説明

筋量増加剤

【課題】優れた筋肉量増加作用等を有し、且つ安全性が高い医薬品、医薬部外品、食品、飼料及びそれらに配合可能な素材の提供。
【解決手段】脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋量増加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋量の増加或いは低下抑制効果を発揮する医薬品、食品等に関する。
【背景技術】
【0002】
運動やスポーツ競技において、骨格筋は最も重要な運動器である。我々は骨格筋を収縮または弛緩させることにより身体活動を行う。また骨格筋は活動するためのエネルギー源として、血液中の糖や脂肪を取り込んで消費することから、最大のエネルギー消費組織でもある。その他にも骨格筋は関節の安定化や姿勢の保持、血管、臓器の保護等の役割を有している。
【0003】
骨格筋量は、筋蛋白質の合成と分解のバランスにより一定量に保たれており、通常の生活の中で骨格筋量が急激に変動することは考えられない。しかし、加齢に伴い骨格筋量や筋力等の筋機能は低下してくる。我々の骨格筋は、30歳を過ぎると10年毎に約5%前後の割合で減少し、60歳を過ぎるとその減少率は更に加速すること、また高齢期の骨格筋の減少には、速筋(タイプII)繊維の選択的な減少が特徴であると報告されている(非特許文献1)。加齢に伴う骨格筋量や筋機能の低下は、転倒による怪我を引き起こし、身体活動量の低下を引き起こし、それに伴い骨粗鬆症、肥満やインスリン抵抗性等の代謝障害の危険性を高めると言われている(非特許文献2)。
【0004】
また骨格筋量の低下又は筋機能の低下は、加齢だけではなく、先天性筋無力症候群の患者でも認められ、それには神経筋接合部に発現する分子の先天的な遺伝子変異により生じる神経筋接合部の信号伝達異常が関係している(非特許文献3)。特にDok−7やMuSKは、神経筋接合部の形成に必須な分子であると言われている(非特許文献4)。更に神経筋接合部形成不全は加齢により引き起こされることも報告されている(非特許文献5)。
【0005】
骨格筋量を増加するための手段として、ステロイド剤や成長ホルモンの使用が知られているが、これらは筋力の低下や筋肉痛、副腎機能の低下等の副作用の問題を有している。
骨格筋量を増加あるいは維持することは、パフォーマンス向上を目指す運動愛好者やアスリートだけでなく、ヘルスケアの点で広く一般人においても有用であると考えられることから、より安全性の高い成分が求められ、例えば、アルギニン、リジン等から成る組成物(特許文献1)、アミノ酸含有組成物(特許文献2)等による筋量増加作用が報告されている。
【0006】
脂肪球皮膜成分(MFGM: milk fat globule membrane)は、乳中の脂肪球を被覆している乳腺細胞由来の膜様成分であり、主としてリン脂質とリポ蛋白よりなる。脂肪球皮膜成分は、脂肪を乳汁中に分散させる機能があるが、それのみならず血中アディポネクチン増加及び/又は減少抑制効果(特許文献3)、学習能向上効果(特許文献4)、シアロムチンの分泌促進効果等(特許文献5)の生理機能を有することが知られている。また、最近では、脂肪球皮膜成分が、筋力を増大させることや持久力を向上させることが報告されている(特許文献6)。
【0007】
しかしながら、脂肪球皮膜成分に筋量増加作用あるいは筋萎縮抑制作用、神経筋接合部形成促進作用があることはこれまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−513149号公報
【特許文献2】特表2008−534599号公報
【特許文献3】特開2007−320901号公報
【特許文献4】特開2007−246404号公報
【特許文献5】特開2007−112793号公報
【特許文献6】特開2010−59155号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lexell、J Neurol Sci、84、1988
【非特許文献2】Evans、J Gerontol A Biol Sci Med Sci、50、1998
【非特許文献3】大野欽司、BRAIN and NERVE、63、2011
【非特許文献4】樋口理、BRAIN and NERVE、63、2011
【非特許文献5】Balice-Gordon、Muscle & Nerve、1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた筋肉量増加作用、筋萎縮抑制作用、神経筋接合部形成促進作用等を有し、且つ安全性が高い医薬品、医薬部外品、食品、飼料及びそれらに配合可能な素材を提供することに関する。
【0011】
本発明者らは、筋量増加において有効な成分の探索を行った結果、脂肪球皮膜成分に筋肉量増加作用、速筋繊維増加作用、筋タンパク質増加作用及び神経筋接合部形成促進作用等があり、これが筋量増加、筋萎縮抑制等の効果を発揮し得る医薬品、医薬部外品、食品及び飼料等として有用であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(6)に係るものである。
(1)脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋量増加剤。
(2)脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋萎縮抑制剤。
(3)脂肪球皮膜成分を有効成分とする神経筋接合部形成促進剤。
(4)乳脂肪球皮膜成分を有効量摂取する非治療的筋量増加方法。
(5)乳脂肪球皮膜成分を有効量摂取する非治療的筋萎縮抑制方法。
(6)乳脂肪球皮膜成分を有効量摂取する非治療的神経筋接合部形成促進方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の筋量増加剤及び筋萎縮抑制剤は、高齢者を含む幅広い年齢層において、日常の活動時における筋量増加、筋萎縮抑制、神経筋接合部形成促進のための食品、医薬品、医薬部外品、飼料又はそれらに配合可能な素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における脂肪球皮膜成分は、乳中の脂肪球を被覆している膜及びそれを構成する膜成分混合物と定義され、バターミルクやバターセーラム等の乳複合脂質高含有画分に多く含まれることが知られている。乳脂肪球皮膜は、一般的に、乳脂肪球皮膜はタンパク質(約40〜45%)と脂質(約50〜55%)から構成されており、当該タンパク質としては、ミルクムチンと呼ばれる糖蛋白質(Mather IH、Biochim Biophys Acta.(1978) 514:25-36.)等を含むことが知られ、脂質としては、トリグリセライドやリン脂質(例えば、スフィンゴリン脂質、グリセロリン脂質等)が多く含まれ、これ以外にスフィンゴ糖脂質(例えば、グルコシルセラミド、ガングリオシド等)が含まれることが知られている(Keenan TW、Applied Science Publishers.(1983) pp89-pp130.)。また、リン脂質は、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質が主であり、その他にホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミン等のグリセロリン脂質が含まれる。
【0015】
本発明の脂肪球皮膜成分としては、脂質の含有量が、乾燥物換算で、10質量%以上、更には20質量%以上、更には30質量%以上であるのが好ましく、そして100質量%以下、更には90質量%以下、更には60質量%以下であるのが好ましい。例えば、10〜100質量%、20〜90質量%、30〜60質量%が挙げられる。
また、リン脂質の含有量が、乾燥物換算で、5質量%以上、更には8質量%以上、更には15質量%以上、更には20質量%以上であるのが好ましく、そして、100質量%以下、更には90質量%以下、更には80質量%以下、更には60質量%以下であるのが好ましい。例えば、5〜100質量%、8〜90質量%、15〜80質量%、20〜60質量%が挙げられる。
【0016】
本発明の脂肪球皮膜成分は、乳原料から遠心分離法や有機溶剤抽出法等の公知の方法により調製することができる。
乳原料としては、牛乳やヤギ乳等が挙げられるが、牛乳を用いるのが好ましい。また、乳原料には、生乳、脱脂乳や加工乳等の乳の他、乳製品も含まれ、乳製品としては、バターミルク、バターオイル、バターセーラム、ホエータンパク質濃縮物(WPC)等が挙げられる。バターミルクは、牛乳等を遠心分離して得られるクリームからバター粒を製造する際に得られるが、脂肪球皮膜成分はバターミルク中に多く含まれているので、バターミルクをそのまま使用することができる。同様に、バターオイルを製造する際に生じるバターセーラム中にも脂肪球皮膜成分が多く含まれるのでバターセーラムをそのまま使用してもよい。
【0017】
脂肪球皮膜成分の調製法としては、例えば、乳やホエータンパク質濃縮物(WPC)等の乳製品をエーテルやアセトンで抽出する方法(特開平3−47192号公報)、バターミルクを酸性域に調整、等電点沈殿を行うことにより生じたタンパク質を除去し、上清を精密濾過膜処理して得られる濃縮液を乾燥する方法(特許第3103218号公報)等が挙げられる。また、バターセーラム中よりタンパク質を凝集除去後に濾過濃縮し乾燥する方法(特開2007−89535号公報)等も使用することができる。本製法によると、例えば、乳由来の複合脂質を乾燥物中20重量%以上含有する脂肪球皮膜成分を調製することができる。
【0018】
斯くして調製された脂肪球皮膜成分は、必要に応じて、さらに透析、硫安分画、ゲルろ過、等電点沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、溶媒分画等の手法により精製することにより純度を高めたものを使用してもよい。
なお、脂肪球皮膜成分の形態は、特に限定されず、液状、半固体状や個体状、粉状等の何れでもよく、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
牛乳由来の脂肪球皮膜成分は、食経験が豊富であり、高純度かつ安価なものも市販されており、それらを用いるのが特に好ましい。例えば、メグレジャパン(株)「BSCP」、雪印乳業(株)「ミルクセラミドMC−5」、(株)ニュージーランドミルクプロダクツ「Phospholipid Concentrate」等が挙げられる。
【0020】
本発明の脂肪球皮膜成分は、後記実施例に示すように、マウスに投与した場合、腓腹筋重量や大腿四頭筋重量の増加、速筋繊維マーカーであるMyh1遺伝子の発現促進、筋タンパク質合成に関わるIGF−1遺伝子の発現促進等の効果を発揮する。
また、脂肪球皮膜成分を老化促進マウスに投与した場合、老化促進に伴う大腿四頭筋重量の低下が抑制された。すなわち、脂肪球皮膜成分の効果は、老化に伴って生ずる筋量の減少や筋萎縮に対しても有効である。
更に、脂肪球皮膜成分を老化促進マウスに投与した場合、神経筋接合部の形成に関与する分子(Dok−7、MuSK)の遺伝子発現あるいはタンパク質の低下が抑制された。すなわち、脂肪球皮膜成分の効果は、老化に伴って生ずる神経筋接合部形成の低下に対しても有効である。
【0021】
従って、本発明の脂肪球皮膜成分は、筋量増加剤、筋萎縮抑制剤、及び神経筋接合部形成促進剤(以下、「筋量増加剤等」とする)として使用することができ、さらにこれらの剤を製造するために使用することができる。
当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物、又はそれらに由来する検体における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0022】
本発明において、「筋量増加」とは、筋肉量を増加させること意味し、筋量低下の抑制も含まれる。
また、「筋萎縮」とは、筋蛋白質の分解速度が合成速度を上回ることにより、筋蛋白質が減少する、もしくは筋細胞が減少し、結果的に筋量が低下することをいい、長期間の安静臥床や骨折等によるギプス固定、あるいは微小重力暴露によるもの(廃用性筋萎縮という)と筋萎縮性側策硬化症(ALS)等の疾病による進行性筋萎縮に大別される。さらに、加齢に伴っても筋萎縮と同様の症状が起きることがあり、これは加齢性筋減弱症(サルコペニア)と呼ばれている。したがって「筋萎縮の抑制」とは、不活動や加齢、疾病等による筋量の低下を抑制することをいう。
また、「神経筋接合部形成促進」とは、運動神経終末と筋線維の接合部分の形成を促進することを意味する。神経筋接合部の機能促進もこれに含まれる。
【0023】
一般に筋断面積と筋力との間には相関関係が認められ(福永哲夫:ヒトの絶対筋力−超音波による体肢組成・筋力の分析−杏林書院 1978)、このことは筋肥大が筋力の増加を伴うことを示しているが、トレーニングによる筋力の増加は筋横断面積の増加よりも大きいという報告が多い(Davis J et al. Eur J Appl Physiol 57 1988)。また、トレーニングが進むにつれて、筋線維横断面積あたりの筋力が低下することも示されている(Ploutsz LL et al. J Appl Physiol 76 1994)。このような理由として、筋横断面積以外にも、運動神経系や筋肉に含まれる速筋線維と遅筋線維の割合が筋力に影響するからと考えられる(Komi P et al. Acta Physiol Scand 100 1997、Sale DG et al. Med Sci Sports Exerc 20 1998)。このことから、筋力は様々な因子により調節され、筋肥大の筋力の増加は単なる一対一の関係で結ばれているわけではない。したがって、本発明の筋量増加剤、筋萎縮抑制剤及び神経筋接合部形成促進剤は、筋力向上剤、持久力向上剤とは異なるものである。
【0024】
本発明の筋量増加剤等は、それ自体、ヒトを含む動物に摂取又は投与した場合に筋量増加、及び筋萎縮抑制の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品、又は飼料であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、食品又は飼料に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
また、当該食品には、運動不足者や中高年者、ベッドレスト者、或いはアスリートや運動愛好者における筋量増加、速筋増加、筋分化促進、及び筋損傷抑制をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品が包含される。これらの食品は機能の表示を許可された食品であって、一般の食品と区別されるものである。
【0025】
上記医薬品(医薬部外品も含む)の剤形は、例えば注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、各種外用剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等の何れでもよい。また投与形態も、経口投与(内用)、非経口投与(外用、注射)の何れであってもよいが、経口投与が好ましい。
また、このような種々の剤型の製剤は、本発明の脂肪球皮膜成分を其々単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、脂肪球皮膜成分以外の薬効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。例えば経口用液体製剤は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により調製することができる。
経口投与用製剤中の本発明の脂肪球皮膜成分の含有量は、一般的に好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、そして好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。例えば0.05〜30質量%、0.2〜10質量%が挙げられる。
【0026】
本発明の脂肪球皮膜成分を含有する上記食品の形態としては、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ジュース、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0027】
種々の形態の食品は、本発明の脂肪球皮膜成分を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、本発明以外の有効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0028】
また、病者用食品、例えば適当量の栄養補給が困難な高齢者やベッドレスト状態の病者に対する食品としては、経腸栄養剤等の栄養組成物の形態とすることが可能である。
【0029】
また、飼料としては、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、犬、猫等に用いるペットフード等の飼料等が挙げられ、上記食品と同様の形態に調製できる。
当該食品飼料中の本発明の脂肪球皮膜成分の含有量は、一般的に好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、そして好ましくは20質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。例えば0.05〜20%質量%、0.2〜5質量%が挙げられる。
【0030】
本発明の筋量増加剤等の摂取量は、剤形や用途によって異なるが、成人に対して1日あたり、本発明の脂肪球皮膜成分として、0.1mg以上/60kg体重、好ましくは1mg以上/60kg体重、より好ましくは5mg以上/60kg体重であり、より好ましくは100mg以上/60kg体重、さらに好ましくは500mg以上/60kg体重であり、好ましくは5000mg以下/60kg体重、好ましくは3000mg以下/60kg体重、好ましくは2000mg以下/60kg体重、好ましくは1000mg/60kgである。例えば、0.1〜5000mg/60kg体重、好ましくは1〜5000mg/60kg体重、好ましくは100〜5000mg/60kg体重、より好ましくは100〜3000mg/60kg体重、より好ましくは500〜3000mg/60kg体重が挙げられる。投与又は摂取対象としては、それを必要としている若しくは希望しているヒトであれば特に限定されないが、筋減弱症の患者や加齢性筋減弱症のヒト、それらの予備軍などが挙げられる。
【0031】
より具体的には、運動愛好者やアスリート、ロコモティブシンドローム発症者、加齢性筋減弱症(サルコペニア)者、神経・筋疾患(炎症性筋疾患、内科的疾患に伴うミオパチー、筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、ミトコンドリア脳筋症、糖尿病等)者、健常ではあるが仕事や家事が忙しく日常生活において運動(エクササイズ)の不足している運動不足者、健常ではあるが日常生活において筋力不足に悩む人、ベッドレスト者、外科的/内科的疾患後のリハビリトレーニング者が挙げられる。
ここで、運動愛好家やアスリートとは、身体運動又はスポーツに必要とされる強さ、敏捷性、持久力等の特徴を先天的又は後天的に有する人を指す。特にプロスポーツ選手、アマチュア選手でもスポーツクラブ等に所属し、競技会等への参加を目指す人を指す。また、日常生活において筋力不足に悩む人とは、家や駅の階段を登る、歩いてスーパーマーケットへ買い物に行く等の日常生活の場面で、活動を継続することに困難を感じる人等を示す。また、日常生活中の運動(エクササイズ)とは、日課に加えられる身体活動であり、当該エクササイズの目的は、全体的な健康状態及び体力を向上させることである。尚、斯かるエクササイズには、起立、徐歩、軽い物の持ち上げ等の、日常生活の軽度の活動(基本的活動)は含まれない。基本的活動のみを行う人はエクササイズをしていないとみなされる。
ここで、日常生活の中における運動(エクササイズ)の不足とは、米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention)によって推奨されるエクササイズ量を満たしていない状態であり得る。例えば、米国CDCは、「2008 Physical Activity Guidelines for Americans」において、成人(17〜64歳)が一週間当たりに行うべきエクササイズ量として以下の(A)〜(C)を推奨している:
(A)毎週2時間30分(150分)の中程度の有酸素活動(すなわち、速歩)、ならびに全ての主要な筋肉群(脚、臀部、背中、腹部、胸部、肩、及び腕)に働く一週間当たり2日以上のウエイトトレーニングによる筋力強化活動;又は
(B)毎週1時間15分(75分)の強度の有酸素活動(すなわち、ジョギング又はランニング)、ならびに全ての主要な筋肉群(脚、臀部、背中、腹部、胸部、肩、及び腕)に働く一週間当たり2日以上のウエイトトレーニングによる筋力強化活動;又は
(C)中程度及び強度を組み合わせて同等な有酸素活動、ならびに全ての主要な筋肉群(脚、臀部、背中、腹部、胸部、肩、及び腕)に働く一週間当たり2日以上のウエイトトレーニングによる筋力強化活動。
【0032】
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋量増加剤。
<2>脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋萎縮抑制剤。
<3>脂肪球皮膜成分を有効成分とする神経筋接合部形成促進剤。
<4>筋量増加剤を製造するための脂肪球皮膜成分の使用。
<5>筋萎縮抑制剤を製造するための脂肪球皮膜成分の使用。
<6>神経筋接合部形成促進剤を製造するための脂肪球皮膜成分の使用。
<7>筋量増加に使用するための脂肪球皮膜成分。
<8>筋萎縮抑制に使用するための脂肪球皮膜成分。
<9>神経筋接合部形成促進に使用するための脂肪球皮膜成分。
<10>脂肪球皮膜成分を有効量投与する又は摂取することによる筋量増加方法。
<11>脂肪球皮膜成分を有効量投与する又は摂取することによる筋萎縮抑制方法。
<12>脂肪球皮膜成分を有効量投与する又は摂取することによる神経筋接合部形成促進方法。
<13>上記<2>、<5>、<8>、<11>において、筋萎縮抑制は老化に伴う筋萎縮の抑制である。
<14>上記<3>、<6>、<9>、<12>において、神経筋接合部形成促進は老化に伴う神経筋接合部形成不全の抑制である。
<15>前記<4>〜<6>において、使用は非治療的使用である。
<16>前記<10>〜<12>において、方法は非治療的方法である。
<17>前記<10>〜<12>において、投与又は摂取の対象は、それぞれ筋量増加を必要とする若しくは希望する動物又はヒト、筋萎縮抑制を必要とする若しくは希望する動物又はヒト、神経筋接合部形成促進を必要とする若しくは希望する動物又はヒトである。
<18>前記<1>及び<4>における筋量増加剤、<2>及び<5>における筋萎縮抑制剤、<3>及び<6>における神経筋接合部形成促進剤において、その形態は食品、好ましくは機能性食品である。
<19>筋量増加のための機能性食品における、脂肪球皮膜成分の使用。
<20>筋萎縮抑制のための機能性食品における、脂肪球皮膜成分の使用。
<21>神経筋接合部形成促進のための機能性食品における、脂肪球皮膜成分の使用。
<22>筋萎縮抑制が老化に伴う筋萎縮の抑制である前記<20>の脂肪球皮膜成分の使用。
<23>神経筋接合部形成促進が老化に伴う神経筋接合部形成不全の抑制である前記<21>の脂肪球皮膜成分の非治療的使用。
<24>前記<19>〜<21>において、使用は非治療的使用である。
<25>使用は非治療的使用である、<7>〜<9>に記載の脂肪球皮膜成分。
以下に本発明の代表的な実施例として、製造例、試験例、及び製剤例を示す。
【実施例】
【0033】
試験例1:脂肪球皮膜成分の筋量増加作用
脂肪球皮膜成分の筋量増加作用に対する評価を下記の通り行った。
脂肪球皮膜成分としては、メグレジャパン社製 BSCPを使用した。1週間の予備飼育後、7週齢のC57BL/6Jマウスを体重が等しくなるように、3群(対照群、運動群、脂肪球皮膜成分/運動群)に分けた(各群6匹)。群分け後、対照群および運動群のマウスにはコントロール食(30%脂質、20%カゼイン、13%スクロース、28.5%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、3.5%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)を、また、脂肪球皮膜成分/運動群のマウスには脂肪球皮膜成分を含む試験食(30%脂質、20%カゼイン、13%スクロース、28.5%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン、3.5%ミネラル、1%脂肪球皮膜成分)を20週間給餌した。尚、試験期間中、運動群と脂肪球皮膜成分/運動群のマウスには、トレッドミル(室町機器;MK−680)にて運動(15−20m/分、30分間/回、週3回)を負荷した。試験終了時に安静時摂食下で、セボフルラン吸入により麻酔した後、腓腹筋、大腿四頭筋を採取し,重量を測定した。表1に筋肉重量を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
脂肪球皮膜成分/運動群のマウスでは、解剖時の腓腹筋重量が対照群、運動群に対して有意に高く、大腿四頭筋重量も対照群に対して有意に高い値を示した。したがって本試験において、脂肪球皮膜成分は、筋量増加作用を有することが明らかとなった。
【0036】
試験例2:脂肪球皮膜成分の筋分化促進作用
脂肪球皮膜成分のエネルギー消費及び脂質燃焼促進作用に対する評価を下記の通り行った。
脂肪球皮膜成分としては、メグレジャパン社製 BSCPを使用した。1週間の予備飼育後、7週齢のC57BL/6Jマウスを体重が等しくなるように、3群(対照群、運動群、脂肪球皮膜成分/運動群)に分けた(各群6匹)。群分け後、対照群および運動群のマウスにはコントロール食(30%脂質、20%カゼイン、13%スクロース、28.5%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、3.5%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)を、また、脂肪球皮膜成分/運動群のマウスには脂肪球皮膜成分を含む試験食(30%脂質、20%カゼイン、13%スクロース、28.5%ポテトスターチ、4%セルロース、1%ビタミン、3.5%ミネラル、1%脂肪球皮膜成分)を20週間給餌した。尚、試験期間中、運動群と脂肪球皮膜成分/運動群のマウスには、トレッドミル(室町機器;MK−680)にて運動(15−20m/分、30分間/回、週3回)を負荷した。試験終了時に安静時摂食下で、セボフルラン吸入により麻酔した後、腓腹筋を採取した。
【0037】
腓腹筋より、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(Qiagen)を用いて、RNAサンプルを得た。各RNAサンプルを定量し、1反応あたりのRNA量を125ngとして反応液中(Reverse Transcriptase XL(タカラバイオ社)、1xPCR buffer II(アプライドバイオシステム社)、5mM MgCl2、1mM dNTP mix、2.5μM Oligo d〔T〕18(New England Biolabs社)、1U/ml RNase inhibitor(タカラバイオ社))で逆転写反応を行い、cDNAを得た。反応条件は42℃、10分間、52℃、30分間、99℃、5分間とした。
得られたcDNAを鋳型として、ABI PRISM 7700 Sequence Detector(アプライドバイオシステムズ社)により定量的PCRを行った。36B4mRNAの発現量を基準として補正し、対照群を1とした際の相対的mRNA発現量として表した。プライマーとしてIGF−1(NM_010512、Forward:AGTTCGTGTGTGGACCGAGG(配列番号1)、Reverse:CAGCTCCGGAAGCAACACTC(配列番号2))、Atrogin−1(NM_026346、Forward:GCAGCAGCTGAATAGCATCCA(配列番号3)、Reverse:GGTGATCGTGAGGCCTTTGAA(配列番号4))、MuRF1(NM_001039048、Forward:AATGTAGAAGCCTCCAAGGGC(配列番号5)、Reverse:CTGTCCCAAAGTCAATGGCC(配列番号6))、Myh1(NM_030679、Forward:GCTAGTAACATGGAGGTCA(配列番号7)、Reverse:TAAGGCACTCTTGGCCTTTATC(配列番号8))を用いた。結果を表2に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
脂肪球/運動群のマウスでは、腓腹筋IGF−1遺伝子発現及びMyh1遺伝子発現が対照群に対して有意に高かった。一方、Atrogin−1遺伝子発現及びMuRF1遺伝子発現は対照群に対して有意に低い値を示した。IGF−1は筋タンパク質合成に重要な役割を有しており、したがって、脂肪球皮膜成分は筋タンパク質合成促進作用を有することが明らかとなった。またMyh1は速筋繊維マーカーであることから、本試験において、脂肪球脂皮膜成分は、速筋増加作用を有することが明らかとなった。また、Atrogin−1及びMuRF1は、筋蛋白質分解を増加させることから、脂肪球皮膜成分は筋蛋白質分解抑制作用を有することが明らかとなった。
【0040】
試験例3:老化モデルマウスを用いた筋萎縮抑制作用
脂肪球皮膜成分の筋萎縮、および神経筋接合部形成に対する評価を下記の通り行った。
1)筋肉総重量
脂肪球皮膜成分としては、メグレジャパン社製 BSCPを使用した。24週齢のSAMP1(老化促進マウス)およびICRマウスを、3群(ICR対照群、SAMP1対照群、SAMP1脂肪球皮膜成分群)に分けた(各群6−8匹)。群分け後、ICR対照群およびSAMP1対照群のマウスにはコントロール食(5.5%脂質、6%カゼイン、75.6%ポテトスターチ、8.4%セルロース、1%ビタミン(商品名:ビタミン混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)、3.5%ミネラル(商品名:ミネラル混合AIN−76、オリエンタルバイオサービス)を、また、SAMP1脂肪球皮膜成分群のマウスには脂肪球皮膜成分を含む試験食(5.5%脂質、5.5%カゼイン、75.1%ポテトスターチ、8.4%セルロース、1%ビタミン、3.5%ミネラル、1%脂肪球皮膜成分)を20週間給餌した。尚、試験期間中、SAMP1マウスは、回転ケージにて自由に自発運動を行った。試験終了時に安静時摂食下で、セボフルラン吸入により麻酔した後、長指伸筋、足底筋、大腿四頭筋を採取し,総重量を測定した。表3に総筋肉重量を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
SAMP1対照群の総筋肉重量は、ICR対照群に対して有意に低く、老化により筋肉が萎縮していることが分かる。またSAMP1脂肪球皮膜成分群の総筋肉重量は、SAMP1対照群に対して有意に大きかった。したがって、脂肪球脂皮膜成分は、筋萎縮抑制作用を有することが明らかとなった。
【0043】
2)遺伝子発現
大腿四頭筋より、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit(Qiagen)を用いて、RNAサンプルを得た。各RNAサンプルを定量し、1反応あたりのRNA量を125ngとして反応液中(Reverse Transcriptase XL(タカラバイオ社)、1xPCR buffer II(アプライドバイオシステム社)、5mM MgCl2、1mM dNTP mix、2.5μM Oligo d〔T〕18(New England Biolabs社)、1U/ml RNase inhibitor(タカラバイオ社))で逆転写反応を行い、cDNAを得た。反応条件は42℃、10分間、52℃、30分間、99℃、5分間とした。
得られたcDNAを鋳型として、ABI PRISM 7700 Sequence Detector(アプライドバイオシステムズ社)により定量的PCRを行った。36B4mRNAの発現量を基準として補正し、対照群を1とした際の相対的mRNA発現量として表した。プライマーとしてDok−7(NM_172708、Forward:TGAGCTTCCTGTTTGACTGCA(配列番号9)、Reverse:GCAACACGCTCTTCTGAGGC(配列番号10))、MuSK(NM_001037130、Forward:CATGGCAGAGTTTGACAACCC(配列番号11)、Reverse:TTCGGAGGAACTCATTGAGGTC(配列番号12))を用いた。ICR対照群の遺伝子発現を1とした際の相対値を表4に示した。
【0044】
【表4】

【0045】
SAMP1対照群のDok−7遺伝子発現は、ICR対照群に対して有意に低く、老化によりDok−7遺伝子発現が低下していることが分かる。またSAMP1脂肪球皮膜成分群のDok−7およびMuSK遺伝子発現は、SAMP1対照群に対して有意に大きかった。したがって、脂肪球皮膜成分は、神経筋接合部形成不全を抑制する作用及び神経筋接合部形成促進作用を有することが明らかとなった。
【0046】
3)タンパク質発現
大腿四頭筋をCelLyticTM MT Mammalian Tissue Lysis/Extraction Reagent (SIGMA社)中で、ポリトロンを用いて破砕した。破砕液を15,000 rpm 15min 4℃で遠心し、得られた上清をタンパク溶解サンプルとした。タンパク定量後CelLyticTM MT Mammalian Tissue Lysis/Extraction Reagent及び4×SDS sample buffer (Novagen社)を用い、タンパク濃度が1ug/uLになるように調製した。熱変性(100℃、5min)、及び5,000 rpm 5min 4℃の遠心により得られた上清10uLをSDS−PAGEに供した。SDS−PAGE後、タンパクをPVDF membrane (Millipore社)に転写(200mA、 1.5hr)後、membraneをPVDF blocking Reagent (TOYOBO社)に浸した。Blocking後、MuSK(ab92950、Abcam)、Dok−7(AF6298、R&D)、及びα−tubulin(2144S、Cel Signaling)に対する一次抗体(1:1000)を希釈した抗体希釈液1 (Immunoreaction Enhancer solution 1、TOYOBO社)にmembraneをO/Nで浸した。T−TBSで数回洗浄(4回〜)した後、各抗原に対するHRP−標識抗体を希釈した抗体希釈液2(Immunoreaction Enhancer solution 2、TOYOBO社)に浸した。T−TBSで数回洗浄(6回〜)後、ECL Prime Western Blotting Detection System(GE Healthcare社)及び化学発光検出装置(ChemiDoc XRS、Bio−Rad社)にて目的タンパクの検出、定量を行った。本試験で用いた抗体、及び抗体希釈率は下記の通りである。ICR対照群の蛋白質発現を1とした際の相対値を表5に示した。
【0047】
【表5】

【0048】
SAMP1脂肪球皮膜成分群のDok−7タンパク質遺伝子発現は、SAMP1対照群に対して有意に大きかった。またSAMP1対照群のMuSKタンパク質発現は、ICR対照群に対して有意に低く、老化によりMuSKタンパク質発現が低下していることが分かる。またSAMP1脂肪球皮膜成分群のMuSKタンパク質遺伝子発現は、SAMP1対照群に対して有意に大きかった。したがって、脂肪球皮膜成分は、神経筋接合部形成不全を抑制する作用及び神経筋接合部形成促進作用を有することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋量増加剤。
【請求項2】
脂肪球皮膜成分を有効成分とする筋萎縮抑制剤。
【請求項3】
脂肪球皮膜成分を有効成分とする神経筋接合部形成促進剤
【請求項4】
老化に伴う筋萎縮を抑制する請求項2記載の筋萎縮抑制剤。
【請求項5】
老化に伴う神経筋接合部形成不全を抑制する請求項3記載の神経筋接合部形成促進剤。
【請求項6】
乳脂肪球皮膜成分を有効量摂取する非治療的筋量増加方法。
【請求項7】
乳脂肪球皮膜成分を有効量摂取する非治療的筋萎縮抑制方法。
【請求項8】
乳脂肪球皮膜成分を有効量摂取する非治療的神経筋接合部形成促進方法。

【公開番号】特開2013−100275(P2013−100275A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−228955(P2012−228955)
【出願日】平成24年10月16日(2012.10.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】