説明

管の変形検査具

【課題】管の端部の歪みを全周に亘って簡単に確認できる検査具を提供すること。
【解決手段】芯出し部材2と、芯出し部材の中心側に回転軸4を介して旋回可能に取り付けた枝部材3とを備えて、芯出し部材2の両端側に回転軸4と平行に突出する掛け部22,22’を設け、その各掛け部に、芯出し部材を管Pの端部に固定する把持片を芯出し部材の長手方向に進退可能に取り付け、芯出し部材2の両端側と枝部材3の先端側に、回転軸4からの距離を表示する目印を取り付けた。
これにより、検査具1の回転軸4を管の軸心に合わせて、枝部材3を管Pの端部に沿って管の軸心周りに真円を描くように旋回させることができるから、枝部材3の先端側に付けた目印の軌跡と管外面との管径方向の距離を確認して、管の全周に亘って管の歪みを確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管の変形検査具に関し、特に、管の端部の歪み状態を確認する検査具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道管などに用いられる鋳鉄管は、図5に示すように、外径が均一で真直ぐに伸びる円筒形の直部P1と、その一端に設けられ外径が膨らんだ受口部P2と、他端に設けられた挿し口部P3とから主に構成されている。そして鋳鉄管同士の接合は、この図に示すように、受口部P2の内側に他の管の挿し口部P3を差し込んで行う。
【0003】
ところで、直径の大きな大口径管や管の厚みの小さい薄肉管は変形しやすく、外力が加えられなくても自重だけで歪みが発生することがある。
【0004】
鋳鉄管のように受口部に挿し口部を挿入して管同士をつないでいく接合形式の場合、管が歪んで、挿し口部に外径の大きな部分が出来たり、受口部に内径の小さな部分が出来ると、受口部に挿し口部を差し込めず接合できなくなる。
【0005】
そのため、従来から、配管接合の工事現場に搬入する前に管の端部を検査して歪みを確認し、接合に支障がでそうな歪みが見つかれば、事前に矯正してきた。
【0006】
検査は、管の端部の周方向数カ所で外径寸法等を測って歪みの有無と程度を確認するものであり、通常、その測定は巻尺や直尺などを使って行われる。
【0007】
なお、その他の検査方法として、管の変形を確認するために内径測定装置を使用するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。これは、測定バーを備えた内径測定装置を鋼管の中に取り付け、測定バーを管の軸周りに旋回させて周方向の数カ所で内径(半径)の寸法測定を行い、管の変形状態を確認するものである。
【0008】
このように、管の変形を検査する方法として、巻尺や直尺等を使って管の端部で外径寸法等を直接測定する方法や、測定装置を用いて管の内径寸法を高精度で測る方法が従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07−43103公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、巻尺や直尺を使って管の端部の周方向数カ所で外径寸法を測定しても、全周に亘って測定するわけではないので、いびつな歪みや局部的な膨らみを見落とす恐れがあった。
また、前述の内径測定装置を大口径管で使用する場合、装置の大型化によって重量が増えるため、持ち運びや管内への取り付けが重作業となる。
さらに、鋳鉄管の接合の際に歪みが問題となるのは、主に、管厚の薄い挿し口部であるから、挿し口部の外径の検査を簡単にする必要があり、前述の測定装置で行うような内径測定ではなく、外径の歪みを管の全周に亘って簡単に検査できるものが求められていた。
【0011】
本発明は、簡単な構造で軽く、管の歪みの確認が容易に出来る検査具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の検査具は、管の端部に取り付けて管の歪みを確認する管の変形検査具であって、管の外径寸法より長い芯出し部材と、芯出し部材の中心側に回転軸を介して旋回可能に取り付けた枝部材とを備え、回転軸から芯出し部材の長手方向の両端までの各距離と枝部材の先端の旋回半径が、共に管外面の半径よりも長くなっており、芯出し部材の両端側には、枝部材の取り付け位置とは反対側に突出して対向する一対の掛け部を設け、その各掛け部に、管と接触して芯出し部材を管の端部に固定する把持片を芯出し部材の長手方向に進退可能に取り付け、芯出し部材の両端側と枝部材の先端側に、回転軸からの距離を表示する目印を取り付ける構成とした。
この構成により、まず、一対の把持片で管を径方向に挟んで、管の軸心と交差するように芯出し部材を管の端部に取り付けることができ、次に、芯出し部材の両端側に設けた各目印と管の端部との径方向の距離が等しくなるように把持片を進退させて、芯出し部材の中心(回転軸)を管の軸心に合わせることができる。そして、その状態のまま、枝部材を回転軸の周りに旋回させると、枝部材先端の目印が管端部に沿って管の軸心周りに真円を描くように動くから、その目印と管端部との管径方向の間隔(距離)を確認していけば、管の端部の全周に亘って歪みを検査することが出来る。
【0013】
また、前記目印として、芯出し部材と枝部材のいずれか若しくは双方に、その長手方向に沿って物差しを取り付けることができる。
このように回転軸からの距離を表示する目印として物差しを取り付ければ、その目盛りを読んで回転軸と管端部との径方向の距離を正確に確認することができるから、芯出し部材両端の目印を物差しにすれば、芯出し部材の中心(回転軸)を管の軸心に合わす作業を正確に行うことができ、枝部材先端の目印を物差しにすれば、管端部の全周に亘って歪み量を測る作業をより正確に行うことができる。
【0014】
さらに、前記枝部材の長手方向の途中に、枝部材の先端側を折り曲げる関節部を設けることができる。
これにより、旋回中の枝部材の先端が芯出し部材の両端側と干渉するときに、枝部材を関節部から折り曲げて旋回させて芯出し部材の両端側をかわすことができる。これで、干渉する部分を除き、管の全周に亘って歪みを一度に検査することができる。
【0015】
また、前記関節部の固定とその解除を行う止め金具を前記関節部に取り付けることができる。
これにより、関節部の固定と解除を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の管変形検査具は構造が簡単で軽く、これを使えば、管の変形(歪み)を管端部の全周に亘って容易に検査することができるので、接合工事前の検査において、いびつな歪みや局部的な膨らみを見落とすことがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る管変形検査具を管に装着した使用状態を示す正面図である。
【図2】図1のA−A矢視平面図であり、(a)はその全体図、(b)は芯出し部材端部の拡大図である。
【図3】本発明に係る管変形検査具の枝部材の説明図であり、(a)はその全体図、(b)はC矢視の要部拡大図、(c)はD矢視断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る枝部材の説明図である。
【図5】鋳鉄管の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図1〜3を使って説明する。既述の背景技術と共通するものについては同じ符号を付けて重複する説明は省略する。
【0019】
図1は、本発明に係る管変形検査具を大口径管の挿し口端部に装着した使用状態を示す正面図である。
図示の通り、管変形検査具1は、主に、芯出し部材2と枝部材3とから構成されている。
芯出し部材2は、管Pの軸心線と交差し、管の径方向にその長手方向を合わせて管の端部に装着されている。芯出し部材2の長手方向の中心には回転軸4を介して枝部材3が回転軸4の周りに旋回可能に取り付けられている。枝部材3は、回転軸4側のアーム部31と旋回先端側のゲージ部32に分かれ、アーム部31とゲージ部32は関節部33を介して接続されている。
ここで、回転軸4は管Pの軸心と合っており、芯出し部材2の両端と枝部材3の旋回先端はいずれも管Pの外面より外に突出している。
また、正面視において枝部材3は矩形の棒状であり、芯出し部材2は矩形の棒状体の中央の両側に旋回時の枝部材3を支える一対の羽板23,23’を取り付けた形状をしている。
【0020】
図2は、図1におけるA−A矢視の平面図である。
芯出し部材2は、真っ直ぐ伸びる矩形断面の棒状の棹体部21と、その棹体部の両端で同じ向きに直角に折れ曲がって対向する一対の掛け部22,22’と、棹体部21の側面に突設された前記羽板23,23’を備えている。
掛け部22,22’には、それぞれ棹体部21の長手方向と平行に貫通するネジ穴221,221’が明けられている。両ネジ穴には調整ネジ11が螺合しており、調整ネジの一端に設けられた頭部111が一対の掛け部22,22’の外側に突出し、調整ネジ11の他端に取り付けられた把持片5が一対の掛け部22,22’の内側に突出している。
【0021】
棹体部21と掛け部22,22’は共に金属製で、把持片5は樹脂で作られている。調整ネジの頭部111を手で回すと、そのネジの先端に取り付けられた把持片5がネジ軸方向の一方に移動し、ネジを逆方向に回せば、他方に移動する。
ネジの軸方向は棹体部21の長手方向と平行であるから、一方の掛け部22に設けられた把持片5は、調整ネジ11を回すことで他方の掛け部22’に向けて進退可能となっている。
【0022】
また、棹体部21の長手方向の中心には、掛け部22,22’の折り曲げ方向とは反対向きに、つまり棹体部の長手方向と直交し管Pから離れる向きに、丸棒の回転軸4が突設されている。
そして、棹体部21の両端近くの側面には、その長手方向に沿って直尺6,6’(スケール)が取り付けられている。直尺6,6’は、いずれも回転軸4の軸心から等距離L1だけ離れた位置に取り付けられている。管Pの端部(外面)が指している直尺6,6’の各目盛りを読めば、管Pと芯出し部材2(回転軸4)との相対位置を確認することができる。
【0023】
枝部材3も矩形断面の棒状の金属製部材であって、その一端にあけた丸穴の軸孔35に前述の回転軸4が差し込まれている。そして、回転軸4の先端側に螺合したナット41で抜け止めされ、その軸孔35(回転軸4)を中心として時計の針のように枝部材3が旋回できるようになっている。
【0024】
図3は枝部材の説明図であり、(a)は図1のB矢視での全体図、(b)はC矢視の要部拡大図、(c)はD矢視断面図である。
図3(a)に示すように、枝部材3の先端側を管Pから離れる方向(図中、矢印Tの向き)に折り曲げることが出来るように、枝部材3の中ほどでアーム部31とゲージ部32の二つの部材が蝶番8を介して繋げられ、関節部33が構成されている。関節部33の両側面には、折れ曲がるのを防ぐための止め金具9が取り付けられている。
止め金具9は、2本のコイルバネ92の一端同士をつなぐ掛け棒94と引き金91、フック93を備えている。コイルバネ92は引き金91に接続された他端を中心として旋回可能であり、引き金91はアーム部31に旋回自由に取り付けられている。フック93はゲージ部32に固設されている。フック93に掛け棒94を引っ掛けた後、引き金91をフック93から離れる方向へ引き戻すと、コイルバネ92が引っ張られた状態で引き金が止まり、コイルバネの引っ張り力で蝶番部分(関節部)を固定する仕組みとなっている。
【0025】
図3の(a)や(b)に示すように、枝部材3の先端には差し金10が取り付けられている。差し金10は、幅が狭くて薄い鋼板をその厚み方向に直角に折り曲げてL字形を成すものであり、その折り曲げた先端が回転軸4の軸方向と平行で管P側に向かう様に、つまり回転軸4の突設方向と反対に向かう様に、枝部材3の先に取り付けられる。本実施形態では、差し金10の折れ曲がった先端部が目印の役割を果たす。
図3(b)に示すように、差し金10には長孔101が明けられ、取り付け位置を調整しながら枝部材3の先端にネジ止め出来るようになっている。
軸孔35の芯(旋回中心)から差し金先端(目印)までの寸法L3が確認できるように、枝部材の先端には、旋回中心から一定距離L2だけ離れた位置で長さL4の差し金10の横に並ぶように、直尺7(スケール)が取り付けられている。
【0026】
枝部材先端の芯出し部材側、つまり管P側の面には、枝部材を旋回させたときに管Pの端面に臨む一対のガイド部34、34’が突設されている。差し金10は、一対のガイド部34、34’の間に取り付けられ、その先端がゲージ部32の先からはみ出した状態となっている。
【0027】
次に、この管変形検査具を使って管端部の全周に亘って外径の変形(歪み)の有無を確認する方法について説明する。
【0028】
まず、管Pの端部に芯出し部材2の棹体部21を掛け部22,22’側から当てる。このとき、掛け部の把持片5,5’が管外面の外側にくるように、また、芯出し部材2の回転軸4が管Pの軸心近くにくるように、見当を付けて行う。
【0029】
次に、一方の掛け部22の把持片5が管Pの外面に当たるまで、芯出し部材2をその長手方向に移動させる。一方の把持片5が管Pの外面に接触したら、その把持片5を支点にして、芯出し部材2を管Pの端面に沿ってゆっくりと微小角度揺動させ、他方の把持片5’が管の外面に最も接近する角度(位置関係)を見つけ出す。
【0030】
その角度(位置関係)で、他方の把持片5’の調整ネジ11’を締めこんで、把持片5,5’で管Pを径方向に挟み込む。
次に、直尺6,6’を見て、管Pの外面が指している目盛り、すなわち、直尺6,6’と管P外面との交点の目盛り、をそれぞれ読み取り、両方の目盛りが等しくなるように、調整ネジ11,11’を回して把持片5,5’を出し入れする。各目盛りが等しくなれば、芯出し部材2の回転軸4がこの管Pの軸心に合った状態、すなわち芯出しが完了した状態で、管変形検査具1が管Pの端面に取り付けられたことになる。
【0031】
続いて、枝部材3に取り付けられた差し金10の先端(目印)と管P外面との径方向の隙間を確認する。隙間の確認は、回転軸4の周りに枝部材3を旋回させながら管Pの全周に亘って行う。ここで、差し金10は、その先端(目印)と回転軸4の軸心との距離L3が管Pの外径寸法の許容最大値の半分となるように、枝部材3に取り付けられている。
【0032】
枝部材を旋回させていくと、差し金10の先端やガイド部34,34’が芯出し部材の掛け部22,22’や把持片5,5’に当たって干渉する。このとき、枝部材3の両側面に取り付けた止め金具9を外して関節部33の固定を解き、ゲージ部32を管Pから離れる方向に折り曲げる(図3(a)の矢印T参照)。その状態で旋回を続けてゲージ部32が掛け部を通過したら、折り曲げていた枝部材を元に戻して伸ばし、止め金具9を使って再び関節部33をロックする。
【0033】
関節部33を固定してから、枝部材3の旋回を再開し、差し金10の先端(目印)と管Pの外面との径方向の隙間の確認を続ける。隙間が無かったり、差し金先端(目印)と管の外面が当たる箇所が見つかれば、接合作業に影響を及ぼす歪みが生じていることになるから、歪みを無くすための矯正作業を行う。
【0034】
なお、本実施形態では、芯出し部材の両端に直尺を取り付けて旋回中心(回転軸)からの距離の確認に用いたが、直尺を取り付けずに、旋回中心からの距離の目印となるマーク表示を書き込んだり、目印となる突起や溝を設けてもよい。
また、本実施形態では、枝部材の先端に差し金10を取り付けて目印としたが、図4に示すように、差し金の代わりに直尺7’を取り付けてもよい。その場合、枝部材を旋回させながら、直尺7’と管外面との交点の目盛りを管の全周に亘って読むことで、外径の歪みを確認することができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、芯出し部材の棹体部や掛け部と枝部材を金属製としたが、金属に限らず、各部材の剛性が確保できて軽い素材であれば採用可能であり、例えば樹脂製や木製とすることもできる。同様に、把持片も樹脂製に限らず、管Pを掴んだときに滑らず管を傷つけない素材であればよく、金属製や木製とすることもできる。
【符号の説明】
【0036】
1 管変形検査具
2 芯出し部材
3 枝部材
4 回転軸
5、5’ 把持片
6、6’ 直尺(物差し・目印)
7 直尺
7’ 直尺(物差し・目印)
8 蝶番
9 止め金具
10 差し金(目印)
11 調整ネジ
22、22’ 掛け部
33 関節部
101 長孔
P 鋳鉄管(管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の端部に取り付けて管の歪みを確認する管の変形検査具であって、
管の外径寸法より長い芯出し部材と、芯出し部材の中心側に回転軸を介して旋回可能に取り付けた枝部材とを備え、
回転軸から芯出し部材の長手方向の両端までの各距離と枝部材の先端の旋回半径が、共に管外面の半径よりも長くなっており、
芯出し部材の両端側には、枝部材の取り付け位置とは反対側に突出して対向する一対の掛け部を設け、その各掛け部に、管と接触して芯出し部材を管の端部に固定する把持片を芯出し部材の長手方向に進退可能に取り付け、
芯出し部材の両端側と枝部材の先端側に、回転軸からの距離を表示する目印を取り付けたことを特徴とする管の変形検査具。
【請求項2】
前記目印として、芯出し部材と枝部材のいずれか若しくは双方に、その長手方向に沿って物差しを取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の管の変形検査具。
【請求項3】
前記枝部材の長手方向の途中に、枝部材の先端側を折り曲げる関節部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の管の変形検査具。
【請求項4】
前記関節部の固定とその解除を行う止め金具を前記関節部に取り付けたことを特徴とする請求項3に記載の管の変形検査具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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