説明

筒状編地の編成方法、および筒状編地

【課題】伏目処理の始端部と終端部とを直接接合できる筒状編地の編成方法を提供する。
【解決手段】横編機を用いて、前後の針床に筒状に係止される一側編地部(後編地部20)および他側編地部(前編地部10)の編目を伏目処理する。まず、後編地部20よりも編幅方向の外側に、編目(掛け目)からなる始端部0と接続部9を形成する(図1(A))。その始端部0を足掛かりにして、伏目処理用編目列である下段編目列2と上段編目列3を形成し、上段編目列3のいずれかの編目を、後編地部20の編目のうち上段編目列3に隣接する端部編目に重ね合わせることを繰り返す伏目処理を行う。後編地部20に対する処理が終われば、前編地部10についても同様の伏目処理を行う(図1(B))。そして、最後に編成した上段編目列3を、接続部9と接合する(図1(C))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて筒状編地を編成するにあたり、針床に係止される筒状編地のウエール方向端部の編目を伏目処理する筒状編地の編成方法、およびこの筒状編地の編成方法を適用して得られた筒状編地に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機で筒状編地を編成する場合、その筒状編地の最終コースの編目(ウエール方向端部の編目)が解れないように処理する方法として、伏目処理を挙げることができる。従来の伏目処理では、まず針床に係止される筒状編地のウエール方向端部の編目同士を重ね合わせる。そして、重ね合わせた二重の編目(重ね目)に続いて新たな編目を形成し、その新たな編目をさらに筒状編地のウエール方向端部の編目に重ね合わせることを、筒状編地の全周に渡って繰り返す処理である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−65258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の伏目処理では、横編機上で伏目処理の始端部と終端部とを接合できないため、縫製などの後処理により始端部と終端部とを接合する必要がある。それは、筒状編地の最終コースの編目が伏目処理によって、順次針床から外されていくため、伏目処理の終端部を形成した時点で、始端部が既に針床から外されているからである。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、横編機上で伏目処理の始端部と終端部とを接合できる筒状編地の編成方法、およびその編成方法を適用して編成された筒状編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明筒状編地の編成方法は、少なくとも前後一対の針床と、それら針床の編針に編糸を給糸する給糸口とを有し、かつ当該編針に係止される編目を別の編針に目移しが可能な横編機を用いて、前後の針床に筒状に係止される一側編地部および他側編地部のウエール方向端部の編目を伏目処理する筒状編地の編成方法であって、以下の工程A〜Fを備えることを特徴とする。
[工程A]…前記一側編地部と他側編地部よりも編幅方向の外側に、伏目処理の始端部となる複数の編目と、後工程で使用する接続部となる複数の編目と、を連続して形成する。
[工程B]…前記始端部をベース部として規定して、そのベース部のウエール方向に連続する少なくとも1段の伏目処理用編目列を編成する。
[工程C]…工程Bで編成した伏目処理用編目列のうち、最も上段にある上段編目列を前記一側編地部の側に移動させることによって、前記上段編目列のいずれかの編目を、前記一側編地部の編目のうち当該上段編目列に隣接する端部編目に重ね合わせる。
[工程D]…前記一側編地部の側に移動させた上段編目列を新たなベース部として規定し、そのベース部に対して前記工程Bと工程Cと同様の編成を行うことを繰り返し、前記一側編地部を伏目処理する。
[工程E]…工程Dで最後に形成した上段編目列を構成する編目の左右の位置を入れ替えて、その上段編目列を新たなベース部として規定し、工程Dと同様の伏目処理を前記他側編地部についても行う。
[工程F]…前記工程A〜Eを経ることで、前記一側編地部から他側編地部に亘って筒状に周回し、当該一側編地部と他側編地部のウエール方向端部の編目を伏目処理する帯状編地部が形成される。工程Fでは、その帯状編地部の終端部(即ち、工程Eで最後に形成した上段編目列)を、終端部に繋がる編糸を用いて前記工程Aで形成した接続部と接合する。
【0007】
上記工程Aにおける始端部を構成する編目の数は、2以上であり、好ましくは3以上、16以下である。また、工程Aにおける始端部の編目の数と接続部の編目の数とは、異なっていても良いし、同数であっても良い。この始端部の編目と接続部の編目とは交互に形成することが好ましい。さらに、この工程Aより後の工程B〜Dにおいて、始端部を足掛かりにして形成される伏目処理用編目列を構成する編目の数は、工程B〜Dの途中で増減しても良い。ここで、この工程Aの始端部と接続部の形成は、一側編地部と他側編地部の編幅の外側で行われるため、通常掛け目となる。その掛け目に対してさらに編目を形成することで、始端部や接続部を形成しても良い。好ましくは、編成方向を戻しながら形成する捻られた掛け目により始端部と接続部を形成すると良い。
【0008】
上記工程B〜Dにおける伏目処理用編目列は、1段以上であり、好ましくは2段以上、4段以下である。この伏目処理用編目列の段数は、工程B〜Dの途中で増減しても良い。各伏目処理用編目列は、表目のみからなっても良いし、裏目のみからなっても良いし、表目と裏目とが混在していても良い。例えば、各工程で複数段の伏目処理用編目列を編成する場合、ウエール方向に隣接する伏目処理用編目列のうち、一方は表目(あるいは裏目)で統一し、他方は裏目(あるいは表目)で統一する。その他、表目・裏目の形成やミス編成、タック編成を組み合わせて、伏目処理用編目列を編成しても良く、そうすることで、帯状編地部に組織柄を形成することもできる。なお、ここでいう『表目』は、筒状編地の筒の外側から見たときの編目の状態を指す。
【0009】
上記工程C,D(工程E)において上段編目列を一側編地部(他側編目列)に重ねるとき、上段編目列のいずれの編目を一側編地部(他側編目列)に重ねても良い。また、上段編目列の編目を一側編地部(他側編地部)の筒の内側と外側のどちら側に重ねてもかまわない。当該編目を筒の外側に重ねれば、後述する実施形態の図7の写真に示すように、筒状編地のウエール方向端部に盛り上がったような縁部を形成できる。
【0010】
上記工程Fにおいて接合する終端部の編目の数と接続部の編目の数とは、異なっていても良いし、同数であっても良い。特に後者の場合、終端部と接続部とを段差なく接合できるので好ましい。最も好ましくは、終端部と接続部と始端部の編目を同数とすることである。
【0011】
本発明筒状編地の編成方法の一形態として、工程Eにおいて、上段編目列を構成する編目の左右の位置を入れ替える前に、給糸口を前記一側編地部の編幅方向の外側に移動させ、給糸口から延びる編糸を筒状編地の筒の外側に回り込ませることが好ましい。
【0012】
本発明筒状編地の編成方法の一形態として、工程Fにおいて、次の2つの操作を交互に繰り返すことが好ましい。
[操作1]…工程Eの最後に形成された上段編目列と工程Aで形成した接続部との境界部に向かって前記上段編目列の一部の編目を移動させ、それによって境界部に近接する位置に重ね目を形成し、その重ね目に続く新たな編目を形成すること。
[操作2]…前記境界部に向かって前記接続部の一部の編目を移動させ、それによって境界部に近接する位置に重ね目を形成し、その重ね目に続く新たな編目を形成すること。
【0013】
一方、本発明筒状編地は、少なくとも前後一対の針床と、それら針床の編針に編糸を給糸する給糸口とを有し、かつ当該編針に係止される編目を別の編針に目移しが可能な横編機を用いて、筒状に編成された一側編地部および他側編地部のウエール方向端部の編目が伏目処理された筒状編地である。この本発明筒状編地は、前記一側編地部と他側編地部のウエール方向端部の編目は、一側編地部から他側編地部に亘って筒状に周回する帯状編地部により伏目処理されている。そして、その帯状編地部の始端部と終端部とが、終端部に繋がる編糸により接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明筒状編地の編成方法によれば、筒状編地のウエール方向端部(最終コース)の編目が帯状編地部により伏目処理され、かつその帯状編地部の始端部と終端部とが接合された本発明筒状編地を編成できる。この帯状編地部は、従来の伏目処理部において始端部と終端部を接合するために必要とされた縫製などの後処理を必要としない。このように始端部と終端部とが縫製されることなく接合されていると、帯状編地部全体で伸びを吸収でき、帯状編地部に糸切れなどが生じ難い。
【0015】
上述のように、帯状編地部の始端部と終端部とを接合できるのは、本発明筒状編地の編成方法において、伏目処理の始端部(帯状編地部の始端部)を形成すると共に、この始端部に繋がる接続部を形成しておくからである。その接続部は、始端部を足掛かりに筒状編地の最終コースを伏目処理する帯状編地部が形成される間、針床に係止されたままの状態にあり、最終的に帯状編地部の終端部と接合される。接続部は始端部と繋がっているため、帯状編地部の始端部と終端部とが接合される。また、本発明編成方法では、始端部を各編地部よりも編幅方向の外側に形成するため、始端部以降の編成を行う際に、編目の目移しをスムーズに行える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に示すセーターの衿部の端部を伏目処理する手順を示す編成工程のイメージ図であって、(A)は伏目処理を開始していく状態、(B)は衿部を周回状に伏目処理していく状態、(C)は伏目処理を終了する直前の状態を示す。
【図2】伏目処理の開始時における編成工程の前半部分を示す編成工程図である。
【図3】伏目処理の開始時における編成工程の後半部分を示す編成工程図である。
【図4】伏目処理を後針床から前針床に移行する際の編成工程図である。
【図5】伏目処理の終了時における編成工程の前半部分を示す編成工程図である。
【図6】伏目処理の終了時における編成工程の後半部分を示す編成工程図である。
【図7】実施形態に示す編成工程に従って編成されたセーターの衿部の拡大写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、筒状に編成されるセーターの衿部のウエール方向端部を伏目処理する場合を例にして本発明筒状編地の編成方法、およびその編成方法を利用して編成したセーターを図面に基づいて説明する。なお、この実施形態に記載の編成は、左右方向に延び、かつ前後方向に互いに対向する前後一対の針床と、前後の針床間で編目の目移しが可能な2枚ベッド横編機を用いた編成例を説明する。もちろん、使用する横編機は4枚ベッド横編機であっても良い。
【0018】
図1に、セーター100の衿部30を編成した状態から、その衿部30のウエール方向端部を伏目処理するための編成工程に係るイメージ図を示す。まず、図1(A)に示すように、針床に係止される衿部30の前編地部10と後編地部20の編幅方向の外側に、同一の編糸からなる複数の掛け目を形成する。それら複数の掛け目の半分は、衿部30の最終コースの編目を伏目処理する始端部0となり、残りは、伏目処理を完了する際に利用される接続部9となる。
【0019】
次に、図1(B)に示すように、始端部0のウエール方向に続く伏目処理用編目列(下段編目列)2と、その下段編目列2のウエール方向に続く伏目処理用編目列(上段編目列)3を形成する。そして、上段編目列3を構成する複数の編目のうち、いずれかを後編地部(一側編地部)20の端部の編目、即ち、衿部30の編目に重ね合わせ、その重ね目を含む上段編目列3を新たなベース部1として規定し直す。以降は、ベース部1のウエール方向に続く下段編目列2と上段編目列3を編成することと、上段編目列3のいずれかの編目を後編地部20の編目に重ねることと、上段編目列3をベース部1として規定し直すことと、を繰り返し、後編地部20のウエール方向端部の編目を伏目処理していく。後編地部20について伏目処理が終われば、処理方向を反転させ、前編地部(他側編地部)10についても同様の編成を行う。そうすることで、衿部30の編目を伏目処理しつつ、その衿部30の縁に帯状編地部4が編成されていく。
【0020】
最後に、図1(C)に示すように、帯状編地部4の終端部の編目と、帯状編地部4の始端部に繋がる接続部9の編目とを繋ぎ合せて、衿部30の伏目処理を終了する。
【0021】
次に、図1を参照して説明したセーター100の具体的な編成工程を、図2〜6を用いて説明する。なお、本発明筒状編地の編成方法の要点である編成開始時(図2,3)、後編地部20から前編地部10に編成が折り返される折り返し時(図4)、および編成終了時(図5,6)を中心に編成工程を説明する。
【0022】
図2〜6における「アルファベット+数字」は工程番号を示し、上下方向または斜め方向の矢印は目移しの方向を示す(ラッキング動作は省略)。図中のA〜Zは前針床(以下、FB)および後針床(以下、BB)の編針を示す。また、図中の○は針床に係止される編目を、V字は掛け目を、◎は重ね目を、○+V字は編目と掛け目の重ね目を、▽は給糸口を示し、各編成工程で実際に行われる動作は、太線で示す。なお、説明を分かり易くするため、編針の数を実際の編成で使用する数より少なくして説明する。
【0023】
<編成開始時>
図2のS0には、図1(A)に示すセーター100の衿部30の最終コースの編目がFBとBBに係止された状態が示されている。この状態から衿部30の最終コースの編目を本発明筒状編地の編成方法により伏目処理する。
【0024】
まず、S1では、給糸口を紙面右方向に移動させる際に、BBの編針Fに掛け目を形成する。次いで、S2では、給糸口を一旦、紙面左側に振ってから紙面右方向に移動させる際に、FBの編針Eに掛け目を形成する。これらS1とS2の編成と同様の編成を、編針をずらしながら2回繰り返すことで、S2´に示すように、前編地部10と後編地部20の編幅方向の外側にあるFBの編針A,C,EとBBの編針B,D,Fに捻られた掛け目が連続して形成される。これら掛け目のうち、BBに係止される掛け目は始端部0、FBに係止される掛け目は接続部9となる。
【0025】
なお、始端部0と接続部9となる掛け目は、捻られていない掛け目であってもかまわない。その他、まず掛け目を形成し、その掛け目に続く編目を形成して、それら編目を始端部0や接続部9としても良い。また、始端部0と接続部9を構成する編目(掛け目)の数は、2つでも良いし、4つ以上でもかまわない。この編目(掛け目)の数が、帯状編地部4の幅(図1(C)の紙面上下方向の長さ)を決定する。
【0026】
S2´以降、始端部0をベース部1として規定し、後編地部20を伏目処理していく。まず、S3では、S2´においてBBに係止される始端部0(ベース部1)のうち編幅方向のもっとも外側にあるBBの編針Bに係止される掛け目を対向するFBの編針Bに目移しする。そして、S4では、給糸口を紙面右方向に移動させる間に、FBの編針Bの掛け目に続いて新たな編目を形成する。次のS5,S6では、BBの編針Dの掛け目を対向するFBの編針Dに目移しした上、その掛け目に続く新たな編目を形成する。そして、S3,S4およびS5,S6と同様の編成をもう一度繰り返し、S6´に示すように、掛け目からなる始端部0のウエール方向に続く下段編目列2を完成させる。下段編目列2の編目は、後編地部20を伏目処理する際に利用するものであり、筒の外側から見たときに裏目となる。もちろん、下段編目列2を筒の外側から見たときに表目となるようにしても良い。
【0027】
図2に続く図3では、編目の関係をわかりやすくするために、前編地部10の編目と接続部9の掛け目を点線で示す。図3のS7では、図2のS6´においてFBの編針B,D,Fに係止されている下段編目列2の編目を対向するBBの編針B,D,Fに目移しする。そして、S8では、下段編目列2のウエール方向に続く上段編目列3を編成する。上段編目列3の編目は、筒の外側から見たときに表目となる。なお、下段編目列2を筒の外側から見たとき表目となるようにしたのであれば、上段編目列3は裏目とすることが好ましい。
【0028】
S9では、BBの編針H,J,L,N,P,R,T,V,Xに係止される後編地部20の編目を対向するFBの編針H,J,L,N,P,R,T,V,Xに目移しする。そして、S10では、BBの編針B,D,Fに係止される上段編目列3をFBの編針D,F,Hに目移しすることで、上段編目列3を後編地部20の側に移動させると共に、上段編目列3の紙面右側端部の編目を後編地部20の紙面左側端部の編目に重ね合わせる。ここで、上段編目列3は、前編地部10と後編地部20の編幅外に形成される始端部0のウエール方向に繋がる編目列であるので、目移しさせ易い。仮に、従来の伏目処理のように、編地部10,20のウエール方向に連続して下段編目列2と上段編目列3を形成すると、編地部10,20の影響で上段編目列3を目移しし難くなる。
【0029】
S10で移動させた上段編目列3は、後編地部20との重ね目を含めて新たなベース部1として規定する。次のS11では、S10で規定したベース部1のウエール方向に続く、裏目からなる下段編目列2を形成し、S12,S13では下段編目列2のウエール方向に続く、表目からなる上段編目列3を形成する。S11で下段編目列2を編成することで、後編地部20の紙面左側端部の編目(S9におけるFBの編針Hの編目)が伏目処理される。以降、後編地部20の側に移動させた上段編目列3を新たなベース部1として規定し直し、S10〜S13に示す編成と同様の編成を繰り返して、後編地部20の最終コースを伏目処理しつつ、帯状編地部4を編成していく(図1(B)を合わせて参照)。
【0030】
ここで、本実施形態では、上段編目列3のうち、後編地部20に近接する端部の編目(編針F)を、上段編目列3に近接する後編地部20の編目(編針H)の筒の外側に重ねたが(S10参照)、このような重ね方に限定されるわけではない。例えば、当該後編地部20の編幅方向端部の編目(編針H)に重ねる上段編目列3の編目は、BBの編針Bに係止される編目、もしくはBBの編針Dに係止される編目であっても良い。また、上段編目列3の編目を、後編地部20の筒の内側に重ねても良い。
【0031】
<折り返し時>
次に、後編地部20の伏目処理が終了した後、前編地部10の伏目処理に移行する際の編成工程を図4に基づいて説明する。図4では、説明の便宜上、編針Zのさらに右側に編針A´を図示している。
【0032】
図4のT1では、伏目処理のために形成する上段編目列3を、後編地部20の最後の編目(FBの編針X)がある側に向かって移動させ、その最後の編目と、上段編目列3の紙面右側端部の編目とを重ね合わせた状態が示されている。この場合も、編針Xに形成される重ね目を含む上段編目列3を、ベース部1として規定し、T2以降の編成を行う。
【0033】
まず、給糸口を紙面右方向に移動させる間に、T1でベース部1として規定した編針T,V,Xの編目のウエール方向に続く新たな下段編目列2を編成し(T2参照)、その下段編目列2を対向するBBの編針T,V,Xに目移しする(T3)。そして、給糸口を紙面左方向に移動させる間に、その目移しした下段編目列2のウエール方向に続く上段編目列3を編成する(T4)。
【0034】
T4の終了後は、伏目処理をする方向が、これまでと反対になるので、上段編目列3を構成する三つの編目の編幅方向の位置を左右入れ替える必要がある。そこで、T5では、まずBBからFBに上段編目列3を目移しした上で、給糸口をこの上段編目列3よりも編幅方向の外側に移動させる。そして、T6では、BBのラッキングを利用して、FBの編針T,V,Xの編目をそれぞれ、BBの編針A´,Y,Wに目移しする。目移しの順番は、最初がFBの編針Tの編目、その次がFBの編針Vの編目、最後がFBの編針Xの編目である。
【0035】
ここで、T5において、上段編目列をBBからFBに移動させた後に、給糸口を紙面右方向に移動させているのは、給糸口から延びる編糸を筒の外側に配置するためである。そうすることにより、帯状編地部4の折り返し部分(図1(B)の周回矢印の折り返し部分に相当)の見栄えを向上させることができる。
【0036】
次のT7では、FBの編針G,I,K,M,O,Q,S,U,Wに係止されている前編地部10の編目を全て、対向するBBの編針G,I,K,M,O,Q,S,U,Wに目移しする。その結果、T6で左右の位置を入れ替えた後の上段編目列3の紙面左側端部にある編目に、前編地部10の紙面右側端部の編目が重ね合わされる。以降は、T8〜T11に例示するように、後編地部20に対して行った伏目処理と同様の伏目処理を繰り返す。具体的には、T8では、BBの編針A´,Y,Wに係止される上段編目列3をベース部1として規定し、そのベース部1のウエール方向に続く下段編目列2を編成する。T9,T10では、下段編目列2のウエール方向に続く上段編目列3を編成する。そして、T11では、上段編目列3を前編地部10の側に移動させ、上段編目列3の編目と、その上段編目列3に近接する前編地部10の端部の編目とを重ね合わせ、その移動させた上段編目列3(前編地部10の編目との重ね目を含む)を新たなベース部1として規定する。
【0037】
<編成終了時>
最後に、筒状に形成された帯状編地部の始端部と終端部とを繋ぎ合せ、衿部30の伏目処理を完了させる編成工程を図5,6に基づいて説明する。
【0038】
まず、図5のU1では、前編地部10の最後から二つ目の編目に、上段編目列3を重ね合わせた状態が示されている。この重ね目を含む、BBの編針I,K,Mに係止される上段編目列3をベース部1として規定し直し、U2に示すようにベース部1のウエール方向に続く下段編目列2を編成する。
【0039】
次のU3では、下段編目列2を対向するFBの編針I,K,Mに目移しする。そして、U4では、給糸口を紙面右方向に移動させる間に、FBの編針I,Mに係止される編目のウエール方向に続く編目を形成し、U5では、給糸口を紙面左方向に移動させる間に、FBの編針Kに係止される編目のウエール方向に続く編目を形成することで、編目の詰まった上段編目列3を下段編目列2のウエール方向に続いて編成する。
【0040】
U6では、U4、U5において形成した上段編目列(帯状編地部4の終端部)3を、前編地部10の最後の編目に向かって移動させ、当該最後の編目と、上段編目列3の紙面左側端部の編目とを重ね合わせる。続くU7では、FBの編針A,C,Eに係止される接続部9を構成する掛け目を対向するBBの編針A,C,Eに目移しする。そして、U8では、U6において形成したBBの編針Gの重ね目に続く編目を編成すると共に、U7において目移しされることでBBの編針Eの掛け目に続く編目を編成し、上段編目列3と接続部9の一部を、上段編目列3と接続部9の境界部で接続する。
【0041】
以降、図1の接続部9と上段編目列3とを、互いに近づく方向に移動させ、その際に形成される重ね目に交互に編目を形成していくことで、帯状編地部4の終端部と接続部9とを接合する。
【0042】
具体的には、図6のU9に示すように、BBの編針I,Kに係止される上段編目列3の編目をそれぞれ、対向するFBの編針を経由させて、BBの編針G,Iに目移しする。つまり、上段編目列3と接続部9の境界部に向かって上段編目列3のうち境界部から遠い側にある二つの編目を移動させる。このU9により、当該境界部に近接する位置にあるBBの編針Gに重ね目が形成されるので、U10ではその重ね目のウエール方向に続く新たな編目を形成する。
【0043】
続く、U11では、BBの編針A,Cに係止される掛け目をそれぞれ、対向するFBの編針を経由させて、BBの編針C,Eに目移しする。つまり、上記境界部に向かって接続部9のうち境界部から遠い側にある二つの掛け目を移動させる。このU11によりBBの編針Eに重ね目が形成されるので、U12では、その重ね目のウエール方向に続く新たな編目を形成する。
【0044】
以降、BBの編針Iの編目をBBの編針Gに目移しし(U13)、その際に形成される重ね目に続く新たな編目を形成する(U14)。そして、BBの編針Cの掛け目をBBの編針Eに目移しし(U15)、その際に形成される重ね目に続く新たな編目を形成することで(U16)、図1(C)に示すように帯状編地部4の始端部に繋がる接続部9と、帯状編地部4の終端部とを繋ぎ合せて衿部30の伏目処理を完了する。
【0045】
図5,6の編成工程に従って帯状編地部4の始端部と終端部とを接合すれば、その接合部に高い伸縮性を持たせることができる。それは、帯状編地部4の終端部に形成される上段編目列3の編目と、始端部0に形成される接続部9の編目とが、直接重ね合わされて接合されるのではなく、両者3,9に交互に設けられる編目により間接的に接合されるからである。
【0046】
以上説明した図2〜6に示す編成工程に従って編成されたセーター100は、帯状編地部4の始端部0と終端部とが、縫製などの後処理を行わずに接合されたセーター100であり、生産性に優れる。また、このセーター100では、帯状編地部4の始端部0と終端部とが接合されているため、セーター100の衿部30を伸ばした時に、その張力を帯状編地部4全体で受けることができ、帯状編地部4で伏目処理された部分に糸切れなどが生じ難い。
【0047】
また、本実施形態のセーター100は、従来よりも優れた伸縮性を有する伏目により伏目処理された衿部30を備える。そのため、衿部30の縁部の伸縮性が高く、しかもその衿部30の縁部がたるみ難い。衿部30の縁部の伸縮性が向上するのは、衿部30のウエール方向端部の編目を伏目処理する伏目が、ウエール方向に連続する二つの編目(下段編目列2の編目と、その編目に連続する上端編目列3の編目)からなるためである。しかも、本実施形態では、伏目を形成する二つの編目の一方が表目、他方が裏目であるため、当該伏目がコンパクトに畳まれた状態となっているため、伏目がだぶついたようにならない。
【0048】
また、編成されたセーター100の衿部30近傍の拡大写真である図7を見れば、衿部30のウエール方向端部を帯状編地部4により伏目処理することで、その衿部30に帯状の縁を形成できることが分かる。この帯状の縁により衿部30のデザイン性を向上させることができる。ここで、図7では、衿部30に相当する部分はリブ組織で形成される。
【0049】
なお、本発明の実施形態は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、伏目処理用編目列2,3の編成においてミス編成や、タック編成、表目・裏目の編成などを組み合わせて行い、帯状編地部4に組織柄を形成しても良い。
【符号の説明】
【0050】
100 セーター
10 前編地部 20 後編地部
30 衿部
0 始端部
1 ベース部
2 下段編目列(伏目処理用編目列)
3 上段編目列(伏目処理用編目列)
4 帯状編地部
9 接続部
A〜Z,A´ 編針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床と、それら針床の編針に編糸を給糸する給糸口とを有し、かつ当該編針に係止される編目を別の編針に目移しが可能な横編機を用いて、前後の針床に筒状に係止される一側編地部および他側編地部のウエール方向端部の編目を伏目処理する筒状編地の編成方法であって、
前記一側編地部と他側編地部よりも編幅方向の外側に、伏目処理の始端部となる複数の編目と、後工程で使用する接続部となる複数の編目と、を連続して形成する工程Aと、
前記始端部をベース部として規定して、そのベース部のウエール方向に連続する少なくとも1段の伏目処理用編目列を編成する工程Bと、
前記工程Bで編成した伏目処理用編目列のうち、最も上段にある上段編目列を前記一側編地部の側に移動させることによって、前記上段編目列のいずれかの編目を、前記一側編地部の編目のうち当該上段編目列に隣接する端部編目に重ね合わせる工程Cと、
前記一側編地部の側に移動させた上段編目列を新たなベース部として規定し、そのベース部に対して前記工程Bと工程Cと同様の編成を行うことを繰り返し、前記一側編地部を伏目処理する工程Dと、
工程Dで最後に形成した上段編目列を構成する編目の左右の位置を入れ替えて、その上段編目列を新たなベース部として規定し、工程Dと同様の伏目処理を前記他側編地部についても行う工程Eと、
前記工程A〜Eを経ることで、前記一側編地部から他側編地部に亘って筒状に周回して形成され、当該一側編地部と他側編地部のウエール方向端部の編目を伏目処理する帯状編地部におけるその終端部を、終端部に繋がる編糸を用いて、前記工程Aで形成した接続部と接合する工程Fと、
を備えることを特徴とする筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記工程Aで形成する編目は、捻られた掛け目であることを特徴とする請求項1に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記工程Eにおいて、上段編目列を構成する編目の左右の位置を入れ替える前に、給糸口を前記一側編地部の編幅方向の外側に移動させ、給糸口から延びる編糸を筒状編地の筒の外側に回り込ませることを特徴とする請求項1または2に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
前記工程Fにおいて、
工程Eの最後に形成された上段編目列と工程Aで形成した接続部との境界部に向かって前記上段編目列の一部の編目を移動させ、それによって境界部に近接する位置に重ね目を形成し、その重ね目に続く新たな編目を形成することと、
前記境界部に向かって前記接続部の一部の編目を移動させ、それによって境界部に近接する位置に重ね目を形成し、その重ね目に続く新たな編目を形成することと、
を交互に繰り返すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の筒状編地の編成方法。
【請求項5】
少なくとも前後一対の針床と、それら針床の編針に編糸を給糸する給糸口とを有し、かつ当該編針に係止される編目を別の編針に目移しが可能な横編機を用いて、筒状に編成された一側編地部および他側編地部のウエール方向端部の編目が伏目処理された筒状編地であって、
前記一側編地部と他側編地部のウエール方向端部の編目は、一側編地部から他側編地部に亘って筒状に周回する帯状編地部により伏目処理されており、
前記帯状編地部の始端部と終端部とが、終端部に繋がる編糸により接合されていることを特徴とする筒状編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−180616(P2012−180616A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44348(P2011−44348)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】