説明

箔シールランプ

【課題】 クラックリークを抑制しつつ、金属箔と電極の接続を強化可能な箔シールランプを提供する。
【解決手段】
実施形態の箔シールランプは、内部に放電空間111を有する発光部11、発光部11と連続するように形成されたシール部12を備えた気密容器1と、シール部12に封着された金属箔31と、一端は金属箔31と接続され、他端は放電空間111に突出するように配置された電極32と、を具備する箔シールランプであって、金属箔31の板面上は、粗面処理が施された加工部311と、粗面処理が施されていない未加工部312とを備えており、電極32は未加工部312に載置された状態で、金属箔31と溶接されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、自動車の前照灯や液晶プロジェクタなどに使用される箔シールランプに関する。
【背景技術】
【0002】
箔シールランプは、放電空間を備える発光部の両端に一対のシール部を備えた構造であるのが一般的である。このシール部には、電極が溶接された金属箔が封着される。
【0003】
このような箔シールランプでは、金属箔の表面に、レーザ照射、サンドブラスト、エッチングなどにより凹凸処理を施すことがある。金属箔の表面に凹凸処理を施すと、シール部を構成するガラスと金属箔との密着性を高めることができ、金属箔とガラスとが剥がれてガラスにクラックが生じ、放電空間内のガスがリークするなどによりランプが不灯に至る現象を抑制することが可能となる。
【0004】
しかしながら、このような表面に凹凸処理を施した金属箔を用いる場合に、金属箔と電極の溶接が外れる不具合が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4367714
【特許文献2】特許4681668
【特許文献3】特許3150918
【特許文献4】特許3648184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、クラックリークを抑制しつつ、金属箔と電極の接続を強化可能な箔シールランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、実施形態の箔シールランプは、内部に放電空間を有する発光部、前記発光部と連続するように形成されたシール部を備えた気密容器と、前記シール部に封着された金属箔と、一端は前記金属箔と接続され、他端は前記放電空間に突出するように配置された電極と、を具備する箔シールランプであって、前記金属箔の板面上は、粗面処理が施された加工部と、前記粗面処理が施されていない未加工部とを備えており、前記電極は前記未加工部に載置された状態で、前記金属箔と溶接されてなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態の箔シールランプの側面図について説明するための図である。
【図2】第1の実施形態の箔シールランプの上面図について説明するための図である。
【図3】第1の実施形態の箔シールランプの図2のA−A’断面について説明するための図である。
【図4】第1の実施形態の箔シールランプの図2の範囲Bについて説明するための図である。
【図5】第1の実施形態の箔シールランプの金属箔について説明するための図である。
【図6】従来の箔シールランプの電極と金属箔の溶接部付近の断面について説明するための図である。
【図7】未加工部の幅Wと電極の直径Dとの関係W/Dとクラックリークの発生率について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1および図2を参照して、第1の実施形態を説明する。図1は、本発明の第1の実施形態の箔シールランプの側面図について説明するための図であり、図2は、本発明の第1の実施形態の箔シールランプの上面図について説明するための図である。
【0010】
本実施形態の箔シールランプは、自動車などの前照灯用の光源として用いることができるもので、気密容器として内管1を備えている。内管1は細長い形状であり、その中央付近には略楕円形の発光部11が形成されている。発光部11の両端には、ピンチシールにより形成された板状のシール部12、その両端には境界部13を介して円筒部14が連続形成されている。この内管1としては、例えば石英ガラスなどの耐熱性と透光性を具備した材料で構成されるのが望ましい。また、シール部12はシュリンクシールにより形成されることにより円柱状の形状であってもよい。
【0011】
発光部11の内部には、中央が略円柱状で、両端に向かって縮径する形状となっている放電空間111が形成されている。放電空間111には、金属ハロゲン化物2および希ガスが封入されている。
【0012】
金属ハロゲン化物2は、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化スカンジウム、ヨウ化亜鉛、臭化インジウムで構成されている。金属ハロゲン化物2の総封入量は、ランプ電圧を好適な数値とする等のために、0.1mg〜0.3mgとしている。なお、この金属ハロゲン化物2の組合せはこれに限らず、スズ、セシウムのハロゲン化物を追加するなどしてもよい。
【0013】
希ガスは、キセノンが使用されている。この希ガスの圧力は、11atm〜15atmである。なお、希ガスとしてはキセノンとネオン、アルゴン、クリプトンなどを組み合わせた混合ガスで使用することもできる。
【0014】
ここで、本実施形態のランプは水銀を実質的に含んでいない。本明細書における「水銀を実質的に含んでいない」とは、水銀の封入量が0mgである場合に限られず、従来の水銀入りの箔シールランプと比較してほとんど封入されていないに等しい程度の量、例えば1mlあたり2mg未満、好ましくは1mg以下の水銀量を封入している場合を含む意味に解釈すべきである。
【0015】
発光部11の両側に形成されたシール部12には、それぞれ電極マウント3が封着されている。電極マウント3は、金属箔31、電極32、コイル33およびリード線34により構成されている。
【0016】
金属箔31は、例えば、モリブデンからなる薄板状の部材である。
【0017】
電極32は、例えばタングステンに酸化トリウムをドープしたトリエーテッドタングステンからなる棒状の部材である。その一端は金属箔31の発光部11側の端部に載置される状態で、レーザ溶接されており、他端は放電空間111内に突出し、所定の距離を保って互いの先端部同士が対向するように対設されている。自動車前照灯の用途の場合には、電極32同士の先端間の距離を、外管5を通して観察したときに3.7mm〜4.4mmの範囲に位置決めするのが好ましい。
【0018】
コイル33は、例えば、ドープタングステンからなる金属線であって、シール部12に封着される電極32の軸部の軸周りに螺旋状に巻装されている。
【0019】
リード線34は、例えば、モリブデンからなる金属線である。リード線34の一端は、発光部11から遠位側の金属箔31の端部に載置される形態で接続されており、他端は内管1の外部まで管軸に略平行に延出されている。ランプの前端側、すなわちソケット6から遠位側に延出されたリード線34には、例えば、ニッケルからなるL字状のサポートワイヤ35の一端がレーザ溶接により接続されている。このサポートワイヤ35には、内管1と平行に延在する部位に、例えば、セラミックからなるスリーブ4が装着されている。
【0020】
上記で構成された内管1の外側には、発光部11を覆うように筒状の外管5が内管1とほぼ同心状に設けられている。これら内外管の接続は、内管1の円筒部14付近に外管5の端部をそれぞれ溶着することにより行なわれている。内管1と外管5との間に形成された閉空間51には、ガスが封入されている。このガスには、誘電体バリア放電可能なガス、例えばネオン、アルゴン、キセノン、窒素から選択された一種のガスまたは混合ガスを使用することができる。ガスの圧力は0.3atm以下、特に0.1atm以下であるのが望ましい。なお、外管5としては、内管1に熱膨張係数が近く、かつ紫外線遮断性を有する材料で構成するのが望ましく、例えば、チタン、セリウム、アルミニウム等の酸化物を添加した石英ガラスを使用することができる。
【0021】
外管5が接続された内管1の一端には、ソケット6が接続されている。これらの接続は、外管5の外周面に金属バンド71を装着し、その金属バンド71をソケット6から4本突出形成させた金属製の舌片72で把持することで行なっている。また、ソケット6の底部には底部端子81、側部には側部端子82が形成されており、底部端子81と側部端子82には、それぞれリード線34とサポートワイヤ35が接続されている。
【0022】
これらで構成された箔シールランプは、底部端子81が高圧側、側部端子82が低圧側になるように点灯回路(図示なし)と接続され、始動時はランプ電力が75W、安定点灯時は35Wとなるように点灯される。
【0023】
ここで、本実施の形態では、図3、図4に示すように、金属箔31の板面上には加工部311が形成されている。この加工部311は、複数の凹みで構成された粗面であり、その形成範囲は金属箔31の約半面(ただし、ナイフエッジ等、端部は除く)である。それら複数の凹みは、金属箔31の幅方向および長さ方向で互いに接触している。凹みは、レーザ照射による粗面処理を行うことによって得ることができる。具体的には、金属箔31の表面にYAGレーザで非貫通の凹みを形成する工程を繰り返し行うことで得ることができる。レーザ照射によって粗面処理を行う場合、凹みの大きさ、深さ、数、形成する領域、形成しない領域を自由に制御することができる。
【0024】
また、図5に示すように、金属箔31の板面上には未加工部312も形成されている。この未加工部312は、加工部311の範囲内にあって、粗面処理が施されていない部分であり、加工部311より粗くなく、ほぼ平坦である。未加工部312は、図3、図4のように、電極32が載置される箇所に設けられる。なお、本例では電極32が載置されない側の面にも、表裏で対応する位置に形成されている。すなわち、金属箔31と電極32の溶接は、この未加工部312で行われる。レーザ溶接を行った場合には、一方の未加工部312から、他方の未加工部312および電極32の一部に繋がるような溶融部313が形成される。
【0025】
本発明の放電ランプの実施例の一仕様を下記に示す。
【0026】
内管1:石英ガラス製、発光部11の内容積=27.5mm、内径=2.5mm、外径=6.2mm、長手方向の球体長=7.8mm、
金属ハロゲン化物2:ScI=0.068mg、NaI=0.109mg、ZnI=0.022mg、InBr=0.0005mg、
希ガス:キセノン=13.5atm、
水銀:0mg、
金属箔31、31:モリブデン製、長さ=6.5mm、幅=1.5mm、厚さ=20mm、
加工部311:形成範囲=3.0mm×1.3mm、凹みの直径=18μm、深さ3μm、
未加工部312:電極32を載置する部分に形成、さらにその裏面の同じ位置にも形成、長さL1=1.0mm、幅W=0.39mm、
電極32、32:トリエーテッドタングステン製、直径D=0.38mm、電極間距離=4.2mm(実際の電極間距離=3.75mm)、金属箔31に対する載置長さL2=0.9mm、
コイル33、33:ドープタングステン製、線径=0.06mm、ピッチ=250%、巻装長=3.2mm、
外部リード線34、34:モリブデン製、直径=0.6mm。
【0027】
この実施例の電極マウント3と未加工部312の部分も加工部311を形成した従来例の電極マウント3について引っ張り試験を行ったところ、実施例は従来例よりも1.3倍、電極マウント3の接続強度が強いことが確認された。これは、実施例は平坦な面である未加工部312上に電極32を載置して溶接しているのに対し、従来例は金属箔31の表面の凹凸処理の上に電極32を載置して溶接していることにより生じた差と考えられる。つまり、従来例は凹凸処理によって電極32を溶接する厚みが厚い部分と薄い部分が形成されてしまい、そのばらつきによって溶接強度が不安定になり、電極32と金属箔31とが外れやすくなったため、実施例よりも接続強度が高かったと考えられる。
【0028】
次に、これらの電極マウント3を封着した実施例のランプと従来例のランプについて、EU定格モードの点灯試験を行った。その結果、実施例は2000時間点灯してもクラックリークは発生しなかったのに対し、従来例は100時間程度でクラックリークが発生した。
【0029】
従来例でクラックリークが発生したのは、図6に示すような箇所である。これは電極軸と接するガラスでクラックが生じ、リークに至たる軸端リークと呼ばれるクラックリークである。したがって、実施例と従来例とでクラックリークの発生時間に差が生じたのは、電極32の軸周りへのガラスの密着が関係していると考えられる。実施例である図3と従来例である図6とを比較すると、金属箔31と電極32の溶接部付近とシール部12の間に形成される隙間9が図6の方が図3よりも小さくなっている。特に、従来例の方が実施例よりも、ガラスが電極軸周りに広範囲で密着している。従来例のように、電極32の軸周りにガラスが過剰に密着しすぎていると、電極32を構成する金属とシール部12を構成するガラスとは熱膨張が異なるために、点灯・消灯の熱伸縮の際に電極がガラスに強い応力を与えてしまい、軸端リークが発生したと考えられる。
【0030】
このように、従来例で電極32の軸周りにガラスが過剰に密着したのは、金属箔31の表面に形成した加工部311が関係する。レーザ照射により加工部311を形成する場合、レーザのエネルギーにより酸化して表面にMoOなどのモリブデン酸化物が形成される。その後、シール部12に電極マウント3を封着する工程を行うと、ガラスを加熱する際のバーナーの熱が金属箔31にも伝わって、加工部311の表面のモリブデン酸化物が蒸発して電極32の軸表面、特に箔と対面する電極表面部分に付着する。このモリブデン酸化物はガラスとのなじみが良好であるため、封着工程を経た結果、従来例は実施例よりも電極32の軸周りにガラスが過剰に密着したと考えられる。
【0031】
そこで、未加工部312とクラックリークとの関係を明らかにすべく、上記の実施例をベースに、未加工部312の幅Wと電極32の直径Dの関係W/Dを変化させたときのクラックリークの発生率について試験を行った。その結果を、図7に示す。なお、試験数は30本である。
【0032】
図7から、W/Dは小さくても大きくてもクラックリークが発生することがわかる。W/Dが小さい場合に生じるクラックリークは、軸端リークであり、W/Dが0.3よりも小さい場合には、前述したようなメカニズムにより軸端リークが発生してしまう。一方、W/Dが大きい場合に生じるクラックリークは、金属箔とガラスとが剥がれてガラスにクラックが生じることが原因である、いわゆる箔リークである。つまり、W/Dが大きくなると、シール部12のガラスと未加工部312とが密着する範囲が大きくなって密着性が低下するため箔リークが生じやすくなり、W/Dが1.3よりも大きくなると発生する傾向が現れている。このようなことから、W/Dは、0.3≦W/D≦1.3であるのが望ましいといえる。
【0033】
この実施形態においては、金属箔31の板面上に粗面処理が施された加工部311と、粗面処理が施されていない未加工部312を設け、電極32を未加工部312に載置した状態で金属箔31と溶接したことで、金属箔31と電極32の接続強度を高めることができるため、特に製造工程においてそれらの接続が解除されることによって製造に不具合が生じることを防止することができる。また、クラックリーク、特に箔リークの発生を抑制することができるため、長寿命かつ信頼性の高いランプを提供することができる。未加工部312は、電極32が載置される部分の裏面にも形成すると、さらに接続強度を高めることができる。
【0034】
また、未加工部312における電極32の直径をD(mm)、未加工部312の電極の直径方向に沿う幅をW(mm)としたとき、0.3≦W/D≦1.3を満たすことで、箔リークのみならず、軸端リークの発生を抑制することができるようになり、さらに長寿命かつ信頼性の高いランプを提供することができる。
【0035】
また、粗面処理をレーザ照射によって行うことで、加工部311と未加工部312の制御を容易に行うことができる。つまり、加工部311の範囲内に未加工部312を精度良く形成することができる。
【0036】
本発明は上記実施態様に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0037】
例えば、電極32の形状は、先端の径を基端の径よりも大きくした段付き状であるもの、先端が径大の球状であるもの、一方の電極径と他方の電極径が異なる形状であってもよい。また、電極材料は、純タングステン、タングステンにアルミニウム、珪素、カリウムを微量にドープしたドープタングステン、タングステンにレニウムをドープしたレニウムタングステンなどであってもよい。また、金属箔31との溶接は、抵抗溶接などでもよい。
【0038】
金属箔31の粗面処理としては、処理する前よりも箔表面を粗くすることが可能な処理であればよい。例えば、サンドブラストやエッチングでもよい。特に、サンドブラストでは箔表面にブラスト材として用いられるAl等が、エッチングでは箔表面にエッチング材が粗面処理後に残留し、それらはモリブデン酸化物と同様に封着工程で電極32の軸周りにガラスが過剰に密着する原因となるため、本発明を実施すると効果的である。ただし、それらの粗面処理は加工部311や未加工部312の制御が難しくなるため、レーザ照射が最も最適である。
【0039】
この発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 内管
11 発光部
111 放電空間
2 金属ハロゲン化物
3 電極マウント
31 金属箔
311 加工部
312 未加工部
32 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間を有する発光部、前記発光部と連続するように形成されたシール部を備えた気密容器と、前記シール部に封着された金属箔と、一端は前記金属箔と接続され、他端は前記放電空間に突出するように配置された電極と、を具備する箔シールランプであって、
前記金属箔の板面上は、粗面処理が施された加工部と、前記粗面処理が施されていない未加工部とを備えており、前記電極は前記未加工部に載置された状態で、前記金属箔と溶接されてなることを特徴とする箔シールランプ。
【請求項2】
前記未加工部における前記電極の直径をD(mm)、前記未加工部の前記電極の直径方向に沿う幅をW(mm)としたとき、0.3≦W/D≦1.3を満足することを特徴とする請求項1に記載の箔シールランプ。
【請求項3】
前記粗面処理はレーザ照射であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の箔シールランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−89480(P2013−89480A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229515(P2011−229515)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】