説明

筋肉遅筋化促進剤

【課題】 持久力の増強や疲労の回復などに有効な天然由来の新規な成分を提供すること。
【解決手段】 本発明によれば、持久力の増強や疲労の回復などに有効な天然由来の筋肉遅筋化促進剤を提供することができる。本発明の筋肉遅筋化促進剤は、ウーロン茶や紅茶などの発酵茶から抽出された高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持久力の増強や疲労の回復などに有効な筋肉遅筋化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
持久力の増強や疲労の回復などに有効な成分は、アスリートの能力向上のみならず一般人の健康保持などにも寄与し、当該成分が天然由来であれば安全性が高いことから、サプリメントなどとしての用途が期待される。しかしながら、天然由来のそのような成分に関する報告は、例えば非特許文献1と非特許文献2において、カテキンを主成分とする緑茶抽出物が脂質代謝を改善することによって持久力を増強することが報告されている程度に過ぎない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Murase T et al. Green tea extract improves endurance capacity and increases muscle lipid oxidation in mice. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2005; 288: R708-715
【非特許文献2】Murase T et al. Green tea extract improves running endurance in mice by stimulating lipid utilization during exercise. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 2006; 290: R1550-1556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、持久力の増強や疲労の回復などに有効な天然由来の新規な成分を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールが、AMPキナーゼの活性化などに基づくPGC−1αの発現促進などにより、筋肉の遅筋化を促進する作用を有することで、持久力の増強や疲労の回復などに有効であることを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の筋肉遅筋化促進剤は、請求項1記載の通り、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。
また、請求項2記載の筋肉遅筋化促進剤は、請求項1記載の筋肉遅筋化促進剤において、高分子ポリフェノールが、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造を部分構造中に少なくとも含んでおり、数平均分子量が9000〜18000であることを特徴とする。
また、請求項3記載の筋肉遅筋化促進剤は、請求項1または2記載の筋肉遅筋化促進剤において、高分子ポリフェノールが、発酵茶葉中の水溶出成分を酢酸エチル抽出し、抽出されなかった酢酸エチル非溶出成分をブタノール抽出し、抽出されたブタノール溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いて分画精製することで得られてなることを特徴とする。
また、請求項4記載の筋肉遅筋化促進剤は、請求項1または2記載の筋肉遅筋化促進剤において、高分子ポリフェノールが、発酵茶葉中の水溶出成分を酢酸エチル抽出し、抽出されなかった酢酸エチル非溶出成分をブタノール抽出し、抽出されなかったブタノール非溶出成分を酸性化した後に再びブタノール抽出し、抽出されたブタノール溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いて分画精製することで得られてなることを特徴とする。
また、請求項5記載の筋肉遅筋化促進剤は、請求項1記載の筋肉遅筋化促進剤において、発酵茶がウーロン茶または紅茶であることを特徴とする。
また、本発明の持久力増強および/または疲労回復剤は、請求項6記載の通り、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明のPGC−1α発現促進剤は、請求項7記載の通り、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明のAMPキナーゼ活性化剤は、請求項8記載の通り、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、持久力の増強や疲労の回復などに有効な天然由来の筋肉遅筋化促進剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1におけるウーロン茶ブタノール抽出中性画分の溶出曲線と溶出曲線に基づいて細分画して得た15個の画分を示すグラフである。
【図2】同、画分(15)の高分子ポリフェノールの筋肉の遅筋化の促進作用を示すグラフである。
【図3】同、画分(15)の高分子ポリフェノールの持久力の増強作用を示すグラフである。
【図4】同、画分(15)の高分子ポリフェノールのPGC−1αの発現促進作用を示すグラフである。
【図5】同、画分(15)の高分子ポリフェノールのAMPキナーゼの活性化作用を示すグラフである。
【図6】実施例2におけるウーロン茶ブタノール抽出酸性画分の溶出曲線と溶出曲線に基づいて細分画して得た15個の画分を示すグラフである。
【図7】実施例3における紅茶ブタノール抽出中性画分の溶出曲線と溶出曲線に基づいて細分画して得た16個の画分を示すグラフである。
【図8】実施例4における紅茶ブタノール抽出酸性画分の溶出曲線と溶出曲線に基づいて細分画して得た11個の画分を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の筋肉遅筋化促進剤は、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とするものである。本発明において、発酵茶とは、茶葉の発酵を進行させてなる茶を意味し、その具体例としては、半発酵茶であるウーロン茶や発酵茶である紅茶などが挙げられる。また、本発明において、高分子ポリフェノールとは、分子内にフェノール性水酸基を複数個有する化合物、例えば、フラボノイド系ポリフェノールであるカテキン類が高度に重合したもの(例えば数平均分子量が5000〜30000)を意味する。カテキン類は、C−C−C骨格にフェノール系水酸基を複数個有するフラバン−3−オール骨格を持つ化合物群であり、特に、茶の葉に多く含まれることは当業者によく知られた事実である。カテキンの化学構造は下記に示す通りである。カテキンには様々な誘導体が存在する(例えばカテキンの5’位の水素が水酸基に置換されたものがガロカテキンであり、さらに3位の水酸基が没食子酸とエステル結合したものがガロカテキンガレートである)。本発明において、カテキン類とは、カテキンおよびその誘導体を意味し、その具体例としては、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートなどが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールは、発酵茶の製造過程(発酵、熟成や乾燥など)でカテキン類が高度に重合することで生成すると考えられるものであり、その取得方法としては、例えば、発酵茶葉中の水溶出成分(水、沸騰水、熱水、水蒸気などで抽出することで溶出する成分)を酢酸エチル抽出し、抽出されなかった酢酸エチル非溶出成分をブタノール抽出し、抽出されたブタノール溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いて分画精製する方法や、発酵茶葉中の水溶出成分を酢酸エチル抽出し、抽出されなかった酢酸エチル非溶出成分をブタノール抽出し、抽出されなかったブタノール非溶出成分を酸性化した後に再びブタノール抽出し、抽出されたブタノール溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いて分画精製する方法などが挙げられる。なお、溶媒に含水アセトンを用いた分画精製は、例えば東ソー株式会社のトヨパールHW−40Fを用いたクロマトグラフィーにより行うことができる。
また、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールは、水や、メタノールやエタノールやアセトンなどの有機溶媒を用いた抽出操作によって得られる発酵茶葉抽出物を合成吸着剤(例えば芳香族系合成吸着剤である三菱化学株式会社のダイヤイオンHP20など)に吸着させ、吸着剤を30%メタノール溶液などで洗浄した後、70%メタノール溶液などで吸着成分を溶出し、溶出成分から酢酸エチル溶出成分を除去した後、酢酸エチル非溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いてクロマトグラフィーにより分画精製する方法などによっても取得することができる。
【0012】
発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールの具体例としては、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造を部分構造中に少なくとも含んでおり、数平均分子量が9000〜18000であるものが挙げられる。プロシアニジン構造とは、カテキン類のC環と他のカテキン類のA環が結合した構造である。発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールは、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造の他に、カテキン類のB環と他のカテキン類のA環が結合した構造などを含んでいてもよい。発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールが有する部分構造の具体例としては以下に示すものが挙げられる。なお、以下に示す部分構造はあくまで例示に過ぎず、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールは、ベンゾトロポロン、ベンゾキノン、ナフトキノンなどを含む部分構造をはじめとする多種多様の部分構造を有するものと考えられる。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明の筋肉遅筋化促進剤は、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを自体公知の方法によって顆粒剤や錠剤やカプセル剤などの経口製剤に製剤化したり、注射剤などの非経口製剤に製剤化したりしてヒトを含む哺乳動物に投与することで、筋肉(例えば骨格筋)の遅筋化を促進し、持久力の増強や疲労の回復などに効果的に作用する。その投与量は、適用対象の年齢、性別、体重、体調、症状の程度などによって適宜決定することができる。また、本発明の筋肉遅筋化促進剤は、発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを種々の形態の食品(サプリメントを含む)に持久力の増強や疲労の回復などの効果をもたらすに足る有効量を添加することで、機能性食品として食してもよい。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
【0016】
実施例1:ウーロン茶から抽出される高分子ポリフェノール(その1)の筋肉の遅筋化の促進作用
(A)ウーロン茶から抽出される高分子ポリフェノールの調製
沸騰水1000mLにウーロン茶葉30gを加え、約1分間沸騰後、10分間静置した。その後、ウーロン茶葉をろ過して除去し、ろ液を得た。以上の操作を合計4回行い、ウーロン茶葉120gから水溶出成分を含む水溶液を得た。
次に、水溶出成分から低分子ポリフェノールを除去するために酢酸エチル抽出した。具体的には、水溶液500mLにつき200mLの水飽和酢酸エチルを加え、攪拌し、静置した後、酢酸エチル相を分取する操作を10回繰り返し、酢酸エチル非溶出成分を含む水相を得た。
次に、酢酸エチル非溶出成分を含む水相をブタノール抽出した。具体的には、水相を減圧濃縮することで残存する酢酸エチルを除去した後、500mLにつき200mLの水飽和n−ブタノールを加え、攪拌し、静置した後、ブタノール相を分取する操作を10回繰り返した。分取したブタノール相を集めることでブタノール溶出成分を含む抽出液を得、これを減圧濃縮することで残存するブタノールを除去し、ブタノール溶出成分を含む水溶液を得た。この水溶液を凍結乾燥し、ウーロン茶ブタノール抽出中性画分をウーロン茶葉120gあたり4.5gの収量で得た。
【0017】
次に、以上の方法で得られたウーロン茶ブタノール抽出中性画分を、クロマトグラフィーを行ってさらに細かく分画した。固定相にはトヨパールHW−40F(東ソー株式会社製)を用い、移動相には含水アセトンを用いた。
まず、直径2.4cm×長さ35cmのカラムにトヨパールHW−40Fを充填した。また、移動相として20%アセトン溶液と50%アセトン溶液をそれぞれ600mL準備した。
次に、ウーロン茶ブタノール抽出中性画分0.3gを20%アセトン溶液3mLに溶解し、得られた溶液をカラムにアプライした。20%アセトン溶液と50%アセトン溶液を用いて固定相に吸着した成分を20〜50%の直線的濃度勾配をかけて0.3g/分の速度で順次溶出させ、フラクションコレクターを用いて溶出液を5gずつ試験管に分取した。
次に、各試験管に分取した溶出液の350nmにおける吸光度を測定し、溶出曲線を作成した。作成した溶出曲線に基づいてウーロン茶ブタノール抽出中性画分をさらに細かく分画し、同じ画分に属する溶出液を集めた後、減圧濃縮することでアセトンを除去し、凍結乾燥し、15個の画分サンプルを得た。
図1にウーロン茶ブタノール抽出中性画分の溶出曲線(溶出パターン)を示す(横軸:溶出液を回収した試験管番号(回収順),縦軸:350nmにおける吸光度)。また、溶出曲線に基づいて細分画して得た15個の画分を図1にあわせて示す。
【0018】
(B)画分(15)の平均分子量の測定
サイズ排除クロマトグラフィー法(SEC:size exclusion chromatography)によって画分(15)の平均分子量の測定を行った。高速クロマトグラフ装置としてLC−10Aシステム(株式会社島津製作所製)を用い、カラムにはTSK−GELα−3000(カラム寸法:直径7.8mm×長さ30cm,東ソー株式会社製)を用いた。カラム温度は40℃とした。展開溶媒には塩化リチウム10mMを含有したジメチルホルムアミドを用いた。流速は0.6mL/分に設定した。検出器にはLC−10Aシステムに含まれるUV検出器を用いた。検出波長は275nmに設定した。
まず、カラムに分子量標準化合物としてTSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)をアプライし、溶出時間を横軸に、UV検出値を縦軸にしてプロットし、溶出曲線を作成し、これに基づいて較正曲線を作成した。
次に、カラムにジメチルホルムアミドに溶解した画分(15)をアプライし、溶出時間を横軸に、UV検出値を縦軸にしてプロットし、較正曲線に基づいて平均分子量を算出したところ、数平均分子量は1.52×10、重量平均分子量は2.10×10であった。
【0019】
(C)画分(15)の構造解析
熱分解−ガスクロマトグラフ−マススペクトル(Py−GC−MS)分析装置を用いて画分(15)の構造解析を行った。Py−GC−MS分析装置によれば、サンプルを熱分解装置(Py)で熱分解した後、得られた熱分解生成物をガスクロマトグラフ装置(GC)に導入して分別し、さらに分別した物質をマススペクトル装置(MS)で解析することにより、サンプルの熱的性質や化学構造に関する知見を得ることができる。
最初に、熱分解装置(Py)としてキューリーポイント熱分解装置JHP−5(日本分析工業株式会社製)を用いて画分(15)の熱分解を行った。まず、炉内とガスクロマトグラフ導入部の温度を250℃にした。次に、フェロマグネティック−パイロホイル(厚さ50μm)で0.1〜0.2mgの画分(15)を包み、10%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドのメタノール溶液5μLを加え、炉内に入れて315℃で4秒間処理することで熱分解を行った後、熱分解生成物をガスクロマトグラフ装置に導いた。なお、10%テトラメチルアンモニウムヒドロキサイドのメタノール溶液は、画分(15)に含まれる化学構造をメチル化することにより質量分析の段階で揮発性や熱安定性が得られるようにする目的で用いた。
ガスクロマトグラフ−マススペクトル(GC−MS)にはガスクロマトグラフ質量分析装置JMS−600M(日本電子株式会社製)を用いた。また、データ処理装置としてTSS−2000(日本分析工業株式会社製)を用いた。ガスクロマトグラフ用カラムにはキャピラリーカラムHP−1MS(カラム寸法:直径0.25mm×長さ30m,コーティングした液層の厚さ:0.25μm,アジレント・テクノロジー製)を用いた。画分(15)の熱分解生成物とキャリアガスをカラム内に導入し、熱分解生成物中に存在する物質を分離するとともに、保持時間に関するデータを取得した。また、分離した各物質について質量分析を行い、化学構造などに関する知見を得た。なお、カラム内の温度は最初50℃で1分間保持し、次に5℃/分で300℃まで直線的に昇温させ、その後300℃で14分間保持した。キャリアガスにはヘリウムを用いた。流速は1mL/分に設定した。質量分析はイオン源温度250℃,イオン化電圧70eVの条件で行った。
ガスクロマトグラフ−マススペクトルにより得られたデータと、合成標準物質について同様の実験を行うことで得られたデータを比較した結果、画分(15)の熱分解生成物から以下に化学式を示す10種類の化合物が検出された。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
なお、上記の化合物の保持時間(tR:retention time)と分子量は次の通りである。
化合物1・・・tR:23.0分,分子量:168
化合物2・・・tR:22.1分,分子量:166
化合物3・・・tR:30.3分,分子量:196
化合物4・・・tR:30.5分,分子量:226
化合物5・・・tR:31.1分,分子量:254
化合物6・・・tR:32.4分,分子量:254
化合物7・・・tR:32.9分,分子量:254
化合物8・・・tR:35.2分,分子量:284
化合物9・・・tR:36.9分,分子量:312
化合物10・・tR:46.5分,分子量:450
【0024】
以上の結果から、画分(15)は、上記の10種類の熱分解生成物を与える化学構造を有する物質であることがわかった。質量分析の結果からは、この物質がカテキン類の2’位,5’位,6’位と他のカテキン類のいずれかの位置の間、例えば、カテキン類同士の8位と6’位の間,6位と6’位の間,6’位と6’位の間などに重合部位を有することが示唆された。また、別途に行った画分(15)のタンナーゼ分解の結果からは、この物質にはエピカテキンやエピガロカテキンの3位の水酸基にエステル結合していると考えられる没食子酸残基が含まれることが示された。塩酸−ブタノール分解の結果からは、この物質は部分構造中にカテキン類同士の4位と8位の間または4位と6位の間で重合したプロシアニジン構造を含むことが推測された。以上の結果を総合的に判断すると、画分(15)は、例えば、以下に示す、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造を部分構造中に少なくとも含んでいる高分子ポリフェノールであることがわかった(なお、この高分子ポリフェノールに含まれる部分構造の種類は多種多様であると考えられ、以上の結果はベンゾトロポロン、ベンゾキノン、ナフトキノンなどを含む部分構造の存在を否定するものではない)。
【0025】
【化6】

【0026】
(D)画分(15)の高分子ポリフェノールの筋肉の遅筋化の促進作用
(実験方法)
6週齢のマウス(C57BL/6)を無作為にトレーニング群、非トレーニング群に分け、さらにそれぞれの群を2つに分け、1つにはDW(水)で調整した画分(15)の高分子ポリフェノール(以下「MAF」と略称する)の水溶液(0.04%)を、もう1つにはコントロールとしてDWを自由飲水で経口投与した。各群の名称は、非トレーニング+DW群、非トレーニング+MAF群、トレーニング+DW群、トレーニング+MAF群とした。トレーニング群には、1日あたり30分間のトレッドミルによる強制走行運動(速度:15m/min、傾斜:0%)を週5日行わせ、これを10週間に亘り行った。10週間後のマウスを解剖し、Talmadge RJ, Roy RR. Electrophoretic separation of rat skeletal muscle myosin heavy-chain isoforms. J Appl Physiol 1993; 75: 2337-2340に記載の方法により骨格筋(足底筋)のミオシン重鎖タイプを解析し、各群の速筋型速筋線維(IIb)に対する遅筋型速筋繊維(IIa)の割合(IIa/IIb)を求めた。
【0027】
(実験結果)
結果を図2に示す(縦軸:非トレーニング+DW群のIIa/IIbの値を1とした場合の値)。図2から明らかなように、非トレーニング群ではMAFを投与してもIIa/IIbの値に変化は見られなかったが、トレーニング群ではMAFを投与することでIIa/IIbの値が増加した。古くから、持久的トレーニングを行うと、骨格筋の筋線維タイプはIIbからIIaに移行すること(骨格筋の遅筋化)が知られているが(例えばDemirel HA, Powers SK, Naito H, Hughes M, Coombes JS. Exercise-induced alterations in skeletal muscle myosin heavy chain phenotype: dose-response relationship. J Appl Physiol 1999; 86: 1002-1008)、この実験から、運動とMAFの投与を組み合わせることにより、運動のみに比較して骨格筋の遅筋化が促進することがわかった。
【0028】
(E)画分(15)の高分子ポリフェノールの持久力の増強作用
(実験方法)
6週齢のマウス(C57BL/6)を無作為にトレーニング群、非トレーニング群に分け、さらにそれぞれの群を2つに分け、1つにはDW(水)で調整した画分(15)の高分子ポリフェノール(以下「MAF」と略称する)の水溶液(0.04%)を、もう1つにはコントロールとしてDWを自由飲水で経口投与した。各群の名称は、非トレーニング+DW群、非トレーニング+MAF群、トレーニング+DW群、トレーニング+MAF群とした。各群について、持久力の測定として、9週間に亘り、トレッドミルを用いて漸増負荷試験を週1回行い、マウスが疲労困憊に至るまでの走行時間を測定した。漸増負荷試験は、トレッドミルの傾斜を10%にし、速度を10m/minから始め、4分ごとに2m/minずつ速め、36m/minに達したらその後の速度は一定とするプロトコルで行った。なお、トレーニング群については、1日あたり30分間のトレッドミルによる強制走行運動(速度:15m/min、傾斜:0%)を週5日行わせた上で測定を行った。
【0029】
(実験結果)
結果を図3に示す。図3から明らかなように、非トレーニング群ではMAFを投与しても走行時間に変化は見られなかったが、トレーニング群ではMAFを投与することで走行時間が増加し、持久力の増強が認められた。このMAFの持久力の増強作用は、上記(D)のMAFの筋肉の遅筋化の促進作用に合致することから、MAFは運動負荷が付与された個体に対して筋肉の遅筋化を促進することでその持久力を増強するので、例えばアスリートの能力向上のためのサプリメントの有効成分などとして有用であることがわかった。また、このMAFの持久力の増強作用は、MAFが筋肉の耐疲労能を向上させたこともその要因として考えられた。
【0030】
(F)画分(15)の高分子ポリフェノールのPGC−1αの発現促進作用
(実験方法)
6週齢のマウス(C57BL/6)を無作為にトレーニング群、非トレーニング群に分け、さらにそれぞれの群を2つに分け、1つにはDW(水)で調整した画分(15)の高分子ポリフェノール(以下「MAF」と略称する)の水溶液(0.04%)を、もう1つにはコントロールとしてDWを自由飲水で経口投与した。各群の名称は、非トレーニング+DW群、非トレーニング+MAF群、トレーニング+DW群、トレーニング+MAF群とした。トレーニング群には、1日あたり30分間のトレッドミルによる強制走行運動(速度:15m/min、傾斜:0%)を週5日行わせ、これを10週間に亘り行った。10週間後のマウスを解剖し、Suwa M et al. Metformin increases the PGC-1α protein and oxidative enzyme activities possibly via AMPK phosphorylation in skeletal muscle in vivo. J Appl Physiol 2006; 101: 1685-1692に記載のウェスタンブロッティング法により、各群の骨格筋(足底筋)中のPGC−1α発現量を求めた。
【0031】
(実験結果)
結果を図4に示す(縦軸:非トレーニング+DW群のPGC−1α発現量を1とした場合の値。なお、PGC−1α発現量は内部標準としてβ−アクチンを用いてPGC−1α/β−アクチンの数式により算出)。図4から明らかなように、非トレーニング群ではMAFを投与してもPGC−1α発現量に変化は見られなかったが、トレーニング群ではMAFを投与することでPGC−1α発現量が増加した。転写コアクチベーターであるPGC−1αは、筋肉の遅筋化に重要な働きを担っていることが知られていることから(例えばLin J et al. Transcriptional co-activator PGC-1alpha drives the formation of slow-twitch muscle fibers. Nature 2002; 418: 797-801やMiura S et al. Overexpression of peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator-1α down-regulates GLUT4 mRNA in skeletal muscles. J Biol Chem 2003; 278: 31385-31390)、MAFによる筋肉の遅筋化の促進には、MAFのPGC−1αの発現促進作用が寄与していることがわかった。
【0032】
(G)画分(15)の高分子ポリフェノールのAMPキナーゼの活性化作用
(実験方法)
6週齢のマウス(C57BL/6)を無作為にトレーニング群、非トレーニング群に分け、さらにそれぞれの群を2つに分け、1つにはDW(水)で調整した画分(15)の高分子ポリフェノール(以下「MAF」と略称する)の水溶液(0.04%)を、もう1つにはコントロールとしてDWを自由飲水で経口投与した。各群の名称は、非トレーニング+DW群、非トレーニング+MAF群、トレーニング+DW群、トレーニング+MAF群とした。トレーニング群には、1日あたり30分間のトレッドミルによる強制走行運動(速度:15m/min、傾斜:0%)を週5日行わせ、これを10週間に亘り行った。10週間後のマウスを解剖し、Pospisilik J et al. Targeted deletion of AIF decreases mitochondrial oxidative phosphorylation and protects from obesity and diabetes. Cell 2007; 131: 476-491に記載のウェスタンブロッティング法により、各群の骨格筋(足底筋)中のAMPキナーゼの総量に対するリン酸化AMPキナーゼの量の割合(p−AMPKα/total−AMPKα)を求めた。
【0033】
(実験結果)
結果を図5に示す(縦軸:非トレーニング+DW群のp−AMPKα/total−AMPKαの値を1とした場合の値)。図5から明らかなように、非トレーニング群ではMAFを投与してもp−AMPKα/total−AMPKαの値に変化は見られなかったが、トレーニング群ではMAFを投与することでp−AMPKα/total−AMPKαの値が増加した。AMKキナーゼもまた筋肉の遅筋化に重要な働きを担っていることが知られており(Narkar V et al. AMPK and PPARδ agonists are exercise mimetics. Cell 2008; 134: 405-415)、さらにAMKキナーゼはPGC−1αの発現を誘引する作用を有することが知られていることから(Jaeger S. AMP-activated protein kinase (AMPK) action in skeletal muscle via direct phosphorylation of PGC-1α. PNAS 2007; 104: 12017-12022)、MAFは、AMPキナーゼのリン酸化による活性化により直接的に、また、PGC−1αの発現促進を介して、筋肉の遅筋化を促進することがわかった。
【0034】
実施例2:ウーロン茶から抽出される高分子ポリフェノール(その2)の筋肉の遅筋化の促進作用
実施例1の(A)でブタノール溶出成分を含む抽出液を得た後に残った水相を塩酸でpHを約3にした後、500mLにつき200mLの水飽和n−ブタノールを加え、攪拌し、静置した後、ブタノール相を分取する操作を5回繰り返した。分取したブタノール相を集めることでブタノール溶出成分を含む抽出液を得、これを減圧濃縮することで残存するブタノールを除去し、ブタノール溶出成分を含む水溶液を得た。この水溶液を凍結乾燥し、ウーロン茶ブタノール抽出酸性画分をウーロン茶葉120gあたり3.2gの収量で得た。このウーロン茶ブタノール抽出酸性画分を、実施例1の(A)と同様にして細かく分画し、15個の画分サンプルを得た。図6にウーロン茶ブタノール抽出酸性画分の溶出曲線(溶出パターン)を示す(横軸:溶出液を回収した試験管番号(回収順),縦軸:350nmにおける吸光度)。また、溶出曲線に基づいて細分画して得た15個の画分を図6にあわせて示す。実施例1の(B)と同様にしてサイズ排除クロマトグラフィー法により画分(14)の高分子ポリフェノールの平均分子量を測定したところ、数平均分子量は1.73×10、重量平均分子量は2.44×10であった。この画分(14)の高分子ポリフェノールの筋肉の遅筋化の促進作用を実施例1の(D)と同様にして評価したところ、実施例1の画分(15)の高分子ポリフェノールと同様の作用が認められた。
【0035】
実施例3:紅茶から抽出される高分子ポリフェノール(その1)の筋肉の遅筋化の促進作用
沸騰水500mLに紅茶葉25gを加え、10分間穏やかに沸騰後、直ちにブフナーロートとで紅茶葉をろ過して除去し、ろ液を得た。以上の操作を合計4回行い、紅茶葉100gから水溶出成分を含む水溶液を得た。以降の操作を実施例1の(A)と同様にして紅茶ブタノール抽出中性画分を紅茶葉100gあたり1.5gの収量で得た。この紅茶ブタノール抽出中性画分を、実施例1の(A)と同様にして細かく分画し、16個の画分サンプルを得た。図7に紅茶ブタノール抽出中性画分の溶出曲線(溶出パターン)を示す(横軸:溶出液を回収した試験管番号(回収順),縦軸:350nmにおける吸光度)。また、溶出曲線に基づいて細分画して得た16個の画分を図7にあわせて示す。実施例1の(B)と同様にしてサイズ排除クロマトグラフィー法により画分(15)の高分子ポリフェノールの平均分子量を測定したところ、数平均分子量は1.36×10、重量平均分子量は1.89×10であった。この画分(15)の高分子ポリフェノールの筋肉の遅筋化の促進作用を実施例1の(D)と同様にして評価したところ、実施例1の画分(15)の高分子ポリフェノールと同様の作用が認められた。
【0036】
実施例4:紅茶から抽出される高分子ポリフェノール(その2)の筋肉の遅筋化の促進作用
実施例2と同様にして紅茶ブタノール抽出酸性画分を紅茶葉100gあたり1.9gの収量で得た。この紅茶ブタノール抽出酸性画分を、実施例1の(A)と同様にして細かく分画し、11個の画分サンプルを得た。図8に紅茶ブタノール抽出酸性画分の溶出曲線(溶出パターン)を示す(横軸:溶出液を回収した試験管番号(回収順),縦軸:350nmにおける吸光度)。また、溶出曲線に基づいて細分画して得た11個の画分を図8にあわせて示す。実施例1の(B)と同様にしてサイズ排除クロマトグラフィー法により画分(11)の高分子ポリフェノールの平均分子量を測定したところ、数平均分子量は9.43×10、重量平均分子量は1.48×10であった。この画分(11)の高分子ポリフェノールの筋肉の遅筋化の促進作用を実施例1の(D)と同様にして評価したところ、実施例1の画分(15)の高分子ポリフェノールと同様の作用が認められた。
【0037】
製剤例1:錠剤
実施例1の画分(15)の高分子ポリフェノールの凍結乾燥粉末5g、乳糖78g、ステアリン酸マグネシウム17g、合計100gを均一に混合し、常法に従って錠剤とした。
【0038】
製剤例2:ビスケット
薄力粉31g、全卵16g、バター16g、砂糖24g、水10g、ベーキングパウダー1g、実施例3の画分(15)の高分子ポリフェノールの凍結乾燥粉末2g、合計100gを用い、常法に従ってビスケットとした。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、持久力の増強や疲労の回復などに有効な天然由来の筋肉遅筋化促進剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする筋肉遅筋化促進剤。
【請求項2】
高分子ポリフェノールが、プロシアニジン構造と、カテキン類のB環同士が結合した構造を部分構造中に少なくとも含んでおり、数平均分子量が9000〜18000であることを特徴とする請求項1記載の筋肉遅筋化促進剤。
【請求項3】
高分子ポリフェノールが、発酵茶葉中の水溶出成分を酢酸エチル抽出し、抽出されなかった酢酸エチル非溶出成分をブタノール抽出し、抽出されたブタノール溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いて分画精製することで得られてなることを特徴とする請求項1または2記載の筋肉遅筋化促進剤。
【請求項4】
高分子ポリフェノールが、発酵茶葉中の水溶出成分を酢酸エチル抽出し、抽出されなかった酢酸エチル非溶出成分をブタノール抽出し、抽出されなかったブタノール非溶出成分を酸性化した後に再びブタノール抽出し、抽出されたブタノール溶出成分を溶媒に含水アセトンを用いて分画精製することで得られてなることを特徴とする請求項1または2記載の筋肉遅筋化促進剤。
【請求項5】
発酵茶がウーロン茶または紅茶であることを特徴とする請求項1記載の筋肉遅筋化促進剤。
【請求項6】
発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とする持久力増強および/または疲労回復剤。
【請求項7】
発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とするPGC−1α発現促進剤。
【請求項8】
発酵茶から抽出される高分子ポリフェノールを有効成分とすることを特徴とするAMPキナーゼ活性化剤。




【図1】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−37323(P2010−37323A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42255(P2009−42255)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(303044712)三井農林株式会社 (72)
【Fターム(参考)】