説明

筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置

【課題】 アイドル運転時においてアイドル安定性を確保でき且つ燃費の悪化を防止可能な筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、燃料噴射制御手段は、アイドル運転時(S10)、所定空燃比以下の空燃比で運転するときには(S18)、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射(2段混合運転)するようにした(S20)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置に係り、詳しくは、筒内噴射型火花点火式4サイクル内燃機関のアイドル運転時における燃料噴射制御技術に関する。
【0002】
【関連する背景技術】燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有した筒内噴射型火花点火式内燃機関では、アイドル運転時において、通常は空燃比がリーン空燃比となるよう燃料を圧縮工程中に噴射するようにしてアイドル安定性と燃費の向上を図っている。一方、アイドル運転時であっても、内燃機関(エンジン)が冷態にあるとき、エンジンの駆動力によってエアコンのコンプレッサが作動させられるとき或いはリーン空燃比運転が所定期間以上継続したとき等にあっては、空燃比をリッチ空燃比寄りに設定するとともに燃料を吸気行程中に噴射して均一混合燃焼を行うようにし、これにより、エンジンの暖機、出力の向上或いはブレーキブースタの負圧確保等の要求を満たすようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のように空燃比をリッチ空燃比寄りに設定し、均一混合燃焼を行うようにしても、アイドル運転時のように燃料噴射量が少なく且つ吸入空気量が少ないような運転領域では、筒内流動が小さいことも相俟って十分な混合気が生成されず、アイドル安定性が確保されないという問題がある。
【0004】特に、アイドル運転時において排気清浄化のために排気還流(内部EGRを含むEGR)を行う場合があるが、このような場合には新気量が少なくなるため、上記問題は顕著なものとなる。このようなことから、通常、アイドル運転時において暖機等の要求がある場合やEGRを行う場合には、アイドル回転速度を高く設定し、アイドル安定性を確保するようにしている。
【0005】しかしながら、このようにアイドル回転速度を高く設定するようにすると、アイドル運転であるにも拘わらずエンジン回転速度が高くなるために、アイドルフィーリングが悪化したり、或いは、エンジン回転速度を上昇させる分だけ燃料噴射量が増加するために燃費が悪化するという新たな問題が生じ好ましいことではない。
【0006】本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、アイドル運転時においてアイドル安定性を確保でき且つ燃費の悪化を防止可能な筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、請求項1の発明では、燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、該燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段を備えた筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、所定空燃比以下の空燃比で運転するときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射することを特徴としている。
【0008】即ち、アイドル運転時、通常は空燃比がリーン空燃比となるようにして燃料が圧縮行程で噴射されてアイドル安定性と燃費の向上が図られるが、暖機時等のように所定空燃比以下の空燃比(例えば、リッチ空燃比)で内燃機関を運転するときには、燃料が吸気行程と圧縮行程とに分割して噴射されることになり、全体として比較的濃い空燃比であっても、圧縮行程で噴射した燃料によって点火栓近傍の混合気が過度にリッチ化されてしまうことが防止される。
【0009】これにより、アイドル運転時、所定空燃比以下の空燃比(例えば、リッチ空燃比)で内燃機関を運転するときであっても、圧縮行程での燃料噴射を継続することで安定した層状燃焼が実現され、アイドル回転速度を低く維持することが可能となり、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性が確保される。また、請求項2の発明では、燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、該燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段を備えた筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、内燃機関が冷態にあるとき、内燃機関の駆動力により作動するエアコンを作動させたとき及びリーン空燃比運転が所定期間以上継続したときの少なくともいずれかのときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射することを特徴としている。
【0010】即ち、アイドル運転時、通常は空燃比がリーン空燃比となるようにして燃料が圧縮行程で噴射されてアイドル安定性と燃費の向上が図られるが、内燃機関が冷態にあるとき、内燃機関の駆動力により作動するエアコンを作動させたとき或いはリーン空燃比運転が所定期間以上継続したときのようにリーン空燃比が制限されるときには、燃料が吸気行程と圧縮行程とに分割して噴射されることになり、全体として比較的濃い空燃比であっても、圧縮行程で噴射した燃料によって点火栓近傍の混合気が過度にリッチ化されることが抑制される。
【0011】これにより、アイドル運転時、リーン空燃比が制限されるときであっても、圧縮行程での燃料噴射を継続することで安定した層状燃焼が実現され、アイドル回転速度を低く維持することが可能となり、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性が確保される。また、請求項3の発明では、燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、該燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段を備えた筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、内燃機関からの排気の一部を吸気系に還流させる排気還流手段を備え、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、前記排気還流手段により排気の一部が吸気系に還流されるときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射することを特徴としている。
【0012】即ち、アイドル運転時、通常は空燃比がリーン空燃比となるようにして燃料が圧縮行程で噴射されてアイドル安定性と燃費の向上が図られるが、排気の一部(EGRガス)が吸気系に還流され、相対的に新気量が少なくなって全体として空燃比が濃くなったときには、燃料が吸気行程と圧縮行程とに分割して噴射されることになり、圧縮行程で噴射した燃料によって点火栓近傍の混合気が過度にリッチ化されてしまうことが防止される。
【0013】これにより、アイドル運転時、排気の一部(EGRガス)が吸気系に還流されて空燃比が濃くなるときであっても、圧縮行程での燃料噴射を継続することで安定した層状燃焼が実現され、アイドル回転速度を低く維持することが可能となり、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性が良好に確保される。また、請求項4の発明では、前記分割噴射の吸気行程と圧縮行程との分割比率は略6対4であることを特徴としている。
【0014】即ち、発明者の実験によれば、筒内噴射型火花点火式内燃機関の場合、圧縮行程での燃料噴射量を少なめに抑え、吸気行程と圧縮行程での分割噴射の分割比率を略6対4にするとアイドル回転の変動を最小限に抑えられることが分かり(図4参照)、故に、吸気行程と圧縮行程での分割噴射の分割比率を略6対4に設定することで、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性が良好に確保される。
【0015】また、請求項5の発明では、前記分割噴射の分割比率は内燃機関の回転変動に応じて補正されることを特徴としている。従って、吸気行程と圧縮行程での分割噴射の分割比率が常に適正なものとされてアイドル回転の変動が効率よく最小限に抑えられ、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性が良好に確保される。
【0016】また、請求項6の発明では、内燃機関は排気通路に排気浄化用の触媒コンバータを有し、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、前記触媒コンバータの昇温が要求されるときには、前記分割噴射に優先して、空燃比が理論空燃比近傍となるよう燃料を圧縮行程中に噴射することを特徴としている。即ち、アイドル運転時、触媒コンバータが未だ活性状態になく、触媒コンバータの昇温が要求されるときには、分割噴射に妨げられることなく触媒コンバータの昇温が優先実施されることになり、空燃比が理論空燃比近傍となるよう燃料が圧縮行程中にのみ噴射されてCOと酸素とが同時に良好に排気通路に排出され、これらCOと酸素との反応熱によって触媒コンバータの早期活性化が図られる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。図1を参照すると、車両に搭載された本発明に係る筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置の概略構成図が示されており、以下、当該制御装置の構成を説明する。
【0018】内燃機関(以下、エンジン)1としては、例えば、燃料噴射モードを吸気行程噴射モード或いは圧縮行程噴射モードに切換えることで吸気行程での燃料噴射(吸気行程噴射)とともに圧縮行程での燃料噴射(圧縮行程噴射)を実施可能な筒内噴射型火花点火式4サイクル4気筒ガソリンエンジンが採用される。この筒内噴射型のエンジン1は、上記燃料噴射モードの切換えと空燃比制御とにより、容易にして理論空燃比(ストイキオ)での運転やリッチ空燃比での運転(リッチ空燃比運転)の他、リーン空燃比での運転(リーン空燃比運転)を実現可能である。
【0019】同図に示すように、エンジン1のシリンダヘッド2には、各気筒毎に点火プラグ4とともに電磁式のインジェクタ(燃料噴射弁)6が取り付けられており、これにより、燃料を燃焼室内に直接噴射可能である。点火プラグ4には高電圧を出力する点火コイル8が接続されている。また、インジェクタ6には、燃料パイプ7を介して燃料タンクを擁した燃料供給装置(図示せず)が接続されている。より詳しくは、燃料供給装置には、低圧燃料ポンプと高圧燃料ポンプとが設けられており、これにより、燃料タンク内の燃料をインジェクタ6に対し低燃圧或いは高燃圧で供給し、該燃料をインジェクタ6から燃焼室内に向けて所定の燃圧で噴射可能である。
【0020】シリンダヘッド2には、各気筒毎に略直立方向に吸気ポート9が形成されており、各吸気ポート9の燃焼室5側には、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト12のカム12aに倣って開閉作動し、各吸気ポート9と燃焼室5との連通と遮断とを行う吸気弁11がそれぞれ設けられている。そして、各吸気ポート9には吸気マニホールド10の一端がそれぞれ接続されており、吸気マニホールド10には吸入空気量を調節する電磁式のスロットル弁17が設けられている。スロットル弁17近傍には、スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)18が設けられており、TPS18にはアイドルスイッチ(アイドルSW)が併設されている。
【0021】さらに、吸気マニホールド10のスロットル弁17よりも上流部分には、吸入空気量を検出するため、圧力依存型のカルマン渦式のエアフローセンサ19が設けられている。また、シリンダヘッド2には、各気筒毎に略水平方向に排気ポート13が形成されており、各排気ポート13の燃焼室5側には、エンジン回転に応じて回転するカムシャフト16のカム16aに倣って開閉作動し、各排気ポート13と燃焼室5との連通と遮断とを行う排気弁15がそれぞれ設けられている。そして、各排気ポート13には排気マニホールド14の一端がそれぞれ接続されている。
【0022】排気マニホールド14の他端には排気管20が接続されており、排気管20には、ストイキオ近傍においてHC、CO、NOxを高効率で浄化可能な三元触媒コンバータ30が介装されている。また、排気管20の三元触媒コンバータ30の直上流部分には、排気中の酸素濃度ひいては排気空燃比を検出するO2センサ22が設けられており、三元触媒コンバータ30には触媒温度を検出する高温センサ32が設けられている。
【0023】また、シリンダヘッド2には、カム12aやカム16aを進角或いは遅角操作することで吸気弁11や排気弁15の開閉時期を可変させる可変バルブタイミング機構40が設けられている。さらに、エンジン1のクランクシャフト3には、エアコンディショナ(図示せず)の冷媒を圧縮するためのエアコンコンプレッサ50が駆動ベルト52を介して接続されている。
【0024】ECU60は、入出力装置、記憶装置、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えており、当該ECU60により、エンジン1の総合的な制御が行われる。ECU60の入力側には、上記TPS18、エアフローセンサ19、O2センサ22、高温センサ32等の他、エンジン1の冷却水温度Twを検出する水温センサ62やクランク角を検出するクランク角センサ64等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。なお、クランク角センサ64からはエンジン回転速度Neが検出される。
【0025】一方、ECU60の出力側には、上記インジェクタ6、点火コイル8、スロットル弁17、可変バルブタイミング機構40、エアコンコンプレッサ50等の各種出力デバイスが接続されており、インジェクタ6、点火コイル8、スロットル弁17には、上記各種検出情報に基づき選択された燃料噴射モード及び各種センサ類からの検出情報に応じて求められた燃焼空燃比等に基づいて燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、スロットル開度の各信号がそれぞれ出力される。これにより、インジェクタ6から適正量の燃料が適正なタイミングで噴射され(燃料噴射制御手段)、点火プラグ4により適正なタイミングで火花点火が実施され、スロットル開度が適正な開度に制御される。また、可変バルブタイミング機構40に適正なバルブタイミング指令が供給され、エアコンコンプレッサ50にエアコンスイッチ(図示せず)の操作等に応じてエアコン作動指令が供給される。
【0026】以下、このように構成された本発明に係る筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置の作用を説明する。図2を参照すると、本発明に係るアイドル運転制御の制御ルーチンがフローチャートで示されており、以下同フローチャートに基づき説明する。ステップS10では、アイドル条件が成立したか否かを判別する。ここでは、アイドルSWからの情報に基づき、アイドルSWがオン(アイドル運転状態)か否かを検出する。判別結果が偽(No)でアイドル条件が成立していない場合には何もせずに当該ルーチンを抜ける。一方、判別結果が真(Yes)でアイドル条件が成立し、エンジン1がアイドル運転状態にあると判定された場合には、次にステップS12に進む。
【0027】ステップS12では、エンジン1の運転状態に応じて燃焼空燃比(目標A/F)を設定する。通常、当該筒内噴射型のエンジン1では、エンジン1がアイドル運転状態にあるときには、アイドル安定性及び燃費の向上を図るべく圧縮行程噴射を行うようにしており、目標A/FはリーンA/Fに設定される。一方、水温センサ62からの情報に基づきエンジン1が冷態状態にある場合には、エンジン1を暖機すべく目標A/Fはリーン化が制限されてリッチA/F寄りに設定される。また、ECU60からの指令によりエアコンコンプレッサ50が作動している場合にも、エアコンコンプレッサ50の負荷に対応して出力トルクを確保すべく目標A/Fはリーン化が制限されてリッチA/F寄りに設定される。さらに、目標A/FがリーンA/Fであるときには、スロットル弁17の開度が大きく開弁され、吸気負圧が大気圧に近づいて補助ブレーキ装置であるブレーキブースタ(図示せず)の負圧が確保されないことから、目標A/FがリーンA/Fである期間が所定期間以上継続したときのようにブレーキブースタの補助力が不足する場合にも、目標A/Fはリーン化が制限されてリッチA/F寄りに設定され、スロットル弁17の開度が小さくされる。
【0028】目標A/Fが設定されたら、ステップS14において、排気昇温の要求があるか否かを判別する。即ち、三元触媒コンバータ30は活性温度(例えば、300℃)にならないと十分に浄化性能を発揮できないため、三元触媒コンバータ30が活性温度に達していない場合には排気昇温により三元触媒コンバータ30の活性化を促進するようにしており、ここでは三元触媒コンバータ30の活性化のために排気昇温が必要か否かを判別する。具体的には、高温センサ32からの触媒温度情報に基づき、触媒温度が活性温度(例えば、300℃)未満であるか否かを判別する。
【0029】ステップS14の判別結果が偽(No)で、三元触媒コンバータ30の温度が活性温度(例えば、300℃)以上であり、排気昇温の必要がないと判定された場合には、次にステップS16に進む。ステップS16では、上記のように設定した目標A/Fが所定空燃比(例えば、値18)以下であるか否かを判別する。ここに、所定空燃比(例えば、値18)は、圧縮行程噴射による燃焼限界(下限値)を示している。判別結果が偽(No)で、目標A/Fが所定空燃比(例えば、値18)よりも大きいと判定された場合には、圧縮行程噴射による運転が可能であるので、ステップS18に進み、圧縮行程噴射にて燃料を噴射する圧縮リーン運転を行う。つまり、通常のアイドル運転を行う。一方、判別結果が真(Yes)で、目標A/Fが所定空燃比(例えば、値18)以下と判定された場合には、ステップS20に進む。
【0030】なお、上述したエンジン1を暖機するときや、エアコンコンプレッサ50を作動させたとき、或いは目標A/FがリーンA/Fである期間が所定期間以上継続したときのようにブレーキブースタの補助力が不足するときには、通常は目標A/Fは所定空燃比(例えば、値18)以下の設定となるため、当該A/F判別に代えて、エンジン1が暖機中であるか否か、エアコンコンプレッサ50が作動中であるか否か或いは目標A/FがリーンA/Fである期間が所定期間以上継続したか否かを判別するようにしてもよい。
【0031】ステップS20では、目標A/Fが所定空燃比(例えば、値18)以下であることを受けて2段混合運転を行う。つまり、燃料噴射時期を吸気行程と圧縮行程とに分け、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射を行うようにし、燃料と空気とが2段階で混合するようにする。このように燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射を行うようにすると、圧縮行程噴射だけでは燃焼限界領域にあって点火プラグ4周りの混合気が過度にリッチ化して燃焼が成立しないような場合であっても、圧縮行程で噴射できない分を吸気行程で噴射することで、通常のアイドル運転時と同様に圧縮行程噴射を実施することが可能となる。
【0032】即ち、圧縮行程で燃料を噴射すると燃料は層状燃焼することになるのであるが、この層状燃焼は吸気行程噴射による均一混合に比べて燃料量が少ない場合であっても安定した燃焼を実現可能であるため、吸気行程噴射とともに圧縮行程噴射を実施することにより、吸気行程噴射のみによって均一混合だけを行う場合よりも安定したアイドル運転を実現することが可能となる。
【0033】これにより、吸気行程噴射のみによって均一混合だけを行う場合にはアイドル回転速度の安定化のために目標アイドル回転速度を高く設定せざるを得ず、その分だけ余計に燃料を消費することになるのであるが、そのような余計な燃料を供給しなくてもよくなり、目標アイドル回転速度を比較的低く抑えることで燃費の悪化が防止される。
【0034】ここに、2段混合運転を行う場合、吸気行程と圧縮行程でそれぞれ噴射する燃料の分割比率は、吸気行程噴射6に対し圧縮行程噴射4(6:4)近傍の比率として圧縮行程での燃料噴射量を少なめに抑えるのがよい。つまり、図4を参照すると吸気行程と圧縮行程での分割噴射の分割比率とアイドル回転の変動との関係が実測値に基づき示されているが、同図に示すように、目標A/Fによらず吸気行程と圧縮行程との分割比率が略6:4でアイドル回転の変動が最小限に抑えられており、これより吸気行程と圧縮行程での分割噴射の分割比率をここでは略6:4に設定する。
【0035】これにより、エンジン1が冷態状態にある場合、エアコンコンプレッサ50が作動している場合或いは目標A/FがリーンA/Fである期間が所定期間以上継続してブレーキブースタの補助力が不足する場合のように、リーンA/Fが制限されて目標A/FがリッチA/F寄りに設定されるような場合であっても、上記2段混合運転を行うことにより、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を良好に確保することができる。
【0036】なお、このように2段混合運転を行うと、目標アイドル回転速度が比較的低く抑えられることになるが、このときの目標A/Fは所定空燃比(例えば、値18)以下であるので、吸気行程で噴射した燃料の燃焼と合わせると発生する熱量は圧縮リーン運転時に比べれば多く、故に、エンジン1の冷態時にあってはエンジン1の暖機を十分に実施することができ、エアコンコンプレッサ50の作動時にあっては十分な出力トルクを確保することができる。この場合、発生する熱量や出力トルクが足りないような場合には、アイドル安定性を損なわない範囲で吸気行程噴射する燃料の比率を適宜増加させてやればよい。
【0037】2段混合運転を実施したら、次にステップS22において、クランク角センサ64からの情報に基づきエンジン回転速度Neの回転変動ΔNeが所定値X1より大であるか否かを判別する。つまり、上記のように吸気行程と圧縮行程との分割比率を略6:4として燃料噴射を行ったにも拘わらずアイドル回転が大きく変動していないか否かを判別する。判別結果が偽(No)の場合には何もせず当該ルーチンを抜ける。一方、判別結果が真(Yes)、即ち回転変動ΔNeが所定値X1より大であってアイドル回転が大きく変動している場合には、何らかの要因によって吸気行程と圧縮行程との分割比率が適正でない状況と考えられ、ステップS24に進む。
【0038】ステップS24では、アイドル回転の変動を抑えるべく吸気行程と圧縮行程との分割比率を変更する。この分割比率の変更は、ステップS22の判別において回転変動ΔNeが所定値X1以下となり、判別結果が偽(No)となってアイドル回転が安定するまで実施される。これにより、吸気行程と圧縮行程との分割比率が常に適正なものとなり、アイドル回転の変動が効率よく常に最小限に抑えられる。なお、ステップS22で変更された分割比率は学習値として記憶されて以降使用される。
【0039】ところで、上記ステップS14の判別結果が真(Yes)で、三元触媒コンバータ30の温度が活性温度(例えば、300℃)未満であり、排気昇温の要求があると判定された場合には、ステップS26に進み、例え目標A/Fが所定空燃比(例えば、値18)以下で2段混合運転を実施すべき状況であっても、当該2段混合運転に優先して排気昇温を実施する。ここでは、圧縮行程噴射を行うとともに目標A/FをストイキオよりもややリーンA/F寄りのスライトリーンA/F(S/L空燃比、理論空燃比近傍)として圧縮S/L運転を実施する。
【0040】圧縮S/L運転を行うと、点火プラグ4周りの空燃比が局所的に濃くなるためにCOが多く生起され、当該COと燃焼室5の周縁の酸素とが燃焼室5内や排気ポート13内で反応して発熱することになり、これにより排気昇温が実現される。これにより、2段混合運転に妨げられることなく三元触媒コンバータ30の早期活性化が図られる。
【0041】次に、他の実施例について説明する。なお、当該他の実施例では上記図2のフローチャートに対してステップS16をステップS16’に変えただけであり、ここでは上記図2のフローチャートと異なる部分についてのみ説明する。ステップS14の判別結果が偽(No)で排気昇温の要求がないと判定された場合には、ステップS16’において排気弁15の閉時期が可変バルブタイミング機構40によって遅角側に設定されているか否かを判別する。
【0042】可変バルブタイミング機構40によって排気弁15の閉時期が排気上死点よりも遅角側に設定されていると、吸気行程においても排気弁15が開弁している期間が長くなり、一旦排気された排ガスが燃焼室5内に返戻されて内部EGRガスとして機能することになる(排気還流手段)。従って、ここでは、排気弁15の閉時期が排気上死点よりも遅角側に設定されているか否かを判別することにより、内部EGRガスが燃焼室5内(吸気系)に導入されているか否かを判別する。
【0043】ステップS16’の判別結果が偽(No)で内部EGRガスが導入されていないときには、何もせずに当該ルーチンを抜ける。一方、ステップS16’の判別結果が真(Yes)で、内部EGRガスが導入されていると判定された場合には、ステップS20に進み、上記同様に2段混合運転を実施する。つまり、内部EGRガスが導入されることになると、燃焼室5内に吸入される新気量が相対的に少なくなるために全体としてA/Fが濃くなることが知られており、故に、内部EGRガスが導入されている場合においても2段混合運転を実施するようにする。これにより、内部EGRガスが導入されている場合であっても、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を良好に確保することができる。
【0044】なお、ここでは排気弁15の閉時期を遅角側に設定して内部EGRガスを導入する場合を説明したが、内部EGRガスの導入は吸気弁11の開時期を排気上死点よりも進角側に設定して内部EGRガスを導入するものであってもよく、また、内部EGRに限られず外部EGRを導入するものであってもよい。以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0045】例えば、上記実施形態では、排気昇温を圧縮S/L運転により行うこととしたが(ステップS18)、目標A/Fをストイキオとする圧縮ストイキオ運転を行うようにしてもよいし、ややリッチA/F寄りのスライトリッチA/Fとする圧縮S/R運転を行うようにしてもよい。また、排気昇温のために、点火時期リタードを行ってもよいし、吸気行程または圧縮行程で主噴射を行った後の膨張行程中期以降に副噴射を行う2段燃焼運転を行うようにしてもよい。
【0046】また、上記実施形態では、2段混合運転を行うような状況として、エンジン1を暖機するとき、エアコンコンプレッサ50を作動させるとき及び目標A/FがリーンA/Fである期間が所定期間以上継続してブレーキブースタの補助力が不足するときを例に説明したが、アイドル運転時においてエンジン1の負荷が上昇するような状況であれば本発明を適用可能である。
【0047】また、例えば、リーン雰囲気でNOxを吸蔵するとともにリッチ雰囲気で当該吸蔵したNOxを放出還元(NOxパージ)するタイプの吸蔵型NOx触媒コンバータを排気管20に備えるシステムでは、NOxパージを行う際にはA/FをリッチA/Fに設定するため、アイドル運転時に当該NOxパージが行われるような場合において上記2段混合を実施するようにしてもよい。
【0048】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明の請求項1の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置によれば、アイドル運転時、暖機時等のように所定空燃比以下の空燃比(例えば、リッチ空燃比)で内燃機関を運転するときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分割して噴射するようにしたので、全体として比較的濃い空燃比であっても、圧縮行程で噴射した燃料によって点火栓近傍の混合気を過度にリッチ化させないようにでき、圧縮行程での燃料噴射を継続することで安定した層状燃焼を実現してアイドル回転速度を低く維持することができ、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を確保することができる。
【0049】また、請求項2の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置によれば、アイドル運転時、内燃機関が冷態にあるとき、内燃機関の駆動力により作動するエアコンを作動させたとき或いはリーン空燃比運転が所定期間以上継続したときのようにリーン空燃比が制限されるときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分割して噴射するようにしたので、全体として比較的濃い空燃比であっても、圧縮行程で噴射した燃料によって点火栓近傍の混合気を過度にリッチ化させないようにでき、圧縮行程での燃料噴射を継続することで安定した層状燃焼を実現してアイドル回転速度を低く維持することができ、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を確保することができる。
【0050】また、請求項3の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置によれば、アイドル運転時、排気の一部(EGRガス)が吸気系に還流され、相対的に新気量が少なくなって全体として空燃比が濃くなったときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分割して噴射するようにしたので、全体として比較的濃い空燃比であっても、圧縮行程で噴射した燃料によって点火栓近傍の混合気を過度にリッチ化させないようにでき、圧縮行程での燃料噴射を継続することで安定した層状燃焼を実現してアイドル回転速度を低く維持することができ、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を確保することができる。
【0051】また、請求項4の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置によれば、実験結果に基づき、分割噴射の吸気行程と圧縮行程との分割比率を略6対4として圧縮行程での燃料噴射量を少なめに抑えるようにしたので、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を良好に確保することができる。また、請求項5の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置によれば、分割噴射の分割比率を内燃機関の回転変動に応じて補正するようにしたので、分割噴射の吸気行程と圧縮行程との分割比率を常に適正なものとしてアイドル回転の変動を効率よく最小限に抑えるようにでき、燃費の悪化を防止しながらアイドル安定性を良好に確保することができる。
【0052】また、請求項6の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置によれば、アイドル運転時、触媒コンバータの昇温が要求されるときには、分割噴射に優先して、空燃比が理論空燃比近傍となるよう燃料を圧縮行程中に噴射するようにしたので、分割噴射に妨げられることもなくCOと酸素とを同時に良好に排気通路に排出でき、これらCOと酸素との反応熱によって触媒コンバータの早期活性化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車両に搭載された本発明に係る筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係るアイドル運転制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】本発明の他の実施例に係るアイドル運転制御の制御ルーチンを示すフローチャートの一部である。
【図4】吸気行程と圧縮行程での分割噴射の分割比率とアイドル回転の変動との関係を実測値に基づき示す図である。
【符号の説明】
1 エンジン(筒内噴射型火花点火式内燃機関)
5 燃焼室
6 燃料噴射弁
11 吸気弁
14 排気マニホールド
15 排気弁
18 スロットルポジションセンサ(TPS)
30 三元触媒コンバータ
40 可変バルブタイミング機構
50 エアコンコンプレッサ
60 電子コントロールユニット(ECU)
62 水温センサ
64 クランク角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、該燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段を備えた筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、所定空燃比以下の空燃比で運転するときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射することを特徴とする筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項2】 燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、該燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段を備えた筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、内燃機関が冷態にあるとき、内燃機関の駆動力により作動するエアコンを作動させたとき及びリーン空燃比運転が所定期間以上継続したときの少なくともいずれかのときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射することを特徴とする筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項3】 燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、該燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御手段を備えた筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置において、内燃機関からの排気の一部を吸気系に還流させる排気還流手段を備え、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、前記排気還流手段により排気の一部が吸気系に還流されるときには、燃料を吸気行程と圧縮行程とに分けて分割噴射することを特徴とする筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項4】 前記分割噴射の吸気行程と圧縮行程との分割比率は略6対4であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか記載の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項5】 前記分割噴射の分割比率は内燃機関の回転変動に応じて補正されることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか記載の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項6】 内燃機関は排気通路に排気浄化用の触媒コンバータを有し、前記燃料噴射制御手段は、アイドル運転時、前記触媒コンバータの昇温が要求されるときには、前記分割噴射に優先して、空燃比が理論空燃比近傍となるよう燃料を圧縮行程中に噴射することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか記載の筒内噴射型火花点火式内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2003−328820(P2003−328820A)
【公開日】平成15年11月19日(2003.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−139053(P2002−139053)
【出願日】平成14年5月14日(2002.5.14)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】