説明

筋肉疾患に関連する痛みを処置するための医薬組成物

【課題】卒中に続発する筋肉疾患に関連する痛みを処置する。
【解決手段】0.01〜1000単位の量のボツリヌス毒素を含有する医薬組成物を投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボツリヌス毒素による、種々の疾病および症状の新規処置方法に関する。とりわけ、本発明は、筋肉の活動または拘縮に関連する疼痛の軽減に有用な方法を提供し、すなわち、筋肉の痙縮、例えば側頭下顎関節疾患、下背部痛、筋膜痛、痙攣およびジストニーに関連する疼痛、並びにスポーツ障害、および関節炎の拘縮に関連する疼痛などの処置に有利である。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス毒素(とりわけ、A型ボツリヌス毒素)は、筋肉の痙縮を伴う多くの神経筋疾患および症状、例えば斜視、眼瞼痙攣、痙性斜頸(頸部ジストニー)、口下顎骨ジストニーおよび痙性音声障害(喉頭ジストニー)の処置に用いられてきた。この毒素は、シナプス前コリン作動性神経末端に短時間で強力に結合し、アセチルコリン放出頻度の低下によってアセチルコリンのエキソサイトーシスを阻害する。その結果、痙縮した筋肉の局所的麻痺、すなわち弛緩が起こる。
【0003】
神経筋疾患処置の一例は、ボロディック(Borodic)の米国特許第5053005号に記載されている。該特許には、若年の脊椎彎曲(すなわち、側彎)を、アセチルコリン放出阻害剤、好ましくはボツリヌス毒素Aで処置することが提案されている。
【0004】
A型ボツリヌス毒素による斜視の処置は、エルストン,ジェイ・エス(Elston,J.S.)らのブリティッシュ・ジャーナル・オブ・オフサルモロジー(British Journal of Ophthalmology)、1985、69、718−724および891−896に記載されている。A型ボツリヌス毒素による眼瞼痙攣の処置は、アデニス,ジェイ・ピー(Adenis,J.P.)らのジュルナール・フランセ・ド・オフタルモロジー(J.Fr.Ophthalmol.)、1990、13(5)、259−264に記載されている。エルストン,ジェイ・エスのアイ(Eye)、1990、4(4):VIIには、斜視の処置が記載されている。痙性斜頸および口下顎骨ジストニーの処置は、ジャンコビック(Jankovic)らのニューロロジー(Neurology)、1987、37、616−623に記載されている。
【0005】
痙性音声障害のA型ボツリヌス毒素による処置は、ブリッツァー(Blitzer)らのアナルス・オブ・オトロジー,ライノロジー・アンド・ラリンゴロジー(Ann.Otol.Rhino.Laryngol)、1985、94、591−594に記載されている。舌ジストニーのA型ボツリヌス毒素による処置は、ブリン(Brin)らのアドブ・ニューロル(Adv.Neurol.)(1987)、50、599−608に記載されている。コーヘン(Cohen)らのニューロロジー(1987)、37(補遺1)、123−4には、A型ボツリヌス毒素による書痙の処置が記載されている。
【0006】
ボツリヌス毒素という用語は、嫌気性細菌のボツリヌス菌が産生する毒素群を包括する総称的な名称である。今日までに、免疫学的に異なる7種類の毒素が見出されている。それらには、A、B、C、D、E、FおよびGの名称が与えられている。種々のボツリヌス毒素の性質に関する更なる情報は、下記文献から得ることができる:ジャンコビックおよびブリンのザ・ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine)、第17号、1990、1186−1194、並びにチャールズ・エル・ハザウェイ(Charles L.Hatheway)のボツリヌム・ニューロトキシン・アンド・テタナス・トキシン(Botulinum Neurotoxin and Tetanus Toxin)[エル・エル・シンプソン(L.L.Simpson)編、カルフォルニア州サンディエゴのアカデミック・プレス社(Academic Press Inc.)、1989]の第1章。それらの開示を引用により本明細書の一部とする。
【0007】
ボツリヌス毒素の神経毒成分は、分子量が約150キロダルトンであり、約50kDの短いポリペプチド鎖(毒素の毒性、すなわち、アセチルコリン放出頻度の低下による、アセチルコリンのエキソサイトーシスの阻害に関与すると考えられている)と、約100kDのより長いポリペプチド鎖(毒素がシナプス前膜に結合するのに必要と考えられている)とから成ると考えられている。
【0008】
この「短」鎖および「長」鎖は、単純なジスルフィド架橋によって結合している。(注:ある血清型のボツリヌス毒素、例えばE型は、二重鎖に対して、一重鎖のニックの無いタンパク質の形態で存在し得る。一重鎖形態のものは、活性はより小さいが、プロテアーゼ(例えばトリプシン)でニックを形成することにより、対応する二重鎖に変換し得る。本発明の方法においては、一重鎖および二重鎖のいずれも有用である。)
【0009】
概ね、ボツリヌス菌は、4つの生理学的分類群(I、II、III、IV)が認識されている。血清学的に特定の毒素を産生し得る菌が、複類の生理学的分類群に属し得る。例えば、BおよびF型の毒素は、第I群または第II群の株が産生し得る。更に、ボツリヌス神経毒を産生し得る他のクロストリジウム属の株[クロストリジウム・バラティ(C.baratii)、F型;クロストリジウム・ブチリカム(C.butyricum)、E型;クロストリジウム・ノビイ(C.novyi)、CまたはD型]が特定されている。
【0010】
欧州特許明細書第0129434号には、リシンおよび抗体の免疫毒素複合体(細胞表面親和性の改善により、細胞毒性が高められていることによって特徴付けられる)が開示されている。該特許の発明者らは、リシンの代わりにボツリヌス毒素を使用し得ると記載している。
【0011】
ボツリヌス毒素は、既知の方法で、ボツリヌス菌を発酵槽内で増殖させ、次いで発酵混合物を採り、精製することによって、工業的に得ることができる。
神経筋症状の処置に通例用いられるA型のボツリヌス毒素は、現在複数の会社から市販されている。例えば、英国のポートン・プロダクツ社(Porton Products Ltd.)から商品名「ディスポート(DYSPORT)」として、およびカルフォルニア州アーヴィン(Irvine)のアラーガン社(Allergan,Inc.)から商品名「ボトックス(BOTOX、商標)」として市販されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、種々の型のボツリヌス毒素による神経筋疾患および症状の新規処置方法を提供することである。本発明のもう一つの目的は、種々の型のボツリヌス毒素で疼痛を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、疼痛(筋肉の収縮に伴うもの)、分泌(過度の発汗、流涙および粘液分泌を包含する)、並びに筋肉疾患および平滑筋疾患(心臓血管細動脈、胃腸系、泌尿器、胆嚢および直腸の括約筋の痙縮を包含するが、それに限定されない)を処置するための医薬組成物を提供する。そのような医薬組成物は、A、B、C、D、E、FおよびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択するボツリヌス毒素を処置有効量で含有する。本発明において、処置する疾患もしくは症状または投与部位は、コリン性のもの(cholinergic controlled)またはコリン性の影響を受けたもの(cholinergic influenced)であり得る。
【0014】
ボツリヌス毒素の各血清型は、特異的な抗体を用い、免疫学的に異なるタンパク質として分類されている。例えば、ある抗体(抗毒素)が、A型を認識(すなわち、A型の生物学的活性を中和)するならば、その抗体はB、C、D、E、FまたはG型を認識しないであろう。
【0015】
ボツリヌス毒素はいずれも、亜鉛エンドペプチダーゼであると考えられるが、ニューロン内での各血清型(例えばAおよびE型と、B型と)の作用機序は異なると考えられる。更に、毒素に対する神経表面「レセプター」は、血清型によって異なると考えられる。
【0016】
神経伝達物質の放出を伴う器官系に関して本発明に従ってボツリヌス毒素を使用する場合、A、B、C、D、E、FおよびG型毒素を局所的注射によって直接導入し得る。
【0017】
本発明に従って使用するボツリヌス毒素は、A、B、C、D、E、FおよびG型のボツリヌス毒素である。
ボツリヌス菌の生理学的分類を、第I表に示す。
【表1】

【0018】
前記毒素型は、ボツリヌス菌の適当な生理学的分類群からの選択によって調製し得る。第I群の菌は通例、タンパク質分解性とされ、A、BおよびF型のボツリヌス毒素を産生する。第II群の菌は糖分解性で、B、EおよびF型のボツリヌス毒素を産生する。第III群の菌は、CおよびD型のボツリヌス毒素しか産生せず、多量のプロピオン酸を産生する点で、第I群および第II群の菌と区別される。第IV群の菌は、G型神経毒しか産生しない。A、B、C、D、E、FおよびG型のいずれのボツリヌス毒素の調製も、前掲のボツリヌム・ニューロトキシン・アンド・テタナス・トキシンの第1章、および/または該文献中に引用された文献に記載されている。また、B、C、D、E、FおよびG型のボツリヌス毒素は、クロストリジウム属の種々の菌からも得られる。
【0019】
現在、14種のクロストリジウム属の菌が、病原性とみなされている。病原性株の多くが、種々の病理学的徴候および症状に関与する毒素を産生する。ボツリヌス毒素を産生する菌は、ヒト(A、B、EおよびF型)および動物(CおよびD型)のボツリヌス中毒から分離されている。それらは、より古い毒素に対して生じた特異的な抗毒素(抗体)を用いて特徴付けられた。G型毒素は、土壌中に見出され、毒素産生性は低い。G型毒素は剖検片からも検出されているが、G型ボツリヌス中毒がヒトに起こったという充分な証拠は無い。
【0020】
好ましくは、毒素を筋肉内注射によって、痙縮筋のような局部の、好ましくは神経筋接合部の部分に直接投与する。しかし、毒素を患部に直接投与し得る他の投与方法(例えば、皮下注射)を、適宜採用し得る。毒素は、発熱物質不含有の滅菌水溶液または分散液として、および滅菌溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末として供し得る。
【0021】
要すれば、浸透圧調整剤、例えば塩化ナトリウム、グリセロールおよび種々の糖を加え得る。安定剤、例えばヒト血清アルブミンも加え得る。適当な薬学的に許容し得る防腐剤、例えばパラベンで、製剤を防腐し得るが、製剤は防腐剤不含有であることが好ましい。
【0022】
毒素を、単位用量形態に調剤することが好ましい。例えば、毒素を、バイアル内の滅菌溶液として、または適当な賦形剤(例えば注射用食塩水)で再構成するための凍結乾燥粉末の入ったバイアルもしくはサシェとして供し得る。
【0023】
一態様においては、ボツリヌス毒素を、食塩および殺菌ヒト血清アルブミン(毒素を安定化し、非特異的吸着による損失を最小限にする)を含有する溶液に調剤する。この溶液を滅菌濾過(0.2μフィルター)し、個々のバイアルに充填し、減圧乾燥により滅菌凍結乾燥粉末とする。この粉末は、用時に防腐剤不含有滅菌生理食塩液(塩化ナトリウム0.9%、注射用)を加えることによって再構成し得る。
【0024】
患者に投与する毒素の用量は、症状の重さ(例えば処置を要する筋肉群の数)、患者の年齢および体格、並びに毒素の効力によって異なる。毒素の効力は、マウスに対するLD50値の倍数として表される。1単位(U)の毒素は、体重約17〜22gのスイス−ウェブスター(Swiss−Webster)マウスの群の50%を殺す量(マウス1匹当たりの基準で)と当価であると定義される。
【0025】
ヒトの処置に使用する用量は、注射する筋肉の量にほぼ比例する。通例、患者に投与する用量は、患者1人当り1回の処置につき約0.01〜1000単位、例えば約500単位まで、好ましくは約80〜460単位であり得るが、場合によってはより少ない用量またはより多い用量で(例えば、疼痛の軽減、およびコリン性分泌の抑制のために、約50単位まで)投与してもよい。
【0026】
本発明の製剤の使用に関して当業者には明らかなように、用量は変化し得る。ポートンから市販のA型ボツリヌス毒素であるディスポートは、1ngが40単位を含有する。アラーガン社から市販のA型ボツリヌス毒素であるボトックスは、1ngが4単位を含有する。ボツリヌス毒素の効力、および作用の持続性の故に、投与は頻繁には行われないであろう。しかしながら結局は、毒素の投与量も投与頻度も、処置に携わる医師の判断で決められ、毒素による効果と安全性との問題に帰することになるであろう。
【0027】
場合によっては、とりわけスポーツ障害(例えば筋肉硬直)に伴う疼痛の軽減においては、作用持続時間の短いF型ボツリヌス毒素が好ましい。
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
実施例
各実施例において、ボツリヌス毒素を含有する滅菌溶液を、患者の適当な部位に注射する。患者に対する総用量は、約0.01〜460単位の範囲である。筋肉群への注射の前に、該筋肉群の解剖学的考慮を充分に行う。その目的は、神経筋接合部が最も集合している部分がわかれば、そこに注射を行うということである。筋肉をその動く範囲で動かしてみた時の針先の動きを観察することによって、筋肉注射前に筋肉内での針の位置を確認する。患者の年齢、注射部位の数、および患者により必要に応じて、全身麻酔、局所麻酔および鎮静を行う。所望の結果を達成するために、1回以上および/または1箇所以上の注射が必要であり得る。また、注射する筋肉によっては、筋電図法により導いた、微細な中空テフロンコーティング針を使用する必要があり得る。
【0029】
注射後、全身的または局所的副作用は無く、どの患者にも大きな局所的緊張低下は見られないことがわかる。大部分の患者において、主観的にも、客観的に測定しても、機能の改善が見られる。
【0030】
実施例1
晩発性ジスキネジーの処置におけるB〜G型ボツリヌス毒素の使用
トラジン(Thorazine)またはハルドール(Haldol)のような抗精神病薬による処置の結果、晩発性ジスキニジーに罹った45歳の男性患者を、B型ボツリヌス毒素150単位を顔面筋肉に直接注射することによって処置する。1〜3日後、晩発性ジスキネジーの症状、すなわち口顔ジスキネジー、アテトーゼ、ジストニー、舞踏病、チックおよび歪顔などが、顕著に軽減される。
【0031】
実施例1(a)
実施例1の方法に従って、晩発性ジスキネジーの患者に、C型ボツリヌス毒素50〜200単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例1(b)
実施例1の方法に従って、晩発性ジスキネジーの患者に、D型ボツリヌス毒素50〜200単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例1(c)
実施例1の方法に従って、晩発性ジスキネジーの患者に、E型ボツリヌス毒素50〜200単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例1(d)
実施例1の方法に従って、晩発性ジスキネジーの患者に、F型ボツリヌス毒素50〜200単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例1(e)
実施例1の方法に従って、晩発性ジスキネジーの患者に、G型ボツリヌス毒素50〜200単位を注射する。同様の結果を得る。
【0032】
実施例2
痙性斜頸の処置におけるB〜G型ボツリヌス毒素の使用
痙性斜頸の(頸部筋組織に痙性または強直性の収縮が見られ、頭部に異常な常同のずれがあり、顎は一方向に回り、肩は頭の回る方に向かって上がっている)の45歳の男性患者を、E型ボツリヌス毒素100〜1000単位の注射によって処置する。3〜7日後、症状は実質的に軽減される。すなわち、患者は頭および肩を正常な位置に保つことが可能となる。
【0033】
実施例2(a)
実施例2の方法に従って、痙性斜頸の患者に、B型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例2(b)
実施例2の方法に従って、痙性斜頸の患者に、C型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例2(c)
実施例2の方法に従って、痙性斜頸の患者に、D型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例2(d)
実施例2の方法に従って、痙性斜頸の患者に、E型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例2(e)
実施例2の方法に従って、痙性斜頸の患者に、F型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例2(f)
実施例2の方法に従って、痙性斜頸の患者に、G型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
【0034】
実施例3
本態性振せんの処置におけるB〜G型ボツリヌス毒素の使用
本態性振せん(頭および手の筋肉が周期的に振動する;姿勢および動きの維持によって起こる)の45歳の男性患者を、B型ボツリヌス毒素50〜1000単位の注射によって処置する。2〜8週間後、症状は実質的に軽減される。すなわち、患者の頭または手が振動しなくなる。
【0035】
実施例3(a)
実施例3の方法に従って、本態性振せんの患者に、C型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例3(b)
実施例3の方法に従って、本態性振せんの患者に、D型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例3(c)
実施例3の方法に従って、本態性振せんの患者に、E型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例3(d)
実施例3の方法に従って、本態性振せんの患者に、F型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例3(e)
実施例3の方法に従って、本態性振せんの患者に、G型ボツリヌス毒素100〜1000単位を注射する。同様の結果を得る。
【0036】
実施例4
痙性音声障害の処置におけるB〜G型ボツリヌス毒素の使用
声帯の痙縮の故に明瞭に話せない45歳の男性患者を、B型ボツリヌス毒素(80〜500単位の活性を有する)を声帯に注射することによって処置する。3〜7日後、患者は明瞭に話せるようになる。
【0037】
実施例4(a)
実施例4の方法に従って、痙性音声障害の患者にC型ボツリヌス毒素80〜500単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例4(b)
実施例4の方法に従って、痙性音声障害の患者にD型ボツリヌス毒素80〜500単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例4(c)
実施例4の方法に従って、痙性音声障害の患者にE型ボツリヌス毒素80〜500単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例4(d)
実施例4の方法に従って、痙性音声障害の患者にF型ボツリヌス毒素80〜500単位を注射する。同様の結果を得る。
実施例4(e)
実施例4の方法に従って、痙性音声障害の患者にG型ボツリヌス毒素8〜500単位を注射する。同様の結果を得る。
【0038】
実施例5
過度の発汗、流涙もしくは粘液分泌、または他のコリン性分泌の処置における、A〜G型ボツリヌス毒素の使用
過度の一側性発汗の見られる65歳の男性患者を、所望の効果に応じて0.01〜50単位のボツリヌス毒素の投与によって処置する。通例、用量が多いほど、効果が大きく、持続する。最初は小用量で使用する。この処置において、どの血清型の毒素も、単独で、または組み合わせて使用し得る。投与は、医者の標的腺および分泌細胞の解剖学および生理学的知識によって決定した、腺神経叢、神経節、脊髄または中枢神経系に行う。更に、適当な脊髄レベルまたは脳の部分にも、毒素を注射し得る(ただし、この処置は、全身的衰弱を包含する多くの作用をもたらし得る)。すなわち、腺(可能な場合)または神経叢もしくは神経節が、選択標的である。患者の過度の発汗、催涙(流涙)、粘液分泌または胃腸分泌は、コリン作動性神経系によって正の影響を受ける。発汗および催涙は、粘液または胃液分泌よりもコリン作動性の影響が大きく、毒素処置に、より大きく応答し得る。しかし、粘液および胃液分泌も、コリン作動性系に影響され得る。毒素処置によって、約1〜7日で、発汗、流涙および粘液分泌のすべての症状が軽減または解消し得る。数週間ないし数箇月間、作用が持続し得る。
【0039】
実施例6
平滑筋疾患、例えば心臓血管細動脈、胃腸系、泌尿器、胆嚢、直腸などの括約筋の痙縮の処置における、A〜G型ボツリヌス毒素の使用
胃内容物排出を妨げる幽門弁の収縮が見られる30〜40歳の男性を、ボツリヌス毒素1〜50単位の投与によって処置する。投与は、幽門弁(胃内容物の腸への排出を調節する)の2〜4分の1ずつに行う。内視鏡装置を用いて、または手術中に、注射を行う。約1〜7日で、正常な胃内容物排出が起こり、吐出が解消または顕著に軽減する。
【0040】
実施例7
側頭下顎関節疾患における筋肉痙縮の処置および筋肉痙縮に伴う疼痛の抑制における、A〜G型ボツリヌス毒素の使用
35歳の女性を、ボツリヌス毒素総量0.1〜50単位の投与によって処置する。投与は、顎の閉鎖を調節する筋肉に行う。過剰活動筋肉を、EMG(筋電図描画法)によって特定し得る。約1〜3日で、筋肉痙縮に伴う疼痛が軽減し、場合により顎クレンチングが軽減する。
【0041】
実施例8
スポーツ障害の二次的症状(筋肉硬直)における筋肉痙縮の処置および筋肉痙縮に伴う疼痛の抑制における、A〜G型ボツリヌス毒素の使用
スポーツ障害後、大腿に重度の痙攣が見られる20歳の男性を、持続時間の短い毒素[低用量(0.1〜25単位)であり得る、好ましくはF型の毒素]を収縮(痙攣)のある筋肉および隣接筋肉に投与することによって処置する。1〜7日で、疼痛が軽減する。
【0042】
実施例9
胃腸筋肉のような平滑筋の疾患における筋肉痙縮の処置および筋肉痙縮に伴う疼痛の抑制における、A〜G型ボツリヌス毒素の使用
痙攣性大腸炎の35歳の女性を、複数の部分に分けたボツリヌス毒素1〜100単位で処置する。浣腸(1〜5単位)を、最低用量から始めて通常の浣腸量(滴定量)で投与する。直腸もしくは下部結腸に注入するか、または低用量浣腸を使用し得る。1〜10日で痙攣結腸に伴う痙攣および疼痛が軽減する。
【0043】
実施例10
発作、脳外傷または脊髄損傷の二次的痙攣症状における筋肉痙縮の処置および筋肉痙縮に伴う疼痛の抑制における、A〜G型ボツリヌス毒素の使用
発作または大脳血管障害後の70歳の男性に、ボツリヌス毒素50〜300単位を注射する。注射は、重度に閉じた手、および曲がった手首および前腕に関与する主な筋肉、または閉脚(患者および付添人にとって衛生面で問題となる)に関与する筋肉に行う。7〜21日で、そのような症状が軽減する。
【0044】
実施例11
嚥下障害の患者の処置におけるA〜G型ボツリヌス毒素の使用
過度の咽喉筋肉痙縮による嚥下障害の患者の咽喉筋肉に、ボツリヌス毒素約1〜300単位を注射する。約7〜21日で、嚥下障害が軽減する。
【0045】
実施例12
緊張頭痛の患者の処置におけるA〜G型ボツリヌス毒素の使用
過度の咽喉筋肉痙縮による緊張頭痛の患者の頭および上部頸の筋肉に、ボツリヌス毒素約1〜300単位を注射する。約1〜7日で、緊張頭痛が軽減する。
【0046】
本発明を有効に適用する様式を説明する目的で、種々の疾病、症状および疼痛を処置するためのボツリヌス毒素の使用を以上説明したが、多くの変更が明らかに可能であるので、本発明は上記態様に制限されるものではなく、本発明は請求の範囲に包含されるいずれの変更をも含むと理解すべきである。すなわち、当業者が行い得る変更はいずれも、請求の範囲に示される本発明の範囲に包含されると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卒中に続発する筋肉疾患に関連する痛みを処置するための医薬組成物であって、卒中に続発する筋肉疾患に関連する痛みを軽減するために0.01〜1000単位の量のボツリヌス毒素を含有する医薬組成物。
【請求項2】
筋肉疾患は筋肉痙縮または痙攣状態である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ボツリヌス毒素0.01〜500単位の量で投与する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ボツリヌス毒素0.01〜50単位の量で投与する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
筋肉内注射により投与する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ボツリヌス毒素は、A型、B型、C型、D型、E型、F型およびG型ボツリヌス毒素から成る群から選択する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ボツリヌス毒素はA型ボツリヌス毒素である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ヒトに投与する請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
卒中後の痙攣痛を処置するための医薬組成物であって、卒中後の痙攣痛を軽減するために0.01〜500単位の量のA型ボツリヌス毒素を含有し、神経筋接合部の部位に筋肉内注射する医薬組成物。
【請求項10】
ボツリヌス毒素50〜300単位の量で投与する請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ヒトに投与する請求項9に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2012−167114(P2012−167114A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108649(P2012−108649)
【出願日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【分割の表示】特願2007−248736(P2007−248736)の分割
【原出願日】平成6年12月16日(1994.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】