説明

管渠構築における土砂排出方法および土砂排出装置

【課題】長距離管渠構築時や発進立坑部の揚程が高い場合においても、切羽から坑外立坑下さらに立坑上に至るまでの輸送効率を高めることができる土砂排出方法および土砂排出装置を提供する。
【解決手段】掘進機の先端カッターを回転させながら地中を掘進して管渠を構築するにあたり、前記掘進機の先端カッター部から排出された土砂を第1の排泥管5を経て坑口2に真空吸引輸送し、さらに坑口2から立坑を通る第2の排泥管8を経て坑外に真空吸引輸送するものであって、前記第1の排泥管5と第2の排泥管8との間に、土砂の中継または貯留用のタンク7を介在させ、前記第1の排泥管5および第2の排泥管8内の真空状態を維持したまま前記先端カッター部から排出された土砂を坑外に真空吸引輸送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法や推進工法による管渠構築に採用されている真空吸引輸送方式によって掘削土砂を切羽から坑外立坑下、さらに立坑上に至る迄、排泥管内で閉塞することなく円滑に搬出する土砂排出方法、およびこれに使用する土砂排出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法および推進工法のうち、泥濃式は、前部が隔壁で密閉された掘進機のカッタチャンバ内に高濃度泥水を加圧充満し、切羽の安定を図りながら掘進する方式であり、掘削土砂の搬出方法として主に真空吸引輸送方式が採用されている。真空吸引輸送方式は、瞬時に掘削土砂を搬出でき、また掘進設備が小規模であるという利点があるため、真空吸引輸送方式を用いる泥濃式は泥水式や土圧(泥土圧)式等の他の工法よりも小口径管渠構築の主流となりつつある
【0003】
しかしながら、従来の泥濃式による真空吸引輸送方式では、長距離管渠構築時や発進立坑部の揚程が高い場合において、切羽から坑外立坑下さらに立坑上に至るまでの輸送効率低下による排泥管閉塞トラブルが頻繁に発生し問題となった。その原因としては、(イ)距離に比例して増大する、排泥管と排泥塊との摩擦抵抗、(ロ)立坑下坑口部から立坑上への垂直輸送時、吸泥排土装置に大きな負荷がかかることによる吸泥能力の低下、(ハ)坑内急曲線配管部や立坑下坑口部で水平輸送から垂直輸送に切り替わる曲線配管部に、排泥塊がぶつかることによる排泥塊の流速低下などが挙げられる。
【0004】
この問題を解決するため方法の1つとして、これまで坑内を水平輸送される排泥を立坑下に据え置いた密閉タンクに貯泥し、立坑上へはクレーン設備でコンテナタンクを搬出する方式や、複数の吸泥排土装置により水平輸送と垂直輸送を別系統に分ける、いわば2段階輸送方式が採用されてきた。
【0005】
しかし、前者の方法は、立坑上へはクレーン設備を使用するため、人的ロスと時間的ロスが問題となる。後者の方法では高額な吸泥排土装置を2台必要とするためコスト面と吸泥排土装置の設置場所が問題となる。また、水平輸送または垂直輸送だけに吸排泥装置を2台連結させて使用する場合は、更に多数の吸泥排土装置が必要となるため大きな問題となる。
【0006】
しかし、このような課題に対して、従来は有効な解決手段が見出されていなかったのが実情である。例えば、下記の特許文献1には、シールド工法と推進工法を併用する管路の構築工法が記載されているが、掘削土砂の搬出方法については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−23744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来のような手間や高額な設備をかけることなく、長距離管渠構築時や発進立坑部の揚程が高い場合においても、切羽から坑外立坑下さらに立坑上に至るまでの輸送効率を高めることができる土砂排出方法および土砂排出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、切羽から立坑下までの排泥管と、立坑下から立坑上に到るまでの排泥管との間に、土砂の中継または貯留用のタンクを介在させる場合は、切羽から坑外立坑下さらに立坑上に至るまでの輸送効率が向上し、排泥管の閉塞も防止できるという新たな知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の土砂排出方法は以下の構成からなる。
(1)掘進機の先端カッターを回転させながら地中を掘進して管渠を構築するにあたり、前記掘進機の先端カッター部から排出された土砂を第1の排泥管を経て坑口に真空吸引輸送し、さらに坑口から立坑を通る第2の排泥管を経て坑外に真空吸引輸送する土砂排出方法であって、
前記第1の排泥管と第2の排泥管との間に、土砂の中継または貯留用のタンクを介在させ、前記第1の排泥管および第2の排泥管内の真空状態を維持したまま前記先端カッター部から排出された土砂を坑外に真空吸引輸送することを特徴とする、管渠構築における土砂排出方法。
(2)前記第2の排泥管は、前記タンク内の上部空間に連通した上部管路と、タンクの下部に連通した下部管路とに分岐している上記(1)に記載の土砂排出方法。
(3)前記上部管路と下部管路とは、切替弁により両管路のいずれかに流路を切り替え可能に構成されている上記(2)に記載の土砂排出方法。
(4)前記タンクは底部が斜面状に形成されており、最底部またはその近傍に前記下部管路が接続されている上記(1)〜(3)のいずれかに記載の土砂排出方法。
(5)前記第2の排泥管には、圧送手段が付加されており、真空吸引と圧送との併用にて土砂を搬送し坑外へ排出する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の土砂排出方法。
(6)前記第2の排泥管内に流体(エアー等)を噴射して、真空吸引と共に、土砂を搬送し坑外へ排出する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の土砂排出方法。
【0011】
また、本発明の土砂排出装置は以下の構成からなる。
(7)先端カッターを回転させながら地中を掘進する掘進機の先端カッター部から排出された土砂を坑外に排出する土砂排出装置であって、
前記先端カッター部から排出された土砂を坑口に真空吸引輸送するための第1の排泥管と、前記坑口から立坑を通って土砂を坑外に真空吸引輸送するための第2の排泥管と、前記第1の排泥管および第2の排泥管内の真空状態を維持したまま、これら第1の排泥管と第2の排泥管との間に介在した、土砂の中継または貯留用のタンクとを備えたことを特徴とする土砂排出装置。
(8)前記第2の排泥管は、前記タンク内の上部空間に連通した上部管路と、前記タンクの下部に連通した下部管路とに分岐している上記(7)に記載の土砂排出装置。
(9)前記上部管路と下部管路とは、切替弁により両管路のいずれかに流路を切り替え可能に構成されている上記(8)に記載の土砂排出装置。
(10)前記タンクは底部が斜面状に形成されており、最底部またはその近傍に前記下部管路が接続されている上記(7)〜(9)のいずれかに記載の土砂排出装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る掘削土砂の搬出方法およびこれに用いる土砂排出装置によれば、第1の排泥管と第2の排泥管との間に、土砂の中継または貯留用のタンクを介在させ、前記第1の排泥管および第2の排泥管内の真空状態を維持したまま前記先端カッター部から排出された土砂を坑外に真空吸引輸送することにより、切羽から坑外立坑下さらに立坑上に至るまでの輸送効率が向上し、排泥管の閉塞も防止できるので、従来のように、高額な吸泥排土装置を増設したり、貯泥した密閉タンクをクレーン設備で搬出したりする手間を必要としないので、コストの削減と作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る土砂排出方法の一実施形態を示す立坑断面を示す概略正面図である。
【図2】図1の概略正面図に対する概略側面図である。
【図3】(a)および(b)は本発明に係る土砂排出方法の動作を模式的に示す概略説明図である。
【図4】本発明に係る土砂排出方法の他の実施形態を模式的に示す概略説明図である。
【図5】本発明に係る土砂排出方法のさらに他の実施形態を模式的に示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1および図2は本発明が適用される、管渠構築のための立坑の概略を示している。本実施形態で採用される管渠構築方法は、例えば前記した泥濃式と呼ばれる掘削方法であり、シールド工法および推進工法のいずれにも採用される。
【0015】
図1および図2において、1は立坑を示しており、この立坑1の内壁面には、図示しない掘進機にて、この立坑1から水平に掘進して形成された坑口2が臨んでいる。図2に示すように、坑口2から掘進機の先端カッターを回転させながら地中を掘進して形成された管渠3が延びている。この管渠3は内径が800〜2000mm程度の比較的小口径な管である。管渠3の底部にはトロバケットや牽引動力車などが管渠3内を走行するための軌条(図示せず)が敷設され、さらに第1の排泥管5が掘進機から延びている。第1の排泥管5は、掘進機の先端カッター部から排出された掘削土砂を立坑1まで真空吸引輸送するものである。
【0016】
立坑1の坑口2より下の穴6にはタンク7が設置されている。このタンク7に前記第1の排泥管5が接続され、掘進機から排出された掘削土砂を全てこのタンク7に搬送している。一方、タンク7には、立坑1に沿って坑外に延びる第2の排泥管8が接続される。
【0017】
第2の排泥管8は、タンク7内の上部空間に連通した上部管路81と、タンク7の下部に連通した下部管路82とに分岐し、それらの管路81,82は流路切替弁9によって切替可能になっている(図1を参照)。
【0018】
タンク7は、掘削土砂を真空吸引輸送する前記第1の排泥管5および第2の排泥管8内の真空状態(すなわち減圧吸引状態)を維持できるように内部が密封され、かつ減圧によってタンク自体が破損しないように耐圧構造を有する。なお、タンク7の上部には、開閉用の蓋で閉じられた点検口10が設けられている。
【0019】
タンク7は、図1に示すように、底部71が斜面状に形成されており、最底部またはその近傍に前記下部管路82が接続されている。これによって、タンク7内に貯留した土砂を第2の排泥管8にて効率よく排出できるようになる。
【0020】
次に、この実施形態に係る土砂排出方法を図3(a)および(b)に基づいて説明する。図3(a)はタンク7を土砂11の一時貯留用に利用する場合であり、切替弁9によって下部管路82を閉じ上部管路81を開いている。このように土砂11をタンク7に一時貯留する理由は、排出土砂の輸送効率が低下するのを防止するためである。従来考えられている輸送効率が低下する原因には以下のようなものがある。
(i)長距離管渠構築においては、距離に比例して排泥管と土砂によって形成される排泥塊との間で摩擦抵抗が増大する。
(ii)立坑下坑口部から立坑上への垂直輸送時、吸泥排土装置に大きな負荷がかかる事により吸泥能力が低下する。
(iii)第1の排泥管5である水平坑内における急曲線配管部や、立坑下坑口部で水平輸送から垂直輸送に切り替わる曲線配管部に、排泥塊がぶつかる事により泥塊の流速が低下する。
(iv)第1の排泥管5内では、流れる排泥塊の間に空気を入れる事により、排泥塊と空気層が交互に存在する状態(プラグ流)が形成されているが、この空気が存在せず、1つの排泥塊が大きくなり過ぎ、そのため吸泥排土装置に大きな負荷がかかる事により吸泥能力が低下する。
(v)通常、掘削土砂は、水もしくは水に加泥材を添加した泥水と攪拌混合されることにより塑性流動化されて搬出されるが、加泥材と掘削土質のミスマッチにより、掘削土砂が塑性流動化されていない事により、泥水と掘削土砂とが分離する。
【0021】
立坑1上に設置された吸泥排土装置に大きな負荷がかかり、輸送効率が低下する場合には、第1の排泥管5を通って真空吸引輸送された土砂を、一旦、タンク7に一時貯留すれば、特に上記(ii)が原因の吸泥排土装置にかかる負荷を低減でき、高効率で土砂を真空吸引輸送することができる。図3(a)において、矢印Aは真空吸引方向を示しており、矢印Bは土砂の輸送経路を示している。
【0022】
そして、タンク7が土砂11で満たされてときは、切替弁9により上部管路81を閉じ下部管路82を開いて、タンク7内の土砂11を第2の排泥管8により立坑1上に搬出する。
【0023】
一方、土砂の輸送効率が低下していない場合には、タンク7に一時貯留する必要がないので、切替弁9により上部管路81を閉じ下部管路82を開いて、土砂を第1の排泥管5から第2の排泥管8を通って真空吸引輸送する(輸送経路を矢印Bで示す)。すなわち、この場合は、タンク7は中継用として使用される。
【0024】
このように、掘削土砂の排出を、吸泥排土装置にかかる負荷に応じて、流路切替弁9を切り替えることにより、吸泥排土装置にかかる負荷を低減して、効率よく排泥を真空吸引輸送することができる。
【0025】
図4および図5はそれぞれ本発明の他の実施形態を示している。すなわち、図4に示す実施形態は、吸泥排土装置にかかる土砂の垂直輸送の負荷を低減するために、下部流路82′に圧送装置12を介在させたものである。圧送装置12としては、例えば土砂圧送ポンプ、ロータリーポンプ、プランジャーポンプ、スクリューポンプなどが挙げられる。その他は前述の実施形態を同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0026】
図5に示す実施形態は、図4の実施形態と同様に、土砂の垂直輸送の負荷を低減するために、下部流路82″にコンプレッサー13からエアーを噴射して、真空吸引と共に、土砂11を坑外へ排出するようにしたものである(エアーを矢印Cで示す)。その他は前述の実施形態を同じであるので、同一符号を付して説明を省略する。なお、コンプレッサー13によるエアー噴射に代えて、加圧水等の他の流体を噴射してもよい。
【0027】
図4および図5に示す実施形態では、圧送装置12およびコンプレッサー13からのエアー噴射は、下部流路82′,82″にて行ったが、切替弁9より上方の第2の排泥管8で行ってもよい。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更や改善、改良が可能である。例えば、上記の実施形態では、上部管路81と下部管路82との間に切替弁9を介在させ流路を切り替え可能にしたが、切替弁9を設けずに、上部管路81で真空吸引しつつ下部管路82から土砂を搬出するようにしてもよい。また、タンク7の大きさや設置位置は適宜決定できるものであり、特に制限されるものではない。
【0029】
さらに、本発明の土砂排出方法は、泥濃式掘削方法のみに適用されるものではなく、前記した泥水式や土圧(泥土圧)式などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 立坑
2 坑口
3 管渠
5 第1の排泥管
6 穴
7 タンク
8 第2の排泥管
9 切替弁
10 点検口
11 土砂
12 圧送装置
13 コンプレッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機の先端カッターを回転させながら地中を掘進して管渠を構築するにあたり、前記掘進機の先端カッター部から排出された土砂を第1の排泥管を経て坑口に真空吸引輸送し、さらに坑口から立坑を通る第2の排泥管を経て坑外に真空吸引輸送する土砂排出方法であって、
前記第1の排泥管と第2の排泥管との間に、土砂の中継または貯留用のタンクを介在させ、前記第1の排泥管および第2の排泥管内の真空状態を維持したまま前記先端カッター部から排出された土砂を坑外に真空吸引輸送することを特徴とする、管渠構築における土砂排出方法。
【請求項2】
前記第2の排泥管は、前記タンク内の上部空間に連通した上部管路と、タンクの下部に連通した下部管路とに分岐している請求項1に記載の土砂排出方法。
【請求項3】
前記上部管路と下部管路とは、切替弁により両管路のいずれかに流路を切り替え可能に構成されている請求項2に記載の土砂排出方法。
【請求項4】
前記タンクは底部が斜面状に形成されており、最底部またはその近傍に前記下部管路が接続されている請求項1〜3のいずれかに記載の土砂排出方法。
【請求項5】
前記第2の排泥管には、圧送手段が付加されており、真空吸引と圧送との併用にて土砂を搬送し坑外へ排出する請求項1〜4のいずれかに記載の土砂排出方法。
【請求項6】
前記第2の排泥管内に流体を噴射して、真空吸引と共に、土砂を搬送し坑外へ排出する請求項1〜4のいずれかに記載の土砂排出方法。
【請求項7】
先端カッターを回転させながら地中を掘進する掘進機の先端カッター部から排出された土砂を坑外に排出する土砂排出装置であって、
前記先端カッター部から排出された土砂を坑口に真空吸引輸送するための第1の排泥管と、
前記坑口から立坑を通って土砂を坑外に真空吸引輸送するための第2の排泥管と、
前記第1の排泥管および第2の排泥管内の真空状態を維持したまま、これら第1の排泥管と第2の排泥管との間に介在した、土砂の中継または貯留用のタンクとを備えたことを特徴とする土砂排出装置。
【請求項8】
前記第2の排泥管は、前記タンク内の上部空間に連通した上部管路と、前記タンクの下部に連通した下部管路とに分岐している請求項7に記載の土砂排出装置。
【請求項9】
前記上部管路と下部管路とは、切替弁により両管路のいずれかに流路を切り替え可能に構成されている請求項8に記載の土砂排出装置。
【請求項10】
前記タンクは底部が斜面状に形成されており、最底部またはその近傍に前記下部管路が接続されている請求項7〜9のいずれかに記載の土砂排出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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