説明

管内壁の研掃方法、管内壁の研掃方法に用いる偏向部材および管内壁研掃システム

【課題】付着物が付着した管内壁への研削材の衝突エネルギーを高め、錆除去の研削力とその効率をさらに向上させるとともに、円錐形部材の円錐面の摩耗をできるだけ少なくする。
【解決手段】管(101)の入口端から、先端に噴射口(13c)を備える可撓性の加圧ホース(13)を挿入し、噴射口から噴射した研削材を、管内壁(107)に噴射しながら前記加圧ホースを前記管の長手方向に移動させ、かつ、噴射中に、前記管の出口端から前記管内を吸引する管内壁の研掃方法である。ここで、最大径が前記管の内径よりも小径なラッパ形状の偏向面(23)を有する偏向部材(21)が、前記管と一体移動するように前記噴射口近傍に取り付けてある。偏向面が、噴射口からの噴射により衝突してきた研削材を前記内壁方向に偏向させるので、研削材の衝突エネルギーを高め、また、円錐面の摩耗を少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管内壁の研掃方法、管内壁の研掃方法に用いる偏向部材および管内壁研掃システムに関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化したビル・マンション等の住宅配管や、工場・化学プラント等の曲がり管や分岐管、埋設管のような給排水管の内壁(管内壁)には、長年の仕様により錆その他の付着物(以下、これらを「付着物」と総称する)が発生・付着する。中には、管内壁さび度がC〜D(ISO 8501-1:塗料及びその関連製品の施工前の鋼材の素地調整-表面洗浄度の目視評価を参考にした表面洗浄度)を呈する老朽管もある。そのような老朽管内は、管内流量の低下、管詰まりが発生しやすく、そのままで続けて使用することが妥当でない場合がある。そこで、管詰まりを防止し、管内流量を復帰させ、配管機能を回復する老朽管更生を目的として、管内壁の錆面から錆を除去するブラスト処理がある。ここでいうブラスト処理(以下、適宜「従来のブラスト処理」という)とは、砂粒状の研磨材(研摩材)を処理対象の錆面に噴射して、錆を擦切・剥取する工法のことをいう。
【0003】
管内壁をブラスト処理する工法として、特許文献1に記載された工法(以下、「第1の従来工法」という)および特許文献2に開示された工法(以下、「第2の従来工法」という)が知られている。第1の従来工法は、管内に配した円錐形部材(円錐状分流体)の円錐面に向かって研摩材をエアー圧力で吹き付けるものであって、研摩材の吹き付け方向に対して広がる円錐面に沿って研摩材が分流されて管内壁に鋭角的に衝突・擦切させるようになっている。鋭角的に衝突させるのは、研摩材の衝撃力を増出させて管内壁に付着する錆の除去効率を高めようとする狙いがあるためである。分流体は、管内に通されたワイヤによって長さ方向に移動させられるようになっている。第2の従来工法は、第1の従来工法の円錐状分流体と同じ働きをする円錐形部材を採用する。第2の従来工法では、第1の従来工法では行われていない管内部の吸引が研摩材吹き付けと同時に行われる。処理後の研摩材や剥離した錆等を管外へ排除するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−263685号公報(第2頁左下欄および右下欄、第1図)
【特許文献2】特開2006−320810号公報(段落0021、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、第1の従来工法もしくは第2の従来方向による鋭角的衝突では付着物を効率よく除去(研掃)するには不十分である。第1の従来工法および第2の従来方法に使用される円錐形部材の底面と円錐面が作る角度は60°前後であるので、管内壁と円錐面が作る角度(衝突角度)は30°(90°−60°)前後となる。衝突角度が30°であると、管内壁に対する研磨材の衝突エネルギーは、全エネルギー×SIN30°であるから半減してしまう。効率よく除去するためには管内壁に対する研摩材の衝突角度(管内壁に対する円錐面の角度)を直角にもしくはできるだけ直角に近い角度とすることが好ましい。ところが、直角に近づければ近づけるだけ、円錐面へのエアー圧力の衝撃は大きくなる。円錐面が受ける衝撃はエネルギーロスとなることから、管内壁への研摩材を含んだエアー圧力の衝突エネルギーを高めることができない、という悪循環となる。さらに、研磨剤の衝突エネルギーを高める目的から、円錐形部材の円錐面を摩耗させるという問題が生じる。この摩耗の問題は、研磨材をより重く大きな砂利塊状とした研削材を用いときに、より顕著である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、上記した問題を解消することを目的とする。すなわち、錆面(付着物が付着した管内壁)への研摩材の衝突エネルギーを高め、錆除去の打撃力・研削力によってとその効率をさらに向上させるとともに、円錐形部材の円錐面の摩耗をできるだけ少なくすることのできる管内壁の処理方法および同処理方法に適し摩耗の少ない円錐部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を備えている。なお、いずれかの請求項に記載した発明の特徴を説明するに当たり行う用語の定義等は、記載の前後や発明カテゴリーの違いに関わらず、その性質上可能な範囲において他の請求項に記載した発明にも適用されるものとする。
【0008】
(定義)
本明細書において「研掃」とは、砂粒状の研磨材を用いて管内壁を擦り磨く従来のブラスト処理とは異なり、研削材を管内壁に衝突させその打撃により錆を剥ぎ取ることをいう。したがって、本明細書における「研削材」は、その名称に関わらず上記作用を生じさせる部材のすべてが含まれる。また、本明細書において「ラッパ形状」とは、円錐形状の円錐面が、頂点から底辺に向かって内側に湾曲もしくはなだらかに屈曲したラッパ類似の形状のことをいう。すなわち、後述する「ラッパ形状の偏向面」とは、ラッパ形状の曲面からなる偏向面のことをいう。
【0009】
(請求項1記載の発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る管内壁の研掃方法(以下、適宜「請求項1の研掃方法」という)は、内壁を有する管の入口端から、先端に噴射口を備える可撓性の加圧ホースを挿入し、前記噴射口から噴射した研削材を、前記内壁に噴射しながら前記加圧ホースを前記管の長手方向に移動させるとともに、少なくとも前記研削材の噴射中に、前記管の前記挿入端とは異なる出口端から前記管内を吸引する管の内壁の研掃方法である。ここで、最大径が前記管の内径よりも小径なラッパ形状の偏向面を有する偏向部材が、前記管と一体移動するように前記噴射口近傍に取り付けてあり、前記偏向面が、噴射口からの噴射により衝突してきた研削材を前記内壁方向に偏向させるように構成してあることを特徴とする。加圧ホースの可撓性は、直線状もしくは屈曲をもつ管の中を移動できる程度の柔軟性のことをいう。
【0010】
請求項1の研掃方法によれば、加圧ホースの噴射口から噴射した研削材が管内壁に衝突する。このときのエネルギーが、管内壁に付着した付着物を打撃・除去する。管の素材や状態、研削材の種類、さらに噴射圧等の違いにより、管内壁が僅かに削られる場合もあり、意図的に削る場合もある。剥ぎ取られたり削られたりして管内に落下した付着物は、使用済みの研削材とともに出口端から吸引排除される。管内吸引を行うのは、噴射された研削材や落下した付着物を速やかに取り除くことにより、加圧ホースや偏向部材の管内移動を円滑に行えるようにするためである。吸引は、少なくとも研削材噴射中に行い、必要に応じて噴射前後のいずれか一方もしくは双方において併せて行ってもよい。加圧ホースの移動に伴い、噴射口および偏向部材は管内の長手方向に移動する。噴射口から噴射された研削材は、偏向部材の偏向面に衝突してその進行方向が管内壁方向に変更させられる。変更により、管内壁に対する研削材の衝突角度が偏向の分だけ直角に近づく。直角に近づけるのは、できるだけ衝突エネルギーロスの少ないままに管内壁に向かわせることにより研掃効率を高めるためである。研掃効率を高めるため、すなわち、研削材の衝突エネルギーを大きくするためには、研削材自体の質量を大きくしたり噴射圧を高めたりする必要があるが、一方で大きな衝突エネルギーは偏向部材の偏向面を摩耗させかねない。しかし、ラッパ形状の偏向面は、研削材の流れを遊具の滑り台のように円滑に変流させるので、衝突エネルギーの偏向と摩耗防止を同時に実現することができる。
【0011】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る管内壁の研掃方法(以下、適宜「請求項2の研掃方法」という)は、請求項1の研掃方法であって、サイズ(最大径)が3〜7mmの研削材を使用することに特徴がある。たとえば、上記サイズの砂利は、比較的入手が容易であり安価であることから、請求項2の研削方法のために好適である。そのような研削材として、たとえば、重くて大きな砂利塊状のものがある。
【0012】
請求項2の研掃方法によれば、請求項1の研掃方法の作用効果に加え、上記サイズの研削材を用いれば直径100mmクラスの管であっても効率よくその管内壁を研磨することができる。上記サイズの研削材であると偏向部材の偏向面が受ける衝突エネルギーは、相当大きなものになるため、偏向面がラッパ形状に成形されていることは摩耗防止のためにたいへん重要である。
【0013】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る管内壁の研掃方法(以下、適宜「請求項3の研掃方法」という)は、請求項1または2の研掃方法であって、前記加圧ホースは、剛性のホース本体と、前記ホース本体の先端に連結された前記ホース本体よりも軟性であり、かつ、前記噴射口を備える先端ホース部とを備え、前記先端ホース部は、前記研削材の噴射により前記管内で首振り可能に構成してあることを特徴とする。
【0014】
請求項3の研掃方法によれば、請求項1または2の研掃方法の作用効果に加え、先端ホース部を首振り可能とすることにより、管内壁の研掃を周方向ほぼ均等に行うことができる。すなわち、加圧ホース全体は、ビルやマンションの配管を研掃する場合、一般にその配管の長さは、少なくとも20〜30mとなり、ビルの配管の場合はその構造上の理由から50〜60mとなることもある。配管の中に挿入する加圧ホースは、その配管の長さ以上の長さを必要とするから、保管・運搬時のコンパクト化のために大きなロールに巻き付けられている。このため、加圧ホースには、いわゆる巻き癖がついている。この加圧ホースをそのまま配管の中に入れると、その先端に取り付けられた偏向部材が巻き癖のために管内壁に押し付けられてしまうことがある。押し付けられた状態で研削材を噴射しても周方向にほぼ均等な研掃を行うことができないので、この巻き癖から加圧ホース先端を解放するために、先端ホース部を首振り可能としてある。一方、ラッパ形状の偏向面に噴射された研削材は、偏向面周囲と管内壁との間の隙間から偏向部材の前に出ようとするが、この隙間の周方向アンバランスは先端ホース部の首振り作用と相まって自然調整される。すなわち、隙間が狭ければその分管内壁への噴射圧力が大きく、したがって、噴射の反作用である反力も大きくなり、逆に広ければ小さく、したがって、反力も小さくなるので、反力の大小により狭い隙間は広げられ広い隙間は狭められる。この結果、偏向面の中心軸と管の中心軸がほぼ一致するところでバランスがとれ、偏向面は管のほぼ中心に位置するようになる。これにより、噴射された研削材は周方向ほぼ均等に偏向噴射されて管内壁の均等研掃が実現する。
【0015】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る管内壁研掃に用いる偏向部材(以下、適宜「請求項4の偏向部材」という)は、研削材の噴射方向に沿って広がる円錐面状の偏向面を備える管内壁研掃に用いる偏向部材である。請求項5の偏向部材の特徴は、前記偏向面が噴射方向に沿って広がるラッパ形状に形成してある点にある。
【0016】
請求項4の偏向部材によれば、ラッパ形状の偏向面が研削材の噴射方向を管内壁方向に偏向させる。一般に研削材の噴射は、管内に配置された加圧ホース等の噴射口から行われる。噴射された研削材は、偏向部材の偏向面に衝突してその進行方向が管内壁方向に変更させられる。変更により、管内壁に対する研削材の衝突角度が偏向の分だけ直角に近づく。直角に近づけるのは、できるだけロスの少ない衝突エネルギーを管内壁に向かわせることにより研掃効率を高めるためである。研掃効率を高めるため、すなわち、衝突エネルギーを大きくするためには、研削材自体の質量を大きくしたり噴射圧を高めたりする必要があるが、一方で大きな衝突エネルギーは偏向部材の偏向面を摩耗させかねない。しかし、ラッパ形状の偏向面は、研削材の進行方向を遊具の滑り台のように円滑に変流させるので、衝突エネルギーの偏向と摩耗防止を同時に実現することができる。
【0017】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る管内壁研掃に用いる偏向部材(以下、適宜「請求項5の偏向部材」という)は、研削材の噴射方向に沿って広がる円錐面状の偏向面を備える管内壁研掃に用いる偏向部材である。前記偏向面と同心状の円形断面の貫通孔を有する部材本体と、前記貫通孔に遊びなく挿入される丸心棒と、前記貫通孔に挿入した丸心棒を前記部材本体に解除可能に固定する固定構造とを備えている。前記丸心棒には、前記貫通孔から突出する先細り先端部を設けてある。その上で前記偏向面は、前記部材本体の外周面と前記先細り先端部の外周面とにより構成してあり、かつ、噴射方向に沿って広がるラッパ形状に形成してある。以上が、請求項5の偏向部材の特徴である。
【0018】
請求項5の偏向部材によれば、部材本体の貫通孔に遊びなく挿入された丸心棒は、その先端の先細り先端部の外周面が偏向面の一部となる。丸心棒先端は、研削材の衝突に最も晒されやすい部位である。そのため、固定構造を解除可能に構成し、丸心棒を交換できるようにしてある。摩耗した丸心棒だけを部分交換して部材本体をそのまま継続使用するようにすれば、経済的である。摩耗した丸心棒の先端を研削して再利用すれば、長期間にわたって丸心棒を使えるのでコスト的に有利である。再利用しようとする場合は、研削によって短くなった分を補えるような工夫を固定構造に持たせておくことが好ましい。噴射口から噴射された研削材は、偏向部材の偏向面に衝突してその進行方向が管内壁方向に変更させられる。変更により、管内壁に対する研削材の衝突角度が偏向の分だけ直角に近づく。直角に近づけるのは、できるだけ衝突エネルギーのロスの少ないままに管内壁に向かわせることにより研掃効率を高めるためである。研掃効率を高めるため、すなわち、衝突エネルギーを大きくするためには、研削材自体の質量を大きくしたり噴射圧を高めたりする必要があるが、一方で大きな衝突エネルギーは偏向部材の偏向面を摩耗させかねない。しかし、ラッパ形状の偏向面は、研削材の進行方向を遊具の滑り台のように円滑に変流させるので、衝突エネルギーの偏向と摩耗防止を同時に実現することができる。
【0019】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係る管内壁研掃に用いる偏向部材(以下、適宜「請求項6の偏向部材」という)は、請求項5の偏向部材であって、前記丸心棒は、前記部材本体を構成する素材よりも摩耗しがたい素材により構成してあることを特徴とする。
【0020】
請求項6の偏向部材によれば、請求項6の偏向部材の作用効果に加え、偏向部材全体の耐久性をより高めることができる。もっとも摩耗しやすい部位である丸心棒を、部材本体よりも摩耗しがたい素材により構成すれば、丸心棒の摩耗が遅れ、その分だけ偏向部材全体の耐久性が高まる。固定構造は解除可能であるから、丸心棒だけの交換が可能であることは説明を要しない。「摩耗しがたい素材」は、素材自体の硬さに起因する場合(たとえば、炭化タングステンや炭化チタンの超硬合金)と、同じ素材であっても表面に摩耗防止のための加工(たとえば、DLCのような皮膜形成)した場合などを含む。
【0021】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係る管内壁研掃に用いる偏向部材(以下、適宜「請求項7の偏向部材」という)は、請求項5または6の偏向部材であって、前記固定構造は、前記先細り先端部とは反対側にある前記丸心棒の後端部側に配したネジ構造を備え、当該ネジ構造は、前記先細り先端部を前記貫通孔に対し進退可能に構成してあることを特徴とする。ネジ構造は、その一部又は全部が丸心棒に備えられていてもよいし、丸心棒とは別体であってもよい。
【0022】
請求項7の偏向部材によれば、請求項5または6の偏向部材の作用効果に加え、ネジ構造というシンプルな構造を採用することにより丸心棒の着脱を簡単にするという作用効果がある。丸心棒の取り付けや取り換えに、たいへん便利である。さらに、ネジ構造のネジ進行により先細り先端部の突出量(露出量)を調整することができる。突出量の調整ができるということは、先細り先端部の外周面と部材本体外周面の面合わせを容易にし、これにより、両面によって構成する偏向面の連続性を担保することができる。また、摩耗により先端部が扁平になった場合には、摩耗分を補うように先細り先端部を再突出させることができる。再突出に先駆けて、もしくは再突出後に、先細り先端部を再切削するとよい。
【0023】
(請求項8記載の発明の特徴)
請求項8記載の発明に係る管内壁研掃に用いる偏向部材(以下、適宜「請求項8の偏向部材」という)は、請求項4ないし7いずれかの偏向部材であって、前記偏向部材の偏向面は頂点と底面とを有し、前記頂点から前記底面へ下ろした垂線と、前記頂点と前記偏向面下端とを結ぶ直線がなす角度を、25°〜50°の範囲に設定してあることを特徴とする。
【0024】
請求項8の偏向部材によれば、請求項4ないし7いずれかの偏向部材において、上記角度を上記範囲に設定することにより好ましい結果を得やすい。すなわち、上記角度を25°未満、好ましくは30°未満とすると先端が鋭角となる分、偏向面の曲率が小さくなりすぎるため、研削材の噴射方向が急激に偏向されることになる。このため、偏向面は、研削材の激しい衝突に曝されることになり、偏向部材の摩耗のためのエネルギーロスが生じる。エネルギーロスは、研掃効率の低下を招く。また、上記角度が50°特に45°を超える場合は、偏向面に充分な凹みを形成しづらい。このため、管内壁方向に偏向させなくてはならない研削材の噴射方向を、思うように偏向できない場合が生じる。思うように偏向できなければ、管内壁の研掃効率を悪化させる。したがって、上記角度を上記範囲に設定することが好ましい。
【0025】
(請求項9記載の発明の特徴)
請求項9記載の発明に係る管内壁研掃に用いる偏向部材(以下、適宜「請求項9のシステム」という)は、請求項1ないし4いずれか記載の管内壁の研掃方法を実施するものであることを特徴とする。偏向部材については、請求項4ないし8いずれかの偏向部材の使用が好ましい。
【0026】
請求項9のシステムによれば、請求項1ないし4いずれかの研掃方法の作用項を得ることができる。したがって、研掃に用いる偏向部材の摩耗を有効に防止しながら効率のよい管内研掃を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、錆面(付着物が付着した管内壁)への研削材の衝突エネルギーを高め、錆除去のブラスト力とその効率をさらに向上させるとともに、円錐形部材の円錐面の摩耗を少なくすることができる。したがって、偏向部材を長時間使用可能であること、研掃効率がよいため同じ範囲をより短い時間で研掃できることから、たいへん経済性の高い偏向手段である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】管研掃のために設置した研掃システムの全体を示す概略図である。
【図2】偏向部材の斜視図である。
【図3】図2に示す偏向部材の平面図である。
【図4】図2に示す偏向部材の正面図である。
【図5】図3のA−A断面図である。
【図6】研削材の偏向作用を示す偏向部材の側面図である。
【図7】偏向部材の取付構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、各図を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、適宜、「本実施形態」という)を説明する。ここで、まず、研掃方法を実施するための研掃システムの概略について説明を行い、その後、研掃方法と実験結果に言及する。
【0030】
(研掃システムの概略構造)
図1に示す符号101は、ビル・マンション等の住宅配管や、工場・化学プラント等に設置されている金属製の管を示す。管101は、入口端103と、出口端105と、内壁(管内壁107)とを有する。なお、入口端103と出口端105は、説明の都合上、定めた名称であって、入口と出口を特定するものではない。また、管101から枝分かれする枝管111を有する場合もある。管101(枝管111)の外径は、それが使用される場所や目的などに合わせて適宜選択されるものであるが、本実施形態では外径100mmクラスの管を想定している。以下、管101を研掃するための研掃システム1について説明する。
【0031】
研掃システム1は、エアコンプレッサ3、吸引装置5、ウインチ7、ワイヤ9、研削材供給装置11、加圧ホース13、偏向部材21、および研削材Kを、備えている。エアコンプレッサ3は、加圧したエアーを送るための装置であり、管路3aを介して加圧ホース13に接続してある。管路3aの途中には、エアーAの中に研削材Kを供給する研削材供給装置11が接続してある。吸引装置5は、管101の出口端に接続し、管101内の付着物Fや使用済みの研削材Kを吸引排除する装置である。吸引装置5は、管101の外径の違い、付着物Fの付着状態、研削材Kのサイズや噴射量の多少などの諸事情に合わせ充分な吸引能力を備えるものを使用する。
【0032】
加圧ホース13は、エアコンプレッサ3に送られるエアーAと研削材Kの噴射に耐えられ、かつ、管101を一括にもしくは分割して研掃するに十分な長さを有している。また、加圧ホース13は、その大部分を占めるホース本体13aと、ホース本体13aの先端に連結された先端ホース部13bとを備える。先端ホース部13bは、さらにその先端に噴射口13cを有している。加圧ホース13は、全体に可撓性を持たせてあり、その中でもホース本体13aには加圧ホース13全体を管101内に移動(挿入・引き出し)できるだけの剛性を持たせてあり、先端ホース部13bには研削材Kの噴射の反力で首振り可能な程度の軟性を持たせてある。首振り可能に構成したのは、巻き癖から加圧ホース13の先端を解放するためである。さらに、図7に示すように、ラッパ形状の偏向面23に噴射された研削材Kは、偏向面23の周囲と管内壁107との間の隙間から偏向部材の前に出ようとするが、この隙間の周方向アンバランスは先端ホース部の首振り作用と相まって自然調整される。すなわち、隙間が狭ければその分噴射に対する反力が大きくなり広ければ小さくなるので、狭い隙間は広げられ広い隙間は狭められる。この結果、偏向面の中心軸と管の中心軸がほぼ一致するところでバランスがとれ、偏向面23は管101のほぼ中心に位置するようになる。これにより、噴射された研削材Kは周方向ほぼ均等に偏向噴射されて管内壁107の均等研掃が実現する。なお、ホース本体13aの先端近傍には、少なくとも1本(本実施形態では、周方向等間隔に配した3本)のワイヤ9の一端を接続してある。3本あるワイヤ9は、一本に束ね、その他端を管101の外でウインチ7によって巻きあげるようになっている。
【0033】
(偏向部材の構成)
図2〜6を参照しながら、偏向部材21の構造について説明する。偏向部材21の最大の特徴は、円錐面状の偏向面23にある。偏向部材21の偏向面23は、研削材Kの噴射方向(管101の長手方向)に沿って広がるラッパ形状に形成してある。そもそも偏向面23は、エアーAによって管101の長手方向に沿って噴射された研削材Kの衝突を受け、その研削材Kを管内壁107の方向に偏向させ(変流させ)、偏向させた研削材Kを管内壁107に衝突させるための面である。偏向させるだけであれば円錐面でも足りるが(前掲した特許文献1、2参照)、研削材Kの衝突に曝される偏向面23の摩耗と衝突によるエネルギーロスとをできるだけ少なくする一方、管内壁107に対する衝突角度を直角もしくは可能なかぎり直角に近づけて研掃効率を高めるためである。図6
に示すように偏向面23は、頂点23aと(仮想の)底面23bとを有している。ここで、頂点23aから底面23bへ下ろした垂線Hと、頂点23aと偏向面下端23cとを結ぶ直線がなす角度αは、25°〜50°に、好ましくは30°〜45℃の範囲に設定する。角度αを25°未満、好ましくは30°未満とすると先端が鋭角となる分、偏向面の曲率が小さくなりすぎるため、研削材の噴射方向が急激に偏向されることになる。このため、偏向面は、研削材の激しい衝突に曝されることになり、偏向部材の摩耗のためのエネルギーロスが生じる。エネルギーロスは、研掃効率の低下を招く。また、上記角度が50°特に45°を超える場合は、偏向面に充分な凹みを形成しづらい。このため、管内壁方向に偏向させなくてはならない研削材の噴射方向を、思うように偏向できない場合が生じる。思うように偏向できなければ、管内壁の研掃効率を悪化させる。したがって、上記角度を上記範囲に設定することが好ましい。
【0034】
偏向部材21は、たとえば、SUS304のようなステンレス材によってその全体を構成することもできるが、本実施形態では、次に述べるように2種類の素材によって構成してある。すなわち、偏向部材21は、部材本体25と、丸心棒37と、固定構造51と、により概略構成してある。部材本体25は、頂点が扁平のラッパ形状に形成してあり、部材本体25の外周面27が偏向面23の一部を構成する。部材本体25の底面には、短尺円柱状のフランジ部29を一体に設けてある。フランジ部29は、部材本体25の偏向面下端23cとその近傍部位に厚みを付加してこれらを補強する役目を担っている。部材本体25およびフランジ部29は、上記したステンレス材により構成してある。フランジ部29内の中央には、フランジ部29の開放端側に開口する円形の凹部30を形成してある。部材本体25には、その頂点から凹部30に貫通する貫通孔31を形成してある。貫通孔31は、偏向面23と同心状の円形断面を持つ。符号32は、部材本体25の裾野部位に軸心と平行に形成した複数(本実施形態では3個)のネジ孔を示す。ネジ孔32は、フランジ部29をも貫通しており、かつ、部材本体25の周方向等間隔に配してある。ネジ孔32は、後述する両ネジ棒69を差し込むための孔である。
【0035】
丸心棒37は、貫通孔31に遊びなく挿入(圧入)できる断面円形の棒材である。丸心棒37の全体形状は先を削った丸鉛筆のように、その先端に先細り先端部39を有している。先細り先端部39の外周面41は、偏向面23の他の一部を構成する。すなわち、部材本体25の外周面27と、これと連続するように形成された先細り先端部39の外周面41とにより、偏向面23が構成される。丸心棒37は、部材本体25と同じ構成素材(たとえば、ステンレス材)によって構成することもできるが、たとえば、炭化タングステンや炭化チタンの超硬合金のような部材本体25の構成素材よりもより硬い素材(摩耗しがたい素材)により構成することが好ましい。先細り先端部39は、噴射された研削材Kの衝突にもっとも曝されやすいので部材本体25に比べ摩耗しやすい部位である。そこで、部材本体25よりも摩耗しがたい素材により先細り先端部39(丸心棒37)を構成した。摩耗速度が遅くなれば、その分だけ偏向部材21の寿命が長くなるので経済的である。
【0036】
丸心棒37は、先細り先端部39が貫通孔31(図5)の頂点側から突出するように(外周面41が偏向面23の一部となるように)貫通孔31に頂点23a側から挿入(圧入)する。挿入した丸心棒37は、固定構造51により部材本体25に固定する。本実施形態における固定構造51は、ネジ構造になっている。すなわち、固定構造51をネジ構造としたのは、先細り先端部39を貫通孔31に対し進退可能とするためであり、凹部30近傍の貫通孔周壁33に形成した雌ネジ部35と、凹部30側から差し込み雌ネジ部35と螺合する六角ネジ43とにより構成してある。六角ネジ43は、六角レンチ(図示を省略)などの工具により双方向に回転するようになっており、その双方向回転により貫通孔31に対して進退し、その進退が当接する丸心棒37を進退させるようになっている。六角ネジ43の代わりに、丸心棒37自体に雄ネジ部(図示を省略)を形成してもよい。上記したネジ構造以外の固定構造51を採用することを妨げるものではないが、ネジ構造を採用すればその解除も簡単であるし、丸心棒37の部材本体25に対する取り付けや取り換えに、たいへん便利である。すなわち、ネジ構造53のネジ進行(ネジ回転による進退)を用いて部材本体25に対する先細り先端部39の突出量(露出量)の調整を簡単に行うことができるからである。また、先細り先端部39の外周面41と部材本体25の外周面27の面合わせを容易にし、これにより、両面によって構成する偏向面23の連続性を担保することが行いやすくなることも理由に挙げられる。
【0037】
摩耗により先端部が扁平となった先細り先端部39は、これを再切削することにより先細り形状を復元させるようにしてもよい。再切削は可能であれば貫通孔31に挿入したままで行ってもよいし、貫通孔31から抜き取ってから行ってもよい。先細り先端部39を再切削すると、切削した分だけ部材本体25から余分に突出させなければならないが、この分はネジ構造53のネジ作用により補えるようにしておくとよい。なお、上記した固定構造51は、解除可能であることを前提としたが、解除不要であるなら解除不能に構成してもよい。また、解除まではできなくても、丸心棒37の突出量の調整ができるような構造を採用することも妨げない。
【0038】
(偏向部材の取付)
図7参照しながら、偏向部材21を加圧ホース13へ取り付けるための取付構造61について説明する。取付構造61は、インナー部材63、フランジ部65、締付けバンド67、および、両ネジ棒69により構成してある。インナー部材63は、先端ホース部13bの内径よりも僅かに小さな外径の大径部63aと、大径部63aと段部を介して一体化した小径部63bと、から構成してある。小径部63bの開放端には、放射状に延びる固定用フランジ部65を一体に形成してある。インナー部材63と固定用フランジ部65は、中空になっていて、中を研削材KがエアーAとともに通過できるようになっている。固定用フランジ部65は、先端ホース部13bの外径よりも3割ほど大径に形成してある。固定用フランジ部65には、厚み方向に貫通する3個のネジ孔65hが周方向等間隔に形成してある。
【0039】
ここで、先端ホース部13bの噴射口13cの中に大径部63aが奥になるようにインナー部材63を差し入れ、小径部63bの上から締付けバンド67で締付け、先端ホース部13bをインナー部材63にしっかりと固定する。このときの大径部63aは、抜け止め部材として機能する。両ネジ棒69は、その両端にネジ山が切ってあり、その一端をネジ孔65hに差し込み、固定フランジ部65を挟むようにナット固定する。両ネジ棒69の他端は、部材本体25(フランジ部29)を貫通するネジ孔34(図5)に差し込み、フランジ部29に固定したナット34nにネジ固定する。これにより取付構造61による、加圧ホース13(先端ホース部13b)への取り付けが完了する。なお、ホース本体13aと先端ホース部13bの接続は、中空のインナーカップリング71の各端を両ホースに挿入し、ホース本体13aと先端ホース部13bそれぞれの上から締付けバンド73によって締付けることにより行う。
【0040】
(本発明に係る研掃方法)
前掲した研掃システム1を用いて実施する研掃方法について、その作用効果とともに説明する。管101の入口端103から、先端に噴射口13cを備える可撓性の加圧ホース13を挿入し、噴射口13cを管101の所望位置まで送り込む。このとき、ウインチ7のローラーを逆回転させ、牽引ワイヤ9も併せて送りこむ。エアコンプレッサ3を駆動させエアーAを管路3a経由で管101の中に送り込む。管路3aの途中にある研削材供給装置11は、研削材KをエアーAの中に供給する。供給された研削材Kは、加圧ホース13を介して噴射口13cからエアーAの圧力によって噴射される。噴射された研削材Kは、偏向部材21の偏向面23に衝突し、そこで偏向(変流)させ管内壁107に直角に近い角度で衝突する。
【0041】
ラッパ形状になっている偏向面23は、上述した偏向作用を奏するとともに、それ自身が研削材Kから受ける衝撃を軽減する。これにより、偏向面23の摩耗が有効防止される。丸心棒37の先細り先端部39は、研削材Kの衝突にもっとも曝されやすい部位のひとつであるが、先細りになっていること、および、摩耗しがたい素材により構成してあることから、摩耗速度が遅くなる。
【0042】
加圧ホース13の移動は、ウインチ7による牽引ワイヤ9の巻上げによって行う。巻上げにより、噴射口13cおよび偏向部材21が管101の入口端103に向かって長手方向に移動し、これに伴い、研削材Kの噴射位置も同様に移動する。一方、管101の出口端105に接続した吸引装置5は、研削材Kの噴射中、場合によってはその前後に管101内の使用済み研削材Kや除去された付着物Fを管101外へ吸引排除する。研削材Kや付着物Fの吸引排除により、管101内に偏向部材21の移動空間が確保される。すなわち、吸引排除がなければ、研削材や付着物Fが偏向部材21や加圧ホース13と管内壁107との間に挟まり、これらの移動を邪魔する恐れがあるが、吸引排除によりこの恐れを払拭することができる。
【0043】
研掃システム1を用いた研掃方法の実施例について説明する。部材本体25はステンレス材(SUS304)により、丸心棒37は炭化タングステンにより、それぞれ構成した。その他の条件は、各表に示す。なお、本実施例では、日本工業規格(JIS Z0313)に基づき目視による清浄度の評価を行った。同規格が定める「さび度」と「除せい度」は表1および2に示すとおりである。なお、同規格では「評価に際してはISO8501−1の代表写真例と比較する」と記載されている。なお、各表に記す4-6mmの「砂利」は、鹿島金華(商標)である。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【実施例1】
【0046】
【表3】

【0047】
研掃後の管内壁の状態をブラスト処理仕上等級(ISO 8501-1)で判定すると、表3に示すように、DSa1級20%、DSa2級80%を示し、拡大鏡なしで表面に目に見える殆んどミルスケール、さび、塗膜、異物がない状態となり、管内壁錆面から殆んどの錆は除去されていた。また、この状態は管内壁は乾燥状態のままであり、即座に、次工程である管内壁の塗装工程が実施できることを示していた。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、実施例1で用いたラッパ形状の偏向部材の代わりに、同サイズの円錐形状の偏向部材を用いて実験を行った。各条件は、実施例1のそれらと同じである。研掃後の管内壁の状態をブラスト処理仕上等級(ISO 8501-1)で判定すると、表4に示すように、D級30%、DSa1級60%、DSa2級10%を示した。研掃処理を行ったにもかかわらず、管内壁面積の30%は実験前と同様のさび度Dを示し、研掃効果は認められなかった。また、残る70%には研掃効果は認められたものの、拡大鏡なしで見える油や泥土はないが、ミルスケールやさび、異物の残余が認められた。管内壁錆面の錆は残ったままであり、実施例1の結果と比較すると、研掃効果が不十分であることが認められた。また、実験後の管内壁は乾燥状態のままではあるが、次工程である管内壁の塗装工程を実施するには、全く不十分な下地処理状態であった。
【0049】
【表4】

【0050】
(比較例2)
比較例2では、実施例1で用いた研削材の代わりに、サイズ2mmの研摩用アルミナ粒子を用いた。それ以外の条件は、実施例1のそれと同じである。実験後の管内壁をブラスト処理仕上等級(ISO 8501-1)で判定すると、表5に示すように、DSa1級40%、DSa2級60%を示し、内壁全面への研掃効果は認められた。しかし、拡大鏡なしで見える油や泥土はないものの、管内壁面積の約半数(40%)には弱く付着したミルスケールやさびが認められた。この状態の管内壁は乾燥状態のままではあるものの、次工程である管内壁の塗装工程を実施するには、不十分な下地処理状態であった。
【0051】
【表5】

【0052】
(比較例3)
実施例1で用いた研削材(サイズ4-6mmの砂利)の代わりに、研削材(サイズ6-8mmの砂利)を用いた以外は、実施例1と同様条件で、研掃を行った。研掃後の管内壁を、ブラスト処理仕上等級(ISO 8501-1)で判定すると、表6に示すように、DSa1級30%、DSa2級70%を示し、内壁全面への研削効果は認められた。拡大鏡なしで見えるものは殆んどなく、ミルスケール、さび、塗膜、異物がほぼない状態となり、管内壁錆面からの錆は除去されていた。また、この状態は管内壁は乾燥状態のままであり、即座に、次工程である管内壁の塗装工程が実施できることを示していた。しかし、研削材を加圧ホースから噴射中に、ホース出口部分や、治具と管内壁の間に、研削材がブリッジ状に堆積し、一瞬ではあるが研削材流動が停滞してしまう詰まり現象が観察された。この詰まり現象は、管内流動にダムが形成され研削材流動が阻害されることで研削効果を弱めてしまうばかりか、研削材がそのダム箇所に堆積し、管内圧力が上昇したり、一気にダムが崩壊することで、大量の研削材が配管コーナー(曲がり)部を直撃することで配管が損傷する可能性もあり、危険である。また、実験後のさび度を見ても、4-6mmの研削材を用いた実施例1よりも劣っていることから、本システムにはサイズ4-6mmがより好適と思われた。
【0053】
【表6】

【実施例2】
【0054】
実施例1で得られた研掃処理後の老朽管を用いた以外は、実施例1と同様条件で、再度のブラ
スト処理を行ったところ、表7に示す結果を得た。実施例2から、再度の研掃処理を重ねることで、管内壁の錆除去具合をさらに進展させられることが分かった。
【0055】
【表7】

【実施例3】
【0056】
内壁のさび度Dを示す内径100mmφの老朽白ガス管(亜鉛メッキ鋼管)を用い、老朽管内へ、フランジ部直径68mm、部材本体の高さ51mmの偏向部材を、内径40mmφの加圧ホースに装填した以外は実施例1と同様にして、ブラスト実験を行った。尚、治具の実際の頂点角度は50°であった。研掃後の管内壁を、ブラスト処理仕上等級で判定すると、DSa1級30%、DSa2級70%を示し(表8参照)、拡大鏡なしで表面に目に見える殆んどミルスケール、さび、塗膜、異物がない状態となり、管内壁錆面から錆の部位は除去されていた。また、この状態は管内壁は乾燥状態のままであり、即座に、次工程である管内壁の塗装工程が実施できることを示していた。
【0057】
【表8】

【0058】
(比較例4)
実施例3で用いたラッパ形状の偏向部材の代わりに、同サイズの円錐形状の偏向部材を用いた以外は、実施例3と同様条件で、実験を行った。研掃後の管内壁を、ブラスト処理仕上等級(ISO 8501-1)で判定すると、表9に示すように、D級45%、DSa1級50%、DSa2級5%を示した。研掃処理を行ったにもかかわらず、管内壁面積の約半分である45%は実験前と同様のさび度Dを示し、研掃効果は認められなかった。また、残る55%には研掃効果は認められるものの、拡大鏡なしで油や泥土はないが、ミルスケールやさび、異物の残余が認められ、管内壁錆面の錆は残ったままであり、実施例3の結果と比較すると、研掃効果が不十分であることが認められた。また、実験後の管内壁は乾燥状態のままではあるが、次工程である管内壁の塗装工程を実施するには、全く不十分な下地処理状態であった。
【0059】
【表9】

【実施例4】
【0060】
実施例3で得られた研掃処理後の老朽管を用いた以外は、実施例3と同様条件で、再度の研掃処理を行ったところ、表10に示す結果を得た。すなわち、実施例4から、再度の研掃処理を重ねることで、管内壁の錆除去具合をさらに進展させることが分かった。
【0061】
【表10】

【符号の説明】
【0062】
1 研掃システム
3 エアコンプレッサ
3a 管路
5 吸引装置
7 ウインチ
9 牽引ワイヤ
11 研削材供給装置
13 加圧ホース
13a ホース本体
13b 先端ホース部
13c 噴射口
21 偏向部材
23 偏向面
23a 頂点
23b 底面
23c 偏向面下端
25 部材本体
27 外周面
29 フランジ部
30 凹部
31 貫通孔
33 貫通孔周壁
34 ネジ孔
34n ナット
35 雌ネジ部
37 丸心棒
39 先細り先端部
41 外周面
43 六角ネジ
51 固定構造
53 ネジ構造
61 取付構造
63 インナー部材
63a 大径部
63b 小径部
65 固定用フランジ部
65h ネジ孔
67 締付けバンド
69 両ネジ棒
71 インナーカップリング
73 締付けバンド
A エアー
F 付着物
K 研削材(研磨材、研摩材)
H 垂線
101 管
103 入口端
105 出口端
107 管内壁
111 枝管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内壁を有する管の入口端から、先端に噴射口を備える可撓性の加圧ホースを挿入し、
前記噴射口から噴射した研削材を、前記内壁に噴射しながら前記加圧ホースを前記管の長手方向に移動させるとともに、
少なくとも前記研削材の噴射中に、前記管の前記挿入端とは異なる出口端から前記管内を吸引する管の内壁の研掃方法であって、
最大径が前記管の内径よりも小径なラッパ形状の偏向面を有する偏向部材が、前記管と一体移動するように前記噴射口近傍に取り付けてあり、
前記偏向面が、噴射口からの噴射により衝突してきた研削材を前記内壁方向に偏向させるように構成してある
ことを特徴とする管内壁の研掃方法。
【請求項2】
前記研削材のサイズが、3〜7mmである
ことを特徴とする請求項1記載の管内壁の研掃方法。
【請求項3】
前記加圧ホースは、剛性のホース本体と、前記ホース本体の先端に連結された前記ホース本体よりも軟性であり、かつ、前記噴射口を備える先端ホース部とを備え、
前記先端ホース部は、前記研削材の噴射により前記管内で首振り可能に構成してある
ことを特徴とする請求項1または2記載の管内壁の研掃方法。
【請求項4】
研削材の噴射方向に沿って広がる円錐面状の偏向面を備える管内壁研掃に用いる偏向部材において、
前記偏向面は、噴射方向に沿って広がるラッパ形状に形成してある
ことを特徴とする管内壁研掃に用いる偏向部材。
【請求項5】
研削材の噴射方向に沿って広がる円錐面状の偏向面を備える管内壁研掃に用いる偏向部材において、
前記偏向面と同心状の円形断面の貫通孔を有する部材本体と、前記貫通孔に遊びなく挿入される丸心棒と、前記貫通孔に挿入した丸心棒を前記部材本体に解除可能に固定する固定構造とを備え、
前記丸心棒には、前記貫通孔から突出する先細り先端部を設けてあり、
前記偏向面は、前記部材本体の外周面と前記先細り先端部の外周面とにより構成してあり、かつ、噴射方向に沿って広がるラッパ形状に形成してある
ことを特徴とする管内壁研掃に用いる偏向部材。
【請求項6】
前記丸心棒は、前記部材本体を構成する素材よりも摩耗しがたい素材により構成してある
ことを特徴とする請求項5記載の管内壁研掃に用いる偏向部材。
【請求項7】
前記固定構造は、前記先細り先端部とは反対側にある前記丸心棒の後端部側に配したネジ構造を備え、
当該ネジ構造は、前記先細り先端部を前記貫通孔に対し進退可能に構成してある
ことを特徴とする請求項5または6記載の管内壁研掃方法に使用する偏向部材。
【請求項8】
前記偏向部材の偏向面は頂点と底面とを有し、
前記頂点から前記底面へ下ろした垂線と、前記頂点と前記偏向面下端とを結ぶ直線がなす角度を、25°〜50°の範囲に設定してある
ことを特徴とする請求項4ないし7いずれか記載の管内壁研掃方法に使用する偏向部材。
【請求項9】
請求項1ないし3いずれか記載の管内壁の研掃方法を実施する
ことを特徴とする管内壁研掃システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−111555(P2013−111555A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262112(P2011−262112)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(595090716)有信株式会社 (6)
【Fターム(参考)】