説明

筋肉増強用組成物

【課題】脂肪を増加させることなく筋肉を増強させる作用を有し、筋力低下に悩む高齢者及びベッドレスト者等の病者、筋肉や身体の発達が必要な小児や若年者、筋力低下の抑止や筋力増強を所望する健常者及びアスリート、ならびに成育促進又は肉質の向上が所望される家畜等の動物等のヒト又は動物における筋肉増強のために使用することができる安全性の高い組成物の提供。
【解決手段】イネ科コムギ属のパンコムギ、デュラムコムギ、クラブコムギ、スペルトコムギ、エンマコムギ等や、イネ科エギロプス属のタルホコムギ、クサビコムギ等の小麦胚芽を含有する筋肉増強用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内の脂肪を増加させることなく筋肉を増強されることができ、且つ生体に対する安全性の高い筋肉増強用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体力低下の問題が表面化してきており、若年者特に小児の基礎体力の低下は、少子化の問題とも相俟って大きくクローズアップされてきている。体力は、身体の筋肉量と密接に関係する。成長期は骨格や筋肉など身体を形成する重要な時期であるが、近年の小児や若者は、食事代わりに菓子等甘いものを摂取することが常態化しており、このため健全な身体発育が行われず、必要な骨格や筋肉が充分に形成されず、体力低下を招く結果となっている。また近年では、エレベーター等機械化した移動手段の発達や、運動する機会や場所の減少等により、そもそも日常生活において体を動かすことが少なくなってきている。こうした慢性的な運動不足による筋肉量の減少も、体力低下の原因となっている。
【0003】
さらに近年、生活習慣の変化や食品の多様化によって、肥満を有する人口の割合が増加の一途をたどっている。成長途中の小児や若年者の肥満は、必要な筋肉や骨格の形成を損ない、健全な身体発育を妨げ、成年期以降の健康に悪影響を及ぼす。また高齢者の肥満は、健康に直ちに悪影響を及ぼすおそれがある。肥満化によって身体の脂肪率が増加して筋肉の割合が減少すると、ますます体を動かすことが面倒になり、さらに肥満と筋肉減少が進行するという悪循環に陥るため、体力はますます低下する。
【0004】
肥満の主な原因の1つは、摂取カロリーが消費カロリーを上回ることである。運動により筋肉量を増やして基礎代謝を上げれば、消費カロリーが増えるので、肥満を改善できる。しかし、運動による筋肉の増強は、上述した近年の体力低下傾向と相俟って、容易ではない。特に、筋力が落ち、基礎代謝が低下している高齢者にとっては困難である。したがって、特別なトレーニング等を行うことなく日常生活の中で、薬剤や飲食品等の摂取によって、脂肪を増加させることなく筋肉を増強させる手段が望まれている。
【0005】
また、畜産の観点からも、良質な蓄肉を得るためには、筋肉が多く、過剰な脂肪のない個体の育成が所望される。さらに、飼料を効率よく筋肉に換えることができれば、費用対効果が上昇するためより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ホエー蛋白質を特定条件で加水分解した組成物が、筋肉増強作用を示すことが開示されている。しかしながら、特許文献1において確認できているのは、萎縮した筋肉を回復させることだけであり、正常な筋肉をより増強させる作用や、脂肪を増加させることなく筋肉を増強させる作用については確認されていないのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−150160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、斯かる従来の実状に鑑み、体内において、脂肪を増加させることなく筋肉を増強させる作用を有し、且つ生体にとって安全性の高い素材を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、小麦胚芽が強力な筋肉増強作用及び脂質代謝改善作用を有し、体内の脂肪を増加させることなく筋肉を増強させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、小麦胚芽を有効成分として含有する筋肉増強用組成物を提供することにより、上記課題を解決したものである。
また本発明は、小麦胚芽を摂取せしめることにより、脂肪量を増加させることなく筋肉を増強する方法を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の筋肉増強用組成物は、体内の脂肪を増加させることなく筋肉を増強させることができ、かつ長期服用しても副作用の心配がなく安全性が高い。従って、本発明の筋肉増強用組成物は、肥満改善や、筋肉増強若しくは体力向上のための医薬品、機能性飲食品又は飼料等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】飼育期間中における体重増加量を示すグラフ。
【図2】試験後の内臓脂肪量を示すグラフ。
【図3】飼育期間中における飼料効率を示すグラフ。
【図4】飼育期間中における体重増加量を示すグラフ。
【図5】飼育期間中における飼料効率を示すグラフ。
【図6】試験後の体内の各部位における内臓脂肪量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の筋肉増強用組成物に含有される小麦胚芽とは、小麦の種子に含まれる、発芽時に幼根や子葉となる胚芽部分をいう。したがって、本発明の筋肉増強用組成物には、胚芽部分を含む小麦種子がそのまま含有されていてもよいが、小麦胚芽として市販されているもの(例えば、日清ファルマ製「小麦胚芽」)等の、小麦の種子から分離された胚芽が含有されていることが好ましい。
【0014】
小麦胚芽に含まれる成分のうち、小麦胚芽油は、筋肉増強作用を有さず、また、油分の酸化や腐敗により小麦胚芽が変質する可能性があるため、除去することが好ましい。よって、小麦胚芽としては、脱脂小麦胚芽がより望ましい。脱脂小麦胚芽としては、小麦胚芽から圧搾法、抽出法等の公知の方法によって製造したものを利用してもよく、あるいは、市販されている脱脂小麦胚芽(例えば、日清製粉製「ハイギーB」)を利用することもできる。
【0015】
小麦胚芽の原料となる小麦としては、入手可能な小麦であれば、いずれのものも用いることができる。好適な例として、イネ科コムギ属のパンコムギ、デュラムコムギ、クラブコムギ、スペルトコムギ、エンマコムギ等や、イネ科エギロプス属のタルホコムギ、クサビコムギ等が挙げられる。
【0016】
上記胚芽部分を含む小麦種子、種子から分離された胚芽、及び脱脂小麦胚芽は、破砕、粉砕、顆粒状、粉状等の任意の形態であればよく、また、乾燥、焙煎、加熱、溶解等の処理を施された状態であってもよい。本発明の筋肉増強用組成物中においては、上記胚芽部分を含む小麦種子、種子から分離された胚芽、又は脱脂小麦胚芽が各々単独で含有されていてもよく、又はいずれか2種以上が併用されていてもよい。
【0017】
後記実施例に示されるように、小麦胚芽を摂取せしめることにより、体内の脂肪を増加させることなく筋肉を増強させることができる。したがって、小麦胚芽を含有する本発明の筋肉増強用組成物は、筋力低下に悩む高齢者及びベッドレスト者等の病者;筋肉や身体の発達が必要な小児や若年者;筋力低下の抑止や筋力増強を所望する健常者及びアスリート;ならびに成育促進又は肉質の向上が所望される家畜等の動物、等のヒト又は動物における筋肉増強のために使用することができる。
【0018】
また後記実施例に示されるように、小麦胚芽を摂取した場合、食餌摂取量に対する筋肉の増加率が向上する。よって、小麦胚芽を含有する本発明の筋肉増強用組成物は、多くの食餌を摂取する必要なしに、効率よく筋肉を増強することができるため、食欲の低下した高齢者及び病者への適用、ならびに畜産における費用対効果の向上のために有利である。
【0019】
本発明の筋肉増強用組成物に含有される小麦胚芽は、従来食品として利用されている物質であり、長期服用しても副作用の心配がないので、健常者や成人だけでなく、小児、高齢者及び病弱者に対しても、安全に使用することができる。したがって、本発明の筋肉増強用組成物は、ヒト又は動物用の、筋肉増強のための医薬品、飲食品、飼料等として、あるいはそれらを製造するために使用することができる。
【0020】
本発明の筋肉増強用組成物が医薬品である場合、当該組成物は、経口及び非経口投与を含む任意の剤型で投与され得る。
経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形製剤、あるいはエリキシロール、シロップおよび懸濁液のような液体製剤が挙げられる。非経口投与のための剤型としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス等が挙げられる。
【0021】
本発明の筋肉増強用組成物が飲食品又は飼料である場合、当該組成物は、筋肉増強効果をコンセプトとし、その旨を表示した機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用飲食品、家畜用飼料、ペットフード等に利用することができる。
飲食品又は飼料の形態は、特に限定されないが、例えば、飲料の形態としては、果汁飲料、炭酸飲料、茶飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられ、食品又は飼料の形態としては、固形、半固形または液状であり得、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等が挙げられる。具体的な食品の形態としては、パン類、麺類、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、タブレット、カプセル、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、サプリメント、その他加工食品、調味料およびそれらの原料等が挙げられる。
【0022】
本発明の筋肉増強用組成物は、必要に応じて、小麦胚芽以外の他の成分、例えば、他の有効成分及び/又は通常利用される添加物若しくは担体を含有していてもよい。
本発明の筋肉増強用組成物が医薬品である場合、小麦胚芽以外の他の成分としては、例えば、他の薬効成分、美容成分、栄養成分、ならびに賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、水溶性高分子、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤、酸化防止剤、増粘剤、紫外線吸収剤、活性増強剤、着色剤、甘味料、矯味剤、矯臭剤、酸味料等が挙げられ、これらは適宜組み合わせて使用される。
本発明の筋肉増強用組成物が飲食品又は飼料である場合、小麦胚芽以外の他の成分としては、例えば、他の栄養成分、美容成分、ならびに溶剤、油、軟化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、甘味料、香料等の添加物が挙げられ、これらは適宜組み合わせて使用される。
【0023】
本発明の筋肉増強用組成物中の小麦胚芽の含有量は、それらの剤型や形態により異なるが、乾燥小麦胚芽換算で、通常、組成物の全質量に対して、医薬品の場合、1〜90質量%、好ましくは5〜70質量%であり、飲食品又は飼料の場合、5〜100質量%、好ましくは10〜90質量%である。乾燥脱脂小麦胚芽換算では、通常、組成物の全質量に対して、医薬品の場合、1〜90質量%、好ましくは20〜60質量であり、飲食品又は飼料の場合、1〜100質量%、好ましくは5〜95質量%である。
本発明の筋肉増強用組成物の投与又は摂取量は、通常、小麦胚芽量換算の場合、成人一日あたり2g〜30g、好ましくは6〜30gであり、脱脂小麦胚芽量換算の場合、成人一日あたり2g〜27g、好ましくは6〜27gである。上記投与又は摂取量は、用法及び適用対象に応じて適宜調整され得る。
【実施例】
【0024】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
試験例1
ラット(雄性Wistar、5週齢)を1週間の予備飼育後、試験に供した。対照群、小麦胚芽油群及び小麦胚芽群に1群5匹にて群分けし、表1に示す組成の餌を給餌し、自由摂取、自由吸水にて2週間飼育した。飼育中は各個体の摂餌量を測定した。飼育終了後、各個体について、体重を測定した後、エーテル麻酔下で屠殺して、内臓脂肪(腸間膜脂肪、精巣周囲脂肪及び腎臓周囲脂肪)を剥離し、その重量の合計を測定した。
【0026】
【表1】

【0027】
結果を表2及び図1〜3に示す。小麦胚芽群では、対照群に比べて、体重がより多く増加していた(表2及び図1)。一方、小麦胚芽群では、対照群に比べて、内臓脂肪量が減少し(表2、及び図2)、糞量も増加していた(データ示さず)ことから、小麦胚芽群における体重増加は、体脂肪増加によるものではなく、筋肉量の増加に起因するものであることが示唆された。すなわち、小麦胚芽を摂取することによって、体内の脂肪量を増加させることなく、筋肉を増強することができる。
さらに、小麦胚芽群では、対照群に比べて飼料効率(摂餌量100gあたりの体重増加量)が向上していたことから(表2、及び図3)、小麦胚芽を摂取することにより、同じ量の試料を摂取した場合でも、より筋肉が増強されることが分かった。
なお、小麦胚芽油を摂食した動物では、対照群に比べて、内臓脂肪量は少なくなったが、体重の増加作用や、飼料効率の向上は確認されなかった。
【0028】
【表2】

【0029】
試験例2
ラット(雄性Wistar、5週齢)を1週間の予備飼育後、試験に供した。対照群と小麦胚芽群に1群5匹にて群分けし、表1に示す組成の餌を給餌し、自由摂取、自由吸水にて2週間飼育した。飼育中は各個体の摂餌量を測定した。飼育終了後、各個体について、体重を測定した後、エーテル麻酔下で屠殺して、腸間膜脂肪、精巣周囲脂肪及び腎臓周囲脂肪を剥離し、各重量を測定した。
【0030】
結果を表3〜4及び図4〜6に示す。小麦胚芽を摂食した動物は、対照に比べて体重がより多く増加し(表3及び図4)、飼料効率が向上した(表3及び図5)。また、小麦胚芽を摂食した動物では、対照に比べて内臓脂肪量、特に腎周囲脂肪量が減少した(表4及び図6)。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦胚芽を含有することを特徴とする筋肉増強用組成物。
【請求項2】
小麦胚芽が脱脂小麦胚芽であることを特徴とする請求項1記載の筋肉増強用組成物。
【請求項3】
飲食品であることを特徴とする請求項1又は2記載の筋肉増強用組成物。
【請求項4】
飼料であることを特徴とする請求項1又は2記載の筋肉増強用組成物。
【請求項5】
医薬であることを特徴とする請求項1又は2記載の筋肉増強用組成物。
【請求項6】
小麦胚芽を摂取せしめることにより、脂肪量を増加させることなく筋肉を増強する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−77010(P2012−77010A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221391(P2010−221391)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】