説明

管楽器用のサムフック及びプレート

【課題】演奏者にとって非常に使い勝手のよいサムフックを提供すること。
【解決手段】 管楽器本体に取り付け可能なサムフックであって、親指から受けた上方向の力を前記管楽器本体に伝えることで前記管楽器本体を支持すべく、演奏者側に張出したベロ部を備える。またサムフックは、取り外し可能なプレート108と、該プレートを嵌め込むための溝107とを備える。さらに、プレート108は、管楽器本体側に突出し、サムフック取り付け時に管楽器本体に接触する突出部111を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばサックスなどの管楽器を親指で支えるために用いられるサムフック及びそのようなサムフックに取り付けられるプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、管楽器を親指で支えるために、管楽器の下方に取り付けられるサムフックが知られている。たとえば、特許文献1に開示されているような形状のものが一般的である。演奏者は、自分の親指の形状に応じたカーブを有するサムフックを選び、親指をサムフックに引っかけることによって、たとえばサックスなどの管楽器を支えつつ演奏を行なう。サックスの場合には、ネックストラップも併用するため楽器の全重量を親指一本で支える訳ではないが、演奏時の楽器の位置をコントロールするにあたり、親指およびサムフックは大きな役割を担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許1937025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のサムフックは、特許文献1に開示されているように一体形状であった。
【0005】
本発明の目的とするところは、演奏者にとって使い勝手のよいサムフック及びそのようなサムフックに取り付けられるプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様にあっては、
管楽器本体に取り付け可能なサムフックであって、
親指から受けた上方向の力を前記管楽器本体に伝えることで前記管楽器本体を支持すべく、演奏者側に張出したベロ部と、
取り外し可能なプレートと、
該プレートを嵌め込むための溝とを備え、
前記プレートは、管楽器本体に接触するように突出した突出部を有することを特徴とする。
前記サムフックは、前記プレートとして、
第1種類の管楽器本体の構成に合わせた形状の第1のプレートと、
第2種類の管楽器本体の構成に合わせた形状の第2のプレートと、
の両方を嵌め込むことが可能な溝を備えることを特徴とする。
前記突出部は、レール状であることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明の他の態様にあっては、
演奏者の親指から受けた上方向の力を管楽器本体に伝えることで前記管楽器本体を支持するため、演奏者側に張出したベロ部を備えるサムフックに対し、着脱可能なプレートであって、
前記サムフックに設けられた溝に嵌め込まれる薄板形状に形成され、
管楽器本体に接触するように突出した突出部を有することを特徴とする。
前記突出部は、レール状であることを特徴とする。
前記サムフックに設けられた穴と同形状の、位置決め用の穴及びねじ留め用の穴を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、演奏者にとって使い勝手のよいサムフック及びそのようなサムフックに取り付けられるプレートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態としてのサムフックを取り付けた管体を演奏者が把持している状態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態としてのサムフックを取り付けたサックスを示す図である。
【図3】本発明の実施形態としてのサムフックの表側(演奏者側)からみた形状例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態としてのサムフックの裏側からみた形状例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態としてのサムフックに組み合わせることのできる取替プレートの一例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態としてのサムフックの裏側からみた形状例を示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態としてのサムフックの裏側からみた形状例を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態としてのサムフックの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお本実施形態では、管楽器の一例としてサックスを用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の管楽器に取り付けられるサムフックにも適用可能である。
【0010】
図2は、本発明に係るサムフックの一実施形態を適用したサックスの外観を示す図である。サックス本体200の真ん中よりやや下側においてサムフック100が演奏者側から取り付けられている。右手の親指をサムフック100のベロ101に引っかけることにより、親指に負担を掛けることなく下側からサックス本体200を支える。ベロ101は、上向きのアールを持っているため、親指の第1関節と第2間接の間に触れた場合に、親指と滑らかに接触し、親指をきづ付けたりしないように考慮されている。サムフック100は、銀、ブラス、ステンレス、洋白といった材料から形成される。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態のサムフック100が取り付けられたサックス本体200を示す図である。ここでは、演奏者がサックス200を把持している状態を示している。図1(a)は、サムフック100を演奏者正面から(サックスの裏側から)見た図であり、図1(b)は、サムフック100をサックス本体200の上側から見た図である。
【0012】
サムフック100は、親指から上向きの力を受ける第1のベロ101と、親指の先端がサックス本体200に触れないようにガードする第2のベロ102とを備えている。ベロ102は、演奏者からみて左側に張り出しており管体との間で間隙を保ちつつ管体の外周面に沿って湾曲した形状を有している。つまり、ベロ102は、サックス本体200とは接触していない。ベロ102により、演奏者の親指の先端がサックス本体200に触れることはなくなり、サックス本体200の摩耗や変形を防止することができる。また、指とサムフック100との接触面積が大きくなるため、サックスを安定してしっかりと掴むことができ、ホールド性が向上する。第2のベロ102は、薄ければ薄いほどサックスの音色の響きが良くなるが、強度が落ちるため、0.5mm〜2mmの厚みに形成することが望ましい。なお、ベロ101とベロ102とは、アール103によって滑らかに連続しており、親指が触れた際の感触がやさしくなるように形成されている。
【0013】
サムフック100には、その下側部分において、位置決め用の穴104が形成されている。サックス本体200から突き出した凸部201が穴104に挿入されることにより、サムフック100の位置をある程度規定する。一方。サムフック100において、位置決め用の穴104の上方にはやや大きなねじ留め用の穴105が用意されている。サックス本体200からは、凸部201の上方において、筒状部202が突きだしており、筒状部202の内側面にはメスねじが切られている。この筒状部202を穴105に挿入し、ねじ106を筒状部202に螺合することにより、サムフック100がサックス本体200にしっかりと固定される。
【0014】
図3は、サムフックのみを示す斜視図である。図3(a)は図1に対応する実施形態のサムフック100aを示し、図3(b)は他の実施形態としてのサムフック100bを示す。サックスのメーカーに応じて、サムフックの取付機構が異なるため、サムフック自体もサックス本体に合わせて異なる形状にする必要がある。例えば図3(a)のサムフック100aは、図1にて説明した通り、位置決め用の穴104とねじ挿入用の穴105とを備えている。一方、図3(b)に表わされたサムフック100bは、位置決めとねじ固定の両方の機能を兼ね備えた一つのうちわ形状の穴106を備えている。穴106の下側に延びた下方スリット106aに、サックス本体200に設けられた位置決め用の突出部(不図示)を嵌め込み、スリット106aの上側部分106bにおいてねじ留めを行なう。
【0015】
図3(a)、(b)に示されたサムフック100a、bは、ベロ102の形状も異なっているが、これはサムフックの取付機構に関連して変更されたものではない。そもそも演奏者の指の長さや太さ、それに伴う好みに合わせたサムフックが用意されており、ユーザにより選択可能となっている。ベロ102の形状も、大きく張り出したものや、縦方向に大きなものなど、様々なものが提案されうる。
【0016】
図4は、図3(a)に示した実施形態のサムフック100aの裏側の構成を示す図である。サムフック100aの裏側には、ホームベース形状の溝107が形成されている。そして、その溝107に嵌る薄板のプレート108が用意されている。プレート108は、木、銀、ブラス、ステンレス、洋白といった材料からなる薄板であり、サムフック本体側に設けられた穴104、105と同形状の、位置決め用の穴109及びねじ留め用の穴110を備えている。
【0017】
更に、プレート108の表面には、レール111a〜cが設けられており、サムフック100を固定する際には、このレール111a〜cがサックス本体200と接触する。このようにレール111a〜cを設けたことにより、サムフック100と管体との接触面積が小さくなり、サックス本体200の響きを損なわずに伸びやかな音色を実現することができる。また、プレート108の材質やレール111の形状、数、配置を変えることにより、様々な音色を実現することができる。すなわち、演奏者は、サムフック本体を変更しなくても、プレート108を変更するだけで、好みの音色を追求することができる。サムフック本体0を親指の形状などに合わせて選び、その上で曲や気分に合わせてプレート108を自由に変更することが可能となる。これにより演奏者にとって非常に使い勝手のよいサムフックを実現できる。
【0018】
図5は、プレート108の形状を詳細に示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は、図5(a)のA−A断面図である。ここでは、レール111の高さは、プレート108自体の厚みと同じく0.5〜1mm程度であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
図6は、図3(b)に示した他の実施形態のサムフック100bの裏側の構成を示す図である。このタイプのサムフック100bでも、図4に示したサムフック100aと同様に、裏側に、ホームベース形状の溝112が掘られている。そして、その溝112に嵌る薄板のプレート113が用意されている。プレート113は、やはり、木、銀、ブラス、ステンレス、洋白といった材料からなる薄板であり、サムフック本体に設けられた穴106と同形状の、位置決め用及びねじ留め用の穴114を備えている。
【0020】
更に、プレート113の表面にも、レール115a〜dが設けられており、サムフック100bを固定する際には、このレール115a〜dがサックス本体200と接触する。このようにレール115a〜dを設けたことにより、サムフック100bと管体との接触面積が小さくなり、サックス本体200の響きを損なわずに伸びやかな音色を実現することができる。また、プレート113の材質やレール115a〜dの形状、数、配置を様々に変えることにより、様々な音色を実現することができる。すなわち、演奏者は、サムフック本体を変更しなくても、プレート108を変更するだけで、好みの音色を追求することができる。サムフック本体0を親指の形状などに合わせて選び、その上で曲や気分に合わせてプレート108を自由に変更することが可能となる。これにより演奏者にとって非常に使い勝手のよいサムフックを実現できる。
【0021】
(他の実施形態)
図7及び図8は、本発明に係る他の実施形態としてのサムフック300を示す図である。図7(a)は、サムフック300の裏側、つまり管体側の面を示す図である。図7(b)は、図7(a)のA−A断面図である。図7(c)は、サムフック300に組み合わされるプレート301の平面図を示し、図7(d)は、図7(c)のB−B断面図である。更に、図7(e)は、サムフック300に組み合わされる他のプレート302の平面図を示し、図7(f)は、図7(e)のC−C断面図である。図7(g)は、プレート301、302をサムフック300に取り付けるために用いられるワッシャ303を示す。
【0022】
本実施形態に係るサムフック300は、サックス本体200のメーカーに因らず、共通の形状となっている。これに対し、プレート301、302は、サックス本体200のメーカーに応じた形状の穴を有しており、いずれもサムフック300に組合せ可能となっている。
【0023】
図8は、サムフック300とプレート301、302をサックス本体200に取り付ける行程を示す図である。
【0024】
このような構成により、演奏者は、1つのサムフック300に対して、プレート301、302を自由に組み合わせることにより、自分の指にあった1つのサムフック300を、異なるメーカーのサックス本体のいずれにも使用ことができる。したがって、異なるメーカーのサックスに対しても同じフィーリングで演奏を行なうことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器本体に取り付け可能なサムフックであって、
親指から受けた上方向の力を前記管楽器本体に伝えることで前記管楽器本体を支持すべく、演奏者側に張出したベロ部と、
取り外し可能なプレートと、
該プレートを嵌め込むための溝とを備え、
前記プレートは、管楽器本体に接触するように突出した突出部を有することを特徴とするサムフック。
【請求項2】
前記サムフックは、前記プレートとして、
第1種類の管楽器本体の構成に合わせた形状の第1のプレートと、
第2種類の管楽器本体の構成に合わせた形状の第2のプレートと、
の両方を嵌め込むことが可能な溝を備えることを特徴とする請求項1に記載のサムフック。
【請求項3】
前記突出部は、レール状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のサムフック。
【請求項4】
演奏者の親指から受けた上方向の力を管楽器本体に伝えることで前記管楽器本体を支持するため、演奏者側に張出したベロ部を備えるサムフックに対し、着脱可能なプレートであって、
前記サムフックに設けられた溝に嵌め込まれる薄板形状に形成され、
管楽器本体に接触するように突出した突出部を有することを特徴とするプレート。
【請求項5】
前記突出部は、レール状であることを特徴とする請求項4に記載のプレート。
【請求項6】
前記サムフックに設けられた穴と同形状の、位置決め用の穴及びねじ留め用の穴を備えていることを特徴とする請求項4又は5に記載のプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−262262(P2010−262262A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296979(P2009−296979)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願2009−111509(P2009−111509)の分割
【原出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【特許番号】特許第4573908号(P4573908)
【特許公報発行日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(597041448)株式会社石森管楽器 (7)