説明

管楽器用ストラップ及び演奏用衣服

【課題】 従来のハーネスストラップは簡単に着脱できず、また管楽器の重量が首の周辺に重点的に加わるため、演奏者の負担が大きかった。
【解決手段】 少なくとも両肩で支持される一組の肩当部101,102と、一組の肩当部のそれぞれに端部が固定された紐103と、その紐103に対して移動自在に設けられ、管楽器の係止部と係合するフック105と、紐103上で、一組の肩当部101,102とフック105との間に設けられ、肩当部101,102のそれぞれとフック105との間の距離を調整するための位置調整具104とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管楽器を支持するための管楽器用ストラップ及び演奏用衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サキソフォーン等の大型の金管楽器は重いため、演奏中は演奏者の首から下げられたストラップにより支持されている場合が多い。従来のストラップは、演奏者の首だけで支持されているため首に掛かる負担が大きく、サックスを習いたくても、その重量により首に障害が発生してサックスの習得を諦めざるを得なくなる等の問題があった。
【0003】
またこのストラップは、首の一点のみで支えているため、管楽器の方向が左右方向に振られて安定しない。このため、演奏者は演奏中、管楽器の姿勢を一定に保つためにその左右方向の振れを押さえる力が必要となる。また逆に、サックスなどをスウィングしながら演奏する場合、この従来のストラップでは、管楽器が左右方向に振られて安定しないため、そのサックスを支えるために、より大きな力が必要となる。
【0004】
これに対して特許文献1には、管楽器の重量を支えるためのものではないが、演奏中に小型の金管楽器の姿勢を安定化させるために、首ストラップに加えて、演奏者の胸部に当てるプレート材を有して、小型の金管楽器の安定化及び支持を可能にした安定化装置が記載されている。
【特許文献1】特表2004−502976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上述の特許文献1の装置は、重量の大きい金管楽器を支持するというよりもむしろ、小型の金管楽器の演奏時に、演奏者と管楽器との間の共鳴リンクを発生させて演奏者の胸骨の自然な共鳴を引き起こして演奏の手助けとするものである。従って、首ストラップとプレート材により管楽器の動きが押さえられてしまい、上述したように、サックスなどをスウィングしながら演奏するのには適していない。
【0006】
また、幅広のストラップを首から肩にかけて装着し、サックスの重量を、より広く分散させるケルブルのハーネスストラップも市販されている。しかし、このハーネスストラップは簡単に着脱できるものでなく、その重量も首やその周辺に重点的に加わるという問題を有している。このため、操作性が良く、しかも演奏者の負担が少ない管楽器用のストラップが求められていた。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決することにある。
【0008】
本願発明の特徴は、着脱が容易で、しかも演奏者の負担を少なくして管楽器を支えることができる管楽器用ストラップ及び演奏用衣服を提供することにある。
【0009】
また、演奏中において管楽器を所望の位置で固定できるようにして、演奏者が楽器を支える負荷を軽減できる管楽器用ストラップ及び演奏用衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の一態様に係る管楽器用ストラップは以下のような構成を備える。即ち、
少なくとも両肩で支持される一組の肩支持部材と、
前記一組の肩支持部材のそれぞれに端部が固定されたストラップと、
前記ストラップに対して移動自在に設けられ、管楽器の係止部と係合するフックと、
前記ストラップ上の前記一組の肩支持部材と前記フックとの間に設けられ、前記一組の肩支持部材のそれぞれと前記フックとの間の距離を調整するための調整部材とを有し、
前記フックに係合した管楽器の位置を上下及び左右方向に調整可能にしたことを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために本発明の一態様に係る演奏用衣服は以下のような構成を備える。即ち、
管楽器の演奏者が着用する演奏用衣服であって、
両肩部の近傍に端部が固定されたストラップと、
前記衣服の前面で、前記ストラップに対して移動自在に設けられ、管楽器の係止部と係合するフックと、
前記ストラップ上の前記両肩部と前記フックとの間に設けられ、左右の肩部のそれぞれと前記フックとの間の距離を調整するための調整部材とを有し、
前記フックに係合した管楽器の位置を上下及び左右方向に調整可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着脱が容易で、しかも演奏者の負担を少なくして管楽器を支えることができる。
【0013】
また、演奏中において、演奏者は、管楽器の位置を上下及び左右方向に自由に移動させて、その位置で固定できる。これにより、演奏者が一番演奏しやすい位置で管楽器を固定して演奏でき、また演奏者が楽器を支える負荷を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳しく説明する。尚、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係るサックス用のストラップを示す外観図である。
【0016】
図において、101,102は肩当部(肩支持部材)で、演奏者の腕を通して左右それぞれの肩に固定される。107はそれぞれ肩当部101,102にその端部が固定され、留め具106を介してこれら肩当部101,102を接続するベルトである。肩当部101,102の装着時は、この留め具106により肩当部101,102をそれぞれ別々に分離した後、演奏者の腕を通して、肩当部101,102を演奏者の肩に固定する。その後、この留め具106によりベルト107同士を接続することにより、演奏者の身体にしっかり装着することができる。またこの留め具106は、ベルト107の長さも調整できるものとする。
【0017】
尚、このベルト107が肩当部101,102同士を接続したままとし、留め具106を省略しても良い。また或は、ベルト107を伸縮自在のベルトにして留め具106を省略しても良い。
【0018】
103は紐(ストラップ)で、その両端部が肩当部101,102に固定されている。ここでは肩当部101,102の穴を通して、各端部が固定されているが、その固定方法はこれに限定されない。104は、この紐103を通して、肩当部101,102に対するフック105の相対位置を調整する位置調整具である。フック105は、サキソフォーンなどの管楽器のつり環202(図2)と係合して管楽器を支持する。尚、紐103は丈夫なものが適しているため、本実施の形態では例えば登山用のザイルを使用している。
【0019】
図2は、演奏者がこのサックス用のストラップを使用してサックス201を演奏している状態を示す概念図である。図2において、前述の図1の構成と共通する部分は同じ記号で示している。
【0020】
この状態では、フック105はサックスのつり環202に係合して、サックス201を支持している。この状態で、演奏者が位置調整具104を上方に引き上げるとフック105の位置が上昇して、サックス201をより高い位置で支持できる。また演奏者が位置調整具104を下方に引き下げるとフック105の位置が下降して、サックス201をより低い位置で支持できる。同様に、演奏者が位置調整具104を右方向に移動させると、肩当部101と位置調整具104との間の紐103の長さが、肩当部102と位置調整具104との間の紐103の長さよりも短くなる。これによりサックス201を、演奏者の右側寄りの位置に固定して支持できる。逆に、演奏者が位置調整具104を左方向に移動させると、肩当部101と位置調整具104との間の紐103の長さが、肩当部102と位置調整具104との間の紐103の長さよりも長くなる。これによりサックス201を、演奏者の左側寄りの位置に固定して支持できる。この位置調整具104の左右或は上下方向の移動は、紐103の張力を弱めた状態(紐103を緩めた状態)で演奏者が片手で容易に行うことができ、紐103に張力を与えた状態(ピンと張った状態)で、その位置に固定することができる。
【0021】
このようにして演奏者は、演奏中であっても、この位置調整具104を移動させることにより演奏者が所望する位置でサックス201を保持して演奏することができる。この際、例えばサックス201のマウスピースを左側に位置付け、ベルを右足方向に固定した状態で演奏する場合は、位置調整具104を左方向に移動させることにより、サックスを演奏者の左側に寄せた状態で保持できる。そしてこの状態は、この実施の形態に係るサックス用のストラップで確実に保持されるため、演奏者がサックス201を支えるために余分な力を入れる必要がない。このため、演奏者の負担を軽減できるという格別の効果を奏することができる。
【0022】
更に、図1に示すサックス用のストラップによれば、演奏者は腕を肩当部101,102に通し、ベルト107により長さを調整して装着するため肩が後ろに引っ張られた状態となり、演奏者の姿勢が改善されるという効果も得られる。
【0023】
図3は、本実施の形態に係る位置調整具104の構成を説明する図である。
【0024】
この位置調整具104は、2つの孔部を有し、これら孔部に1本の紐103が図示のように通されている。これにより、若干紐103を緩めた状態でこの位置調整具104を上下或は左右方向に移動し、所望の位置で紐103に張力を加えることにより、位置調整具104はその位置で固定される。こうして肩当部101、120に対するフック105の相対位置を変更することができる。また、その変更した位置でフック105を固定することができる。
【0025】
尚、この位置調整具104の構成はこれに限定されるものでなく、容易にフック105の相対位置を変更できるものであれば良い。
【0026】
このように本実施の形態に係る管楽器のストラップによれば、管楽器の重量が演奏者の肩で支えられるため、演奏者の首にかかる負担を軽減できる。
【0027】
また、容易に管楽器の位置を、演奏者が所望する位置に移動して固定できるため、演奏がし易いという効果がある。
【0028】
特に管楽器の左右方向の位置を自在に設定して、その状態で固定できるため、例えばビッグバンドジャズなどで、サックスを一定の方向に向けて演奏する場合などに極めて有効である。
【0029】
また、この管楽器のストラップの上にジャケットなどを羽織ることにより、周囲からは紐103だけが見える状態になるため、演奏者の外観上も好ましいものとなる。
【0030】
また演奏者の前面では、肩から伸びる細い紐だけサックスが保持されるため、例えば女性などが使用する場合でも、胸部が圧迫されるといった問題が発生しない。
【0031】
[他の実施の形態]
上述の実施の形態では、演奏者が腕を通す肩当部101,102に紐103が固定される場合で説明した。
【0032】
しかし、ベスト、シャツ、或はジャケットに、この紐103が取り付けられる構成であっても良い。
【0033】
図4は、ベストに前述の紐103、位置調整具104及びフック105が取り付けられた状態を示している。
【0034】
演奏者がこのベストを着用し、その上にジャケットを着ることにより、管楽器のストラップを目立たなくして演奏することができる。
【0035】
またベストを着るだけで管楽器のストラップを装着できるため、管楽器のストラップの着脱が容易になるという効果もある。
【0036】
更には、このベストの着用をより容易にするために、少なくとも左右いずれか一方の紐103を、ベストから着脱可能にしても良い。
【0037】
また前述の実施の形態と同様に、このベストを着用することにより、演奏者の姿勢が改善されるという効果も得られる。
【0038】
図4では、ベストの場合を示したが、ジャケット或はシャツでも良い。このようなベストやジャケットの素材としては、例えばデニムや皮革などが好ましい。
【0039】
またこのような服或はシャツの素材を頑丈で硬い素材にすることにより、紐103から伝えられる管楽器の重量を、より広く分散して演奏者への負担を軽減できる。
【0040】
また逆に、服或はシャツの素材を、より薄くて軽い素材として、肩当部分だけを軽くて強度の高い部材(例えば繊維グラス等)で補強するようにしても良い。
【0041】
また本実施の形態では、位置調整具104とフック105とは別体としたが、一体であっても良い。
【0042】
また上記実施の形態では、サキソフォーン(サックス)を例にして説明したが本発明はサックスに限定されず、このようなつり紐を要する管楽器であれば何でも良いことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態に係るサックス用のストラップを示す外観図である。
【図2】演奏者がこのサックス用のストラップを使用してサックスを演奏している状態を示す概念図である。
【図3】本実施の形態に係る位置調整具の構成を説明する図である。
【図4】実施の形態に係るストラップの紐、位置調整具及びフックが取り付けられたベストを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも両肩で支持される一組の肩支持部材と、
前記一組の肩支持部材のそれぞれに端部が固定されたストラップと、
前記ストラップに対して移動自在に設けられ、管楽器の係止部と係合するフックと、
前記ストラップ上の前記一組の肩支持部材と前記フックとの間に設けられ、前記一組の肩支持部材のそれぞれと前記フックとの間の距離を調整するための調整部材とを有し、
前記フックに係合した管楽器の位置を上下及び左右方向に調整可能にしたことを特徴とする管楽器用ストラップ。
【請求項2】
前記フックは、前記ストラップを遊挿する開口部を有し、当該開口部に前記ストラップを挿通することにより前記ストラップに対して摺動自在に取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の管楽器用ストラップ。
【請求項3】
前記一組の肩支持部材は、洋服或はベストの一部を構成することを特徴とする請求項1に記載の管楽器用ストラップ。
【請求項4】
前記一組の肩支持部材は別体であり、前記一組の肩支持部材を両肩に固定させるために肩支持部材同士の相対距離を調整可能にして、前記肩支持部材同士を接続する接続部材を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の管楽器用ストラップ。
【請求項5】
前記接続部材は、背中側に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の管楽器用ストラップ。
【請求項6】
前記調整部材は、前記ストラップを挿通するための複数の開口部を有し、
当該複数の開口部を通して形成されたストラップのループに前記フックが取り付けられ、前記調整部材の移動方向に応じて前記ループの径、及び/或は前記一組の肩支持部材のそれぞれと前記調整部材との距離が変更されることにより、前記一組の肩支持部材のそれぞれと前記フックとの間の距離が調整されることを特徴とする請求項1に記載の管楽器用ストラップ。
【請求項7】
管楽器の演奏者が着用する演奏用衣服であって、
両肩部の近傍に端部が固定されたストラップと、
前記衣服の前面で、前記ストラップに対して移動自在に設けられ、管楽器の係止部と係合するフックと、
前記ストラップ上の前記両肩部と前記フックとの間に設けられ、左右の肩部のそれぞれと前記フックとの間の距離を調整するための調整部材とを有し、
前記フックに係合した管楽器の位置を上下及び左右方向に調整可能にしたことを特徴とする演奏用衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−268737(P2008−268737A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114435(P2007−114435)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(597041448)株式会社石森管楽器 (7)
【出願人】(507134703)
【Fターム(参考)】