説明

筺体の防水構造およびそれを備える電子機器

【課題】筺体の良好な外観および薄型化と共に高い防水性を実現することが可能な環状シール材を提供する。
【解決手段】筺体を構成する第一ケース3と第二ケース4との間にシール構造体7を挟んで防水を図る筺体の防水構造であって、シール構造体7に、シート8と、シート8の少なくとも片面に固定されシート8よりも柔軟性に富む弾性体から成る環状シール材9とを備え、第一ケース3および第二ケース4のそれぞれの平面領域3a,4aにて、環状シール材9とその直下のシート8をその積層方向に挟んで密着する構成である筺体の防水構造およびそれを備える電子機器1に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筺体の防水構造およびそれを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、携帯電子端末、カメラ、腕時計等の電子機器に防水構造を備えたものの需要が高くなってきている。電子機器の防水性を高めるには、蓋などの開閉部分および操作部からの水の浸入を防ぐことが不可欠である。例えば、電子機器のケースと蓋との間に、非接着状態でシール体を装着する防水構造であって、シール体を樹脂フィルムとその外周に配置されるガスケットとを一体化し、ケース側の装着溝にシール体のガスケットの部分を嵌め込み、装着溝と蓋との間にガスケットを挟んで防水を図る防水構造が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、電子機器のケース側の凹部と蓋側の凸部との間に接着状態で粘着フィルム付きガスケットを装着する防水構造であって、凸部側に粘着フィルムを粘着させ、凹部側にガスケットを密接させる防水構造が知られている(例えば、特許文献2を参照)。さらに、第一ケース部と第二ケース部との間に、枠状のガスケットを配置する防水構造であって、第一ケース部に固定されたガスケットの内周に、第二ケース部側に向かって所定角度で突出するリップ部を備え、第二ケース部にその内方に傾斜するテーパー状の密着面を備え、第一ケース部と第二ケース部とを閉じた際に、ガスケットのリップ部を第二ケース部の密着面に密着させて防水を実現する防水構造が知られている(例えば、特許文献3を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−080910号公報
【特許文献2】特開2009−074643号公報
【特許文献3】特開2010−192997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の従来から公知の防水構造には、次のような問題がある。特許文献1に開示される従来技術は、角枠状のガスケットの内周に、当該ガスケットの赤道近傍に延出する連結部を形成し、その連結部を介して樹脂フィルムを一体化したシール体を用いている。このため、ガスケットと対向するケース若しくは蓋に溝を形成するのが必須の構成となり、ケース若しくは蓋に溝を形成するだけの厚みが必要になる。このため、筺体の薄型化が難しい。また、特許文献2に開示される従来技術は、ケース側の凹部と蓋側の凸部との間に、粘着フィルム付きガスケットを装着することから、従来技術1と同様、ケースおよび蓋にそれぞれ凹部および凸部を形成するだけの厚みが必要になる。このため、筺体の薄型化が難しい。
【0005】
また、特許文献3に開示される従来技術は、ガスケットを第一ケース部に直接形成するため、第一ケース部の外面に微小の凹凸若しくはゆがみが生じ、第一ケース部の外観不良を生じる可能性がある。加えて、第二ケース部において、ガスケットのリップ部と密着する部分には、リップ部が入り込むための空間を確保する必要からテーパー状に切り欠いた密着面を形成している。このため、第二ケース部の薄型化の妨げとなる。しかも、リップ部の変形量は経時変化するため、当該密着面とリップ部とを常に密着させることは難しく、部分的に隙間を生じ防水性を低下させる危険性がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、筺体の良好な外観および薄型化と共に高い防水性を実現する筺体の防水構造およびそれを備えた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一形態は、第一ケースと第二ケースとの間にシール構造体を挟んで防水を図る筺体の防水構造であって、シール構造体に、シートと、シートの少なくとも片面に固定されシートよりも柔軟性に富む弾性体から成る環状シール材とを備え、第一ケースおよび第二ケースのそれぞれの平面領域にて、環状シール材とその直下のシートをその積層方向に挟んで密着する構成とした筺体の防水構造である。
【0008】
本発明の別の形態は、さらに、環状シール材の内周側および/またはその外周側に、環状シール材と密着する側の第一ケースまたは第二ケースに向かって鋭角に突出する環状リップを備えた筺体の防水構造である。
【0009】
本発明の別の形態は、さらに、環状リップを環状シール材の外周側に形成した筺体の防水構造である。
【0010】
本発明の別の形態は、さらに、環状シール材において環状リップがカーブの外側に突出する外回りカーブ部位を、直線的に延びる非カーブ部位よりも厚く、あるいはより大きな鋭角に突出して形成した筺体の防水構造である。
【0011】
本発明の別の形態は、さらに、環状シール材において環状リップがカーブの内側に窪む内回りカーブ部位を、直線的に延びる非カーブ部位よりも薄く、あるいはより小さな鋭角に突出して形成した筺体の防水構造である。
【0012】
本発明の別の形態は、さらに、環状リップには、環状シール材の幅方向において、幅方向先端部よりも薄厚のくびれ部を、幅方向先端部から幅方向根元部側に向かう途中に形成した筺体の防水構造である。
【0013】
本発明の別の形態は、さらに、シートを、その内側に開口部を備える環状シートとし、環状シール材を、環状シートの枠上に固定した筺体の防水構造である。
【0014】
本発明の一形態は、上記いずれかの筺体の防水構造を備えた電子機器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、筺体の良好な外観および薄型化と共に高い防水性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る電子機器の正面図および側面図を示す。
【図2】図2は、図1に示す電子機器を構成する主要部の分解断面図を示す。
【図3】図3は、図2中のシール構造体の斜視図を示す。
【図4】図4は、図3に示すシール構造体のA−A線断面図を示す。
【図5】図5は、第一ケースと第二ケースとの間にシール構造体を挟む状況の断面図を示す。
【図6】図6は、図3のシール構造体の変形例を示す。
【図7】図7は、本発明の第二実施形態に係る電子機器を構成する主要部の分解断面図を示す。
【図8】図8は、図7中のシール構造体の斜視図を示す。
【図9】図9は、図8に示すシール構造体のB−B線断面を含み、図7に示す第一ケースと第二ケースとの間に当該シール構造体を挟む状況の断面図(A)および当該断面図(A)中において各構成部を重ねたときの領域Cを拡大した一部拡大断面図(B)を、それぞれ示す。
【図10】図10は、本発明の第三実施形態に係る電子機器のシール構造体を構成する環状シール材のみを抜き出した平面図を示す。
【図11】図11は、図10に示すシール構造体の非カーブ部位近傍FのE−E線断面図(A)および外回りカーブ部位近傍HのG−G線断面図(B)を、それぞれ模式的に示す。
【図12】図12は、図11に示す形態の変形例であって、図10に示すシール構造体の非カーブ部位近傍FのE−E線断面図(A)および外回りカーブ部位近傍HのG−G線断面図(B)を、それぞれ模式的に示す。
【図13】図13は、本発明の第四実施形態に係る電子機器のシール構造体を構成する環状シール材のみを抜き出した平面図を示す。
【図14】図14は、図13に示すシール構造体の内回りカーブ部位近傍JのI−I線断面図(A)、非カーブ部位近傍LのK−K線断面図(B)および外回りカーブ部位近傍NのM−M線断面図(C)を、それぞれ模式的に示す。
【図15】図15は、図14に示す形態の変形例であって、図13に示すシール構造体の内回りカーブ部位近傍JのI−I線断面図(A)、非カーブ部位近傍LのK−K線断面図(B)および外回りカーブ部位近傍NのM−M線断面図(C)を、それぞれ模式的に示す。
【図16】図16は、第五実施形態に係る電子機器において、図9(B)と同様の断面によるシール構造体のみの断面図を示す。
【図17】図17は、第六実施形態に係る電子機器を構成するシール構造体の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態において、筐体の防水構造については、電子機器の説明の中で説明する。
【0018】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係る電子機器の正面図および側面図を示す。図2は、図1に示す電子機器を構成する主要部の分解断面図を示す。
【0019】
本発明の第一実施形態に係る電子機器1は、略直方体の外観を有し、枠体2に囲まれた第一ケース3と、第二ケース4とを、それぞれの厚さ方向に重ね合わせた構造を有する。第二ケース4は、この実施形態では、枠体2の外形とほぼ同一の形状を有するため、第一ケース3と第二ケース4とを重ね合わせた際には、枠体2の側面と第二ケース4の側面とが略面一となる。第一ケース3は、第二ケース4と共に筺体を構成する構成部であって、この実施形態では、電子機器1の本体部を構成する表示部と操作部を兼ね合わせた構成部である。第一ケース3は、この実施形態では、その裏側に電池収納部5を開口して備え、電池6の出し入れを可能とする。第二ケース4は、この実施形態では、第一ケース3側に開口し、その他の面を囲ったいわゆるトレイ形状を有する構成部である。第二ケース4は、その開口側の平面領域としての底面4aにシール構造体7を固定して、第一ケース3と重ね合わせることにより、電池収納部5を覆う電池カバーとして機能する。シール構造体7と底面4aとは、例えば、両面テープや接着剤等から成る接着層10を介して固定できる。
【0020】
シール構造体7は、第一ケース3と第二ケース4との間に挟まれて、もって筺体の防水を図る構成部である。シール構造体7は、好適に樹脂から成るシート8と、シート8の第一ケース3側の面に固定されると共にシート8よりも柔軟性に富む弾性体から成る環状シール材9とを備える。シート8は、環状シール材9の位置ずれ、よじれ等を防止して、決められた位置に固定するための補強用のシートである。シート8の材料としては、好適には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を用いることができ、より好適には、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアミド(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の各種樹脂を用いることができる。シート8の厚さは、環状シール材9のよじれを低減するのに十分な厚さであれば特に制限は無く、例えば、PC製のシート8の場合、0.05〜0.5mmに設定することができる。環状シール材9は、四角いリング状のシール材であって、シール材の幅方向に沿って切った断面が略四角形のシール材である。ただし、環状シール材9は、閉ループ状であれば、円形、四角形以外の多角形、それ以外の如何なる平面形状のシール材でも良い。環状シール材9の材料としては、好適には、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーあるいは天然ゴムを用いることができ、より好適にはシリコーンゴム、ウレタンゴムを用いることができる。環状シール材9は、第一ケース3からの圧接時に圧接方向に向かって圧縮変形できれば特に制限は無く、例えば、シリコーンゴム製の環状シール材9の場合、0.1〜1.0mmに設定することができる。環状シール材9とシート8とは、その間に接着層を介在して固定することもできるが、好適には、接着層を介さずに、環状シール材9を、直接、シート8上に固定する。かかる固定方法としては、例えば、シート8を金型内にセットして、環状シール材9を形成するための未硬化状態のエラストマー材料をその金型内に射出して、シート8と環状シール材9とを一体化する方法を挙げることができる。
【0021】
環状シール材9は、第二ケース4に直接固定せず、シート8上に固定している。このため、第二ケース4に環状シール材9を射出成形して形成することによる第二ケース4への成形跡の形成の問題は生じない。また、シール構造体7は、シート8を含むため、環状シール材9に剛性を付与し、ハンドリング性を向上させることができる。加えて、環状シール材9は、弾性体のみから構成され、その内部に、より硬質の部材を含まないので、第一ケース3や第二ケース4に、環状シール材9を挿入するための凹凸を形成する必要が無く、電子機器1の薄型化に寄与する。
【0022】
図3は、図2中のシール構造体の斜視図を示す。
【0023】
シール構造体7は、シート8の片面の外周近傍に、環状シール材9を備える。シート8は、その四隅に備える各突出片内に位置決め用の穴11を各1個ずつ有する。位置決め用の穴11は、射出成形によって環状シール材9をシート8上に形成する際に、射出成形用の金型内にシート8を固定するのに用いられる。また、シート8は、環状シール材9に囲まれた領域内に、貫通口12を備えることもできる。貫通口12は、第一ケース3あるいは第二ケース4側にシート8と接触する突出物を備える場合に、当該突出物の位置、大きさおよび形状に応じて、それを貫通させるのに、シート8内に好適に形成される。
【0024】
図4は、図3に示すシール構造体のA−A線断面図を示す。図5は、第一ケースと第二ケースとの間にシール構造体を挟む状況の断面図を示す。ただし、シール構造体の断面において、位置決め用の穴11を有する突出片は省略されている。以後の同視の断面図においても同様である。
【0025】
第一ケース3および第二ケース4は、それぞれの平面領域である裏面3aおよび底面4aにて、環状シール材9とその直下のシート8をその積層方向に挟んで密着する。すなわち、この実施形態に係る筺体の防水構造は、第一ケース3の裏面3aに環状シール材9を挿入するための環状の凹部などを形成せず、また、第二ケース4の底面4aに当該凹部に挿入する凸部などを形成せず、2つの平面にて、環状シール材9をその直下のシート8ごと圧接する構造である。このため、シート8および環状シール材9の両方とも、第一ケース3と第二ケース4とを組み合わせた際に挟持方向の圧力を受ける。シール構造体7は、環状シール材9の直下にシート8を積層した構成を有するため、その積層方向に圧力を受けても、シート8と環状シール材9とが剥がれる危険性はない。また、第一ケース3の裏面3aおよび第二ケース4の底面4aに、凹凸を形成する必要が無いので、電子機器1の薄型化を図ることができる。
【0026】
図6は、図3のシール構造体の変形例を示す。
【0027】
シール構造体7は、シート8の環状シール材9の内側に、開口部13を備えることもできる。この場合、シート8は、環状シートの形態を呈することになる。環状シール材9は、環状シートとしてのシート8において、開口部13の外周の枠14上に形成される。開口部13を設けると、例えば、電池6が電池収納部5から厚さ方向に突出して収納される場合であって開口部13を設けないと電池6が第二ケース4側のシート8に接するような場合に、有効である。また、開口部13を有するシール構造体7では、シート8の側端面に環状シール材9を固定するのとは異なり、環状シール材9をシート8上に強固に固定できる。したがって、開口部13の枠14の幅を狭くでき、環状シール材9の幅方向における十分なスペースを確保する必要が無い。
【0028】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、第一実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0029】
図7は、本発明の第二実施形態に係る電子機器を構成する主要部の分解断面図を示す。図8は、図7中のシール構造体の斜視図を示す。
【0030】
第二実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器1が第一実施形態に係るそれらと異なる点は、シール構造体17の形態である。第二実施形態に係るシール構造体17は、第一実施形態にて説明したシート8と同形のシート18上に、第一実施形態にて説明した環状シール材9と異なる形態の環状シール材19を備える。具体的には、環状シール材19は、その幅方向外側(すなわち、外周側)に、環状シール材19と密着する側の第一ケース3に向かって、環状シール材19から鋭角に突出する環状リップ20を備える。環状リップ20は、その外周側に形成する他、内周側、あるいは外周側と内周側の両側に形成することもできる。ただし、環状リップ20を外周側に形成する方が、内周側に形成する場合と比較して、カーブ部位において、上方から押圧されたときに互いに重なる方向に圧縮される危険性がなく、ねじれが生じにくい。その結果、第一ケース3と環状リップ20との間に隙間が生じにくくなる。したがって、環状リップ20を環状シール材19の外周側に形成する方が好ましい。
【0031】
図9は、図8に示すシール構造体のB−B線断面を含み、図7に示す第一ケースと第二ケースとの間に当該シール構造体を挟む状況の断面図(A)および当該断面図(A)中において各構成部を重ねたときの領域Cを拡大した一部拡大断面図(B)を、それぞれ示す。
【0032】
環状シール材19は、その外周から第一ケース3に向かって、シート18の水平面に対して鋭角(図9(B)中のθ)に突出するテーパー形状の環状リップ20を有する。環状シール材19の底面から環状リップ20の先端までの高さは、第一ケース3が環状リップ20を圧接する際に圧接方向に変形できれば特に制限は無く、例えば、シリコーンゴム製の環状シール材19の場合、その高さを0.1〜1.0mmに設定することができる。また、環状リップ20の根元から先端までの距離をシート18に投影した長さは、第一ケース3と環状リップ20との間の設定面圧に応じて適宜調整できるため、特に制限は無く、例えば、シリコーンゴム製の環状シール材19の場合、当該投影した長さを0.1〜0.8mmに設定することができる。
【0033】
第一ケース3をシール構造体17に向けて圧接すると、環状リップ20は、矢印Dに示すように、圧接前の二点鎖線で示す状態から実線で示す状態へと変形する。このように、環状リップ20が倒れるように変形することにより、次のような効果が得られる。第一実施形態にて説明した環状シール材9は、その全周にわたって第一ケース3の裏面3aと均等な圧力で密着させるべく、その接触面内の平坦度をできるだけ高くする方が好ましい。しかし、第二実施形態における環状シール材19は、環状シール材9と比較して、裏面3aとの接触面の平坦度を過度に高くする必要が無い。環状リップ20が変形することにより、第一ケース3による環状シール材19への押圧を、環状シール材19の全周にわたってほぼ一定にすることができるからである。
【0034】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、前述の実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0035】
図10は、本発明の第三実施形態に係る電子機器のシール構造体を構成する環状シール材のみを抜き出した平面図を示す。図11は、図10に示すシール構造体の非カーブ部位近傍FのE−E線断面図(A)および外回りカーブ部位近傍HのG−G線断面図(B)を、それぞれ模式的に示す。
【0036】
第三実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器1が、第二実施形態に係るそれらと異なる点は、シール構造体17を構成する環状シール材29の形態である。この実施形態では、環状シール材29の環状リップ20は、直線部分である非カーブ部位20aと、環状リップ20側をカーブの外側に突出させる外回りカーブ部位20bとの間で、異なる形態を備える。
【0037】
第一ケース3の裏面3aを環状シール材29の上方から圧接させていくと、環状シール材29の外周に形成された環状リップ20は、その圧接方向に向かって倒れるように変形する。この際、環状シール材29の外回りカーブ部位20bは、非カーブ部位20aと比較して、環状シール材29の平面内外側のより広い領域に向けて変形する。このため、外回りカーブ部位20bは、非カーブ部位20aよりも変形しやすく、図10中の矢印方向に拡がるように変形する。ここで、「外回りカーブ部位」とは、環状シール材29の環状リップ20がカーブの外側に突出する部位を意味する。
【0038】
このような変形しやすさの違いを考慮すると、図11に示すように、環状リップ20は、環状シール材29の外回りカーブ部位20bの厚さT2を、非カーブ部位20aの厚さT1よりも大きく形成するのが好ましい。ここで、「厚さ」は、厚さを計測する環状リップ20の上側の面に対して垂直方向の距離を意味する。また、「厚さ」は、環状リップ20の突出部位の長さ方向に均一の厚さを有していない場合には、当該突出部位の長さ方向の平均厚さを意味する。このように、外回りカーブ部位20bの厚さT2を非カーブ部位20aの厚さT1より大きくすることによって、外回りカーブ部位20bと非カーブ部位20aにおいて第一ケース3が環状リップ20を押圧する力の差を低減し、環状シール材29の周方向に沿って均一な押圧を実現できる。
【0039】
図12は、図11に示す形態の変形例であって、図10に示すシール構造体の非カーブ部位近傍FのE−E線断面図(A)および外回りカーブ部位近傍HのG−G線断面図(B)を、それぞれ模式的に示す。
【0040】
環状リップ20の厚さを部分的に変えるのに代えて、あるいは厚さの変化と併せて、図12に示すように、環状リップ20を、環状シール材29の外回りカーブ部位20bにおいてシート18の水平面に対して鋭角に突出する角度θ2を、非カーブ部位20aにおいてシート18の水平面に対して鋭角に突出する角度θ1よりも大きくなるように形成することもできる。この場合、環状シール材29の厚さを周方向に沿って略同一にするため、外回りカーブ部位20bにおける環状リップ20の立ち上がり位置を、非カーブ部位20aにおける同位置よりも環状シール材29の外側にして、それより内側に水平面を備えるベース部21を形成するのが好ましい。外回りカーブ部位20bの角度θ2を非カーブ部位20aの角度θ1より大きくすることによって、図11に示すような環状リップ20の厚さを変える効果と同様、外回りカーブ部位20bと非カーブ部位20aにおいて第一ケース3が環状リップ20を押圧する力の差を低減し、環状シール材29の周方向に沿って均一な押圧を実現できる。
【0041】
<第四実施形態>
次に、本発明の第四実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、前述の実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0042】
図13は、本発明の第四実施形態に係る電子機器のシール構造体を構成する環状シール材のみを抜き出した平面図を示す。図14は、図13に示すシール構造体の内回りカーブ部位近傍JのI−I線断面図(A)、非カーブ部位近傍LのK−K線断面図(B)および外回りカーブ部位近傍NのM−M線断面図(C)を、それぞれ模式的に示す。
【0043】
第四実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器1が第三実施形態に係るそれらと異なる点は、シール構造体17を構成する環状シール材39の形態である。この実施形態では、環状シール材39は、平面視にて非カーブ部位20aと外回りカーブ部位20bのみを有する単純な円形や角形ではなく、さらに、内回りカーブ部位20cをも有する形状を備える。
【0044】
環状シール材39の外回りカーブ部位20bは、非カーブ部位20aと比較して、環状シール材39の平面内外側に変形可能なより広い領域を有する。これに対して、環状シール材39の内回りカーブ部位20cは、非カーブ部位20aと比較して、環状シール材39の平面内内側の限られたより狭い領域でしか変形できない。すなわち、内回りカーブ部位20cは、図13中の矢印方向に重なり合うため、変形するのに抵抗が大きい。ここで、「内回りカーブ部位」とは、環状シール材39の環状リップ20がカーブの内側に窪む部位を意味する。
【0045】
このような変形しやすさの違いを考慮すると、図14に示すように、環状リップ20は、環状シール材39の内回りカーブ部位20cの厚さT0、非カーブ部位20aの厚さT1、外回りカーブ部位20bの厚さT2を、T0<T1<T2の順に変化させるのが好ましい。これによって、第一ケース3が環状リップ20を押圧する力の差を低減し、環状シール材39の周方向に沿って均一な押圧を実現できる。
【0046】
図15は、図14に示す形態の変形例であって、図13に示すシール構造体の内回りカーブ部位近傍JのI−I線断面図(A)、非カーブ部位近傍LのK−K線断面図(B)および外回りカーブ部位近傍NのM−M線断面図(C)を、それぞれ模式的に示す。
【0047】
環状リップ20の厚さを部分的に変えるのに代えて、あるいは厚さの変化と併せて、図15に示すように、環状リップ20は、環状シール材39の内回りカーブ部位20cにおいてシート18の水平面に対して鋭角に突出する角度θ0、非カーブ部位20aにおいてシート18の水平面に対して鋭角に突出する角度θ1、外回りカーブ部位20bにおいてシート18の水平面に対して鋭角に突出する角度θ2を、θ0<θ1<θ2の順に変化させることができる。この場合、環状シール材39の厚さを周方向に沿って略同一にするため、環状リップ20の立ち上がり位置を、内回りカーブ部位20c、非カーブ部位20a、外回りカーブ部位20bの順に、環状シール材29の外側に配置するのが好ましい。このように、環状リップ20の角度を変化することによって、図14に示すような環状リップ20の厚さを変える効果と同様、第一ケース3が環状リップ20を押圧する力の差を低減し、環状シール材39の周方向に沿って均一な押圧を実現できる。
【0048】
<第五実施形態>
次に、本発明の第五実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、前述の実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0049】
図16は、第五実施形態に係る電子機器において、図9(B)と同様の断面によるシール構造体のみの断面図を示す。
【0050】
図16に示すように、環状リップ20は、環状シール材49の周方向に直角に延びる幅方向において、幅方向先端部50よりも薄厚のくびれ部51を、幅方向先端部50から幅方向根元部側に向かう途中に形成しても良い。くびれ部51の厚さT4は、それより幅方向先端部50側の厚さT3より小さい。このため、環状シール材49の上から第一ケース3の裏面3aを圧接した際に、環状リップ20は、矢印Pの方向に、くびれ部51から倒れるように変形しやすくなる。このように、くびれ部51を形成することにより、環状リップ20がそれ自身の形状の保持力が大きい場合であっても、環状シール材49が第一ケース3と第二ケース4との重ね合わせ時の抵抗になりにくく、高い防水性能を実現することができる。
【0051】
<第六実施形態>
次に、本発明の第六実施形態に係る筺体の防水構造およびそれを備える電子機器について、図面を参照しながら説明する。以下の説明において、前述の実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0052】
図17は、第六実施形態に係る電子機器を構成するシール構造体の斜視図を示す。
【0053】
シール構造体17は、シート18の環状シール材19の内側に、開口部53を備えることもできる。この場合、シート18は、環状シートの形態を呈することになる。環状シール材19は、環状シートとしてのシート18において、開口部53の外周の枠54上に形成される。開口部53を設けると、図6に示す第一実施形態に係る電子機器1を構成するシール構造体7中の開口部13の形成の場合と同様の効果を得ることができる。
【0054】
<その他の実施形態>
以上、本発明に係る筐体の防水構造およびそれを備える電子機器の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、上述の各実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々変形して実施可能である。
【0055】
シール構造体7,17は、その片面のみに環状シール材9,19,29,39,49を形成しているが、シール構造体7,17の両面側にて防水を図る必要がある場合には、環状シール材9,19,29,39,49を、その両面に形成しても良い。第一ケース3の裏面3aおよび第二ケース4の底面4aは、その全域にわたって平面領域となっているが、環状シール材9,19,29,39,49を挿入して防水を図るような凹部、その凹部に環状シール材9,19,29,39,49を介して挿入する凸部でない限り、部分的に、凹凸を有していても良い。
【0056】
上述の第一〜第六実施形態にて説明した構成は、その組み合わせが不可能な場合を除き、任意に組み合わせることができる。例えば、第五実施形態におけるくびれ部51は、環状リップ20を備える第二〜第四実施形態および第六実施形態のいずれか1つに形成することができる。また、第六実施形態における開口部53は、第二〜第五実施形態のいずれか1つに形成することができる。また、環状リップ20を環状シール材19,29,39,49の内周側に形成する構成にて、第三〜第六実施形態のその他の構成を組み合わせても良い。また、例えば、第三実施形態におけるベース部21は、第一〜第六実施形態のいずれか1つに形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、防水性の機器に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 電子機器
3 第一ケース(筐体の一部)
3a 裏面(平面領域)
4 第二ケース(筐体の一部)
4a 底面(平面領域)
7 シール構造体
8 シート(環状シートの場合を含む)
9 環状シール材
13 開口部
14 枠
17 シール構造体
18 シート(環状シートの場合を含む)
19 環状シール材
20 環状リップ
20a 非カーブ部位
20b 外回りカーブ部位
20c 内回りカーブ部位
29 環状シール材
39 環状シール材
49 環状シール材
50 幅方向先端部
51 くびれ部
53 開口部
54 枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筺体を構成する第一ケースと第二ケースとの間に、シール構造体を挟んで防水を図る筺体の防水構造であって、
上記シール構造体は、
シートと、
当該シートの少なくとも片面に固定され当該シートよりも柔軟性に富む弾性体から成る環状シール材と、
を備え、
上記第一ケースおよび上記第二ケースは、それぞれの平面領域にて、上記環状シール材とその直下の上記シートをその積層方向に挟んで密着する構成であることを特徴とする筺体の防水構造。
【請求項2】
前記環状シール材は、その内周側および/またはその外周側に、前記環状シール材と密着する側の上記第一ケースまたは上記第二ケースに向かって鋭角に突出する環状リップを備えることを特徴とする請求項1に記載の筺体の防水構造。
【請求項3】
前記環状リップは、前記環状シール材の外周側に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の筺体の防水構造。
【請求項4】
前記環状リップは、前記環状シール材において前記環状リップがカーブの外側に突出する外回りカーブ部位において、直線的に延びる非カーブ部位よりも厚く、あるいはより大きな前記鋭角に突出して形成されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の筺体の防水構造。
【請求項5】
前記環状リップは、前記環状シール材において前記環状リップがカーブの内側に窪む内回りカーブ部位において、直線的に延びる非カーブ部位よりも薄く、あるいはより小さな前記鋭角に突出して形成されていることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の筺体の防水構造。
【請求項6】
前記環状リップは、前記環状シール材の幅方向において、幅方向先端部よりも薄厚のくびれ部を、当該幅方向先端部から幅方向根元部側に向かう途中に形成していることを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の筺体の防水構造。
【請求項7】
前記シートは、その内側に開口部を備える環状シートとし、
前記環状シール材は、上記環状シートの枠上に固定されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の筺体の防水構造。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の筺体の防水構造を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−84837(P2013−84837A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224800(P2011−224800)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】