説明

筐体の内部構造部品の形成方法及び該方法で形成された筐体

【課題】軽合金を主成分とする圧延板を三次元形状に加工した筐体の内周面に、軽合金を主成分とする内部構造部品を導電性を備えて形成する。
【解決手段】筐体30及びボス33の外表面に化成処理を施し、ヒーター60の上に筐体30を載置し、筐体30の底面32のボス33を設置する部位にボス33の底面積より大きな面積を備える熱可塑性エラストマ50を位置決めして載置し、熱可塑性エラストマ50の中央部にある貫通孔51に導電性金属からなるばね52を挿入し、ばね52を挿入した熱可塑性エラストマ50の上にボス33を載置し、ボス33の上端面に熱板61を載置して、ヒーター60を加熱すると共に、ヒーター60と熱板61との間に圧力を印加することにより、筐体30の底面32に導通するボス33を設ける筐体の内部構造部品の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は筐体の内部構造部品の形成方法及び方法で形成された筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ノートパソコンや携帯電話機等の小型電子機器の筐体は、合成樹脂を射出成形することによって作られていた(例えば特許文献1参照)。一方、近年の電子機器の小型軽量化により、電子機器を構成する筐体においても、肉厚が薄く軽量でありながら剛性を備えるものが要求されている。電子機器の筐体に合成を持たせるためには、筐体内部にリブ等の構造部品を形成することが必要である。
【0003】
このような薄肉で高強度の筐体を製造する方法としては以下の方法がある。
(1)ガラス繊維や炭素繊維を含む繊維強化熱可塑性樹脂を射出成形する方法。
(2)アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽合金圧延板をプレス加工する方法。
(3)アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽合金を射出成形(ダイカスト法、チクソモールド法など)する方法。
(4)金属板や繊維強化樹脂板と熱可塑性樹脂とをインサート成形等により一体成形する方法。
【0004】
(1)の方法の特徴としては、熱可塑性樹脂によるものは複雑形状も容易に加工できるが、強度や難燃性の点から厚肉が1mm以上となると共に、内面にめっき、蒸着や、ネジ固定部に金属インサートが必要となる。
【0005】
(2)の方法の特徴としては、金属板のプレスでは1mm未満の薄肉が可能であるが、ハウジング内でプリント回路基板を支持するために必須であるボスやリブ等の複雑な形状の内部構造部品を筺体内面に形成することが困難である。また、筐体の外部にネジ等を露出させない意匠性の観点から、内部構造部品の構造が限定される。
【0006】
(3)の方法の特徴としては、金属射出成形の場合、バリ処理や表面研磨、パテ処理など二次加工が必須である。
【0007】
(4)の方法の特徴としては、板材と熱可塑性樹脂との複合成形品は、重量および強度の点で最もバランスに優れた方法であるが、内部構造部品が樹脂で形成されるため、強度が満足できなかったり、ネジ部のインサートが必要になり、部材や工程が増加する。更に、接着層の形成が必要であるため、製品意匠や機械的強度が制限されたり、使用できる材料が限定される(接着層と板材または熱可塑性樹脂との相性がある)。
【0008】
ところで、最も筐体の薄肉化が可能で、しかも筐体部材としての剛性が優れる(2)の方法において、任意の場所に任意形状のボスやリブ等の金属製内部構造部品を配置することができれば、最も簡易に薄型軽量の製品を製造できる。しかも、ボスにあっては、ボスで支持するプリント回路基板と筐体との電気導通が確保できれば、更に有利である。
【0009】
図1は金属板をプレスして構成された小型電子機器の筐体1を示す。筐体1は、1mm未満の薄肉となっており、側壁11で囲まれた底面10には、ボス3、リブ4、開口部5、スリット6等がある。筐体1の内部において、プリント回路基板2を支持するために必須であるボス3(プリント回路基板2に設けられた取付孔21に挿通されるネジ22が螺着される)やリブ4等は、複雑な形状の内部構造部品であるため、その形成が困難である。また、筐体1の外部にネジ等を露出させない意匠性の観点から、内部構造部品の構造が限定される。
【0010】
ここで、図1を用いて前述の(2)の方法において筐体1にボス3やリブ4等の金属製内部構造部品を配置するための方法を、それぞれの利点と欠点と共に説明する。
【0011】
(a)ネジ止め
図1に矢印Aで示すように、筐体1の底面10に設けられた取付孔12に、筐体1の裏面側からネジ7を挿通し、このネジ7でボス3を底面10に固定する方法である。
利点:接合強度が高い。リペア、リサイクルが容易
欠点:外面にネジ頭が露出するため、部品の配置や構造が限定される。
【0012】
(b)溶接(スタッド、摩擦熱など)
図1に矢印Bで示すように、筐体1の底面10に金属製のボス3を、溶接棒8を用いてアーク溶接する方法である。
利点:接合強度が高い。部品数が少ない。
欠点:外面に溶接痕が発生しやすい。専用の特殊装置が必要。
【0013】
(c)接着剤
図1に矢印Cで示すように、ボス3の裏面に接着剤9を塗布し、ボス3の接着剤の塗布面を、筐体1の底面10の点線で示す取付部13に接着する方法である。
利点:価格が安い。
欠点:接合強度が弱い。電気導通が取れない(導電性接着剤は接着力が弱い)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−58332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、(2)の方法において筐体にボスやリブ等の金属製内部構造部品を配置するための方法には何れも問題点があった。また、電子機器の筐体として、外側の筐体面にネジ頭が露出したり、溶接痕が形成されてしまうのは、商品意匠性の観点から全く好ましくない。また、ボス部以外からプリント回路基板のグランドを筐体に接続することも可能であるが、信頼性と部品数(製造工程数)が増加する点で好ましくない。
【0016】
本出願は、(2)の方法で筐体内部にボスやリブ等の金属製内部構造部品を配置するに際して、薄肉軽量でありながら高い剛性をも両立する筐体の内部構造部品の形成方法及び該方法で形成された筐体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成する本出願の第1の形態は、軽合金を主成分とする圧延板を三次元形状に加工した筐体の内周面に、軽合金を主成分とする内部構造部品を形成する方法であって、筐体及び内部構造部品の外表面に化成処理を施す段階と、板状の第1の加熱板の上に、筐体をその外表面を第1の加熱板側にして載置する段階と、筐体の内周面の内部構造部品を設置する位置に、内部構造部品の底面積より大きな面積を備える板状の熱可塑性エラストマを位置決めして載置する段階と、筐体の内周面の内部構造部品を設置する位置に、熱可塑性エラストマの上から内部構造部品を載置する段階と、筐体の内周面に載置された内部構造部品の自由端に第2の加熱板を載置する段階、及び少なくとも第1の加熱板を加熱すると共に、第1の加熱板と第2の加熱板との間に所定の圧力を印加する段階とを備えることを特徴としている。
【0018】
前記目的を達成する本出願の第2の形態は、第1の形態の形成方法により形成された内部構造部品を備えたことを特徴とする筐体である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】金属板をプレスして構成された小型電子機器の筐体、及びプリント回路基板をこの筺体に取り付けるためのボスの筺体への固定方法を示す説明図である。
【図2】本出願の筐体の内部構造部品の配置の一実施例と、この内部構造部品のボスに取り付けるプリント回路基板を示す斜視図である。
【図3】本出願の第1の実施例を示すものであり、(a)は表面に化成膜を被覆したボス部品と、熱可塑性エラストマと、軽合金の表面に化成膜を被覆した筐体の一部を示す斜視図、(b)はヒーターの上に(a)に示した筐体を載置し、その上に熱可塑性エラストマの上に載せてから軽合金製のボスを置き、ヒーターに通電しながらボスの頂面を熱板で荷重をかけながら加圧してボスを筐体の底面に形成する工程を示す断面図である。
【図4】本出願の第2の実施例を示すものであり、(a)は表面に化成膜を被覆したボス部品と、熱可塑性エラストマと、軽合金の表面に化成膜を被覆した筐体の一部と、熱可塑性エラストマの中央部に設けられた孔に挿入するばね部材を示す斜視図、(b)はヒーターの上に(a)に示した筐体を載置し、その上にばね部材を組み込んだ熱可塑性エラストマの上に載せてから軽合金製のボスを置き、ヒーターに通電しながらボスの頂面を熱板で荷重をかけながら加圧してボスを筐体の底面に形成する工程を示す断面図である。
【図5】本出願の第3の実施例を示すものであり、(a)は表面に化成膜を被覆したボス部品と、熱可塑性エラストマと、軽合金の表面に化成膜を被覆すると共にボス形成場所に凹部を設けた筐体の一部と、筐体の表面に設けられた凹部に挿入するばね部材を示す斜視図、(b)はヒーターの上に(a)に示した筐体を載置し、その上にばね部材を組み込んだ熱可塑性エラストマを置いてから軽合金製のボスを置き、ヒーターに通電しながらボスの頂面を熱板で荷重をかけながら加圧してボスを筐体の底面に形成する工程を示す断面図である。
【図6】本出願における筐体の底面に形成されるリブを示す断面図である。
【図7】本出願の筐体の内部構造部品の配置の別の実施例を示す斜視図である。
【図8】本出願における筐体の底面に、ボス付きのリブを取り付ける工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。なお、図1で説明した筺体1と同じ構成部材には同じ符号を付して説明する。
【0021】
図2は本出願の筐体30の内部構造部品の配置の一実施例と、この内部構造部品のボス33に取り付けるプリント回路基板2を示す斜視図である。筺体30は、図1で説明した筺体1と形状は同じであり、軽合金であるマグネシウム合金の圧延版をプレスして構成された小型電子機器の筐体である。筺体30の肉厚は、例えば0.6mmであり、1mm以下である。図1に示した筺体1と同様に、側壁31で囲まれた底面32には、ボス33、リブ34、開口部5、スリット6等がある。プリント回路基板2も図1と同様にボス33にネジ(図示省略)で取り付けられる。
【0022】
この実施例における筺体30が図1に示した筺体1と異なる点は、筺体30、ボス33及びリブ34の表面に化成処理が施されており、ボス33及びリブ34が熱可塑性エラストマを用いて底面32に取り付けられている点である。化成処理を施すと、底面32、ボス33及びリブ34の表面に化成膜41が形成される。表面に化成膜41が形成された筺体30,30Aの底面32に、表面に化成膜41が形成されたボス33及びリブ34を設置(形成)する方法の実施例を、以下に図3〜図8を用いて説明する。なお、表面に化成膜41が形成された筺体30,30Aの底面32に、表面に化成膜41が形成されたボス33及びリブ34を取り付けると、表面に化成処理を施さない場合に比べて、ボス33及びリブ34の底面32への最大接着力が増大する。
【0023】
図3は、本出願の第1の実施例を示すものである。図3(a)は表面に化成膜41を被覆したボス33と、熱可塑性エラストマ50と、軽合金であるマグネシウム合金40の表面に化成膜41を被覆した筐体30の一部を示している。ボス33は円柱状であり、その先端部にネジ穴35が設けられている。熱可塑性エラストマ50は融点が約200°Cであり、この実施例では中央部に孔51を備えたリング状の円板である。また、熱可塑性エラストマ50の板厚は0.6〜0.8mm程度である。筐体30はその底面32側と表面側の両方に化成膜41が形成されている。
【0024】
ボス33を底面32に接合する場合は、まず、図3(b)に示すように、第1の加熱板であるヒーター60の上に筺体30を載置し、筺体30の底面32のボス33の接合位置に、熱可塑性エラストマ50を置く。底面32の上に置かれた熱可塑性エラストマ50は図3(a)に示したように平板状であり、凹んではいない。熱可塑性エラストマ50の上には化成膜41で被覆されたボス33を、ボス33の設置位置に合わせて置く。熱可塑性エラストマ50の外形はボス33の底面の外形よりも大きいので、ボス33の底面32の周囲には熱可塑性エラストマ50が露出する。そして、ボス33のネジ穴35が設けられた先端面の上に、第2の加熱板である熱板61を置く。熱板61には加熱源が内蔵されている。
【0025】
この状態で、ヒーター60に通電してその温度を200°Cにし、熱板61も加熱源に通電加熱してその温度を200°Cにする。そして、ヒーター60と熱板61との間に、10〜20kg/cm2 程度の荷重をかける。この処理により、熱可塑性エラストマ50が溶融し、ボス33と底面32とが一体化される。ボス33と底面32とが一体化された後は、ヒーター60と熱板61を取り外せば良い。
【0026】
図4は、本出願の第2の実施例を示すものである。図4(a)は表面に化成膜41を被覆したボス33と、熱可塑性エラストマ50と、軽合金であるマグネシウム合金40の表面に化成膜41を被覆した筐体30の一部及びばね部材52、53、54を示している。ばね部材52、53、54は、熱可塑性エラストマ50に設けられた孔51に挿入されるものである。ばね部材52、53、54以外の部材は第1の実施例と同じであるのでここではその説明を省略する。図4(a)には、ばね部材として、板ばね52、ばね座金53及びコイルばね54の例が示してあるが、孔51に挿入するばね部材は、板ばね52、ばね座金53及びコイルばね54の何れか1つで良い。これらのばね部材の他にも、皿ばねや波形座金等を挿入することができる。
【0027】
ボス33を底面32に接合する場合は、第1の実施例と同様に、図4(b)に示すようにヒーター(第1の加熱板)60の上に筺体30を載置し、筺体30の底面32のボス33の接合場所に、熱可塑性エラストマ50を置く。次に、熱可塑性エラストマ50の孔51に、この実施例では板ばね52を挿入し、板ばね52が挿入された熱可塑性エラストマ50の上に、化成膜41で被覆されたボス33を、ボス33の設置位置に合わせて置く。最後にボス33のネジ穴35が設けられた先端面の上に、加熱源が内蔵された熱板(第2の加熱板)61を置く。
【0028】
この状態で、ヒーター60に通電してその温度を200°Cにし、熱板61も加熱源に通電してその温度を200°Cにする。そして、ヒーター60と熱板61との間に、10〜20kg/cm2 程度の荷重をかける。この処理により、熱可塑性エラストマ50が溶融するので、ボス33の底面に押されて熱可塑性エラストマ50の孔51内にある板ばね52が収縮する。このように熱可塑性エラストマ50の孔51内に板ばね52を挿入しておくと、ヒーター60と熱板61との間に荷重を印加した時に、ボス33が傾かずに底面32側に接近することができる。また、ボス33の底面と筺体30の底面32とが板ばねは52を介して電気的に接続されるので、ボス33が筺体30の底面32に導通状態で一体化される。
【0029】
図5は、本出願の第3の実施例を示すものである。図5(a)は表面に化成膜41を被覆したボス33と、熱可塑性エラストマ50と、軽合金であるマグネシウム合金40の表面に化成膜41を被覆した筐体30の一部及びばね部材52、53、54を示している。図5(a)には、ばね部材として、板ばね52、ばね座金53及びコイルばね54の例が示してあるが、使用するばね部材は、板ばね52、ばね座金53及びコイルばね54の何れか1つで良い。また、筺体30の底面32のボス33の接合場所には凹部36が設けられている。この実施例では、ばね部材52、53、54は凹部36に挿入され、凹部36の上に熱可塑性エラストマ50の孔51が重なる。従って、板ばね52、ばね座金53及びコイルばね54のストロークは、第2の実施例の板ばね52、ばね座金53及びコイルばね54のストロークよりも長い。第3の実施例が第2の実施例と異なる点は、筺体30の底面32に設けられた凹部36のみであるので、ここではこれ以上の説明を省略する。
【0030】
ボス33を底面32に接合する場合は、第2の実施例と同様に、図5(b)に示すようにヒーター(第1の加熱板)60の上に筺体30を載置し、筺体30の底面32の凹部36にこの実施例では板ばね52を挿入する。次いで、ボス33の接合位置に、熱可塑性エラストマ50を、その孔51が板ばね52が挿入された凹部36に重なるように置き、熱可塑性エラストマ50の上に、化成膜41で被覆されたボス33を、ボス33の設置位置に合わせて置く。最後にボス33のネジ穴35が設けられた先端面の上に、加熱源が内蔵された熱板(第2の加熱板)61を置く。
【0031】
この状態で、ヒーター60に通電してその温度を200°Cにし、熱板61も加熱源に通電してその温度を200°Cにする。そして、ヒーター60と熱板61との間に、10〜20kg/cm2 程度の荷重をかける。この処理により、熱可塑性エラストマ50が溶融するので、ボス33の底面に押されて熱可塑性エラストマ50の孔51と凹部36内にある板ばね52が収縮する。第2の実施例と同様に熱可塑性エラストマ50の孔51と凹部36内に板ばね52を挿入しておくと、ヒーター60と熱板61との間に荷重を印加した時に、ボス33が傾かずに底面32側に接近することができる。また、ボス33の底面と筺体30の底面32とが板ばねは52を介して電気的に接続されるので、ボス33が筺体30の底面32に導通状態で一体化される。
【0032】
以上説明した第1から第3の実施例では、筺体30の底面32にボス33を形成する手順を説明した。一方、図2に示したリブ34は、ボス33のようにプリント回路基板2と接続されず、筺体を補強するためなどに形成されるものであるから、筺体30の底面32に対して導電性を備える必要がない。よって、リブ34は、図3を用いて説明した第1の実施例のボス33と同様の手順で筺体30の底面32に形成することができるので、その形成方法については説明を省略する。図6は筐体30の底面32に形成されたリブ34の構成を示す断面図である。底面32に形成するリブ34の構成がボス33の構成と異なる点は、リブ34が細長い形状であるので、熱可塑性エラストマ50に、ボス33に使用した熱可塑性エラストマ50には設けた孔51を設けていない点である。
【0033】
図7は、本出願の内部構造部品の配置の別の実施例を備えた筐体30Aを示す斜視図である。筺体30Aが図2(b)に示した筺体30と相違する点は、筺体30Aの底面32に、ボス33とリブ34が一体になったボス一体型リブ37が設けられている点であり、その他の構成は筺体30と同様である。ボス一体型リブ37を筺体30Aの底面32に形成する手順は、先に説明した第2の実施例におけるボス33を、板ばね52を用いて底面32に形成する手順と同じで良い。板ばね52はボス33と底面32の間にだけ挿入すれば良い。図7は、リブ34の片方の端部にだけボス33が設けられたボス一体型リブ37の構成及び底面32への形成手順を示すものである。ボス一体型リブ37の底面32への形成手順は、第2の実施例のボス33の底面32への形成手順と同じで良い。
【0034】
なお、以上説明した実施例では、ヒーター60と熱板61とでボス33或いはリブ34を挟み、両者を加熱した状態で圧着しているが、両者を加熱する必要がない場合は、どちらか一方を加熱すれば良い。また、ヒーター60とボス33或いはリブ34との加熱圧着は、前述の実施例ではヒーター60と熱板61とで行っているが、加熱圧着の手法は限定されない。例えば、加熱装置を備えたプレス機、適当な冶具で固定して高温炉に投入、ハンディ型のヒータでの圧着等により両者の加熱圧着は可能である。ただし、圧着時の荷重については、接合部に10kgf/cm2程度の圧力が加わるのが良い。これは荷重が小さい場合、接着層である熱可塑性エラストマが十分に薄くならず、また金属部品との密着性が低下するため、接合強度が低下するからである。
【0035】
ここで、筺体30,30A,ボス33及びリブ34を構成する軽合金、ばね部品を構成する金属、熱可塑性エラストマ及び化成処理について詳細に説明する。
【0036】
筺体30,30A,ボス33及びリブ34を構成する軽合金としては、前述の実施例では、マグネシウムを主成分とするマグネシウム合金を使用している。マグネシウムを主成分とする圧延板について、一般にはMg−Zn系、Mg−Am系、Mg−Li系の合金が圧延板として製造販売されているので、必要特性に応じて選択する。これらの合金板はすべて、前述の化成処理において、同一の処理液を用いることができ、処理工程中の諸条件を微調整するだけで特別な設備が不要である。ボス33及びリブ34について圧延板と同様、化成処理を施すことで、防錆性能および接合強度を向上することができる。
【0037】
なお、マグネシウム合金に代えて、アルミニウム合金も使用することが可能である。これらの合金は種々の形状、サイズのものが製造販売されており、安価に入手可能である。また、ボス33及びリブ34については、ダイカストやチクソモールドなど金属射出成形により製作しても良い。
【0038】
ばね部品は一般にはステンレス鋼、洋白、りん青銅等により構成することができる。プレス加工などにより所望の形状に加工し、位置決め、仮固定のため粘接着剤等を用いて熱可塑性エラストマに設けられた孔や筺体の底面に設けられた凹部に予め固定すれば良い。
【0039】
化成処理については、接合部の耐久性(信頼性)について最も影響するのがマグネシウム合金の腐食である。前述の実施例で説明したように、マグネシウム合金の化成処理が有る場合および無い場合について、接合強度を検証した結果、化成処理が無い場合でも、初期は100kgf/cm2と高い接合強度が得られたが、高温高湿環境では接合強度が極端に低下した。接合面を観察すると化成処理が無い場合、熱可塑性エラストマとの界面に腐食物が形成されており、これにより接合強度が低下していることが分かっている。よって、高温環境では化成処理を施した部材同士を加圧して接合した方が良い。化成処理としては、環境負荷の小さいノンクロム系処理方法として、リン酸系、マンガン系、アルカリ系など数種が広く知られているが、本出願にはいずれの処理も適用できる。
【0040】
熱可塑性エラストマはマグネシウム圧延板と内部構造部品(ボスやリブ)とを接合する接着層として機能する。組成は特に限定されないが、実験の結果、ポリエステル樹脂をベースとしたエラストマが取り扱い性や接合強度に優れる。その他、ポリアミド樹脂やスチレン樹脂をベースとした熱可塑性エラストマが入手でき、要求に応じて適宜使用できる。およその接合強度として、ポリエステルエラストマ:〜170kgf/cm2、ポリアミドエラストマ:〜100kgf/cm2、スチレンエラストマ:〜50kgf/cm2の接合強度が得られる。
【0041】
また、本出願では熱可塑性エラストマを溶融、圧着するため、熱的収縮率は小さい方がよく、ヤング率やTg(ガラス転移点)は低いほうが良い。収縮率が小さければ、各部材の寸法変動も小さく、接合面のズレによる接合強度の低下率が小さい。また柔軟な材料であれば、熱可塑性エラストマが変形し、部材の寸法変動を吸収する。
【0042】
更に、熱可塑性エラストマの融点または流動開始温度は適度に高温であることが望ましい。金属用(焼付け)塗料で塗装する場合、乾燥温度が〜180°C程度と高温である。以上の点から、ポリエステルエラストマの場合、溶融が200°C(180°C〜210°C程度)、ヤング率が40〜200MPa、成形収縮率が〜1.5程度の材料が良い。
【0043】
このような熱可塑性エラストマを接着層として利用するため、予めペレット状の材料を加熱溶融し、プレスやロール圧縮により薄いフィルムとする。厚さに関して、一般に接着層は適度な薄さが要求される。接着層が厚い場合、接着層自体の特性が接合強度に大きく影響するためである。特に本出願では柔軟な熱可塑性エラストマを使用するため、十分薄い接着層を形成する必要がある。接合強度や加工性、取り扱い性を考慮して凡そ10〜500μmの厚さでフィルム化するのが良い。これより薄い場合、金属製部材の仕上げレベルにもよるが、表面粗さの影響で接合後に十分な膜厚が確保できない。一方、これより厚い場合には(圧力によるが)接合後も接着層が厚くなるため、熱可塑性エラストマの柔軟性が顕著に現れて構造接着用として適さない。
【0044】
本出願における筺体30,30A,ボス33、リブ34、ばね部材52〜54、熱可塑性エラストマについては以下のような具体的な実施例が可能である。
筺体:板厚0.6mm、寸法230×170mmのマグネシウム圧延材を絞り深さ10mmのプレス機で成形したお盆型のプレス成形品として構成可能である。
ボス:直径φ10mm、長さ10mmで、自由端側にM5のネジ穴を備える円柱状部材として構成可能である。
ばね部材:板厚0.2mm、直径5mmで、中央部にφ1mm、高さ0.2mmの突起部が形成された円板状部材として構成可能である。
熱可塑性エラストマ
ポリエステルエラストマ:例えばハイトレル4047(東レデュポン社の商標)のペレットを、ハンディプレス機により、200°Cで加熱溶融し、200μmのシートとして構成可能である。
【0045】
本出願におけるボス33、リブ34は、所定の万能試験機を使用して、軸方向に荷重を加えて筺体30との接合強度を測定した結果、100kgf/cm2が得られた。また、ボス33の筺体30に対する導電性を確認したところ、抵抗値が100Ω未満であり良好な導電性が得られた。また、筺体30及びボス33に化成処理(リン酸マンガン溶液)を施して、同様の試験を行った結果、最大170kgf/cm2の接合強度と、抵抗値が100Ω未満という結果が得られた。更に、ボス33にアルミニウム合金を用いた場合は、最大120kgf/cm2の接合強度と抵抗値が100Ω未満という結果が得られた。
【0046】
以上説明したように、本出願によれば、意匠性にすぐれた薄肉軽量で高い剛性を持つ筐体の構造部品を製造することができる。また、筺体の構造部品と筺体との間に電気的導通を付与することにより、余分なアースの引き回しを省くことができ、コストを削減することができる。
【0047】
以上、本出願を特にその好ましい実施の形態を参照して詳細に説明した。本出願の容易な理解のために、本出願の具体的な形態を以下に付記する。
【0048】
(付記1) 軽合金を主成分とする圧延板を三次元形状に加工した筐体の内周面に、軽合金を主成分とする内部構造部品を形成する方法であって、
前記筐体及び前記内部構造部品の外表面に化成処理を施す段階と、
板状の第1の加熱板の上に、前記筐体をその外表面を前記第1の加熱板側にして載置する段階と、
前記筐体の内周面の前記内部構造部品を設置する位置に、前記内部構造部品の底面積より大きな面積を備える板状の熱可塑性エラストマを位置決めして載置する段階と、
前記筐体の内周面の前記内部構造部品を設置する位置に、前記熱可塑性エラストマの上から前記内部構造部品を載置する段階と、
前記筐体の内周面に載置された前記内部構造部品の自由端に第2の加熱板を載置する段階、及び
少なくとも前記第1の加熱板を加熱すると共に、前記第1の加熱板と前記第2の加熱板との間に所定の圧力を印加する段階とを備えることを特徴とする筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記2) 前記板状の熱可塑性エラストマの中央部には貫通孔が設けられていることを特徴とする付記1に記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記3) 前記貫通孔の中には導電性金属からなるばね部材が挿入されることを特徴とする付記2に記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記4) 前記熱可塑性エラストマが載置される前記筐体の内周面には、前記熱可塑性エラストマが載置された時に、前記貫通孔に連通する凹部が設けられていることを特徴とする付記3に記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記5) 前記内部構造部品がリブであることを特徴とする付記1又は2に記載の内部構造部品の形成方法。
【0049】
(付記6) 前記内部構造部品がボスであることを特徴とする付記1から4の何れかに記載の内部構造部品の形成方法。
(付記7) 前記内部構造部品がボスとリブが一体になった部材であることを特徴とする付記1から4の何れかに記載の内部構造部品の形成方法。
(付記8) 前記第1の加熱板は200°Cに加熱されると共に、前記第1の加熱板と前記第2の加熱板との間の圧力が10kg/cm2に設定されることを特徴とする付記1から7の何れかに記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記9) 前記筺体と前記内部構造部品を構成する軽合金がマグネシウム合金であることを特徴とする付記1から8の何れかに記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記10) 前記筺体と前記内部構造部品を構成する軽合金がアルミニウム合金であることを特徴とする付記1から8の何れかに記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
【0050】
(付記11) 前記第1の加熱板と前記第2の加熱板の両方が加熱されることを特徴とする付記1から10の何れかに記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記12) 前記第1の加熱板だけが加熱されることを特徴とする付記1から10の何れかに記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記13) 前記第2の加熱板だけが加熱されることを特徴とする付記1から10の何れかに記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
(付記14) 付記1から13の何れかに記載の方法により形成された内部構造部品を備えた筐体。
【符号の説明】
【0051】
1、30 筐体
2 プリント回路基板
3、33 ボス
4、34 リブ
5 開口部
10、32 底面
11、31 側壁
12、21 取付孔
13 取付部
35 ネジ穴
36 凹部
37 ボス一体型リブ
40 マグネシウム合金
41 化成膜
50 熱可塑性エラストマ
51 孔
52 板ばね
53 ばね座金
54 コイルばね
60 第1の加熱板
61 熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽合金を主成分とする圧延板を三次元形状に加工した筐体の内周面に、軽合金を主成分とする内部構造部品を形成する方法であって、
前記筐体及び前記内部構造部品の外表面に化成処理を施す段階と、
板状の第1の加熱板の上に、前記筐体をその外表面を前記第1の加熱板側にして載置する段階と、
前記筐体の内周面の前記内部構造部品を設置する位置に、前記内部構造部品の底面積より大きな面積を備える板状の熱可塑性エラストマを位置決めして載置する段階と、
前記筐体の内周面の前記内部構造部品を設置する位置に、前記熱可塑性エラストマの上から前記内部構造部品を載置する段階と、
前記筐体の内周面に載置された前記内部構造部品の自由端に第2の加熱板を載置する段階、及び
少なくとも前記第1の加熱板を加熱すると共に、前記第1の加熱板と前記第2の加熱板との間に所定の圧力を印加する段階とを備えることを特徴とする筐体の内部構造部品の形成方法。
【請求項2】
前記板状の熱可塑性エラストマの中央部には貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
【請求項3】
前記貫通孔の中には導電性金属からなるばね部材が挿入されることを特徴とする請求項2に記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマが載置される前記筐体の内周面には、前記熱可塑性エラストマが載置された時に、前記貫通孔に連通する凹部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の筐体の内部構造部品の形成方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の方法により形成された内部構造部品を備えることを特徴とする筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−102034(P2013−102034A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244418(P2011−244418)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】