筋肉由来前駆細胞、その組成物、および治療法を使用した軟部組織および骨の増大および肥厚
【課題】体組織への移植後に長期生存を示し、注射、移植、または埋め込みによる軟部組織部位への導入後に軟部組織を増大することができる筋肉由来前駆細胞を含む組成物の使用方法の提供。
【解決手段】(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl−2、Sca−1、およびFlk−1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc−Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞と、(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性軟部組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用方法。該非筋肉性軟部組織としては、消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択されるものであることが好ましい。
【解決手段】(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl−2、Sca−1、およびFlk−1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc−Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞と、(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性軟部組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用方法。該非筋肉性軟部組織としては、消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択されるものであることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、筋肉由来前駆細胞(または幹細胞)(MDCまたはMDSC)およびMDC組成物ならびに体組織(特に、軟部組織および骨)の増大におけるその使用に関する。特に、本発明は、軟部組織および骨への導入後に長期生存を示す筋肉由来前駆細胞、MDCを単離する方法、ならびにヒトまたは動物の軟部組織および骨(上皮組織、脂肪組織、神経組織、器官組織、筋組織、靭帯組織、および軟骨組織を含む)を増大するためにMDC含有組成物を使用する方法に関する。本発明はまた、美容状態および機能性状態(例えば、皮膚の状態、胃食道逆流、膀胱尿管逆流、尿失禁、大便失禁、骨格筋脱力、心不全、および心筋梗塞に関連する傷害または脱力)を治療するための筋肉由来前駆細胞の新たな使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シリコーンまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの合成材料を用いた軟部組織の増大は当技術分野において周知である。アルネット(Arnett)に付与された米国特許第5,876,447号は、顔面形成手術のためのシリコーンインプラントの使用を開示している。しかしながら、このような合成材料は宿主組織にとって異物であり、インプラントの封入および周囲組織の瘢痕化をもたらす免疫応答を引き起こす。従って、このようなインプラントは、さらなる機能的または審美的な問題を生む可能性がある。
【0003】
コラーゲンまたはヒアルロン酸などの生体高分子を用いた軟部組織増大もまた述べられている。例えば、ワランス(Wallace)らに付与された米国特許第4,424,208号は、コラーゲンインプラント材料を用いて軟部組織を増大する方法を開示している。さらに、デラバレ(della Valle)らに付与された米国特許第4,965,353号は、美容外科に使用することができるヒアルロン酸エステルを開示している。しかしながら、これらの生体高分子もまた宿主組織にとって異物であり、注射された材料の再吸収をもたらす免疫応答を引き起こす。従って、生体高分子は、長期間、組織を増大することができない。全般的に見て、生体高分子または合成材料の使用は、軟部組織の増大に完全に満足のいくものではなかった。
【0004】
細胞に基づく組成物を使用した軟部組織増大もまた開発されている。ボスジュニア(Boss,Jr.)に付与された米国特許第5,858,390号は、美容的および審美的な皮膚欠陥を治療するための自己真皮線維芽細胞の使用を開示している。この治療法は、合成材料または生体高分子の埋め込みまたは注射に固有の問題を避けるが、他の厄介な問題をもたらす。線維芽細胞はコラーゲンを産生するので、細胞は、移植部位周囲の細胞を硬直および変形させることがある。
【0005】
注射可能な肥厚剤としての自己脂肪細胞の使用もまた述べられている(概説については、K.マク(Mak)ら、1994、Otolaryngol Clin.North.Am.27:211-22;アメリカ形成外科学会:新手法に関する特別委員会による自己脂肪移植についての報告(American Society of Plastic and Reconstructive Surgery:Report on autologous fat transplantation by the ad hoc committee on new procedures)、1987、Chicago:American Society of Plastic and Reconstructive Surgery;A.チャーチル(Chaichir)ら、1989、Plast.Reconstr.Surg.84:921-935;R.A.エルセク(Ersek)、1991、Plast.Reconstr.Surg.87:219-228;H.W.ホール(Horl)ら、1991、Ann.Plast.Surg.26:248-258;A.ヌグエン(Nguyen)ら、1990、Plast.Reconstr.Surg.85:378-389;J.サルツンスキー(Sartynski)ら、1990、Otolaryngol.Head Neck Surg.102:314-321を参照のこと)。しかしながら、脂肪移植手術は、注射された脂肪が宿主に再吸収されるので一時的な増大しか生じない。さらに、脂肪移植は、結節形成および組織非対称をもたらすことがある。
【0006】
筋繊維の前駆体である筋芽細胞は、融合して分裂を終えた多核筋管を形成する単核筋細胞であり、生理活性タンパク質を長期間、発現および送達することができる(T.A.パートリッジ(Partridge)およびK.E.デイビス(Davies)、1995、Brit.Med.Bulletin 51:123-137;J.ドハワン(Dhawan)ら、1992、Science 254:1509-12;A.D.グリネル(Grinnell)、1994、Myology Ed 2、A.G.エンゲル(Engel)およびC.F.アームストロング(Armstrong)、McGraw-Hill,Inc.、303-304;S.ジャオ(Jiao)およびJ.A.ウォルフ(Wolff)、1992、Brain Research 575:143-7;H.ヴァンデンブルグ(Vandenburgh)、1996、Human Gene Therapy 7:2195-2200)。
【0007】
培養筋芽細胞は、幹細胞の自己再生性の一部を示す細胞亜集団を含んでいる(A.バロフィオ(Baroffio)ら、1996、Differentiation 60:47-57)。このような細胞は融合して筋管を形成せず、別々に培養しなければ分裂しない(A. バロフィオら、前記)。筋芽細胞移植の研究(以下を参照のこと)によって、移植された細胞の大部分がすぐに死滅する一方で、少数の細胞が生き残り、新たな筋形成を媒介することが分かっている(J.R.ビューチャンプ(Beuchamp)ら、1999、J.Cell Biol.144:1113-1122)。この少数の細胞は、組織培養中のゆっくりとした増殖および移植後の急速な増殖を含む特徴的な挙動を示し、これらの細胞が筋芽細胞幹細胞である可能性があることを示唆している(J.R.ビューチャンプら、前記)。
【0008】
筋芽細胞は、様々な筋肉関連障害および非筋肉関連傷害の治療における遺伝子療法用ビヒクルとして使用されている。例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に遺伝子組換え筋芽細胞または非組換え筋芽細胞の移植が用いられている(E.グソーニ(Gussoni)ら、1992、Nature、356:435-8;J.フアード(Huard)ら、1992、Muscle&Nerve、15:550-60;G.カルパチ(Karpati)ら、1993、Ann.Neurol.、34:8-17;J.P.トレムブラ(Trembla)ら、1993、Cell Transplantation、2:99-112;P.A.モイセット(Moisset)ら、1998、Biochem.Biophys.Res.Commun.247:94-9;P.A.モイセットら、1998、Gene Ther.5:1340-46)。さらに、筋芽細胞は、1型糖尿病治療のためにプロインシュリン(L.グロス(Gros)ら、1999、Hum.Gen.Ther.10:1207-17);血友病B治療のために第IX因子(M.ロマン(Roman)ら、1992、Somat.Cell.Mol.Genet.18:247-58;S.N.ヤオ(Yao)ら、1994、Gen.Ther.1:99-107;J.M.ワング(Wang)ら、1997、Blood 90:1075-82;G.ホルテラノ(Hortelano)ら、1999、Hum.Gene Ther.10:1281-8);アデノシンデアミナーゼ欠損症候群治療のためにアデノシンデアミナーゼ(C.M.リンチ(Lynch)ら、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:1138-42);慢性貧血治療のためにエリスロポエチン(E.レグリエル(Regulier)ら、1998、Gene Ther.5:1014-22;B.ダレ(Dalle)ら、1999、Gene Ther.6:157-61)、および成長遅延治療のためにヒト成長ホルモン(K.アンウェル(Anwer)ら、1998、Hum.Gen.Ther.9:659-70)を産生するように遺伝子操作されている。
【0009】
筋芽細胞はまた、ロー(Law)らに付与された米国特許第5,130,141号、ブラウ(Blau)らに付与された米国特許第5,538,722号、およびチャンスロール(Chancellor)らによって1999年4月30日に出願された米国特許出願第09/302,896号に開示のように、筋組織の損傷または疾患を治療するために用いられている。さらに、筋芽細胞移植は、心筋機能不全の回復のために用いられている(C.E.マリ(Murry)ら、1996、J.Clin.Invest.98:2512-23;B.Z.アトキンス(Atkins)ら、1999、Ann.Thorac.Surg.67:124-129;B.Z.アトキンスら、1999、J.Heart Lung Transplant.18:1173-80)。
【0010】
前記にもかかわらず、ほとんどの場合、初代筋芽細胞による治療は、移動および/または食作用のために、移植後の低い細胞生存率と関連してきた。この問題を避けるために、アタラ(Atala)に付与された米国特許第5,667,778号は、アルギネートなどの液状ポリマーに懸濁された筋芽細胞の使用を開示している。このポリマー溶液は、筋芽細胞が注射後に移動しないように、および/または食作用を受けないようにするためのマトリックスとして働く。しかしながら、このポリマー溶液は前記の生体高分子と同じ問題を生じる。さらに、アタラの特許は筋組織だけでの筋芽細胞使用に限定され、他の組織では使用されない。
【0011】
従って、長期間効果があり、広範囲の宿主組織と適合し、かつ移植部位周囲の組織の最小限の炎症、瘢痕化、および/または硬直しか引き起こさない他の異なる軟部組織増大材料が必要とされる。従って、本発明の筋肉由来前駆細胞を含む組成物は、軟部組織を増大するための改善したおよび新規の材料として提供される。移植後に長期生存を示す筋肉由来前駆細胞組成物を生成する方法、ならびに様々な審美的な欠陥および/または機能性の欠陥(例えば、皮膚の状態または傷害、および筋肉の脱力、傷害、疾患、または機能不全を含む)を治療するためにMDCおよびMDC含有組成物を使用する方法がさらに提供される。
【0012】
非筋肉性軟部組織を増大するために筋芽細胞を使用する以前の試みが失敗に終わったことは注目すべきことである(アタラに付与された米国特許第5,667,778号)。従って、本明細書で開示される発見は、本発明による筋肉由来前駆細胞が非筋肉性軟部組織および筋肉性軟部組織(上皮組織を含む)に首尾よく移植することができ、長期生存を示すことが分かったように予期しなかったことである。結果として、MDCおよびMDC含有組成物は、筋肉性軟部組織または非筋肉性軟部組織を増大するための、ならびに骨を生成するための一般的な増大材料として使用することができる。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞および組成物は自己供給源から得ることができるので、増大材料の再吸収を含む宿主における免疫合併症ならびに移植部位周囲の組織の炎症および/または瘢痕化の危険性が低い。
【0013】
筋肉、骨、軟骨などを含む身体の様々な結合組織において間葉系幹細胞を見つけることができるが(H.E.ヤング(Young)ら、1993、In Vitro Cell Dev.Biol.29A:723-736;H.E.ヤングら、1995、Dev.Dynam.202:137-144)、「間葉系」という用語は、歴史的に、骨髄から精製される幹細胞の種類を言うために用いられており、筋肉から精製される幹細胞の種類を言うために用いられない。従って、間葉系幹細胞は本発明の筋肉由来前駆細胞とは区別される。さらに、間葉系細胞は、本明細書に記載の筋肉由来前駆細胞が発現するCD34細胞マーカー(M.F.ピテンガー(Pittenger)ら、1999、Science 284:143-147)を発現しない。
【0014】
細胞療法の主な問題は、注射された細胞の不十分な生存および限定された拡散、ならびにドナー細胞に対するレシピエントの免疫拒絶である(Y.ファン(Fan)ら、1996、Muscle&Nerve、19:853-860)。本発明で述べられる筋肉由来幹細胞(MDSCまたはMDC)は、軟部組織および骨を増大および肥厚させるために細胞移植療法で用いられた場合、高い自己再生能および長期間の増殖を示す。本発明の自己細胞および同種異系細胞は両方とも、記載の障害および状態に有効な細胞療法を提供することができる。さらに、このような細胞は、重篤な患部筋肉における細胞療法の効率を改善することができる。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、移植後に長期生存を示す新規の筋肉由来前駆細胞(幹細胞)(MDCまたはMDSC)およびMDC組成物を提供することである。本発明のMDCおよびMDC含有組成物は、デスミン、M-カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34、およびBcl-2などの前駆細胞マーカーを発現する初期前駆筋肉細胞(すなわち、筋肉由来幹細胞)を含む。さらに、これらの初期前駆筋肉細胞はFlk-1、Sca-1、MNF、およびc-met細胞マーカーを発現するが、CD45細胞マーカーもc-Kit細胞マーカーも発現しない。
【0016】
本発明の別の目的は、筋肉細胞出発集団から筋肉由来前駆細胞を単離および濃縮する方法を提供することである。これらの方法は、軟部組織部位への移植後または導入後に長期生存能を有するMDCを濃縮する。本発明によるMDC集団には、特に、デスミン、M-カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34、およびBcl-2などの前駆細胞マーカーを発現する細胞が豊富にある。このMDC集団はまたFlk-1、Sca-1、MNF、およびc-met細胞マーカーを発現するが、CD45細胞マーカーもc-Kit細胞マーカーも発現しない。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、移植用のポリマー担体も特殊な培地も必要とすることなく、筋肉性軟部組織または非筋肉性軟部組織(皮膚組織、血管組織、脂肪組織、神経組織、骨格筋組織、平滑筋組織、靭帯組織、軟骨組織、脊椎円板(例えば、椎間円板) 組織、および様々な器官組織を含む)を増大させるためにMDCおよびMDC含有組成物を使用する方法を提供することである。このような方法は、軟部組織への導入によって(例えば、組織への直接注射または組成物の全身分布によって)MDC組成物を投与する段階を含む。好ましくは、軟部組織は非骨性体組織を含む。より好ましくは、軟部組織は、非横紋筋性非骨性体組織を含む。最も好ましくは、軟部組織は、非筋肉性非骨性体組織を含む。本明細書で用いる場合の増大は、体組織の大きさまたは量を充填、肥厚、支持、拡大、伸張、または増加することを意味する。本明細書に記載の後期プレプレートの自己筋肉由来幹細胞および非自己(すなわち、同種異系)筋肉由来幹細胞は両方とも、このような前駆細胞が治療に用いられる状態に有効な組織増大および細胞療法をもたらす。
【0018】
本発明の別の目的は、a)美容的または審美的な状態;b)胃食道逆流の症状および状態;c)大便失禁および尿失禁;ならびにd)骨格筋および平滑筋の脱力、傷害、疾患、または機能不全に対する、MDCに基づく治療を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、傷害、創傷、外科手術、外傷、非外傷、先天性、変性、もしくは外傷性の脊椎円板の症状もしくは状態、あるいは皮膚または内部軟部組織もしくは器官において亀裂、開口、くぼみ、創傷などを生じる他の処置の後に、骨または軟部組織(筋肉由来軟部組織もしくは非筋肉由来軟部組織)を増大させる方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、化学物質、増殖培地、および/または遺伝子操作の使用によって改変されたMDCおよびMDC含有組成物を提供することである。このようなMDCおよびその組成物は、生物学的化合物の産生および送達ならびに様々な疾患、状態、傷害、または疾病の治療に有用な化学的または遺伝的に改変された細胞を含む。
【0021】
本発明により提供されるさらなる目的および利点は、本明細書以下に記載の詳細な説明および例示から明らかであると思われる。
【0022】
図面の添付の図は、本発明をさらに説明するために、および本発明の様々な局面を明らかにすることによって本発明の理解を助けるために示される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のウシコラーゲン注射と比較したMDC組成物注射を使用した軟部組織増大の結果を示す。図1A-1Fについては、MDC(図1D-1F)またはコラーゲン(1A-1C)を腹壁の皮膚に注射した。注射領域は、真皮と皮下結合組織(これは皮膚である)との境界であった。図1A-1Fは、コラーゲンまたはMDCを皮膚に注射した後の40×倍率のトリクローム染色を示す。注射の5日後、2週間後、4週間後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。図1Aおよび1Dは注射5日後の、皮膚へのMDC注射対コラーゲン注射の結果を示す。図1Bおよび1Eは、注射2週間後の結果を示す。図1Cおよび1Fは注射4週間後の結果を示す。図1D-1Fの矢じりは注射領域でのMDCの存在を示す(濃いピンク色)。図1A-1Fは、皮下空間への注射後、MDCは少なくとも4週間まで存続し、腹壁皮下組織を維持し/増大させたのに対して、コラーゲンは皮膚への注射の2週間後まで存続しなかったことを示している(実施例3)。
【図2】MDC組成物注射を用いた下部食道(図2A)および肛門括約筋(図2B)軟部組織増大の結果を示す。胃食道接合部または肛門括約筋に注射した。注射の3日後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図2Aは、注射された組織を100×倍率で示す。図2Bは、注射された組織を40×倍率で示す。図2Aおよび2Bは、MDC注射が、注射の3日後まで下部食道括約筋および肛門括約筋の軟部組織増大を維持したことを示している。
【図3】MDC組成物注射を用いた膀胱尿管接合部の軟部組織増大の結果を示す。膀胱尿管接合部に注射した。注射の3日後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。MDCは、矢印の近くに見られるβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図3Aは、注射された組織を低(40×)倍率で示す。図3Bは、注射された組織を高(100×)倍率で示す。図3Aおよび3Bは、MDC注射が、注射の3日後まで膀胱尿管接合部の軟部組織増大を維持したことを示している。
【図4】MDC組成物の軟部組織注射を用いた膀胱凍結傷害の治療を示す。膀胱壁の凍結傷害部位に注射した。注射の30日後に、組織試料を採取し、染色のために調製した。矢印は、凍結傷害およびMDC注射の部位を示す。倍率は100×である。図4Aは、治療されていない凍結損傷を受けた膀胱組織を示す。図4Bは、MDC注射で治療した凍結損傷膀胱組織を示す。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図4Aおよび4Bは、MDC注射が、注射30日後まで凍結損傷膀胱組織の軟部組織増大を維持したことを示している。
【図5】凍結損傷膀胱組織に注射した後のMDCの細胞分化を示す。膀胱壁の凍結傷害部位に注射し、注射の5、35、または70日後に、組織試料を採取し、染色のために調製した。注射されたMDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示され、未分化MDCはα-平滑筋アクチン(α-SMアクチン)染色によって示される。筋管または筋原線維に分化したMDCは、ファストミオシン重鎖(ファストMyHC)染色によって示される。矢印はファストMyHCを示す。注射の5日後、多数のMDCが注射部位に観察され、高レベルのβ-ガラクトシダーゼ(図5A)およびα-SMアクチン染色(図5D)、ならびに比較的低レベルのファストMyHC染色(図5G)により示されるように、わずかなMDCしか筋管に分化していなかった。注射の35日後、多数のMDCが注射部位に観察され、高レベルのβ-ガラクトシダーゼ染色(図5B)、α-SMアクチン染色の減少(図5E)、およびファストMyHC染色の増加(図5H)により示されるように、多くのMDCが筋管に分化していた。注射の70日後、MDCが注射部位に観察され、高レベルのβ-ガラクトシダーゼ(図5C)、α-SMアクチン染色の減少(図5F)、および高レベルのファストMyHC染色(図5l)により示されるように、ほとんど全てのMDCが筋原線維に分化していた。倍率は200×である。図5A-51は、膀胱軟部組織に注射した70日後までMDCが依然として生存し、分化を始めたことを示している。
【図6】膀胱軟部組織に注射されたMDCの再神経支配を示す。神経支配は、神経筋接合部を示すアセチルコリン(Ach)染色によって示される。注射の3日後に、Ach染色(図6A)により示されるように、神経支配はほとんど観察されなかった。注射の15日後に、いくつかの神経支配が観察された(図6B)。注射の30日後に、さらに多くの神経支配が観察された(図6C)。注射の6ヶ月後に、低(100×)倍率で非常に多くの神経支配が観察された(図6D)。図6A-6Cは、注射された組織を高(200×)倍率で示す。図6A-6Dは、凍結損傷膀胱組織に注射した6ヶ月後までMDCが神経支配を誘導することを示している。
【図7】MDC組成物注射を用いた心筋平滑筋の軟部組織増大の結果を示す。心室壁に注射し、注射の3日後に、組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図7Aは、注射された組織を低(100×)倍率で示す。図7Bは、注射された組織を高(200×)倍率で示す。
【図8】肝臓組織へのMDC注射の結果を示す。下部左葉の肝臓組織に注射し、注射の4日後に組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図8Aは低(100×)倍率を示す。図8Bは高(200×)倍率を示す。
【図9】脾臓組織へのMDC注射の結果を示す。内側の脾臓組織に注射し、注射の4日後に組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図9Aは、低(100×)倍率で見た注射された組織を示す。図9Bは、高(200×)倍率で見た注射された組織を示す。
【図10】脊髄組織へのMDC注射の結果を示す。脊髄組織に注射し、注射の4日後に組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図10Aは、低(100×)倍率で見た注射された組織を示す。図10Bは、高(200×)倍率で見た注射された組織を示す。図7A-7B、8A-8B、9A-9B、および10A-10Bは、様々な異なる組織タイプへ注射した後にMDCが宿主組織を傷つけることなく依然として生存することを示している。
【図11】デスミン、MyoD、およびミオゲニン(筋形成系統特異的マーカー)、M-カドヘリン(衛星細胞特異的マーカー)、Bcl-2(初期筋形成マーカー)、CD34(造血細胞またはストローマ細胞マーカー)を含む細胞マーカーの発現を示す、mdxマウスに由来するPP1-4およびPP6細胞集団の免疫組織化学分析を示す。図11A-11Lは、PP1-4およびPP6細胞集団では、デスミン(図11Aおよび11G)、MyoD(図11Eおよび11K)、ならびにミオゲニン(図11Fおよび11L)を発現する細胞の割合が同等であるのに対して、PP6集団ではPP1-4集団と比較して、M-カドヘリン(図11Dおよび11J)を発現する細胞の割合が少なく、Bcl-2(図11Cおよび11l)ならびにCD34(図11Bおよび11H)を発現する細胞の割合が多いことを示している。
【図12】マウス筋肉細胞および血管内皮細胞におけるCD34またはBcl-2染色とデスミン染色との細胞内共局在を示す。図12Aは、抗CD34抗体で染色され、蛍光顕微鏡で観察された正常マウス筋肉細胞(矢印を参照のこと)および血管内皮細胞(矢じりを参照のこと)を示す。図12Bは、デスミン抗体およびIV型コラーゲン抗体で同時染色された同じ細胞を示す。図12Cは、核を示すためにヘキストで同時染色された同じ細胞を示す。図12Dは、CD34、デスミン、IV型コラーゲン、およびヘキスト同時染色された細胞の合成写真を示す。図12Eは、抗Bcl-2抗体で染色され、蛍光顕微鏡で観察された正常マウス筋肉細胞(矢印を参照のこと)を示す。図12Fは、デスミン抗体およびIV型コラーゲン抗体で同時染色された同じ細胞を示す。図12Gは、核を示すためにヘキストで同時染色された同じ細胞を示す。図12Hは、CD34、デスミン、IV型コラーゲン、およびヘキスト同時染色された細胞の合成写真を示す。図12lは、抗M-カドヘリン抗体で染色された衛星細胞(矢印を参照のこと)を示す。細胞を40×倍率で観察した。図12A-12DはCD34およびデスミンの共局在を示すのに対して、図12E-12HはBcl-2およびデスミンの共局在を示す。
【図13】mc13細胞のrhBMP-2への曝露から生じる形態学的変化およびオステオカルシン発現を示す。mc13細胞は、rhBMP-2を含む、またはrhBMP-2を含まない増殖培地中で6日間インキュベートした。図13Aは、rhBMP-2非存在下で>50%細胞集密度まで増殖した細胞を示す。図13Bは、200ng/ml rhBMP-2存在下で>50%細胞集密状態まで増殖した細胞を示す。図13Cは、rhBMP-2非存在下で>90%細胞集密状態まで増殖した細胞を示す。図13Dは、200ng/ml rhBMP-2存在下で>90%細胞集密状態まで増殖した細胞を示す。図13Eは、オステオカルシン発現(骨芽細胞の細胞マーカー;矢印を参照のこと)について染色された細胞を示す。細胞を10×倍率で観察した。図13A-13Eは、mc13細胞がrhBMP-2に曝露すると骨芽細胞に分化できることを示している。
【図14】rhBMP-2治療に反応した、デスミンおよびアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞の割合に及ぼす影響を示す。図14Aは、新たに単離されたmc13クローンのデスミン染色を示す。図14Bは、同じ細胞の位相差顕微鏡写真を示す。図14Cは、200ng/ml rhBMP-2を含む、または含まない増殖培地中で6日間インキュベーションした後の、mc13細胞におけるデスミン染色レベルを示す。図14Dは、200ng/ml rhBMP-2を含む、または含まない増殖培地中で6日間インキュベーションした後の、PP1-4細胞およびmc13細胞におけるアルカリホスフェート染色レベルを示す。★は、統計的に有意な結果(スチューデントt検定)を示す。図14Cは、デスミンを発現するmc13細胞の数がrhBMP-2存在下で減少するのに対して、図14Dは、アルカリホスファターゼを発現するmc13細胞の数がrhBMP-2存在下で増加することを示す。このことは、rhBMP-2存在下ではmc13細胞の筋形成特徴が減少し、骨形成特徴が増加することを示唆している。
【図15】筋形成系統および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化を示す。mc13細胞を、LacZおよびジストロフィン遺伝子を含む構築物で安定にトランスフェクトし、筋肉内注射または静脈内注射によってmdxマウスの後足に導入した。15日後、動物を屠殺し、組織学のために後足筋系を切り離した。図15Aは、LacZ染色された、筋肉内注射部位のmc13細胞を示す。図15Bは、ジストロフィンが同時染色された同じ細胞を示す。図15Cは、LacZ染色された、静脈内注射領域のmc13細胞を示す。図15Dは、ジストロフィンが同時染色された同じ細胞を示す。別の実験において、mc13細胞にadBMP-2を形質導入し、0.5〜1.0×106細胞をSCIDマウスの後足に注射した。14日後、動物を屠殺し、後足の筋組織を分析した。図15Eは、骨形成を確かめるための後足のX線撮影分析を示す。図15Fは、LacZ染色された後足からの細胞を示す。図15Gは、ジストロフィンが染色された細胞を示す。図15A-15Dは、mc13細胞が、筋肉内送達または静脈内送達によってジストロフィン発現を救出できることを示している。図15E-15Gは、mc13細胞が異所的な骨形成に関与することを示している。細胞を、以下の倍率:40×(図15A-15D)、10×(図15F-15G)で観察した。
【図16】rhBMP-2産生初代筋肉細胞による骨治癒の向上を示す。歯科用バーを用いて雌SCIDマウスの頭蓋骨に5mmの欠陥を作成し、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞またはadBMP-2が形質導入されていないmc13細胞が播種されたコラーゲンスポンジで欠陥を塞いだ。14日で動物を屠殺し、検査し、骨治癒の徴候について顕微鏡で分析した。図16Aは、adBMP-2が形質導入されていないmc13細胞で治療された頭蓋骨を示す。図16Bは、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞で治療された頭蓋骨を示す。図16Cは、フォンコッサ染色によって分析された、adBMP-2が形質導入されていないmc13細胞で治療された頭蓋骨の組織学的試料を示す。図16Dは、フォンコッサ染色によって分析された、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞で治療された頭蓋骨の組織学的試料を示す。図16Eは、注射された細胞を特定するためにY染色体特異的プローブとのハイブリダイゼーションによって分析され(矢印で示される緑色蛍光)、核を特定するために臭化エチジウムで染色された(赤色蛍光で示される)、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞で治療された頭蓋骨の組織学的試料を示す。図16A-16Eは、rhBMP-2を発現するmc13細胞が骨の欠陥の治癒に寄与できることを示している。
【図17−1】MDSC(後期プレプレート(LP)(すなわち、MDSC[LP]--PP5もしくはPP6)または初期プレプレート(EP)(すなわち、MDSC[EP]--PP1-2))の注射による移植片を示す。図17Cおよび17Dに示すように、注射の10日後までに、MDSC[LP]が注射されたmdx筋肉において、かなりの数のジストロフィン陽性(ジストロフィン+)筋原線維を有する大きな移植片が観察された(実施例10)。MDSC[LP]が注射された筋肉とMDSC[EP]が注射された筋肉(図17Aおよび17B)を比較すると、MDSC[LP]移植片にははるかに多くの小さな筋原線維が含まれることが分かる。従って、このことから注射されたMDSC[LP]細胞はインビボで高い増殖能を有することが示唆される。両筋肉には同数の各タイプの筋肉細胞を注射した。MDSC[LP]が注射された筋肉におけるジストロフィン+筋原線維の数は、MDSC[EP]が注射された筋肉において見出されたジストロフィン+筋原線維の数の約5倍であった(2.798+/-1.114、n=4(mdsc)対430+/-148、n=6(EP);平均+/-SD)。 重要なことに、MDSC[LP]を使用した場合、注射の30日後までに多くのジストロフィン+筋原線維が筋肉に存在した(図17Eおよび17F)。図17Cと図17Eを比較すると、移植片の面積が両方ともほぼ同じであったことが分かる。しかしながら、30日筋肉(図17E)については、10日筋肉(図17C)に注射した細胞量の半分しか注射していない。さらに、30日移植片における筋繊維は10日移植片より非常に多かった。従って、このことから、注射の10日後までに形成されたジストロフィン+筋原線維の大部分は20日後でも生存していたことが分かる。対照的に、注射の30日後までに、MDSC[EP]が注射された筋肉においてジストロフィン+筋原線維の数の著しい減少が観察され、ジストロフィン+筋原線維は、MDSC[EP]群(134+/-42、n=3)とMDSC[LP]群(2,000+/-658、n=3)とで10倍を超える差があった。
【図17−2】図17-2は、図17-1の続きを示す図である。
【図18】本発明による方法においてヒト胎児MDSCを使用する実行可能性を示している。このような細胞は免疫寛容となっていることが見出され、SCIDマウスにおいて2週間を超えて存続した。発現ベクターにLacZ遺伝子を含む1×106ヒト胎児MDSC[LP]をSCIDマウスの膀胱壁に注射した。LacZ染色が、注射の5日後(図18A)および15日後(図18B)に観察され、これによってMDSCの優れた生存能が証明された。
【図19】正常動物およびMDSC[LP]が注射された動物のデスミン染色を示す。正常マウスからの3×105 MDSCを、免疫無防備状態でない正常マウスに静脈内注射した。2週間後、注射されたマウスから胸腺を採取し、骨格筋特異的デスミンを染色した。図19Aは、正常胸腺対照のデスミン染色が陰性であることを示す。しかしながら、別の動物からのMDSCを末梢注射した2週間後、胸腺のデスミン染色は陽性である(図19B)。
【図20】MDSC組成物をウサギ脊椎円板に注射した結果を示す。MDSCは、記載のようにβ-ガラクトシダーゼ発現用のLacZを有する発現ベクターを含んでいた。マウスから得られたMDSCをウサギ脊椎円板T6レベルに導入した。注射の10日後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。注射されたMDSCの存在は、β-ガラクトシダーゼ染色によって示された。図20Aは、注射された組織を100×(高倍率)で示す。図20Bは、注射された組織を40×(低倍率)で示す。図20Aおよび20Bに示す結果は、MDC注射が脊椎円板において少なくとも10日間存続し、正常円板および機能不全円板の大きさおよび機能を増大する可能性があることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
筋肉由来細胞および組成物
本発明は、体組織(好ましくは軟部組織)への移植後に長期生存率を示す初期前駆細胞(本明細書では筋肉由来前駆細胞または筋肉由来幹細胞(MDSC)とも呼ばれる)からなるMDCを提供する。本発明のMDCを得るには、筋肉外植片(好ましくは骨格筋)を、動物ドナー(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物)から得る。この外植片は、「休止状態」の筋肉前駆細胞を含む構造的および機能的な合胞体として働く(T.A.パートリッジ(Partridge)ら、1978、Nature 73:306-8;B.H.リプトン(Lipton)ら、1979、Science 205:1292-4)。本発明による移植片に、または細胞療法として使用されるMDCは、ヒトの成人、胎児、胚、または胎盤ドナー細胞を含む、自己ドナーまたは非自己(すなわち、同種異系)ドナーから得ることができる。
【0025】
初代筋組織から単離された細胞は、線維芽細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、造血細胞、および筋肉由来前駆細胞の混合物を含んでいる。筋肉由来集団の前駆細胞は、チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号に記載のように、コラーゲンコーティング組織フラスコ上での初代筋肉細胞の差次的な付着特性を用いて濃縮することができる。付着が遅い細胞は形態学的に丸くなる傾向があり、高レベルのデスミンを発現し、融合して多核筋管に分化する能力を有する(チャンスロールらの米国特許出願第09/302,896号)。これらの細胞の亜集団は、骨形成系統および筋形成系統の両方に分化できることを示す、増大したレベルのアルカリホスファターゼ、副甲状腺ホルモン依存性3',5'-cAMP、およびオステオカルシンを発現することによって、インビトロで組換えヒト骨形成タンパク質2(rhBMP-2)に反応することが示された(チャンスロールらの米国特許出願第09/302,896号;T.カタギリ(Katagiri)ら、1994、J.Cell Biol.127:1755-1766)。
【0026】
本発明によって、迅速に付着するMDC(PP1-4)およびゆっくりと付着する丸いMDC(PP6)の集団が骨格筋外植片から単離および濃縮され、ゆっくりと付着する細胞の中に多能性細胞が存在することを確かめるために免疫組織化学を用いて様々なマーカーの発現について試験された(実施例1;チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号)。本明細書の表3、実施例9に示すように、PP6細胞は、デスミン、MyoD、およびミオゲニンを含む筋形成マーカーを発現した。PP6細胞はまた、筋形成初期段階で発現する2つの遺伝子であるc-metおよびMNFを発現した(J.B.ミラー(Miller)ら、1999、Curr.Top.Dev.Biol.43:191-219;表3を参照のこと)。PP6は、衛星細胞特異的マーカーであるM-カドヘリンを発現する細胞の割合が少ないが(A.イリントケフ(Irintchev)ら、1994、Development Dynamics 199:326-337)、筋形成初期段階の細胞に限定されるマーカーであるBcl-2を発現する細胞の割合が多かった(J.A.ドミノフ(Dominov)ら、1998、J.Cell Biol.142:537-544)。PP6細胞はまた、ヒト造血前駆細胞ならびに骨髄のストローマ細胞前駆体で特定されるマーカーであるCD34を発現した(R.G.アンドリュー(Andrews)ら、1986、Blood 67:842-845;C.l.シビン(Civin)ら、1984、J.Immunol.133:157-165;L.フィナ(Fina)ら、1990、Blood 75:2417-2426;P.J.シモンズ(Simmons)ら、1991、Blood 78:2848-2853;表3を参照のこと)。
【0027】
PP6細胞はまた、幹細胞様特性を有する造血細胞のマーカーとして最近同定されたヒトKDR遺伝子のマウス相同体であるFlk-1を発現した(B.L.ツィーグラー(Ziegler)ら、1999、Science 285:1553-1558;表3を参照のこと)。同様に、PP6細胞は、幹細胞様特性を有する造血細胞に存在するマーカーであるSca-1を発現した(M.ファンデリジン(van de Rijn)ら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4634-8;M.オーサワ(Osawa)ら、1996、J.Immunol.156:3207-14;表3を参照のこと)。しかしながら、PP6細胞は、CD45もc-Kit造血幹細胞マーカーも発現しなかった(LK.アシュマン(Ashman)、1999、Int.J.Biochem.Cell.Biol.31:1037-51;G.A.コレツキー(Koretzky)、1993、FASEB J.7:420-426に概説される;表3を参照のこと)。
【0028】
本明細書に記載の特性を有するPP6筋肉由来前駆細胞集団が本発明において好ましい。これらの筋肉由来前駆細胞は、デスミン、CD34、およびBcl-2細胞マーカーを発現する。本発明によれば、移植後、長期生存能を有する筋肉由来前駆細胞集団を得るために、本明細書(実施例1)に記載の方法によってPP6細胞を単離する。PP6筋肉由来前駆細胞集団のかなりの割合が、デスミン、CD34、およびBcl-2などの前駆細胞マーカーを発現する細胞である。さらに、PP6細胞はFlk-1およびSca-1細胞マーカーを発現するが、CD45もc-Kitマーカーも発現しない。好ましくは、PP6細胞の95%以上がデスミン、Sca-1、およびFlk-1マーカーを発現するが、CD45もc-Kitマーカーも発現しない。PP6細胞は、最後のプレーティング後、約1日または約24時間以内に用いられることが好ましい。
【0029】
プレプレーティング法の代替法として、本発明のMDCは、MDCにより発現される1種類またはそれ以上の種類の細胞表面マーカーに対する標識抗体を用いた蛍光標示式細胞分取(FACS)分析によって単離することができる(C.ウェブスター(Webster)ら、1988、Exp.Cell.Res.174:252-65;J.R.ブラントン(Blanton)ら、1999、Muscle Nerve 22:43-50)。例えば、FACS分析は、宿主組織に導入した場合に長期生存能を示すPP6様細胞集団を選択するために、CD34、Flk-1、Sca-1、および/または本明細書に記載の他の細胞表面マーカーに対する標識抗体を用いて行うことができる。本発明はまた、異なる細胞マーカータンパク質を抗体検出するために1種類またはそれ以上の種類の蛍光検出標識(例えば、フルオレセインまたはローダミン)の使用を含む。
【0030】
筋肉由来細胞に基づく治療
本発明の1つの態様において、MDCは骨格筋供給源から単離され、目的の筋肉性軟部組織部位もしくは非筋肉性軟部組織部位または骨構造に導入または移植される。有利なことに、本発明のMDCは、移植後に長期生存を示す多数の前駆細胞を含むように単離および濃縮される。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞は、デスミン、CD34、およびBcl-2などの多数の特徴的な細胞マーカーを発現する。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞はSca-1およびFlk-1細胞マーカーを発現するが、CD45もc-Kit細胞マーカーも発現しない(実施例1を参照のこと)。
【0031】
本発明のMDCおよびMDC含有組成物は、筋肉性軟部組織または非筋肉性軟部組織の増大によって、様々な審美的な状態または機能性の状態(例えば、欠陥)を修復、治療、または改善するために使用することができる。特に、このような組成物は、1)皮膚の美容的および審美的な状態;2)管腔の状態;3)胃食道逆流の症状または状態;4)大便失禁;5)骨格筋の脱力、疾患、傷害、または機能不全;6)平滑筋の脱力、疾患、傷害、または機能不全;ならびに7)先天性、変性、または外傷性の脊椎円板の症状または状態(背中の痛みおよび円板の欠陥を含む)を治療するための軟部組織肥厚剤として使用することができる。さらに、このようなMDCおよびその組成物は、疾患または外傷のない軟部組織の部位、開口部、くぼみ、または空隙に容積(bulk)を付け加えることによって、傷害に関連しない軟部組織を増大するために(例えば、ひだを「平らにする」または切除するために)使用することができる。MDCの複数回の投与および連続的な投与もまた本発明に含まれる。
【0032】
MDCに基づく治療のために、骨格筋外植片は、好ましくは、自己または異種(すなわち、同種異系)のヒトまたは動物供給源から得られる。自己の動物またはヒト供給源が好ましいが、多くの場合、同種異系筋肉由来幹細胞が使用に非常に適している。次いで、MDC組成物が本明細書に記載のように調製および単離される。本発明によるMDCおよび/またはMDC含有組成物をヒトまたは動物レシピエントに導入または移植するために、単核筋肉細胞の懸濁液が調製される。このような懸濁液は、生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤に溶解した本発明の筋肉由来前駆細胞の濃縮物を含む。例えば、被検体に投与するためのMDC懸濁液は、ウシ胎仔血清の代替として被検体の血清を含むように改変された滅菌完全培地溶液1mlにつき108〜109個の細胞を含んでもよい。または、MDC懸濁液は、凍結保存液(セロックス ラボラトリーズ(Celox Laboratories)、St.Paul、MN)などの血清を含まない滅菌溶液でもよい。次いで、MDC懸濁液は、例えば、注射によって、1つまたはそれ以上のドナー組織部位に導入することができる。
【0033】
説明された細胞は、生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む薬学的または生理学的に許容される製剤または組成物として投与し、ヒトおよび非ヒト動物を含む目的のレシピエント生物の組織に投与することができる。MDC含有組成物は、細胞を適切な液体または溶液(例えば、滅菌生理食塩水または他の生理学的に許容される注射可能な水溶液)に再懸濁することによって調製することができる。このような組成物において使用しようとする成分の量は当業者によって日常的に決定することができる。
【0034】
MDCまたはその組成物は、MDC懸濁液を吸収材料または付着材料(すなわち、コラーゲンスポンジマトリックス)の上に配置し、MDC含有材料を目的の部位の中にまたは目的の部位の上に挿入することによって投与することができる。または、MDCは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、および胸骨内注射を含む非経口注射経路によって投与することができる。他の投与方法として、鼻腔内、クモ膜下、皮内、経皮、腸内、および舌下が挙げられるが、これに限定されない。本発明の1つの態様において、MDC投与は内視鏡手術によって行うことができる。
【0035】
注射投与のために、組成物は滅菌された溶液もしくは懸濁液に溶解するか、または薬学的および生理学的に許容される水性もしくは油性ビヒクルに再懸濁することができる。ビヒクルは、防腐剤、安定剤、および溶液または懸濁液をレシピエントの体液(すなわち、血液)と等張にするための材料を含んでもよい。使用に適した賦形剤の限定しない例として、水、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)、0.15M塩化ナトリウム水溶液、デキストロース、グリセロール、希エタノールなど、およびその混合物が挙げられる。例示的な安定剤は、ポリエチレングリコール、タンパク質、糖類、アミノ酸、無機酸、および有機酸であり、単独でまたは混合物として使用してもよい。使用される量または分量ならびに投与経路は個々に決定され、同様の種類の用途または指示で用いられる、当業者に周知の量および指示に対応する。
【0036】
移植の成果を最高に高めるために、ドナーとレシピエントの間でのできる限り最も近い免疫学的一致が望ましい。自己供給源が入手できない場合、入手可能な最も近い一致を確かめるために、ドナーおよびレシピエントのクラスIおよびクラスII組織適合抗原を分析することができる。これによって免疫拒絶が最小限になるか、または無くなり、免疫抑制療法または免疫調節療法が少しで済むようになる。必要に応じて、移植処置の前、間、および/または後に、免疫抑制療法または免疫調節療法を開始することができる。例えば、シクロスポリンAまたは他の免疫抑制薬を移植レシピエントに投与することができる。免疫寛容もまた、当技術分野において周知の代替法によって移植前に誘導することができる(D.Jワット(Watt)ら、1984、Clin.Exp.Immunol.55:419;D.ファウストマン(Faustman)ら、1991、Science 252:1701)。
【0037】
本発明と一致して、MDCは、骨、上皮組織(すなわち、皮膚、管腔など)、結合組織(すなわち、脂肪、軟骨、靭帯、リンパなど)、筋組織(すなわち、骨格筋/横紋筋または平滑筋)、ならびに様々な器官組織(例えば、消化器系に関連する器官(すなわち、口腔、舌、食道、胃、肝臓、膵臓、胆嚢、腸、肛門など)、心臓血管系に関連する器官(すなわち、心臓、静脈、動脈、毛細血管など)、呼吸器系に関連する器官(すなわち、肺、気管など)、生殖器系に関連する器官(すなわち、精管、陰嚢、精巣、陰茎、ファローピウス管、膣、陰核、子宮、乳房、卵巣、外陰など)、泌尿器系に関連する器官(すなわち、膀胱、尿道、尿管、腎臓など)、および神経系に関連する器官(すなわち、脳、脊髄、神経など))を含む体組織に投与することができる。
【0038】
MDC懸濁液中の細胞数および投与方法は、治療される部位および状態によって異なってもよい。限定しない例として、本発明によれば、膀胱平滑筋組織における約8mm直径の凍結損傷領域を治療するために約1〜1.5×106MDCが注射され(実施例6を参照のこと)、その一方で、約5mmの頭蓋骨欠陥領域を治療するためにコラーゲンスポンジマトリックスを介して約0.5〜1.0×106MDCが投与される(実施例9を参照のこと)。本明細書に開示される実施例と一致して、当業者は、各症例について決定される必要条件、制限、および/または最適化に従ってMDCに基づく治療の量および方法を調節することができる。
【0039】
皮膚の状態
本発明によるMDCおよびその組成物は、美容的処置(例えば、形成外科または老化防止処置)において軟部組織を増大するための材料としてかなり有用である。特に、このようなMDCおよびMDC含有組成物は、ヒトまたは動物被検体における様々な皮膚の状態(創傷、ひだ、しわ、非外傷起源の皮膚のくぼみ、皮膚萎縮線条、陥没した瘢痕、尋常性座瘡の傷跡、および唇の形成不全が挙げられるが、これに限定されない)を治療するために使用することができる。より詳細には、本発明のMDCおよび組成物は、顔(特に、眼の周囲の領域)のひだ、しわ、または皮膚のくぼみを治療するために使用することができる。皮膚の状態を治療するために、MDCは本明細書に開示されるように調製され、次いで、欠陥を充填、肥厚、または修復するために、例えば、注射によって皮膚に皮下投与または皮内投与される。必要に応じて、深い皮膚のくぼみまたは欠陥ならびに表面のくぼみまたは欠陥を修復するように、導入されるMDCの数が調節される。例えば、約5mmの皮膚領域を増大するために、約1〜1.5×106MDCが用いられる(実施例3を参照のこと)。
【0040】
管腔の状態
別の態様において、本発明によるMDCおよびその組成物は、動物またはヒトを含む哺乳動物被検体における管腔の状態の治療剤としてさらに有用である。特に、筋肉由来前駆細胞は、体内の様々な生物学的管腔または空隙を完全にまたは部分的にブロック、強化、拡大、密閉、修復、肥厚、または充填するために用いられる。管腔として血管、腸、胃、食道、尿道、膣、ファローピウス管、精管、および気管が挙げられるが、これに限定されない。空隙として、様々な組織創傷(すなわち、外傷による筋肉および軟部組織容積の喪失;発射物の貫通による軟部組織の破壊(例えば、刺創または射創);疾患による軟部組織の喪失または組織の外科的除去による組織死(乳癌の乳房切除術後の乳房組織の喪失もしくは肉腫などを治療するための外科手術後の筋組織の喪失を含む)、動物またはヒトを含む哺乳動物の体内に存在し得る障害、亀裂、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、および他の望ましくないまたは好ましくないくぼみまたは開口部が挙げられ得るが、これに限定されない。管腔の状態を治療するために、MDCは本明細書に開示されるように調製され、次いで、空隙を充填または修復するために、例えば、注射または静脈内送達によって管腔組織に投与される。必要に応じて、軟部組織環境における大きな空隙または小さな空隙を修復するように、導入されるMDCの数が調節される。
【0041】
括約筋の状態
本発明によるMDCおよびその組成物はまた、動物またはヒトを含む哺乳動物において括約筋の傷害、脱力、疾患、または機能不全を治療するために使用することができる。特に、MDCは、食道括約筋、肛門括約筋、噴門括約筋、幽門括約筋、および尿道括約筋の組織を増大するために使用される。さらに詳細には、本発明は、胃食道逆流の症状、尿失禁、および大便失禁に対する軟部組織増大治療を提供する。括約筋欠陥を治療するために、MDCは本明細書に開示されるように調製され、次いで、さらなる容積、充填、または支持体を提供するために、例えば、注射によって括約筋組織に投与される。必要に応じて、様々な量の肥厚材料を生じるように、導入されるMDCの数が調節される。例えば、約5mmの胃食道接合部領域または約5〜10mmの肛門括約筋領域を増大するために、約1〜1.5×106MDCが用いられる(実施例4を参照のこと)。
【0042】
筋肉の増大および収縮性
本発明のさらに別の態様において、ヒトまたは動物被検体における筋肉の状態を治療するためにMDCおよびその組成物が用いられる。特に、MDCは、傷害、疾患、不活動性、または酸素欠乏もしくは外科手術による外傷により引き起こされる脱力または機能不全を治療するために骨格筋または平滑筋を増大するために使用することができる。さらに詳細には、本発明は、スポーツ関連傷害などの骨格筋の脱力または機能不全に対する治療を提供する。本発明はまた、心不全または心筋梗塞関連傷害などの平滑筋の疾患または機能不全に対する治療を提供する。
【0043】
筋肉の増大または筋肉に関連した状態の治療のために、MDCは前記のように調製され、さらなる容積、充填、または支持体を提供するために、例えば、注射によって筋組織に投与される。当業者に理解されるように、必要または要求に応じて、様々な量の肥厚材料を生じるように、導入されるMDCの数が調節される。例えば、約5mmの心臓組織領域を増大するために、約1〜1.5×106MDCが注射される(実施例7を参照のこと)。
【0044】
さらに、MDCおよびその組成物は、平滑筋組織(例えば、例として胃腸管組織、食道組織、および膀胱組織)における収縮性に影響を及ぼすために使用することができる。実際に、実施例6で証明されるように、凍結損傷を受けた膀胱組織における筋肉収縮性は、筋肉由来前駆細胞(すなわち、MDC)を導入した後に回復することが示された。従って、本発明はまた、筋肉収縮の回復および/または平滑筋収縮性問題(例えば、食道平滑筋、胃平滑筋、および腸平滑筋を含む胃腸管運動性の低下)の改善もしくは克服における本発明のMDCの使用を含む。本発明のMDCが改善、軽減、または矯正することができる状態の特定の限定しない例は、胃不全麻痺(すなわち、胃の不十分な運動性および内容排出)である。
【0045】
遺伝子操作された筋肉由来細胞
本発明の別の局面において、本発明のMDCは、1種類またはそれ以上の種類の活性生体分子をコードする核酸配列を含むように、およびこれらの生体分子(タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ホルモン、代謝産物、薬物、酵素などを含む)を発現するように遺伝子操作することができる。このようなMDCは、ヒトを含むレシピエントに対して組織適合性(自己)でもよく、非組織適合性(同種異系)でもよい。これらの細胞は、様々な治療のための(例えば、癌、移植拒絶、筋肉および神経組織の再生、糖尿病、肝不全、腎不全、神経の欠陥および疾患(例えば、パーキンソン病)などの疾患および病理の治療のための)、ならびに遺伝子産物(例えば、本明細書に記載の治療剤)を組織増大部位または空隙充填部位に送達するための長期局所送達系として働くことができる。
【0046】
レシピエントに異物として認識されない自己筋肉由来前駆細胞が本発明において好ましい。この点に関して、細胞を介した遺伝子導入または遺伝子送達に用いられるMDCを、望ましくは、主要組織適合遺伝子座(ヒトではMHCまたはHLA)に関して適合させる。このようなMHCまたはHLAが適合する細胞は自己細胞でもよい。または、このような細胞は、同一または同様のMHCまたはHLA抗原プロフィールを有する人間からの細胞でもよい。患者はまた、同種異系MHC抗原に対して寛容であってもよい。本発明はまた、米国特許5,538,722号に記載のようなMHCクラスIおよび/またはII抗原を欠く細胞の使用を含む。
【0047】
MDCは、様々な分子的技術および当業者に周知の方法(例えば、トランスフェクション、感染、または形質導入)によって遺伝子操作することができる。本明細書で使用する形質導入は、一般的に、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを細胞に導入することによって外来遺伝子または異種遺伝子を含むように遺伝子操作された細胞を意味する。トランスフェクションは、より一般的に、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる外来遺伝子を含むように遺伝子操作された細胞を意味する。MDCは様々なベクターによってトランスフェクトまたは形質導入することができ、従って、発現産物を筋肉に導入するための遺伝子送達ビヒクルとして働くことができる。
【0048】
ウイルスベクターが好ましいが、当業者は、例えば、米国特許第5,538,722号に記載のように当技術分野において周知の方法(融合、トランスフェクション、リポソームの使用を介したリポフェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストランまたはリン酸カルシウムを用いた沈殿、核酸コーティング粒子(例えば、金粒子)を用いた微粒子銃(バイオリスティック)、マイクロインジェクションなどを含む)によって、望ましいタンパク質またはポリペプチド、サイトカインなどをコードする核酸配列を含むように細胞を遺伝子操作できることを理解するだろう。
【0049】
生理活性産物を発現するために異種(すなわち、外来)核酸(DNAまたはRNA)を筋肉細胞に導入するためのベクターが当技術分野において周知である。このようなベクターは、プロモーター配列(好ましくは、細胞特異的であり、発現しようとする配列の上流に位置するプロモーター)を有する。ベクターはまた、選択的に、ベクターに含まれる核酸配列の成功したトランスフェクションおよび発現の指標として発現するための1つまたはそれ以上の発現可能なマーカー遺伝子を含んでもよい。
【0050】
本発明の筋肉由来細胞のトランスフェクションまたは感染のためのビヒクルまたはベクター構築物の例示的な例として、複製欠損ウイルスベクター、DNAウイルスまたはRNAウイルス(レトロウイルス)ベクター(例えば、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクター)が挙げられる。アデノ随伴ウイルスベクターは一本鎖であり、複数コピーの核酸を細胞の核に効率的に送達するのを可能にする。アデノウイルスベクターが好ましい。このベクターは、通常、原核生物DNAを実質的に含まず、多数の異なる機能的核酸配列を含むことができる。このような機能的配列の例として、筋肉細胞において活発なプロモーター(例えば、強力なプロモーター、誘導性プロモーターなど)およびエンハンサーを含む、転写開始調節配列および転写終結調節配列ならびに翻訳開始調節配列および翻訳終結調節配列を含むポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)配列が挙げられる。
【0051】
機能的配列の一部として、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ポリヌクレオチド配列)も含まれる。部位特異的組み込みのために隣接配列も含んでもよい。ある場合では、5'隣接配列が相同組換えを可能にし、従って、一例として、誘導性転写または非誘導性転写が転写レベルの増加または減少をもたらすように転写開始領域の状態を変える。
【0052】
一般的に、筋肉由来前駆細胞により発現されることが所望される核酸配列は、筋肉由来前駆細胞にとって異物であり、例えば、望ましいタンパク質またはポリペプチド産物をコードする、構造遺伝子、またはその遺伝子の機能的断片、セグメント、もしくは一部の核酸配列である。コードされ、発現される産物は細胞内にあってもよく(すなわち、細胞の細胞質、核、細胞小器官に保持される)、細胞によって分泌されてもよい。分泌のために、構造遺伝子に存在する天然のシグナル配列が保持されてもよく、構造遺伝子に天然に存在しないシグナル配列が用いられてもよい。ポリペプチドまたはペプチドが、より大きなタンパク質の断片である場合、分泌およびプロセシング部位でのプロセシングの際に望ましいタンパク質が天然配列を有するように、シグナル配列を作成してもよい。本発明による使用のための目的の遺伝子の例として、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子、およびプログラム細胞死因子をコードする遺伝子が挙げられる。特定の例として、BMP-2(rhBMP-2)、IL-1Ra、第IX因子、およびコネクシン43をコードする遺伝子が挙げられるが、これに限定されない。
【0053】
前記のように、ベクター構築物を含む細胞の選択のためにマーカーが存在してもよい。マーカーは誘導性遺伝子でも非誘導性遺伝子でもよく、一般的に、それぞれ誘導下でまたは誘導なしで正の選択を可能にする。一般的に用いられるマーカー遺伝子の例として、ネオマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グルタミン合成酵素などが挙げられる。
【0054】
使用されるベクターはまた、一般的に、当業者が日常的に使用するような複製起点および宿主細胞での複製に必要な他の遺伝子を含む。一例として、特定のウイルスによってコードされる複製起点および複製に関連する任意のタンパク質を含む複製系が構築物の一部として含まれてもよい。複製系は、複製に必要な産物をコードする遺伝子が筋肉由来細胞を最終的に形質転換しないように選択しなければならない。このような複製系は、複製欠損アデノウイルス(例えば、アクサジ(Acsadi)ら、1994、Hum.Mol.Genet.3:579-584に記載のように構築される)およびエプスタインバーウイルスによって代表される。複製欠損ベクター(特に、複製欠損レトロウイルスベクター)の例は、プライス(Price)ら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84:156およびサネス(Sanes)ら、1986、EMBO J.、5:3133に記載のBAGである。最終的な遺伝子構築物は、目的の1つまたはそれ以上の遺伝子(例えば、生理活性代謝分子をコードする遺伝子)を含んでもよいことが理解されると思われる。さらに、当業者に周知であり、当業者によって実施される方法およびプロトコールを用いて、cDNA、合成的に作成されたDNA、または染色体DNAを使用してもよい。
【0055】
所望であれば、細胞をインビボで注射する前に細胞を遺伝子操作するために感染性複製欠損ウイルスベクターを使用してもよい。これに関して、ベクターは、両栄養性パッケージング用のレトロウイルス産生細胞に導入することができる。筋肉由来前駆細胞が隣接領域に自然に広がれば、目的の部位の中へ、または目的の部位でたくさん注射しないで済むようになる。
【0056】
別の局面において、本発明は、望ましい遺伝子産物をコードする異種遺伝子を含むように操作されたアデノウイルスベクターを用いてウイルス形質導入されたMDC(例えば、初期前駆筋肉細胞)を用いた、ヒトを含むレシピエント哺乳動物宿主の細胞および組織へのエクスビボ遺伝子送達を提供する。このようなエクスビボアプローチは、直接遺伝子導入法より優れた効率的なウイルス遺伝子導入の利益をもたらす。このエクスビボ手順は、筋組織の単離細胞からの筋肉由来前駆細胞の使用を伴う。筋肉由来前駆細胞供給源として役立つ筋肉生検材料は、傷害部位から、または臨床外科医からさらに容易に得ることができる別の領域から得ることができる。
【0057】
本発明によれば、当技術分野において周知の様々な手順(例えば、組織培地中での限界希釈培養)を用いて、筋肉由来前駆細胞(すなわち、PP6細胞)集団からクローン分離株を入手できることが理解されると思われる。クローン分離株は、1個単一の細胞に由来する遺伝的に同一の細胞を含む。さらに、クローン分離株は、前記のFACS分析、その後に、クローン分離された細胞株を樹立するためにウェル1個につき1個の細胞を得るような限界希釈を用いて得ることができる。PP6細胞集団から得られるクローン分離株の一例は、実施例9で述べられるmc13である。好ましくは、MDCクローン分離株は、本発明の方法において、ならびに1種類またはそれ以上の種類の生理活性分子を発現するための遺伝子操作に、または遺伝子置換療法において用いられる。
【0058】
最初に、望ましい遺伝子産物をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む操作されたウイルスベクターをMDCに感染させ、MDCを、生理学的に許容される担体または賦形剤(例えば、食塩水またはリン酸緩衝食塩水)に懸濁し、次いで、宿主の適切な部位に投与する。本発明と一致して、MDCは、骨、上皮組織、結合組織、筋組織、および様々な器官組織(例えば、前記のような消化器系、心臓血管系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系、および神経系に関連する器官)を含む体組織に投与することができる。望ましい遺伝子産物は感染細胞によって発現され、従って、遺伝子産物が宿主に導入される。導入および発現された遺伝子産物は、宿主において長期生存能を有する本発明のMDCによって長期間にわたって発現されるため、傷害、機能不全、または疾患を治療、修復、または改善するために使用することができる。
【0059】
筋芽細胞を介した遺伝子療法の動物モデル研究において、筋肉酵素欠陥の部分的な矯正のために筋肉100mgにつき106個の筋芽細胞の埋め込みが必要とされた(J.E.モルガン(Morgan)ら、1988、J.Nerve.Sci.86:137;T.A.パートリッジら、1989、Nature 337:176を参照のこと)。このデータから推測すると、遺伝子療法のために70kgの人間につき、生理学的に適合する培地に懸濁した約1012個のMDCを筋組織に移植することができる。この数の本発明のMDCは、ヒト供給源からの1つの骨格筋生検材料100mgから生成することができる(以下を参照のこと)。特定の傷害部位の治療のために、所定の組織または傷害部位への遺伝子操作MDCの注射液は、溶液または懸濁液に溶解された治療有効量の細胞(好ましくは、治療しようとする組織1cm3につき、生理学的に許容される培地に溶解された約105〜106個の細胞)を含む。
【0060】
同種異系筋肉由来幹細胞は効果的な細胞移植をもたらす
本発明の別の局面において、記載のような後期プレプレート(例えば、PP5-6)のMDSCを非自己(同種異系)宿主に注射することによって、細胞が効率的に移植される。例えば、注射の30日後に宿主筋肉において、多数の細胞を含む同種異系移植片が観察された(例えば、3×105個の非宿主起源の筋肉由来幹細胞を注射した後に、2000個を超えるジストロフィン+筋原線維が宿主筋肉で見出された)(実施例10)。この結果から、注射されたMDSCは、注射後の一般的に不十分な拡散および悪い生存率を回避しただけでなく、 (例えば、異なるマウス系統のように、宿主と起源が異なる様々な移植ドナーMDSC間での細胞移植でよく観察される) 宿主筋肉における免疫拒絶を回避したことも分かる。この結果から、非自己筋肉由来幹細胞は宿主の患部筋肉における細胞療法の効率を著しく改善したことが証明された。さらに、MDSCは、免疫寛容(immunoprivileged)となっていると考えられる。後期プレプレーティング(例えば、PP5または6)の同種異系MDSC細胞は、異なる系統の宿主動物に注射または移植された場合、初期プレプレート(例えば、PP1-2またはPP1-4)の非幹細胞より10倍以上長く生き残る。
【0061】
表1は、mdx宿主マウスに移植された正常なMDSC[EP]およびMDSC[LP]細胞の使用を比較した実施例10および図17A-17Fに記載の結果を示す。表1のデータは、MDSC[EP]またはMDSC[LP]幹細胞が注射されたmdx筋肉において見出されたジストロフィン陽性(ジストロフィン+)筋原線維の数を示す。
【0062】
(表1)
3〜6個の筋肉/群;M=平均;SD=標準偏差
【0063】
後期プレプレート細胞のMDSCの免疫寛容状態は、MDSCが末梢注射された場合に胸腺に移動することができる、および胸腺に移動することを示す免疫組織化学結果(デスミン染色)によって裏付けられた。その後、注射されたMDSCはTリンパ球に分化し、キメラ寛容を誘導する可能性がある(例えば、図19--末梢MDSC注射後の陽性デスミン胸腺染色)。
【0064】
さらに、MDSC[EP]と比較して、MDSC[LP]の中には、宿主動物に注射された後に成熟筋肉細胞または異なる系統に分化できるものだけでなく、宿主筋肉に注射された場合に衛星細胞に分化できるものもある。このような場合、MDSC[LP]細胞集団は、筋肉に、ならびに衛星細胞の部位である筋原線維基底膜に局在する。MDSC[LP]に由来し、筋原線維基底膜に局在する細胞は、時間が経つにつれてM-カドヘリン陽性となる。これらの部位で新たに生じた衛星細胞は、例えば、宿主筋原線維が死んだ場合に新たな筋原線維を形成することができる。理論に拘束されるものではないが、筋原線維基底膜に移動するMDSC[LP]は、MDSC[LP]の衛星細胞への発生を引き起こす、この部位でのおよびこの部位の周囲のシグナルまたは因子に応答するかもしれない。従って、MDSC[LP]注射は、衛星細胞が存在および発生する宿主筋肉部位で衛星細胞を形成する、将来持続する筋肉前駆細胞集団を供給する手段となる。
【0065】
本発明の別の局面によれば、ドナー-宿主不適合による拒絶問題が最小限で、または拒絶問題なしで、適切なガイドラインならびに承認された条件および規制の下で移植手法および治療においてヒト胎児または胚のMDSCを使用することができる。例えば、注射後2週間を超えてSCIDマウスにおいて存続できたように(図18Aおよび18B)、胎児足筋肉由来ヒトMDSCは免疫寛容となっており、高レベルの生存能を示すことが見出された。従って、本発明によれば、かつ適切なガイドライン、規制、および条件の下で、例えば、本明細書に記載のMDSC注射または移植の対象となる治療のために、銀行に預けられているヒト胎児MDSCを使用し、任意の患者の組織または器官に注射することができる。
【実施例】
【0066】
本明細書に示す以下の実施例は、本発明を実施する様々な局面を例示および例証することが意図され、どのようにも、本発明を限定することが意図されない。
【0067】
実施例1:MDCの濃縮、単離、および分析
MDCの濃縮および単離
MDCは、チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号に記載のように調製した。筋肉外植片は、多数の供給源(すなわち、3週齢のmdx(ジストロフィー)マウス(C57BL/10ScSn mdx/mdx、ジャクソン研究所(Jackson Laboratories))、4〜6週齢の正常雌SD(スプラーグ・ドーリー)ラット、またはSCID(重症複合免疫不全症)マウス)の後足から得た。各動物供給源からの筋組織を解剖して、骨を取り出し、切り刻んでスラリーにした。次いで、スラリーを、0.2%XI型コラゲナーゼ、ジスパーゼ(グレードII、240単位)、および0.1%トリプシンとの37℃で1時間の連続インキュベーションによって消化した。結果として生じた細胞懸濁液を18、20、および22ゲージ針に通し、3000rpmで5分間遠心分離した。その後、細胞を増殖培地(10%ウシ胎仔血清、10%ウマ血清、0.5%ニワトリ胚抽出物、および2%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM)に懸濁した。次いで、細胞を、コラーゲンコーティングフラスコにプレプレーテイングした(チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号)。約1時間後、上清をフラスコから取り出し、新鮮なコラーゲンコーティングフラスコに再プレーテイングした。この1時間インキュベーションで速やかに付着した細胞は大部分が線維芽細胞であった(Z.クー(Qu)ら、前記;チャンスロールらの米国特許出願第09/302,896号)。細胞の30〜40%が各フラスコに付着した後に、上清を取り出し、再プレーテイングした。約5〜6回の連続プレーティングの後、培養物にはPP6細胞と呼ばれる小さな丸い細胞が豊富にあった。PP6細胞を出発細胞集団から単離し、さらなる研究に使用した。初期プレーティングにおいて単離された付着細胞を一緒にプールし、PP1-4細胞と名付けた。
【0068】
mdxPP1-4、mdxPP6、正常PP6、および線維芽細胞集団を、細胞マーカー発現についての免疫組織化学分析によって調べた。この分析の結果を表2に示す。
【0069】
(表2) PP1-4およびPP6細胞集団におて発現する細胞マーカー
mdxPP1-4、mdxPP6、正常PP6、および線維芽細胞をプレプレーティング法によって分け、免疫組織化学分析によって調べた。「-」は細胞の2%未満が発現を示したことを示し;「(-)」;「-/+」は細胞の5〜50%が発現を示したことを示し;「+/-」は細胞の約40〜80%が発現を示したことを示し;「+」は細胞の>95%が発現を示したことを示し;「nor」は正常細胞を示し;「na」は免疫組織化学データが入手できないことを示す。
【0070】
mdxマウスおよび正常マウスは両方とも、このアッセイにおいて試験した全細胞マーカーの同一分布を示したことに留意のこと。従って、mdx変異の存在は、単離されたPP6筋肉細胞由来集団の細胞マーカー発現に影響を及ぼさない。
【0071】
MDCを、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10%HS(ウマ血清)、0.5%ニワトリ胚抽出物、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を含む増殖培地中で、または2%ウシ胎仔血清および1%抗生物質溶液を添加したDMEMを含む融合培地中で増殖させた。全ての培地補給品はギブコ ラボラトリーズ(Gibco Laboratories)(Grand Island、NY)から購入した。
【0072】
実施例2:MDCベクターおよびトランスフェクション
レトロウイルスおよびアデノウイルスベクター
MDC実験のために、MFG-NB(N.フェリー(Ferry)ら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-81)レトロウイルスベクターを使用した。このベクターは、長末端反復配列(LTR)から転写されるシミアンウイルス(SV40)ラージT抗原からクローニングされた核局在配列を含む改変LacZ遺伝子(NLS-LacZ)を含んでいる。以前に述べられたように(J.C.ファンデュテコム(van Deutekom)ら、1998、Neuromuscul.Disord.8:135-48)、このレトロウイルスストックを増殖および調製した。レトロウイルスの力価を1×107〜1×109cfu/mlにした。
【0073】
アデノウイルスベクターも使用した。このベクターは、ヒトサイトメガロウイルス(HuCMV)プロモーターの制御下にLacZ遺伝子を含んでいた(J.フアード(Huard)ら、1994、Hum Gene Ther 5:949-58)。E1-E3欠失組換えアデノウイルスは、I.コベスディ(Kovesdi)博士(GeneVec Inc.、Rockville、MD)から入手した。
【0074】
MDCのウイルス形質導入
ウイルス形質導入のために、MDCをT75フラスコに1〜1.5×106の密度でプレーテイングした。PP6 MDCをHBSS(ハンクス液)で洗浄し、8μg/mlポリブレン(Polybrene)(商標)(アボット ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)、Chicago、IL)を含むDMEM 5mlに溶解したレトロウイルス(1×107〜1×109cfu/ml)またはアデノウイルス(1×109cfu/ml)懸濁液と37℃で24時間インキュベートした。ウイルス形質導入されたMDCを、増殖培地10ml中で37℃で2時間増殖させた。次いで、MDCをHBSSで洗浄し、0.25%トリプシンで1分間、酵素消化した。処理されたウイルス形質導入されたMDCを3,500rpmで5分間遠心分離し、ペレットをHBSS 20μlに再懸濁した。
【0075】
実施例3:皮膚の軟部組織増大
MDC注射およびコラーゲン注射
SDラットに標準的な方法を用いてハロタンで麻酔をかけ、手術部位をベタジン(Betadine)(登録商標)液で洗浄することによって外科手術の準備をした。ハミルトン微量注射器を用いて、下腹部の皮膚に、HBSSで溶解したMDC懸濁液10マイクロリットル(μl)(約1〜1.5×106細胞)、市販ウシコラーゲン(コンティゲン(Contigen)(商標);C.R.Bard、Covington、GA)10μl、または滅菌食塩水10μlを注射した。注射の5日後、2週間後、および4週間後に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。組織化学分析は、ヘマトキシリン染色、エオシン染色、またはトリクローム染色を含んだ。
【0076】
結果は、MDCが皮膚組織への注射の少なくとも4週間後まで生存したことを証明し、注射部位での組織炎症の証拠はなかった(図1D〜1F)。対照的に、皮膚組織への注射の2週間後、コラーゲンは見えなかった(図1Bおよび1C)。従って、MDC組成物は、例えば、美容的および審美的な用途または外科手術に使用するための皮膚増大材料として使用することができる。移植された筋肉細胞は生存するために、付着する周囲宿主筋繊維を必要とすると以前に考えられていたので、これは予想外の発見である。非筋組織への注射後の本発明のMDCの生存は実施例8および9においてさらに証明される。
【0077】
実施例4:胃食道接合部および肛門括約筋の軟部組織増大
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。胃食道接合部および肛門括約筋を曝露するために腹部正中切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、軟部組織に、HBSSに溶解した筋肉由来前駆細胞懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。注射の3日後、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDC組成物が、胃食道逆流または大便失禁の症状または状態を治療するための食道括約筋および肛門括約筋肥厚材料として使用できることを証明している(図2Aおよび2B)。
【0078】
実施例5:膀胱尿管接合部の軟部組織増大
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。膀胱尿管接合部を曝露するために腹部正中切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、組織に、HBSSに溶解したMDC懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。注射の3日後、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDCに基づく組成物が、膀胱尿管逆流の症状または状態を治療するための尿管膀胱増大材料として使用できることを証明している(図3Aおよび3B)。
【0079】
実施例6:凍結損傷した膀胱組織のMDC治療
凍結傷害およびMDC移植
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。膀胱および尿道を曝露するために下部正中切開を行った。次いで、膀胱を食塩水1mlで満たした。ドライアイスで冷却した8mm直径アルミニウム棒を用いて凍結損傷を行った。冷却した消息子を膀胱壁の一面に15秒間または30秒間当てた(それぞれ、「穏やかな」損傷または「厳しい」損傷と呼ぶ)。凍結傷害直後、厳しい損傷群に本発明の筋肉由来細胞(HBSS 15μlに溶解した1〜1.5×106の細胞)を注射したのに対して、対照の厳しい損傷群にHBSS(15μl)を注射した(n=3/群)。凍結傷害の1週間後、他の穏やかな損傷群および厳しい損傷群に、HBSS 50μlに溶解したMDC懸濁液(2〜3×106細胞)を注射したのに対して、対照の穏やかな損傷群および厳しい損傷群にHBSS 50μlを注射した(n=4/群)。各群について、30ゲージ針およびハミルトン微量注射器を用いて、傷害を受けた領域の中心に注射を行った。
【0080】
平滑筋アクチン(α-SMアクチン)の免疫組織化学染色
免疫組織化学分析用の試料を調製するために、組織または細胞試料を冷アセトンで-20℃で2分間固定し、5%HSで1時間ブロッキングした。試料を、加湿チャンバー内で室温で一晩、マウスモノクローナル抗平滑筋アクチン一次抗体(カタログ番号F-3777;シグマケミカルカンパニー(Sigma Chemical Co.)、St.Louis、MO)(PBS(pH7.4)で1:400に希釈)とインキュベートした。次いで、試料をPBSで3回洗浄し、Cy3蛍光色素結合抗マウスIgG二次抗体(シグマケミカルカンパニー)(PBS(pH7.4)で1:200に希釈)とインキュベートした。
【0081】
ファストミオシン(fast myosin)重鎖(ファストMyHC)の免疫組織化学染色
組織または細胞試料を冷アセトンで-20℃で2分間固定し、5%HSで1時間ブロッキングした。次いで、試料を、加湿チャンバー内で室温で一晩、マウスモノクローナル抗骨格ミオシン(ファスト)一次抗体(カタログ番号M-4276;シグマケミカルカンパニー)(PBS(pH7.4)で1:400に希釈)とインキュベートした。次いで、試料をPBSで3回洗浄し、Cy3結合抗マウスIgG二次抗体(シグマケミカルカンパニー)(PBS(pH7.4)で1:200に希釈)とインキュベートした。
【0082】
細胞培養
実施例1に記載のように調製した筋肉由来前駆細胞を、35mmコラーゲンコーティングディッシュ内の増殖培地にプレーテイングした。24時間後、増殖培地を融合培地と交換した。細胞を融合培地中で維持し、MDCが筋管に分化するまで培地を毎日交換した。
【0083】
収縮性研究
MDC注射の2週間後、動物を安楽死させ、膀胱細片を調製するために使用した。2本の細片を各膀胱から調製し、膀胱の円周に沿うように両細片を切断した。膀胱細片を組織浴に取り付け、神経収縮(20Hz、10回および80回のショック)にかけ、以下に記載のように記録および分析した。
【0084】
組織採取および組織学
SDラットを安楽死させ、注射部位周囲組織の試料を取り出した。液体窒素で予め冷却した2-メチルブタンを用いて、試料を瞬間凍結した。試料の組織化学分析はヘマトキシリン染色およびエオシン染色を含んだ。試料を染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。それぞれのクライオスタット切片の厚さは10μmであった。
【0085】
膀胱平滑筋組織の電気刺激
動物を安楽死させ、素早く膀胱を取り出した。各膀胱から膀胱壁の円周をカバーする2本の細片を得た。95%O2および5%CO2を通気したクレブス液(113mmol/l NaCl、4.7mmol/l KCl、1.25mmol/l CaCl2、1.2mmol/l MgSO4、25mmol/l NaHCO3、1.2mmol KH2PO4、および11.5mmol/lグルコース)を含む5ml器官浴に、細片を取り付けた。初張力を10mNに設定し、等尺性収縮を、TBM4ひずみゲージ増幅器と連結したひずみゲージ変換器(ワールドプレシジョンインスツルメンツ(World Precision Instruments))で測定した。データ収集プログラム(Windaq、 DATAQインスツルメンツインク(DATAQ Instruments,Inc.)、Akron、OH)を用いて収縮測定値を集約した。チャンネル当たりのサンプリングレートを100Hzに設定した。計算プログラム(WindaqEx、 DATAQインスツルメンツインク)を用いて、収縮の振幅をコンピュータで計算した。20分の平衡期間後、器官浴の上部および下部にある4cm離れた2本の白金ワイヤ電極によって、電場刺激を加えた。実験の間、温度を37℃に維持した。
【0086】
膀胱平滑筋組織の化学刺激
膀胱細片を、継続時間0.25msecと最大電圧(100V)の四角波パルスで刺激し、1Hz、2Hz、5Hz、10Hz、20Hz、または40Hzで10回または80回のショックを用いて周波数応答曲線を作成した。電気刺激後、収縮を誘導するために5μM、10μM、または20μMカルバコールを膀胱細片に添加した。平行実験において、1μMアトロピンを添加し、電気刺激を前記のように加え、収縮を誘導するために50μMメチレンATPを添加した。
【0087】
神経支配の染色
平滑筋におけるMDCの再神経支配を評価するためにアセチルコリン(Ach)染色を使用した。Achは、神経終末の存在を示す神経筋接合部の染色である。MDC注射の3日後、15日後、30日後、または6ヵ月後に組織を切除し、Ach染色し、顕微鏡で観察し、写真を撮った。
【0088】
統計解析
値は平均±標準偏差として報告する。0.05未満の「P」値が統計的に有意であるとみなされた。スチューデント試験を使用した。
【0089】
MDC分化
実施例1に記載のように調製した筋肉由来前駆細胞を細胞分化について評価した。α-SMアクチンは、知られているうちで最古の平滑筋細胞表現型マーカーであり(K.M.マクフュー(McHugh)、1995、Dev.Dyn.204:278-90)、主要な筋線維芽細胞表現型マーカーである(I.ダービー(Darby)ら、1990、Lab.Invest.63:21-9)。筋肉細胞分化の間、α-SMアクチン発現は減少するのに対して、ファストMyHC発現は増加する。α-SMアクチンおよびファストMyHCマーカーを用いた、MDCで治療された膀胱組織の組織化学分析によって、凍結傷害部位への注射後にMDCが分化することが証明された。凍結損傷を受けた膀胱組織への注射の5日後に、いくつかのMDC(少なくとも20%)がα-SMアクチン染色を示す(図5B)。このことは、細胞がまだ分化していないことを示している。しかしながら、注射の6ヵ月後、α-SMアクチン染色の減少(図5F)および付随するファストMyHC染色の増加(図5l)によって示されるように、実質的に全てのMDCが筋管または筋原線維に分化していた。
【0090】
筋肉再神経支配
アセチルコリン(Ach)は神経筋接合部に存在するので、筋肉神経支配の指標として役立つ。Achマーカーを用いた、MDCで治療された膀胱組織の組織化学分析によって、凍結損傷部位への注射後のMDCの再神経支配が証明された。凍結損傷を受けた膀胱組織への注射の3日後、比較的低レベルのAch染色により示されるように(図6A)、注射されたMDCはわずかな神経支配しか示さない。注射の15日後に、増大したレベルのAch染色により示されるように(図6B)、増大したレベルの神経支配が観察された。注射の30日後に、神経支配がさらに増加したことを示す、さらに多くのAch染色が観察された(図6C)。注射の6ヵ月後に、低倍率で見られるMDC注射領域全体にわたるかなりのAch染色により示されるように(図6D)、広範囲の神経支配が観察された。これらの結果から、骨盤神経が膀胱のMDC注射領域内に成長していることが分かり、MDCは注射組織の収縮性および機能を改善できることが示唆される。
【0091】
収縮性生理学研究
注射されたMDCが治療された膀胱組織の機能を改善したかどうかを確かめるために、いくつかの収縮性研究をやり遂げた(前記を参照のこと)。表3は、凍結傷害後にMDCを注射した、またはMDCを注射しなかった膀胱筋肉の収縮パラメータを示すデータを示す。
【0092】
(表3) 凍結傷害後の膀胱筋肉の収縮パラメータ
値は平均±標準偏差である。統計解析のために、対照群およびMDC注射群に対してスチューデント試験を行った。群番号1:凍結傷害直後にMDCを注射した厳しい損傷群。群番号2:凍結損傷の1週間後にMDCを注射した穏やかな損傷群。群番号3:凍結損傷の1週間後にMDCを注射した厳しい損傷群。群番号4:正常な膀胱組織。
【0093】
凍結傷害直後にMDCを注射した厳しい損傷群(群1)は、対照(偽)群と同様の収縮性を示した(群1、表3の偽およびMDC横列に示される収縮性レベルを比較のこと)。しかしながら、凍結損傷の1週間後にMDCを注射した厳しい損傷群(群3)は、対照群と比較して増加した収縮振幅(20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで、それぞれ対照膀胱の145%および161%)を示した(表3の偽およびMDC横列に示されるアステリスクで示した収縮振幅レベルを比較のこと)。同様に、凍結損傷の1週間後にMDCを注射した厳しい損傷群(群3)は、対照群と比較して増加した収縮速度(20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで、それぞれ対照細片の119%および121%)を示した(群3、表3の偽およびMDC横列に示される収縮速度値を比較のこと)。凍結損傷の1週間後にMDCを注射した穏やかな損傷群(群2)もまた、対照群と比較して増加した収縮振幅および収縮速度を示した(群2、表3の偽およびMDC横列に示される収縮レベルを比較のこと)。これらの研究の結果から、MDC注射は凍結損傷を受けた膀胱筋組織の収縮性を回復させることができ、MDCに基づく組成物は尿失禁の治療に使用できることが分かる。
【0094】
実施例7:心筋の軟部組織増大
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。心臓を曝露するために胸部切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、心室壁に、HBSSで溶解したMDC懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。3日目に、各注射部位周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDC組成物が、心不全または心筋梗塞に派生した傷害または脱力を治療するための心筋軟部組織増大材料として使用できることを証明している(図7Aおよび7B)。
【0095】
実施例8:肝臓、脾臓、および脊髄組織へのMDC注射
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。肝臓および脾臓を曝露するために腹部正中切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、両部位に、HBSSに溶解したMDC懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。同時に、脊髄を曝露するために背部正中切開および部分的な椎弓切除を行った。次いで、肝臓および脾臓組織に行ったように、レベルT10の脊髄組織に、HBSSに溶解したMDC懸濁液を注射した。4日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験は、MDC組成物が、様々な肝臓、脾臓、および脊髄の傷害、疾患、または機能不全を治療するための肝臓、脾臓、および脊髄の軟部組織増大材料として使用できることを示している(図8A-8B、9A-9B、および10A-10B)。
【0096】
実施例9:骨欠陥のMDC治療
筋肉由来細胞の単離
MDCは、実施例1に記載のようにmdxマウスから得た。
【0097】
PP6筋肉由来前駆細胞のクローン単離
PP6細胞集団からクローンを単離するために、PP6細胞を、LacZ、ミニジストロフィン、およびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした。簡単に述べると、pPGK-NEOからのネオマイシン耐性遺伝子を含むSmaI/SalI断片を、LacZ遺伝子を含むplEPlacZプラスミドのSmaI/SalI部位に挿入して、pNEOlacZプラスミドを作成した。ジストロフィン遺伝子の短縮型を含むDysM3からのXhoI/SalI断片(K.ユアサ(Yuasa)ら、1998、FEBS Lett.425:329-336;タケダ(Takeda)博士、Japanから寄贈)をpNEOlacZのSalI部位に挿入して、ミニジストロフィン、LacZ、およびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを作成した。トランスフェクション前に、このプラスミドをSalI消化で線状化した。
【0098】
リポフェクタミン試薬(ギブコBRL)を用い、製造業者の説明書に従って、PP6細胞を、ミニジストロフィン、LacZ、およびネオマイシン耐性遺伝子を含む線状プラスミド10μgでトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、3000μg/mlのG418(ギブコBRL)を用いて細胞を選択し、10日で別個のクローンが現れた。次いで、大量のトランスフェクト細胞を得るためにクローンを単離および増殖し、次いで、LacZ発現について試験した。これらのPP6由来クローンの1つmc13をさらなる研究に使用した。
【0099】
免疫組織化学
PP6、mc13、およびマウス線維芽細胞を6ウェル培養皿にプレーテイングし、冷メタノールで1分間固定した。次いで、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、5%ウマ血清で室温で1時間ブロックした。一次抗体を以下のようにPBSで希釈した:抗デスミン(1:100、シグマ)、ビオチン化抗マウスCD34(1:200、ファーミンゲン(Pharmingen))、ウサギ抗マウスBcl-2(1:500、ファーミンゲン)、ウサギ抗マウスM-カドヘリン(1:50、A.ウェリング(Wernig)博士から寄贈)、マウス抗マウスMyoD(1:100、ファーミンゲン)、マウス抗ラットミオゲニン(1:100、ファーミンゲン)、ウサギ抗マウスFlk-1(1:50、リサーチ ダイアグノスティクス(Research Diagnostics))、およびビオチン化Sca-1(1:100、ファーミンゲン)。細胞を一次抗体と室温で一晩インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、適切なビオチン化二次抗体と室温で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSでリンスし、次いで、Cy3蛍光色素結合ストレプトアビジン(1/300)と室温で1時間インキュベートした。次いで、細胞を蛍光顕微鏡で分析した。各マーカーについて、染色された細胞の割合を10個の無作為に選ばれた細胞視野に対して計算した。
【0100】
4週齢正常マウス(C-57BL/6J、ジャクソン研究所)からの筋肉試料の凍結切片を冷アセトンで2分間固定し、PBSで希釈した5%ウマ血清中で1時間プレインキュベートした。CD34、Bcl-2、およびIV型コラーゲンについては、以下の一次抗体を使用した:ビオチン抗マウスCD34(PBSで1:200に希釈、ファーミンゲン)、ウサギ抗マウスBcl-2(1:1000、ファーミンゲン)、およびウサギ抗マウスIV型コラーゲン(PBSで1:100に希釈、ケミコン(Chemicon))。ジストロフィン染色については、ヒツジ抗ヒトDY10抗体(PBSで1:250に希釈)を一次抗体として使用し、抗ヒツジビオチン(PBSで1:250に希釈)およびストレプトアビジン-FITC(PBSで1:250に希釈)を用いてシグナルを増幅した
【0101】
rhBMP-2による刺激、オステオカルシン染色、およびアルカリホスファターゼアッセイ
細胞を、12ウェルコラーゲンコーティングフラスコに、ウェル1個につき1〜2×104細胞の密度でトリプリケートでプレーテイングした。200ng/ml組換えヒトBMP-2(rhBMP-2)を増殖培地に添加することで、細胞を刺激した。増殖培地は、最初のプレーティングの1日後、3日後、および5日後に交換した。同時に、対照細胞群をrhBMP-2添加なしで増殖した。rhBMP-2で刺激して、またはrhBMP-2で刺激せずに6日後、細胞を、マイクロサイトメーターを用いて計数し、オステオカルシン発現およびアルカリホスファターゼ発現について分析した。オステオカルシン染色のために、細胞をヤギ抗マウスオステオカルシン抗体(PBSで1:100に希釈、ケミコン)とインキュベートした後、Cy3蛍光色素結合抗ヤギ抗体とインキュベートした。アルカリホスファターゼ活性を測定するために、細胞溶解産物を調製し、p-ニトロフェニルホスフェート(シグマ)からの無機リン酸の加水分解による試薬中での色変化を利用する市販のキットを用いて分析した。結果として生じる色変化を分光光度計で測定し、データを、106細胞に標準化された1リットル当たりのALP活性国際単位として表した。スチューデントt検定を用いて統計学的有意性を解析した(p<0.05)。
【0102】
筋形成系統および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化
筋形成
mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの後足筋肉に筋肉内注射した。注射の15日後に動物を屠殺し、注射された筋組織を凍結し、クライオスタットで切片にし、ジストロフィン(前記を参照のこと)およびLacZ発現についてアッセイした。LacZ発現を試験するために、筋肉切片を1%グルタルアルデヒドで固定し、次いで、X-gal基質(リン酸緩衝食塩水に溶解した0.4mg/ml 5-ブロモクロロ-3インドリル-β-D-ガラクトシド(ベーリンガーマンハイム(Boehringer-Mannheim))、1mM MgCl2、5mM K4Fe(CN)6、および5mM K3Fe(CN)6)と1〜3時間インキュベートした。分析前に、切片をエオシンで対比染色した。平行実験において、mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。注射の7日後に動物を屠殺し、後足を切り離し、記載のようにジストロフィンおよびβ-ガラクトシダーゼの存在についてアッセイした。
【0103】
骨形成
アデノウイルスBMP-2プラスミド(adBMP-2)を構築するために、rhBMP-2コード配列をBMP-2-125プラスミド(ジェネティクスインスティチュート(Genetics Institute)、Cambridge、MA)から切り出し、HuCMVプロモーターを含む複製欠損(E1およびE3遺伝子欠失)アデノウイルスベクターにサブクローニングした。簡単に述べると、BMP-2-125プラスミドをSalIで消化して、rhBMP-2 cDNAを含む1237塩基対断片を得た。次いで、rhBMP-2 cDNAをpAd.loxプラスミドのSalI部位に挿入し、遺伝子をHuCMVプロモーター制御下に置いた。pAd.loxとpsi-5ウイルスDNAのCRE-8細胞へのコトランスフェクションによって、組換えアデノウイルスを得た。結果として生じたadBMP-2プラスミドを、後に使用するまで-80℃で保存した。
【0104】
感染前に、mc13細胞をトリプシン処理し、マイクロサイトメーターを用いて計数した。細胞をHBSS(ギブコBRL)を用いて数回洗浄した。50感染多重度単位に相当するアデノウイルス粒子をHBSSに予め添加し、次いで、細胞の上に層状に積み重ねた。細胞を37℃で4時間インキュベートし、次いで、当量の増殖培地とインキュベートした。気密性のシリンジに取り付けた30ゲージ針を用いて、0.5〜1.0×106細胞をSCIDマウス(ジャクソン研究所)の曝露された下腿3頭筋に注射した。14〜15日で、動物にメトキシフルランで麻酔をかけ、頚部脱臼で屠殺した。後足をX線撮影で分析した。その後、下腿3頭筋を切り離し、リン酸緩衝食塩水で緩衝され、液体窒素で予め冷却された2-メチルブタンで瞬間凍結した。クライオスタット(Microm、HM 505E、フィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific))を用いて、凍結試料を5〜10μm切片に切断し、さらなる分析のために-20℃で保存した。
【0105】
RT-PCR分析
全RNAは、トライゾール(TRIzol)試薬(ライフ テクノロジーズ(Life Technologies))を用いて単離した。逆転写は、第1鎖cDNA合成用スーパースクリプト(SuperScript)(登録商標)プレアンプリフィケーション システム(Preamplification System)(ライフ テクノロジーズ)を用いて製造業者の説明書に従って行った。簡単に述べると、ランダムヘキサマー100ngを全RNA 1μgに70℃で10分間アニーリングさせ、次いで、氷上で冷却した。逆転写は、10×PCR緩衝液2μl、25 mM MgCl2 2μl、10mM dNTPミックス1μl、0.1M DTT 2μl、および200U スーパースクリプト(SuperScript)II逆転写酵素を用いて行った。反応混合物を42℃で50分間インキュベートした。
【0106】
標的のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅は、逆転写酵素反応産物2μl、 (5U)Taq DNAポリメラーゼ(ライフ テクノロジーズ) 100μl、および1.5mM MgCl2を含む反応混合物50μl中で行った。CD34 PCRプライマーはOligoソフトウェアを用いて設計し、以下の配列を有した:
他のプライマーは、以前の研究(J.ローウェデル(Rohwedel)ら、1995、Exp.Cell Res 220:92-100;D.D.コルネリソン(Cornelison)ら、1997、Dev.Biol.191:270-283)に従って設計し、以下の配列を有した:
【0107】
以下のPCRパラメータを使用した:1)94℃45秒;2)50℃60秒(CD34)または60℃60秒(ミオゲニンおよびc-met);ならびに3)72℃90秒の40サイクル。PCR産物を、アガロース-TBE-臭化エチジウムゲルで調べた。予想されるPCR産物のサイズは、147bp(CD34)、86bp(ミオゲニン)、および370bp(c-met)である。ゲノムDNA混入の可能性を排除するために、2つの対照反応をなし遂げた:1)逆転写酵素非存在下での並行した逆転写、および2)イントロンにまたがるプライマーセット(クロンテック(Clonetech))を用いたβ-アクチン増幅。
【0108】
頭蓋骨欠陥アッセイ
3匹の6〜8週齢雌SCIDマウス(ジャクソン研究所)を対照群および実験群に使用した。動物にメトキシフルランで麻酔をかけ、手術台の上にうつぶせにした。頭蓋骨を曝露するために10番ブレードを用いて頭皮を解剖し、骨膜を剥がした。歯科用バーを用いて、最小限に硬膜を貫通して、全厚約5mmの円形頭蓋骨欠陥を作成した。adBMP-2を形質導入した、またはadBMP-2を形質導入していない0.5〜1.0×106 MDCをコラーゲンスポンジマトリックス(ヘリスタット(Helistat)(商標)、コーラテックインク(Colla-Tec,Inc.))に播種し、これを頭蓋骨欠陥の中に入れた。4-0ナイロン縫合糸を用いて頭皮を閉じ、動物に餌を与え、活動を許した。14日後、動物を屠殺し、頭蓋骨標本を観察し、次いで、顕微鏡で分析した。フォンコッサ染色のために、頭蓋骨標本を4%ホルムアルデヒドで固定し、次いで、0.1M AgNO3溶液に15分間浸漬した。標本を少なくとも15分間、光に曝露し、PBSで洗浄し、次いで、観察のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0109】
Yプローブを用いた蛍光インサイチューハイブリダイゼーション
凍結切片を3:1メタノール/氷酢酸(v:v)中で10分間固定し、風乾させた。次いで、切片を、2×SSC(0.3 M NaCl、0.03Mクエン酸Na)pH7.0に溶解した70%ホルムアミド中で70℃で2分間変性した。その後、スライドを、一連のエタノール洗浄液(70%、80%、および95%)で各濃度2分間、脱水した。Y染色体特異的プローブ(Y.ファン(Fan)ら、1996、Muscle Nerve 19:853-860)を、バイオニック(BioNick)キット(ギブコBRL)を用いて製造業者の説明書に従ってビオチン化した。次いで、ビオチン化プローブを、G-50 クイックスピンカラム(Quick Spin Column)(ベーリンガー マンハイム)を用いて精製し、精製されたプローブを5ng/ml超音波処理済ニシン精子DNAと共に凍結乾燥した。ハイブリダイゼーション前に、50%ホルムアミド、1×SSC、および10%デキストラン硫酸を含む溶液にプローブを再懸濁した。75℃10分間の変性後、プローブを変性切片の上に置き、37℃で一晩ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、切片を2×SSC溶液(pH7.0)で72℃で5分間リンスした。次いで、切片を、BMS溶液(0.1M NaHCO3、0.5M NaCl、0.5%NP-40、pH8.0)でリンスした。ハイブリダイズしたプローブを、フルオレセイン標識アビジン(オンコル インク(ONCOR,Inc))を用いて検出した。核を、ベクタシールド(Vectashield)封入剤(ベクター インク(Vector,Inc))に溶解した10ng/ml臭化エチジウムで対比染色した。
【0110】
mc13細胞のマーカー分析
mc13、PP6、および線維芽細胞が発現する生化学マーカーを、RT-PCRおよび免疫組織化学を用いて分析した。表4(以下)は、mc13細胞が、幹細胞様特性を有する造血細胞のマーカーとして最近同定されたヒトKDR遺伝子のマウス相同体であるFlk-1(B.L.ツィーグラーら、前記)を発現したが、CD34もCD45も発現しなかったことを示す。しかしながら、本発明のPP6 MDCから得られた他のクローン分離株はCD34ならびに他のPP6細胞マーカーを発現した。PP6筋肉由来前駆細胞集団をクローニングし、筋肉由来前駆細胞に特徴的な細胞マーカーを発現するクローン分離株を得るために、本明細書に記載の手順を使用できることが当業者に理解されると思われる。このようなクローン分離株は本発明の方法に従って使用することができる。例えば、クローン分離株は、デスミン、CD34、およびBcl-2を含む前駆細胞マーカーを発現する。好ましくは、クローン分離株はまたSca-1およびFlk-1細胞マーカーを発現するが、CD45もc-Kit細胞マーカーも発現しない。
【0111】
(表4) mdx PP6、mdx mc13、および線維芽細胞が発現する細胞マーカー
前記のように細胞を単離し、免疫組織化学分析で調べた。「-」は、細胞の0%が発現を示したことを示す。「+」は、細胞の>98%が発現を示したことを示す。「+/-」は、細胞の40〜80%が発現を示したことを示す。「-/+」は、細胞の5〜30%が発現を示したことを示す。「na」はデータが得られないことを示す。
【0112】
CD34+細胞およびBc1-2+細胞のインビボ局在
CD34+細胞およびBcl-2+細胞のインビボでの位置を特定するために、正常マウスの下腿3頭筋からの筋組織切片を、抗CD34抗体および抗Bcl-2抗体を用いて染色した。CD34陽性細胞は小さな筋肉由来細胞集団を構成し(図12A)、これはまたデスミン陽性であった(図12B)。CD34+デスミン+細胞を抗IV型コラーゲン抗体で同時染色すると、細胞は基底膜に局在した(図12Bおよび12D)。図12A-Dの矢じりで示すように、小さな血管もまたCD34陽性およびIV型コラーゲン陽性であったが、核染色と共局在しなかった。血管内皮細胞によるCD34の発現は、以前の研究(L.フィナら、前記)において示されている。Bcl-2+デスミン+細胞が同様に特定され(図12E-12H)、基底膜内に局在した(図12Fおよび12H)。切片はまた、衛星細胞の位置を特定するためにM-カドヘリン染色した(図12l)。衛星細胞は、CD34+デスミン+細胞またはBcl-2+デスミン+細胞とほぼ同じ位置で特定された(矢印、図12l)。しかしながら、CD34またはBcl-2とM-カドヘリンを共局在させる多くの試みが失敗に終わった。これは、M-カドヘリンを発現する細胞がBcl-2もCD34も共に発現しないことを示唆している。これは、本明細書に開示されるように、PP6細胞が高レベルのCD34およびBcl-2を発現するが、極めて少ないレベルのM-カドヘリンしか発現しないことと一致している。
【0113】
骨形成系統へのクローン筋肉前駆細胞のインビトロ分化
mc13細胞を、rhBMP-2刺激による骨形成分化能について評価した。細胞を6ウェル培養皿にプレーテイングし、200ng/ml rhBMP-2の存在下または非存在下で集密状態になるまで増殖した。3〜4日以内に、rhBMP-2に曝露されたmc13細胞は、rhBMP-2に曝露されていない細胞を比較して劇的な形態学的変化を示した。rhBMP-2の非存在下では、mc13細胞は多核筋管に融合し始めた(図13A)。しかしながら、200ng/ml rhBMP-2に曝露されると、細胞は単核のままであり、融合しなかった(図13B)。細胞密度が>90%集密状態に達すると、未処理培養物は融合して複数の筋管を形成したのに対して(図13C)、処理された細胞は円形になり、肥厚した(図13D)。免疫組織化学を用いて、これらの肥大細胞のオステオカルシン発現を分析した。オステオカルシンは、骨に沈着し、骨芽細胞によって特異的に発現されるマトリックスタンパク質である。未処理群とは対照的に、rhBMP-2で処理された肥大細胞は著しいオステオカルシン発現を示した(図13E)。従って、mc13細胞は、rhBMP-2に曝露すると骨芽細胞に分化できることが示唆される。
【0114】
次いで、mc13細胞を、rhBMP-2刺激後のデスミン発現について分析した。新たに単離されたmc13細胞は均一なデスミン染色を示した(図14Aおよび14B)。rhBMP-2への曝露の6日以内に、mc13細胞の30〜40%しかデスミン染色を示さなくなった。rhBMP-2刺激の非存在下では、mc13細胞の約90〜100%がデスミン染色を示した(図14C)。この結果は、mc13細胞をrhBMP-2で刺激すると、これらの細胞の筋形成能が喪失することを示唆している。
【0115】
さらに、mc13細胞を、rhBMP-2刺激後のアルカリホスファターゼ発現について分析した。アルカリホスファターゼは、骨芽細胞分化の生化学マーカーとして使用されている(T.カタギリ(Katagiri)ら、1994、J.Cell Biol.、127:1755-1766)。図14Dに示すように、mc13細胞のアルカリホスファターゼ発現は、rhBMP-2に反応して600倍を超えて増加した。対照として使用したPP1-4細胞は、rhBMP-2に反応してアルカリホスファターゼ活性の増加を示さなかった(図14D)。ひとまとめにして考えると、これらのデータは、PP6クローン分離株の細胞(例えば、mc13細胞)がインビトロでrhBMP-2曝露に反応して筋形成マーカーを喪失し、骨形成系統に分化できることを証明している。
【0116】
筋形成系統および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化
mc13細胞がインビボで筋形成系統に分化できるかどうかを確かめるために、細胞をmdxマウスの後足筋組織に注射した。注射の15日後に動物を屠殺し、組織学分析および免疫組織化学分析のために後足を採取した。いくつかの筋原線維が、注射部位周囲の領域においてLacZ染色およびジストロフィン染色を示した(図15Aおよび15B)。このことから、mc13細胞はインビボで筋形成系統に分化し、筋肉再生を促進し、ジストロフィー筋肉におけるジストロフィンを回復できることが分かる。
【0117】
平行実験において、mc13細胞をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。注射の7日後に動物を屠殺し、組織学分析および免疫組織化学分析のために後足筋肉を採取した。いくつかの後足筋肉細胞がLacZ染色およびジストロフィン染色を示した(図15C-15D;「★」も参照のこと)。このことから、ジストロフィン発現を救出するために、mc13細胞を標的組織に全身送達できることが示唆される。
【0118】
インビボでのmc13細胞の多能性を試験するために、細胞を、rhBMP-2をコードするアデノウイルスベクター(adBMP-2)で形質導入した。次いで、adBMP-2を含むmc13細胞をSCIDマウスの後足に注射した。注射の14日後に動物を屠殺し、組織学分析および免疫組織化学分析のために後足を取り出した。adBMP-2が形質導入されたmc13細胞の酵素結合免疫測定法(ELISA)分析によって、感染細胞はrhBMP-2を産生できることが分かった。注射されたSCIDマウスの後足のX線撮影分析によって、注射の14日以内に、活発な異所的な骨形成が明らかになった(図15E)。異所的な骨のLacZ染色を用いた組織学分析から、LacZ陽性mc13細胞は、骨芽細胞および骨細胞が見出される代表的な位置である鉱化したマトリックスまたは裂孔に均一に位置していたことが分かる(図15F)。
【0119】
異所的骨形成におけるmc13の役割をさらに確かめるために、筋肉切片をジストロフィンの存在についても染色した。図15Gに示すように、異所的な骨は、非常にジストロフィン陽性の細胞を含んでいだ。このことから、mc13細胞は骨形成に密接に関与していることが示唆される。対照として、線維芽細胞を用いて同様の実験を行った。線維芽細胞は、活発な異所的骨形成を支持することが見出されたが、注射された細胞は一様に骨の外側に見出され、どれも鉱化マトリックス内に位置していなかった。このことから、線維芽細胞は異所的な骨を形成するrhBMP-2を送達することができるが、骨芽細胞に分化できないことが示唆される。この場合、異所的な骨の鉱化に関与する細胞は、十中八九、宿主組織に由来する。従って、これらの結果は、mc13細胞がインビボおよびインビトロの両方で骨芽細胞に分化できることを証明している。
【0120】
遺伝子操作された筋肉由来細胞による骨治癒の促進
骨格が十分に発達した(6〜8週齢)雌SCIDマウスにおいて、前記のように歯科用バーを用いて頭蓋骨欠陥(約5mm)を作成した。以前の実験から、5mmの頭蓋骨欠陥は「治癒しない」ことが証明されている(P.H.クレブスバッハ(Krebsbach)ら、1998、Transplantation 66:1272-1278)。adBMP-2を形質導入した、またはadBMP-2を形質導入していないmc13細胞を播種したコラーゲンスポンジマトリックスで、頭蓋骨欠陥を塞いだ。これらのマウスを14日で屠殺し、頭蓋骨欠陥の治癒を分析した。図16Aに示すように、rhBMP-2を形質導入していないmc13細胞で治療された対照群は、欠陥治癒の証拠を示さなかった。対照的に、rhBMP-2を発現するように形質導入されたmc13細胞で治療された実験群は、2週間で、頭蓋骨欠陥のほとんど完全な閉塞を示した(図16B)。鉱化した骨を強調するフォンコッサ染色は、rhBMP-2を発現するように形質導入されたmc13細胞で治療された群において活発な骨形成を示したが(図16D)、対照群では最小限の骨形成しか観察されなかった(図16C)。
【0121】
移植された細胞を特定するY染色体特異的プローブを用いた蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)によって、実験群における新たな骨の領域を分析した。図16Eに示すように、新たに形成した骨の中にY染色体陽性細胞が特定され、このことから、移植された細胞が、rhBMP-2の影響を受けた骨形成において活発に関与していることが分かる。新たに形成された頭蓋骨の中にY染色体陰性細胞も特定され、従って、宿主由来細胞も活発に関与していることが分かる。これらの結果は、mc13細胞がrhBMP-2で刺激されると「治癒しない」骨欠陥の治癒を媒介できることを証明し、本発明のMDCが骨の欠陥、傷害、または外傷の治療に使用できることを示している。
【0122】
実施例10:骨欠陥の非自己(同種異系)MDSC治療
方法
本実施例に記載の実験において使用した正常マウス(C57 BL/6J)またはmdxマウス(C57 BL/10 ScSn mdx/mdxマウス)はジャクソン研究所(Bar Harbor、ME)から購入し、それぞれドナーおよび宿主として使用した。
【0123】
筋肉由来幹細胞(MDSC)および衛星細胞(scs)培養物の調製のために、後足筋肉を、生まれたばかりの(3〜5日齢)正常マウスから取り出し、0.2%XI型コラゲナーゼを37℃で1時間添加することによって筋肉細胞を酵素的に解離した。2.4単位/mlのジスパーゼを45分間、0.1%トリプシンを30分間添加した。次いで、筋肉細胞抽出物を、コラーゲンコーティングフラスコの増殖培地(DMEMは10%ウマ血清、10%ウシ胎仔血清、0.5%ニワトリ胚抽出物、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含んだ)にプレプレーティングした。記載のように、初期プレプレートのscsは1〜4日でフラスコ支持体に付着したのに対して、mdscは5〜7日かかった(例えば、PP5-6)。
【0124】
後期プレプレート(LP)(PP5またはPP6)および初期プレプレート(EP)(PP1-2)からの0.35〜0.74×106細胞を、1点注射によってmdxマウスのそれぞれの後足筋肉に注射した。それぞれ、移植の10日後および30日後に、注射された筋肉を切除し、液体窒素で凍結した。免疫組織化学分析用に、注射された筋肉から凍結切片を調製した。筋肉横断面での免疫組織化学分析のために、ジストロフィン染色を行った。染色は蛍光顕微鏡(Nikon Optiphot)を用いて観察し、ジストロフィン陽性(ジストロフィン+)細胞の数を計数した。
【0125】
注射の10日後までに、多数のジストロフィン+筋原線維を含む大きな移植片がMDSC[LP]を注射した筋肉において観察された(図17Cおよび17D)。MDSC[EP]を注射した筋肉(図17Aおよび17B)と比較して、MDSC[LP]移植片は、はるかに多くの小さな筋原線維を含んでいた。従って、注射されたMDSC[LP]細胞はインビボで高い増殖能を有することが示唆される。両筋肉には同数の筋肉細胞を注射した。MDSC[LP]を注射した筋肉におけるジストロフィン+筋原線維の数は、MDSC[EP](scs)を注射した筋肉におけるジストロフィン+筋原線維の数の約5倍を超えていた(2.798+/-1.114、n=4(mdsc)対430+/-148、n=6(EP);平均+/-SD)。
【0126】
さらに、MDSC[LP]注射の30日後、さらに多数のジストロフィン+筋原線維が移植片に存在していた(図17Eおよび17F)。前記のように、注射の10日後までに形成したジストロフィン+筋原線維の大部分がその20日後、30日目に生存していた。後期プレートMDSC(例えば、PP5-6)は、初期プレート細胞(例えば、PP1-2)より多くの衛星細胞を宿主筋肉において生じさせることが見出された。この衛星細胞は、後期プレートを注射した筋肉における多数のジストロフィン+筋原線維に寄与する可能性がある。筋肉由来幹細胞は、ジストロフィー筋肉への細胞移植の効率を著しく改善した。後期プレート細胞において確認された高い自己再生能に加えて、MDSC細胞は免疫拒絶を回避し、これは、非自己宿主筋肉における後期プレート細胞の高い生存率を担う一要因である可能性が高い。
【0127】
実施例11:脊椎円板の増大
雌ウサギに、ハロタン麻酔をかけて、横向きにして外科手術の準備をした。円板を曝露するために、脊椎周囲切開をT4-L2脊椎レベルの領域において行った。ハミルトン微量注射器を用いて、円板に、HBSSで溶解したLacZマーカーを有する筋肉由来前駆細胞懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。注射の10日後に、円板を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDC組成物が、先天性、変性、または外傷性の円板の症状、傷害、または状態(背中の痛み、ならびに円板および脊柱の欠陥)を治療するための円板増大材料として使用できることを証明している(図20Aおよび20B)。
【0128】
本明細書で引用された全ての特許出願、特許、教科書、および参考文献は、本発明が関与する最新技術をさらに詳細に説明するために、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0129】
説明された本発明の範囲および精神から逸脱することなく前記の方法および組成物に様々な変更を加えることができるので、前記の説明に含まれるか、添付の図面に示されるか、または添付の特許請求の範囲で定義された全ての主題は例示とみなされ、限定するものではないことが意図される。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、筋肉由来前駆細胞(または幹細胞)(MDCまたはMDSC)およびMDC組成物ならびに体組織(特に、軟部組織および骨)の増大におけるその使用に関する。特に、本発明は、軟部組織および骨への導入後に長期生存を示す筋肉由来前駆細胞、MDCを単離する方法、ならびにヒトまたは動物の軟部組織および骨(上皮組織、脂肪組織、神経組織、器官組織、筋組織、靭帯組織、および軟骨組織を含む)を増大するためにMDC含有組成物を使用する方法に関する。本発明はまた、美容状態および機能性状態(例えば、皮膚の状態、胃食道逆流、膀胱尿管逆流、尿失禁、大便失禁、骨格筋脱力、心不全、および心筋梗塞に関連する傷害または脱力)を治療するための筋肉由来前駆細胞の新たな使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
シリコーンまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの合成材料を用いた軟部組織の増大は当技術分野において周知である。アルネット(Arnett)に付与された米国特許第5,876,447号は、顔面形成手術のためのシリコーンインプラントの使用を開示している。しかしながら、このような合成材料は宿主組織にとって異物であり、インプラントの封入および周囲組織の瘢痕化をもたらす免疫応答を引き起こす。従って、このようなインプラントは、さらなる機能的または審美的な問題を生む可能性がある。
【0003】
コラーゲンまたはヒアルロン酸などの生体高分子を用いた軟部組織増大もまた述べられている。例えば、ワランス(Wallace)らに付与された米国特許第4,424,208号は、コラーゲンインプラント材料を用いて軟部組織を増大する方法を開示している。さらに、デラバレ(della Valle)らに付与された米国特許第4,965,353号は、美容外科に使用することができるヒアルロン酸エステルを開示している。しかしながら、これらの生体高分子もまた宿主組織にとって異物であり、注射された材料の再吸収をもたらす免疫応答を引き起こす。従って、生体高分子は、長期間、組織を増大することができない。全般的に見て、生体高分子または合成材料の使用は、軟部組織の増大に完全に満足のいくものではなかった。
【0004】
細胞に基づく組成物を使用した軟部組織増大もまた開発されている。ボスジュニア(Boss,Jr.)に付与された米国特許第5,858,390号は、美容的および審美的な皮膚欠陥を治療するための自己真皮線維芽細胞の使用を開示している。この治療法は、合成材料または生体高分子の埋め込みまたは注射に固有の問題を避けるが、他の厄介な問題をもたらす。線維芽細胞はコラーゲンを産生するので、細胞は、移植部位周囲の細胞を硬直および変形させることがある。
【0005】
注射可能な肥厚剤としての自己脂肪細胞の使用もまた述べられている(概説については、K.マク(Mak)ら、1994、Otolaryngol Clin.North.Am.27:211-22;アメリカ形成外科学会:新手法に関する特別委員会による自己脂肪移植についての報告(American Society of Plastic and Reconstructive Surgery:Report on autologous fat transplantation by the ad hoc committee on new procedures)、1987、Chicago:American Society of Plastic and Reconstructive Surgery;A.チャーチル(Chaichir)ら、1989、Plast.Reconstr.Surg.84:921-935;R.A.エルセク(Ersek)、1991、Plast.Reconstr.Surg.87:219-228;H.W.ホール(Horl)ら、1991、Ann.Plast.Surg.26:248-258;A.ヌグエン(Nguyen)ら、1990、Plast.Reconstr.Surg.85:378-389;J.サルツンスキー(Sartynski)ら、1990、Otolaryngol.Head Neck Surg.102:314-321を参照のこと)。しかしながら、脂肪移植手術は、注射された脂肪が宿主に再吸収されるので一時的な増大しか生じない。さらに、脂肪移植は、結節形成および組織非対称をもたらすことがある。
【0006】
筋繊維の前駆体である筋芽細胞は、融合して分裂を終えた多核筋管を形成する単核筋細胞であり、生理活性タンパク質を長期間、発現および送達することができる(T.A.パートリッジ(Partridge)およびK.E.デイビス(Davies)、1995、Brit.Med.Bulletin 51:123-137;J.ドハワン(Dhawan)ら、1992、Science 254:1509-12;A.D.グリネル(Grinnell)、1994、Myology Ed 2、A.G.エンゲル(Engel)およびC.F.アームストロング(Armstrong)、McGraw-Hill,Inc.、303-304;S.ジャオ(Jiao)およびJ.A.ウォルフ(Wolff)、1992、Brain Research 575:143-7;H.ヴァンデンブルグ(Vandenburgh)、1996、Human Gene Therapy 7:2195-2200)。
【0007】
培養筋芽細胞は、幹細胞の自己再生性の一部を示す細胞亜集団を含んでいる(A.バロフィオ(Baroffio)ら、1996、Differentiation 60:47-57)。このような細胞は融合して筋管を形成せず、別々に培養しなければ分裂しない(A. バロフィオら、前記)。筋芽細胞移植の研究(以下を参照のこと)によって、移植された細胞の大部分がすぐに死滅する一方で、少数の細胞が生き残り、新たな筋形成を媒介することが分かっている(J.R.ビューチャンプ(Beuchamp)ら、1999、J.Cell Biol.144:1113-1122)。この少数の細胞は、組織培養中のゆっくりとした増殖および移植後の急速な増殖を含む特徴的な挙動を示し、これらの細胞が筋芽細胞幹細胞である可能性があることを示唆している(J.R.ビューチャンプら、前記)。
【0008】
筋芽細胞は、様々な筋肉関連障害および非筋肉関連傷害の治療における遺伝子療法用ビヒクルとして使用されている。例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に遺伝子組換え筋芽細胞または非組換え筋芽細胞の移植が用いられている(E.グソーニ(Gussoni)ら、1992、Nature、356:435-8;J.フアード(Huard)ら、1992、Muscle&Nerve、15:550-60;G.カルパチ(Karpati)ら、1993、Ann.Neurol.、34:8-17;J.P.トレムブラ(Trembla)ら、1993、Cell Transplantation、2:99-112;P.A.モイセット(Moisset)ら、1998、Biochem.Biophys.Res.Commun.247:94-9;P.A.モイセットら、1998、Gene Ther.5:1340-46)。さらに、筋芽細胞は、1型糖尿病治療のためにプロインシュリン(L.グロス(Gros)ら、1999、Hum.Gen.Ther.10:1207-17);血友病B治療のために第IX因子(M.ロマン(Roman)ら、1992、Somat.Cell.Mol.Genet.18:247-58;S.N.ヤオ(Yao)ら、1994、Gen.Ther.1:99-107;J.M.ワング(Wang)ら、1997、Blood 90:1075-82;G.ホルテラノ(Hortelano)ら、1999、Hum.Gene Ther.10:1281-8);アデノシンデアミナーゼ欠損症候群治療のためにアデノシンデアミナーゼ(C.M.リンチ(Lynch)ら、1992、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:1138-42);慢性貧血治療のためにエリスロポエチン(E.レグリエル(Regulier)ら、1998、Gene Ther.5:1014-22;B.ダレ(Dalle)ら、1999、Gene Ther.6:157-61)、および成長遅延治療のためにヒト成長ホルモン(K.アンウェル(Anwer)ら、1998、Hum.Gen.Ther.9:659-70)を産生するように遺伝子操作されている。
【0009】
筋芽細胞はまた、ロー(Law)らに付与された米国特許第5,130,141号、ブラウ(Blau)らに付与された米国特許第5,538,722号、およびチャンスロール(Chancellor)らによって1999年4月30日に出願された米国特許出願第09/302,896号に開示のように、筋組織の損傷または疾患を治療するために用いられている。さらに、筋芽細胞移植は、心筋機能不全の回復のために用いられている(C.E.マリ(Murry)ら、1996、J.Clin.Invest.98:2512-23;B.Z.アトキンス(Atkins)ら、1999、Ann.Thorac.Surg.67:124-129;B.Z.アトキンスら、1999、J.Heart Lung Transplant.18:1173-80)。
【0010】
前記にもかかわらず、ほとんどの場合、初代筋芽細胞による治療は、移動および/または食作用のために、移植後の低い細胞生存率と関連してきた。この問題を避けるために、アタラ(Atala)に付与された米国特許第5,667,778号は、アルギネートなどの液状ポリマーに懸濁された筋芽細胞の使用を開示している。このポリマー溶液は、筋芽細胞が注射後に移動しないように、および/または食作用を受けないようにするためのマトリックスとして働く。しかしながら、このポリマー溶液は前記の生体高分子と同じ問題を生じる。さらに、アタラの特許は筋組織だけでの筋芽細胞使用に限定され、他の組織では使用されない。
【0011】
従って、長期間効果があり、広範囲の宿主組織と適合し、かつ移植部位周囲の組織の最小限の炎症、瘢痕化、および/または硬直しか引き起こさない他の異なる軟部組織増大材料が必要とされる。従って、本発明の筋肉由来前駆細胞を含む組成物は、軟部組織を増大するための改善したおよび新規の材料として提供される。移植後に長期生存を示す筋肉由来前駆細胞組成物を生成する方法、ならびに様々な審美的な欠陥および/または機能性の欠陥(例えば、皮膚の状態または傷害、および筋肉の脱力、傷害、疾患、または機能不全を含む)を治療するためにMDCおよびMDC含有組成物を使用する方法がさらに提供される。
【0012】
非筋肉性軟部組織を増大するために筋芽細胞を使用する以前の試みが失敗に終わったことは注目すべきことである(アタラに付与された米国特許第5,667,778号)。従って、本明細書で開示される発見は、本発明による筋肉由来前駆細胞が非筋肉性軟部組織および筋肉性軟部組織(上皮組織を含む)に首尾よく移植することができ、長期生存を示すことが分かったように予期しなかったことである。結果として、MDCおよびMDC含有組成物は、筋肉性軟部組織または非筋肉性軟部組織を増大するための、ならびに骨を生成するための一般的な増大材料として使用することができる。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞および組成物は自己供給源から得ることができるので、増大材料の再吸収を含む宿主における免疫合併症ならびに移植部位周囲の組織の炎症および/または瘢痕化の危険性が低い。
【0013】
筋肉、骨、軟骨などを含む身体の様々な結合組織において間葉系幹細胞を見つけることができるが(H.E.ヤング(Young)ら、1993、In Vitro Cell Dev.Biol.29A:723-736;H.E.ヤングら、1995、Dev.Dynam.202:137-144)、「間葉系」という用語は、歴史的に、骨髄から精製される幹細胞の種類を言うために用いられており、筋肉から精製される幹細胞の種類を言うために用いられない。従って、間葉系幹細胞は本発明の筋肉由来前駆細胞とは区別される。さらに、間葉系細胞は、本明細書に記載の筋肉由来前駆細胞が発現するCD34細胞マーカー(M.F.ピテンガー(Pittenger)ら、1999、Science 284:143-147)を発現しない。
【0014】
細胞療法の主な問題は、注射された細胞の不十分な生存および限定された拡散、ならびにドナー細胞に対するレシピエントの免疫拒絶である(Y.ファン(Fan)ら、1996、Muscle&Nerve、19:853-860)。本発明で述べられる筋肉由来幹細胞(MDSCまたはMDC)は、軟部組織および骨を増大および肥厚させるために細胞移植療法で用いられた場合、高い自己再生能および長期間の増殖を示す。本発明の自己細胞および同種異系細胞は両方とも、記載の障害および状態に有効な細胞療法を提供することができる。さらに、このような細胞は、重篤な患部筋肉における細胞療法の効率を改善することができる。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、移植後に長期生存を示す新規の筋肉由来前駆細胞(幹細胞)(MDCまたはMDSC)およびMDC組成物を提供することである。本発明のMDCおよびMDC含有組成物は、デスミン、M-カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34、およびBcl-2などの前駆細胞マーカーを発現する初期前駆筋肉細胞(すなわち、筋肉由来幹細胞)を含む。さらに、これらの初期前駆筋肉細胞はFlk-1、Sca-1、MNF、およびc-met細胞マーカーを発現するが、CD45細胞マーカーもc-Kit細胞マーカーも発現しない。
【0016】
本発明の別の目的は、筋肉細胞出発集団から筋肉由来前駆細胞を単離および濃縮する方法を提供することである。これらの方法は、軟部組織部位への移植後または導入後に長期生存能を有するMDCを濃縮する。本発明によるMDC集団には、特に、デスミン、M-カドヘリン、MyoD、ミオゲニン、CD34、およびBcl-2などの前駆細胞マーカーを発現する細胞が豊富にある。このMDC集団はまたFlk-1、Sca-1、MNF、およびc-met細胞マーカーを発現するが、CD45細胞マーカーもc-Kit細胞マーカーも発現しない。
【0017】
本発明のさらに別の目的は、移植用のポリマー担体も特殊な培地も必要とすることなく、筋肉性軟部組織または非筋肉性軟部組織(皮膚組織、血管組織、脂肪組織、神経組織、骨格筋組織、平滑筋組織、靭帯組織、軟骨組織、脊椎円板(例えば、椎間円板) 組織、および様々な器官組織を含む)を増大させるためにMDCおよびMDC含有組成物を使用する方法を提供することである。このような方法は、軟部組織への導入によって(例えば、組織への直接注射または組成物の全身分布によって)MDC組成物を投与する段階を含む。好ましくは、軟部組織は非骨性体組織を含む。より好ましくは、軟部組織は、非横紋筋性非骨性体組織を含む。最も好ましくは、軟部組織は、非筋肉性非骨性体組織を含む。本明細書で用いる場合の増大は、体組織の大きさまたは量を充填、肥厚、支持、拡大、伸張、または増加することを意味する。本明細書に記載の後期プレプレートの自己筋肉由来幹細胞および非自己(すなわち、同種異系)筋肉由来幹細胞は両方とも、このような前駆細胞が治療に用いられる状態に有効な組織増大および細胞療法をもたらす。
【0018】
本発明の別の目的は、a)美容的または審美的な状態;b)胃食道逆流の症状および状態;c)大便失禁および尿失禁;ならびにd)骨格筋および平滑筋の脱力、傷害、疾患、または機能不全に対する、MDCに基づく治療を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、傷害、創傷、外科手術、外傷、非外傷、先天性、変性、もしくは外傷性の脊椎円板の症状もしくは状態、あるいは皮膚または内部軟部組織もしくは器官において亀裂、開口、くぼみ、創傷などを生じる他の処置の後に、骨または軟部組織(筋肉由来軟部組織もしくは非筋肉由来軟部組織)を増大させる方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、化学物質、増殖培地、および/または遺伝子操作の使用によって改変されたMDCおよびMDC含有組成物を提供することである。このようなMDCおよびその組成物は、生物学的化合物の産生および送達ならびに様々な疾患、状態、傷害、または疾病の治療に有用な化学的または遺伝的に改変された細胞を含む。
【0021】
本発明により提供されるさらなる目的および利点は、本明細書以下に記載の詳細な説明および例示から明らかであると思われる。
【0022】
図面の添付の図は、本発明をさらに説明するために、および本発明の様々な局面を明らかにすることによって本発明の理解を助けるために示される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のウシコラーゲン注射と比較したMDC組成物注射を使用した軟部組織増大の結果を示す。図1A-1Fについては、MDC(図1D-1F)またはコラーゲン(1A-1C)を腹壁の皮膚に注射した。注射領域は、真皮と皮下結合組織(これは皮膚である)との境界であった。図1A-1Fは、コラーゲンまたはMDCを皮膚に注射した後の40×倍率のトリクローム染色を示す。注射の5日後、2週間後、4週間後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。図1Aおよび1Dは注射5日後の、皮膚へのMDC注射対コラーゲン注射の結果を示す。図1Bおよび1Eは、注射2週間後の結果を示す。図1Cおよび1Fは注射4週間後の結果を示す。図1D-1Fの矢じりは注射領域でのMDCの存在を示す(濃いピンク色)。図1A-1Fは、皮下空間への注射後、MDCは少なくとも4週間まで存続し、腹壁皮下組織を維持し/増大させたのに対して、コラーゲンは皮膚への注射の2週間後まで存続しなかったことを示している(実施例3)。
【図2】MDC組成物注射を用いた下部食道(図2A)および肛門括約筋(図2B)軟部組織増大の結果を示す。胃食道接合部または肛門括約筋に注射した。注射の3日後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図2Aは、注射された組織を100×倍率で示す。図2Bは、注射された組織を40×倍率で示す。図2Aおよび2Bは、MDC注射が、注射の3日後まで下部食道括約筋および肛門括約筋の軟部組織増大を維持したことを示している。
【図3】MDC組成物注射を用いた膀胱尿管接合部の軟部組織増大の結果を示す。膀胱尿管接合部に注射した。注射の3日後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。MDCは、矢印の近くに見られるβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図3Aは、注射された組織を低(40×)倍率で示す。図3Bは、注射された組織を高(100×)倍率で示す。図3Aおよび3Bは、MDC注射が、注射の3日後まで膀胱尿管接合部の軟部組織増大を維持したことを示している。
【図4】MDC組成物の軟部組織注射を用いた膀胱凍結傷害の治療を示す。膀胱壁の凍結傷害部位に注射した。注射の30日後に、組織試料を採取し、染色のために調製した。矢印は、凍結傷害およびMDC注射の部位を示す。倍率は100×である。図4Aは、治療されていない凍結損傷を受けた膀胱組織を示す。図4Bは、MDC注射で治療した凍結損傷膀胱組織を示す。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図4Aおよび4Bは、MDC注射が、注射30日後まで凍結損傷膀胱組織の軟部組織増大を維持したことを示している。
【図5】凍結損傷膀胱組織に注射した後のMDCの細胞分化を示す。膀胱壁の凍結傷害部位に注射し、注射の5、35、または70日後に、組織試料を採取し、染色のために調製した。注射されたMDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示され、未分化MDCはα-平滑筋アクチン(α-SMアクチン)染色によって示される。筋管または筋原線維に分化したMDCは、ファストミオシン重鎖(ファストMyHC)染色によって示される。矢印はファストMyHCを示す。注射の5日後、多数のMDCが注射部位に観察され、高レベルのβ-ガラクトシダーゼ(図5A)およびα-SMアクチン染色(図5D)、ならびに比較的低レベルのファストMyHC染色(図5G)により示されるように、わずかなMDCしか筋管に分化していなかった。注射の35日後、多数のMDCが注射部位に観察され、高レベルのβ-ガラクトシダーゼ染色(図5B)、α-SMアクチン染色の減少(図5E)、およびファストMyHC染色の増加(図5H)により示されるように、多くのMDCが筋管に分化していた。注射の70日後、MDCが注射部位に観察され、高レベルのβ-ガラクトシダーゼ(図5C)、α-SMアクチン染色の減少(図5F)、および高レベルのファストMyHC染色(図5l)により示されるように、ほとんど全てのMDCが筋原線維に分化していた。倍率は200×である。図5A-51は、膀胱軟部組織に注射した70日後までMDCが依然として生存し、分化を始めたことを示している。
【図6】膀胱軟部組織に注射されたMDCの再神経支配を示す。神経支配は、神経筋接合部を示すアセチルコリン(Ach)染色によって示される。注射の3日後に、Ach染色(図6A)により示されるように、神経支配はほとんど観察されなかった。注射の15日後に、いくつかの神経支配が観察された(図6B)。注射の30日後に、さらに多くの神経支配が観察された(図6C)。注射の6ヶ月後に、低(100×)倍率で非常に多くの神経支配が観察された(図6D)。図6A-6Cは、注射された組織を高(200×)倍率で示す。図6A-6Dは、凍結損傷膀胱組織に注射した6ヶ月後までMDCが神経支配を誘導することを示している。
【図7】MDC組成物注射を用いた心筋平滑筋の軟部組織増大の結果を示す。心室壁に注射し、注射の3日後に、組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図7Aは、注射された組織を低(100×)倍率で示す。図7Bは、注射された組織を高(200×)倍率で示す。
【図8】肝臓組織へのMDC注射の結果を示す。下部左葉の肝臓組織に注射し、注射の4日後に組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図8Aは低(100×)倍率を示す。図8Bは高(200×)倍率を示す。
【図9】脾臓組織へのMDC注射の結果を示す。内側の脾臓組織に注射し、注射の4日後に組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図9Aは、低(100×)倍率で見た注射された組織を示す。図9Bは、高(200×)倍率で見た注射された組織を示す。
【図10】脊髄組織へのMDC注射の結果を示す。脊髄組織に注射し、注射の4日後に組織試料を調製した。MDCはβ-ガラクトシダーゼ染色によって示される。図10Aは、低(100×)倍率で見た注射された組織を示す。図10Bは、高(200×)倍率で見た注射された組織を示す。図7A-7B、8A-8B、9A-9B、および10A-10Bは、様々な異なる組織タイプへ注射した後にMDCが宿主組織を傷つけることなく依然として生存することを示している。
【図11】デスミン、MyoD、およびミオゲニン(筋形成系統特異的マーカー)、M-カドヘリン(衛星細胞特異的マーカー)、Bcl-2(初期筋形成マーカー)、CD34(造血細胞またはストローマ細胞マーカー)を含む細胞マーカーの発現を示す、mdxマウスに由来するPP1-4およびPP6細胞集団の免疫組織化学分析を示す。図11A-11Lは、PP1-4およびPP6細胞集団では、デスミン(図11Aおよび11G)、MyoD(図11Eおよび11K)、ならびにミオゲニン(図11Fおよび11L)を発現する細胞の割合が同等であるのに対して、PP6集団ではPP1-4集団と比較して、M-カドヘリン(図11Dおよび11J)を発現する細胞の割合が少なく、Bcl-2(図11Cおよび11l)ならびにCD34(図11Bおよび11H)を発現する細胞の割合が多いことを示している。
【図12】マウス筋肉細胞および血管内皮細胞におけるCD34またはBcl-2染色とデスミン染色との細胞内共局在を示す。図12Aは、抗CD34抗体で染色され、蛍光顕微鏡で観察された正常マウス筋肉細胞(矢印を参照のこと)および血管内皮細胞(矢じりを参照のこと)を示す。図12Bは、デスミン抗体およびIV型コラーゲン抗体で同時染色された同じ細胞を示す。図12Cは、核を示すためにヘキストで同時染色された同じ細胞を示す。図12Dは、CD34、デスミン、IV型コラーゲン、およびヘキスト同時染色された細胞の合成写真を示す。図12Eは、抗Bcl-2抗体で染色され、蛍光顕微鏡で観察された正常マウス筋肉細胞(矢印を参照のこと)を示す。図12Fは、デスミン抗体およびIV型コラーゲン抗体で同時染色された同じ細胞を示す。図12Gは、核を示すためにヘキストで同時染色された同じ細胞を示す。図12Hは、CD34、デスミン、IV型コラーゲン、およびヘキスト同時染色された細胞の合成写真を示す。図12lは、抗M-カドヘリン抗体で染色された衛星細胞(矢印を参照のこと)を示す。細胞を40×倍率で観察した。図12A-12DはCD34およびデスミンの共局在を示すのに対して、図12E-12HはBcl-2およびデスミンの共局在を示す。
【図13】mc13細胞のrhBMP-2への曝露から生じる形態学的変化およびオステオカルシン発現を示す。mc13細胞は、rhBMP-2を含む、またはrhBMP-2を含まない増殖培地中で6日間インキュベートした。図13Aは、rhBMP-2非存在下で>50%細胞集密度まで増殖した細胞を示す。図13Bは、200ng/ml rhBMP-2存在下で>50%細胞集密状態まで増殖した細胞を示す。図13Cは、rhBMP-2非存在下で>90%細胞集密状態まで増殖した細胞を示す。図13Dは、200ng/ml rhBMP-2存在下で>90%細胞集密状態まで増殖した細胞を示す。図13Eは、オステオカルシン発現(骨芽細胞の細胞マーカー;矢印を参照のこと)について染色された細胞を示す。細胞を10×倍率で観察した。図13A-13Eは、mc13細胞がrhBMP-2に曝露すると骨芽細胞に分化できることを示している。
【図14】rhBMP-2治療に反応した、デスミンおよびアルカリホスファターゼを発現するmc13細胞の割合に及ぼす影響を示す。図14Aは、新たに単離されたmc13クローンのデスミン染色を示す。図14Bは、同じ細胞の位相差顕微鏡写真を示す。図14Cは、200ng/ml rhBMP-2を含む、または含まない増殖培地中で6日間インキュベーションした後の、mc13細胞におけるデスミン染色レベルを示す。図14Dは、200ng/ml rhBMP-2を含む、または含まない増殖培地中で6日間インキュベーションした後の、PP1-4細胞およびmc13細胞におけるアルカリホスフェート染色レベルを示す。★は、統計的に有意な結果(スチューデントt検定)を示す。図14Cは、デスミンを発現するmc13細胞の数がrhBMP-2存在下で減少するのに対して、図14Dは、アルカリホスファターゼを発現するmc13細胞の数がrhBMP-2存在下で増加することを示す。このことは、rhBMP-2存在下ではmc13細胞の筋形成特徴が減少し、骨形成特徴が増加することを示唆している。
【図15】筋形成系統および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化を示す。mc13細胞を、LacZおよびジストロフィン遺伝子を含む構築物で安定にトランスフェクトし、筋肉内注射または静脈内注射によってmdxマウスの後足に導入した。15日後、動物を屠殺し、組織学のために後足筋系を切り離した。図15Aは、LacZ染色された、筋肉内注射部位のmc13細胞を示す。図15Bは、ジストロフィンが同時染色された同じ細胞を示す。図15Cは、LacZ染色された、静脈内注射領域のmc13細胞を示す。図15Dは、ジストロフィンが同時染色された同じ細胞を示す。別の実験において、mc13細胞にadBMP-2を形質導入し、0.5〜1.0×106細胞をSCIDマウスの後足に注射した。14日後、動物を屠殺し、後足の筋組織を分析した。図15Eは、骨形成を確かめるための後足のX線撮影分析を示す。図15Fは、LacZ染色された後足からの細胞を示す。図15Gは、ジストロフィンが染色された細胞を示す。図15A-15Dは、mc13細胞が、筋肉内送達または静脈内送達によってジストロフィン発現を救出できることを示している。図15E-15Gは、mc13細胞が異所的な骨形成に関与することを示している。細胞を、以下の倍率:40×(図15A-15D)、10×(図15F-15G)で観察した。
【図16】rhBMP-2産生初代筋肉細胞による骨治癒の向上を示す。歯科用バーを用いて雌SCIDマウスの頭蓋骨に5mmの欠陥を作成し、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞またはadBMP-2が形質導入されていないmc13細胞が播種されたコラーゲンスポンジで欠陥を塞いだ。14日で動物を屠殺し、検査し、骨治癒の徴候について顕微鏡で分析した。図16Aは、adBMP-2が形質導入されていないmc13細胞で治療された頭蓋骨を示す。図16Bは、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞で治療された頭蓋骨を示す。図16Cは、フォンコッサ染色によって分析された、adBMP-2が形質導入されていないmc13細胞で治療された頭蓋骨の組織学的試料を示す。図16Dは、フォンコッサ染色によって分析された、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞で治療された頭蓋骨の組織学的試料を示す。図16Eは、注射された細胞を特定するためにY染色体特異的プローブとのハイブリダイゼーションによって分析され(矢印で示される緑色蛍光)、核を特定するために臭化エチジウムで染色された(赤色蛍光で示される)、adBMP-2が形質導入されたmc13細胞で治療された頭蓋骨の組織学的試料を示す。図16A-16Eは、rhBMP-2を発現するmc13細胞が骨の欠陥の治癒に寄与できることを示している。
【図17−1】MDSC(後期プレプレート(LP)(すなわち、MDSC[LP]--PP5もしくはPP6)または初期プレプレート(EP)(すなわち、MDSC[EP]--PP1-2))の注射による移植片を示す。図17Cおよび17Dに示すように、注射の10日後までに、MDSC[LP]が注射されたmdx筋肉において、かなりの数のジストロフィン陽性(ジストロフィン+)筋原線維を有する大きな移植片が観察された(実施例10)。MDSC[LP]が注射された筋肉とMDSC[EP]が注射された筋肉(図17Aおよび17B)を比較すると、MDSC[LP]移植片にははるかに多くの小さな筋原線維が含まれることが分かる。従って、このことから注射されたMDSC[LP]細胞はインビボで高い増殖能を有することが示唆される。両筋肉には同数の各タイプの筋肉細胞を注射した。MDSC[LP]が注射された筋肉におけるジストロフィン+筋原線維の数は、MDSC[EP]が注射された筋肉において見出されたジストロフィン+筋原線維の数の約5倍であった(2.798+/-1.114、n=4(mdsc)対430+/-148、n=6(EP);平均+/-SD)。 重要なことに、MDSC[LP]を使用した場合、注射の30日後までに多くのジストロフィン+筋原線維が筋肉に存在した(図17Eおよび17F)。図17Cと図17Eを比較すると、移植片の面積が両方ともほぼ同じであったことが分かる。しかしながら、30日筋肉(図17E)については、10日筋肉(図17C)に注射した細胞量の半分しか注射していない。さらに、30日移植片における筋繊維は10日移植片より非常に多かった。従って、このことから、注射の10日後までに形成されたジストロフィン+筋原線維の大部分は20日後でも生存していたことが分かる。対照的に、注射の30日後までに、MDSC[EP]が注射された筋肉においてジストロフィン+筋原線維の数の著しい減少が観察され、ジストロフィン+筋原線維は、MDSC[EP]群(134+/-42、n=3)とMDSC[LP]群(2,000+/-658、n=3)とで10倍を超える差があった。
【図17−2】図17-2は、図17-1の続きを示す図である。
【図18】本発明による方法においてヒト胎児MDSCを使用する実行可能性を示している。このような細胞は免疫寛容となっていることが見出され、SCIDマウスにおいて2週間を超えて存続した。発現ベクターにLacZ遺伝子を含む1×106ヒト胎児MDSC[LP]をSCIDマウスの膀胱壁に注射した。LacZ染色が、注射の5日後(図18A)および15日後(図18B)に観察され、これによってMDSCの優れた生存能が証明された。
【図19】正常動物およびMDSC[LP]が注射された動物のデスミン染色を示す。正常マウスからの3×105 MDSCを、免疫無防備状態でない正常マウスに静脈内注射した。2週間後、注射されたマウスから胸腺を採取し、骨格筋特異的デスミンを染色した。図19Aは、正常胸腺対照のデスミン染色が陰性であることを示す。しかしながら、別の動物からのMDSCを末梢注射した2週間後、胸腺のデスミン染色は陽性である(図19B)。
【図20】MDSC組成物をウサギ脊椎円板に注射した結果を示す。MDSCは、記載のようにβ-ガラクトシダーゼ発現用のLacZを有する発現ベクターを含んでいた。マウスから得られたMDSCをウサギ脊椎円板T6レベルに導入した。注射の10日後に、組織試料を採取し、分析のために調製した。注射されたMDSCの存在は、β-ガラクトシダーゼ染色によって示された。図20Aは、注射された組織を100×(高倍率)で示す。図20Bは、注射された組織を40×(低倍率)で示す。図20Aおよび20Bに示す結果は、MDC注射が脊椎円板において少なくとも10日間存続し、正常円板および機能不全円板の大きさおよび機能を増大する可能性があることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
筋肉由来細胞および組成物
本発明は、体組織(好ましくは軟部組織)への移植後に長期生存率を示す初期前駆細胞(本明細書では筋肉由来前駆細胞または筋肉由来幹細胞(MDSC)とも呼ばれる)からなるMDCを提供する。本発明のMDCを得るには、筋肉外植片(好ましくは骨格筋)を、動物ドナー(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物)から得る。この外植片は、「休止状態」の筋肉前駆細胞を含む構造的および機能的な合胞体として働く(T.A.パートリッジ(Partridge)ら、1978、Nature 73:306-8;B.H.リプトン(Lipton)ら、1979、Science 205:1292-4)。本発明による移植片に、または細胞療法として使用されるMDCは、ヒトの成人、胎児、胚、または胎盤ドナー細胞を含む、自己ドナーまたは非自己(すなわち、同種異系)ドナーから得ることができる。
【0025】
初代筋組織から単離された細胞は、線維芽細胞、筋芽細胞、脂肪細胞、造血細胞、および筋肉由来前駆細胞の混合物を含んでいる。筋肉由来集団の前駆細胞は、チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号に記載のように、コラーゲンコーティング組織フラスコ上での初代筋肉細胞の差次的な付着特性を用いて濃縮することができる。付着が遅い細胞は形態学的に丸くなる傾向があり、高レベルのデスミンを発現し、融合して多核筋管に分化する能力を有する(チャンスロールらの米国特許出願第09/302,896号)。これらの細胞の亜集団は、骨形成系統および筋形成系統の両方に分化できることを示す、増大したレベルのアルカリホスファターゼ、副甲状腺ホルモン依存性3',5'-cAMP、およびオステオカルシンを発現することによって、インビトロで組換えヒト骨形成タンパク質2(rhBMP-2)に反応することが示された(チャンスロールらの米国特許出願第09/302,896号;T.カタギリ(Katagiri)ら、1994、J.Cell Biol.127:1755-1766)。
【0026】
本発明によって、迅速に付着するMDC(PP1-4)およびゆっくりと付着する丸いMDC(PP6)の集団が骨格筋外植片から単離および濃縮され、ゆっくりと付着する細胞の中に多能性細胞が存在することを確かめるために免疫組織化学を用いて様々なマーカーの発現について試験された(実施例1;チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号)。本明細書の表3、実施例9に示すように、PP6細胞は、デスミン、MyoD、およびミオゲニンを含む筋形成マーカーを発現した。PP6細胞はまた、筋形成初期段階で発現する2つの遺伝子であるc-metおよびMNFを発現した(J.B.ミラー(Miller)ら、1999、Curr.Top.Dev.Biol.43:191-219;表3を参照のこと)。PP6は、衛星細胞特異的マーカーであるM-カドヘリンを発現する細胞の割合が少ないが(A.イリントケフ(Irintchev)ら、1994、Development Dynamics 199:326-337)、筋形成初期段階の細胞に限定されるマーカーであるBcl-2を発現する細胞の割合が多かった(J.A.ドミノフ(Dominov)ら、1998、J.Cell Biol.142:537-544)。PP6細胞はまた、ヒト造血前駆細胞ならびに骨髄のストローマ細胞前駆体で特定されるマーカーであるCD34を発現した(R.G.アンドリュー(Andrews)ら、1986、Blood 67:842-845;C.l.シビン(Civin)ら、1984、J.Immunol.133:157-165;L.フィナ(Fina)ら、1990、Blood 75:2417-2426;P.J.シモンズ(Simmons)ら、1991、Blood 78:2848-2853;表3を参照のこと)。
【0027】
PP6細胞はまた、幹細胞様特性を有する造血細胞のマーカーとして最近同定されたヒトKDR遺伝子のマウス相同体であるFlk-1を発現した(B.L.ツィーグラー(Ziegler)ら、1999、Science 285:1553-1558;表3を参照のこと)。同様に、PP6細胞は、幹細胞様特性を有する造血細胞に存在するマーカーであるSca-1を発現した(M.ファンデリジン(van de Rijn)ら、1989、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:4634-8;M.オーサワ(Osawa)ら、1996、J.Immunol.156:3207-14;表3を参照のこと)。しかしながら、PP6細胞は、CD45もc-Kit造血幹細胞マーカーも発現しなかった(LK.アシュマン(Ashman)、1999、Int.J.Biochem.Cell.Biol.31:1037-51;G.A.コレツキー(Koretzky)、1993、FASEB J.7:420-426に概説される;表3を参照のこと)。
【0028】
本明細書に記載の特性を有するPP6筋肉由来前駆細胞集団が本発明において好ましい。これらの筋肉由来前駆細胞は、デスミン、CD34、およびBcl-2細胞マーカーを発現する。本発明によれば、移植後、長期生存能を有する筋肉由来前駆細胞集団を得るために、本明細書(実施例1)に記載の方法によってPP6細胞を単離する。PP6筋肉由来前駆細胞集団のかなりの割合が、デスミン、CD34、およびBcl-2などの前駆細胞マーカーを発現する細胞である。さらに、PP6細胞はFlk-1およびSca-1細胞マーカーを発現するが、CD45もc-Kitマーカーも発現しない。好ましくは、PP6細胞の95%以上がデスミン、Sca-1、およびFlk-1マーカーを発現するが、CD45もc-Kitマーカーも発現しない。PP6細胞は、最後のプレーティング後、約1日または約24時間以内に用いられることが好ましい。
【0029】
プレプレーティング法の代替法として、本発明のMDCは、MDCにより発現される1種類またはそれ以上の種類の細胞表面マーカーに対する標識抗体を用いた蛍光標示式細胞分取(FACS)分析によって単離することができる(C.ウェブスター(Webster)ら、1988、Exp.Cell.Res.174:252-65;J.R.ブラントン(Blanton)ら、1999、Muscle Nerve 22:43-50)。例えば、FACS分析は、宿主組織に導入した場合に長期生存能を示すPP6様細胞集団を選択するために、CD34、Flk-1、Sca-1、および/または本明細書に記載の他の細胞表面マーカーに対する標識抗体を用いて行うことができる。本発明はまた、異なる細胞マーカータンパク質を抗体検出するために1種類またはそれ以上の種類の蛍光検出標識(例えば、フルオレセインまたはローダミン)の使用を含む。
【0030】
筋肉由来細胞に基づく治療
本発明の1つの態様において、MDCは骨格筋供給源から単離され、目的の筋肉性軟部組織部位もしくは非筋肉性軟部組織部位または骨構造に導入または移植される。有利なことに、本発明のMDCは、移植後に長期生存を示す多数の前駆細胞を含むように単離および濃縮される。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞は、デスミン、CD34、およびBcl-2などの多数の特徴的な細胞マーカーを発現する。さらに、本発明の筋肉由来前駆細胞はSca-1およびFlk-1細胞マーカーを発現するが、CD45もc-Kit細胞マーカーも発現しない(実施例1を参照のこと)。
【0031】
本発明のMDCおよびMDC含有組成物は、筋肉性軟部組織または非筋肉性軟部組織の増大によって、様々な審美的な状態または機能性の状態(例えば、欠陥)を修復、治療、または改善するために使用することができる。特に、このような組成物は、1)皮膚の美容的および審美的な状態;2)管腔の状態;3)胃食道逆流の症状または状態;4)大便失禁;5)骨格筋の脱力、疾患、傷害、または機能不全;6)平滑筋の脱力、疾患、傷害、または機能不全;ならびに7)先天性、変性、または外傷性の脊椎円板の症状または状態(背中の痛みおよび円板の欠陥を含む)を治療するための軟部組織肥厚剤として使用することができる。さらに、このようなMDCおよびその組成物は、疾患または外傷のない軟部組織の部位、開口部、くぼみ、または空隙に容積(bulk)を付け加えることによって、傷害に関連しない軟部組織を増大するために(例えば、ひだを「平らにする」または切除するために)使用することができる。MDCの複数回の投与および連続的な投与もまた本発明に含まれる。
【0032】
MDCに基づく治療のために、骨格筋外植片は、好ましくは、自己または異種(すなわち、同種異系)のヒトまたは動物供給源から得られる。自己の動物またはヒト供給源が好ましいが、多くの場合、同種異系筋肉由来幹細胞が使用に非常に適している。次いで、MDC組成物が本明細書に記載のように調製および単離される。本発明によるMDCおよび/またはMDC含有組成物をヒトまたは動物レシピエントに導入または移植するために、単核筋肉細胞の懸濁液が調製される。このような懸濁液は、生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤に溶解した本発明の筋肉由来前駆細胞の濃縮物を含む。例えば、被検体に投与するためのMDC懸濁液は、ウシ胎仔血清の代替として被検体の血清を含むように改変された滅菌完全培地溶液1mlにつき108〜109個の細胞を含んでもよい。または、MDC懸濁液は、凍結保存液(セロックス ラボラトリーズ(Celox Laboratories)、St.Paul、MN)などの血清を含まない滅菌溶液でもよい。次いで、MDC懸濁液は、例えば、注射によって、1つまたはそれ以上のドナー組織部位に導入することができる。
【0033】
説明された細胞は、生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む薬学的または生理学的に許容される製剤または組成物として投与し、ヒトおよび非ヒト動物を含む目的のレシピエント生物の組織に投与することができる。MDC含有組成物は、細胞を適切な液体または溶液(例えば、滅菌生理食塩水または他の生理学的に許容される注射可能な水溶液)に再懸濁することによって調製することができる。このような組成物において使用しようとする成分の量は当業者によって日常的に決定することができる。
【0034】
MDCまたはその組成物は、MDC懸濁液を吸収材料または付着材料(すなわち、コラーゲンスポンジマトリックス)の上に配置し、MDC含有材料を目的の部位の中にまたは目的の部位の上に挿入することによって投与することができる。または、MDCは、皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射、および胸骨内注射を含む非経口注射経路によって投与することができる。他の投与方法として、鼻腔内、クモ膜下、皮内、経皮、腸内、および舌下が挙げられるが、これに限定されない。本発明の1つの態様において、MDC投与は内視鏡手術によって行うことができる。
【0035】
注射投与のために、組成物は滅菌された溶液もしくは懸濁液に溶解するか、または薬学的および生理学的に許容される水性もしくは油性ビヒクルに再懸濁することができる。ビヒクルは、防腐剤、安定剤、および溶液または懸濁液をレシピエントの体液(すなわち、血液)と等張にするための材料を含んでもよい。使用に適した賦形剤の限定しない例として、水、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)、0.15M塩化ナトリウム水溶液、デキストロース、グリセロール、希エタノールなど、およびその混合物が挙げられる。例示的な安定剤は、ポリエチレングリコール、タンパク質、糖類、アミノ酸、無機酸、および有機酸であり、単独でまたは混合物として使用してもよい。使用される量または分量ならびに投与経路は個々に決定され、同様の種類の用途または指示で用いられる、当業者に周知の量および指示に対応する。
【0036】
移植の成果を最高に高めるために、ドナーとレシピエントの間でのできる限り最も近い免疫学的一致が望ましい。自己供給源が入手できない場合、入手可能な最も近い一致を確かめるために、ドナーおよびレシピエントのクラスIおよびクラスII組織適合抗原を分析することができる。これによって免疫拒絶が最小限になるか、または無くなり、免疫抑制療法または免疫調節療法が少しで済むようになる。必要に応じて、移植処置の前、間、および/または後に、免疫抑制療法または免疫調節療法を開始することができる。例えば、シクロスポリンAまたは他の免疫抑制薬を移植レシピエントに投与することができる。免疫寛容もまた、当技術分野において周知の代替法によって移植前に誘導することができる(D.Jワット(Watt)ら、1984、Clin.Exp.Immunol.55:419;D.ファウストマン(Faustman)ら、1991、Science 252:1701)。
【0037】
本発明と一致して、MDCは、骨、上皮組織(すなわち、皮膚、管腔など)、結合組織(すなわち、脂肪、軟骨、靭帯、リンパなど)、筋組織(すなわち、骨格筋/横紋筋または平滑筋)、ならびに様々な器官組織(例えば、消化器系に関連する器官(すなわち、口腔、舌、食道、胃、肝臓、膵臓、胆嚢、腸、肛門など)、心臓血管系に関連する器官(すなわち、心臓、静脈、動脈、毛細血管など)、呼吸器系に関連する器官(すなわち、肺、気管など)、生殖器系に関連する器官(すなわち、精管、陰嚢、精巣、陰茎、ファローピウス管、膣、陰核、子宮、乳房、卵巣、外陰など)、泌尿器系に関連する器官(すなわち、膀胱、尿道、尿管、腎臓など)、および神経系に関連する器官(すなわち、脳、脊髄、神経など))を含む体組織に投与することができる。
【0038】
MDC懸濁液中の細胞数および投与方法は、治療される部位および状態によって異なってもよい。限定しない例として、本発明によれば、膀胱平滑筋組織における約8mm直径の凍結損傷領域を治療するために約1〜1.5×106MDCが注射され(実施例6を参照のこと)、その一方で、約5mmの頭蓋骨欠陥領域を治療するためにコラーゲンスポンジマトリックスを介して約0.5〜1.0×106MDCが投与される(実施例9を参照のこと)。本明細書に開示される実施例と一致して、当業者は、各症例について決定される必要条件、制限、および/または最適化に従ってMDCに基づく治療の量および方法を調節することができる。
【0039】
皮膚の状態
本発明によるMDCおよびその組成物は、美容的処置(例えば、形成外科または老化防止処置)において軟部組織を増大するための材料としてかなり有用である。特に、このようなMDCおよびMDC含有組成物は、ヒトまたは動物被検体における様々な皮膚の状態(創傷、ひだ、しわ、非外傷起源の皮膚のくぼみ、皮膚萎縮線条、陥没した瘢痕、尋常性座瘡の傷跡、および唇の形成不全が挙げられるが、これに限定されない)を治療するために使用することができる。より詳細には、本発明のMDCおよび組成物は、顔(特に、眼の周囲の領域)のひだ、しわ、または皮膚のくぼみを治療するために使用することができる。皮膚の状態を治療するために、MDCは本明細書に開示されるように調製され、次いで、欠陥を充填、肥厚、または修復するために、例えば、注射によって皮膚に皮下投与または皮内投与される。必要に応じて、深い皮膚のくぼみまたは欠陥ならびに表面のくぼみまたは欠陥を修復するように、導入されるMDCの数が調節される。例えば、約5mmの皮膚領域を増大するために、約1〜1.5×106MDCが用いられる(実施例3を参照のこと)。
【0040】
管腔の状態
別の態様において、本発明によるMDCおよびその組成物は、動物またはヒトを含む哺乳動物被検体における管腔の状態の治療剤としてさらに有用である。特に、筋肉由来前駆細胞は、体内の様々な生物学的管腔または空隙を完全にまたは部分的にブロック、強化、拡大、密閉、修復、肥厚、または充填するために用いられる。管腔として血管、腸、胃、食道、尿道、膣、ファローピウス管、精管、および気管が挙げられるが、これに限定されない。空隙として、様々な組織創傷(すなわち、外傷による筋肉および軟部組織容積の喪失;発射物の貫通による軟部組織の破壊(例えば、刺創または射創);疾患による軟部組織の喪失または組織の外科的除去による組織死(乳癌の乳房切除術後の乳房組織の喪失もしくは肉腫などを治療するための外科手術後の筋組織の喪失を含む)、動物またはヒトを含む哺乳動物の体内に存在し得る障害、亀裂、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、および他の望ましくないまたは好ましくないくぼみまたは開口部が挙げられ得るが、これに限定されない。管腔の状態を治療するために、MDCは本明細書に開示されるように調製され、次いで、空隙を充填または修復するために、例えば、注射または静脈内送達によって管腔組織に投与される。必要に応じて、軟部組織環境における大きな空隙または小さな空隙を修復するように、導入されるMDCの数が調節される。
【0041】
括約筋の状態
本発明によるMDCおよびその組成物はまた、動物またはヒトを含む哺乳動物において括約筋の傷害、脱力、疾患、または機能不全を治療するために使用することができる。特に、MDCは、食道括約筋、肛門括約筋、噴門括約筋、幽門括約筋、および尿道括約筋の組織を増大するために使用される。さらに詳細には、本発明は、胃食道逆流の症状、尿失禁、および大便失禁に対する軟部組織増大治療を提供する。括約筋欠陥を治療するために、MDCは本明細書に開示されるように調製され、次いで、さらなる容積、充填、または支持体を提供するために、例えば、注射によって括約筋組織に投与される。必要に応じて、様々な量の肥厚材料を生じるように、導入されるMDCの数が調節される。例えば、約5mmの胃食道接合部領域または約5〜10mmの肛門括約筋領域を増大するために、約1〜1.5×106MDCが用いられる(実施例4を参照のこと)。
【0042】
筋肉の増大および収縮性
本発明のさらに別の態様において、ヒトまたは動物被検体における筋肉の状態を治療するためにMDCおよびその組成物が用いられる。特に、MDCは、傷害、疾患、不活動性、または酸素欠乏もしくは外科手術による外傷により引き起こされる脱力または機能不全を治療するために骨格筋または平滑筋を増大するために使用することができる。さらに詳細には、本発明は、スポーツ関連傷害などの骨格筋の脱力または機能不全に対する治療を提供する。本発明はまた、心不全または心筋梗塞関連傷害などの平滑筋の疾患または機能不全に対する治療を提供する。
【0043】
筋肉の増大または筋肉に関連した状態の治療のために、MDCは前記のように調製され、さらなる容積、充填、または支持体を提供するために、例えば、注射によって筋組織に投与される。当業者に理解されるように、必要または要求に応じて、様々な量の肥厚材料を生じるように、導入されるMDCの数が調節される。例えば、約5mmの心臓組織領域を増大するために、約1〜1.5×106MDCが注射される(実施例7を参照のこと)。
【0044】
さらに、MDCおよびその組成物は、平滑筋組織(例えば、例として胃腸管組織、食道組織、および膀胱組織)における収縮性に影響を及ぼすために使用することができる。実際に、実施例6で証明されるように、凍結損傷を受けた膀胱組織における筋肉収縮性は、筋肉由来前駆細胞(すなわち、MDC)を導入した後に回復することが示された。従って、本発明はまた、筋肉収縮の回復および/または平滑筋収縮性問題(例えば、食道平滑筋、胃平滑筋、および腸平滑筋を含む胃腸管運動性の低下)の改善もしくは克服における本発明のMDCの使用を含む。本発明のMDCが改善、軽減、または矯正することができる状態の特定の限定しない例は、胃不全麻痺(すなわち、胃の不十分な運動性および内容排出)である。
【0045】
遺伝子操作された筋肉由来細胞
本発明の別の局面において、本発明のMDCは、1種類またはそれ以上の種類の活性生体分子をコードする核酸配列を含むように、およびこれらの生体分子(タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ホルモン、代謝産物、薬物、酵素などを含む)を発現するように遺伝子操作することができる。このようなMDCは、ヒトを含むレシピエントに対して組織適合性(自己)でもよく、非組織適合性(同種異系)でもよい。これらの細胞は、様々な治療のための(例えば、癌、移植拒絶、筋肉および神経組織の再生、糖尿病、肝不全、腎不全、神経の欠陥および疾患(例えば、パーキンソン病)などの疾患および病理の治療のための)、ならびに遺伝子産物(例えば、本明細書に記載の治療剤)を組織増大部位または空隙充填部位に送達するための長期局所送達系として働くことができる。
【0046】
レシピエントに異物として認識されない自己筋肉由来前駆細胞が本発明において好ましい。この点に関して、細胞を介した遺伝子導入または遺伝子送達に用いられるMDCを、望ましくは、主要組織適合遺伝子座(ヒトではMHCまたはHLA)に関して適合させる。このようなMHCまたはHLAが適合する細胞は自己細胞でもよい。または、このような細胞は、同一または同様のMHCまたはHLA抗原プロフィールを有する人間からの細胞でもよい。患者はまた、同種異系MHC抗原に対して寛容であってもよい。本発明はまた、米国特許5,538,722号に記載のようなMHCクラスIおよび/またはII抗原を欠く細胞の使用を含む。
【0047】
MDCは、様々な分子的技術および当業者に周知の方法(例えば、トランスフェクション、感染、または形質導入)によって遺伝子操作することができる。本明細書で使用する形質導入は、一般的に、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを細胞に導入することによって外来遺伝子または異種遺伝子を含むように遺伝子操作された細胞を意味する。トランスフェクションは、より一般的に、プラスミドまたは非ウイルスベクターに含まれる外来遺伝子を含むように遺伝子操作された細胞を意味する。MDCは様々なベクターによってトランスフェクトまたは形質導入することができ、従って、発現産物を筋肉に導入するための遺伝子送達ビヒクルとして働くことができる。
【0048】
ウイルスベクターが好ましいが、当業者は、例えば、米国特許第5,538,722号に記載のように当技術分野において周知の方法(融合、トランスフェクション、リポソームの使用を介したリポフェクション、エレクトロポレーション、DEAE-デキストランまたはリン酸カルシウムを用いた沈殿、核酸コーティング粒子(例えば、金粒子)を用いた微粒子銃(バイオリスティック)、マイクロインジェクションなどを含む)によって、望ましいタンパク質またはポリペプチド、サイトカインなどをコードする核酸配列を含むように細胞を遺伝子操作できることを理解するだろう。
【0049】
生理活性産物を発現するために異種(すなわち、外来)核酸(DNAまたはRNA)を筋肉細胞に導入するためのベクターが当技術分野において周知である。このようなベクターは、プロモーター配列(好ましくは、細胞特異的であり、発現しようとする配列の上流に位置するプロモーター)を有する。ベクターはまた、選択的に、ベクターに含まれる核酸配列の成功したトランスフェクションおよび発現の指標として発現するための1つまたはそれ以上の発現可能なマーカー遺伝子を含んでもよい。
【0050】
本発明の筋肉由来細胞のトランスフェクションまたは感染のためのビヒクルまたはベクター構築物の例示的な例として、複製欠損ウイルスベクター、DNAウイルスまたはRNAウイルス(レトロウイルス)ベクター(例えば、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクター)が挙げられる。アデノ随伴ウイルスベクターは一本鎖であり、複数コピーの核酸を細胞の核に効率的に送達するのを可能にする。アデノウイルスベクターが好ましい。このベクターは、通常、原核生物DNAを実質的に含まず、多数の異なる機能的核酸配列を含むことができる。このような機能的配列の例として、筋肉細胞において活発なプロモーター(例えば、強力なプロモーター、誘導性プロモーターなど)およびエンハンサーを含む、転写開始調節配列および転写終結調節配列ならびに翻訳開始調節配列および翻訳終結調節配列を含むポリヌクレオチド(例えば、DNAまたはRNA)配列が挙げられる。
【0051】
機能的配列の一部として、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ポリヌクレオチド配列)も含まれる。部位特異的組み込みのために隣接配列も含んでもよい。ある場合では、5'隣接配列が相同組換えを可能にし、従って、一例として、誘導性転写または非誘導性転写が転写レベルの増加または減少をもたらすように転写開始領域の状態を変える。
【0052】
一般的に、筋肉由来前駆細胞により発現されることが所望される核酸配列は、筋肉由来前駆細胞にとって異物であり、例えば、望ましいタンパク質またはポリペプチド産物をコードする、構造遺伝子、またはその遺伝子の機能的断片、セグメント、もしくは一部の核酸配列である。コードされ、発現される産物は細胞内にあってもよく(すなわち、細胞の細胞質、核、細胞小器官に保持される)、細胞によって分泌されてもよい。分泌のために、構造遺伝子に存在する天然のシグナル配列が保持されてもよく、構造遺伝子に天然に存在しないシグナル配列が用いられてもよい。ポリペプチドまたはペプチドが、より大きなタンパク質の断片である場合、分泌およびプロセシング部位でのプロセシングの際に望ましいタンパク質が天然配列を有するように、シグナル配列を作成してもよい。本発明による使用のための目的の遺伝子の例として、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子、およびプログラム細胞死因子をコードする遺伝子が挙げられる。特定の例として、BMP-2(rhBMP-2)、IL-1Ra、第IX因子、およびコネクシン43をコードする遺伝子が挙げられるが、これに限定されない。
【0053】
前記のように、ベクター構築物を含む細胞の選択のためにマーカーが存在してもよい。マーカーは誘導性遺伝子でも非誘導性遺伝子でもよく、一般的に、それぞれ誘導下でまたは誘導なしで正の選択を可能にする。一般的に用いられるマーカー遺伝子の例として、ネオマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グルタミン合成酵素などが挙げられる。
【0054】
使用されるベクターはまた、一般的に、当業者が日常的に使用するような複製起点および宿主細胞での複製に必要な他の遺伝子を含む。一例として、特定のウイルスによってコードされる複製起点および複製に関連する任意のタンパク質を含む複製系が構築物の一部として含まれてもよい。複製系は、複製に必要な産物をコードする遺伝子が筋肉由来細胞を最終的に形質転換しないように選択しなければならない。このような複製系は、複製欠損アデノウイルス(例えば、アクサジ(Acsadi)ら、1994、Hum.Mol.Genet.3:579-584に記載のように構築される)およびエプスタインバーウイルスによって代表される。複製欠損ベクター(特に、複製欠損レトロウイルスベクター)の例は、プライス(Price)ら、1987、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84:156およびサネス(Sanes)ら、1986、EMBO J.、5:3133に記載のBAGである。最終的な遺伝子構築物は、目的の1つまたはそれ以上の遺伝子(例えば、生理活性代謝分子をコードする遺伝子)を含んでもよいことが理解されると思われる。さらに、当業者に周知であり、当業者によって実施される方法およびプロトコールを用いて、cDNA、合成的に作成されたDNA、または染色体DNAを使用してもよい。
【0055】
所望であれば、細胞をインビボで注射する前に細胞を遺伝子操作するために感染性複製欠損ウイルスベクターを使用してもよい。これに関して、ベクターは、両栄養性パッケージング用のレトロウイルス産生細胞に導入することができる。筋肉由来前駆細胞が隣接領域に自然に広がれば、目的の部位の中へ、または目的の部位でたくさん注射しないで済むようになる。
【0056】
別の局面において、本発明は、望ましい遺伝子産物をコードする異種遺伝子を含むように操作されたアデノウイルスベクターを用いてウイルス形質導入されたMDC(例えば、初期前駆筋肉細胞)を用いた、ヒトを含むレシピエント哺乳動物宿主の細胞および組織へのエクスビボ遺伝子送達を提供する。このようなエクスビボアプローチは、直接遺伝子導入法より優れた効率的なウイルス遺伝子導入の利益をもたらす。このエクスビボ手順は、筋組織の単離細胞からの筋肉由来前駆細胞の使用を伴う。筋肉由来前駆細胞供給源として役立つ筋肉生検材料は、傷害部位から、または臨床外科医からさらに容易に得ることができる別の領域から得ることができる。
【0057】
本発明によれば、当技術分野において周知の様々な手順(例えば、組織培地中での限界希釈培養)を用いて、筋肉由来前駆細胞(すなわち、PP6細胞)集団からクローン分離株を入手できることが理解されると思われる。クローン分離株は、1個単一の細胞に由来する遺伝的に同一の細胞を含む。さらに、クローン分離株は、前記のFACS分析、その後に、クローン分離された細胞株を樹立するためにウェル1個につき1個の細胞を得るような限界希釈を用いて得ることができる。PP6細胞集団から得られるクローン分離株の一例は、実施例9で述べられるmc13である。好ましくは、MDCクローン分離株は、本発明の方法において、ならびに1種類またはそれ以上の種類の生理活性分子を発現するための遺伝子操作に、または遺伝子置換療法において用いられる。
【0058】
最初に、望ましい遺伝子産物をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む操作されたウイルスベクターをMDCに感染させ、MDCを、生理学的に許容される担体または賦形剤(例えば、食塩水またはリン酸緩衝食塩水)に懸濁し、次いで、宿主の適切な部位に投与する。本発明と一致して、MDCは、骨、上皮組織、結合組織、筋組織、および様々な器官組織(例えば、前記のような消化器系、心臓血管系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系、および神経系に関連する器官)を含む体組織に投与することができる。望ましい遺伝子産物は感染細胞によって発現され、従って、遺伝子産物が宿主に導入される。導入および発現された遺伝子産物は、宿主において長期生存能を有する本発明のMDCによって長期間にわたって発現されるため、傷害、機能不全、または疾患を治療、修復、または改善するために使用することができる。
【0059】
筋芽細胞を介した遺伝子療法の動物モデル研究において、筋肉酵素欠陥の部分的な矯正のために筋肉100mgにつき106個の筋芽細胞の埋め込みが必要とされた(J.E.モルガン(Morgan)ら、1988、J.Nerve.Sci.86:137;T.A.パートリッジら、1989、Nature 337:176を参照のこと)。このデータから推測すると、遺伝子療法のために70kgの人間につき、生理学的に適合する培地に懸濁した約1012個のMDCを筋組織に移植することができる。この数の本発明のMDCは、ヒト供給源からの1つの骨格筋生検材料100mgから生成することができる(以下を参照のこと)。特定の傷害部位の治療のために、所定の組織または傷害部位への遺伝子操作MDCの注射液は、溶液または懸濁液に溶解された治療有効量の細胞(好ましくは、治療しようとする組織1cm3につき、生理学的に許容される培地に溶解された約105〜106個の細胞)を含む。
【0060】
同種異系筋肉由来幹細胞は効果的な細胞移植をもたらす
本発明の別の局面において、記載のような後期プレプレート(例えば、PP5-6)のMDSCを非自己(同種異系)宿主に注射することによって、細胞が効率的に移植される。例えば、注射の30日後に宿主筋肉において、多数の細胞を含む同種異系移植片が観察された(例えば、3×105個の非宿主起源の筋肉由来幹細胞を注射した後に、2000個を超えるジストロフィン+筋原線維が宿主筋肉で見出された)(実施例10)。この結果から、注射されたMDSCは、注射後の一般的に不十分な拡散および悪い生存率を回避しただけでなく、 (例えば、異なるマウス系統のように、宿主と起源が異なる様々な移植ドナーMDSC間での細胞移植でよく観察される) 宿主筋肉における免疫拒絶を回避したことも分かる。この結果から、非自己筋肉由来幹細胞は宿主の患部筋肉における細胞療法の効率を著しく改善したことが証明された。さらに、MDSCは、免疫寛容(immunoprivileged)となっていると考えられる。後期プレプレーティング(例えば、PP5または6)の同種異系MDSC細胞は、異なる系統の宿主動物に注射または移植された場合、初期プレプレート(例えば、PP1-2またはPP1-4)の非幹細胞より10倍以上長く生き残る。
【0061】
表1は、mdx宿主マウスに移植された正常なMDSC[EP]およびMDSC[LP]細胞の使用を比較した実施例10および図17A-17Fに記載の結果を示す。表1のデータは、MDSC[EP]またはMDSC[LP]幹細胞が注射されたmdx筋肉において見出されたジストロフィン陽性(ジストロフィン+)筋原線維の数を示す。
【0062】
(表1)
3〜6個の筋肉/群;M=平均;SD=標準偏差
【0063】
後期プレプレート細胞のMDSCの免疫寛容状態は、MDSCが末梢注射された場合に胸腺に移動することができる、および胸腺に移動することを示す免疫組織化学結果(デスミン染色)によって裏付けられた。その後、注射されたMDSCはTリンパ球に分化し、キメラ寛容を誘導する可能性がある(例えば、図19--末梢MDSC注射後の陽性デスミン胸腺染色)。
【0064】
さらに、MDSC[EP]と比較して、MDSC[LP]の中には、宿主動物に注射された後に成熟筋肉細胞または異なる系統に分化できるものだけでなく、宿主筋肉に注射された場合に衛星細胞に分化できるものもある。このような場合、MDSC[LP]細胞集団は、筋肉に、ならびに衛星細胞の部位である筋原線維基底膜に局在する。MDSC[LP]に由来し、筋原線維基底膜に局在する細胞は、時間が経つにつれてM-カドヘリン陽性となる。これらの部位で新たに生じた衛星細胞は、例えば、宿主筋原線維が死んだ場合に新たな筋原線維を形成することができる。理論に拘束されるものではないが、筋原線維基底膜に移動するMDSC[LP]は、MDSC[LP]の衛星細胞への発生を引き起こす、この部位でのおよびこの部位の周囲のシグナルまたは因子に応答するかもしれない。従って、MDSC[LP]注射は、衛星細胞が存在および発生する宿主筋肉部位で衛星細胞を形成する、将来持続する筋肉前駆細胞集団を供給する手段となる。
【0065】
本発明の別の局面によれば、ドナー-宿主不適合による拒絶問題が最小限で、または拒絶問題なしで、適切なガイドラインならびに承認された条件および規制の下で移植手法および治療においてヒト胎児または胚のMDSCを使用することができる。例えば、注射後2週間を超えてSCIDマウスにおいて存続できたように(図18Aおよび18B)、胎児足筋肉由来ヒトMDSCは免疫寛容となっており、高レベルの生存能を示すことが見出された。従って、本発明によれば、かつ適切なガイドライン、規制、および条件の下で、例えば、本明細書に記載のMDSC注射または移植の対象となる治療のために、銀行に預けられているヒト胎児MDSCを使用し、任意の患者の組織または器官に注射することができる。
【実施例】
【0066】
本明細書に示す以下の実施例は、本発明を実施する様々な局面を例示および例証することが意図され、どのようにも、本発明を限定することが意図されない。
【0067】
実施例1:MDCの濃縮、単離、および分析
MDCの濃縮および単離
MDCは、チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号に記載のように調製した。筋肉外植片は、多数の供給源(すなわち、3週齢のmdx(ジストロフィー)マウス(C57BL/10ScSn mdx/mdx、ジャクソン研究所(Jackson Laboratories))、4〜6週齢の正常雌SD(スプラーグ・ドーリー)ラット、またはSCID(重症複合免疫不全症)マウス)の後足から得た。各動物供給源からの筋組織を解剖して、骨を取り出し、切り刻んでスラリーにした。次いで、スラリーを、0.2%XI型コラゲナーゼ、ジスパーゼ(グレードII、240単位)、および0.1%トリプシンとの37℃で1時間の連続インキュベーションによって消化した。結果として生じた細胞懸濁液を18、20、および22ゲージ針に通し、3000rpmで5分間遠心分離した。その後、細胞を増殖培地(10%ウシ胎仔血清、10%ウマ血清、0.5%ニワトリ胚抽出物、および2%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM)に懸濁した。次いで、細胞を、コラーゲンコーティングフラスコにプレプレーテイングした(チャンスロールらの特許出願の米国特許出願第09/302,896号)。約1時間後、上清をフラスコから取り出し、新鮮なコラーゲンコーティングフラスコに再プレーテイングした。この1時間インキュベーションで速やかに付着した細胞は大部分が線維芽細胞であった(Z.クー(Qu)ら、前記;チャンスロールらの米国特許出願第09/302,896号)。細胞の30〜40%が各フラスコに付着した後に、上清を取り出し、再プレーテイングした。約5〜6回の連続プレーティングの後、培養物にはPP6細胞と呼ばれる小さな丸い細胞が豊富にあった。PP6細胞を出発細胞集団から単離し、さらなる研究に使用した。初期プレーティングにおいて単離された付着細胞を一緒にプールし、PP1-4細胞と名付けた。
【0068】
mdxPP1-4、mdxPP6、正常PP6、および線維芽細胞集団を、細胞マーカー発現についての免疫組織化学分析によって調べた。この分析の結果を表2に示す。
【0069】
(表2) PP1-4およびPP6細胞集団におて発現する細胞マーカー
mdxPP1-4、mdxPP6、正常PP6、および線維芽細胞をプレプレーティング法によって分け、免疫組織化学分析によって調べた。「-」は細胞の2%未満が発現を示したことを示し;「(-)」;「-/+」は細胞の5〜50%が発現を示したことを示し;「+/-」は細胞の約40〜80%が発現を示したことを示し;「+」は細胞の>95%が発現を示したことを示し;「nor」は正常細胞を示し;「na」は免疫組織化学データが入手できないことを示す。
【0070】
mdxマウスおよび正常マウスは両方とも、このアッセイにおいて試験した全細胞マーカーの同一分布を示したことに留意のこと。従って、mdx変異の存在は、単離されたPP6筋肉細胞由来集団の細胞マーカー発現に影響を及ぼさない。
【0071】
MDCを、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10%HS(ウマ血清)、0.5%ニワトリ胚抽出物、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を含む増殖培地中で、または2%ウシ胎仔血清および1%抗生物質溶液を添加したDMEMを含む融合培地中で増殖させた。全ての培地補給品はギブコ ラボラトリーズ(Gibco Laboratories)(Grand Island、NY)から購入した。
【0072】
実施例2:MDCベクターおよびトランスフェクション
レトロウイルスおよびアデノウイルスベクター
MDC実験のために、MFG-NB(N.フェリー(Ferry)ら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377-81)レトロウイルスベクターを使用した。このベクターは、長末端反復配列(LTR)から転写されるシミアンウイルス(SV40)ラージT抗原からクローニングされた核局在配列を含む改変LacZ遺伝子(NLS-LacZ)を含んでいる。以前に述べられたように(J.C.ファンデュテコム(van Deutekom)ら、1998、Neuromuscul.Disord.8:135-48)、このレトロウイルスストックを増殖および調製した。レトロウイルスの力価を1×107〜1×109cfu/mlにした。
【0073】
アデノウイルスベクターも使用した。このベクターは、ヒトサイトメガロウイルス(HuCMV)プロモーターの制御下にLacZ遺伝子を含んでいた(J.フアード(Huard)ら、1994、Hum Gene Ther 5:949-58)。E1-E3欠失組換えアデノウイルスは、I.コベスディ(Kovesdi)博士(GeneVec Inc.、Rockville、MD)から入手した。
【0074】
MDCのウイルス形質導入
ウイルス形質導入のために、MDCをT75フラスコに1〜1.5×106の密度でプレーテイングした。PP6 MDCをHBSS(ハンクス液)で洗浄し、8μg/mlポリブレン(Polybrene)(商標)(アボット ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)、Chicago、IL)を含むDMEM 5mlに溶解したレトロウイルス(1×107〜1×109cfu/ml)またはアデノウイルス(1×109cfu/ml)懸濁液と37℃で24時間インキュベートした。ウイルス形質導入されたMDCを、増殖培地10ml中で37℃で2時間増殖させた。次いで、MDCをHBSSで洗浄し、0.25%トリプシンで1分間、酵素消化した。処理されたウイルス形質導入されたMDCを3,500rpmで5分間遠心分離し、ペレットをHBSS 20μlに再懸濁した。
【0075】
実施例3:皮膚の軟部組織増大
MDC注射およびコラーゲン注射
SDラットに標準的な方法を用いてハロタンで麻酔をかけ、手術部位をベタジン(Betadine)(登録商標)液で洗浄することによって外科手術の準備をした。ハミルトン微量注射器を用いて、下腹部の皮膚に、HBSSで溶解したMDC懸濁液10マイクロリットル(μl)(約1〜1.5×106細胞)、市販ウシコラーゲン(コンティゲン(Contigen)(商標);C.R.Bard、Covington、GA)10μl、または滅菌食塩水10μlを注射した。注射の5日後、2週間後、および4週間後に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。組織化学分析は、ヘマトキシリン染色、エオシン染色、またはトリクローム染色を含んだ。
【0076】
結果は、MDCが皮膚組織への注射の少なくとも4週間後まで生存したことを証明し、注射部位での組織炎症の証拠はなかった(図1D〜1F)。対照的に、皮膚組織への注射の2週間後、コラーゲンは見えなかった(図1Bおよび1C)。従って、MDC組成物は、例えば、美容的および審美的な用途または外科手術に使用するための皮膚増大材料として使用することができる。移植された筋肉細胞は生存するために、付着する周囲宿主筋繊維を必要とすると以前に考えられていたので、これは予想外の発見である。非筋組織への注射後の本発明のMDCの生存は実施例8および9においてさらに証明される。
【0077】
実施例4:胃食道接合部および肛門括約筋の軟部組織増大
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。胃食道接合部および肛門括約筋を曝露するために腹部正中切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、軟部組織に、HBSSに溶解した筋肉由来前駆細胞懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。注射の3日後、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDC組成物が、胃食道逆流または大便失禁の症状または状態を治療するための食道括約筋および肛門括約筋肥厚材料として使用できることを証明している(図2Aおよび2B)。
【0078】
実施例5:膀胱尿管接合部の軟部組織増大
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。膀胱尿管接合部を曝露するために腹部正中切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、組織に、HBSSに溶解したMDC懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。注射の3日後、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDCに基づく組成物が、膀胱尿管逆流の症状または状態を治療するための尿管膀胱増大材料として使用できることを証明している(図3Aおよび3B)。
【0079】
実施例6:凍結損傷した膀胱組織のMDC治療
凍結傷害およびMDC移植
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。膀胱および尿道を曝露するために下部正中切開を行った。次いで、膀胱を食塩水1mlで満たした。ドライアイスで冷却した8mm直径アルミニウム棒を用いて凍結損傷を行った。冷却した消息子を膀胱壁の一面に15秒間または30秒間当てた(それぞれ、「穏やかな」損傷または「厳しい」損傷と呼ぶ)。凍結傷害直後、厳しい損傷群に本発明の筋肉由来細胞(HBSS 15μlに溶解した1〜1.5×106の細胞)を注射したのに対して、対照の厳しい損傷群にHBSS(15μl)を注射した(n=3/群)。凍結傷害の1週間後、他の穏やかな損傷群および厳しい損傷群に、HBSS 50μlに溶解したMDC懸濁液(2〜3×106細胞)を注射したのに対して、対照の穏やかな損傷群および厳しい損傷群にHBSS 50μlを注射した(n=4/群)。各群について、30ゲージ針およびハミルトン微量注射器を用いて、傷害を受けた領域の中心に注射を行った。
【0080】
平滑筋アクチン(α-SMアクチン)の免疫組織化学染色
免疫組織化学分析用の試料を調製するために、組織または細胞試料を冷アセトンで-20℃で2分間固定し、5%HSで1時間ブロッキングした。試料を、加湿チャンバー内で室温で一晩、マウスモノクローナル抗平滑筋アクチン一次抗体(カタログ番号F-3777;シグマケミカルカンパニー(Sigma Chemical Co.)、St.Louis、MO)(PBS(pH7.4)で1:400に希釈)とインキュベートした。次いで、試料をPBSで3回洗浄し、Cy3蛍光色素結合抗マウスIgG二次抗体(シグマケミカルカンパニー)(PBS(pH7.4)で1:200に希釈)とインキュベートした。
【0081】
ファストミオシン(fast myosin)重鎖(ファストMyHC)の免疫組織化学染色
組織または細胞試料を冷アセトンで-20℃で2分間固定し、5%HSで1時間ブロッキングした。次いで、試料を、加湿チャンバー内で室温で一晩、マウスモノクローナル抗骨格ミオシン(ファスト)一次抗体(カタログ番号M-4276;シグマケミカルカンパニー)(PBS(pH7.4)で1:400に希釈)とインキュベートした。次いで、試料をPBSで3回洗浄し、Cy3結合抗マウスIgG二次抗体(シグマケミカルカンパニー)(PBS(pH7.4)で1:200に希釈)とインキュベートした。
【0082】
細胞培養
実施例1に記載のように調製した筋肉由来前駆細胞を、35mmコラーゲンコーティングディッシュ内の増殖培地にプレーテイングした。24時間後、増殖培地を融合培地と交換した。細胞を融合培地中で維持し、MDCが筋管に分化するまで培地を毎日交換した。
【0083】
収縮性研究
MDC注射の2週間後、動物を安楽死させ、膀胱細片を調製するために使用した。2本の細片を各膀胱から調製し、膀胱の円周に沿うように両細片を切断した。膀胱細片を組織浴に取り付け、神経収縮(20Hz、10回および80回のショック)にかけ、以下に記載のように記録および分析した。
【0084】
組織採取および組織学
SDラットを安楽死させ、注射部位周囲組織の試料を取り出した。液体窒素で予め冷却した2-メチルブタンを用いて、試料を瞬間凍結した。試料の組織化学分析はヘマトキシリン染色およびエオシン染色を含んだ。試料を染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。それぞれのクライオスタット切片の厚さは10μmであった。
【0085】
膀胱平滑筋組織の電気刺激
動物を安楽死させ、素早く膀胱を取り出した。各膀胱から膀胱壁の円周をカバーする2本の細片を得た。95%O2および5%CO2を通気したクレブス液(113mmol/l NaCl、4.7mmol/l KCl、1.25mmol/l CaCl2、1.2mmol/l MgSO4、25mmol/l NaHCO3、1.2mmol KH2PO4、および11.5mmol/lグルコース)を含む5ml器官浴に、細片を取り付けた。初張力を10mNに設定し、等尺性収縮を、TBM4ひずみゲージ増幅器と連結したひずみゲージ変換器(ワールドプレシジョンインスツルメンツ(World Precision Instruments))で測定した。データ収集プログラム(Windaq、 DATAQインスツルメンツインク(DATAQ Instruments,Inc.)、Akron、OH)を用いて収縮測定値を集約した。チャンネル当たりのサンプリングレートを100Hzに設定した。計算プログラム(WindaqEx、 DATAQインスツルメンツインク)を用いて、収縮の振幅をコンピュータで計算した。20分の平衡期間後、器官浴の上部および下部にある4cm離れた2本の白金ワイヤ電極によって、電場刺激を加えた。実験の間、温度を37℃に維持した。
【0086】
膀胱平滑筋組織の化学刺激
膀胱細片を、継続時間0.25msecと最大電圧(100V)の四角波パルスで刺激し、1Hz、2Hz、5Hz、10Hz、20Hz、または40Hzで10回または80回のショックを用いて周波数応答曲線を作成した。電気刺激後、収縮を誘導するために5μM、10μM、または20μMカルバコールを膀胱細片に添加した。平行実験において、1μMアトロピンを添加し、電気刺激を前記のように加え、収縮を誘導するために50μMメチレンATPを添加した。
【0087】
神経支配の染色
平滑筋におけるMDCの再神経支配を評価するためにアセチルコリン(Ach)染色を使用した。Achは、神経終末の存在を示す神経筋接合部の染色である。MDC注射の3日後、15日後、30日後、または6ヵ月後に組織を切除し、Ach染色し、顕微鏡で観察し、写真を撮った。
【0088】
統計解析
値は平均±標準偏差として報告する。0.05未満の「P」値が統計的に有意であるとみなされた。スチューデント試験を使用した。
【0089】
MDC分化
実施例1に記載のように調製した筋肉由来前駆細胞を細胞分化について評価した。α-SMアクチンは、知られているうちで最古の平滑筋細胞表現型マーカーであり(K.M.マクフュー(McHugh)、1995、Dev.Dyn.204:278-90)、主要な筋線維芽細胞表現型マーカーである(I.ダービー(Darby)ら、1990、Lab.Invest.63:21-9)。筋肉細胞分化の間、α-SMアクチン発現は減少するのに対して、ファストMyHC発現は増加する。α-SMアクチンおよびファストMyHCマーカーを用いた、MDCで治療された膀胱組織の組織化学分析によって、凍結傷害部位への注射後にMDCが分化することが証明された。凍結損傷を受けた膀胱組織への注射の5日後に、いくつかのMDC(少なくとも20%)がα-SMアクチン染色を示す(図5B)。このことは、細胞がまだ分化していないことを示している。しかしながら、注射の6ヵ月後、α-SMアクチン染色の減少(図5F)および付随するファストMyHC染色の増加(図5l)によって示されるように、実質的に全てのMDCが筋管または筋原線維に分化していた。
【0090】
筋肉再神経支配
アセチルコリン(Ach)は神経筋接合部に存在するので、筋肉神経支配の指標として役立つ。Achマーカーを用いた、MDCで治療された膀胱組織の組織化学分析によって、凍結損傷部位への注射後のMDCの再神経支配が証明された。凍結損傷を受けた膀胱組織への注射の3日後、比較的低レベルのAch染色により示されるように(図6A)、注射されたMDCはわずかな神経支配しか示さない。注射の15日後に、増大したレベルのAch染色により示されるように(図6B)、増大したレベルの神経支配が観察された。注射の30日後に、神経支配がさらに増加したことを示す、さらに多くのAch染色が観察された(図6C)。注射の6ヵ月後に、低倍率で見られるMDC注射領域全体にわたるかなりのAch染色により示されるように(図6D)、広範囲の神経支配が観察された。これらの結果から、骨盤神経が膀胱のMDC注射領域内に成長していることが分かり、MDCは注射組織の収縮性および機能を改善できることが示唆される。
【0091】
収縮性生理学研究
注射されたMDCが治療された膀胱組織の機能を改善したかどうかを確かめるために、いくつかの収縮性研究をやり遂げた(前記を参照のこと)。表3は、凍結傷害後にMDCを注射した、またはMDCを注射しなかった膀胱筋肉の収縮パラメータを示すデータを示す。
【0092】
(表3) 凍結傷害後の膀胱筋肉の収縮パラメータ
値は平均±標準偏差である。統計解析のために、対照群およびMDC注射群に対してスチューデント試験を行った。群番号1:凍結傷害直後にMDCを注射した厳しい損傷群。群番号2:凍結損傷の1週間後にMDCを注射した穏やかな損傷群。群番号3:凍結損傷の1週間後にMDCを注射した厳しい損傷群。群番号4:正常な膀胱組織。
【0093】
凍結傷害直後にMDCを注射した厳しい損傷群(群1)は、対照(偽)群と同様の収縮性を示した(群1、表3の偽およびMDC横列に示される収縮性レベルを比較のこと)。しかしながら、凍結損傷の1週間後にMDCを注射した厳しい損傷群(群3)は、対照群と比較して増加した収縮振幅(20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで、それぞれ対照膀胱の145%および161%)を示した(表3の偽およびMDC横列に示されるアステリスクで示した収縮振幅レベルを比較のこと)。同様に、凍結損傷の1週間後にMDCを注射した厳しい損傷群(群3)は、対照群と比較して増加した収縮速度(20Hz/10ショックおよび20Hz/80ショックで、それぞれ対照細片の119%および121%)を示した(群3、表3の偽およびMDC横列に示される収縮速度値を比較のこと)。凍結損傷の1週間後にMDCを注射した穏やかな損傷群(群2)もまた、対照群と比較して増加した収縮振幅および収縮速度を示した(群2、表3の偽およびMDC横列に示される収縮レベルを比較のこと)。これらの研究の結果から、MDC注射は凍結損傷を受けた膀胱筋組織の収縮性を回復させることができ、MDCに基づく組成物は尿失禁の治療に使用できることが分かる。
【0094】
実施例7:心筋の軟部組織増大
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。心臓を曝露するために胸部切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、心室壁に、HBSSで溶解したMDC懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。3日目に、各注射部位周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDC組成物が、心不全または心筋梗塞に派生した傷害または脱力を治療するための心筋軟部組織増大材料として使用できることを証明している(図7Aおよび7B)。
【0095】
実施例8:肝臓、脾臓、および脊髄組織へのMDC注射
前記のように、SDラットに外科手術の準備をした。肝臓および脾臓を曝露するために腹部正中切開を行った。ハミルトン微量注射器を用いて、両部位に、HBSSに溶解したMDC懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。同時に、脊髄を曝露するために背部正中切開および部分的な椎弓切除を行った。次いで、肝臓および脾臓組織に行ったように、レベルT10の脊髄組織に、HBSSに溶解したMDC懸濁液を注射した。4日目に、各注射部位の周囲の領域を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験は、MDC組成物が、様々な肝臓、脾臓、および脊髄の傷害、疾患、または機能不全を治療するための肝臓、脾臓、および脊髄の軟部組織増大材料として使用できることを示している(図8A-8B、9A-9B、および10A-10B)。
【0096】
実施例9:骨欠陥のMDC治療
筋肉由来細胞の単離
MDCは、実施例1に記載のようにmdxマウスから得た。
【0097】
PP6筋肉由来前駆細胞のクローン単離
PP6細胞集団からクローンを単離するために、PP6細胞を、LacZ、ミニジストロフィン、およびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドでトランスフェクトした。簡単に述べると、pPGK-NEOからのネオマイシン耐性遺伝子を含むSmaI/SalI断片を、LacZ遺伝子を含むplEPlacZプラスミドのSmaI/SalI部位に挿入して、pNEOlacZプラスミドを作成した。ジストロフィン遺伝子の短縮型を含むDysM3からのXhoI/SalI断片(K.ユアサ(Yuasa)ら、1998、FEBS Lett.425:329-336;タケダ(Takeda)博士、Japanから寄贈)をpNEOlacZのSalI部位に挿入して、ミニジストロフィン、LacZ、およびネオマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドを作成した。トランスフェクション前に、このプラスミドをSalI消化で線状化した。
【0098】
リポフェクタミン試薬(ギブコBRL)を用い、製造業者の説明書に従って、PP6細胞を、ミニジストロフィン、LacZ、およびネオマイシン耐性遺伝子を含む線状プラスミド10μgでトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後、3000μg/mlのG418(ギブコBRL)を用いて細胞を選択し、10日で別個のクローンが現れた。次いで、大量のトランスフェクト細胞を得るためにクローンを単離および増殖し、次いで、LacZ発現について試験した。これらのPP6由来クローンの1つmc13をさらなる研究に使用した。
【0099】
免疫組織化学
PP6、mc13、およびマウス線維芽細胞を6ウェル培養皿にプレーテイングし、冷メタノールで1分間固定した。次いで、細胞をリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、5%ウマ血清で室温で1時間ブロックした。一次抗体を以下のようにPBSで希釈した:抗デスミン(1:100、シグマ)、ビオチン化抗マウスCD34(1:200、ファーミンゲン(Pharmingen))、ウサギ抗マウスBcl-2(1:500、ファーミンゲン)、ウサギ抗マウスM-カドヘリン(1:50、A.ウェリング(Wernig)博士から寄贈)、マウス抗マウスMyoD(1:100、ファーミンゲン)、マウス抗ラットミオゲニン(1:100、ファーミンゲン)、ウサギ抗マウスFlk-1(1:50、リサーチ ダイアグノスティクス(Research Diagnostics))、およびビオチン化Sca-1(1:100、ファーミンゲン)。細胞を一次抗体と室温で一晩インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、適切なビオチン化二次抗体と室温で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSでリンスし、次いで、Cy3蛍光色素結合ストレプトアビジン(1/300)と室温で1時間インキュベートした。次いで、細胞を蛍光顕微鏡で分析した。各マーカーについて、染色された細胞の割合を10個の無作為に選ばれた細胞視野に対して計算した。
【0100】
4週齢正常マウス(C-57BL/6J、ジャクソン研究所)からの筋肉試料の凍結切片を冷アセトンで2分間固定し、PBSで希釈した5%ウマ血清中で1時間プレインキュベートした。CD34、Bcl-2、およびIV型コラーゲンについては、以下の一次抗体を使用した:ビオチン抗マウスCD34(PBSで1:200に希釈、ファーミンゲン)、ウサギ抗マウスBcl-2(1:1000、ファーミンゲン)、およびウサギ抗マウスIV型コラーゲン(PBSで1:100に希釈、ケミコン(Chemicon))。ジストロフィン染色については、ヒツジ抗ヒトDY10抗体(PBSで1:250に希釈)を一次抗体として使用し、抗ヒツジビオチン(PBSで1:250に希釈)およびストレプトアビジン-FITC(PBSで1:250に希釈)を用いてシグナルを増幅した
【0101】
rhBMP-2による刺激、オステオカルシン染色、およびアルカリホスファターゼアッセイ
細胞を、12ウェルコラーゲンコーティングフラスコに、ウェル1個につき1〜2×104細胞の密度でトリプリケートでプレーテイングした。200ng/ml組換えヒトBMP-2(rhBMP-2)を増殖培地に添加することで、細胞を刺激した。増殖培地は、最初のプレーティングの1日後、3日後、および5日後に交換した。同時に、対照細胞群をrhBMP-2添加なしで増殖した。rhBMP-2で刺激して、またはrhBMP-2で刺激せずに6日後、細胞を、マイクロサイトメーターを用いて計数し、オステオカルシン発現およびアルカリホスファターゼ発現について分析した。オステオカルシン染色のために、細胞をヤギ抗マウスオステオカルシン抗体(PBSで1:100に希釈、ケミコン)とインキュベートした後、Cy3蛍光色素結合抗ヤギ抗体とインキュベートした。アルカリホスファターゼ活性を測定するために、細胞溶解産物を調製し、p-ニトロフェニルホスフェート(シグマ)からの無機リン酸の加水分解による試薬中での色変化を利用する市販のキットを用いて分析した。結果として生じる色変化を分光光度計で測定し、データを、106細胞に標準化された1リットル当たりのALP活性国際単位として表した。スチューデントt検定を用いて統計学的有意性を解析した(p<0.05)。
【0102】
筋形成系統および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化
筋形成
mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの後足筋肉に筋肉内注射した。注射の15日後に動物を屠殺し、注射された筋組織を凍結し、クライオスタットで切片にし、ジストロフィン(前記を参照のこと)およびLacZ発現についてアッセイした。LacZ発現を試験するために、筋肉切片を1%グルタルアルデヒドで固定し、次いで、X-gal基質(リン酸緩衝食塩水に溶解した0.4mg/ml 5-ブロモクロロ-3インドリル-β-D-ガラクトシド(ベーリンガーマンハイム(Boehringer-Mannheim))、1mM MgCl2、5mM K4Fe(CN)6、および5mM K3Fe(CN)6)と1〜3時間インキュベートした。分析前に、切片をエオシンで対比染色した。平行実験において、mc13細胞(5×105細胞)をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。注射の7日後に動物を屠殺し、後足を切り離し、記載のようにジストロフィンおよびβ-ガラクトシダーゼの存在についてアッセイした。
【0103】
骨形成
アデノウイルスBMP-2プラスミド(adBMP-2)を構築するために、rhBMP-2コード配列をBMP-2-125プラスミド(ジェネティクスインスティチュート(Genetics Institute)、Cambridge、MA)から切り出し、HuCMVプロモーターを含む複製欠損(E1およびE3遺伝子欠失)アデノウイルスベクターにサブクローニングした。簡単に述べると、BMP-2-125プラスミドをSalIで消化して、rhBMP-2 cDNAを含む1237塩基対断片を得た。次いで、rhBMP-2 cDNAをpAd.loxプラスミドのSalI部位に挿入し、遺伝子をHuCMVプロモーター制御下に置いた。pAd.loxとpsi-5ウイルスDNAのCRE-8細胞へのコトランスフェクションによって、組換えアデノウイルスを得た。結果として生じたadBMP-2プラスミドを、後に使用するまで-80℃で保存した。
【0104】
感染前に、mc13細胞をトリプシン処理し、マイクロサイトメーターを用いて計数した。細胞をHBSS(ギブコBRL)を用いて数回洗浄した。50感染多重度単位に相当するアデノウイルス粒子をHBSSに予め添加し、次いで、細胞の上に層状に積み重ねた。細胞を37℃で4時間インキュベートし、次いで、当量の増殖培地とインキュベートした。気密性のシリンジに取り付けた30ゲージ針を用いて、0.5〜1.0×106細胞をSCIDマウス(ジャクソン研究所)の曝露された下腿3頭筋に注射した。14〜15日で、動物にメトキシフルランで麻酔をかけ、頚部脱臼で屠殺した。後足をX線撮影で分析した。その後、下腿3頭筋を切り離し、リン酸緩衝食塩水で緩衝され、液体窒素で予め冷却された2-メチルブタンで瞬間凍結した。クライオスタット(Microm、HM 505E、フィッシャーサイエンティフィック(Fisher Scientific))を用いて、凍結試料を5〜10μm切片に切断し、さらなる分析のために-20℃で保存した。
【0105】
RT-PCR分析
全RNAは、トライゾール(TRIzol)試薬(ライフ テクノロジーズ(Life Technologies))を用いて単離した。逆転写は、第1鎖cDNA合成用スーパースクリプト(SuperScript)(登録商標)プレアンプリフィケーション システム(Preamplification System)(ライフ テクノロジーズ)を用いて製造業者の説明書に従って行った。簡単に述べると、ランダムヘキサマー100ngを全RNA 1μgに70℃で10分間アニーリングさせ、次いで、氷上で冷却した。逆転写は、10×PCR緩衝液2μl、25 mM MgCl2 2μl、10mM dNTPミックス1μl、0.1M DTT 2μl、および200U スーパースクリプト(SuperScript)II逆転写酵素を用いて行った。反応混合物を42℃で50分間インキュベートした。
【0106】
標的のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅は、逆転写酵素反応産物2μl、 (5U)Taq DNAポリメラーゼ(ライフ テクノロジーズ) 100μl、および1.5mM MgCl2を含む反応混合物50μl中で行った。CD34 PCRプライマーはOligoソフトウェアを用いて設計し、以下の配列を有した:
他のプライマーは、以前の研究(J.ローウェデル(Rohwedel)ら、1995、Exp.Cell Res 220:92-100;D.D.コルネリソン(Cornelison)ら、1997、Dev.Biol.191:270-283)に従って設計し、以下の配列を有した:
【0107】
以下のPCRパラメータを使用した:1)94℃45秒;2)50℃60秒(CD34)または60℃60秒(ミオゲニンおよびc-met);ならびに3)72℃90秒の40サイクル。PCR産物を、アガロース-TBE-臭化エチジウムゲルで調べた。予想されるPCR産物のサイズは、147bp(CD34)、86bp(ミオゲニン)、および370bp(c-met)である。ゲノムDNA混入の可能性を排除するために、2つの対照反応をなし遂げた:1)逆転写酵素非存在下での並行した逆転写、および2)イントロンにまたがるプライマーセット(クロンテック(Clonetech))を用いたβ-アクチン増幅。
【0108】
頭蓋骨欠陥アッセイ
3匹の6〜8週齢雌SCIDマウス(ジャクソン研究所)を対照群および実験群に使用した。動物にメトキシフルランで麻酔をかけ、手術台の上にうつぶせにした。頭蓋骨を曝露するために10番ブレードを用いて頭皮を解剖し、骨膜を剥がした。歯科用バーを用いて、最小限に硬膜を貫通して、全厚約5mmの円形頭蓋骨欠陥を作成した。adBMP-2を形質導入した、またはadBMP-2を形質導入していない0.5〜1.0×106 MDCをコラーゲンスポンジマトリックス(ヘリスタット(Helistat)(商標)、コーラテックインク(Colla-Tec,Inc.))に播種し、これを頭蓋骨欠陥の中に入れた。4-0ナイロン縫合糸を用いて頭皮を閉じ、動物に餌を与え、活動を許した。14日後、動物を屠殺し、頭蓋骨標本を観察し、次いで、顕微鏡で分析した。フォンコッサ染色のために、頭蓋骨標本を4%ホルムアルデヒドで固定し、次いで、0.1M AgNO3溶液に15分間浸漬した。標本を少なくとも15分間、光に曝露し、PBSで洗浄し、次いで、観察のためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0109】
Yプローブを用いた蛍光インサイチューハイブリダイゼーション
凍結切片を3:1メタノール/氷酢酸(v:v)中で10分間固定し、風乾させた。次いで、切片を、2×SSC(0.3 M NaCl、0.03Mクエン酸Na)pH7.0に溶解した70%ホルムアミド中で70℃で2分間変性した。その後、スライドを、一連のエタノール洗浄液(70%、80%、および95%)で各濃度2分間、脱水した。Y染色体特異的プローブ(Y.ファン(Fan)ら、1996、Muscle Nerve 19:853-860)を、バイオニック(BioNick)キット(ギブコBRL)を用いて製造業者の説明書に従ってビオチン化した。次いで、ビオチン化プローブを、G-50 クイックスピンカラム(Quick Spin Column)(ベーリンガー マンハイム)を用いて精製し、精製されたプローブを5ng/ml超音波処理済ニシン精子DNAと共に凍結乾燥した。ハイブリダイゼーション前に、50%ホルムアミド、1×SSC、および10%デキストラン硫酸を含む溶液にプローブを再懸濁した。75℃10分間の変性後、プローブを変性切片の上に置き、37℃で一晩ハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後、切片を2×SSC溶液(pH7.0)で72℃で5分間リンスした。次いで、切片を、BMS溶液(0.1M NaHCO3、0.5M NaCl、0.5%NP-40、pH8.0)でリンスした。ハイブリダイズしたプローブを、フルオレセイン標識アビジン(オンコル インク(ONCOR,Inc))を用いて検出した。核を、ベクタシールド(Vectashield)封入剤(ベクター インク(Vector,Inc))に溶解した10ng/ml臭化エチジウムで対比染色した。
【0110】
mc13細胞のマーカー分析
mc13、PP6、および線維芽細胞が発現する生化学マーカーを、RT-PCRおよび免疫組織化学を用いて分析した。表4(以下)は、mc13細胞が、幹細胞様特性を有する造血細胞のマーカーとして最近同定されたヒトKDR遺伝子のマウス相同体であるFlk-1(B.L.ツィーグラーら、前記)を発現したが、CD34もCD45も発現しなかったことを示す。しかしながら、本発明のPP6 MDCから得られた他のクローン分離株はCD34ならびに他のPP6細胞マーカーを発現した。PP6筋肉由来前駆細胞集団をクローニングし、筋肉由来前駆細胞に特徴的な細胞マーカーを発現するクローン分離株を得るために、本明細書に記載の手順を使用できることが当業者に理解されると思われる。このようなクローン分離株は本発明の方法に従って使用することができる。例えば、クローン分離株は、デスミン、CD34、およびBcl-2を含む前駆細胞マーカーを発現する。好ましくは、クローン分離株はまたSca-1およびFlk-1細胞マーカーを発現するが、CD45もc-Kit細胞マーカーも発現しない。
【0111】
(表4) mdx PP6、mdx mc13、および線維芽細胞が発現する細胞マーカー
前記のように細胞を単離し、免疫組織化学分析で調べた。「-」は、細胞の0%が発現を示したことを示す。「+」は、細胞の>98%が発現を示したことを示す。「+/-」は、細胞の40〜80%が発現を示したことを示す。「-/+」は、細胞の5〜30%が発現を示したことを示す。「na」はデータが得られないことを示す。
【0112】
CD34+細胞およびBc1-2+細胞のインビボ局在
CD34+細胞およびBcl-2+細胞のインビボでの位置を特定するために、正常マウスの下腿3頭筋からの筋組織切片を、抗CD34抗体および抗Bcl-2抗体を用いて染色した。CD34陽性細胞は小さな筋肉由来細胞集団を構成し(図12A)、これはまたデスミン陽性であった(図12B)。CD34+デスミン+細胞を抗IV型コラーゲン抗体で同時染色すると、細胞は基底膜に局在した(図12Bおよび12D)。図12A-Dの矢じりで示すように、小さな血管もまたCD34陽性およびIV型コラーゲン陽性であったが、核染色と共局在しなかった。血管内皮細胞によるCD34の発現は、以前の研究(L.フィナら、前記)において示されている。Bcl-2+デスミン+細胞が同様に特定され(図12E-12H)、基底膜内に局在した(図12Fおよび12H)。切片はまた、衛星細胞の位置を特定するためにM-カドヘリン染色した(図12l)。衛星細胞は、CD34+デスミン+細胞またはBcl-2+デスミン+細胞とほぼ同じ位置で特定された(矢印、図12l)。しかしながら、CD34またはBcl-2とM-カドヘリンを共局在させる多くの試みが失敗に終わった。これは、M-カドヘリンを発現する細胞がBcl-2もCD34も共に発現しないことを示唆している。これは、本明細書に開示されるように、PP6細胞が高レベルのCD34およびBcl-2を発現するが、極めて少ないレベルのM-カドヘリンしか発現しないことと一致している。
【0113】
骨形成系統へのクローン筋肉前駆細胞のインビトロ分化
mc13細胞を、rhBMP-2刺激による骨形成分化能について評価した。細胞を6ウェル培養皿にプレーテイングし、200ng/ml rhBMP-2の存在下または非存在下で集密状態になるまで増殖した。3〜4日以内に、rhBMP-2に曝露されたmc13細胞は、rhBMP-2に曝露されていない細胞を比較して劇的な形態学的変化を示した。rhBMP-2の非存在下では、mc13細胞は多核筋管に融合し始めた(図13A)。しかしながら、200ng/ml rhBMP-2に曝露されると、細胞は単核のままであり、融合しなかった(図13B)。細胞密度が>90%集密状態に達すると、未処理培養物は融合して複数の筋管を形成したのに対して(図13C)、処理された細胞は円形になり、肥厚した(図13D)。免疫組織化学を用いて、これらの肥大細胞のオステオカルシン発現を分析した。オステオカルシンは、骨に沈着し、骨芽細胞によって特異的に発現されるマトリックスタンパク質である。未処理群とは対照的に、rhBMP-2で処理された肥大細胞は著しいオステオカルシン発現を示した(図13E)。従って、mc13細胞は、rhBMP-2に曝露すると骨芽細胞に分化できることが示唆される。
【0114】
次いで、mc13細胞を、rhBMP-2刺激後のデスミン発現について分析した。新たに単離されたmc13細胞は均一なデスミン染色を示した(図14Aおよび14B)。rhBMP-2への曝露の6日以内に、mc13細胞の30〜40%しかデスミン染色を示さなくなった。rhBMP-2刺激の非存在下では、mc13細胞の約90〜100%がデスミン染色を示した(図14C)。この結果は、mc13細胞をrhBMP-2で刺激すると、これらの細胞の筋形成能が喪失することを示唆している。
【0115】
さらに、mc13細胞を、rhBMP-2刺激後のアルカリホスファターゼ発現について分析した。アルカリホスファターゼは、骨芽細胞分化の生化学マーカーとして使用されている(T.カタギリ(Katagiri)ら、1994、J.Cell Biol.、127:1755-1766)。図14Dに示すように、mc13細胞のアルカリホスファターゼ発現は、rhBMP-2に反応して600倍を超えて増加した。対照として使用したPP1-4細胞は、rhBMP-2に反応してアルカリホスファターゼ活性の増加を示さなかった(図14D)。ひとまとめにして考えると、これらのデータは、PP6クローン分離株の細胞(例えば、mc13細胞)がインビトロでrhBMP-2曝露に反応して筋形成マーカーを喪失し、骨形成系統に分化できることを証明している。
【0116】
筋形成系統および骨形成系統へのmc13細胞のインビボ分化
mc13細胞がインビボで筋形成系統に分化できるかどうかを確かめるために、細胞をmdxマウスの後足筋組織に注射した。注射の15日後に動物を屠殺し、組織学分析および免疫組織化学分析のために後足を採取した。いくつかの筋原線維が、注射部位周囲の領域においてLacZ染色およびジストロフィン染色を示した(図15Aおよび15B)。このことから、mc13細胞はインビボで筋形成系統に分化し、筋肉再生を促進し、ジストロフィー筋肉におけるジストロフィンを回復できることが分かる。
【0117】
平行実験において、mc13細胞をmdxマウスの尾静脈に静脈内注射した。注射の7日後に動物を屠殺し、組織学分析および免疫組織化学分析のために後足筋肉を採取した。いくつかの後足筋肉細胞がLacZ染色およびジストロフィン染色を示した(図15C-15D;「★」も参照のこと)。このことから、ジストロフィン発現を救出するために、mc13細胞を標的組織に全身送達できることが示唆される。
【0118】
インビボでのmc13細胞の多能性を試験するために、細胞を、rhBMP-2をコードするアデノウイルスベクター(adBMP-2)で形質導入した。次いで、adBMP-2を含むmc13細胞をSCIDマウスの後足に注射した。注射の14日後に動物を屠殺し、組織学分析および免疫組織化学分析のために後足を取り出した。adBMP-2が形質導入されたmc13細胞の酵素結合免疫測定法(ELISA)分析によって、感染細胞はrhBMP-2を産生できることが分かった。注射されたSCIDマウスの後足のX線撮影分析によって、注射の14日以内に、活発な異所的な骨形成が明らかになった(図15E)。異所的な骨のLacZ染色を用いた組織学分析から、LacZ陽性mc13細胞は、骨芽細胞および骨細胞が見出される代表的な位置である鉱化したマトリックスまたは裂孔に均一に位置していたことが分かる(図15F)。
【0119】
異所的骨形成におけるmc13の役割をさらに確かめるために、筋肉切片をジストロフィンの存在についても染色した。図15Gに示すように、異所的な骨は、非常にジストロフィン陽性の細胞を含んでいだ。このことから、mc13細胞は骨形成に密接に関与していることが示唆される。対照として、線維芽細胞を用いて同様の実験を行った。線維芽細胞は、活発な異所的骨形成を支持することが見出されたが、注射された細胞は一様に骨の外側に見出され、どれも鉱化マトリックス内に位置していなかった。このことから、線維芽細胞は異所的な骨を形成するrhBMP-2を送達することができるが、骨芽細胞に分化できないことが示唆される。この場合、異所的な骨の鉱化に関与する細胞は、十中八九、宿主組織に由来する。従って、これらの結果は、mc13細胞がインビボおよびインビトロの両方で骨芽細胞に分化できることを証明している。
【0120】
遺伝子操作された筋肉由来細胞による骨治癒の促進
骨格が十分に発達した(6〜8週齢)雌SCIDマウスにおいて、前記のように歯科用バーを用いて頭蓋骨欠陥(約5mm)を作成した。以前の実験から、5mmの頭蓋骨欠陥は「治癒しない」ことが証明されている(P.H.クレブスバッハ(Krebsbach)ら、1998、Transplantation 66:1272-1278)。adBMP-2を形質導入した、またはadBMP-2を形質導入していないmc13細胞を播種したコラーゲンスポンジマトリックスで、頭蓋骨欠陥を塞いだ。これらのマウスを14日で屠殺し、頭蓋骨欠陥の治癒を分析した。図16Aに示すように、rhBMP-2を形質導入していないmc13細胞で治療された対照群は、欠陥治癒の証拠を示さなかった。対照的に、rhBMP-2を発現するように形質導入されたmc13細胞で治療された実験群は、2週間で、頭蓋骨欠陥のほとんど完全な閉塞を示した(図16B)。鉱化した骨を強調するフォンコッサ染色は、rhBMP-2を発現するように形質導入されたmc13細胞で治療された群において活発な骨形成を示したが(図16D)、対照群では最小限の骨形成しか観察されなかった(図16C)。
【0121】
移植された細胞を特定するY染色体特異的プローブを用いた蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)によって、実験群における新たな骨の領域を分析した。図16Eに示すように、新たに形成した骨の中にY染色体陽性細胞が特定され、このことから、移植された細胞が、rhBMP-2の影響を受けた骨形成において活発に関与していることが分かる。新たに形成された頭蓋骨の中にY染色体陰性細胞も特定され、従って、宿主由来細胞も活発に関与していることが分かる。これらの結果は、mc13細胞がrhBMP-2で刺激されると「治癒しない」骨欠陥の治癒を媒介できることを証明し、本発明のMDCが骨の欠陥、傷害、または外傷の治療に使用できることを示している。
【0122】
実施例10:骨欠陥の非自己(同種異系)MDSC治療
方法
本実施例に記載の実験において使用した正常マウス(C57 BL/6J)またはmdxマウス(C57 BL/10 ScSn mdx/mdxマウス)はジャクソン研究所(Bar Harbor、ME)から購入し、それぞれドナーおよび宿主として使用した。
【0123】
筋肉由来幹細胞(MDSC)および衛星細胞(scs)培養物の調製のために、後足筋肉を、生まれたばかりの(3〜5日齢)正常マウスから取り出し、0.2%XI型コラゲナーゼを37℃で1時間添加することによって筋肉細胞を酵素的に解離した。2.4単位/mlのジスパーゼを45分間、0.1%トリプシンを30分間添加した。次いで、筋肉細胞抽出物を、コラーゲンコーティングフラスコの増殖培地(DMEMは10%ウマ血清、10%ウシ胎仔血清、0.5%ニワトリ胚抽出物、および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含んだ)にプレプレーティングした。記載のように、初期プレプレートのscsは1〜4日でフラスコ支持体に付着したのに対して、mdscは5〜7日かかった(例えば、PP5-6)。
【0124】
後期プレプレート(LP)(PP5またはPP6)および初期プレプレート(EP)(PP1-2)からの0.35〜0.74×106細胞を、1点注射によってmdxマウスのそれぞれの後足筋肉に注射した。それぞれ、移植の10日後および30日後に、注射された筋肉を切除し、液体窒素で凍結した。免疫組織化学分析用に、注射された筋肉から凍結切片を調製した。筋肉横断面での免疫組織化学分析のために、ジストロフィン染色を行った。染色は蛍光顕微鏡(Nikon Optiphot)を用いて観察し、ジストロフィン陽性(ジストロフィン+)細胞の数を計数した。
【0125】
注射の10日後までに、多数のジストロフィン+筋原線維を含む大きな移植片がMDSC[LP]を注射した筋肉において観察された(図17Cおよび17D)。MDSC[EP]を注射した筋肉(図17Aおよび17B)と比較して、MDSC[LP]移植片は、はるかに多くの小さな筋原線維を含んでいた。従って、注射されたMDSC[LP]細胞はインビボで高い増殖能を有することが示唆される。両筋肉には同数の筋肉細胞を注射した。MDSC[LP]を注射した筋肉におけるジストロフィン+筋原線維の数は、MDSC[EP](scs)を注射した筋肉におけるジストロフィン+筋原線維の数の約5倍を超えていた(2.798+/-1.114、n=4(mdsc)対430+/-148、n=6(EP);平均+/-SD)。
【0126】
さらに、MDSC[LP]注射の30日後、さらに多数のジストロフィン+筋原線維が移植片に存在していた(図17Eおよび17F)。前記のように、注射の10日後までに形成したジストロフィン+筋原線維の大部分がその20日後、30日目に生存していた。後期プレートMDSC(例えば、PP5-6)は、初期プレート細胞(例えば、PP1-2)より多くの衛星細胞を宿主筋肉において生じさせることが見出された。この衛星細胞は、後期プレートを注射した筋肉における多数のジストロフィン+筋原線維に寄与する可能性がある。筋肉由来幹細胞は、ジストロフィー筋肉への細胞移植の効率を著しく改善した。後期プレート細胞において確認された高い自己再生能に加えて、MDSC細胞は免疫拒絶を回避し、これは、非自己宿主筋肉における後期プレート細胞の高い生存率を担う一要因である可能性が高い。
【0127】
実施例11:脊椎円板の増大
雌ウサギに、ハロタン麻酔をかけて、横向きにして外科手術の準備をした。円板を曝露するために、脊椎周囲切開をT4-L2脊椎レベルの領域において行った。ハミルトン微量注射器を用いて、円板に、HBSSで溶解したLacZマーカーを有する筋肉由来前駆細胞懸濁液10μl(1〜1.5×106細胞)を注射した。注射の10日後に、円板を切除し、組織化学分析用に調製し、LacZマーカーを有する細胞の位置および生存を確かめるためにβ-ガラクトシダーゼ染色し、顕微鏡で調べ、写真を撮った。これらの実験の結果は、MDC組成物が、先天性、変性、または外傷性の円板の症状、傷害、または状態(背中の痛み、ならびに円板および脊柱の欠陥)を治療するための円板増大材料として使用できることを証明している(図20Aおよび20B)。
【0128】
本明細書で引用された全ての特許出願、特許、教科書、および参考文献は、本発明が関与する最新技術をさらに詳細に説明するために、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0129】
説明された本発明の範囲および精神から逸脱することなく前記の方法および組成物に様々な変更を加えることができるので、前記の説明に含まれるか、添付の図面に示されるか、または添付の特許請求の範囲で定義された全ての主題は例示とみなされ、限定するものではないことが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において非筋肉性軟部組織を増大または肥厚させる際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性軟部組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項2】
非筋肉性軟部組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
消化器組織が口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、胆嚢組織、膵臓組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項4】
生殖器組織が子宮組織、膣組織、陰核組織、外陰組織、卵巣組織、ファローピウス管組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項5】
心臓血管組織が心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項6】
泌尿器組織が腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項7】
神経組織が神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項8】
呼吸器組織が肺組織または気管組織である、請求項2記載の使用。
【請求項9】
上皮組織が皮膚組織または管腔組織である、請求項2記載の使用。
【請求項10】
結合組織が脂肪組織、軟骨組織、靭帯組織、およびリンパ組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項11】
さらに、組成物用の吸収担体材料または付着担体材料が医薬品の製造において用いられる、請求項1記載の使用。
【請求項12】
組成物が、軟部組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項1記載の使用。
【請求項13】
哺乳動物において筋組織を増大または肥厚させるための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、筋組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項14】
筋組織が骨格筋組織または平滑筋組織である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
筋組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、および呼吸器組織からなる群より選択される、請求項13記載の使用。
【請求項16】
消化器組織が舌組織、食道組織、胃組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項17】
生殖器組織が子宮組織、膣組織、陰核組織、ファローピウス管組織、陰茎組織、および精管組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項18】
心臓血管組織が動脈組織、毛細血管組織、静脈組織、および心臓組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項19】
泌尿器組織が腎臓組織、膀胱組織、尿道組織、および尿管組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項20】
呼吸器組織が気管組織または肺組織である、請求項15記載の使用。
【請求項21】
さらに、組成物用の吸収担体材料または付着担体材料が医薬品の製造において用いられる、請求項13記載の使用。
【請求項22】
組成物が、筋組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項13記載の使用。
【請求項23】
哺乳動物において非筋肉性軟部組織の欠陥または空隙を治療するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性軟部組織の欠陥または空隙を治療するために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項24】
非筋肉性軟部組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択される、請求項23記載の使用。
【請求項25】
欠陥または空隙が、障害、亀裂、憩室、嚢胞、くぼみ、フィステル、動脈瘤、および傷害、外傷、外科手術、または疾患に派生した創傷からなる群より選択される、請求項23記載の使用。
【請求項26】
消化器組織が口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、胆嚢組織、膵臓組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項27】
生殖器組織がファローピウス管組織、子宮組織、膣組織、外陰組織、卵巣組織、陰核組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項28】
心臓血管組織が心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項29】
泌尿器組織が腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項30】
神経組織が神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項31】
呼吸器組織が肺組織または気管組織である、請求項24記載の使用。
【請求項32】
結合組織が脂肪組織、軟骨組織、靭帯組織、およびリンパ組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項33】
上皮組織が皮膚組織である、請求項24記載の使用。
【請求項34】
欠陥または空隙が、ひだ、非外傷起源の皮膚のくぼみ、しわ、皮膚萎縮線条、陥没した瘢痕、尋常性座瘡の傷跡、唇の形成不全、および傷害、外傷、外科手術、または疾患に派生した創傷からなる群より選択される、請求項23記載の使用。
【請求項35】
皮膚のくぼみが顔のくぼみを含む、請求項34記載の使用。
【請求項36】
顔のくぼみが眼の周囲の領域を含む、請求項35記載の使用。
【請求項37】
医薬品の製造において組成物用の吸収担体材料または付着担体材料を使用することをさらに含む、請求項23記載の使用。
【請求項38】
組成物が、組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項23記載の使用。
【請求項39】
哺乳動物において筋組織の脱力または機能不全を治療するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、筋組織の脱力または機能不全を治療するために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項40】
組織が骨格筋組織または平滑筋組織である、請求項39記載の使用。
【請求項41】
脱力または機能不全がスポーツ関連傷害に派生したものである、請求項39記載の使用。
【請求項42】
組織が括約筋組織である、請求項40記載の使用。
【請求項43】
組織が食道括約筋組織、肛門括約筋組織、噴門括約筋組織、幽門括約筋組織、および尿道括約筋組織からなる群より選択される、請求項40記載の使用。
【請求項44】
脱力または機能不全が膀胱尿管逆流、尿失禁、胃食道逆流、および大便失禁からなる群より選択される、請求項39記載の使用。
【請求項45】
組織が心臓組織である、請求項40記載の使用。
【請求項46】
脱力または機能不全が心不全または心筋梗塞に派生したものである、請求項45記載の使用。
【請求項47】
医薬品の製造において組成物用の吸収担体材料または付着担体材料を使用することをさらに含む、請求項39記載の使用。
【請求項48】
組成物が、筋組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項39記載の使用。
【請求項49】
哺乳動物において非筋肉性非骨性軟部組織を増大または肥厚させるための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性非骨性軟部組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項50】
非筋肉性非骨性軟部組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択される、請求項49記載の使用。
【請求項51】
消化器組織が口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、膵臓組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項52】
生殖器組織が、ファローピウス管組織、子宮組織、膣組織、外陰組織、陰核組織、卵巣組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項53】
心臓血管組織が心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項54】
泌尿器組織が腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項55】
神経組織が、神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項56】
呼吸器組織が肺組織または気管組織である、請求項50記載の使用。
【請求項57】
上皮組織が皮膚組織または管腔組織である、請求項50記載の使用。
【請求項58】
結合組織が脂肪組織、軟骨組織、靭帯組織、およびリンパ組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項59】
さらに、組成物用の吸収担体材料または付着担体材料が医薬品の製造において用いられる、請求項49記載の使用。
【請求項60】
組成物が、組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項49記載の使用。
【請求項61】
増大または肥厚が、非筋肉性非骨性軟部組織における障害、亀裂、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、ならびに傷害、外傷、外科手術、および疾患に派生した創傷からなる群より選択される欠陥の修復をもたらす、請求項49記載の使用。
【請求項62】
非筋肉性非骨性軟部組織が、口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、膵臓組織、胆嚢組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される消化器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項63】
非筋肉性非骨性軟部組織が、ファローピウス管組織、子宮組織、膣組織、外陰組織、陰核組織、卵巣組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される生殖器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項64】
非筋肉性非骨性軟部組織が、心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される心臓血管組織である、請求項61記載の使用。
【請求項65】
非筋肉性非骨性軟部組織が、腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される泌尿器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項66】
非筋肉性非骨性軟部組織が、神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される神経組織である、請求項61記載の使用。
【請求項67】
非筋肉性非骨性軟部組織が、肺組織および気管組織からなる群より選択される呼吸器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項68】
非筋肉性非骨性軟部組織が、皮膚組織および管腔組織からなる群より選択される上皮組織である、請求項61記載の使用。
【請求項69】
欠陥が、ひだ、非外傷起源の皮膚のくぼみ、しわ、皮膚萎縮線条、陥没した瘢痕、尋常性座瘡の傷跡、唇の形成不全、および傷害、外傷、外科手術、または疾患に派生した創傷からなる群より選択される、請求項61記載の使用。
【請求項70】
皮膚のくぼみが顔のくぼみを含む、請求項69記載の使用。
【請求項71】
顔のくぼみが眼の周囲の顔領域を含む、請求項70記載の使用。
【請求項72】
医薬品の組成物中のMDC細胞が1種類またはそれ以上の種類の活性生体分子をコードする異種DNAを含み、生体分子は細胞によって発現され、それによって組織の治療を助ける、請求項1、13、23、39、または49のいずれか一項記載の使用。
【請求項73】
活性生体分子が、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子、およびプログラム細胞死因子からなる群より選択される、請求項72記載の使用。
【請求項74】
下部食道括約筋組織における胃食道逆流の治療に使用するための医薬品を製造するための、筋肉由来前駆細胞を含む生理学的に許容される組成物の使用。
【請求項75】
筋肉由来前駆細胞が少なくともデスミン、CD34、およびBcl-2細胞表面マーカーを発現する、請求項74記載の使用。
【請求項76】
さらに、筋肉由来前駆細胞がSca-1およびFlk-1細胞マーカーを発現するが、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない、請求項75記載の使用。
【請求項77】
医薬品を、組織に内視鏡によって投与することができるか、または注射することができる、請求項74記載の使用。
【請求項78】
審美的欠陥または美容的欠陥を治療する際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、審美的欠陥または美容的欠陥を治療するために十分な量で医薬品に存在する組成物の使用。
【請求項79】
医薬品を組織に注射することができる、請求項78記載の使用。
【請求項80】
平滑筋組織の収縮性を回復または改善する際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、平滑筋収縮性を回復または改善するために十分な量で医薬品に存在する組成物の使用。
【請求項81】
平滑筋が、食道平滑筋、胃平滑筋、および腸平滑筋からなる群より選択される胃腸管平滑筋である、請求項80記載の使用。
【請求項82】
胃腸管平滑筋の回復または改善が胃不全麻痺を改善または矯正する、請求項80記載の使用。
【請求項83】
哺乳動物において新たな筋原線維を生成する際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、組成物を含む細胞が筋原線維の基底膜部位に移動し、衛星細胞になって哺乳動物において新たな筋原線維を生成するために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項84】
組成物の細胞が、哺乳動物に対して自己または同種異系の細胞である、請求項83記載の使用。
【請求項85】
組成物の細胞が同種異系細胞である、請求項84記載の使用。
【請求項86】
同種異系筋肉由来前駆細胞がヒト供給源から得られる、請求項12、22、38、48、60、84、または85のいずれか一項記載の使用。
【請求項1】
哺乳動物において非筋肉性軟部組織を増大または肥厚させる際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性軟部組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項2】
非筋肉性軟部組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
消化器組織が口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、胆嚢組織、膵臓組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項4】
生殖器組織が子宮組織、膣組織、陰核組織、外陰組織、卵巣組織、ファローピウス管組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項5】
心臓血管組織が心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項6】
泌尿器組織が腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項7】
神経組織が神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項8】
呼吸器組織が肺組織または気管組織である、請求項2記載の使用。
【請求項9】
上皮組織が皮膚組織または管腔組織である、請求項2記載の使用。
【請求項10】
結合組織が脂肪組織、軟骨組織、靭帯組織、およびリンパ組織からなる群より選択される、請求項2記載の使用。
【請求項11】
さらに、組成物用の吸収担体材料または付着担体材料が医薬品の製造において用いられる、請求項1記載の使用。
【請求項12】
組成物が、軟部組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項1記載の使用。
【請求項13】
哺乳動物において筋組織を増大または肥厚させるための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、筋組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項14】
筋組織が骨格筋組織または平滑筋組織である、請求項13記載の使用。
【請求項15】
筋組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、および呼吸器組織からなる群より選択される、請求項13記載の使用。
【請求項16】
消化器組織が舌組織、食道組織、胃組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項17】
生殖器組織が子宮組織、膣組織、陰核組織、ファローピウス管組織、陰茎組織、および精管組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項18】
心臓血管組織が動脈組織、毛細血管組織、静脈組織、および心臓組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項19】
泌尿器組織が腎臓組織、膀胱組織、尿道組織、および尿管組織からなる群より選択される、請求項15記載の使用。
【請求項20】
呼吸器組織が気管組織または肺組織である、請求項15記載の使用。
【請求項21】
さらに、組成物用の吸収担体材料または付着担体材料が医薬品の製造において用いられる、請求項13記載の使用。
【請求項22】
組成物が、筋組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項13記載の使用。
【請求項23】
哺乳動物において非筋肉性軟部組織の欠陥または空隙を治療するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性軟部組織の欠陥または空隙を治療するために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項24】
非筋肉性軟部組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択される、請求項23記載の使用。
【請求項25】
欠陥または空隙が、障害、亀裂、憩室、嚢胞、くぼみ、フィステル、動脈瘤、および傷害、外傷、外科手術、または疾患に派生した創傷からなる群より選択される、請求項23記載の使用。
【請求項26】
消化器組織が口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、胆嚢組織、膵臓組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項27】
生殖器組織がファローピウス管組織、子宮組織、膣組織、外陰組織、卵巣組織、陰核組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項28】
心臓血管組織が心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項29】
泌尿器組織が腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項30】
神経組織が神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項31】
呼吸器組織が肺組織または気管組織である、請求項24記載の使用。
【請求項32】
結合組織が脂肪組織、軟骨組織、靭帯組織、およびリンパ組織からなる群より選択される、請求項24記載の使用。
【請求項33】
上皮組織が皮膚組織である、請求項24記載の使用。
【請求項34】
欠陥または空隙が、ひだ、非外傷起源の皮膚のくぼみ、しわ、皮膚萎縮線条、陥没した瘢痕、尋常性座瘡の傷跡、唇の形成不全、および傷害、外傷、外科手術、または疾患に派生した創傷からなる群より選択される、請求項23記載の使用。
【請求項35】
皮膚のくぼみが顔のくぼみを含む、請求項34記載の使用。
【請求項36】
顔のくぼみが眼の周囲の領域を含む、請求項35記載の使用。
【請求項37】
医薬品の製造において組成物用の吸収担体材料または付着担体材料を使用することをさらに含む、請求項23記載の使用。
【請求項38】
組成物が、組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項23記載の使用。
【請求項39】
哺乳動物において筋組織の脱力または機能不全を治療するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、筋組織の脱力または機能不全を治療するために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項40】
組織が骨格筋組織または平滑筋組織である、請求項39記載の使用。
【請求項41】
脱力または機能不全がスポーツ関連傷害に派生したものである、請求項39記載の使用。
【請求項42】
組織が括約筋組織である、請求項40記載の使用。
【請求項43】
組織が食道括約筋組織、肛門括約筋組織、噴門括約筋組織、幽門括約筋組織、および尿道括約筋組織からなる群より選択される、請求項40記載の使用。
【請求項44】
脱力または機能不全が膀胱尿管逆流、尿失禁、胃食道逆流、および大便失禁からなる群より選択される、請求項39記載の使用。
【請求項45】
組織が心臓組織である、請求項40記載の使用。
【請求項46】
脱力または機能不全が心不全または心筋梗塞に派生したものである、請求項45記載の使用。
【請求項47】
医薬品の製造において組成物用の吸収担体材料または付着担体材料を使用することをさらに含む、請求項39記載の使用。
【請求項48】
組成物が、筋組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項39記載の使用。
【請求項49】
哺乳動物において非筋肉性非骨性軟部組織を増大または肥厚させるための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、非筋肉性非骨性軟部組織を増大または肥厚させるために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項50】
非筋肉性非骨性軟部組織が消化器組織、生殖器組織、心臓血管組織、泌尿器組織、神経組織、呼吸器組織、上皮組織、真皮組織、および結合組織からなる群より選択される、請求項49記載の使用。
【請求項51】
消化器組織が口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、膵臓組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項52】
生殖器組織が、ファローピウス管組織、子宮組織、膣組織、外陰組織、陰核組織、卵巣組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項53】
心臓血管組織が心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項54】
泌尿器組織が腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項55】
神経組織が、神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項56】
呼吸器組織が肺組織または気管組織である、請求項50記載の使用。
【請求項57】
上皮組織が皮膚組織または管腔組織である、請求項50記載の使用。
【請求項58】
結合組織が脂肪組織、軟骨組織、靭帯組織、およびリンパ組織からなる群より選択される、請求項50記載の使用。
【請求項59】
さらに、組成物用の吸収担体材料または付着担体材料が医薬品の製造において用いられる、請求項49記載の使用。
【請求項60】
組成物が、組織に対して自己または同種異系のMDC細胞を含む、請求項49記載の使用。
【請求項61】
増大または肥厚が、非筋肉性非骨性軟部組織における障害、亀裂、憩室、嚢胞、フィステル、動脈瘤、ならびに傷害、外傷、外科手術、および疾患に派生した創傷からなる群より選択される欠陥の修復をもたらす、請求項49記載の使用。
【請求項62】
非筋肉性非骨性軟部組織が、口腔組織、食道組織、胃組織、肝臓組織、膵臓組織、胆嚢組織、腸組織、および肛門組織からなる群より選択される消化器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項63】
非筋肉性非骨性軟部組織が、ファローピウス管組織、子宮組織、膣組織、外陰組織、陰核組織、卵巣組織、乳房組織、精管組織、陰嚢組織、精巣組織、および陰茎組織からなる群より選択される生殖器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項64】
非筋肉性非骨性軟部組織が、心臓組織、動脈組織、静脈組織、および毛細血管組織からなる群より選択される心臓血管組織である、請求項61記載の使用。
【請求項65】
非筋肉性非骨性軟部組織が、腎臓組織、尿道組織、尿管組織、および膀胱組織からなる群より選択される泌尿器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項66】
非筋肉性非骨性軟部組織が、神経組織、脊髄組織、脊椎円板組織、および脳組織からなる群より選択される神経組織である、請求項61記載の使用。
【請求項67】
非筋肉性非骨性軟部組織が、肺組織および気管組織からなる群より選択される呼吸器組織である、請求項61記載の使用。
【請求項68】
非筋肉性非骨性軟部組織が、皮膚組織および管腔組織からなる群より選択される上皮組織である、請求項61記載の使用。
【請求項69】
欠陥が、ひだ、非外傷起源の皮膚のくぼみ、しわ、皮膚萎縮線条、陥没した瘢痕、尋常性座瘡の傷跡、唇の形成不全、および傷害、外傷、外科手術、または疾患に派生した創傷からなる群より選択される、請求項61記載の使用。
【請求項70】
皮膚のくぼみが顔のくぼみを含む、請求項69記載の使用。
【請求項71】
顔のくぼみが眼の周囲の顔領域を含む、請求項70記載の使用。
【請求項72】
医薬品の組成物中のMDC細胞が1種類またはそれ以上の種類の活性生体分子をコードする異種DNAを含み、生体分子は細胞によって発現され、それによって組織の治療を助ける、請求項1、13、23、39、または49のいずれか一項記載の使用。
【請求項73】
活性生体分子が、細胞増殖因子、細胞分化因子、細胞シグナル伝達因子、およびプログラム細胞死因子からなる群より選択される、請求項72記載の使用。
【請求項74】
下部食道括約筋組織における胃食道逆流の治療に使用するための医薬品を製造するための、筋肉由来前駆細胞を含む生理学的に許容される組成物の使用。
【請求項75】
筋肉由来前駆細胞が少なくともデスミン、CD34、およびBcl-2細胞表面マーカーを発現する、請求項74記載の使用。
【請求項76】
さらに、筋肉由来前駆細胞がSca-1およびFlk-1細胞マーカーを発現するが、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない、請求項75記載の使用。
【請求項77】
医薬品を、組織に内視鏡によって投与することができるか、または注射することができる、請求項74記載の使用。
【請求項78】
審美的欠陥または美容的欠陥を治療する際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、審美的欠陥または美容的欠陥を治療するために十分な量で医薬品に存在する組成物の使用。
【請求項79】
医薬品を組織に注射することができる、請求項78記載の使用。
【請求項80】
平滑筋組織の収縮性を回復または改善する際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、平滑筋収縮性を回復または改善するために十分な量で医薬品に存在する組成物の使用。
【請求項81】
平滑筋が、食道平滑筋、胃平滑筋、および腸平滑筋からなる群より選択される胃腸管平滑筋である、請求項80記載の使用。
【請求項82】
胃腸管平滑筋の回復または改善が胃不全麻痺を改善または矯正する、請求項80記載の使用。
【請求項83】
哺乳動物において新たな筋原線維を生成する際に使用するための医薬品を製造するための、(i)インサイチューで長期生存能を有し、少なくともデスミン、CD34、Bcl-2、Sca-1、およびFlk-1を含む細胞マーカーを発現し、CD45およびc-Kit細胞マーカーを発現しない単離された筋肉由来前駆細胞(MDC)と(ii)生理学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物であって、組成物を含む細胞が筋原線維の基底膜部位に移動し、衛星細胞になって哺乳動物において新たな筋原線維を生成するために十分な量で存在する組成物の使用。
【請求項84】
組成物の細胞が、哺乳動物に対して自己または同種異系の細胞である、請求項83記載の使用。
【請求項85】
組成物の細胞が同種異系細胞である、請求項84記載の使用。
【請求項86】
同種異系筋肉由来前駆細胞がヒト供給源から得られる、請求項12、22、38、48、60、84、または85のいずれか一項記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17−1】
【図17−2】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17−1】
【図17−2】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−180355(P2012−180355A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−95437(P2012−95437)
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【分割の表示】特願2001−576054(P2001−576054)の分割
【原出願日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】(501102988)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【分割の表示】特願2001−576054(P2001−576054)の分割
【原出願日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】(501102988)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション (24)
【Fターム(参考)】
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