説明

筒形防振装置

【課題】ストッパゴムのゴムボリュームを確保しつつ、且つインナ軸部材とアウタ筒部材の形状変更を要することなく、ストッパゴムがインナ軸部材とその装着対象部材との間に噛み込まれるのを防ぐことができる、新規な構造の筒形防振装置を提供すること。
【解決手段】ストッパゴム34のストッパ部24からの突出高さ:Hが、インナ軸部材12の軸方向一方の端面20の外周縁部と、アウタ筒部材14のストッパ部24の内周端部との離隔距離:Dよりも大きくされていると共に、ストッパゴム34の突出方向の弾性主軸:Lが、軸方向に対してストッパゴム34の先端側に向かって外周側に傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナ軸部材とアウタ筒部材を本体ゴム弾性体によって弾性連結した構造を有する筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を防振連結する防振装置の一種として、筒形防振装置が知られている。この筒形防振装置は、インナ軸部材と、インナ軸部材に対して所定の隙間をもって外挿されるアウタ筒部材とを、筒状の本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結した構造を有している。例えば、特開昭60−14627号公報(特許文献1)が、それである。
【0003】
ところで、筒形防振装置では、軸方向でのばね特性を調節したり、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向での相対変位量を制限する等の目的で、ストッパゴムが設けられる場合がある。即ち、特許文献1にも示されているように、アウタ筒部材の軸方向一方の端部に外周側に向かって突出するフランジ部が設けられて、そのフランジ部の軸方向外側の端面にストッパゴムが配設されることにより、インナ軸部材が取り付けられる装着対象部材(車両ボデー等)とフランジ部とが、ストッパゴムを介して緩衝的に当接するようになっている。特に、軸方向のばね特性のチューニングや、当接打音の回避等を目的として、ストッパゴムは、筒形防振装置の車両への装着時にフランジ部と車両ボデーの間で軸方向に挟み込まれるようになっている。
【0004】
ところが、このストッパゴムは、ばね特性や耐久性等の要求性能を満たすために、軸方向での突出高さがある程度大きく確保されることが望ましく、車両ボデーに押し当てられると、倒れ込むように弾性変形する場合がある。その結果、倒れ込んだストッパゴムの先端部分が、インナ軸部材の軸方向端面と車両ボデーとの間に噛み込まれて、車両への装着不良が生じたり、軸方向のばね特性や本体ゴム弾性体の耐久性等に悪影響を及ぼすおそれがあった。
【0005】
なお、特許文献1に示された構造のように、インナ軸部材とアウタ筒部材の距離を、ストッパゴムが弾性変形しても噛み込まない程度に大きく確保することによって、このようなストッパゴムの噛込みを回避することは可能であるが、その場合には、インナ軸部材の車両ボデーへの締結面積を充分に確保しようとすると、アウタ筒部材の大径化を避け難い。しかしながら、アウタ筒部材のサイズは、車両側の取付構造(嵌着孔等)の形状によって制限される場合が多く、小型軽量化が高度に要求される昨今の車両構造によってアウタ筒部材の大径化が許容されない場合には、ストッパゴムの噛込みを回避する別の解決手段が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−14627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ストッパゴムのゴムボリュームを確保し、且つインナ軸部材やアウタ筒部材の形状変更を要することなく、ストッパゴムがインナ軸部材とその装着対象部材との間に噛み込まれるのを防ぐことができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、インナ軸部材と該インナ軸部材に外挿されるアウタ筒部材が筒状の本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該アウタ筒部材の軸方向一方の端部には外周側に突出するストッパ部が設けられており、該ストッパ部には軸方向外側に突出するストッパゴムが固着されている筒形防振装置において、前記ストッパゴムの前記ストッパ部からの突出高さが、前記インナ軸部材の軸方向一方の端面の外周縁部と、前記アウタ筒部材の該ストッパ部の内周端部との離隔距離よりも大きくされていると共に、該ストッパゴムの突出方向の弾性主軸が、軸方向に対して該ストッパゴムの先端側に向かって外周側に傾斜していることを、特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、ストッパゴムの弾性主軸が、軸方向に対して先端側に向かって外周側に傾斜していることから、ストッパゴムに対するストッパ荷重(インナ軸部材側に取り付けられた他部材と、アウタ筒部材のストッパ部とのストッパゴムを介した当接荷重)の作用によって、ストッパゴムが内周側に倒れ変形するのが防止される。それ故、ストッパゴムがインナ軸部材の軸方向一方の端面上に倒れ込んで他部材との間で噛み込まれるのを防止することができて、インナ軸部材の取付け強度が確保されると共に、要求されるばね特性や耐久性を有効に実現することができる。
【0010】
また、ストッパゴムがインナ軸部材側に倒れ込むことによる不具合(噛込み)の発生が、ストッパゴムの形状によって防止されていることから、アウタ筒部材におけるストッパゴムの支持部分(ストッパ部)を、噛込み防止のためにインナ軸部材から遠ざける必要がない。それ故、インナ軸部材の軸方向端面の面積を大きく確保して、他部材に対する有効な固定力を得ることができると共に、アウタ筒部材の大径化による筒形防振装置の大型化が回避されて、筒形防振装置を軽量且つコンパクトに実現することができる。
【0011】
また、ストッパゴムの高さ寸法を大きく設定することも可能とされることから、ストッパゴムのゴムボリューム(自由表面)が大きく確保され得て、ストッパゴムの耐久性の向上や、軸方向のばね特性のチューニング自由度を大きくすることができる。それ故、防振特性や耐久性等の要求性能を高度に満たすことが可能となる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の筒形防振装置において、前記ストッパゴムが軸方向のストッパ荷重の入力によって圧縮変形される圧縮ゴムとされている。
【0013】
第2の態様によれば、ストッパゴムが圧縮ゴムとされていることにより、ストッパ荷重の入力に対してストッパゴムの外周側への倒れ変形(突出方向の弾性主軸の傾動を伴うストッパゴムの変形)が低減されて、圧縮応力が支配的に作用することから、耐久性の向上が図られる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された筒形防振装置において、前記ストッパゴムの突出方向の弾性主軸の延長線上に前記ストッパ部が位置しているものである。
【0015】
第3の態様によれば、ストッパゴムに先端側から入力されるストッパ荷重は、弾性主軸方向の分力がストッパ部によって支持されることから、ストッパゴムの剪断変形が低減されて、圧縮変形が支配的になる。それ故、ストッパゴムの耐久性が確保されて、目的とする防振性能やストッパ作用を安定して得ることができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記アウタ筒部材の軸方向一方の端部には、軸方向外側に向かって縮径するテーパ部が設けられており、該テーパ部の軸方向外側の端部に前記ストッパ部が設けられているものである。
【0017】
第4の態様によれば、アウタ筒部材の軸方向一方の端部がテーパ部によって縮径されていることによって、ストッパ部の外周側の端部を軸直角方向外側に突出させることなく、ストッパ部を大きくすることができる。それ故、アウタ筒部材の大型化を要することなく、ストッパ部に固着されるストッパゴムのゴムボリュームが大きく確保されて、耐久性の向上が実現される。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ軸部材が装着対象部材に取り付けられた装着状態で前記ストッパゴムが該装着対象部材に当接されているものである。
【0019】
第5の態様のような、筒形防振装置の装着状態でストッパゴムが装着対象部材に当接されている場合にも、ストッパゴムの装着対象部材への当接によるインナ軸部材側への倒れ変形が防止されることにより、ストッパゴムがインナ軸部材の軸方向一方の端面と装着対象部材との間に噛み込まれる不具合が回避される。それ故、インナ軸部材の装着対象部材への取付け強度が有効に発揮されて、筒形防振装置の安定した装着状態が実現される。
【0020】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載された筒形防振装置において、前記装着状態で前記装着対象部材への当接によって前記ストッパゴムが軸方向に圧縮変形されており、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材の間への振動荷重の入力時に該ストッパゴムの該装着対象部材に対する当接が維持されるものである。
【0021】
第6の態様によれば、ストッパゴムが装着対象部材から離隔するのを防止することで、ストッパゴムが装着対象部材に対して離隔した位置から打ち当たる際に発生する打音が防止される。
【0022】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記ストッパゴムの内周面の軸方向に対する傾斜角度が0度より大きくされて、該ストッパゴムの内周面が突出先端側に向かって外周側に傾斜していると共に、該ストッパゴムの外周面の軸方向に対する傾斜角度が0度以下とされており、更に該ストッパゴムの内周面の軸方向に対する傾斜角度の絶対値が、該ストッパゴムの外周面の軸方向に対する傾斜角度の絶対値よりも大きくされているものである。
【0023】
第7の態様によれば、ストッパゴムが先細形状とされると共に、ストッパゴムの先端が軸方向でストッパ部上に位置する。それ故、ストッパゴムに対して先端から軸方向でストッパ荷重が入力される場合に、ストッパゴムに対して圧縮応力が支配的に作用して、ストッパゴムの耐久性の向上が図られる。
【0024】
しかも、ストッパゴムの内周面の軸方向に対する傾斜角度が、外周面の軸方向に対する傾斜角度よりも大きくされていることにより、ストッパゴムの弾性主軸が突出先端側に向かって外周側に傾斜しており、ストッパゴムの内周側への倒れ変形による噛込み等が防止されている。
【0025】
加えて、ストッパゴムの成型用金型を軸方向外側に取り外す際に、ストッパゴムの内周面および外周面が成型用金型の内面に引っ掛かることがなく、脱型作業が容易に行われることから、製造容易性にも優れている。
【0026】
なお、第7の態様に記載された筒形防振装置において、より好適には、前記ストッパゴムの外周面の軸方向に対する傾斜角度が0度とされる。これによれば、ストッパ荷重の入力に対するストッパゴムの圧縮変形や、ストッパゴム成型時の脱型性を損なうことなく、ストッパゴムの突出方向に延びる弾性主軸を軸方向に対してより大きく傾斜させることができる。それ故、ストッパ荷重の入力によるストッパゴムの内周側への倒れ変形がより効果的に防止されて、インナ軸部材の軸方向端面と他部材(装着対象部材等)への噛込みが防止される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ストッパゴムの突出方向の弾性主軸が、突出先端側に向かって外周側に傾斜していることから、ストッパ荷重の入力に対してストッパゴムが内周側に倒れるのが防止されている。それ故、ストッパゴムの噛込みによるインナ軸部材の取付け強度の低下等が防止される。しかも、ストッパゴムの突出高さを大きく確保して、ストッパゴムの耐久性の向上を図ることができると共に、インナ軸部材の軸方向端面の面積を確保することによる取付け強度の向上や、アウタ筒部材の小径化による筒形防振装置の小型化等も実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのメンバマウントを車両への装着状態で示す縦断面図。
【図2】図1に示されたメンバマウントの平面図。
【図3】図1に示されたメンバマウントの底面図。
【図4】図2のIV−IV断面図。
【図5】図1に示されたメンバマウントの要部を拡大して示す縦断面図。
【図6】図1に示されたメンバマウントの車両装着状態での縦断面図であって、インナ軸部材とアウタ筒部材の間に荷重が入力された状態を示す図。
【図7】本発明の第2の実施形態としてのメンバマウントの要部を拡大して示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1には、本発明に従う構造とされた筒形防振装置の第1の実施形態として、サスペンションメンバマウント10が示されている。サスペンションメンバマウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が所定距離を隔てて内外挿配置されて、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向を言う。
【0031】
より詳細には、インナ軸部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、図2〜図4に示されているように、厚肉小径の略円筒形状を呈している。また、インナ軸部材12の軸方向一方の端部(図1中の上端部)には、外周側に突出する拡径部18が設けられており、インナ軸部材12の軸方向一方の端面(締結面20)の面積が大きく確保されている。なお、拡径部18の上端外周縁部には、面取り加工が施されており、インナ軸部材12の締結面20の外径が、拡径部18の外径よりも僅かに小さくなっている。
【0032】
アウタ筒部材14は、インナ軸部材12と同様の材料で形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を呈している。また、アウタ筒部材14の軸方向一方の端部には、軸方向外側に向かって縮径するテーパ部22が設けられている。更に、テーパ部22の軸方向一方の端部には、外周側に突出するストッパ部24が設けられている。このストッパ部24は、外周部分が略円環板形状のフランジ部26とされていると共に、内周部分が外周側に向かって次第に上傾するように湾曲した連設部28とされて、テーパ部22の上端から一体的に延び出している。
【0033】
そして、アウタ筒部材14がインナ軸部材12に外挿されて、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14が全周に亘って軸直角方向で所定距離を隔てて配置されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に本体ゴム弾性体16が介装されている。
【0034】
本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円筒形状を有するゴム弾性体であって、内周面がインナ軸部材12の外周面に重ね合わされて加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に重ね合わされて加硫接着されている。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、本体ゴム弾性体16によって軸直角方向に弾性連結されている。なお、本実施形態の本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0035】
また、本体ゴム弾性体16には、第1のすぐり部30が形成されている。第1のすぐり部30は、図2,図4に示されているように、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間で本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端面に開口する凹所であって、全周に亘って略一定の断面形状で延びる環状の凹所とされている。なお、第1のすぐり部は、必ずしも環状である必要はなく、周上で複数の第1のすぐり部が形成されていても良い。その場合には、複数の第1のすぐり部は、必ずしも相互に同一形状でなくても良く、要求されるばね特性等に応じて互いに異なる形状とされていても良い。
【0036】
さらに、本体ゴム弾性体16には第2のすぐり部32が形成されている。第2のすぐり部32は、図3,図4に示されているように、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間で本体ゴム弾性体16の軸方向他方の端面に開口する凹所であって、周上で等間隔に4つの第2のすぐり部32が形成されている。なお、本実施形態では、相互に同一形状の4つの第2のすぐり部32が形成されているが、第2のすぐり部は、必ずしも全てが同一形状でなくても良く、例えば、車両の前後方向と左右方向で要求されるばね特性の違い等に応じて、第2のすぐり部の周方向での長さや軸方向での深さ等を異ならせても良い。
【0037】
また、アウタ筒部材14のストッパ部24の上面には、ストッパゴム34が固着されている。ストッパゴム34は、図2,図4に示されているように、周上の4カ所に設けられた突起状のゴム弾性体であって、本実施形態では、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。また、ストッパゴム34は、突出先端側(図4中、上側)に向かって次第に細くなる先細形状とされており、全体として略四角錐形状を呈している。なお、ストッパゴム34の突出先端面は、丸められた凸形湾曲面とされている。なお、周上で隣り合うストッパゴム34の間には、円環板状のゴム弾性体がストッパゴム34と一体形成されて、ストッパ部24の上面に固着されている。
【0038】
また、ストッパゴム34は、図5に示されているように、フランジ部26上面からの軸方向での高さ:Hが、インナ軸部材12における締結面20の外周縁と、アウタ筒部材14におけるストッパ部24との離隔距離:Dよりも大きくされている(H>D)。これにより、ストッパゴム34のゴムボリュームを充分に確保しつつ、インナ軸部材12の締結面20の面積の確保や、アウタ筒部材14の大径化の防止が実現され得る。
【0039】
このストッパゴム34は、図5に示されているように、内周面36が突出先端側に向かって所定の傾斜角度:θ1で外周側に傾斜する傾斜面とされていると共に、外周面38が軸方向に対する傾斜角度:θ2を0度とされた軸方向に広がる非傾斜面とされている。更に、内周面36の軸方向に対する傾斜角度:θ1の絶対値は、外周面38の軸方向に対する傾斜角度:θ2の絶対値に比して大きくされている(|θ1|>|θ2|)。なお、図5において、内周面36および外周面38の軸方向に対する傾斜角度は、軸方向から反時計回りが正方向とされており、内周面36の傾斜角度:θ1が0度より大きく(θ1>0)されている。
【0040】
これにより、ストッパゴム34の突出方向の弾性主軸:Lは、軸方向に対してストッパゴム34の突出先端側に向かって所定の傾斜角度:αで外周側に傾斜している。本実施形態では、外周面38の軸方向に対する傾斜角度:θ2が0度とされていることから、ストッパゴム34の弾性主軸:Lの軸方向に対する傾斜角度:αは、内周面36の軸方向に対する傾斜角度:θ1に比して絶対値が小さくなっている(|α|<|θ1|)。
【0041】
また、ストッパゴム34の弾性主軸:Lの延長線上には、ストッパ部24が位置しており、かかる延長線がストッパ部24と図5中の交点:Pにおいて交差している。これにより、弾性主軸:Lの方向に作用する入力に対して、ストッパゴム34がストッパ部24で支持されて圧縮されるようになっている。
【0042】
かくの如き構造とされたサスペンションメンバマウント10は、図1に示されているように、インナ軸部材12が、装着対象部材としての車両ボデー40に設けられた取付部42によって軸方向で挟み込まれて、ボルト固定されると共に、アウタ筒部材14がサスペンションメンバ44に設けられた嵌着孔46に圧入固定されることにより、車両に装着される。
【0043】
かかる車両への装着状態において、ストッパゴム34は、車両ボデー40の取付部42に対して押し当てられており、取付部42とフランジ部26の間で軸方向に圧縮されている。ここにおいて、ストッパゴム34の弾性主軸:Lが軸方向に対して傾斜角度:αで傾斜していることから、取付部42とフランジ部26の間で軸方向に圧縮されることによって、ストッパゴム34には、軸方向での圧縮力に加えて、先端を外周側に変位させる反時計回りのモーメントが作用する。それ故、ストッパゴム34が弾性変形によってインナ軸部材12の締結面20上に倒れ込んで、締結面20と車両ボデー40の取付部42との間に挟み込まれるのが防止されている。その結果、ボルトの締付けによるインナ軸部材12と車両ボデー40の固定力が有効に発揮されて、目的とする車両装着状態が安定して実現される。
【0044】
さらに、ストッパゴム34の内周面36がストッパゴム34の突出先端側に向かって外周側に傾斜していると共に、ストッパゴム34の外周面38がストッパゴム34の突出先端側に向かって内周側に傾斜していることに加えて、ストッパゴム34の外周面38の軸方向に対する傾斜角度:θ2が略0度とされている。これにより、ストッパゴム34は、車両への装着時や軸方向の振動荷重の入力時に及ぼされるストッパ荷重によって軸方向の圧縮応力が支配的に作用して、主として圧縮変形を生じる、圧縮ゴムとされている。それ故、ストッパゴム34の倒れ込み変形による剪断応力が抑えられて、ストッパゴム34の耐久性が有利に確保される。
【0045】
加えて、軸方向上下に分割された成形用金型によって第1, 第2のすぐり部30,32を備えた本体ゴム弾性体16を成形する際に、ストッパゴム34の内周面36および外周面38が成形用金型に引っ掛かることがなく、本体ゴム弾性体16の脱型作業を容易に行うことができる。しかも、ストッパゴム34の外周面38の軸方向に対する傾斜角度:θ2が略0度とされていることによって、脱型の容易さを維持しつつ、ストッパゴム34の弾性主軸:Lの軸方向に対する傾斜角度:αを大きく得ることができて、ストッパゴム34の締結面20上への倒れ込みがより効果的に回避される。
【0046】
さらに、ストッパゴム34の締結面20と取付部42の間への噛込みが、ストッパゴム34の形状を工夫することによって回避されていることから、インナ軸部材12における締結面20の外周縁部と、アウタ筒部材14のストッパ部24との距離:Dを、ストッパゴム34の噛込みの防止を考慮することなく小さくできる。それ故、サスペンションメンバマウント10の軸方向および軸直角方向での小型化が実現される。
【0047】
更にまた、ストッパゴム34の高さ(軸方向寸法):Hについても、ストッパゴム34の締結面20への噛込みを考慮することなく大きく設定可能となることから、ストッパゴム34の自由表面が大きく確保されること等に起因する耐久性の向上が図られる。しかも、ストッパゴム34の軸方向ばねのチューニング自由度が大きくなることから、サスペンションメンバマウント10の軸方向でのばね特性の調節可能領域を大きく確保することができて、要求特性に高度に対応することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、図6に示されているように、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間に振動が入力されて、アウタ筒部材14がインナ軸部材12に対して軸方向他方の側(図6中、下側)に相対変位した場合に、ストッパゴム34先端の車両ボデー40(取付部42)に対する当接が維持されるようになっている。即ち、サスペンションメンバマウント10の車両への装着状態において、ストッパゴム34の軸方向での圧縮変形量が大きく確保されていることによって、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向での相対変位に対して、ストッパゴム34の圧縮変形量が低減されると共に、ストッパゴム34の取付部42に対する当接が維持されるようになっている。これにより、振動入力時に、ストッパゴム34が取付部42に対して離隔した状態から打ち当てられることはなく、当接時の衝撃力に起因する打音が低減されている。
【0049】
また、図7には、本発明の第2の実施形態としてのサスペンションメンバマウントの要部が示されている。即ち、本実施形態のサスペンションメンバマウントは、ストッパゴム50を備えている。なお、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。また、図中に示されていない部分については、第1の実施形態と同様の構造とされている。
【0050】
より詳細には、ストッパゴム50は、第1の実施形態のストッパゴム34と同様に本体ゴム弾性体16と一体形成されており、アウタ筒部材14のストッパ部24に固着されて上方に向かって突出している。
【0051】
また、ストッパゴム50は、その内周面52が軸方向に対して所定の傾斜角度:θ1’だけ傾斜していると共に、その外周面54が軸方向に対して所定の傾斜角度:θ2’だけ傾斜している。更に、内周面52の軸方向に対する傾斜角度:θ1’が0度より大きくされており、内周面52がストッパゴム50の突出先端側に向かって外周側に傾斜していると共に、外周面54の軸方向に対する傾斜角度:θ2’が0度より小さくされている。これにより、ストッパゴム50は、縦断面形状において突出先端側に向かって内周面52と外周面54が相互に接近する山形を呈している。なお、内周面52および外周面54の傾斜角度は、図7において軸方向から反時計回りを正の角度とする。
【0052】
さらに、内周面52の軸方向に対する傾斜角度:θ1’の絶対値が、外周面54の軸方向に対する傾斜角度:θ2’の絶対値よりも大きくされている(|θ1’|>|θ2’|)。これにより、ストッパゴム50の突出方向に延びる弾性主軸:L’が軸方向に対して所定の傾斜角度:α’だけ傾斜しており、ストッパゴム50の突出先端側に向かって外周側に倒れるように延びている。
【0053】
なお、本実施形態のストッパゴム50の内周面52の傾斜角度:θ1’は、第1の実施形態のストッパゴム34の内周面52の傾斜角度:θ1と同じとされており、ストッパゴム50の弾性主軸:L’の傾斜角度:α’が、ストッパゴム34の弾性主軸:Lの傾斜角度:αよりも小さくなっている。このことでも例示されているように、突出方向に延びる弾性主軸を軸方向に対して傾斜させて、ストッパゴムのインナ軸部材12の締結面20での噛込みを回避するためには、内周面の傾斜角度が大きく設定されると共に、外周面の傾斜角度が小さく設定される。
【0054】
このような本実施形態に従う構造とされたサスペンションメンバマウントのストッパゴム50においても、第1の実施形態と同様に、車両への装着状態において、車両ボデー40の取付部42とアウタ筒部材14のストッパ部24との間で軸方向上下に挟み込まれて圧縮変形される。特に、本実施形態のストッパゴム50は、内周面52が基端側に向かって内周側に傾斜していると共に、外周面54が基端側に向かって外周側に傾斜していることから、ストッパゴム50に圧縮応力がより支配的に作用して、ストッパゴム50の耐久性の向上が図られる。
【0055】
また、ストッパゴム50の内周面52が外周面54よりも軸方向に対する傾斜角度を大きくされており、弾性主軸:L’が先端側に行くに従って外周側に傾斜していることから、ストッパゴム50が取付部42とストッパ部24の間で狭圧される際に内周側への倒れ変形が防止される。それ故、ストッパゴム50がインナ軸部材12の締結面20と取付部42との間に挟み込まれるのを防止することができて、目的とするインナ軸部材12の取付強度や軸方向ばね特性、ストッパ性能等が、何れも有効に実現される。また、第1の実施形態と同様に、軸方向および軸直角方向での小型化や、ストッパゴム50のゴムボリュームの確保による耐久性の向上およびばね特性のチューニング自由度の拡大等が、実現される。
【0056】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ストッパゴムは、前記実施形態のように、周上で実質的に分割された複数が設けられていても良いし、全周に亘って環状に延びていても良い。また、周上で複数のストッパゴムが設けられている場合には、それらストッパゴムの形状が相互に異なっていても良いし、周方向の長さも特に限定されない。
【0057】
さらに、周上で複数のストッパゴムが設けられている場合には、それらストッパゴムの周方向間にストッパゴムよりも突出高さの小さい小突起が設けられて、アウタ筒部材のストッパ部と装着対象部材との当接による衝撃力に対して、段階的な緩衝作用等が発揮されるようになっていても良い。
【0058】
また、ストッパゴムは、当接時の緩衝作用等を考慮すると、先端側に向かって次第に断面積が小さくなる先細形状とされていることが望ましいが、必須ではなく、基端から先端まで一様な断面形状で延びていても良いし、先端側に向かって次第に断面積が大きくなっていても良い。
【0059】
ストッパゴムの内周面の軸方向に対する傾斜角度:θ1は、必ずしも一様である必要はなく、ストッパゴムの突出方向に延びる弾性主軸:Lが先端側に向かって外周側に傾斜していれば、傾斜角度:θ1は徐々に変化していても良い。なお、ストッパゴムの外周面の軸方向に対する傾斜角度:θ2についても、同様である。
【0060】
また、前記実施形態では、ストッパゴムの内周面が先端側に向かって外周側に傾斜すると共に、ストッパゴムの外周面が先端側に向かって内周側に傾斜しているが、例えば、ストッパゴムの内周面と外周面の両方が、先端端側に向かって外周側に傾斜した形状等も採用され得る。
【0061】
また、インナ軸部材12の軸方向一方の端部に設けられている拡径部18は、締結面20を大きく確保して装着対象部材(車両ボデー40)への締結力を高めるために設けられていることが望ましいが、全体が略一定の断面形状で直線的に延びる円筒形状であっても良い。
【0062】
また、筒形防振装置の車両への装着状態において、ストッパゴムは、必ずしもインナ軸部材の装着対象部材に対して押し当てられて圧縮されている必要はない。即ち、ストッパゴムは、装着対象部材に対して、静置状態で、当接圧が略0の当接(0タッチ)であっても良いし、装着対象部材に対して離隔しており、振動の入力によって当接するようになっていても良い。
【符号の説明】
【0063】
10:サスペンションメンバマウント(筒形防振装置)、12:インナ軸部材、14:アウタ筒部材、16:本体ゴム弾性体、22:テーパ部、24:ストッパ部、34:ストッパゴム、40:装着対象部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材と該インナ軸部材に外挿されるアウタ筒部材が筒状の本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該アウタ筒部材の軸方向一方の端部には外周側に突出するストッパ部が設けられており、該ストッパ部には軸方向外側に突出するストッパゴムが固着されている筒形防振装置において、
前記ストッパゴムの前記ストッパ部からの突出高さが、前記インナ軸部材の軸方向一方の端面の外周縁部と、前記アウタ筒部材の該ストッパ部の内周端部との離隔距離よりも大きくされていると共に、該ストッパゴムの突出方向の弾性主軸が、軸方向に対して該ストッパゴムの先端側に向かって外周側に傾斜していることを特徴とする筒形防振装置。
【請求項2】
前記ストッパゴムが軸方向のストッパ荷重の入力によって圧縮変形される圧縮ゴムとされている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記ストッパゴムの突出方向の弾性主軸の延長線上に前記ストッパ部が位置している請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記アウタ筒部材の軸方向一方の端部には、軸方向外側に向かって縮径するテーパ部が設けられており、該テーパ部の軸方向外側の端部に前記ストッパ部が設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の筒形防振装置。
【請求項5】
前記インナ軸部材が装着対象部材に取り付けられた装着状態で前記ストッパゴムが該装着対象部材に当接されている請求項1〜4の何れか1項に記載の筒形防振装置。
【請求項6】
前記装着状態で前記装着対象部材への当接によって前記ストッパゴムが軸方向に圧縮変形されており、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材の間への振動荷重の入力時に該ストッパゴムの該装着対象部材に対する当接が維持される請求項5に記載の筒形防振装置。
【請求項7】
前記ストッパゴムの内周面の軸方向に対する傾斜角度が0度より大きくされて、該ストッパゴムの内周面が突出先端側に向かって外周側に傾斜していると共に、該ストッパゴムの外周面の軸方向に対する傾斜角度が0度以下とされており、更に該ストッパゴムの内周面の軸方向に対する傾斜角度の絶対値が、該ストッパゴムの外周面の軸方向に対する傾斜角度の絶対値よりも大きくされている請求項1〜6の何れか1項に記載の筒形防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−47559(P2013−47559A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186407(P2011−186407)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】