説明

管のねじ継手の締結状態評価方法、管のねじ継手の締結方法、及び、管のねじ継手の締結状態評価装置

【課題】油井管等の管の継手として用いられるねじ継手のショルダー部の締結状態を、締結中又は締結後に簡易且つ精度良く評価できる方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る管のねじ継手100の締結状態評価方法は、ピン1及びボックス2のうち何れか一方の内面から、ピン1及びボックス2のショルダー部13、23を介して、ピン1及びボックス2のうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波を送信し、その透過波強度又は反射波強度に基づき、ねじ継手100の締結状態の良否を判定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油井管等の管の継手として用いられるねじ継手のショルダー部の締結状態を、締結中又は締結後に簡易且つ精度良く評価できる方法、この評価方法を用いた管のねじ継手の締結方法、及び、この評価方法を実施するための管のねじ継手の締結状態評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、油井管用の継手として、ねじ継手が広く用いられている。図1は、ねじ継手の一般的な構成を概略的に示す軸方向断面図である。図1に示すように、ねじ継手100は、外面に雄ねじ部11、メタルシール部12及びショルダー部13を具備するピン1と、内面にピン1の各部位に対応する雌ねじ部21、メタルシール部22及びショルダー部23を具備し、ピン1と締結されるボックス2とを備えている。
【0003】
雄ねじ部11と雌ねじ部21(以下、適宜これらを総称して「ねじ部11、21」という)とは、互いに螺合することにより、ピン1とボックス2とを締結する機能を奏する。メタルシール部12の外径はメタルシール部22の内径よりも僅かに大きくされており(この径の差を「干渉代」という)、ピン1とボックス2とを締結すると、前記干渉代により、両メタルシール部12、22の接触部位に面圧が発生し、この接触面圧によってねじ継手100の気密性を良好に保持する機能を奏する。ショルダー部13、23は、過度の塑性変形が生じるような高い接触面圧がメタルシール部12、22に発生しないようにし、且つ、十分なねじ込み量を確保して、ねじ継手100の締結を確実にする機能を奏する。なお、メタルシール部12、22のみならず、ねじ部11、21においても、両者の螺合を確実にして容易に弛まないようにするため、メタルシール部12、22と同様の干渉代を有するものがある。この場合、ショルダー部13、23は、ねじ部11、21の干渉代を安全域に制限し、ボックス2に過大な応力が発生することを抑制する機能をも奏する。
【0004】
以上の構成を有するねじ継手の締結状態を評価する方法として、従来より、ねじ継手の締結時に発生するトルクの変化をモニターする方法が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。図2は、従来のねじ継手の締結状態評価方法を説明する説明図である。図2に示すように、ねじ継手の締結が順次進行するに従い、ねじ部11、21の干渉や、メタルシール部12、22の干渉による摩擦抵抗によりトルクが発生する。そして、ショルダー部13、23の当接によりトルクは急激に上昇する。従来は、このトルクの変化をオペレータがモニターすることによりねじ継手の締結状態の合否を判定している。すなわち、例えばトルクが予め決定したしきい値以上に上昇した場合には、ショルダー部13、23が互いに当接するに至ったと判断し、ねじ継手100の締結が良好に完了したと判定している。
【0005】
しかしながら、図2に示す従来の評価方法は、実際にねじ部11、21が干渉したこと、メタルシール部12、22が干渉したこと、ショルダー部13、23が当接したことを、それぞれ個別に何らかの物理量を測定することによって評価するものではない。あくまでも、トルクが発生するのは、各部位が密着(干渉又は当接)したのが理由であろうという過去の経験則に基づく評価方法である。確かに、各部位が密着(干渉又は当接)すればトルクが発生するが、ねじ部11、21が焼き付いた場合等、他の要因によっても大きなトルクが発生し得るため、トルクの変化をモニターするだけでは、精度良く締結状態を評価することは困難である。
【0006】
また、図2に示す従来の評価方法は、ねじ継手を締結する過程で(ピンとボックスとが相対移動して締結している最中に)連続的にトルクをモニターする必要がある(締結後のピンやボックスが静止した状態では締結状態を評価することはできない)という制約を受ける。
【0007】
一方、ショルダー部13、23が互いに当接しているか否かについては、0.1mm厚の隙間ゲージがショルダー部13、23間に挿入可能か否かで評価することも行われている。もし、0.1mm厚の隙間ゲージがショルダー部13、23間に挿入可能であれば、ショルダー部13、23が互いに当接しておらず、締結状態が不良であると判定している。
【0008】
しかしながら、0.1mm厚の隙間ゲージが挿入可能な隙間は、0.15mm程度以上の隙間であるため、それよりも小さな隙間が生じているか否かを評価できないという問題がある。
【0009】
また、0.1mm厚の隙間ゲージを0.15mmの隙間に挿入するには、この隙間に沿った平面上に隙間ゲージを位置決めして慎重に挿入する必要がある。具体的には、隙間ゲージを、ねじ継手の一方の開口端からねじ継手内に挿入し(すなわち、ねじ継手の軸方向に移動させ)て、隙間に沿った平面上に隙間ゲージを位置決めした後、隙間に向けて前記平面上で隙間ゲージを移動させる必要がある。このため、手間が掛かり、評価に時間を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−267175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、油井管等の管の継手として用いられるねじ継手のショルダー部の締結状態を、締結中又は締結後に簡易且つ精度良く評価できる方法、この評価方法を用いた管のねじ継手の締結方法、及び、この評価方法を実施するための管のねじ継手の締結状態評価装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
(1)ピンのショルダー部とボックスのショルダー部との接触面圧は、これら各ショルダー部の締結状態に応じて変化する。具体的には、ピンのショルダー部とボックスのショルダー部とが互いに密着した状態では、非密着状態に比べて接触面圧が上昇する。
(2)両ショルダー部の接触面圧と、ピン又はボックスの内面から両ショルダー部に向けて送信した超音波表面波の透過波強度又は反射波強度とは相関関係を有する。具体的には、接触面圧が高い両ショルダー部に向けて送信した超音波表面波の透過波強度は大きくなり、反射波強度は小さくなる。逆に、接触面圧が低い又は接触面圧が生じていない(隙間が生じている)両ショルダー部に向けて送信した超音波表面波の透過波強度は小さくなり、反射波強度は大きくなる。
【0013】
本発明は、上記発明者らの知見に基づき完成されたものである。
すなわち、本発明は、ショルダー部を具備し、雄ねじ部が形成されたピンと、前記ピンのショルダー部と当接し得るショルダー部を具備し、雌ねじ部が形成されたボックスとを備え、前記ピンの雄ねじ部が前記ボックスの雌ねじ部と螺合することにより、前記ピンと前記ボックスとが締結される管のねじ継手の締結状態を評価する方法であって、前記ピン及び前記ボックスのうち何れか一方の内面から、前記ピン及び前記ボックスのショルダー部を介して、前記ピン及び前記ボックスのうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波を送信し、その透過波強度又は反射波強度に基づき、前記ねじ継手の締結状態の良否を判定することを特徴とする管のねじ継手の締結状態評価方法を提供する。
【0014】
本発明に係る評価方法によれば、ねじ継手を構成するピン及びボックスのうち何れか一方の内面から、ピン及びボックスのショルダー部を介して、ピン及びボックスのうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波が送信される。前述のように、ピンのショルダー部とボックスのショルダー部との接触面圧は、両ショルダー部が互いに密着した状態において上昇する。そして、接触面圧が高い両ショルダー部に向けて送信した超音波表面波の透過波強度は大きくなり、反射波強度は小さくなる一方、接触面圧が低い又は接触面圧が生じていない(隙間が生じている)両ショルダー部に向けて送信した超音波表面波の透過波強度は小さくなり、反射波強度は大きくなる。従って、透過波強度又は反射波強度の大小により、両ショルダー部の接触面圧(隙間)を評価でき、ひいては両ショルダー部の締結状態の良否を判定することが可能である。
【0015】
本発明に係る評価方法は、ピンのショルダー部とボックスのショルダー部との接触面圧に相関関係を有する超音波表面波の透過波強度又は反射波強度に基づき、両ショルダー部の接触面圧(隙間)ひいては締結状態を評価する方法である。従って、従来のトルクの変化をモニターする方法が、何れの部位の締結状態がトルクの変化に寄与しているか定かではなく、また焼き付き等の他の要因がトルクの変化に寄与する可能性もあるのに比べて、精度の良い評価が行えることを期待できる。
また、本発明に係る評価方法は、接触面圧と相関関係を有する超音波表面波の透過波強度又は反射波強度に基づいて締結状態を評価する方法であるため、従来のように、ねじ継手を締結する過程で(ピンとボックスとが相対移動して締結している最中に)締結状態を評価することが必須条件とはならず、締結中のみならず締結後のピンやボックスが静止した状態でも評価を行うことが可能である。
さらに、本発明に係る評価方法では、ピン及びボックスのうち何れか一方の内面から、ピン及びボックスのショルダー部を介して、ピン及びボックスのうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波を送信し、その透過波強度又は反射波強度を検出するだけで良い。具体的には、透過波強度を検出する場合には、ピン及びボックスのうち何れか一方の内面に超音波表面波を送信する送信用表面波探触子を載置し、ピン及びボックスのうち何れか他方の内面に超音波表面波を受信する受信用表面波探触子を載置する。そして、送信用表面波探触子からピン及びボックスのショルダー部に向けて送信した超音波表面波を受信用表面波探触子で検出し、その強度を検出すれば良い。また、反射波強度を検出する場合には、ピン及びボックスのうち何れか一方の内面に超音波表面波を送受信する表面波探触子を載置する。そして、この表面波探触子からピン及びボックスのショルダー部に向けて送信し該ショルダー部で反射した超音波表面波を同じ表面波探触子で検出し、その強度を検出すれば良い。従って、従来の隙間ゲージを用いた評価方法が、手間が掛かり評価に時間を要するのに比べて、簡易に評価することが可能である。
【0016】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記ねじ継手の締結過程において、前記評価方法を用いて締結状態の良否を判定し、前記判定の結果が良好になった段階で、前記ねじ継手の締結を終了することを特徴とする管のねじ継手の締結方法としても提供される。
【0017】
さらに、前記課題を解決するため、本発明は、前記評価方法を実施するための管のねじ継手の締結状態評価装置としても提供される。
透過波強度に基づきねじ継手の締結状態の良否を判定する場合の評価装置は、前記ねじ継手の一方の開口端から前記ねじ継手内に挿入される長尺部材と、前記長尺部材の挿入手前側に取り付けられ、前記開口端に当接させるための当接部材と、前記当接部材に取り付けられ、前記当接部材が前記開口端に当接した状態で、前記ねじ継手の内面で支持させるための平板部材と、前記長尺部材の挿入奥側において前記ねじ継手の軸方向に回動自在に取り付けられ、前記ピン及び前記ボックスのうち載置される何れか一方の内面形状に応じた凸状の接触面を有し、超音波表面波を送信する送信用表面波探触子と、前記長尺部材の挿入奥側において前記ねじ継手の軸方向に回動自在に取り付けられ、前記ピン及び前記ボックスのうち載置される何れか他方の内面形状に応じた凸状の接触面を有し、超音波表面波を受信する受信用表面波探触子と、前記送信用表面波探触子及び前記受信用表面波探触子を、それぞれが載置される前記ピン又は前記ボックスの内面に向けて付勢する弾性部材とを備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る評価装置によれば、ねじ継手の一方の開口端(例えば、ボックスの開口端)からショルダー部までの距離に応じて、当接部材と送信用表面波探触子との距離、及び、当接部材と受信用表面波探触子との距離を設定しておくことにより、長尺部材をねじ継手の前記開口端からねじ継手内に挿入し、当接部材を前記開口端に当接させるだけで、送信用表面波探触子及び受信用表面波探触子を簡易に適切な位置(ねじ継手の軸方向についての位置)に位置決め可能である。次に、当接部材が前記開口端に当接した状態で、平板部材をねじ継手の内面で支持させれば(平板部材の端部がねじ継手の内面に接触するまで、長尺部材をねじ継手の径方向に移動させれば)、長尺部材の軸方向周りの回動が阻止、ひいては、両表面波探触子の回動(長尺部材の軸方向周りの回動)が阻止されるため、両表面波探触子の姿勢が安定する。
そして、両表面波探触子は、
(1)ねじ継手の軸方向については回動自在に取り付けられ、
(2)載置されるピン又はボックスの内面形状に応じた凸状の接触面を有し、
(3)弾性部材によって、載置されるピン又はボックスの内面に向けて付勢される
ため、両表面波探触子の接触面をピン又はボックスの内面に安定した状態で接触させることが簡易に実現可能である。
従って、両表面波探触子の接触面における超音波の伝達損失が抑制され、精度良くショルダー部の締結状態を評価することが可能である。
【0019】
一方、反射波強度に基づきねじ継手の締結状態の良否を判定する場合の評価装置は、前記ねじ継手の一方の開口端から前記ねじ継手内に挿入される長尺部材と、前記長尺部材の挿入手前側に取り付けられ、前記開口端に当接させるための当接部材と、前記当接部材に取り付けられ、前記当接部材が前記開口端に当接した状態で、前記ねじ継手の内面で支持させるための平板部材と、前記長尺部材の挿入奥側において前記ねじ継手の軸方向に回動自在に取り付けられ、前記ピン及び前記ボックスのうち載置される何れか一方の内面形状に応じた凸状の接触面を有し、超音波表面波を送受信する表面波探触子と、前記表面波探触子を、載置される前記ピン又は前記ボックスの内面に向けて付勢する弾性部材とを備えることを特徴とする。
【0020】
この評価装置は、超音波表面波を送受信する表面波探触子を備える点を除き、前述した評価装置と同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る管のねじ継手の締結状態評価方法によれば、油井管等の管の継手として用いられるねじ継手の締結状態を、締結中又は締結後に簡易且つ精度良く評価できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、ねじ継手の一般的な構成を概略的に示す軸方向断面図である。
【図2】図2は、従来のねじ継手の締結状態評価方法を説明する説明図である。
【図3】図3は、ねじ継手を構成するピンの各部位とボックスの各部位とを互いに密着させた状態で締結した場合における両ショルダー部の接触面圧を数値計算によって算出した結果の一例を示す。
【図4】図4は、本発明に係る評価方法の一例を説明する説明図である。
【図5】図5は、断面矩形状の部材同士の接触面圧と超音波表面波の透過波強度との関係の一例を示すグラフである。
【図6】図6は、図4に示す方法で得られた、両ショルダー部の隙間と超音波表面波の透過波強度との関係の一例を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明に係る評価方法を実施するための評価装置の一例を概略的に示す構成図である。
【図8】図8は、図7に示す評価装置を用いて得られた、両ショルダー部の隙間と超音波表面波の透過波強度との関係の一例を示すグラフである。
【図9】図9は、図7に示す評価装置を用いて得られた超音波表面波の透過波強度の測定値のバラツキの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係る管のねじ継手の締結状態評価方法の一実施形態について説明する。
まず最初に、本発明に想到するに至る過程において本発明者らが得た知見について詳細に説明する。
【0024】
本発明の発明者らは、図1に示すねじ継手100を構成するピン1の各部位(雄ねじ部11、メタルシール部12、ショルダー部13)とボックス2の各部位(雌ねじ部21、メタルシール部22、ショルダー部23)とを互いに密着させた状態で締結した場合に生じる、ショルダー部13、23の接触面圧を評価した。
図3は、ねじ継手を構成するピンの各部位とボックスの各部位とを互いに密着させた状態で締結した場合における両ショルダー部の接触面圧を数値計算によって算出した結果の一例を示す。具体的には、雄ねじ部11のねじ谷の外径を雌ねじ部21のねじ山の内径よりも僅かに大きくし、メタルシール部12の外径をメタルシール部22の内径よりも僅かに大きくし、なお且つショルダー部13がショルダー部23に初めて当接した位置からショルダー部13をショルダー部23に向けて更にねじ込んだ条件を設定して数値計算を行った。図3(a)は数値計算に用いたねじ継手のモデルを部分的に拡大して示す図であり、図3(b)はショルダー部13、23の接触面圧を示すグラフである。図3(a)と図3(b)とは縦軸をそれぞれ一致させている。
【0025】
図3に示す数値計算の結果により、下記(A)〜(C)の知見が得られた。
(A)ショルダー部13、23の接触面圧は、メタルシール部12、22寄りの箇所で局部的に高くなる他、コーナー部231近傍でも局部的に高くなる計算結果となる。これは、メタルシール部12の外径をメタルシール部22の内径よりも僅かに大きく設定している(すなわち、干渉代を設けている)ため、メタルシール部12がお辞儀(縮径曲げ)をするように変形することに伴い、ショルダー部13のメタルシール部12、22寄りの箇所がショルダー部23に強く接触することと、嵌め合い端部近傍に接触面圧のピークが現れることが原因であると考えられる。
(B)なお、図示しないが、ショルダー部13がショルダー部23に当接しない条件を設定して数値計算を行った場合には、接触面圧が局部的に高くなる現象は生じない。
(C)上記(A)及び(B)の結果より、ピンのショルダー部とボックスのショルダー部との接触面圧は、これらショルダー部の締結状態に応じて変化することが分かった。具体的には、ピンのショルダー部とボックスのショルダー部とが互いに密着した状態では、非密着状態に比べて接触面圧が上昇する。また、接触面圧の変化は、ショルダー部の全体で一様な変化ではなく、ねじ継手の軸方向に沿って局部的に変化することが分かった。具体的には、ショルダー部が互いに密着した状態では、非密着状態に比べて接触面圧が局部的に上昇する。ショルダー部のコーナー部近傍、つまり、ピン及びボックスの内面近傍においても接触面圧が上昇する。
【0026】
次に、本発明者らは、超音波表面波を用いて両ショルダー部の接触面圧(隙間)を評価することに着眼した。超音波表面波は、表面(最表面から1波長程度の深さの範囲)に沿って伝搬する超音波であり、角などの形状が変化する部位ではその一部が反射するものの、超音波表面波の進行方向前方の表面に沿って更に伝搬する特徴を有する。このため、ピン及びボックスのうち何れか一方の内面から、両ショルダー部を介して、ピン及びボックスのうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波を送信すれば、両ショルダー部(コーナー部近傍)の接触面圧(隙間)に応じて、透過波強度又は反射波強度が変化することが期待できる。
【0027】
例えば、図4(a)に示すように、ピン1の内面に送信用表面波探触子31を載置し、ショルダー部13、23を挟んで、ボックス2の内面に受信用表面波探触子32を載置して、送信用表面波探触子31からショルダー部13、23に向けて送信した超音波表面波の透過波強度を受信用表面波探触子32で検出する場合を考える。ショルダー部13、23の接触面圧が高い場合、図4(b)に示すように、超音波表面波がショルダー部13、23を直進し、受信用表面波探触子32で検出される透過波強度は比較的大きくなると考えられる。一方、接触面圧が低い又は接触面圧が生じていない(隙間が生じている)場合、図4(c)に示すように、超音波表面波がショルダー部13、23で外面側に回り込み、その伝搬過程で減衰するか、或いは、超音波表面波がショルダー部13で反射して、受信用表面波探触子32で検出される透過波強度は小さくなると考えられる。
【0028】
そこで、本発明者らは、まず最初に、部材同士の接触面圧と、両部材の接触面に向けて送信した超音波表面波の透過波強度との関係について評価する試験を行った。具体的には、断面矩形状の2つの部材M1、M2を突き合わせて、一方の部材M1上に送信用表面波探触子31を載置し、他方の部材M2上に受信用表面波探触子32を載置した。送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32としては、探傷周波数が1.5MHzで振動子径が12.7mmの表面波探触子を用いた。そして、両部材M1、M2を突き合わせ方向に加圧しつつ、送信用表面波探触子31から両部材M1、M2の接触面に向けて送信した超音波表面波の透過波の強度を受信用表面波探触子32で検出した。
【0029】
図5は、上記評価試験により得られた両部材の接触面圧と超音波表面波の透過波強度との関係を示すグラフである。図5に示すように、両部材M1、M2の接触面圧と超音波表面波の透過波強度とは正の相関関係を有し、接触面圧を十分に大きくすると(突き合わせ方向への加圧力を十分に大きくすると)、一体の部材Mについての超音波表面波の透過波強度と同等になることが分かった。
【0030】
以上の結果を踏まえて、本発明者らは、前述した図4(a)に示す方法で、実際のねじ継手について、両ショルダー部の接触面圧(実際には隙間の寸法)と、両ショルダー部に向けて送信した超音波表面波の透過波強度との関係について評価する試験を行った。具体的には、以下の各条件(a)〜(g)に従って、受信用表面波探触子32で透過波強度を検出した。なお、両ショルダー部の隙間は、両ショルダー部を当接させた位置を基準として、ピン及びボックスを互いに離間させたときの離間距離に基づいて算出した。
(a)ねじ継手の外径(ボックスの外径):150mm
(b)ねじ継手の内径(ボックスの内径):100mm
(c)両ショルダー部の隙間:0mm、0.2mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの5種類
(d)表面波探触子の探傷周波数:1MHz、1.5MHz、2.25MHz、10MHzの4種類
(e)両表面波探触子の間隔(図4(a)のL):30mm、40mm、50mm
(f)接触媒質:ねじ継手の締結時にピンとボックスとの間に介在させる潤滑剤であって、締結によってピン及びボックスの内面に溢れ出した潤滑剤
(g)超音波探傷器:汎用型デジタル探傷器
【0031】
図6は、上記評価試験により得られた両ショルダー部の隙間と超音波表面波の透過波強度との関係を示すグラフである。図6(a)は探傷周波数1MHzの表面波探触子(振動子径:12.7mm)31、32を使用した場合に得られた結果を、図6(b)は探傷周波数1.5MHzの表面波探触子(振動子径:12.7mm)31、32を使用した場合に得られた結果を、図6(c)は探傷周波数2.25MHzの表面波探触子(振動子径:6.4mm)31、32を使用した場合に得られた結果を、図6(d)は探傷周波数10MHzの表面波探触子(振動子径:6.4mm)31、32を使用した場合に得られた結果を示す。
図6に示すように、両表面波探触子の探傷周波数や間隔の如何に関わらず、両ショルダー部13、23の隙間が0mm(良好な締結状態)の場合と、両ショルダー部13、23の隙間が0.2mm以上の場合とでは、超音波表面波の透過波強度に24dB以上の差が生じることが分かった。従って、超音波表面波の透過波強度の大小によって、両ショルダー部13、23の接触面圧(隙間)を評価でき、ひいては両ショルダー部13、23の締結状態の良否を判定可能であることを知見した。
【0032】
なお、ここでは詳細な説明を割愛するが、本発明者らは、超音波表面波の反射波強度の大小によっても、両ショルダー部13、23の接触面圧(隙間)を評価でき、ひいては両ショルダー部13、23の締結状態の良否を判定可能であることを確認した。
【0033】
本発明は、上記のような本発明者らの知見に基づき完成されたものであり、ピン1及びボックス2のうち何れか一方の内面から、ピン1及びボックス2のショルダー部13、23を介して、ピン1及びボックス2のうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波を送信し、その透過波強度又は反射波強度に基づき、ねじ継手100の締結状態の良否を判定することを特徴とする。
【0034】
以下、本発明に係る評価方法の具体例(評価装置を用いた評価方法の具体例)について説明する。
図7は、本発明に係る評価方法を実施するための評価装置の一例を概略的に示す構成図である。図7(a)はねじ継手の径方向から見た概略構成図を、図7(b)はねじ継手の軸方向から見た概略構成図を、図7(c)は図7(a)の矢視AA拡大図を、図7(d)は図7(a)の矢視BB拡大図を示す。
図7に示すように、本実施形態に係る評価装置200は、ねじ継手の一方の開口端(図7ではボックス2の開口端21)からねじ継手内に挿入される長尺部材4と、長尺部材4の挿入手前側に取り付けられ、開口端21に当接させるための当接部材5と、当接部材5に取り付けられ、当接部材5が開口端21に当接した状態(図7(a)に示す状態)で、ねじ継手の内面(図7ではボックス2の内面)で支持させるための平板部材6とを備えている。
【0035】
また、評価装置200は、長尺部材4の挿入奥側に取り付けられた送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32を備えている。当接部材5と送信用表面波探触子31との距離、及び、当接部材5と受信用表面波探触子32との距離は、開口端21からショルダー部13、23までの距離に応じて設定されている。つまり、当接部材5を開口端21に当接させた状態において、送信用表面波探触子31と受信用表面波探触子32とで、ショルダー部13、23を挟めるように、当接部材5から各表面波探触子31、32までの距離が設定されている。
【0036】
さらに、評価装置200は、送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32を、それぞれが載置されるピン1及びボックス2の内面に向けて付勢する弾性部材7を備えている。具体的には、弾性部材7は、長尺部材4に取り付けられた基部9と、後述のように表面波探触子31、32を軸支する支持部材8との間に介装されており、支持部材8をピン1及びボックス2の内面に向けて付勢する。弾性部材7の両端は、それぞれ基部9と支持部材8とに固定されている。これにより、支持部材8に軸支された表面波探触子31、32も、それぞれピン1及びボックス2の内面に向けて付勢されることになる。
【0037】
送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32は、ねじ継手の軸方向に回動自在に、長尺部材4に取り付けられている。具体的には、送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32は、それぞれ軸部材81を介して、長尺部材4に取り付けられた支持部材8に軸支されている。これにより、送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32は、ねじ継手の軸方向に(軸部材81周りに)回動自在となっている。
【0038】
送信用表面波探触子31は、載置されるピン1の内面形状に応じた(内面形状に適合する)凸状の接触面311を有する。同様に、受信用表面波探触子32も、載置されるボックス2の内面形状に応じた(内面形状に適合する)凸状の接触面321を有する。
【0039】
以上に説明した構成を有する評価装置200を用いれば、長尺部材4をねじ継手の開口端21からねじ継手内に挿入し、当接部材5を開口端21に当接させるだけで、送信用表面波探触子31及び受信用表面波探触子32を簡易に適切な位置(ねじ継手の軸方向についての位置)に位置決め可能である。次に、当接部材5が開口端21に当接した状態で、図7(b)に示すように、平板部材6をねじ継手の内面(ボックス2の内面)で支持させれば(平板部材6の端部がねじ継手の内面に接触するまで、長尺部材4をねじ継手の径方向に移動させれば)、長尺部材4の軸方向周りの回動が阻止、ひいては、両表面波探触子31、32の回動(長尺部材4の軸方向周りの回動)が阻止されるため、両表面波探触子31、32の姿勢が安定する。
【0040】
そして、両表面波探触子31、32は、前述のように、ねじ継手の軸方向については回動自在に取り付けられ、載置されるピン1及びボックス2の内面形状に応じた凸状の接触面311、312を有し、さらに、弾性部材7によってピン1及びボックス2の内面に向けて付勢されるため、両表面波探触子31、32の接触面をピン1及びボックス2の内面に安定した状態で接触させることが簡易に実現可能である。従って、両表面波探触子31、32の接触面311、312における超音波の伝達損失が抑制され、精度良くショルダー部13、23の締結状態を評価することが可能である。
【0041】
以上に説明した評価装置200を用いて、両ショルダー部13、23の隙間と、両ショルダー部13、23に向けて送信した超音波表面波の透過波強度との関係について評価する試験を行った。具体的には、以下の各条件(a)〜(h)に従って、受信用表面波探触子32で透過波強度を検出した。なお、両ショルダー部13、23の隙間は、両ショルダー部13、23を当接させた位置を基準として、ピン1及びボックス2を互いに離間させたときの離間距離に基づいて算出した。
(a)ねじ継手の外径(ボックスの外径):150mm
(b)ねじ継手の内径(ボックスの内径):100mm
(c)両ショルダー部の隙間:0mm、0.05mm、0.1mm、0.15mm、0.2mmの5種類
(d)表面波探触子の探傷周波数:2.25MHz
(e)表面波探触子の振動子径:6.4mm
(f)両表面波探触子の間隔:40mm
(g)接触媒質:ねじ継手の締結時にピンとボックスとの間に介在させる潤滑剤であって、締結によってピン及びボックスの内面に溢れ出した潤滑剤
(h)超音波探傷器:汎用型デジタル探傷器
【0042】
図8は、上記評価試験により得られた両ショルダー部の隙間と超音波表面波の透過波強度との関係を示すグラフである。
図8に示すように、両ショルダー部13、23の隙間が0mm(良好な締結状態)の場合と、両ショルダー部13、23の隙間が0.05mm以上の場合とでは、超音波表面波の透過波強度に30dB以上の差が生じることが分かる。従って、超音波表面波の透過波強度の大小によって、少なくとも両ショルダー部13、23の0.05mmの隙間を検出でき、ひいては両ショルダー部13、23の締結状態の良否を判定可能である。
【0043】
図9は、上記評価試験において、両ショルダー部13、23の隙間が0mm(良好な締結状態)の場合に透過波強度の測定値のバラツキを評価した結果の一例を示すグラフである。
図9に示すように、評価装置200を用いることにより、測定値のバラツキを0.5dB程度に抑制できるため、両ショルダー部13、23の締結状態を精度良く評価することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1・・・ピン
2・・・ボックス
13,23・・・ショルダー部
31・・・送信用表面波探触子
32・・・受信用表面波探触子
100・・・ねじ継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショルダー部を具備し、雄ねじ部が形成されたピンと、前記ピンのショルダー部と当接し得るショルダー部を具備し、雌ねじ部が形成されたボックスとを備え、前記ピンの雄ねじ部が前記ボックスの雌ねじ部と螺合することにより、前記ピンと前記ボックスとが締結される管のねじ継手の締結状態を評価する方法であって、
前記ピン及び前記ボックスのうち何れか一方の内面から、前記ピン及び前記ボックスのショルダー部を介して、前記ピン及び前記ボックスのうち何れか他方の内面に向けて超音波表面波を送信し、その透過波強度又は反射波強度に基づき、前記ねじ継手の締結状態の良否を判定することを特徴とする管のねじ継手の締結状態評価方法。
【請求項2】
前記ねじ継手の締結過程において、請求項1に記載の評価方法を用いて締結状態の良否を判定し、
前記判定の結果が良好になった段階で、前記ねじ継手の締結を終了することを特徴とする管のねじ継手の締結方法。
【請求項3】
請求項1に記載の評価方法を実施するための装置であって、
前記ねじ継手の一方の開口端から前記ねじ継手内に挿入される長尺部材と、
前記長尺部材の挿入手前側に取り付けられ、前記開口端に当接させるための当接部材と、
前記当接部材に取り付けられ、前記当接部材が前記開口端に当接した状態で、前記ねじ継手の内面で支持させるための平板部材と、
前記長尺部材の挿入奥側において前記ねじ継手の軸方向に回動自在に取り付けられ、前記ピン及び前記ボックスのうち載置される何れか一方の内面形状に応じた凸状の接触面を有し、超音波表面波を送信する送信用表面波探触子と、
前記長尺部材の挿入奥側において前記ねじ継手の軸方向に回動自在に取り付けられ、前記ピン及び前記ボックスのうち載置される何れか他方の内面形状に応じた凸状の接触面を有し、超音波表面波を受信する受信用表面波探触子と、
前記送信用表面波探触子及び前記受信用表面波探触子を、それぞれが載置される前記ピン又は前記ボックスの内面に向けて付勢する弾性部材とを備えることを特徴とする管のねじ継手の締結状態評価装置。
【請求項4】
請求項1に記載の評価方法を実施するための装置であって、
前記ねじ継手の一方の開口端から前記ねじ継手内に挿入される長尺部材と、
前記長尺部材の挿入手前側に取り付けられ、前記開口端に当接させるための当接部材と、
前記当接部材に取り付けられ、前記当接部材が前記開口端に当接した状態で、前記ねじ継手の内面で支持させるための平板部材と、
前記長尺部材の挿入奥側において前記ねじ継手の軸方向に回動自在に取り付けられ、前記ピン及び前記ボックスのうち載置される何れか一方の内面形状に応じた凸状の接触面を有し、超音波表面波を送受信する表面波探触子と、
前記表面波探触子を、載置される前記ピン又は前記ボックスの内面に向けて付勢する弾性部材とを備えることを特徴とする管のねじ継手の締結状態評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−237084(P2010−237084A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86411(P2009−86411)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】