説明

管体製造方法及びローラ製造方法

【課題】軸線方向の厚さが均一な弾性薄層を備えて成る管体を製造できる管体製造方法、及び、この管体を備えて成るローラを製造できるローラ製造方法を提供すること。
【解決手段】管状基体の外周面に形成された弾性薄層を備えて成る管体を製造する方法であって、起立状態に配置された管状基体の外周に層形成材料をその塗布厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布する工程を有する管体製造方法、並びに、前記管体を備えて成るローラ製造方法であって、前記管体製造方法によって製造された管体に軸体の外周面に形成された弾性層を備えたローラ原体を挿入する工程を有するローラ製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管体製造方法及びローラ製造方法に関し、さらに詳しくは、軸線方向の厚さが均一な弾性薄層を備えて成る管体製造方法、及び、この管体を備えて成るローラ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター及びビデオプリンター等のプリンター、複写機、ファクシミリ、これらの複合機等の画像形成装置は、現像剤を担持搬送する現像ローラ、現像剤を現像ローラに供給する現像剤供給ローラ、記録体を搬送する搬送ローラ、現像剤を記録体に転写させる転写ローラ、記録体上の現像剤を記録体に定着させる定着ローラ、定着ローラを圧接する加圧ローラ等の多種多様の各種ローラを備えている。このようなローラは、通常、軸体と、その外周に形成された弾性層と、必要により弾性層の外周に形成された表面層等の各層を備えている。前記ローラの一例を具体的に挙げると、例えば、図2に示される定着ローラ100は、軸体101と、この軸体101の外周に形成された、気泡のない弾性層(所謂ソリッド弾性層とも称する。)又は気泡が存在する弾性層(所謂発泡弾性層とも称する。)102と、この弾性層102の外周に形成された多層構造の管体103とを備えている。
【0003】
このようなローラに用いられる多層構造の管体103を作製するには、前記層を形成可能な層形成材料例えば塗布液等を管状基体の外周との間に同心環状の間隙を有する吐出口から前記外周に加圧吐出して塗布し、次いで層形成材料を硬化する方法が採用されることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、「エンドレスに形成された連続周面を有する円筒状基材を移動させながら、塗布液を、前記基材側に開口する塗布液流出口を有する塗布液分配スリットを通して、前記基材周面を取り囲むように基材全周にわたって近接形成されたホッパー塗布面に設けられたエンドレスの塗布液流出口から該ホッパー塗布面にあるスライド面上に流出させ、前記基材とホッパー塗布面の先端部に連続的に供給させて塗布する方法」が記載されている。
【0005】
また、前駆体液をまず塗布し、次いで外型を一定速度で通過させて塗布厚を調整する2段階でシームレス状の管状物を製造する方法として、特許文献2には「芯体の外面に被膜を形成した後、芯体より被膜を分離させて管状物を製造する方法において、この芯体の外径に対して、所定の間隙の内径を有した外型を用意し、予め芯体の表面に管状成型物の前駆体液を最終被膜形成厚みよりも厚く付着させた後、外型又は芯体の少なくとも一方を拘束させることなく、前記前駆体液の反発力を用いて外型を芯体の外側を通過させ、芯体の外面に所定の膜厚の被膜を形成した後、少なくとも管状物としての強度を保持できる状態まで前記前駆体液を処理し、管状物被膜材料を芯体に保持した後、芯体より管状物を分離することを特徴とする管状物の製造方法」が記載されている。
【0006】
管体を形成するための方法ではないが、ディッピング方法で水分散系塗料を塗布する方法として、特許文献3には「柱状あるいは筒状の被塗布体を該被塗布体の軸方向が鉛直方向となる配置でフッ素樹脂が分散された溶液中へ浸漬させる浸漬塗布を行い、該浸漬塗布によって該被塗布体の表面に塗布された溶液を焼成することにより該被塗布体の表面にフッ素樹脂被膜を形成するフッ素樹脂形成方法において、前記被塗布体を前記溶液中に浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程で浸漬した被塗布体を上端部と、下端部と、それら上端部および下端部を除く中央部とに分けたときに、上端部、中央部、および下端部の順に順次速度を下げながら引き上げる引上工程とにより浸漬塗布を行うことを特徴とするフッ素樹脂被膜形成方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−74159号公報
【特許文献2】特開平6−23770号公報
【特許文献3】特開2001−198930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、管状基体を略垂直となるように起立状態に配置された状態でその外周面に塗布された層形成材料を硬化すると形成される弾性薄層が偏心しにくくなる。ところが、管状基体を起立状態に配置して層形成材料を加熱硬化させると、塗布後の厚さがたとえ均一であっても層形成材料を硬化してなる弾性薄層は重力方向に沿ってその厚さが不均一になることがある。特許文献3の方法は水分散系塗料を用いるから塗布後の厚さもさることながら管状基体を起立状態に配置すると短時間で水分散系塗料が流れ落ち弾性薄層を形成することはできないこともある。また、管状基体を起立状態に配置して特許文献1及び2の方法によって塗布された層形成材料を硬化すると特許文献3ほどではなくても重力方向の下流側ほど弾性薄層の厚さが厚くなることがある。
【0009】
したがって、この発明は、軸線方向の厚さが均一な弾性薄層を備えて成る管体を製造できる管体製造方法、並びに、この管体を備えて成るローラを製造できるローラ製造方法を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、管状基体の外周面に形成された弾性薄層を備えて成る管体を製造する方法であって、前記管状基体の軸線が重力方向に沿うように起立状態に配置された前記管状基体の周方向から前記重力方向に沿って前記層形成材料を供給して前記管状基体の外周に前記層形成材料をその塗布厚さが前記重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布する工程を有することを特徴とする管体製造方法であり、
請求項2は、前記層形成材料はその供給量が重力方向に沿って徐々に減少するように供給されることを特徴とする請求項1に記載の管体製造方法であり、
請求項3は、軸体の外周面に形成された弾性層と前記弾性層の外周面に形成された管体とを備えて成るローラを製造する方法であって、請求項1又は2に記載の管体製造方法によって製造された前記管体に、軸体の外周面に形成された弾性層を備えたローラ原体を挿入する工程を有することを特徴とするローラ製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る管体製造方法は、層形成材料を重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布する前記工程を有しているから、加熱硬化して成る弾性薄層は軸線方向の厚さがほぼ均一となる。また、この発明に係るローラ製造方法は、この発明に係る管体製造方法によって製造された管体にローラ原体を挿入する工程を有している。したがって、この発明によれば、軸線方向の厚さが均一な弾性薄層を備えて成る管体を製造できる管体製造方法、並びに、この管体を備えて成るローラを製造できるローラ製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明に係る管体製造方法によって製造される管体の一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、この発明に係るローラ製造方法によって製造されるローラの一例を示す概略斜視図である。
【図3】図3は、この発明に係る管体製造方法及びこの発明に係るローラ製造方法を実施できるローラ製造装置の一例を示す概略正面図である。
【図4】図4は、ローラ製造装置の一例における塗布装置を示す概略側面図である。
【図5】図5は、ローラ製造装置の一例における管状塗布部材の一例を示す概略図であり、図5(a)はローラ製造装置の一例における管状塗布部材の一例を示す概略上面図であり、図5(b)は図5(a)のA−A線における概略断面図である。
【図6】図6は、ローラ製造装置の一例における塗布装置の初期状態を示す概略側面図である。
【図7】図7は、ローラ製造装置の一例であるローラ製造装置を用いてこの発明に係る管体製造方法を説明する塗布装置の部分断面図である。
【図8】図8は、ローラ製造装置の一例であるローラ製造装置を用いてこの発明に係る管体製造方法を実施するときの塗布装置の管状塗布部材近傍を説明する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、この発明に係る管体製造方法及びこの発明に係るローラ製造方法によって製造される管体及びローラについて簡単に説明する。
【0014】
この発明に係る管体製造方法によって製造される管体は、軸線方向の厚さが均一な弾性薄層を備えていればよく、他の層等を備えていてよい。このような管体として、例えば、管状基体と、この管状基体の外周面に配置された、軸線方向の厚さが均一な弾性薄層とを備えている。このような管体の一例として図1に示される管体103が挙げられる。この管体103は、管状基体104と、管状基体104の外周面に配置されたシリコーン弾性薄層105と、シリコーン弾性薄層105の外周面に配置されたフッ素樹脂層106とを備えている。
【0015】
管状基体104は、例えば、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、銅等の高い熱伝導を有する金属材料で管状に形成され、一層構造とされても二層以上が積層された積層構造とされてもよい。又は、この管状基体104は、カーボンブラック、金属(アルミニウム、ニッケル、銅等)若しくはそれらの合金、金属酸化物(酸化スズ、酸化亜鉛等)又は無機酸化物(チタン酸カリウム等)で導電性が付与された樹脂で管状に形成されていてもよい。このような樹脂として、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。この管状基体104は、一層構造であっても積層構造であってもよく、ローラに用いる場合には積層構造が好ましく採用される。管状基体104は、通常薄層に形成され、例えば、その全体の厚さは、20〜100μmであるのが好ましく、30〜50μmであるのが特に好ましい。管状基体104はメッキ等が施されてもよい。複層構造の管状基体として、例えば、ニッケル電鋳基材と銅層とニッケルメッキ層とがこの順で直接積層された3層構造の管状基体が挙げられる。なお、積層される各層の間にはプライマー層等が挿設されてもよい。この管状基体104は800〜2500MPa程度の引張強度を有しているのがローラとしたときに弾性層の内周面からの圧接により変形しにくくなる点で好ましい。この引張強度の測定方法はJIS Z 2241に準拠する。管状基体104はローラとしたときの製品長さよりも軸線長さを長くしておくのが両端部を切除して均一な管体を製造できる点で好ましい。
【0016】
シリコーン弾性薄層105は、例えば後述するシリコーンゴム組成物を用いて、管状基体104の外周面に所望によりプライマー又は接着剤層を介して形成される。このシリコーン弾性薄層105は、この発明に係る塗布方法によって形成されていると、その層厚が均一になり、更にシリコーン弾性薄層105の外周面にウェルドラインが生じないために、その外層に形成されるフッ素樹脂層106の表面の均一性が向上し、プリンターや複写機等の所定のローラとして使用する場合において要求されるローラとしての機能の高度な安定性を得ることができる。このシリコーン弾性薄層105は、通常、1〜200μmの厚さに形成され、好ましくは30〜150μmの厚さに形成される。なお、この発明に係る管体の弾性薄層はシリコーン弾性薄層105に限定されず、各種のゴム、例えば、シリコーン若しくはシリコーン変性ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム(エチレンプロピレンジエンゴムを含む。)、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムで形成された弾性薄層であってもよい。
【0017】
この管体103のシリコーン弾性薄層105は均一な厚さを有している。例えば、シリコーン弾性薄層105の周方向における厚さの差、具体的には、周方向に一巡する円周を等間隔に分割する8点における最大厚さと最小厚さの差が5μm以下である。好ましくは、シリコーン弾性薄層105の軸線長さを等間隔に分割する5つの円周それぞれにおける前記8点の最大厚さと最小厚さとの差がいずれも4μm以下である。このシリコーン弾性薄層105は特に軸線方向の厚さが均一になっている。具体的には、シリコーン弾性薄層105の軸線方向における厚さの差、より具体的には、シリコーン弾性薄層105の軸線長さを等間隔に分割する5点における最大厚さと最小厚さの差が10μm以下である。好ましくは、シリコーン弾性薄層105の前記5つの円周を周方向に等間隔に分割する8点それぞれにおける軸線方向に沿う同一線上にある5点の最大厚さと最小厚さとの差がいずれも8μm以下である。なお、シリコーン弾性薄層105の厚さは、信越ポリマー株式会社で設計・製作した管体専用測定器を用いて測定される値である。この管体専用測定器は、管体を水平方向に挿入して保持する円筒状支柱が備えられており、当該円筒状支柱の端部付近の特定位置で管体の厚みが測定できるように、当該円筒状支柱の当該特定位置に測定子が設置されている。更に、当該測定子と同位置にダイヤルゲージの測定子が対応するようにダイヤルゲージが設置されている。ダイヤルゲージは0.001mm(1μm)の最小目盛ゲージを備えている。測定する時は管体を専用測定器の当該円筒状支柱に挿入し、測定したい部分をダイヤルゲージの位置に合わせて測定する。別位置を測定する場合は、前述と同様に測定部位をダイヤルゲージの位置に合わせて測定を繰り返せばよい。
【0018】
フッ素樹脂層106は、フッ素樹脂組成物を用いてシリコーン弾性薄層105の外周面に所望によりプライマー又は接着剤層を介して形成される。また、このフッ素樹脂層106はフッ素樹脂組成物で形成されたチューブを所望によりプライマー又は接着剤層を介してシリコーン弾性薄層105の外周面に被覆して形成される。このフッ素樹脂層106は、通常、1〜200μmの厚さに形成され、好ましくは5〜50μmの厚さに形成される。フッ素樹脂組成物としてフッ素樹脂と所望により各種添加剤とを含有するフッ素樹脂組成物を挙げることができる。このようなフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
【0019】
管体103の最外層であるフッ素樹脂層106は平坦な表面を有しており、具体的には、その中心線平均粗さRaが8μm以下であるのがよい。この発明において、前記中心線平均粗さRaは6μm以下であるのが好ましい。前記中心線平均粗さRaの下限値は理想的には「0」であるが、現実的には例えば5μmである。前記中心線平均粗さRaは、JIS B 0601−1982に準じ、先端半径2μmの測定プローブを備えた表面粗さ計(商品名「590A」、株式会社東京精密製)に、管体103をセットし、測定長2.4mm、カットオフ波長0.8mm、カットオフ種別ガウシアンにより、少なくとも3点における中心線平均粗さRaを測定し、これらの平均値を管体103の中心線平均粗さRaとする。前記中心線平均粗さRaを前記範囲内に調整するには、例えば、シリコーン弾性層105の厚さ均一性等を調整すればよい。
【0020】
フッ素樹脂層106は、また、その最大高さRmaxが15μm以下であるのがよい。この発明において、前記最大高さRmaxは12μm以下であるのが好ましい。前記最大高さRmaxの下限値は理想的には「0」であるが、現実的には例えば10μmである。前記最大高さRmaxは、JIS B 0601−1994に準じ、前記中心線平均粗さRaと基本的に同様にして、測定できる。前記最大高さRmaxを前記範囲内に調整するには、例えば、シリコーン弾性層105の厚さ均一性等を調整すればよい。
【0021】
この発明に係るローラ製造方法によって製造されるローラは、軸体と、軸体の外周面に形成された弾性層と、弾性層の外周面に管体とを備えている。このようなローラの一例として図2に示されるローラ100が挙げられる。このローラ100は、軸体101の外周面に形成された発泡弾性層102と、好ましくは接着剤層(図2において図示しない。)を介して発泡弾性層102の外周面に配置された管体103とを備えてなる。管体103は前記した通りである。したがって、このローラ100は、管体103のシリコーン弾性薄層105が均一な厚さを有しているから、ローラ100の表面、すなわち、フッ素樹脂層106は基本的に平坦で均一な表面を有している。具体的には、ローラ100の表面における中心線平均粗さRaは8μm以下、及び/又は、最大高さRmaxが15μm以下になっている。中心線平均粗さRa及び最大高さRmaxは前記測定方法と同様にして測定される。
【0022】
軸体101は、良好な導電特性を有していればよく、所謂「芯金」とも称される。好ましく配置される接着剤層は適宜の接着剤を硬化してなり10〜300μmの厚さを有している。
【0023】
発泡弾性層102は、後述するゴム組成物によって軸体101の外周面に形成されている。この発泡弾性層102はその内部及び/又は外表面にセルを有する発泡弾性層とされている(図2において発泡弾性層102の外周面に開口したセルは図示しない。)。発泡弾性層102に有するセルは、ゴム組成物に含有される発泡剤の発泡又は分解等によって生じる中空領域、及び、ゴム組成物に含有される中空充填材等に由来する中空領域をいう。発泡弾性層102に有する複数のセルは、他のセルに接することのない若しくは連通することのない状態(独立セル状態と称する。)、他のセルに接し若しくは連通している状態(連通セル状態と称する。)、又は、前記独立セル状態と前記連通セル状態とが共存する状態の何れの状態にあってもよい。発泡弾性層102は、画像形成装置に用いられる各種ローラに応じて、セルの大きさ、存在率等が決定される。この発泡弾性層102は20〜60のアスカーC硬度(荷重1.0kg)を有するのが好ましく、その厚さは特に限定されないが、通常、2〜20mmに調整されるのが好ましく、3〜15mmに調整されるのが特に好ましい。
【0024】
この発明に係る管体製造方法について説明する。この発明における管体製造方法は、管状基体の軸線が重力方向に沿うように起立状態に配置された管状基体の周方向から重力方向に沿って層形成材料を供給して、管状基体の外周に層形成材料をその塗布厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布する工程を有している。この発明に係る管体製造方法における塗布する工程において、管状基体は、その軸線が重力方向に沿うように、すなわち、重力方向に略並行となるように、起立状態に配置される。そして、層形成材料は、このように配置された管状基体の周方向から輪環状となるように重力方向に沿って管状基体の外周面に供給される。このとき、層形成材料は、重力方向と同方向すなわち重力方向の上流側(上方ともいう。)から下流側(下方ともいう。)に向かって、又は、重力方向と逆方向すなわち重力に逆らう方向に供給される。また、層形成材料は、加圧されて外周面に供給すなわち吐出されてもよく、自重すなわち周辺環境の圧力下で供給すなわち流出又は洩出してよい。加圧して層形成材料を吐出するには、例えば、管状基体を周方向に囲繞する同心環状の間隙に層形成材料を密閉された環状空間を経由して加圧機、通常、加圧ポンプ、送液ポンプ等で圧送して、この間隙から層形成材料を管状基体に向けて吐出することによって実施でき、一方、層形成材料を自重で間隙に供給するには、例えば、間隙から重力方向に沿って層形成材料を周辺環境の圧力下で洩出させることによって、実施できる。なお、この発明において、「周辺環境の圧力」は層形成材料を加圧して吐出することのない圧力、所謂大気圧又は常圧と呼ばれる範囲を指しており、より詳しくは、常圧よりもわずかに高い圧力であっても常圧よりもわずかに低い圧力であってもよく、通常、常圧以下すなわち大気圧以下の圧力であり、約常圧であるのがよい。具体的には、この発明における「周辺環境の圧力」は、例えば、670〜780mmHgの範囲とすることができる。
【0025】
この工程は、前記のように層形成材料が供給されることによって、管状基体の外周に層形成材料を、その塗布厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように、塗布する。すなわち、管状基体の外周に塗布された層形成材料は、重力方向に向かって、換言すると、重力方向の上流側から下流側に向かって、その厚さが徐々に薄くなるように、塗布される。すなわち、層形成材料の塗布開始点、例えば、上流側端部からの距離に応じて、その外形を上流側端部が大径の頂面で下流側端部が小径の底面となる略逆円錐台形状となるように層形成材料を塗布する。ここで、層形成材料の塗布量は層形成材料全体の厚さの平均厚さが弾性薄層に要求される厚さと略同一となるように調整される。さらに、層形成材料は層形成材料の温度変化等を考慮して重力方向の上流側端部に塗布された厚さすなわち最大厚さと重力方向の下流側端部に塗布された厚さすなわち最小厚さとの差(厚さの差と称する。)が適宜の範囲に決定される。このような厚さの差は、例えば、層形成材料における粘度の温度変化を測定して検量線を作成することによって塗布された層形成材料が加熱硬化後に均一の厚さになるように設定される。このような検量線は当業者において通常容易に作成される。厚さの差は、具体的には、粘度の温度変化が大きければ厚さの差を大きくする。厚さの差としての一例を挙げると、例えば、30〜200μmの範囲内であるのが好ましく、80〜150μmの範囲内であるのが特に好ましい。
【0026】
ここで、層形成材料の粘度は、例えば、層形成材料の各成分及びその含有量、希釈溶剤等の使用量及び沸点等によって適宜に調整することができる。具体的には、層形成材料に含有される硬化剤の含有量を多くすると、又は、管状基体の厚さを厚くしてその熱容量を大きくすると、速やかに層形成材料が硬化するから層形成材料の温度変化が比較的大きくても層形成材料の厚さをほぼ均一にすることができる。
【0027】
重力方向に向かって厚さが徐々に薄くなるように層形成材料を塗布するには、例えば、供給される層形成材料の供給量を重力方向に従って徐々に減少させる方法が好ましく、より具体的には層形成材料が高粘度である場合には層形成材料の粘度と剪断速度との関係等によって層形成材料を重力方向に向かって塗布するときは塗布速度を徐々にすなわち漸次遅くする方法が挙げられ、層形成材料を重力方向と逆方向に向かって塗布するときは塗布速度を徐々にすなわち漸次速くする方法が挙げられる。このときの減少させる割合又は遅く若しくは速くする割合は前記厚さの差となるように調整される。このように、前記厚さの差となるように層形成材料の厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布されると、管状基体が起立状態に配置された状態で層形成材料を加熱硬化して成る弾性薄層は軸線方向の厚さがほぼ均一となる。
【0028】
この発明に係る管体製造方法に用いる層形成材料は、管体の弾性薄層を形成することのできる材料であればよく、例えばゴムと所望により各種添加剤とを含有するゴム組成物を挙げることができる。前記ゴムとしては、各種のゴム、例えば、シリコーンゴム、シリコーン変性ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム(エチレンプロピレンジエンゴムを含む。)、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムが挙げられる。前記ゴムはこれらの中でもシリコーンゴム又はシリコーン変性ゴムであるのが高い耐熱性を発揮するので好ましい。シリコーンゴム又はシリコーン変性ゴムを含有するゴム組成物としては、例えば、KE−1380A及びKE−1380Bの混合物「KE−1380A、B」(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。前記ゴム組成物は、その粘度(25℃)が例えば10〜200Pa・sの範囲内にあればよい。前記粘度(25℃)は次の測定方法及び測定条件で測定した値である。HAAKE社製の粘度・粘弾性測定装置「レオストレスRS6000」を用いた定常粘度測定により測定した。即ち、測定材料を測定機にセットして、せん断速度(dγ/dt)が5(1/s)の時の粘度を測定したものである。このゴム組成物は樹脂成分等が水に分散された「水分散系塗料」ではなく実質的に水を含有しない非水系ゴム組成物である。ここで、「実質的に水を含有しない」とはゴム組成物に積極的に水を添加しないことを意味し、ゴム又は添加剤に吸着又は吸湿された水分までも含有しないこと、すなわち、水分0%を意味するものではない。また、「非水系ゴム組成物」とは積極的に水を添加していないゴム組成物を意味し、ゴム組成物に吸着又は吸湿された水分までも含有しないこと、すなわち、水分0%を意味するものではない。
【0029】
この発明に係る管体製造方法は、このようにして層形成材料を管状基体の外周に塗布した後に管状基体を前記のように起立状態に配置した状態で層形成材料を加熱硬化する。このとき、管状成形体を起立状態に配置しても層形成材料は自重で流れにくく塗布直後の状態を維持している。これに対して、層形成材料は加熱によりその粘度が変化して重力方向に流れ落ちる傾向があるが、この発明に係る管体製造方法によれば、予め層形成材料の温度と粘度との関係を考慮して管状基体に層形成材料を塗布してあるから加熱硬化後の弾性薄層はその軸線方向に均一な厚さになる。
【0030】
この発明に係る管体製造方法は、所望により、加熱硬化して成る弾性薄層の外周面に表面層等を形成する工程を実施できる。例えば、樹脂組成物を塗布硬化する工程を実施できる。
【0031】
この発明に係る管体製造方法を実施するには、準備した高粘度の層形成材料における流動性の温度変化を測定して検量線を作成することによって、塗布された層形成材料が加熱硬化時に均一の厚さになるように、厚さの差を設定する。
【0032】
この発明に係る管体製造方法の一例として、図1に示される管体103を製造する例(以下、一管体製造方法と称することがある。)を、図面を参照して、具体的に説明する。一管体製造方法を実施するには、管状基体、層形成材料及び管体を製造可能な管体製造装置を準備する。準備する管状基体及び層形成材料は前記した通りである。
【0033】
まず、管体を製造できる管体製造装置、すなわち、塗布装置及び加熱器について説明する。管体を製造できる管体製造装置は、管状基体の外周に層形成材料をその塗布厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布できる装置であればよく、例えば、層形成材料を自重すなわち周辺環境の圧力下で流出又は洩出させて塗布する装置であっても層形成材料を加圧下で吐出させて塗布する装置であってもよい。このような管体製造装置として、例えば、自重すなわち周辺環境の圧力下で層形成材料を流出若しくは洩出させて管状基体に供給する塗布装置、又は、加圧下で層形成材料を吐出させて管状基体に供給する塗布装置と、この塗布装置で塗布された層形成材料を硬化例えば加熱硬化又は発泡硬化する加熱器とを備えた管体製造装置が挙げられ、層形成材料を均一な厚さで塗布できる点で、自重すなわち周辺環境の圧力下で層形成材料を流出又は洩出させて管状基体に供給する塗布装置を備えた管体製造装置が好ましい。
【0034】
層形成材料を流出又は洩出させて管状基体に供給する塗布装置は、好ましくは、管状基体をその軸線周りに固定する固定部材と、管状基体の外周面に塗布する層形成材料を収納して筒状保持部材に保持される管状基材に塗布する環状塗布部材を備えている。前記固定部材は、管状基体の軸線周りにその外周面が実質的に変位又は変動することのないように管状基体を固定できる部材であればよく、管状基体の軸線方向両端部から狭持する部材等が採用される。この固定部材は管状基体を起立状態特に略垂直な起立状態に固定する。この発明において、固定部材は、外周面に管状基材を保持する筒状保持部材と、この筒状保持部材を例えばその軸線方向から支持固定する一対の支持固定部材とを有しているのが好ましい。この筒状保持部材は、管状基体が外挿され、管状基体を外周面に保持するようになっている。例えば、筒状保持部材は管状基体の内径と略同一の外径を有する筒状をなしており、その軸線に垂直な断面は管状基体の断面と略同一形状となっている。この筒状保持部材は中子と称することもできる。前記一対の支持固定部材は、共通の軸線すなわち一直線上に相対向するように、すなわち、互いに離れて直列に配置される。一対の支持固定部材は筒状保持部材の端部それぞれを支持固定するようになっており、この筒状保持部材及び管状基体を例えばこれらの軸線が前記軸線と一致するように略垂直となる起立状態に支持固定する。環状塗布部材は筒状保持部材に保持される管状基体との間に同心環状の間隙を形成する貫通孔が穿孔された底部と、この底部から前記軸線に沿って形成され、管状基体の周面を囲繞する環状開放空間とを有している。環状開放空間は層形成材料を収容して管状基体の周囲をその半径方向から囲繞する。環状塗布部材は前記軸線に沿って例えば一対の支持固定部材すなわちこれに保持される管状基体に対して相対的に前後進可能になっており、例えば、この発明においては、固定部材すなわち管状基体が移動可能になっていても、環状塗布部材が移動可能になっていても、また、両者が移動可能になっていてもよい。
【0035】
この塗布装置は、筒状保持部材及び一対の支持固定部材を有する固定部材と環状塗布部材とを備えて成り、層形成材料を加圧することなく周辺環境の圧力下で洩出、漏出又は流出させるから、層形成材料を吐出するための加圧吐出手段、例えば送液ポンプ、加圧シリンダー等は備えていない。
【0036】
加熱器は、層形成材料が硬化する温度に層形成材料を加熱できればよく、例えば、各種ヒータを備えた加熱器、送風加熱器等が挙げられる。
【0037】
塗布装置と加熱器とを備えた管体製造装置の一例として、例えば、図3〜図5に示される管体製造装置2が好適に挙げられる。この管体製造装置2は、自重すなわち周辺環境の圧力下で層形成材料を流出又は洩出させて供給する塗布装置1と、この塗布装置1で塗布された層形成材料を硬化例えば加熱硬化又は発泡硬化する加熱器51とを備えている。
【0038】
管体製造装置が有する塗布装置の一例(以下、一塗布装置と称することがある。)を、図面を参照して、具体的に説明する。この一塗布装置1は、図3及び図4に示されるように、外周面に管状基材104(図3において図示しない。)を保持する筒状保持部材4と、共通の軸線C上に相対向するように、すなわち、互いに離れて直列になるように配置され、筒状保持部材4の端部それぞれを支持固定する一対の支持固定部材5と、筒状保持部材4に保持される管状基体104との間に同心環状の間隙23を形成する貫通孔22が穿孔された底部21、及び、この底部21から軸線Cに沿って形成され管状基体104の周面を囲繞する環状開放空間24を有する環状塗布部材6を備えている。筒状保持部材4及び一対の支持固定部材5が管体製造装置における塗布装置の前記固定部材に相当する。
【0039】
より具体的には、一塗布装置1は、図3及び図4に示されるように、基台8と、基台8の上面に立設形成された支柱9と、支柱9の先端から略水平に延在するアーム9aと、基台8及びアーム9aそれぞれに略垂直に固定された一対の支持固定部材5と、支持固定部材5それぞれの端部に着脱自在に支持固定される筒状保持部材4と、軸線C方向に沿って相対的に前後進可能な環状塗布部材6と、環状塗布部材6を軸線C方向に沿って移動させる移動手段7とを備えている。一塗布装置1において、起立状態にある筒状保持部材4の基台8側を下側、そのアーム9a側を上側と称することがある。
【0040】
基台8、支柱9及びアーム9aは、筒状保持部材4、一対の支持固定部材5及び管状基体104を支持すると共に環状塗布部材6を移動可能に設けることができれば、その形状等は特に限定されない。
【0041】
筒状保持部材4は、図3及び図4に示されるように、例えば、管状基体104の内径と略同一の外径及び管状基体104の軸線断面と略同一形状の軸線断面とを有する筒状をなしており、管状基体104に挿通され自身の外周面41に管状基体104を保持する。筒状保持部材4の軸線C方向両端部には、後述する一対の支持固定部材5に支持固定される支持部42を有している。支持部42それぞれは筒状保持部材4の軸線Cを共有すると共に深さ方向に徐々に外径が小さくなる錐形の底部を有する有底孔とされている。
【0042】
一対の支持固定部材5は、図3及び図4に示されるように、共通の軸線Cに相対向するように、すなわち、互いに離れて直列に配置され、筒状保持部材4の端部それぞれに設けられた支持部42に内挿して筒状保持部材4を支持固定する。一対の支持固定部材5は、基台8に高さ調整台を介して装着された一方の支持固定部材5aと、基台8に略垂直に立設された支柱9から略水平に延在するアーム9aに装着された他方の支持固定部材5bとから成る。この一対の支持固定部材5a及び5bそれぞれは、略一定の外径と軸線断面形状を有する円筒状の基部12と、この基部12から相対向する支持固定部材5に向かう方向に連設され、先端に向かって徐々に外径が小さくなる円錐形の先端部11とを有する円筒状をなしている。基部12は支持部42の内径と略同一の外径及び支持部42の軸線断面と略同一形状の軸線断面とを有して支持部42と嵌合し、先端部11は支持部42の底部と当接するようになっている。すなわち、筒状保持部材4は端部それぞれに設けられた支持部42が一対の支持固定部材5に装着される。一対の支持固定部材5は、共通の軸線C上に配置されるように基台8及びアーム9aに装着されているから、一対の支持固定部材5に支持固定された筒状保持部材4の軸線が一対の支持固定部材5の軸線Cと一致するように、筒状保持部材4を略垂直な起立状態に支持固定する。したがって、筒状保持部材4に保持された管状基体104も同様に一対の支持固定部材5の軸線Cと一致するように略垂直な起立状態に保持される。
【0043】
一対の支持固定部材5の少なくとも一方は軸線C方向に前後進移動可能に設けられており、この例においては、他方の支持固定部材5bがアーム9aと共に軸線C方向に前後進移動可能に支柱9に設けられている。このように少なくとも一方の支持固定部材5a又は5bが設けられていると筒状保持部材4の着脱が容易になる。
【0044】
環状塗布部材6は、図3〜図5に示されるように、層形成材料が収容される環状開放空間24から軸線C方向の下側に連設された底部21に層形成材料が洩出又は流出する貫通孔22が形成されている。すなわち、環状塗布部材6は、層形成材料が洩出又は流出する貫通孔22が軸線C方向の下側に形成され、貫通孔22よりも上側に層形成材料が収容される環状開放空間24が連設されている。したがって、環状塗布部材6は、環状開放空間24に収容された層形成材料を加圧しなくても周辺環境の圧力下で又は自重若しくは粘性で貫通孔22から洩出、漏出又は流出させて、管状基体104の外周面に層形成材料を塗布することができる。環状塗布部材6は、筒状保持部材4に保持される管状基体104との間に同心環状の間隙23を形成する貫通孔22が穿孔された底部21と、この底部21から軸線Cに沿って形成され管状基体104の周面をその半径方向から囲繞する環状開放空間24とを有している。より具体的には、環状塗布部材6は、底部21とこの底部21の外側端縁から軸線Cに沿って一方向に立ち上がりその終端が開放された周壁25とを備え、底部21と周壁25とで層形成材料を収容する環状開放空間24を形成している。すなわち、この環状塗布部材6は、両端が開口した管状体からなる周壁25と、周壁25の一方の開口部に軸線方向に環状に突設された底部21とを有する一端開放容器となっている。このように、環状塗布部材6は、層形成材料を収容した環状開放空間24が管状基体104の周囲をその半径方向から囲繞すると共に間隙23を形成する貫通孔22を有する底部21がダイとして機能する。そして、この環状塗布部材6は、管状基体104の周囲を囲繞した状態で軸線C方向に移動して、環状開放空間24に収容した層形成材料を加圧することなく周辺環境の圧力下で貫通孔22から洩出、漏出又は流出させて管状基体104の外周面に塗布する。
【0045】
貫通孔22の開口径は、管状基体104の外径よりも大きく調整されており、管状基体104の外周面との間隙23が適宜の間隙距離となるように、設定される。例えば、この間隙距離は貫通孔22と管状基体104の外周面との半径方向の離間距離であり、塗布する層形成材料の塗布厚、粘度等に応じて、例えば、0.1〜0.6mmの範囲から選択される。より詳細には、間隙距離は層形成材料の粘度(25℃)が50〜100Pa・sである場合には塗布厚(層形成材料の硬化前)の1.5〜3.0倍に設定するのがよい。この間隙距離が小さすぎると層形成材料が洩出せず、所定の厚さに塗布できないことがある。また、貫通孔22の軸線長さすなわち底部21の厚さは特に限定されないが、短すぎると層形成材料の塗布厚が高度に均一にならないことがあるので、通常、3mm以上に設定される。
【0046】
この管状塗布部材6は、図3〜図5に示されるように、管状基体104との境界となる環状内壁を備えていない。すなわち、管状塗布部材6の環状開放空間24は、底部21と周壁25と管状基体104の外周面とで画成されている。このように管状基体104との境界となる環状内壁を備えていないと、層形成材料を周辺圧力下で間隙23から均一に洩出させることができ、かつ、特許文献1及び2に記載されているような加圧機構を利用した吐出方式を用いないことで圧力の変動要因がなくなるという理由から、層形成材料を均一に塗布できる。
【0047】
筒状保持部材4及び一対の支持固定部材5に保持された管状基体104は、通常、環状塗布部材6の貫通孔22の軸線と一致するが、これらの軸線がわずかにずれる場合がある。そこで、環状塗布部材6は、底部21を変位させて管状基体104の軸線と底部21に形成された貫通孔22の軸線とを一致させるセンター機構を有している。すなわち、環状塗布部材6において底部21は軸線Cに対して水平方向に変位可能に周壁25に設けられている。このセンター機構26は、具体的には、例えば図4に示されるように、底部21の周方向の少なくとも3個所に半径方向に伸びるように穿孔されたスリット27とこのスリット27を貫通して周壁25に形成されたネジ孔に螺合するボルト28とを有している。前記ネジ孔に螺合しているボルト28を緩めて底部21の水平方向の位置を調整した後にボルト28を締結する。このようにして管状基体104の軸線と底部21に形成された貫通孔22の軸線とを一致させることができる。
【0048】
この環状塗布部材6は、一対の支持固定部材5で支持固定された管状基体104の半径方向からその外周面の一部を囲繞し、管状基体104の軸線方向に相対的に移動して、環状開放空間24に収容した層形成材料を一方の支持固定部材5aから他方の支持固定部材5bに向かって層形成材料を管状基体104の外周に塗布する。
【0049】
移動手段7は環状塗布部材6を軸線C方向に移動させる。この移動手段7は、図4に示されるように、軸線Cと略並行となるように支柱9に設けられた軌条31と、環状塗布部材6を端部に装着して軌条31を走行する移動部材32と、移動部材32を前後進走行させる駆動部(図示しない。)とを備えている。移動部材32は軌条31上を前後進するから昇降機とも称することができる。前記駆動部は、例えば、モータ、ベルト、プーリ等で形成される。
【0050】
一塗布装置1において、環状塗布部材6は、移動手段7によって、一対の支持固定部材5に対して、換言すると、一対の支持固定部材5及び筒状保持部材4に保持された管状基体104に対して、軸線C方向に沿って、前後進可能になっている。
【0051】
一塗布装置1においては、間隙23から層形成材料を洩出させるので、環状開放空間24に収容された層形成材料を間隙23から管状基体104に向けて押圧又は加圧する押圧手段又は加圧手段を備えていない。
【0052】
一塗布装置1は、このように簡単な構成を有しており、メインテナンス性が高いにもかかわらず、軸線C方向に沿って相対的に前後進する環状塗布部材6の底部21における管状基体104との間隙23から層形成材料を加圧することなく周辺環境の圧力下で直接的に洩出又は流出させることができる。その結果、層形成材料の洩出圧力がほぼ一定となり、更に層形成材料を環状塗布部材6へ供給する方法は加圧機構を利用した複数の限定された箇所からの供給方式をとらず、環状塗布部材6上面の開口部から直接的に供給する方式であるから液溜りもほとんど発生することなく、少なくとも管状基体104の周方向に層形成材料を実質的に均一な塗布厚で管状基体104の外周面に塗布することができる。
【0053】
加熱器51は、前記した通りであり、具体的には、各種ヒータを備えた加熱器又は送風加熱器等が採用される。
【0054】
この一管体製造装置2は、このように簡単な構造であっても、少なくとも周方向に均一な層厚の弾性薄層を、特に層形成材料の塗布厚さを適宜に変更することによって周方向にも軸線方向にも均一な層厚の弾性薄層を備えて成る管体103を製造できるうえ、メインテナンス性も高い。
【0055】
このような管体製造装置2を用いた一管体製造方法においては、所望により、準備した管状基体104の少なくとも一方の端部近傍にマスキングしておくのが取扱性に優れると共に層形成材料をより一層均一に塗布できる点で好ましい。マスキングは、管状基体104を起立状態に保持したときに他方の支持固定部材5bすなわち上側となる端部に施すのがよい。マスキングは、例えば、マスキングテープ等の貼着等が挙げられる。
【0056】
一管体製造方法においては、準備した一塗布装置1を図6に示す初期状態に配置する。すなわち、管状基体104に内挿してその外周面に管状基体104を保持した筒状保持部材4を一対の支持固定部材5に支持固定して一塗布装置1に装着する。筒状保持部材4の支持固定は、図6に示されるように、筒状保持部材4の支持部42に一対の支持固定部材5の先端部11を挿嵌することによって容易に所定状態に行うことができる。このようにすると、筒状保持部材4及び管状基体104は、図6に示されるように、環状塗布部材6の貫通孔22を貫通した略垂直な起立状態に支持固定され、環状塗布部材6、筒状保持部材4及び管状基体104は軸線Cを共有する。そして、環状塗布部材6の貫通孔22と管状基体104との間には、管状基体104の周方向に一巡すると共に半径方向に離間した同心環状の間隙23が形成される。なお、図6に示される初期状態において環状塗布部材6は最下点に配置されている。
【0057】
この一管体製造方法において、準備した層形成材料を一塗布装置1の環状開放空間24に収容する。このとき、収容された弾性層形成材料にウェルドラインが生じていないのがよく、例えば、収容方法として弾性層形成材料を円周方向から投入する方法が挙げられる。環状開放空間24に収容する層形成材料の収容量は、1本の管状基体104にシリコーン弾性薄層105を形成するのに必要とされる量であってもよいが、複数本の管状基体104にシリコーン弾性薄層105を形成するのに必要とされる量であるのが好ましい。このようにして層形成材料を環状開放空間24に収容すると、図6に示されるように環状塗布部材6の上側は開口しているから、収容された層形成材料は重力で環状塗布部材6の底部21に収蔵され、一塗布装置1が配置された周辺環境の圧力が均一にかかっている。
【0058】
一管体製造方法においては、次いで、管体製造装置2の管状塗布部材6によって管状基体104の周方向から重力方向に沿って層形成材料を管状基体104の外周面に供給する。すなわち、管状基体104を周方向に囲繞する同心環状の間隙23から重力方向に沿って層形成材料を周辺環境の圧力下で洩出させて管状基体104の外周面に供給する。一管体製造方法においては、具体的には、層形成材料に周辺環境の圧力がかかった状態で、図7及び図8に示されるように、一方の支持固定部材5aから他方の支持固定部材5bに向かって、すなわち、起立状態にある管状基体104の一端部すなわち下側端部から他端部すなわち上側端部に向かって、換言すると重力方向の逆方向に、管状塗布部材6を移動させる。
【0059】
このとき、管状塗布部材6は、間隙23の間隙距離が一定である場合には重力方向に沿ってその逆方向に移動するにつれて徐々に遅くなるように移動させる。管状塗布部材6の平均移動速度は層形成材料の粘度及び洩出量等に応じて適宜に調整され、例えば、0.1〜50mm/secの範囲内であって前記厚さの差を満たす速度に設定される。この平均移動速度は、具体的には、間隙23の間隙距離が0.1〜0.6mm、層形成材料の25℃での粘度が50〜100Pa・s、70℃での粘度が20〜40Pa・sである場合には0.5〜30mm/secの範囲内であるのが好ましく、0.6〜20mm/secの範囲内であるのが特に好ましい。管状塗布部材6の移動において、重力方向の下流側端部すなわち下側端部における移送速度すなわち最小移動速度と重力方向の上流側端部すなわち上側端部における移送速度すなわち最大移動速度との差(移動速度差と称する。)は前記厚さの差を満たすように決定される。例えば、管状塗布部材6が前記平均移動速度の範囲内で移動する場合には前記移動速度差は0.2〜20mm/secであるのが好ましく、2〜10mm/secであるのが特に好ましい。なお、管状部材6の移動速度の変化割合は一定であるのが好ましい。
【0060】
一管体製造方法において、このようにして層形成材料を塗布すると、図7及び図8に示されるように、管状塗布部材6の移動速度等に応じて、管状基体104の外周に塗布厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように層形成材料を塗布できる。さらに、環状塗布部材6の移動と共に間隙23から層形成材料を加圧することなく周辺環境の圧力下で洩出、漏出又は流出させると、層形成材料は周辺環境の圧力が均一にかかった状態で環状開放空間24に収容されているから、その洩出圧力もほぼ一定となり、層形成材料が間隙23から洩出するときに貫通孔22の内周面で層形成材料の洩出量が均一となるようにしごかれ、さらに、層形成材料の供給が加圧機構を利用した複数箇所からの供給方式ではなく環状塗布部材6上部の開口部からの直接的供給法をとっているから間隙23から洩出するまでに環状開放空間24内で液溜りがほとんど発生することがない。さらには、層形成材料は環状開放空間24内で環状に収容された状態のまま分流することも合流することもなく間隙23から洩出するから、洩出する層形成材料にはウェルドラインが発生せず、又は、たとえ発生したとしてもほとんど無視できるほど微小となる。したがって、このようにして層形成材料を塗布すると、重力方向に向かって徐々に薄くなると共に、管状基体104の周方向に実質的に均一な塗布厚となるように、層形成材料を管状基体104の外周面に塗布することができる。
【0061】
層形成材料は、管状基体104の両端部にマスキングが施されている場合には下側端部に施されたマスキングの外表面から上側端部に施されたマスキングの外表面まで塗布されるのが、層形成材料をより一層均一に塗布できる点で好ましい。なお、この発明においては、このように塗布しなくても、起立状態にある管状基体104の下側端部から上側端部まで、例えば、両側端部に施されたマスキングで挟まれた領域のみに層形成材料を塗布しても層形成材料は均一に塗布される。
【0062】
層形成材料の洩出速度は、特に限定されないが、例えば0.03〜15g/secの範囲内から、管状塗布部材6の移動速度、周辺環境の圧力及び厚さの差等を考慮して、管状基体104に塗布される層形成材料が途切れないように適宜に調節されるのが好ましい。このような洩出速度であると層形成材料をより一層均一に塗布することができる。
【0063】
このようにして間隙23から層形成材料を周辺環境の圧力下で洩出させつつ管状塗布部材6を管状基体104の一端部から他端部に向かって移動させると、層形成材料を管状基体104の途中まで塗布した状態が図7及び図8に示されているように、管状基体104に塗布された層形成材料は重力方向に向かって徐々に薄くなると共に周方向に均一な厚さを有し、また、塗布された層形成材料にはウェルドラインが発生し残存することも実質的にない。
【0064】
一管体製造方法においては、次いで、管状塗布部材6が最上点まで移動した状態で管状基体104を一製造装置1から取り外す。管状基体104が取り外された一塗布装置1は、好ましくは管状塗布部材6が最上点にある状態のまま新たな管状基体104が取り付けられ、管状塗布部材6を最下点に移動させて、図6に示される初期状態に復帰される。このようにして一塗布装置1が初期状態に復帰されると、管状塗布部材6からの層形成材料の洩出を防止できる。なお、管状塗布部材6を下側に移動させるときの移動速度は限定されず、また一定である必要もない。このようにして初期状態に復帰した一塗布装置1において前記説明と基本的に同様にして新たな管状基体104を周方向に囲繞する同心環状の間隙23から層形成材料を周辺環境の圧力下で洩出させつつ管状基体104の一端部から他端部に向かって層形成材料を塗布することができる。
【0065】
一管体製造方法においては、このようにして管状基体104の外周に層形成材料をその塗布厚さが重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布できる。
【0066】
一管体製造方法において、取り外した管状基体104は、所望によりマスキングが解除されて、所定の次工程例えば層形成材料の加熱硬化工程に移送される。この加熱硬化工程は、管状基体104面に塗布された層形成材料を硬化する工程であり、管状基体を起立状態に配置した状態で層形成材料を加熱する。このとき、管状成形体を起立状態に配置しても前記層形成材料は自重で流れにくく塗布直後の状態を維持する。したがって、層形成材料を塗布した後から加熱硬化工程を実施するまでの工程間時間は、特に限定されないが、あまりに長いと塗布直後の状態を維持できなくなる場合があるので、例えば、2〜30分程度であるのがよい。この加熱硬化工程における昇温速度すなわち加熱開始から硬化までの加熱時間は、層形成材料の温度と粘度との前記関係、及び、前記厚さの差等を考慮して決定される。このようにして加熱硬化工程を実施すると、層形成材料における前記厚さの差は粘度変化によって解消され、周方向の厚さの均一性はもちろん軸線方向にも均一な厚さを有するシリコーン弾性薄層105が形成される。
【0067】
一管体製造方法において、層形成材料の加熱条件は層形成材料が十分に硬化する温度及び時間に設定される。硬化した層形成材料は必要に応じて研磨装置(図8において図示しない。)で研磨されることができる。このようにして、管状基体104の外周面にシリコーン弾性薄層105を形成することができる。
【0068】
一管体製造方法においては、形成されたシリコーン弾性薄層105の外周面に、所望により、定法に従って、他の層、例えば、離型層、コート層、表面層及び/又は保護層等を形成することができる。前記他の層は、例えば、アルキッド樹脂、フェノール変性・シリコーン変性等のアルキッド樹脂変性物、オイルフリーアルキッド樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミドイミド系樹脂及びこれらの混合物等で、好ましくは1〜200μmの厚さに、形成される。管体103は、図1に示されるように、他の層として、シリコーン弾性薄層105の外周面でフッ素樹脂を主成分として含有するフッ素樹脂を硬化してなるフッ素樹脂層106、又は、フッ素樹脂を主成分として含有するフッ素樹脂で形成され、シリコーン弾性薄層105を被覆するチューブをフッ素樹脂層106として有している。フッ素樹脂については前記の通りである。
【0069】
一管体製造方法においては、次いで、所望により、金属基体104の両端部を、シリコーン弾性薄層105及びフッ素樹脂層106と共に、所定長さとなるように切除して、管体103を製造することができる。
【0070】
そして、このようにして一管体製造方法によって製造された管体103は前記特性を有している。
【0071】
次いで、この発明に係るローラ製造方法を説明する。この発明に係るローラ製造方法は、この発明に係る管体製造方法によって製造された管体に、軸体の外周面に形成された弾性層を備えたローラ原体を挿入する工程を有している。
【0072】
この発明に係るローラ製造方法の一例として、図2に示されるローラ100を製造する例(以下、一ローラ製造方法と称することがある。)を、図面を参照して、具体的に説明する。一ローラ製造方法を実施するには、ローラ原体108、管体103及び所望によりローラ製造装置を準備する。準備する管体103は前記した通りである。
【0073】
このローラ原体108は管体103を備えていないこと以外は基本的にローラ100と同様である。この軸体101は、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮若しくはこれらの合金等の金属、熱可塑性樹脂若しくは熱硬化性樹脂等の樹脂、及び前記樹脂等に導電性付与剤としてカーボンブラック又は金属粉体等を配合した導電性樹脂等の材料を用いて、公知の方法により所望の形状に調製される。軸体101に導電性が要求される場合には、前記金属及び前記導電性樹脂の他に、前記樹脂等で形成した絶縁性芯体の表面に定法によりメッキを施すことにより、軸体101を形成することができる。前記材料の中でも、容易に導電性を付与することができる点で、金属であるのが好ましく、快削鋼、アルミニウム又はステンレス鋼であるのが特に好ましい。軸体101は、所望により、その外周面にプライマー層が塗布されてもよい。プライマー層を形成するプライマーは、所望により溶剤等に溶解され、定法、例えば、ディップ法、スプレー法等に従って、軸体101の外周面に塗布され、硬化される。このプライマー層は、例えば、0.1〜10μmの厚さに形成される。
【0074】
次いで、軸体101の外周面に配置された後述するゴム組成物を硬化して弾性層、例えば発泡弾性層102を形成する。例えば、発泡弾性層102は、公知の成形方法によって、成形と加熱硬化とを同時に又は連続して行い、軸体101の外周面に形成される。ゴム組成物の成形方法は、軸体101の外周面にゴム組成物を配置することができる方法であればよく、例えば、押出成形による連続加硫、プレス、インジェクションによる型成形等、特に制限されるものではない。ゴム組成物は、ゴムと、所望により発泡剤又は中空充填材と、所望により各種添加剤等とを含有する組成物であればよく、例えば、独立セル状態のセルを形成することのできる発泡シリコーンゴム組成物及び発泡ウレタンゴム組成物等が好ましく挙げられる。ゴム組成物の硬化条件は、軸体101の外周面に配置されたゴム組成物が硬化し、発泡剤を含有する場合には、発泡剤が分解又は発泡するのに十分な硬化条件であればよく、ゴム組成物の組成、発泡剤の種類等に応じて適宜調整される。このようにして形成された弾性層102は、必要に応じて、研磨、研削又は切削等が施される。このようにして形成された発泡弾性層102は、通常、管体103の内径よりも大きな外径を有しており、例えば、管体103の内径に対して100〜105%の外径を有しているのが好ましい。
【0075】
このようにして、軸体101の外周面に弾性層102が形成されたローラ原体108を準備することができる。
【0076】
ローラ製造装置は、前記塗布装置を含む管体製造装置と、ローラ原体を管体に圧入する装置(以下、圧入装置と称することがある。)とを備えた装置であればよい。これらを備えたローラ製造装置として、その一例が図3に示されている。このローラ製造装置3は、一塗布装置1及び加熱器51を有する一管体製造装置2と圧入装置60とを備えている。一管体製造装置2は前記した通りである。
【0077】
圧入装置60は、後述するローラ原体108の弾性層102を縮径させると共に弾性層102を縮径させた状態でローラ原体108を管体103内に挿入することができる装置であればよく、例えば、特開2008−299185号公報の図4及び図5に記載された加熱装置10、同公報の図6及び図7に記載された減圧装置30等を挙げることができる。
【0078】
一ローラ製造装置3における圧入装置60を簡単に説明すると、この圧入装置60は、ローラ原体108及び管体103をそれらの軸線方向に直列に収納する筒状の筐体61と、筐体61における一方の開口部近傍の内部に設置され、管体103を載置する載置部材64と、筐体61の両端開口部を閉塞する閉塞端部62A及び62Bと、筐体61内に収納されたローラ原体108を管体103に挿入する挿入装置67と、筐体61内を加圧する加圧機又は減圧する減圧機63とを備えている。
【0079】
この載置部材64は管体103を所定の位置に支持することができればよく、筐体61の内周面から中心に向かって突出し、管体103を支持する平滑な載置面65を有するリング状突出部とされている。管体103は載置面65上の、ローラ原体108と同軸となる位置に載置される。閉塞端部62A及び62Bは、後述する挿入装置67を例えばその軸線方向に移動可能とする貫通孔を有し、筐体61の両端開口部を閉塞することができればよく、封止部材66を前記貫通孔内に備えた筒状体に形成されている。この封止部材66は、挿入装置67と閉塞端部62A及び62Bとを気密に封止する。加圧機63は閉塞端部62A及び62Bによって閉塞された筐体61内を、例えば0.48MPa程度まで加圧することができればよく、例えば、コンプレッサー等が採用される。減圧機63は筐体61内を、例えば、3hPa程度まで、減圧することができればよく、例えば、真空ポンプ等が採用される。
【0080】
挿入装置67は、ローラ原体108を支持すると共に、筐体61、載置部材64、載置部材64に支持された管体103、並びに、閉塞端部62A及び62Bを、好ましくは同軸に貫通する、軸線方向に前後進可能な1組の支持軸68A及び68Bと、各支持軸68A及び68Bにおける対向する端部にローラ原体108における軸体101の端部を固定して、ローラ原体108を支持する挟持部材69A及び69Bとを有している。
【0081】
この一ローラ製造装置3は、このように簡単な構造であっても、少なくとも周方向に均一な層厚の弾性薄層を、特に層形成材料の塗布厚さを適宜に変更することによって周方向にも軸線方向にも均一な層厚の弾性薄層を備えた管体103を、弾性層102の外周に備えたローラ100を製造できるうえ、メインテナンス性も高い。
【0082】
一ローラ製造方法においては、前記のようにして製造した管体103及びローラ原体108を用いて、軸体101の外周面に形成された弾性層102を備えたローラ原体108を管体103内に、公知の方法、例えば、特開2008−292533号公報に記載の方法等で、挿入することによって、ローラ100を製造することができる。
【0083】
すなわち、一ローラ製造方法においては、このローラ原体108を加圧環境下又は減圧環境下で常温下又は加熱下において管体103内に挿入する。換言すると、ローラ原体108の弾性層102を縮径させると共に弾性層102を縮径させた状態でローラ原体108を管体103内に挿入する。具体的には、図3に示されるように、準備した一ローラ製造装置3おける圧入装置60の載置面65上に管体103を載置する。また、ローラ原体108における軸体101の両端部を挟持部材69A及び69Bに固定して、1組の支持軸68A及び68Bでローラ原体108を挟持し、管体103の上流方向に直列になるようにローラ原体108を配置し、閉塞端部62Aで筐体61を閉塞する。このとき、所望により、ローラ原体108の弾性層102の外周面に接着剤を塗布することもできる。
【0084】
一ローラ製造方法においては、次いで、常温下又は加熱下において、加圧機又は減圧機63を起動して圧入装置60内を加圧又は減圧して、弾性層102の外径が管体103の内径よりも小さくなるまで縮径させる。弾性層102を縮径させた状態で、挿入装置67を管体103側(図3において下流側)に前進させて、ローラ原体108を管体103内に挿入する。
【0085】
一ローラ製造方法においては、ローラ原体108を管体103内に挿入した状態を保持したまま、筐体61内の加圧状態又は減圧状態を解除する。そうすると、弾性層102は徐々に拡張又は拡径して、その外周面が管体103の内周面に圧接する。所望により、弾性層102と管体103との間に配置された接着剤を硬化する。
【0086】
このようにして軸体101と弾性層102と管体103とを備えたローラ100を製造できる。そして、一ローラ製造方法によって製造されたローラ100は前記特性を有している。
【0087】
この発明に係る管体製造方法及びローラ製造方法は、いずれも、前記一方法に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
【0088】
この発明に係る管体製造方法に用いられる管体製造装置は、前記一管体製造装置2に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、管体製造装置は、塗布装置と加熱器とに加えて硬化又は発泡硬化させた層形成材料の外周面を研磨する研磨機等を備えていてもよい。
【0089】
この発明に係る管体製造方法に用いられる塗布装置は、前記一塗布装置1に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、前記塗布装置1において、環状塗布部材6は底部21と周壁25とを備え、周壁25の終端が開放されているが、この発明において、環状塗布部材は、その外部と層形成材料が収容される内部とが連通していればよく、例えば、底部と周壁と周壁から連接された上面とを備え、周壁又は上面に通気孔が穿孔された環状開放空間を有していてもよい。
【0090】
また、前記一塗布装置1において、環状塗布部材6は一対の支持固定部材5の軸線C方向に沿って前後進可能に移動するように構成されているが、この発明において、環状塗布部材は例えば支柱等に固定され、一対の支持固定部材すなわち筒状保持部材が軸線方向に沿って前後進可能に移動するように構成されていてもよい。
【0091】
さらに、前記一塗布装置1において、筒状保持部材4、一対の支持固定部材5及び環状塗布部材6はいずれもその軸線Cに垂直な断面が略円形となっているが、この発明において、筒状保持部材、一対の支持固定部材及び環状塗布部材は前記断面が楕円形であってもよく、多角形であってもよい。
【0092】
この発明に係るローラ製造方法に用いられるローラ製造装置は、前記一ローラ製造装置3に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、一ローラ製造装置3において圧入装置60は加圧又は減圧下で発泡弾性層を縮径して管体103に挿入するように構成された装置であるが、この発明において、圧入装置は常圧下で弾性層を縮径して管体に挿入するように構成された装置であってもよい。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
管状基体104として、軸線長さ360mm、内径40mm、層厚37μmのニッケル電鋳基材を準備した。この管状基体104の外径は40.08mmで、その引張強度(JIS Z 2241)は1880MPaであった。この管状基体104の軸線長さを製造予定の管体103の軸線長さよりも長く設定した。この管状基体104の両端部から5〜10mmの外周面領域を周方向に一巡するようにポリエステルフィルム粘着テープ「631S #12」(株式会社寺岡製作所製)でマスキングした。
【0094】
シリコーンゴム組成物として、商品名「KE−1380A」及び「KE−1380B」等の混合物「KE−1380A、B」(信越化学工業株式会社製)を準備した。このシリコーンゴム組成物は高粘度組成物であり、その粘度は25℃で55Pa・s、70℃で30Pa・sであった。このシリコーンゴム組成物における粘度の温度変化を測定して検量線を作成したところ、軸線方向の長さが360mmである場合に、シリコーンゴム組成物の最大厚さを200μm、最小厚さを100μm、前記厚さの差(増大量は一定)を100μmにすると、シリコーンゴム組成物の塗布厚さ(平均)が150μmになることが分かった。
【0095】
また、PFA樹脂を含有するフッ素樹脂組成物で形成されたフッ素樹脂層106用のチューブとして商品名「PFA薄肉収縮チューブ SME」(グンゼ株式会社製)を準備した。このチューブは軸線長さ450mm、外径38.5mm、厚さ30μmで、150℃で20分加熱時の収縮が軸線長さ方向及び周長方向ともに約3%であった。シリコーン弾性薄層105とチューブを接着させるための接着剤として商品名「KE−1880」(信越化学工業株式会社製)を準備した。
【0096】
次いで、一塗布装置1及び一管体製造装置2を備えたローラ製造装置3を準備した。この塗布装置1において、貫通孔22の軸線長さすなわち底部21の厚さは10mmであり、貫通孔22の開口径を40.8mm、すなわち、間隙23の間隙距離を0.4mm(予定塗布厚さの2.66倍)に設定した。この一塗布装置1に管状基体104を一対の支持固定部材5で垂直な起立状態に固定し、環状開放空間24に準備したシリコーンゴム組成物18gを収容した。なお、シリコーンゴム組成物18gは複数の管状基体104に塗布するのに十分な量である。この一塗布装置1が配置された周辺環境の圧力下で管状基体104の下側端部から上側端部に向かって管状塗布部材6を移動させて、シリコーンゴム組成物を洩出させつつ管状基体104の外周面に塗布した。このとき、シリコーンゴム組成物の最大厚さが200μm、最小厚さが100μm、厚さの差が100μmになるように、管状塗布部材6の移動速度を、下側端部での移動速度を1.6mm/sec、上側端部での移動速度を4.8mm/sec、下側端部から上側端部まで一定割合で移動速度を加速させて平均移動速度を3.2mm/secに、設定した。
【0097】
その後、シリコーンゴム組成物が塗布された管状基体104を一塗布装置1から取り外してマスキングを解除した。なお、シリコーンゴム組成物は下側のマスキングの外表面から上側のマスキングの外表面まで塗布した。
【0098】
次いで、ローラ製造装置3の加熱器51内にこの管状基体104を垂直に起立させた状態で150℃に1時間加熱して管状基体104の外周に塗布されたシリコーンゴム組成物を加熱硬化し、シリコーン弾性薄層105を形成した。
【0099】
このシリコーン弾性薄層105の外周面に前記接着剤を塗布した後に前記チューブを被せて、しばらく放置した後、再度加熱器51内に静置して150℃で1時間加熱し接着剤を硬化させた。最後に、管状基体104の両端部それぞれから軸線方向に18.5mmの端部領域を切断して、管状基体104とシリコーン弾性薄層105とフッ素樹脂層106としての前記チューブとを有する、軸線長さ323mmの管体103を製造した。
【0100】
このようにして製造した管体103におけるシリコーン弾性薄層105の厚さの均一性として、フッ素樹脂層106を形成する前に、シリコーン弾性薄層105の軸線長さを等間隔に分割する5つの円周においてそれぞれの円周を等間隔に分割する8点の合計40点(測定点)の厚さを信越ポリマーで設計・製作した前記管体専用測定器を用いて測定した。その結果、前記測定点40点のうち、前記5つの円周を周方向に等間隔に分割する8点それぞれにおける軸線方向に沿う同一線上にある測定点5点の「最大値−最小値」はいずれも6μmであり、軸線長さを等間隔に分割する5つの円周それぞれにおける周方向に沿う測定点8点の「最大値−最小値」はいずれも4μmであった。このように実施例1のシリコーン弾性薄層105はその厚さが周方向はもちろん軸線方向にもほぼ均一であった。
【0101】
この管体103のフッ素樹脂層106における前記中心線平均粗さRa及び前記最大高さRmaxを前記方法に準拠して測定したところそれぞれ5μm及び10μmであった。
【0102】
次いで、無電解ニッケルメッキ処理が施された軸体101(直径12mm×長さ350mm、SUM22)をトルエンで洗浄し、プライマー「No.101A/B」(信越化学工業株式会社製:商品名)を塗布した。プライマー処理した軸体101を、ギアオーブンを用いて、180℃の温度にて30分焼成処理した後、常温にて30分以上冷却し、プライマー層を形成した。
【0103】
一方、ビニル基含有シリコーン生ゴムとシリカ系充填材とを含むシリコーンゴム組成物「KE−904FU」(信越化学工業株式会社製:商品名)100質量部と、付加反応架橋剤「C−153A」(信越化学工業株式会社製:商品名)2.0質量部と、発泡剤アゾビス−イソブチロニトリル2.5質量部と、付加反応触媒としての白金触媒適量と、反応制御剤「R−153A」(信越化学工業株式会社製:商品名)0.5質量部と、有機過酸化物架橋剤「C−3」(信越化学工業株式会社製:商品名)適量と、耐熱性向上剤「KEP−12」(信越化学工業株式会社製:商品名)1.0質量部とを、二本ロールで十分に混練して、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を調整した。
【0104】
この付加反応型発泡シリコーンゴム組成物と軸体101とを押出成形機にて一体分出し、次いで、赤外線加熱炉(IR炉)を用いて付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を200℃で30分間加熱して発泡架橋させ、付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を発泡架橋させた。その後、さらに、ギアオーブンを用いて、200℃で10時間にわたって、発泡架橋後の付加反応型発泡シリコーンゴム組成物を二次加熱し、常温にて1時間放置した。次いで、形成された弾性層102を円筒研削盤にて外径をφ40.2mmに調整した。このようにしてローラ原体108を作製した。
【0105】
次いで、作製したローラ原体108の弾性層103の外周面全面に流動性接着剤(商品名「KE1880」、粘度(25℃)84Pa・s、信越化学工業株式会社製)を溶剤で希釈せずに、ロールコーターで塗布量0.025g/cm(硬化後の接着剤層の厚さが10μm)となるように均一に塗布した。
【0106】
次いで、図3に示されるように、圧入装置60を組み立てて載置部材64における載置面65上に製造した管体103を載置した。さらに、ローラ原体108における軸体101の両端部を挟持部材69A及び69Bに固定してローラ原体108が管体103の上流方向に直列になるように筐体61内に配置し、閉塞端部62Aで筐体61を閉塞して圧入装置60を気密状態に組み立てた。次いで、加圧機63を起動して、圧入装置60内を0.3MPaに加圧して、弾性層102の外径を管体103の内径よりも小さく圧縮した。この状態で1組の支持軸68A及び68Bを管体103側に前進させてローラ原体108を管体103内に挿入した。次いで、圧入装置60内の圧力を解除して、圧入装置60内から管体103内に挿入されたローラ原体108を取り出し、この管体103内に挿入されたローラ原体108を、乾燥機(商品名「HIGH TEMPRATURE CHAMBER」、楠本化成株式会社製)で150℃に0.5時間加熱して流動性接着剤を硬化させた。このようにして、ローラ100を製造した。製造したローラ100におけるフッ素樹脂層106の中心線平均粗さRa及び最大高さRmaxは前記値とほぼ同じであった。
【0107】
(実施例2)
実施例1における管状基体をNi電鋳(肉厚37μm)からSUS延伸管(肉厚40μm)に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様にして管体103及びローラ100を製造した。実施例2で製造した管体103のシリコーン弾性薄層105において、前記測定点40点のうち、前記5つの円周を周方向に等間隔に分割する8点それぞれにおける軸線方向に沿う同一線上にある測定点5点の「最大値−最小値」はいずれも6.5μmであり、軸線長さを等間隔に分割する5つの円周それぞれにおける周方向に沿う測定点8点の「最大値−最小値」はいずれも4μmであった。このように実施例2のシリコーン弾性薄層105はその厚さが周方向はもちろん軸線方向にもほぼ均一であった。
【0108】
(実施例3)
実施例1における管状基体をNi電鋳(肉厚37μm)からポリイミド成形管(肉厚40μm)に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様にして管体103及びローラ100を製造した。実施例3で製造した管体103のシリコーン弾性薄層105において、測定点40点のうち、前記5つの円周を周方向に等間隔に分割する8点それぞれにおける軸線方向に沿う同一線上にある測定点5点の「最大値−最小値」はいずれも6μmであり、軸線長さを等間隔に分割する5つの円周それぞれにおける周方向に沿う測定点8点の「最大値−最小値」はいずれも4μmであった。このように実施例3のシリコーン弾性薄層105はその厚さが周方向はもちろん軸線方向にもほぼ均一であった。
【符号の説明】
【0109】
1 一塗布装置
2 一管体製造装置
3 一ローラ製造装置
4 筒状保持部材(中子)
5 一対の支持固定部材
5a 一方の支持固定部材
5b 他方の支持固定部材
6 環状塗布部材
7 移動手段
21 底部
22 貫通孔
23 間隙
24 環状開放空間
25 周壁
51 加熱器
60 圧入装置
61 筐体
62A、62B 閉塞端部
63 加圧機又は減圧機
64 載置部材
65 載置面
66 封止部材
67 挿入装置
68A、68B 支持軸
69A、69B 挟持部材
100 ローラ
101 軸体
102 弾性層(発泡弾性層)
103 管体
104 管状基体
105 シリコーン弾性薄層
106 フッ素樹脂層
108 ローラ原体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状基体の外周面に形成された弾性薄層を備えて成る管体を製造する方法であって、
前記管状基体の軸線が重力方向に沿うように起立状態に配置された前記管状基体の周方向から前記重力方向に沿って前記層形成材料を供給して、前記管状基体の外周に前記層形成材料をその塗布厚さが前記重力方向に向かって徐々に薄くなるように塗布する工程を有することを特徴とする管体製造方法。
【請求項2】
前記層形成材料は、その供給量が重力方向に沿って徐々に減少するように供給されることを特徴とする請求項1に記載の管体製造方法。
【請求項3】
軸体の外周面に形成された弾性層と前記弾性層の外周面に形成された管体とを備えて成るローラを製造する方法であって、
請求項1又は2に記載の管体製造方法によって製造された前記管体に、軸体の外周面に形成された弾性層を備えたローラ原体を挿入する工程を有することを特徴とするローラ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−176376(P2012−176376A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41575(P2011−41575)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】