筍の皮抽出物、並びにこれを有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、及び抗菌剤
【目的】 天然素材由来のため安全性の高い、メラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、及び抗菌剤、並びにこれらに含有される筍の皮抽出物を提供する。
【構成】 筍の皮の粉砕物または粉末からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化剤、及び抗菌作用の全てかいずれか複数又は少なくとも1つを有するものである。また、前記筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤である。
【構成】 筍の皮の粉砕物または粉末からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化剤、及び抗菌作用の全てかいずれか複数又は少なくとも1つを有するものである。また、前記筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筍の皮抽出物、並びにこれを有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、メラニン産生抑制機能を有するメラニン合成阻害剤または美白剤、フリーラジカル消去などの抗酸化作用を有する抗酸化剤または抗老化剤、黄色ブドウ球菌や大腸菌などへの抗菌活性を有する抗菌剤などが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−32334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤においては、いずれも、天然素材由来の高い安全性を有し、且つ、高いメラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、又は抗菌作用を有する物質を低コストで提供することはできなかった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、天然素材由来の高い安全性を有し、且つ高いメラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、又は抗菌作用を発揮できる筍の皮抽出物、このような筍の皮抽出物を含有するメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、筍の皮の粉砕物または粉末からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出された筍の皮抽出物が、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用を有していることを新たに発見した。すなわち、本発明者らは、前記筍の皮抽出物がメラニン生合成阻害活性を有していることを新たに発見したが、一般に、皮膚においてはメラニンの過剰な生成や蓄積が皮膚の黒化やシミの原因となっていることからメラニン産生過程を阻害することが肌の美白のために有効であることが知られている。そこで、本発明者らは、前記発見に基づいて、前記のメラニン合成阻害作用を有する筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤および美白剤を発明した。また、本発明者らは、筍の皮抽出物が抗酸化作用を有していることを発見したが、一般に、抗酸化作用を有する物質を例えば皮膚などに投与すると皮膚において過剰に生成された活性酸素によるしわの形成や弾力低下などが抑制されて皮膚の老化防止に有効であること、抗酸化作用を有する物質を経口摂取すると生体内で活性酸素を消去するなどして健康増進効果や老化防止効果を発揮することが知られている。そこで、本発明者らは、前記発見に基づいて、前記筍の皮抽出物を有効成分とする抗酸化剤および抗老化剤を発明した。また、本発明者らは、筍の皮抽出物の拘菌作用の発見に基づいて、前記筍の皮抽出物を有効成分とする抗菌剤を発明した。
すなわち、前述のような課題を解決するための本発明による筍の皮抽出物は、筍の皮からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用の全てかいずれか複数又は少なくとも1つを有するものである。また、本発明は、前記筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、天然素材である筍の皮を原料とするため安全性が高く、且つ従来は廃棄対象となっていた筍の皮を原料とするため製造コストが低い、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用の全てかいずれか複数又は少なくとも1つを有する筍の皮抽出物を得ることができる。また、本発明によれば、前記筍の皮抽出物を有効成分とするため、人体に使用しても安全性の高い、メラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤を、低コストで生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明者らによる本研究の全体像を示す図である。
【図1B】前記筍の皮抽出物の抗菌試験の概略を示す図である。
【図1C】前記筍の皮抽出物のジクロロメタン可溶部のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画の結果などを示す図である。
【図1D】前記筍の皮抽出物であるFr.4−4中のFr.4−4−2−AとFr.4−4−2−BのStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)とEscherichia coli(大腸菌)に対する抗菌活性の測定結果を示す図である。
【図1E】前記筍の皮抽出物から単離したFr.4−4−2−A及び同Fr.4−4−2−Bの構造解析結果を示す図である。
【図1F】前記筍の皮抽出物のメラニン生合成阻害試験の概略を示す図である。
【図1G】前記筍の皮抽出物のメラニン生合成阻害活性の測定結果を示す図である。
【図1H】前記筍の皮抽出物のORAC(Oxygen Radical Absorption Capacity)法による抗酸化活性の測定の概要を示す図である。
【図1I】前記筍の皮抽出物のジクロロメタン可溶部およびジクロロメタン不溶部などのORAC値を示す図である。
【図2A】本発明の実施例1に係る筍の皮自体の抗菌試験の概略図である。
【図2B】本実施例1に関する筍の皮(乾燥粉末)からの逐次抽出の手順を示す図である。
【図2C】本実施例1に関する筍の皮自体のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。
【図2D】本実施例1に係る筍の皮抽出物のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示す図である。
【図2E】(a)はStigmasterolの化学構造、同(b)はDihydrobrassicasterolの化学構造を示す図である。
【図2F】Fr.4−4−2−AおよびFr.4−4−2−Bなどの抗菌試験の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2に係る筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例3に係る筍の皮粗抽出物のORAC値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、筍の皮を粉砕等して得られた粉末からn−ヘキサン抽出物を除いた残渣を得て、その残渣からメタノールまたはエタノールなどにより溶媒抽出物を得た。本発明者らは、この抽出物をジクロロメタン不溶部とジクロロメタン可溶部とに分けて、それぞれの特性を測定したところ、ジクロロメタン不溶部が強い抗酸化活性およびメラニン生合成阻害活性を有していること、及び、ジクロロメタン可溶部が強い抗菌性および抗酸化活性を有していることを新たに発見した。また、一般に、皮膚においてはメラニンの過剰な生成や蓄積が皮膚の黒化やシミの原因となっていることからメラニン産生過程を阻害することが肌の美白のために有効であることが知られている。また、一般に、抗酸化作用を有する物質を例えば皮膚に投与すると皮膚において過剰に生成された活性酸素によるしわの形成や弾力低下などが抑制されて皮膚の老化防止に有効であること、抗酸化作用を有する物質を経口摂取すると生体内で活性酸素を消去するなどして健康増進及び老化防止効果を発揮することが知られている。そこで、本発明者らは、前記の新たな知見に基づいて、筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤を発明した。
なお、本発明の実施形態において、前記のメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤は、前記筍の皮抽出物をそのまま使用するようにしてもよいし、前記筍の皮抽出物を公知の方法で乾燥させて粉末状や顆粒状など製剤化して使用したり、公知の方法で濃縮して液状で使用するようにしてもよい。また、本発明によるメラニン合成阻害剤及び美白剤は、皮膚の美白のための皮膚化粧品または皮膚外用薬に含有させるようにしてもよい。また、本発明による抗酸化剤及び抗老化剤は、飲食品や飼料(ペットフードなど)中に添加して使用してもよいし、健康食品(錠剤などの形態のサプリメントなど)または医薬品(錠剤やカプセルなど)に含有させて経口摂取させるようにしてもよいし、シミ、しわ、たるみなどの皮膚の老化防止などのための皮膚化粧品(例えば軟膏、クリーム、乳液状など)または皮膚外用薬に含有させるようにしてもよい。また、本発明による抗菌剤は、例えば石鹸や洗剤などに含有させるようにしてもよいし、抗菌作用を発揮することが望ましい梱包剤、紙、被服の布、トイレタリー製品、不織布などに塗布または混入させて使用するようにしてもよい。
【0010】
以下に、本発明者らの本願発明に係る研究の概略を述べる(一部については以下の実施例で詳述する)。図1Aは本発明者らによる本研究の全体像を示す図である。すなわち、本発明者らは、筍の皮を粉砕等して得られた粉末からn−ヘキサン抽出物を除いた残渣を得て、その残渣からメタノールまたはエタノールなどの溶媒により抽出物を得た(なお、本実施形態において前記溶媒抽出に使う溶媒はメタノールまたはエタノールが望ましいがこれらに限られない)。そして、本発明者らは、このメタノール抽出物の特性を測定したところ、抗酸化活性を有していることを新たに発見した。また、本発明者らは、前記メタノール抽出物をジクロロメタン可溶部とジクロロメタン不溶部とに分けて、それぞれの特性を測定したところ、ジクロロメタン可溶部は抗菌性と抗酸化活性を有していること、及び、ジクロロメタン不溶部は抗酸化活性とメラニン生合成阻害活性を有していることを新たに発見した。
【0011】
図1Bに示すように、本発明者らは、前記筍の皮抽出物の抗菌試験を実施し、前記筍の皮抽出物が抗菌性を有していることを発見した(詳細は実施例1に関して詳述する)。
【0012】
図1Cに示すように、本発明者らは、前記ジクロロメタン可溶部のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画を試み、その結果、16個のフラクションが得られ、収率は96.6%だった。これらの分画のそれぞれについてS.aureusとE.coliに対する抗菌活性を測定したところ、Fr.4についてS.aureusとE.coliに対する強い抗菌活性を確認できた。そこで、このFr.4に着目して、抗菌活性物質の探索を継続した。そして、Fr.4−4はこれまで得られた分画物の中でも、E.coliとS.aureusの両方に抗菌活性を持つ特異なフラクションであったため、Fr.4−4に着目して、分取HPLCによるさらなる分画を試みた。
【0013】
図1Dに示すように、本発明者らは、前記筍の皮抽出物であるFr.4−4中のFr.4−4−2−AとFr.4−4−2−BのS.aureusとE.coliに対する抗菌活性を確認した(詳細は実施例1に関して詳述する)。
【0014】
また、本発明者らの研究により、前記筍の皮抽出物であるFr.4−4−2−AがStigmasterolであること、及び、同Fr.4−4−2−BがDihydrobrassicasterolであることが判明した(図1E参照)。
【0015】
また、本発明者らは、図1Fに示すような前記筍の皮抽出物のメラニン生合成阻害試験を行い、前記筍の皮抽出物のジクロロメタン不溶部に強いメラニン生合成阻害活性を確認した(図1G参照。詳細は実施例4に関して詳述する)。
【0016】
また、本発明者らは、前記筍の皮抽出物のORAC法による抗酸化活性の測定を行なった(図1H参照。詳細は実施例3において詳述する)。その結果、前記筍の皮抽出物のジクロロメタン可溶部およびジクロロメタン不溶部ともに高いORAC値を確認し、強い抗酸化活性を確認した(図1I参照。詳細は実施例4に関して詳述する)。
【実施例1】
【0017】
1.モウソウチク(Phyllostachys pubescens)の筍の皮に含まれる抗菌活性物質の探索
本研究では、モウソウチク(Phyllostachys pubescens)の筍の皮抽出物から抗菌活性物質を単離・同定し、未利用資源であり、産業廃棄物として大部分が処理されている筍の皮有効利用のための新たな価値を創出することを目的とする。
【0018】
2.試験方法
2.1.筍の皮の抗菌試験
モウソウチクの筍の皮を10×10mmの板状に切り取り、これに70%エタノールを吹き付け消毒した。これを「筍の皮(未処理)」とした。一方、筍の皮(10g,10×10mm)を各100mLのn−ヘキサン、ジクロロメタン、メタノール、水を用いて、順次180rpmで24時間振とう抽出し、この抽出残渣の筍の皮を「筍の皮(抽出後)」とした。
【0019】
供試菌株として、代表的な食中毒菌である大腸菌(Escherichia coli,NBRC13276)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus,NBRC3301)を用いた。Nutrient agar培地上に培養したS.aureusのコロニーを取り、20mLのNutrient broth(NB)培地に接種し、160rpm、37℃で菌濃度が109CFU/mLになるまで9時間振とう培養した。この菌液をNB培地で希釈し、菌濃度を105CFU/mLに調製した。
【0020】
5mLのNB培地と50μLの菌液(105CFU/mL)および10×10mmの筍の皮一枚を50mL容ファルコンチューブに入れ、37℃、200rpmで9時間振とう培養した。その後、筍の皮を取り除き、分光光度計で630nmにおける吸光度を測定し菌の増殖の指標とした。図2Aはこの試験の概略図である。
【0021】
2.2.抽出物の調製
抽出物の抗菌試験を行うため、筍の皮の乾燥粉末17.8kgからn−ヘキサン、メタノールを用いて逐次抽出を行い、各々の抽出物を濃縮してn−ヘキサン抽出物(40.1g)とメタノール抽出物(192.5g)を得た。さらに、メタノール抽出物にジクロロメタンを加え、ジクロロメタン可溶部(38.8g)と不溶部(153.7g)に分けた。図2Bはこの逐次抽出の手順を示すものである。
【0022】
2.3.抗菌試験
96ウェルプレートの1ウェルあたりに、NB培地を89μL、菌液(104CFU/mL)を10μL、DMSOまたはDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)に溶解させた抽出物を1μL加え、37℃、1150rpmで12時間培養後、630nmにおける濁度を測定し、菌の増殖の指標とした。
【0023】
2.4.ジクロロメタン可溶部の分画
抽出物の抗菌試験を行った結果、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部にS.aureusに対する抗菌活性が確認された。そこで、ジクロロメタン可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−Hexane:EtOAc=10:0〜0:10→MeOH100%)、分取HPLC(Inertsil PREP−ODS,10mL/min,MeOH)、リサイクル分取HPLC(JAIGEL−GS310,5mL/min,MeOH)を用いて分画し、活性物質の単離を試みた。
【0024】
3.結果と考察
図2Cは、筍の皮自体のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。それぞれの値は平均値±標準偏差(n=3)で表す。異なる文字(a,b,c)はチューキー検定により有意差(P<0.01)があったことを示す。図2Cに示すように、筍の皮(未処理)と筍の皮(抽出後)の濁度は、コントロールの濁度より有意に低かった。この結果より、筍の皮自体にS.aureusに対する抗菌活性があることが分かった。また、筍の皮(未処理)の濁度は筍の皮(抽出後)の濁度より低かった。これは、筍の皮(未処理)が筍の皮(抽出後)よりS.aureusの増殖を強く阻害していることを示す。抽出後の方が抗菌活性が低下している原因は、溶媒抽出により筍の皮中に含まれる抗菌活性物質が減少したためと考えられる。また、E.coliに対しても同様の実験を行ったが、有意な増殖阻害は見られなかった。
【0025】
続いて、筍の皮抽出物(n−ヘキサン、メタノール、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部・不溶部)の抗菌試験を行ったところ、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部にS.aureusに対する抗菌活性が確認された。図2Dは前記筍の皮抽出物の抗菌試験の結果を示すものである。筍の皮抽出物を加えた状態でのS.aureusの増殖を培養0,2,4,6,12および24時間目で測定した。ジクロロメタン抽出物を添加した場合、S.aureusの増殖が培養12時間目まで有意(P<0.05:2,4時間目、P<0.01:6,12時間目)に阻害されていることが分かった。ジクロロメタン抽出物は培養12時間目まで、S.aureusの増殖をほぼ完全に阻害していた。一方、n−ヘキサン、メタノール、水抽出物については有意な阻害は見られなかった。この結果より、ジクロロメタン抽出物が抗菌活性物質を含んでいると考えられる。一方、E.coliに対しても同様の実験を行ったが、有意な増殖阻害は見られなかった。なお、図2Dにおいて、それぞれの値は平均値±標準偏差で表す(n=3)。コントロールと各抽出物間の有意差はスチューデントのt検定により検出し、P<0.05を有意とした。()内は各抽出物の系内最終濃度を示す。ジクロロメタン抽出物が培養12時間目までS.aureusの生育を阻害していることが確認できた。
【0026】
本発明者は、以上の結果から、ジクロロメタン可溶部に注目し、さらなる分画を行った。ジクロロメタン可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取HPLC、リサイクル分取HPLCを用いて分画し、Fr.4−4−2−AとFr.4−4−2−Bを得た。GC/MSおよびNMRの結果から、これら2つのフラクションはほぼ単一の物質であると考えられ、構造解析したところ、Fr.4−4−2−Aは、Stigmasterolであり、Fr.4−4−2−Bは、Dihydrobrassicasterolであった。図2E(a)はStigmasterolの化学構造、同(b)はDihydrobrassicasterolの化学構造を示す。
【0027】
図2Fは、前記Fr.4−4−2−AおよびFr.4−4−2−BなどのE.coliとS.aureusに対する抗菌活性を示すグラフである。図2Fにおいて、それぞれの値は平均値±標準偏差で表す(n=3)。コントロールと各分画物間の有意差はスチューデントのt検定により検出した(*P<0.05,**P<0.01)。()内は各分画物の系内最終濃度を示す。図2Fに示すように、Fr.4−4−2−A、Fr.4−4−2−Bともにコントロールである1%DMSOより低い濁度を示し、S.aureusとE.coliに対する抗菌活性が確認された。
【実施例2】
【0028】
<筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物の抗菌試験>
1.試料
・筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物
2.実験方法
(1)菌の前培養
シャーレ上に培養した菌のコロニーから1つをとり、20mLのNutrient Broth(NB)培地を加えた100ml容三角フラスコに添加した。これを,160rpmで8時間振とう培養した。最後に培養液の660nmにおける吸光度を分光光度計で測定し、菌の濃度が104CFU/mLになるようNB培地を添加して希釈した。
(2)抽出物の調製
抽出物をそれぞれDimethylsulfoxide(DMSO)に溶解させサンプルとした。
(3)抗菌活性の測定
96well plateの1wellにNB培地89μL、菌体懸濁液10μL(104CFU/mL)、サンプル溶液1μLを添加した。その後、1150rpm、37で12時間振とう培養し、培養後の630nmにおける濁度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0029】
3.結果
図3は筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。図3において、()内はサンプル最終濃度(μg/mL)を表し、コントロールと各抽出物間の有意差はt検定により判定した(*P<0.05、**P<0.01)。
以上のように、筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物の抗菌試験においても、前記実施例1に関して説明した筍の皮粉砕物からのメタノール抽出物の抗菌試験と同様の結果が得られた。
【実施例3】
【0030】
<筍の粗抽出物のメラニン生合成抑制試験>
モウソウチクの粗抽出物(水、n−ヘキサン、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部・不溶部)を用いて、メラニン生合成抑制試験を行った。
(1)細胞の前培養
シャーレ上に培養したB16メラノーマ細胞培養液を血球計測板に10μL添加し、顕微鏡を用いて細胞数を測定した。その後、細胞培養液にMinimum Essential Medium Alpha(EMEM)培地を加え、細胞濃度を1.0×105cells/mLとなるよう調製した。これを24well plateの各wellに1mLずつ播種し、5%CO2,37℃で24時間静置培養した。
(2)サンプル溶液の調製
モウソウチクの粗抽出物(水、n−ヘキサン、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部・不溶部)をDMFに溶解させ、20mg/mLに調製した。ポジティブコントロールとして、50mg/mLのアルブチンを用いた。また、コントロールとしてDMFを用いた。
(3)サンプルの添加
前培養した24well plateの培地を除去し、新たにEMEM培地998μLとサンプル溶液2μLを添加した。これを5%CO2,37℃で48時間静置培養した。この後、再び培地を除去し、EMEM培地998μLとサンプル溶液2μLを添加し、5%CO2,37℃で24時間静置培養した。系内の各サンプルの最終濃度は、粗抽出物が40μg/mL、ポジティブコントロールのアルブチンが100μg/mL、コントロールのDMFが0.2%とした。
(4)MTT法による細胞生存率の測定
24well plateの1well当たりMTT染色液(5mg/mL PBS)を50μL添加し、5%CO2,37℃で4時間静置培養した。培地を除去し、各wellに塩酸−イソプロパノール溶液を1mLずつ加え、遮光し、4時間室温で放置した。マイクロプレートリーダーで570nmにおける吸光度を測定し、細胞数の指標とした。
(5)メラニン生成量の測定
培地を除去し、各wellに300μLのPBSを加えて洗浄した。PBSを除去し、各wellに1N NaOHを1mLずつ添加し、細胞を溶解させた。室温で遮光し、4時間放置した。マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定し、メラニン生成量の指標とした。
【0031】
前述の図1Gはこの筍の皮粗抽出物のメラニン生合成阻害活性の測定結果を示すグラフである。この図1Gに示すように、特にジクロロメタン不溶部を添加した場合に細胞生存率に比してメラニン合成が大きく抑制されていることなどから、筍の皮抽出物がメラニン生合成阻害活性を有していることが明らかになった。
【実施例4】
【0032】
<筍の粗抽出物の抗酸化活性試験(ORAC)>
エッペンチューブに48nM fluorescein−2Na(FL)溶液1.8mL、トロロックス標準溶液300μLを添加し混合する。この混合溶液と43mM AAPH溶液を、それぞれ37℃で遮光しながら15分間プレインキュベートする。インキュベート終了後、混合溶液に対して43mM AAPH溶液900μLを添加し、10秒間撹拌、その後溶液を石英セルに移し、37℃で撹拌しながら40分間蛍光強度を測定した。
設定条件は以下の通りである。
励起バンド幅 :5nm
蛍光バンド幅 :3nm
レスポンス :2sec
感 度 :medium
励起波長 :485nm
蛍光波長 :520nm
測定時間 :0〜2400sec(0〜40min)
データ取込間隔:5sec
得られた蛍光強度をもとに、次の計算式から各サンプルのAUCを求めた。
【0033】
【数1】
【0034】
トロロックス0μMのデータをブランクとし、トロロックス各標準液濃度(50,25,12.5,6μM)で得られたデータのAUCの増加量(AUCTrolox−AUCBlank)をnetAUCとする。同様の測定を3回行い、X軸にトロロックスのnetAUCの平均値、Y軸にトロロックス濃度をとり一次回帰式(Y=aX+b)を作成した。
【0035】
<相対ORAC値の算出>
任意の濃度に作成した酸化防止剤サンプル溶液のnetAUCがトロロックスの一次回帰式のnetAUCの最大値以内に収まるように必要な場合は調製し直した。
次式により相対ORAC値(活性酸素吸収能力値)を算出した。
【0036】
【数2】
【0037】
同じ濃度で3回蛍光強度測定を行い、その3回の平均値を抗酸化物質のORAC値とした。図4は筍の皮粗抽出物のORAC値を示すグラフである。図4に示すように、ジクロロメタン可溶部およびジクロロメタン不溶部ともに、高いORAC値を示し、筍の皮抽出物が抗酸化作用を有していることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、筍の皮の粉砕物または粉末からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出した筍の皮抽出物が、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、又は抗菌作用を有することが明らかになった。このような筍の皮抽出物の特性に関する新たな発見により、天然素材である筍の皮を原料とするため安全性が高い、筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤などを低コストで製造することが可能になった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、筍の皮抽出物、並びにこれを有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、メラニン産生抑制機能を有するメラニン合成阻害剤または美白剤、フリーラジカル消去などの抗酸化作用を有する抗酸化剤または抗老化剤、黄色ブドウ球菌や大腸菌などへの抗菌活性を有する抗菌剤などが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−32334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤においては、いずれも、天然素材由来の高い安全性を有し、且つ、高いメラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、又は抗菌作用を有する物質を低コストで提供することはできなかった。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、天然素材由来の高い安全性を有し、且つ高いメラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、又は抗菌作用を発揮できる筍の皮抽出物、このような筍の皮抽出物を含有するメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤を低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、筍の皮の粉砕物または粉末からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出された筍の皮抽出物が、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用を有していることを新たに発見した。すなわち、本発明者らは、前記筍の皮抽出物がメラニン生合成阻害活性を有していることを新たに発見したが、一般に、皮膚においてはメラニンの過剰な生成や蓄積が皮膚の黒化やシミの原因となっていることからメラニン産生過程を阻害することが肌の美白のために有効であることが知られている。そこで、本発明者らは、前記発見に基づいて、前記のメラニン合成阻害作用を有する筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤および美白剤を発明した。また、本発明者らは、筍の皮抽出物が抗酸化作用を有していることを発見したが、一般に、抗酸化作用を有する物質を例えば皮膚などに投与すると皮膚において過剰に生成された活性酸素によるしわの形成や弾力低下などが抑制されて皮膚の老化防止に有効であること、抗酸化作用を有する物質を経口摂取すると生体内で活性酸素を消去するなどして健康増進効果や老化防止効果を発揮することが知られている。そこで、本発明者らは、前記発見に基づいて、前記筍の皮抽出物を有効成分とする抗酸化剤および抗老化剤を発明した。また、本発明者らは、筍の皮抽出物の拘菌作用の発見に基づいて、前記筍の皮抽出物を有効成分とする抗菌剤を発明した。
すなわち、前述のような課題を解決するための本発明による筍の皮抽出物は、筍の皮からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用の全てかいずれか複数又は少なくとも1つを有するものである。また、本発明は、前記筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、天然素材である筍の皮を原料とするため安全性が高く、且つ従来は廃棄対象となっていた筍の皮を原料とするため製造コストが低い、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用の全てかいずれか複数又は少なくとも1つを有する筍の皮抽出物を得ることができる。また、本発明によれば、前記筍の皮抽出物を有効成分とするため、人体に使用しても安全性の高い、メラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤を、低コストで生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】本発明者らによる本研究の全体像を示す図である。
【図1B】前記筍の皮抽出物の抗菌試験の概略を示す図である。
【図1C】前記筍の皮抽出物のジクロロメタン可溶部のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画の結果などを示す図である。
【図1D】前記筍の皮抽出物であるFr.4−4中のFr.4−4−2−AとFr.4−4−2−BのStaphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)とEscherichia coli(大腸菌)に対する抗菌活性の測定結果を示す図である。
【図1E】前記筍の皮抽出物から単離したFr.4−4−2−A及び同Fr.4−4−2−Bの構造解析結果を示す図である。
【図1F】前記筍の皮抽出物のメラニン生合成阻害試験の概略を示す図である。
【図1G】前記筍の皮抽出物のメラニン生合成阻害活性の測定結果を示す図である。
【図1H】前記筍の皮抽出物のORAC(Oxygen Radical Absorption Capacity)法による抗酸化活性の測定の概要を示す図である。
【図1I】前記筍の皮抽出物のジクロロメタン可溶部およびジクロロメタン不溶部などのORAC値を示す図である。
【図2A】本発明の実施例1に係る筍の皮自体の抗菌試験の概略図である。
【図2B】本実施例1に関する筍の皮(乾燥粉末)からの逐次抽出の手順を示す図である。
【図2C】本実施例1に関する筍の皮自体のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。
【図2D】本実施例1に係る筍の皮抽出物のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示す図である。
【図2E】(a)はStigmasterolの化学構造、同(b)はDihydrobrassicasterolの化学構造を示す図である。
【図2F】Fr.4−4−2−AおよびFr.4−4−2−Bなどの抗菌試験の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2に係る筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例3に係る筍の皮粗抽出物のORAC値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、筍の皮を粉砕等して得られた粉末からn−ヘキサン抽出物を除いた残渣を得て、その残渣からメタノールまたはエタノールなどにより溶媒抽出物を得た。本発明者らは、この抽出物をジクロロメタン不溶部とジクロロメタン可溶部とに分けて、それぞれの特性を測定したところ、ジクロロメタン不溶部が強い抗酸化活性およびメラニン生合成阻害活性を有していること、及び、ジクロロメタン可溶部が強い抗菌性および抗酸化活性を有していることを新たに発見した。また、一般に、皮膚においてはメラニンの過剰な生成や蓄積が皮膚の黒化やシミの原因となっていることからメラニン産生過程を阻害することが肌の美白のために有効であることが知られている。また、一般に、抗酸化作用を有する物質を例えば皮膚に投与すると皮膚において過剰に生成された活性酸素によるしわの形成や弾力低下などが抑制されて皮膚の老化防止に有効であること、抗酸化作用を有する物質を経口摂取すると生体内で活性酸素を消去するなどして健康増進及び老化防止効果を発揮することが知られている。そこで、本発明者らは、前記の新たな知見に基づいて、筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤を発明した。
なお、本発明の実施形態において、前記のメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤は、前記筍の皮抽出物をそのまま使用するようにしてもよいし、前記筍の皮抽出物を公知の方法で乾燥させて粉末状や顆粒状など製剤化して使用したり、公知の方法で濃縮して液状で使用するようにしてもよい。また、本発明によるメラニン合成阻害剤及び美白剤は、皮膚の美白のための皮膚化粧品または皮膚外用薬に含有させるようにしてもよい。また、本発明による抗酸化剤及び抗老化剤は、飲食品や飼料(ペットフードなど)中に添加して使用してもよいし、健康食品(錠剤などの形態のサプリメントなど)または医薬品(錠剤やカプセルなど)に含有させて経口摂取させるようにしてもよいし、シミ、しわ、たるみなどの皮膚の老化防止などのための皮膚化粧品(例えば軟膏、クリーム、乳液状など)または皮膚外用薬に含有させるようにしてもよい。また、本発明による抗菌剤は、例えば石鹸や洗剤などに含有させるようにしてもよいし、抗菌作用を発揮することが望ましい梱包剤、紙、被服の布、トイレタリー製品、不織布などに塗布または混入させて使用するようにしてもよい。
【0010】
以下に、本発明者らの本願発明に係る研究の概略を述べる(一部については以下の実施例で詳述する)。図1Aは本発明者らによる本研究の全体像を示す図である。すなわち、本発明者らは、筍の皮を粉砕等して得られた粉末からn−ヘキサン抽出物を除いた残渣を得て、その残渣からメタノールまたはエタノールなどの溶媒により抽出物を得た(なお、本実施形態において前記溶媒抽出に使う溶媒はメタノールまたはエタノールが望ましいがこれらに限られない)。そして、本発明者らは、このメタノール抽出物の特性を測定したところ、抗酸化活性を有していることを新たに発見した。また、本発明者らは、前記メタノール抽出物をジクロロメタン可溶部とジクロロメタン不溶部とに分けて、それぞれの特性を測定したところ、ジクロロメタン可溶部は抗菌性と抗酸化活性を有していること、及び、ジクロロメタン不溶部は抗酸化活性とメラニン生合成阻害活性を有していることを新たに発見した。
【0011】
図1Bに示すように、本発明者らは、前記筍の皮抽出物の抗菌試験を実施し、前記筍の皮抽出物が抗菌性を有していることを発見した(詳細は実施例1に関して詳述する)。
【0012】
図1Cに示すように、本発明者らは、前記ジクロロメタン可溶部のシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画を試み、その結果、16個のフラクションが得られ、収率は96.6%だった。これらの分画のそれぞれについてS.aureusとE.coliに対する抗菌活性を測定したところ、Fr.4についてS.aureusとE.coliに対する強い抗菌活性を確認できた。そこで、このFr.4に着目して、抗菌活性物質の探索を継続した。そして、Fr.4−4はこれまで得られた分画物の中でも、E.coliとS.aureusの両方に抗菌活性を持つ特異なフラクションであったため、Fr.4−4に着目して、分取HPLCによるさらなる分画を試みた。
【0013】
図1Dに示すように、本発明者らは、前記筍の皮抽出物であるFr.4−4中のFr.4−4−2−AとFr.4−4−2−BのS.aureusとE.coliに対する抗菌活性を確認した(詳細は実施例1に関して詳述する)。
【0014】
また、本発明者らの研究により、前記筍の皮抽出物であるFr.4−4−2−AがStigmasterolであること、及び、同Fr.4−4−2−BがDihydrobrassicasterolであることが判明した(図1E参照)。
【0015】
また、本発明者らは、図1Fに示すような前記筍の皮抽出物のメラニン生合成阻害試験を行い、前記筍の皮抽出物のジクロロメタン不溶部に強いメラニン生合成阻害活性を確認した(図1G参照。詳細は実施例4に関して詳述する)。
【0016】
また、本発明者らは、前記筍の皮抽出物のORAC法による抗酸化活性の測定を行なった(図1H参照。詳細は実施例3において詳述する)。その結果、前記筍の皮抽出物のジクロロメタン可溶部およびジクロロメタン不溶部ともに高いORAC値を確認し、強い抗酸化活性を確認した(図1I参照。詳細は実施例4に関して詳述する)。
【実施例1】
【0017】
1.モウソウチク(Phyllostachys pubescens)の筍の皮に含まれる抗菌活性物質の探索
本研究では、モウソウチク(Phyllostachys pubescens)の筍の皮抽出物から抗菌活性物質を単離・同定し、未利用資源であり、産業廃棄物として大部分が処理されている筍の皮有効利用のための新たな価値を創出することを目的とする。
【0018】
2.試験方法
2.1.筍の皮の抗菌試験
モウソウチクの筍の皮を10×10mmの板状に切り取り、これに70%エタノールを吹き付け消毒した。これを「筍の皮(未処理)」とした。一方、筍の皮(10g,10×10mm)を各100mLのn−ヘキサン、ジクロロメタン、メタノール、水を用いて、順次180rpmで24時間振とう抽出し、この抽出残渣の筍の皮を「筍の皮(抽出後)」とした。
【0019】
供試菌株として、代表的な食中毒菌である大腸菌(Escherichia coli,NBRC13276)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus,NBRC3301)を用いた。Nutrient agar培地上に培養したS.aureusのコロニーを取り、20mLのNutrient broth(NB)培地に接種し、160rpm、37℃で菌濃度が109CFU/mLになるまで9時間振とう培養した。この菌液をNB培地で希釈し、菌濃度を105CFU/mLに調製した。
【0020】
5mLのNB培地と50μLの菌液(105CFU/mL)および10×10mmの筍の皮一枚を50mL容ファルコンチューブに入れ、37℃、200rpmで9時間振とう培養した。その後、筍の皮を取り除き、分光光度計で630nmにおける吸光度を測定し菌の増殖の指標とした。図2Aはこの試験の概略図である。
【0021】
2.2.抽出物の調製
抽出物の抗菌試験を行うため、筍の皮の乾燥粉末17.8kgからn−ヘキサン、メタノールを用いて逐次抽出を行い、各々の抽出物を濃縮してn−ヘキサン抽出物(40.1g)とメタノール抽出物(192.5g)を得た。さらに、メタノール抽出物にジクロロメタンを加え、ジクロロメタン可溶部(38.8g)と不溶部(153.7g)に分けた。図2Bはこの逐次抽出の手順を示すものである。
【0022】
2.3.抗菌試験
96ウェルプレートの1ウェルあたりに、NB培地を89μL、菌液(104CFU/mL)を10μL、DMSOまたはDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)に溶解させた抽出物を1μL加え、37℃、1150rpmで12時間培養後、630nmにおける濁度を測定し、菌の増殖の指標とした。
【0023】
2.4.ジクロロメタン可溶部の分画
抽出物の抗菌試験を行った結果、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部にS.aureusに対する抗菌活性が確認された。そこで、ジクロロメタン可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−Hexane:EtOAc=10:0〜0:10→MeOH100%)、分取HPLC(Inertsil PREP−ODS,10mL/min,MeOH)、リサイクル分取HPLC(JAIGEL−GS310,5mL/min,MeOH)を用いて分画し、活性物質の単離を試みた。
【0024】
3.結果と考察
図2Cは、筍の皮自体のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。それぞれの値は平均値±標準偏差(n=3)で表す。異なる文字(a,b,c)はチューキー検定により有意差(P<0.01)があったことを示す。図2Cに示すように、筍の皮(未処理)と筍の皮(抽出後)の濁度は、コントロールの濁度より有意に低かった。この結果より、筍の皮自体にS.aureusに対する抗菌活性があることが分かった。また、筍の皮(未処理)の濁度は筍の皮(抽出後)の濁度より低かった。これは、筍の皮(未処理)が筍の皮(抽出後)よりS.aureusの増殖を強く阻害していることを示す。抽出後の方が抗菌活性が低下している原因は、溶媒抽出により筍の皮中に含まれる抗菌活性物質が減少したためと考えられる。また、E.coliに対しても同様の実験を行ったが、有意な増殖阻害は見られなかった。
【0025】
続いて、筍の皮抽出物(n−ヘキサン、メタノール、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部・不溶部)の抗菌試験を行ったところ、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部にS.aureusに対する抗菌活性が確認された。図2Dは前記筍の皮抽出物の抗菌試験の結果を示すものである。筍の皮抽出物を加えた状態でのS.aureusの増殖を培養0,2,4,6,12および24時間目で測定した。ジクロロメタン抽出物を添加した場合、S.aureusの増殖が培養12時間目まで有意(P<0.05:2,4時間目、P<0.01:6,12時間目)に阻害されていることが分かった。ジクロロメタン抽出物は培養12時間目まで、S.aureusの増殖をほぼ完全に阻害していた。一方、n−ヘキサン、メタノール、水抽出物については有意な阻害は見られなかった。この結果より、ジクロロメタン抽出物が抗菌活性物質を含んでいると考えられる。一方、E.coliに対しても同様の実験を行ったが、有意な増殖阻害は見られなかった。なお、図2Dにおいて、それぞれの値は平均値±標準偏差で表す(n=3)。コントロールと各抽出物間の有意差はスチューデントのt検定により検出し、P<0.05を有意とした。()内は各抽出物の系内最終濃度を示す。ジクロロメタン抽出物が培養12時間目までS.aureusの生育を阻害していることが確認できた。
【0026】
本発明者は、以上の結果から、ジクロロメタン可溶部に注目し、さらなる分画を行った。ジクロロメタン可溶部をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取HPLC、リサイクル分取HPLCを用いて分画し、Fr.4−4−2−AとFr.4−4−2−Bを得た。GC/MSおよびNMRの結果から、これら2つのフラクションはほぼ単一の物質であると考えられ、構造解析したところ、Fr.4−4−2−Aは、Stigmasterolであり、Fr.4−4−2−Bは、Dihydrobrassicasterolであった。図2E(a)はStigmasterolの化学構造、同(b)はDihydrobrassicasterolの化学構造を示す。
【0027】
図2Fは、前記Fr.4−4−2−AおよびFr.4−4−2−BなどのE.coliとS.aureusに対する抗菌活性を示すグラフである。図2Fにおいて、それぞれの値は平均値±標準偏差で表す(n=3)。コントロールと各分画物間の有意差はスチューデントのt検定により検出した(*P<0.05,**P<0.01)。()内は各分画物の系内最終濃度を示す。図2Fに示すように、Fr.4−4−2−A、Fr.4−4−2−Bともにコントロールである1%DMSOより低い濁度を示し、S.aureusとE.coliに対する抗菌活性が確認された。
【実施例2】
【0028】
<筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物の抗菌試験>
1.試料
・筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物
2.実験方法
(1)菌の前培養
シャーレ上に培養した菌のコロニーから1つをとり、20mLのNutrient Broth(NB)培地を加えた100ml容三角フラスコに添加した。これを,160rpmで8時間振とう培養した。最後に培養液の660nmにおける吸光度を分光光度計で測定し、菌の濃度が104CFU/mLになるようNB培地を添加して希釈した。
(2)抽出物の調製
抽出物をそれぞれDimethylsulfoxide(DMSO)に溶解させサンプルとした。
(3)抗菌活性の測定
96well plateの1wellにNB培地89μL、菌体懸濁液10μL(104CFU/mL)、サンプル溶液1μLを添加した。その後、1150rpm、37で12時間振とう培養し、培養後の630nmにおける濁度をマイクロプレートリーダーで測定した。
【0029】
3.結果
図3は筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物のS.aureusに対する抗菌活性の測定結果を示すグラフである。図3において、()内はサンプル最終濃度(μg/mL)を表し、コントロールと各抽出物間の有意差はt検定により判定した(*P<0.05、**P<0.01)。
以上のように、筍の皮粉砕物からのエタノール抽出物の抗菌試験においても、前記実施例1に関して説明した筍の皮粉砕物からのメタノール抽出物の抗菌試験と同様の結果が得られた。
【実施例3】
【0030】
<筍の粗抽出物のメラニン生合成抑制試験>
モウソウチクの粗抽出物(水、n−ヘキサン、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部・不溶部)を用いて、メラニン生合成抑制試験を行った。
(1)細胞の前培養
シャーレ上に培養したB16メラノーマ細胞培養液を血球計測板に10μL添加し、顕微鏡を用いて細胞数を測定した。その後、細胞培養液にMinimum Essential Medium Alpha(EMEM)培地を加え、細胞濃度を1.0×105cells/mLとなるよう調製した。これを24well plateの各wellに1mLずつ播種し、5%CO2,37℃で24時間静置培養した。
(2)サンプル溶液の調製
モウソウチクの粗抽出物(水、n−ヘキサン、メタノール抽出物のジクロロメタン可溶部・不溶部)をDMFに溶解させ、20mg/mLに調製した。ポジティブコントロールとして、50mg/mLのアルブチンを用いた。また、コントロールとしてDMFを用いた。
(3)サンプルの添加
前培養した24well plateの培地を除去し、新たにEMEM培地998μLとサンプル溶液2μLを添加した。これを5%CO2,37℃で48時間静置培養した。この後、再び培地を除去し、EMEM培地998μLとサンプル溶液2μLを添加し、5%CO2,37℃で24時間静置培養した。系内の各サンプルの最終濃度は、粗抽出物が40μg/mL、ポジティブコントロールのアルブチンが100μg/mL、コントロールのDMFが0.2%とした。
(4)MTT法による細胞生存率の測定
24well plateの1well当たりMTT染色液(5mg/mL PBS)を50μL添加し、5%CO2,37℃で4時間静置培養した。培地を除去し、各wellに塩酸−イソプロパノール溶液を1mLずつ加え、遮光し、4時間室温で放置した。マイクロプレートリーダーで570nmにおける吸光度を測定し、細胞数の指標とした。
(5)メラニン生成量の測定
培地を除去し、各wellに300μLのPBSを加えて洗浄した。PBSを除去し、各wellに1N NaOHを1mLずつ添加し、細胞を溶解させた。室温で遮光し、4時間放置した。マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度を測定し、メラニン生成量の指標とした。
【0031】
前述の図1Gはこの筍の皮粗抽出物のメラニン生合成阻害活性の測定結果を示すグラフである。この図1Gに示すように、特にジクロロメタン不溶部を添加した場合に細胞生存率に比してメラニン合成が大きく抑制されていることなどから、筍の皮抽出物がメラニン生合成阻害活性を有していることが明らかになった。
【実施例4】
【0032】
<筍の粗抽出物の抗酸化活性試験(ORAC)>
エッペンチューブに48nM fluorescein−2Na(FL)溶液1.8mL、トロロックス標準溶液300μLを添加し混合する。この混合溶液と43mM AAPH溶液を、それぞれ37℃で遮光しながら15分間プレインキュベートする。インキュベート終了後、混合溶液に対して43mM AAPH溶液900μLを添加し、10秒間撹拌、その後溶液を石英セルに移し、37℃で撹拌しながら40分間蛍光強度を測定した。
設定条件は以下の通りである。
励起バンド幅 :5nm
蛍光バンド幅 :3nm
レスポンス :2sec
感 度 :medium
励起波長 :485nm
蛍光波長 :520nm
測定時間 :0〜2400sec(0〜40min)
データ取込間隔:5sec
得られた蛍光強度をもとに、次の計算式から各サンプルのAUCを求めた。
【0033】
【数1】
【0034】
トロロックス0μMのデータをブランクとし、トロロックス各標準液濃度(50,25,12.5,6μM)で得られたデータのAUCの増加量(AUCTrolox−AUCBlank)をnetAUCとする。同様の測定を3回行い、X軸にトロロックスのnetAUCの平均値、Y軸にトロロックス濃度をとり一次回帰式(Y=aX+b)を作成した。
【0035】
<相対ORAC値の算出>
任意の濃度に作成した酸化防止剤サンプル溶液のnetAUCがトロロックスの一次回帰式のnetAUCの最大値以内に収まるように必要な場合は調製し直した。
次式により相対ORAC値(活性酸素吸収能力値)を算出した。
【0036】
【数2】
【0037】
同じ濃度で3回蛍光強度測定を行い、その3回の平均値を抗酸化物質のORAC値とした。図4は筍の皮粗抽出物のORAC値を示すグラフである。図4に示すように、ジクロロメタン可溶部およびジクロロメタン不溶部ともに、高いORAC値を示し、筍の皮抽出物が抗酸化作用を有していることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、筍の皮の粉砕物または粉末からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出した筍の皮抽出物が、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、又は抗菌作用を有することが明らかになった。このような筍の皮抽出物の特性に関する新たな発見により、天然素材である筍の皮を原料とするため安全性が高い、筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤、美白剤、抗酸化剤、抗老化剤、又は抗菌剤などを低コストで製造することが可能になった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筍の皮からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用の少なくとも1つを有する、筍の皮抽出物。
【請求項2】
筍の皮からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、少なくともメラニン合成阻害作用、抗酸化作用、及び抗菌作用を有する、筍の皮抽出物。
【請求項3】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤。
【請求項4】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする美白剤。
【請求項5】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項6】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする抗老化剤。
【請求項7】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする抗菌剤。
【請求項1】
筍の皮からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、メラニン合成阻害作用、美白作用、抗酸化作用、抗老化作用、及び抗菌作用の少なくとも1つを有する、筍の皮抽出物。
【請求項2】
筍の皮からメタノールまたはエタノールなどの溶媒を用いて抽出して成り、少なくともメラニン合成阻害作用、抗酸化作用、及び抗菌作用を有する、筍の皮抽出物。
【請求項3】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とするメラニン合成阻害剤。
【請求項4】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする美白剤。
【請求項5】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項6】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする抗老化剤。
【請求項7】
請求項1又は2の筍の皮抽出物を有効成分とする抗菌剤。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図1I】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図1I】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2013−43856(P2013−43856A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182431(P2011−182431)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(511207062)ライフデザイン株式会社 (1)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(511207062)ライフデザイン株式会社 (1)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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