説明

管台補修方法

【課題】効率的で作業性のよい管台補修方法を実現する。
【解決手段】既設の管台を除去する工程と、貫通孔の原子炉容器内側の開口部分の原子炉容器母材を切削除去することにより軸対称な開先となった除去凹部を形成する工程と、下側(外側)管台32aを貫通孔に挿入する工程と、除去凹部に対して溶接して埋め戻すことにより肉盛溶接部33を形成する工程と、上側(内側)管台32bの端部を肉盛部33にねじ接合する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉容器に溶接された管台を補修する管台補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉容器の半球鏡(下鏡や上鏡)には、管台が溶接により取り付けられている。半球鏡を含む原子炉容器は、炭素鋼もしくは低合金鋼により形成されており、管台は、ステンレス鋼もしくはNi基合金により形成されている。
なお、管台は、中性子束計測器を挿入して装着するための炉内計装筒として機能するものや、制御棒駆動装置の駆動軸ハウジングとして機能するものなどがある。
【0003】
ここで、図10を参照して、既設(補修前)の管台の溶接状態について説明する。同図に示すように、炉内計装筒である管台1は、下鏡2に貫通されて下鏡2の内面で溶接部3により溶接されている。
溶接後熱処理による管台1の劣化を防止するため、下鏡2側にステンレス鋼もしくはNi基合金材料で肉盛り溶接して肉盛溶接部3aを形成し、溶接後熱処理を実施した後、J溶接部(継手溶接部)3bにより管台1を肉盛溶接部3aを介して下鏡2に取り付けている。
【0004】
原子炉冷却材である高温高圧水が存在する腐食環境において、引張応力が作用すると、溶接部3が応力腐食割れ(SCC)等の経年劣化により損傷する恐れがある。損傷D(図10参照)が生じた場合には補修を行う必要がある。
【0005】
このような補修をする従来手法として特許文献1に示す補修方法がある。
特許文献1に示す補修方法を概説すると次の通りである。
(1)原子炉容器の下鏡に溶接により固定支持された管台を、溶接部よりも上方位置及び下方位置で切断し、切断された上側の管台及び下側の管台を引き抜いて取り除く。
(2)溶接部及び残留管台(管台のうち、上側の管台と下側の管台の間の部分)を、溶接部近傍の母材と共に除去する。つまり、図10において、点線で示す位置よりも上側の母材と共に、溶接部及び残留管台を除去する。
(3)下鏡の貫通孔にガイドパイプを挿入した状態で、母材除去部分に対して、テンパービード溶接法により3次元の肉盛溶接をして埋め戻す。更に、肉盛溶接部の頂部にJ型の開先を形成する。
(4)ガイドパイプを除去した後、下鏡の貫通孔に、新規の管台を挿入し、前記開先に継手溶接をし、新たな管台を、肉盛溶接部を介して下鏡に溶接接合する。
【0006】
図11は、特許文献1に示す方法により補修した後の状態を示す。図11において、1−1は新たな管台であり、3a―1は肉盛溶接部であり、3b−1は継手溶接部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2530011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、原子炉容器の下鏡の内面は半球凹面形状であり、既設の溶接部は3次元鞍型となった複雑な3次元形状となっていることから、この溶接部を復元しようとすると複雑な3次元形状部分に肉盛溶接をしなければならない。また、溶接部位は隣接管台が林立しており狭隘環境である。したがって、特許文献1に示すような従来手法では、補修作業は複雑で困難を伴う作業であった。
また容器内部は水中環境または放射線量の高い気中環境であり、溶接や加工作業は自動装置で行うことが望ましい。しかし、従来手法により既設と類似の構造に復旧しようとすると、狭隘環境で3次元溶接が可能な、小型で非常に高性能な溶接装置が必要となり、装置化は容易でない。
【0009】
本発明は、原子炉容器の半球鏡(下鏡や上鏡)に溶接されている管台の補修を容易に行うことができる、管台補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の構成は、
原子炉容器の半球鏡に形成された貫通孔を貫通すると共に、前記半球鏡の内周側で溶接部により前記原子炉容器に接合された管台を補修する管台補修方法であって、
前記管台を除去する工程と、
前記貫通孔の原子炉容器内側の開口部分の原子炉容器母材を、前記溶接部と共に、前記半球鏡の内面に対しての法線を中心として切削除去することにより、前記法線に対して軸対称な開先となった除去凹部を形成する工程と、
新規の管台のうち原子炉容器外側部分となる外側管台を、前記原子炉容器の外側から内側に向かって前記貫通孔に挿入する工程と、
前記除去凹部に対して、前記法線を中心とした軸対称な溶接をして埋め戻すことにより、肉盛溶接部を形成する工程と、
新規の管台のうち原子炉容器内側部分となる内側管台の端部を前記肉盛部に機械的に接合する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また本発明の構成は、前記肉盛溶接部を形成する工程では、テンパービード溶接により溶接を行うことを特徴とする。
【0012】
また本発明の構成は、前記肉盛溶接部に、前記貫通孔と連通する接合用貫通孔を形成してこの接合用貫通孔にねじ部を形成すると共に、前記内側管台の端部にねじ部を形成し、前記内側管台の端部を前記接合用貫通孔のねじ部にねじ込んで螺合・接合することを特徴とする。
【0013】
また本発明の構成は、内側管台と前記肉盛溶接部との間にシール溶接部を形成する工程を更に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、原子炉容器母材を切削除去して軸対称な開先となった除去凹部を形成し、この除去凹部に軸対称な溶接をして肉盛溶接部を形成するため、溶接施工が容易となる。このとき、軸対称溶接であるため、テンパービード溶接を適用することができ、容易かつ効率的な溶接ができる。
【0015】
また、外側管台を貫通孔に挿入してから、肉盛溶接部を形成するため、肉盛溶接部の形成と同時に、外側管台の接合が完了し、施工性が向上する。
このとき、肉盛溶接部を形成する際には、外側管台が裏当て棒としての機能も発揮するため、溶接施工が効率的になる。
【0016】
更に、内側管台を機械的に肉盛溶接部に接合するため、つなぎ作業を容易に実施することができる。
【0017】
結局、肉盛溶接部の上下に外側管台と内側管台を取り付ける構成としたため、即ち、外側管台は溶接により、内側管台は機械接合により肉盛溶接部に取り付ける構成としたため、施工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】補修前の管台取付構造を示す構成図。
【図2】本発明の管台補修方法における管台切削除去工程を示す工程図。
【図3】本発明の管台補修方法における除去凹部形成工程を示す工程図。
【図4】本発明の管台補修方法における外側管台挿入工程を示す工程図。
【図5】本発明の管台補修方法における肉盛溶接部形成工程を示す工程図。
【図6】本発明の管台補修方法における接合用貫通孔形成工程を示す工程図。
【図7】本発明の管台補修方法におけるねじ加工工程を示す工程図。
【図8】本発明の管台補修方法におけるねじ留め工程を示す工程図。
【図9】本発明の管台補修方法におけるシール溶接部形成工程を示す工程図。
【図10】既設の管台取付構造を示す構成図。
【図11】従来手法により補修した後の管台取付構造を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
以下に説明する管台補修方法は、原子炉容器における下鏡に取り付けた管台を補修するものである。
【0021】
図1は、既設(補修前)の管台取付構造を示すものであり、原子炉容器10の底部である半球形状の下鏡11に対し、原子炉容器10の内外に貫通して管台20が取り付けられている。この管台20は、例えば、原子炉容器10の炉内の中性子束を計測する検出器を挿入して装着するための炉内計装管として構成されている。
【0022】
原子炉10は、その母材12が炭素鋼または低合金鋼で形成されている。原子炉容器10の内面は、ステンレス鋼で肉盛されたクラッド部13により被覆されている。この原子炉容器20には、管台20を取り付ける位置に、管台20を貫通させる貫通孔14が垂直方向に設けられている。
【0023】
貫通孔14のうち、原子炉容器10の内側に開口する部分に、肉盛溶接部15aと継手溶接部15bとでなる溶接部15が設けられている。
溶接部15の形成順序を説明する。まず、原子炉容器10の内側の母材12に開先が施され、この開先加工部分にステンレス鋼またはNi基合金が肉盛溶接されて肉盛溶接部15aが形成される。更に、肉盛溶接部15aに開先加工が施され、この開先加工部分にステンレス鋼またはNi基合金が継手溶接されて継手溶接部15bが形成される。この継手溶接部15bにより、貫通孔14に貫通された管台20が原子炉容器10に固定されている。
【0024】
また貫通孔14のうち、原子炉容器10の外側に開口する部分に、溶接部16が設けられている。溶接部16は、ステンレス鋼またはNi基合金が肉盛溶接されて形成されている。
【0025】
管台20は、ステンレス鋼またはNi基合金で形成されている。管台20は、原子炉容器10の貫通孔14に貫通されて、原子炉容器10の外側に延在する下端に、セーフエンド部21が設けられている。セーフエンド部21は、管台20の下端に、ステンレス鋼またはNi基合金の継手溶接部22により固定されている。
このセーフエンド部21は、コンジェットチューブ23と、継手溶接部24により接続されている。
【0026】
次に、図1に示す管台20の溶接部15などに損傷が発生して補修をする手順を説明する。この補修をするには、まず、原子炉容器10の内部の水を排水して気中環境にする。
【0027】
管台20の下端からコンジットチューブを切り離してから、図2に示すように、切削装置101により、下鏡11に取り付けられている管台20を切削除去する。
【0028】
図3(a)(b)に示すように、切削加工機102により、貫通孔14の原子炉容器内側に位置する開口部分の母材12を溶接部15と共に切除して、除去凹部31を形成する。
このとき、原子炉容器10の下鏡11における半球凹面形状の内面に対しての法線Nを中心として、切削除去をすることにより、法線Nに対して軸対称な開先形状となった除去凹部31とする。
【0029】
切削凹部(開先)31の内面のバリ取りをし、その後、切削凹部(開先)31の寸法検査やPT検査(浸透探傷試験)などを行う。
【0030】
図4に示すように、原子炉容器10の外側から、新規の管台32のうち下側(原子炉容器外側)の部分となる下側管台(外側管台)32aを、貫通孔14に挿通する。このとき、下側管台32aの上端面が、切削凹部31の底面に臨む位置にまで、下側管台32aを挿入する。
この下側管台32aは、次に行うバタリング溶接の際に裏当て棒としての機能を果たす。
【0031】
図5に示すように、溶接装置103により、バタリング溶接をして除去凹部31に肉盛溶接部33を形成し、除去凹部31を埋め戻す。
このバタリング溶接をする際には、下鏡11の半球凹面形状の内面に対しての法線Nを中心として、軸対称の溶接をする。このように軸対称の溶接をすることで、溶接施工が容易になる。
しかも、この溶接は、テンパービード溶接により行う。軸対称の溶接であるため、テンパービード溶接を容易かつ効率的に行うことができる。また、テンパービード溶接であるため、溶接後熱処理が不要となる。
【0032】
このようにして、法線Nを中心として軸対称のテンパービード溶接を除去凹部31に対して施すことにより、除去凹部31を埋め戻して肉盛溶接部33を形成することができると同時に、下側管台32aを下鏡11に溶接・接合することができる。
つまり、肉盛溶接33の形成と同時に、下側管台32aの下鏡11への溶接・接合が完了するため、下側管台32aの下鏡11への溶接・接合のためだけの溶接をする必要がなくなり、施工性が向上する。
【0033】
バタリング溶接して形成した肉盛溶接部33の表面(原子炉容器の内周側の面)を表面仕上げし、肉盛溶接部33の体積検査や超音波欠陥検査をする。
【0034】
図6に示すように、下側管台32aに対して、下方から上方に向けて(原子炉容器外側から原子炉容器内側に向けて)切削装置104を挿入して侵入させ、肉盛溶接部33に接合用貫通孔33aを形成する。これにより、貫通孔14と連通する接合用貫通孔33aが形成される。
なお、肉盛溶接部33を形成する際に下側管台32aの内周面に溶接材料が付着するが、切削装置104の切削により、下側管台32aの内周面に付着している溶接材料は除去される。
【0035】
図7に示すように、ねじ加工装置105により、接合用貫通孔33aの内周面に、ねじ加工を施してねじ部34を形成する。
【0036】
図8に示すように、新規の管台32のうち上側(原子炉容器内側)の部分となる上側管台(内側管台)32bの下端には、ねじ部34に螺合するねじ部が形成されており、この上側管台32bが上方から下方に向けて(原子炉容器内側から原子炉容器外側に向けて)送られて接合用貫通孔33aに挿入され、ねじ部34と螺合・接合する。
このように上側管台32bを、肉盛溶接部33の接合用貫通孔33aに形成したねじ部34にねじ留めするため、つなぎ作業を容易に実施できる。
なお、ねじ留めのみならず、他の機械的な結合手段(ボルト接合)などで、上側管台32bと、肉盛溶接部33とを連結することも可能である。
【0037】
図9に示すように、溶接装置106により、上側管台32bと肉盛溶接部33との間をシール溶接してシール溶接部35を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、下鏡に取り付けられている、炉内計装筒として機能する管台や、加圧水型原子炉の場合には上鏡にとりつけられている、制御棒駆動装置の駆動軸ハウジングとなる管台や、沸騰水型原子炉の場合には下鏡にとりつけられている、制御棒駆動装置の駆動軸ハウジングとなる管台に適用して補修をすることができる。
【符号の説明】
【0039】
1、1−1 管台
2 下鏡
3 溶接部
3a、3a−1 肉盛溶接部
3b、3b−1 J溶接部(継手溶接部)
10 原子炉容器
11 下鏡
12 母材
13 クラッド
14 貫通孔
15 溶接部
15a 肉盛溶接部
15b 継手溶接部
16溶接部
20 管台
31 除去凹部
32 管台
32a 下側管台(外側管台)
32b 上側管台(内側管台)
33 肉盛溶接部
33a 接合用貫通孔
34 ねじ部
35 シール溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉容器の半球鏡に形成された貫通孔を貫通すると共に、前記半球鏡の内周側で溶接部により前記原子炉容器に接合された管台を補修する管台補修方法であって、
前記管台を除去する工程と、
前記貫通孔の原子炉容器内側の開口部分の原子炉容器母材を、前記溶接部と共に、前記半球鏡の内面に対しての法線を中心として切削除去することにより、前記法線に対して軸対称な開先となった除去凹部を形成する工程と、
新規の管台のうち原子炉容器外側部分となる外側管台を、前記原子炉容器の外側から内側に向かって前記貫通孔に挿入する工程と、
前記除去凹部に対して、前記法線を中心とした軸対称な溶接をして埋め戻すことにより、肉盛溶接部を形成する工程と、
新規の管台のうち原子炉容器内側部分となる内側管台の端部を前記肉盛部に機械的に接合する工程と、
を有することを特徴とする管台補修方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記肉盛溶接部を形成する工程では、テンパービード溶接により溶接を行うことを特徴とする管台補修方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記肉盛溶接部に、前記貫通孔と連通する接合用貫通孔を形成してこの接合用貫通孔にねじ部を形成すると共に、前記内側管台の端部にねじ部を形成し、前記内側管台の端部を前記接合用貫通孔のねじ部にねじ込んで螺合・接合することを特徴とする管台補修方法。
【請求項4】
請求項1において、
内側管台と前記肉盛溶接部との間にシール溶接部を形成する工程を更に有することを特徴とする管台補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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