説明

筺体における突合せ部位の接合構造および突合せ部位の接合方法

【課題】厨房機器を構成する調理庫等の筺体を構成する各パネル同士の互いの突合せ部位を溶接して接合する際に、当該突合せ部位にフィラを供給することなく溶接することができる手段を採用して、各パネル同士の突合せ部位の筺体内側からの自動溶接を可能として、溶接の作業工程や接合部位の品質に関わる問題に対処する。
【解決手段】筺体であるケース10を構成する各パネル11,12同士の突合せ部位である各外側フランジ部11b,12b間にプレート14を介在させて、プレート14の先端部を突合せ部位からケース10内側へ所定長さ突出し、当該突出部位をケース10の内側から自動溶接して、当該突合せ部位に溶接面が滑らかな溶接部を形成して当該突合せ部位を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厨房機器を構成する一面側に開口部を有する筺体の各壁部を構成する金属製のパネル同士が互いに突合された突合せ部位を溶接して接合してなる突合せ部位の接合構造、および、当該突合せ部位の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチームコンベクションオーブンの調理庫、冷蔵庫の内箱、食器洗浄機の洗浄水タンク等、厨房機器を構成する筺体の壁部は、金属製のトップパネル、複数のサイドパネル、および、ボトムパネル等にて構成されている。かかる構成の筺体の形成では、先ず、各パネルを筺状に仮組付けしてなる筺状組立体に形成される突合せ部位を、当該筺状組立体の開放状態にある一側を通して、当該筺状組立体の内側から、例えば、プラズマ溶接等にて溶接することによって接合する手段が採られ、開放状態にされている一側を、筺状組立体の内側からの溶接が終わった後に曲げ加工している。
【0003】
当該筺状組立体における各パネル同士の突合せ部位の溶接による接合では、作業工程に関しては、以下の問題を挙げることができる。すなわち、作業者が筺状組立体の内部に潜り込んでプラズマ溶接を手作業で行うことから、作業者にとっては作業環境が良くなく、また、歪みの大きい材料であるパネル同士の突合せ部位を溶接することから、筺状組立体の仮組付けが難しくて、突合せ部位における仮組付けする位置も数多くする必要がることから、溶接作業およびその準備作業に多くの時間を要することになる。
【0004】
また、当該突合せ部位の筺状組立体内からの溶接を終了した後には、開放状態にされている一側を曲げ加工する必要があり、この結果、溶接工程が2工程になって、作業効率が悪いことになる。
【0005】
当該筺状組立体における各パネル同士の突合せ部位の溶接による接合では、接合部位の品質に関しては、以下の問題を挙げることができる。すなわち、作業者が筺状組立体の内側からパネル同士の突合せ部位を手作業で溶接することから、仕上がりにバラツキが生じることになる。
【0006】
また、手作業のプラズマ溶接等の溶接では、溶接ビートの盛り上りが均一でなくて凹凸が大きいため、突合せ部位にこのような溶接面を有する筺体内で被処理物を処理する場合には、処理作業中に発生する油煙、発生ガス、被処理物の残渣等が溶接面に強固に付着して溶接面を酷く汚すおそれがあり、このように汚れた溶接面をきれいに掃除することは非常に難しい。
【0007】
溶接面が十分に清掃されずに汚れが残ると、当該汚染部位からは雑菌が繁殖し易くなって衛生上の問題が生じるおそれがあり、また、当該汚染部位から臭気が発生して、当該臭気が筺体内でその後に処理される被処理物や処理済み物に移って、処理済み物等の品質を低下させることになる。
【0008】
当該筺状組立体における各パネル同士の突合せ部位の溶接の作業工程に関するこのような問題、および、当該突合せ部位における接合部位の品質に関するこのような問題に対処するためには、各パネル同士の突合せ部位の溶接作業を自動的に行う自動溶接手段を採ることが好ましく、特に、接合部位の品質に関する問題に対処するためには、溶接時にフィラを自動供給するための自動供給手段を採ることが好ましい。
【0009】
金属製の各パネル同士の突合せ部位を溶接する方法や、金属製の各パイプ同士の突合せ部位を溶接する方法には種々の方法があり、これらの溶接方法としては、例えば、「隅肉溶接方法」、「レーザ溶接方法」、「ステンレス鋼の突合せ溶接方法」等の名称でそれぞれ提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。
【0010】
特許文献1にて提案されている「隅肉溶接方法」は、一方の母材を他方の母材の中間部に直交状態に突合せして形成された隅部に、断面三角形状の隅肉脚部を非消耗電極式アーク溶接(ティグ溶接)にて形成する溶接方法である。当該溶接方法では、両母材の直交状の突合せ部位に予め、隅肉脚部を形成するための長尺の金属成形材を沿わせてその長手方向の複数の箇所で仮溶接して、当該金属成形材をティグ溶接で溶融させて融合接合させる溶接方法を採っている。当該溶接方法では、隅肉脚部を形成するための長尺の金属成形材を、両母材の直交状の隅部に沿わせて、その長手方向の複数の箇所で仮溶接する手段が不可欠である。
【0011】
また、特許文献2にて提案されている「レーザ溶接方法」は、燃料タンク等の容器を形成する2枚の金属板を、互いに重合されているフランジのフランジ継目にて溶接して接合するものである。当該レーザ溶接方法は、溶接ワイヤを両金属板のフランジ継目に供給することが不可欠であって、両フランジ間を拡開して溶接ワイヤを供給し、供給しつつある溶接ワイヤにレーザ照射して、溶接ワイヤを溶融して接合する溶接方法を採っている。当該溶接方法では、溶接ワイヤをフランジ継目に供給する手段が不可欠である。
【0012】
また、特許文献3にて提案されている「ステンレス鋼の突合せ溶接方法」は、2本のステンレスパイプの突合せ部に、硫黄成分の含有量がステンレスパイプより所定量多いステンレス製のインサートを挟込み、ティグ溶接によってステンレスパイプを1本に溶接する方法である。当該溶接方法では、各ステンレスパイプの突合せ部位にインサートを介在させる手段が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−40043号公報
【特許文献2】特許第2981738号特許公報
【特許文献3】特許第3305791号特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、本発明が形成の対象とする筺体においては、当該筺体における各パネル同士の突合せ部位の溶接の作業工程に関する上記した問題、および、接合部位の品質に関する上記した問題に対処するためには、上記したように、各パネル同士の突合せ部位の溶接作業を、各パネルを仮組付けしてなる筺状組立体の内部から自動的に行うことができる自動溶接手段を採ることが好ましい。かかる自動溶接手段が可能であるためには、一般には、各パネル同士の突合せ部位に、溶接部位を形成するためのフィラを自動的に供給することが不可欠である。
【0015】
しかしながら、各パネル同士を互いに突合せた突合せ部位を、筺状組立体内にてその内側から溶接して接合する場合には、当該突合せ部位に、上記した各特許文献にて示されている金属形成材、溶接ワイヤ、インサート等に相当するフィラを自動的に供給することはできない。何故ならば、筺状組立体の一面側開口部(筺体の一面側開口部)は狭く、フィラを自動供給する装置が筺状組立体と接触することになって、同装置が有するロボットアームを筺状組立体内に自由に挿入することが難しく、たとえ、ロボットアームを筺状組立体内に挿入することができたとしても、筺状組立体内の空間が狭いため、ロボットアームの稼働範囲には自ずと限界があるからである。
【0016】
このため、筺体を構成する各パネル同士の突合せ部位を、筺状組立体(筺体)の内側から自動溶接する場合には、フィラを自動的に供給し得る装置を使用することはできず、この結果、当該突合せ部位を筺状組立体の内側から自動的に溶接することは、不可能となる。
【0017】
従って、本発明の目的は、筺体を構成する各パネル同士の互いの突合せ部位を溶接する際に、当該突合せ部位にフィラを供給することなく溶接することができる手段を採用して、各パネル同士の突合せ部位の筺状組立体(筺体)内の内側からの自動的な溶接を可能として、上記した溶接の作業工程に関する問題、および、上記した接合部位の品質に関する問題に対処することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、筺体における突合せ部位の接合構造、および、当該突合せ部位の接合方法に関する。本発明が適用対象とする筺体は、厨房機器を構成する一面側に開口部を有する筺体であり、例えば、スチームコンベクションオーブンの調理庫、冷蔵庫の内箱、食器洗浄機の洗浄水タンク等、厨房機器を構成する筺体である。
【0019】
本発明に係る筺体における突合せ部位の接合構造は、筺体の各壁部を構成する金属製のパネル同士が互いに突合された突合せ部位を溶接により接合してなる接合構造であり、互いに突合される各パネルの先端部には互いに対向して当該筺体の外側へ所定長さ延びる外向フランジ部を備えるとともに、互いに対向する外向フランジ部間には同フランジ部間から当該筺体の内側へ所定長さ突出する金属製のプレートが介在していて、前記プレートの突出部位が溶接にて前記両フランジ部間に溶着して接合部位を形成していることを特徴とするものである。
【0020】
本発明に係る筺体における突合せ部位の接合構造においては、前記各パネルの外向フランジ部の基端側は断面円弧状を呈していて、前記各パネルが互いに突合う突合せ部位に前記プレートの突出部位が位置して当該筺体の内側へ開口する凹部が形成されていて、前記両パネルが形成する前記凹部にて前記プレートの突出部位が溶接により溶着される構成を採ることができる。
【0021】
当該構成の接合構造においては、前記プレートにおける前記突出部位の当該筺体の内側への突出長さの短長を調整することにより、前記突出部位が溶着されて形成される接合部位の断面形状(溶接形状)を、前記両プレートの内面に対して凹形状、同一面形状、または、円弧状に膨出する突出形状とすることができる。
【0022】
本発明に係る突合せ部位の接合方法は、筺体の壁部を構成するパネル同士の突合せ部位を溶接して接合する接合方法であり、当該接合方法においては、溶接に先立って、前記各パネルが有する外向フランジ部間に前記プレートを介在した状態で同各パネルを突合わせて、前記各パネルおよび前記プレートに形成されている位置決め用の穴を互いに合わせて位置決めしてカシメを施して筺状組立体を形成し、その後、当該筺状組立体の突合せ部位に位置する前記プレートの突出部位を、当該筺状組立体の一面側開口部を通して、筺状組立体の内側からティグ溶接にて溶着することを特徴とするものである。
【0023】
本発明に係る突合せ部位の接合方法は、トップパネル、ボディパネル、および、ボトムパネルからなる筺体の形成に有効に実施することができる。この場合、当該突合せ部位の溶接は、これらのパネルを仮組付けしてなる筺状組立体の一面側、例えば、ボディパネルの一面側開口部を通して実施することができる。当該接合方法では、トップパネル、ボディパネル、および、ボトムパネルの各外向フランジ間に前記プレートをそれぞれ介在させて各突合わせ部位を位置決めしてカシメを施し、その後、突合せ部位に位置する前記プレートの突出部位を、当該筺状組立体の一ボディパネル一面側開口部を通してティグ溶接にて溶着するようする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る筺体における突合せ部位の接合構造の形成、および、当該突合せ部位の接合方法では、各パネルの先端の外向フランジ部の間に介在させた金属製のプレートの、両フランジ部の間から筺体の内側へ所定長さ突出する突出部位を、溶接して溶着する手段を採っている。このため、当該接合構造の形成、および、各パネル同士の突合せ部位の接合時には、溶接部位を形成するためのフィラを供給する必要が全くなく、フィラを自動的に供給する手段を使用することなく、パネル同士の突合せ部位を筺体(筺状組立体)の内側から自動的に溶接することができる。
【0025】
換言すれば、本発明に係る接合構造を採用すれば、および、本発明に係る突合せ部位の接合方法を採用すれば、フィラを自動的に供給する装置を使用することなく、自動溶接装置を使用して、各パネル同士の突合せ部位を筺体(筺状組立体)の内側から自動溶接することができ、上記した「溶接の作業工程に関する問題」、および、上記した「接合部位の品質に関する問題」を解消することができる。
【0026】
本発明では、筺体を形成する各パネル同士の突合せ部位を、筺体(筺状組立体)の内側から自動溶接する手段を採ることにより、当該突合せ部位に形成される溶接部の溶接面が滑らかな表面となり、溶接手段として特にティグ溶接手段を採れば、当該突合せ部位に形成される溶接部の溶接面が一層滑らかな表面となる。
【0027】
このため、当該突合せ部位の溶接部に、このような滑らかな溶接面を有する筺体内で被処理物を処理する場合には、処理作業中に発生する油煙、発生ガス、被処理物や処理済み物の残渣等が当該溶接面に強固に付着するようなことはなく、清掃作業が容易で、当該溶接面における汚れの取り残しが皆無またはほとんどない。従って、当該筺体内での次回の被処理物の処理においては、臭気が発生することはなくて、被処理物や処理済み物に臭いが付着することがなく、処理済み物等の品質の低下を防止すことができるとともに、当該筺体内での雑菌の繁殖を大きく抑制することができて、当該筺体内を清潔に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が適用対象とする筺体を調理庫とするスチームコンベクションオーブン内を概略的に示す側面図である。
【図2】当該筺体の壁部を構成する各パネルを仮組付けする前の状態を示す斜視図である。
【図3】各パネル同士の突合せ部位である外向フランジ部間に介在させる金属製のプレートの斜視図である。
【図4】各パネル同士を仮組付けしてなる筺状組立体の一部を模式的に示す縦断側面図(a)、および、当該筺状組立体が有する一突合せ部位を拡大して示す縦断面図(b)である。
【図5】当該筺体を構成する各パネル同士の突合せ部位を示す縦断面図(a)、および、当該突合せ部位の接合構造を示す縦断面図(b)〜(d)である。
【図6】当該筺体を構成する各パネル同士の突合せ部位の他の形態を示す縦断面図(a)〜(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、筺体における突合せ部位の接合構造、および、当該突合せ部位の接合方法に関する。図1には、本発明が適用対象とする筺体を装備するスチームコンベクションオーブンを示している。当該オーブンの調理庫を構成するケース10は、本発明が適用対象とする筺体の一形態であって、当該オーブンの外殻を形成するケース21内に収納されている。一方、当該ケース10内には、ヒータ22および送風ファン23が収容されて、当該調理庫が形成されている。当該調理庫を構成するケース10内には、ケース21内に収納されている蒸気発生装置24にて発生する蒸気が供給されるようになっている。
【0030】
当該調理庫10は、ヒータ22にて加熱する加熱調理機能と、蒸気発生装置24から供給されるスチームにてスチーム加熱するスチーム調理機能を有していて、これらの調理機能は、ケース21内に収納されている制御装置25により適宜制御されて、当該調理庫内に収容した食材を所望状態に調理すべく機能する。
【0031】
本発明に係る筺体の接合部位の接合構造は、当該調理庫を構成するケース10に採用されるものであり、また、本発明に係る各パネル同士の突合せ部位の接合方法は、当該接合構造の形成に採用されるものである。従って、本発明に係る接合構造の説明、および、本発明に係る接合方法の説明では、本発明が適用対象とする筺体については、ケース10という名称を使用する。
【0032】
本発明が規定する筺体であるケース10は、図2に示すように、ボディパネル11、トップパネル12および、ボトムパネル13を主要構成部材とするもので、これらのパネル11〜13によって正面が開放されたケース10が形成される。各パネル11〜13は、いずれも金属製の薄板状のパネルである。
【0033】
ボディパネル11は、向かって右側から、右側サイドパネル部11a1、後側サイドパネル部11a2、左側サイドパネル部11a3、および、左側サイドパネル部11a3の前端から直交してわずかに右側へ延びる前側サイドパネル部11a4とからなる。右側サイドパネル部11a1、後側サイドパネル部11a2、および、左側サイドパネル部11a3の上端縁部の周囲には、外向フランジ部11bが形成されている。外向フランジ部11bは、右側サイドパネル部11a1の上端縁部の前端部から、後側サイドパネル部11a2の上端縁部、左側サイドパネル部11a3の上端縁部を通って、前側サイドパネル部11a4の上端縁部の開口部の近傍にまで延びている。
【0034】
また、右側サイドパネル部11a1、後側サイドパネル部11a2、および、左側サイドパネル部11a3の下端縁部の周囲には、外向フランジ部11cが形成されている。外向フランジ部11cは、右側サイドパネル部11a1の下端縁部の前端部から、後側サイドパネル部11a2の下端縁部、左側サイドパネル部11a3の下端縁部を通って、前側サイドパネル部11a4の下端縁部の開口部の近傍にまで延びている。
【0035】
トップパネル12は、浅皿を伏せた状態を呈する方形のもので、方形のパネル本体12aの下端縁部の周囲には、ボディパネル11が有する外向フランジ部11bに対向する外向フランジ部12bが形成されている。また、ボトムパネル13は、浅皿状を呈する方形のもので、方形のパネル本体13aの上端縁部の周囲には、ボディパネル11が有する外向フランジ部11cに対向する外向フランジ部13bが形成されている。
【0036】
当該ケース10を形成するには、先ず、これらの各パネル11〜13を筺状組立体に仮組付けして、その後、本発明に係る溶接による接合方法を実施する。各パネル11〜13を筺状組立体に仮組付するに当たっては、ボディパネル11の各外向フランジ部11cをボトムパネル13のフランジ部13bに重合して載置するとともに、ボディパネル11の各外向フランジ部11bにトップパネル12の外向フランジ部12bを重合して載置するが、これらのパネルを載置するに当たっては、図3に示す金属製の薄板状のプレート14を、各外向フランジ部間に介在させる。
【0037】
具体的には、ボトムパネル13の外向フランジ部13bとボディパネル11の外向フランジ部11c間にプレート14を介在させるとともに、ボディパネル11の外向フランジ部11bとトップパネル12のフランジ部12b間にプレート14を介在させる。これにより、各パネル同士の突合せ部位は、各パネルが有する外向フランジ部と、両外向フランジ部間に介在するプレート14からなる構造となる。図4(a)には、各パネル11〜13を仮組付けされて形成されたケース10の筺状組立体Aを縦断した一部を模式的に示している。
【0038】
各フランジ部間に介在させたプレート14は、各パネル11〜13を仮組付けしてなる筺状組立体Aの一面側開口部を通して、その内側から行われる自動溶接時のフィラとして機能させるものである。このため、プレート14の各外向フランジ部間から筺状組立体Aの内側へ突出する突出部位の突出長さは、当該突合せ部位に形成される溶接部の形状との関係から十分に管理する必要があり、この点については、図4および図5を参照して詳述する。
【0039】
図4(a)は、各パネル11,12同士、および、各パネル11,13同士を互いに突合せた状態で仮組付けしてなるケース10の筺状組立体Aを示し、また、図4(b)は当筺状組立体Aの一箇所の突合せ部位を拡大して示している。当該筺状組立体Aにおいては、ボディパネル11とボトムパネル13同士の突合せ部位Bは、ボディパネル11の外側フランジ部11cと、ボトムパネル13の外向フランジ部13bと、これら両フランジ部11c,13b間に介在するプレート14にて構成されている。
【0040】
また、ボディパネル11とトップパネル12同士の突合せ部位Cは、ボディパネル11の外側フランジ部11bと、トップパネル12の外向フランジ部12bと、これら両フランジ部11b,12b間に介在するプレート14にて構成されている。各パネル11〜13同士の突合せ部位B,Cの突合せ部位それ自体は、同等に構成されている。従って、以下では、図4(b)に示す突合せ部位Cが、当該筺状組立体を構成する各パネル同士の一般的な突合せ部位であるとして詳述する。
【0041】
各パネル11,12同士の突合せ部位は、図4(b)に示すように、各パネル11,12の外向フランジ部11b,12bと、これらのフランジ部11b,12b間に介在するプレート14にて構成されていて、これらのフランジ部11b,プレート14、フランジ部12bは互いに位置決めされた状態でカシメ等を施すことにより仮組付けされる。
【0042】
フランジ部11b,プレート14、フランジ部12bの3者の位置決めは、これらに形成されている位置決め用穴a〜cに位置決め用ピンを挿通することにより行われ、この際、プレート14の筺状組立体A内への突出長さが設定される。当該突出長さは、図5に示す溶接部の溶接形状に基づき設定される。各パネル11〜13をこのように突合せして形成された筺状組立体Aの突合せ部位Cに対しては、当該筺状組立体Aにおける図示しない前側開口部を通してティグ溶接がなされるが、当該突合せ部位に対しては、図4(b)の太線矢印で示すように、筺状組立体Aの内側から行われることになる。
【0043】
当該筺状組立体Aの突合せ部位に対するティグ溶接では、溶接時にフィラを供給する必要がないことから、フィラの自動供給装置を使用する必要がなく、自動溶接装置を使用して当該突合せ部位のプレート14の突出部位をティグ溶接することができる。このため、組立体Aの突合せ部位の溶接を手動操作で行う場合の種々の問題は解消されることになり、また、組立体Aの突合せ部位に形成される溶接部は、図5に示すように、良好な溶接形状となって、ケース10の突合せ部位の接合構造の品質を格段に向上させることになる。
【0044】
これらの溶接形状を呈する接合構造は、当該ケース10にとっては、好適な接合構造である。すなわち、これらの接合構造によれば、突合せ部位に形成されている溶接部の溶接面が滑らかであって、当該溶接面を有するケース10にて構成される調理庫内で食材等を調理する場合には、調理作業中に発生する油煙、発生ガス、被処理物の残渣等が突合せ部位の溶接面に強固に付着するようなことがなく、清掃作業が容易で、当該溶接面における汚れの取り残しが皆無またはほとんどない。このため、当該調理庫内での次回の調理においては、食材や調理済み物に対する臭いの付着を防止することができて、調理された物の品質の低下を防止すことができるとともに、当該調理庫内での雑菌の繁殖を大きく抑制することができて、当該調理庫内を清潔に保持することができる。
【0045】
図5には、本発明に係る突合せ部位の種々の接合構造、および、これらの接合構造を形成する手段を示している。図5は、当該ケース10の組立体Aにおける突合せ部位Cの縦断面図である。但し、同図では、筺状組立体Aにおける断面表示は省略してある。
【0046】
当該突合せ部位を構成する各パネル11,12の外向フランジ部11b,12bにおいては、外向フランジ部11b,12bの基端部の断面が滑らかな円弧状を呈していて、当該突合せ部位には、各パネル11,12間を横方向に延びる断面略三角形状の凹溝が形成されている。
【0047】
各外向フランジ部11b,12bに介在するプレート14は、当該凹溝を通して組立体Aの内部に突出している。本実施形態では、プレート14の組立体Aの内側への突出長さは、プレート14が当該凹溝の奥底に露呈する部位を起点としている。このため、本実施形態では、プレート14の先端部が当該凹溝から組立体A内に突出していない場合であっても、当該凹溝内に臨んでいれば、プレート14の当該凹溝に臨んでいる先端部の長さを、組立体Aの内側への突出長さとしている。
【0048】
各外向フランジ部11b,12bに介在するプレート14の突出部位の突出長さは、図5(a)に示すように、例えば、(イ)、(ロ)、(ハ)のごとく設定することができ、プレート14の突出部位の突出長さを(イ)に設定した場合には、突合せ部位における溶接部の形状は図5(b)となり、プレート14の突出部位の突出長さを(ロ)に設定した場合には、突合せ部位における溶接部の形状は図5(c)となり、プレート14の突出部位の突出長さを(ハ)に設定した場合には、突合せ部位における溶接部の形状は図5(d)となる。
【0049】
図5(b)に示す突合せ部位の接合構造は、各外向フランジ部11b,12bに介在するプレート14の突出部位の突出長さを短尺(イ)に設定されたもので、当該突出部位を溶接することにより、凹溝内で断面凹形状の溶接部14aが形成される。形成された溶接部14aの溶接面は、滑らかな凹状曲面であって、汚れが強固に付着するようなことはないとともに、清掃し易いという大きな利点がある。
【0050】
図5(c)に示す突合せ部位の接合構造は、各外向フランジ部11b,12bに介在するプレート14の突出部位の突出長さを中尺(ロ)に設定されたもので、当該突出部位を溶接することにより、凹溝内で各パネル11,12と同一面の断面略三角形状の溶接部14bが形成される。形成された溶接部14bの溶接面は、滑らかな平面であって、汚れが強固に付着するようなことがないとともに清掃し易いという大きな利点があり、さらには、各パネル11,12同士が一直線に仕上がるので見栄えがよいという利点がある。
【0051】
図5(d)に示す突合せ部位の接合構造は、各外向フランジ部11b,12bに介在するプレート14の突出部位の突出長さを長尺(ハ)に設定されたもので、当該突出部位を溶接することにより、凹溝から外側へ膨出する断面円弧状の溶接部14cが形成される。形成された溶接部14cの溶接面は、高低差が低くて規則正しい美しい波形状のビード面である。当該溶接部14cは、膨出する断面円弧状の溶接面14cであることから、他の溶接面14a,14bに比較して汚れが若干付着し易いが、清掃し易いという大きな利点があるとともに、各パネル11,12間に存在する規則正しい美しい波形状のビード面がデザイン的に優れているという利点がある。
【0052】
図6には、各パネル同士の突合せ部位の構造の複数の変形例を示している。図6は、当該突合せ部位の断面を示す縦断面図である。但し、同図では、突合せ部位における断面表示は省略してある。
【0053】
図6(a)に示す突合せ部位は、パネル15をパネル16に対して直交状に突合せする突合せ構造であって、この突合せ構造では、一方のパネル15にのみ外向フランジ部15aを有していて、他方のパネル16ではパネル本体を外向フランジ部として機能させるものである。プレート17は、パネル15の外向フランジ部15aとパネル16間に介在させる。この場合には、プレート17の先端部を所定長さだけ、外向フランジ部15aから突出させるようにする。これにより、プレート17の突出部位を溶接にて溶着すれば、両パネル15,16の直交状の突合せ部位の隅部に、断面略三角形状の溶接部を形成することができる。
【0054】
図6(b)に示す突合せ部位は、パネル15とパネル16とが傾斜状に突合せする突合せ構造であって、この突合せ構造では、各パネル15,16の外向フランジ部15a,16a間にプレート17を介在させて、プレート17の先端部を所定長さだけ、両外向フランジ部15a,16aから突出させるようにする。これにより、プレート17の突出部位を溶接にて溶着すれば、両パネル15,16の傾斜状の突合せ部位の隅部に断面略三角形状の溶接部を形成することができる。
【0055】
図6(c)に示す突合せ部位は、パネル15とパネル16を一直線状に突合せする突合せ構造であって、この突合せ構造では、一方のパネル15の外向フランジ部15aが長尺に、他方の外向フランジ部16aが短尺に形成されていて、プレート17を両外向フランジ部15a,16a間に介在させて、プレート17の先端部を所定長さだけ、両外向フランジ部15a,16aから突出させるようにする。この場合には、プレート17の突出部位の突出長さを調整することによって、両パネル15,16の一直線状の突合せ部位間(凹溝)に、両パネル15,16と同一面の断面略三角形状の溶接部、または、両パネル15,16の面から凹む断面凹形状の溶接部を形成することができる。
【0056】
図6(d)に示す突合せ部位は、パネル15とパネル16を一直線状に突合せする突合せ構造であって、この突合せ構造では、プレート17を両パネル15.16の外向フランジ部15a,16a間に介在させて、プレート17の先端部を所定長さだけ、両外向フランジ部15a,16aから突出させるようにする。但し、プレート17はその先端部が一方に屈曲する屈曲部17aを有していて、この場合には、屈曲部17aの大きさを調整することによって、両パネル15,16の一直線状の突合せ部位間(凹溝)に、両パネル15,16と同一面の断面略三角形状の溶接部、または、両パネル15,16の面から膨出する断面円弧状の溶接部を形成することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…ケース(筺体)、A…筺状組立体、a,b,c…位置決め用穴、11…ボディパネル、11a…パネル本体、11b,11c…外向フランジ部、12…トップパネル、12a…パネル本体、12b…外向フランジ部、13…ボトムパネル、13a…パネル本体、13b…外向フランジ部、14…プレート、14a,14b,14c…溶接部、15…一方のパネル,16…他方のパネル、15a,16a…外向フランジ部、17…プレート、17a…屈曲部、21…ケース、22…ヒータ、23…送風ファン、24…蒸気発生装置、25…制御装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厨房機器を構成する一面側に開口部を有する筺体の各壁部を構成する金属製のパネル同士が互いに突合された突合せ部位を溶接して接合してなる突合せ部位の接合構造であり、互いに突合される各パネルの先端部には互いに対向して当該筺体の外側へ所定長さ延びる外向フランジ部を備え、互いに対向する外向フランジ部間には同フランジ部間から当該筺体の内側へ所定長さ突出する金属製のプレートが介在し、前記プレートの突出部位が溶接にて前記両フランジ部間に溶着して接合部位を形成していることを特徴とする筺体における突合せ部位の接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の筺体における突合せ部位の接合構造であり、前記各パネルにおける前記外向フランジ部の基端側は断面円弧状を呈していて、前記各パネルが互いに突合う部位に前記プレートが位置して当該筺体の内側へ開口する凹溝が形成されていて、前記各パネルの前記凹溝にて前記プレートの突出部位が溶接により溶着されていることを特徴とする筺体における突合せ部位の接合構造。
【請求項3】
請求項2に記載の筺体における突合せ部位の接合構造であり、前記プレートにおける前記突出部位の当該筺体の内側への突出長さを短長に調整することにより、前記突出部位が溶着されて形成される溶接部の断面形状が前記両プレートの内面に対して凹形状、同一面形状、または、円弧状の突出形状に形成されることを特徴とする筺体における突合せの接合構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の突合せ部位を接合する接合方法であり、先ず、前記各パネルが有する外向フランジ部間に前記プレートを介在させた状態で同各パネルを突合わせて、前記各パネルおよび前記プレートに形成されている位置決め用の穴を互いに合わせて位置決めしてカシメを施して筺状組立体を形成し、その後、突合せ部位に位置する前記プレートの突出部位を、前記筺状組立体の一面側開口部を通してティグ溶接にて溶着することを特徴とする筺体における突合せ部位の接合方法。
【請求項5】
請求項4に記載の筺体における突合せ部位の接合方法であり、当該筺体はトップパネル、ボディパネル、および、ボトムパネルからなる同ボディパネルの一面側に開口部を有する筺体であり、前記トップパネル、前記ボディパネル、および、前記ボトムパネルの各外向フランジ間に前記プレートをそれぞれ介在させて各突合わせ部位を位置決めしてカシメを施して前記筺状組立体を形成し、その後、前記筺状組立体の突合せ部位に位置する前記プレートの突出部位を、前記筺状組立体の一面側開口部を通してティグ溶接にて溶着することを特徴とする筺体における突合せ部位の接合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−79041(P2011−79041A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235384(P2009−235384)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】