説明

筋肉運動センサ、意思伝達装置、意思伝達方法

【課題】ALS等の難病に起因する高度の障害によって意思疎通がきわめて困難となっている患者についても簡便な意思伝達手段を提供する。
【解決手段】意思表出が困難な患者の肛門括約筋の動きを検出するための筋肉運動センサであって、前記患者の意思による前記肛門括約筋の動きから生じる物理量の変化を検出する物理量変化検出部と、前記物理量変化検出部により検出された物理量変化を電気信号に変換して出力する変換出力部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筋肉運動センサ、意思伝達装置、意思伝達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis、以下「ALS」という。)等の神経難病に罹患した患者は、疾病の進行に従って次第に随意筋の運動能力が失われていくため、外部への意思伝達手段をどのように確保するかが本人、周囲の家族等にとって重大な問題となる。呼吸器に関する随意筋のマヒによって気管挿管が実施され、言語による意思伝達が不可能となった後は、疾病が進行する中にあって、最終的には運動能力が残存している随意筋のわずかな動きを検出することによって患者からの意思伝達を実現することとなる。具体的には、従来ALSでは眼球運動障害が生じにくいとされ、眼球周囲の随意筋の微小な動きを検出することにより患者の意思表出を捉えようとする試みが行われ、そのための種々の機器が開発されてきている。
【0003】
例えば特許文献1には、ALSなどの患者が操作するスイッチを設けた入力支援装置が開示されている。この入力支援装置は、位置検出手段3を移動させるアクチュエータ手段4と、位置検出手段3から出力される位置情報29を用いて身体の部位1と位置検出手段3との距離を制御する制御手段6を備え、身体の部位が随意で運動可能な範囲となるように、位置検出手段の位置を制御し、身体の部位の随意運動をスイッチの開閉信号27として出力する構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−288922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の提案する構成によっても、前記した眼球周囲の随意筋さえ運動能力を喪失してしまった段階では、もはや患者の意思表出を検出することはできず、患者の意思伝達手段は全く失われてしまうこととなっていた。随意筋の運動が検出できなくなった段階で、患者の脳内での思考に伴う血流変化を電磁的に検出することにより患者の意思表出を捉える技術も提案されているが、高額な測定機器が必要となることもあって、患者が療養している家庭への導入といった実用化にはほど遠いのが現状である。
【0006】
したがって、なんらかの代替的な意思伝達手段であって、しかも患者、家族等に経済的な負担をかけないような手法を見いだして患者の意思伝達能力を極力温存することが強く求められていた。
【0007】
このような状況において、本願発明の発明者は、例えばALSの患者について、四肢や呼吸筋に高度の障害が現れ機械的呼吸補助を要する段階でも、括約筋の機能は比較的よく保たれ、排尿や排便の障害は臨床的に目立たないとされる事実を見いだしてこれに着目した。そして、尿道や肛門括約筋を支配する運動神経細胞は脊髄下部(第2仙髄)でOnufrowicz核を形成しており、実際ALS患者ではこの核の運動ニューロンが剖検の段階まで良く保たれているとの知見を得た。他の随意筋を用いた意思疎通が困難な段階でも、ALSのように括約筋機能が残存していれば、括約筋の運動や電気活動を通した意思疎通が可能であり、患者の療養の質の向上が期待できる。
【0008】
本発明は、上記の及び他の課題を解決するためになされたもので、ALS等の難病に起因する高度の障害によって意思疎通がきわめて困難となっている患者についても簡便な意思伝達手段を構成する筋肉運動センサ、意思伝達装置、意思伝達方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明の一態様は、意思表出が困難な患者の肛門括約筋の動きを検出するための筋肉運動センサであって、前記患者の意思による前記肛門括約筋の動きから生じる物理量の変化を検出する物理量変化検出部と、前記物理量変化検出部により検出された物理量変化を電気信号に変換して出力する変換出力部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の筋肉運動センサ、意思伝達装置、意思伝達方法によれば、ALS等の難病に起因する高度の障害によって意思疎通がきわめて困難となっている患者についても簡便な意思伝達手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による括約筋運動センサの略縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による括約筋運動センサの略縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態による括約筋運動センサの外観図である。
【図4】括約筋運動センサの歪みゲージを含む測定回路例を示す図である。
【図5】括約筋運動センサによる肛門括約筋の動きの測定例である。
【図6】括約筋運動センサによる肛門括約筋の動きの測定例である。
【図7】括約筋運動センサを用いた意思表示検出装置の構成例を示す図である。
【図8】括約筋運動センサを用いた意思表示検出装置のソフトウェア構成例を示す図である。
【図9】解析用テーブル1025の一例を示す図である。
【図10】括約筋運動センサを用いた意思表示検出装置の動作処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
【0013】
《括約筋運動センサの構成》
まず、本発明の一実施形態に係る括約筋運動センサの構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1は括約筋運動センサ10(筋肉運動センサ)の略縦断面図、図2は括約筋運動センサ10の図1から90°回転させて見た略縦断面図、図3は括約筋運動センサ10の斜視図である。
【0014】
括約筋運動センサ10は、略円筒形の基部をなすベース11と、ベース11の上面11aから突出させて設けられている、物理量変化検出部としての2本のプローブ12、12とを備える。プローブ12、12が、患者の肛門内に差し入れられて、肛門括約筋の動きを検出するための直接的な検出部を形成している。
【0015】
ベース11は、図示の例では、半割状態に形成された樹脂成型品を一体に接合することにより、一方の端面中央に一対のプローブ12、12の一端部を受容することができる円形の凹部が形成されるように構成されている。ベース11及び前記のプローブ12、12に適用される材料としては、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、シリコンゴム等の生体適合性を有する合成樹脂材料が好ましいが、患者の体組織に接触させても無害であるような材料であれば、適宜選択して採用することができる。
【0016】
ベース11の凹部11bには、ベース11とプローブ12、12とを一体的に固定するために、例えば生体適合性を有するシリコンコーク剤11cが充填される。また、ベース11の上面11aの外周肩部11dは、患者の臀部と接触したときに患者の皮膚を傷つけたり不快感を与えたりしないように、適宜の丸みあるいは面取りが設けられる。プローブ12、12が肛門内に安定して留置され、また誤ってプローブ12、12が必要以上に深く挿入されてしまうことを防止するために、ベース11の外径は、プローブ12、12の外径よりも大きく形成されている。
【0017】
なお、本実施形態ではベース11を後述するプローブ12とは別体として構成しているが、両者を一体成形するようにしてもよい。この場合、上記のコーク剤11cによるベース11とプローブ12、12との一体的な固定構造は不要となる。
【0018】
プローブ12、12は、一端部が丸められた円筒状体を概略軸方向に二分割してそれぞれ得られる、外観が手指状の部材である。図1に示すように、一対のプローブ12、12は、その分割面を向かい合わせるようにして、適宜のギャップGを挟んで配置されている。各プローブ12の丸みのない他端部は、軸に略直交する平面で切断された切断面を有している。
【0019】
後述するように、プローブ12、12は意思疎通を図ろうとする患者の肛門内に差し入れられ、肛門括約筋の動きを自身の撓みとして検出することができる。プローブ12の一端部の丸みは、患者の肛門に無理なく差し込むことができるように適当に定めればよい。また、プローブ12の長さ、一対のプローブ12、12の仮想的な外径寸法は、いずれも標準的な人の肛門に無理なく差し入れることができ、ベース11が肛門周囲の臀部に突き当たって固定される位置で肛門括約筋によって有効に取り囲まれるような寸法とすればよい。一例として、本実施形態ではプローブ12、12の突出長さが約30mm、その外径が約13mm、ベース11の外径が約27mmと設定されているが、本発明はこの数値によって限定されることはない。
【0020】
各プローブ12の互いに対向する内側面12aには、ステンレス鋼等の適宜の金属材料から形成されている略矩形の金属板13が、接着、ねじ止め等の適宜の手段で固定されている。そして各金属板13には、プローブ12の軸方向を長手方向として略矩形のひずみゲージ14(変換出力部)が接着等の手段で同じく固定されている。周知のように、ひずみゲージ14は、プローブ12に曲げ変形が加えられたときに貼り付けられている金属板13とともに曲げられるが、このときにひずみゲージ14内の導電路に生じる微小な抵抗値の変化を電圧変化として取り出すことができるものである。ひずみ検出手法については測定回路例に関して後述する。
【0021】
なお、本実施形態では、図1に示すように各プローブ12の内側面に固定されている金属板13は側断面U字状となるように一体的に接続されている構成としているが、各プローブ12に別体の金属板13をそれぞれ固着するようにしても構わない。
【0022】
また、ひずみゲージ14は、各プローブ12の内側面12aに設置して2つのゲージの抵抗値変化を重畳して検出することにより検出精度を高めることができるが、ひずみゲージ14を1枚のみ使用する構成、あるいは3枚以上のひずみゲージ14を組み合わせる構成など、ひずみゲージ14による部材変形の検出に関して知られている如何なる測定構成を採用しても差し支えない。
【0023】
ひずみゲージ14からは、ひずみゲージ14に設けられている導電路と電気的に接続されているリード線15がベース11内を通して外部へ引き出されている。このリード線15は、後述する測定回路のブリッジ回路に接続される。
【0024】
なお、以上のように本実施形態では肛門括約筋の動きをプローブ12の曲げ変形として検出する構成を採用しているが、肛門括約筋の動き、すなわち患者の意思による肛門括約筋の緊張と弛緩に伴う内径の収縮、拡大をなんらかの物理量の変化として検出できるのであれば、その構成はどのようなものであっても構わない。例えば、細長いバルーンの内圧変化を圧力センサによって計測することができるようにしておき、このバルーンを肛門括約筋に取り囲まれるように肛門内に留置し、肛門括約筋の動き(収縮、弛緩)によるバルーンの内圧変化を調べるように構成することができる。また、肛門括約筋の動きを直接機械的に捉えるのではなく、患者の脳から肛門括約筋に神経系を通じて伝達される運動指令により発生する筋電図を測定してその変化を検出することにより、患者の意思伝達手段とする構成も可能である。
【0025】
実際に括約筋運動センサ10を肛門内に挿入する際には、衛生上の観点及び使用後のセンサ10の洗浄の手間を考慮して、センサ10全体を使い切りの殺菌済みゴムサック等で包んで使用することが好ましい。
【0026】
前記プローブ12の適宜の部位に温度センサを設け、後述する意思伝達装置100で測定温度を常時モニタすることができる構成とすれば、なんらかの事情でセンサ10が患者の肛門から脱出してしまった場合に測定温度の低下によりそれを検知することができるため、介助者の負担を軽減し安全性を向上させることができる。
【0027】
《測定回路の構成》
次に、以上説明した括約筋運動センサ10を用いて肛門括約筋の動きを検出するための測定回路例について説明する。図4に、この測定回路の一例を模式的に示している。図1、図2のひずみゲージ14は、ホイートストンブリッジ回路1に組み込まれ、このホイートストンブリッジ回路1の残りの各辺それぞれには、可変抵抗器1a、及び2つの固定抵抗器1bが対応して接続されている。ホイートストンブリッジ回路1には直流電源2が接続され、ホイートストンブリッジ回路1の出力は増幅器3を介して電圧計4に接続されている。
【0028】
ひずみゲージ14を利用した測定回路について周知のように、括約筋運動センサ10のプローブ12、12を肛門内に差し入れて留置した初期状態(患者が肛門括約筋を弛緩させている平常状態)において、可変抵抗器1aの値を調整してホイートストンブリッジ回路1を平衡状態とし、ホイートストンブリッジ回路1からの出力電圧が0となるようにする。この状態で患者が自らの意思で肛門括約筋を動かす(緊張させて肛門括約筋を締める)と、括約筋運動センサ10のプローブ12、12は互いに内方へ曲げられるように変形し、ひずみゲージ14の抵抗値が増加するように変化することによりホイートストンブリッジ回路1は不平衡状態となる。このため、増幅器3が接続されたノード間には不平衡電流に基づく電位差が現れるので、増幅器3でこの電圧を増幅して電圧計4で観察する。すなわち、患者の意思表出は肛門括約筋の動きとして表出され、ひずみゲージ14を介して電圧変化として電圧計4により検出されることとなる。
【0029】
《測定結果の例》
図5、図6に、図1〜3に例示した括約筋運動センサ10を用いて、図4に例示した測定回路による測定結果を示す。本測定は、ALSに罹患している患者と家族等の関係者の承諾を得て実施された。図5、図6ともに、横軸は時間(単位は秒)、縦軸は電圧計4に記録された増幅器3からの出力電圧値(単位はボルト)をとっている。図5、図6の例では、被験者が肛門括約筋を締めていない平常状態でのベース電圧が約1.5Vに設定されている。なお、ノイズによる誤検知を防止するために、一般に行われているようにベース電圧から所定の電圧幅の不感帯を設けることができる。
【0030】
まず、図5の場合、被験者に対して、「肛門括約筋を長く2回、短く1回緊張させる(肛門を締める)」ことを依頼した結果を示している。図示のように、1.5秒以上の比較的長い電圧上昇が2回、1秒以下の比較的短い電圧上昇が1回記録されており、依頼に対する被験者の意思表出が出力電圧の変化として検出されたことを示している。
【0031】
次に、図6の場合、被験者に対して、「肛門括約筋を強く、弱く、強く、と交互に緊張させる(肛門を締める)」ことを依頼した結果を示している。図示のように、強い締め付けを示す2.5V程度のピークが2箇所、その間に2V程度の比較的低いピークが1回記録されており、図5の場合と同様に、依頼に対する被験者の意思表出が出力電圧の変化として検出されたことを示している。
【0032】
以上より、図5の測定結果に基づくと、患者の意思による肛門括約筋の運動を検出する際に、例えば出力電圧が2Vを超えてから再び2V未満に低下するまでの時間を1.5秒程度の閾値と比較することにより、肛門括約筋締め付け時間の長短を判別することができる。また、図6の測定結果に基づくと、例えば出力電圧測定値を出力電圧の第1閾値1.7V程度、第2閾値2.2〜2.3V程度の値と比較することで、肛門括約筋締め付けの強弱を判別することができる。
【0033】
すなわち、図5を参照すると、第1及び第2の電圧ピークは、測定値が2Vを超えている持続時間t1、t2がそれぞれ1.5秒より長いため、肛門括約筋の締め付け時間が長い場合であると判別される。一方、第3の電圧ピークでは前記持続時間t3が1.5秒より短いため、肛門括約筋の締め付け時間が短い場合であると判別される。
【0034】
また、図6を参照すると、第1及び第3の電圧ピークVp1、Vp3は、測定値が第2閾値である2.2Vを超えているため、肛門括約筋の締め付けが強い場合であると判別される。一方、第2の電圧ピークVp2では測定値が第1閾値である1.7Vを超えているが第2閾値である2.2Vに達していないため、肛門括約筋の締め付けが弱い場合であると判別される。
【0035】
このように、被験者(患者)の肛門括約筋締め付け時間と締め付け強さの組み合わせによって、1回の締め付け動作によって4つの状態のいずれかを表現することができることが確認された。なお、前記の出力電圧判定用の閾値は、実際の測定試行結果等に基づいて適宜調整して定めればよい。
【0036】
また、括約筋運動センサ10からの出力電圧の変動有無を例えばオンオフの2値に対応させることで、本実施形態の括約筋運動センサ10を、ALS患者等の意思伝達を補助する様々な器具を操作するためのスイッチとして利用することも可能である。
【0037】
《括約筋運動センサ10を用いた意思伝達装置》
次に、以上説明した括約筋運動センサ10を利用する意思伝達装置100の構成について説明する。図7に、本実施形態における意思伝達装置100の構成例を示している。
【0038】
意思伝達装置100は、括約筋運動センサ10の出力信号を処理する情報処理装置(コンピュータ)であって、例えば、図7に例示するように、プロセッサ101(例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)、以下簡単のため「CPU」と称する)、メモリ102(例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory))、補助記憶装置103(例えばハードディスクドライブ(Hard Disk Drive、HDD)、半導体記憶装置(Solid State Drive、SSD))、ユーザの操作入力を受け付ける入力装置104(例えばキーボード、マウス、タッチパネル等)、出力装置105(例えば液晶ディスプレイ、プリンタ等)、他の外部装置との間での通信を実現する通信インタフェース106(例えばNIC(Network Interface Card)等)を備えている。
【0039】
入力インタフェース107(以下「入力I/F107」)は、括約筋運動センサ10からの出力信号を受信するための入力処理部であり、例えば括約筋運動センサ10からのアナログ電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部を含むが、具体的には括約筋運動センサ10から入力される信号の仕様に応じた回路構成を用意すればよい。
【0040】
出力変換部20は、括約筋運動センサ10と意思伝達装置100の入力I/F107との間に必要に応じて接続されるインタフェース回路であり、例えば括約筋運動センサ10からのアナログ電圧信号について、増幅、波形成形等の処理を実行する。なお、出力変換部20は、括約筋運動センサ10に一体的に組み込んで設けるようにしてもよい。また、出力変換部20にAD変換回路と無線送信機、例えば無線LAN送信部を設けるように構成すれば、括約筋運動センサ10の出力を無線通信で意思伝達装置100の通信I/F106に送信することが可能となり、括約筋運動センサ10と意思伝達装置100との間の通信用配線を省略することができるので、患者自身及び介護者にとって機器取り扱いの煩わしさを軽減することができる。
【0041】
コンピュータとしての意思伝達装置100で稼働するオペレーティングシステム(Operating System、 OS)は特に特定のシステムに限定されることはない。例えばWindows(登録商標)、UNIX(登録商標)系のオペレーティングシステム、例えばLinux(登録商標)等がこのOSとして好適に用いられる。
【0042】
次に、本実施形態の意思伝達装置100におけるソフトウェア構成について説明する。図8に、意思伝達装置100のソフトウェア構成の一例を示している。意思伝達装置100の情報処理を実行するソフトウェアは、コンピュータプログラムとして補助記憶装置103にあらかじめ格納されており、プロセッサ101によりメモリ101上に読み出されて実行されることにより、所定の機能を発揮するように構成される。
【0043】
図8の例では、意思伝達装置100には、データI/O部1021、OS1022、センサ出力解析部1023、出力制御部1024が実装されている。また、センサ出力解析部1023が参照する解析用テーブル1025もあわせてメモリ102に格納されている。
【0044】
データI/O部1021は、後述のOS1022の制御下で、括約筋運動センサ10からのデータ入力、入力装置104からのデータ入力等を受付ける入力データ処理と、出力制御部1024からの出力データを出力装置105等へ引き渡す出力データ処理とを実行する。
【0045】
OS1022は、前記のように、データI/O部1021によるデータ入出力処理、及びセンサ出力解析部1023、出力制御部1024の動作のための基盤を提供する基本ソフトウェアである。
【0046】
センサ出力解析部1023は、括約筋運動センサ10のアナログ電圧信号を変換して得られたデジタル信号を使用して括約筋運動センサ10からの出力電圧測定値が前記した4つの状態のいずれかであるかを判別するとともに、その判別結果をあらかじめデジタル信号で表されるデータ列と患者が伝達しようとする内容との間で対応関係を規定してある参照テーブルである解析用テーブル1025と対照することにより、患者が入力して得られた括約筋運動センサ10の出力をそれによって患者が伝達しようとした意思の内容に変換する処理を実行する。
【0047】
図9に、本実施形態の解析用テーブル1025の一例を示している。図9の例で、解析用テーブル1025には、「検出データ」、「対応符号」、「伝達内容」の各項目が対応付けて格納されている。「検出データ」は、センサ出力解析部1023によって検出される括約筋運動センサ10からの出力データパターンを示している。図5、図6の測定結果に示したとおり、本実施形態の括約筋運動センサ10による出力は、少なくとも患者が肛門括約筋を「強く、あるいは弱く」、あるいは「長く、あるいは短く」緊張させる(肛門を締める)動作を明確に判別して取り出すことができることが確認されている。したがって、本実施形態では、肛門括約筋を「強く長く(記号1)」、「強く短く(記号2)」、「弱く長く(記号3)」、「弱く短く(記号4)」の4通りのパターンで患者に締め付ける動作をしてもらい、さらにこのパターンの連続2回の組み合わせを1セットの意思伝達内容として処理することにより、計16通りの意思伝達内容を検出することができるように構成している。
【0048】
「対応符号」は各検出データパターンに対して識別符号を付与したもので、情報処理上の必要に応じて適宜使用することができる。「伝達内容」は、検出データの各パターンに対応する患者の意思伝達内容を日本語の自然文で記述している項目である。図9の例では、センサ出力解析部1023が検出データのパターンとして「11」(強く長く2回)を検出した場合、その対応符号が「A」であり、伝達内容は「(これから意思伝達を)はじめます。」であることが記録されている。
【0049】
図8に戻ると、出力制御部1024は、センサ出力解析部1023の解析結果を受け取って、出力装置105を通じて出力させるためのデータ処理を実行する。
【0050】
以上の構成を有する意思伝達装置100によれば、肛門括約筋の動きを通じて患者が伝達しようとする意思の内容を明確に判別することができる。
【0051】
次に、以上説明した意思伝達装置100の動作について説明する。図10は、本実施形態の意思伝達装置100によって実現される基本的な動作処理フローの一例を示している。まず、センサ出力解析部1023は、括約筋運動センサ10から開始データが入力されるのを待機する(S1001、No)。開始データとは、通信プロトコルにおけるスタートビットに相当する役割を持たせたデータであり、図9の解析用テーブル1025におけるデータ「11」がこれに該当する。
【0052】
開始データが検出されたと判定した場合(S1001、Yes)、センサ出力解析部1023は、意思伝達を示すデータ入力があったかを判定する(S1002)。データ入力がないと判定した場合(S1002、No)、センサ出力解析部1023は、経過時間によるタイムアウトの有無をさらに判定し(S1003)、タイムアウトと判定した場合(S1003、Yes)、処理を終了させる。なお、この場合、出力制御部1024に対して、「意思伝達内容の検出に失敗した」旨の出力を表示又は音声で行わせるようにしてもよい。タイムアウトと判定しなかった場合(S1003、No)、センサ出力解析部1023は、S1002で入力データがあったか繰り返し判定する。
【0053】
意思伝達内容を示すデータが入力されたと判定した場合(S1002、Yes)、センサ出力解析部1023は、入力データが前記した4つの状態のいずれを示しているかを判定し、解析用テーブル1025を参照して入力データの解析、すなわち入力データが示す意思伝達内容を取得する(S1004)。なお、意思伝達内容を示すデータ入力があったかは、検出した入力データが解析用テーブル1025のデータパターンのいずれかに一致するかに基づいて判定される。
【0054】
次いで、センサ出力解析部1023は、通信プロトコルにおけるストップビットに相当する役割を持たせた終了データ(図9の例では「44」)を検出したかどうか判定し(S1005)、まだ終了データを検出していないと判定した場合(S1005、No)、S1002でさらにデータ入力が行われるのを待つ。終了データを検出したと判定した場合(S1005、Yes)、センサ出力解析部1023は、解析結果を出力制御部1024に引き渡し、出力装置105に出力させて処理を終了する(S1006)。
【0055】
以上図10を参照して説明した本実施形態のセンサ出力解析処理フローによれば、括約筋運動センサ10を装着している患者からの肛門括約筋の動きを通じたデータ入力を解析することにより、患者が伝えようとしている意思の内容を判別して出力装置105に出力させることができる。例えば、図9を参照すると、センサ出力解析部1023によりデータ「12」が検出された場合、出力装置105を通じて、表示、音声等の適宜の手段によって「排泄介助してください」といったメッセージが患者の意思表出として出力される。
【0056】
なお、意思伝達装置100としては、本実施形態に例示した構成に限られず、種々のバリエーションが考えられる。例えば、本実施形態の括約筋運動センサ10を患者が「肛門括約筋を緊張させ、あるいは弛緩させる」という2つの状態を出力しうるオンオフスイッチとして利用し、そのオンオフ出力を受け付けて表示、音声等の信号に変換する様々な意思表出手段としての意思伝達装置100に連動させることが可能である。例えば、五十音表の上で各文字に対応して電球等が点灯するように構成した表示盤を用意する。そして、その表示盤において、まず一定時間毎にア行、次にカ行、次にサ行、…というように一つの行全体が順次点灯し、点灯している間に括約筋運動センサ10のスイッチで合図をするとその行が選択されるようにする(ローマ字の子音の選択)。次にその選択した行の中の文字を順番に点灯させ、行選択と同様にして括約筋運動センサ10のスイッチで文字を選択する(ローマ字の母音の選択)。例えば、「ケ(KE)」を入力したいときは、まずカ行の点灯中に括約筋運動センサ10のスイッチを操作してカ行(子音Kの行)全体を選択する。次にカ行の文字が順番にカ(KA)、キ(KI)、…と一個ずつ点灯していくので、「ケ」の文字が点灯したら再び括約筋運動センサ10のスイッチを扱う。これにより、患者は括約筋運動センサ10の操作を通じて「ケ(KE)」の文字を選択することができ、以降同様の操作を繰り返すことで単語や文を組み立てて意思を伝えることができる。
【0057】
以上、本発明についてその実施形態に即して説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 ホイートストンブリッジ回路
1a、1b 抵抗器
2 直流電源
3 増幅器
4 電圧計
10 括約筋運動センサ
20 出力変換部
100 意思伝達装置
101 プロセッサ
102 メモリ
103 補助記憶装置
104 入力装置
105 出力装置
106 通信インタフェース
107 入力インタフェース
1021 データI/O部
1022 OS
1023 センサ出力解析部
1024 出力制御部
1025 解析用テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
意思表出が困難な患者の肛門括約筋の動きを検出するための筋肉運動センサであって、
前記患者の意思による前記肛門括約筋の動きから生じる物理量の変化を検出する物理量変化検出部と、
前記物理量変化検出部により検出された物理量変化を電気信号に変換して出力する変換出力部と、
を備えている筋肉運動センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の筋肉運動センサであって、
前記物理量変化検出部が、前記筋肉運動センサの基部から突設された、互いに平行に配置された1組の棒状部材と、前記棒状部材が前記患者の肛門に挿入された状態で、前記肛門括約筋の動きに応じた前記棒状部材の曲げ変形を検知するひずみゲージとを備えている、筋肉運動センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の筋肉運動センサであって、
前記物理量変化検出部に、前記患者の体温を検知するための温度センサが設けられている、筋肉運動センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の筋肉運動センサと、
前記筋肉運動センサの前記変換出力部から出力される前記電気信号を受信して、あらかじめ設定されている前記電気信号の複数の変化パターンと比較して受信した前記電気信号がいずれの前記変化パターンに合致するか判定し、前記複数の変化パターンをそれぞれ前記患者が表出しようとする意思の内容と対応付けて保持しており、前記受信した電気信号の前記変化パターンに対応する前記意思の内容を特定するセンサ出力解析部と、
前記特定された意思の内容を所定の出力形式で出力させる出力制御部と、
を備えている意思伝達装置。
【請求項5】
随意筋による意思表出が困難な患者の意思伝達方法であって、
前記患者の肛門括約筋の動きから生じる物理量の変化を検出して電気信号に変換し、
前記電気信号を受信して、あらかじめ設定されている前記電気信号の複数の変化パターンと比較して受信した前記電気信号がいずれの前記変化パターンに合致するか判定し、
前記複数の変化パターンをそれぞれ前記患者が表出しようとする意思の内容と対応付けて保持しており、前記受信した電気信号の前記変化パターンに対応する前記意思の内容を特定して、当該意思の内容を所定の出力形式で出力させる、
意思伝達方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−61054(P2012−61054A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205888(P2010−205888)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学総合研究所 (69)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】