説明

管体連結部の防食方法

【課題】管体同士の隙間を容易に充填して、連結部分を防食すること。
【解決手段】受け側管体1の受け口4を挿し側管体2の挿し口11に挿し込んで両管体1,2を連結し、両者の間の隙間に介在する封止部材6を、この封止部材6に当接する押輪7にボルト9をねじ込むことによって水密を確保する。この連結状態で、受け口4と押輪7で構成される空間に、充填材15としてエポキシ樹脂を含有する樹脂含有材を充填し、ボルト9の頭部9aと、この頭部9aと受け口4の内壁との間に介在する延長部材10を充填材15で埋めた状態とする。さらに、既連結管体1、2と隣り合う管体をさらに連結し、その連結後に、挿し口11と押輪7で構成される空間にも、樹脂含有材を充填する。この充填により、ボルト9のねじ先側も充填材15で埋まった状態となり、ボルト9等を防食することができる。また、作業中に充填材15が落下する問題も解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道管等の管体連結部に用いるボルト等の金属部材を腐食から防止する、管体連結部の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道管等の管体の連結は、受け側管体1の受け口4に、挿し側管体2の挿し口11を挿し込むことによってなされる。この管体1、2同士の連結部の構成として、例えば、図2(a)に示すものがある。この構成では、受け口4と挿し口11の間の隙間に、ゴム等の弾性部材からなる封止部材6を設けている。
【0003】
この封止部材6には、受け口4奥側から押輪(押圧部材)7が当接している。この押輪7には、両管体1、2の軸方向に延びる貫通ねじ孔8が形成されていて、このねじ孔8には、受け側管体1側からボルト9がねじ込まれる。
【0004】
このようにねじ孔8を貫通状態とすると、ねじ孔が有底の場合と比較して、ボルト9の調整代(ねじ込み量)を多くとることができるため、封止部材6の押し込み量を適切に調節することができる。
【0005】
ボルト9の頭部には、延長部材10が一体に設けられていて、この延長部材10は、ボルト9の頭部9aと受け口4との間に突っ張った状態となっている。そして、このボルト9のねじ込みによって、押輪7が封止部材6側にスライドし、この封止部材6が前記隙間に押し込まれる。この押し込みによって両管体1、2の間の隙間が閉塞されて、水密性が確保される。
【0006】
このボルト9や延長部材10の素材として、コストや強度等の観点から鋼を主とする金属製のものが採用されることが多い。このボルト9等は、管体への通水時に、水に浸漬された状態となるため腐食しやすい。この腐食を防止するため、図2(b)及び(c)に示すように、管体同士の連結後に、受け口4と押輪7で形成される空間内にモルタル16を充填して、ボルト9の頭部9aと延長部材10をこのモルタル16に埋められた状態とする構成が採用されることがある。このように、ボルト9等と水との接触を防止することで、腐食を極力抑制しようとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、モルタルは、硬化初期における管壁面への密着性が低い。このため、特に管内の上面側に充填した場合に、硬化前にこのモルタルが落下する不具合が生じやすく、その作業性が低下する問題がある。
【0008】
そこで、本願発明は、管体同士の隙間を容易に充填して、連結部分を防食することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、この発明は、受け側管体の受け口に、挿し側管体の挿し口を挿し込んで両管体同士を連結し、前記受け口と挿し口との間の隙間に、両管体の水密を確保する封止部材を設け、この封止部材に、貫通ねじ孔を形成した押圧部材を当接させ、前記ねじ孔の受け側管体側から、前記押圧部材に、前記受け口と押圧部材の間に介在するボルトをねじ込んで前記押圧部材を前記封止部材側にスライドさせ、この押圧部材で前記封止部材を前記隙間に押し込んだ後に、前記受け口と前記押圧部材で構成される空間、又は、前記挿し口と前記押圧部材で構成される空間のうち少なくとも一方に樹脂含有材を充填して、前記ボルトの頭部側、又は、前記ボルトのねじ先側の少なくとも一方を前記樹脂含有材で埋め込んで管体連結部の防食を行うように防食方法を構成した。
【0010】
前記樹脂含有材に含有される樹脂材の種類は特に限定されないが、エポキシ樹脂を用いるのが特に好ましい。このエポキシ樹脂は、主剤と硬化剤を混合して用いるのが一般的であって、上記のように空間(隙間)を充填する目的においては、粘土状の主剤及び硬化剤が用いられる。このエポキシ樹脂は、両剤の混合後も粘土状の性状を維持しており、この樹脂含有材を前記空間に容易に充填することができる。しかも、その粘度が高いため、この充填作業中や硬化中に、充填した樹脂含有材が落下する恐れは低い。
【0011】
この樹脂含有材は、主剤と硬化剤の混合比や温度、樹脂材の混合割合等にもよるが、通常は数時間で完全に硬化する。この硬化に要する時間は、モルタルと比較して大幅に短く、作業効率の向上を図ることができる。
【0012】
樹脂含有材中の樹脂材の混合割合は、作業時の粘度や硬化時間等を考慮した上で、適宜決定することができる。また、この樹脂含有材に、顔料や改質剤等の添加物を添加して用いることもできる。さらに、所定の粘度や硬化時間等の点で問題なければ、エポキシ樹脂以外の樹脂を採用することもできる。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、管体同士の連結部の隙間を充填する充填材としてモルタルの代わりに樹脂含有材を用いた。この樹脂含有材はモルタルと比較して粘度が高く、しかも硬化時間が大幅に短いため、作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る管体連結部の防食方法の工程を示す要部断面図を示し、(a)は充填材の充填前、(b)は充填材を受け口と押圧部材との間の空間に充填した状態、(c)は充填材を挿し口と押圧部材との間の空間に充填した状態
【図2】従来技術に係る管体連結部の防食方法の工程を示す要部断面図を示し、(a)は充填材の充填前、(b)は充填材を受け口と押圧部材との間の空間に詰め込んだ状態、(c)は詰め込んだ充填材の仕上げ処理を行った状態
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る管体連結部の防食方法の工程を図1(a)〜(c)に示す。受け側管体1及び挿し側管体2は、ともに管内面にモルタルライニング層3が形成されたダクタイル鋳鉄管である。受け側管体1の受け口4の内周面には拡径部5が形成されている。この拡径部5の受け口4先端側にはゴム製の封止部材6が設けられている。この封止部材6には、受け口4奥側から押輪7が当接している。この押輪7には受け側管体1の軸方向に延びる貫通ねじ孔8が形成されている。このねじ孔8には、受け口4奥側からボルト9がねじ込まれている。このボルト9は鋼製であって、その頭部9aには、延長部材10がボルト9の軸方向に一体に設けられている。
【0016】
このボルト9をねじ孔8に挿し込んで締め付けると、延長部材10が受け口4の内壁に当接した状態を保ちつつ、押輪7が封止部材6側に押される。すると、この封止部材6が受け口4と挿し側管体2の挿し口11との間の隙間に押し込まれ、両管体1、2の間の隙間が閉塞されて水密性が確保される。
【0017】
受け口4内周面の先端側には、周溝12aが形成され、この周溝12aには、一部に切れ目の形成された円環状(C字形)のロックリング13が設けられている。この周溝12aに対応する受け口4外周面にはロックねじ14が設けられ、このロックねじ14のねじ先がロックリング13に当接し得るようになっている。また、挿し側管体2の挿し口11の外周面にも、この挿し口11を受け口4に挿し込んだときに、受け口4側の周溝12aの位置に対応する位置に、周溝12bが形成されている。
【0018】
ロックねじ14を緩めた状態では、ロックリング13は受け口4の周溝12aに収納された状態となっているが、受け口4と挿し口11に形成した両周溝12a、12bの軸方向位置を合わせ、ロックねじ14をねじ込むと、このロックリング13が挿し口11に形成した周溝12bに嵌まり込んで、両管体1、2が抜き挿し不可能となる(図1(a)を参照)。
【0019】
ボルト9を締め付けた状態で、受け口4と押輪7で構成される空間に、充填材15としてエポキシ樹脂を所定割合で含有する樹脂含有材をコテ(ヘラ)を用いて充填する。このとき、ボルト9の頭部9aと延長部材10が充填材15に埋まった状態となる(図1(b)を参照)。この充填材15は、顔料や改質剤等の添加材を予め添加した粘土状の主剤と硬化剤をそれぞれ1:1の割合で混合したものであって、粘度や硬化時間の最適化だけでなく、外観上の向上等も図られている。
【0020】
この樹脂含有材中のエポキシ樹脂の割合は、100%としても良いし、充填材15の粘度や硬化時間等の特性が損なわれない限りにおいて、その割合を適宜下げても良い。また、前記添加材の添加は必須ではなく、添加しなくても所定の特性が得られるのであれば適宜省略することもできる。
【0021】
この充填材15が硬化したら、既連結管体1、2と隣り合う管体(図示せず)をさらに連結する。このとき既連結管体1、2のロックねじ14を緩めて、ロック状態を解除またはロックリング13を緩めた状態としておくのが好ましい。そうすると、両管体1、2の連結を少し屈曲させることができ、新たに挿し込む管体との間の挿し込み角度等を自在に調節し得る。
【0022】
また、ボルト9の頭部9aと延長部材10が、充填材15で固定されているため、連結作業中にこのボルト9が緩みにくい。このため、封止部材6による水密状態が確保され、この作業中に管体同士の連結部から、土砂を含んだ管外の水が管内に入るのを防止することができる。
【0023】
全ての管体の連結が完了したら、挿し口11と押輪7で構成される空間にも、充填材15としてエポキシ樹脂を含有する樹脂含有材を充填する(図1(c)を参照)。この樹脂含有材は、押輪7に形成したねじ孔8の先端からその中に入りこみ、ねじ孔8の中にも充填される。このため、管体内の水がねじ孔8を通ってボルト9のねじ先に到達しないため、このボルト9のねじ先側の腐食も防止できる。また、管体の連結部内面が全体的にフラットになるため、水理特性が向上し、スムーズに通水できるというメリットもある。
【0024】
上記の工程では、受け口4と押圧部材7で構成される空間、及び、挿し口11と押圧部材7で構成される空間に順次充填材15を充填したが、両空間のうち一方にのみ、充填材15を充填する構成とすることもできる。この場合も、少なくとも充填材15を充填した部分については防食を図ることができ、それで十分な場合もあり得るからである。
【0025】
また、上記の工程では、充填材15としてエポキシ樹脂を含有する樹脂含有材を用いたが、これに限定されず、その他の樹脂材を含有する充填材15を用いることもできる。
【符号の説明】
【0026】
1 受け側管体
2 挿し側管体
3 モルタルライニング層
4 受け口
5 拡径部
6 封止部材
7 押輪(押圧部材)
8 ねじ孔
9 ボルト
10 延長部材
11 挿し口
12a、12b 周溝
13 ロックリング
14 ロックねじ
15 充填材(樹脂含有材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受け側管体(1)の受け口(4)に、挿し側管体(2)の挿し口(11)を挿し込んで両管体(1、2)同士を連結し、前記受け口(4)と挿し口(11)との間の隙間に、両管体(1、2)の水密を確保する封止部材(6)を設け、この封止部材(6)に、貫通ねじ孔(8)を形成した押圧部材(7)を当接させ、前記ねじ孔(8)の受け側管体(1)側から、前記押圧部材(7)に、前記受け口(4)と押圧部材(7)の間に介在するボルト(9)をねじ込んで前記押圧部材(7)を前記封止部材(6)側にスライドさせ、この押圧部材(7)で前記封止部材(6)を前記隙間に押し込んだ後に、
前記受け口(4)と前記押圧部材(7)で構成される空間、又は、前記挿し口(11)と前記押圧部材(7)で構成される空間のうち少なくとも一方に樹脂含有材(15)を充填して、前記ボルト(9)の頭部(9a)側、又は、前記ボルト(9)のねじ先側の少なくとも一方を前記樹脂含有材(15)で埋め込んだ管体連結部の防食方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−122520(P2012−122520A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272569(P2010−272569)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】