説明

管楽器保持用サポート部品、サムレスト及びサムレストの取付構造

【課題】サムレストの交換作業の容易化を図ることができ、サムレストの不用意なる落下を防止することができるようにする。
【解決手段】サムレスト10は、サクソフォンの台座部Dに取り付け可能に設けられる。サムレスト10は、奏者の親指が接触する本体部11と、この本体部11に形成されて台座部Dを受容可能な受容部12と、この受容部12に弾性変形可能に設けられ、当該弾性により台座部Dの外面に圧接可能な圧接部14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器保持用サポート部品、サムレスト及びサムレストの取付構造に係り、更に詳しくは、管楽器に装着され、奏者による管楽器の保持をサポートするための管楽器保持用サポート部品、サムレスト及びサムレストの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、サクソフォン等の木管楽器が広く利用されるに至っている。このような楽器は、特許文献1に開示されているように、奏者の左手親指が接触するサムレストを備え、このサムレストは、楽器の管体から突出する台座部に被さるように取り付けられる。同文献には、サムレストの台座部への固定方法として、接着剤を用いたり、サムレストの側面にねじ穴を設け、当該ねじ穴にねじを挿入したりすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−268861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接着剤を用いてサムレストを固定すると、当該サムレストを交換するときに、接着を剥離する高度な技術が必要になる。このため、専門的な技術や熟練した技能を有する技術者でなければサムレストの交換を行えなくなるばかりでなく、当該技術者であっても長時間で多大な労力が強いられる、という不都合がある。この結果、種々のサムレストに交換する楽器のカスタマイズ等の要求に対応することが困難になる、という不都合を招来する。
また、ねじを用いてサムレストを固定した場合、演奏中の振動によりねじが緩んでしまい、サムレストが台座部から外れて不用意に落下してしまう、という不都合もある。
【0005】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に基づいて案出されたものであり、その目的は、交換作業の容易化を図ることができ、且つ、不用意なる落下を防止することができる管楽器保持用サポート部品、サムレスト及びサムレストの取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、管楽器の管体から突出する台座部に取り付け可能に設けられたサムレスト等の管楽器保持用サポート部品において、
奏者の親指が接触する本体部と、この本体部に形成されて台座部を受容可能な受容部と、この受容部に弾性変形可能に設けられ、当該弾性により前記台座部の外面に圧接可能な圧接部とを備える、という構成を採っている。
【0007】
本発明において、前記圧接部は、台座部の周方向に延びる延設部材により形成される、という構成を採ることができる。
【0008】
また、前記受容部は、前記延設部材を収容可能な凹部を備える、という構成を採ってもよい。
【0009】
更に、前記圧接部は、前記受容部側を部分的に弾性変形可能に形成した板ばね状部からなる、という構成を採ることができる。
【0010】
また、本発明は、請求項1ないし4の何れかに記載のサムレストを木管楽器の台座部に取り付ける取付構造において、
前記台座部は、前記圧接部と嵌り合う嵌合部を備える、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧接部が弾性を介して台座部に圧接するので、圧接部と台座部との摩擦力を大きく保ちつつ、演奏等によって台座部や本体部が振動しても当該振動を圧接部で吸収でき、振動の影響によるサムレスト等の管楽器保持用サポート部品の不用意な落下の防止を図ることができる。特に、ねじを用いてサムレストを取り付けた場合、振動の影響によりねじが緩んだ場合でも、圧接部と台座部との摩擦によってサムレストの不用意なる落下を未然に回避することが可能となる。しかも、接着剤を使用せずに圧接部と台座部との摩擦でサムレストの装着状態を維持でき、且つ、その摩擦に抗して意図的な外力を付与して台座部からサムレストを取り外すことが可能となる。これにより、サムレストを交換する際に、接着剤を剥離する作業を省略可能となり、接着剤を用いた際の特別な技術を要することなく交換作業を簡単且つ短時間で行うことができ、カスタマイズの多様なニーズに容易に応じることが可能となる。
【0012】
また、台座部の周方向に延びる延設部材により圧接部を形成した場合、当該圧接部の構造の簡略化を図ることができる他、受容部と台座部との間に延設部材を介在することで圧接部を台座部に簡単に圧接することが可能となる。
【0013】
更に、延設部材を収容可能な凹部を有するので、延設部材を受容部内で容易に位置決めでき、サムレストの取付作業を容易且つ迅速に行うことが可能となる。また、受容部内での延設部材の位置を一定に保って弾性を安定して発揮可能となり、サムレストの落下をより一層安定的に防止することが可能となる。
【0014】
また、圧接部が板ばね状部により形成した場合、本体部及び受容部に対して圧接部を一体に連なって形成でき、部品点数の削減を通じて、サムレストの交換の作業性や取扱性の向上を図ることが可能となる。
【0015】
更に、台座部が圧接部と嵌り合う嵌合部を有する場合、圧接部と嵌合部との嵌り合いによりサムレストの意図しない変位を規制可能となり、サムレストの落下をより良く回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るサムレストを木管楽器に装着する要領を示す概略斜視図。
【図2】図1のA−A線矢視部分断面図。
【図3】図2のB−B線矢視断面図。
【図4】前記サムレストを下から見た概略斜視図。
【図5】第2実施形態に係るサムレストの図4と同様の斜視図。
【図6】第2実施形態に係るサムレストの底面図。
【図7】図6のC−C線矢視断面図。
【図8】図6のE−E線矢視断面図。
【図9】変形例に係るサムレスト及び台座部の図2と同様の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書において、特に明示しない限り、「上」、「下」は、図1及び図2を基準として用いる。
【0018】
[第1実施形態]
図1〜図4において、管楽器保持用サポート部品としてのサムレスト10は、サクソフォンSの管体S1から突出するように設けられた円筒状の台座部Dをカバーするように装着される。サムレスト10は、奏者の親指が接触する本体部11と、この本体部11の下面側を凹ますように形成され(図2参照)、台座部Dの上端側を受容可能な受容部12と、この受容部12内に設けられる圧接部14とを備えて構成されている。
【0019】
前記本体部11は、台座部Dの上面上に位置する平面視円形の頂壁16と、この頂壁16の外周側に連設された周壁17とを備えている。周壁17の下端面は、前記管体S1の外周面に沿う湾曲形状に形成されている。周壁17には、ねじ穴19が形成されている。このねじ穴19は、周壁17を貫通して台座部Dの径方向に延び、六角穴付き止めねじからなるねじ部材20を螺合可能となっている。
【0020】
前記受容部12は、前記頂壁16及び周壁17の内面によって形成され、下部を開口した形状に設けられている。受容部12の開口径d1は、台座部Dの外径d2と同一、又は、当該外径d2より若干大きく設定されている。受容部12における周壁17の内面側には、その周方向に延びる凹部22が形成され、当該凹部22内に前記圧接部14を収容可能に設けられている。
【0021】
前記圧接部14は、台座部Dの周方向に延びる平面視C字状に形成された延設部材25により構成されている。延設部材25は、弾性変形可能な素材により構成され、意図的な外力を付与することで、その両端を離間接近して内径d3が拡縮可能となっている。延設部材25の内径d3は、無負荷状態で台座部Dの外径d2より若干小さく形成されている。これにより、延設部材25の内側に台座部Dを挿入すると、延設部材25の内径d3が拡大するように弾性変形し、延設部材25の弾性により、その内周面が台座部Dの外面に圧接可能となる。延設部材25の太さは、凹部22の幅及び深さと略同一に設定され、当該凹部22内に収容可能となっている。
【0022】
次に、前記サムレスト10の取り付け及び取り外し方法について説明する。
【0023】
サムレスト10を台座部Dに取り付ける場合、先ず、図4に示されるように、受容部12内に延設部材25を挿入し、当該延設部材25がねじ穴19と重ならないように延設部材25を凹部22に収容した状態(図2及び図3参照)とする。これにより、受容部12内において延設部材25が上下方向で位置決めされて本体部11と圧接部14とが一体的に取り扱い可能となり、且つ、延設部材25の内面側が受容部12の内面から突設した状態となる。
【0024】
次いで、図2に示されるように、台座部Dの上方をサムレスト10でカバーするように、台座部Dの上端側に受容部12を挿入する。すると、延設部材25の内径d3が台座部Dの外径d2より若干小さくなるので、台座部D上端と延設部材25とが接触した状態となるが、この状態からサムレスト10に意図的な外力を付与して下方に押し込む。これにより、延設部材25の内径d3が拡大するように弾性変形し、当該延設部材25が台座部Dの外面に擦れつつ本体部11と共に下方に移動し、台座部D上端上に頂壁16の下面18が載置される。このとき、延設部材25の弾性により、当該延設部材25が台座部Dを締め付けるような力が作用して台座部D外面に延設部材25の内面が圧接する。これにより、延設部材25の内面側から台座部D外面に対し、台座部Dの中心方向の力を付与して当該台座部Dと延設部材25との摩擦力を高めるようになっている。
【0025】
その後、所定の工具を用いてねじ部材20をねじ穴19にねじ込み、当該ねじ部材20の先端を台座部D外面に押し当てることで、サムレスト10の取り付けが完了する。
【0026】
一方、サムレスト10を台座部Dから取り外す場合、ねじ部材20を緩めた後、サムレスト10に意図的な外力を付与し、台座部Dと延設部材25との摩擦力に抗して受容部12から台座部12を引き抜けばよい。
【0027】
従って、このような実施形態によれば、演奏時等の振動によりねじ部材20が意図することなく緩んだ場合でも、延設部材25の弾性により台座部Dを把持するようになり、ねじ部材20による保持力がなくなったと同時に、サムレスト10が脱落することを防止することが可能となる。ここで、サムレスト10の自重に対して延設部材25の弾力が小さく作用すると、ねじ部材20が緩んだときに、振動によって延設部材25と台座部Dとが擦れながらサムレスト10が外れる方向に徐々にずれてくる場合がある。この場合、サムレスト10が台座部Dから脱落するまでの時間を長く稼ぐことができ、その間に、サムレスト10のずれ、ひいては、ねじ部材20の緩みに奏者が気付くよう喚起してサムレスト10の不用意なる落下を未然に回避可能となる。
【0028】
また、前述のようにサムレスト10の脱落防止を図ることができるので、接着剤を使用せずにサムレスト10を容易に着脱することが可能となる。これにより、接着剤を使用した際の困難な剥離作業を省略でき、サムレスト10の交換が簡単に行えるようになってサクソフォンSをカスタマイズする奏者のニーズに無理なく対応することが可能となる。更に、接着剤の使用を省略したので、接着剤樹脂に起因する音質劣化をなくすことができ、演奏時の音質を良好に保つことができる。
【0029】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、図5〜図8を用いて説明する。なお、以下の説明において、前記第1実施形態と同一若しくは同等の構成部分については必要に応じて同一符号を用いるものとし、説明を省略若しくは簡略にする。
【0030】
第2実施形態の圧接部14は、前記受容部12側を部分的に弾性変形可能に形成した一対の板ばね状部30からなる。当該板ばね状部30は、周壁17のねじ穴19と反対側において、周壁17の一部を抉り取るように切削加工することにより形成される。具体的には、周壁17の厚み方向中間部を周方向所定幅に亘って、当該周壁17の下面から凹部22の上下方向中間位置まで凹ませるように切削し、更に、この凹ませた部分と受容部12内とを連通する隙間SPを形成ように切削する。これにより、板ばね状部30は、隙間SP側が先端となって当該先端が図6中矢印方向に揺動するよう弾性変形可能な一対の薄片状に形成される。また、各板ばね状部30は、無負荷状態において、底面視で円形となる受容部12内面から先端側が内方に出っ張った状態が維持されるよう曲げ変形される。これにより、意図的な外力を付与して受容部12内に台座部Dを挿入したときに、各板ばね状部30が弾性変形して台座部Dの外面を押さえ付けるように圧接し、当該板ばね状部30を介して台座部Dを挟持する。
【0031】
従って、このような第2実施形態によっても、ねじ部材20が意図することなく緩んでも、板ばね状部30及び受容部12内面と台座部Dとの摩擦により、第1実施形態と同様にサムレスト10が脱落することを防止することが可能となる。また、圧接部14が本体部11と別部品となることなく一体に形成でき、サムレスト10の取り付け作業をより簡単に行うことが可能となる。
【0032】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施形態に対し、形状、位置若しくは配置等に関し、必要に応じて当業者が様々な変更を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0033】
例えば、図9に示されるように、第1実施形態の台座部Dの構成を変更してもよい。同図の台座部Dは、延設部材25の内周側を部分的に受容して嵌り合う周溝からなる嵌合部D1を備えている。当該嵌合部D1により、サムレスト10と台座部Dとの相対移動を規制する作用を得ることができ、サムレスト10の落下をより良く防止することができる。
【0034】
前記各実施形態において、圧接部14の弾性による力を大きく設定し、ねじ穴19及びねじ部材20を省略した構成としてもよい。この場合、演奏等によって台座部D及びサムレスト10が振動しても、当該振動を圧接部14の弾性によって吸収可能となり、振動に起因するサムレスト10の落下防止を図ることができる。
【0035】
前記延設部材25は、台座部Dの形状に応じて平面形状を変更してもよく、また、帯状や線状に延びる部材を曲げ加工したような形態としてもよい。
【0036】
前記板ばね状部30は、サムレスト10全体を射出成形等の成形方法により、受容部12側に一体に連ねて形成してもよい。
【0037】
前記第2実施形態の凹部22は、受容部12の全周に設けなくてもよく、板ばね状部30の形成領域に少なくとも形成すればよい。
【0038】
本発明は、サクソフォンS以外の管楽器に適用することができ、また、管楽器の保持をサポートするために用いられるサムレスト以外の部品に適用してもよい。
【0039】
前記板ばね状部30の形成数は、一対に限られず、一枚としたり、三枚以上の複数としたりしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10・・・サムレスト、11・・・本体部、12・・・受容部、14・・・圧接部、22・・・凹部、25・・・延設部材、30・・板ばね状部、D・・・台座部、D1・・・嵌合部、S・・・サクソフォン(管楽器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器の管体から突出する台座部に取り付け可能に設けられた管楽器保持用サポート部品において、
奏者の親指が接触する本体部と、この本体部に形成されて台座部を受容可能な受容部と、この受容部に弾性変形可能に設けられ、当該弾性により前記台座部の外面に圧接可能な圧接部とを備えていることを特徴とする管楽器保持用サポート部品。
【請求項2】
管楽器の管体から突出する台座部に取り付け可能に設けられたサムレストにおいて、
奏者の親指が接触する本体部と、この本体部に形成されて台座部を受容可能な受容部と、この受容部に弾性変形可能に設けられ、当該弾性により前記台座部の外面に圧接可能な圧接部とを備えていることを特徴とするサムレスト。
【請求項3】
前記圧接部は、台座部の周方向に延びる延設部材により形成されていることを特徴とする請求項2記載のサムレスト。
【請求項4】
前記受容部は、前記延設部材を収容可能な凹部を備えていることを特徴とする請求項3記載のサムレスト。
【請求項5】
前記圧接部は、前記受容部側を部分的に弾性変形可能に形成した板ばね状部からなることを特徴とする請求項2記載のサムレスト。
【請求項6】
請求項2ないし5の何れかに記載のサムレストを木管楽器の台座部に取り付ける取付構造において、
前記台座部は、前記圧接部と嵌り合う嵌合部を備えていることを特徴とするサムレストの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−64914(P2013−64914A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204240(P2011−204240)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)