説明

筒状編地の編み出し方法、および筒状編地

【課題】絞り糸により編み出し端部を引き絞ることができ、引き絞った編み出し端部が盛り上がったように厚くならない筒状編地、および、その編み出し方法を提供する。
【解決手段】絞り糸を前後の針床にわたって供給する際、一部の編針で掛け目を形成し、残りの編針では掛け目を形成しない絞り糸配置工程(ステップ1)を行う。引き続いて、筒状編地が完成した際に筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目列となる編目(疑似編目A〜G)を前後の針床にわたって形成すると共に、筒状編地が編み出し端部から解れないようにする編み出し工程(ステップ2〜9)を行う。このように編成することにより、編み出し端部に並ぶ疑似編目の一部に絞り糸が絡んだ筒状編地となり、この絞り糸を引き絞ったときに、絞られた部分が盛り上がったようにならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編み出し側の編地部を引き絞ることができる筒状編地を編成するための筒状編地の編み出し方法、およびこの編成方法により編成される編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前後の針床を有する横編機を使用して筒状編地を編成した後に筒状編地の編み出し側の編地部を引き絞ることができるように筒状編地を編み出すことが行われていた。例えば、特許文献1には、筒状編地の編み出し端部を引き絞るための絞り糸を筒状編地に設けることが開示されている。なお、編み出し端部に並ぶ編目は、完成後の編地において編目の体裁を保っていないので、以降は疑似編目と称する。
【0003】
特許文献1の編成方法により編成された編み出し端部近傍のループ図を図6に示す。図6は、編み出し端部における筒状編地の一部を示すものであって、この筒状編地を筒の内側から見た図である。この筒状編地では、編成開始1回目の周回編成により針床に配置された絞り糸10と2回目の周回編成により針床に配置された絞り糸20が、3回目の周回編成により形成された疑似編目30を交互に縫い取るように配置される。これら絞り糸10,20を紙面左右方向に引っ張って疑似編目列を引き絞ると、各疑似編目30の間隔が小さくなると共に、各疑似編目30が筒の内方(紙面手前側)に寄せられ、筒状編地の編み出し側(紙面下側)の開口部を閉じることができる。
【0004】
【特許文献1】特開昭57−139538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図6に示す筒状編地では、編み出し端部を構成する全ての疑似編目30の疑似シンカーループSiに絞り糸10,20が掛かっている。この状態から、絞り糸10,20を引っ張って疑似編目列を引き絞ると、全ての疑似編目30が筒の内方に引き寄せられることになる。そのため、引き絞られた編み出し端部で疑似編目30が密集して盛り上がったように厚くなり、見栄えが良くない。しかも疑似編目30の数が多い場合、開口部が閉じきらないこともある。また、絞り糸10,20が全ての疑似編目30の疑似シンカーループSiに掛かっているため、絞り糸10,20を引っ張る際の抵抗が大きく、絞り糸10,20を引っ張り難い上、この抵抗のために絞り糸10,20が切れる虞もある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主目的は、絞り糸により編み出し端部を引き絞ることができ、引き絞った編み出し端部が盛り上がったように厚くならない筒状編地、および、その筒状編地の編み出し方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、筒状編地を編み出すための筒状編地の編み出し方法に係る。本発明の筒状編地の編み出し方法は、筒状編地の編み出し側の端部を、筒の径が小さくなるように引き絞るための絞り糸を前後の針床にわたって供給する絞り糸配置工程を備える。また、本発明の筒状編地の編み出し方法は、この絞り糸配置工程に引き続いて、筒状編地が完成した際に筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目列となる編目を前後の針床にわたって形成すると共に、筒状編地が編み出し端部から解れないようにする編み出し工程を備える。そして、前記絞り糸配置工程では、前記疑似編目列の形成に使用する編針のうち、一部の編針で掛け目を形成し、残りの編針では掛け目を形成しないことを特徴とする。
【0008】
一方、本発明の筒状編地は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を使用して編成され、筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目からなる疑似編目列と、前記疑似編目列に沿うように配置され、これらの疑似編目列を引き絞るための絞り糸とを備える。この本発明の筒状編地は、前記絞り糸が、前記疑似編目列のうち、一部の疑似編目の疑似シンカーループに掛かっており、残りの疑似編目に掛かることなく沿っており、前記残りの疑似編目を構成する編糸が、疑似編目列の次段以降の編目列を構成する各編目のシンカーループに掛かっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の筒状編地の編み出し方法によれば、絞り糸が、疑似編目列のうち、一部の疑似編目の疑似シンカーループに掛かり、残りの疑似編目には掛かることなく沿った状態となる筒状編地を編成することができる。
【0010】
また、本発明の筒状編地は、編み出し端部の疑似編目列に沿うように設けられる絞り糸を引っ張ることで、疑似編目列を筒状編地の内方に寄せて、筒状編地の開口部を閉じることができる。ここで、本発明の筒状編地に備わる絞り糸が、一部の疑似編目の疑似シンカーループにのみ掛かっているので、絞り糸を引っ張っても、全ての疑似編目が筒の内方に引き寄せられることがなく、絞られた部分で疑似編目が密集しすぎることがない。その結果、筒状編地の開口部を閉じられなくなることがないし、筒状編地の開口部を閉じた部分が突出したように盛り上がることもない。また、疑似編目の編目列の一部にのみ絞り糸が掛かっているため、絞り糸に作用する摩擦が少なく、絞り糸が切れ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の筒状編地は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を使用して編成され、筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目からなる疑似編目列と、これらの疑似編目列を引き絞るための絞り糸とを備え、絞り糸で引き絞ることで開口する編み出し端部を閉じることができる。この筒状編地に備わる絞り糸は、一部の疑似編目のそれぞれに対して、筒状編地の内外の一方から他方に抜けることで疑似編目の一方の疑似シンカーループに掛かり、再び他方から一方に抜けることで同じ疑似編目の他方の疑似シンカーループに掛かる。これにより、絞り糸は、一部の疑似編目に対して絡まり、残りの疑似編目には絡まず、単に沿っているだけとなる。
【0012】
このような筒状編地として、代表的には、手袋の指袋などを挙げることができる。特に、指先の中心に編目が向かうファッション手袋では、編成終了後に指先を閉じる処理をするのが一般的であり、絞り糸を設ける筒状編地の代表例である。その他、指先なし手袋の指袋も、編成が終了した時点で、指先側の編み出し端部がラッパ状に開くので、編み出し端部の開口具合を調節する必要がある。
【0013】
上述した本発明の筒状編地を編成するには、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、以下に示す工程を備える本発明の筒状編地の編み出し方法を実施すると良い。
・筒状編地の編み出し側の端部を、筒の径が小さくなるように引き絞るための絞り糸を前後の針床にわたって供給する絞り糸配置工程。
・絞り糸配置工程に引き続いて、筒状編地が完成した際に筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目となる疑似編目列を前後の針床にわたって形成すると共に、筒状編地が編み出し端部から解れないようにする編み出し工程。
【0014】
<絞り糸配置工程>
絞り糸配置工程では、給糸部材を針床に沿って往復移動させる間、往動時に前後一方の針床の編針で、復動時に他方の針床の編針で、掛け目の形成と掛け目の形成を行わないミス編成とを組み合わせて行う。掛け目の数は、編成する筒状編地の大きさや、編成に使用する編糸の種類などにより適宜変更すれば良い。例えば、編み出し工程で使用される編針のおよそ1/4〜1/3の編針で掛け目を形成すると良い。また、各掛け目の位置は、編み出し端部を引き絞ることができるように適宜選択すれば良い。例えば、各掛け目を所定の間隔を空けて均等に配置すると、編み出し端部を引き絞り易いし、引き絞った部分の形状も整い易い。掛け目の間隔が広ければ、絞り糸が掛かる擬似編目の数が少なく、絞り糸を引き絞る際の抵抗が小さい上、引き絞った際に編み出し端部で疑似編目が密集しすぎることがない。但し、掛け目の数が少なすぎると、引き絞った部分の形状が悪くなる。
【0015】
<編み出し工程>
前記編み出し工程では、どのような大きさの筒状編地を編成するかによって疑似編目列の編成に使用される編針が予め決定されており、これら編針の全てで編目が捻られた捻り目、および、編目が捻られていない順目の少なくとも一方の形成を行う。
【0016】
捻り目は、編針の位置を一旦通過した給糸部材が反転して、再び編針の位置を通過するときに編針に編糸を掛け、編糸が編針に掛かった状態で再び給糸部材が反転して編針の位置を通過することにより形成される。編針に形成される捻り目は、編針から外れたときに編糸が1周巻かれて交差することでループ状になった疑似捻り目(ねじりバネ形状)となる。ここで、捻り目の形成に使用する編針に絞り糸配置工程で形成された掛け目がある場合、疑似捻り目の疑似シンカーループに絞り糸が掛かった状態になる。捻り目の形成に使用する編針に絞り糸配置工程の掛け目がない場合、疑似捻り目には絞り糸が掛からない状態になる。
【0017】
一方、順目は、編針の位置を給糸部材が通過する際に編針に編糸を掛ける編成により形成される。針床に形成される順目は、針床から外れたときに編糸が交差せずにループ状になった疑似順目(Ω形状)となる。ここで、順目の形成に使用する編針に絞り糸配置工程の掛け目が掛かっている場合、疑似順目はニットループになり、掛け目が掛かっていない場合、疑似順目は疑似掛け目になる。
【0018】
編み出し工程において形成される筒状編地の疑似編目を整理すると以下の通りである。
・絞り糸が掛かる疑似順目
・絞り糸が掛かる疑似捻り目
・絞り糸が掛かっていない疑似順目
・絞り糸が掛かっていない疑似捻り目
【0019】
このような疑似編目からなる編目列を有する本発明の筒状編地は、既に述べたように、一部の疑似編目の疑似シンカーループにのみ絞り糸が掛かっている。絞り糸は、疑似編目列を引き絞る役割の他に、疑似シンカーループの動きを制限して疑似編目列が解れないようにする役割も持つ。
【0020】
ここで、図7を参照して編目列が解れるメカニズムと編目列が解れることが防止されるメカニズムを説明する。まず、図7(A)に示すように、隣接する2つの順目を繋ぐシンカーループの動きを抑えるものがないと、シンカーループが紙面上方(図中の矢印の方向)に移動して2つの順目が1つの大きな編目のようになる(同図では4つの編目が一つになっている様子を示す)。これにより、図7(A)の右図に示すように、解れた編目列に続く次段の編目列のシンカーループを抑えるものがなくなるので、この次段の編目列も解ける。そして、このような編目列の解れが連鎖的に起こることで筒状編地が編み出し端部から解れていく。つまり、隣接する2つの順目を繋ぐシンカーループを抑えるものがあれば、編目列の解れを防止できることが判る。
【0021】
他方、図7(B)のように隣接する2つの編目の一方が捻り目の場合、シンカーループを抑えるものがなくシンカーループが上方に移動しても、捻り目のループ形状が小さくなるだけで、捻り目と順目が一つになることがない。つまり、捻り目が編目列の解れを防止する基点として働いているのが判る。
【0022】
上記の点を考慮すると、本発明の筒状編地の疑似編目列において、絞り糸が掛かっていない疑似順目が編幅方向に2つ以上連続していると、その部分が解れると共に、疑似順目の次段以降の編目列も解れてしまうことが判る。
【0023】
疑似編目列が解れないようにするには、疑似編目列の形成において、捻り目の形成と、順目の形成とを組み合わせて行い、これら捻り目と順目の形成の際、絞り糸配置工程において掛け目の形成を行わなかった編針で順目の形成を行うことが、2つ以上連続しないようにすると良い。筒状編地の疑似編目列は、絞り糸が掛かっていない疑似順目の両隣の疑似編目が、疑似捻り目および絞り糸が掛かっている疑似順目の少なくとも一方になる。その結果、この筒状編地の疑似編目列は解れなくなる。
【0024】
絞り糸が掛かっていない疑似順目が2つ以上並ばないようにするために、掛け目の形成を行わなかった編針で順目の形成を行うことが2つの捻り目の形成に挟まれるようにしても良い。この編成によれば、出来上がる筒状編地の疑似編目列において、絞り糸が掛かっていない疑似順目の両隣の疑似編目が疑似捻り目となる。この場合、絞り糸の存在なしに疑似編目列が解れない筒状編地となる。
【0025】
絞り糸の存在なしに疑似編目列が解れないようにする編み出し工程として、捻り目の形成と順目の形成を交互に行っても良い。既に説明したように、捻り目の形成には給糸部材の方向転換を2回行う必要があるため、捻り目の数が多いと編成工程の数が増す。これに対して、捻り目と順目の形成を交互に行えば、捻り目の数を減らすことができ、編成工程数を少なくすることができる。
【0026】
その他、疑似編目列の形成において、捻り目の形成のみを行って、筒状編地の編み出し端部を疑似捻り目のみから構成されるようにしても良い。疑似編目列の形成の際に捻り目の形成のみを行えば、絞り糸の配置状態にかかわらず解れない筒状編地を編成できる。
【0027】
ここまでは、疑似編目列が解れないようにすることで、筒状編地の解れを防止する構成を説明したが、疑似編目列の次段の編目列が解れないようにしても良い。
【0028】
疑似編目列の次段の編目列が解けないようにするには、疑似編目列を構成する編糸が、疑似編目列の次段以降の編目列を構成する各編目のシンカーループに掛かっていれば良い。このようにすれば、次段以降の編目列を構成する各編目のシンカーループの動きが制限されるので、この次段以降の編目列が解れることがない。
【0029】
ところで、本発明の編み出し方法では、絞り糸配置工程においても、編み出し工程においても、編幅方向に隣接する2つ以上の編針に掛け目が連続して形成される可能性がある。針床の長手方向に近接する複数の編針で掛け目を形成している場合、これらの掛け目のウェール方向に連続するニットループを同一コースの編成で形成することは困難である。これは、同一コースの編成では、近接する編針が共に上昇するため、編針のフック内に係止される掛け目がフックからクリアリングされないからである。このような問題点の具体的な解決方法は、近接する編針の編成動作を別々のコース編成に分けてしまうことであり、例えば、本発明においては以下の(A)〜(C)に示す編成を実施することである。
【0030】
(A) 絞り糸配置工程において、掛け目が編幅方向に2つ以上連続する場合、編み出し工程において、これら掛け目の少なくとも一方が係止される編針で捻り目を形成する。
(B) 編み出し工程において、形成される順目が掛け目であって、編幅方向に2つ以上連続する場合、疑似編目列の次段の編目列を編成する際、これら掛け目の少なくとも一方が係止される編針で捻り目を形成する。
(C) 編み出し工程において、形成される順目が掛け目であって、編幅方向に2つ以上連続する場合、疑似編目の次段の編目列を編成する際、これら掛け目の一方が係止される編針でニット編成をし、他方が係止される編針でミス編成をする。
【0031】
上記(A)、(B)で行う捻り目の形成では、既に述べたように一旦編針を通過した給糸部材が反転して再び編針を通過するときに編針に編糸を掛けるため、隣接する編針の動作時期が大きくズレるので、これら編針が共に上昇するという問題が解決される。また、上記(C)で行うミス編成では、そもそも編針が動作しないので、上記問題が解決される。この(C)の編成をする場合は、疑似編目の次々段の編目列を構成する編目が、ミス編成をした疑似編目にウェール方向に連続して形成されるようにすれば良い。
【0032】
隣接する編針が共に上昇しないように編み出し工程を実施すると、疑似編目を構成する編糸が、疑似編目列の次段以降の編目列を構成する各編目のシンカーループに掛かり、このシンカーループを保持するように筒状編地が編成される。その結果、自動的に編み出し端部から解れない筒状編地となる。
【実施例1】
【0033】
まず、実施例では、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前針床(以下、FB)と後針床(以下、BB)とを備える2枚ベッド横編機で説明を行う。
【0034】
上述した横編機を使用した筒状編地の編み出し方法の一例を図1および図2の編成工程図に基づいて説明する。図1、図2の左右に並ぶ3つの欄のうち、左端欄の数字は編成工程の番号を示す。中央の欄の矢印は編成方向を示し、実線の矢印は編成動作を伴うもの、点線の矢印は編成動作を伴わないものである。また、右端欄は編地の編成状態を示し、FBは前針床、BBは後針床、アルファベットは編針、黒三角は給糸部材を示す。さらに、右端欄におけるΩ状の記号は通常のニットループを、ループ状の記号は捻り目を、V状の記号は掛け目を示す。これら記号のうち、太線で書かれているものはその編成工程で編まれたものを、細線で書かれているものはその編成工程以前の編成工程で編まれたものを示す。なお、図1,図2では、説明の便宜上、編針の数を実際の編成に使用する数よりも少なくしている。
【0035】
まず、ステップ1では給糸部材を紙面右方向に移動させる間にFBの編針a,c,g,k,oに掛け目を形成し、続けて、給糸部材を紙面左方向に移動させる間にBBの編針n,j,f,bに掛け目を形成する。掛け目の形成位置は、適当な間隔を空けて配置されていれば良く、例えば、1つおきでも2つおきでもかまわない。
【0036】
次に、ステップ2では、給糸部材を右方向に移動させてFBの編針aに係止される掛け目をノックオーバーするニットループを形成する。このとき、給糸部材は、FBの編針bを通過する位置まで移動させる。
【0037】
ステップ3では、給糸部材を左方向に移動させる間にFBの編針bに編糸を掛けることで、掛け目を形成する。そして、ステップ4で再び給糸部材を右方向に移動させ、編針cでニットループを形成する。このステップ4では、編針cのニットループの形成に加えて、編針bで編目が捻られた捻り目が形成される。編針bで捻り目が形成されるのは、ステップ2〜ステップ4により、編針bを一旦通過した給糸部材を反転させ、再び編針bを通過した際に編針bに編糸を掛け、さらに給糸部材を反転させたからである。
【0038】
以降、ステップ3、ステップ4で行った編成と同様の編成を位置をずらして行うことにより、FBにおいて編み出し端部の疑似編目が形成される(ステップ5)。ここで、編目が捻られていない順目の形成が行われた編針a,c,e,g,i,k,m,oのうち、編針e,i,mで掛け目が形成されているのは、ステップ1において、それらの編針e,i,mで掛け目の形成を行わなかったからである。
【0039】
次に、BBにおいても編み出し端部の疑似編目の形成を行う。まず、ステップ6において、給糸部材を一旦左方向に移動させて編針oを通過させた後、反転させて編針oに編糸を掛ける。次に、ステップ7で給糸部材を左方向に移動させ、編針oで捻り目を完成させると共に、編針nでニットループを形成する。このステップ7では、編針mで捻り目を形成するための準備として、編針mを通過する位置まで給糸部材を移動させる。そして、ステップ8で給糸部材を右方向に移動させ、編針mを再び通過する際に編針mに編糸を掛ける。以降は、ステップ7、ステップ8の編成と同様の編成を繰り返すことで、ステップ9に示すようにBBにおける編み出し端部の疑似編目が完成する。
【0040】
ステップ1〜9に示す編成により、針床における絞り糸の配置と、筒状編地の編み出し端部となる疑似編目列の形成とがなされる。
【0041】
次に、疑似編目からなる疑似編目列のウェール方向に続く編目列の形成を開始する(ステップ10)。まず、ステップ10に示すように、FBの編針a,bでニットループを形成する。そして、ステップ11に示すように、一旦給糸部材を左方向に振った後、編幅方向に連続するニットループを2つずつ編成することを繰り返して、FBで疑似編目列の次段の編目列を完成させる(ステップ12)。そして、ステップ13,14に示すように、BBにおいてもFBの場合と同様に2目ずつニットループを形成することを繰り返し、BBで疑似編目列の次段の編目列を完成させる(ステップ15)。
【0042】
以降はステップ15に示すように周回編成を繰り返すことで筒状編地を形成していく。もちろん、ステップ15を含むステップ10以降の編成で、リブ組織などの組織柄の編成を行っても良い。
【0043】
図1,図2の編成工程により編成された筒状編地のループ図を図3に示す。この図3(後述する図4、図5も同様)は、筒状編地のうち、FBの編針a〜gで編成された部分を筒の内側から見た図である。図中の小文字アルファベットは、図1、図2のアルファベットの編針と対応しており、アルファベットの下に並ぶ編目が、そのアルファベットの編針で編成された編目を示す。
【0044】
図3に示すように、本実施例の筒状編地は、編み出し端部に並ぶ疑似編目A〜Gからなる疑似編目列と、この疑似編目列の編目のウェール方向に連続して形成される編目A1〜G1からなる編目列を備える。編針a,b,c,gで編成された疑似編目A,B,C,Gの疑似シンカーループSiには、絞り糸1が掛かっている。より具体的には、絞り糸1は、筒の内側から外側に抜け、再び内側に抜けることで各疑似編目A,C,Gの疑似シンカーループSiに絡まっている。また、絞り糸1は、筒の外側から内側に抜け、再び外側に抜けることで疑似編目Bの疑似シンカーループSiに絡まっている。各疑似編目A,B,C,Gの疑似シンカーループSiは、絞り糸1に抑えられているので、これら疑似編目A,B,C,Gが解けることはない。
【0045】
一方、疑似編目D,E,Fには、絞り糸1が沿っているだけで、これら疑似編目D,E,Fの疑似シンカーループSiには絞り糸1が掛かっていない。そのため、疑似編目D,E,Fの疑似シンカーループSiは、絞り糸1によって抑えられていない。しかし、疑似編目D,Fは、編糸が1周巻かれて交差することでループ状になる疑似捻り目であり、この疑似編目が次段の編目列を構成する編目のシンカーループSに掛かっているので、疑似編目D,E,Fが解けることはない。
【0046】
以上のようにして編成された筒状編地の絞り糸1を引っ張ることで、編み出し端部の疑似編目列を引き絞ると、筒状編地の内方(紙面手前側)に疑似編目A〜Gが引っ張られ、筒状編地の開口部が閉じる。このとき、絞り糸1に直接引き絞られるのは、絞り糸1が筒の内側から外側に抜け、再び内側に抜けることで絡まる疑似編目A,C,Gである。それ以外の疑似編目B,D,E,Fは、疑似編目A,C,Gが引っ張られたことに追従して筒の内方に引き寄せられる。つまり、絞り糸1を引っ張って疑似編目列を引き絞っても、全ての疑似編目A〜Gが筒の内方に引き寄せられることがない。そのため、疑似編目A〜Gが密集しすぎて筒状編地の開口部を閉じられなくなることがないし、絞られた部分が厚く盛り上がったようにもならない。また、疑似編目列の一部の疑似編目A,B,C,Gにのみ絞り糸1が掛かっているため、絞り糸1に作用する摩擦が少なく、絞り糸1が切れ難い。
【実施例2】
【0047】
実施例2では、疑似編目列の全てを疑似捻り目とした筒状編地の編み出し方法およびその編み出し方法で編成された筒状編地を説明する。
【0048】
このような筒状編地を編成するには、図1のステップ1で絞り糸を前後の針床に給糸して、任意の位置の編針に掛け目を形成した後、FBとBBの編針a〜oの全てで捻り目を形成する。このように編成することにより、筒状編地となったときに疑似編目となる疑似編目列の全てが疑似捻り目となる。FBとBBで捻り目を形成した後は、周回編成を繰り返して筒状編地を完成させる。
【0049】
図4は、実施例2の編み出し方法で編成した筒状編地のループ図である。図4に示すように、実施例2の筒状編地は、その編み出し端部の疑似編目列が全て疑似捻り目(疑似編目A〜G)からなる。そして、これら疑似捻り目A〜Gのうち、一部の疑似捻り目A,B,C,Gの疑似シンカーループSiにのみ絞り糸1が掛かっているため、実施例1の筒状編地と同様に、絞り糸1を引き絞ったときに、疑似編目列を構成する全ての疑似編目A〜Gが絞り糸1に引っ張られることがない。
【0050】
また、実施例2に係る筒状編地は、疑似編目列が全て疑似捻り目であるので、仮に、絞り糸が切れてしまったとしても、編み出し端部が解れることがない。これは、疑似捻り目は、編糸が1周巻かれて交差することで形成されるループ状であるため、隣接する疑似捻り目同士を繋ぐ疑似シンカーループを抑えるものがなかったとしても、ループ形状が小さくなるだけで、隣接する疑似編目同士が一つになることがないからである。
【実施例3】
【0051】
実施例3では、疑似編目列の全てを疑似順目とした筒状編地の編み出し方法およびその編み出し方法で編成された筒状編地を説明する。
【0052】
このような筒状編地を編成するには、図1のステップ1の後に、FBとBBの編針a〜oの全てで順目を形成する。このように編成することにより、筒状編地となったときに疑似編目となる疑似編目列の全てが疑似順目となる。これら疑似順目のうち、疑似順目D,E,Fには絞り糸が作用していないので、疑似編目列の次段の編目列を形成する際に、疑似順目D,E,Fのウェール方向に連続する編目を同一コースの編成で形成することはできない(既に述べたように編針が共に上昇するため)。そこで、本実施例では、疑似編目列の次段の編目列を形成する際、ミス編成とニット編成とを交互に行い、掛け目が係止され、かつ、隣接する編針が共に上昇することを防止している。そして、疑似編目列の次段の編目列よりもさらに上の編目列の編成は、ミス編成を行わない通常の周回編成を繰り返して筒状編地を完成させる。
【0053】
図5は、実施例3の編み出し方法を利用して編成した筒状編地のループ図である。図5に示すように、実施例3の筒状編地は、その編み出し端部の疑似編目列が全て疑似順目(疑似編目A〜G)からなる。疑似編目A,C,E,Gは、それぞれ疑似編目列の次段の編目列の編目である編目A1,C1,E1,G1のシンカーループSに掛かっている。また、疑似編目B,D,Fは、それぞれ疑似編目列の次々段の編目列の編目である編目B2,D2,F2のシンカーループSに掛かっている。
【0054】
これら疑似順目A〜Gのうち、疑似順目D,E,Fの疑似シンカーループSiは絞り糸1に抑えられていないため、これら3つの疑似編目D,E,Fが一つの大きな疑似編目のようになる。しかし、疑似順目Dを構成する編糸が、編目D2のシンカーループSに、疑似編目Eを構成する編糸が、編目E1のシンカーループSに、疑似編目Fを構成する編糸が、編目F2のシンカーループSに掛かり、それぞれのシンカーループSを抑えている。そのため、疑似編目D,E,Fが解れて1つになったとしても、疑似編目列の次段以降の編目列が解れ出すことはない。
【0055】
なお、本発明の実施例は、上述した実施例に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、筒状編地の編み出し端部が解けないように、実施例1〜3の編成を組み合わせて筒状編地を編成しても良い。その他、前後の針床の上方にさらに対向する2枚の針床を備える4枚ベッド横編機で実施例に示す編成を実施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1に記載される筒状編地の編み出し端部の編成工程図である。
【図2】図1に引き続く編成工程図である。
【図3】実施例1に記載される筒状編地の編み出し端部の一部を示すループ図である。
【図4】実施例2に記載される疑似編目列が全て捻り目である筒状編地の編み出し端部の一部を示すループ図である。
【図5】実施例3に記載される疑似編目列が全て順目である筒状編地の編み出し端部の一部を示すループ図である。
【図6】従来の絞り糸を有する筒状編地の編み出し端部の一部を示すループ図である。
【図7】(A)は、編目列の解れだしが生じるメカニズムについての説明図であり、(B)は、編目列に捻り目があることにより編目列の解れだしが防止されるメカニズムについての説明図である。
【符号の説明】
【0057】
a〜o 編針
A〜G 疑似編目(疑似捻り目、疑似順目)
A1〜G1,A2〜G2 編目
S シンカーループ
Si 疑似シンカーループ
FB 前針床 BB 後針床
1,10,20 絞り糸
30 疑似編目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、筒状編地を編み出すための筒状編地の編み出し方法であって、
筒状編地の編み出し側の端部を、筒の径が小さくなるように引き絞るための絞り糸を前後の針床にわたって供給する絞り糸配置工程と、
この絞り糸配置工程に引き続いて、筒状編地が完成した際に筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目列となる編目を前後の針床にわたって形成すると共に、筒状編地が編み出し端部から解れないようにする編み出し工程とを備え、
前記絞り糸配置工程では、前記疑似編目列の形成に使用する編針のうち、一部の編針で掛け目を形成し、残りの編針では掛け目を形成しないことを特徴とする筒状編地の編み出し方法。
【請求項2】
前記疑似編目列の形成において、編目が捻られた捻り目の形成と、編目が捻られていない順目の形成とを組み合わせて行い、これら捻り目と順目の形成の際、絞り糸配置工程において掛け目の形成を行わなかった編針で順目の形成を行うことが、2つ以上連続しないようにすることを特徴とする請求項1に記載の筒状編地の編み出し方法。
【請求項3】
前記捻り目の形成と順目の形成とを交互に行うことを特徴とする請求項2に記載の筒状編地の編み出し方法。
【請求項4】
前記疑似編目列の形成において、編目が捻られた捻り目の形成のみを行うことを特徴とする請求項1に記載の筒状編地の編み出し方法。
【請求項5】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を使用して編成される筒状編地であって、
筒状編地の編み出し側の端部を構成する疑似編目からなる疑似編目列と、
前記疑似編目列に沿うように配置され、これらの疑似編目列を引き絞るための絞り糸とを備え、
前記絞り糸は、前記疑似編目列のうち、一部の疑似編目の疑似シンカーループに掛かっており、残りの疑似編目に掛かることなく沿っており、
前記残りの疑似編目を構成する編糸が、疑似編目列の次段以降の編目列を構成する各編目のシンカーループに掛かっていることを特徴とする筒状編地。
【請求項6】
前記疑似編目列は、編糸が1周巻かれて交差することでループ状になる疑似捻り目と、編糸が交差せずにループ状になる疑似順目とからなり、
前記絞り糸が掛かっていない疑似順目の両隣の疑似編目は、疑似捻り目および絞り糸が掛かっている疑似順目の少なくとも一方であることを特徴とする請求項5に記載の筒状編地。
【請求項7】
前記疑似編目列は、疑似捻り目が一つおきに配置されていることを特徴とする請求項6に記載の筒状編地。
【請求項8】
前記疑似編目列は、編糸が1周巻かれて交差することでループ状になる疑似捻り目のみからなることを特徴とする請求項5に記載の筒状編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−13763(P2010−13763A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174782(P2008−174782)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】