説明

筐体開閉機構

【課題】バネへの負荷低減を図りつつ、ユーザの操作性及び組立性の両立を図る筐体開閉機構を提供する。
【解決手段】装置本体2内を開放すべくこの装置本体2に対して回動可能に支持された筐体22と、その一端53が筐体に対して回動する一方、その他端55が支持側62と開放側60との間を揺動し、筐体22の開放姿勢を保持可能なリンク部材52と、その一端92がリンク部材に連結する一方、その他端93が支持側62と開放側60とを結んだ方向に沿って移動可能な懸架部51に連結しており、これら支持側62と開放側60との間で伸縮して筐体22の開閉動作に伴う負荷を調整する引張りバネ90とを具備し、引張りバネ90は、筐体22の開動作に伴って縮んで自由長になり、この自由長になった状態にて、更なる開動作に伴って懸架部51とともに筐体22の支持側62に向けて移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ、ファクシミリ等に代表される画像形成装置に適用可能な筐体開閉機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の筐体開閉機構を備えた画像形成装置は、その装置本体の上側に原稿搬送装置や画像読取手段、例えばスキャナ部を搭載しており、原稿搬送装置にセットされた原稿、或いは、スキャナ部に載置された原稿はスキャナ部で光学的に読み取られる。
そして、電子写真プロセスを用いる画像形成装置では、その画像形成手段の感光体ドラムを予め帯電し、この感光体ドラムの表面に光を照射して静電潜像を形成する。次いで、現像されたトナー画像を記録材に転写及び定着する。
【0003】
ここで、重量の大きなスキャナ部は筐体に収納されており、この筐体を装置本体から開放して装置本体の内部を視認可能にし、画像形成装置のメンテナンスやトナーコンテナ等の交換用部品の着脱を可能にする構造が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
詳しくは、特許文献1では、筐体の裏面に排紙トレイを兼ねた外壁部材が設けられ、外壁部材とともに筐体が装置本体に対して開くと装置本体内にアクセスできる。また、特許文献2でも、筐体をその支持側を中心にして開放側を装置本体から持ち上げると、ユーザは装置本体内にアクセスできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−134227号公報
【特許文献2】特開2007−251934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した筐体の開閉動作はアシスト用バネで補助されており、特許文献1ではねじりコイルバネが、特許文献2では押しバネがそれぞれ開示されている。しかし、前者のねじりコイルバネでは、設定荷重が非常に大きくなり、組立性に難がある。また、後者の押しバネでは、長手方向に圧縮すると伸びて自由長へ戻る力が生ずるため、筐体の支持側及び開放側の各端部分を連結した水平方向には配置し難いという問題がある。
【0006】
当該問題は、上記従来の技術に、長手方向に引っ張ると縮んで自由長へ戻る力が生ずる引張りバネを用いることで解決可能である。
詳しくは、筐体の全開姿勢はその開動作に伴って起立するリンク部材で保持させ、このリンク部材の端部分と装置本体のうち筐体の支持側とを引張りバネで連結すれば、筐体の開動作時には、伸びていた引張りバネが縮んで筐体を速やかに開かせるし、筐体の閉動作時には、自由長の引張りバネが伸びて筐体をゆっくり閉じさせるからである。
【0007】
しかしながら、引張りバネを上記従来の技術に単に用いると、大きな開放角度を設けたい場合には、繰り返し疲労にも耐え得る高い許容応力のバネを設置しなければならず、製造コストの低廉化を図れないという課題がある。
すなわち、この引張りバネが固定した上記支持側に懸架されていた場合には、筐体の全開姿勢における引張りバネは自由長の状態である一方、筐体の全閉姿勢における引張りバネは、上記支持側から最も伸びた状態になり、引張りバネには、これら自由長状態と、筐体の支持側及び開放側の各端部分を連結した最も伸びた状態との伸縮に繰り返し耐えられるスペックが要求されるからである。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消し、バネへの負荷低減を図りつつ、ユーザの操作性及び組立性の両立を図る筐体開閉機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための第1の発明は、装置本体と、装置本体内を開放すべくこの装置本体に対して回動可能に支持された筐体と、その一端が筐体に対して回動する一方、その他端が筐体の支持側と筐体の開放側との間を揺動し、筐体の開放姿勢を保持可能なリンク部材と、その一端がリンク部材に連結する一方、その他端が筐体の支持側と筐体の開放側とを結んだ方向に沿って移動可能な懸架部に連結しており、これら筐体の支持側と筐体の開放側との間で伸縮して筐体の開閉動作に伴う負荷を調整する引張りバネとを具備し、引張りバネは、筐体の開動作に伴って縮んで自由長になり、この自由長になった状態にて、更なる開動作に伴って懸架部とともに筐体の支持側に向けて移動する。
【0010】
第1の発明によれば、筐体は装置本体に対して回動可能に支持されており、筐体を装置本体に対して開くと、装置本体内を外部から視ることができる。また、筐体が開いた姿勢は、リンク部材で保持される。
ここで、引張りバネはリンク部材及び懸架部にそれぞれ連結されており、上述したねじりコイルバネや押しバネを用いた構造の欠点を解消できる。詳しくは、引張りバネは、筐体の閉姿勢では伸びており、筐体の開動作に伴って縮んで筐体を速やかに開かせるため、ユーザの操作性が向上するし、非常に大きな設定荷重も不要であり、その組立性も良好になる。
【0011】
そして、筐体の開動作は引張りバネが自由長になった後にも継続されており、この自由長の引張りバネは懸架部とともに筐体の支持側に向けてスライドしている。
よって、懸架部が仮に筐体の支持側に固定されて全くスライドしない場合に比して、筐体の閉姿勢における引張りバネの伸びる量が少なくて済む。また、この引張りバネは、筐体の全開時点(荷重付勢を必要としないタイミング)ではじめて自由長になるのではなく、その全開前の時点で自由長になる。これらの結果、当該バネへの負荷が大幅に低減され、繰り返し疲労に確実に耐えることができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の構成において、引張りバネは、筐体の閉動作に伴って懸架部とともに筐体の開放側に向けて移動し、この懸架部の移動が止められた状態にて、更なる閉動作に伴ってその自由長から伸びはじめることを特徴とする。
第2の発明によれば、第1の発明の作用に加えてさらに、引張りバネは、筐体の開姿勢では自由長であり、この自由長の引張りバネや懸架部が筐体の閉動作に伴って筐体の開放側に向けてスライドする。すなわち、筐体の閉動作は引張りバネが自由長の状態で行われる。
【0013】
よって、懸架部が仮に筐体の支持側に固定されて全くスライドしない場合に比して、筐体の閉姿勢における引張りバネの伸びる量が少なくて済む。さらに、この自由長の引張りバネは、筐体の全開時点(荷重付勢を必要としないタイミング)から伸びはじめるのではなく、懸架部のスライドが止められた後に伸びはじめている。これらの結果、当該バネへの負荷が大幅に低減され、繰り返し疲労に確実に耐えることができる。
【0014】
また、引張りバネは、筐体の閉動作に伴って伸びて筐体をゆっくり閉じさせるため、ユーザの操作性が向上するし、非常に大きな設定荷重も不要であり、その組立性も良好になる。
第3の発明は、第2の発明の構成において、筐体の支持側と筐体の開放側との間には、筐体の開放側に向けて移動した懸架部に当接する懸架部用ストッパが設けられることを特徴とする。
【0015】
第3の発明によれば、第2の発明の作用に加えてさらに、引張りバネは、懸架部が懸架部用ストッパから離れている時には常に自由長であり、この状態の引張りバネは、筐体の閉動作に伴ってスライドした懸架部がストッパに当接した後に伸びはじめる。したがって、懸架部の移動を確実に止めることができるし、このストッパの位置に応じて引張りバネの最適な設計を行うことが可能になる。
【0016】
第4の発明は、第1から第3の発明の構成において、筐体は、装置本体に対して回動可能に支持されるとともに、この筐体の開閉動作に連動可能に構成され、画像形成手段を外装する外壁部材を備え、装置本体に対する外壁部材の開放角度が、装置本体に対する筐体の開放角度よりも大きいことを特徴とする。
第4の発明によれば、第1から第3の発明の作用に加えてさらに、筐体の開放角度に対して外壁部材の開放角度を大きくすれば、筐体の開放角度が限られていても、外壁部材をより大きく開放でき、装置本体内へのアクセスが容易になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、引張りバネの懸架部が移動可能であるため、このバネへの負荷低減を図るとともに、ユーザの操作性及び組立性の両立を達成できる筐体開閉機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例の複合機の外観斜視図である。
【図2】コントローラを含めた図1の複合機の概略構成図である。
【図3】図1の外壁部材の開放させた複合機の斜視図である。
【図4】図1の外壁部材の全開姿勢を示した側面図である。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】図4の全開姿勢における保持リンクの側面図である。
【図7】図4の全開姿勢からやや閉じた姿勢(全閉姿勢からやや開いた姿勢)における保持リンクの側面図である。
【図8】図1の全閉姿勢における保持リンクの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。
本実施形態の筐体開閉機構は、例えば画像形成装置に適用可能である。図1には、画像形成装置の一例であるデジタル複合機、いわゆる多機能周辺機器(Multiple Function Peripheral、以下、MFPと称する)1が右前上方から示されている。同図では、ユーザに相対するMFP1の正面と、このMFP1の右側面とが見えている。このMFP1は箱型の装置本体2を備え、この装置本体2の上側に用紙(記録材)が排出される。
【0020】
具体的には、この装置本体2の内部はその上方から外壁部材6で覆われており、図1で見える外壁部材6の表面7が排紙トレイとして機能する。
また、本実施例の装置本体2は、図1で見て表面7の左右側及び奥側が上方に向けてそれぞれ突き出ており、この装置本体2の上方には光学式のスキャナ部(画像読取手段)20が設置される。
【0021】
さらに、この図では省略するが、スキャナ部20の上側には自動原稿搬送装置(Auto Document Feeder、以下、ADFと称する)が搭載可能であり、MFP1を複写機やファクシミリ、ネットワークスキャナとして利用するときには、このADFから原稿を搬送し、その画像面はスキャナ部20にて光学的に読み取られる。
【0022】
スキャナ部20は後述のケーシング(筐体)22に収納され、このケーシング22の手前側には操作パネル28が設置されている。この操作パネル28には、ユーザの各種操作に供される複数の操作キー、文字情報や案内画像等の各種情報を表示する操作画面が設けられている。これらの操作内容は図2のコントローラ38に通知される。
【0023】
一方、装置本体2の下部にはフロントローディング式の用紙供給装置が配置される。詳しくは、この供給装置は給紙カセット4を有し(図1)、給紙カセット4は枚葉の用紙を厚み方向に積層して収納でき、また、装置本体2に対して引き出し可能に構成される。
次に、図2はMFP1のコントローラ38を含めた概略構成図である。
【0024】
当該MFP1は、ネットワークインターフェース(IF)26を介してネットワークに接続され、さらに、公衆回線にも接続されている。そして、MFP1はプログラムの命令にしたがって各種動作を実行する。
このMFP1は、例えば、印刷機能(Copy機能)、送信機能(Send機能)及び保存機能(Box機能)を有する。
【0025】
具体的には、HDD32はボックス領域34を備え、クライアントPCから送信された印刷ジョブ、スキャナ部20で読み込まれたスキャンジョブ、FAX通信部24にて受信したファクシミリジョブ等の種々のデータを逐次保存しており、Box機能を有している。
さらに、MFP1はメモリ30を備えている。このメモリ30はROMやRAM等を有しており、各種処理動作のプログラム等が格納されている。
【0026】
上述のFAX通信部24はSend機能も有し、HDD32に保存されたファクシミリジョブを相手先に向けて送信する。
また、プリントエンジン(画像形成手段)10は、原稿をスキャナ部20の画像読取位置に搬送する上記ADF、用紙を収納する給紙カセット4、各色に対応した静電潜像を形成するドラムユニット14、対応色のトナーコンテナ18のトナーを用いてトナー画像を現像する現像ユニット16、トナー画像を用紙に転写する中間転写ベルト12に接続され、HDD32に保存された印刷ジョブ等を外壁部材6の表面7に排出しており、Copy機能を有している。
【0027】
なお、これら中間転写ベルト12、ドラムユニット14、現像ユニット16やトナーコンテナ18等は装置本体2内にて給紙カセット4の上側に収納され、また、本実施例のトナーコンテナ18は、MFP1の正面側からマゼンタ用、シアン用、イエロー用及びブラック用の順に配置されている。
再び図1に戻り、本実施例のケーシング22は、その長手方向がMFP1の正面の幅よりも大きな略直方体で形成され、その上面にはコンタクトガラス23が配置される。
【0028】
このスキャナ部20の構成部品はケーシング22内にてコンタクトガラス23の下側に収納されている。詳しくは、スキャナ部20は原稿の画像データを読み取るキャリッジやCCD(いずれも図示しない)等を有し、このキャリッジはコンタクトガラス23に向けて光を照射しつつ、ケーシング22の長手方向に沿って移動する。そして、この照射された光が上記CCDで読み取られて所定の信号に変換され、レーザユニット13により原稿画像の静電潜像をドラムユニット14の感光体ドラム上に形成できる。
【0029】
また、ケーシング22はコンタクトガラス23を配置した上面と操作パネル28の下側などを覆う下面66とが対峙し(図3)、これら上面と下面66の周縁は、図1にも示されるように、前面60、背面62及び側面64に連なっている。具体的には、側面64,64はケーシング22の長手方向の両端部分で対峙する。これら側面64,64の手前端は操作パネル28を配置した前面(筐体の開放側)60に連なり、前面60は図1で見て奥側に位置する背面(筐体の支持側)62に対峙する。
【0030】
この背面62の適宜位置には読取側支点68が設けられ(図4)、ケーシング22は装置本体2に回動自在に支持されている。
また、ケーシング22の下面66において、外壁部材6の表面7に対峙した位置にはこの外壁部材6を連結する吊下機構が設けられる。具体的には、図1,3,4に示される如く、本実施例の吊下機構は、レール部材80、腕部42、及びリンクピン46からなり、まず、開放用レール80が下面66に形成されている。
【0031】
詳しくは、本実施例の開放用レール80は、図1で見て表面7の左右端にそれぞれ位置し、MFP1の上下に向けて開口した筒状本体82を有する。この開口は矩形状に形成され、MFP1の正面から背面に向けて延びている。また、筒状本体82には、各開口に連なる周壁を貫通した外側溝部83や内側溝部84が穿設されている(図1,3,4)。なお、この図4は断面図であり、図1で云えばMFP1の正面から見て右側(図3で云えば奥側)の開放用レール80が見えている。
【0032】
より具体的には、内側溝部84は筒状本体82のうち表面7に近接配置され、MFP1の正面側から背面側に向けて延びている(図1,4)。一方、外側溝部83も同じくMFP1の正面側から背面側に向けて延びているが(図3)、内側溝部84の反対側に位置しており、これら外側溝部83と内側溝部84とは略同じ高さで対峙してリンクピン46を受容する。
【0033】
このリンクピン46は頭部47や脚部48を有し、頭部47が内側溝部84に、脚部48が外側溝部83にそれぞれ配置される。
筒状本体82のうち外側溝部83の奥端近傍には、筒状本体82の周壁を貫通した孔が穿設されており、後述する保持リンク(保持部材)52の回動部53を回動自在に支持する。
【0034】
ケーシング22には装置本体2に係合するフック部材61aが設けられている(図4)。このフック部材61aは、下面66から下方に向けて突出し、前面60の近傍にて装置本体2の上記突き出た左右側に係合可能である。
さらに、図1で見て操作パネル28の右側の前面60には、操作レバー61が配置される。この操作レバー61を手前側に引くと、フック部材61aと装置本体2との係合を解除することができる。
【0035】
一方、上述した腕部42は外壁部材6の表面7に設けられている。この腕部42もまた表面7の左右端にそれぞれ形成され(図1)、筒状本体82の開口の下方から外側溝部83及び内側溝部84を有した各周壁の間に受容される。
また、腕部42には、これら外側溝部83や内側溝部84に対応した位置に貫通孔が形成されており、この貫通孔を外側溝部83と内側溝部84との間に配置し、リンクピン46でケーシング22と外壁部材6とを連結すると、外壁部材6はケーシング22に吊り下げられる。
【0036】
また、図4に示される如く、外壁部材6の奥端には外壁側支点38が設けられ、この外壁部材6も、ケーシング22と同様に、装置本体2に回動自在に支持されている。
このように、ケーシング22と外壁部材6とは、その表面7が投影される下面66にて連結しているのに対し、ケーシング22と装置本体2とは、外壁部材6よりも外側で連結している。詳しくは、外壁部材6から見て開放用レール80よりもさらに外側には保持リンク52がそれぞれ設けられている(図3,4)。
【0037】
保持リンク52の一端には回動部53が形成され(図4,5)、この回動部53が外側溝部83近傍の上述した孔に連結する。一方、保持リンク52の他端にはスライド部54が形成されており、このスライド部54は丸細ピン55を有し、この丸細ピン55が、装置本体2の上記突き出た左右側に形成された保持用レール50に沿って揺動自在に支持される。
【0038】
このスライド部54はアシスト用の引張りコイルバネ(引張りバネ)90に付勢されている(図4,5)。具体的には、後述の如く、当該引張りバネ90は保持リンク52のスライド部54と装置本体2の背面側である懸架部51とを連結し、ケーシング22の開き動作時、つまり、図1の姿勢から図3の姿勢に移る場合には、スライド部54を装置本体2の背面側に向けて速やかに移動させる。これに対し、ケーシング22の閉じ動作時、つまり、図3の姿勢から図1の姿勢に移る場合には、スライド部54を装置本体2の正面側に向けてゆっくり移動させるダンパー機能を有している。
【0039】
そして、当該MFP1では、図1の状態において、操作レバー61を手前側に引き、フック部材61aと装置本体2との係合を解除すると、ケーシング22の前面60側が装置本体2から約10mm程度浮き上がる。これは、ケーシング22が図3に示された突起49で押し上げられたからである。より具体的には、装置本体2の上記突き出た左右側にはトリガー用バネ(図示しない)がそれぞれ設けられており、突起49を上方に向けて付勢している。これにより、フック部材61aと装置本体2との係合が解除されると、突起49が当該バネの付勢力によってケーシング22の前面60側を押し上げる。
【0040】
続いて、ユーザがその手でケーシング22の前面60側を持ち上げると、開放用レール80が傾き、保持リンク52の回動部53は開放用レール80に対してMFP1の正面側から背面側に向けて回動し、スライド部54が保持用レール50に沿ってMFP1の正面側から背面側に向けて移動する。これにより、ケーシング22は読取側支点68を中心にして図4の矢印方向に開き始める。
【0041】
同時に、外壁部材6の腕部42は、開放用レール80が傾くために、そのリンクピン46が図4で見て内側溝部84の右端の位置(外側溝部83や内側溝部84の手前側の位置)から内側溝部84の左端の位置(外側溝部83や内側溝部84の奥側の位置)に向けて案内され、外壁部材6は外壁側支点38を中心にして図4の矢印方向に開く(開放角度:約60°)。
【0042】
なお、この外壁部材6の開放角度は、読取側支点68と外壁側支点38との距離を遠ざければ、さらに大きくなる。
ここで、保持用レール50にはストッパ56が設けられている(図5)。このストッパ56は、図3や図4の姿勢による保持リンク52のスライド部54に接する位置に設けられ、外壁部材6の全開位置を保持することができる。
【0043】
詳しくは、このストッパ56はストッパ用バネ58によって上方向に付勢されており(図5)、スライド部54が保持用レール50に沿ってMFP1の背面側に向けて移動し、スライド部54がストッパ56に接すると、ストッパ56はこのストッパ用バネ58の付勢力に抗して保持用レール50の下方に向けて押し込まれる。
【0044】
一方、スライド部54が、この押し込まれたストッパ56の位置からMFP1の背面側に向けてさらに移動すると、ストッパ56が当該ストッパ用バネ58の付勢力によって保持用レール50の上方に飛び出し、スライド部54を係止する(図5)。これにより、読取側支点68を中心にして図4の矢印方向に開いたケーシング22は、図3,4に示された姿勢で保持される(開放角度:約40°)。
【0045】
そして、これら図3,4に示されるように、外壁部材6の裏面8が外部から視認可能な状態になると、ユーザは、装置本体2に収納されたサービスユニット、本実施例で云えば、上述の中間転写ベルト12、ドラムユニット14、現像ユニット16やトナーコンテナ18等にアクセスでき、これらを容易に交換可能になる。
【0046】
ところで、上述した引張りバネ90は、スライド部54の移動に伴い、自由長の状態のままMFP1の正面側と背面側との間を移動できる。
詳しくは、本実施例の引張りバネ90は略水平方向に配置され、図5に示されるように、MFP1の正面側に位置する前端(一端)92と、MFP1の背面側に位置する後端(他端)93とを有し、この前端92がスライド部54に、後端93が懸架部51にそれぞれ連結している。
【0047】
本実施例の懸架部51は断面視略L字状に形成され、MFP1の背面側に立壁部分を有し、引張りバネ90の後端93はこの立壁部分に引掛けられている。また、懸架部51の下面部分は装置本体2にフリーな状態で支えられ、保持用レール50と略同等の高さに配置されている。そして、懸架部51は、ストッパ56よりもMFP1の背面側にて、MFP1の正面側と背面側との間を移動可能に構成されている。
【0048】
より具体的には、このストッパ56の近傍には、懸架部用ストッパ57が装置本体2に立設されており、この懸架部用ストッパ57が懸架部51の立壁部分とは反対側の前端部分に当接すると、懸架部51によるMFP1の正面側への移動が阻止される。これに対し、懸架部51によるMFP1の背面側への移動量は引張りバネ90の自由長の長さで決まる。
【0049】
すなわち、外壁部材6の全開位置では、図6に示されるように、保持リンク52のスライド部54がストッパ56に係止されており、懸架部51がケーシング22の最も奥側に位置し、引張りバネ90は自由長の状態にある。
ここで、ケーシング22の閉動作、つまり、ユーザがその手でケーシング22の前面60側を下方に押すと、スライド部54は、ストッパ56を下方に押し込み、保持用レール50に沿ってMFP1の背面側から正面側に向けて移動し始める。
【0050】
同時に、引張りバネ90及び懸架部51も、スライド部54に引き連れられてMFP1の背面側から正面側に向けて移動し始める。換言すれば、引張りバネ90にはバネ荷重が生じない自由長の状態のまま、懸架部51が懸架部用ストッパ57に接触するまでMFP1の正面側に向けて移動する。
次いで、外壁部材6が全開姿勢からやや閉じた姿勢、具体的には、スライド部54がストッパ56を越え、保持用レール50に沿ってMFP1の正面側に向けてさらに移動し、懸架部51が懸架部用ストッパ57に接触すると、自由長の引張りバネ90がMFP1の正面側に向けて伸びはじめる(図7)。
【0051】
その後、スライド部54がMFP1の正面側へさらに移動すると、図1で示された外壁部材6の全閉位置に達する。この閉じた姿勢では、図8に示されるように、起立していた保持リンク52が完全に倒れ、スライド部54がMFP1の最も正面側に到達する。そして、懸架部51によるMFP1の正面側への移動が阻止されてから伸びはじめた引張りバネ90は、この姿勢にて最も伸びた状態になる。
【0052】
これに対し、この図8からのケーシング22の閉動作、つまり、図1で示された外壁部材6の全閉位置にて、ユーザがケーシング22の前面60側を持ち上げると、スライド部54が保持用レール50に沿ってMFP1の背面側に向けて移動し、保持リンク52が起立しはじめる。同時に、最も伸びた状態の引張りバネ90も縮みはじめる。
【0053】
続いて、外壁部材6が全閉姿勢からやや開いた姿勢になっても、懸架部51は懸架部用ストッパ57に接触したまま、引張りバネ90は縮み続ける(図7)。そして、スライド部54がMFP1の背面側へさらに移動し、縮み続けた引張りバネ90が自由長の状態になると、懸架部51と懸架部用ストッパ57との接触が解除され、懸架部51は懸架部用ストッパ57から離れる。
【0054】
その後、スライド部54がMFP1の背面側へさらに移動すると、懸架部51は、自由長の状態の引張りバネ90に押され、保持用レール50の延長線上をMFP1の背面側に向けて移動する。そして、図6に示される如く、保持リンク52が起立し、スライド部54がストッパ56に係止されると、懸架部51は、引張りバネ90の自由長の長さ分だけ、ケーシング22の奥側に位置することになる。
【0055】
以上のように、本実施例によれば、スキャナ部20を収納したケーシング22は装置本体2に対して回動可能に支持されており、ケーシング22を装置本体2に対して開くと、外壁部材6がケーシング22の開動作に連動し、装置本体2内のプリントエンジン10を外部から視ることができる。また、ケーシング22及び外壁部材6が開いた姿勢は、保持リンク52で保持される。
【0056】
ここで、引張りバネ90は保持リンク52のスライド部54及び懸架部51にそれぞれ連結されており、上述したねじりコイルバネや押しバネを用いた構造の欠点を解消できる。詳しくは、引張りバネ90は、外壁部材6の閉姿勢では伸びており、ケーシング22の開動作に伴って縮んでケーシング22を速やかに開かせるため、ユーザの操作性が向上するし、非常に大きな設定荷重も不要であり、その組立性も良好になる。
【0057】
そして、ケーシング22の開動作は引張りバネ90が自由長になった後にも継続されており、この自由長の引張りバネ90は懸架部51とともにMFP1の背面側に向けてスライドしている。
よって、懸架部51が仮にMFP1の背面側に固定されて全くスライドしない場合に比して、外壁部材6の全閉姿勢における引張りバネ90の伸びる量が少なくて済む。また、この引張りバネ90は、外壁部材6の全開時点(荷重付勢を必要としないタイミング)ではじめて自由長になるのではなく、その全開前の時点で自由長になる。これらの結果、当該バネ90への負荷が大幅に低減され、繰り返し疲労に確実に耐えることができる。
【0058】
また、引張りバネ90は外壁部材6の全開姿勢では自由長であり、この自由長の引張りバネ90や懸架部51がケーシング22の閉動作に伴ってMFP1の正面に向けてスライドする。すなわち、ケーシング22の閉動作は引張りバネ90が自由長の状態で行われる。
よって、この場合にも、懸架部51が仮にMFP1の背面側に固定されて全くスライドしない場合に比して、外壁部材6の全閉姿勢における引張りバネ90の伸びる量が少なくて済む。さらに、この自由長の引張りバネ90は、外壁部材6の全開時点(荷重付勢を必要としないタイミング)から伸びはじめるのではなく、懸架部51のスライドが止められた後に伸びはじめている。これらの結果、当該バネ90への負荷が大幅に低減され、繰り返し疲労に確実に耐えることができる。
【0059】
また、引張りバネは、ケーシング22の閉動作に伴って伸びてケーシング22をゆっくり閉じさせるため、ユーザの操作性が向上するし、非常に大きな設定荷重も不要であり、その組立性も良好になる。
さらに、引張りバネ90は、懸架部51が懸架部用ストッパ57から離れている時には常に自由長であり、この状態の引張りバネ90は、ケーシング22の閉動作に伴ってスライドした懸架部51が懸架部用ストッパ57に当接した後に伸びはじめる。したがって、懸架部51の移動を確実に止めることができるし、この懸架部用ストッパ57の位置に応じて引張りバネ90の最適な設計を行うことが可能になる。
【0060】
さらにまた、ケーシング22の開放角度に対して外壁部材6の開放角度を大きくすれば、ケーシング22の開放角度が限られていても、外壁部材6をより大きく開放でき、装置本体2内へのアクセスが容易になる。
本発明は、上記実施例に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
【0061】
例えば、上記実施例では、ケーシング22が外壁部材6を有しており、この外壁部材6の裏面8がトナーコンテナ18等を覆っているが、必ずしもこの形態に限定されるものではなく、ケーシング22の下面66が装置本体2の外装壁をなし、トナーコンテナ18等を直接に覆っても良い。
また、上述したMFP1は画像形成装置の一例であり、本発明は、ケーシングの開放動作によって装置本体内が開かれる複写機、プリンタやファクシミリ等にも当然に適用可能である。
【0062】
そして、これらいずれの場合にも上述と同様に、バネへの負荷低減を図りつつ、ユーザの操作性及び組立性の両立を図るとの効果を奏する。
【符号の説明】
【0063】
1 MFP(筐体開閉機構)
2 装置本体
6 外壁部材
10 プリントエンジン(画像形成手段)
20 スキャナ部(画像読取手段)
22 ケーシング(筐体)
51 懸架部
52 リンク部材(保持リンク)
53 回動部(一端)
54 スライド部
55 丸細ピン(他端)
57 懸架部用ストッパ
60 前面(筐体の開放側)
62 背面(筐体の支持側)
90 アシスト用の引張りコイルバネ(引張りバネ)
92 前端(一端)
93 後端(他端)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体と、
当該装置本体内を開放すべくこの装置本体に対して回動可能に支持された筐体と、
その一端が前記筐体に対して回動する一方、その他端が前記筐体の支持側と前記筐体の開放側との間を揺動し、前記筐体の開放姿勢を保持可能なリンク部材と、
その一端が前記リンク部材に連結する一方、その他端が前記筐体の支持側と前記筐体の開放側とを結んだ方向に沿って移動可能な懸架部に連結しており、これら筐体の支持側と筐体の開放側との間で伸縮して前記筐体の開閉動作に伴う負荷を調整する引張りバネとを具備し、
前記引張りバネは、前記筐体の開動作に伴って縮んで自由長になり、この自由長になった状態にて、更なる開動作に伴って前記懸架部とともに前記筐体の支持側に向けて移動することを特徴とする筐体開閉機構。
【請求項2】
請求項1に記載の筐体開閉機構であって、
前記引張りバネは、前記筐体の閉動作に伴って前記懸架部とともに前記筐体の開放側に向けて移動し、この懸架部の移動が止められた状態にて、更なる閉動作に伴ってその自由長から伸びはじめることを特徴とする筐体開閉機構。
【請求項3】
請求項2に記載の筐体開閉機構であって、
前記筐体の支持側と前記筐体の開放側との間には、前記筐体の開放側に向けて移動した前記懸架部に当接する懸架部用ストッパが設けられることを特徴とする筐体開閉機構。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の筐体開閉機構であって、
前記筐体は、前記装置本体に対して回動可能に支持されるとともに、この筐体の開閉動作に連動可能に構成され、前記画像形成手段を外装する外壁部材を備え、
前記装置本体に対する前記外壁部材の開放角度が、前記装置本体に対する前記筐体の開放角度よりも大きいことを特徴とする筐体開閉機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−68974(P2013−68974A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−2420(P2013−2420)
【出願日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【分割の表示】特願2010−126635(P2010−126635)の分割
【原出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】