じて、全群間に有意な差はみられなかった。
【0066】
4.筋肉および肝臓重量
各群の平均筋肉量および肝臓重量を表3および図3に示した。筋肉量は左右の大腿四頭筋と両方の合計、および左右の下腿三頭筋量と両方の合計、さらに四部位全ての合計(全)で示した。表3および図3に示すように、Normal群は両大腿四頭筋においてCont群に比べ有意な増加がみられ、GP群は右および両大腿四頭筋においてCont群に比べ有意な増加がみられた。また、Normal群は肝臓重量においてもCont群に比べて有意な増加がみられた。
【0067】
【表3】

【0068】
<考察>
本試験例1は、特に高齢者の筋肉量低下に対する本発明の筋肉増加用組成物の摂取効果を検証するため、老齢マウスに小麦グルテン加水分解物(GP-1)を混餌で投与し、体重および筋肉量に対する作用、更に自発運動量との関係について調べたものである。
【0069】
通常食(Normal)として、成長期を越えた実験動物に使用されているタンパク含量14%のAIN93Mを用い、これに対してタンパク含量を10%に落とした低タンパク飼料を投与し、低栄養のコントロール群(Cont)とした。GP-1の投与量は4%混餌とした。
【0070】
図1に示すように、体重は全期間中全群に有意な差はみられなかったが、Normal群に対してCont群の体重増加は少なく、投与2週間後以降、特に差が顕著になった。
また、図2に示すように、自発運動量(回転ゲージ回転数)も体重と似た推移をしており、投与2週間後以降Normal群とCont群の差が明確にみられた。
【0071】
これに対して小麦蛋白質の加水分解物を投与したGP群では、体重はNormal群とCont群の間の値を推移したが、実験終了時にはNormal群と並ぶまで増加した。一方、自発運動量については、摂取1週間後以降穏やかに増加し、実験終了時にはNormal群よりも少ない結果となった。このことから、小麦蛋白質の加水分解物は、少ない運動量であっても、筋肉量を増加させることがわかった。
【0072】
図3に示すように、低タンパク食の影響で、Cont群はNormal群に比べて組織重量が低下する傾向がみられ、表3に示すように、大腿四頭筋と肝臓においてNormal群とCont群の間に有意差がみられた。
これに対して小麦蛋白質の加水分解物を投与したGP群では、Normal群と同等もしくはそれ以上の増加効果がみられ、右大腿四頭筋と両大腿四頭筋においてCont群との有意な差がみられた。その一方で、GP群ではNormal群ほど肝臓重量を増加させなかった。このことから、小麦蛋白質の加水分解物は特異的に筋肉量を増加させることがわかった。
【0073】
次に栄養面から、小麦蛋白質の加水分解物とカゼインとを対比した。小麦蛋白質のアミノ酸バランスをみると、リジンとスレオニンが不足しており、アミノ酸スコアは31と低く、カゼイン(アミノ酸スコア100)と比較すると1/3以下である。しかしながら、今回小麦蛋白質の加水分解物が体重や筋肉重量においてカゼインと同程度の増加作用を示したことから、本発明の筋肉増加用組成物の顕著な筋肉増加作用には、高い吸収性および/または高い筋肉同化作用が関与している可能性が考えられた。また、試験例1ではGP-1の投与量はNormalのカゼイン14%からカゼイン10%の低蛋白食とした分を補う意味で4%混餌としたが、実際にはGP-1の4%分に含まれる蛋白質は2.59%にすぎない。
従って、小麦蛋白質の加水分解物は、蛋白質含量としては少ないながらも顕著な筋肉増加作用を示すことが明らかである。
【0074】
<試験例2>
小麦蛋白質の加水分解物の筋肉源としての利用効率を小麦蛋白質およびアミノ酸混合物との比較により検証した。
<材料および方法>
小麦蛋白質の加水分解物:小麦蛋白質の加水分解物は、小麦グルテン加水分解物であるグルタミンペプチドGP-2(以下GP-2、Lot.2011.08、日清ファルマ製)とした。試験期間中は使用期限内であることを確認し、保存は室温、遮光、気密条件下とした。
【0075】
実験動物:動物は日本SLC株式会社から購入した、雄性Wistar 15週齢を用いた。入荷後1週間の馴化期間をおいた。
【0076】
飼育条件:温度21〜25℃、湿度50〜60%、換気回数12〜23回/時間、照明12時間(8時〜20時)に設定した飼育室で飼育した。
【0077】
飼料および飲料水:飼料は、表4に示すように、AIN93Mに準拠し、タンパク源として小麦蛋白質(小麦タンパク)、小麦蛋白質の加水分解物(GP-2)およびGP-2と同じアミノ酸組成のアミノ酸混合物(アミノ酸)の各試料を、タンパク源の全体に占めるカロリー比率が27%となるように配合した3種類の飼料を用いた。飲料水には水道水を用いた。
【0078】
【表4】

【0079】
群分け:72時間絶食後(給水あり)平均体重が等しくなるように、(1)小麦タンパク群(P群)8匹、(2)GP-2群(G群)8匹および(3)アミノ酸混合群(A群)8匹に群分けした。
【0080】
給餌:群分け後に、各飼料を96時間投与した。投与は24時間に1回与える制限給餌とし、絶食前の摂食量の平均量を毎日与えた。
【0081】
摂食量および体重測定:24時間毎に摂食量と体重測定を行った。
【0082】
解剖:96時間後にエーテル麻酔下で心臓採血(血中タンパク、アミノ酸)を行い屠殺した。肝臓を採取し、重量測定を行うと共に、脂肪量(内臓、精巣周囲、腎周囲)を除いた除脂肪体重を算出した。
【0083】
統計解析:数値は平均値±標準誤差(SE)で示し、Graph Pad Prism4を用いて、ANOVAによる検定後、TukeyにてP,G,Aの3群間の有意差を有意水準5%にて検定した。図表中の異なるアルファベットは有意差があることを示す。
【0084】
<結果>
試験例2から、下記1〜3の結果が得られた。
1.飼育結果
入荷時のラットの平均体重は、284.16±1.32gであった。予備飼育7日間のうち後半4日間の平均摂食量が16.9g/rat/dayであったため、絶食後の給餌量を17g/rat/dayとした。
72時間の絶食による平均体重減少は元の体重の約13%であった。体重減少以外の絶食の影響は観察されなかった。
群分け後から24時間毎に4回の給餌と体重測定を行った。群間の摂食量を揃えるため、総摂食量が総給餌量の9割(61.2g)に満たなかった個体は解析から除外することにした。解析対象とした匹数は、P群は7匹、G群は6匹、A群は8匹となった。
【0085】
初めの24時間はG群の摂食量が伸びなかったことから、総摂食量は、P群67.46±0.27, G群64.52±0.81, A群66.20±0.60となり、P群とG群の間に有意差がみられた。
また図4は、各群における飼料投与開始時からの体重増加量の平均推移を示しているが、図4に示すように、体重推移は24時間後まではP群が最も増加したが、48時間後にG群がほぼ並び、72時間後にG群が最大増加となり、試験終了時まで続いた。72時間後と96時間後にはG群とA群の間に有意な差がみられた。
【0086】
2.解剖結果
各群の平均体重、肝臓重量、総脂肪量および除脂肪体重を表5に示した。表5に示すように、体重と除脂肪体重はG群とA群の間に有意な差がみられた。
【0087】
【表5】

【0088】
3.門脈血中タンパクおよび尿素窒素、アミノ酸含量
各群の血漿中の総タンパク濃度(TP)および尿素窒素(BUN)濃度を表6に示した。表6に示すように、総タンパク濃度(TP)はG群がA群よりも有意に高かった。尿素窒素(BUN)濃度には群間で有意な差はみられなかった。
また各群の血漿中のアミノ酸量を表7に示した。表7に示すように、アミノ酸濃度はグルタミン酸(Glu)でG群がP群に比べ有意に高く、その他の群間で有意な差はみられなかった。
【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
<考察>
本試験例2では、G群が最も体重増加量が多く、次いでP群、A群の順であった。一方、脂肪量は最も多かったのがP群であり、G群はA群と同等であった。また、G群の血漿中全アミノ酸濃度はA群と比較して有意に高かった。このことから、小麦蛋白質の加水分解物は、高い吸収性を有し、しかも吸収後に脂肪をあまり増加させず、筋肉を特異的に増加させることがわかった。
【0092】
<試験例3>
若齢ラットに小麦蛋白質の加水分解物を投与した場合の体重、筋肉量および自発的運動に及ぼす効果を検証した。
【0093】
<材料および方法>
小麦蛋白質の加水分解物:小麦蛋白質の加水分解物は、小麦グルテン加水分解物であるグルタミンペプチドGP-2(以下GP-2、Lot.2011.08、日清ファルマ製)とした。試験期間中は使用期限内であることを確認し、保存は室温、遮光、気密条件下とした。
【0094】
実験動物:動物は日本SLC株式会社から購入した、雄性Wistar 15週齢を用いた。入荷後1週間の馴化期間をおいた。
【0095】
飼育条件:温度21〜25℃、湿度50〜60%、換気回数12〜23回/時間、照明12時間(8時〜20時)に設定した飼育室で飼育した。
【0096】
飼料および飲料水:飼料は、表8に示すように、AIN93Mに準拠し、カゼイン5%(Cont)、カゼイン5%にGP-2の4%を添加したもの(GP)ならびにカゼイン5%にGP-2の4%とアミノ酸組成およびアミノ酸量が当量になるようアミノ酸混合物を添加したもの(AA)の3種類の飼料を用いて4週間飼育した。飲料水には水道水を用いた。
【0097】
【表8】

【0098】
群分け:馴化1週間目の各動物の絶食時体重に基づき、各群の平均値が近似するように(1)Cont群6匹、(2)GP群5匹および(3)AA群5匹に群分けした。
【0099】
給餌:群分け後に、各飼料を96時間投与した。投与は24時間に1回与える制限給餌とし、絶食前の摂食量の平均量を毎日与えた。
【0100】
測定項目:1週間毎に体重測定および尾静脈より採血を行った。摂食量は毎日測定した。採血した血液から血漿中の3−メチルヒスチジンをプレカラム誘導体化後、蛍光検出により定量した。
【0101】
解剖:4週間の飼育終了後にエーテル麻酔下で心臓採血を行い屠殺した。肝臓、左右腓腹筋、左右ヒラメ筋、左右長指伸筋を採取し、重量測定を行った。運動機能維持に重要なヒラメ筋については、Lowry法にてタンパク量を測定した。
【0102】
<結果>
試験例3から、下記1〜4の結果が得られた。
1.摂食量
各群の平均摂食量は、Cont群が16.2±0.66g、GP群が15.5±0.85g、AA群が14.9±0.66gであった。
【0103】
2.体重
各群の最終体重値はCont群が333.42±8.21g、GP群が329.24±9.35g、AA群が331.98±9.41gであった。
【0104】
3.筋肉および肝臓重量
各群の平均筋肉量および肝臓重量を表9に示した。表9に示すように肝臓重量はCont群が最も高かった。平均筋肉量は左右で若干の差はあるものの、腓腹筋、ヒラメ筋、長指伸筋のいずれにおいてもGP群が最も高かった。また、ヒラメ筋のタンパク量を図5に示した。図5に示すように、ヒラメ筋のタンパク量はGP群が最も高く、次いでCont群であり、AA群ではむしろCont群よりも少ない結果であった。
【0105】
【表9】

【0106】
4.3−メチルヒスチジン量
各群の平均の血漿中3−メチルヒスチジン量を図6に示した。図6に示すように、各群の3-メチルヒスチジン量は、試験食投与開始後、1週目まで低下がみられ、その後増加に転じたが、Cont群とAA群では投与前を上回る値となり、筋タンパクの分解促進を意味する結果が得られた。GP群は4週後も投与前の値を越えることはなく、筋タンパクの分解が抑制されたことが示唆された。
【0107】
<考察>
本試験は、若齢ラット(14週齢、非運動時)の低タンパク食摂取に対する本発明の筋肉増加用組成物の効果を検証するため、筋肉量の増加と筋蛋白質分解の指標となる3−メチルヒスチジン量(山口医学 56(6) p193-200 (2007)参照)への影響を調べたものである。
GP群はAA群よりも筋肉の重量増加が高く、しかも筋肉中のタンパク量が高かったことから、筋蛋白質が増加したことが明らかである。さらに血漿中の3−メチルヒスチジン量がCont群やAA群が摂食開始前よりも増加し、筋蛋白質の分解が高まっていたのに対して、GP群では血漿中の3−メチルヒスチジン量が摂食開始前よりも低値で安定していたことから、本発明の筋肉増加用組成物は筋蛋白質の分解を抑制することが示唆された。
【0108】
以上の結果から、次のことが明らかである。
本発明の筋肉増加用組成物は、高齢動物(7ヶ月齢マウス)を用いた4週間飼育試験では、カゼイン蛋白よりも少ない運動量で同等の筋肉量(左右の大腿四頭筋と左右の下腿三頭筋)の増加作用を示し、しかもその作用はカゼイン蛋白とは異なり、他の臓器に比べて筋肉に特異的であった。
また、本発明の筋肉増加作用組成物は、ラット96時間飼育試験で、小麦蛋白質食、アミノ酸食(本発明の筋肉増加用組成物と同アミノ酸組成)に比べて、最も高い体重増加作用を示した。その一方で脂肪量は小麦蛋白質食が最も多く、本発明の筋肉増加用組成物はアミノ酸食と同等であった。
また、本発明の筋肉増加作用組成物は、ラット4週間飼育試験で、アミノ酸食(本発明の筋肉増加用組成物と同アミノ酸組成)に比べて、高い筋肉量および筋蛋白質の増加作用を示した。さらに、筋蛋白質の分解を抑制することが示唆された。
以上から、本発明の筋肉増加用組成物は、過度のトレーニングを必要とせず、筋肉の分解を抑制し、効率よくしかも筋肉を特異的に増加させることができる、極めて優れた効果を有する。
さらに本発明の筋肉増加用組成物は、主食として広く利用されている小麦を原料として製造することができ、しかも風味も良いため、日常的に継続して摂取することが可能であり、特に日常的に特別な運動等を行っていなくとも筋肉を増加させることができるため、若年者や高齢者をはじめとして筋力が低下しているヒトに対して、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦蛋白質の加水分解物を含有する、筋肉増加用組成物。
【請求項2】
小麦蛋白質の加水分解物として、小麦グルテンの加水分解物を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
小麦蛋白質の加水分解物として、L-グルタミン含有量が15〜60質量%で平均分子量が200〜100,000ダルトンのペプチドを含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
さらにカテキン、大豆、ホエー、クレアチンおよびロイシンから選択される1種以上を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を含有する、筋肉増加用食品、飼料または医薬品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−62309(P2012−62309A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178872(P2011−178872)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】