説明

筒状編地の編成方法

【課題】筒状編地を、捻れ目を発生させることなく、前後編地をウエール数が異なる状態で非対称に、効率よく編成する。
【解決手段】前側編地と後側編地のウエール数に違いがある筒状編地1を編成する際に、筒状編地1を回し込みながら、ウエール数の多い前身頃2を途中で繋ぎ交互に編成する。両側の針床に係止する編地のウエール数を同等としてき、一方の境界線4Rからウエール数の多い前身頃2の編地を、編幅の途中の繋ぎ目2L,2Rまで編成する。他方の境界線4Lが針床間に位置するように回し込み、前身頃2の境界線4Lから繋ぎ目2L,2Rまで編成し、連結するように繋ぐ。一方側と他方側とからの編成では、それぞれの針床で途中まで編地を編成すればよく、予め捻れ目を形成して、編地を回し込みながら交互に繰返すことで、(f)に示すような立体的な筒状編地1を効率よく編成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機で人の体型にフィットする衣類などを、無縫製で製造するための筒状編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前後に一対の針床が設けられる横編機では、前後の針床の編針に交互に、周回編成するように給糸して、前後の編地が両端で連続する筒状編地を編成可能であることが知られている。人体に着用する衣服などは、筒状編地として無縫製で編成することができる。ただし、前後の針床で編成する編地を連続させる編端の部分では、各針床で編地を係止する編針の対向位置が離れないようにする必要がある。編端を係止する編針の対向位置が離れると、連続部分が延されて、編目が粗くなり、製品としての外観を損ねたり、編成中に切断してしまうという問題が生じる。
【0003】
衣服を着用する人体は、たとえば上半身で胸部が背部よりも大きく、胸部に着用する側のウエール数を多くすることが好ましい。このような前後でウエール数が異なる衣服を、無縫製の筒状編地として横編機で編成する場合、ウエール数が多くなる側の編地を、ウエール数が少ない側の編地を編成する針床に移行させて、前後の針床では同等の編幅で編地を編成することが考えられる。ただし、ウエール数が多くなる側の編地の一部を、本来の編目を編成する側の針床ではなく、対向する側の針床で編成することになる。たとえば、前針床で編成する編地の方がウエール数が多い場合に、前針床で編まれた編目が後針床に回し込まれると捻れた状態となり、その上に編目が形成されると捻れ目として固定されてしまう。編目が捻れ目となると、外観を損うという問題が生じる。本件出願人は、そのような場合の捻れ目を防止することができる技術を、立体的なシルエットを有する筒状編地及びその編成方法として開示している(たとえば、特許文献1参照。)この技術では、後針床に回し込まれる編目を前針床で予め捻った状態で形成しておく。予め捻った状態で形成する編目は、後針床に回し込まれると捻れが解消されるので、その上に編目を形成しても問題が生じないようにすることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−9851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
筒状編地で人体が着用する衣服を編成し、たとえばダーツを入れて括れさせる場合、従来は前身と後身とに同一のダーツを入れて、前後の針床で編成する前身と後身の編地にウエール数の差が生じないようにしていた。そのような筒状編地では、非対称な人体には完全にフィットすることはできない。
【0006】
特許文献1に開示されている方法では、筒状編地における前後編地の一方側のウエール数を増減して立体的なシルエットを形成しながら、前後の針床に係止される編地の編幅を同等とし、さらに捻れ目の発生も防止することができる。しかしながら、捻れ目の発生防止を、予め対向する側の針床で逆の捻れ目を形成して、針床間での編目の移行で捻れが解消するようにして行う必要があるので、余分な手間がかかる。
【0007】
本発明の目的は、捻れ目を発生させることなく、前後編地をウエール数が異なる状態で非対称に、しかも効率よく編成することができる筒状編地の編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を備える横編機を使用し、前側の針床に属する前側編地と後側の針床に属する後側編地とが編幅の両側でそれぞれ連続し、前側編地と後側編地とのウエール数に違いがあるように、筒状の編地を編成する方法であって、
ウエール数の多い編地とウエール数の少ない編地との連続部のうち、編幅の一方側の連続部が前後一対の針床間に位置し、ウエール数の少ない編地が属する針床には、ウエール数の少ない編地と、他方側の連続部と、ウエール数の多い編地の端部とを係止し、ウエール数の多い編地が属する針床には、該端部を除くウエール数の多い編地を係止して、両側の針床に係止する編地のウエール数を同等にするように回し込む一方側ステップと、
ウエール数の多い編地とウエール数の少ない編地との連続部のうち、編幅の他方側の連続部が前後一対の針床間に位置し、ウエール数の少ない編地が属する針床には、ウエール数の少ない編地と、一方側の連続部と、ウエール数の多い編地の端部とを係止し、ウエール数の多い編地が属する針床には、該端部を除くウエール数の多い編地を係止して、両側の針床に係止する編地のウエール数を同等にするように回し込む他方側ステップとを交互に含むように繰返しながら、
ウエール数の多い編地に、一方側ステップと他方側ステップとの両方のステップでウエール数の多い編地で係止される範囲内で繋ぎ目を設け、
一方側ステップでは、ウエール数の多い編地の一方側の連続部から繋ぎ目までの一方側部分の編成を行い、
他方側ステップでは、ウエール数の多い編地の他方側の連続部から繋ぎ目までの他方側部分の編成を行って、
該繋ぎ目でウエール数の多い編地の一方側部分と他方側部分とを連結することを特徴とする筒状編地の編成方法である。
【0009】
また本発明で、前記前側編地と前記後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦減少してから増加するように編成されるダーツが形成されることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記ダーツが形成される編地が前記ウエール数の少ない編地であっても、該編地の編成を、前記一方側ステップと前記他方側ステップとで分けて前記繋ぎ目で連結するように行い、
該繋ぎ目は、ウエール方向の同一直線上に位置するように形成し、
該編地の前記一方側部分と前記他方側部分とには、該繋ぎ目が形成するラインから同一の間隔で、該ダーツの目減らしラインから目増やしラインに連なるラインがそれぞれ形成されることを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記前側編地と前記後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦増加してから減少することで膨らみが形成されることを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記前側編地と前記後側編地とのうちの少なくとも一方は、コース編成の進行とともに、ウエール数が増加または減少することを特徴とする。
【0013】
また本発明で、前記ウエール数の多い編地に設ける繋ぎ目は、前記前側編地と前記後側編地との連続部から間隔をあけて、前記一方側ステップと前記他方側ステップとでも同一の針床に係止される編幅の範囲で、同一のウエール上に位置するように編成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少なくとも前後一対の針床を備える横編機を使用し、前側の針床に属する前側編地と後側の針床に属する後側編地とを、回し込みによって、一方側の連続部と他方側の連続部とが前後の針床間に位置する一方側ステップと他方側ステップとを交互に含むように繰返して編成する。ウエール数が多い編地の編成を、一方側ステップと他方側ステップとに分けて、ウエール数が多い編地の編目を編成する針床で編成して、繋ぐので、ウエール数が多い側の編地を、捻れ目を発生させることなく編成することができる。前側と後側との編地をウエール数が異なる状態で非対称に、しかも効率よく編成することができる。
【0015】
また本発明によれば、前側編地と後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦減少してから増加することでダーツが形成されるので、ダーツの部分に括れを生じさせることができる。ウエール数がコース毎に変化しても、そのコースでのウエール数が多い側の編地は、編幅の中間で繋いで編成することができるので、捻れ目を発生させることなく、効率よく編成することができる。
【0016】
また本発明によれば、ダーツが形成される編地では、編幅の途中で連結する位置を、連結される各編地でダーツの目減らしのラインから目増やしのラインに連なるラインが形成される位置の中間に配置されるので、編地の繋ぎ目が形成するラインの見栄えを良くすることができる。
【0017】
また本発明によれば、前側編地と後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦増加してから減少することで膨らみが形成されるので、人体の胸部などの膨らみに適合する筒状編地を編成することができる。ウエール数がコース毎に変化しても、そのコースでのウエール数が多い側の編地は、編幅の中間で繋いで編成することができるので、捻れ目を発生させることなく、効率よく編成することができる。
【0018】
また本発明によれば、前側編地と後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、コース編成の進行とともに、ウエール数が増加または減少するので、編地間のウエール数の差が増加したり減少したりする筒状編地を、無縫製で編成することができる。ウエール数がコース毎に変化しても、そのコースでのウエール数が多い側の編地は、編幅の中間で繋いで編成することができるので、捻れ目を発生させることなく、効率よく編成することができる。
【0019】
また本発明によれば、繋ぎ目を同一のウエール上に形成するので、見栄えを良くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の実施の一形態で編成される筒状編地1の概略的な形状と、基本的な編成の考え方とを示す。なお、参照符号は、図2以下でも、対応する部分には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1(a)は、筒状編地1の前身頃2と後身頃3とを示す。前身頃2と後身頃3とは、人体に着用するときに右側となる境界線4Rと左側となる境界線4Lとで、それぞれ連続する。前身頃2と後身頃3とは、前後に針床を備える横編機のたとえば前針床と後針床とでそれぞれ表目となる編目が編成される。前後一対の針床での針抜き編成や、前後に2段ずつの針床を備える横編機での編成では、筒状ではない単一の編地を前後の針床を使用して編成するような各種の編目を、筒状の編地に対しても編成することができる。
【0022】
図1の筒状編地1では、図の下方から上方に、コースが並ぶ縦方向をコース方向とし、図の左右にウエールが並ぶ横方向をウエール方向として、たとえば下から上に、各コースの編成が繰返される。上端と下端とでは、前身頃2と後身頃3とに、各ウエールでのコース数の差はないけれども、後身頃3は、上下の中間にウエール数が最小の部分が生じるように、ダーツ5が設けられる。ダーツ5によって、前身頃2中に破線で示すような菱形に相当する編地が後身頃3からは除去されることになる。前身頃2中に菱形の形状で示す部分を除去して菱形の中央で編地を連結すると、後身頃3では、ダーツ5は、2本のラインに分けて形成され、各ラインに目減らしライン5aおよび目増やしライン5bが形成される。2本のラインの中央には、繋ぎ目ライン6が形成される。後身頃3の左右の境界線4L,4Rは、中間で括れるように減少してから増加する。
【0023】
図1(b)〜(e)は、筒状編地1を編成する基本的な考え方を示す。図の上方は後針床を示し、下方は前針床を示す。筒状編地1は、基本的に、前身頃2と後身頃3とが編幅の両側の境界線4L,4Rでそれぞれ連続するように、前後の針床を使用して編成される。前身頃2は、前側の針床に属しており、基本的に前側の針床で編成する。後身頃3は、後側の針床に属しており、基本的に後側の針床で編成する。しかしながら、前身頃2と後身頃3との間にウエール数に差がある状態で編成すると問題が発生する。図1(b)に示すように、たとえばウエール数の多い前身頃2は前側の針床、ウエール数の少ない後身頃3は後側の針床に分けて編成すると、境界線4L,4Rとなる部分を連結する編糸が長くなり、編地の外観が損われたり、長く延されるために編成中に切断したりする問題が生じる。
【0024】
後身頃3で目減らしを行うと、図1(b)に示すようなウエール数の差が生じる。これを防ぐために、図1(c)に示すように、前針床で編成された編目が後針床へ回って係止されるようにすると、捻れた状態になる。図1(c)に示す状態で続けて編成を行うと、捻れた状態の編目が捻れ目として固定される。図1(d)および図1(e)は、ウエール数に差があっても、捻れ目を解消させるために本発明で行う編成の考え方を示す。前身頃2の右側部分は、図1(c)から図1(d)の状態に回転して編成し、前身頃2の左側部分は、図1(c)から図1(e)の状態に回転して、それぞれ編成する。この編成では、同方向に周回編成するのではなく、たとえばC字状に折返し編成する。以下、このような編成を「C編み」と称する。
【0025】
また、図1(c)から図1(e)までの間のような編地の回転は、前後の針床間での目移しとラッキングとを組合わせて行うことができる。以下、このような回転を、「回し込み」と称する。図1(d)と図1(e)とを回し込みで繰り返し、それぞれC編みで編地を編成することによって、後身頃3で編幅を減少させてから増加させ、ダーツ5を設けることができる。
【0026】
すなわち、筒状編地1の編成は、少なくとも前後一対の針床を備える横編機を使用し、前側の針床に属する前側編地である前身頃2などと、後側の針床に属する後側編地である後身頃3などとが編幅の両側の境界線4L,4Rでそれぞれ連続するようにして行う。前側編地と後側編地とのウエール数に違いがある筒状編地1を編成する際に、一方側ステップと他方側ステップとを、筒状編地1を回し込みながら交互に繰返す。一方側ステップでは、図1(d)に示すように、ウエール数の多い編地である前身頃2とウエール数の少ない編地である後身頃3との連続部である境界線4L,4Rのうち、編幅の一方側の連続部である境界線4Rが前後一対の針床間に位置し、ウエール数の少ない編地が属する針床には、ウエール数の少ない編地と、他方側の連続部である境界線4Lと、ウエール数の多い編地の端部とを係止し、ウエール数の多い編地が属する針床には、その端部を除くウエール数の多い編地を係止して、両側の針床に係止する編地のウエール数を同等としておく。一方側の連続部である境界線4Rからウエール数の多い編地である前身頃2を編幅の途中まで編成する。他方側ステップでは、図1(e)に示すように、ウエール数の多い編地である前身頃2とウエール数の少ない編地である後身頃3との連続部である境界線4L,4Rのうち、編幅の他方側の連続部である境界線4Lが前後一対の針床間に位置し、ウエール数の少ない編地が属する針床には、ウエール数の少ない編地と、一方側の連続部である境界線4Rと、ウエール数の多い編地の端部とを係止し、ウエール数の多い編地に属する針床には、端部を除くウエール数の多い編地を係止する。このようにして、両側の針床に係止する編地のウエール数を同等としておいて、他方側の連続部である境界線4Lからウエール数の多い編地を、一方側ステップで編成した編幅の途中まで編成して、連結するように繋ぐ。一方側ステップと他方側ステップとでは、それぞれの針床で途中まで編地を編成すればよく、特許文献1のように、予め捻れ目を形成して、捻れ目の発生を防ぐような操作は不要となり、編地を回し込みながら交互に繰返すことで、図1(f)に示すような立体的な筒状編地1を効率よく編成することができる。
【0027】
図2は、図1に示すような筒状編地1を、図1(d)および図1(e)に示すように、回し込む方向を交互に切換えてC編みで編成する際に、編針に給糸する編糸についての糸回しの状態を示す。筒状編地1は、左側の境界線4Lを含む部分と、右側の境界線4Rを含む部分とを、異なる給糸部材から供給する編糸を使用してそれぞれ編成し、相互間を繋ぐ部分で折返すように編成する。図2(a)は、ウエール数の多い前身頃2に繋ぎ目2L,2Rを設けるとともに、ウエール数の少ない後身頃3でも、ダーツ5の中央で折り返すように編成し、図1に示すようなダーツ5の中央に繋ぎ目3Cによる繋ぎ目ライン6が形成されるように編成する糸回しの例を示す。繋ぎ目2L,2R;3Cでは、たとえばインターシャ編みと同様に、相手側の編目にタックして繋ぐ。両側の編地で、相互にタックするようにすることもでき、片側のみがタックするようにすることもできる。図2(b)は、後身頃3では繋ぎ目を設けず、境界線4L,4R間を編成する糸回しの例を示す。
【0028】
図2(a)のように、後身頃3でもダーツ5の中央で折返すようにすれば、繋ぎ目3Cを目立たなくすることができる。前身頃2は、前側の針床で全体を同時に編成することができないので、繋ぎ目2L,2Rを必ず設ける必要がある。この繋ぎ目2L,2Rは、たとえば脇線となるような目立ちにくい位置に設定することが好ましい。すなわち、ウエール数の少ない編地、たとえば後身頃3は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦減少してから増加することでダーツ5が形成されるので、ダーツ5の部分に括れを生じさせることができる。ダーツ5が形成される編地、たとえば後身頃3では、編幅の途中で連結する位置を、ダーツ5の中央の繋ぎ目ライン6として設けるので、編地の繋ぎ目3Cを目立たなくすることができる。
【0029】
図3は、図2(a)に示すような糸回しを、筒状編地1の回し込みとともに行ってダーツ5を形成するために、後身頃3のウエール数を減少させる編成の過程を示す。編成のために編糸を供給する給糸部材は、2つ使用する。ただし、1つの給糸部材を使用するように説明している途中で、さらに他の給糸部材に切換えるように、3以上の給糸部材を使用することは可能である。Sのステップでは、前身頃2と後身頃3とが同一の編幅を有するように編成する。第1のステップで、後身頃3を、繋ぎ目3Cの両側で1目ずつ目減らしを行い、ウエール数が前身頃2に比較して2目少ない状態とする。
【0030】
第2のステップでは、第1のステップと同様に、後身頃3の両側で1目ずつ目減らしを行う。前身頃2の両端部分を前側の針床から後側の針床に目移しし、前後の針床で係止する編地のウエール数を同等とする。前後の針床でのウエール数の差は、両側で1ずつであるので、前側の針床の両端の編針に係止されている編目を後側の針床の両端に係止されている編目に重ねて、前後のウエール数を同等とする。筒状編地1全体としては、ウエール数が4減少することになる。この結果、境界線4L,4Rは、後側の針床へ回り込む。
【0031】
第3のステップでは、右側の境界線4Rが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第4のステップでは、針床の左側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Rから繋ぎ目3Cまで後身頃3の右半分を1コース編成し、第5のステップでは、繋ぎ目3Cから折返して境界線4Rまで、後身頃3の右半分を1コース編成する。第4のステップと第5のステップとで、後身頃3の右半分が2コース編成されるC編みが行われる。第6のステップでは、境界線4Rから左側の繋ぎ目2Lまで、前身頃2を1コース編成する。第7のステップでは、左側の繋ぎ目2Lから折返して、境界線4Rまで、前身頃2を1コース編成する。第6のステップと第7のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Rから左側の繋ぎ目2Lまでの部分が2コース編成されるC編みが行われる。第7のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の左側で待機する。
【0032】
第8のステップでは、左側の境界線4Lが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第9のステップでは、針床の右側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Lから繋ぎ目3Cまで後身頃3の左半分を1コース編成し、第10のステップでは、繋ぎ目3Cから折返して境界線4Lまで、後身頃3の左半分を1コース編成する。第9のステップと第10のステップとで、後身頃3の左半分が2コース編成される。第11のステップでは、境界線4Lから右側の繋ぎ目2Rまで、前身頃2を1コース編成する。第12のステップでは、右側の繋ぎ目2Rから折返して、境界線4Lまで、前身頃2を1コース編成する。第11のステップと第12のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Lから右側の繋ぎ目2Rまでの部分が2コース編成される。第12のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の右側で待機する。なお、前身頃2のうち、左側の繋ぎ目2Lと右側の繋ぎ目2Rとの間となる部分は、第6のステップ、第7のステップでも編成されているので、合計4コース分編成されることになる。
【0033】
第13のステップでは、右側の境界線4Rが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第14のステップでは、針床の左側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Rから繋ぎ目3Cまで後身頃3の右半分を1コース編成し、第15のステップでは、繋ぎ目3Cから折返して境界線4Rまで、後身頃3の右半分を1コース編成する。第14のステップと第15のステップとで、後身頃3の右半分が2コース編成される。後身頃3の右半分は、第4のステップと第5のステップとで2コース編成されているので、合計4コースが編成されることになる。第16のステップでは、境界線4Rから右側の繋ぎ目2Rまで、前身頃2を1コース編成する。第17のステップでは、右側の繋ぎ目2Rから折返して、境界線4Rまで、前身頃2を1コース編成する。第16のステップと第17のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Rから右側の繋ぎ目2Rまでの部分が2コース編成される。前身頃2のうち、境界線4Rから右側の繋ぎ目2Rまでの部分は、第6のステップと第7のステップとでの2コース分の編成にも含まれているので、合計4コース分編成されることになる。第17のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の左側で待機する。
【0034】
第18のステップでは、左側の境界線4Lが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第19のステップでは、針床の右側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Lから繋ぎ目3Cまで後身頃3の左半分を1コース編成し、第20のステップでは、繋ぎ目3Cから折返して境界線4Lまで、後身頃3の左半分を1コース編成する。第19のステップと第20のステップとで、後身頃3の左半分が2コース編成される。後身頃3の左半分は、第9のステップと第10のステップとでも2コース分編成されているので、合計4コース分編成されることになる。第21のステップでは、境界線4Lから左側の繋ぎ目2Lまで、前身頃2を1コース編成する。第22のステップでは、左側の繋ぎ目2Lから折返して、境界線4Lまで、前身頃2を1コース編成する。第21のステップと第22のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Lから左側の繋ぎ目2Lまでの部分が2コース編成される。前身頃2のうち、境界線4Lから左側の繋ぎ目2Lまでの部分は、第11のステップと第12のステップとでの2コース分の編成にも含まれているので、合計4コース分編成されることになる。第22のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の右側で待機する。第23のステップでは、第22のステップまでの編成が終了した時点の筒状編地の状態を示す。周方向の目数は第2のステップと同じであり、第4〜第22のステップにより、前身頃2と後身頃3とは各4コースずつ編成されている。この4コースを編成する間に、後身頃3を繋ぎ目3Cの両側で2目ずつ合計4目ウエール数を減少させた筒状編地1を得ることができる。
【0035】
以上のように、第1のステップから第22のステップまでを1サイクルとして、同様に繰返すと、後身頃3のウエール数を、4コース毎に4目ずつ減少させていくことができる。
【0036】
なお、繋ぎ目2R,2Lは、編成中に、針床に係止される編地の端部から離しておく必要がある。たとえば前身頃2の繋ぎ目2R,2Lは、目減らしを繰返すと、前針床に係止される編地の端部へ近づいていく。後身頃3のウエール数が最小になっても、前身頃2の繋ぎ目2R,2Lは、端部にはかからず、さらに後針床へ回り込むようなことがないようにすると、境界線4R,4Lから一定の目数の位置に繋ぎ目ラインを形成し、見栄えを良くすることができる。以下に示すような目増やしの場合も同様の考え方で繋ぎ目2R,2Lを設けるようにすれば、同一のウエール上に繋ぎ目ラインを出現させることができる。
【0037】
図4は、図2(a)に示すような糸回しを、筒状編地1の回し込みとともに行って、ダーツ5を形成するために後身頃3のウエール数を増加させる編成の過程を示す。編成のために編糸を供給する給糸部材は、2つ使用する。ただし、1つの給糸部材を使用するように説明している途中で、さらに他の給糸部材に切換えるように、3以上の給糸部材を使用することは可能である。
【0038】
Sのステップは、図3の第23のステップから第1〜第22のステップを2サイクル繰返した状態とする。説明の便宜上、このSの状態から、目数が増える場合の工程を説明する。図1に示すようなダーツ5では、後身頃3のウエール数が最小になっている状態からウエール数を増加させるけれども、糸回しの考え方は基本的に同様である。
【0039】
第1のステップで、後身頃3を、たとえば中央の繋ぎ目3Cの両側で1目ずつ目増やしを行い、ウエール数が前身頃2に比較して2目多い状態とする。第2のステップでは、第1のステップと同様に、中央の繋ぎ目3Cの両側で1目ずつ目増やしを行い、後身頃3の両端部分を後側の針床から前側の針床に目移しし、前後の針床で係止する編地のウエール数を同等とする。その結果、後針床の編目が前針床に回り込む。
【0040】
第3のステップでは、右側の境界線4Rが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第4のステップでは、針床の左側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Rから中央の繋ぎ目3Cまで後身頃3の右半分を1コース編成し、第5のステップでは、中央の繋ぎ目3Cから折返して境界線4Rまで、後身頃3の右半分を1コース編成する。第4のステップと第5のステップとで、後身頃3の右半分が2コース編成される。第6のステップでは、境界線4Rから左側の繋ぎ目2Lまで、前身頃2を1コース編成する。第7のステップでは、左側の繋ぎ目2Lから折返して、境界線4Rまで、前身頃2を1コース編成する。第6のステップと第7のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Rから左側の繋ぎ目2Lまでの部分が2コース編成される。第7のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の左側で待機する。
【0041】
第8のステップでは、左側の境界線4Lが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第9のステップでは、針床の右側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Lから中央の繋ぎ目3Cまで後身頃3の左半分を1コース編成し、第10のステップでは、中央の繋ぎ目3Cから折返して境界線4Lまで、後身頃3の左半分を1コース編成する。第9のステップと第10のステップとで、後身頃3の左半分が2コース編成される。第11のステップでは、境界線4Lから右側の繋ぎ目2Rまで、前身頃2を1コース編成する。第12のステップでは、右側の繋ぎ目2Rから折返して、境界線4Lまで、前身頃2を1コース編成する。第11のステップと第12のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Lから右側の繋ぎ目2Rまでの部分が2コース編成される。第12のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の右側で待機する。なお、前身頃2のうち、左側の繋ぎ目2Lと右側の繋ぎ目2Rとの間となる部分は、第6のステップ、第7のステップでも編成されているので、合計4コース分編成されることになる。
【0042】
第13のステップでは、右側の境界線4Rが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第14のステップでは、針床の左側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Rから中央の繋ぎ目3Cまで後身頃3の右半分を1コース編成し、第15のステップでは、中央の繋ぎ目3Cから折返して境界線4Rまで、後身頃3の右半分を1コース編成する。第14のステップと第15のステップとで、後身頃3の右半分が2コース編成される。後身頃3の右半分は、第4のステップと第5のステップとで2コース編成されているので、合計4コースが編成されることになる。第16のステップでは、境界線4Rから右側の繋ぎ目2Rまで、前身頃2を1コース編成する。第17のステップでは、右側の繋ぎ目2Rから折返して、境界線4Rまで、前身頃2を1コース編成する。第16のステップと第17のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Rから右側の繋ぎ目2Rまでの部分が2コース編成される。前身頃2のうち、境界線4Rから右側の繋ぎ目2Rまでの部分は、第6のステップと第7のステップとでの2コース分の編成にも含まれているので、合計4コース分編成されることになる。第17のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の左側で待機する。
【0043】
第18のステップでは、左側の境界線4Lが前後の針床間に位置するように回し込みを行う。第19のステップでは、針床の右側に待機している給糸部材を使用し、境界線4Lから中央の繋ぎ目3Cまで後身頃3の左半分を1コース編成し、第20のステップでは、中央の繋ぎ目3Cから折返して境界線4Lまで、後身頃3の左半分を1コース編成する。第19のステップと第20のステップとで、後身頃3の左半分が2コース編成される。後身頃3の左半分は、第9のステップと第10のステップとでも2コース分編成されているので、合計4コース分編成されることになる。第21のステップでは、境界線4Lから左側の繋ぎ目2Lまで、前身頃2を1コース編成する。第22のステップでは、左側の繋ぎ目2Lから折返して、境界線4Lまで、前身頃2を1コース編成する。第21のステップと第22のステップとで、前身頃2のうち、境界線4Lから左側の繋ぎ目2Lまでの部分が2コース編成される。前身頃2のうち、境界線4Lから左側の繋ぎ目2Lまでの部分は、第11のステップと第12のステップとでの2コース分の編成にも含まれているので、合計4コース分編成されることになる。第22のステップが終了すると、各コースの編成のために編糸を供給した給糸部材は針床の右側で待機する。第23のステップは、第22のステップが完了した時点での筒状編地1の状態であり、第2のステップと周方向での目数は同一であり、前身頃2と後身頃3とは各4コースずつ編成されている。このような編成の間に、後身頃3を中央の繋ぎ目3Cの両側で2目ずつ合計4目ウエール数を増加させた筒状編地1を得ることができる。
【0044】
以上のように、第1のステップから第22のステップまでを1サイクルとして、同様に繰返すと、後身頃3のウエール数を増加させていくことができる。
【0045】
以上で説明しているダーツ5とは逆に、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦増加してから減少することで膨らみを形成し、人体の胸部などの膨らみに適合する筒状編地を編成することもできる。ウエール数の多い編地とウエール数の少ない編地とのうちの少なくとも一方は、コース編成の進行とともに、ウエール数が増加または減少する場合、少なくともウエール数が多い編地を繋ぎながらC編みすることによって、捻れ目の発生無く編成することができる。
【0046】
図5は、図2に示すような糸回しで編成する後身頃3の編地を示す。図5(a)は図2(a)に示すように繋ぎ目を後身頃3の中央に形成し、ダーツ5の中間に繋ぎ目ライン6が形成されるようにしている状態を示す。図5(b)は、図2(b)に示すように繋ぎ目を両脇に形成し、ダーツ5とは別にしている状態を示す。
【0047】
図6は、本発明の実施の他の形態として、ダーツ5と繋ぎ目ライン6との位置関係の例を示す。図6(a)は、ダーツ5を後身頃3の左右に分けて形成し、さらに繋ぎ目ライン6を各ダーツ5の中間に形成している例を示す。繋ぎ目ライン6間を、独立の給糸部材を使用し編成すれば、このような編成も可能となる。図6(b)は、繋ぎ目ライン6の片側にのみダーツ5を形成している状態を示す。ダーツ5や繋ぎ目ライン6は、左右対称に設けるばかりではなく、左右の一方にのみ設けるようにしても、前後で非対称な筒状編地1を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の一形態で編成される筒状編地1の概略的な形状と、基本的な編成の考え方とを示す図である。
【図2】図1に示すような筒状編地1を、回し込む方向を交互に切換えてC編みで編成する際に、編針に給糸する編糸についての糸回しの状態を示す図である。
【図3】図2(a)に示すような糸回しを、筒状編地1の回し込みとともに行って、ダーツ5を形成するために後身頃3のウエール数を減少させる編成の過程を示す図である。
【図4】図2(a)に示すような糸回しを、筒状編地1の回し込みとともに行って、ダーツ5を形成するために後身頃3のウエール数を増加させる編成の過程を示す図である。
【図5】図2に示す糸回しで形成され編地を示す図である。
【図6】本発明の実施の他の形態としてのダーツ5の形状を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 筒状編地
2 前身頃
2L,2R,3C 繋ぎ目
3 後身頃
4L,4R 境界線
5 ダーツ
6 繋ぎ目ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備える横編機を使用し、前側の針床に属する前側編地と後側の針床に属する後側編地とが編幅の両側でそれぞれ連続し、前側編地と後側編地とのウエール数に違いがあるように、筒状の編地を編成する方法であって、
ウエール数の多い編地とウエール数の少ない編地との連続部のうち、編幅の一方側の連続部が前後一対の針床間に位置し、ウエール数の少ない編地が属する針床には、ウエール数の少ない編地と、他方側の連続部と、ウエール数の多い編地の端部とを係止し、ウエール数の多い編地が属する針床には、該端部を除くウエール数の多い編地を係止して、両側の針床に係止する編地のウエール数を同等にするように回し込む一方側ステップと、
ウエール数の多い編地とウエール数の少ない編地との連続部のうち、編幅の他方側の連続部が前後一対の針床間に位置し、ウエール数の少ない編地が属する針床には、ウエール数の少ない編地と、一方側の連続部と、ウエール数の多い編地の端部とを係止し、ウエール数の多い編地が属する針床には、該端部を除くウエール数の多い編地を係止して、両側の針床に係止する編地のウエール数を同等にするように回し込む他方側ステップとを交互に含むように繰返しながら、
ウエール数の多い編地に、一方側ステップと他方側ステップとの両方のステップでウエール数の多い編地で係止される範囲内で繋ぎ目を設け、
一方側ステップでは、ウエール数の多い編地の一方側の連続部から繋ぎ目までの一方側部分の編成を行い、
他方側ステップでは、ウエール数の多い編地の他方側の連続部から繋ぎ目までの他方側部分の編成を行って、
該繋ぎ目でウエール数の多い編地の一方側部分と他方側部分とを連結することを特徴とする筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記前側編地と前記後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦減少してから増加するように編成されるダーツが形成されることを特徴とする請求項1記載の筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記ダーツが形成される編地が前記ウエール数の少ない編地であっても、該編地の編成を、前記一方側ステップと前記他方側ステップとで分けて前記繋ぎ目で連結するように行い、
該繋ぎ目は、ウエール方向の同一直線上に位置するように形成し、
該編地の前記一方側部分と前記他方側部分とには、該繋ぎ目が形成するラインから同一の間隔で、該ダーツの目減らしラインから目増やしラインに連なるラインがそれぞれ形成されることを特徴とする請求項2記載の筒状編地の編成方法。
【請求項4】
前記前側編地と前記後側編地とのうちの少なくとも一方の編地は、編幅の中間部分に、コース編成の進行とともに、ウエール数が一旦増加してから減少することで膨らみが形成されることを特徴とする請求項1記載の筒状編地の編成方法。
【請求項5】
前記前側編地と前記後側編地とのうちの少なくとも一方は、コース編成の進行とともに、ウエール数が増加または減少することを特徴とする請求項1記載の筒状編地の編成方法。
【請求項6】
前記ウエール数の多い編地に設ける繋ぎ目は、前記前側編地と前記後側編地との連続部から間隔をあけて、前記一方側ステップと前記他方側ステップとでも同一の針床に係止される編幅の範囲で、同一のウエール上に位置するように編成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の筒状編地の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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